(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157658
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】締結工具
(51)【国際特許分類】
B25B 21/00 20060101AFI20231019BHJP
【FI】
B25B21/00 530Z
B25B21/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067707
(22)【出願日】2022-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006301
【氏名又は名称】マックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大澤 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】竹内 和也
(57)【要約】
【課題】締結対象物にネジで穴をあける際の負荷が高い場合に、軸方向に移動するドライバビットがネジを介して締結対象物を押す力の反力を抑制できるようにした締結工具を提供する。
【解決手段】締結工具1は、ドライバビットを回転させるビット回転モータ40と、ドライバビットを軸方向に沿って移動させるビット移動モータ50と、ドライバビットに係合したネジが締結対象物に接して穴をあける負荷を検出する負荷検出部112と、ビット移動モータ50を第1の出力で回転させてビット保持部3で保持されたドライバビットを軸方向に移動させる動作で、ドライバビットに係合したネジが締結対象物に接して穴をあける負荷を負荷検出部112が検出すると、ビット移動モータ50の出力を第1の出力から第2の出力に低下させる制御部100を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネジに係合可能なドライバビットを保持し、ドライバビットの周方向に回転可能及び軸方向に移動可能なビット保持部と、
前記ビット保持部を軸方向に移動させるモータと、
前記モータの出力を制御して前記ビット保持部の移動速度を制御する制御部と、
前記モータの状態を検出するモータ状態検出部と
を備え、
前記制御部は、前記ドライバビットに係合したネジを締結対象物に締結する際の前記モータの状態に基づいて前記ビット保持部の移動速度を制御する
締結工具。
【請求項2】
前記モータの状態は、前記モータの回転速度である
請求項1に記載の締結工具。
【請求項3】
前記制御部は、前記ドライバビットに係合したネジを締結対象物に締結する際に前記ビット保持部の移動速度が所定速度以下になったとき、前記モータの出力を低下させる
請求項2に記載の締結工具。
【請求項4】
前記制御部は、前記モータの出力を低下させた後、前記ビット保持部の移動速度を、前記モータの出力を低下させる前の前記ビット保持部の移動速度未満の範囲で増加させる
請求項3に記載の締結工具。
【請求項5】
前記制御部は、前記モータの出力を低下させた後、前記ビット保持部の移動速度が増加したと判断したとき、前記ビット保持部の移動速度を、前記ビット保持部の移動速度を低下させる前の速度に復帰させる
請求項4に記載の締結工具。
【請求項6】
制御モードを第1制御モードと第2制御モードとの間で切換え可能なモード切換部を備え、
前記制御部は、制御モードが第1制御モードのとき、前記ドライバビットに係合したネジを締結対象物に締結する際に前記ビット保持部の移動速度が低下したと判断すると、前記モータの出力を低下させ、制御モードが第2制御モードのとき、前記ドライバビットに係合したネジを締結対象物に締結する際に前記ビット保持部の移動速度が所定速度以下になったと判断すると、前記モータの出力を低下させる
請求項2に記載の締結工具。
【請求項7】
前記制御部は、前記モータの出力を低下させた後、前記ビット保持部の移動速度を、前記モータの出力を低下させる前の前記ビット保持部の移動速度未満の範囲で増加させる
請求項6に記載の締結工具。
【請求項8】
前記制御部は、前記モータの出力を低下させた後、前記ビット保持部の移動速度が増加したと判断したとき、前記ビット保持部の移動速度を、前記ビット保持部の移動速度を低下させる前の速度に復帰させる
請求項7に記載の締結工具。
【請求項9】
ネジに係合可能なドライバビットを保持し、ドライバビットの周方向に回転可能及び軸方向に移動可能なビット保持部と、
前記ビット保持部を回転させる第1のモータと、
前記ビット保持部を軸方向に移動させる第2のモータと、
前記第1のモータを介して前記ビット保持部の回転速度を制御するとともに、前記第2のモータの出力を制御して前記ビット保持部の移動速度を制御する制御部と、
前記第1のモータの状態を検出する第1のモータ状態検出部と
を備え、
前記制御部は、前記ドライバビットに係合したネジを締結対象物に締結する際の前記第1のモータの状態に基づいて前記ビット保持部の移動速度を制御する
締結工具。
【請求項10】
前記第1のモータの状態は、前記第1のモータの回転速度である
請求項9に記載の締結工具。
【請求項11】
前記制御部は、前記ドライバビットに係合したネジを締結対象物に締結する際の前記第1のモータの回転速度の低下量に基づいて前記ビット保持部の移動速度を制御する
請求項10に記載の締結工具。
【請求項12】
前記制御部は、前記ドライバビットに係合したネジを締結対象物に締結する際の前記第1のモータの回転速度の低下量が減少したとき、前記第2のモータの出力を低下させる
請求項11に記載の締結工具。
【請求項13】
前記制御部は、前記ドライバビットに係合したネジを締結対象物に締結する際の前記第1のモータの回転速度の低下量が減少した後、前記低下量が再び上昇したとき、前記第2のモータの出力を増加させる
請求項12に記載の締結工具。
【請求項14】
前記制御部は、前記第1のモータに対して進み進角制御を実行する
請求項13に記載の締結工具。
【請求項15】
前記制御部は、前記ビット保持部の移動速度を低下させた後に、前記第1のモータに対して進み進角制御を実行する
請求項14に記載の締結工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネジにドライバビットを係合させ、ドライバビットでネジを押して締結対象物に押し付け、ドライバビットを回転させて捩じ込む締結工具に関する。
【背景技術】
【0002】
エアコンプレッサから供給される圧縮空気の空気圧や、ガスの燃焼圧を利用し、マガジンに装填された連結止め具を、ドライバガイドの先端から順次打ち出す可搬形の打込機と称す工具が知られている。
【0003】
ビットを回転させてネジを締めると共に、ネジを打ち込む方向にビットを移動させる工具では、従来、エアモータでビットを回転させ、ネジを打ち込む方向にはエア圧で移動させる空気圧式ネジ打ち機が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、ドライバビットを回転させるモータの駆動力でバネを圧縮し、バネの付勢でドライバビットを軸方向に移動させてネジを打ち込むネジ打ち機が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5262461号
【特許文献2】特許第6197547号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ネジ打ち機を使用した作業として、鋼板下地の上に石膏ボードを乗せた部材に対してネジを締め込む作業を行うことがある。しかし、バネの付勢でドライバビットを軸方向に移動させてネジを打ち込む構成では、ビット保持部の移動速度を制御することが難しい。例えば、バネの付勢でネジが鋼板に穴をあけることができない段階でも、バネの付勢でドライバビットが前進し続けてしまうため、ドライバビットがネジを介して締結対象物を押す力の反力で、締結工具が浮き上がる
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためされたもので、ビット保持部の移動速度を制御できるようにした締結工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため、本発明は、ネジに係合可能なドライバビットを保持し、ドライバビットの周方向に回転可能及び軸方向に移動可能なビット保持部と、ビット保持部を軸方向に移動させるモータと、モータの出力を制御してビット保持部の移動速度を制御する制御部と、モータの状態を検出するモータ状態検出部とを備え、制御部は、ドライバビットに係合したネジを締結対象物に締結する際のモータの状態に基づいてビット保持部の移動速度を制御する締結工具である。
【0009】
本発明では、ドライバビットに係合したネジを締結対象物に締結する際のモータの状態に基づいて、ビット保持部の移動速度が制御される。
【0010】
また、本発明は、ネジに係合可能なドライバビットを保持し、ドライバビットの周方向に回転可能及び軸方向に移動可能なビット保持部と、ビット保持部を回転させる第1のモータと、ビット保持部を軸方向に移動させる第2のモータと、第1のモータを介してビット保持部の回転速度を制御するとともに、第2のモータの出力を制御してビット保持部の移動速度を制御する制御部と、第1のモータの状態を検出する第1のモータ状態検出部とを備え、制御部は、ドライバビットに係合したネジを締結対象物に締結する際の第1のモータの状態に基づいてビット保持部の移動速度を制御する締結工具である。
