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特開2023-157605炭素繊維前駆体用処理剤及び炭素繊維前駆体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157605
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】炭素繊維前駆体用処理剤及び炭素繊維前駆体
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/224 20060101AFI20231019BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20231019BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20231019BHJP
   D06M 13/256 20060101ALI20231019BHJP
   D06M 13/262 20060101ALI20231019BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20231019BHJP
【FI】
D06M13/224
D06M13/17
D06M15/53
D06M13/256
D06M13/262
D06M101:40
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067616
(22)【出願日】2022-04-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】松永 拓也
(72)【発明者】
【氏名】大島 啓一郎
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA09
4L033AB01
4L033AC09
4L033BA14
4L033BA21
4L033BA28
4L033CA48
(57)【要約】
【課題】耐炎化繊維の毛羽を低減できる炭素繊維前駆体用処理剤及び炭素繊維前駆体を提供する。
【解決手段】本発明の炭素繊維前駆体用処理剤は、グリセリンと、下記の脂肪酸(X)を含む脂肪酸と、のエステル化合物(A1)を含む平滑剤(A)、及び(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)を含有し、炭素繊維前駆体用処理剤中におけるエステル化合物(A1)由来の脂肪酸の全質量に対するエステル化合物(A1)由来の炭素数16以上24以下の脂肪酸の全質量の割合が50質量%以上であることを特徴とする。脂肪酸(X):炭素数16以上24以下の脂肪酸。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンと、下記の脂肪酸(X)を含む脂肪酸と、のエステル化合物(A1)を含む平滑剤(A)、及び(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)を含有し、
下記の数式1から求められる脂肪酸(X)の構成割合が、50質量%以上であることを特徴とする炭素繊維前駆体用処理剤。
脂肪酸(X):炭素数16以上24以下の脂肪酸。
【数1】
【請求項2】
前記数式1から求められる脂肪酸(X)の構成割合が、70質量%以上である請求項1に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項3】
前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)が、一価以上三価以下のアルコールと炭素数16以上24以下の一価脂肪酸とのエステル化合物に対し炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドを付加させた化合物を含む請求項1に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項4】
前記平滑剤(A)、及び前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤(A)を10質量%以上90質量%以下、及び前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)を10質量%以上90質量%以下の割合で含有する請求項1に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項5】
更に、縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)を含有する請求項1に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項6】
前記平滑剤(A)、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)、及び前記縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤(A)を9.9質量%以上89.9質量%以下、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)を10質量%以上90質量%以下、及び前記縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)を0.1質量%以上50質量%以下の割合で含有する請求項5に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項7】
更に、イオン性成分(D)を含有する請求項1に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項8】
更に、縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)及びイオン性成分(D)を含有する請求項1に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項9】
前記平滑剤(A)、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)、前記縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)、及び前記イオン性成分(D)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤(A)を9.9質量%以上89.9質量%以下、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)を9.9質量%以上89.9質量%以下、前記縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)を0.1質量%以上50質量%以下、及び前記イオン性成分を0.1質量%以上10質量%以下の割合で含有する請求項8に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤が付着していることを特徴とする炭素繊維前駆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐炎化繊維の毛羽を低減できる炭素繊維前駆体用処理剤及びそれにより得られた炭素繊維前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、炭素繊維は、例えばマトリックス樹脂と組み合わせた炭素繊維複合材料又は難燃・防炎素材として、建材、輸送機器等の各分野において広く利用されている。例えば、炭素繊維は、炭素繊維前駆体として例えばアクリル繊維を紡糸する工程、繊維を延伸する工程、耐炎化工程、及び炭素化工程を経て製造される。炭素繊維前駆体には、炭素繊維前駆体の紡糸工程において集束性を付与するために、炭素繊維前駆体用処理剤が用いられることがある。
