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特開2023-157579環境価値評価システム、環境価値評価方法、プログラム、及び記録媒体
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  • 特開-環境価値評価システム、環境価値評価方法、プログラム、及び記録媒体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157579
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】環境価値評価システム、環境価値評価方法、プログラム、及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/10 20120101AFI20231019BHJP
【FI】
G06Q50/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067571
(22)【出願日】2022-04-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年10月19日に公園緑地に掲載。令和3年10月6日に日本下水道新聞に掲載。令和3年8月31日に日本緑化工学会誌に掲載。令和3年9月4日に日本緑化工学会大会で発表。令和3年10月4日にウェブサイトに公開。令和3年10月4日にウェブサイトに公開。令和3年10月27日にウェブサイトに公開。令和3年10月4日にウェブサイトに公開。令和3年10月4日にウェブサイトに公開。令和3年10月7日にウェブサイトに公開。
(71)【出願人】
【識別番号】000221775
【氏名又は名称】東邦レオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】平林 聡
(72)【発明者】
【氏名】和田 清栄
(72)【発明者】
【氏名】中谷 美紗子
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC20
(57)【要約】
【課題】樹木の配置が地球環境にもたらす様々な環境価値を客観的かつ定量的に評価可能な、環境価値評価システム、環境価値評価方法、プログラム、及び記録媒体を提供すること。
【解決手段】本発明の環境価値評価システム1は、記憶手段10と、表示手段20と、プロット30手段と、評価手段40と、を備え、評価手段40が、測定エリアC内の樹木ポイントBを、樹木データベースAに紐づけ、樹木ポイントBごとの環境貢献情報A3を積算することで、環境価値Dを評価することを特徴とする。本発明の環境価値評価方法は、記憶ステップS1と、表示ステップS2と、プロットステップS3と、評価ステップS4と、を備えることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも樹種と、樹木サイズと、前記樹種及び前記樹木サイズ別の環境貢献情報と、を含む樹木データベースを記憶する、記憶手段と、
画面上に平面地図を表示する、表示手段と、
前記表示手段と接続し、前記平面地図上に、少なくとも樹種及び樹木サイズを設定した樹木ポイントをプロットする、プロット手段と、
前記表示手段及び前記記憶手段と接続し、前記平面地図上における測定エリア内の環境価値を評価する、評価手段と、を備え、
前記環境貢献情報が樹木の炭素/二酸化炭素吸収量情報を含み、
前記評価手段が、前記測定エリア内の前記樹木ポイントを、前記樹木データベースに紐づけ、前記樹木ポイントごとの前記環境貢献情報を積算することで、前記環境価値を評価することを特徴とする、
環境価値評価システム。
【請求項2】
前記環境貢献情報が更に樹木の雨水流出削減量情報を含むことを特徴とする、請求項1に記載の環境価値評価システム。
【請求項3】
前記環境貢献情報が更に樹木の大気汚染物質削減量情報を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の環境価値評価システム。
【請求項4】
前記表示手段と接続する、区画手段を更に備え、前記区画手段が、前記平面地図上に一定範囲の測定エリアを区画する、ことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の環境価値評価システム。