【0011】
本発明では、ドライバビットに係合したネジを締結対象物に締結する際の第1のモータの状態に基づいて、ビット保持部の移動速度が制御される。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、ビット保持部を軸方向に移動させるモータ、ビット保持部を回転させる第1のモータの状態に基づいて、ビット保持部の移動速度を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】本実施の形態の締結工具の内部構造の一例を示す側断面図である。
【
図1B】本実施の形態の締結工具の内部構造の一例を示す上面断面図である。
【
図1C】本実施の形態の締結工具の内部構造の一例を示す分解斜視図である。
【
図2A】本実施の形態の締結工具の要部構成の一例を示す斜視図である。
【
図2B】本実施の形態の締結工具の要部構成の一例を示す斜視図である。
【
図3A】本実施の形態の締結工具の要部構成の一例を示す断面斜視図である。
【
図3B】本実施の形態の締結工具の要部構成の一例を示す断面斜視図である。
【
図4】本実施の形態のネジ送り部及びノーズ部の一例を示す斜視図である。
【
図5】本実施の形態の締結工具の一例を示すブロック図である。
【
図7A】本実施の形態の締結工具の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図7B】本実施の形態の締結工具の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図8A】ビット回転モータとビット移動モータの回転速度の関係を示すグラフである。
【
図8B】ビット回転モータとビット移動モータの回転速度の関係を示すグラフである。
【
図10A】本実施の形態の締結工具の動作の他の例を示すフローチャートである。
【
図10B】本実施の形態の締結工具の動作の他の例を示すフローチャートである。
【
図11A】ビット回転モータとビット移動モータの回転速度の関係を示すグラフである。
【
図11B】ビット回転モータとビット移動モータの回転速度の関係を示すグラフである。
【
図11C】ビット回転モータとビット移動モータの回転速度の関係を示すグラフである。
【
図12A】本実施の形態の締結工具の動作の他の例を示すフローチャートである。
【
図12B】本実施の形態の締結工具の動作の他の例を示すフローチャートである。
【
図13】ビット回転モータとビット移動モータの回転速度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の締結工具の実施の形態について説明する。
【0015】
<本実施の形態の締結工具の構成例>
図1Aは、本実施の形態の締結工具の内部構造の一例を示す側断面図、
図1Bは、本実施の形態の締結工具の内部構造の一例を示す上面断面図、
図1Cは、本実施の形態の締結工具の内部構造の一例を示す分解斜視図である。
【0016】
本実施の形態の締結工具1は、ドライバビット2を回転可能、及び、軸方向に移動可能に保持するビット保持部3と、ビット保持部3で保持されたドライバビット2を回転させる第1の駆動部4と、ビット保持部3で保持されたドライバビット2を軸方向に移動させる第2の駆動部5を備える。
【0017】
また、締結工具1は、ネジ200が収納されるネジ収納部6と、ネジ収納部6に収納されたネジを送る後述するネジ送り部7と、ネジ200が締結される締結対象物に押し付けられると共に、ネジ200が射出されるノーズ部8を備える。
【0018】
更に、締結工具1は、工具本体10とハンドル11を備える。また、締結工具1は、ハンドル11の端部に、バッテリ12が着脱可能に取り付けられるバッテリ取付部13を備える。
【0019】
締結工具1は、工具本体10が矢印A1、A2で示すドライバビット2の軸方向に沿った一の方向に延伸し、工具本体10の延伸方向に対して交差する他の方向にハンドル11が延伸する。締結工具1は、工具本体10が延伸する方向、すなわち、矢印A1、A2で示すドライバビット2の軸方向を前後方向とする。また、締結工具1は、ハンドル11が延伸する方向を上下方向とする。更に、締結工具1は、工具本体10の延伸方向及びハンドル11の延伸方向に直交する方向を左右方向とする。
【0020】
第1の駆動部4は、ハンドル11を挟んで、工具本体10の一方の側である後方に設けられる。また、第2の駆動部5は、ハンドル11を挟んで、工具本体10の他方の側である前方に設けられる。
【0021】
ネジ収納部6は、複数のネジ200が連結帯で連結され、渦巻き状に巻かれた連結ネジが収納される。
【0022】
図2A、
図2Bは、本実施の形態の締結工具の要部構成の一例を示す斜視図、
図3A、
図3Bは、本実施の形態の締結工具の要部構成の一例を示す断面斜視図であり、次に、各図を参照して、ビット保持部3及び第1の駆動部4について説明する。
【0023】
ビット保持部3は、ドライバビット2を着脱可能に保持する保持部材30と、保持部材30をドライバビット2の軸方向に沿った矢印A1、A2で示す前後方向へ移動可能に支持すると共に、保持部材30と共に回転する回転ガイド部材31と、保持部材30を回転ガイド部材31に沿って前後方向に移動させる移動部材32と、移動部材32を矢印A2で示す後方向へ付勢する付勢部材33を備える。
【0024】
保持部材30は、回転ガイド部材31の内径より外径が若干小さく、回転ガイド部材31の内側に入れられる例えば円柱状の部材で構成される。保持部材30は、ドライバビット2の軸方向に沿った前側の端部に、ドライバビット2の断面形状と合致した形状の開口30aが設けられる。保持部材30は、ドライバビット2を着脱可能に保持する着脱保持機構30cを開口30aに備える。保持部材30は、開口30aが回転ガイド部材31の内側に露出し、開口30aにドライバビット2が着脱可能に挿入される。
【0025】
着脱保持機構30cは、開口30a内に露出するボール30dと、ボール30dを開口30a内に露出する方向に付勢するバネ30eを備える。バネ30eは、環状の板バネで構成され、保持部材30の外周に嵌められる。
【0026】
着脱保持機構30cは、バネ30eで付勢されたボール30dがドライバビット2の溝部に嵌ることで、ドライバビット2が保持部材30から不用意に抜けることが抑制される。また、ドライバビット2を保持部材30から抜く方向に所定以上の力が掛かると、環状のバネ30eを変形させながらボール30dが退避することで、ドライバビット2を保持部材30から抜くことが可能である。
【0027】
回転ガイド部材31は、工具本体10の延伸方向、すなわち、ドライバビット2の軸方向に沿った矢印A1、A2で示す前後方向に沿って延伸する。回転ガイド部材31は、内側に保持部材30が入る円筒形状で、前側の端部が、工具本体10の外装を構成するケース10aの前側に設けられる前フレーム10bに、軸受の一例であるベアリング34aを介して回転可能に支持される。また、回転ガイド部材31は、後側の端部が第1の駆動部4と連結される。
【0028】
回転ガイド部材31は、ドライバビット2の軸方向に沿った矢印A1、A2で示す前後方向に延伸する溝部31aが、径方向に対向する周面の2箇所に形成される。回転ガイド部材31は、保持部材30を径方向に貫通し、保持部材30の両側方から突出した連結部材30bが溝部31aに入ることで、連結部材30bを介して保持部材30と連結される。
【0029】
連結部材30bは、断面形状が長円形状の筒状の部材で構成され長円形状の長手方向が、矢印A1、A2で示すドライバビット2の軸方向と平行な溝部31aの延伸方向に沿った向きとなる。また、連結部材30bは、長円形状の短手方向が、矢印B1、B2方向で示す溝部31aの延伸方向と直交する向き、すなわち、回転ガイド部材31の回転方向に沿った向きとなる。そして、連結部材30bは、長円形状の短手方向の幅、すなわち、回転ガイド部材31の回転方向に沿った幅が、溝部31aの同方向に沿った幅より若干小さく構成される。
【0030】
これにより、溝部31aに入れられた連結部材30bは、回転ガイド部材31の軸方向に沿って移動可能に溝部31aに支持される。また、連結部材30bは、回転ガイド部材31に対して回転方向に沿った移動が、溝部31aの延伸する方向に沿った溝部31aの一方の側面と他方の側面との間で規制される。よって、連結部材30bは、回転ガイド部材31が回転する動作で、回転ガイド部材31の回転方向に応じて溝部31aの一方の側面または他方の側面に押され、回転ガイド部材31から回転方向である周方向の力を受ける。
【0031】
従って、保持部材30は、回転ガイド部材31が回転すると、連結部材30bが回転ガイド部材31の溝部31aに押されることで、回転ガイド部材31と共に回転する。また、保持部材30は、連結部材30bが回転ガイド部材31の溝部31aにガイドされ、ドライバビット2の軸方向に沿った前後方向に移動する。
【0032】
