(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157546
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】マイクロ流路チップおよびマイクロ流路チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20231019BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20231019BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20231019BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20231019BHJP
B01J 19/00 20060101ALN20231019BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
B81B1/00
B81C1/00
B01J19/00 321
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067518
(22)【出願日】2022-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】波木井 秀充
(72)【発明者】
【氏名】福上 典仁
(72)【発明者】
【氏名】村田 広大
【テーマコード(参考)】
2G058
3C081
4G075
【Fターム(参考)】
2G058DA07
3C081AA01
3C081AA17
3C081BA23
3C081CA02
3C081CA23
3C081CA31
3C081CA32
3C081CA36
3C081CA40
3C081DA06
3C081DA10
3C081DA21
3C081DA43
3C081EA27
4G075AA13
4G075AA39
4G075BA10
4G075BB10
4G075BD15
4G075CA24
4G075DA02
4G075DA05
4G075DA18
4G075EB50
4G075FA12
4G075FB06
4G075FB11
4G075FB12
4G075FB13
4G075FC20
(57)【要約】
【課題】本発明では、マイクロ流路チップ内で反応液の逆流を防止し、反応液同士のコンタミネーションを防ぐことができるマイクロ流路チップおよびマイクロ流路チップの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】代表的な本発明のマイクロ流路チップの一つは、液体を導入する入力部と前記液体が流れる流路部と前記液体を排出する出力部もしくは前記流体と薬剤が接触するための薬剤固定部(以下、表現を統一して「出力部」という。)を有するマイクロ流路チップであって、前記流路部が、前記液体と接する表面の接触角が90度以上130度以下である領域(疎水領域)を有していることを特徴とする。
前記流路部は、少なくとも基板上の床材層、隔壁層、および上蓋層により囲まれて形成され、前記床材層と前記隔壁層と前記上蓋層のうち少なくとも1つの表面が前記疎水領域を有する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を導入する入力部と前記流体が流れる流路部と前記流体を排出する出力部もしくは前記流体と薬剤が接触するための薬剤固定部(以下、表現を統一して「出力部」という。)を有するマイクロ流路チップであって、
前記流路部が、前記流体と接する表面の接触角が90度以上130度以下である領域(以下、「疎水領域」という。)を有していることを特徴とする、マイクロ流路チップ。
【請求項2】
前記疎水領域には、シロキサン重合体を含有する層が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項3】
前記流路部は、少なくとも基板上の床材層、隔壁層、および上蓋層により囲まれて形成され、
前記床材層と前記隔壁層と前記上蓋層のうち少なくとも1つの表面が前記疎水領域を有することを特徴とする、請求項2に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項4】
前記出力部に近接する前記流路部の表面において、前記流体と接する表面の接触角が90度未満である領域(以下、「親水領域」という。)を前記疎水領域と近接して有していることを特徴とする、請求項2に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項5】
前記流路部は、前記入力部に通ずる主流路部と、前記主流路部から前記出力部に向かって分岐した複数の分岐流路部とを備えていることを特徴とする、請求項2に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項6】
前記シロキサン重合体を含有する層には、シロキサン重合体のうち3量体から20量体の少なくともいずれかが含まれる、請求項2に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項7】
前記上蓋層がPDMSから形成される、請求項3に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項8】
前記上蓋層がPET、PMMA、PC、COP、ガラスのうちのいずれかから形成される、請求項3に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項9】
前記床材層および前記隔壁層は、感光性樹脂から形成される、請求項3に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項10】
前記感光性樹脂は、波長190nmから400nmの光に感光性を有する、請求項9に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項11】
基板上に床材層を形成する第1工程と、
前記基板および床材層上に隔壁層を形成する第2工程と、
前記隔壁層に上蓋層を接合させる第3工程と、を含み、
前記床材層と前記隔壁層と前記上蓋層のうち少なくとも1つの表面に疎水領域を形成することを特徴とする、マイクロ流路チップの製造方法。
【請求項12】
前記疎水領域には、シロキサン重合体を含有する層が形成されることを特徴とする請求項11に記載のマイクロ流路チップの製造方法。
【請求項13】
前記上蓋層はPDMSから形成され、
前記第3工程は、前記上蓋層と前記隔壁層を加熱して貼合させる工程である、請求項12に記載のマイクロ流路チップの製造方法。
【請求項14】
前記床材層は第1感光性樹脂から形成され、
前記隔壁層は第2感光性樹脂から形成され、
前記第1感光性樹脂または第2感光性樹脂が、ポリシロキサンまたはシランカップリング剤を含有し、
前記第3工程は、前記上蓋層と前記隔壁層を加熱して貼合させる工程である、請求項12に記載のマイクロ流路チップの製造方法。
【請求項15】
前記第3工程の前に、前記基板、前記床材層、前記隔壁層と前記上蓋層のいずれかの表面を低分子シロキサン雰囲気中に静置する第4工程と、をさらに備える請求項12記載のマイクロ流路チップの製造方法。
【請求項16】
前記第4工程において、前記低分子シロキサン雰囲気は、PDMSを加熱炉内で100℃以上で5min以上加熱して形成される、請求項15に記載のマイクロ流路チップの製造方法。
【請求項17】
前記第1工程において、前記床材層がパターン状に形成され、
前記床材層が形成されていない前記基板の表面と、前記床材層の表面のうちいずれか一方に前記疎水領域が形成され、他方に親水領域が形成される、請求項12に記載のマイクロ流路チップの製造方法。
【請求項18】
前記第1感光性樹脂および第2感光性樹脂は、波長190nmから400nmの光に感光性を有する、請求項14に記載のマイクロ流路チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流路チップおよびマイクロ流路チップの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リソグラフィプロセスや厚膜プロセス技術を応用して、微細な反応場を形成し、数μLから数nL単位での微量な液体等の検査を可能とする技術が提案されている。このような微細な反応場を利用した技術をμ-TAS(Micro Total Analysis system)という。
【0003】
μ-TASは、遺伝子検査、染色体検査、細胞検査、医薬品開発などの領域や、バイオ技術、環境中の微量な物質検査、農作物等の飼育環境の調査、農作物の遺伝子検査などに応用される。μ-TAS技術の導入により、自動化、高速化、高精度化、低コスト、迅速性、環境インパクトの低減など、大きな効果を得られる。
【0004】
μ-TASでは、多くの場合、基板上に形成されたマイクロメートルサイズの流路(マイクロ流路、マイクロチャンネル)を利用して反応や観察等が行われており、このようなデバイスはマイクロ流路チップなどと呼ばれる。
【0005】
従来、こうしたマイクロ流路チップは、射出成形、モールド成形、切削加工、エッチングなどの技術を用いて作製されていた。またマイクロ流路チップの基板としては、製造が容易であり、光学的な検出も可能であることから、主にガラス基板が用いられている。一方で、軽量でありながらガラス基板に比べて破損しにくく、且つ、安価な樹脂材料を用いたマイクロ流路チップの開発も進められている。樹脂材料を用いたマイクロ流路チップの製造方法としては、主にフォトリソグラフィーにより流路用樹脂パターンを成形し、そこに蓋材を接合してマイクロ流路チップを作製する方法がある。この方法によれば、従来技術では困難な側面もあった微細な流路パターンの形成も可能である。
【0006】
また、マイクロ流路チップでは種類の異なる薬剤を流路内の異なる場所に予め固定しておき、流路の入口から試験液を導入させ、試験液と薬剤を反応させる感受性評価を行うことができる。試験液と複数の薬剤との反応を一度にまとめて評価できるメリットがある。一方で、このようなマイクロ流路チップで重要なのは、各反応液同士のコンタミネーションを防ぐことである。各反応液同士が混ざり合ってしまうと、正確な評価が出来なくなるためである。複数のチャンバー間とのコンタミネーションを防ぐために、バッファの形状を規定した方法が開示されている。例えば、特許文献1には、チャンバーに接続された台形形状のバッファーが流路を介して複数接続している流体取扱装置において、台形の下底の長さを脚の長さより長く設定することでチャンバー間のコンタミネーションを抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、形状で規定した従来技術では流路を構成する材料が親水性である場合などは、反応液の逆流が生じることがある。また、バッファとチャンバーが細い流路で繋がっている構造では毛管現象により反応液の逆流が生じやすい。また、流路内の形状が変化している部分では局所的に気泡が発生しやすく、その気泡が反応液の逆流の一因となることもある。
【0009】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、流路を構成する材料を用いて疎水領域、親水領域を設けた流路チップであれば安定的に反応液のコンタミネーションを防ぐことが可能となることを見出した。
【0010】
そこで、本発明では、マイクロ流路チップ内で反応液の逆流を防止し、反応液同士のコンタミネーションを防ぐことができるマイクロ流路チップ、およびマイクロ流路チップの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明のマイクロ流路チップの一つは、流体を導入する入力部と前記流体が流れる流路部と前記流体を排出する出力部もしくは前記流体と薬剤が接触するための薬剤固定部(以下、表現を統一して「出力部」という。)を有するマイクロ流路チップであって、前記流路部が、前記流体と接する表面の接触角が90度以上130度以下である領域(以下、「疎水領域」という。)を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、マイクロ流路チップ内で反応薬の逆流を防止し、反応液同士のコンタミネーションを防ぐことができるマイクロ流路チップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】
図1Aは、第一実施形態のマイクロ流路チップの概略を示す平面図である。
【
図1B】
図1Bは、
図1Aに示すA-A線でマイクロ流路チップを切断した断面を示す図である。
【
図1C】
図1Cは、
図1Aに示すB-B線でマイクロ流路チップを切断した断面を示す図である。
【
図1D】
図1Dは、
図1Aに示すC-C線でマイクロ流路チップを切断した断面を示す図である。