【0003】
従来、特許文献1に開示される炭素繊維前駆体用処理剤が知られている。特許文献1は、水酸基を有する脂肪族ヒドロキシ化合物にアルキレンオキサイドを付加重合したポリオキシアルキレンブロック共重合体、炭素数12~22の脂肪酸残基を有するグリセライドを主成分とする油脂等、所定のポリオキシエチレングリコールアルケニルエーテル等を所定の比率で含有するアクリル系合成繊維用処理剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-88654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の炭素繊維前駆体用処理剤は、炭素繊維前駆体用処理剤が付与された炭素繊維前駆体を耐炎化処理した後の耐炎化繊維の毛羽の低減効果が不十分であるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、所定のエステル化合物及び(ポリ)オキシアルキレン誘導体を含有する炭素繊維前駆体用処理剤がまさしく好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の炭素繊維前駆体用処理剤では、グリセリンと、下記の脂肪酸(X)を含む脂肪酸と、のエステル化合物(A1)を含む平滑剤(A)、及び(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)を含有し、下記の数式1から求められる脂肪酸(X)の構成割合が、50質量%以上であることを要旨とする。
【0008】
脂肪酸(X):炭素数16以上24以下の脂肪酸。
【0009】
【数1】
前記炭素繊維前駆体用処理剤において、前記数式1から求められる脂肪酸(X)の構成割合が、70質量%以上であってもよい。
【0010】
前記炭素繊維前駆体用処理剤において、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)が、一価以上三価以下のアルコールと炭素数16以上24以下の一価脂肪酸とのエステル化合物に対し炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドを付加させた化合物を含んでもよい。
【0011】
前記炭素繊維前駆体用処理剤において、前記平滑剤(A)、及び前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤(A)を10質量%以上90質量%以下、及び前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)を10質量%以上90質量%以下の割合で含有してもよい。
【0012】
前記炭素繊維前駆体用処理剤において、更に、縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)を含有してもよい。
前記炭素繊維前駆体用処理剤において、前記平滑剤(A)、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)、及び前記縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤(A)を9.9質量%以上89.9質量%以下、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)を10質量%以上90質量%以下、及び前記縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)を0.1質量%以上50質量%以下の割合で含有してもよい。
【0013】
前記炭素繊維前駆体用処理剤において、更に、イオン性成分(D)を含有してもよい。
前記炭素繊維前駆体用処理剤において、更に、縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)及びイオン性成分(D)を含有してもよい。
【0014】
前記炭素繊維前駆体用処理剤において、前記平滑剤(A)、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)、前記縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)、及び前記イオン性成分(D)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤(A)を9.9質量%以上89.9質量%以下、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)を9.9質量%以上89.9質量%以下、前記縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)を0.1質量%以上50質量%以下、及び前記イオン性成分を0.1質量%以上10質量%以下の割合で含有してもよい。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の炭素繊維前駆体は、前記炭素繊維前駆体用処理剤が付着していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、炭素繊維前駆体用処理剤が付与された炭素繊維前駆体を耐炎化処理した後の耐炎化繊維の毛羽を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
以下、本発明の炭素繊維前駆体用処理剤(以下、単に処理剤ともいう)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の処理剤は、下記のエステル化合物(A1)を含む平滑剤(A)、及び(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)を含有する。
【0018】
(平滑剤(A))
本実施形態に供される平滑剤(A)は、グリセリンと、下記の脂肪酸(X)を含む脂肪酸と、のエステル化合物(A1)が含まれる。脂肪酸(X)は、炭素数16以上24以下の脂肪酸である。エステル化合物(A1)を構成する脂肪酸としては、公知のものを適宜採用でき、飽和脂肪酸であっても、不飽和脂肪酸であってもよい。また、直鎖状のものであっても、分岐鎖構造を有するものであってもよい。また、脂肪酸は、一価のカルボン酸であっても、多価カルボン酸であってもよい。また、水酸基を有するオキシカルボン酸であってもよい。
【0019】
飽和脂肪酸の具体例としては、例えばヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、エイコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラコサン酸等が挙げられる。不飽和脂肪酸の具体例としては、例えばパルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、エイコセン酸、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、アラキドン酸等が挙げられる。オキシカルボン酸の具体例としては、例えばリシノール酸等が挙げられる。
【0020】
エステル化合物(A1)は、下記の数式から求められる脂肪酸(X)の構成割合が、50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上である。かかる数値範囲に規定することにより、本発明の効果をより向上できる。
【0021】
【数2】
