▶ 竹本油脂株式会社の特許一覧
特開2023-157606無機繊維用サイジング剤含有組成物及び無機繊維の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157606
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】無機繊維用サイジング剤含有組成物及び無機繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 15/59 20060101AFI20231019BHJP
D06M 101/40 20060101ALN20231019BHJP
【FI】
D06M15/59
D06M101:40
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067617
(22)【出願日】2022-04-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】濱島 暁
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA09
4L033AB01
4L033AC12
4L033CA55
(57)【要約】
【課題】無機繊維用サイジング剤により得られる皮膜の耐熱性向上と、水を含有する無機繊維用サイジング剤含有組成物の長期安定性向上とを両立できる無機繊維用サイジング剤含有組成物等を提供する。
【解決手段】本発明の無機繊維用サイジング剤含有組成物は、下記の構成単位Aと下記の構成単位Bとから構成されたポリアミド化合物、及び下記の含窒素化合物を含有する無機繊維用サイジング剤、並びに水を含有し、前記構成単位Aと前記構成単位Bのモル比の割合が、構成単位A/構成単位B=49.0/51.0~43.0/57.0であることを特徴とする。構成単位A:テトラカルボン酸又はその誘導体により形成された構成単位を含むもの。構成単位B:ジアミン又はその誘導体から形成された構成単位を含むもの。含窒素化合物:アンモニア、3級アミン化合物、及び非プロトン性の含窒素複素環化合物から選ばれる少なくとも一つ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構成単位Aと下記の構成単位Bとから構成されたポリアミド化合物、及び下記の含窒素化合物を含有する無機繊維用サイジング剤、並びに水を含有し、前記構成単位Aと前記構成単位Bのモル比の割合が、構成単位A/構成単位B=49.0/51.0~43.0/57.0であることを特徴とする無機繊維用サイジング剤含有組成物。
構成単位A:テトラカルボン酸又はその誘導体により形成された構成単位を含むもの。
構成単位B:ジアミン又はその誘導体から形成された構成単位を含むもの。
含窒素化合物:アンモニア、3級アミン化合物、及び非プロトン性の含窒素複素環化合物から選ばれる少なくとも一つ。
【請求項2】
前記構成単位Aが、芳香族基を有するテトラカルボン酸又はその誘導体から形成された構成単位を含むものである請求項1に記載の無機繊維用サイジング剤含有組成物。
【請求項3】
前記構成単位Bが、芳香族基を有するジアミン又はその誘導体から形成された構成単位を含むものである請求項1に記載の無機繊維用サイジング剤含有組成物。
【請求項4】
前記含窒素化合物が、1,2-ジメチルイミダゾール及び1-ピペリジンエタノールから選ばれる少なくとも1つを含むものである請求項1に記載の無機繊維用サイジング剤含有組成物。
【請求項5】
前記無機繊維用サイジング剤含有組成物中における前記ポリアミド化合物の含有量と前記含窒素化合物の含有量の質量比が、ポリアミド化合物/含窒素化合物=54/46~31/69である請求項1に記載の無機繊維用サイジング剤含有組成物。
【請求項6】
前記無機繊維用サイジング剤含有組成物中における前記無機繊維用サイジング剤と前記水との質量比が、無機繊維用サイジング剤/水=10/90~80/20である請求項1に記載の無機繊維用サイジング剤含有組成物。
【請求項7】
前記無機繊維用サイジング剤含有組成物は、炭素繊維に適用される請求項1に記載の無機繊維用サイジング剤含有組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の無機繊維用サイジング剤含有組成物を無機繊維に付着させる工程を含むことを特徴とする無機繊維の製造方法。
【請求項9】
前記無機繊維が、炭素繊維ストランドである請求項8に記載の無機繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維用サイジング剤により得られる皮膜の耐熱性向上と、水を含有する無機繊維用サイジング剤含有組成物の長期安定性向上とを両立できる無機繊維用サイジング剤含有組成物及びそれを用いた無機繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば炭素繊維等の無機繊維は、エポキシ樹脂等のマトリクス樹脂を含浸させた複合材料として利用したり、コンクリートの補強用繊維として利用されている。例えば炭素繊維は、予め表面に炭素繊維用サイジング剤を付着させ、炭素繊維ストランドの集束性等を付与する処理が行われている。
【0003】
従来、特許文献1,2に開示される無機繊維用サイジング剤が知られている。特許文献1の炭素繊維用サイジング剤は、所定構造のポリマレイミドとエポキシ樹脂とを含むサイズ剤組成物を付与したポリイミド系樹脂強化用炭素繊維について開示する。特許文献2は、所定のポリアミドアミック酸A単位、及びポリアミド・イミドB単位のコポリマーを含有するサイズ組成物で被覆した熱安定ファイバーについて開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平1-38911号公報
【特許文献2】特開昭61-75880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、これら従来の無機繊維用サイジング剤では、無機繊維用サイジング剤により得られる皮膜の耐熱性向上と、水を含有する無機繊維用サイジング剤含有組成物の長期安定性向上との両立が困難であるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、無機繊維用サイジング剤含有組成物において、下記に示されるポリアミド化合物と含窒素化合物とを含有することが正しく好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の無機繊維用サイジング剤含有組成物は、下記の構成単位Aと下記の構成単位Bとから構成されたポリアミド化合物、及び下記の含窒素化合物を含有する無機繊維用サイジング剤、並びに水を含有し、前記構成単位Aと前記構成単位Bのモル比の割合が、構成単位A/構成単位B=49.0/51.0~43.0/57.0であることを要旨とする。
【0008】
構成単位A:テトラカルボン酸又はその誘導体により形成された構成単位を含むもの。
構成単位B:ジアミン又はその誘導体から形成された構成単位を含むもの。
含窒素化合物:アンモニア、3級アミン化合物、及び非プロトン性の含窒素複素環化合物から選ばれる少なくとも一つ。
【0009】
