(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157555
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】触覚発生装置、触覚発生システム及び触覚発生装置の駆動方法
(51)【国際特許分類】
G06F 3/01 20060101AFI20231019BHJP
G06F 3/03 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
G06F3/01 560
G06F3/03 400
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067536
(22)【出願日】2022-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】石井 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】福島 岳行
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 由香里
(72)【発明者】
【氏名】岸本 純明
(72)【発明者】
【氏名】清水 寛之
(72)【発明者】
【氏名】濤川 雄一
【テーマコード(参考)】
5E555
【Fターム(参考)】
5E555AA08
5E555BA02
5E555BB02
5E555BC30
5E555CA14
5E555DA24
5E555FA00
(57)【要約】
【課題】触覚技術により各種触覚を提示することが可能な触覚発生装置、触覚発生システム及び触覚発生装置の駆動方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る触覚発生装置は、筐体と圧電アクチュエータとを具備する。上記筐体は、第1部材と第2部材が接合されて構成され、棒状の形状を有する。上記圧電アクチュエータは、圧電材料からなる圧電体層と、上記圧電体層中に設けられた正極内部電極と、上記圧電体層中に設けられ、上記圧電体層を介して上記正極内部電極と対向する負極内部電極とを備え、上記正極内部電極と上記負極内部電極の間に電圧が印加されると、上記正極内部電極及び上記負極内部電極の電極面に垂直な方向に沿って伸縮し、上記電極面に垂直な方向が上記筐体の長手方向となる向きで上記第1部材と上記第2部材に挟まれ、上記第1部材と上記第2部材に上記長手方向に沿って押圧されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と第2部材が接合されて構成され、棒状の形状を有する筐体と、
圧電材料からなる圧電体層と、前記圧電体層中に設けられた正極内部電極と、前記圧電体層中に設けられ、前記圧電体層を介して前記正極内部電極と対向する負極内部電極とを備え、前記正極内部電極と前記負極内部電極の間に電圧が印加されると、前記正極内部電極及び前記負極内部電極の電極面に垂直な方向に沿って伸縮し、前記電極面に垂直な方向が前記筐体の長手方向となる向きで前記第1部材と前記第2部材に挟まれ、前記第1部材と前記第2部材に前記長手方向に沿って押圧されている圧電アクチュエータと
を具備する触覚発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の触覚発生装置であって、
前記第1部材と前記第2部材は螺合によって互いに接合され、
前記圧電アクチュエータは、前記螺合に伴って前記長手方向に沿って押圧されている
触覚発生装置。
【請求項3】
請求項2に記載の触覚発生装置であって、
前記第1部材の前記第2部材側の面には凹部が設けられ、
前記触覚発生装置は、金属からなり、前記凹部内に配置された支持体をさらに具備し、
前記圧電アクチュエータは、前記凹部に収容され、前記支持体上に配置されている
触覚発生装置。
【請求項4】
請求項1に記載の触覚発生装置であって、
前記筐体はペン型であり、
前記第1部材はペン軸を構成する部材であり、
前記第2部材はペン先を構成する部材である
触覚発生装置。
【請求項5】
請求項1に記載の触覚発生装置であって、
前記筐体はペン型であり、
前記第1部材及び前記第2部材は、互いに接合されてペン軸を構成する部材である
触覚発生装置。
【請求項6】
請求項1に記載の触覚発生装置であって、
前記圧電アクチュエータは、複数の圧電アクチュエータチップからなり、前記複数のアクチュエータチップは前記長手方向を積層方向として積層されている
触覚発生装置。
【請求項7】
請求項1から6のうちいずれか1項に記載の触覚発生装置であって、
周波数が2Hz以上50Hz以下である信号波を変調波とし、周波数が150Hz以上250Hz以下である正弦波を前記変調波によって振幅変調してなる波形を有する駆動信号を前記正極内部電極と前記負極内部電極に供給する駆動部をさらに具備する
触覚発生装置。
【請求項8】
請求項1から6のうちいずれか1項に記載の触覚発生装置であって、
前記筐体は所定の共振周波数を有し、
周波数が110Hz以上250Hz以下である信号波を変調波とし、周波数が前記共振周波数である正弦波を前記変調波によって振幅変調してなる波形を有する駆動信号を前記正極内部電極と前記負極内部電極に供給する駆動部をさらに具備する
触覚発生装置。
【請求項9】
請求項8に記載の触覚発生装置であって、
前記共振周波数は20kHz以上60kHz以下である
触覚発生装置。
【請求項10】
請求項1から6のうちいずれか1項に記載の触覚発生装置であって、
前記圧電アクチュエータは、複数の圧電アクチュエータチップからなり、