エステル化合物(A1)の具体例としては、例えばヒマシ油(上記数式の値は100質量%)、ナタネ油(上記数式の値は100質量%)、ゴマ油(上記数式の値は100質量%)、パーム油(上記数式の値は99質量%)、アマニ油(上記数式の値は100質量%)、ヒマワリ油(上記数式の値は100質量%)、グリセリンと、リシノール酸及び他の脂肪酸とのエステル化合物であって上記数式の値が50質量%以上のもの、グリセリンと、パルミチン酸及び他の脂肪酸とのエステル化合物であって上記数式の値が50質量%以上のもの、グリセリンと、オレイン酸及び他の脂肪酸とのエステル化合物であって上記数式の値が50質量%以上のもの等が挙げられる。
【0022】
これらのエステル化合物(A1)は、一種を使用してもよく、また二種以上を組み合わせて使用してもよい。
処理剤中におけるエステル化合物(A1)の含有割合の下限は、適宜設定されるが、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。かかる含有割合が5質量%以上の場合、処理剤が付与された炭素繊維前駆体を耐炎化処理した後の耐炎化繊維の毛羽をより低減できる。かかるエステル化合物(A1)の含有割合の上限は、適宜設定されるが、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。かかる含有割合が90質量%以下の場合、処理剤の安定性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0023】
平滑剤(A)は、本発明の効果を阻害しない範囲内においてエステル化合物(A1)以外のその他の平滑成分を含んでもよい。その他の平滑成分としては、特に制限されず、処理剤に用いられる公知の平滑剤を用いることができる。公知の平滑剤としては、例えばシリコーン油、鉱物油、ポリオレフィン、上記以外のエステル化合物等が挙げられる。なお、シリコーン油は、使用により焼成炉の汚染が生ずる場合がある。そのため、処理剤中におけるシリコーン油は、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、配合しないことがさらに好ましい。平滑剤(A)中におけるエステル化合物(A1)の含有割合は、本発明の効果を阻害しない範囲内において適宜設定されるが、例えば50質量%以上100質量%以下、80質量%以上100質量%以下である。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0024】
これらの平滑剤(A)は、一種を使用してもよく、また二種以上を組み合わせて使用してもよい。
((ポリ)オキシアルキレン誘導体(B))
本実施形態に供される(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)は、界面活性剤として処理剤の安定性を向上させることにより処理剤としての各機能を向上させる。
【0025】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)としては、例えばアルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有するもの、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有するエーテル・エステル化合物、アミン化合物として脂肪族アミン類にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有するもの、脂肪酸アミド類にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有するもの、ポリオキシエチレン鎖とポリオキシプロピレン鎖とのブロック共重合体等が挙げられる。
【0026】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソペンタデカノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0027】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば、(1)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(2)2-エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(3)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(4)安息香酸等の芳香族系カルボン酸、(5)レシノール酸等のヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
【0028】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)の(ポリ)オキシアルキレン構造を形成する原料として用いられるアルキレンオキサイドとしては、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドが好ましい。アルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1モル以上250モル以下、より好ましくは1モル以上200モル以下、さらに好ましくは2モル以上150モル以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中における付加対象化合物1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。アルキレンオキサイドは、一種類のアルキレンオキサイドを単独で使用してもよいし、又は二種以上のアルキレンオキサイドを適宜組み合わせて使用してもよい。アルキレンオキサイドが二種類以上適用される場合、それらの付加形態は、ブロック付加、ランダム付加、及びブロック付加とランダム付加の組み合わせのいずれでもよく、特に制限はない。
【0029】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)の原料として用いられる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0030】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)の原料として用いられる脂肪族アミンの具体例として、例えばメチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、オクタデシルアミン、オクタデセニルアミン、ヤシアミン等が挙げられる。
【0031】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)の原料として用いられる脂肪酸アミドの具体例としては、例えばオクチル酸アミド、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、ベヘン酸アミド、リグノセリン酸アミド等が挙げられる。
【0032】
ポリオキシエチレン鎖とポリオキシプロピレン鎖とのブロック共重合体は、親水性の低いポリオキシプロピレン鎖及び親水性の高いポリオキシエチレン鎖を有し、界面活性作用を有するものであれば特に限定されない。分子中におけるポリオキシエチレン鎖とポリオキシプロピレン鎖の数は特に限定されず、例えば1つのポリオキシプロピレン鎖と1つのポリオキシエチレン鎖からなるブロック共重合体であってもよく、ポリオキシプロピレン鎖とそれを挟む2つのポリオキシエチレン鎖からなるポロキサマー系界面活性剤であってもよい。ポリオキシエチレン鎖を形成するエチレンオキサイドの付加モル数は特に限定されず、例えば5モル以上200モル以下が挙げられる。ポリオキシプロピレン鎖を形成するプロピレンオキサイドの付加モル数は特に限定されず、例えば5モル以上100モル以下が挙げられる。
【0033】