【請求項5】
前記樹木サイズが、樹木の樹高、樹木の幹径、樹木の樹冠幅、及び樹木の樹冠欠損率の少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の環境価値評価システム。
【請求項6】
前記表示手段と接続する、地図情報取得手段を更に備え、前記地図情報取得手段が、外部から地図情報を取得し、前記表示手段が、前記地図情報に基づいて画面上に前記平面地図を表示することを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の環境価値評価システム。
【請求項7】
少なくとも樹種と、樹木サイズと、前記樹種及び前記樹木サイズ別の環境貢献情報と、を含む樹木データベースを記憶する、記憶ステップと、
画面上に平面地図を表示する、表示ステップと、
前記平面地図上に、少なくとも樹種及び樹木サイズを設定した樹木ポイントをプロットする、プロットステップと、
前記平面地図上における測定エリア内の環境価値を評価する、評価ステップと、を備え、
前記環境貢献情報が樹木の炭素/二酸化炭素吸収量情報を含み、
前記評価ステップにおいて、前記測定エリア内の前記樹木ポイントを、前記樹木データベースに紐づけ、前記樹木ポイントごとの前記環境貢献情報を積算することで、前記環境価値を評価することを特徴とする、
環境価値評価方法。
【請求項8】
コンピューターを、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の環境価値評価システムとして機能させるための、
プログラム。
【請求項9】
請求項8に記載のプログラムを記録した、
コンピューター読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境価値評価システム、環境価値評価方法、プログラム、及び記録媒体に関し、特に、樹木の配置が地球環境にもたらす様々な環境価値を客観的かつ定量的に評価可能な、環境価値評価システム、環境価値評価方法、プログラム、及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の進行に伴い、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする「脱炭素社会」への移行が世界的な課題となっている。
我が国でも、令和2年10月に政府が「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロとして、脱炭素社会を実現することを目標に定めた。
これに伴い、2030年時点での温室効果ガスの削減目標(2013年度比)が、従来の26%から46%へと大幅に引き上げられ、自治体や企業には脱炭素へ向けたかつてないダイナミックな対応が迫られることとなった。
【0003】
現在、全国では400以上の自治体が脱炭素への取り組みを表明している。しかし「総論賛成各論反対」と表現されるように、緑化計画などの具体的な施策の決定の段階において、地域住民や企業等のステークホルダーからコンセンサスを得ることは容易でない。
その理由の一つとして、地域の緑化に伴って生じる環境価値を数値化・定量化することが容易でなく、ステークホルダーに対し、街路樹・公園緑地・植栽等の「みどり」が生み出す具体的な環境価値を提示できないことがあげられる。
このため、環境価値を適切に評価し、明確な数値としてステークホルダーに提示するための技術が求められている。
環境価値の評価に関し、特許文献1には、緑地を利用する者をその利用行動に基づいてクラスタ分解し、クラスタごとの環境価値と、環境価値に対する人間の評価に基づいて、心理的及び経済的な環境価値を求める、緑地評価システム及び緑地評価方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-31546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の緑地評価システムは、受益者に対するアンケート調査等の主観的な要素を評価基準とするため、評価結果に客観性に欠け、ステークホルダーへの説得力に乏しい。
また、緑地の価値を、仮想市場評価法による貨幣価値として間接的に評価するものであり、地球環境に直結する二酸化炭素削減量のような直接的な環境価値を評価することができない。