【
図2】
図2は、第一実施形態に係るマイクロ流路チップの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3A】
図3Aは、実施例1の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3B】
図3Bは、実施例1で製造したマイクロ流路チップについて、
図1BのA-A断面図に対応する断面図である。
【
図3C】
図3Cは、実施例1で製造したマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。
【
図4A】
図4Aは、実施例2の製造方法を示すフローチャートである。
【
図4B】
図4Bは、実施例2で製造したマイクロ流路チップについて、
図1BのA-A断面図に対応する断面図である。
【
図4C】
図4Cは、実施例2で製造したマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。
【
図5A】
図5Aは、実施例3の製造方法を示すフローチャートである。
【
図5B】
図5Bは、実施例3で製造したマイクロ流路チップについて、
図1BのA-A断面図に対応する断面図である。
【
図5C】
図5Cは、実施例3で製造したマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。
【
図6A】
図6Aは、実施例4の製造方法を示すフローチャートである。
【
図6B】
図6Bは、実施例4で製造したマイクロ流路チップについて、
図1BのA-A断面図に対応する断面図である。
【
図6C】
図6Cは、実施例4で製造したマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。
【
図7A】
図7Aは、実施例5の製造方法を示すフローチャートである。
【
図7B】
図7Bは、実施例5で製造したマイクロ流路チップについて、
図1BのA-A断面図に対応する断面図である。
【
図7C】
図7Cは、実施例5で製造したマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。
【
図8A】
図8Aは、実施例6の製造方法を示すフローチャートである。
【
図8B】
図8Bは、実施例6で製造したマイクロ流路チップについて、
図1BのA-A断面図に対応する断面図である。
【
図8C】
図8Cは、実施例6で製造したマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。
【
図9A】
図9Aは、実施例7の製造方法を示すフローチャートである。
【
図9B】
図9Bは、実施例7で製造したマイクロ流路チップについて、
図1BのA-A断面図に対応する断面図である。
【
図9C】
図9Cは、実施例7で製造したマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。
【
図10B】
図10Bは、実施例8で製造したマイクロ流路チップについて、
図1BのA-A断面図に対応する断面図である。
【
図10C】
図10Cは、実施例8で製造したマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。
【
図11B】
図11Bは、実施例9で製造したマイクロ流路チップについて、
図1BのA-A断面図に対応する断面図である。
【
図11C】
図11Cは、実施例9で製造したマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。
【
図12B】
図12Bは、比較例1で製造したマイクロ流路チップについて、
図1BのA-A断面図に対応する断面図である。
【
図12C】
図12Cは、比較例1で製造したマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。
【
図13】
図13は、第二実施形態におけるマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。
【
図14】
図14は、第二実施形態の変形例に係るマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討の結果、マイクロ流路チップにおいて流路内に疎水性の領域を設けることで液滴の動きを制御し、流路内で反応液同士のコンタミネーションを防ぐことが可能であることを見出した。疎水性の領域を形成するのは、感光性樹脂のパターニングによって実現できるもので非常に簡便な方法である。これにより、本発明者らは、マイクロ流路チップ内で反応液同士のコンタミネーションを防ぐことができるマイクロ流路チップおよびマイクロ流路チップの製造方法を発明するに至った。
以下、図面を参照して本発明の各実施形態の各態様について説明する。
【0015】
以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0016】
図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。同一あるいは同様の機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。また、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0017】
[第一実施形態]
<マイクロ流路チップの基本構成>
図1A~
図1Dは、本発明の第一実施形態に係るマイクロ流路チップ1の一構成例を説明するための概略図である。具体的には、
図1Aは、第一実施形態のマイクロ流路チップ1の概略を示す平面図である。また、
図1Bは、
図1Aに示すA-A線でマイクロ流路チップ1を切断した断面を示す図である。また、
図1Cは、
図1Aに示すB-B線でマイクロ流路チップ1を切断した断面を示す図である。また、
図1Dは、
図1Aに示すC-C線でマイクロ流路チップ1を切断した断面を示す図である。
【0018】
図1Aに示すように、マイクロ流路チップ1は、流体(例えば液体)を導入するための入力部2(単に「入口」ということもある。)と、入力部2から導入された流体が流れる流路部3と、流路部3から流体を排出するための出力部4、5(単に「出口」ということもある。)とを備えている。マイクロ流路チップ1において、流路部3は、後述する上蓋層13に覆われており、入力部2および出力部4、5は、上蓋層13に設けられた貫通孔である。なお、流路部3は、1つの流路が分岐部18において出力部4、5に向かって2つの流路に分かれる。入力部2から分岐部18までを主流路部3a、分岐部18から出力部4までを分岐流路部3b、分岐部18から出力部5までを分岐流路部3cで構成される。また、出力部4、5付近には、薬剤を固定し、入力部2から導入された流体と薬剤が接触する薬剤固定部(以下、便宜上「出口付近」ということがある。)が設けられてもよい。薬剤固定部が設けられる場合は出力部4、5は必ずしも設けられないこともある。以下、特に断りのない限り狭義の出力部4、5と薬剤固定部を、表現を統一して「出力部」という。なお、薬剤は、マイクロ流路チップを用いて検査される物質を含むものであり、薬品等に限定されない。
図1Aでは、透明性を有する上蓋層13を介して視認される流路部3を図示している。また、
図1Aに示されるマイクロ流路チップ1は、入口から途中で流路が分岐し出口が2つあるマイクロ流路チップであり、これは試験液と2つの薬剤との反応を同時に評価するための簡易的な流路を形成している。
【0019】
マイクロ流路チップ1において、入力部は1つ以上設けられていればよく、出力部は2つ以上設けられていればよい。またマイクロ流路チップ1において、流路部3は、複数設けられてもよいし、入力部2から導入された流体の合流や分離が可能な設計であってもよい。
【0020】
ここで、マイクロ流路チップ1において、流路部3を構成する部材の詳細について説明する。
図1Bに示されるように、マイクロ流路チップ1は、基板10と、基板10上に設けられる床材層11と、床材層11上に設けられて流路を形成する隔壁層12と、隔壁層12の基板10とは反対側の面に設けられた上蓋層13を備えている。入力部2から導入された流体が流れる主流路部3aは、基板10と床材層11と隔壁層12と上蓋層13とに囲まれた領域である。床材層11、隔壁層12および上蓋層13のいずれかの表面にシロキサン重合体を含有する層14が形成される。シロキサン重合体を含有する層14は必ずしも一定の厚さを有する必要はない。シロキサン重合体を含有する層14の詳細は後述する。上述のように、主流路部3aには、上蓋層13に設けられた入力部2から流体が導入される。床材層11は、基板10と隔壁層の間の密着性を向上させることや、後述するように流路において疎水性を変化させる領域として設けられる場合がある。
【0021】
図1Cに示されるように、分岐流路部3bは、基板10に設けられた床材層11と隔壁層12と上蓋層13によって囲まれた領域であり、基本的な構成は
図1Bと同様である。分岐流路部3bを流れた流体は出力部4から排出される。なお、以下の説明において特に断りのない限り、分岐流路部3bについての説明は、分岐流路部3cについても該当する。
【0022】
【0023】
以下に、基板10、床材層11、隔壁層12および上蓋層13についてさらに説明する。
<基板>
基板10は、マイクロ流路チップ1の基礎となる部材であり、基板10上に設けられた隔壁層12によって流路部3の流路の形状が形成される。
基板10は、透光性材料又は非透光性材料のいずれかによって形成することができる。例えば、流路部3内の状態(例えば流体の状態)を光によって検出、観察する場合は、当該光に対して透明性に優れる材料を用いることができる。透光性材料としては、樹脂又はガラス等を用いることができる。基板10を形成する透光性材料に用いる樹脂としては、マイクロ流路チップ1の本体部の形成に適しているという観点から、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。また、ガラス基板においては、表面にシリコーンやフッ素がコーティングされたものを使用してもよい。
【0024】
また例えば、流路部3内の状態(例えば流体の状態)を光によって検出、観察する必要がない場合は、非透光性材料を用いてもよい。非透光性材料としては、シリコンウエハ、銅板等が挙げられる。基板10の厚みは特に限定されないが、流路形成工程においてはある程度の剛性は必要となることから、10μm(0.01mm)以上10mm以下の範囲内が好ましい。
【0025】
<床材層>
床材層11は、基板10上に設けられる。床材層11は、樹脂材料で形成することができる。床材層11の樹脂材料としては、例えば感光性樹脂を用いることができる。
【0026】
床材層11を形成する感光性樹脂は、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有することが望ましい。当該感光性樹脂としては、液体レジスト又はドライフィルムレジスト等のフォトレジストを用いることができる。これらの感光性樹脂は、感光領域が溶解するポジ型、又は感光領域が不溶化するネガ型のいずれであってもよい。マイクロ流路チップ1における床材層11の形成に適する感光性樹脂組成物としては、アルカリ可溶性高分子と付加重合性モノマーと光重合開始剤とを含むラジカルネガ型の感光性樹脂を挙げることができる。例えば、感光性樹脂材料としては、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂(ウレタンアクリレート系樹脂)、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ノルボルネン系樹脂、フェノールノボラック系樹脂、その他の感光性を有する樹脂を単独で又は複数混合あるいは共重合して用いることができる。
【0027】
また、後述するポリジメチルシロキサン(PDMS)を加熱した際に揮発する低分子シロキサンの堆積を促進するという観点においては、床材層11を構成する樹脂の中にポリシロキサン、シランカップリング剤を含有しているとなお好ましい。これらが含有していることで低分子シロキサンとシラノール結合を生成し、床材層11の表面にシロキサン重合体を含有する層14が形成されやすくなる。また、シランカップリング剤が含有されている材料自体は隔壁層12との密着を向上させるという観点においてもよい。この観点については、他の実施形態に後述する。
【0028】
床材層11の厚みは特に限定されないが、基板10と隔壁層12の密着性を上げること、あるいは、パターニングすることで基板10を露出させるという観点においては、特に厚膜である必要はなく、薄膜が好ましい。1μm以上10μm以下の範囲内が好ましい。
【0029】
<隔壁層>
隔壁層12は、基板上に設けられて、流路部3を形成する構成要素のひとつである。隔壁層12は、樹脂材料で形成することができる。隔壁層12の樹脂材料としては、例えば感光性樹脂を用いることができる。