移動部材32は、保持部材30と共に回転し、保持部材30を回転ガイド部材31に沿って前後方向に移動させる第1の移動部材32aと、ベアリング32bを介して第1の移動部材32aに支持され、ベアリング32bを介して第1の移動部材32aを押す第2の移動部材32cと、第2の移動部材32cの後側に取り付けられる緩衝部材32dを備える。
【0033】
第1の移動部材32aは、回転ガイド部材31の外径より内径が若干大きく、回転ガイド部材31の外側に入れられる例えば円筒状の部材で構成される。第1の移動部材32aは、回転ガイド部材31の溝部31aから突出した連結部材30bを介して保持部材30と連結されることで、回転ガイド部材31の軸方向に沿って移動可能に支持される。
【0034】
ベアリング32bは軸受の一例で、第1の移動部材32aの外周と第2の移動部材32cの内周の間に挿入される。第1の移動部材32aは、ベアリング32bの内輪を保持する軸受内輪保持部材を構成し、第2の移動部材32cは、ベアリング32bの外輪を保持する軸受外輪保持部材を構成する。ベアリング32bは、内輪が第1の移動部材32aの外周に回転方向と軸方向の移動を不能に支持され、外輪が第2の移動部材32cの内周に回転方向と軸方向の移動を不能に支持される。
【0035】
これにより、第2の移動部材32cは、第1の移動部材32aに対して、軸方向に沿った前後方向への移動が規制された状態で、ベアリング32bを介して連結される。また、第2の移動部材32cは、ベアリング32bを介して第1の移動部材32aを回転可能に支持する。
【0036】
従って、第1の移動部材32aは、第2の移動部材32cが軸方向に沿った前後方向に移動する動作で、ベアリング32bを介して第2の移動部材32cに押され、第2の移動部材32cと共に軸方向に沿った前後方向に移動する。また、第1の移動部材32aは、回転ガイド部材31に対して非回転な第2の移動部材32cに対して回転可能である。
【0037】
付勢部材33は、本例ではコイルバネで構成され、回転ガイド部材31の外側で、工具本体10のケース10aの前側に設けられる前フレーム10bと、移動部材32の第2の移動部材32cとの間に入れられ、ベアリング32bの外輪の端面に接触するように配置されたばね座32fに当接する。付勢部材33は、移動部材32が矢印A1で示す前方向に移動することで圧縮され、移動部材32を矢印A2で示す後方向に押す力を移動部材32に掛ける。
【0038】
第1の駆動部4は、バッテリ12から供給される電気で駆動されるビット回転モータ40と、減速機41を備える。ビット回転モータ40は第1のモータの一例で、ビット回転モータ40の軸40aが、減速機41と連結され、減速機41の軸41aが、回転ガイド部材31に連結される。第1の駆動部4は、減速機41が遊星歯車を利用した構成で、ビット回転モータ40が回転ガイド部材31及び保持部材30と、保持部材30に保持されたドライバビット2と同軸上に配置される。
【0039】
第1の駆動部4は、工具本体10のケース10aの後側に設けられる後フレーム10cに、ビット回転モータ40及び減速機41が取り付けられ、減速機41の軸41aが、ベアリング42を介して後フレーム10cに支持される。回転ガイド部材31は、後側の端部が、減速機41の軸41aと連結され、軸41aが、ベアリング42を介して後フレーム10cに支持されることで、軸受の一例であるベアリング42を介して回転可能に支持される。
【0040】
ビット保持部3と第1の駆動部4は、前フレーム10bと後フレーム10cが、前後方向に延伸する結合部材10dで連結されることで、一体に組み立てられ、前フレーム10bが、工具本体10のケース10aにネジ10eにより固定される。
【0041】
また、ビット保持部3は、回転ガイド部材31の前側の端部が、工具本体10のケース10aの前側に固定される前フレーム10bにベアリング34aを介して支持され、回転ガイド部材31の後側の端部が、ケース10aの後側に固定される後フレーム10cに、減速機41の軸41a及びベアリング42を介して支持される。よって、ビット保持部3は、回転ガイド部材31が工具本体10に回転可能に支持される。
【0042】
これにより、第1の駆動部4は、ビット回転モータ40により回転ガイド部材31を回転させる。ドライバビット2が保持される保持部材30は、回転ガイド部材31が回転すると、連結部材30bが回転ガイド部材31の溝部31aに押されることで、回転ガイド部材31と共に回転する。
【0043】
ビット保持部3は、第2の移動部材32cにガイド部材32gが設けられる。第2の移動部材32cは、ガイド部材32gが結合部材10dにガイドされることで、ドライバビット2の軸方向に沿った矢印A1、A2で示す前後方向に移動可能で、かつ、回転ガイド部材31に追従した回転が規制される。
【0044】
次に、各図を参照して、第2の駆動部5について説明する。第2の駆動部5は、バッテリ12から供給される電気で駆動されるビット移動モータ50と、減速機51を備える。ビット移動モータ50はモータ、第2のモータの一例で、ビット移動モータ50の軸50aが、減速機51と連結され、減速機51の軸51aが伝達部材の一例であるプーリ52と連結される。第2の駆動部5は、プーリ52がベアリング53を介して工具本体10に支持される。第2の駆動部5は、ビット移動モータ50の軸50aがハンドル11の延伸方向に沿って配置される。
【0045】
第2の駆動部5は、伝達部材の一例である線状のワイヤ54の一端がプーリ52に連結され、プーリ52が回転することでワイヤ54がプーリ52に巻かれる。また、ワイヤ54の他端が、移動部材32の第2の移動部材32cに設けたワイヤ連結部32hに連結される。
【0046】
これにより、第2の駆動部5は、ビット移動モータ50によりプーリ52を回転させて、ワイヤ54を巻き取ることで、第2の移動部材32cを矢印A1で示す前方向に移動させる。ビット保持部3は、第2の移動部材32cが前方向に移動することで、ベアリング32bを介して第1の移動部材32aが押され、第1の移動部材32aが第2の移動部材32cと共に軸方向に沿った前方向に移動する。第1の移動部材32aが前方向に移動することで、第1の移動部材32aと連結部材30bを介して連結された保持部材30が前方向に移動し、保持部材30で保持されたドライバビット2が、矢印A1で示す前方向に移動する。
【0047】
第2の駆動部5は、プーリ52においてワイヤ54が巻かれる部位の接線方向が、回転ガイド部材31の延伸方向に沿うように、締結工具1の左右方向における略中心に対し一方の側にオフセットされて配置される。また、ドライバビット2を所定量移動させるために、プーリ52がワイヤ54を巻き取る動作で、プーリ52にワイヤ54が重ねて巻かれることがないように、プーリ52の径などが設定される。
【0048】
これにより、ビット移動モータ50の回転量と、保持部材30の移動量との関係が、保持部材30の移動可能範囲の全域において、1対1の関係となり、ビット移動モータ50の回転量を制御することで、回転ガイド部材31の軸方向に沿った保持部材30の移動量を制御できる。すなわち、ビット移動モータ50の回転量を制御することで、保持部材30に取り付けられたドライバビット2の移動量を制御可能となる。
【0049】
また、ビット移動モータ50の回転速度に応じて、ドライバビット2の移動速度を速くすることができる。よって、ドライバビット2でネジ200を締結対象物に押し付けるまでの時間を短縮することができる。
【0050】
なお、ワイヤ54は、プーリ52に巻き取ることが可能な可撓性を有することから、第2の移動部材32cを押して移動部材32を後方へ移動させることができない。そこで、移動部材32が矢印A1で示す前方向に移動することで圧縮され、移動部材32を矢印A2で示す後方向に押す力を移動部材32に掛ける付勢部材33を備える。これにより、プーリ52でワイヤ54を巻き取り、ドライバビット2を前進させる構成で、前進後のドライバビット2を後進させることができる。
【0051】
図4は、本実施の形態のネジ送り部及びノーズ部の一例を示す斜視図であり、次に、各図を参照して、ネジ送り部7及びノーズ部8について説明する。ネジ送り部7は、ネジ送りモータ70と、ネジ送りモータ70の軸に減速機を介して取り付けられるピニオンギア71と、ピニオンギア71と噛み合うラックギア72と、ラックギア72と連結され、ネジ収納部6から送られる連結ネジと係合する係合部73を備える。
【0052】
ネジ送り部7は、ラックギア72が、連結ネジの送り方向に沿った上下方向に移動可能に支持される。ネジ送り部7は、ネジ送りモータ70が正転及び逆転することで、連結ネジと係合する係合部73が上下方向に往復移動し、連結ネジが送られる。なお、ネジ送り部7は、ソレノイドなどの電磁力と付勢手段の組み合わせで直動する駆動部により係合部73を往復移動させる構成としてもよい。
【0053】
ノーズ部8は、ネジ送り部7によりネジ200が供給されると共に、ドライバビット2が通る射出通路80を備える。また、ノーズ部8は、射出通路80と連通する射出口81aを有し、締結対象物に接触するコンタクト部材81を備える。更に、ノーズ部8は、コンタクト部材81と連動して前後方向に移動するコンタクトアーム82を備える。
【0054】