更に、緑地の評価結果は、緑化計画などの施策の採否を決める判断基準として利用できるものの、その緑地の環境への貢献を利用して、具体的に何を達成できるか、という二次的な分析に活用することができない。
【0006】
本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決するための、環境価値評価システム、環境価値評価方法、プログラム、及び記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の環境価値評価システムは、少なくとも樹種と、樹木サイズと、樹種及び樹木サイズ別の環境貢献情報と、を含む樹木データベースを記憶する、記憶手段と、画面上に平面地図を表示する、表示手段と、表示手段と接続し、平面地図上に、少なくとも樹種及び樹木サイズを設定した樹木ポイントをプロットする、プロット手段と、表示手段及び記憶手段と接続し、測定エリア内の環境価値を評価する、評価手段と、を備え、環境貢献情報が樹木の炭素/二酸化炭素吸収量情報を含み、評価手段が、測定エリア内の樹木ポイントを、樹木データベースに紐づけ、樹木ポイントごとの環境貢献情報を積算することで、環境価値を評価することを特徴とする。
【0008】
本発明の環境価値評価システムは、環境貢献情報が更に樹木の雨水流出削減量情報を含んでいてもよい。
【0009】
本発明の環境価値評価システムは、環境貢献情報が更に樹木の大気汚染物質削減量情報を含んでいてもよい。
【0010】
本発明の環境価値評価システムは、表示手段と接続する、区画手段を更に備え、区画手段が、平面地図上に一定範囲の測定エリアを区画してもよい。
【0011】
本発明の環境価値評価システムは、樹木サイズが、樹木の樹高、樹木の幹径、樹木の樹冠幅、及び樹木の樹冠欠損率の少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0012】
本発明の環境価値評価システムは、表示手段と接続する、地図情報取得手段を更に備え、地図情報取得手段が、外部から地図情報を取得し、表示手段が、地図情報に基づいて画面上に平面地図を表示してもよい。
【0013】
本発明の環境価値評価方法は、少なくとも樹種と、樹木サイズと、樹種及び樹木サイズ別の環境貢献情報と、を含む樹木データベースを記憶する、記憶ステップと、画面上に平面地図を表示する、表示ステップと、平面地図上に、少なくとも樹種及び樹木サイズを設定した樹木ポイントをプロットする、プロットステップと、平面地図上における測定エリア内の環境価値を評価する、評価ステップと、を備え、環境貢献情報が樹木の炭素/二酸化炭素吸収量情報を含み、評価ステップにおいて、測定エリア内の樹木ポイントを、樹木データベースに紐づけ、樹木ポイントごとの環境貢献情報を積算することで、環境価値を評価することを特徴とする。
【0014】
本発明のプログラムは、コンピューターを、本発明の環境価値評価システムとして機能させることを特徴とする。
【0015】
本発明のコンピューター読み取り可能な記録媒体は、本発明のプログラムを記録したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の環境価値評価システム及び環境価値評価方法は、評価者の主観ではなく、科学的観測に基づく客観的な数値を評価基準とするため、評価結果の客観性が高く、ステークホルダーへの説得力が高い。
また、評価結果を、間接的な貨幣価値ではなく、地球環境に直接影響する炭素吸収量、雨水流出削減量、大気汚染物質削減量等の数値として表示できるため、評価の有効性が高く、評価結果の適用範囲が広い。
更に、評価結果を施策の採否の判断基準に使用するだけでなく、その評価結果を用いて具体的にどのような数値目標を達成できるか、例えば「どの種類の樹木を何本植えることで、〇年後までに、二酸化炭素排出量を〇%削減できるか」等を明らかすることができる。
また、樹木の本数、樹種、樹木の配置等の異なる複数のシナリオをシミュレーションして、数値比較することができるため、現在価値の評価だけでなく、将来の政策決定の基礎資料に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る環境価値評価システムの機能ブロック図。
図2】本発明に係る環境価値評価システムの物理的構成の説明図。
図3A】表示手段及びプロット手段の説明図。
図3B】区画手段及び評価手段の説明図。