【0030】
隔壁層12を形成する感光性樹脂は、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有することが望ましい。当該感光性樹脂としては、液体レジスト又はドライフィルムレジスト等のフォトレジストを用いることができる。これらの感光性樹脂は、感光領域が溶解するポジ型、又は感光領域が不溶化するネガ型のいずれであってもよい。マイクロ流路チップ1における隔壁層12の形成に適する感光性樹脂組成物としては、アルカリ可溶性高分子と付加重合性モノマーと光重合開始剤とを含むラジカルネガ型の感光性樹脂を挙げることができる。例えば、感光性樹脂材料としては、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂(ウレタンアクリレート系樹脂)、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ノルボルネン系樹脂、フェノールノボラック系樹脂、その他の感光性を有する樹脂を単独で又は複数混合あるいは共重合して用いることができる。
【0031】
なお第一実施形態においては、隔壁層12の樹脂材料は感光性樹脂に限定されるものではなく、例えば、シリコーンゴム(PDMS:ポリジメチルシロキサン)や、合成樹脂を用いてもよい。合成樹脂としては、例えばポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリプロピレン(PP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)などを用いることができる。隔壁層12の樹脂材料は、用途に応じて適宜選択されることが望ましい。
【0032】
また、基板10上における隔壁層12の厚み、すなわち流路部3の高さは特に限定されないが、流路部3に導入される流体に含まれる解析・検査対象の物質(例えば、薬剤、菌、細胞、赤血球、白血球等)よりは流路部3の高さを大きくする必要がある。このため、隔壁層12の厚み、すなわち流路部3の高さ(深さ)は、1μm以上500μm以下の範囲内が好ましく、10μm以上100μmの範囲内がより好ましく、40μm以上60μm以下の範囲内がさらに好ましい。なお、流路部の高さ(深さ)は、基板面に垂直な方向の長さである。
【0033】
また同様に、解析・検査対象の物質よりは流路部3の幅を大きくする必要があるから、隔壁層12によって画定される流路部3の幅は、1μm以上1000μm以下の範囲内が好ましく、10μm以上500μmの範囲内がより好ましく、10μm以上100μm以下の範囲内がさらに好ましい。なお、流路の幅は、基板面に平行で、流路長の方向に垂直な方向の長さである。
【0034】
また、隔壁層12により確定される流路長は、反応溶液の十分な反応時間を確保する必要から、10mm以上100mm以下の範囲内が好ましく、30mm以上70mm以下の範囲内がより好ましく、40mm以上60mm以下の範囲内がさらに好ましい。
【0035】
<上蓋層>
第一実施形態に係るマイクロ流路チップ1において、上蓋層13は、
図1Bに示すように流路部3を覆う蓋材である(以下、上蓋層13を便宜的に「蓋材」と言うこともある。)。上述のように、上蓋層13は、隔壁層12の基板10とは反対側の面に設けられており、隔壁層12を挟んで基板10と対向している。より具体的には、
図1Bに示すように、上蓋層13は側端部が隔壁層12に支持され、中央領域が基板10と対向しており、当該中央領域が流路部3の上部を画定している
【0036】
上蓋層13は、透光性材料又は非透光性材料のいずれかによって形成することができる。例えば、流路部3内の状態(例えば流体の状態)を光によって検出、観察する場合は、当該光に対して透明性に優れる材料を用いることができる。透光性材料としては、樹脂又はガラス等を用いることができる。上蓋層13を形成する樹脂としては、マイクロ流路チップ1の本体部の形成に適しているという観点から、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0037】
なお第一実施形態においては、上蓋層13の樹脂材料は上記に限定されるものではなく、例えば、シリコーンゴム(PDMS:ポリジメチルシロキサン)や、合成樹脂を用いてもよい。合成樹脂としては、例えばポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)などを用いることができる。上蓋層13の樹脂材料は、用途に応じて適宜選択されることが望ましいが、特に第一実施形態においては、流路部3内の表面にシロキサン重合体を含有する層を形成する観点においては、PDMSを使用することが望ましい。
【0038】
上蓋層13の厚みは特に限定されないが、上蓋層13に対して入力部2および出力部4、5それぞれに該当する貫通孔を設けることを鑑みると、10μm以上10mm以下の範囲内が好ましい。また上蓋層13には、隔壁層12との接合前に、流体を導入する入力部2、流体を排出する出力部4、5のそれぞれに相当する孔を予め開けておくことが望ましい。
【0039】
<製造方法>
次に、第一実施形態に係るマイクロ流路チップ1の製造方法について説明する。
図2は、第一実施形態に係るマイクロ流路チップ1の製造方法の一例を示すフローチャートである。
ここでは、床材層11および隔壁層12を感光性樹脂で形成する場合を例にとって説明する。
【0040】
図2において、マイクロ流路チップの製造方法は、床材層11の形成(ステップS101)、隔壁層12の形成(ステップS102)、表面改質処理(UV処理)(ステップS13)、および上蓋層13の接合(ステップS14)に関する工程を含む。床材層11の形成工程(ステップS101)は、後述するステップS1~ステップS6を含む。また、隔壁層の形成工程(ステップS102)は、後述するステップS7~ステップS12を含む。
【0041】
(ステップS1)
第一実施形態に係るマイクロ流路チップ1の製造方法では、まず基板10上へ樹脂を塗工する工程を行う。これにより、基板10上に床材層11を形成するための樹脂層を設ける。
【0042】
基板10上への床材層の形成方法は、例えば、基板10への感光性樹脂の塗工により行われる。塗工は、例えば、スピンコーティング、スプレーコーティング、バーコーティングなどにより行われることができ、膜厚制御性の観点からはスピンコーティングが好ましい。基板10上には、例えば液状、固体状、ゲル状、フィルム状など種々の形態の感光性樹脂を塗工することができる。例えば、液体レジストによって感光性樹脂層を形成することは、好ましい方法の一つである。
また、基板10上には、樹脂層(例えば、感光性樹脂層)の厚み、すなわち床材層11の厚みが1μm以上10μm以下の範囲内となるように樹脂(例えば、感光性樹脂)を塗工すればよい。
【0043】
(ステップS2)
基板10上に感光性樹脂を形成すると、次に、基板10上に塗工した樹脂(例えば、感光性樹脂)内に含まれる溶媒(溶剤)を除去する目的で加熱処理(プリベーク処理)する工程を行う。なお、第一実施形態に係るマイクロ流路チップ1の製造方法において、プリベーク処理は必須の工程ではなく、適宜、樹脂の特性に合わせて最適な温度、時間で実施すればよい。例えば、基板10上の樹脂層が感光性樹脂である場合は、プリベーク温度、時間は感光性樹脂の特性に応じて、適宜、最適な条件で行う。
【0044】
(ステップS3)
次に、基板10上に塗工した樹脂(例えば感光性樹脂)を露光する工程を行う。具体的には、基板10上に塗工した感光性樹脂には、露光により流路パターンが描画される。露光は、例えば、紫外線を光源とした露光装置、レーザー描画装置により行うことができる。例えば、紫外線を光源としたプロキシミティ露光やコンタクト露光装置を用いた露光が好ましい方法の一つである。プロキシミティ露光装置の場合、マイクロ流路チップ1における流路パターン配列を有するフォトマスクを介して露光が行われる。フォトマスクはクロムおよび酸化クロムの二層構造を遮光膜とするフォトマスクなどを使用すればよい。
また上述のように、床材層11には、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有する感光性樹脂が用いられる。したがって、本工程(露光工程)では、基板10上に塗工される感光性樹脂を、190nm以上400nm以下の波長の光に感光させればよい。
【0045】
基板10上に塗工された感光性樹脂がポジ型レジストの場合、露光領域が溶解して基板10が露出することになり、未露光領域に残存する感光性樹脂が床材層11となる。また、基板10上に塗工された感光性樹脂がネガ型レジストの場合、露光領域に残存する感光性樹脂が床材層11となり、未露光領域が溶解して基板10が露出することになる。このように、第一実施形態に係るマイクロ流路チップ1の製造方法では、フォトリソグラフィーを用いて基板10上に床材層11を形成することができる。
【0046】
(ステップS4)
次に、露光した感光性樹脂に対して現像を行い、流路パターンを形成する工程を行う。
現像は、例えば、スプレー、ディップ、パドル形式などの現像装置にて感光性樹脂と現像液の反応により行われる。現像液は、例えば炭酸ナトリウム水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化カリウム、有機溶剤などを用いることができる。現像液は感光性樹脂の特性に応じた最適なものを適宜使用すればよく、これらに限定されるものではない。また、濃度や現像処理時間は、感光性樹脂の特性に合わせて適宜最適な条件に調整することができる。
【0047】
(ステップS5)
次に、洗浄により基板10上の樹脂層(感光性樹脂層)から現像に用いた現像液を除去する工程を行う。洗浄は、例えば、スプレー、シャワー、浸漬形式などの洗浄装置によって行うことができる。洗浄水としては、例えば純水、イソプロピルアルコールなどから、現像処理に用いた現像液を除去するために最適な洗浄水を適宜使用すればよい。洗浄後はスピンドライヤ、IPAベーパドライヤ、自然乾燥などにより乾燥を行う。
【0048】
(ステップS6)
次に、床材層11に対して加熱処理(ポストベーク)する工程を行う。このポストベーク処理により、現像や洗浄時の残留水分を除去する。ポストベーク処理は、例えば、ホットプレート、オーブン、などを用いて行われる。上記ステップS5の洗浄工程での乾燥が不十分な場合、現像液や洗浄時の水分が床材層11に残留している場合がある。また、プリベーク処理において除去されなかった溶剤も床材層11に残留している場合がある。ポストベーク処理を行うことで、それらを除去することができる。
【0049】
(ステップS7)
次に、床材層11上へ樹脂を塗工する工程を行う。これにより、床材層11上に隔壁層12を形成するための樹脂層を設ける。第一実施形態に係るマイクロ流路チップ1の製造方法では、例えば床材層11上に感光性樹脂による樹脂層(感光性樹脂層)を形成する。
【0050】
床材層11上への感光性樹脂層の形成方法は、例えば、床材層11への感光性樹脂の塗工により行われる。塗工は、例えば、スピンコーティング、スプレーコーティング、バーコーティングなどにより行われることができ、膜厚制御性の観点からはスピンコーティングが好ましい。床材層11上には、例えば液状、固体状、ゲル状、フィルム状など種々の形態の感光性樹脂を塗工することができる。例えば、液体レジストによって感光性樹脂層を形成することは好ましい方法の一つである。
また、床材層11上には、樹脂層(例えば、感光性樹脂層)の厚み、すなわち隔壁層12の厚みが5μm以上100μm以下の範囲内となるように樹脂(例えば、感光性樹脂)を塗工すればよい。
【0051】
(ステップS8)
床材層11上に感光性樹脂を形成すると、次に、床材層11上に塗工した樹脂(例えば、感光性樹脂)内に含まれる溶媒(溶剤)を除去する目的で加熱処理(プリベーク処理)する工程を行う。なお、第一実施形態に係るマイクロ流路チップ1の製造方法において、プリベーク処理は必須の工程ではなく、適宜、樹脂の特性に合わせて最適な温度、時間で実施すればよい。例えば、床材層11上の樹脂層が感光性樹脂である場合は、プリベーク温度、時間は感光性樹脂の特性に応じて、適宜、最適な条件で行う。
【0052】
(ステップS9)
次に、床材層11上に塗工した樹脂(例えば感光性樹脂)を露光する工程を行う。具体的には、床材層11上に塗工した感光性樹脂には、露光により流路パターンが描画される。露光は、例えば、紫外線を光源とした露光装置、レーザー描画装置により行うことができる。例えば、紫外線を光源としたプロキシミティ露光やコンタクト露光装置を用いた露光は好ましい方法の一つである。プロキシミティ露光装置の場合、マイクロ流路チップ1における流路パターン配列を有するフォトマスクを介して露光が行われる。フォトマスクはクロムおよび酸化クロムの二層構造を遮光膜とするフォトマスクなどを使用すればよい。
