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特開2023-157650異常検知システム、異常検知方法、及び異常検知プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157650
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】異常検知システム、異常検知方法、及び異常検知プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/0635 20230101AFI20231019BHJP
【FI】
G06Q10/06 326
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067690
(22)【出願日】2022-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】398040527
【氏名又は名称】株式会社オービック
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】里 彰真
(72)【発明者】
【氏名】圓山 和也
(72)【発明者】
【氏名】上野 剛光
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA06
(57)【要約】
【課題】多数の過去の案件に基づいた閾値と、対象の案件の実績の積み上がり方を比較することで、当該案件の異常を検知することが可能な異常検知システムを提供することを目的とする。
【解決手段】本実施の形態に係る異常検知システムは、複数の過去の類似案件の実績データの経過月数及び実績を異常判定対象案件の予算データのスケールに合わせ、スケールを合わせた複数の過去の類似案件の実績データの経過月数及び実績に基づいて閾値を計算し、異常判定対象案件の実績データを、計算した閾値と比較して異常判定を行う。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御部を備えた異常検知システムであって、
前記制御部は、
案件識別情報、工期、予算を含む異常判定対象案件の予算データと、
案件識別情報、経過月数、実績を含む異常判定対象案件の実績データと、
前記異常判定対象案件に類似する、案件識別情報、経過月数、実績を含む、複数の過去の類似案件の実績データと、
にアクセス可能に構成されており、
前記複数の過去の類似案件の実績データの経過月数及び実績を前記異常判定対象案件の予算データのスケールに合わせ、スケールを合わせた複数の過去の類似案件の実績データの経過月数及び実績に基づいて閾値を計算し、前記異常判定対象案件の実績データを、前記計算した閾値と比較して異常判定を行うことを特徴とする異常検知システム。
【請求項2】
前記制御部は、
前記複数の過去の類似案件の実績データ毎に、経過月数をその経過月数の最大値で割った経過率と、実績をその実績の最大値で割った実績率を算出して、スケールを統一するスケール統一処理を実行するスケール統一手段と、
スケール統一処理後の複数の過去の類似案件の実績データ毎に、経過率の軸に対して前記異常判定対象案件の予算データの工期で分割した仮想経過率を算出し、実績について、仮想経過率に対応する仮想実績率を算出する等間隔点取得処理を実行する等間隔点取得手段と、
等間隔点取得処理後の複数の過去の類似案件の実績データ毎に、仮想経過率に前記異常判定対象案件の予算データの工期を掛けた仮想経過月数を算出し、仮想実績率に前記異常判定対象案件の予算データの予算を掛けた仮想実績を算出するスケール拡大処理を実行するスケール拡大手段と、
スケール拡大処理後の複数の過去の類似案件の実績データに基づいて、仮想経過月数毎の仮想実績の平均値と標準偏差から閾値を計算する閾値計算処理を実行する閾値計算手段と、
前記異常判定対象案件の実績データを、前記計算した閾値と比較して異常判定を行う異常判定処理を実行する異常判定手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の異常検知システム。
【請求項3】
前記複数の過去の類似案件の実績データは、前記異常判定対象案件の予算データに対する工期及び/又は予算の相対誤差が所定パーセント以下であることを特徴とする請求項2に記載の異常検知システム。
【請求項4】
前記等間隔点取得手段は、スケール統一処理後の複数の過去の類似案件の実績データ毎に、前記異常判定対象案件の予算データの工期を分割数として、1/分割数の幅を等間隔点の経過率の幅として、当該等間隔点を仮想経過率とし、経過率と実績率の関係式から各仮想経過率に対応する仮想実績率を算出することを特徴とする請求項2に記載の異常検知システム。
【請求項5】
前記閾値計算手段は、スケール拡大処理後の複数の過去の類似案件の実績データについて、仮想経過月数の一致するデータ毎に分け、分けたデータ毎に仮想実績の平均値と標準偏差を計算し、上側閾値=仮想実績平均値+閾値率×標準偏差、下側閾値=仮想実績平均値-閾値率×標準偏差で算出した閾値データを算出し、算出した閾値データから異常判定に用いる閾値を選択することを特徴とする請求項2に記載の異常検知システム。
【請求項6】
前記異常判定に用いる閾値の選択は、算出した閾値データをそのまま異常判定に用いる、最終月の閾値に許容幅(=閾値率×標準偏差)を持たせる、上側閾値のみ利用する、又は下側閾値のみ利用するであることを特徴とする請求項5に記載の異常検知システム。
【請求項7】
前記異常判定手段は、異常と判定した場合に異常検出メッセージを表示部に出力することを特徴とする請求項2に記載の異常検知システム。
【請求項8】
前記案件は、プロジェクト型管理を行う案件を含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか1つに記載の異常検知システム。
【請求項9】
制御部を備えた情報処理装置で実行される異常検知方法であって、
前記制御部は、
案件識別情報、工期、予算を含む異常判定対象案件の予算データと、
案件識別情報、経過月数、実績を含む異常判定対象案件の実績データと、
前記異常判定対象案件に類似する、案件識別情報、経過月数、実績を含む、複数の過去の類似案件の実績データと、
にアクセス可能に構成されており、
前記制御部において実行される、
前記複数の過去の類似案件の実績データの経過月数及び実績を前記異常判定対象案件の予算データのスケールに合わせ、スケールを合わせた複数の過去の類似案件の実績データの経過月数及び実績に基づいて閾値を計算し、前記異常判定対象案件の実績データを、前記計算した閾値と比較して異常判定を行う工程を含むことを特徴とする異常検知方法。
【請求項10】
制御部を備えた情報処理装置が実行するための異常検知プログラムであって、
前記制御部は、
案件識別情報、工期、予算を含む異常判定対象案件の予算データと、
案件識別情報、経過月数、実績を含む異常判定対象案件の実績データと、
前記異常判定対象案件に類似する、案件識別情報、経過月数、実績を含む、複数の過去の類似案件の実績データと、
にアクセス可能に構成されており、
前記制御部において、