前記無機繊維用サイジング剤含有組成物において、前記構成単位Aが、芳香族基を有するテトラカルボン酸又はその誘導体から形成された構成単位を含むものであってもよい。
前記無機繊維用サイジング剤含有組成物において、前記構成単位Bが、芳香族基を有するジアミン又はその誘導体から形成された構成単位を含むものであってもよい。
【0010】
前記無機繊維用サイジング剤含有組成物において、前記含窒素化合物が、1,2-ジメチルイミダゾール及び1-ピペリジンエタノールから選ばれる少なくとも1つを含むものであってもよい。
【0011】
前記無機繊維用サイジング剤含有組成物中における前記ポリアミド化合物の含有量と前記含窒素化合物の含有量の質量比が、ポリアミド化合物/含窒素化合物=54/46~31/69であってもよい。
【0012】
前記無機繊維用サイジング剤含有組成物中における前記無機繊維用サイジング剤と前記水との質量比が、無機繊維用サイジング剤/水=10/90~80/20であってもよい。
【0013】
前記無機繊維用サイジング剤含有組成物は、炭素繊維に適用されてもよい。
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の無機繊維の製造方法は、前記無機繊維用サイジング剤含有組成物を無機繊維に付着させる工程を含むことを要旨とする。
【0014】
前記無機繊維の製造方法において、前記無機繊維が、炭素繊維ストランドであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、無機繊維用サイジング剤により得られる皮膜の耐熱性向上と、水を含有する無機繊維用サイジング剤含有組成物の長期安定性向上とを両立できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
先ず、本発明に係る無機繊維用サイジング剤含有組成物(以下、サイジング剤含有組成物という)を具体化した第1実施形態について説明する。サイジング剤含有組成物は、下記に示される構成単位Aと構成単位Bから構成されたポリアミド化合物、及び下記の含窒素化合物を含有する無機繊維用サイジング剤(以下、サイジング剤という)、並びに溶媒としての水とを含有する。
【0017】
(ポリアミド化合物)
本実施形態に供されるポリアミド化合物は、後述する構成単位Aと構成単位Bとがアミド結合により重合したポリアミド酸(ポリイミド前駆体)を示す。このポリアミド化合物は、水を含む希釈液として無機繊維に付与された後、所定の加熱条件で処理された際に加熱脱水閉環(イミド化)することにより、耐熱性のポリイミドの被膜を形成する。
【0018】
構成単位Aは、テトラカルボン酸又はその誘導体により形成された構成単位を含むものである。構成単位Aは、含窒素化合物の存在下において希釈液中で構成単位Bとのアミド結合により重合したポリアミド酸(ポリイミド前駆体)を形成できる化合物であれば特に限定されない。
【0019】
テトラカルボン酸としては、芳香族基を有するテトラカルボン酸であっても、脂肪族テトラカルボン酸であってもよい。テトラカルボン酸の誘導体としては、例えばテトラカルボン酸の二無水物、テトラカルボン酸のメチルエステル等のアルキルエステル体等が挙げられる。
【0020】
芳香族基を有するテトラカルボン酸の二無水物の具体例としては、例えばピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ハイドロキノン-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、メチルハイドロキノン-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2'-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物、2,2'-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4'-ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-イルカルボニルオキシ)ビフェニル、4,4'-ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-イルカルボニルオキシ)-3,3'-ジメチルビフェニル、4,4''-ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-イルカルボニルオキシ)-3-メチル-p-ターフェニル、4,4'''-ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-イルカルボニルオキシ)-3,3'''-ジメチル-p-クォーターフェニル等が挙げられる。
【0021】
脂肪族テトラカルボン酸の二無水物の具体例としては、例えばビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、5-(ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-テトラリン-1,2-ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフラン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ-3,3',4,4'-テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0022】
構成単位Aは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中で耐熱性に優れるポリイミドの被膜を形成できる芳香族基を有するテトラカルボン酸又はその誘導体から形成された構成単位であることが好ましい。
【0023】
構成単位Bは、ジアミン又はその誘導体から形成された構成単位を含むものである。構成単位Bは、含窒素化合物の存在下においてサイジング剤含有組成物中で構成単位Aとのアミド結合により重合したポリアミド酸(ポリイミド前駆体)を形成できる化合物であれば特に限定されない。ジアミン又はその誘導体としては、芳香族基を有するジアミンであっても脂肪族ジアミンであってもいずれでもよい。
【0024】
芳香族基を有するジアミンの具体例としては、例えばp-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、2,4-ジアミノトルエン、2,5-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノキシレン、2,4-ジアミノデュレン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-メチレンビス(2-メチルアニリン)、4,4'-メチレンビス(2-エチルアニリン)、4,4'-メチレンビス(2,6-ジメチルアニリン)、4,4'-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4'-オキシジアニリン、3,4'-オキシジアニリン、3,3'-オキシジアニリン、2,4'-オキシジアニリン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、3,3'-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノベンズアニリド、4-アミノフェニル-4'-アミノベンゾエート、ベンジジン、3,3'-ジヒドロキシベンジジン、3,3'-ジメトキシベンジジン、o-トリジン、m-トリジン、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、p-ターフェニレンジアミン等が挙げられる。
