(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157576
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】チップ抵抗器およびチップ抵抗器の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01C 7/00 20060101AFI20231019BHJP
H01C 1/14 20060101ALI20231019BHJP
H01C 17/00 20060101ALI20231019BHJP
H01C 17/28 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
H01C7/00 110
H01C1/14 Z
H01C17/00 100
H01C17/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067568
(22)【出願日】2022-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 太郎
【テーマコード(参考)】
5E028
5E032
5E033
【Fターム(参考)】
5E028BA04
5E028BB01
5E028CA02
5E028DA04
5E028EA01
5E028EB01
5E028EB05
5E028GA03
5E032BA04
5E032BA15
5E032BB01
5E032CA02
5E032CC11
5E032TA11
5E033AA27
5E033BB02
5E033BC01
5E033BD01
5E033BE02
5E033BG02
5E033BH02
(57)【要約】
【課題】ヒートショック耐性の高いチップ抵抗器およびその製造方法を提供する。
【解決手段】チップ抵抗器10は、搭載面と実装面を有する直方体形状の絶縁基板1と、絶縁基板1の搭載面における長手方向両端部に設けられた一対の上面電極2と、一対の上面電極2間を橋絡する抵抗体3と、絶縁基板1の実装面における長手方向両端部に設けられた一対の下面電極5と、一対の下面電極5上に積層された導電性粒子を含有する合成樹脂材料からなる一対の樹脂電極層6と、一対の上面電極2と一対の下面電極5とを導通する一対の端面電極7と、少なくとも一対の端面電極7を覆うメッキ材料からなる一対の外部電極8とを備え、下面電極5は、絶縁基板1の実装面に薄膜形成された金属薄膜層からなると共に、樹脂電極層6から露出する露出部5aを有しており、外部電極8が下面電極5の露出部5aと樹脂電極層6の表面全体とに接触している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向の互いに反対側に位置する搭載面と実装面を有する直方体形状の絶縁基板と、
前記絶縁基板の前記搭載面における長手方向両端部に設けられた一対の上面電極と、
前記一対の上面電極間を橋絡する抵抗体と、
前記絶縁基板の前記実装面における長手方向両端部に設けられた一対の下面電極と、
前記一対の下面電極上に積層された導電性粒子を含有する合成樹脂材料からなる一対の樹脂電極層と、
前記一対の上面電極と前記一対の下面電極とを導通する一対の端面電極と、
少なくとも前記一対の端面電極を覆うメッキ材料からなる一対の外部電極と、
を備え、
前記下面電極は、前記絶縁基板の前記実装面に薄膜形成された金属薄膜層からなると共に、前記樹脂電極層から露出する露出部を有しており、
前記外部電極は、前記下面電極の前記露出部と前記樹脂電極層の表面全体とに接触している、
ことを特徴とするチップ抵抗器。
【請求項2】
前記下面電極の前記露出部は、前記樹脂電極層の全周を囲むようにチャンネル形状に形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のチップ抵抗器。
【請求項3】
前記樹脂電極層に前記絶縁基板の端面側を開口する切欠部が形成されており、前記下面電極の前記露出部は、前記樹脂電極層の外周側と前記切欠部内のそれぞれに形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のチップ抵抗器。
【請求項4】
前記樹脂電極層は前記絶縁基板の端面から離間する内方位置に形成されており、前記下面電極の前記露出部は、は前記樹脂電極層の外周を囲むように枠状に形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のチップ抵抗器。
