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特開2023-157607炭素繊維紡績糸製造用処理剤、及び炭素繊維紡績糸
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157607
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】炭素繊維紡績糸製造用処理剤、及び炭素繊維紡績糸
(51)【国際特許分類】
D06M 13/17 20060101AFI20231019BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20231019BHJP
D06M 13/224 20060101ALI20231019BHJP
D06M 101/40 20060101ALN20231019BHJP
【FI】
D06M13/17
D06M15/53
D06M13/224
D06M101:40
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067618
(22)【出願日】2022-04-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】松永 拓也
(72)【発明者】
【氏名】大島 啓一郎
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA09
4L033AB01
4L033AC09
4L033BA14
4L033BA21
4L033CA48
(57)【要約】
【課題】練条機のローラーに炭素繊維のスライバーが巻き付くことを抑制する。
【解決手段】炭素繊維紡績糸製造用処理剤は、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を含有する。(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が、30000以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を含有し、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が、30000以下であることを特徴とする炭素繊維紡績糸製造用処理剤。
【請求項2】
前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を20質量%以上60質量%以下の割合で含有する請求項1に記載の炭素繊維紡績糸製造用処理剤。
【請求項3】
前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が、500以上1200以下である請求項1に記載の炭素繊維紡績糸製造用処理剤。
【請求項4】
更に、エステル化合物(B)を含有し、
前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及び前記エステル化合物(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を30質量%以上60質量%以下、及び前記エステル化合物(B)を40質量%以上70質量%以下の割合で含有する請求項1に記載の炭素繊維紡績糸製造用処理剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素繊維紡績糸製造用処理剤が付着していることを特徴とする炭素繊維紡績糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維紡績糸製造用処理剤、及び炭素繊維紡績糸に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、炭素繊維で構成された炭素繊維布帛が知られている。炭素繊維布帛は、例えばマトリックス樹脂とともに複合材料に用いられる。複合材料は、医療用機器分野、精密機器・産業用機械分野、建設資材分野、エネルギー分野、輸送機器分野、宇宙航空機分野、スポーツ・レジャー分野等、様々な分野で利用されている。
【0003】
特許文献1には、耐炎化繊維を予め紡績した後、製織して耐炎化布帛を作製することが記載されている。耐炎化布帛を炭化して、炭素繊維布帛を作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来は、炭素繊維を直接紡績して炭素繊維紡績糸を製造することが困難であった。その理由の一つに、練条機のローラーに炭素繊維のスライバーが巻き付くことによって操業性が低下することが挙げられる。そのため、従来は、特許文献1のように耐炎化繊維を紡績して耐炎化布帛を作製した後、耐炎化布帛を炭化して炭素繊維布帛を作製していた。炭素繊維を直接紡績して炭素繊維紡績糸を製造することは、炭素繊維のリサイクル手段の一つにもなる。そのため、炭素繊維を直接紡績して炭素繊維紡績糸を製造する研究が盛んに行われている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明の一態様の炭素繊維紡績糸製造用処理剤では、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を含有し、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が、30000以下であることを要旨とする。
【0007】
前記炭素繊維紡績糸製造用処理剤において、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を20質量%以上60質量%以下の割合で含有することが好ましい。
前記炭素繊維紡績糸製造用処理剤において、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が、500以上1200以下であることが好ましい。
【0008】
前記炭素繊維紡績糸製造用処理剤において、更に、エステル化合物(B)を含有し、
前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及び前記エステル化合物(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を30質量%以上60質量%以下、及び前記エステル化合物(B)を40質量%以上70質量%以下の割合で含有することが好ましい。
【0009】
上記課題を解決するために本発明の別の態様の炭素繊維紡績糸では、前記炭素繊維紡績糸製造用処理剤が付着していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の炭素繊維紡績糸製造用処理剤によると、練条機のローラーに炭素繊維のスライバーが巻き付くことを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態>
本発明に係る炭素繊維紡績糸製造用処理剤(以下、処理剤ともいう。)を具体化した第1実施形態について説明する。
【0012】
本実施形態の処理剤は、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を含有し、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が、30000以下である。
処理剤が上記の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を含有することにより、炭素繊維を直接紡績して炭素繊維紡績糸を製造する際に、練条機のローラーに炭素繊維のスライバーが巻き付くことを抑制することができる。
