(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157540
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】ベントピース、タイヤ加硫金型及びタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/02 20060101AFI20231019BHJP
【FI】
B29C33/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067509
(22)【出願日】2022-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安永 智一
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AA45
4F202AA46
4F202AB03
4F202AH20
4F202CA21
4F202CU01
4F202CU07
(57)【要約】
【課題】排気孔の拡張を引き起こさず、排気孔の径寸法のバラツキにも対応できるベントピース、タイヤ加硫金型及びタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】タイヤ加硫金型の成形面1で開口する排気孔16に装着され、排気路21を内部に有する筒状のベントピース2であって、長手方向LD視において湾曲して延びるスリット3が外周面に形成されている。かかる構成によれば、排気孔16の拡張を引き起こさず、排気孔16の径寸法のバラツキにも対応できる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ加硫金型の成形面で開口する排気孔に装着され、排気路を内部に有する筒状のベントピースであって、長手方向視において湾曲して延びるスリットが外周面に形成されていることを特徴とするベントピース。
【請求項2】
前記スリットは、長手方向視において前記排気路に向かって凹となる湾曲形状を有している請求項1に記載のベントピース。
【請求項3】
前記スリットは、前記外周面で開口した一端部と、前記排気路に接続されずに終端した他端部とを有する請求項1に記載のベントピース。
【請求項4】
前記スリットが、前記排気路の中心線周りとなる周方向の複数箇所に形成されている請求項3に記載のベントピース。
【請求項5】
前記スリットは、前記外周面で開口した一端部と、前記排気路に接続された他端部とを有する請求項1に記載のベントピース。
【請求項6】
外力が作用していない自然状態において、前記スリットの間隔が前記排気路に向かって次第に小さくなっている請求項5に記載のベントピース。
【請求項7】
キャビティにセットされたタイヤの外表面に接する前記成形面と、前記成形面で開口する前記排気孔に装着された請求項1~6いずれか1項に記載のベントピースとを備えたタイヤ加硫金型。
【請求項8】
請求項1~6いずれか1項に記載のベントピースを備えたタイヤ加硫金型のキャビティに未加硫のタイヤをセットし、そのタイヤに加熱加圧を施して加硫を行う工程を含むタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タイヤ加硫金型の成形面の排気孔に装着される筒状のベントピースと、そのベントピースが装着されたタイヤ加硫金型と、それを用いたタイヤの製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ加硫金型では、タイヤの外表面を成形する成形面に多数の排気孔が設けられている。加硫成形時には、タイヤの外表面と成形面との間の空気が排気孔を通じて排出されるとともに、排気孔に流入したゴムによってスピューと呼ばれるゴム突起がタイヤの外表面に形成される。特許文献1,2に記載されているように、スピューのサイズ調整などを目的として、筒状のベントピースを排気孔に装着することが知られている。
【0003】
通常、ベントピースは、締まり嵌めによって排気孔に装着される。そのため、定期的なメンテナンスに伴ってベントピースの着脱を繰り返すことにより、排気孔の拡張を引き起こしてしまい、その結果、一回り大きいオーバーサイズのベントピースを用意する必要が生じるなどの不都合があった。これに対し、特許文献3には、排気路となる中心空気抜き孔から外周面にまで達する半径方向スリットを設けたベントプラグが記載されている。このベントプラグは、それ自体のばね効果によって排気孔の内面に密着固定される。