図4A】シミュレーション機能の説明図(1)。
図4B】シミュレーション機能の説明図(2)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の環境価値評価システム、環境価値評価方法、プログラム、及び記録媒体について詳細に説明する。
なお、環境価値評価方法については、環境価値評価システムの説明の中で、各構成要素の機能として説明する。
本発明において「樹木」とは、木本と草本を含む意味で使用する。
【実施例0019】
[環境価値評価システム]
<1>全体の構成(図1
本発明の環境価値評価システム1は、測定エリアC内における樹木の環境価値Dを評価するシステムである。
環境価値評価システム1は、記憶手段10と、表示手段20と、表示手段20と電気的に接続するプロット手段30と、記憶手段10及び表示手段20と電気的に接続する評価手段40と、を少なくとも備える。
本例では更に、表示手段20と電気的に接続する区画手段50と、評価手段40と電気的に接続する出力手段60と、表示手段20と電気的に接続する地図情報取得手段70と、を備える。
本発明の環境価値評価システム1は、樹木1本1本の環境貢献情報A3を積み上げて、測定エリアC内全体の環境価値Dを評価可能な点に一つの特徴を有する。
【0020】
<1.1>物理的構成(図2
環境価値評価システム1は、物理的には主に中央処理装置(CPU)、記憶装置等を備えたサーバXを中心に構成される。
本例では、環境価値評価システム1を、インターネットを介したクライアント=サーバ型システムとして構成し、記憶手段10及び評価手段40をネットワーク上のサーバXに設置し、表示手段20、プロット手段30、及び区画手段50をクライアント側のパソコンYからWebブラウザで利用可能に設定し、出力手段60をプリンタZに設置する。
ただし環境価値評価システム1の具体的構成はこれに限らず、クラウドシステム、又はオンプレミス(社内構築)のシステムとして構築してもよい。
また、環境価値評価システム1は、コンピューターによって読み取り可能な記憶媒体、例えばハードディスク(HD)、光ディスク、光磁気ディスク、MO、CD-ROM、CD-R、CD-RW、メモリカード等、に格納したプログラムによって、コンピューターを機能させることによって実施する構成としてもよい。
【0021】
<2>記憶手段
記憶手段10は、樹木データベースAを記憶する構成要素である。
記憶手段10は、キーボードやマウス等の任意の入力手段によって、記憶装置内に樹木データベースAを記憶する(記憶ステップS1)。
【0022】
<2.1>樹木データベース
樹木データベースAは、多数の樹木の環境貢献情報A3を記録したデータベースである。
樹木データベースAは、少なくとも樹種A1と、樹木サイズA2と、環境貢献情報A3と、を含む。詳細には、樹木データベースAは、多数の樹木データからなり、各樹木データは、樹種A1と、樹木サイズA2と、樹種A1と樹木サイズA2に対応した環境貢献情報A3を有する。
本例では、樹木データが樹木の本数単位からなる。ただしこれに限らず、所定の本数の樹木群単位からなってもよい。
樹種A1は、樹木の種類である。本例では、樹種A1が、日本の植生に基づく樹木、例えば、クスノキやカシ等の常緑広葉樹や、ブナやミズナラ等の落葉広葉樹等を含む。
樹種A1によって光合成の能力、樹冠の厚み、樹冠の表面積等の環境貢献情報A3に寄与する特質が異なるため、これを区分する。
樹木サイズA2は、樹木の大きさである。本例では、樹木サイズA2が、樹木の樹高、樹木の幹径(幹の直径)、樹木の樹冠幅(樹冠の最大幅)、及び樹木の樹冠欠損率(樹木の樹冠形状において枝葉が欠けている割合)を含む。
環境貢献情報A3は、樹木の環境への貢献を表す定量的な情報である。本例では、環境貢献情報A3が、樹木の炭素吸収量情報A31、雨水流出削減量情報A32、及び大気汚染物質削減量情報A33を含む。
ただしこれに限らず、環境貢献情報A3は、上記の内一種類又は任意の二種類の組み合わせであってもよい。
あるいは、環境に貢献する上記以外の定量的な情報、例えば建物が樹木の日陰になることによって冷房の使用頻度を減らすエネルギー削減量、剪定枝をバイオマス燃料として活用することによるエネルギー価値の情報、樹木の茂った環境によるストレスレベルの低下や血圧の安定などの健康的価値の情報等を含んでもよい。
【0023】