これらの中で一価アルコール又は三価以下の多価アルコールと、炭素数16以上24以下の一価脂肪酸とのエステル化合物に対し炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドを付加させた化合物が好ましい。かかる化合物を使用することにより、処理剤の安定性をより向上できる。
【0034】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)の具体例としては、例えばω-ヒドロキシ(ポリオキシエチレン)(n=7:エチレンオキサイドの付加モル数を示す(以下同じ))ヒマシ油、ω-ヒドロキシ(ポリオキシエチレン)(n=20)硬化ヒマシ油、ヒドロキシ(ポリオキシプロピレンポリオキシエチレン)(m=13:プロピレンオキサイドの付加モル数を示す(以下同じ)、n=10)ヒマシ油、ヒドロキシ(ポリオキシプロピレンポリオキシエチレン)(m=12、n=12)硬化ヒマシ油、ヒマシ油1モル当たりエチレンオキサイドを200モルの割合で付加重合した油脂エチレンオキサイド付加物、α-ドデシル-ω-ヒドロキシ(ポリオキシエチレン)(n=7)、エチレングリコールにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをブロック状に付加重合した数平均分子量5000のポリオキシアルキレンブロック共重合体であって、そのポリオキシアルキレン基がオキシエチレン単位/オキシプロピレン単位=30/70(モル比)の割合から成るものであるポリオキシアルキレンブロック共重合体、エチレングリコールにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをブロック状に付加重合した数平均分子量10000のポリオキシアルキレンブロック共重合体であって、そのポリオキシアルキレン基がオキシエチレン単位/オキシプロピレン単位=70/30(モル比)の割合から成るものであるポリオキシアルキレンブロック共重合体、オキシエチレン単位の繰り返し数が20であるポリオキシエチレングリコールオクタデセニルエーテル等が挙げられる。
【0035】
これらの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)は、一種類の(ポリ)オキシアルキレン誘導体を単独で使用してもよいし、又は二種以上の(ポリ)オキシアルキレン誘導体を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0036】
処理剤中において、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)の含有割合の下限は、適宜設定されるが、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。かかる含有割合が5質量%以上の場合、処理剤の安定性をより向上できる。かかる(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)の含有割合の上限は、適宜設定されるが、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。かかる含有割合が95質量%以下の場合、処理剤が付与された炭素繊維前駆体を耐炎化処理した後の耐炎化繊維の毛羽をより低減できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0037】
処理剤中において、平滑剤(A)及び(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、平滑剤(A)を10質量%以上90質量%以下、及び(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)を10質量%以上90質量%以下の割合で含有することが好ましい。かかる範囲に規定することにより、本発明の効果をより向上できる。
【0038】
(縮合ヒドロキシ脂肪酸(C))
本実施形態に供される縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)は、処理剤が付与された炭素繊維前駆体を耐炎化処理した後の耐炎化繊維の集束性を向上できる。
【0039】
縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)は、例えば原料としてヒドロキシ脂肪酸の一種又は二種以上の混合物を窒素ガス等の不活性ガスの気流下で、100℃以上200℃以下で30分以上12時間以下の条件で脱水縮合反応することにより得られる。ヒドロキシ脂肪酸の具体例としては、例えば12-ヒドロキシ-9-オクタデセン酸(リシノール酸)、12-ヒドロキシステアリン酸、16-ヒドロキシヘキサデカン酸(ユニペリン酸)、18-ヒドロキシオクタデカン酸、9-ヒドロキシステアリン酸、10-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシデカン酸(サビニン酸)、9,10-ジヒドロキシオクタデカン酸、ヒマシ油脂肪酸、水素添加ヒマシ油脂肪酸等を挙げられる。縮合ヒドロキシ脂肪酸の縮合度は、適宜設定されるが、好ましくは2量体以上6量体以下である。
【0040】
縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)の具体例としては、例えば縮合12-ヒドロキシステアリン酸6量体、縮合ヒマシ油脂肪酸2量体、縮合ヒマシ油脂肪酸3量体、縮合ヒマシ油脂肪酸4量体、縮合ヒマシ油脂肪酸5量体、縮合ヒマシ油脂肪酸6量体等が挙げられる。
【0041】
これらの縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)は、一種類の縮合ヒドロキシ脂肪酸を単独で使用してもよいし、又は二種以上の縮合ヒドロキシ脂肪酸を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0042】
処理剤中において、縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)の含有割合の下限は、適宜設定されるが、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。かかる含有割合が0.1質量%以上の場合、処理剤が付与された炭素繊維前駆体を耐炎化処理した後の耐炎化繊維の集束性をより向上できる。かかる縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)の含有割合の上限は、適宜設定されるが、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。かかる含有割合が60質量%以下の場合、処理剤の安定性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0043】
処理剤中において、平滑剤(A)、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)、及び縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)の含有割合の合計を100質量%とすると、平滑剤(A)を9.9質量%以上89.9質量%以下、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)を10質量%以上90質量%以下、及び縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)を0.1質量%以上50質量%以下の割合で含有することが好ましい。かかる範囲に規定することにより、本発明の効果をより向上できる。
【0044】
(イオン性成分(D))
本実施形態に供されるイオン性成分(D)は、処理剤が付与された炭素繊維前駆体を耐炎化処理した後の耐炎化繊維の集束性を向上できる。また、耐炎化繊維の制電性を向上できる。イオン性成分(D)としては、例えばアニオン成分、カチオン成分等が挙げられる。