前記複数の過去の類似案件の実績データの経過月数及び実績を前記異常判定対象案件の予算データのスケールに合わせ、スケールを合わせた複数の過去の類似案件の実績データの経過月数及び実績に基づいて閾値を計算し、前記異常判定対象案件の実績データを、前記計算した閾値と比較して異常判定を行う工程を実行させるための異常検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常検知システム、異常検知方法、及び異常検知プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、建設業やシステム開発業などのように、期間毎に進捗を積み上げていくようなプロジェクト型管理をする業界において、「過去の類似する案件と比較して、積み上がり方が妥当かを判断したい」という要求がある。
【0003】
従来は、過去の案件の工期と実績が異常判定したい案件の工期と予算と異なる場合、積み上がり方を比較出来なかった。また、工期と実績が一致する過去の案件をもとに異常判定を行う場合、サンプル数が少なくなり妥当性の低い判定結果となる。従来、予算と実績を管理するシステムとして、例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-95122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、多数の過去の案件に基づいた閾値と、対象の案件の実績の積み上がり方を比較することで、当該案件の異常を検知することに関して何ら記載されていない。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、多数の過去の案件に基づいた閾値と、対象の案件の実績の積み上がり方を比較することで、当該案件の異常を検知することが可能な異常検知システム、異常検知方法、及び異常検知プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、制御部を備えた異常検知システムであって、前記制御部は、案件識別情報、工期、予算を含む異常判定対象案件の予算データと、案件識別情報、経過月数、実績を含む異常判定対象案件の実績データと、前記異常判定対象案件に類似する、案件識別情報、経過月数、実績を含む、複数の過去の類似案件の実績データと、にアクセス可能に構成されており、前記複数の過去の類似案件の実績データの経過月数及び実績を前記異常判定対象案件の予算データのスケールに合わせ、スケールを合わせた複数の過去の類似案件の実績データの経過月数及び実績に基づいて閾値を計算し、前記異常判定対象案件の実績データを、前記計算した閾値と比較して異常判定を行うことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一態様によれば、前記制御部は、前記複数の過去の類似案件の実績データ毎に、経過月数をその経過月数の最大値で割った経過率と、実績をその実績の最大値で割った実績率を算出して、スケールを統一するスケール統一処理を実行するスケール統一手段と、スケール統一処理後の複数の過去の類似案件の実績データ毎に、経過率の軸に対して前記異常判定対象案件データの工期で分割した仮想経過率を算出し、実績について、仮想経過率に対応する仮想実績率を算出する等間隔点取得処理を実行する等間隔点取得手段と、等間隔点取得処理後の複数の過去の類似案件の実績データ毎に、仮想経過率に前記異常判定対象案件の予算データの工期を掛けた仮想経過月数を算出し、仮想実績率に前記異常判定対象案件の予算データの予算を掛けた仮想実績を算出するスケール拡大処理を実行するスケール拡大手段と、スケール拡大処理後の複数の過去の類似案件の実績データに基づいて、仮想経過月数毎の仮想実績の平均値と標準偏差から閾値を計算する閾値計算処理を実行する閾値計算手段と、前記異常判定対象案件の実績データを、前記計算した閾値と比較して異常判定を行う異常判定処理を実行する異常判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一態様によれば、前記複数の過去の類似案件の実績データは、前記異常判定対象案件の予算データに対する工期及び/又は予算の相対誤差が所定パーセント以下であることにしてもよい。
【0010】
また、本発明の一態様によれば、前記等間隔点取得手段は、スケール統一処理後の複数の過去の類似案件の実績データ毎に、前記異常判定対象案件の予算データの工期を分割数として、1/分割数の幅を等間隔点の経過率の幅として、当該等間隔点を仮想経過率とし、経過率と実績率の関係式から各仮想経過率に対応する仮想実績率を算出することにしてもよい。
【0011】
また、本発明の一態様によれば、前記閾値計算手段は、スケール拡大処理後の複数の過去の類似案件の実績データについて、仮想経過月数の一致するデータ毎に分け、分けたデータ毎に仮想実績の平均値と標準偏差を計算し、上側閾値=仮想実績平均値+閾値率×標準偏差、下側閾値=仮想実績平均値-閾値率×標準偏差で算出した閾値データを算出し、算出した閾値データから異常判定に用いる閾値を選択することにしてもよい。
【0012】
また、本発明の一態様によれば、前記異常判定に用いる閾値の選択は、算出した閾値データをそのまま異常判定に用いる、最終月の閾値に許容幅(=閾値率×標準偏差)を持たせる、上側閾値のみ利用する、又は下側閾値のみ利用するであることにしてもよい。
【0013】
また、本発明の一態様によれば、前記異常判定手段は、異常と判定した場合に異常検出メッセージを表示部に出力することにしてもよい。
【0014】
また、本発明の一態様によれば、前記案件は、プロジェクト型管理を行う案件を含むことにしてもよい。
【0015】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、制御部を備えた情報処理装置で実行される異常検知方法であって、前記制御部は、案件識別情報、工期、予算を含む異常判定対象案件の予算データと、案件識別情報、経過月数、実績を含む異常判定対象案件の実績データと、前記異常判定対象案件に類似する、案件識別情報、経過月数、実績を含む、複数の過去の類似案件の実績データと、にアクセス可能に構成されており、
前記制御部において実行される、前記複数の過去の類似案件の実績データの経過月数及び実績を前記異常判定対象案件の予算データのスケールに合わせ、スケールを合わせた複数の過去の類似案件の実績データの経過月数及び実績に基づいて閾値を計算し、前記異常判定対象案件の実績データを、前記計算した閾値と比較して異常判定を行う工程を含むことを特徴とする。
【0016】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、制御部を備えた情報処理装置が実行するための異常検知プログラムであって、前記制御部は、案件識別情報、工期、予算を含む異常判定対象案件の予算データと、案件識別情報、経過月数、実績を含む異常判定対象案件の実績データと、前記異常判定対象案件に類似する、案件識別情報、経過月数、実績を含む、複数の過去の類似案件の実績データと、にアクセス可能に構成されており、前記制御部において、前記複数の過去の類似案件の実績データの経過月数及び実績を前記異常判定対象案件の予算データのスケールに合わせ、スケールを合わせた複数の過去の類似案件の実績データの経過月数及び実績に基づいて閾値を計算し、前記異常判定対象案件の実績データを、前記計算した閾値と比較して異常判定を行う工程を実行させるための異常検知プログラムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、多数の過去の案件に基づいた閾値と、対象の案件の実績の積み上がり方を比較することで、当該案件の異常を検知することが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の背景を説明するための図である。