<2.1.1>炭素/二酸化炭素吸収量情報
炭素/二酸化炭素吸収量情報A31は、樹木が吸収・貯蔵する炭素量の情報である。
樹木は、葉の光合成によって、二酸化炭素を吸収して酸素を放出し、吸収後には炭素を樹木内に貯蔵することにより、環境へ貢献する。これらの環境への貢献を、炭素/二酸化炭素吸収量情報A31として定量化する。
炭素/二酸化炭素吸収量情報A31は、例えば、一年間の炭素吸収量(kg/年)と、炭素貯蔵量(kg)の組み合わせからなる。
炭素吸収量と炭素貯蔵量は、樹種A1と樹木サイズA2によって異なる。
例えば、クスノキやカシ等の樹木の種類によって炭素吸収量は異なり、また、同じ樹種A1であれば、樹冠幅が大きく樹冠欠損率が小さい方が光合成の面積が大きくなるため炭素吸収量が高くなる。
【0024】
<2.1.1.1>炭素貯蔵量の設定
炭素貯蔵量は、例えば、個別の樹木について樹種と樹木サイズに基づきバイオマス量を推定することで算出することができる。
詳細には、例えば次のような手順で算出する。
樹木の部分的なサイズから樹木全体の重量を推定する、複数のアロメトリー式を作成し、樹種を元に適用するアロメトリー式を決定する。
決定したアロメトリー式に、樹木の幹の太さ、樹高、樹冠の大きさを代入し、樹木全体のバイオマス量を推定する。ここで、例えば常緑樹は幹と葉から、落葉樹は幹のみから推定することができる。
推定バイオマス量に一定の比率(例えば0.5)をかけて、樹木が貯蔵している炭素量を算出する。
【0025】
<2.1.1.2>炭素吸収量の設定
炭素吸収量は、例えば、前年の炭素貯蔵量と次年の炭素貯蔵量の差から算出することができる。
詳細には、例えば次のような手順で算出する。
樹木の成長期間、光環境、健康状態等を元に、樹木の年間成長率を決定する。例えば光環境と健康状態が良好であるほど年間成長率は高くなる。
樹木の炭素貯蔵量に年間成長率をかけて一年後の炭素貯蔵量を算出する。
この一年間の炭素貯蔵量の差、すなわち次年の炭素貯蔵量から前年の炭素貯蔵量引いた量を年間の炭素吸収量(固定量)と算出することができる。
【0026】
<2.1.2>雨水流出削減量情報
雨水流出削減量情報A32は、一定期間に樹木が下水道や河川への流出を削減する雨水量の情報である。
降雨時、雨水が樹木の葉に付着してそのまま樹冠上で蒸発することで、地表面に落ちる雨水の量が減る。また、樹木の下方はコンクリートではなく土壌であるため、樹木の葉から地表面に落ちた水は土壌に浸透し、樹木の根から吸い上げられる。
以上の機能により、樹木は、下水道や河川へ流出する雨水の流出量を軽減することで環境へ貢献する。これらの環境への貢献を、雨水流出削減量情報A32として定量化する。
雨水流出削減量情報A32は、例えば、葉の上で蒸発する雨水量である樹冠遮断量(m/年)と、土壌から吸い上げる雨水量である雨水浸透量(m/年)の組み合わせからなる。
樹冠遮断量と雨水浸透量は、樹種A1と樹木サイズA2によって異なる。
例えば、樹冠幅が大きく樹冠欠損率が小さい方が雨水を付着する面積が大きくなるため樹冠遮断量が高くなる。また、幹径が太いほど土壌から吸い上げる雨水の量が増えるため、雨水浸透量が高くなる。
【0027】
<2.1.2.1>樹冠遮断量の設定
樹冠遮断量は、例えば、実際の気象データと葉面積の密度に基づいて算出することができる。
詳細には、例えば次のような手順で算出する。
対象地の気象データから降雨量や蒸発量などの値を算出する。
対象地の人工衛星画像データから、単位土地面積当たりに存在する葉面積の総和を表す、葉面積指数(LAI)を算出する。
降雨量等をLAIで割ることで単位面積当たりの樹冠遮断量を算出する。
【0028】
<2.1.2.2>雨水浸透量の設定
雨水浸透量は、例えば、実際の気象データと樹冠遮断量から算出することができる。
詳細には、対象地の気象データから降雨量の値を算出し、降雨量から樹冠遮断量を除いて地上に落ちる雨水の量を算出し、地上に落ちる雨水の量から地中へ浸透する雨水の量を算出する。
【0029】
<2.1.3>大気汚染物質削減量情報
大気汚染物質削減量情報A33は、一定期間に樹木が削減する大気中の汚染物質量の情報である。
ここで大気汚染物質とは、例えば、一酸化炭素(CO)、二酸化窒素(NO)、二酸化硫黄(SO)、オゾン(O)、小粒子状物質(PM2.5)等の人体に有害な物質である。
樹木は、大気中の汚染物質を葉の気孔や表面に付着し、葉と一体に落葉させて除去することで、環境に貢献する。この環境への貢献を、大気汚染物質削減量情報A33として定量化する。