また上述のように、隔壁層12には、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有する感光性樹脂が用いられる。したがって、本工程(露光工程)では、床材層11上に塗工される感光性樹脂を、190nm以上400nm以下の波長の光に感光させればよい。
【0053】
床材層11上に塗工された感光性樹脂がポジ型レジストの場合、露光領域が溶解して流路部3となり、未露光領域に残存する感光性樹脂が隔壁層12となる。また、床材層11上に塗工された感光性樹脂がネガ型レジストの場合、露光領域に残存する感光性樹脂が隔壁層12となり、未露光領域が溶解して流路部3となる。このように、第一実施形態に係るマイクロ流路チップ1の製造方法では、フォトリソグラフィーを用いて床材層11上に流路部3を構成する隔壁層12を形成することができる。
【0054】
なお、床材層11上における樹脂層の形成に化学増幅型レジストなどを用いる場合には、露光により発生した酸の触媒反応を促すために、露光後にさらに加熱処理(ポストエクスポージャーベーク:PEB)を行うとよい。
【0055】
(ステップS10)
次に、露光した感光性樹脂に対して現像を行い、流路パターンを形成する工程を行う。
現像は、例えば、スプレー、ディップ、パドル形式などの現像装置にて感光性樹脂と現像液の反応により行われる。現像液は、例えば炭酸ナトリウム水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化カリウム、有機溶剤などを用いることができる。現像液は感光性樹脂の特性に応じた最適なものを適宜使用すればよく、これらに限定されるものではない。また、濃度や現像処理時間は、感光性樹脂の特性に合わせて適宜最適な条件に調整することができる。
【0056】
(ステップS11)
次に、洗浄により床材層11上の樹脂層(感光性樹脂層)から現像に用いた現像液を完全に除去する工程を行う。洗浄は、例えば、スプレー、シャワー、浸漬形式などの洗浄装置によって行うことができる。洗浄水としては、例えば純水、イソプロピルアルコールなどから、現像処理に用いた現像液を除去するために最適な洗浄水を適宜使用すればよい。洗浄後はスピンドライヤ、IPAベーパドライヤ、自然乾燥などにより乾燥を行う。
【0057】
(ステップS12)
次に、流路パターン、すなわち流路部3を形成する隔壁層12に対して加熱処理(ポストベーク)する工程を行う。このポストベーク処理により、現像や洗浄時の残留水分を除去する。ポストベーク処理は、例えば、ホットプレート、オーブン、などを用いて行われる。上記ステップS11の洗浄工程での乾燥が不十分な場合、現像液や洗浄時の水分が隔壁層12に残留している場合がある。また、プリベーク処理において除去されなかった溶剤も隔壁層12に残留している場合がある。ポストベーク処理を行うことで、それらを除去することができる。
【0058】
(ステップS13)
ポストベーク処理後に、隔壁層12、および隔壁層12との接合前の上蓋層13(蓋材)に対して表面改質処理する工程を行う。表面改質処理の一例として、UV処理を行う。なお、表面改質処理は、必要に応じて適宜実行すればよく、第一実施形態に係るマイクロ流路チップ1の製造方法において必須の工程ではない。
【0059】
(ステップS14)
次に、ポストベーク処理後の隔壁層12に上蓋層13を接合する工程を行う。本工程では、
図1B~
図1Dに示すように、隔壁層12の基板10とは反対側の面に上蓋層13を接合する。これにより、流路部3が上蓋層13に覆われマイクロ流路チップ1が形成される。
上記ステップS13において表面改質処理を行った基板同士を接合させる方法としては、例えば熱プレス機や熱ロール機を用いた熱圧着を用いることができる。但し、蓋材としてPDMSなどの柔軟性があるものを用いる場合においては、圧力をかけることなく接合することもできる。
上蓋層13には、隔壁層12との接合前に、予め流体の入力部2、出力部4、5に相当する孔をおくことが望ましい。これにより、隔壁層12との接合後に孔を開ける場合よりも、ゴミやコンタミネーションの問題が生じることを抑制することができる。
なお、加熱をする場合には、材料の性質に合わせて条件を調節することが望ましい。例えば、ホットプレート等の加熱手段を用いて、40℃以上かつ5min以上で貼合することが可能である。
【0060】
隔壁層12と上蓋層13との接合方法は、上記熱圧着に限られず、接着剤を用いる方法や、接着剤を用いずに隔壁層12と上蓋層13との接合面の表面改質処理により接路接合する方法を実施してもよい。
接着剤を用いて接合する場合、接着剤は隔壁層12および上蓋層13を構成する材料との親和性などに基づいて決定することができる。接着剤は、隔壁層12と上蓋層13とを接合できるものであれば、特に限定されない。例えば、第一実施形態における接着剤としては、アクリル樹脂系接着剤や、ウレタン樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤等を用いることができる。
【0061】
また、接着剤を用いずに表面改質処理によって接合する方法としては、UV処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、エキシマレーザー処理などがある。この場合、隔壁層12の表面の反応性を向上させ、隔壁層12と上蓋層13との親和性および接着の相性に応じて、適宜最適な処理方法を選択すればよい。なお、表面改質処理によって接合する場合、上記ステップS13において隔壁層12と上蓋層13との接合まで実行すればよい。
【0062】
ここでは、基板10上に感光性樹脂を塗工し、フォトリソグラフィーを用いて流路部3を構成するための隔壁層12を形成する例を説明したが、本発明はこれに限られない。基板10上において隔壁層12となる樹脂層の形成に用いる樹脂は、例えばシリコーンゴム(PDMS)や、合成樹脂(PMMA、PC、PS、PP、COP、COCなど)であってもよい。例えば、シリコーンゴムを用いて隔壁層12を形成する場合は、フォトリソグラフィーを用いて流路パターンの鋳型を形成し、当該流路パターンの鋳型をシリコーンゴムに転写することで、流路パターン(流路部3を構成する隔壁層12)を形成してもよい。
【0063】
[第一実施形態の実施例]
第一実施形態の実施例について、床材層11と隔壁層12と上蓋層13の少なくともいずれかの表面にシロキサン重合体を含有する層14を設ける態様に応じて以下に説明する。そのため先ず、疎水性を実現する上で重要なシロキサン重合体や接触角に関し述べる。
【0064】
<PDMSの加熱による揮発シロキサン成分>
シロキサン重合体を含有する層14について、シロキサンの由来を検討する。身近なシリコーン製品からシロキサンが発生することが知られている。アウトガス(以下、「出ガス」)として発生するシロキサンは揮発しやすく基板等に付着しやすい成分である。このシロキサンは常温においても微量ながら揮発する性質があるが、加熱することで揮発シロキサンのアウトガス量は増加し、加熱温度が高いほど量体数が大きい成分が揮発する性質がある。本開示では、この低分子シロキサンが基板表面に堆積することによる疎水化に着目した。PDMSの材質によって、環状シロキサンD3~D20や、鎖状シロキサンM2~M20などの低分子シロキサン重合体が揮発する。第一実施形態の実施例を実施する上では、予めPDMSから揮発する低分子シロキサンの温度依存を確認しておくことが重要である。
【0065】
<低分子シロキサン測定方法>
PDMSから揮発する低分子シロキサンや、基板表面に堆積した低分子シロキサンの測定には、熱抽出ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS)を用いることが好ましい。GC/MSは気化させた混合物を、単一成分に分離するガスクロマトグラフ(GC)と、分離した各成分をイオン化してマススペクトルを取得することで定性・定量分析をする質量分析装置(MS)を結合した複合装置であり、低分子シロキサンの定量分析には好適な装置である。分析時の加熱温度を変えることで揮発シロキサン成分の温度依存を測定することができる。定量方法は、環状シロキサンはデカメチルシクロペンタシロキサン(D5)を標準物質とした相対標準濃度で算出する。鎖状シロキサンはオクタメチルトリシロキサン(M3)を標準物質とした相対標準濃度で算出する。
【0066】
<マイクロ流路チップの製造プロセス過程における接触角の変化>
所定の層が疎水性または親水性を示す指標の例として接触角がある。前記マイクロ流路チップの製造方法のプロセス過程における層の接触角の変化について説明する。大きくは、流路部3を形成する隔壁層12を形成する工程(ステップS102)での接触角(θ1とする)と、隔壁層12との接合前の上蓋層13(蓋材)に対して表面改質処理する工程(ステップS13)をした後での接触角(θ2とする)と、隔壁層12に上蓋層13を接合する工程(ステップS14)をした後での接触角(θ3とする)で接触角が変化する。θ1は素材そのものの接触角を示す。そのため、液滴の逆流抑止の観点からすると、接触角が高い材料を用いるのが好ましい。次に、ステップS13では表面改質処理により生じたラジカル酸素(О・)やヒドロキシラジカル(HO・)により表面に親水基(―C=О、―OH、―COOH)が形成される。そのため、素材表面は親水化され、θ2の接触角は小さくなる(θ1>θ2)。照射エネルギーが高いほど、あるいは、照射時間を長くするほど接触角を小さくする(親水性を上げる)効果がある。次に、ステップS14では接合の際に加熱処理を行うため、PDMSから揮発する低分子シロキサンが素材表面に堆積し、疎水化されθ3の接触角は大きくなる(θ2<θ3)。加熱条件の温度が高いほど、処理時間が長いほど、表面に堆積する低分子シロキサン量が増加し、接触角を大きくする(疎水性を上げる)効果がある。本発明者らは、鋭意検討の結果、ステップS13での表面改質処理条件、および、前記ステップS14での加熱条件(温度、時間)、もしくは後述する加熱炉による加熱条件(温度、時間)を制御することにより、マイクロ流路チップの流路内の素材表面の接触角を任意に制御可能であることを見出した。特に、ステップS14の加熱条件の制御が重要であることが分かった。本開示では、PDMSの加熱条件によって任意の接触角コントロールを実現している。
【0067】
<接触角の測定方法>
接触角の測定方法はシリンジに水を充填させ接触角計に装着する。測定までの待ち時間[msec]、測定時間間隔[msec]、連続測定回数[回]などのパラメータを設定する。シリンジから試料表面に水を滴下し、画像撮像と液滴の接触角が測定される。静的接触角の測定方法は液滴法を採用している。液滴法とは、液滴が球の一部であることを前提とし、着滴後の液滴の半径rと高さhから接触角θを求める方法である。
【0068】
通常の接触角測定で使用する液量は1~2μLが一般的であるが、その液量では1mm以上の径の液滴が固体表面上に形成される。マイクロ流路チップにおいては測定領域が数マイクロレベルの微小領域であることが多く、通常の接触角計ではなく、ピコリットルオーダーの液滴を滴下し、微小領域の濡れ挙動の評価が可能な装置を用いることが好ましい。例えば、ピエゾ滴定装置を使用してピコリットル単位の液滴を作成し、対物レンズ付き高倍率カメラを使用することで微小液滴の測定が可能となる。また、微小液滴は非常に速く蒸発するため、高速度カメラを用いるとより好ましい。
【0069】
次に、実施例において用いる、床材層11となる第1感光性樹脂および隔壁層12となる第2感光性樹脂の主な組合せと形成方法を述べる。
【0070】
<組合せ1>
第1感光性樹脂と第2感光性樹脂の組み合わせの一例を表1に示す。床材層11として用いる第1感光性樹脂の組成(成分)はポリシロキサンおよびアクリルモノマーを含む。第1感光性樹脂の接触角θ1は100°である。隔壁層12として用いられる第2感光性樹脂の組成(成分)は、ポリシロキサンおよびアクリルモノマーを含む。第2感光性樹脂の接触角θ1は100°である。
【0071】
床材層11の形成(ステップS101)について説明する。基板10上へ第1感光性樹脂を塗工(ステップS1)する場合は、スピンコーティングを行い、塗工するときのウエハのコート回転数を700rpmとし10sec間行う。プリベーク処理(ステップS2)は、ウエハを90℃に加熱し60sec間行う。床材層11のパターンの露光(ステップS3)は、露光量を70mJ/cm2とする。床材層11パターンの現像(ステップS4)は、現像液に炭酸ナトリウム水溶液を用い、現像時間を90secとする。床材層11パターンの洗浄(ステップS5)は、水洗を60sec間行う。ポストベーク処理(ステップS6)は、230℃で30min間行う。
【0072】