【0045】
アニオン成分としては、陰イオン性化合物を示し、例えば酸、その塩等が挙げられる。
酸としては、例えば無機酸、有機酸、脂肪酸、アルキルスルホン酸、アルキル硫酸、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸、アルキルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル、脂肪酸の硫酸エステル、油脂の硫酸エステル、それらの塩等が挙げられる。
【0046】
無機酸又はその塩の具体例としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、炭酸、硫酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0047】
有機酸の具体例としては、例えばクエン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、グルコン酸、グルクロン酸、安息香酸等が挙げられる。
脂肪酸としては、公知のものを適宜採用でき、飽和脂肪酸であっても、不飽和脂肪酸であってもよい。また、直鎖状のものであっても、分岐鎖構造を有するものであってもよい。また、一価の脂肪酸であっても、多価カルボン酸(多塩基酸)であってもよい。
【0048】
飽和脂肪酸の具体例としては、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸(カプロン酸)、オクチル酸(2-エチルヘキサン酸)、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、エイコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラコサン酸等が挙げられる。
【0049】
不飽和脂肪酸の具体例としては、例えばクロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、エイコセン酸、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、アラキドン酸等が挙げられる。
【0050】
多価カルボン酸(多塩基酸)の具体例としては、例えば(1)コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、セバシン酸等の二塩基酸、(2)アコニット酸等の三塩基酸、(3)安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、(4)トリメリット酸等の芳香族トリカルボン酸、(5)ピロメリット酸等の芳香族テトラカルボン酸等が挙げられる。
【0051】
アルキルスルホン酸の具体例としては、例えばラウリルスルホン酸(ドデシルスルホン酸)、ミリスチルスルホン酸、セチルスルホン酸、オレイルスルホン酸、ステアリルスルホン酸、テトラデカンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、二級アルキルスルホン酸(C13~15)等が挙げられる。
【0052】
アルキル硫酸の具体例としては、例えばラウリル硫酸エステル、オレイル硫酸エステル、ステアリル硫酸エステル等が挙げられる。
ポリオキシアルキレンアルキル硫酸の具体例としては、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステル、ポリオキシアルキレン(ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン)ラウリルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸エステル等が挙げられる。
【0053】
アルキルリン酸エステルの具体例としては、例えばラウリルリン酸エステル、セチルリン酸エステル、オクチルリン酸エステル、オレイルリン酸エステル、ステアリルリン酸エステル、2-エチルヘキシルフォスフェート等が挙げられる。
【0054】
ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステルの具体例としては、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンセチルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸エステル等が挙げられる。
【0055】
脂肪酸の硫酸エステルの具体例としては、例えばひまし油脂肪酸硫酸エステル、ごま油脂肪酸硫酸エステル、トール油脂肪酸硫酸エステル、大豆油脂肪酸硫酸エステル、なたね油脂肪酸硫酸エステル、パーム油脂肪酸硫酸エステル、豚脂脂肪酸硫酸エステル、牛脂脂肪酸硫酸エステル、鯨油脂肪酸硫酸エステル等が挙げられる。
【0056】
油脂の硫酸エステルの具体例としては、例えばひまし油の硫酸エステル、ごま油の硫酸エステル、トール油の硫酸エステル、大豆油の硫酸エステル、菜種油の硫酸エステル、パーム油の硫酸エステル、豚脂の硫酸エステル、牛脂の硫酸エステル、鯨油の硫酸エステル等が挙げられる。
【0057】
塩としては、例えばアンモニウム塩、アミン塩、金属塩等が挙げられる。金属塩としては、例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が挙げられる。アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属の具体例としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられる。アルカリ土類金属塩を構成するアルカリ土類金属としては、第2族元素に該当する金属、例えばカルシウム、マグネシウム、ベリリウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。
【0058】
アミン塩を構成するアミンは、1級アミン、2級アミン、及び3級アミンのいずれであってもよい。アミン塩を構成するアミンの具体例としては、例えば、(1)メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N-N-ジイソプロピルエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、2-メチルブチルアミン、トリブチルアミン、オクチルアミン、ジメチルラウリルアミン等の脂肪族アミン、(2)アニリン、N-メチルベンジルアミン、ピリジン、モルホリン、ピペラジン、これらの誘導体等の芳香族アミン類又は複素環アミン、(3)モノエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、オクチルジエタノールアミン、ラウリルジエタノールアミン等のアルカノールアミン、(4)N-メチルベンジルアミン等のアリールアミン、(5)ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステリルアミノエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル、(6)アンモニア等が挙げられる。
【0059】
なお、例えば上述したアニオン成分のうち脂肪酸の金属塩等は、アニオン界面活性剤を構成する。そのためアニオン成分としてアニオン界面活性剤を適用してもよい。
カチオン成分としては、例えばカチオン界面活性剤、有機アミン等が挙げられる。
【0060】
カチオン界面活性剤の具体例としては、例えばラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、1,2-ジメチルイミダゾール等が挙げられる。
【0061】