ノーズ部8は、コンタクト部材81が矢印A1、A2で示す前後方向に移動可能に支持され、コンタクト部材81と連動してコンタクトアーム82が前後方向に移動する。ノーズ部8は、コンタクト部材81が図示しない付勢部材で前方向に付勢され、締結対象物に押し付けられて後方に移動したコンタクト部材81が、付勢部材で付勢されて前方向に移動する。
【0055】
締結工具1は、コンタクトアーム82に押されて作動するコンタクトスイッチ部84を備える。コンタクトスイッチ部84は、コンタクト部材81が締結対象物に押し付けられて後方へ移動するコンタクトアーム82が後方へ移動することで、コンタクトアーム82に押されることで作動の有無が切り替えられる。本例では、コンタクトアーム82に押されておらず、コンタクトスイッチ部84が非作動な状態をコンタクトスイッチ部84のオフ、コンタクトアーム82に押されてコンタクトスイッチ部84が作動した状態をコンタクトスイッチ部84のオンとする。
【0056】
図5は、本実施の形態の締結工具の一例を示すブロック図であり、次に、各図を参照して、締結工具1の制御及び操作に関する構成について説明する。
【0057】
締結工具1は、操作を受けるトリガ9と、トリガ9の操作で作動するトリガスイッチ部90を備える。トリガ9は、
図1Aなどに示すように、ハンドル11の前側に設けられ、ハンドル11を把持する手の指で操作可能に構成される。トリガスイッチ部90は、トリガ9に押されて作動する。
【0058】
トリガスイッチ部90は、トリガ9に押されることで作動の有無が切り替えられ、本例では、トリガ9が操作されておらず、トリガ9でトリガスイッチ部90が押されずトリガスイッチ部90が非作動な状態をトリガスイッチ部90のオフ、トリガ9が操作され、トリガ9に押されてトリガスイッチ部90が作動した状態をトリガスイッチ部90のオンとする。
【0059】
締結工具1は、トリガ9の操作で作動するトリガスイッチ部90及びコンタクト部材81に押されて作動するコンタクトスイッチ部84の出力に基づき、第1の駆動部4、第2の駆動部5及びネジ送り部7を制御する制御部100を備える。制御部100は、各種電子部品が実装された基板で構成され、
図1Aに示すように、ネジ収納部6とハンドル11との間で、ネジ収納部6の裏面側に設けた基板収納部111に収納される。
【0060】
制御部100は、コンタクトスイッチ部84のオン、オフと、トリガスイッチ部90のオン、オフの組み合わせに基づき、第2の駆動部5のビット移動モータ50と第1の駆動部4のビット回転モータ40の駆動の有無を制御する。制御部100は、ビット移動モータ50の状態を検出するモータ状態検出部を内包し、ドライバビット2に係合したネジ200を締結対象物に締結する際のビット移動モータ50の状態に基づいてビット保持部3の移動速度を制御する。また、制御部100は、ビット回転モータ40の状態を検出する第1のモータ状態検出部を内包し、ドライバビット2に係合したネジ200を締結対象物に締結する際のビット回転モータ40の状態に基づいてビット保持部3の移動速度を制御する。モータ状態検出部、第1のモータ状態検出部は、ビット移動モータ50、ビット回転モータ40の回転数(回転速度)等を検出する検出部を制御部100と独立して備える構成でも良い。
【0061】
締結工具1は、上述したように、ビット保持部3で保持部材30に保持されたドライバビット2を、ビット回転モータ40の駆動により回転させる第1の駆動部4を備える。また、締結工具1は、ビット保持部3で保持部材30に保持されたドライバビット2を、ビット移動モータ50の駆動により軸方向に沿った前後方向に移動させる第2の駆動部5を備える。
【0062】
締結工具1は、ビット移動モータ50が所定の方向に回転することで、ビット保持部3で保持部材30に保持されたドライバビット2が矢印A1で示す前方向に移動(前進)する。また、締結工具1は、ビット回転モータ40が所定の方向に回転することで、ネジ200を締結する方向にドライバビット2が回転する。
【0063】
締結工具1は、ビット移動モータ50の回転でドライバビット2を前進させることで、ドライバビット2とネジ200のリセス200aを係合させ、ネジ200を前方向に移動させて、締結対象物に押し付ける。
【0064】
また、締結工具1は、ビット回転モータ40の回転でネジ200を締結する方向にドライバビット2を回転させることで、ドライバビット2と係合したネジ200を締結対象物に締結する。
【0065】
更に、締結工具1は、ビット回転モータ40の回転に連動してビット移動モータ50を回転させることで、ネジ200の締結に追従してドライバビット2を前進させる。
【0066】
そこで、制御部100は、ビット移動モータ50の回転量を制御することで、ドライバビット2の移動量(前進量)を制御する。制御部100は、ドライバビット2の移動量を制御することで、ドライバビット2の軸方向に沿った停止位置を制御する。
【0067】
また、制御部100は、ビット回転モータ40の回転速度とビット移動モータ50の回転速度を制御することで、ネジ200の締結に追従してドライバビット2を前進させる。
【0068】
ビット回転モータ40の回転により、ネジ200を締結する方向にドライバビット2を回転させると、ドライバビット2に係合したネジ200が締結対象物に締め込まれるため、ネジ200は軸方向に沿って移動(前進)する。ネジ200の回転に伴うネジ200の軸方向に沿った移動量(移動速度)は、ネジ200のリード角と、ビット回転モータ40の回転量、回転速度から推定される。
【0069】
制御部100は、ドライバビット2の軸方向に沿った移動量(移動速度)が、このネジ200の移動量(移動速度)に追従するように、所定の回転速度でビット移動モータ50を回転させる。
【0070】
締結工具1は、ネジ200を前方向に移動させて締結対象物に押し付ける動作で、ネジ200の先端が締結対象物の表面に穴をあける。但し、締結対象物が鋼板である場合、締結対象物が木材や石膏などである場合と比較して穴があきにくい。鋼板などの穴があきにくい締結対象物に、ネジ200を前方向に移動させて穴を開ける動作が開始されると、鋼板に穴があき、さらにネジ200においてネジ山の形成されている部位が鋼板に到達するまでは、ネジ200が前進しにくい状態であるため、ドライバビット2の軸方向に掛かる負荷が高くなる。ネジ200を前進させて締結対象物に穴をあける際に、ドライバビット2の軸方向に掛かる負荷が高くなると、ドライバビット2がネジ200を介して締結対象物を押す力の反力が大きくなり、締結工具1が締結対象物から浮き上がる可能性がある。
【0071】
そこで、制御部100は、締結対象物が鋼板である場合など、ビット移動モータ50の回転でネジ200を前方向に移動させて締結対象物にネジ200で穴をあける際に、ドライバビット2の軸方向に掛かる負荷が高い場合に、ビット移動モータ50の回転速度を制御し、ドライバビット2がネジ200を介して締結対象物を押す力の反力で、締結工具1が浮き上がることを抑制する。
【0072】
すなわち、締結工具1では、ドライバビット2を軸方向に移動(前進)させる動作でネジ200の先端を締結対象物に押し付けている。但し、鋼板のように穴があきにくい締結対象物の場合、ドライバビット2の軸方向に掛かる負荷が高くなり、ネジ200が前進しにくい状態であるため、ドライバビット2を軸方向に移動(前進)させる際の負荷が大きくなる。このため、鋼板などの穴があきにくい締結対象物にネジ200で穴をあける動作中は、ドライバビット2の軸方向に沿った移動量(前進量)が、木材や石膏などの通常の締結対象物にネジ200が締結される場合と比較して減少する。
【0073】
ドライバビット2の軸方向に沿った移動量(前進量)が減少すると、ビット移動モータ50の回転速度が低下することから、鋼板などの穴があきにくい締結対象物にネジ200を前進させることで押し付けて穴をあける動作中は、ビット移動モータ50の回転速度の低下量が、木材や石膏などの通常の締結対象物にネジ200が締結される場合と比較して大きくなる。
【0074】
一方、鋼板のように穴があきにくい締結対象物の場合、ネジ200の先端が鋼板に穴をあけるまでは、ネジ200が空転した状態となるため、ドライバビット2の回転方向に掛かる負荷は低くなり、ビット回転モータ40の回転速度は、ネジ200の先端が締結対象物に穴をあけて締結対象物に締め込まれる場合と比較して低下しない。
【0075】
このように、ドライバビット2に係合したネジ200を前進させて締結対象物に穴をあける動作で、ドライバビット2の軸方向に掛かる負荷の変化と、ドライバビット2の回転方向に掛かる負荷の変化に応じて、ビット回転モータ40の回転速度(回転量)及びビット移動モータ50の回転速度(回転量)が変化する。
【0076】
締結工具1は、鋼板のように穴があきにくい締結対象物に穴を開けているか否かを判断して、ビット移動モータ50を締結対象物に応じて制御する。そこで、締結工具1は、ドライバビット2に係合したネジ200を前進させて締結対象物に穴をあける動作で、ドライバビット2の軸方向に掛かる負荷の変化、または、ドライバビット2の回転方向に掛かる負荷の変化、あるいは、ドライバビット2の軸方向に掛かる負荷の変化とドライバビット2の回転方向に掛かる負荷の変化を検出する負荷検出部112を備える。
【0077】