大気汚染物質削減量情報A33は、例えば大気汚染物質削減量(kg/年)からなる。
大気汚染物質削減量は、樹種A1と樹木サイズA2によって異なる。
例えば、樹冠幅が大きく樹冠欠損率が小さい方が汚染物質を付着する面積が大きくなるため大気汚染物質削減量が高くなる。
【0030】
<2.1.3.1>大気汚染物質削減量の設定
大気汚染物質削減量は、例えば、実際の気象データと大気汚染物質濃度観測データ、葉面積の密度に基づいて算出することができる。
詳細には、例えば次のような手順で算出する。
対象地の人工衛星画像データから葉面積指数(LAI)を算出する。
対象地の気象データとLAIから、大気汚染物質の葉への沈着速度を算出する。
対象地の大気汚染物質濃度観測データと沈着速度から、樹冠被覆あたりの大気汚染物質削減量を算出する。
【0031】
<3>表示手段(図3A
表示手段20は、平面地図を表示する構成要素である。
表示手段20は、サーバX内のプログラムに基づき、ディスプレイ上に平面地図を表示する(表示ステップS2)。本例では、クライアント側のパソコンYのディスプレイに表示する。また、本例では、ディスプレイ上における平面地図の側方に、評価手段40が評価した環境価値Dを表示するペイン(pane)を表示する。
平面地図は、現実の地理を適宜の縮尺で平面状に表示した地図である。
本例では平面地図として、地形図上に建物や道路、鉄道等を記載した住宅地図を採用する。
本例では、表示手段20が、後述する地図情報取得手段70が外部から取得した評価対象地域の地図情報Fに基づいて、平面地図を表示する。
【0032】
<4>プロット手段(図3A
プロット手段30は、平面地図上に樹木ポイントBをプロットする構成要素である。
プロット手段30は、例えばパソコンYのマウスやキーボードの操作により、ディスプレイに表示された平面地図上に、複数の樹木ポイントBをプロットする(プロットステップS3)。
樹木ポイントBは、例えば平面地図上に樹木を象徴したアイコンとして表示してもよい。
また、平面地図上の樹木ポイントBにカーソルを合わせることで、当該樹木ポイントBの単木に関する樹木データ(樹種A1、樹木サイズA2、及び環境貢献情報A3)がポップアップウィンドウに表示されるような構成としてもよい。
【0033】
<4.1>樹木ポイント
樹木ポイントBは、平面地図上における樹木の位置を表すポイントである。
ここで「樹木の位置」とは、現実の位置に限らず、シミュレーション用に設定する仮想上の位置を含む。
樹木ポイントBは、少なくとも樹種B1及び樹木サイズB2を有する。
すなわち、プロット手段30によって、平面地図上に樹木ポイントBをプロットする際には、各樹木ポイントBにその樹木の樹種B1と樹木サイズB2を設定する。
樹種B1は、樹木の種類である。
樹木サイズB2は、樹木の大きさである。本例では、樹木サイズB2が、樹木の樹高、樹木の幹径、樹木の樹冠幅、及び樹木の樹冠欠損率を含む。
樹木ポイントBの樹種B1及び樹木サイズB2の区分は、樹木データベースAの樹種A1及び樹木サイズA2に対応させる。
【0034】
<5>区画手段(図3B
区画手段50は、平面地図上に測定エリアCを区画する構成要素である。
測定エリアCは、環境価値Dの評価対象となる一定の地域を区画するエリアである。本例では平面地図上を複数の直線で囲った内側の地域を測定エリアCとする。
区画手段50は、例えばパソコンYのマウスによるドラッグ操作や座標の入力等により、ディスプレイに表示された平面地図上に、ポリゴン(多角形)状の測定エリアCを区画する(区画ステップ)。
ただし、区画手段50は必須の構成要素ではなく、例えば平面地図の内、ディスプレイZ上に表示される範囲を自動的に測定エリアCと設定する構成であってもよい。
【0035】
<6>評価手段(図3B
評価手段40は、測定エリアC内の環境価値Dを評価する構成要素である。
評価手段40は、測定エリアC内に存在する各樹木ポイントBを、記憶手段10内の樹木データベースAと照合し、各樹木ポイントBにおける樹種B1と樹木サイズB2に対応する環境貢献情報A3を検索・取得し、これから数値情報である環境価値Dを算出する(評価ステップS5)。
樹木データベースAの検索・取得には、例えばSQL(Sequential Query Language)で記述したクエリを用いることができる。