前記圧電アクチュエータチップは所定の共振周波数を有し、
周波数が110Hz以上250Hz以下である信号波を変調波とし、周波数が前記共振周波数である正弦波を前記変調波によって振幅変調してなる波形を有する駆動信号を前記正極内部電極と前記負極内部電極に供給する駆動部をさらに具備する
触覚発生装置。
【請求項11】
請求項10に記載の触覚発生装置であって、
前記共振周波数は30kHz以上110kHz以下である
触覚発生装置。
【請求項12】
請求項1から6のうちいずれか1項に記載の触覚発生装置であって、
周波数が1Hz以上60Hz未満である第1低周波を第1変調波とし、周波数が50Hz以上300Hz以下である第2低周波を前記第1変調波によって振幅変調してなる波形を第2変調波とし、周波数が20kHz以上110kHz以下である高周波を前記第2変調波によって変調してなる波形を有する駆動信号を前記正極内部電極と前記負極内部電極に供給する駆動部をさらに具備する
触覚発生装置。
【請求項13】
第1部材と第2部材が接合されて構成され、棒状の形状を有する筐体と、圧電材料からなる圧電体層と、前記圧電体層中に設けられた正極内部電極と、前記圧電体層中に設けられ、前記圧電体層を介して前記正極内部電極と対向する負極内部電極とを備え、前記正極内部電極と前記負極内部電極の間に電圧が印加されると、前記正極内部電極及び前記負極内部電極の電極面に垂直な方向に沿って伸縮し、前記電極面に垂直な方向が前記筐体の長手方向となる向きで前記第1部材と前記第2部材に挟まれ、前記第1部材と前記第2部材に前記長手方向に沿って押圧されている圧電アクチュエータとを備える触覚発生装置と、
駆動信号を前記正極内部電極と前記負極内部電極に供給する駆動部と
を具備する触覚発生システム。
【請求項14】
第1部材と第2部材が接合されて構成され、棒状の形状を有する筐体に搭載され、圧電材料からなる圧電体層と、前記圧電体層中に設けられた正極内部電極と、前記圧電体層中に設けられ、前記圧電体層を介して前記正極内部電極と対向する負極内部電極とを備え、前記正極内部電極と前記負極内部電極の間に電圧が印加されると、前記正極内部電極及び前記負極内部電極の電極面に垂直な方向に沿って伸縮し、前記電極面に垂直な方向が前記筐体の長手方向となる向きで前記第1部材と前記第2部材に挟まれ、前記第1部材と前記第2部材に前記長手方向に沿って押圧されている圧電アクチュエータの前記正極内部電極と前記負極内部電極に駆動信号を供給する
触覚発生装置の駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動により触覚を発生させる触覚発生装置、触覚発生システム及び触覚発生装置の駆動方法及に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザに触覚を提示する触覚機能デバイスには様々なアクチュエータが用いられている。例えば、通知機能には偏心モータやリニア共振アクチュータ等の電磁式アクチュエータが用いられている。また、フォースフィードバック機能にはこれらの電磁式アクチュエータに加え、圧電式アクチュエータも用いられている。
【0003】
近年、触感技術は高度化が進んでおり、通知機能に加えてザラザラ感やツルツル感等の触感表現も再現できる技術が開発されている(例えば、特許文献1参照)。さらに、モバイル機器の液晶パネル等では領域毎に異なる触感表面も求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、タブレット型端末やクレジットカード処理端末等の入力には樹脂製のスタイラスペンが多く用いられている。しかしながらスタイラスペン等のペン型部材を用いた入力では力の入れ具合等が判らず、不便を感じることも多い。そこで本発明者らは、触覚技術を利用して各種の触覚を発生させ、入力装置の操作感を向上させることを検討した。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、触覚技術により各種触覚を提示することが可能な触覚発生装置、触覚発生システム及び触覚発生装置の駆動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る触覚発生装置は、筐体と圧電アクチュエータとを具備する。
上記筐体は、第1部材と第2部材が接合されて構成され、棒状の形状を有する。
上記圧電アクチュエータは、圧電材料からなる圧電体層と、上記圧電体層中に設けられた正極内部電極と、上記圧電体層中に設けられ、上記圧電体層を介して上記正極内部電極と対向する負極内部電極とを備え、上記正極内部電極と上記負極内部電極の間に電圧が印加されると、上記正極内部電極及び上記負極内部電極の電極面に垂直な方向に沿って伸縮し、上記電極面に垂直な方向が上記筐体の長手方向となる向きで上記第1部材と上記第2部材に挟まれ、上記第1部材と上記第2部材に上記長手方向に沿って押圧されている。
【0008】
上記第1部材と上記第2部材は螺合によって互いに接合され、
上記圧電アクチュエータは、上記螺合に伴って上記長手方向に沿って押圧されていてもよい。
【0009】
上記第1部材の上記第2部材側の面には凹部が設けられ、
上記触覚発生装置は、金属からなり、上記凹部内に配置された支持体をさらに具備し、
上記圧電アクチュエータは、上記凹部に収容され、上記支持体上に配置されていてもよい。
【0010】
上記筐体はペン型であり、
上記第1部材はペン軸を構成する部材であり、
上記第2部材はペン先を構成する部材であってもよい。
【0011】
上記筐体はペン型であり、
上記第1部材及び上記第2部材は、互いに接合されてペン軸を構成する部材であってもよい。