【0004】
しかし、特許文献3では、排気孔の径寸法とベントプラグの外径との関係により装着時に隙間が生じないように半径方向スリットの間隔が設定されること、及び、半径方向スリットが完全に閉じていないと、その部分からゴムのはみ出しが生じることが説明されている。このため、排気孔の径寸法にバラツキがある場合は、半径方向スリットが完全に閉止せずにゴムがはみ出すことがあると考えられる。そのようなゴムのはみ出しはスピューの抜け抵抗を上昇させて、タイヤの脱型に支障を来たす恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-30402号公報
【特許文献2】特開2017-105126号公報
【特許文献3】特開昭61―252111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は上記実情に鑑みてなされたものであり、排気孔の拡張を引き起こさず、排気孔の径寸法のバラツキにも対応できるベントピース、タイヤ加硫金型及びタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のベントピースは、タイヤ加硫金型の成形面で開口する排気孔に装着され、排気路を内部に有する筒状のベントピースであって、長手方向視において湾曲して延びるスリットが外周面に形成されたものである。
【0008】
本開示のタイヤ加硫金型は、キャビティにセットされたタイヤの外表面に接する前記成形面と、前記成形面で開口する前記排気孔に装着された上記のベントピースとを備えたものである。
【0009】
本開示のタイヤの製造方法は、上記のベントピースを備えたタイヤ加硫金型のキャビティに未加硫のタイヤをセットし、そのタイヤに加熱加圧を施して加硫を行う工程を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示のタイヤ加硫金型の一例を概略的に示す断面図
【
図2】第1実施形態におけるベントピースを示す(A)平面図、及び、(B)外観側面図
【
図3】
図2のベントピースを排気孔に装着した状態を示す(A)平面図、及び、(B)断面図
【
図4】第2実施形態におけるベントピースを示す(A)平面図、及び、(B)外観側面図
【
図6】第2実施形態におけるベントピースの変形例を示す(A)外観側面図、(B)X-X矢視断面図、及び、(C)Y-Y矢視断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0012】
[タイヤ加硫金型]
図1は、タイヤ子午線断面に沿ったタイヤ加硫金型10(以下、単に「金型10」と呼ぶ場合がある)の断面を示す。この金型10は型閉め状態にある。タイヤTは、タイヤ軸方向を上下に向けてセットされる。
図1において、左方向はタイヤ径方向外側、右方向はタイヤ径方向内側である。
【0013】
金型10は、タイヤTがセットされるキャビティ15と、そのキャビティ15にセットされたタイヤTの外表面に接する成形面1とを備える。成形面1には、金型10の内部(即ち、キャビティ15)と外部とを連通させる排気孔16が設けられている。加硫成形時には、この排気孔16を通じてタイヤTの外表面と成形面1との間の空気が排出される。排気孔16には、ベントピース2が装着されている。
【0014】
成形面1の素材としては、アルミニウム材が例示される。このアルミニウム材は、純アルミ系の素材のみならずアルミニウム合金を含む概念であり、例えばAl-Cu系、Al-Mg系、Al-Mg-Si系、Al-Zn-Mg系、Al-Mn系、Al-Si系が挙げられる。ベントピース2の素材としては、ステンレスやS45Cに代表される鋼材が例示される。
【0015】
金型10は、タイヤのトレッドを成形するトレッド型11と、タイヤのサイドウォールを成形するサイド型12,13と、タイヤのビード部が嵌合されるビードリング14,14とを備える。成形面1は、トレッド型11の内面と、サイド型12,13の内面とを含んでいる。図示を省略しているが、トレッド型11の内面には、タイヤのトレッドパターンを形成するための凹凸が設けられている。