【請求項5】
前記端面電極は前記絶縁基板の端面に向けて金属粒子をスパッタして形成された金属薄膜からなり、該金属薄膜により前記下面電極の前記露出部の少なくとも一部が覆われている、ことを特徴とする請求項4に記載のチップ抵抗器。
【請求項6】
絶縁基板の搭載面に抵抗体と該抵抗体の両端部に接続する上面電極を形成する工程と、
前記絶縁基板における前記搭載面と反対側に位置する実装面の中央部に可溶性材料からなるマスクを形成する工程と、
前記マスクから露出する前記実装面に金属粒子をスパッタして下面電極を形成する工程と、
前記マスクを除去した後に、前記下面電極上に導電性粒子を含有する合成樹脂材料を印刷することにより、前記下面電極の一部を露出させた状態で樹脂電極層を形成する工程と、
前記絶縁基板の端面に金属粒子をスパッタすることにより、前記上面電極と前記下面電極間を導通する端面電極を形成する工程と、
前記端面電極の形成後に電解メッキを施すことにより、前記端面電極と前記下面電極の露出部および前記樹脂電極層の表面全体を覆う外部電極を形成する工程と、
を含むことを特徴とするチップ抵抗器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板のランド上に半田接合される面実装タイプのチップ抵抗器と、そのようなチップ抵抗器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的にチップ抵抗器は、直方体形状の絶縁基板と、絶縁基板の表面における長手方向両端部に設けられた一対の上面電極と、一対の上面電極に跨るように設けられた抵抗体と、抵抗体を覆う絶縁性の保護膜と、絶縁基板の裏面における長手方向両端部に設けられた一対の裏面電極と、上面電極と裏面電極とを電気的に接続する一対の端面電極と、端面電極を覆うメッキ材料からなる外部電極等によって主に構成されている。そして、このように構成されたチップ抵抗器は、回路基板に設けられたランド上に裏面電極を下に向けた姿勢で搭載され、回路基板に設けられたランドとチップ抵抗器に設けられた外部電極とを半田接合することで面実装されるようになっている。
【0003】
上記したようなチップ抵抗器の面実装状態において、熱環境の変化が繰り返される(以下「ヒートショック」という)と、回路基板の熱膨張率とチップ抵抗器の絶縁基板の熱膨張率との差に起因して熱応力が発生し、この熱応力が半田接合部に作用してクラックを生じさせてしまう場合がある。特に、チップ抵抗器の基板サイズが大きくなると、回路基板と絶縁基板の熱膨張率の違いに起因する熱応力が大きくなり、それに伴って半田接合部にクラックが発生する可能性が高くなるため、ヒートショック耐性が低下してしまうことが懸念される。
【0004】
特許文献1には、絶縁基板の実装面(裏面)に設けられる裏面電極を、絶縁基板上にスクリーン印刷により形成される合成樹脂材料からなる応力緩和層と、応力緩和層上にスパッタにより形成される金属薄膜層との2層構造にしたチップ抵抗器が開示されている。このように構成されたチップ抵抗器は、回路基板に面実装されたときにヒートショックに晒されても、応力緩和層によって半田接合部に作用する熱応力が緩和されるため、ヒートショック耐性を有するチップ抵抗器となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のチップ抵抗器では、合成樹脂材料からなる応力緩和層の表面に金属薄膜層が形成されており、両者の界面における密着強度が低いため、電解メッキを施して外部電極を形成する段階で、メッキ材料の内部応力によって金属薄膜層が応力緩和層から剥離してしまう虞がある。また、絶縁基板の裏面上に形成された応力緩和層の大部分が金属薄膜層で覆われているため、応力緩和層による熱応力の緩和効果が金属薄膜層によって阻害されてしまうという課題もある。
【0007】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、ヒートショック耐性の高いチップ抵抗器およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明によるチップ抵抗器は、厚さ方向の互いに反対側に位置する搭載面と実装面を有する直方体形状の絶縁基板と、前記絶縁基板の前記搭載面における長手方向両端部に設けられた一対の上面電極と、前記一対の上面電極間を橋絡する抵抗体と、前記絶縁基板の前記実装面における長手方向両端部に設けられた一対の下面電極と、前記一対の下面電極上に積層された導電性粒子を含有する合成樹脂材料からなる一対の樹脂電極層と、前記一対の上面電極と前記一対の下面電極とを導通する一対の端面電極と、少なくとも前記一対の端面電極を覆うメッキ材料からなる一対の外部電極と、を備え、前記下面電極は、前記絶縁基板の前記実装面に薄膜形成された金属薄膜層からなると共に、前記樹脂電極層から露出する露出部を有しており、前記外部電極は、前記下面電極の前記露出部と前記樹脂電極層の表面全体とに接触している、ことを特徴としている。