【0013】
以下、処理剤を構成する各成分について説明する。
((ポリ)オキシアルキレン誘導体(A))
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)としては、数平均分子量が30000以下である公知の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を用いることができる。上記公知の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)としては、例えばアルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させ化合物が挙げられる。また、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物も挙げられる。アルコール類又はカルボン酸類としては、直鎖状又は分岐鎖を有する脂肪族系のアルコール類又はカルボン酸類であってもよく、芳香族系のアルコール類又はカルボン酸類であってもよい。また、飽和のアルコール類又はカルボン酸類であっても、不飽和のアルコール類又はカルボン酸類であってもよい。また、一価又は二価以上のアルコール類又はカルボン酸類であってもよい。
【0014】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の具体例としては、例えばブタノールのエチレンオキサイド付加物、グリセリンのエチレンオキサイド付加物、オレイン酸のエチレンオキサイド付加物、ラウリルアミンのエチレンオキサイド付加物、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノールのエチレンオキサイド付加物、ステアリルアルコールのエチレンオキサイド付加物、ラウリン酸のエチレンオキサイド付加物、ジエチレントリアミンジオレイルアミドのエチレンオキサイド付加物、ジエチレンアミンモノラウリルアミドのエチレンオキサイド付加物、ソルビタンモノオレアートのエチレンオキサイド付加物、硬化ひまし油のエチレンオキサイド付加物、グリセリンのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0015】
これらの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
なお、(ポリ)オキシアルキレンを含んでいる化合物であれば、分子骨格にエステル結合を含んでいても、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)に含まれるものとする。
【0016】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量は、500以上1200以下であることが好ましい。
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が上記数値範囲であると、練条機のローラーに炭素繊維のスライバーが巻き付くことを好適に抑制することができる。具体的には、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が500以上であると、炭素繊維の単糸同士がばらばらになりにくくなる。そのため、スライバーに含まれる単糸がローラーに巻き付くことを抑制することができる。(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が1200以下であると、スライバー表面の粘着性が過度に高くなることが抑制される。そのため、スライバーの全体がローラーに巻き付くことを抑制することができる。
【0017】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量の測定方法は特に制限されず、公知の測定方法を採用することができる。数平均分子量の測定方法については後述する。
処理剤中の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の含有割合は特に制限されないが、20質量%以上60質量%以下の割合で含有することが好ましい。
【0018】
処理剤中の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の含有割合が上記数値範囲であると、練条機を用いて炭素繊維のスライバーを引き延ばした際に、短繊維が脱落することを防止することができる。具体的には、処理剤中の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の含有割合が20質量%以上であると、スライバーの集束性が向上するため、スライバーに含まれる単糸がばらばらになりにくくなる。そのため、スライバーに含まれる単糸が脱落することを抑制することができる。処理剤中の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の含有割合が60質量%以下であると、スライバーに含まれる単糸同士が過度に付着することが抑制される。そのため、単糸同士が過度に付着して塊状で脱落することを抑制することができる。
【0019】
なお、短繊維の脱落を防止する性能を、短繊維脱落防止性というものとする。
(エステル化合物(B))
処理剤は、エステル化合物(B)を含有することが好ましい。
【0020】
エステル化合物(B)は、カルボキシ基を持つ化合物とヒドロキシ基を持つ化合物とが脱水縮合して、分子骨格にエステル結合を含む化合物である。カルボキシ基を持つ化合物としては、例えばカルボン酸が挙げられる。ヒドロキシ基を持つ化合物としては、例えばアルコールが挙げられる。
【0021】
カルボン酸及びアルコールは、一価であってもよいし、多価であってもよい。また、飽和炭化水素基を有していてもよいし、不飽和炭化水素基を有していてもよい。また、分岐鎖を有していてもよいし、直鎖状であってもよい。多価アルコールの全てのヒドロキシ基にカルボン酸がエステル結合した完全エステル化合物であってもよいし、多価アルコールの一部のヒドロキシ基にカルボン酸がエステル結合した部分エステル化合物であってもよい。
【0022】
エステル化合物(B)の具体例としては、例えば炭素数12以上13以下のアルコールのオレイン酸エステル、ソルビタンモノオレアート、硬化ひまし油等が挙げられる。
これらのエステル化合物(B)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
なお、エステル結合を含む化合物であっても、(ポリ)オキシアルキレンを含んでいる化合物は、エステル化合物(B)には含まず、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)に含まれるものとする。
【0024】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及び前記エステル化合物(B)の含有割合は特に制限されない。(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及びエステル化合物(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を30質量%以上60質量%以下含有することが好ましい。また、エステル化合物(B)を40質量%以上70質量%以下の割合で含有することが好ましい。