【0012】
上記圧電アクチュエータは、複数の圧電アクチュエータチップからなり、上記複数のアクチュエータチップは上記長手方向を積層方向として積層されていてもよい。
【0013】
上記触覚発生装置は、周波数が2Hz以上50Hz以下である信号波を変調波とし、周波数が150Hz以上250Hz以下である正弦波を上記変調波によって振幅変調してなる波形を有する駆動信号を上記正極内部電極と上記負極内部電極に供給する駆動部をさらに具備してもよい。
【0014】
上記筐体は所定の共振周波数を有し、
上記触覚発生装置は、周波数が110Hz以上250Hz以下である信号波を変調波とし、周波数が上記共振周波数である正弦波を上記変調波によって振幅変調してなる波形を有する駆動信号を上記正極内部電極と上記負極内部電極に供給する駆動部をさらに具備してもよい。
【0015】
上記共振周波数は20kHz以上60kHz以下であってもよい。
【0016】
上記圧電アクチュエータは、複数の圧電アクチュエータチップからなり、
上記圧電アクチュエータチップは所定の共振周波数を有し、
上記触覚発生装置は、周波数が110Hz以上250Hz以下である信号波を変調波とし、周波数が上記共振周波数である正弦波を上記変調波によって振幅変調してなる波形を有する駆動信号を上記正極内部電極と上記負極内部電極に供給する駆動部をさらに具備してもよい。
【0017】
上記共振周波数は30kHz以上110kHz以下であってもよい。
【0018】
上記触覚発生装置は、周波数が1Hz以上60Hz未満である第1低周波を第1変調波とし、周波数が50Hz以上300Hz以下である第2低周波を上記第1変調波によって振幅変調してなる波形を第2変調波とし、周波数が20kHz以上110kHz以下である高周波を上記第2変調波によって変調してなる波形を有する駆動信号を上記正極内部電極と上記負極内部電極に供給する駆動部をさらに具備してもよい。
【0019】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る触覚発生システムは、触覚発生装置と、駆動部とを具備する。
上記触覚発生装置は、第1部材と第2部材が接合されて構成され、棒状の形状を有する筐体と、圧電材料からなる圧電体層と、上記圧電体層中に設けられた正極内部電極と、上記圧電体層中に設けられ、上記圧電体層を介して上記正極内部電極と対向する負極内部電極とを備え、上記正極内部電極と上記負極内部電極の間に電圧が印加されると、上記正極内部電極及び上記負極内部電極の電極面に垂直な方向に沿って伸縮し、上記電極面に垂直な方向が上記筐体の長手方向となる向きで上記第1部材と上記第2部材に挟まれ、上記第1部材と上記第2部材に上記長手方向に沿って押圧されている圧電アクチュエータとを備える。
上記駆動部は、駆動信号を上記正極内部電極と上記負極内部電極に供給する。
【0020】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る触覚発生装置の駆動方法は、第1部材と第2部材が接合されて構成され、棒状の形状を有する筐体に搭載され、圧電材料からなる圧電体層と、上記圧電体層中に設けられた正極内部電極と、上記圧電体層中に設けられ、上記圧電体層を介して上記正極内部電極と対向する負極内部電極とを備え、上記正極内部電極と上記負極内部電極の間に電圧が印加されると、上記正極内部電極及び上記負極内部電極の電極面に垂直な方向に沿って伸縮し、上記電極面に垂直な方向が上記筐体の長手方向となる向きで上記第1部材と上記第2部材に挟まれ、上記第1部材と上記第2部材に上記長手方向に沿って押圧されている圧電アクチュエータの上記正極内部電極と上記負極内部電極に駆動信号を供給する。
【発明の効果】
【0021】
以上のように本発明によれば、触覚技術により各種触感を提示することが可能な触覚発生装置、触覚発生システム及び触覚発生装置の駆動方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態に係る触覚発生装置の平面図である。
【
図4】上記触覚発生装置が備える筐体の第1部材の断面図である。
【
図5】上記触覚発生装置が備える筐体の第2部材の断面図である。
【
図6】上記触覚発生装置が備える圧電アクチュエータを構成する圧電アクチュエータチップの断面図である。
【
図7】上記圧電アクチュエータチップにおける圧電体層の厚みを示す模式図である。
【
図8】上記圧電アクチュエータチップの振動を示す模式図である。
【
図9】上記触覚発生装置が備える筐体に収容された圧電アクチュエータチップの振動を示す模式図である。
【
図10】上記触覚発生装置が備える筐体に収容された圧電アクチュエータチップの模式図である。
【
図11】上記圧電アクチュエータの押圧構造を示す模式図である。
【
図12】上記圧電アクチュエータの押圧構造を示す模式図である。
【
図13】上記触覚発生装置の動作を示す模式図である。
【
図14】上記触覚発生装置の振動を示す模式図である。
【
図15】上記触覚発生装置が備える駆動部が発生させる振幅変調波波形である。
【
図17】上記触覚発生装置が備える駆動部が発生させる振幅変調波波形(電圧波形のみ)である。
【
図20】上記触覚発生装置が備える駆動部が発生させる振幅変調波波形である。
【
図21】本発明の変形例に係る触覚発生装置の断面図である。
【
図22】本発明の変形例に係る触覚発生装置の断面図である。
【
図23】本発明の実施例に係る触覚発生装置の共振特性を示すグラフである。
【
図24】本発明の実施例に係る触覚発生装置の共振特性を示すグラフである。
【