【0009】
このように構成されたチップ抵抗器では、絶縁基板の実装面に電気抵抗率の低い金属薄膜層からなる下面電極が形成されていると共に、金属薄膜層に比べて電気抵抗率の高い樹脂電極層が下面電極の一部を露出させた状態で形成されているため、電解メッキを施して外部電極を形成する段階で樹脂電極層に流れる電流が安定し、メッキの膜厚を均一に形成することができる。その際、金属薄膜層からなる下面電極を樹脂電極層の外周のみに接続するのではなく、下面電極の一部に樹脂電極層が重なる積層構造となっているため、樹脂電極層の全面に均一な電流を流すことができ、しかも、電気抵抗率の低い下面電極の露出部から電気抵抗率の高い樹脂電極層へメッキが形成されるため、樹脂電極層上に形成されたメッキの剥離を防止することができる。
【0010】
したがって、金属薄膜層からなる下面電極と合成樹脂材料から樹脂電極層との界面における密着強度が低い場合であっても、樹脂電極層が金属薄膜層とメッキ材料(外部電極)とで挟まれた構成となるため、チップ抵抗器の完成品状態においても樹脂電極層の剥離が防止され、ヒートショック時の熱応力を樹脂電極層によって緩和することができる。さらに、熱伝導率の高い金属薄膜層が絶縁基板に直接接触しているため、チップ抵抗器を回路基板に実装した状態において、抵抗体で発生する熱が絶縁基板から金属薄膜層と半田接合部を介して回路基板側へ放熱され、放熱性に優れたチップ抵抗器を実現することができる。
【0011】
上記構成において、下面電極は少なくとも一部が樹脂電極層に覆われていない露出部となっていれば良いが、下面電極の露出部が樹脂電極層の外周を囲むようにチャンネル形状(コの字形状)に形成されていると、樹脂電極層から露出する下面電極の露出部が増えるため、放熱性を大きく向上させることができると共に、メッキを安定的に形成することができる。
【0012】
また、上記構成において、樹脂電極層に絶縁基板の端面側を開口する切欠部が形成されており、下面電極の露出部が樹脂電極層の外周側と切欠部内のそれぞれに形成されていると、メッキ形成をさらに安定化させることができるだけでなく、大判基板を一次分割溝に沿って短冊状基板に分割する際のブレーク性を高めることができる。
【0013】
また、上記構成において、樹脂電極層が絶縁基板の端面から離間する内方位置に形成されており、下面電極の露出部が樹脂電極層の全周を囲むように枠状に形成されていると、樹脂電極層から露出する下面電極の露出部が増えるため、メッキを安定的に形成することができる。
【0014】
この場合において、端面電極が絶縁基板の端部に塗布等により厚膜形成された導電性樹脂でも良いが、端面電極が絶縁基板の端面に向けて金属粒子をスパッタして形成された金属薄膜からなり、この金属薄膜によって下面電極の露出部少なくとも一部が覆われていることが好ましい。
【0015】
また、上記の目的を達成するために、本発明によるチップ抵抗器の製造方法は、絶縁基板の搭載面に抵抗体と該抵抗体の両端部に接続する上面電極を形成する工程と、前記絶縁基板における前記搭載面と反対側に位置する実装面の中央部に可溶性材料からなるマスクを形成する工程と、前記マスクから露出する前記実装面に金属粒子をスパッタして金属薄膜層からなる下面電極を形成する工程と、前記マスクを除去した後に、前記下面電極上に導電性粒子を含有する合成樹脂材料を印刷することにより、前記下面電極の一部を露出させた状態で樹脂電極層を形成する工程と、前記絶縁基板の端面に金属粒子をスパッタすることにより、前記上面電極と前記下面電極間を導通する端面電極を形成する工程と、前記端面電極の形成後に電解メッキを施すことにより、前記端面電極と前記下面電極の露出部および前記樹脂電極層の表面全体を覆う外部電極を形成する工程と、を含むことを特徴としている。
【0016】