【0025】
脂肪族ジアミンの具体例としては、例えば4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス-1,4-ジアミノシクロヘキサン、シス-1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,4-シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.0]デカン、1,3-ジアミノアダマンタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-プロパンジアミン、1,4-テトラメチレンジアミン、1,5-ペンタメチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン等が挙げられる。
【0026】
構成単位Bは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中で耐熱性に優れるポリイミドの被膜を形成できる芳香族基を有するジアミン又はその誘導体から形成された構成単位を含むものであることが好ましい。
【0027】
上記構成単位Aと構成単位Bの配合原料中におけるモル比の割合は、構成単位A/構成単位B=49.0/51.0~43.0/57.0である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる範囲に規定されて合成されたポリアミド化合物を含むサイジング剤含有組成物は、特に長期安定性を向上できる。
【0028】
(含窒素化合物)
本実施形態に供される含窒素化合物としては、アンモニア、3級アミン化合物、非プロトン性の含窒素複素環化合物が適用される。
【0029】
3級アミン化合物の具体例としては、例えば1-ピペリジンエタノール、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジイソプロピルアミノエタノール、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、テトラメチルエチレンジアミン、トリエチレンジアミン、N-メチルモルフォリン、N-エチルモルフォリン、ジメチルベンジルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ジアミノヘキサン、N,N,N’,N”N”-ペンタメチルジエチレントリアミン、ビス-(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7等が挙げられる。
【0030】
非プロトン性の含窒素複素環化合物の具体例としては、例えばピコリン、ピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、1,2-ジメチルイミダゾール、N-メチルイミダゾール等が挙げられる。なお、非プロトン性の含窒素化合物の中には同時に3級アミン化合物であるものも含まれる。
【0031】
これらの含窒素化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
含窒素化合物の中でも1,2-ジメチルイミダゾール、1-ピペリジンエタノールが好ましい。これらの化合物を使用することにより、サイジング剤含有組成物の長期安定性をより向上できる。
【0032】
サイジング剤含有組成物中におけるポリアミド化合物の含有量と含窒素化合物の含有量の質量比は、適宜設定されるが、ポリアミド化合物/含窒素化合物=54/46~30/70であることが好ましく、ポリアミド化合物/含窒素化合物=54/46~31/69であることがより好ましい。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる範囲に規定されることにより、特に長期安定性をより向上できる。
【0033】
(水)
サイジング剤含有組成物中におけるサイジング剤と水との質量比は、適宜設定されるが、サイジング剤/水=5/95~85/15であることが好ましく、サイジング剤/水=10/90~80/20であることがより好ましい。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる範囲に規定されることにより、特に長期安定性をより向上できる。
【0034】
ポリアミド化合物としてのポリアミド酸(ポリイミド前駆体)は、上記構成単位Aと構成単位Bを含窒素化合物の存在下で水に溶解又は懸濁させた後、例えば50℃以上80℃以下、好ましくは60℃以上70℃以下の加熱条件下で、例えば1時間以上10時間以下、好ましくは5時間以上7時間以下、アミド結合による重合反応を促進させることにより合成される。重合反応により得られたポリアミド化合物、反応時に添加した含窒素化合物及び水を含むサイジング剤含有組成物は、必要により水分量を調整してもよい。
【0035】
<第2実施形態>
次に本発明に係る無機繊維の製造方法を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の無機繊維の製造方法は、第1実施形態のサイジング剤含有組成物を炭素繊維に付着させる工程を含んでいる。付着量(溶媒を含まない)については特に制限はないが、無機繊維にサイジング剤として0.01質量%以上10質量%以下となるよう付着させたものが好ましい。かかる数値範囲に規定することにより、無機繊維の集束性等の効果をより向上させる。本実施形態において適用される無機繊維の種類としては、特に限定されず、例えばガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、金属繊維、鉱物繊維、岩石繊維、スラッグ繊維等が挙げられる。これらの中でも本発明の効果をより有効に発現できる観点から炭素繊維が好ましく、炭素繊維ストランドがより好ましい。炭素繊維の種類としては、例えばアクリル繊維を原料として得られたPAN系炭素繊維、ピッチを原料として得られたピッチ系炭素繊維、リサイクル炭素繊維、ポリエステル繊維を原料として得られる炭素繊維等が挙げられる。
【0036】
第1実施形態のサイジング剤含有組成物を無機繊維に付着させて無機繊維を得るには、一般に工業的に用いられている方法を適用できる。例えば、ローラー浸漬法、ローラー接触法、スプレー法、抄紙法等が挙げられる。第1実施形態のサイジング剤含有組成物を付着させた無機繊維は、続いて乾燥処理し、サイジング剤含有組成物に含まれていた水、含窒素化合物等の除去を行なうことにより無機繊維を得ることができる。ここでの乾燥処理は、例えば熱風、熱板、ローラー、各種赤外線ヒーター等を熱媒として利用した方法を採用できる。乾燥処理の処理温度は、好ましくは130℃以上220℃以下である。かかる温度範囲により、ポリアミド酸が加熱脱水閉環(イミド化)し、耐熱性のポリイミド被膜が形成される。
