特開 2023-157610 冊子用カバー

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2023157610

(43)【公開日】2023-10-26

(54)【発明の名称】冊子用カバー

(51)【国際特許分類】

   B42D 3/00 20060101AFI20231019BHJP

   B42D 3/18 20060101ALI20231019BHJP

【ＦＩ】

B42D3/00 B

B42D3/18 K

【審査請求】未請求

【請求項の数】4

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2022067623

(22)【出願日】2022-04-15

(71)【出願人】

【識別番号】000003193

【氏名又は名称】ＴＯＰＰＡＮホールディングス株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100149548

【弁理士】

【氏名又は名称】松沼 泰史

(74)【代理人】

【識別番号】100139686

【弁理士】

【氏名又は名称】鈴木 史朗

(74)【代理人】

【識別番号】100169764

【弁理士】

【氏名又は名称】清水 雄一郎

(74)【代理人】

【識別番号】100147267

【弁理士】

【氏名又は名称】大槻 真紀子

(72)【発明者】

【氏名】▲高▼田 梓

(72)【発明者】

【氏名】小久保 悠

(57)【要約】

【課題】紙クロスなどのクロスがカールすることを防止できる冊子用カバーを提供する。
【解決手段】クロス２と、クロス２と接着剤３で貼り合わされるシート材４と、を有し、クロス２の流れ方向と、シート材４の流れ方向とが、交差している。シート材４には、厚さ方向に貫通し、クロス２の面に沿って直線状に延びる溝部４１が形成され、クロス２における溝部４１が対向する部分には、接着剤３が塗布されている。クロス２の流れ方向は、冊子用カバー１の長手方向に延び、シート材４の流れ方向は、冊子用カバー１の短手方向に延びている。
【選択図】図１

【特許請求の範囲】

【請求項1】

クロスと、
前記クロスと接着剤で貼り合わされるシート材と、を有し、
前記クロスの流れ方向と、前記シート材の流れ方向とが、交差している冊子用カバー。

【請求項2】

前記シート材には、厚さ方向に貫通し、前記クロスの面に沿って直線状に延びる溝部が形成され、
前記クロスにおける前記溝部が対向する部分には、前記接着剤が塗布されている請求項１に記載の冊子用カバー。

【請求項3】

前記クロスの流れ方向は、前記冊子用カバーの長手方向に延び、前記シート材の流れ方向は、前記冊子用カバーの短手方向に延びている請求項１または２に記載の冊子用カバー。

【請求項4】

前記シート材は、発泡樹脂製である請求項１に記載の冊子用カバー。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、冊子用カバーに関する。

【背景技術】

【0002】

パスポートなどの冊子の表紙として使用される冊子用カバーは、表紙面（外側面）のシートと、内側面の見返し用紙とが貼り合わされている（例えば、特許文献１参照）。表紙面のシートには、例えば、紙基材の表面に樹脂層が塗工された紙クロスが使用される。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【特許文献1】特許第５１３０８８７号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

紙クロスは、冊子の使用環境が高湿状態となり水分を含むと、紙目に沿ってカール（湾曲）することがある。また、冊子用カバーの製造工程において、紙クロスが見返し用紙を貼るための水糊の水分を含むと、紙目に沿ってカールすることがある。
紙クロスのカールに伴って冊子用カバーがカールすると、後加工の冊子製造にてフィードやジャム等不具合が生じたり、冊子の使い勝手や見栄えが悪くなったりするという問題がある。

【0005】

そこで、本発明は、紙クロスなどのクロスがカールすることを防止できる冊子用カバーを提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0006】

上記目的を達成するため、本発明に係る冊子用カバーは、クロスと、前記クロスと接着剤で貼り合わされるシート材と、を有し、前記クロスの流れ方向と、前記シート材の流れ方向とが、交差している。

【0007】

本発明では、クロスの流れ方向とシート材の流れ方向とが交差することにより、高湿条件下に放置されることによってクロスに長じる応力とシート材に生じる応力が交差するため、クロスのカール量を小さくすることができる。クロスの流れ方向とは、製造時に溶融した樹脂や繊維などのクロスの材料が流れる方向を示す。シート材の流れ方向とは、製造時に溶融した樹脂や繊維などのシート材の材料が流れる方向を示す。

【0008】

また、本発明に係る冊子用カバーでは、前記シート材には、厚さ方向に貫通し、前記クロスの面に沿って直線状に延びる溝部が形成され、前記クロスにおける前記溝部が対向する部分には、前記接着剤が塗布されていてもよい。

【0009】

シート材に溝部を形成することにより、溝部の分だけシート材が除去されるため、カール量を低減できる。

【0010】

また、本発明に係る冊子用カバーでは、前記クロスの流れ方向は、前記冊子用カバーの長手方向に延び、前記シート材の流れ方向は、前記冊子用カバーの短手方向に延びていてもよい。