隔壁層12の形成(ステップS102)について説明する。床材層11上へ第2感光性樹脂を塗工(ステップS7)する場合は、スピンコーティングを行い、コート回転角を500rpmとし10sec間行う。プリベーク処理(ステップS8)は、130℃で180sec間行う。流路パターンの露光(ステップS9)は、露光量を60mJ/cm2とする。流路パターンの現像(ステップ10)は、現像液に炭酸ナトリウム水溶液を用い、現像時間を180sec、水洗を60sec間行う。流路パターンの洗浄(ステップS11)は、水洗を60sec間行う。ポストベーク処理(ステップS12)は、230℃で30min間行う。
【0073】
【0074】
<組合せ2>
第1感光性樹脂と第2感光性樹脂の別の組み合わせの一例を表2に示す。床材層11として用いる第1感光性樹脂の組成(成分)は、アクリル樹脂およびエポキシ樹脂を含む。第1感光性樹脂の接触角θ1は60°である。隔壁層12として用いられる第2感光性樹脂の組成(成分)は、ポリシロキサンおよびアクリルモノマーを含む。第2感光性樹脂の接触角は100°である。
【0075】
床材層11の形成(ステップS101)の条件、隔壁層12の形成の条件(ステップS102)は、表1の場合と同じである。
【0076】
【0077】
<組合せ3>
第1感光性樹脂と第2感光性樹脂の別の組み合わせの一例を表3に示す。床材層11として用いる第1感光性樹脂の組成(成分)は、ポリシロキサンおよびアクリルモノマーを含む。第1感光性樹脂の接触角θ1は100°である。隔壁層12として用いられる第2感光性樹脂の組成(成分)は、アクリル樹脂およびアクリルモノマーを含む。第2感光性樹脂の接触角θ1は70°である。
【0078】
床材層11の形成(ステップS101)について説明する。基板上へ第1感光性樹脂を塗工(
図2におけるステップS1)する場合は、スピンコーティングにより行い、塗工するときのウエハのコート回転数を1100rpmとし30sec間行う。プリベーク処理(
図2におけるステップS2)は、ウエハを90℃に加熱し90sec間行う。床材層11のパターンの露光(
図2におけるステップS3)は、露光量を100mJ/cm
2とする。床材層11パターンの現像(
図2におけるステップS4)は、炭酸ナトリウムの現像液を用い、現像時間を180secとする。床材層11パターンの洗浄(
図2におけるステップS5)は、水洗を60sec間行う。ポストベーク処理(
図2におけるステップS6)は、230℃で30min間行う。
【0079】
隔壁層12の形成(ステップS102)の条件は、表1の場合と同じである。
【0080】
【0081】
<組合せ4>
第1感光性樹脂と第2感光性樹脂の別の組み合わせの一例を表4に示す。床材層11として用いる第1感光性樹脂の組成(成分)はアクリル樹脂およびエポキシ樹脂を含む。第1感光性樹脂の接触角θ1は60°である。隔壁層12として用いられる第2感光性樹脂の組成(成分)は、アクリル樹脂およびアクリルモノマーを含む。第2感光性樹脂の接触角θ1は70°である。
【0082】
床材層11の形成(ステップS101)の条件、隔壁層12の形成の条件(ステップS102)は、表1の場合と同じである。
【0083】
【0084】
(実施例1)
実施例1では、床材層には表1の第1感光性樹脂を用い、隔壁層と上蓋層に相当する部材にはPDMSを用いてマイクロ流路チップを作製した。
図3Aは、実施例1の製造方法を示すフローチャートである。ここで、床材層の形成ステップS101aは、
図2のステップS101に対応する。以下、本開示において
図1や
図2の構成やステップについて同様の対応関係を有するものは説明を簡略または省略することがある。
【0085】
ステップS102aは、金型により隔壁層と上蓋層を一体的に成形する点でステップS102と異なる。まず、2成分ポッティング用液状シリコーンゴムTSE3032(A)100gと2成分ポッティング用液状シリコーンゴムTSE3032(B)10g(共にMOMENTIVE社製)を量り取り、撹拌機を用いて500rpm、15minで撹拌した。その後、流路パターンが切削された金型に当該シリコーンゴムを流し込み、オーブンで150℃、30min加熱して硬化させた。
【0086】
ステップ13aにおいて、床材層の貼合面と金型で成形された成形部材の貼合面にUV照射をした。UV照射量は1000mJ/cm2である。なお、UV照射後、床材層の接触角θ2は30°まで低下し、また、隔壁層と蓋材を兼ねたPDMSの接触角θ2は60°まで低下したことを確認した。
【0087】
ステップS14aは、隔壁層と一体成型した上蓋層を蓋材(以下、「隔壁層を兼ねる蓋材」という。)1213として基板側と接合する点でステップS14と異なる。ステップS14aにおいて、貼合面同士を貼り合わせた状態で、ホットプレートで200℃、10min加熱することで隔壁層を兼ねる蓋材1213を貼合した。
【0088】
図3Bは、実施例1で製造したマイクロ流路チップについて、
図1BのA-A断面図に対応する断面図である。また、
図3Cは、実施例1で製造したマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。なお、
図1CのB-B断面図に対応する断面図については、
図3Bの構成と同様の構成であるため、省略する。
【0089】
基板10aの表面には、床材層11aが形成されている。隔壁層を兼ねる蓋材1213は、流路部3を囲むように床材層11aに接合している。なお、GC/MS分析(ガスクロマトグラフィ質量分析)により、隔壁層を兼ねる蓋材1213の表面および床材層11aの表面にシロキサン重合体を含有する層14aが形成されていることが確認された。床材層11aの接触角θ3は90°、隔壁層を兼ねる蓋材1213の接触角θ3は90°であった。
【0090】
なお、GC/MS分析により、床材層11aと隔壁層を兼ねる蓋材1213のいずれに形成されたシロキサン重合体を含有する層14aにも、シロキサン重合体のD3~D20が含有されていたことを確認した(後述の表6を参照)。
【0091】
また、
図3Cには、薬剤15と試験液16の反応評価を行う様子が示されている。
図3Cにおいて、出口4から予め薬剤15をいれておき、入口2から試験液16を注入し、空気で試験液を出口付近まで押し込んでいる。
この状態の後、薬剤15と試験液16の反応を進めるため、温度50℃、湿度80%のインキュベーターにマイクロ流路チップを入れ1時間放置する。1時間後にマイクロ流路チップを取り出し観察したところ、液滴は出口付近に留まった状態が保持され、流路の分岐部18まで液滴が逆流することはなかった。
以上から、それぞれの薬剤との反応液がコンタミネーションすることなく試験液と薬剤2種類との反応評価を実施することができた。
【0092】
(実施例2)
実施例2は、床材層と隔壁層に、表1に示される第1感光性樹脂と第2感光性樹脂を用いる。上蓋層にはPDMSを用いる。これ以外は実施例1と同様の条件でマイクロ流路チップを作製した。
図4Aは、実施例2の製造方法を示すフローチャートである。
【0093】
ステップ13bにおいて、UV照射後、床材層の接触角θ2は30°まで低下し、また、隔壁層の接触角θ2は40°まで低下したことを確認した。
【0094】
ステップS14bにおいて、貼合面同士を貼り合わせた状態で、ホットプレートで200℃、10min加熱することで上蓋層を貼合した。
【0095】
図4Bは、実施例2で製造したマイクロ流路チップについて、
図1BのA-A断面図に対応する断面図である。また、
図4Cは、実施例2で製造したマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。なお、
図1CのB-B断面図に対応する断面図については、
図4Bの構成と同様の構成であるため、省略する。
【0096】
基板10bの表面には、床材層11bが形成されている。隔壁層12bによって流路3が区画される、上蓋層13bは、流路部3を囲むように隔壁層12bと接合している。なお、GC/MS分析(ガスクロマトグラフィ質量分析)により、床材層11b、隔壁層12b、上蓋層13bの表面にシロキサン重合体を含有する層14bが形成されていることが確認された。床材層11bの接触角θ3は100°、隔壁層12bの接触角は90°、上蓋層13bの接触角は130°であった。
【0097】
なお、GC/MS分析により、床材層11bと隔壁層12bと上蓋層13bのいずれに形成されたシロキサン重合体を含有する層14bにも、シロキサン重合体のD3~D20が含有されていたことを確認した(後述の表6を参照)。
【0098】
また、
図4Cには、薬剤15と試験液16の反応評価を行う様子が示されている。
図4Cにおいて、出口4から予め薬剤15をいれておき、入口2から試験液16を注入し、空気で試験液16を出口付近まで押し込んでいる。
この状態の後、薬剤15と試験液16の反応を進めるため、温度50℃、湿度80%のインキュベーターにマイクロ流路チップを入れ1時間放置する。1時間後にマイクロ流路チップを取り出し観察したところ、液滴は出口付近に留まった状態が保持され、流路の分岐部18まで液滴が逆流することはなかった。
以上から、それぞれの薬剤との反応液がコンタミネーションすることなく試験液と薬剤2種類との反応評価を実施することができた。
【0099】
(実施例3)
実施例3は、床材層と隔壁層に、表1に示される第1感光性樹脂と第2感光性樹脂を用いる。上蓋層にはアクリル樹脂を用いる。
図5Aは、実施例3の製造方法を示すフローチャートである。実施例3は、シロキサン雰囲気に静置する工程(ステップS103c)を含む。これ以外は実施例1と同様の条件でマイクロ流路チップを作製した。
【0100】
ステップ13cにおいて、UV照射後、床材層の接触角θ2は30°まで低下し、また、隔壁層の接触角θ2は40°まで低下したことを確認した。
【0101】
ステップ103cにおいて、PDMSを加熱炉内で200℃に加熱し5min静置した後、床材層と隔壁層が形成された基板を加熱炉内に10min静置した。なお、床材層などを静置する時間はこれに限られない。たとえば5min以上とすることも可能である。
【0102】
ステップS14cにおいて、貼合面同士を貼り合わせた状態で、ホットプレートで200℃、10min加熱することで上蓋層を貼合した。
【0103】
図5Bは、実施例3で製造したマイクロ流路チップについて、
図1BのA-A断面図に対応する断面図である。また、
図5Cは、実施例3で製造したマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。なお、
図1CのB-B断面図に対応する断面図については、
図5Bの構成と同様の構成であるため、省略する。
【0104】
基板10cの表面には、床材層11cが形成されている。隔壁層12cによって流路部3が区画される、上蓋層13cは、流路部3を囲むように隔壁層12cと接合している。なお、GC/MS分析(ガスクロマトグラフィ質量分析)により、床材層11cおよび隔壁層12c表面にシロキサン重合体を含有する層14cが形成されていることが確認された。床材層11cの接触角θ3は110°、隔壁層12cの接触角θ3は90°、上蓋層13cの接触角θ3は40°であった。
【0105】
なお、GC/MS分析により、床材層11cと隔壁層12cのいずれに形成されたシロキサン重合体を含有する層14cにも、シロキサン重合体のD3~D20が含有されていたことを確認した(後述の表6を参照)。
【0106】
また、
図5Cには、薬剤15と試験液16の反応評価を行う様子が示されている。
図5Cにおいて、出口4から予め薬剤15をいれておき、入口2から試験液16を注入し、空気で試験液16を出口付近まで押し込んでいる。
この状態の後、薬剤15と試験液16の反応を進めるため、温度50℃、湿度80%のインキュベーターにマイクロ流路チップを入れ1時間放置する。1時間後にマイクロ流路チップを取り出し観察したところ、液滴は出口付近に留まった状態が保持され、流路の分岐部18まで液滴が逆流することはなかった。
以上から、それぞれの薬剤との反応液がコンタミネーションすることなく試験液と薬剤2種類との反応評価を実施することができた。
【0107】
(実施例4)
実施例4は、床材層と隔壁層に、表2に示される第1感光性樹脂と第2感光性樹脂を用いる。上蓋層にはPDMSを用いる。これ以外は実施例1と同様の条件でマイクロ流路チップを作製した。
図6Aは、実施例4の製造方法を示すフローチャートである。
【0108】
図6Bは、実施例4で製造したマイクロ流路チップについて、
図1BのA-A断面図に対応する断面図である。また、
図6Cは、実施例4で製造したマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。なお、
図1CのB-B断面図に対応する断面図については、
図6Bの構成と同様の構成であるため、省略する。
【0109】
基板10dの表面には、床材層11dが形成されている。隔壁層12dによって流路部3が区画される、上蓋層13dは、流路部3を囲むように隔壁層12bと接合している。なお、GC/MS分析(ガスクロマトグラフィ質量分析)により、隔壁層12dおよび上蓋層13dの表面にシロキサン重合体を含有する層14dが形成されていることが確認された。床材層11dの接触角θ3は60°、隔壁層12dの接触角は90°、上蓋層13dの接触角は110°であった。