【0025】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及び前記エステル化合物(B)の含有割合が上記数値範囲であることにより、練条機においてスライバーを引き延ばした際に、スライバーの切断を好適に抑制することができる。具体的には、エステル化合物(B)が40質量%以上であると、スライバーに含まれる単糸同士が滑りやすくなるため、単糸同士が塊状で切断されることを抑制することができる。エステル化合物(B)が70質量%以下であると、スライバーに含まれる単糸同士が過度に滑りやすくなることが抑制される。そのため、スライバーに含まれる単糸が抜け落ちることを抑制することができる。
【0026】
なお、スライバーの切断を抑制しつつ引き延ばすことができる性能をドラフト性というものとする。
(その他成分(C))
処理剤は、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)及びエステル化合物(B)以外に、その他成分(C)を含有してもよい。その他成分(C)としては、例えば処理剤の品質保持のための安定化剤、制電剤、帯電防止剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤(シリコーン系化合物)、界面活性剤、平滑剤等の通常処理剤に用いられる成分が挙げられる。
【0027】
なお、処理剤は、不揮発分で構成されているものとする。不揮発分とは、105℃で2時間熱処理して揮発性希釈剤等を十分に除去した後の絶乾物を意味するものとする。そのため、水や有機溶媒等は、その他成分(C)には含まれないものとする。
【0028】
その他成分(C)の具体例としては、例えば40℃における動粘度が9.5(mm2/s)である平滑剤としての鉱物油を挙げることができる。
処理剤中のその他成分(C)の含有割合は特に制限されないが、80質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが最も好ましい。
【0029】
<第2実施形態>
本発明に係る炭素繊維紡績糸を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の炭素繊維紡績糸は、第1実施形態の処理剤が付着している炭素繊維紡績糸である。炭素繊維紡績糸に対する第1実施形態の処理剤(溶媒を含まない)の付着量は、特に制限はないが、本発明の効果をより向上させる観点から0.1質量%以上10質量%以下の割合で付着していることが好ましい。
【0030】
炭素繊維紡績糸を構成する炭素繊維としては、特に制限されないが、例えばアクリル繊維を原料として得られたPAN系炭素繊維、ピッチを原料として得られたピッチ系炭素繊維、リサイクル炭素繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン樹脂、フェノール樹脂、セルロース樹脂、リグニン樹脂等を原料として得られる炭素繊維が挙げられる。
【0031】
炭素繊維の長さは特に制限されず、ショートカットとも呼ばれる長さ1cm以下の短繊維や、ステープルとも呼ばれる長さ3cm以上7cm以下程度の短繊維であってもよい。また、フィラメントとも呼ばれる長さ10cm以上の長繊維であってもよい。複合材料に用いた炭素繊維布帛から炭素繊維をリサイクルする場合、短繊維が多く含まれている。
【0032】
本実施形態の炭素繊維紡績糸の製造方法は、第1実施形態の処理剤を炭素繊維に付与する付与工程と、付与工程を経た炭素繊維の繊維方向を揃えて紐状のスライバーにするカード工程とを有する。また、数本のスライバーをまとめて引き延ばす練条工程を有する。練条工程は、練条機のローラーで数本のスライバーを搬送しながら1本にまとめて引き延ばすことによって行われる。さらに、練条工程を経たスライバーを引き延ばして粗糸を巻き取る粗紡工程と、粗糸を引き延ばして精紡糸を巻き取るリング精紡工程と、精紡糸の品質を整えながらパッケージに巻き取る巻取工程とを有する。これらの各工程を順番に行うことによって、炭素繊維紡績糸を製造することができる。
【0033】
付与工程では、第1実施形態の処理剤を炭素繊維に給油して付着させる。給油の方法としては、例えば、第1実施形態の処理剤及び水を含有する水性液、又は水性液をさらに希釈した水溶液を用いて、公知の給油方法を適用することができる。公知の給油方法としては、例えば浸漬法、スプレー法、ローラー法、計量ポンプを用いたガイド給油法等が挙げられる。
【0034】
なお、水性液の調製には、ホモミキサーやホモジナイザー等を用いた公知の機械的乳化方法が適用できる。
付与工程を行なうタイミングは、練条工程の前であれば特に制限されない。
【0035】
炭素繊維紡績糸の用途は、特に制限されない。例えば炭素繊維布帛を作製して、マトリックス樹脂とともに複合材料に用いることができる。また、燃料電池のガス拡散電極に用いることもできる。
【0036】
<作用及び効果>
第1実施形態の処理剤、及び第2実施形態の炭素繊維紡績糸によれば、以下のような作用及び効果を得ることができる。
【0037】
(1)(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を含有し、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が、30000以下である。
したがって、炭素繊維を直接紡績して炭素繊維紡績糸を製造する際に、練条機のローラーに炭素繊維のスライバーが巻き付くことを抑制することができる。練条機のローラーに巻き付いたスライバーを取り除くために操業を停止する必要がない。そのため、操業性を低下させることなく、炭素繊維を直接紡績して炭素繊維紡績糸を製造することができる。
【0038】
(2)(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を20質量%以上60質量%以下の割合で含有する。したがって、練条機を用いて炭素繊維のスライバーを引き延ばした際に、短繊維が脱落することを好適に防止することができる。言い換えれば、炭素繊維における短繊維の脱落防止性を向上させることができる。
【0039】
(3)(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が、500以上1200以下である。したがって、練条機のローラーに炭素繊維のスライバーが巻き付くことを好適に抑制することができる。
【0040】
(4)エステル化合物(B)を含有し、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及びエステル化合物(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を30質量%以上60質量%以下含有する。また、エステル化合物(B)を40質量%以上70質量%以下の割合で含有する。したがって、練条機においてスライバーを引き延ばした際に、スライバーの切断を好適に抑制することができる。言い換えれば、ドラフト性を向上させることができる。
【0041】
(5)炭素繊維紡績糸は、炭素繊維を直接紡績して作製されている。したがって、炭素繊維紡績糸を製織するだけで炭素繊維布帛を簡単に作製することができる。従来技術では、耐炎化繊維で作製した耐炎化布帛を炭化することによって炭素繊維布帛を作製していたため、炭化の際に、相対的に大きな寸法変化が生じる。これに対し、本発明の炭素繊維紡績糸によれば、炭化を行うことなく炭素繊維布帛を作製することができるため、寸法変化は相対的に小さくなる。そのため、炭素繊維布帛の寸法精度を向上させることができる。
【0042】