このような工程を備えたチップ抵抗器の製造方法によれば、絶縁基板の実装面にマスクを形成した状態でスパッタにより下面電極を形成し、次いで超音波洗浄等を用いてマスクを除去した後、下面電極上に樹脂電極層を形成するという手順になるため、マスクを除去するのに必要とされる超音波洗浄等が樹脂電極層に悪影響を及ぼすことはなく、ヒートショック耐性の高いチップ抵抗器を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ヒートショック耐性の高いチップ抵抗器を提供することができ、そのようなチップ抵抗器の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態に係るチップ抵抗器の断面図である。
【
図2】第1実施形態に係るチップ抵抗器の裏面図である。
【
図3】該チップ抵抗器の製造工程を示す断面図である。
【
図4】該チップ抵抗器の製造工程を示す断面図である。
【
図5】該チップ抵抗器の製造工程を示すフローチャートである。
【
図6】該チップ抵抗器の実装状態を示す断面図である。
【
図7】第2実施形態に係るチップ抵抗器の断面図である。
【
図8】第2実施形態に係るチップ抵抗器の裏面図である。
【
図9】第3実施形態に係るチップ抵抗器の裏面図である。
【
図10】第4実施形態に係るチップ抵抗器の裏面図である。
【
図11】第5の実施形態に係るチップ抵抗器の裏面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0020】
図1は第1実施形態に係るチップ抵抗器10の断面図、
図2は第1実施形態に係るチップ抵抗器10の裏面図である。
【0021】
図1と
図2に示すように、第1実施形態に係るチップ抵抗器10は、厚さ方向の互いに反対側に位置する搭載面と実装面を有する直方体形状の絶縁基板1と、絶縁基板1の搭載面(
図1において上面)における長手方向両端部に形成された一対の上面電極2と、一対の上面電極2間を橋絡する抵抗体3と、抵抗体3を覆う2層構造の保護層4と、絶縁基板1の実装面(
図1において下面)における長手方向両端部に形成された一対の下面電極5と、これら下面電極5上に積層された一対の樹脂電極層6と、上面電極2と下面電極5とを電気的に接続する一対の端面電極7と、これら端面電極7を覆う一対の外部電極8とによって構成されている。
【0022】
絶縁基板1は、後述する大判基板を格子状に延びる分割溝に沿って分割して多数個取りされたものであり、絶縁基板1の原材料である大判基板は、アルミナ(Al2O3)を主成分とするセラミック基板からなる。
【0023】
一対の上面電極2は、Ag-Pd系ペーストを大判基板の表面にスクリーン印刷して乾燥・焼成させたものである。
【0024】
抵抗体3は、酸化ルテニウム等の抵抗体ペーストを大判基板の表面にスクリーン印刷して乾燥・焼成させたものである。抵抗体3の長手方向両端部は、一対の上面電極2と重なっている。なお、図示は省略するが、抵抗体3には抵抗値を調整するためのトリミング溝が形成されている。
【0025】
保護層4は、抵抗体3を覆うアンダーコート層4aと、アンダーコート層4aを覆うオーバーコート層4bとで構成されている。アンダーコート層4aは、ガラスペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成させたものである。オーバーコート層4bは、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等の樹脂ペーストをスクリーン印刷して加熱硬化(焼付け)させたものである。なお、アンダーコート層4aは抵抗体3にトリミング溝が形成される前に設けられ、オーバーコート層4bは抵抗体3にトリミング溝が形成された後に設けられる。
【0026】
一対の下面電極5は、大判基板の裏面にNi-CrやTi-NiやCuやNi-Cu等をスパッタすることによって形成された金属薄膜層である。
【0027】
一対の樹脂電極層6は、AgやNiやCu等の導電性粒子を含有する合成樹脂(例えばエポキシ樹脂やフェノール樹脂)ペーストを下面電極5上にスクリーン印刷して加熱硬化させたものである。下面電極5と樹脂電極層6は下面電極5の一部を除いて積層構造となっており、絶縁基板1の長辺に接する部分の下面電極5(
図2において上下両端部)は、それぞれ樹脂電極層6から露出する露出部5aとなっている。
【0028】