図2図2は、本発明の課題を説明するための図である。
図3図3は、本発明の課題を説明するための図である。
図4図4は、本実施の形態に係る異常検知システムの構成の一例を示すブロック図である。
図5図5は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の全体の処理の一例を示す処理フローを示す図である。
図6図6は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図7図7は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図8図8は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図9図9は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図10図10は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図11図11は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図12図12は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図13図13は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図14図14は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図15図15は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図16図16は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図17図17は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図18図18は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図19図19は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図20図20は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図21図21は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図22図22は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図23図23は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図24図24は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図25図25は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図26図26は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図27図27は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図28図28は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
図29図29は、本実施形態に係る異常検知システムの制御部の処理の具体例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は本実施形態により限定されるものではない。
【0020】
[1.概要]
本発明の概要を、背景、課題、解決例の順に説明する。
【0021】
(1-1.背景)
図1を参照して、本発明の背景を説明する。建設業や、システム開発業など、期間毎に進捗を積み上げていくようなプロジェクト型管理をする業界において、「過去の類似する案件と比較して、積み上がり方が妥当かを判断したい」という要求がある。
【0022】
本発明の異常検知システムでは、図1のようなグラフを取得することができる。図1において、X軸は経過月数(ヶ月)、Y軸は実績(万円)を示しており、過去の類似案件から算出された基準値と、異常判定対象案件の実績を示している。過去の類似案件から算出された基準値に幅を持たせた値を上側閾値、下側閾値として設定し、異常判定対象案件の実績が、上側閾値、下側閾値を外れた時点で異常検知される。
【0023】
本明細書において、「工期」とは、案件終了まで予定の月数をいう。「予算」とは、案件終了までに発生予定の金額をいう。「経過月数」とは、案件開始からの経過した月数をいう。「実績」とは、案件開始から経過月までに発生した金額をいう。
【0024】
(1-2.課題)
図2及び図3を参照して、本発明の課題を説明する。従来、以下の課題がある。
【0025】
1.工期と実績が一致する過去の案件のみで比較した場合、比較対象のサンプル数が少なく、妥当性が低い異常判定結果となるという課題がある。
【0026】
2.過去の案件の工期と実績が異なると、データを比較することが出来ないという課題がある。
【0027】
より具体的には、以下の通りである。
【0028】
1.工期と実績が一致する過去の案件のみで比較した場合、比較対象のサンプル数が少なく、妥当性が低い異常判定結果という課題は、具体的には、過去の案件のデータを集める際に、異常判定対象案件の工期と予算に一致するものだけを抽出すると、過去の案件のサンプル数が少なくなってしまう。このように、サンプル数が少ないと異常判定結果の妥当性が低くなってしまう。
【0029】
2.過去の案件の工期と実績が異なると、データを比較することが出来ないという課題について、図2及び図3を参照して詳細に説明する。過去の既に完了した案件B0001の実績の積み上がり方をもとに案件A0001の異常判定を行いたい場合を説明する。前提として異常判定対象案件の実績データと予算データおよび過去の比較対象案件の実績データは以下のようなデータとして保持しているものとする。
【0030】
図2(A)は、異常判定対象案件の実績データの例を示しており、案件コード、経過月数、実績のデータを含んでいる。図2(B)は、異常判定対象案件の予算データの例を示しており、案件コード、工期、予算のデータを含んでいる。図2(C)は、過去の案件の実績データ、案件コード、経過月数、実績のデータを含んでいる。
【0031】
図3は、異常判定対象案件の積み上がり方と過去の比較対象案件の積み上がり方を比較する場合のグラフのイメージを示している。図3は、図2の過去の類似案件(B0001)と異常判定対象案件(A0001)の経過月数と実績を示しており、X軸は経過月数(ヶ月)、Y軸は実績(万円)を示している。異常判定対象案件の工期および予算が過去の比較対象案件の工期および実績と異なるため、異常判定対象案件の実績の積み上がり方が異常か否か判断できない。
【0032】
(1-3.解決策)
そこで、本発明では、解決策として、過去の案件群の工期と実績のスケールを異常判定対象の案件の工期と予算に一致するようにデータの加工を行う。具体的には、過去の案件群の経過月数と実績の値を圧縮した後、経過月数と実績を異常判定対象の工期と予算に拡大する。この解決策によって以下の課題が解決される。