図25】本発明の実施例に係る触覚発生装置が備える圧電アクチュエータのアドミタンスサークルである。
【
図26】本発明の実施例に係る触覚発生装置が備える圧電アクチュエータの等価回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態に係る触覚発生装置について説明する。
【0024】
[触覚発生装置の構成]
図1は本実施形態に係る触覚発生装置100の斜視図であり、
図2は触覚発生装置100の一部分の分解斜視図である。
図3は触覚発生装置100の一部分の断面図である。これらの図に示すように、触覚発生装置100はスタイラスペン型の装置であり、タブレット型端末やスマートフォンのディスプレイパネルといった対象物に入力を行うための入力装置である。
図2に示すように触覚発生装置100は筐体110及び圧電アクチュエータ120を備える。以下、筐体110の長手方向をX方向とし、X方向に直交する一方向をY方向、X方向及びZ方向に垂直な方向をZ方向とする。
【0025】
筐体110は、第1部材111と第2部材112が接合されて構成され、ペン型形状を有する。第1部材111はペン軸を構成する部材であり、X方向に沿って延伸する棒状の形状を有する。第2部材112はペン先を構成する部材であり、第1部材111の一端に連続し、第1部材111から次第に直径が減少する円錐形状を有する。
【0026】
図4は、第1部材111のうち第2部材112側の一部分の断面図である。同図に示すように、第1部材111の第2部材112側の面を接合面111aとする。接合面111aには凹部113が設けられている。凹部113は第2部材112側の大径部113aと第2部材112とは反対側の小径部113bを有する。大径部113aは円柱形状の凹部であり、内周面にネジ溝113cが設けられている。小径部113bは角柱形状の凹部である。小径部113bには圧電アクチュエータ120の配線が挿通される配線孔113dが設けられている。第1部材111の材料は特に限定されず、金属又は樹脂等の材料とすることができるが、PMMA(Polymethyl methacrylate)又はPPS(Poly Phenylene Sulfide)等の樹脂からなるものが好適である。
【0027】
図5は第2部材112の断面図である。同図に示すように、第2部材112の第1部材111側の面を接合面112aとする。接合面112aには凸部114が設けられ、凸部114の外周面にはネジ山114aが設けられている。第2部材112の材料は特に限定されず、金属又は樹脂等の材料とすることができるが、アルミニウム等の金属からなるものが好適である。
【0028】
圧電アクチュエータ120は、振動を生じ、触覚発生装置100に触覚を生じさせる。
図3に示すように圧電アクチュエータ120は、支持体125上に配置され、凹部113(
図4参照)に収容されている。支持体125は小径部113b内に配置され、ステンレス(ヤング率;1.93×10
5N/m)等の金属からなる。支持体125の厚みは例えば2mmである。
【0029】
圧電アクチュエータ120は、
図3に示すように第1圧電アクチュエータチップ121と第2圧電アクチュエータチップ122の2つの圧電アクチュエータチップが積層されて構成されている。第1圧電アクチュエータチップ121と第2圧電アクチュエータチップ122は同一構造を有する圧電アクチュエータチップとすることができる。
図6は、第1圧電アクチュエータチップ121及び第2圧電アクチュエータチップ122を構成することが可能な圧電アクチュエータチップ130の模式である。
【0030】
同図に示すように、圧電アクチュエータチップ130は圧電体層131、正極内部電極132及び負極内部電極133を備える。また、圧電アクチュエータチップ130の一主面を主面130a、主面130aの反対側の主面を主面130b、一側面を側面130c、側面130cの反対側の側面を側面130dとする。圧電体層131は鉛系圧電材料又は非鉛系圧電材料からなる。鉛系圧電材料としてはPZT(チタン酸ジルコン酸鉛:Pb(Zr,Ti)O3)等が利用できる。非鉛系圧電材料としてはチタン酸バリウム系材料((Ba,Ca)(Ti,Zr)O3)、ビスマス系材料((Bi1/2,Na1/2)TiO3)、アルカリニオベート系材料((Li,Na,K)NbO3)等が利用できる。
【0031】
正極内部電極132は、導電性材料からなり、圧電体層131中に設けられ、圧電体層131を介して負極内部電極133と対向する。正極内部電極132は平板状であり、正極内部電極132の主面を電極面とすると、電極面は主面130a及び主面130bに平行である。正極内部電極132は、
図6に示すように側面130cに露出し、側面130dから離間する。正極内部電極132は、側面130cに形成された図示しない正極外部電極と当接し、電気的に接続されている。
【0032】
負極内部電極133は、導電性材料からなり、圧電体層131中に設けられ、圧電体層131を介して正極内部電極132と対向する。負極内部電極133は平板状であり、正極内部電極132の主面を電極面とすると、電極面は主面130a及び主面130bに平行である。負極内部電極133は、
図6に示すように側面130dに露出し、側面130cから離間する。負極内部電極133は、側面130dに形成された図示しない負極外部電極と当接し、電気的に接続されている。
【0033】