【0037】
(作用)
次に、上記のように構成されたサイジング剤含有組成物及び炭素繊維の製造方法の作用を以下に説明する。
【0038】
上記実施形態では、上述した構成単位A及び構成単位Bから構成されたポリアミド化合物と、上述した含窒素化合物とを含有するサイジング剤を採用した。
例えば、構成単位Aとして3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸無水物、構成単位Bとしてパラフェニレンジアミン、含窒素化合物として1,2-ジメチルイミダゾールが用いられる場合、以下の方法でポリアミド化合物としてポリアミド酸(ポリイミド前駆体)が合成される。まず、パラフェニレンジアミンと1,2-ジメチルイミダゾールを水に溶解する。次に3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸無水物を懸濁させ、50℃以上80℃以下で1時間以上10時間以下、アミド結合による重合反応を促進させる。それにより、下記化1に示される反応によりポリアミド化合物としてポリアミド酸(ポリイミド前駆体)が合成される。
【0039】
【化1】
ポリアミド化合物を含むサイジング剤含有組成物は、無機繊維に付着された後、所定の温度、例えば130℃以上220℃以下の温度条件下で乾燥処理される。その時、下記化2に示されるように加熱脱水閉環(イミド化)することにより、耐熱性のポリイミドの被膜が形成される。
【0040】
【化2】
上記構成単位Aと構成単位Bの配合原料中におけるモル比の割合は、構成単位A/構成単位B=49.0/51.0~43.0/57.0の範囲に規定されている。そのため、主な生成ポリマーの末端には構成単位Bが位置している。また、耐熱性及び長期安定性を発揮するのに好ましい分子量のポリマーが得られる。そのため保存期間中におけるポリマーの反応性を抑制し、長期の保存安定性を向上できる。また、耐熱性に優れるポリマーが得られる。
【0041】
上記実施形態のサイジング剤含有組成物及び炭素繊維の製造方法によれば、以下のような効果を得ることができる。
上記実施形態では、上述した構成単位Aと構成単位Bの配合原料中におけるモル比の割合を、構成単位A/構成単位B=49.0/51.0~43.0/57.0に規定したポリアミド化合物と、上述した含窒素化合物とを含有するサイジング剤、及び水を含有するサイジング剤含有組成物を採用した。したがって、無機繊維用サイジング剤により得られる皮膜の耐熱性向上と、水を含有する無機繊維用サイジング剤含有組成物の長期安定性向上とを両立できる。
【0042】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態のサイジング剤含有組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、サイジング剤含有組成物の性能を維持する観点から、その他の成分として、界面活性剤、微量の有機溶媒、平滑剤、酸化防止剤、防腐剤等を配合することを妨げるものではない。
【0043】
・上記実施形態の無機繊維が適用される分野は、特に限定されない。例えばポリイミド樹脂等のマトリクス樹脂を含浸させた炭素繊維複合材料(CFRP)、コンクリートの補強用繊維等に適用してもよい。
【実施例0044】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0045】
試験区分1(サイジング剤含有組成物の調製)
・実施例1のサイジング剤含有組成物の調製
内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水360gを加え、これに構成単位Bとして4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを8.29gと含窒素化合物として1,2-ジメチルイミダゾール20.00gとを、25℃で1時間撹拌し、溶解させた。この溶液に構成単位Aとして3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物11.71gを加え、70℃で6時間撹拌して、ポリアミド化合物(ポリイミド前駆体としてのポリアミド酸)(P-1)を合成すると同時に実施例1のサイジング剤含有組成物を得た。
【0046】
・実施例2~43のサイジング剤含有組成物の調製
実施例1のサイジング剤含有組成物と同様にして、表1のポリアミド化合物(P-2)~(P-22)を構成する構成単位A及び構成単位B、並びに表2に示される含窒素化合物の組み合わせによりポリアミド化合物(P-1)~(P-22)を合成した。それと同時に実施例2~43のサイジング剤含有組成物を調製した。
【0047】
・比較例1~6のサイジング剤含有組成物の調製
表1のポリアミド化合物(P-3)、(rp-1)~(rp-3)を構成する構成単位A及び構成単位B、並びに表2に示される含窒素化合物の組み合わせを適用した。実施例1のサイジング剤含有組成物と同様の方法にて反応を行うことにより比較例1~6のサイジング剤含有組成物を調製した。
【0048】
なお、上述したポリアミド化合物(P-1)~(P-22)、(rp-1)~(rp-3)について、構成単位A、構成単位B、及び使用した原料の比率(モル比)を下記表1の「構成単位A」欄、「構成単位B」欄、及び「構成単位A/構成単位B(モル比)」欄に示す。
【0049】
各例のサイジング剤含有組成物中におけるポリアミド化合物の種類と含有量、含窒素化合物の種類と含有量、水の含有量は、表2の「ポリアミド化合物」欄、「含窒素化合物」欄、「水」にそれぞれ示すとおりである。また、ポリアミド化合物の含有量と含窒素化合物の含有量の質量比を「ポリアミド化合物/含窒素化合物(質量比)」欄に示す。
【0050】
【0051】
【表2】
表2に記載する含窒素化合物の詳細は以下のとおりである。
【0052】
C-1:1,2-ジメチルイミダゾール
C-2:1-ピペリジンエタノール
C-3:ジメチルアミノエタノール
C-4:ジエチルアミノエタノール
C-5:1-メチルピロリドン
C-6:アンモニア
rc-1:NaOH
試験区分2(長期安定性の評価)
・サイジング剤含有組成物の長期安定性
各例のサイジング剤含有組成物を25℃で6ヵ月間静置した。静置後、サイジング剤含有組成物の外観を目視で、以下の基準で評価した。その結果を表2の「長期安定性」欄に示す。
【0053】
◎◎◎(非常に優れる):6ヵ月経過しても沈殿、分離、又はゲル化が生じない場合
◎◎(優れる):3ヵ月経過しても沈殿、分離、又はゲル化が生じない且つ6ヵ月経過で沈殿、分離、又はゲル化が生じる場合
◎(良好):1ヵ月経過しても沈殿、分離、又はゲル化が生じない且つ3ヵ月経過で沈殿、分離、又はゲル化が生じる場合
○(可):2週間経過しても沈殿、分離、又はゲル化が生じない且つ1ヵ月経過で沈殿、分離、又はゲル化が生じる場合
×(不良):2週間経過で沈殿、分離、又はゲル化が生じる場合
××(非常に不良):調製直後から沈殿又は分離が生じる場合
・耐熱性評価