図1では、トレッド型11の内面で開口する1本の排気孔16しか描いていないが、実際には、トレッド型11やサイド型12,13の内面で開口する多数の排気孔が設けられている。
【0016】
ベントピース2は、成形面1で開口する排気孔16に装着されている。
図1では、トレッド型11の内面の排気孔16に装着されているが、これに代えて、または加えて、サイド型12及び/またはサイド型13の内面で開口する排気孔に装着することも可能である。また、本実施形態では、金型10がトレッド型11と一対のサイド型12,13とを備えた構造を示しているが、これに限定されず、例えばトレッド型の中央部で上下に二分割された金型構造でもよい。
【0017】
[ベントピースの第1実施形態]
図2~3を参照して、本開示のベントピースの第1実施形態について説明する。
図2は、ベントピース2の一つの形態であるベントピース2aを示している。
図2に示すベントピース2aは、排気孔16に装着されておらず、外力が作用していない自然状態にある。ベントピース2aは、排気路21を内部に有する筒状に形成されている。排気路21は、ベントピース2aを長手方向LDに貫通する貫通孔によって形成されている。排気路21はベントピース2aの中心に位置しており、排気路21の中心線CLはベントピース2aの中心線と一致している。
【0018】
図3は、排気孔16に装着されたベントピース2aを示している。
図3(B)のベントピース2aは外観視で描かれている。
図3(B)において、上方向は成形面側(キャビティ側)、下方向は反成形面側(反キャビティ側)である。ベントピース2aが装着される範囲において、排気孔16の内面は、成形面1から反成形面側に向けて一定の直径(径寸法D2)で延びた円筒面により形成されている。ベントピース2aの長手方向LDは、排気孔16の軸方向と一致している。本実施形態では採用していないが、脱型時のスピュー切れを抑える観点から、ベントピース2aの成形面側の端面に座ぐりを設けてもよい。
【0019】
このベントピース2aでは、長手方向LD視において湾曲して延びるスリット3が外周面に形成されている。スリット3は、外周面で開口した一端部3aから他端部3bに向かって、排気路21に対する距離を徐々に小さくしながら延在している。スリット3の外周側に位置する部分は、そのスリット3の一端部3aに向かって先細りに形成されている。スリット3の間隔が小さくなるように、そのスリット3の外周側に位置する部分を径寸法内側に弾性変形させることにより、ベントピース2aの外径は小さくなる。これを利用することで、締まり嵌めに拠らずベントピース2aを排気孔16に装着できる。
【0020】
図2(A)では、ベントピース2aが装着される排気孔16の輪郭を鎖線で示している。自然状態におけるベントピース2aの外周面は、その排気孔16の輪郭よりも外周側に配置される部分を含んでいる。即ち、自然状態におけるベントピース2aの外径D1は、排気孔16の径寸法D2よりも大きい。
図3では、弾性変形により外径を小さくしたベントピース2aが排気孔16に装着されている。このベントピース2aは、その弾性変形の復元力により排気孔16に保持されており、つまりは弾性変形に伴うバネ効果によって排気孔16に装着されている。
【0021】
このように、スリット3の外周側に位置する部分の弾性変形に伴うバネ効果によりベントピース2aを排気孔16に装着できるので、ベントピース2aの着脱を繰り返しても排気孔16の拡張を引き起こさない。また、半径方向スリット(特許文献3参照)を採用した場合とは異なり、このベントピース2aでは、湾曲したスリット3の外周側に位置する部分を径方向に沿って変形させればよいため、スリット3を排気路21に接続する必要がない。尚、後述する第2実施形態のように、スリットを排気路21に接続した場合であっても、湾曲形状のスリットによれば、排気孔16の径寸法のバラツキに対して閉じやすくなるため、ゴムのはみ出しの発生が抑えられる。
【0022】
スリット3は、ベントピース2aの全長に亘って形成されている。本実施形態では、ベントピース2aの成形面側の端面から反成形面側の端面までスリット3が連続して延びている例を示すが、これに限られず、後述する
図6の例のように長手方向LDの一方側と他方側とにスリット3が分割されていてもよい。また、本実施形態では、スリット3が長手方向LDに対して平行に延びている例を示すが、これに限られず、例えばスリット3が長手方向LDに対して傾斜して延びていてもよい。