図6に示すように、圧電アクチュエータチップ130は、ブロック141と緩和層142を有する。ブロック141は、複数の正極内部電極132及び複数の負極内部電極133を含み、圧電アクチュエータチップ130には3つのブロック141が設けられている。各ブロック141に含まれる正極内部電極132及び負極内部電極123の数は特に限定されないが、合わせて50層とすることができる。このため、圧電アクチュエータチップ130は3つのブロック141で計150層の正極内部電極132及び負極内部電極133を備えるものとすることができる。なお、
図6では便宜上、各ブロック141に3層ずつの正極内部電極132及び負極内部電極133が含まれるように示している。
【0034】
緩和層142は、ブロック141の間と、圧電アクチュエータチップ130の主面130a側及び主面130b側に設けられている。緩和層142は厚みの大きい圧電体層131からなる。
図7は緩和層142の厚みを示す模式図である。同図に示すように、各ブロック141内における正極内部電極132と負極内部電極133の間の圧電体層131の厚みを厚みT1とし、緩和層142における圧電体層131の厚みを厚みT2とする。厚みT2は厚みT1より厚く、厚みT1の2倍以上の厚みが好適であり、例えば、厚みT1は18μm、厚みT2は36μmとすることができる。
【0035】
圧電アクチュエータチップ130は、圧電体層131となる圧電体板上に導電ペーストにより正極内部電極132又は負極内部電極133を形成し、圧電体板を積層して焼結することにより形成することが可能である。ここで、圧電体板の積層数が多い場合、ブロック141毎に焼結体を形成し、ブロック141を重ねて圧着することにより、圧電アクチュエータチップ130を形成することができる。この際、緩和層142によりブロック141間の密着性を強化すると共に、圧着時の内部応力を緩和することで特性に優れる圧電アクチュエータチップ130を形成することが可能である。なおブロック141の数は3つに限られず、2つ以下、又は4つ以上であってもよい。
【0036】
圧電アクチュエータチップ130はこのような構成を有する。
図8は圧電アクチュエータチップ130の振動を示す模式である。正極内部電極132と負極内部電極133の間に電圧を印加すると、圧電体層131における逆圧電効果により圧電アクチュエータチップ130は正極内部電極132及び負極内部電極133の電極面に垂直な方向に沿って伸縮(図中、矢印)し、同方向を振幅方向として振動する。このような振動はd33モードと呼ばれる。d33モードで動作する圧電アクチュエータチップ130はDC成分を加算することでユニポーラ駆動も可能であるため、分極劣化の対策もでき、異音の発生も抑制されている。
【0037】
圧電アクチュエータ120は上述のように第1圧電アクチュエータチップ121及び第2圧電アクチュエータチップ122を備え、第1圧電アクチュエータチップ121及び第2圧電アクチュエータチップ122はそれぞれ圧電アクチュエータチップ130の構成を有する。
図9は、圧電アクチュエータ120を構成する圧電アクチュエータチップ130の向きを示す模式である。
【0038】
同図に示すように2つの圧電アクチュエータチップ130はその振動方向(図中、矢印)が筐体110の長手方向(X方向)となる向きで、同方向(X方向)を積層方向として積層され、凹部113に収容されている。したがって、圧電アクチュエータ120はd33モードで振動する圧電アクチュエータ(以下、d33圧電アクチュエータ)である。d33圧電アクチュエータの変位量は下記の(式1)で表されるため、圧電アクチュエータ120を2つの圧電アクチュエータチップ130を積層して構成することにより多段化し、変位量を大きくすることが可能である。
【0039】
Δz=d33・v・n (式1)
なお、Δzは変位量、d33は圧電体層131の材料定数、vは印加電圧、nは圧電体層の積層数を示す。
【0040】
図10は小径部113bと圧電アクチュエータチップ130を示す平面図である。同図に示すように、圧電アクチュエータチップ130は小径部113bより小さく、圧電アクチュエータチップ130は小径部113bとの間に隙間が形成される大きさが好適である。
図10に示すように、小径156の長さ(X方向)を長さL1、幅(Y方向)を幅D1、圧電アクチュエータチップ130の長さ(X方向)を長さL2、幅(Y方向)を幅D2とすると、一例として長さL1及び幅D1は共に4mm、長さL2及び幅D2は共に3.5mmとすることができる。
【0041】
圧電アクチュエータ120は以上のような構成を有する。なお、圧電アクチュエータ120は2つの圧電アクチュエータチップ130からなるものとしたが、1つ又は3つ以上の圧電アクチュエータチップ130からなるものであってもよい。また、圧電アクチュエータ120は、振動方向が筐体110の長手方向(X方向)となるd33圧電アクチュエータであれば、他の構成を有するものであってもよい。
【0042】
第1圧電アクチュエータチップ121と第2圧電アクチュエータチップ122は接着材により固定され、第1圧電アクチュエータチップ121と支持体125も接着材により固定されるものとすることができる。また、第1圧電アクチュエータチップ121と第2圧電アクチュエータチップ122は凹部113に収容された後、凹部113に充填される封止材によって固定されてもよい。上記接着材及び封止材は例えばエポキシ樹脂である。
【0043】
[圧電アクチュエータの押圧構造]
触覚発生装置100における圧電アクチュエータ120の押圧構造について説明する。
図11及び
図12は圧電アクチュエータ120の押圧構造を示す模式図である。
図11に示すように、圧電アクチュエータ120は支持体125上に配置され、凹部113に収容されている。
【0044】
この状態で