一対の端面電極7は、Ni-Cr等をスパッタすることによって形成されたものであり、絶縁基板1の端面を介して離間する上面電極2と下面電極5とを導通させている。なお、端面電極7は、絶縁基板1の端面寄りに位置する上面電極2の表面を覆い、それ以外の上面電極2の表面とオーバーコート層4bを覆うことなく露出させている。また、端面電極7は、絶縁基板1の端面寄りに位置する下面電極5の露出部5aと樹脂電極層6とを覆い、それ以外の露出部5aと樹脂電極層6の表面を露出させている。
【0029】
一対の外部電極8は、内側のバリヤ―層8aと外側の外部接続層8bとの2層構造からなり、そのうち、バリヤ―層8aは電解メッキにより形成されたNiメッキ層であり、外部接続層8bは電解メッキにより形成されたSnメッキ層である。外部電極8は、端面電極7の表面全体と、端面電極7から露出している上面電極2の表面と、端面電極7から露出している下面電極5の露出部5aと樹脂電極層6とを覆うように形成されている。
【0030】
次に、上記のごとく構成されたチップ抵抗器10の製造工程について、
図3~
図5を参照しながら説明する。なお、
図3と
図4はチップ抵抗器10の製造工程を示す断面図、
図5はチップ抵抗器10の製造工程を示すフローチャートである。
【0031】
まず、
図3(a)と
図5のステップS1に示すように、絶縁基板1が多数個取りされるシート状の大判基板1Aを準備する。この大判基板1Aには格子状に延びる一次分割溝と二次分割溝が設けられており、これら両分割溝で区切られたマス目の1つ1つが1個分のチップ形成領域となる。なお、
図3と
図4には1個のチップ形成領域に対応する断面図が示されているが、実際は多数個分のチップ形成領域に相当する大判基板に対して以下に説明する各工程が一括して行われる。
【0032】
すなわち、
図5のステップS2において、大判基板1Aの表面における二次分割溝で挟まれた領域内に、各一次分割溝を跨ぐようにAg-Pd系ペーストをスクリーン印刷し、これを乾燥・焼成することにより、
図3(b)に示すように、大判基板1Aの表面にチップ形成領域を挟んで対向する上面電極2を形成する。
【0033】
次に、
図5のステップS3において、大判基板1Aの表面に酸化ルテニウム等の抵抗体ペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成することにより、
図3(c)に示すように、対をなす上面電極2間に跨る抵抗体3を形成する。
【0034】
次に、
図5のステップS4において、ガラスペーストをスクリーン印刷して乾燥・焼成することにより、
図3(d)に示すように、抵抗体3を覆うアンダーコート層4aを形成する。しかる後、このアンダーコート層4aの上から抵抗体3に不図示のトリミング溝を形成して抵抗値を調整する。
【0035】
次に、
図5のステップS6において、アンダーコート層4aの上からエポキシ系樹脂ペーストをスクリーン印刷して加熱硬化することにより、
図3(e)に示すように、上面電極2の一部と抵抗体3の全体を覆うオーバーコート層4bを形成する。これらアンダーコート層4aとオーバーコート層4bにより、抵抗体3を被覆する2層構造の保護層4が形成される。
【0036】
次に、
図5のステップS6において、大判基板1Aの裏面における一次分割溝で挟まれた領域内に、各二次分割溝を跨ぐようにマスキングペーストをスクリーン印刷して乾燥することにより、
図4(f)に示すように、大判基板20Aの裏面における各チップ形成領域の中央部に帯状のマスク9を形成する。
【0037】
次に、
図5のステップS7において、大判基板1Aの裏面に向けてNi系合金(Ni-Cr、Ti-Ni、Ni-Cu等)やCu等の金属粒子をスパッタすることにより、
図4(g)に示すように、大判基板1Aの裏面における各チップ形成領域に一次分割溝を挟んで対向する下面電極5を形成する。このように下面電極5はスパッタによって大判基板1Aに形成された金属薄膜層であるため、大判基板(絶縁基板)1Aに対する下面電極5の密着性は高いものとなっている。
【0038】
次に、
図5のステップS8において、マスク9を超音波洗浄によって除去する。しかる後、
図5のステップS9において、下面電極5の上からエポキシ樹脂ペーストまたはフェノール樹脂ペーストをスクリーン印刷して加熱硬化(焼付け)することにより、
図4(h)に示すように、下面電極5に重なる樹脂電極層6を形成する。その際、樹脂電極層6を下面電極5に対して幾分小さめに形成することにより、下面電極5の二次分割溝寄りの両端部に樹脂電極層6から露出する露出部5aが形成される(
図2参照)。
【0039】
これまでの工程は大判基板1Aに対する一括処理であるが、次に、大判基板1Aを一次分割溝に沿って1次ブレイク(一次分割)して短冊状基板1Bを得る。