【0110】
なお、GC/MS分析により、隔壁層12dと上蓋層13dのいずれに形成されたシロキサン重合体を含有する層14dにも、シロキサン重合体のD3~D20が含有されていたことを確認した(後述の表6を参照)。
【0111】
また、
図6Cには、薬剤15と試験液16の反応評価を行う様子が示されている。
図8Cにおいて、出口4から予め薬剤15をいれておき、入口2から試験液16を注入し、空気で試験液16を出口付近まで押し込んでいる。
この状態の後、薬剤15と試験液16の反応を進めるため、温度50℃、湿度80%のインキュベーターにマイクロ流路チップを入れ1時間放置する。1時間後にマイクロ流路チップを取り出し観察したところ、液滴は出口付近に留まった状態が保持され、流路の分岐部18まで液滴が逆流することはなかった。
以上から、それぞれの薬剤との反応液がコンタミネーションすることなく試験液と薬剤2種類との反応評価を実施することができた。
【0112】
(実施例5)
実施例5は、床材層と隔壁層に、表3に示される第1感光性樹脂と第2感光性樹脂を用いる。上蓋層にはPDMSを用いる。
図7Aは、実施例5の製造方法を示すフローチャートである。実施例5は、シロキサン雰囲気に静置する工程(ステップS103e)を含む。これ以外は実施例1と同様の条件でマイクロ流路チップを作製した。
【0113】
ステップ103eにおいて、PDMSを加熱炉内で200℃に加熱し5min静置した後、床材層が形成された基板を加熱炉内に10min静置した。
【0114】
図7Bは、実施例5で製造したマイクロ流路チップについて、
図1BのA-A断面図に対応する断面図である。
図7Bは、実施例5で製造したマイクロ流路チップについて、
図1BのA-A断面図に対応する断面図である。また、
図7Cは、実施例5で製造したマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。なお、
図1CのB-B断面図に対応する断面図については、
図7Bの構成と同様の構成であるため、省略する。
【0115】
基板10eの表面には、床材層11eが形成されている。隔壁層12eによって流路部3が区画される、上蓋層13eは、流部路3を囲むように隔壁層12eと接合している。なお、GC/MS分析(ガスクロマトグラフィ質量分析)により、床材層11eおよび上蓋層13eの表面にシロキサン重合体を含有する層14eが形成されていることが確認された。床材層11eの接触角θ3は100°、隔壁層12eの接触角θ3は70°、上蓋層13eの接触角θ3は110°であった。
【0116】
なお、GC/MS分析により、床材層11eと上蓋層13eのいずれに形成されたシロキサン重合体を含有する層14eにも、シロキサン重合体のD3~D20が含有されていたことを確認した(後述の表6を参照)。
【0117】
また、
図7Cには、薬剤15と試験液16の反応評価を行う様子が示されている。
図7Cにおいて、出口4から予め薬剤15をいれておき、入口2から試験液16を注入し、空気で試験液16を出口付近まで押し込んでいる。
この状態の後、薬剤15と試験液16の反応を進めるため、温度50℃、湿度80%のインキュベーターにマイクロ流路チップを入れ1時間放置する。1時間後にマイクロ流路チップを取り出し観察したところ、液滴は出口付近に留まった状態が保持され、流路の分岐部18まで液滴が逆流することはなかった。
以上から、それぞれの薬剤との反応液がコンタミネーションすることなく試験液と薬剤2種類との反応評価を実施することができた
【0118】
(実施例6)
実施例6は、床材層と隔壁層に、表3に示される第1感光性樹脂と第2感光性樹脂を用いる。上蓋層にはアクリル樹脂を用いる。
図8Aは、実施例6の製造方法を示すフローチャートである。実施例6は、シロキサン雰囲気に静置する工程(ステップS103f)を含む。また上蓋層の接合(ステップS14f)について、ホットプレートによる加熱条件を50℃、10minとした。これ以外は実施例1と同様の条件でマイクロ流路チップを作製した。
【0119】
ステップ103fにおいて、PDMSを加熱炉内で200℃に加熱し5min静置した後、床材層が形成された基板を加熱炉内に10min静置した。
【0120】
図8Bは、実施例6で製造したマイクロ流路チップについて、
図1BのA-A断面図に対応する断面図である。また、
図8Cは、実施例6で製造したマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。なお、
図1CのB-B断面図に対応する断面図については、
図8Bの構成と同様の構成であるため、省略する。
【0121】
基板10fの表面には、床材層11fが形成されている。隔壁層12fによって流路部3が区画される、上蓋層13fは、流路部3を囲むように隔壁層12fと接合している。なお、GC/MS分析(ガスクロマトグラフィ質量分析)により、床材層11fの表面にシロキサン重合体を含有する層14fが形成されていることが確認された。12f床材層11fの接触角θ3は100°、隔壁層12fの接触角θ3は70°、上蓋層13fの接触角θ3は40°であった。
【0122】
なお、GC/MS分析により、床材層11fに形成されたシロキサン重合体を含有する層14fに、シロキサン重合体のD3~D20が含有されていたことを確認した(後述の表6を参照)。
【0123】
また、
図8Cには、薬剤15と試験液16の反応評価を行う様子が示されている。
図8Cにおいて、出口4から予め薬剤15をいれておき、入口2から試験液を注入し、空気で試験液を出口付近まで押し込んでいる。
この状態の後、薬剤15と試験液16の反応を進めるため、温度50℃、湿度80%のインキュベーターにマイクロ流路チップを入れ1時間放置する。1時間後にマイクロ流路チップを取り出し観察したところ、液滴は出口付近に留まった状態が保持され、流路の分岐部18まで液滴が逆流することはなかった。
以上から、それぞれの薬剤との反応液がコンタミネーションすることなく試験液と薬剤2種類との反応評価を実施することができた
【0124】
(実施例7)
実施例7は、床材層と隔壁層に、表2に示される第1感光性樹脂と第2感光性樹脂を用いる。上蓋層にはアクリル樹脂を用いる。
図9Aは、実施例7の製造方法を示すフローチャートである。実施例7は、シロキサン雰囲気に静置する工程(ステップS103g)を含む。また上蓋層の接合(ステップS14g)について、ホットプレートによる加熱条件を50℃、10minとした。これ以外は実施例1と同様の条件でマイクロ流路チップを作製した。
【0125】
ステップ103gにおいて、PDMSを加熱炉内で200℃に加熱し5min静置した後、床材層と隔壁層が形成された基板を加熱炉内に10min静置した。
【0126】
図9Bは、実施例7で製造したマイクロ流路チップについて、
図1BのA-A断面図に対応する断面図である。また、
図9Bは、実施例7で製造したマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。なお、
図1CのB-B断面図に対応する断面図については、
図9Bの構成と同様の構成であるため、省略する。
【0127】
基板10gの表面には、床材層11gが形成されている。隔壁層12gによって流路部3が区画される、上蓋層13gは、流路部3を囲むように隔壁層12gと接合している。なお、GC/MS分析(ガスクロマトグラフィ質量分析)により、隔壁層12gの表面にシロキサン重合体を含有する層14gが形成されていることが確認された。床材層11gの接触角θ3は60°、隔壁層12gの接触角θ3は90°、上蓋層13gの接触角θ3は40°であった。
【0128】
なお、GC/MS分析により、隔壁層12gに形成されたシロキサン重合体を含有する層14gに、シロキサン重合体のD3~D20が含有されていたことを確認した(後述の表6を参照)。
【0129】
また、
図9Cには、薬剤15と試験液16の反応評価を行う様子が示されている。
図8Cにおいて、出口4から予め薬剤15をいれておき、入口2から試験液を注入し、空気で試験液を出口付近まで押し込んでいる。
この状態の後、薬剤15と試験液16の反応を進めるため、温度50℃、湿度80%のインキュベーターにマイクロ流路チップを入れ1時間放置する。1時間後にマイクロ流路チップを取り出し観察したところ、液滴は出口付近に留まった状態が保持され、流路の分岐部18まで液滴が逆流することはなかった。
以上から、それぞれの薬剤との反応液がコンタミネーションすることなく試験液と薬剤2種類との反応評価を実施することができた
【0130】
(実施例8)
実施例8は、床材層と隔壁層に、表4に示される第1感光性樹脂と第2感光性樹脂を用いる。上蓋層にはアクリル樹脂を用いる。
図10Aは、実施例8の製造方法を示すフローチャートである。実施例8は、シロキサン雰囲気に静置する工程(ステップS103h)を含む。また上蓋層の接合(ステップS14h)について、ホットプレートによる加熱条件を80℃、10minとした。これ以外は実施例1と同様の条件でマイクロ流路チップを作製した。
【0131】
ステップ103hにおいて、PDMSを加熱炉内で200℃に加熱し5min静置した後、上蓋層を加熱炉内に10min静置した。
【0132】
図10Bは、実施例8で製造したマイクロ流路チップについて、
図1BのA-A断面図に対応する断面図である。また、
図10Cは、実施例8で製造したマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。なお、
図1CのB-B断面図に対応する断面図については、
図10Bの構成と同様の構成であるため、省略する。
【0133】
基板10hの表面には、床材層11hが形成されている。隔壁層12hによって流路部3が区画される、上蓋層13hは、流路部3を囲むように隔壁層12hと接合している。なお、GC/MS分析(ガスクロマトグラフィ質量分析)により、上蓋層13hの表面にシロキサン重合体を含有する層14hが形成されていることが確認された。床材層11hの接触角θ3は60°、隔壁層12hの接触角θ3は70°、上蓋層13hの接触角θ3は90°であった。
【0134】
なお、GC/MS分析により、上蓋層13hに形成されたシロキサン重合体を含有する層14hに、シロキサン重合体のD3~D20が含有されていたことを確認した(後述の表6を参照)。
【0135】
また、
図10Cには、薬剤15と試験液16の反応評価を行う様子がされている。
図8Cにおいて、出口4から予め薬剤15をいれておき、入口2から試験液を注入し、空気で試験液を出口付近まで押し込んでいる。
この状態の後、薬剤15と試験液16の反応を進めるため、温度50℃、湿度80%のインキュベーターにマイクロ流路チップを入れ1時間放置する。1時間後にマイクロ流路チップを取り出し観察したところ、液滴は出口付近に留まった状態が保持され、流路の分岐部18まで液滴が逆流することはなかった。
以上から、それぞれの薬剤との反応液がコンタミネーションすることなく試験液と薬剤2種類との反応評価を実施することができた。
【0136】
(実施例9)
実施例9は、床材層と隔壁層に、表4に示される第1感光性樹脂と第2感光性樹脂を用いる。上蓋層にはガラスを用いる。
図11Aは、実施例9の製造方法を示すフローチャートである。実施例9は、シロキサン雰囲気に静置する工程(ステップS103i)を含む。また、上蓋層の接合(ステップS14i)について、ホットプレートによる加熱条件を120℃、10minとした。これ以外は実施例1と同様の条件でマイクロ流路チップを作製した。
【0137】
ステップ103iにおいて、PDMSを加熱炉内で200℃に加熱し5min静置した後、上蓋層を加熱炉内に10min静置した。
【0138】
図11Bは、実施例9で製造したマイクロ流路チップについて、
図1BのA-A断面図に対応する断面図である。また、
図11Cは、実施例9で製造したマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。なお、
図1CのB-B断面図に対応する断面図については、
図11Bの構成と同様の構成であるため、省略する。
【0139】
基板10iの表面には、床材層11iが形成されている。隔壁層12iによって流路部3が区画される、上蓋層13iは、流路部3を囲むように隔壁層12iと接合している。なお、GC/MS分析(ガスクロマトグラフィ質量分析)により、隔壁層12iおよび上蓋層13iの表面にシロキサン重合体を含有する層14iが形成されていることが確認された。床材層11iの接触角θ3は60°、隔壁層12iの接触角θ3は70°、上蓋層13iの接触角θ3は100°であった。
【0140】
なお、GC/MS分析により、上蓋層13iに形成されたシロキサン重合体を含有する層14iに、シロキサン重合体のD3~D20が含有されていたことを確認した(後述の表6を参照)。
【0141】
また、
図11Cには、薬剤15と試験液16の反応評価を行う様子がされている。