(6)炭素繊維紡績糸の原料にリサイクルした炭素繊維を用いることができる。資源を有効活用することができるとともに、合成繊維を炭化して炭素繊維を作製する必要がないため、コストの軽減にも寄与することができる。
【実施例0043】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、%は質量%を意味する。
【0044】
試験区分1(処理剤の調製)
(実施例1)
表1に示される(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A-1)を60質量%、エステル化合物(B-1)を40質量%となるように秤量して容器に加えた。これらを約80℃の温度で撹拌して均一に混合し、処理剤を調製した。さらに、容器に20℃の水を加えながら撹拌して均一に混合した。その後、ホモジナイザーを用いて乳化を行い、処理剤の20%水性液を調製した。
【0045】
(実施例2~33及び比較例1~3)
実施例2~33及び比較例1~3の各処理剤は、表1に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調製した。
【0046】
なお、各例の処理剤中における(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及びエステル化合物(B)は、表1の「(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)」欄、及び「エステル化合物(B)」欄にそれぞれ示すとおりである。その他成分(C)の種類と含有割合は、表1の「その他成分(C)」欄に示すとおりである。
【0047】
また、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及び前記エステル化合物(B)の含有割合の合計を100質量%とした際の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の含有割合を、「(A)/((A)+(B))」欄に示す。
【0048】
【表1】
表1の種類欄に記載するA-1~A-15、a-16、B-1~B-3、C-1の各成分の詳細は以下のとおりである。
【0049】
((ポリ)オキシアルキレン誘導体(A))
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の種類と数平均分子量について、表2の「化合物名」欄、「数平均分子量」欄にそれぞれ示す。
【0050】
【表2】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量(Mn)は、GPC法に基づき以下の測定条件で測定した。
【0051】
装置:東ソー社製HLC-8320GPC
カラム:TSK gel Super H4000
:TSK gel Super H3000
:TSK gel Super H2000(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
検出装置:示差屈折率検出器
試料溶液:0.25質量%のテトラヒドロフラン溶液
溶液流速:0.5mL/分
溶液注入量:10μL
標準試料:ポリスチレン(東ソー社製TSK STANDARD POLYSTYRENE)
標準試料を用いて検量線を作成し、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量(Mn)を求めた。
【0052】
(エステル化合物(B))
B-1:炭素数12以上13以下のアルコールのオレイン酸エステル
B-2:ソルビタンモノオレアート
B-3:硬化ひまし油
(その他成分(C))
C-1:40℃における動粘度が9.5(mm2/s)である鉱物油
試験区分2(炭素繊維紡績糸の製造)
試験区分1で調製した処理剤を用いて、炭素繊維紡績糸を製造した。
【0053】
炭素繊維は、複合材料からリサイクルとして取り出した平均の長さが50mmの短繊維(ステープル)を用いた。
この炭素繊維に対して、付与工程として、試験区分1で調製した処理剤の20%水性液をさらに希釈して0.4%水溶液としたものをスプレー法で付着させた。ステープルに対して固形分付着量が0.4質量%(溶媒を含まない)となるように付着させた。処理剤が付着した炭素繊維を、80℃の熱風乾燥機で1時間乾燥した。
【0054】
次に、付与工程を経た炭素繊維に対して、カード工程、練条工程、粗紡工程、リング精紡工程、及び巻取工程をこの順番で行って炭素繊維紡績糸を製造した。練条工程では、練条機を用いて2本のスライバーを合わせて3.9倍に延伸した。
【0055】
試験区分3(評価)
実施例1~33、及び比較例1~3に記載の各処理剤について、炭素繊維紡績糸を製造する際の工程性の評価項目として、ローラー巻き付き防止性、ドラフト性、短繊維脱落防止性を評価した。各試験の手順について以下に示す。また、試験結果を表1の「ローラー巻き付き防止性」欄、「ドラフト性」欄、「短繊維脱落防止性」欄にそれぞれに示す。
【0056】
(ローラー巻き付き防止性)
試験区分2の練条工程において、練条機のローラーに対するスライバーの巻き付きの有無を目視で観察した。練条の開始からスライバーが練条機のローラーに巻き付くまでの時間を測定して、下記の評価基準で評価した。なお、スライバーの巻き付きは、スライバーの全体がローラーに巻き付く態様と、スライバーに含まれる単糸がローラーに巻き付く態様の両方を含むものとする。
【0057】
・ローラー巻き付き防止性の評価基準
◎(良好):練条開始から10分経過後もスライバーがローラーに巻き付かない場合
〇(可):5分を超え、10分以内にスライバーがローラーに巻き付いた場合
×(不可):5分以内にスライバーがローラーに巻き付いた場合
(ドラフト性)
試験区分2のカード工程で作製したスライバーを用いて、引張強伸度試験を行った。引張強伸度試験の条件は、スライバーの把持長さを10cmとし、引張速度を10cm/minとして1分間延伸した。スライバーを構成するトウが切断するまでの時間を測定して、下記の評価基準で評価した。なお、スライバーを構成するトウの切断は、スライバーに含まれる単糸同士が塊状で切断される態様と、スライバーに含まれる単糸が抜け落ちる態様の両方を含むものとする。
【0058】
・ドラフト性の評価基準
◎(良好):1分間の延伸中にトウが切断しなかった場合
〇(可):トウが切断するまでの時間が50秒以上、1分未満であった場合
×(不可):トウが切断するまでの時間が50秒未満であった場合
(短繊維脱落防止性)
試験区分2の練条工程において、練条の開始から10分経過後に、練条機内における短繊維の脱落の有無を目視で観察した。また、比較試験として、試験区分2で使用した炭素繊維を用いて、付与工程を省略して処理剤を付着させずに練条工程を行った。練条の開始から10分経過後の短繊維の脱落の有無を目視で観察した。下記の評価基準で評価した。なお、短繊維の脱落は、スライバーに含まれる単糸がばらばらになって脱落する態様と、単糸同士が塊状で脱落する態様の両方を含むものとする。
【0059】
・短繊維脱落防止性の評価基準
◎(良好):全く短繊維が脱落していなかった場合
○(可):少量の短繊維が脱落しているものの、比較試験よりも脱落が少ない場合
×(不可):多量の短繊維が脱落しており、比較試験と同等かそれよりも脱落が多い場合
表1より、比較例1の処理剤は、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が30000を超えているため、ローラー巻き付き防止性が不可であった。
【0060】