【0040】
しかる後、
図5のステップS10において、この短冊状基板1Bの分割面にNi-Crをスパッタすることにより、
図4(i)に示すように、短冊状基板1Bの両端面に上面電極2と下面電極5間を導通する端面電極7を形成する。なお、この端面電極7により、短冊状基板1Bの分割面寄りに位置する上面電極2の表面と、短冊状基板1Bの分割面寄りに位置する下面電極5の露出部5aおよび樹脂電極層6の表面がそれぞれ被覆される。
【0041】
次に、短冊状基板1Bを二次分割溝に沿って2次ブレイク(二次分割)することにより、チップ抵抗器10と同等の大きさのチップ単体10Cを得る。
【0042】
次に、
図5のステップS11において、個片化されたチップ単体1Cに対して電解Niメッキを施すことにより、上面電極2と端面電極7と樹脂電極層6および下面電極5の露出部5aを覆うバリヤ―層8aを形成する。このとき、チップ単体1Cの裏面(絶縁基板1の実装面)に電気抵抗率の低い金属薄膜層からなる下面電極5が形成されていると共に、金属薄膜層に比べて電気抵抗率の高い樹脂電極層6が下面電極5の一部を露出させた状態で形成されているため、電解メッキを施して外部電極8を形成する段階で樹脂電極層6に流れる電流が安定し、バリヤ―層8aのメッキ膜厚が均一に形成されると共に、電気抵抗率の低い下面電極5の露出部5aから電気抵抗率の高い樹脂電極層6へメッキが形成されるため、樹脂電極層6上にバリヤ―層8aを高い剥離強度を保った状態で形成することができる。
【0043】
しかる後、チップ単体1Cに対して電解Snメッキを施し、バリヤ―層8aの表面全体を覆う外部接続層8bを形成することにより、
図4(j)に示すように、バリヤ―層8aと外部接続層8bからなる2層構造の外部電極8が形成され、この時点で
図1と
図2に示すようなチップ抵抗器10が得られる。
【0044】
図5に示すように、このようにして製造されたチップ抵抗器10は、回路基板100のランド101上に絶縁基板1の実装面(裏面)を下に向けた姿勢で搭載され、一対の外部電極8を対応するランド101にそれぞれ半田102を介して接合することによって面実装される。
【0045】
かかる面実装時にチップ抵抗器10がヒートショックに晒されと、回路基板100の熱膨張率とチップ抵抗器10の絶縁基板1の熱膨張率との差に起因して熱応力が発生し、この熱応力が半田接合部に作用してクラックを生じさせてしまう虞がある。しかし、本実施形態に係るチップ抵抗器10では、合成樹脂材料からなる樹脂電極層6が下面電極5上に積層され、この樹脂電極層6が剥離し難い構造となっているため、ヒートショック時の熱応力を樹脂電極層6で緩和してクラックの発生を防止することができる。
【0046】
以上説明したように、第1実施形態に係るチップ抵抗器10では、絶縁基板1の実装面に電気抵抗率の低い金属薄膜層からなる下面電極5が形成されていると共に、金属薄膜層に比べて電気抵抗率の高い樹脂電極層6が下面電極5の一部を露出させた状態で形成されているため、電解メッキを施して外部電極8を形成する段階で樹脂電極層6に流れる電流が安定し、メッキの膜厚を均一に形成することができる。その際、金属薄膜層からなる下面電極5を樹脂電極層6の外周のみに接続するのではなく、下面電極5の露出部5aを除く部分に樹脂電極層6が部分的に重なる積層構造となっているため、樹脂電極層6の全面に均一な電流を流すことができ、しかも、電気抵抗率の低い下面電極5の露出部5aから電気抵抗率の高い樹脂電極層6へとメッキが形成されるため、樹脂電極層6上に形成されたメッキの剥離を防止することができる。
【0047】
したがって、金属薄膜層からなる下面電極5と合成樹脂材料から樹脂電極層6との界面における密着強度が低くても、樹脂電極層6が金属薄膜層(下面電極5)とメッキ材料(外部電極8)とで挟まれたサンドウィッチ構造となっているため、チップ抵抗器10の完成品状態においても樹脂電極層6の剥離が防止され、ヒートショック時の熱応力を樹脂電極層6によって確実に緩和することができる。さらに、熱伝導率の高い金属薄膜層からなる下面電極5が絶縁基板1に直接接触しているため、チップ抵抗器10を回路基板100に実装した状態において、抵抗体3で発生する熱が絶縁基板1から下面電極5と半田接合部を介して回路基板100側へ放熱され、放熱性に優れたチップ抵抗器10を実現することができる。
【0048】