本例では樹木データベースAが、炭素吸収量情報A31、雨水流出削減量情報A32、及び大気汚染物質削減量情報A33を含むため、環境価値Dもそれぞれ、炭素吸収量価値D1、雨水流出削減量価値D2、及び大気汚染物質削減量価値D3からなる。
評価手段40は、各環境価値DをパソコンYのディスプレイ上に表示する。
各環境価値Dは個別に表示してもよいし、一定の重みづけにより点数化して合算した値として表示してもよい。
【0036】
<7>出力手段
出力手段60は、環境価値Dを環境価値報告Eとしてアウトプットする構成要素である。
出力手段60は、例えば、環境価値Dを所定のフォーマットに落とし込んで環境価値報告Eを生成し、プリンタZにより紙ベースの報告書としてプリントアウトする(出力ステップ)。
ただし環境価値報告Eの出力は、報告書のプリントアウトに限らず、例えばPDFデータやCSVデータによる環境価値Dのデータ出力等であってもよい。
【0037】
<8>地図情報取得手段
地図情報取得手段70は、外部から地図情報Fを取得する構成要素である。
本例では、業務用に公開されたウェブマッピングプラットフォームを利用し、このプラットフォームから取得した地図情報Fに基づいて、画面上に平面地図を表示する。
外部のウェブマッピングプラットフォームを利用することで、交通や地形の変更に対応して更新された最新の地図情報Fをリアルタイムに利用することができる。
ただし、地図情報取得手段70は必須の構成要素ではなく、表示手段20が、外部ではなくサーバX内に記憶してある地図情報Fに基づいて平面地図を表示する構成であってもよい。
【0038】
<9>環境価値評価方法
本発明の環境価値評価方法は、少なくとも記憶ステップS1と、表示ステップS2と、プロットステップS3と、評価ステップS4と、を備える。
環境価値評価方法は、本発明の環境価値評価システム1の操作によって実行することができる。
各ステップの詳細は、環境価値評価システム1の説明における各構成要素の機能として説明済みなのでここでは再述しない。
【0039】
<10>シミュレーション機能
本発明の環境価値評価システム1は、環境価値Dを定量化して評価するシステムであるため、樹木の樹種、本数、又は配置等を入れ替えてシミュレーションすることができる。
シミュレーションは例えば以下の手順で行う。
表示手段20の平面地図上に、現実の樹木ポイントBをプロットし、測定エリアC内の環境価値Dを評価する(現実データ)。現実データはサーバX内に記憶する。
続いて現実データと同一の測定エリアC内において、例えば新たに植樹する樹木の樹木ポイントBを追加し、撤去する樹木の樹木ポイントBを削除して、環境価値Dを再評価する(仮想データ)。
仮想データにおいて、環境価値Dの現実データからの増減値を計算して、ディスプレイに表示する(図4A)。
このように、例えば部分的に樹木を増やしつつ一部を撤去するようなケースであっても、植樹によって増加する環境価値Dと撤去によって減少する環境価値Dを通算して、定量的に比較することができる。
また、同様にして、樹種、本数、又は配置等の異なる複数の仮想データ(シナリオ1、シナリオ2)を設定し、各シナリオが環境に与える環境価値Dを数字で評価して比較することができる。具体的には、例えば一定の環境価値Dを達成するために、どのような植栽プラン(樹種や本数の組み合わせ)を採用すれば最適であるかを比較検討することができる。
なお、シミュレーション前後の複数のデータは、ディスプレイ上に並列して表示してもよい(図4B)。
【符号の説明】
【0040】
1 環境価値評価システム
10 記憶手段
20 表示手段
30 プロット手段
40 評価手段
50 区画手段
60 出力手段
70 地図情報取得手段
A 樹木データベース
A1 樹種
A2 樹木サイズ
A3 環境貢献情報
A31 炭素/二酸化炭素吸収量情報
A32 雨水流出削減量情報
A33 大気汚染物質削減量情報
B 樹木ポイント
B1 樹種
B2 樹木サイズ
C 測定エリア
D 環境価値
D1 炭素吸収量価値
D2 雨水流出削減量価値
D3 大気汚染物質削減量価値
E 環境価値報告
F 地図情報
S1 記憶ステップ
S2 表示ステップ
S3 プロットステップ
S4 評価ステップ
X サーバ
Y パソコン
Z プリンタ
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B