図11Cにおいて、出口4から予め薬剤15をいれておき、入口2から試験液を注入し、空気で試験液を出口付近まで押し込んでいる。
この状態の後、薬剤15と試験液16の反応を進めるため、温度50℃、湿度80%のインキュベーターにマイクロ流路チップを入れ1時間放置する。1時間後にマイクロ流路チップを取り出し観察したところ、液滴は出口付近に留まった状態が保持され、流路の分岐部18まで液滴が逆流することはなかった。
以上から、それぞれの薬剤との反応液がコンタミネーションすることなく試験液と薬剤2種類との反応評価を実施することができた 。
【0142】
(比較例1)
比較例1は、床材層と隔壁層に、表4に示される第1感光性樹脂と第2感光性樹脂を用いる。上蓋層にはアクリル樹脂を用いる。
図12Aは、比較例1の製造方法を示すフローチャートである。比較例1は、上蓋層の接合(ステップS14j)について、ホットプレートによる加熱条件を80℃、10minとした。これ以外は実施例1と同様の条件でマイクロ流路チップを作製した。
図12Aに示される製造方法は、
図2に示される製造方法と同様の工程から構成される。
【0143】
図12Bは、比較例1で製造したマイクロ流路チップについて、
図1BのA-A断面図に対応する断面図である。また、
図12Cは、比較例1で製造したマイクロ流路チップについて、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。なお、
図1CのB-B断面図に対応する断面図については、
図12Bの構成と同様の構成であるため、省略する。
【0144】
基板10jの表面には、床材層11jが形成されている。隔壁層12jによって流路部3が区画される、上蓋層13jは、流路部3を囲むように隔壁層12jと接合している。なお、GC/MS分析(ガスクロマトグラフィ質量分析)により、床材層11j、隔壁層12j、上蓋層13jのいずれの表面にもシロキサン重合体を含有する層14jは形成されていなかった。床材層11jの接触角θ3は60°、隔壁層12jの接触角θ3は70°、上蓋層13jの接触角θ3は40°であった。
【0145】
また、
図12Cには、薬剤15と試験液16の反応評価を行う様子が示されている。
図8Cにおいて、出口4から予め薬剤15をいれておき、入口2から試験液を注入し、空気で試験液を出口付近まで押し込んでいる。
この状態の後、薬剤15と試験液16の反応を進めるため、温度50℃、湿度80%のインキュベーターにマイクロ流路チップを入れ1時間放置する。1時間後にマイクロ流路チップを取り出し観察したところ、液滴は入口まで逆流しており、それぞれの薬剤との反応液がコンタミネーションを起こすことを確認した。
【0146】
<評価結果>
表5は、実施例1から比較例1までの製造条件および評価結果を示す。表5において、床材層、隔壁層、上蓋層の材料の組成/成分、製造工程のうちシロキサンガス雰囲気に静置した対象および蓋材の接合条件、接触角(上蓋層の接合後の接触角θ3)、検出された重合体、検出重合体、評価結果を示す。評価方法は各実施例、比較例に記載された内容である。また観察した結果に基づいて、次の評価基準により「〇」、「×」の2段階でマイクロ流路チップ内での分岐した反応液同士のコンタミネーションを評価した。
<評価基準>
〇:出口4付近に留まった反応液が流路の分岐部18まで逆流せず、反応液同士のコンタミネーションが生じなかった
×:出口4付近に留まった反応液が流路の分岐部18まで逆流し、反応液同士のコンタミネーションが生じた
【0147】
【0148】
表6は、シロキサン重合体を含有する層14に含まれるシロキサン重合体の種類と加熱上条件の関係を示す。加熱条件は、蓋材を貼合するとき、または加熱炉のシロキサン雰囲気に静置するときの温度と時間を表す。ここで、n量体の低分子シロキサン重合体をDnと略記する。
【0149】
【0150】
このように、マイクロ流路チップのいずれかの構成要素の表面において、接触角が90度以上130度以下のシロキサン重合体を含有する層(疎水領域)が形成される場合、マイクロ流路チップ内で反応液の逆流を防止することができ、反応液同士のコンタミネーションを防ぐことができた。
【0151】
[第二実施形態]
<マイクロ流路チップの基本構成>
第二実施形態においては、マイクロ流路チップの床材層に疎水性と親水性の2種類の領域を形成した点で第一実施形態と基本的に異なる。以下の説明では第一実施形態と異なる構成を中心に説明し、第一実施形態と同様の構成に関してはその説明を簡略または省略する。
【0152】
図13は、第二実施形態におけるマイクロ流路チップ101について、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。マイクロ流路チップ101は、入力部2から分岐部18までは床材層11kが基板10k上に形成されている。さらに分岐部18から出力部4に向かう途中部19まで床材層11kが設けられているが、途中部19から出力部4までは床材層11kが設けられておらず、基板10kが露出した構成となっている。
図13に示されるように、上蓋層13kおよび床材層11kのいずれにもシロキサン重合体を含有する層14kが形成されているが、基板10kが露出した領域は親水性を示した。一方、床材層11kの形成されている領域は疎水性を示した。
このように、第二実施形態のマイクロ流路チップ101は、基板10k上の床材層11kをパターニングすることによって、出力部4に近接する領域に疎水領域と異なる親水領域を設けることを特徴とする。
【0153】
[第二実施形態の変形例]
図14は、第二実施形態の変形例に係るマイクロ流路チップ101について、
図1DのC-C断面図に対応する断面図である。マイクロ流路チップ101は、入力部2から分岐部18まで、かつ分岐部18から出力部4に向かう途中部19までは床材層11lが設けられておらず、基板10lが露出しており、途中部19から出力部4までは床材層11lが設けられている点で第二実施形態と異なる。
図14に示されるように、上蓋層13lおよび床材層11lのいずれにもシロキサン重合体を含有する層14lが形成されているが、床材層11lの形成されている領域は親水性を示した。一方基板10lが露出した領域は疎水性を示した。後述するように基板10lにはシリコンコート211が施されている。このように、第二実施形態の変形例に係るマイクロ流路チップ101は、シリコンコート211が施された基板10l上の床材層11lをパターニングすることによって、出力部4に近接する領域に疎水領域と異なる親水領域を設けることを特徴とする。
【0154】
<製造方法>
第二実施形態または変形例に係るマイクロ流路チップ101の製造方法は、第一実施形態における製造方法と同様であるが、床材層の形成(ステップ101)において、疎水領域と親水領域の異なる種類の領域に対応するパターンを形成する点で異なる。以下の説明において、必要に応じて第一実施形態の製造方法に対応するステップを参照し、第1実施形態と同様の工程は同一の符号を用い説明を簡略または省略することとする。
【0155】
[第二実施形態または変形例の実施例]
第二実施形態または変形例に係るマイクロ流路チップについて、具体的な実施例を用いて説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0156】
実施例において用いる、床材層として用いる第1感光性樹脂および隔壁層として用いる第2感光性樹脂について述べる。表7の第1感光性樹脂はポリシロキサンおよびアクリルモノマーを含み、接触角θ1は100°である。表8の第1感光性樹脂はシランカップリング剤およびアクリルモノマーを含み、接触角θ1は60°である。表9の第1感光性樹脂はアクリルポリマーおよびアクリルモノマーを含み、接触角θ1は100°である。表10の第1感光性樹脂はアクリル樹脂およびエポキシ樹脂を含み、接触角θ1は60°である。
第2感光性樹脂は表11に示され、アクリル樹脂およびアクリルモノマーを含み、接触角θ1は70°である。
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
【0161】
【0162】
(実施例10)
第二実施形態の実施例10は、床材層には表7の第1感光性樹脂を用い、隔壁層には表11の第2感光性樹脂を用いる。上蓋層はPDMSを用いてマイクロ流路チップを作製した。
【0163】
まず、ガラス基板上へ透明体の第1感光性樹脂を塗工して、床材層を形成した(ステップS1)。第1感光性樹脂は、スピンコーターにて回転数1100rpm、30秒でガラス基板上に塗工した。膜厚は2μmになるように回転数、時間を調整した。次に、ホットプレート上にて感光性樹脂内に含まれる残留溶媒を除去する目的で加熱処理(プリベーク)を行った(ステップS2)。プリベークは、温度90℃で90秒実施した。
【0164】
次に、ガラス基板上の感光性樹脂層を露光した(ステップS3)。具体的には、マイクロ流路内で疎水領域、親水領域を設けるためのパターンを有するフォトマスクを介して、感光性樹脂へパターン露光した。フォトマスクはクロムおよび酸化クロムの二層構造を遮光膜とするフォトマスクを使用した。露光には、プロキシミティ露光装置を用いた。露光装置は高圧水銀灯を光源とし、露光波長はg、h、i線を含むブロードバンドとした。露光量は100mJ/cm2とした。
【0165】
次に、露光した感光性樹脂層に対して現像を行い、パターンを形成した(ステップS4)。具体的には、炭酸ナトリウム現像液を用いて感光性樹脂層を180秒間現像することにより、未露光部分を溶解し、パターニングした。
続いて、超純水によるシャワー洗浄を行い、基板上の感光性樹脂層から現像液を除去し、スピンドライヤにて乾燥を行った(ステップS5)。
【0166】
次に、オーブンで230℃、30分、加熱処理(ポストベーク)した(ステップS6)。これにより、基板上に疎水領域、親水領域に相当する床材層のパターンが形成された。
【0167】
次に、基板および床材層上に透明体の第2感光性樹脂を塗工して、隔壁層を形成した。まず、第2感光性樹脂は、スピンコーターにて回転数500rpm、10秒でガラス基板および床材層上に塗工した(ステップS7)。膜厚は50μmになるように回転数、時間を調整した。次に、ホットプレート上にて感光性樹脂内に含まれる残留溶媒を除去する目的で加熱処理(プリベーク)を行った(ステップS8)。プリベークは、温度130℃で180秒実施した。
【0168】
次に、ガラス基板および床材層上の感光性樹脂層を露光した(ステップS9)。具体的には、流路パターンを有するフォトマスクを介して、感光性樹脂へパターン露光した。フォトマスクはクロムおよび酸化クロムの二層構造を遮光膜とするフォトマスクを使用した。露光には、プロキシミティ露光装置を用いた。露光装置は高圧水銀灯を光源とし、露光波長はg、h、i線を含むブロードバンドとした。露光量は60mJ/cm2とした。
【0169】
次に、露光した感光性樹脂層に対して現像を行い、流路パターンを形成した(ステップS10)。具体的には、炭酸ナトリウム現像液を用いて感光性樹脂層を180秒間現像することにより、未露光部分を溶解し、パターニングした。
続いて、超純水によるシャワー洗浄を行い、基板上の感光性樹脂層から現像液を除去し、スピンドライヤにて乾燥を行った(ステップS11)。
【0170】
次に、オーブンで230℃、30分、加熱処理(ポストベーク)した(ステップS12)。これにより、基板上に隔壁層で確定された流路部(流路パターン)が形成された。対向する隔壁層の最小幅、すなわち流路の最小幅は、50μmとした。
【0171】
流路パターン形成後に蓋材を貼合し、マイクロ流路チップを作製した。蓋材はPDMSを使用し、貼合前に流路パターンの隔壁層およびPDMSの貼合面の双方にUV照射した(ステップS13)。UV照射量は1000mJ/cm2とした。その後、貼合面同士を貼り合わせた状態で、ホットプレートで200℃、10min加熱することで蓋材を貼合した(ステップS14)。これによりマイクロ流路チップ101を得た。
【0172】
GC/MS分析により、この時の床材表面と蓋材表面の両方において、低分子シロキサンD3~D20を含有する、シロキサン重合体を含有する層が形成されていたことを確認した。
【0173】
また、実施例10におけるマイクロ流路チップ101において、流路3内部の接触角を、マイクロ滴定接触角計DSM100M(KRUSS社製)を用いて測定した。
図13に示した、床材層11kが形成された領域(疎水領域)の接触角θ3は110°で、床材層11kが形成されていないガラス基板領域(親水領域)の接触θ3角は70°であり、2種類の接触角が異なる疎水領域と親水領域が形成されていることを確認した。なお、隔壁層の接触角は70°で、蓋材の接触角は110°であった。
【0174】
なお、床材層11kを形成した時点の初期の床材層11kの接触角θ1は100°、ガラス基板の接触角θ1は20°、表面改質後の床材層11kの接触角θ2は60°、ガラス基板の接触角θ2は5°、であった。