各例のサイジング剤含有組成物を200℃で1時間乾燥して、固形分を得た。直径50mmのアルミカップ上に上記固形分を1gサンプリングし、電気炉にて400℃×30分処理して、下記式により残存率(%)を計算した。
【0054】
残存率(%)=(処理後の質量)/(処理前の質量)×100
下記の基準で耐熱性を評価した。その結果を表2の「耐熱性」欄に示す。
◎◎(優れる):残存率が90%以上の場合
◎(良好):残存率が85%以上且つ90%未満の場合
○(可):残存率が75%以上且つ85%未満の場合
×(不良):残存率が75%未満の場合
以上表2の結果からも明らかなように、本発明によれば、耐熱性に優れるポリイミド被膜を付与できるサイジング剤含有組成物を得ることができる。また、サイジング剤含有組成物を長期間保管しても高い安定性を維持できる。なお、比較例5,6の耐熱性は、サイジング剤含有組成物の安定性が非常に不良であり、均一なサンプリングが困難であるため測定不可であった。比較例5,6は、アミド結合が重合したポリアミド酸の形成が進まなかったものと思われる。
【手続補正書】
【提出日】2022-07-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構成単位Aと下記の構成単位Bとから構成されたポリアミド化合物、及び下記の含窒素化合物を含有する無機繊維用サイジング剤、並びに水を含有し、前記構成単位Aと前記構成単位Bのモル比の割合が、構成単位A/構成単位B=49.0/51.0~43.0/57.0である無機繊維用サイジング剤含有組成物において、
前記無機繊維用サイジング剤含有組成物中における前記ポリアミド化合物の含有量と前記含窒素化合物の含有量の質量比が、ポリアミド化合物/含窒素化合物=54/46~31/69であることを特徴とする無機繊維用サイジング剤含有組成物。
構成単位A:テトラカルボン酸又はその誘導体により形成された構成単位を含むもの。
構成単位B:ジアミン又はその誘導体から形成された構成単位を含むもの。
含窒素化合物:アンモニア、3級アミン化合物、及び非プロトン性の含窒素複素環化合物から選ばれる少なくとも一つ。
【請求項2】
前記構成単位Aが、芳香族基を有するテトラカルボン酸又はその誘導体から形成された構成単位を含むものである請求項1に記載の無機繊維用サイジング剤含有組成物。
【請求項3】
前記構成単位Bが、芳香族基を有するジアミン又はその誘導体から形成された構成単位を含むものである請求項1に記載の無機繊維用サイジング剤含有組成物。
【請求項4】
前記含窒素化合物が、1,2-ジメチルイミダゾール及び1-ピペリジンエタノールから選ばれる少なくとも1つを含むものである請求項1に記載の無機繊維用サイジング剤含有組成物。
【請求項5】
前記無機繊維用サイジング剤含有組成物中における前記無機繊維用サイジング剤と前記水との質量比が、無機繊維用サイジング剤/水=10/90~80/20である請求項1に記載の無機繊維用サイジング剤含有組成物。
【請求項6】
前記無機繊維用サイジング剤含有組成物は、炭素繊維に適用される請求項1に記載の無機繊維用サイジング剤含有組成物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の無機繊維用サイジング剤含有組成物を無機繊維に付着させる工程を含むことを特徴とする無機繊維の製造方法。
【請求項8】
前記無機繊維が、炭素繊維ストランドである請求項7に記載の無機繊維の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維用サイジング剤により得られる皮膜の耐熱性向上と、水を含有する無機繊維用サイジング剤含有組成物の長期安定性向上とを両立できる無機繊維用サイジング剤含有組成物及びそれを用いた無機繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば炭素繊維等の無機繊維は、エポキシ樹脂等のマトリクス樹脂を含浸させた複合材料として利用したり、コンクリートの補強用繊維として利用されている。例えば炭素繊維は、予め表面に炭素繊維用サイジング剤を付着させ、炭素繊維ストランドの集束性等を付与する処理が行われている。
【0003】
従来、特許文献1,2に開示される無機繊維用サイジング剤が知られている。特許文献1の炭素繊維用サイジング剤は、所定構造のポリマレイミドとエポキシ樹脂とを含むサイズ剤組成物を付与したポリイミド系樹脂強化用炭素繊維について開示する。特許文献2は、所定のポリアミドアミック酸A単位、及びポリアミド・イミドB単位のコポリマーを含有するサイズ組成物で被覆した熱安定ファイバーについて開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平1-38911号公報
【特許文献2】特開昭61-75880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、これら従来の無機繊維用サイジング剤では、無機繊維用サイジング剤により得られる皮膜の耐熱性向上と、水を含有する無機繊維用サイジング剤含有組成物の長期安定性向上との両立が困難であるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、無機繊維用サイジング剤含有組成物において、下記に示されるポリアミド化合物と含窒素化合物とを含有することが正しく好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の無機繊維用サイジング剤含有組成物は、下記の構成単位Aと下記の構成単位Bとから構成されたポリアミド化合物、及び下記の含窒素化合物を含有する無機繊維用サイジング剤、並びに水を含有し、前記構成単位Aと前記構成単位Bのモル比の割合が、構成単位A/構成単位B=49.0/51.0~43.0/57.0である無機繊維用サイジング剤含有組成物において、前記無機繊維用サイジング剤含有組成物中における前記ポリアミド化合物の含有量と前記含窒素化合物の含有量の質量比が、ポリアミド化合物/含窒素化合物=54/46~31/69であることを要旨とする。
【0008】
構成単位A:テトラカルボン酸又はその誘導体により形成された構成単位を含むもの。
構成単位B:ジアミン又はその誘導体から形成された構成単位を含むもの。
含窒素化合物:アンモニア、3級アミン化合物、及び非プロトン性の含窒素複素環化合物から選ばれる少なくとも一つ。
【0009】
前記無機繊維用サイジング剤含有組成物において、前記構成単位Aが、芳香族基を有するテトラカルボン酸又はその誘導体から形成された構成単位を含むものであってもよい。
前記無機繊維用サイジング剤含有組成物において、前記構成単位Bが、芳香族基を有するジアミン又はその誘導体から形成された構成単位を含むものであってもよい。
【0010】
前記無機繊維用サイジング剤含有組成物において、前記含窒素化合物が、1,2-ジメチルイミダゾール及び1-ピペリジンエタノールから選ばれる少なくとも1つを含むものであってもよい。
【0011】
前記無機繊維用サイジング剤含有組成物中における前記無機繊維用サイジング剤と前記水との質量比が、無機繊維用サイジング剤/水=10/90~80/20であってもよい。
【0012】