【0033】
1.工期と実績が一致する過去の案件のみで比較した場合、比較対象のサンプル数が少なく、妥当性が低い異常判定結果となるという課題に対して、過去の案件の工期と実績によらず、異常判定対象の案件と比較出来るため、工期と実績に関係なくデータを集めることができるようになる。
【0034】
2.過去の案件の工期と実績が異なると、データを比較することが出来ないという課題に対して、過去の案件群の工期と実績を異常判定対象の案件の工期と予算に合わせることで、過去の案件と異常判定対象の案件を比較できるようになる。
【0035】
具体的には、(1)案件の進捗遅れを検知し、計画を修正することができる。また、(2)目標達成を意図した、進捗率の過大・不正計上を検知し、実態に伴わない実績計上の不正を防止することができる。
【0036】
本発明の異常検知システムは、全業種・全業界に適用でき、例えば、建設工事業界やITメディア業界等のプロジェクト型管理を行う案件に好適に適用することができる。
【0037】
[2.構成]
図4を参照して、本実施形態に係る異常検知システム100の構成の一例について説明する。図4は、異常検知システム100の構成の一例を示すブロック図である。
【0038】
異常検知システム100は、市販のデスクトップ型パーソナルコンピュータである。なお、異常検知システム100は、デスクトップ型パーソナルコンピュータのような据置型情報処理装置に限らず、市販されているノート型パーソナルコンピュータ、PDA(Personal Digital Assistants)、スマートフォン、タブレット型パーソナルコンピュータなどの携帯型情報処理装置であってもよい。
【0039】
異常検知システム100は、制御部102と通信インターフェース部104と記憶部106と入出力インターフェース部108と、を備えている。異常検知システム100が備えている各部は、任意の通信路を介して通信可能に接続されている。
【0040】
通信インターフェース部104は、ルータ等の通信装置及び専用線等の有線又は無線の通信回線を介して、異常検知システム100をネットワーク300に通信可能に接続する。通信インターフェース部104は、他の装置と通信回線を介してデータを通信する機能を有する。ここで、ネットワーク300は、異常検知システム100とサーバ200とを相互に通信可能に接続する機能を有し、例えばインターネットやLAN(Local Area Network)等である。
【0041】
入出力インターフェース部108には、入力装置112及び出力装置114が接続されている。出力装置114には、モニタ(家庭用テレビを含む)の他、スピーカやプリンタを用いることができる。入力装置112には、キーボード、マウス、及び、マイクの他、マウスと協働してポインティングデバイス機能を実現するモニタを用いることができる。なお、以下では、出力装置114をモニタ114とし、入力装置112をキーボード112又はマウス112として記載する場合がある。また、モニタ114に情報を表示して、ユーザが入力装置112を操作すること等を、「UIを介したユーザ操作」と記載する場合がある。
【0042】
記憶部106には、各種のデータベース、テーブル、及びファイルなどが格納される。記憶部106には、OS(Operating System)と協働してCPU(Central Processing Unit)に命令を与えて各種処理を行うためのコンピュータプログラムが記録される。記憶部106として、例えば、RAM(Random Access Memory)・ROM(Read Only Memory)等のメモリ装置、ハードディスクのような固定ディスク装置、フレキシブルディスク、及び光ディスク等を用いることができる。記憶部106は、データテーブル106a等を備えている。
【0043】
データテーブル106aは、異常判定対象案件の予算データ及び実績データ、複数の過去の類似案件の実績データ等の各種データを格納するためのテーブルである。
【0044】
異常判定対象案件の予算データは、案件コード(案件識別情報)、工期、予算を含むことにしてもよい。異常判定対象案件の実績データは、案件コード(案件識別情報)、経過月数、実績を含むことにしてもよい。
【0045】
複数の過去の類似案件の実績データは、異常判定対象案件に類似する過去の複数の案件の実績データであり、案件コード(案件識別情報)、経過月数、実績を含むことにしてもよい。
【0046】
制御部102は、異常検知システム100を統括的に制御するCPU等である。制御部102は、OS等の制御プログラム・各種の処理手順等を規定したプログラム・所要データなどを格納するための内部メモリを有し、格納されているこれらのプログラムに基づいて種々の情報処理を実行する。
【0047】
制御部102は、記憶部106に格納されている、データテーブル106a等にアクセス可能に構成されている。なお、データテーブル106aは、他の場所(例えば、サーバ200)に設けられていてもよく、制御部102がアクセス可能な構成であればよい。
【0048】
制御部102は、機能概念的に、データ取得部102aと、スケール統一部102bと、等間隔点取得部102cと、スケール拡大部102dと、閾値計算部102eと、異常判定部102fと、を備えている。
【0049】
制御部102は、データテーブル106aに格納されている複数の過去の類似案件の実績データを使用して、データテーブル106aに格納されている異常判定対象案件の実績データが異常か否かを判定する。具体的には、制御部102は、複数の過去の類似案件の実績データの経過月数及び実績を異常判定対象案件の予算データのスケールに合わせ、スケールを合わせた複数の過去の類似案件の実績データの経過月数及び実績に基づいて閾値を計算し、異常判定対象案件の実績データを、計算した閾値と比較して異常判定する一連の処理を自動実行する。
【0050】
データ取得部102aは、異常判定対象案件の予算データ及び実績データと、複数の過去の類似案件の実績データを取得して、データテーブル106aに格納する。複数の過去の類似案件の実績データは、異常判定対象案件の予算データに対する工期及び/又は予算の相対誤差が所定パーセント以下であることにしてもよい。
【0051】
スケール統一部102bは、複数の過去の類似案件の実績データ毎に、経過月数をその経過月数の最大値で割った経過率と、実績をその実績の最大値で割った実績率を算出して、スケールを統一するスケール統一処理を実行する。
【0052】
等間隔点取得部102cは、スケール統一処理後の複数の過去の類似案件の実績データ毎に、経過率の軸に対して前記異常判定対象案件データの工期で分割した仮想経過率を算出し、実績について、仮想経過率に対応する仮想実績率を算出する等間隔点取得処理を実行する。
【0053】
この場合、等間隔点取得部102cは、スケール統一処理後の複数の過去の類似案件の実績データ毎に、異常判定対象案件の予算データの工期を分割数として、1/分割数の幅を等間隔点の経過率の幅として、当該等間隔点を仮想経過率とし、経過率と実績率の関係式から各仮想経過率に対応する仮想実績率を算出(取得)してもよい。
【0054】
スケール拡大部102dは、等間隔点取得処理後の複数の過去の類似案件の実績データ毎に、仮想経過率に前記異常判定対象案件の予算データの工期を掛けた仮想経過月数を算出し、仮想実績率に前記異常判定対象案件の予算データの予算を掛けた仮想実績を算出するスケール拡大処理を実行する。
【0055】