ドライバビット2を回転させると共に軸方向に移動させてネジ200を締結対象物に締結する動作では、ドライバビット2の軸方向に掛かる負荷の変化、ドライバビット2の回転方向に掛かる負荷がともに増加し、ビット移動モータ50の回転速度及びビット回転モータ40の回転速度が低下する。
【0078】
但し、ドライバビット2に係合したネジ200を前進させて締結対象物に穴をあける動作では、鋼板のように穴があきにくい締結対象物に穴を開けている場合、ドライバビット2の軸方向に掛かる負荷の増加により、ビット移動モータ50の回転速度の低下量が増加する。一方、鋼板のように穴があきにくい締結対象物に穴を開けている場合、ネジ200が空転することから、ドライバビット2の回転方向に掛かる負荷の減少により、ビット回転モータ40の回転速度の低下量が減少する。
【0079】
そこで、負荷検出部112は、ドライバビット2の軸方向に掛かる負荷及び/またはドライバビット2の回転方向に掛かる負荷の所定の変化を、ビット移動モータ50の回転速度及び/またはビッド回転モータ40の回転速度の変化に基づき検出する。
【0080】
負荷検出部112は、ビット移動モータ50の回転速度の低下量の所定の増加、または、ビット回転モータ40の回転速度の低下量の所定の減少に基づき、鋼板のように穴があきにくい締結対象物に、ネジ200を前進させて穴を開けていることに相当する所定の負荷を検出する。
【0081】
制御部100は、負荷検出部112で検出された所定の負荷に基づき、鋼板のように穴があきにくい締結対象物に、ネジ200を前進させて穴を開けていると判断すると、木材や石膏などの通常の締結対象物へのネジ200の締め込みに応じた第1の出力でビット移動モータ50を駆動する第1の負荷制御から、鋼板のように穴があきにくい締結対象物に、ネジ200を前進させて穴を開ける際の負荷の増加に対応した第2の出力でビット移動モータ50を駆動する第2の負荷制御に切り替える。制御部100は、第2の負荷制御では、ビット移動モータ50へ流す電流を制限し、ビット移動モータ50の出力、ここでは回転速度を低下させる。
【0082】
ネジ200を前進させて鋼板などの締結対象物に押し付けて穴をあける負荷の増加によりドライバビット2の移動量(前進量)が減少した状態で、ビット回転モータ40の回転速度に応じた回転速度でビット移動モータ50の回転を維持すると、ビット回転モータ40の回転により締め込まれるネジ200の軸方向への移動量(前進量)、すなわち、ビット移動モータ50の回転による目標としたドライバビット2の移動量(前進量)に対して、ドライバビット2の実際の移動量(前進量)が小さくなる。これにより、ドライバビット2がネジ200を介して締結対象物を押す力の反力で、締結工具1が浮き上がる。
【0083】
そこで、第2の負荷制御では、ネジ200を締結対象物に押し付けて穴をあける負荷の増加に伴い減少したドライバビット2の移動量(前進量)に追従する程度に、ビット移動モータ50の回転速度を低下させる。これにより、ビット移動モータ50の回転による目標としたドライバビット2の移動量(前進量)と、ドライバビット2の実際の移動量(前進量)が同等程度になり、ドライバビット2がネジ200を介して締結対象物を押す力の反力の発生が抑制され、締結工具1が浮き上がることが抑制される。
【0084】
制御部100は、例えば、ビット移動モータ50の回転速度の変化に基づき、第1の負荷制御から第2の負荷制御に切り替える。そこで、制御部100は、鋼板などの穴があきにくい締結対象物に対して、ネジ200を前進させて穴を開ける動作を行っているか否かを判断する閾値として、ドライバビット2の軸方向に掛かる負荷の増加に伴うビット移動モータ50の回転速度の減少量に相当する高負荷減速閾値が設定される。
【0085】
高負荷減速閾値は、ビット移動モータ50の回転速度の大小で設定してもよい。この場合、制御部100は、第1の負荷制御実行中に、ビット移動モータ50の回転速度が高負荷減速閾値未満となると、上述した第2の負荷制御へ切り替える。
【0086】
また、高負荷減速閾値は、ビット移動モータ50の回転速度から求められる目標としたドライバビット2の移動量と、ドライバビット2の実際の移動量との差分で設定してもよい。この場合、制御部100は、第1の負荷制御実行中に、目標としたドライバビット2の移動量と、ドライバビット2の実際の移動量との差分が高負荷減速閾値以上となると、上述した第2の負荷制御へ切り替える。目標としたドライバビット2の移動量は、ビット回転モータ40の回転により締め込まれるネジ200の軸方向への移動量から取得してもよい。
【0087】
更に、高負荷減速閾値は、目標としたドライバビット2の移動量と、ドライバビット2の実際の移動量との差分の積算値で設定してもよい。この場合、制御部100は、第1の負荷制御実行中に、目標としたドライバビット2の移動量と、ドライバビット2の実際の移動量との差分を、所定のサンプリング間隔で取得し、差分が所定の閾値以上であるとこれを積算し、所定の閾値以上の差分の積算値が高負荷減速閾値以上であると、上述した第2の負荷制御へ切り替える。
【0088】
制御部100は、上述した第2の負荷制御実行中に、鋼板のように穴があきにくい締結対象物に穴をあける穴あけ制御を実行する。
【0089】
制御部100は、第2の負荷制御実行中の穴あけ制御では、ビット移動モータ50の回転速度が上昇せず、規定値未満であると判断すると、ビット移動モータ50へ流す電流を、第2の負荷制御で制限された電流値から増加させる。すなわち、制御部100は、ビット移動モータ50の回転速度が増加せず、ドライバビット2の実際の移動量が規定値未満、例えば、ドライバビット2の実際の移動量がゼロであることを、所定のサンプリング間隔で所定回数連続して検出すると、ビット移動モータ50の出力、ここでは回転速度を増加させて、ドライバビット2の軸方向に沿った移動量(前進量)を徐々に増加させる。
【0090】
ネジ200が鋼板のように穴があきにくい締結対象物に穴をあけると、ネジ200が前進する際の抵抗が減少してビット移動モータ50に掛かる負荷が低下し、ビット移動モータ50の回転速度が上昇する。制御部100は、第2の負荷制御実行中の穴あけ制御で、ビット移動モータ50の回転速度が規定値以上であると判断すると、第2の負荷制御から第1の負荷制御に切り替え、ビット移動モータ50へ流す電流の制限を解除する。
【0091】
締結工具1は、ドライバビット2の前進量を規定するビット移動モータ50の回転量などが設定される設定部110を備える。
図6は、設定部の一例を示す斜視図であり、次に、各図を参照して設定部110について説明する。
【0092】
設定部110は設定手段の一例で、複数の設定値の中から任意の設定値が選択可能、または、任意の設定値が無段階で選択可能に構成される。
【0093】
設定部110は、本例では、ボタンで構成される操作部110aで設定値が選択される構成である。また、操作部110aは、回転式のダイヤルで設定値が選択される構成でもよい。また、設定部110は、現在の設定値を作業者が容易に把握できるよう、ラベルや刻印などで現在値を示す方法や、LEDなどの表示部110bで現在値を示す方法などにより、選択された設定値を表示する構成を備えてもよい。表示部110bに表示される内容としては、ドライバビット2の前進量で規定されるネジ深さの設定値に加え、電源のON/OFFの状態、選択可能な各種運転モードの中から選択された運転モード、ネジの有無、ネジの残量、異常の有無などである。
【0094】
設定部110は、ネジ収納部6の裏面側に設けた基板収納部111において、ハンドル11と対向する側の面の左右両側にそれぞれ設けられる。
【0095】
これにより、締結工具1を後方からみた場合に、ハンドル11の左右両側から設定部110を視認することが可能である。
【0096】
<本実施の形態の締結工具の動作例>
図7A及び
図7Bは、本実施の形態の締結工具の動作の一例を示すフローチャート、
図8A、
図8Bは、ビット回転モータとビット移動モータの回転速度の関係を示すグラフ、
図9A、
図9B及び
図9Cは、ネジの締結状態を示す断面図であり、次に、各図を参照して、本実施の形態の締結工具の締結動作の一例について説明する。
【0097】
締結工具1は、待機状態では、
図1Aに示すように、ドライバビット2の先端が、射出通路80の後方の待機位置P1に位置し、射出通路80にネジ200を供給可能である。
【0098】
制御部100は、
図7AのステップSA1で、設定部110で選択された設定値に基づき、ドライバビット2の前進量を規定するビット移動モータ50の回転量を設定する。制御部100は、コンタクト部材81が締結対象物202に押し付けられ、コンタクトアーム82によりコンタクトスイッチ部84が押されて、ステップSA2でコンタクトスイッチ部84がオンとなり、トリガ9が操作されて、ステップSA3でトリガスイッチ部90がオンになると、ステップSA4で第1の駆動部4のビット回転モータ40を駆動すると共に、ステップSA5で第2の駆動部5のビット移動モータ50を駆動して、第1の負荷制御を実行する。
【0099】