【0011】

このような構成とすることにより、冊子用カバーは、製本工程において長手方向で綴じられることが一般的であるため、クロスが流れ方向の中間部で綴じられることになり、クロスが意図せずに開くことが防止され、その結果、冊子用カバーが意図せずに開くことを防止できる。

【0012】

また、本発明に係る冊子用カバーでは、前記シート材は、発泡樹脂製であってもよい。

【0013】

このような構成とすることにより、シート材が柔軟性を有するため、冊子用カバーが柔軟性を有し、冊子用カバーの使用性を向上させることができる。

【発明の効果】

【0014】

本発明によれば、クロスがカールすることを防止できる。

【図面の簡単な説明】

【0015】

【図1】本発明の実施形態による冊子用カバーでデボス加工によってクロスの両面に凹凸が形成された形態を示す図である。

【図2】本発明の実施形態による冊子用カバーでデボス加工によってクロスの片面に凹凸が形成された形態を示す図である。

【図3】本発明の実施形態による冊子用カバーでエンボス加工によってクロスの両面に凹凸が形成された形態を示す図である。

【図4】本発明の実施形態による冊子用カバーでエンボス加工によってクロスの片面に凹凸が形成された形態を示す図である。

【図5】本発明の実施形態による冊子用カバーでクロスに凹凸の無い形態を示す図である。

【図6】クロス単体と、クロスの流れ方向とシート材の流れ方向とが平行である冊子用カバーと、を高湿度条件下に放置した後に測定したカール量および状態を示す表である。

【図7】評価を行う冊子用カバーのクロスとシート材の組み合わせを示す表である。

【図8】各冊子用カバーのカールの評価結果を示す表である。

【図9】各冊子用カバーの評価試験後の画像を示す表である。

【発明を実施するための形態】

【0016】

以下、本発明の実施形態による冊子用カバーについて、図１から図９に基づいて説明する。
図１に示すように、本実施形態による冊子用カバー１は、例えばパスポートなどの表紙に使用される。冊子用カバー１は、クロス２と、クロス２に接着剤３で貼り合わされる発泡樹脂製のシート材４と、を有している。図示していないが、冊子用カバー１は、シート材４のクロス２と貼り合わされていない側の面に見返し用紙が貼り合わされる。
クロス２とシート材４とが貼り合わされて積層される方向を厚さ方向と表記する。厚さ方向のうち、シート材４に対するクロス２が設けられる側を一方側と表記し、クロス２に対してシート材４が設けられる側を他方側と表記する。

【0017】

クロス２は、例えば、紙基材などの基材に樹脂層が塗工されている。クロス２の基材は、紙基材以外に、布・不織布・樹脂シートなど布基材や樹脂系の基材であってもよい。樹脂層は、例えば、熱可塑性樹脂であり、ニトロセルロース、アクリル、ポリウレタン、ＰＶＣ等樹脂、ポリオレフィンなどである。クロス２は、耐水性および加飾加工含めた加工適性を有している。クロス２の樹脂層（最表層）の加工は、塗工やシート貼り合わせなどによって積層される。
クロス２の厚さは、例えば、１５０μｍ以上４００μｍ以下程度である。クロス２の坪量は、例えば、２７０ｇ／ｍ^２以上７２０ｇ／ｍ^２以下程度である。クロス２は、上記範囲の厚さおよび坪量であれば、表面加工適性および製本加工適性に優れる。

【0018】

クロス２には、厚さ方向に凹んだり突出したりするデボスやエンボスなどの凹凸５が形成されていてもよい。図１、図２に示すクロス２の凹凸５は、クロス２を厚さ方向の一方側から凹ませて凹部５１を形成するデボス加工によって形成されている。図１に示すクロス２は、両面に凹凸５が形成されている。図２に示すクロス２は、一方の面に凹凸５が形成されている。図３、図４に示すクロス２の凹凸５は、クロス２を厚さ方向の一方側に押し出して凸部５２を形成するエンボス加工によって形成されている。図３に示すクロス２は、両面に凹凸５が形成されている。図４に示すクロス２は、一方の面に凹凸５が形成されている。図５に示すクロス２は、両面とも凹凸５が形成されていない。

【0019】

シート材４は、例えば、プラスチックシートや、紙、プラスチックと紙とが合成された合成紙などである。シート材４に採用されるプラスチックシートは、例えば、ポリエチレンテレフタレート（ＰＥＴ）、ポリ塩化ビニル（ＰＶＣ）、ポリカーボネート（ＰＣ）、ポリプロピレン（ＰＰ）、ＴＥＳＬＩＮ（登録商標）などで、発泡プラスチックシートも該当する。発泡プラスチックシートは、柔軟性に富み、熱可塑性を有する。
シート材４の密度は、例えば、０．５以上１．５以下である。シート材４の密度は、シート材の柔軟性に寄与するため、上記の範囲では機械適性に良好な、しなりを有する。また、上記範囲であれば冊子化後にページをめくる際のユーザビリティ性（冊子本文のページ送りの際の曲げ適性）も高い。シート材４は、柔軟性を有している。