閾値計算部102eは、スケール拡大処理後の複数の過去の類似案件の実績データに基づいて、仮想経過月数毎の仮想実績の平均値と標準偏差から閾値を計算する閾値計算処理を実行する。
【0056】
この場合、閾値計算部102eは、スケール拡大処理後の複数の過去の類似案件の実績データについて、仮想経過月数の一致するデータ毎に分け、分けたデータ毎に仮想実績の平均値と標準偏差を計算し、上側閾値=仮想実績平均値+閾値率×標準偏差、下側閾値=仮想実績平均値-閾値率×標準偏差で算出した閾値データを算出し、算出した閾値データから異常判定に用いる閾値を選択することにしてもよい。
【0057】
異常判定に用いる閾値の選択は、算出した閾値データをそのまま異常判定に用いる、最終月の閾値に許容幅(=閾値率×標準偏差)を持たせる、上側閾値のみ利用する、又は下側閾値のみ利用するであることにしてもよい。
【0058】
異常判定部102fは、異常判定対象案件の実績データを、計算した閾値と比較して異常判定を行う異常判定処理を実行する。この場合、異常判定部102fは、異常と判定した場合に異常検出メッセージをモニタ114に表示出力してもよい。
【0059】
[3.具体例]
図4図29を参照して、本実施の形態における異常検知システム100の制御部102の処理の具体例について説明する。図5は、本実施の形態における異常検知システム100の制御部102の全体の処理の概略を説明するための処理フローを示す図である。図6図29は、本実施の形態における異常検知システム100の制御部102の処理の具体例を説明するための図である。
【0060】
(3-1.処理フロー概説)
図5を参照して、処理フローの概要を説明する。スケール統一部102bは、スケール統一処理を実行する(ステップS1)。スケール統一処理では、複数の過去の類似案件の実績データに対して、経過月数(X軸)と実績(Y軸)の2軸それぞれに対して正規化を行う。具体的には、複数の過去の類似案件の実績データ毎に、経過月数を各案件の経過月数の最大値で割り、類似する過去の案件毎に、実績を各案件の実績の最大値で割る。
【0061】
等間隔点取得部102cは、等間隔点取得処理を実行する(ステップS2)。等間隔点取得処理では、異常判定対象案件の予算データの工期に対応する仮想的な実績を求める。具体的には、経過月数と実績の関係式を求め、経過月数を異常判定対象案件の工期で分割した時のそれぞれの経過月数に対応する実績を計算する。
【0062】
スケール拡大部102dは、スケール拡大処理を実行する(ステップS3)。スケール拡大処理では、仮想経過率(X軸)と仮想実積率(Y軸)の2軸それぞれに対して逆正規化を行い、異常判定対象案件とスケールを合わせる。具体的には、等間隔点取得で求めた仮想経過率に異常判定対象案件の工期を掛ける。また、等間隔点取得で求めた仮想実績率に異常判定対象案件の予算を掛ける。
【0063】
閾値計算部102eは、閾値の計算処理を実行する(ステップS4)。閾値の計算処理では、各経過月数毎の仮想実績の平均値と標準偏差から閾値を計算する。具体的には、経過月数の等しいデータ毎に平均値と標準偏差を計算し、閾値を算出する。
【0064】
異常判定部102fは、異常判定処理を実行する(ステップS5)。異常判定処理では、複数の過去の類似案件の実績データから算出した閾値と異常判定対象案件の実績データを比較して異常判定を行う。具体的には、異常判定対象案件の実績が各経過月数毎に閾値を超えているか否かをもとに異常判定を行う。
【0065】
(3-2.処理フロー詳細)
図6図15を参照して、処理フローの詳細を説明する。
【0066】
(異常判定対象案件の実績データ及び予算データ、並びに過去の類似案件の実績データ)
図6及び図7を参照して、異常判定対象案件の実績データ及び予算データ、並びに過去の類似案件の実績データを説明する。
【0067】
データテーブル106aには、データ取得部102aにより、異常判定対象案件の実績データと予算データが登録されているものとする。以下の例では、異常判定対象案件の案件コードを「A0001」とする。
【0068】
図6(A)は、異常判定対象案件の実績データの例を示しており、案件コード、経過月数、実績のデータの項目を備えている。図6(B)は、異常判定対象案件の予算データを示しており、案件コード、工期、予算の項目を備えている。図6において、実績データの実績の存在する経過月数「3ヶ月」が予算データの工期「6ヶ月」より小さいのは、案件「A0001」が進行中のためである。
【0069】
データテーブル106aには、過去の類似案件の実績データが格納されているものとする。データ取得部102aは、過去の案件の実績データから所定の条件で抽出して類似案件データを取得して、データテーブル106aに格納する。
【0070】
類似案件を抽出する際の基準の例としては、例えば、(1)「異常判定対象案件の工期」に対する「過去の案件の工期」の相対誤差が10%以下、(2)「異常判定対象案件の予算」に対する「過去の案件の最終実績」の相対誤差が10%以下である。
【0071】
案件「A0001」の予算「1000万円」の相対誤差が10%以下の案件を抽出する場合は、最終実績が「900万円~1100万円」の過去の案件が抽出される。
【0072】
本例では、過去の類似案件データの案件コードを「B0001」と「B0002」とする。本説明では簡略化のため2案件を例にして説明するが、実際は異常判定結果の妥当性を担保するために過去の類似案件は多数あることが前提である。
【0073】
図7(A)は、過去の類似案件の実績データの例を示している。図7(B)は、過去の類似案件の実績データを、横軸を経過月数、縦軸を実績として表したグラフを示している。また、図7(B)では、異常判定対象案件の予算と工期の例がプロットされている。
【0074】
本発明では、スケール統一処理、等間隔点取得処理、スケール拡大処理をセットで行うことでスケールの違うデータの比較を可能とする。
【0075】
(スケール統一処理)
図8を参照して、スケール統一処理を説明する。スケール統一処理では、過去の類似案件データ毎に以下の処理を行って、正規化する。
【0076】
(1)過去の類似案件の実績データの案件コード毎に、経過月数を各案件の経過月数の最大値で割る。
(2)過去の類似案件の実績データの案件コード毎に、実績を各案件の実績の最大値で割る。
【0077】
経過月数を各案件の経過月数の最大値で割ったものを経過率、実積を各案件の実積の最大値で割ったものを実積率とする。
【0078】
スケール統一処理後の過去の類似案件の実績データに経過率と実積率の列が追加される。図8(A)は、スケール統一後の過去の類似案件の実績データを示している。図8(A)に示すように、経過率と実績率が追加されている。
【0079】
図8(B)は、図8(A)のスケール統一処理後の過去の類似案件の実績データの経過率と実積率をグラフ化したものを示している。経過月数と実績を正規化したため、最終経過月数(経過率が「1」)の時に、実積率が「1」になる。
【0080】
(等間隔点取得処理)
図9を参照して、等間隔点取得処理を説明する。等間隔点取得処理では、スケール統一処理後の過去の類似案件データ毎に、以下の処理を行う。等間隔点取得処理では、異常判定対象案件の工期で分割することがポイントである。
【0081】
(1)過去の類似案件データの経過率の軸に対して、異常判定対象案件の予算データの工期で分割する。
(2)経過率と実積率の関係式を使い、それぞれの分割された経過率に対する実積率を計算する。
(3)算出される値は、実際の経過率と実積率ではないため仮想経過率と仮想実積率と名付ける。
【0082】