ビット移動モータ50が駆動されて一の方向である正方向に回転すると、プーリ52が正方向に回転することでワイヤ54がプーリ52に巻き取られる。プーリ52にワイヤ54が巻き取られることで、ワイヤ54と連結された第2の移動部材32cが、回転ガイド部材31にガイドされて軸方向に沿った前方向に移動する。第2の移動部材32cが前方向に移動すると、第1の移動部材32aがベアリング32bを介して第2の移動部材32cに押され、第2の移動部材32cと共に、付勢部材33を圧縮しながら軸方向に沿った前方向に移動する。
【0100】
第1の移動部材32aが前方向に移動すると、第1の移動部材32aと連結部材30bで連結された保持部材30が、回転ガイド部材31の溝部31aに連結部材30bがガイドされて、ドライバビット2の軸方向に沿った前方向に移動する。
【0101】
これにより、保持部材30に保持されたドライバビット2が矢印A1で示す前方向に移動し、ノーズ部8の射出口81aに供給されたネジ200と係合してネジ200を前方向に移動させ、締結対象物202に押し付ける。
【0102】
また、ビット回転モータ40が駆動されて一の方向である正方向に回転すると、回転ガイド部材31が正方向に回転する。回転ガイド部材31が正方向に回転すると、保持部材30と連結された連結部材30bが回転ガイド部材31の溝部31aに押されることで、保持部材30が回転ガイド部材31と共に回転する。
【0103】
これにより、保持部材30に保持されたドライバビット2がネジ200を正方向(時計回り)に回転させ、締結対象物202に締め込む。制御部100は、第1の駆動部4でドライバビット2を回転させてネジを締結対象物202に締め込む動作に連動させて、ビット回転モータ40に掛かる負荷、ビット回転モータ40の回転数、ビット移動モータ50に掛かる負荷、ビット移動モータ50の回転数などに基づき、第2の駆動部5でドライバビット2を前方向に移動させることで、締結対象物202に締め込まれるネジ200にドライバビット2を追従させる。
【0104】
図8Aは、木材や石膏などの通常の締結対象物202にネジ200が締結される場合におけるビット回転モータ40とビット移動モータ50の回転速度の関係を示し、
図8Bは、鋼板203の下地に石膏などの締結対象物202が重ねられ、ネジ200が鋼板203に締結される場合におけるビット回転モータ40とビット移動モータ50の回転速度の関係を示す。
【0105】
ドライバビット2を回転させてネジ200を締結対象物202に締め込む動作を開始すると、ステップSA6でネジ200を介してドライバビット2に掛かる負荷が発生する。ドライバビット2に掛かる負荷が発生すると、ビット回転モータ40の回転速度V1と、ビット移動モータ50の回転速度V2は、ともに低下する。但し、木材や石膏などの通常の締結対象物202にネジ200が締結される場合と、鋼板203の下地に石膏などの締結対象物202が重ねられ、ネジ200が鋼板203に締結される場合では、ネジ200を介してドライバビット2に掛かる負荷が異なる。
【0106】
特に、穴があきにくい鋼板203などの場合、
図9Aに示すように、ネジ200の先端が鋼板203に到達すると、鋼板203にネジ200を押し付ける際の負荷が、木材や石膏などに比べて大きく、ドライバビット2を軸方向に移動(前進)させる際の負荷が大きくなる。これにより、ビット移動モータ50の回転速度V2の低下量が、
図8Aに示す木材や石膏などの通常の締結対象物202にネジ200が締結される場合と比較して、
図8Bに示す鋼板203にネジ200が締結される場合の方が大きくなる。
【0107】
そこで、制御部100は、ステップSA7で、ビット移動モータ50の回転速度V2と高負荷減速閾値Sとの対比で、ビット移動モータ50の回転速度の低下量が、通常の減速の範囲内であるか否か判断する。
【0108】
制御部100は、負荷発生タイミングT1以降、ビット移動モータ50の回転速度V2が低下していく過程で、
図8Aに示すように、ビット移動モータ50の回転速度V2が高負荷減速閾値Sを下回らず、ビット移動モータ50の回転速度の低下量が通常の減速の範囲内であると判断すると、木材や石膏などの通常の締結対象物202にネジ200を締結していると判断し、第1の負荷制御を継続する。
【0109】
制御部100は、ステップSA8でビット移動モータ50の回転量が、設定部110で選択された設定値となり、ドライバビット2の先端が設定された作動終了位置に到達したと判断すると、
図8Aに示すドライバビット2が規定量移動したタイミングT2で、ステップSA9でビット回転モータ40の駆動を停止すると共に、ステップSA10でビット移動モータ50の正方向への回転を停止した後、ステップSA11でビット移動モータ50を逆転させる。
【0110】
ビット移動モータ50が他の方向である逆方向に回転すると、プーリ52が逆方向に回転することでワイヤ54がプーリ52から引き出される。ワイヤ54がプーリ52から引き出されることで、第2の移動部材32cが前方向に移動することで圧縮されていた付勢部材33が伸び、第2の移動部材32cを後方向に押す。
【0111】
第2の移動部材32cは、付勢部材33により後方向に押されることで、回転ガイド部材31にガイドされ軸方向に沿った後方向に移動する。第2の移動部材32cが後方向に移動すると、第1の移動部材32aがベアリング32bを介して第2の移動部材32cに引かれ、第2の移動部材32cと共に軸方向に沿った後方向に移動する。
【0112】
第1の移動部材32aが後方向に移動すると、第1の移動部材32aと連結部材30bで連結された保持部材30が、回転ガイド部材31の溝部31aに連結部材30bがガイドされて、ドライバビット2の軸方向に沿った後方向に移動する。
【0113】
制御部100は、ステップSA12で、プーリ52からワイヤ54が所定量引き出される初期位置までビット移動モータ50が逆転し、ドライバビット2の先端が待機位置P1に戻る位置まで、保持部材30及び移動部材32が後方向に移動すると、ステップSA13でビット移動モータ50の逆転を停止する。
【0114】
制御部100は、トリガスイッチ部90がオフになると、ネジ送りモータ70を一の方向に回転させることで、係合部73を下降させる。係合部73が次のネジ200と係合する位置まで下降すると、制御部100は、ネジ送りモータ70を逆転させることで、係合部73を上昇させ、次のネジ200を射出通路80に供給する。
【0115】
制御部100は、ステップSA7でのビット移動モータ50の回転速度V2と高負荷減速閾値との対比で、
図8Bに示すように、ビット移動モータ50の回転速度V2が高負荷減速閾値Sを下回り、ビット移動モータ50の回転速度の低下量が通常の減速の範囲以上であると判断すると、鋼板203にネジ200を押し付けていると判断し、ステップSA14で第1の負荷制御を第2の負荷制御に切り替える。制御部100は、第2の負荷制御では、ビット移動モータ50へ流す電流を制限し、ビット移動モータ50の出力、ここでは回転速度を低下させる。このように、電流制限を開始するタイミングT2は、ビット移動モータ50の回転速度V2が高負荷減速閾値Sを下回ったときである。
【0116】
制御部100は、ビット移動モータ50の回転速度を制限しながら、ビット回転モータ40の回転を継続した第2の負荷制御実行中に、鋼板203に穴をあける穴あけ制御を実行する。
【0117】
制御部100は、第2の負荷制御実行中に穴あけ制御を行う穴開け区間E1では、所定のサンプリング間隔でビット移動モータ50の回転速度を検出し、
図8Bに示す電流制限の緩和の有無を判断するタイミングT3で、ビット移動モータ50の回転速度が第2の負荷制御を解除する規定値以上であるか判断する。
【0118】
制御部100は、ステップSA15で、ビット移動モータ50の回転速度が第2の負荷制御を解除する規定値に到達していないと判断すると、ステップSA16で、ビット移動モータ50へ流す電流を、第2の負荷制御で制限された電流値から増加させる。ビット移動モータ50へ流す電流を増加させることで、ビット移動モータ50の出力、ここでは回転速度を増加させて、ドライバビット2の軸方向に沿った移動量(前進量)を徐々に増加させる。
【0119】
これにより、ドライバビット2を介してネジ200を締結対象物に押し付ける力を徐々に増加させて、ドライバビット2がネジ200を介して締結対象物を押す力の反力の増加を抑制しつつ、
図9Bに示すように、鋼板203に穴があけやすくなる。
【0120】
制御部100は、ステップSA15で、ビット移動モータ50の回転速度が第2の負荷制御を解除する規定値以上であると判断すると、ステップSA17で、第2の負荷制御から第1の負荷制御に切り替え、
図8Bに示す電流制限を解除するタイミングT4で、ビット移動モータ50へ流す電流を制限を解除する。
【0121】
すなわち、
図9Cに示すように、ネジ200が鋼板203に穴をあけると、ネジ200が軸方向に移動(前進)できるようになって、ドライバビット2が軸方向に移動(前進)する際の負荷が低下する。これにより、ネジ200が回転することで鋼板203に締め込まれる際のネジ200の軸方向に沿った移動量に、ドライバビット2の軸方向に沿った移動量が追従できるようになり、ビット移動モータ50の回転速度が上昇する。そこで、ビット移動モータ50へ流す電流の制限を解除することで、ネジ締め区間E2では、締結対象物202及び鋼板203に締め込まれるネジ200にドライバビット2を追従させることができ、ネジ200を締結対象物202及び鋼板203に締め込むことができる。
【0122】