比較例2の処理剤は、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を含有しておらず、エステル化合物(B)の含有割合が100質量%であった。そのため、ローラー巻き付き防止性、ドラフト性、及び短繊維脱落防止性のいずれも不可であった。
【0061】
比較例3は、処理剤自体を用いていないため、ローラー巻き付き防止性、及び短繊維脱落防止性が不可であった。また、トウが非常に切断されやすくなっていたため、ドラフト性の評価を行うことができなかった。
【0062】
一方、実施例1~33の処理剤は、ローラー巻き付き防止性、ドラフト性、及び短繊維脱落防止性のいずれも、可、もしくは良好であった。
本発明の処理剤によれば、練条機のローラーに炭素繊維のスライバーが巻き付くことを抑制することができる。また、練条機においてスライバーを引き延ばした際に、スライバーの切断を抑制することができるとともに、短繊維が脱落することを抑制することができる。
【手続補正書】
【提出日】2022-07-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を含有し、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が、30000以下であり、
更に、エステル化合物(B)を含有することを特徴とする炭素繊維紡績糸製造用処理剤。
【請求項2】
前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を20質量%以上60質量%以下の割合で含有する請求項1に記載の炭素繊維紡績糸製造用処理剤。
【請求項3】
前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が、500以上1200以下である請求項1に記載の炭素繊維紡績糸製造用処理剤。
【請求項4】
前記エステル化合物(B)を含有し、
前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及び前記エステル化合物(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を30質量%以上60質量%以下、及び前記エステル化合物(B)を40質量%以上70質量%以下の割合で含有する請求項1に記載の炭素繊維紡績糸製造用処理剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素繊維紡績糸製造用処理剤が付着していることを特徴とする炭素繊維紡績糸。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維紡績糸製造用処理剤、及び炭素繊維紡績糸に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、炭素繊維で構成された炭素繊維布帛が知られている。炭素繊維布帛は、例えばマトリックス樹脂とともに複合材料に用いられる。複合材料は、医療用機器分野、精密機器・産業用機械分野、建設資材分野、エネルギー分野、輸送機器分野、宇宙航空機分野、スポーツ・レジャー分野等、様々な分野で利用されている。
【0003】
特許文献1には、耐炎化繊維を予め紡績した後、製織して耐炎化布帛を作製することが記載されている。耐炎化布帛を炭化して、炭素繊維布帛を作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来は、炭素繊維を直接紡績して炭素繊維紡績糸を製造することが困難であった。その理由の一つに、練条機のローラーに炭素繊維のスライバーが巻き付くことによって操業性が低下することが挙げられる。そのため、従来は、特許文献1のように耐炎化繊維を紡績して耐炎化布帛を作製した後、耐炎化布帛を炭化して炭素繊維布帛を作製していた。炭素繊維を直接紡績して炭素繊維紡績糸を製造することは、炭素繊維のリサイクル手段の一つにもなる。そのため、炭素繊維を直接紡績して炭素繊維紡績糸を製造する研究が盛んに行われている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明の一態様の炭素繊維紡績糸製造用処理剤では、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を含有し、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が、30000以下であり、更に、エステル化合物(B)を含有することを要旨とする。
【0007】
前記炭素繊維紡績糸製造用処理剤において、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を20質量%以上60質量%以下の割合で含有することが好ましい。
前記炭素繊維紡績糸製造用処理剤において、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が、500以上1200以下であることが好ましい。
【0008】
前記炭素繊維紡績糸製造用処理剤において、前記エステル化合物(B)を含有し、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及び前記エステル化合物(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を30質量%以上60質量%以下、及び前記エステル化合物(B)を40質量%以上70質量%以下の割合で含有することが好ましい。
【0009】
上記課題を解決するために本発明の別の態様の炭素繊維紡績糸では、前記炭素繊維紡績糸製造用処理剤が付着していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の炭素繊維紡績糸製造用処理剤によると、練条機のローラーに炭素繊維のスライバーが巻き付くことを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態>
本発明に係る炭素繊維紡績糸製造用処理剤(以下、処理剤ともいう。)を具体化した第1実施形態について説明する。
【0012】
本実施形態の処理剤は、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を含有し、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が、30000以下であり、更に、エステル化合物(B)を含有する。
処理剤が上記の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を含有することにより、炭素繊維を直接紡績して炭素繊維紡績糸を製造する際に、練条機のローラーに炭素繊維のスライバーが巻き付くことを抑制することができる。
【0013】
以下、処理剤を構成する各成分について説明する。
((ポリ)オキシアルキレン誘導体(A))
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)としては、数平均分子量が30000以下である公知の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を用いることができる。上記公知の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)としては、例えばアルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させ化合物が挙げられる。また、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物も挙げられる。アルコール類又はカルボン酸類としては、直鎖状又は分岐鎖を有する脂肪族系のアルコール類又はカルボン酸類であってもよく、芳香族系のアルコール類又はカルボン酸類であってもよい。また、飽和のアルコール類又はカルボン酸類であっても、不飽和のアルコール類又はカルボン酸類であってもよい。また、一価又は二価以上のアルコール類又はカルボン酸類であってもよい。