図9(A)は、異常判定対象案件の予算データの例を示している。工期は、「6ヶ月」となっているので、経過率を6分割する。
【0083】
図9(B)は、等間隔点取得処理後の過去の類似案件の実績データ(案件コード、仮想経過率、仮想実積率)を示している。図9(C)は、等間隔点取得処理をした場合に算出されるグラフを示している。等間隔点取得処理をすることでグラフ中の□の点の経過率と実積率が算出される。折れ線上の途中点は実績データではないため、経過率と実積率を仮想経過率と仮想実積率に変えている。
【0084】
(スケール拡大処理)
図10及び図11を参照して、スケール拡大処理を説明する。スケール拡大処理では、等間隔点取得処理後の過去の類似案件の実績データ毎に、以下の処理を行う。スケール拡大処理では、異常判定対象案件の予算データをもとにスケールを拡大することがポイントである。
【0085】
(1)等間隔点取得処理で求めた仮想経過率に異常判定対象案件の予算データの工期を掛けて仮想経過月数を算出する。
(2)等間隔点取得処理で求めた仮想実績率に異常判定対象案件の予算データの予算を掛けて仮想実績を算出する。
【0086】
図10(A)は、異常判定対象案件の予算データの例を示している。工期は、「6ヶ月」、予算は、「1000万円」となっている。
【0087】
図10(B)は、スケール拡大処理後の過去の類似案件の実績データ(案件コード、仮想経過率、仮想実積率、仮想経過月数、仮想実績)を示している。仮想経過率に異常判定対象案件の工期を掛けたものを仮想経過月数、仮想実積率に異常判定対象案件の予算を掛けたものを仮想実積とする。スケール拡大処理後のデータは、仮想経過月数と仮想実績の列が追加される。
【0088】
図10(C)は、図10(B)のスケール拡大処理後の過去の類似案件データの仮想経過月数と仮想実績のグラフを示している。異常対象案件の工期と予算に合うように逆正規化したため、最終経過月数「6ヶ月」時の仮想実績は、1000万円となる。
【0089】
本例では、理解を容易にするため、過去の類似案件は、2案件(B0001、B0002)を例としているが、実際は、最終的な異常判定結果の妥当性を担保するために多数の過去の類似案件に対してデータの加工を行う。多数の案件に対してスケール拡大までのデータの加工を行った場合は、例えば、図11に示すようなグラフとなる。
【0090】
以下の閾値計算処理と異常判定処理により、経過月数毎の実績の散らばりの度合いを考慮した閾値を用いて異常判定を行うことができる。
【0091】
(閾値計算処理)
図12を参照して、閾値計算処理を説明する。閾値計算処理では、スケール拡大処理後の過去の類似案件の実績データについて、仮想経過月数の一致している仮想実績毎に平均値と標準偏差を計算して閾値を算出する。
【0092】
異常判定を行う上で実績の上側の許容値を上側閾値、下側の許容値を下側閾値とする。1例として、図12(A)に示すようなデータを算出する。図12(A)は、閾値計算処理後のデータを示している。仮想経過月数毎に、仮想実績平均値(万円)と、上側閾値(万円)、下側閾値(万円)を算出する。図12(B)は、図12(A)の仮想実績平均値(万円)と、上側閾値(万円)、下側閾値(万円)をグラフ化したものである。
【0093】
(異常判定処理)
図13図15を参照して、異常判定処理を説明する。異常判定処理では、過去の類似案件の仮想経過月数と異常判定対象案件の経過月数が等しいデータ毎に以下の処理を行う。
【0094】
過去の類似案件から算出した閾値データの仮想経過月数と異常判定対象案件の実績データの実績の経過月数が等しいデータ毎に比較し、実績が上側閾値より大きいか実績が下側閾値より小さい場合は異常だと判定する。実績のまだ存在しないデータに関しては異常ではないと判定する。
【0095】
図13(A)は、過去の類似案件から算出した閾値データの例、図13(B)は、異常判定対象案件の実績データ、図13(C)は、異常判定結果(異常「TRUE」、正常「FALSE」)を示している。同図に示す例では、仮想経過月数と経過月数が「3ヶ月」であるデータに対して、実績「250万円」が下側閾値「308.58万円」を下回ったため異常「TRUE」と判定される。
【0096】
図14は、異常判定のグラフのイメージを示す図である。過去の類似案件をもとに算出した仮想実績平均、閾値データ(上側閾値、下側閾値)、及び異常判定対象案件の実績データを1つのグラフに表示したものである。今回の異常判定は、グラフ上では異常判定対象案件の実績データが閾値の領域(上側閾値と下側閾値で形成される領域)を外側に外れた時に異常だと判定される。軸に関しては、異常判定対象案件の実績データの積み上がり方を中心に見ているため、異常判定対象案件の実績データに合わせて「経過月数」と「実績」としている。
【0097】
異常を検知すると異常検知のメッセージを表示する。図15は、異常検知のメッセージ例を示している。異常検知のメッセージでは、計算手法、異常を検知した案件コード、経過月数、実績、基準値からの解離額が表示される。同図に示す例では、「計算手法:類似比較法(閾値率1.0)、案件A0001、経過月数:3ヶ月、実績:250万円、基準値を58万円下回っています。」が表示されている。
【0098】
(3-3.等間隔点取得処理の詳細)
図16図20を参照して、等間隔点取得処理を詳細に説明する。
【0099】
図16(A)は、スケール統一処理後の過去の類似案件の実績データ(B0001,B0002)を示している。図16(B)は、図16(A)のスケール統一処理後の過去の類似案件の実績データの経過率と実積率をグラフ化したものを示している。
【0100】
等間隔点取得処理では、(1)異常判定対象案件の予算データの工期を取得して分割数とする。(2)1/(分割数)の値を等間隔点の経過率の幅とする。(3)仮想的な実積率を計算する。
【0101】
案件B0001に対して等間隔点取得処理を行う場合を図17を参照して説明する。 (1)異常判定対象の案件データの工期を取得して分割数とする。図17(A)は、異常判定対象案件データの予算データを示している。ここでは、分割数は異常判定対象データの案件「A0001」の工期の「6ヶ月」とする。
【0102】
(2)1/(分割数)の値を等間隔点の経過率の幅とし、算出したい等間隔点の仮想経過率を計算する。図17(B)は、類似案件データの「B0001」についての仮想経過率の計算を説明するための図である。「B0002」については図示を省略するが同様に計算することができる。図17(B)において、分割数=6、等間隔点の経過率の幅=1/6、等間隔点の仮想経過率=0,1/6,2/6,3/6,4/6,5/6,1とする。
【0103】
(3)等間隔点の経過率毎に仮想的な実績率を計算する。グラフ上での実績データの点と点の間の経過率と実績率の関係式を求める必要がある。
【0104】
経過率と実績率の関係式から仮想的な実績率を求める方法としては、例えば、(a)経過率と実績率の関係式を直線で近似する場合:グラフで隣り合う2点を直線で結び、その直線上の仮想経過率に対応する仮想実積率を計算する。(b)経過率と実績率の関係式を2次関数の曲線で近似する場合:グラフで隣り合う3点を通る2次関数を引き、その曲線上の仮想経過率に対応する仮想実積率を計算する。(c)その他非線形関数で近似する場合がある。
【0105】
本例では、計算の簡略化のため、(a)の方法で経過率と実績率の関係式を求める場合を一例として説明する。以下、具体例として仮想経過率が3/6=0.5となる点の仮想実積率の計算処理を示す。図18図20は、仮想実績率の計算処理を説明するための図である。