なお、制御部100は、第2の負荷制御実行中に穴あけ制御を行う穴開け区間E1では、所定のサンプリング間隔でビット移動モータ40の回転速度を検出し、
図8Bに示す電流制限の緩和の有無を判断するタイミングT3で、ビット回転モータ40の回転速度の低下量の減少幅が、ビット移動モータ50の第2の負荷制御を解除する規定値以上であるか判断しても良い。第2の負荷制御実行中に穴あけ制御を行う穴開け区間E1では、
図8Bに一点鎖線で示すように、ネジ200が空転してビット回転モータ40の回転速度の低下量が減少した後、鋼板203に穴が開き始めるなどによる負荷の増加で、ビット回転モータ40の回転速度の低下量が再び増加する場合がある。そこで、制御部100は、ビット回転モータ40の回転速度の低下量の減少幅が増加し、ビット移動モータ50の第2の負荷制御を解除する規定値以上であると判断すると、ビット移動モータ50へ流す電流を、第2の負荷制御で制限された電流値から増加させる。
【0123】
鋼板203にネジ200を締め込む動作でも、以降は通常の締結対象物と同様であり、制御部100は、ステップSA8でビット移動モータ50の回転量が、設定部110で選択された設定値となり、ドライバビット2の先端が設定された作動終了位置に到達したと判断すると、
図8Bに示すドライバビット2が規定量移動したタイミングT5で、ステップSA9でビット回転モータ40の駆動を停止すると共に、ステップSA10でビット移動モータ50の正方向への回転を停止した後、ステップSA11でビット移動モータ50を逆転させる。
【0124】
制御部100は、ステップSA12で、ドライバビット2の先端が待機位置P1に戻る位置まで、保持部材30及び移動部材32が後方向に移動すると、ステップSA13でビット移動モータ50の逆転を停止する。
【0125】
図10A及び
図10Bは、本実施の形態の締結工具の動作の他の例を示すフローチャート、
図11A、
図11B及び
図11Cは、ビット回転モータとビット移動モータの回転速度の関係を示すグラフであり、次に、各図を参照して、本実施の形態の締結工具の締結動作の他の例について説明する。締結動作の他の例では、上述した第1の負荷制御と第2の負荷制御を切り替える締結工具1において、ドライバビット2の軸方向に掛かる負荷の大きさによらず第2の負荷制御を実行する第1制御モードと、ドライバビット2の軸方向に掛かる負荷の大きさに応じて第2の負荷制御を実行する第2制御モードを、設定部110で切り替え可能とする。このため、設定部110は、制御モードを第1制御モードと第2制御モードとの間で切換え可能なモード切換部の一例となる。また、第2の負荷制御は鋼板モードとも称す。
【0126】
締結工具1は、
図10AのステップSB1で、第1制御モードと第2制御モードの実行の有無が、設定部110で選択される。
【0127】
制御部100は、ステップSB2で、設定部110で選択された設定値に基づき、ドライバビット2の前進量を規定するビット移動モータ50の回転量を設定する。制御部100は、ステップSB3でコンタクトスイッチ部84がオンになり、ステップSB4でトリガスイッチ部90がオンになると、ステップSB5で第1の駆動部4のビット回転モータ40を駆動すると共に、ステップSB6で第2の駆動部5のビット移動モータ50を駆動する。
【0128】
ビット移動モータ50が駆動されて一の方向である正方向に回転すると、ビット保持部3の保持部材30に保持されたドライバビット2が矢印A1で示す前方向に移動し、ノーズ部8の射出口81aに供給されたネジ200と係合してネジ200を前方向に移動させ、締結対象物に押し付ける。
【0129】
また、ビット回転モータ40が駆動されて一の方向である正方向に回転すると、ビット保持部3の保持部材30に保持されたドライバビット2がネジ200を正方向(時計回り)に回転させ、締結対象物に締め込む。制御部100は、第1の駆動部4でドライバビット2を回転させてネジを締結対象物に締め込む動作に連動させて、ビット回転モータ40に掛かる負荷、ビット回転モータ40の回転数、ビット移動モータ50に掛かる負荷、ビット移動モータ50の回転数などに基づき、第2の駆動部5でドライバビット2を前方向に移動させることで、締結対象物に締め込まれるネジ200にドライバビット2を追従させる。
【0130】
ドライバビット2を回転させてネジ200を締結対象物202に締め込む動作を開始すると、ネジ200を介してドライバビット2に掛かる負荷が発生する。制御部100は、ステップSB7でネジ200を締め込むことによる負荷を検出すると、ステップSB8で第1の制御モードの実行が選択されているか否か判断する。
【0131】
制御部100は、第1の制御モードの実行が選択されていると判断すると、
図11Aに示すように、上述したステップSB7でネジ200を締め込むことによる負荷を検出することでドライバビット2に係合したネジ200を締結対象物202に締結する際にビット保持部3の移動速度が低下したと判断した後、ドライバビット2の軸方向に掛かる負荷の検出、大きさの判断を行わず、ステップSB9で第1の負荷制御を第2の負荷制御に切り替える。制御部100は、第2の負荷制御では、ビット移動モータ50へ流す電流を制限し、ビット移動モータ50の出力、ここでは回転速度を低下させる。
【0132】
制御部100は、ビット移動モータ50の回転速度を制限しながら、ビット回転モータ40の回転を継続した第2の負荷制御実行中に、鋼板203に穴をあける穴あけ制御を実行する。
【0133】
制御部100は、第2の負荷制御実行中に穴あけ制御を行う穴開け区間E1では、所定のサンプリング間隔でビット移動モータ50の回転速度を検出し、電流制限の緩和の有無を判断するタイミングT2で、ビット移動モータ50の回転速度が第2の負荷制御を解除する規定値以上であるか判断する。
【0134】
制御部100は、ステップSB10で、ビット移動モータ50の回転速度が第2の負荷制御を解除する規定値に到達していないと判断すると、ステップSB11で、ビット移動モータ50へ流す電流を、第2の負荷制御で制限された電流値から増加させる。ビット移動モータ50へ流す電流を増加させることで、ビット移動モータ50の出力、ここでは回転速度を増加させて、ドライバビット2の軸方向に沿った移動量(前進量)を徐々に増加させる。
【0135】
これにより、ドライバビット2を介してネジ200を締結対象物に押し付ける力を徐々に増加させて、ドライバビット2がネジ200を介して締結対象物を押す力の反力の増加を抑制しつつ、鋼板203に穴があけやすくなる。
【0136】
制御部100は、ステップSB10で、ビット移動モータ50の回転速度が第2の負荷制御を解除する規定値以上であると判断すると、ステップSB12で、第2の負荷制御から第1の負荷制御に切り替え、電流制限を解除するタイミングT3で、ビット移動モータ50へ流す電流を制限を解除する。
【0137】
すなわち、ネジ200が鋼板203に穴をあけると、ネジ200が軸方向に移動(前進)できるようになって、ドライバビット2が軸方向に移動(前進)する際の負荷が低下する。これにより、ネジ200が回転することで鋼板203に締め込まれる際のネジ200の軸方向に沿った移動量に、ドライバビット2の軸方向に沿った移動量が追従できるようになり、ビット移動モータ50の回転速度が上昇する。そこで、ビット移動モータ50へ流す電流の制限を解除することで、ネジ締め区間E2では、締結対象物202及び鋼板203に締め込まれるネジ200にドライバビット2を追従させることができ、ネジ200を締結対象物202及び鋼板203に締め込むことができる。
【0138】
制御部100は、ステップSB13でビット移動モータ50の回転量が、設定部110で選択された設定値となり、ドライバビット2の先端が設定された作動終了位置に到達したと判断すると、ドライバビット2が規定量移動したタイミングT4で、ステップSB14でビット回転モータ40の駆動を停止すると共に、ステップSB15でビット移動モータ50の正方向への回転を停止した後、ステップSB16でビット移動モータ50を逆転させる。
【0139】
制御部100は、ステップSB17で、ドライバビット2の先端が待機位置P1に戻る位置まで、保持部材30及び移動部材32が後方向に移動すると、ステップSB18でビット移動モータ50の逆転を停止する。
【0140】
制御部100は、ステップSB8で第1の制御モードの実行が選択されていないと判断すると、ステップSB19で、ビット移動モータ50の回転速度V2と高負荷減速閾値Sとの対比で、ビット移動モータ50の回転速度の低下量が、通常の減速の範囲内であるか否か判断する。制御部100は、ネジ200を締め込むことによる負荷検出タイミングT1以降、
図11Bに示すように、ビット移動モータ50の回転速度V2が高負荷減速閾値Sを下回らず、ドライバビット2に係合したネジ200を締結対象物202に締結する際にビット保持部3の移動速度が所定速度を超えており、ビット移動モータ50の回転速度の低下量が通常の減速の範囲内であると判断すると、木材や石膏などの通常の締結対象物202にネジ200を締結していると判断し、上述した第1の負荷制御を継続する。
【0141】
制御部100は、ステップSB8で第1の制御モードの実行が選択されていないと判断し、ステップSB19で、