【0023】
スリット3は、長手方向LD視において排気路21に向かって凹となる湾曲形状を有している。換言すると、スリット3は、そのスリット3の外周側に位置する外周面に向かって凸となる湾曲形状を有している。かかる構成によれば、スリット3の外周側に位置する部分が、そのスリット3の一端部に近付くほど細い形状となるため、当該部分を円滑に弾性変形させるうえで都合がよい。但し、スリット3は、それとは逆向きに、即ち排気路21に向かって凸となる湾曲形状を有していてもよい。また、そのような湾曲形状の向きが異なる複数種のスリットを併存させてもよい。
【0024】
ベントピース2aに形成されたスリット3は、外周面で開口した一端部3aと、排気路21に接続されずに終端した他端部3bとを有する。スリット3が排気路21に接続されていないので、加硫成形時に排気路21に侵入したゴムがスリット3にはみ出すことはない。そのため、排気孔16の径寸法が想定よりも大きく、それによってスリット3が十分に閉じていない場合でも、ゴムのはみ出しは生じず、スピューの抜け抵抗は上昇しない。したがって、本実施形態のベントピース2aによれば、排気孔16の径寸法のバラツキに対してより確実に対応できる。
【0025】
スリット3は、排気路21の中心線CL周りとなる周方向の複数箇所に形成されている。これにより、周方向の複数箇所でバネ効果を発現できるため、排気孔16に装着したベントピース2aを安定させやすく、ベントピース2aの耐抜け性を向上できる。スリット3は、好ましくは周方向の2~4箇所に形成され、本実施形態では周方向の3箇所に形成されている。複数のスリット3は、それらに含まれる任意のスリット3を中心線CL周りに所定の角度で回転させて得られる形状であることが好ましい。また、スリット3の本数をNとしたとき、その所定の角度は、(360/N)±10度であることが好ましい。
【0026】
長手方向LD視において、ベントピース2aの中心線(即ち、排気路21の中心線CL)から径方向に延びる仮想直線を任意の位置に引いた場合に、その直線に交わるスリット3の本数は、本実施形態のように1であるか、またはそれ以下であることが好ましい。かかる構成によれば、排気路21と外周面との間でスリット3が径方向に重ねて配置されないため、ベントピース2aの強度を確保するうえで都合がよい。
【0027】
図2(A)のように、ベントピース2aの中心線(即ち、排気路21の中心線CL)からスリット3の他端部3bを通って外周面に至る仮想直線を引き、その直線上における排気路21から他端部3bまでの長さをL1、排気路21から外周面までの長さをL2とする。その場合、スリット3の外周側に位置する部分の弾性変形を確保する観点から、長さL1は長さL2の60%以下であることが好ましい。また、ベントピース2a自体の強度を確保する観点から、長さL1は長さL2の20%以上であることが好ましい。
【0028】
スリット3の外周側に位置する部分の弾性変形を確保する観点から、スリット3の開き角度θは60度以上であることが好ましく、90度以上であることがより好ましい。複数のスリット3が形成されている場合には、開き角度θが(360/N)±10度であることが好ましい。また、ベントピース2a自体の強度を確保する観点から、開き角度θは180度以下であることが好ましく、150度以下であることがより好ましい。開き角度θは、ベントピース2aの中心線(即ち、排気路21の中心線CL)とスリット3の両端部(一端部3a及び他端部3b)とを結ぶ一対の直線がなす角度として求められる。
【0029】
湾曲して延びるスリット3の代わりに、直線的に延びるスリット、または屈曲して延びるスリットを採用することも考えられる。しかし、排気路21と外周面との間の限られた領域に適度な長さのスリット3を形成するとともに、そのスリット3の外周側に位置する部分を滑らかに弾性変形させる観点から、本実施形態のような湾曲して延びるスリット3を採用することが望ましい。
【0030】
[ベントピースの第2実施形態]
次に、
図4~6を参照して、本開示のベントピースの第2実施形態について説明する。第2実施形態としてのベントピース2bは、以下に説明する構成の他は、第1実施形態としてのベントピース2aと同様に構成できるため、共通点を省略して主に相違点について説明する。第1実施形態で既に説明した構成には、同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0031】