【0014】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の具体例としては、例えばブタノールのエチレンオキサイド付加物、グリセリンのエチレンオキサイド付加物、オレイン酸のエチレンオキサイド付加物、ラウリルアミンのエチレンオキサイド付加物、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノールのエチレンオキサイド付加物、ステアリルアルコールのエチレンオキサイド付加物、ラウリン酸のエチレンオキサイド付加物、ジエチレントリアミンジオレイルアミドのエチレンオキサイド付加物、ジエチレンアミンモノラウリルアミドのエチレンオキサイド付加物、ソルビタンモノオレアートのエチレンオキサイド付加物、硬化ひまし油のエチレンオキサイド付加物、グリセリンのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0015】
これらの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
なお、(ポリ)オキシアルキレンを含んでいる化合物であれば、分子骨格にエステル結合を含んでいても、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)に含まれるものとする。
【0016】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量は、500以上1200以下であることが好ましい。
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が上記数値範囲であると、練条機のローラーに炭素繊維のスライバーが巻き付くことを好適に抑制することができる。具体的には、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が500以上であると、炭素繊維の単糸同士がばらばらになりにくくなる。そのため、スライバーに含まれる単糸がローラーに巻き付くことを抑制することができる。(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が1200以下であると、スライバー表面の粘着性が過度に高くなることが抑制される。そのため、スライバーの全体がローラーに巻き付くことを抑制することができる。
【0017】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量の測定方法は特に制限されず、公知の測定方法を採用することができる。数平均分子量の測定方法については後述する。
処理剤中の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の含有割合は特に制限されないが、20質量%以上60質量%以下の割合で含有することが好ましい。
【0018】
処理剤中の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の含有割合が上記数値範囲であると、練条機を用いて炭素繊維のスライバーを引き延ばした際に、短繊維が脱落することを防止することができる。具体的には、処理剤中の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の含有割合が20質量%以上であると、スライバーの集束性が向上するため、スライバーに含まれる単糸がばらばらになりにくくなる。そのため、スライバーに含まれる単糸が脱落することを抑制することができる。処理剤中の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の含有割合が60質量%以下であると、スライバーに含まれる単糸同士が過度に付着することが抑制される。そのため、単糸同士が過度に付着して塊状で脱落することを抑制することができる。
【0019】
なお、短繊維の脱落を防止する性能を、短繊維脱落防止性というものとする。
(エステル化合物(B))
処理剤は、エステル化合物(B)を含有することが好ましい。
【0020】
エステル化合物(B)は、カルボキシ基を持つ化合物とヒドロキシ基を持つ化合物とが脱水縮合して、分子骨格にエステル結合を含む化合物である。カルボキシ基を持つ化合物としては、例えばカルボン酸が挙げられる。ヒドロキシ基を持つ化合物としては、例えばアルコールが挙げられる。
【0021】
カルボン酸及びアルコールは、一価であってもよいし、多価であってもよい。また、飽和炭化水素基を有していてもよいし、不飽和炭化水素基を有していてもよい。また、分岐鎖を有していてもよいし、直鎖状であってもよい。多価アルコールの全てのヒドロキシ基にカルボン酸がエステル結合した完全エステル化合物であってもよいし、多価アルコールの一部のヒドロキシ基にカルボン酸がエステル結合した部分エステル化合物であってもよい。
【0022】
エステル化合物(B)の具体例としては、例えば炭素数12以上13以下のアルコールのオレイン酸エステル、ソルビタンモノオレアート、硬化ひまし油等が挙げられる。
これらのエステル化合物(B)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
なお、エステル結合を含む化合物であっても、(ポリ)オキシアルキレンを含んでいる化合物は、エステル化合物(B)には含まず、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)に含まれるものとする。
【0024】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及び前記エステル化合物(B)の含有割合は特に制限されない。(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及びエステル化合物(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を30質量%以上60質量%以下含有することが好ましい。また、エステル化合物(B)を40質量%以上70質量%以下の割合で含有することが好ましい。
【0025】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及び前記エステル化合物(B)の含有割合が上記数値範囲であることにより、練条機においてスライバーを引き延ばした際に、スライバーの切断を好適に抑制することができる。具体的には、エステル化合物(B)が40質量%以上であると、スライバーに含まれる単糸同士が滑りやすくなるため、単糸同士が塊状で切断されることを抑制することができる。エステル化合物(B)が70質量%以下であると、スライバーに含まれる単糸同士が過度に滑りやすくなることが抑制される。そのため、スライバーに含まれる単糸が抜け落ちることを抑制することができる。
【0026】
なお、スライバーの切断を抑制しつつ引き延ばすことができる性能をドラフト性というものとする。
(その他成分(C))