【0020】

接着剤３は、例えば、ポリウレタン系の接着剤、製本などに使用されるＰＵＲ系のホットメルト、空気中や用紙中の水分と反応し硬化する湿気硬化型の接着剤などである。接着剤３は、一度硬化すると熱を加えても軟化せず、耐久性に優れる。
接着剤３の粘度（ｍＰａ／Ｓ，１２０℃）は、例えば、４０００以上３００００以下である。接着剤３の硬度（ＨＳ、Ａ形鋼時計、２０℃）は、例えば、７０以上である。
接着剤３の粘度および硬度を上記の範囲にすると、接着剤塗布工程における機械適性や貼合加工に適する。
接着剤３の厚さは、例えば、１０μｍ以上４０μｍ以下である。冊子の表紙として使用される冊子用カバー１における耐水・耐薬品・耐湿度などの長期保管・長期使用に耐えうる耐久性の確保、加えてクロス２にデボスやエンボスなどの凹凸５の加工を施した際、上記範囲の接着剤３を塗布することによって、冊子用カバー１裏面（シート材４側の面）の凹凸５を平滑化することができ、外観および後工程の機械適性も向上する効果を有する。

【0021】

シート材４には、厚さ方向に貫通し、クロス２の面に沿って直線状に延びる溝部４１が形成され、クロス２における溝部４１が対向する部分には、接着剤３が塗布されている。本実施形態では、２つのシート材４がクロス２の面に沿って直線状の隙間４２をあけて配置されている。この隙間が溝部４１に相当している。冊子用カバー１は、溝部４１を折り目として折り曲げることが可能である。

【0022】

溝部４１の形状は、シート材４を厚さ方向に貫通する形状のみでなく、シート材４を貫通せずに厚さ方向の一部を残す（ブリッジ形成）凹部形状も想定される。ブリッジ（残す部分）は、３ｕｐの面付の場合では天地と中央、２ｕｐの面付の場合では天地にそれぞれ設ける。
溝部４１の断面形状は、例えば、垂直となるパターンや台形となるパターンなどが想定される。溝部４１の断面形状が台形のパターンは、冊子用カバー１に見返し用紙を貼り合わせる際に段差ができにくくなり、製本適性向上や冊子化後の開きを低減する。
溝部４１の幅（ヒンジ幅）は、例えば、５ｍｍ以上１５ｍｍ以下である。

【0023】

クロス２の流れ方向と、シート材４の流れ方向とが、直交している。クロス２の流れ方向とは、製造時に溶融した樹脂や繊維などのクロス２の基材の材料が流れる方向を示す。クロス２の基材が紙の場合は、その紙目がクロス２の流れ方向に相当する。シート材４の流れ方向とは、製造時に溶融した樹脂や繊維などのシート材４の材料が流れる方向を示す。

【0024】

本実施形態では、クロス２の流れ方向は、冊子用カバー１の長手方向に延び、シート材４の流れ方向は、冊子用カバー１の短手方向に延びている。

【0025】

本実施形態による冊子用カバー１について、高湿状態におけるカールが生じる挙動を測定した。以下にその評価結果を示す。

【0026】

まず、クロス２の単体の場合と、クロス２の流れ方向とシート材４の流れ方向とが平行である冊子用カバー１とを比較した。
クロス２の厚さは、１８０μｍである。シート材４は、テズリン（登録商標）のシート材４で、厚さは１４８μｍである。冊子用カバー１のクロス２とシート材４とは、温度２５℃、湿度５０％の環境下で、ホットメルト（４．５ｇ／ｍ^２）によって貼り合わされている。
クロス２の単体と、クロス２の流れ方向とシート材４の流れ方向とが平行である冊子用カバー１と、を高湿度条件下（温度２３℃、湿度７０％）に放置し、２時間後にそれぞれの端部のカールの高さを測定した。
図６に示すように、クロス２の単体は、高湿条件下に放置する前ではカールの高さが１２ｍｍであり、高湿条件下に放置した後にはカールの高さが４６ｍｍであった。クロス２の流れ方向とシート材４の流れ方向とが平行である冊子用カバー１は、高湿条件下に放置する前ではカールの高さが０ｍｍであり、高湿条件下に放置した後にはカールの高さが６ｍｍであった。
以上より、クロス２の単体の場合よりもクロス２とシート材４とを接着剤３で貼り合わせた冊子用カバー１の方が、高湿条件下においても生じるカールが小さいことが分かる。