有機アミンの具体例としては、例えば、(1)メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N-N-ジイソプロピルエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、2-メチルブチルアミン、トリブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ジメチルラウリルアミン等の脂肪族アミン、(2)アニリン、N-メチルベンジルアミン、ピリジン、モルホリン、ピペラジン、これらの誘導体等の芳香族アミン類又は複素環アミン、(3)モノエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、オクチルジエタノールアミン、ラウリルジエタノールアミン等のアルカノールアミン、(4)3-アミノプロペン等のアリールアミン、(5)N,N-ビス(ポリオキシエチレン)ドデカンアミン(n=10)、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステリルアミノエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル等が挙げられる。
【0062】
これらのイオン性成分(D)は、一種類のイオン性成分を単独で使用してもよいし、又は二種以上のイオン性成分を適宜組み合わせて使用してもよい。
処理剤中において、イオン性成分(D)の含有割合の下限は、適宜設定されるが、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。かかる含有割合が0.05質量%以上の場合、処理剤が付与された炭素繊維前駆体を耐炎化処理した後の耐炎化繊維の集束性をより向上できる。かかるイオン性成分(D)の含有割合の上限は、適宜設定されるが、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。かかる含有割合が15質量%以下の場合、処理剤の安定性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0063】
処理剤中において、平滑剤(A)、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)、縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)、及びイオン性成分(D)の含有割合の合計を100質量%とすると、平滑剤(A)を9.9質量%以上89.9質量%以下、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)を9.9質量%以上89.9質量%以下、縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)を0.1質量%以上50質量%以下、及びイオン性成分を0.1質量%以上10質量%以下の割合で含有することが好ましい。かかる範囲に規定することにより、本発明の効果をより向上できる。
【0064】
上記第1実施形態の処理剤によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1-1)第1実施形態の処理剤では、グリセリンと、炭素数16以上24以下の脂肪酸(X)を含む脂肪酸と、のエステル化合物(A1)を含む平滑剤(A)、及び(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)を含有する。そして、上記数式から求められる脂肪酸(X)の構成割合を50質量%以上に規定した。したがって、処理剤が付与された炭素繊維前駆体を耐炎化処理した後の耐炎化繊維の毛羽を低減できる。また、かかる耐炎化繊維の集束性を向上できる。また、処理剤の安定性を向上させることにより、処理剤としての各機能を向上できる。
【0065】
(1-2)第1実施形態の処理剤では、平滑剤としてシリコーン油を必須成分として配合しない。シリコーン油は、使用により焼成炉の汚染が生ずる場合がある。そのため、処理剤がシリコーン油を配合しない場合、焼成炉の汚染を低減できる。また、平滑剤としてシリコーン油を配合しなくとも、上述した毛羽を低減できるとともに、集束性を向上できる。
【0066】
<第2実施形態>
次に、本発明に係る炭素繊維前駆体を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の炭素繊維前駆体は、第1実施形態の処理剤が付着している。
【0067】
炭素繊維前駆体としては、後述する炭素化処理工程を経ることにより炭素繊維となる合成繊維であることが好ましい。炭素繊維前駆体を構成する繊維原料としては、特に限定されないが、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレンテレフタラート、ポリ乳酸エステル等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、(5)セルロース系繊維、(6)リグニン系繊維、(7)フェノール樹脂、(8)ピッチ等が挙げられる。さらに、ポリアクリル系繊維としては、少なくとも90モル%以上のアクリロニトリルと、10モル%以下の耐炎化促進成分とを共重合させて得られるポリアクリロニトリルを主成分とする繊維から構成されることが好ましい。耐炎化促進成分としては、例えばアクリロニトリルに対して共重合性を有するビニル基含有化合物が好適に使用できる。
【0068】
第1実施形態の処理剤を炭素繊維前駆体に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤(溶媒を含まない)を炭素繊維前駆体に対し0.1質量%以上2質量%以下となるように付着させることが好ましく、0.3質量%以上1.2質量%以下となるように付着させることがより好ましい。
【0069】
処理剤を炭素繊維前駆体に付着させる方法としては、例えば、第1実施形態の処理剤及び溶媒を含有する処理剤含有組成物、又はさらに溶媒で希釈した希釈液の形態で、公知の方法、例えば浸漬法、スプレー法、ローラー法、計量ポンプを用いたガイド給油法等によって付着させる方法を適用できる。
【0070】
次に、本実施形態の炭素繊維前駆体を用いた炭素繊維の製造方法について説明する。
炭素繊維の製造方法は、下記の工程1~3を経ることが好ましい。
工程1:炭素繊維前駆体となる原料を紡糸するとともに、第1実施形態の処理剤を付着させる紡糸工程。
【0071】
工程2:前記工程1で得られた炭素繊維前駆体を好ましくは200℃以上300℃以下、より好ましくは230℃以上270℃以下の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程。
【0072】
工程3:前記工程2で得られた耐炎化繊維をさらに好ましくは300℃以上2000℃以下、より好ましくは300℃以上1300℃以下の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程。
【0073】
なお、上記工程2と工程3とによって焼成工程が構成されるものとする。
処理剤は、紡糸工程のどの段階で炭素繊維前駆体の原料繊維に付着させてもよいが、延伸工程前に一度付着させておくことが好ましい。さらに延伸工程後のどの段階で再度付着させてもよい。例えば、延伸工程直後に再度付着させてもよいし、巻取り段階で再度付着させてもよいし、耐炎化処理工程の直前に再度付着させてもよい。
【0074】
耐炎化処理工程における酸化性雰囲気は、特に限定されず、例えば、空気雰囲気を採用することができる。
炭素化処理工程における不活性雰囲気は、特に限定されず、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空雰囲気等を採用することができる。
【0075】
上記第2実施形態の炭素繊維前駆体によれば、以下のような効果を得ることができる。