処理剤は、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)及びエステル化合物(B)以外に、その他成分(C)を含有してもよい。その他成分(C)としては、例えば処理剤の品質保持のための安定化剤、制電剤、帯電防止剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤(シリコーン系化合物)、界面活性剤、平滑剤等の通常処理剤に用いられる成分が挙げられる。
【0027】
なお、処理剤は、不揮発分で構成されているものとする。不揮発分とは、105℃で2時間熱処理して揮発性希釈剤等を十分に除去した後の絶乾物を意味するものとする。そのため、水や有機溶媒等は、その他成分(C)には含まれないものとする。
【0028】
その他成分(C)の具体例としては、例えば40℃における動粘度が9.5(mm2/s)である平滑剤としての鉱物油を挙げることができる。
処理剤中のその他成分(C)の含有割合は特に制限されないが、80質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが最も好ましい。
【0029】
<第2実施形態>
本発明に係る炭素繊維紡績糸を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の炭素繊維紡績糸は、第1実施形態の処理剤が付着している炭素繊維紡績糸である。炭素繊維紡績糸に対する第1実施形態の処理剤(溶媒を含まない)の付着量は、特に制限はないが、本発明の効果をより向上させる観点から0.1質量%以上10質量%以下の割合で付着していることが好ましい。
【0030】
炭素繊維紡績糸を構成する炭素繊維としては、特に制限されないが、例えばアクリル繊維を原料として得られたPAN系炭素繊維、ピッチを原料として得られたピッチ系炭素繊維、リサイクル炭素繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン樹脂、フェノール樹脂、セルロース樹脂、リグニン樹脂等を原料として得られる炭素繊維が挙げられる。
【0031】
炭素繊維の長さは特に制限されず、ショートカットとも呼ばれる長さ1cm以下の短繊維や、ステープルとも呼ばれる長さ3cm以上7cm以下程度の短繊維であってもよい。また、フィラメントとも呼ばれる長さ10cm以上の長繊維であってもよい。複合材料に用いた炭素繊維布帛から炭素繊維をリサイクルする場合、短繊維が多く含まれている。
【0032】
本実施形態の炭素繊維紡績糸の製造方法は、第1実施形態の処理剤を炭素繊維に付与する付与工程と、付与工程を経た炭素繊維の繊維方向を揃えて紐状のスライバーにするカード工程とを有する。また、数本のスライバーをまとめて引き延ばす練条工程を有する。練条工程は、練条機のローラーで数本のスライバーを搬送しながら1本にまとめて引き延ばすことによって行われる。さらに、練条工程を経たスライバーを引き延ばして粗糸を巻き取る粗紡工程と、粗糸を引き延ばして精紡糸を巻き取るリング精紡工程と、精紡糸の品質を整えながらパッケージに巻き取る巻取工程とを有する。これらの各工程を順番に行うことによって、炭素繊維紡績糸を製造することができる。
【0033】
付与工程では、第1実施形態の処理剤を炭素繊維に給油して付着させる。給油の方法としては、例えば、第1実施形態の処理剤及び水を含有する水性液、又は水性液をさらに希釈した水溶液を用いて、公知の給油方法を適用することができる。公知の給油方法としては、例えば浸漬法、スプレー法、ローラー法、計量ポンプを用いたガイド給油法等が挙げられる。
【0034】
なお、水性液の調製には、ホモミキサーやホモジナイザー等を用いた公知の機械的乳化方法が適用できる。
付与工程を行なうタイミングは、練条工程の前であれば特に制限されない。
【0035】
炭素繊維紡績糸の用途は、特に制限されない。例えば炭素繊維布帛を作製して、マトリックス樹脂とともに複合材料に用いることができる。また、燃料電池のガス拡散電極に用いることもできる。
【0036】
<作用及び効果>
第1実施形態の処理剤、及び第2実施形態の炭素繊維紡績糸によれば、以下のような作用及び効果を得ることができる。
【0037】
(1)(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を含有し、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が、30000以下である。
したがって、炭素繊維を直接紡績して炭素繊維紡績糸を製造する際に、練条機のローラーに炭素繊維のスライバーが巻き付くことを抑制することができる。練条機のローラーに巻き付いたスライバーを取り除くために操業を停止する必要がない。そのため、操業性を低下させることなく、炭素繊維を直接紡績して炭素繊維紡績糸を製造することができる。
【0038】
(2)(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を20質量%以上60質量%以下の割合で含有する。したがって、練条機を用いて炭素繊維のスライバーを引き延ばした際に、短繊維が脱落することを好適に防止することができる。言い換えれば、炭素繊維における短繊維の脱落防止性を向上させることができる。
【0039】
(3)(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が、500以上1200以下である。したがって、練条機のローラーに炭素繊維のスライバーが巻き付くことを好適に抑制することができる。
【0040】
(4)エステル化合物(B)を含有し、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及びエステル化合物(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を30質量%以上60質量%以下含有する。また、エステル化合物(B)を40質量%以上70質量%以下の割合で含有する。したがって、練条機においてスライバーを引き延ばした際に、スライバーの切断を好適に抑制することができる。言い換えれば、ドラフト性を向上させることができる。
【0041】
(5)炭素繊維紡績糸は、炭素繊維を直接紡績して作製されている。したがって、炭素繊維紡績糸を製織するだけで炭素繊維布帛を簡単に作製することができる。従来技術では、耐炎化繊維で作製した耐炎化布帛を炭化することによって炭素繊維布帛を作製していたため、炭化の際に、相対的に大きな寸法変化が生じる。これに対し、本発明の炭素繊維紡績糸によれば、炭化を行うことなく炭素繊維布帛を作製することができるため、寸法変化は相対的に小さくなる。そのため、炭素繊維布帛の寸法精度を向上させることができる。
【0042】
(6)炭素繊維紡績糸の原料にリサイクルした炭素繊維を用いることができる。資源を有効活用することができるとともに、合成繊維を炭化して炭素繊維を作製する必要がないため、コストの軽減にも寄与することができる。
【実施例0043】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、%は質量%を意味する。
【0044】
試験区分1(処理剤の調製)
(実施例1)
表1に示される(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A-1)を60質量%、エステル化合物(B-1)を40質量%となるように秤量して容器に加えた。これらを約80℃の温度で撹拌して均一に混合し、処理剤を調製した。さらに、容器に20℃の水を加えながら撹拌して均一に混合した。その後、ホモジナイザーを用いて乳化を行い、処理剤の20%水性液を調製した。
【0045】
(実施例2~29、31~33、参考例30、及び比較例1~3)