【0175】
(実施例11)
第二実施形態の実施例11は、床材層に表7の第1感光性樹脂を用い、隔壁層には表11の第2感光性樹脂を用いる。上蓋層はPDMSを用いてマイクロ流路チップを作成した。
実施例11は、上蓋層の接合(ステップS14)について、ホットプレートによる加熱条件を150℃、5minとした。これ以外は、実施例10と同様の条件でマイクロ流路チップを作成した。
GC/MS分析により、この時の床材表面と蓋材表面の両方において、低分子シロキサンD3~D20を含有する、シロキサン重合体を含有する層が形成されていたことを確認した。また、
図13の床材層11kが形成された領域(疎水領域)の接触角θ3は100°で、床材層11kが形成されていないガラス基板領域(親水領域)の接触角θ3は20°であった。
【0176】
なお、床材層11kを形成した時点の初期の床材層11kの接触角θ1は100°、ガラス基板の接触角θ1は20°、表面改質後の床材層11kの接触角θ2は60°、ガラス基板領域の接触角θ2は5°、であった。
【0177】
(実施例12)
第二実施形態の実施例12は、床材層に表8の第1感光性樹脂を用い、隔壁層には表11の第2感光性樹脂を用いる。上蓋層にはPDMSを用いる。これ以外は、実施例10と同様の条件でマイクロ流路チップを作製した。
GC/MS分析により、この時の床材表面と蓋材表面の両方において、低分子シロキサンD3~D20を含有する、シロキサン重合体を含有する層が形成されていたことを確認した。また、
図13の床材層11kが形成された領域(疎水領域)の接触角θ3は95°で、床材層11kが形成されていないガラス基板領域(親水領域)の接触角θ3は70°であった。
【0178】
なお、床材層を形成した時点の初期の床材層11kの領域の接触角θ1は60°、ガラス基板領域の接触角θ1は20°、表面改質後の床材層11kの領域の接触角θ2は25°、ガラス基板領域の接触角θ2は5°、であった。
【0179】
(実施例13)
第二実施形態の変形例に係る実施例13は、床材層に表8の第1感光性樹脂および隔壁層に表11の第2感光性樹脂を用いる。上蓋層にはPDMSを用いる。
【0180】
ガラス基板10lには、表面がシリコンコート211されたものを用いた。また上蓋層13lの接合工程(ステップS14)において、ホットプレートによる加熱条件を100℃、10minとした。これ以外は、実施例10と同様の条件でマイクロ流路チップを作製した。
【0181】
GC/MS分析により、この時の床材表面と蓋材表面の両方において、低分子シロキサンD4~D10を含有する、シロキサン重合体を含有する層が形成されていたことを確認した。また、
図14の床材層11lが形成されていないシリコンコート211されたガラス基板領域(疎水領域)の接触角θ3は90°で、床材層11lが形成された領域(親水領域)の接触角θ3は55°であった。
【0182】
なお、床材層11lを形成した時点の初期の床材層11lの領域の接触角θ1は20°、ガラス基板領域の接触角θ1は95°、表面改質後の床材層11lの領域の接触角θ2は25°、ガラス基板の接触角θ2は80°、であった。
【0183】
(実施例14)
第二実施形態の実施例14は、床材層に表7の第1感光性樹脂および隔壁層に表11の第2感光性樹脂を用いる。上蓋層にはPMMAを用いる。PMMAの接触角θ1は80°であった。
【0184】
実施例14は、シロキサン雰囲気に静置する工程を含む。また、上蓋層13kの接合(ステップS14)について、ホットプレートによる加熱条件を40℃、5minとした。PMMAは高温条件で接合すると、基材の反りが顕著になるため、低温、短時間にて接合した。これ以外は、実施例10と同様の条件でマイクロ流路チップを作製した。
【0185】
シロキサン雰囲気に静置する工程において、加熱炉内でPDMSを200℃、10min静置し、加熱炉内を低分子シロキサン雰囲気下にした状態で、流路パターンが形成されたガラス基板を低分子シロキサン雰囲気下に晒した。
【0186】
GC/MS分析により、この時の床材表面と蓋材表面の両方において、低分子シロキサンD4~D20を含有する、シロキサン重合体を含有する層が形成されていたことを確認した。また、
図13の床材層11kが形成された領域(疎水領域)の接触角θ3は110°で、床材層11kが形成されていないガラス基板領域(親水領域)の接触角θ3は70°であった。
【0187】
なお、床材層11kを形成した時点の初期の床材層11kの領域の接触角θ1は100°、ガラス基板の接触角θ1は20°、表面改質後の床材層11kの領域の接触角θ2は60°、ガラス基板の接触角θ2は5°、であった。
【0188】
(実施例15)
第二実施形態の変形例に係る実施例15は、床材層に表10の第1感光性樹脂および隔壁層に表11の第2感光性樹脂を用いる。上蓋層にはPDMSを用いる。
【0189】
ガラス基板10lには、表面がシリコンコート211されたものを用いた。また上蓋層の接合工程(ステップS14)において、ホットプレートによる加熱条件を150℃、5minとした。これ以外は、実施例10と同様の条件でマイクロ流路チップを作製した。
【0190】
図14の床材層11lが形成されていないシリコンコート211されたガラス基板領域(疎水領域)の接触角θ3は95°で、床材層11lが形成された領域(親水領域)の接触角θ3は60°であった。
【0191】
なお、床材層11lを形成した時点の初期の床材層11lの領域の接触角θ1は60°であった。
【0192】
(比較例2)
比較例2は、床材層に表7の第1感光性樹脂および隔壁層に表11の第2感光性樹脂を用いる。上蓋層にはPDMSを用いる。
比較例2は、上蓋層の接合工程(ステップS14)において、ホットプレートによる加熱条件を100℃、10minとした。これ以外は、実施例10と同様の条件でマイクロ流路チップを作製した。
【0193】
GC/MS分析により、この時の床材表面と蓋材表面の両方において、低分子シロキサンD4~D10を含有する、シロキサン重合体を含有する層が形成されていたことを確認した。また、床材層が形成された領域の接触角θ3は80°で、床材層が形成されていないガラス基板領域の接触角θ3は55°であった。
【0194】
なお、床材層について、床材層を形成した時点の初期の床材層の領域の接触角θ1は100°、ガラス基板の接触角θ1は20°、表面改質後の床材層の領域の接触角θ2は60°、ガラス基板の接触角θ2は5°、であった。
【0195】
(比較例3)
比較例3は、床材層に表8の第1感光性樹脂および隔壁層に表11の第2感光性樹脂を用いる。上蓋層にはPDMSを用いる。
比較例3は、上蓋層の接合工程(ステップS14において、ホットプレートによる加熱条件を100℃、10minとした。これ以外は、実施例12と同様の条件でマイクロ流路チップを作製した。
【0196】
GC/MS分析により、この時の床材表面と蓋材表面の両方において、低分子シロキサンD4~D10を含有する、シロキサン重合体を含有する層が形成されていたことを確認した。また、床材層が形成された領域の接触角θ3は70°で、床材層が形成されていないガラス基板領域の接触角θ3は55°であった。
【0197】
なお、床材層11kについて、床材層を形成した時点の初期の床材層11kの領域の接触角θ1は60°、ガラス基板の接触角θ1は20°、表面改質後の床材層11kの領域の接触角θ2は25°、ガラス基板の接触角θ2は5°、であった。
【0198】
(比較例4)
比較例4は、床材層に表7の第1感光性樹脂および隔壁層に表11の第2感光性樹脂を用いる。上蓋層はPMMAを含む合成樹脂を用いる。
比較例4は、シロキサン雰囲気に静置する工程を含む。これ以外は、実施例14と同様の条件でマイクロ流路チップを作製した。
【0199】
シロキサン雰囲気に静置する工程において、加熱炉内でPDMSを100℃、10min静置し、加熱炉内を低分子シロキサン雰囲気下にした状態で、流路パターンが形成されたガラス基板を低分子シロキサン雰囲気下に晒した。
【0200】
GC/MS分析により、この時の床材表面と蓋材表面の両方において、低分子シロキサンD4~D10を含有する、シロキサン重合体を含有する層が形成されていたことを確認した。また、床材層が形成された領域の接触角θ3は80°で、床材層が形成されていないガラス基板領域の接触角θ3は55°であった。
【0201】
なお、床材層を形成した時点の初期の床材層の領域の接触角θ1は100°、ガラス基板の接触角θ1は20°、表面改質後の床材層の領域の接触角θ2は60°、ガラス基板の接触角θ2は5°、であった。
【0202】
<評価結果>
実施例10~15および比較例2~4のマイクロ流路チップに対し、第一実施形態で行った評価方法と同様に、流路の出口4から予め薬剤を入れ、入口2から試験液を注入し、空気で試験液を出口4付近まで押し込んだ後、試験液と薬剤の反応を進めるため、温度50℃、湿度80%のインキュベーターにマイクロ流路チップを入れ1時間放置した。1時間後にマイクロ流路チップを取り出し観察した。表12は、実施例10から比較例4までの製造条件および評価結果を示す。
【0203】
【0204】
表12に示されるように、UV照射後は接触角が小さくなり、上蓋層の接合の工程を経てPDMSが焼成された後には表面に低分子シロキサンを含有する層が形成されるため、接触角が大きくなることが確認された。
実施例10から実施例15のマイクロ流路チップは、コンタミネーションの結果が全て合格(「〇」)であった。すなわち、実施例10から実施例15のマイクロ流路チップにおいて、反応液は出口付近に留まった状態が保持され、流路の分岐部18まで反応液が逆流しなかった。このため、反応液同士のコンタミネーションが生じることなく、試験液と薬剤2種類との反応評価を実施することができた。
一方、比較例2から比較例4のマイクロ流路チップでは、コンタミネーションの結果が全て不合格(「×」)であった。反応液は出口付近に留まった状態が保持されず流路の分岐部18まで反応液が逆流した。このため、反応液同士のコンタミネーションが生じてしまい、試験液と薬剤2種類との反応評価を実施することができなかった。
【0205】
ここで、比較例2、3、4はそれぞれ、実施例10、実施例12、実施例14におけるの接合または加熱炉における加熱条件を低温で実施した場合である。比較例2から比較例4においては、量体数の小さいシロキサンのみが揮発したため、十分な疎水化の効果が得られなかったと考えられる。したがって、第二実施形態において、PDMSの焼成条件は、高温であるほど好ましいと考えられる。
【0206】
<液滴の逆流抑制>
マイクロ流路チップにおいて、流路内の液滴の動きは、流路内の液界面のラプラス圧のつり合いが関連している。ラプラス圧においては、液面との接触部である固相表面の表面エネルギー、すなわち接触角が重要な因子の1つである。そのため、流路表面の接触角を制御することで逆流を防止することが可能である。流体を滞りなく流すためには材料表面の接触角が親水性のものを使用するのが一般的である。また、本開示のように液滴を所定の場所に留めておく場合においては、材料表面の接触角が疎水性のものを使用する。液滴と固体面との関係において、液滴は親水性を有する固体面に対して表面張力があまり働かない。すなわち、液滴は親水面に対してなじみやすい。一方、液滴は疎水性を有する固体面に対しては表面張力が働きやすい。すなわち、液滴は疎水面に対してなじみにくい。これらの性質を利用すると、液滴を親水面に留めておくことが可能となる。本発明者らは、鋭意検討の結果、疎水性の領域の接触角を90度以上130度以下にし、親水性の領域の接触角を90度未満とすることで液滴の逆流を抑制できることが分かった。
【0207】
なお、本発明のマイクロ流路チップおよびマイクロ流路チップの製造方法は、上記の実施形態および実施例に限定されるものではなく、発明の特徴を損なわない範囲において種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0208】
本発明は、研究用途、診断用途、検査、分析、培養などを目的としたマイクロ流路チップにおいて、流路を構成する材料を用いて疎水領域、親水領域を設けることで、反応液の逆流を防止し、反応液同士のコンタミネーションを防ぐことができるマイクロ流路チップおよびマイクロ流路チップの製造方法として好適に使用することができる。
また特別な工程を設けず、UV照射や接合といったマイクロ流路チップを製造する上で通常行われる工程において接触角の制御も実現可能であることから、製造効率が向上する効果もある。
【符号の説明】
【0209】
1、101…マイクロ流路チップ
2…入力部
3…流路部 3a…主流路部 3b、3c…分岐流路部
4、5…出力部
10、10a~10l…基板
11、11a~11l…床材層
12、12b~12l…隔壁層
13、13b~13l…上蓋層
1213…隔壁層を兼ねる蓋材
14、14a~14l…シロキサン重合体を含有する層
15…薬剤、16…試験液
18…分岐部、19…途中部
211…シリコンコーティング
49…試験液
50…薬剤