図12に示すように、第2部材112が第1部材111に当接され、筐体110の長手方向(X方向)を回転軸として回転される。これにより、ネジ溝113cにネジ山114aが係合して第1部材111と第2部材112が接合され、即ち第1部材111と第2部材112は螺合される。この回転に伴って凸部114が圧電アクチュエータ120に当接し、圧電アクチュエータ120は凸部114と支持体125によって押圧される。
図12において圧電アクチュエータ120が受ける押圧力を矢印で示す。
【0045】
[入力装置の動作及び効果]
図13は、触覚発生装置100の動作を示す模式図である。同図に示すようにユーザは手Hにより触覚発生装置100を把持することができる。ユーザはこの状態で入力装置の先端110aを対象物に接触させ、移動させることができる。対象物は先端110aの接触や移動に応じて操作入力を受け付け、図形の描画処理等を実行する。
【0046】
上述のように触覚発生装置100では、圧電アクチュエータ120を駆動することにより振動が発生する。
図14は、触覚発生装置100において発生する振動の方向を矢印で示す模式図である。同図に示すように触覚発生装置100では、圧電アクチュエータ120を駆動することにより、圧電アクチュエータ120を筐体110の長手方向(X方向)に沿って伸縮させ、同方向(X方向)を振幅方向としてd33モードで振動させる。
【0047】
触覚発生装置100に圧電アクチュエータ120が設けられているため、触覚発生装置100はユーザにリアルな触覚表現を提示することができる。具体的には触覚発生装置100は、鉛筆、クレヨン、筆といったペンの種別を振動により表現し、あるいは和紙、洋紙、木目材質といった対象物の種別を振動により表現することが可能である。この際、圧電アクチュエータ120の振動方向(X方向)が、先端110aの対象物への接触方向(X方向)と一致するため、圧電アクチュエータ120のこの方向(X方向)に対する発生力を優位に活用することが可能である。また、d33圧電アクチュエータは振動方向に対する耐久力が最も大きいため、圧電アクチュエータ120の耐久性を向上させることができる。
【0048】
また、触覚発生装置100では、上記のように、圧電アクチュエータ120が第1部材111と第2部材112によって挟まれ、振動方向(X方向)と同一方向に沿って押圧される。これにより触覚発生装置100の機械的Q値が高くなり、強い振動が得られる(実施例参照)。機械的Q値は振動エネルギーの分散の程度を表し、機械的Q値が高いほど振動エネルギーの分散が小さくなる。このため触覚発生装置100では非鉛系圧電材料のような圧電特性の小さい材料も圧電体層131(
図6参照)の材料として利用可能である。
【0049】
さらに、圧電アクチュエータ120はモータ等の機械的駆動部分を有さず、小型、軽量かつ低消費電力の圧電アクチュエータチップ130から構成されているため、圧電アクチュエータ120の省スペース化及び低消費電力化が可能である。加えて、圧電アクチュエータ120は応答性が高いため、触覚発生装置100はこの高い応答性を生かした触覚表現が可能である。
【0050】
加えて、触覚発生装置100では、圧電アクチュエータ120に後述するような駆動信号を供給することにより、対象物に対する触覚発生装置100の接触態様によって、ユーザが感知する触覚の有無を制御することができる。具体的には、圧電アクチュエータ120を駆動させた状態で、先端110aを対象物に接触させると触覚発生装置100に触覚が生じ、先端110aを対象物から離間させると触覚が消失する。したがって、感圧センサ、衝撃センサ又は画像認識等によって触覚発生装置100の対象物への接触を検知する必要がなく、対象物に対する触覚発生装置100の接触態様に応じて自動的に触覚を切り替えることが可能である。
【0051】
なお、触覚発生装置100では第2部材112を金属等の導電性材料からなるものとすることにより、静電容量式タッチパネルの入力に利用することができる。一方、触覚発生装置100を感圧式タッチパネル等の入力に利用する場合は、第2部材112は絶縁性材料からなるものであってもよい。
【0052】
[駆動信号について]
圧電アクチュエータ120へ出力される駆動信号について説明する。この駆動信号は上記のように、圧電アクチュエータチップ130の正極内部電極132と負極内部電極13の間に印加される電圧波形である。なお、この駆動信号は触覚発生装置100に搭載された駆動部から圧電アクチュエータ120に供給されるものであってもよく、触覚発生装置100とは別の装置に搭載された駆動部から、無線通信等を介して圧電アクチュエータ120に供給されるものであってもよい。以下、触覚発生装置100と駆動部をあわせて「触覚発生システム」とする。
【0053】
(駆動信号1)
駆動部が圧電アクチュエータ120へ出力する駆動信号は周波数が2Hz以上50Hz以下である信号波を変調波とし、周波数が150Hz以上250Hz以下である正弦波を変調波によって振幅変調してなる波形を有するものとすることができる。ここで、150Hz以上250Hz以下の振動は、人の皮膚の受容器であるパチニ小体等が敏感に感じることが可能な振動である。
【0054】
図15は、第1の周波数を有する正弦波を変調波とし、この変調波によって第2の周波数を有する正弦波を振幅変調した振幅変調波の波形を有する電圧波形と電流波形を示す。
図16は
図15の拡大である。駆動部から圧電アクチュエータ120に
図15に示す電圧波形を駆動信号として印加すると、同図に示す電流波形を有する電流が流れる。
【0055】
図17は
図15の電圧波形のみを示し、
図18は
図16の電圧波形のみを示す。
図17及び