さらに、チップ抵抗器10の製造工程において、絶縁基板1の実装面にマスク9を形成した状態でスパッタにより下面電極5を形成し、次いで超音波洗浄を用いてマスク9を除去した後、下面電極5上に樹脂電極層6を形成するという手順になるため、マスク9を除去する際に用いた超音波洗浄が樹脂電極層6に悪影響を及ぼすことはなく、ヒートショック耐性の高いチップ抵抗器10を容易に製造することができる。
【0049】
図7は第2実施形態に係るチップ抵抗器20の断面図、
図8は第2実施形態に係るチップ抵抗器20の裏面図であり、
図1と
図2に対応する部分には同一符号を付すことで重複する説明を省略する。
【0050】
第2実施形態に係るチップ抵抗器20が第1実施形態に係るチップ抵抗器10と相違する点は、下面電極5の露出部5aが絶縁基板1の短辺から最も離れた中央部寄りに形成されていることにあり、それ以外の構成は基本的に同じである。すなわち、樹脂電極層6は矩形状に形成された下面電極5の中央寄りの一辺を除く表面全体を覆うように形成されており、一対の下面電極5は互いの露出部5aを向かい合わせにした状態で絶縁基板1の実装面に形成されている。
【0051】
このように構成されたチップ抵抗器20においても、樹脂電極層6から露出する下面電極5の露出部5aの位置と形状が異なるだけで、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0052】
図9は第3実施形態に係るチップ抵抗器30の裏面図であり、端面電極7と外部電極8は省略してある。
【0053】
第3実施形態に係るチップ抵抗器30では、下面電極5が樹脂電極層6における絶縁基板1の短辺側を除く残り三辺から露出しており、下面電極5の露出部5aが樹脂電極層6の外周を囲むようにチャンネル形状(コの字形状)に形成されている。このような構成により、第1実施形態や第2実施形態に比べると、樹脂電極層6から露出する下面電極5の露出部5aが増えるため、放熱性を大きく向上させることができると共に、メッキを安定的に形成することができる。
【0054】
図10は第4実施形態に係るチップ抵抗器40の裏面図であり、端面電極7と外部電極8は省略してある。
【0055】
第4実施形態に係るチップ抵抗器40では、樹脂電極層6に絶縁基板1の端面側を開口する切欠部6aが形成されており、下面電極5の露出部5aが樹脂電極層6の外周側と切欠部6a内のそれぞれに形成されている。このような構成により、第3実施形態に比べると、樹脂電極層6から露出する下面電極5の露出部5aがさらに増えるため、メッキ形成をより安定化させることができる。また、大判基板1Aを一次分割溝に沿って短冊状基板1Bに一次分割する際、一次分割溝と接する樹脂電極層6の領域が切欠部6aによって減じられるため、短冊状基板1Bに一次分割する際のブレーク性を高めることができる。
【0056】
図11は第5実施形態に係るチップ抵抗器50の裏面図であり、端面電極7と外部電極8は省略してある。
【0057】
第5実施形態に係るチップ抵抗器50では、樹脂電極層6が絶縁基板1の端面から離間する内方位置に形成されており、下面電極5の露出部5aが樹脂電極層6の全周を囲むように枠状に形成されている。このような構成により、メッキを安定的に形成することができると共に、一次分割する際のブレーク性を高めることができる。また、短冊状基板1Bの分割面に向けてNi-Cr等の金属粒子をスパッタして端面電極7を形成する際に、スパッタ粒子が分割面に沿って延びる下面電極5の露出部5a上に形成されるため、下面電極5と端面電極7の導通性を安定化させることができる。
【0058】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。上記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【0059】
例えば、下面電極5の露出部5aが絶縁基板1の一方の長辺と接する位置だけに形成されるように構成したり、樹脂電極層6に絶縁基板1の端面と反対側を開口する切欠部を形成することにより、
図10に示す一対の下面電極5の形状が左右逆になるように形成しても良い。
【符号の説明】
【0060】
1 絶縁基板
1A 大判基板
1B 短冊状基板
1C チップ単体
2 上面電極
3 抵抗体
4 保護層
4a アンダーコート層
4b オーバーコート層
5 下面電極
5a 露出部
6 樹脂電極層
6a 切欠部
7 端面電極
8 外部電極
8a バリヤ―層
8b 外部接続層
9 マスク
100 回路基板
101 ランド
102 半田
10,20,30,40,50 チップ抵抗器