【0106】
(3)-1.仮想経過率が経過率の間にあるような連続したデータを取得する。図18(A)において、仮想経過率0.5は案件B0001の経過率0.4と0.6の間にあるため、仮想実積率の計算には、図18(B)に示すように、経過月数「2」、実績「350万円」、経過率「0.4」、実績率「0.43」と、経過月数「3」、実績「550万円」、経過率「0.6」、実績率「0.68」の行を使用する。図18(C)は、仮想実績率を計算するためのデータを取得するグラフのイメージを示している。
【0107】
(3)-2.経過率と実積率の関係式を求める。図18(D)の2点を通る直線の式を求める。図18(E)は、グラフの実線の式を示しており、実績率は図18(E)に示すようになり、実績率={(0.68-0.43)/(0.6-0.4)}×(経過率-0.4)+0.43となる。
【0108】
(3)-3.仮想実積率を計算する。仮想経過率が「0.5」となる仮想実積率を計算する。図19(B)は、仮想実積率を計算する際のグラフでのイメージを示す図である。折れ線の両端の経過率、実績率を元に仮想実績率を計算する。
【0109】
この場合の仮想実績率は0.55となる。図19(A)に示すように、データテーブル上では経過月数、実績、経過率、実積率の列がなくなり仮想経過率、仮想実積率の列が追加される。
【0110】
図20(A)は等間隔点取得処理後のデータの例を示している。図20(B)は、等間隔点取得処理後に得られるデータのグラフを示している。(2)で計算した仮想経過率=0,1/6,2/6,3/6,4/6,5/6,1の全てに(3)の処理をすることで、図20(A)及び(B)に示すような、B0001とB0002の等間隔点のデータを得ることができる。
【0111】
(3-4.閾値計算処理の詳細)
図21図29を参照して、閾値計算処理を詳細に説明する。
【0112】
図21(A)は、スケール拡大処理後の過去の類似案件の実績データ(B0001,B0002)を示している。図21(B)は、図21(A)のスケール拡大処理後の過去の類似案件の実績データの仮想経過月数と仮想実績をグラフ化したものを示している。
【0113】
閾値計算処理では、以下の処理を実行する。
(1)仮想経過月数の一致するデータ毎に分ける。
(2)分けたデータ毎に仮想実績の平均値と標準偏差を計算する。
(3)閾値を計算する。
(4)異常判定に用いる閾値データを選ぶ。
【0114】
(1)仮想経過月数の一致するデータ毎に分ける。図22(A)は、図21(A)を
仮想経過月数の昇順で並び変えたデータを示している。図22(B)は、図22(A)のデータのグラフでのイメージを示している。
【0115】
(2)分けたデータ毎に仮想実績の平均値と標準偏差を計算する。図23は、分けたデータ毎に仮想実績の平均値と標準偏差の計算を説明するための図である。図23に示すように、仮想経過月数毎に仮想実績の平均値と標準偏差を計算することで、複数の過去の類似案件(B0001、B0002)の初期段階、中期段階、後期段階の仮想実績の散らばり度合いの違いを考慮することができる。
【0116】
図24は、分けたデータ毎に仮想実績の平均値と標準偏差が計算されたグラフでのイメージを示す図である。仮想経過月数の一致するデータ群から1つの平均値と仮想実績の散らばりを表す標準偏差を得ることができる。同図では、B0001の仮想実績、B0002の仮想実績、仮想実績の平均、標準偏差が示されている。
【0117】
(3)閾値を計算する。この処理では、異常判定の許容度を設定でき、閾値率というパラメータを設定できるようになっている。閾値率は、異常判定対象の実績が仮想実績平均からどれほど離れている場合に異常だと判定するかを決めるパラメータである。図25は、閾値の計算を説明するための図である。
【0118】
図25(A)は、上側閾値及び下側閾値の計算式を説明するための図である。閾値率をもとに上側閾値と下側閾値を以下のように計算する。上側閾値は、上側閾値=仮想実績平均+閾値率×標準偏差で算出する。下側閾値は、下側閾値=仮想実績平均-閾値率×標準偏差で算出する。
【0119】
図25(B)は、正規分布での閾値率と許容度の関係を示す図である。σは標準偏差を表す。σの係数が「1」の時、平均からのずれが(平均)-1σ~(平均)+1σの間になる確率が68%であることを表している。
【0120】
閾値率は、上側閾値と下側閾値を計算する際に使用する標準偏差の係数である。閾値率と許容度と、「閾値率で定義した閾値を超えた場合の事態の解釈」の関係性は図25(C)に示すようになる。閾値率「1」の場合は、許容度「68%」であり、確率32%以下で起こりうる異常事態である。閾値率「2」の場合は、許容度「95%」であり、確率5%以下で起こりうる異常事態である。閾値率「3」の場合は、許容度「99.7%」であり、確率0.3%以下で起こりうる異常事態である。
【0121】
「許容度」とは、異常判定対象案件の実績が仮想実績平均からのズレ度合いの許容値を表す。閾値率×標準偏差の値を許容幅と名付ける。許容幅は、図25(D)に示すように、許容幅=閾値率×標準偏差で算出される。
【0122】
図26(A)は、閾値の計算処理後のデータを示しており、閾値率を「1.0」とした時の計算処理後のデータを示している。同図では、仮想経過月数毎の仮想実績平均、許容幅、上側閾値、下側閾値の計算結果が示されている。
【0123】
図26(B)は、閾値の計算処理後のデータのグラフを示している。同図では、仮想実績の平均、上側閾値、下側閾値、許容幅が示されている。同図に示すように、中期段階は案件毎の進捗の良し悪しの差が大きいため許容値の幅は広くなる。これに対して、初期段階と後期段階は許容値の幅は狭くなる。このように、複数の過去の類似案件(B0001、B0002)の初期段階、中期段階、後期段階での統計分布の散らばりの傾向を捉えた許容度の幅を求めることができる。
【0124】
(4)異常判定に用いる閾値データを選ぶ。異常判定に用いるデータを選択する方法として、例えば、以下のA~Dの方法がある。
【0125】
A.閾値の計算処理後のデータをそのまま異常判定に用いる。異常検知対象案件データの当初の予算・工期通りに完了することを厳格にチェックする場合に使用することができる。
【0126】
B.最終月の閾値に許容幅を持たせる。異常検知対象案件の当初の予算・工期からの一定のずれを考慮して、前月許容範囲と同等範囲のずれを正常とする場合に使用できる。
【0127】
C.上側閾値のみ利用する。上側閾値外を予算に対する実績の超過傾向と捉え、これに特化して異常検知したい場合に使用できる。
【0128】
D.下側閾値のみ利用する。下側閾値外を経過月数からの案件停滞異常傾向と捉え、これに特化して異常検知したい場合に使用できる。
【0129】
Aの「閾値の計算処理後のデータをそのまま異常判定に用いる」場合を説明する。この場合、異常検知対象案件データの当初の予算・工期通りに完了することを厳格にチェック出来る。図27(A)は、異常判定に用いる閾値のデータを示しており、図27(B)は、異常判定に用いる閾値のデータのグラフを示している。
【0130】
Bの「最終月の閾値に許容幅を持たせる」場合を説明する。Aの方法では、異常判定対象案件の当初の予算・工期と少しでもずれたら異常判定されてしまうため、最終月に許容幅を設ける。最終月の許容幅を最終月の前月の許容幅とする。図28(A)は、異常判定に用いる閾値のデータを示しており、図28(B)は、異常判定に用いる閾値のデータのグラフを示している。図28(A)に示すように、仮想経過月数「6ヶ月」の許容幅「28.28万円」を、仮想経過月数「5ヶ月」の許容幅「28.28万円」と同じに設定している。