前記無機繊維用サイジング剤含有組成物は、炭素繊維に適用されてもよい。
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の無機繊維の製造方法は、前記無機繊維用サイジング剤含有組成物を無機繊維に付着させる工程を含むことを要旨とする。
【0013】
前記無機繊維の製造方法において、前記無機繊維が、炭素繊維ストランドであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、無機繊維用サイジング剤により得られる皮膜の耐熱性向上と、水を含有する無機繊維用サイジング剤含有組成物の長期安定性向上とを両立できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
先ず、本発明に係る無機繊維用サイジング剤含有組成物(以下、サイジング剤含有組成物という)を具体化した第1実施形態について説明する。サイジング剤含有組成物は、下記に示される構成単位Aと構成単位Bから構成されたポリアミド化合物、及び下記の含窒素化合物を含有する無機繊維用サイジング剤(以下、サイジング剤という)、並びに溶媒としての水とを含有する。
【0016】
(ポリアミド化合物)
本実施形態に供されるポリアミド化合物は、後述する構成単位Aと構成単位Bとがアミド結合により重合したポリアミド酸(ポリイミド前駆体)を示す。このポリアミド化合物は、水を含む希釈液として無機繊維に付与された後、所定の加熱条件で処理された際に加熱脱水閉環(イミド化)することにより、耐熱性のポリイミドの被膜を形成する。
【0017】
構成単位Aは、テトラカルボン酸又はその誘導体により形成された構成単位を含むものである。構成単位Aは、含窒素化合物の存在下において希釈液中で構成単位Bとのアミド結合により重合したポリアミド酸(ポリイミド前駆体)を形成できる化合物であれば特に限定されない。
【0018】
テトラカルボン酸としては、芳香族基を有するテトラカルボン酸であっても、脂肪族テトラカルボン酸であってもよい。テトラカルボン酸の誘導体としては、例えばテトラカルボン酸の二無水物、テトラカルボン酸のメチルエステル等のアルキルエステル体等が挙げられる。
【0019】
芳香族基を有するテトラカルボン酸の二無水物の具体例としては、例えばピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ハイドロキノン-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、メチルハイドロキノン-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2'-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物、2,2'-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4'-ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-イルカルボニルオキシ)ビフェニル、4,4'-ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-イルカルボニルオキシ)-3,3'-ジメチルビフェニル、4,4''-ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-イルカルボニルオキシ)-3-メチル-p-ターフェニル、4,4'''-ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-イルカルボニルオキシ)-3,3'''-ジメチル-p-クォーターフェニル等が挙げられる。
【0020】
脂肪族テトラカルボン酸の二無水物の具体例としては、例えばビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、5-(ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-テトラリン-1,2-ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフラン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ-3,3',4,4'-テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0021】
構成単位Aは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中で耐熱性に優れるポリイミドの被膜を形成できる芳香族基を有するテトラカルボン酸又はその誘導体から形成された構成単位であることが好ましい。
【0022】
構成単位Bは、ジアミン又はその誘導体から形成された構成単位を含むものである。構成単位Bは、含窒素化合物の存在下においてサイジング剤含有組成物中で構成単位Aとのアミド結合により重合したポリアミド酸(ポリイミド前駆体)を形成できる化合物であれば特に限定されない。ジアミン又はその誘導体としては、芳香族基を有するジアミンであっても脂肪族ジアミンであってもいずれでもよい。
【0023】
芳香族基を有するジアミンの具体例としては、例えばp-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、2,4-ジアミノトルエン、2,5-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノキシレン、2,4-ジアミノデュレン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-メチレンビス(2-メチルアニリン)、4,4'-メチレンビス(2-エチルアニリン)、4,4'-メチレンビス(2,6-ジメチルアニリン)、4,4'-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4'-オキシジアニリン、3,4'-オキシジアニリン、3,3'-オキシジアニリン、2,4'-オキシジアニリン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、3,3'-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノベンズアニリド、4-アミノフェニル-4'-アミノベンゾエート、ベンジジン、3,3'-ジヒドロキシベンジジン、3,3'-ジメトキシベンジジン、o-トリジン、m-トリジン、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、p-ターフェニレンジアミン等が挙げられる。
【0024】
脂肪族ジアミンの具体例としては、例えば4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス-1,4-ジアミノシクロヘキサン、シス-1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,4-シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.0]デカン、1,3-ジアミノアダマンタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-プロパンジアミン、1,4-テトラメチレンジアミン、1,5-ペンタメチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン等が挙げられる。