(2-1)第2実施形態の炭素繊維前駆体では、第1実施形態の処理剤が付着している。したがって、炭素繊維前駆体を耐炎化処理した後の耐炎化繊維の毛羽を低減できる。それにより、糸品質を向上できる。また、耐炎化繊維の集束性を向上できる。それにより、焼成工程においてローラーへの巻き付きを低減させ、製造効率を向上できる。
【0076】
上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記実施形態、及び、以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・本実施形態の処理剤には、縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)及びイオン性成分(D)のいずれか一方のみを配合してもよく、両方配合してもよい。
【0077】
・上述した処理剤、処理剤含有組成物、及び希釈液は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、品質保持のための安定化剤や制電剤、上記以外の油性成分、上記以外の界面活性剤、帯電防止剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤等の通常用いられる成分を含有してもよい。なお、溶媒以外のその他成分は、本発明の効能を効率的に発揮する観点から処理剤中において20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【実施例0078】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0079】
試験区分1(処理剤及び希釈液の調製)
(実施例1)
実施例1の処理剤は、平滑剤(A)としてヒマシ油(A-1)を60部(%)及びヒマワリ油(A-6)を20部(%)、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)としてω-ヒドロキシ(ポリオキシエチレン)(n=7)ヒマシ油(B-1)を14部(%)、縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)として縮合12-ヒドロキシステアリン酸6量体(C-1)を5部(%)、イオン性成分(D)としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(D-1)を1部(%)をビーカーに加えてよく混合し、実施例1の処理剤を調製した。次に、撹拌を続けながら固形分濃度が25%となるようイオン交換水を徐々に添加し、実施例1の処理剤25%の処理剤含有組成物を調製した。
【0080】
(実施例2~19、比較例1~7)
実施例2~19及び比較例1~7の各処理剤は、表1に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調製した。
【0081】
各例の処理剤中における平滑剤(A)の種類と含有量、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)の種類と含有量、縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)の種類と含有量、イオン性成分(D)の種類と含有量は、表1の「平滑剤(A)」欄、「(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)」欄、「縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)」欄、「イオン性成分(D)」欄に示すとおりである。なお、平滑剤(A-7)~(A-9)に含まれる各エステル化合物(A1)は、下記に示される方法で合成した。
【0082】
試験区分2(平滑剤(A-7)~(A-9)の合成)
(平滑剤(A-7))
温度計、真空ポンプ、窒素導入管、撹拌機、及び冷却トラップを取り付けた2Lの4つ口フラスコに、グリセリンを92.1gと、ラウリン酸160.3g、リシノール酸617.1gを入れた。次いで、触媒としてp-トルエンスルホン酸一水和物を3.3gと50%のホスフィン酸水溶液1.1gを仕込んだ。この4つ口フラスコをオイルバスで加熱し、窒素気流下、130℃で2時間反応させた後、150℃、2kPaで12時間反応させた。反応で生成した水は系外へと留去させた。反応終了後の酸価は3.5mgKOH/gであった。反応液を60℃まで冷却した後、残留脂肪酸と酸触媒を完全に中和できる量の5%水酸化ナトリウム水溶液を反応液に加えて30分間撹拌した。撹拌下の反応液に、反応液量に対して100%のイオン交換水を加えて、さらに30分間撹拌した。撹拌を止めた後、1時間静置して下層に分離した水層を除去した。次に、反応液量に対しての100%のイオン交換水を加えて60℃で10分間撹拌して、2時間静置した後、分離した水層を除去する操作を2回繰り返した。その後、100℃、2kPaで脱水した。得られた粗生成物に2%の吸着剤として活性白土を加え、80℃、5kPaの条件で1時間撹拌した後、吸着剤を除去することでエステル化合物を得た。このエステル化合物を平滑剤(A-7)とした。このエステル化合物を構成する脂肪酸の割合は、ラウリン酸27%、リシノール酸73%であった。
【0083】
なお、得られたエステル化合物を構成する脂肪酸の割合は、下記の方法で測定した。
<検量線の作成>
各サンプルの脂肪酸比率を質量に換算する為に、任意の量だけ各種脂肪酸と標準物質としてマルガリン酸を添加したサンプルを作成した。日本油化学会編「基準油脂分析試験法」中のメチルエステル化法(三フッ化ホウ素メタノール法)に準拠して、脂肪酸メチルエステルを調製した。調製したサンプルを下記の条件でガスクロマトグラフィーにて分析した。
【0084】
<ガスクロマトグラフィーの分析条件>
装置:島津製作所社製 GC-2010Plus
カラム:DB-1 30m×0.25mm×0.25μm(Agilent J&W社製)
キャリアガス:窒素1mL/min
インジェクター:Split(1:50)、T=300℃
ディテクター:FID、T=300℃
オーブン温度:50℃、10min保持→5℃/min昇温→280℃、10min
ガスクロマトグラフィーの結果から、各種脂肪酸メチルの濃度とピーク面積比の検量線を作成した。
【0085】
<平滑剤の脂肪酸比率測定>
フラスコに平滑剤1gと2N水酸化ナトリウム-メタノール溶液100mlを加え、60℃のウォーターバスで加熱し、30分撹拌することでケン化分解を実施した。ケン化分解したサンプルは室温まで冷却後、分液ロートに投入した。液量に対しての100%のイオン交換水を加えて2時間静置した後、分離した水層を除去する操作を2回繰り返した。その後、100℃、2kPaで脱水し、脂肪酸を得た。得られた脂肪酸に標準物質として、任意の量のマルガリン酸を添加したサンプルを作成した。作成したサンプルを日本油化学会編「基準油脂分析試験法」中のメチルエステル化法(三フッ化ホウ素メタノール法)に準拠して、脂肪酸メチルエステルサンプルを調製した。調製した脂肪酸メチルエステルサンプルを上記の条件でガスクロマトグラフィーにて分析した。得られたガスクロマトグラフィーの結果から、標準物質と各種脂肪酸メチルエステルのピーク面積比を求めることで、各脂肪酸の組成比を計算した。
【0086】
(平滑剤(A-8))
原料として、グリセリン92.1部と、オクタン酸144.2部及びパルミチン酸512.8部を使用した以外、平滑剤(A-7)と同様に合成した。平滑剤(A-8)に含まれるエステル化合物を構成する脂肪酸の割合を下記表2に示す。
【0087】
(平滑剤(A-9))
原料として、グリセリン92.1部と、ラウリン酸300.5部及びオレイン酸423.8部を使用した以外、平滑剤(A-7)と同様に合成した。平滑剤(A-9)に含まれるエステル化合物を構成する脂肪酸の割合を下記表2に示す。
【0088】
【表1】