図11Cに示すように、ビット移動モータ50の回転速度V2が高負荷減速閾値Sを下回り、ドライバビット2に係合したネジ200を締結対象物202に締結する際にビット保持部3の移動速度が所定速度以下となって、ビット移動モータ50の回転速度の低下量が通常の減速の範囲以上であると判断すると、ステップSB9で第1の負荷制御を第2の負荷制御に切り替えて、上述した第2の負荷制御を実行する。制御部100は、第2の負荷制御では、ビット移動モータ50へ流す電流を制限し、ビット移動モータ50の出力、ここでは回転速度を低下させる。
【0142】
図12A及び
図12Bは、本実施の形態の締結工具の動作の他の例を示すフローチャート、
図13は、ビット回転モータとビット移動モータの回転速度の関係を示すグラフであり、次に、各図を参照して、本実施の形態の締結工具の締結動作のさらに他の例について説明する。締結動作のさらに他の例では、上述した第1の負荷制御と第2の負荷制御を切り替える締結工具1において、ドライバビット2を回転させるビット回転モータ40に対して所定のタイミングで進み進角制御を実行し、回転速度を上昇させる。
【0143】
進み進角制御は、具体的には、通常の30度進角の位置でロータ磁力方向の切り替わりを検出するセンサが取り付けられているモータを使用し、通常通電状態に対して、1転流分早いセンサ信号を検出した時点から通電の切り替えを遅らせることで実現する。
【0144】
制御部100は、ステップSC1で、設定部110で選択された設定値に基づき、ドライバビット2の前進量を規定するビット移動モータ50の回転量を設定する。制御部100は、ステップSC2でコンタクトスイッチ部84がオンになり、ステップSC3でトリガスイッチ部90がオンになると、ステップSC4で第1の駆動部4のビット回転モータ40を駆動すると共に、ステップSC5で第2の駆動部5のビット移動モータ50を駆動する。
【0145】
制御部100は、ビット回転モータ40の駆動を開始してから回転数が規定値まで上昇するまでは、進み進角制御を実行しない。これは、進み進角制御を実行するとトルクが弱い状態となることから、駆動開始直後から進み進角制御を行うと、回転速度の上昇に時間を要すためである。
【0146】
ビット移動モータ50が駆動されて一の方向である正方向に回転すると、ビット保持部3の保持部材30に保持されたドライバビット2が矢印A1で示す前方向に移動し、ノーズ部8の射出口81aに供給されたネジ200と係合してネジ200を前方向に移動させ、締結対象物に押し付ける。
【0147】
また、ビット回転モータ40が駆動されて一の方向である正方向に回転すると、ビット保持部3の保持部材30に保持されたドライバビット2がネジ200を正方向(時計回り)に回転させ、締結対象物に締め込む。制御部100は、第1の駆動部4でドライバビット2を回転させてネジを締結対象物に締め込む動作に連動させて、ビット回転モータ40に掛かる負荷、ビット回転モータ40の回転数、ビット移動モータ50に掛かる負荷、ビット移動モータ50の回転数などに基づき、第2の駆動部5でドライバビット2を前方向に移動させることで、締結対象物に締め込まれるネジ200にドライバビット2を追従させる。
【0148】
ドライバビット2を回転させてネジ200を締結対象物202に締め込む動作を開始すると、ステップSC6でネジ200を介してドライバビット2に掛かる負荷が発生する。ドライバビット2に掛かる負荷が発生すると、制御部100は、ステップSC7で、ビット移動モータ50の回転速度V2と高負荷減速閾値Sとの対比で、ビット移動モータ50の回転速度の低下量が、通常の減速の範囲内であるか否か判断する。
【0149】
制御部100は、ステップSC7でのビット移動モータ50の回転速度V2と高負荷減速閾値との対比で、
図13に示すように、ビット移動モータ50の回転速度V2が高負荷減速閾値Sを下回り、ビット移動モータ50の回転速度の低下量が通常の減速の範囲以上であると判断すると、鋼板203にネジ200を押し付けていると判断し、ステップSC8で第1の負荷制御を第2の負荷制御に切り替える。制御部100は、第2の負荷制御では、ビット移動モータ50へ流す電流を制限し、ビット移動モータ50の出力、ここでは回転速度を低下させる。
【0150】
制御部100は、第1の負荷制御を第2の負荷制御に切り替えると、ステップSC9で進み進角制御を実行する。鋼板のように穴があきにくい締結対象物の場合、ネジ200の先端が鋼板に穴をあけるまでは、ネジ200が空転した状態となるため、ドライバビット2の回転方向に掛かる負荷は低くなる。ビット回転モータ40に掛かる負荷が軽い状態で、ビット回転モータ40に対して進み進角制御を実行すると、ビット回転モータ40の回転速度がさらに上昇する。
【0151】
これにより、ネジ200の先端が鋼板に到達した段階で、ビット回転モータ40の回転速度を上昇させることで、ネジ200の空転による鋼板への穴開けが促進される。
【0152】
制御部100は、ビット移動モータ50の回転速度を制限しながら、ビット回転モータ40の回転を継続した第2の負荷制御実行中に、鋼板203に穴をあける穴あけ制御を実行する。
【0153】
制御部100は、第2の負荷制御実行中に穴あけ制御を行う穴開け区間E1では、所定のサンプリング間隔でビット移動モータ50の回転速度を検出し、
図13に示す電流制限の緩和の有無を判断するタイミングT3で、ビット移動モータ50の回転速度が第2の負荷制御を解除する規定値以上であるか判断する。
【0154】
制御部100は、ステップSC10で、ビット移動モータ50の回転速度が第2の負荷制御を解除する規定値に到達していないと判断すると、ステップSC11で、ビット移動モータ50へ流す電流を、第2の負荷制御で制限された電流値から増加させる。ビット移動モータ50へ流す電流を増加させることで、ビット移動モータ50の出力、ここでは回転速度を増加させて、ドライバビット2の軸方向に沿った移動量(前進量)を徐々に増加させる。
【0155】
これにより、ドライバビット2を介してネジ200を締結対象物に押し付ける力を徐々に増加させて、ドライバビット2がネジ200を介して締結対象物を押す力の反力の増加を抑制しつつ、鋼板203に穴があけやすくなる。
【0156】
制御部100は、ステップSC10で、ビット移動モータ50の回転速度が第2の負荷制御を解除する規定値以上であると判断すると、ステップSC12で、第2の負荷制御から第1の負荷制御に切り替え、
図11に示す電流制限を解除するタイミングT4で、ビット移動モータ50へ流す電流を制限を解除する。制御部100は、第2の負荷制御を第1の負荷制御に切り替えると、ステップSC13で進み進角制御を停止する。
【0157】
すなわち、ネジ200が鋼板203に穴をあけると、ネジ200が軸方向に移動(前進)できるようになって、ドライバビット2が軸方向に移動(前進)する際の負荷が低下する。これにより、ネジ200が回転することで鋼板203に締め込まれる際のネジ200の軸方向に沿った移動量に、ドライバビット2の軸方向に沿った移動量が追従できるようになり、ビット移動モータ50の回転速度が上昇する。そこで、ビット移動モータ50へ流す電流の制限を解除することで、ネジ締め区間E2では、締結対象物202及び鋼板203に締め込まれるネジ200にドライバビット2を追従させることができ、ネジ200を締結対象物202及び鋼板203に締め込むことができる。
【0158】
制御部100は、ステップSC14でビット移動モータ50の回転量が、設定部110で選択された設定値となり、ドライバビット2の先端が設定された作動終了位置に到達したと判断すると、
図13に示すドライバビット2が規定量移動したタイミングT5で、ステップSC15でビット回転モータ40の駆動を停止すると共に、ステップSC16でビット移動モータ50の正方向への回転を停止した後、ステップSC17でビット移動モータ50を逆転させる。
【0159】
制御部100は、ステップSC18で、ドライバビット2の先端が待機位置P1に戻る位置まで、保持部材30及び移動部材32が後方向に移動すると、ステップSC19でビット移動モータ50の逆転を停止する。
【0160】
制御部100は、負荷発生タイミングT1以降、ビット移動モータ50の回転速度V2が低下していく過程で、ビット移動モータ50の回転速度V2が高負荷減速閾値Sを下回らず、ビット移動モータ50の回転速度の低下量が通常の減速の範囲内であると判断すると、木材や石膏などの通常の締結対象物202にネジ200を締結していると判断し、第1の負荷制御を継続する。
【符号の説明】
【0161】
1・・・締結工具、10・・・工具本体、11・・・ハンドル、2・・・ドライバビット、3・・・ビット保持部、30・・・保持部材、31・・・回転ガイド部材、32・・・移動部材、33・・・付勢部材、4・・・第1の駆動部、40・・・ビット回転モータ(第1のモータ)、5・・・第2の駆動部、50・・・ビット移動モータ(モータ、第2のモータ)、52・・・プーリ、54・・・ワイヤ、6・・・ネジ収納部、7・・・ネジ送り部、8・・・ノーズ部、81・・・コンタクト部材、84・・・コンタクトスイッチ部、9・・・トリガ、90・・・トリガスイッチ部、100・・・制御部(モータ状態検出部、第1のモータ状態検出部)、110・・・設定部(モード切換部)、112・・・負荷検出部