【0025】
構成単位Bは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中で耐熱性に優れるポリイミドの被膜を形成できる芳香族基を有するジアミン又はその誘導体から形成された構成単位を含むものであることが好ましい。
【0026】
上記構成単位Aと構成単位Bの配合原料中におけるモル比の割合は、構成単位A/構成単位B=49.0/51.0~43.0/57.0である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる範囲に規定されて合成されたポリアミド化合物を含むサイジング剤含有組成物は、特に長期安定性を向上できる。
【0027】
(含窒素化合物)
本実施形態に供される含窒素化合物としては、アンモニア、3級アミン化合物、非プロトン性の含窒素複素環化合物が適用される。
【0028】
3級アミン化合物の具体例としては、例えば1-ピペリジンエタノール、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジイソプロピルアミノエタノール、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、テトラメチルエチレンジアミン、トリエチレンジアミン、N-メチルモルフォリン、N-エチルモルフォリン、ジメチルベンジルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ジアミノヘキサン、N,N,N’,N”N”-ペンタメチルジエチレントリアミン、ビス-(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7等が挙げられる。
【0029】
非プロトン性の含窒素複素環化合物の具体例としては、例えばピコリン、ピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、1,2-ジメチルイミダゾール、N-メチルイミダゾール等が挙げられる。なお、非プロトン性の含窒素化合物の中には同時に3級アミン化合物であるものも含まれる。
【0030】
これらの含窒素化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
含窒素化合物の中でも1,2-ジメチルイミダゾール、1-ピペリジンエタノールが好ましい。これらの化合物を使用することにより、サイジング剤含有組成物の長期安定性をより向上できる。
【0031】
サイジング剤含有組成物中におけるポリアミド化合物の含有量と含窒素化合物の含有量の質量比は、ポリアミド化合物/含窒素化合物=54/46~31/69である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる範囲に規定されることにより、特に長期安定性をより向上できる。
【0032】
(水)
サイジング剤含有組成物中におけるサイジング剤と水との質量比は、適宜設定されるが、サイジング剤/水=5/95~85/15であることが好ましく、サイジング剤/水=10/90~80/20であることがより好ましい。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる範囲に規定されることにより、特に長期安定性をより向上できる。
【0033】
ポリアミド化合物としてのポリアミド酸(ポリイミド前駆体)は、上記構成単位Aと構成単位Bを含窒素化合物の存在下で水に溶解又は懸濁させた後、例えば50℃以上80℃以下、好ましくは60℃以上70℃以下の加熱条件下で、例えば1時間以上10時間以下、好ましくは5時間以上7時間以下、アミド結合による重合反応を促進させることにより合成される。重合反応により得られたポリアミド化合物、反応時に添加した含窒素化合物及び水を含むサイジング剤含有組成物は、必要により水分量を調整してもよい。
【0034】
<第2実施形態>
次に本発明に係る無機繊維の製造方法を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の無機繊維の製造方法は、第1実施形態のサイジング剤含有組成物を炭素繊維に付着させる工程を含んでいる。付着量(溶媒を含まない)については特に制限はないが、無機繊維にサイジング剤として0.01質量%以上10質量%以下となるよう付着させたものが好ましい。かかる数値範囲に規定することにより、無機繊維の集束性等の効果をより向上させる。本実施形態において適用される無機繊維の種類としては、特に限定されず、例えばガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、金属繊維、鉱物繊維、岩石繊維、スラッグ繊維等が挙げられる。これらの中でも本発明の効果をより有効に発現できる観点から炭素繊維が好ましく、炭素繊維ストランドがより好ましい。炭素繊維の種類としては、例えばアクリル繊維を原料として得られたPAN系炭素繊維、ピッチを原料として得られたピッチ系炭素繊維、リサイクル炭素繊維、ポリエステル繊維を原料として得られる炭素繊維等が挙げられる。
【0035】
第1実施形態のサイジング剤含有組成物を無機繊維に付着させて無機繊維を得るには、一般に工業的に用いられている方法を適用できる。例えば、ローラー浸漬法、ローラー接触法、スプレー法、抄紙法等が挙げられる。第1実施形態のサイジング剤含有組成物を付着させた無機繊維は、続いて乾燥処理し、サイジング剤含有組成物に含まれていた水、含窒素化合物等の除去を行なうことにより無機繊維を得ることができる。ここでの乾燥処理は、例えば熱風、熱板、ローラー、各種赤外線ヒーター等を熱媒として利用した方法を採用できる。乾燥処理の処理温度は、好ましくは130℃以上220℃以下である。かかる温度範囲により、ポリアミド酸が加熱脱水閉環(イミド化)し、耐熱性のポリイミド被膜が形成される。
【0036】
(作用)
次に、上記のように構成されたサイジング剤含有組成物及び炭素繊維の製造方法の作用を以下に説明する。
【0037】
上記実施形態では、上述した構成単位A及び構成単位Bから構成されたポリアミド化合物と、上述した含窒素化合物とを含有するサイジング剤を採用した。
例えば、構成単位Aとして3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸無水物、構成単位Bとしてパラフェニレンジアミン、含窒素化合物として1,2-ジメチルイミダゾールが用いられる場合、以下の方法でポリアミド化合物としてポリアミド酸(ポリイミド前駆体)が合成される。まず、パラフェニレンジアミンと1,2-ジメチルイミダゾールを水に溶解する。次に3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸無水物を懸濁させ、50℃以上80℃以下で1時間以上10時間以下、アミド結合による重合反応を促進させる。それにより、下記化1に示される反応によりポリアミド化合物としてポリアミド酸(ポリイミド前駆体)が合成される。