実施例2~29、31~33、参考例30、及び比較例1~3の各処理剤は、表1に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調製した。
【0046】
なお、各例の処理剤中における(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及びエステル化合物(B)は、表1の「(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)」欄、及び「エステル化合物(B)」欄にそれぞれ示すとおりである。その他成分(C)の種類と含有割合は、表1の「その他成分(C)」欄に示すとおりである。
【0047】
また、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及び前記エステル化合物(B)の含有割合の合計を100質量%とした際の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の含有割合を、「(A)/((A)+(B))」欄に示す。
【0048】
【表1】
表1の種類欄に記載するA-1~A-15、a-16、B-1~B-3、C-1の各成分の詳細は以下のとおりである。
【0049】
((ポリ)オキシアルキレン誘導体(A))
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の種類と数平均分子量について、表2の「化合物名」欄、「数平均分子量」欄にそれぞれ示す。
【0050】
【表2】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量(Mn)は、GPC法に基づき以下の測定条件で測定した。
【0051】
装置:東ソー社製HLC-8320GPC
カラム:TSK gel Super H4000
:TSK gel Super H3000
:TSK gel Super H2000(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
検出装置:示差屈折率検出器
試料溶液:0.25質量%のテトラヒドロフラン溶液
溶液流速:0.5mL/分
溶液注入量:10μL
標準試料:ポリスチレン(東ソー社製TSK STANDARD POLYSTYRENE)
標準試料を用いて検量線を作成し、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量(Mn)を求めた。
【0052】
(エステル化合物(B))
B-1:炭素数12以上13以下のアルコールのオレイン酸エステル
B-2:ソルビタンモノオレアート
B-3:硬化ひまし油
(その他成分(C))
C-1:40℃における動粘度が9.5(mm2/s)である鉱物油
試験区分2(炭素繊維紡績糸の製造)
試験区分1で調製した処理剤を用いて、炭素繊維紡績糸を製造した。
【0053】
炭素繊維は、複合材料からリサイクルとして取り出した平均の長さが50mmの短繊維(ステープル)を用いた。
この炭素繊維に対して、付与工程として、試験区分1で調製した処理剤の20%水性液をさらに希釈して0.4%水溶液としたものをスプレー法で付着させた。ステープルに対して固形分付着量が0.4質量%(溶媒を含まない)となるように付着させた。処理剤が付着した炭素繊維を、80℃の熱風乾燥機で1時間乾燥した。
【0054】
次に、付与工程を経た炭素繊維に対して、カード工程、練条工程、粗紡工程、リング精紡工程、及び巻取工程をこの順番で行って炭素繊維紡績糸を製造した。練条工程では、練条機を用いて2本のスライバーを合わせて3.9倍に延伸した。
【0055】
試験区分3(評価)
実施例1~29、31~33、参考例30、及び比較例1~3に記載の各処理剤について、炭素繊維紡績糸を製造する際の工程性の評価項目として、ローラー巻き付き防止性、ドラフト性、短繊維脱落防止性を評価した。各試験の手順について以下に示す。また、試験結果を表1の「ローラー巻き付き防止性」欄、「ドラフト性」欄、「短繊維脱落防止性」欄にそれぞれに示す。
【0056】
(ローラー巻き付き防止性)
試験区分2の練条工程において、練条機のローラーに対するスライバーの巻き付きの有無を目視で観察した。練条の開始からスライバーが練条機のローラーに巻き付くまでの時間を測定して、下記の評価基準で評価した。なお、スライバーの巻き付きは、スライバーの全体がローラーに巻き付く態様と、スライバーに含まれる単糸がローラーに巻き付く態様の両方を含むものとする。
【0057】
・ローラー巻き付き防止性の評価基準
◎(良好):練条開始から10分経過後もスライバーがローラーに巻き付かない場合
〇(可):5分を超え、10分以内にスライバーがローラーに巻き付いた場合
×(不可):5分以内にスライバーがローラーに巻き付いた場合
(ドラフト性)
試験区分2のカード工程で作製したスライバーを用いて、引張強伸度試験を行った。引張強伸度試験の条件は、スライバーの把持長さを10cmとし、引張速度を10cm/minとして1分間延伸した。スライバーを構成するトウが切断するまでの時間を測定して、下記の評価基準で評価した。なお、スライバーを構成するトウの切断は、スライバーに含まれる単糸同士が塊状で切断される態様と、スライバーに含まれる単糸が抜け落ちる態様の両方を含むものとする。
【0058】
・ドラフト性の評価基準
◎(良好):1分間の延伸中にトウが切断しなかった場合
〇(可):トウが切断するまでの時間が50秒以上、1分未満であった場合
×(不可):トウが切断するまでの時間が50秒未満であった場合
(短繊維脱落防止性)
試験区分2の練条工程において、練条の開始から10分経過後に、練条機内における短繊維の脱落の有無を目視で観察した。また、比較試験として、試験区分2で使用した炭素繊維を用いて、付与工程を省略して処理剤を付着させずに練条工程を行った。練条の開始から10分経過後の短繊維の脱落の有無を目視で観察した。下記の評価基準で評価した。なお、短繊維の脱落は、スライバーに含まれる単糸がばらばらになって脱落する態様と、単糸同士が塊状で脱落する態様の両方を含むものとする。
【0059】
・短繊維脱落防止性の評価基準
◎(良好):全く短繊維が脱落していなかった場合
○(可):少量の短繊維が脱落しているものの、比較試験よりも脱落が少ない場合
×(不可):多量の短繊維が脱落しており、比較試験と同等かそれよりも脱落が多い場合
表1より、比較例1の処理剤は、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の数平均分子量が30000を超えているため、ローラー巻き付き防止性が不可であった。
【0060】
比較例2の処理剤は、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を含有しておらず、エステル化合物(B)の含有割合が100質量%であった。そのため、ローラー巻き付き防止性、ドラフト性、及び短繊維脱落防止性のいずれも不可であった。
【0061】
比較例3は、処理剤自体を用いていないため、ローラー巻き付き防止性、及び短繊維脱落防止性が不可であった。また、トウが非常に切断されやすくなっていたため、ドラフト性の評価を行うことができなかった。
【0062】
一方、実施例1~29、31~33の処理剤は、ローラー巻き付き防止性、ドラフト性、及び短繊維脱落防止性のいずれも、可、もしくは良好であった。
本発明の処理剤によれば、練条機のローラーに炭素繊維のスライバーが巻き付くことを抑制することができる。また、練条機においてスライバーを引き延ばした際に、スライバーの切断を抑制することができるとともに、短繊維が脱落することを抑制することができる。