【0131】
Cの「上側閾値のみ利用する」場合及びDの「下側閾値のみ利用する」場合を説明する。上側のみ利用するか下側閾値のみ利用するかを選択することができる。以下、下側閾値のみを利用する場合を説明する。図29(A)は、異常判定に用いる閾値のデータを示している。図29(B)は、異常判定に用いる閾値のデータのグラフを示している。下側閾値のみを異常判定に利用するため、上側閾値のデータは使用しない。
【0132】
以上説明したように、本実施の形態によれば、制御部102は、複数の過去の類似案件の実績データの経過月数及び実績を異常判定対象案件の予算データのスケールに合わせ、スケールを合わせた複数の過去の類似案件の実績データの経過月数及び実績に基づいて閾値を計算し、異常判定対象案件の実績データを、計算した閾値と比較して異常判定を行うこととしたので、多数の過去の案件に基づいた閾値と、対象の案件の実績の積み上がり方を比較することで、当該案件の異常を検知することが可能となる。
【0133】
[4.国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)への貢献]
本実施形態により、業務効率化や企業の適切な経営判断を推進することに寄与することができるので、SDGsの目標8及び9に貢献することが可能となる。
【0134】
また、本実施形態により、廃棄ロス削減や、ペーパレス・電子化を推進することに寄与することができるので、SDGsの目標12、13及び15に貢献することが可能となる。
【0135】
また、本実施形態により、統制、ガバナンス強化に寄与することができるので、SDGsの目標16に貢献することが可能となる。
【0136】
[5.他の実施形態]
本発明は、上述した実施形態以外にも、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内において種々の異なる実施形態にて実施されてよいものである。
【0137】
例えば、実施形態において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部又は一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部又は一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。
【0138】
また、本明細書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各処理の登録データや検索条件等のパラメータを含む情報、画面例、データベース構成については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0139】
また、異常検知システム100に関して、図示の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。
【0140】
例えば、異常検知システム100が備える処理機能、特に制御部にて行われる各処理機能については、その全部又は任意の一部を、CPU及び当該CPUにて解釈実行されるプログラムにて実現してもよく、また、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現してもよい。尚、プログラムは、本実施形態で説明した処理を情報処理装置に実行させるためのプログラム化された命令を含む一時的でないコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されており、必要に応じて異常検知システム100に機械的に読み取られる。すなわち、ROM又はHDD(Hard Disk Drive)などの記憶部などには、OSと協働してCPUに命令を与え、各種処理を行うためのコンピュータプログラムが記録されている。このコンピュータプログラムは、RAMにロードされることによって実行され、CPUと協働して制御部を構成する。
【0141】
また、このコンピュータプログラムは、異常検知システム100に対して任意のネットワークを介して接続されたアプリケーションプログラムサーバに記憶されていてもよく、必要に応じてその全部又は一部をダウンロードすることも可能である。
【0142】
また、本実施形態で説明した処理を実行するためのプログラムを、一時的でないコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納してもよく、また、プログラム商品として構成することもできる。ここで、この「記録媒体」とは、メモリーカード、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)カード、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、MO(Magneto-Optical disk)、DVD(Digital Versatile Disk)、及び、Blu-ray(登録商標) Disc等の任意の「可搬用の物理媒体」を含むものとする。
【0143】
また、「プログラム」とは、任意の言語又は記述方法にて記述されたデータ処理方法であり、ソースコード又はバイナリコード等の形式を問わない。なお、「プログラム」は必ずしも単一的に構成されるものに限られず、複数のモジュールやライブラリとして分散構成されるものや、OSに代表される別個のプログラムと協働してその機能を達成するものをも含む。なお、実施形態に示した各装置において記録媒体を読み取るための具体的な構成及び読み取り手順ならびに読み取り後のインストール手順等については、周知の構成や手順を用いることができる。
【0144】
記憶部に格納される各種のデータベース等は、RAM、ROM等のメモリ装置、ハードディスク等の固定ディスク装置、フレキシブルディスク、及び、光ディスク等のストレージ手段であり、各種処理やウェブサイト提供に用いる各種のプログラム、テーブル、データベース、及び、ウェブページ用ファイル等を格納する。
【0145】
また、異常検知システム100は、既知のパーソナルコンピュータ又はワークステーション等の情報処理装置として構成してもよく、また、任意の周辺装置が接続された当該情報処理装置として構成してもよい。また、異常検知システム100は、当該装置に本実施形態で説明した処理を実現させるソフトウェア(プログラム又はデータ等を含む)を実装することにより実現してもよい。
【0146】
更に、装置の分散・統合の具体的形態は図示するものに限られず、その全部又は一部を、各種の付加等に応じて又は機能負荷に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。すなわち、上述した実施形態を任意に組み合わせて実施してもよく、実施形態を選択的に実施してもよい。
【符号の説明】
【0147】
100 異常検知システム
102 制御部
102a データ取得部
102b スケール統一部
102c 等間隔点取得部
102d スケール拡大部
102e 閾値計算部
102f 異常判定部
104 通信インターフェース部
106 記憶部
106a データテーブル
108 入出力インターフェース部
112 入力装置
114 出力装置
200 サーバ
300 ネットワーク
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