【0038】
【化1】
ポリアミド化合物を含むサイジング剤含有組成物は、無機繊維に付着された後、所定の温度、例えば130℃以上220℃以下の温度条件下で乾燥処理される。その時、下記化2に示されるように加熱脱水閉環(イミド化)することにより、耐熱性のポリイミドの被膜が形成される。
【0039】
【化2】
上記構成単位Aと構成単位Bの配合原料中におけるモル比の割合は、構成単位A/構成単位B=49.0/51.0~43.0/57.0の範囲に規定されている。そのため、主な生成ポリマーの末端には構成単位Bが位置している。また、耐熱性及び長期安定性を発揮するのに好ましい分子量のポリマーが得られる。そのため保存期間中におけるポリマーの反応性を抑制し、長期の保存安定性を向上できる。また、耐熱性に優れるポリマーが得られる。
【0040】
上記実施形態のサイジング剤含有組成物及び炭素繊維の製造方法によれば、以下のような効果を得ることができる。
上記実施形態では、上述した構成単位Aと構成単位Bの配合原料中におけるモル比の割合を、構成単位A/構成単位B=49.0/51.0~43.0/57.0に規定したポリアミド化合物と、上述した含窒素化合物とを含有するサイジング剤、及び水を含有するサイジング剤含有組成物を採用した。したがって、無機繊維用サイジング剤により得られる皮膜の耐熱性向上と、水を含有する無機繊維用サイジング剤含有組成物の長期安定性向上とを両立できる。
【0041】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態のサイジング剤含有組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、サイジング剤含有組成物の性能を維持する観点から、その他の成分として、界面活性剤、微量の有機溶媒、平滑剤、酸化防止剤、防腐剤等を配合することを妨げるものではない。
【0042】
・上記実施形態の無機繊維が適用される分野は、特に限定されない。例えばポリイミド樹脂等のマトリクス樹脂を含浸させた炭素繊維複合材料(CFRP)、コンクリートの補強用繊維等に適用してもよい。
【実施例0043】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0044】
試験区分1(サイジング剤含有組成物の調製)
・実施例1のサイジング剤含有組成物の調製
内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水360gを加え、これに構成単位Bとして4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを8.29gと含窒素化合物として1,2-ジメチルイミダゾール20.00gとを、25℃で1時間撹拌し、溶解させた。この溶液に構成単位Aとして3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物11.71gを加え、70℃で6時間撹拌して、ポリアミド化合物(ポリイミド前駆体としてのポリアミド酸)(P-1)を合成すると同時に実施例1のサイジング剤含有組成物を得た。
【0045】
・実施例2~33,36,38、参考例34,35,37,39~43のサイジング剤含有組成物の調製
実施例1のサイジング剤含有組成物と同様にして、表1のポリアミド化合物(P-2)~(P-22)を構成する構成単位A及び構成単位B、並びに表2に示される含窒素化合物の組み合わせによりポリアミド化合物(P-1)~(P-22)を合成した。それと同時に実施例2~33,36,38、参考例34,35,37,39~43のサイジング剤含有組成物を調製した。
【0046】
・比較例1~6のサイジング剤含有組成物の調製
表1のポリアミド化合物(P-3)、(rp-1)~(rp-3)を構成する構成単位A及び構成単位B、並びに表2に示される含窒素化合物の組み合わせを適用した。実施例1のサイジング剤含有組成物と同様の方法にて反応を行うことにより比較例1~6のサイジング剤含有組成物を調製した。
【0047】
なお、上述したポリアミド化合物(P-1)~(P-22)、(rp-1)~(rp-3)について、構成単位A、構成単位B、及び使用した原料の比率(モル比)を下記表1の「構成単位A」欄、「構成単位B」欄、及び「構成単位A/構成単位B(モル比)」欄に示す。
【0048】
各例のサイジング剤含有組成物中におけるポリアミド化合物の種類と含有量、含窒素化合物の種類と含有量、水の含有量は、表2の「ポリアミド化合物」欄、「含窒素化合物」欄、「水」にそれぞれ示すとおりである。また、ポリアミド化合物の含有量と含窒素化合物の含有量の質量比を「ポリアミド化合物/含窒素化合物(質量比)」欄に示す。
【0049】
【0050】
【表2】
表2に記載する含窒素化合物の詳細は以下のとおりである。
【0051】
C-1:1,2-ジメチルイミダゾール
C-2:1-ピペリジンエタノール
C-3:ジメチルアミノエタノール
C-4:ジエチルアミノエタノール
C-5:1-メチルピロリドン
C-6:アンモニア
rc-1:NaOH
試験区分2(長期安定性の評価)
・サイジング剤含有組成物の長期安定性
各例のサイジング剤含有組成物を25℃で6ヵ月間静置した。静置後、サイジング剤含有組成物の外観を目視で、以下の基準で評価した。その結果を表2の「長期安定性」欄に示す。
【0052】
◎◎◎(非常に優れる):6ヵ月経過しても沈殿、分離、又はゲル化が生じない場合
◎◎(優れる):3ヵ月経過しても沈殿、分離、又はゲル化が生じない且つ6ヵ月経過で沈殿、分離、又はゲル化が生じる場合
◎(良好):1ヵ月経過しても沈殿、分離、又はゲル化が生じない且つ3ヵ月経過で沈殿、分離、又はゲル化が生じる場合
○(可):2週間経過しても沈殿、分離、又はゲル化が生じない且つ1ヵ月経過で沈殿、分離、又はゲル化が生じる場合
×(不良):2週間経過で沈殿、分離、又はゲル化が生じる場合
××(非常に不良):調製直後から沈殿又は分離が生じる場合
・耐熱性評価
各例のサイジング剤含有組成物を200℃で1時間乾燥して、固形分を得た。直径50mmのアルミカップ上に上記固形分を1gサンプリングし、電気炉にて400℃×30分処理して、下記式により残存率(%)を計算した。
【0053】
残存率(%)=(処理後の質量)/(処理前の質量)×100
下記の基準で耐熱性を評価した。その結果を表2の「耐熱性」欄に示す。
◎◎(優れる):残存率が90%以上の場合
◎(良好):残存率が85%以上且つ90%未満の場合
○(可):残存率が75%以上且つ85%未満の場合
×(不良):残存率が75%未満の場合
以上表2の結果からも明らかなように、本発明によれば、耐熱性に優れるポリイミド被膜を付与できるサイジング剤含有組成物を得ることができる。また、サイジング剤含有組成物を長期間保管しても高い安定性を維持できる。なお、比較例5,6の耐熱性は、サイジング剤含有組成物の安定性が非常に不良であり、均一なサンプリングが困難であるため測定不可であった。比較例5,6は、アミド結合が重合したポリアミド酸の形成が進まなかったものと思われる。