表1に記載する平滑剤(A)、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B)、縮合ヒドロキシ脂肪酸(C)、イオン性成分(D)の詳細は以下のとおりである。
【0089】
(平滑剤(A))
A-1:ヒマシ油
A-2:ナタネ油
A-3:ゴマ油
A-4:パーム油
A-5:アマニ油
A-6:ヒマワリ油
A-7:グリセリンと、ラウリン酸及びリシノール酸とのエステル化合物(脂肪酸の構成比率は、ラウリン酸27%、リシノール酸73%)
A-8:グリセリンと、カプリル酸及びパルミチン酸とのエステル化合物(脂肪酸の構成比率は、カプリル酸33%、パルミチン酸67%)
A-9:グリセリンと、ラウリン酸及びオレイン酸とのエステル化合物(脂肪酸の構成比率は、ラウリン酸50%、オレイン酸50%)
rA-1:ヤシ油
rA-2:パーム核油
A-1~A-9、rA-1、rA-2の各平滑剤(A)に含まれるエステル化合物(A1)を構成する脂肪酸の構成割合(%)を下記表2の「脂肪酸」欄に示す。また、エステル化合物(A1)を構成する脂肪酸の全質量に対する炭素数16以上24以下の脂肪酸(X)の割合(%)を、表2の「脂肪酸(X)の構成割合」欄に示す。
【0090】
【表2】
((ポリ)オキシアルキレン誘導体(B))
B-1:ω-ヒドロキシ(ポリオキシエチレン)(n=7)ヒマシ油
B-2:ω-ヒドロキシ(ポリオキシエチレン)(n=20)硬化ヒマシ油
B-3:ヒドロキシ(ポリオキシプロピレンポリオキシエチレン)(m=13、n=10)ヒマシ油
B-4:ヒドロキシ(ポリオキシプロピレンポリオキシエチレン)(m=12、n=12)硬化ヒマシ油
B-5:ヒマシ油1モル当たりエチレンオキサイドを200モルの割合で付加重合した油脂エチレンオキサイド付加物
B-6:α-ドデシル-ω-ヒドロキシ(ポリオキシエチレン)(n=7)
B-7:エチレングリコールにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをブロック状に付加重合した数平均分子量5000のポリオキシアルキレンブロック共重合体であって、そのポリオキシアルキレン基がオキシエチレン単位/オキシプロピレン単位=30/70(モル比)の割合から成るものであるポリオキシアルキレンブロック共重合体
B-8:エチレングリコールにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをブロック状に付加重合した数平均分子量10000のポリオキシアルキレンブロック共重合体であって、そのポリオキシアルキレン基がオキシエチレン単位/オキシプロピレン単位=70/30(モル比)の割合から成るものであるポリオキシアルキレンブロック共重合体
B-9:オキシエチレン単位の繰り返し数が20であるポリオキシエチレングリコールオクタデセニルエーテル
(縮合ヒドロキシ脂肪酸(C))
C-1:縮合12-ヒドロキシステアリン酸6量体
C-2:縮合ヒマシ油脂肪酸4量体及び5量体の混合物
C-3:縮合ヒマシ油脂肪酸6量体
C-4:縮合ヒマシ油脂肪酸2量体
rc-1:ジエチレントリアミンのジステアリン酸アミド1モル当たりエチレンオキサイドを7モルの割合で付加重合したポリオキシアルキレン変性脂肪酸アミド
rc-2:ヒマシ油脂肪酸
rc-3:12-ヒドロキシステアリン酸
rc-4:イソステアリン酸
(イオン性成分(D))
D-1:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
D-2:2-エチルヘキシルホスフェートカリウム
D-3:酢酸カリウム
D-4:N,N-ビス(ポリオキシエチレン)(n=10)ドデカンアミン酢酸塩
D-5:ポリオキシエチレングリコール(オキシエチレン単位の繰り返し数16)モノセチルエーテルリン酸エステルカリウム塩であって、モノリン酸エステル塩/ジリン酸エステル塩=1/1(モル比)の割合から成る有機リン酸エステル塩
試験区分3(炭素繊維前駆体及び炭素繊維の製造)
試験区分1で調製した処理剤を含有する希釈液を用いて、炭素繊維前駆体及び炭素繊維を製造した。
【0091】
まず、工程1として、アクリル樹脂を湿式紡糸した。具体的には、アクリロニトリル95%、アクリル酸メチル3.5%、メタクリル酸1.5%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解してポリマー濃度が21.0%、60℃における粘度が500ポイズの紡糸原液を作成した。紡糸原液は、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。
【0092】
凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランド(炭素繊維前駆体)を作成した。試験区分1で調製した処理剤含有組成物をさらにイオン交換水で希釈し、処理剤4%の希釈液を調製した。このアクリル繊維ストランドに対して、固形分付着量が1%(溶媒を含まない)となるように、4%希釈液を浸漬法により給油した。その後、アクリル繊維ストランドに対して、130℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、更に170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に巻き取り装置を用いて糸管に炭素繊維前駆体を巻き取った。
【0093】
次に、工程2として、巻き取られた炭素繊維前駆体から糸を解舒し、230~270℃の温度勾配を有する耐炎化炉で空気雰囲気下1時間、耐炎化処理した後に、搬送用ローラーを経由して糸管に巻き取ることで耐炎化糸(耐炎化繊維)を得た。
【0094】
次に、工程3として、巻き取られた耐炎化糸から糸を解舒し、窒素雰囲気下で300~1300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維に転換後、糸管に巻き取ることで炭素繊維を得た。
【0095】
試験区分4(評価)
各実施例及び比較例の処理剤の安定性、耐炎化繊維の毛羽及び集束性を評価した。各試験の手順について以下に示す。
【0096】
(毛羽)
耐炎化繊維について、巻き取り装置の直前に設置した毛羽計数装置により測定した。1時間当たりの毛羽数を以下の基準で評価した。試験結果を表1の「毛羽」欄に示す。
【0097】
・毛羽の評価基準
◎◎(優れる):毛羽数が0個以上5個以下
◎(良好):毛羽数が6個以上10個以下
○(可):毛羽数が11個以上20個以下
×(不可):毛羽数が21個以上
(集束性)
耐炎化繊維について、巻き取り前の集束状態を目視で観察して、以下の基準で集束性の評価を行った。試験結果を表1の「集束性」欄に示す。
【0098】
・集束性の評価基準
◎◎(優れる):集束しており、トウ幅が一定である場合
◎(良好):概ね集束しているが、トウ幅が時々一定でなくなる場合
○(可):概ね集束しているが、トウ幅が一定ではない場合
×(不可):繊維束中に空間があり、集束していない場合
(安定性)
処理剤を製造した後、100mlの縦長の沈降管に100g入れた。25℃で72時間静置した際の外観を目視で観察するとともに、処理剤の上層と下層の濃度差を測定し、以下の基準で安定性の評価を行った。濃度差は、処理剤の上面に近い部分と、沈降管の底部に近い部分から一定量採取し、105℃2時間で乾燥させた。得られた固形分より濃度を求めた。試験結果を表1の「安定性」欄に示す。
【0099】
・安定性の評価基準
◎◎◎(非常に優れる):静置しても外観に変化はみられない場合
◎◎(優れる):分離が見られ、上層と下層の濃度差が5%以下あるが、撹拌すれば元に戻る場合
◎(良好):分離が見られ、上層と下層の濃度差が5%を超え10%以下あるが、撹拌すれば元に戻る場合
○(可):分離が見られ、上層と下層の濃度差が10%を超えるが、撹拌すれば元に戻る場合
×(不可):分離が見られ、撹拌しても元に戻らない場合
表1の結果から、本発明によれば、耐炎化繊維の毛羽の低減効果及び集束性を向上できる。また、処理剤の安定性を向上できる。