【0027】

続いて、クロス２の流れ方向とシート材４の流れ方向とが平行である冊子用カバー１と、クロス２の流れ方向とシート材４の流れ方向とが直交する冊子用カバー１と、低湿状態下（温度２５℃、湿度３０％）およびを高湿度条件下（温度２５℃、湿度７０％）に放置し、２時間後にそれぞれの端部のカールの高さを測定した。図７に示すように、厚さが１８０μｍのクロス２と厚さが１４８μｍのシート材４とをそれぞれの流れ方向が平行に貼り合わせた冊子用カバー（項番１）および直交に貼り合わせた冊子用カバー（項番２）、厚さが１８０μｍのクロス２と厚さが３５６μｍのシート材４とをそれぞれの流れ方向が平行に貼り合わせた冊子用カバー（項番３）および直交に貼り合わせた冊子用カバー（項番４）、厚さが２２０μｍのクロス２と厚さが３５６μｍのシート材４とをそれぞれの流れ方向が平行に貼り合わせた冊子用カバー（項番５）および直交に貼り合わせた冊子用カバー（項番６）の計６のパターンの冊子用カバー（項番１－６）について測定した。

【0028】

図８および図９に示すように、クロス２の流れ方向とシート材４の流れ方向とが平行な冊子用カバー（項番１、３、４）と、クロス２の流れ方向とシート材４の流れ方向とが直交する冊子用カバー（項番２、４、６）と、を比較すると、クロス２の流れ方向とシート材４の流れ方向とが直交する冊子用カバー（項番２、４、６）の方がクロス２の流れ方向とシート材４の流れ方向とが平行な冊子用カバー（項番１、３、４）よりも生じるカールが小さいことがわかる。
クロス２の流れ方向とシート材４の流れ方向とが直交することにより、高湿条件下に放置されることによってクロス２に長じる応力とシート材４に生じる応力が直交し、クロス２とシート材４の各応力が相殺され、クロス２のカール量を小さくすることができると考えられる。

【0029】

次に、上記の本発明の実施形態による冊子用カバー１の作用・効果について図面を用いて説明する。
上記の実施形態による冊子用カバー１では、クロス２の流れ方向とシート材４の流れ方向とが直交することにより、高湿条件下に放置されることによってクロス２に長じる応力とシート材４に生じる応力が直交するため、クロス２のカール量を小さくすることができる。

【0030】

上記の実施形態による冊子用カバー１では、シート材４には、溝部４１が形成され、クロス２おける溝部４１が対向する部分には、接着剤３が塗布されている。
シート材４に溝部４１を形成することにより、溝部４１の分だけシート材４が除去されるため、カール量を低減できる。

【0031】

上記の実施形態による冊子用カバー１では、クロス２の流れ方向は、冊子用カバー１の長手方向に延び、シート材４の流れ方向は、冊子用カバー１の短手方向に延びている。
このような構成とすることにより、冊子用カバー１は、製本工程において長手方向で綴じられることが一般的であるため、クロス２が流れ方向の中間部で綴じられることになり、クロス２が意図せずに開くことが防止され、その結果、冊子用カバー１が意図せずに開くことを防止できる。

【0032】

上記の実施形態による冊子用カバー１において、シート材４を発泡樹脂製とすることにより、シート材４が柔軟性を有するため、冊子用カバー１が柔軟性を有し、冊子用カバー１の使用性を向上させることができる。

【0033】

以上、本発明による冊子用カバー１の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、クロス２の流れ方向とシート材４の流れ方向とが直交しているが、クロス２の流れ方向とシート材４の流れ方向とは直交ではなく、交差していればよい。クロス２の流れ方向とシート材４の流れ方向とが直交していない場合でも、クロス２のカール量を小さくすることができる。クロス２の流れ方向とシート材４の流れ方向とが交差する角度は、９０°±５°であることが望ましい。

【0034】

上記の実施形態では、クロス２おける溝部４１が対向する部分には、接着剤３が塗布されているが、接着剤３が塗布されていなくてもよい。

【0035】

上記の実施形態では、クロス２の流れ方向が冊子用カバー１の長手方向に延び、シート材４の流れ方向が冊子用カバー１の短手方向に延びているが、クロス２の流れ方向が冊子用カバー１の短手方向に延び、シート材４の流れ方向が冊子用カバー１の長手方向に延びていてもよい。クロス２の流れ方向およびシート材４の流れ方向は、冊子用カバー１の長手方向および短手方向と対応していなくてもよい。

【符号の説明】

【0036】

１ 冊子用カバー
２ クロス
３ 接着剤
４ シート材
４１ 溝部

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】