図4は、ベントピース2の一つの形態であるベントピース2bを示している。
図4に示すベントピース2bは、外力が作用していない自然状態にある。ベントピース2bでは、長手方向LD視において湾曲して延びるスリット4が外周面に形成されている。スリット4は、外周面で開口した一端部4aから他端部4bに向かって、排気路21に対する距離を徐々に小さくしながら延在している。スリット4の外周側に位置する部分は、そのスリット4の一端部4aに向かって先細りに形成されている。スリット4の内周側に位置する部分は、そのスリット4の他端部4bに向かって先細りに形成され、スリット4の外周側に位置する部分と径方向に重なっている。
【0032】
スリット4の間隔が小さくなるように弾性変形させることにより、ベントピース2bの外径は小さくなり、例えば
図5(A)のようにベントピース2bを縮径できる。そのため、弾性変形に伴うバネ効果によってベントピース2bを排気孔16に装着することができ、ベントピース2bの着脱を繰り返しても排気孔16の拡張を引き起こさない。また、スリット4が湾曲していることにより、排気孔16の径寸法が想定よりも大きい場合であっても、
図5(B)に例示するようにスリット4が閉じやすい。このように、排気孔16の径寸法のバラツキに対してスリット4が閉じやすくなるため、ゴムのはみ出しの発生が抑えられる。
【0033】
スリット4は、長手方向LD視において排気路21に向かって凹となる湾曲形状を有している。それでいて、スリット4の外周側の壁面4wは、排気路21の内面に対して滑らかに連なっている。ベントピース2bに形成されたスリット4は、外周面で開口した一端部4aと、排気路21に接続された他端部4bとを有する。この例では、スリット4が排気路21に接続されているが、上述のようにゴムのはみ出しを生じにくいため、排気孔16の径寸法のバラツキにも対応できる。長手方向LD視において、スリット4は、排気路21の中心線CL周りとなる周方向の一箇所に形成されている。
【0034】
図4のように、外力が作用していない自然状態において、スリット4の間隔は排気路21に向かって次第に小さくなっていることが好ましい。かかる構成によれば、ベントピース2bを弾性変形により縮径させたときに、排気路21に近い側でスリット4が閉じやすくなるため、排気路21からのゴムのはみ出しの発生を抑えるうえで都合がよい。
【0035】
スリット4は、ベントピース2bの全長に亘って形成されている。本実施形態では、ベントピース2bの成形面側の端面から反成形面側の端面までスリット4が連続して延びている例を示すが、これに限られず、
図6に示した変形例のように、長手方向LDの一方側と他方側とにスリット4が分割されていてもよい。分割されたスリット4の長さは、それぞれベントピース2bの全長の50%かそれ以上であることが好ましい。また、本実施形態では、スリット4が長手方向LDに平行に延びている例を示すが、これに限られず、例えばスリット4が長手方向LDに対して傾斜して延びていてもよい。
【0036】
[タイヤの製造方法]
ベントピース2を備える金型10を用いたタイヤの製造方法は、金型10のキャビティ15に未加硫のタイヤTをセットし、そのタイヤTに加熱加圧を施して加硫を行う工程を含む。タイヤTは、ブラダーと呼ばれるゴムバッグの膨張によって拡張変形し、その外表面が成形面1に押し当たる。その過程で、タイヤと成形面1との間の空気が、ベントピース2の排気路21を通じて外部に排出される。既述の通り、成形面1の排気孔16にベントピース2が装着されているため、排気孔16の拡張を引き起こさず、排気孔16の径寸法のバラツキにも対応できる。
【0037】
[1]
以上のように、本開示のベントピース2は、タイヤ加硫金型10の成形面1で開口する排気孔16に装着され、排気路21を内部に有する筒状のベントピース2であって、長手方向LD視において湾曲して延びるスリット3(またはスリット4)が外周面に形成されたものである。
【0038】
かかる構成によれば、スリット3(またはスリット4)の外周側に位置する部分の弾性変形に伴うバネ効果によりベントピース2を排気孔に装着できるので、ベントピース2の着脱を繰り返しても排気孔16の拡張を引き起こさない。しかも、排気路21にスリット3を接続する必要がなく、たとえ排気路21にスリット4を接続した場合でもゴムのはみ出しを生じにくいため、排気孔16の径寸法のバラツキにも対応できる。