図18においてW1で示す波長の大きい波が第1の周波数を有する正弦波であり、W2で示す波長の小さい波が第2の周波数を有する正弦波である。以下、第1の周波数を有する正弦波を第1正弦波W1とし、第2の周波数を有する正弦波を第2正弦波W2とする。
【0056】
図17及び
図18に示す波形では、第1正弦波W1は、第2正弦波W2の振幅の変化によって形成されており、即ち
図17及び
図18に示す波形は第2正弦波W2を搬送波、第1正弦波W1を変調波とする振幅変調波である。駆動部は、周波数が150Hz以上250Hz以下である第2正弦波W2を搬送波、2Hz以上50Hz以下である第1正弦波W1を変調波とする振幅変調波の波形を有する駆動信号を生成し、圧電アクチュエータ120に印加することができる。
【0057】
図19は、振幅変調波の波形と電圧ゲインの関係を示す模式図である。同図に示すように、振幅変調波の「ピーク」の振幅を振幅aとし、「谷底」の振幅を振幅bとすると、変調度mは以下の(式2)で表される。下記(式2)で示すように、振幅aに対して振幅bが小さいほど変調度mが大きくなる。
【0058】
m=(a-b)/(a+b) (式2)
【0059】
図17においても、第1正弦波W1の電圧ゲインを高くすると、図中に白矢印で示すように、第1正弦波W1の「谷底」が深くなり、第1正弦波W1の電圧ゲインを0dBとすると、「谷底」の振幅は最小となる。また、第1正弦波W1の電圧ゲインを低くすると、第1正弦波W1の「谷底」は浅くなり、振幅は大きくなる。さらに、第1正弦波W1の電圧ゲインを低くすると、第1正弦波W1の「谷底」の振幅bは「ピーク」の振幅と同等となり、「谷」が形成されなくなる。本実施形態において、変調度mは50%以上100%以下の範囲で調整され、振幅の変調落差を触覚表現に利用することができる。また、電圧が絞られる部分は消費電流が低減されるため、低消費電力化を図ることも可能である。なお、上記説明において、振幅変調波を第1正弦波W1及び第2正弦波W2を用いて説明しているが、振幅変調波は正弦波以外の波によって形成されるものであってもよい。
【0060】
駆動部は、周波数が2Hz以上50Hz以下である信号波を変調波とし、周波数が150Hz以上250Hz以下である正弦波を変調波によって振幅変調してなる波形を有する駆動信号を圧電アクチュエータ120に供給する。すると、触覚発生装置100の先端110a(
図13参照)を対象物に接触ながら移動させたときに、ユーザは触覚発生装置100から振動による各種の触覚を感じることができる。さらに、変調波の周波数によってこの触覚を調整することが可能であり、触覚発生装置100によって鉛筆、クレヨン、筆といった筆記具の種別や洋紙、和紙、木目材質といった対象物の材質を再現することが可能となる。
【0061】
(駆動信号2)
駆動部が圧電アクチュエータ120へ出力する駆動信号は周波数が110Hz以上250Hz以下である信号波を変調波とし、周波数が筐体110又は圧電アクチュエータチップ130の共振周波数である正弦波を変調波によって振幅変調してなる波形を有するものとすることができる。ここで、110Hz以上250Hz以下の振動は、人の皮膚の受容器であるパチニ小体等が敏感に感じることが可能な振動である。筐体110の共振周波数は20kHz以上60kHz以下であり、圧電アクチュエータチップ130の共振周波数は30kHz以上110kHz以下である。
【0062】
上述した
図17及び
図18に示す波形では、第1正弦波W1は、第2正弦波W2の振幅の変化によって形成されており、即ち
図17及び
図18に示す波形は第2正弦波W2を搬送波、第1正弦波W1を変調波とする振幅変調波である。駆動部は、筐体110又は圧電アクチュエータチップ130の共振周波数を有する第2正弦波W2を搬送波、周波数が110Hz以上250Hz以下である第1正弦波W1を変調波とする振幅変調波の波形を有する駆動信号を生成し、圧電アクチュエータ120に印加することができる。
【0063】
変調度m(上記(式2)参照)は50%以上100%以下の範囲で調整され、振幅の変調落差を触覚表現に利用することができる。また、電圧が絞られる部分は消費電流が低減されるため、低消費電力化を図ることも可能である。なお、上記説明において、振幅変調波を第1正弦波W1及び第2正弦波W2を用いて説明しているが、振幅変調波は正弦波以外の波によって形成されるものであってもよい。
【0064】
駆動部は、周波数が110Hz以上250Hz以下である信号波を変調波とし、周波数が筐体110又は圧電アクチュエータチップ130の共振周波数である正弦波を変調波によって振幅変調してなる波形を有する駆動信号を圧電アクチュエータ120に供給する。すると、触覚発生装置100の先端110a(
図13参照)を対象物に接触ながら移動させたときに、ユーザは触覚発生装置100においてスクイーズ効果(振動による浮揚感)を感知することができる。また、先端110aが対象物から離間すると、ユーザは触覚発生装置100においてスクイーズ効果を感知しなくなる。したがって、触覚発生装置100は先端110aの対象物への接触の有無により、ユーザに提示する触覚を切り替えることが可能であり、この切り替えには触覚発生装置100の対象物への接触検知が必要ない。
【0065】
(駆動信号3)
駆動部が圧電アクチュエータ120へ出力する駆動信号は周波数が1Hz以上60Hz未満である第1低周波を第1変調波とし、周波数が50Hz以上300Hz以下である第2低周波を第1変調波によって振幅変調してなる波形を第2変調波とし、周波数が20kHz以上110kHz以下である高周波を第2変調波によって変調してなる波形を有するものとすることができる。ここで、1Hz以上60Hz以下の振動は、人の皮膚の受容器であるマイスナー小体等が敏感に感じることが可能な振動である。