【0039】
[2]
上記[1]のベントピース2において、スリット3(またはスリット4)は、長手方向LD視において排気路21に向かって凹となる湾曲形状を有していることが好ましい。かかる構成によれば、スリット3(またはスリット4)の外周側に位置する部分が、そのスリット3(またはスリット4)の一端部に近付くほど細い形状となるため、当該部分を円滑に弾性変形させるうえで都合がよい。
【0040】
[3]
上記[1]または[2]のベントピース2は、スリット3が、外周面で開口した一端部3aと、排気路21に接続されずに終端した他端部3bとを有するベントピース2aでもよい。かかる構成によれば、スリット3が排気路21に接続されていないので、ゴムのはみ出しを生じることがなく、排気孔16の径寸法のバラツキに対してより確実に対応できる。
【0041】
[4]
上記[3]のベントピース2(ベントピース2a)において、スリット3が、排気路21の中心線CL周りとなる周方向の複数箇所に形成されていることが好ましい。かかる構成によれば、周方向の複数箇所でバネ効果を発現できるため、排気孔16に装着したベントピース2を安定させやすく、ベントピース2の耐抜け性を向上できる。
【0042】
[5]
上記[1]または[2]のベントピース2は、スリット4が、外周面で開口した一端部4aと、排気路21に接続された他端部4bとを有するベントピース2bでもよい。かかる構成によれば、スリットが半径方向に延びている構造に比べて、排気孔16の径寸法のバラツキに対してスリット4が閉じやすくなるため、ゴムのはみ出しの発生が抑えられる。
【0043】
[6]
上記[5]のベントピース2(ベントピース2b)では、外力が作用していない自然状態において、スリット4の間隔が排気路21に向かって次第に小さくなっていることが好ましい。かかる構成によれば、ベントピース2bを弾性変形により縮径させたときに、排気路21に近い側でスリット4が閉じやすくなるため、ゴムのはみ出しの発生を抑えるうえで都合がよい。
【0044】
[7]
本開示のタイヤ加硫金型10は、キャビティ15にセットされたタイヤTの外表面に接する成形面1と、その成形面1で開口する排気孔16に装着された上記[1]~[6]いずれか1つのベントピース2とを備えたものである。かかる構成によれば、排気孔16の拡張を引き起こさず、排気孔16の径寸法のバラツキにも対応できる。
【0045】
本開示のタイヤ加硫金型10は、排気孔16に装着されるベントピース2を上記の如く構成したこと以外は、通常のタイヤ加硫金型と同等であり、従来公知の形状や材質、機構などは何れも採用することができる。
【0046】
[8]
本開示のタイヤの製造方法は、上記[1]~[6]いずれか1つのベントピース2を備えたタイヤ加硫金型10のキャビティ15に未加硫のタイヤTをセットし、そのタイヤTに加熱加圧を施して加硫を行う工程を含むものである。かかる方法によれば、排気孔16の拡張を引き起こさず、排気孔16の径寸法のバラツキにも対応できる。
【0047】
本開示のタイヤの製造方法は、タイヤ加硫金型10の排気孔16に上記の如きベントピース2を装着していること以外は、通常のタイヤの製造方法と同等であり、従来公知の工程や加硫条件などは何れも採用することができる。
【0048】
以上、本開示の実施形態について説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく、特許請求の範囲によって示され、更には特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
【0049】
本開示のベントピース、タイヤ加硫金型及びタイヤの製造方法は、いずれも上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。また、上述した第1~第2実施形態で採用されている各構成を、任意に組み合わせて採用することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 成形面
2 ベントピース
2a ベントピース(第1実施形態)
2b ベントピース(第2実施形態)
3 スリット
4 スリット
10 タイヤ加硫金型
16 排気孔
21 排気路