【0066】
上述した、
図17及び
図18に示す波形では、第1正弦波W1は、第2正弦波W2の振幅の変化によって形成されており、即ち
図17及び
図18に示す波形は第2正弦波W2を搬送波、第1正弦波W1を変調波とし、第2正弦波W2を第1正弦波W1によって振幅変調した振幅変調波である。以下、第1正弦波W1を第1変調波とし、この振幅変調波を第2変調波とする。振幅変調の変調度m(上記(式2)参照)は50%以上100%以下の範囲で調整され、振幅の変調落差を触覚表現に利用することができる。また、電圧が絞られる部分は消費電流が低減されるため、低消費電力化を図ることも可能である。
【0067】
さらに駆動部は高周波と第2変調波から振幅変調波を生成する。高周波は、周波数が20kHz以上110kHz以下の正弦波である。
図20は、振幅変調による駆動信号波の例であり、高周波を第2変調波で振幅変調した波形である。同図において、W4で示す波長の小さい波は振幅変調された高周波であり、W3で示す波長の大きい波は高周波W4の振幅の変化によって形成された第2変調波である。即ち、
図20に示す波形は、高周波W4を搬送波、第2変調波W3を変調波とする振幅変調波である。
【0068】
駆動部は、周波数が1Hz以上60Hz未満である第1低周波を第1変調波とし、周波数が50Hz以上300Hz以下である第2低周波を第1変調波によって振幅変調してなる波形を第2変調波とし、周波数が20kHz以上110kHz以下である高周波を第2変調波によって変調してなる波形を有する駆動信号を圧電アクチュエータ120に供給する。すると、変調駆動によるスクイーズ効果に繊細な微小振動表現がプラスされ、よりリアルな触覚が可能となる。
【0069】
[変形例]
触覚発生装置100では、
図9に示すように圧電アクチュエータ120の片側に支持体125を配置するものとしたが、圧電アクチュエータ120の両側に支持体125を配置することも可能である。
図21は変形例に係る触覚発生装置100の模式図である。同図に示すように、圧電アクチュエータ120の両外に支持体125を配置すると、第1部材111と第2部材112の接合により、圧電アクチュエータ120は両側の支持体125から押圧されることになる。この場合、圧電アクチュエータ120によって直接振動が伝達される質量要素が増大することにより、低周波振幅変調駆動(上記、「駆動信号1」)での振動伝達が増強され、振動がより増幅される。
【0070】
触覚発生装置100は、第1部材111がペン軸を構成する部材であり、第2部材112がペン先を構成する部材であるとして説明したがこれに限られない。
図22は他の変形例に係る触覚発生装置100の断面図である。同図に示すように、第1部材111と第2部材112は接合されることによってペン軸を構成するものであってもよい。この構成においても圧電アクチュエータ120が、振動方向が筐体110の長手方向(X方向)となる向きで、第1部材111と第2部材112によって挟まれ、同方向(X方向)に沿って押圧されることで強い振動を生じるものとすることができる。
【0071】
また、本発明は入力装置以外にも、棒状の形状を有する装置に適用し、触覚発生装置を構成することが可能であり、上記のように圧電アクチュエータを筐体の長手方向に沿って押圧することにより、強い振動を生じる触覚発生装置を実現することができる。例えば、本発明は、スケラー、美顔器、ピラー、眼鏡のツル、眼鏡の鼻パット、杖、箸等に適用可能である。
【0072】
さらに触覚発生装置100では、駆動信号として音声信号を印加することにより、触覚発生装置100から音声を発生させることができる。筐体110を耳基に当接させることで音楽を楽しむことも可能となり、筐体110を机やアクリルボード、壁等の接触物に当接させることにより筐体110の縦振動を接触物に伝達させ、接触物をスピーカの振動板として利用し、音響用途にも応用可能である。これは例えば、新型コロナウイルス対策の対面アクリルボートをスピーカとして利用する際に活用できる。また、タブレットや案内板に接触させて音声ガイドとしての利用も可能である。この際、圧電アクチュエータチップ130の側面130c及び側面130d上には、ステンレス等の金属からなるプレートを配置してもよい。
【実施例0073】
上記実施形態に係る構成を有する入力装置を作製し、共振特性をインピーダンスアナライザで測定した。
図23及び
図24は、測定された共振特性を示すグラフであり、
図24は
図23の一部を拡大した図である。これらの図に示すように、本発明に係る入力装置では位相が急峻なピークを有する。これは機械的Q値が高いためである。また入力装置の共振周波数は30.3kHzを示した。第1部材と第2部材によって圧電アクチュエータ押圧することによって共振周波数は高い方向に推移すると予測されたが、実際には推移しなかった。これはステンレスからなる支持体による影響と考えられる。
【0074】
また、測定結果からアドミタンスサークルを生成し、圧電アクチュエータの等価回路を形成した。
図25は生成されたアドミタンスサークルを示す。
図26は等価回路の回路図であり、等価抵抗R、等価インダクタンスL、等価容量C
a、制動容量C
bを有する。圧電アクチュエータの共振周波数f
0、機械的Q値及び機械結合係数k
vnは以下の式(3)~(5)で算出される。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
下記[表1]は圧電アクチュエータの各物性値を示す表である。[表1]に示すように、本発明に係る入力装置では、圧電アクチュエータの機械的Q値が高い値となった。
【0079】