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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157675
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】複合部材の製造方法、及び複合部材
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/08 20060101AFI20231019BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20231019BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20231019BHJP
   B24C 1/00 20060101ALI20231019BHJP
   B24C 1/06 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
B29C65/08
B32B5/28
B32B15/08 105
B24C1/00 Z
B24C1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067736
(22)【出願日】2022-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 由華
(72)【発明者】
【氏名】山口 英二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 幸徳
【テーマコード(参考)】
4F100
4F211
【Fターム(参考)】
4F100AA37
4F100AA37B
4F100AB01
4F100AB01A
4F100AB10
4F100AB10A
4F100AK48
4F100AK48B
4F100BA02
4F100BA07
4F100DD07
4F100DD07A
4F100DG01
4F100DG01B
4F100DH00
4F100DH00B
4F100EJ19
4F100EJ34
4F100EJ42
4F100EJ50
4F211AD03
4F211AD16
4F211AD19
4F211AD24
4F211AG03
4F211TA01
4F211TC02
4F211TD02
4F211TD11
4F211TH17
4F211TN22
4F211TQ05
(57)【要約】
【課題】部材間の熱膨張率の差による接合強度の低下を抑制できる複合部材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一側面によれば、金属部材と繊維強化樹脂部材とを接合した複合部材の製造方法が提供される。製造方法は、表面処理工程と、接合工程とを含む。表面処理工程では、金属部材の表面にマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸を形成する。接合工程では、繊維強化樹脂部材を部分的に溶融しつつ表面処理工程により形成された凹凸を有する金属部材の表面に繊維強化樹脂部材の溶融した部分を接合することを繰り返すことにより、金属部材と繊維強化樹脂部材とを直接接合する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と繊維強化樹脂部材とを接合した複合部材の製造方法であって、
前記金属部材の表面にマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸を形成する表面処理工程と、
前記繊維強化樹脂部材を部分的に溶融しつつ前記表面処理工程により形成された前記凹凸を有する前記金属部材の表面に前記繊維強化樹脂部材の溶融した部分を接合することを繰り返すことにより、前記金属部材と前記繊維強化樹脂部材とを直接接合する接合工程と、
を含む、複合部材の製造方法。
【請求項2】
前記接合工程において、テーププレースメント成形又は超音波連続溶着により前記金属部材の表面に前記繊維強化樹脂部材を直接接合する、請求項1に記載の複合部材の製造方法。
【請求項3】
前記繊維強化樹脂部材に対して、フルオレン骨格を有する化合物を添加する添加工程をさらに含み、
前記接合工程において、前記添加工程により前記化合物が添加された前記繊維強化樹脂部材を部分的に溶融しつつ前記表面処理工程により形成された前記凹凸を有する前記金属部材の表面に前記繊維強化樹脂部材の溶融した部分を接合することを繰り返すことにより、前記金属部材と前記繊維強化樹脂部材とを直接接合する、請求項1又は2に記載の複合部材の製造方法。
【請求項4】
前記表面処理工程において前記凹凸が形成された前記金属部材の表面の算術平均傾斜は0.17以上0.50以下である、請求項1又は2に記載の複合部材の製造方法。
【請求項5】
前記表面処理工程は、ブラスト加工により前記凹凸を形成する工程である、請求項1又は2に記載の複合部材の製造方法。
【請求項6】
その表面にマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸が形成された金属部材と、
前記凹凸が形成された前記金属部材の表面に直接接触する繊維強化樹脂部材と、
を備え、
-40 ℃から140℃に加熱して140 ℃に30 分間維持した後に、140 ℃から-40℃に冷却して-40 ℃に30 分間維持する1サイクルを300 回実行する温度変化衝撃試験の実行後のせん断強度が、前記温度変化衝撃試験の実行前のせん断強度に比べて15.4%以下の低下に留まる、複合部材。
【請求項7】
フルオレン骨格を有する化合物を前記繊維強化樹脂部材中に備える、請求項6に記載の複合部材。
【請求項8】
前記凹凸が形成された前記金属部材の表面の算術平均傾斜は0.17以上0.50以下である、請求項6又は7に記載の複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合部材の製造方法、及び複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、複合部材の製造方法を開示する。この方法では、射出成形により母材と樹脂部材とを接合した複合部材が製造される。母材の表面には、マイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸が形成される。樹脂部材がマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸に入り込んで固化することにより、ミリオーダーの凹凸の場合と比べて強いアンカー効果が生じる。このため、この方法で製造された複合部材は、優れた接合強度を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/141381号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複合部材に用いられる金属部材及び樹脂部材によっては、互いの熱膨張率の差が大きい場合がある。この場合、複合部材の製造工程において、加熱された金属部材が熱膨張した状態で樹脂部材と接合し、室温環境下に至るまでに金属部材が樹脂部材に比べて大きく収縮することがある。このような熱膨張率の差に伴う体積変動によって、複合部材に歪みが生じ、金属部材と樹脂部材との接合界面での剥離が発生する可能性がある。特許文献1に記載の製造方法は、金属部材を母材とする複合部材における熱膨張率の差による接合強度の低下を抑制するという観点から、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面によれば、金属部材と繊維強化樹脂部材とを接合した複合部材の製造方法が提供される。製造方法は、表面処理工程と、接合工程とを含む。表面処理工程では、金属部材の表面にマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸を形成する。接合工程では、繊維強化樹脂部材を部分的に溶融しつつ表面処理工程により形成された凹凸を有する金属部材の表面に繊維強化樹脂部材の溶融した部分を接合することを繰り返すことにより、金属部材と繊維強化樹脂部材とを直接接合する。
【0006】
この製造方法によれば、金属部材の表面には、表面処理工程によりマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸が形成される。接合工程において、繊維強化樹脂部材は、部分的に溶融されて金属部材の表面に接合される。繊維強化樹脂部材が金属部材の表面に形成された凹凸に入り込んで硬化することにより、アンカー効果が生じる。また、接合工程において、繊維強化樹脂部材の溶融される箇所が一部分に限定されるため、金属部材の全体が高温に加熱されることが抑制される。接合工程前後での金属部材の全体の温度変化が小さくなることで金属部材の膨張及び収縮が生じにくくなるため、金属部材の熱膨張が複合部材の歪みに与える影響が小さくなる。そして、繊維強化樹脂部材の部分的な溶融及び接合が繰り返されることにより、繊維強化樹脂部材は徐々に金属部材の表面に接合される。繊維強化樹脂部材及び金属部材は、接合した部分から順に冷却され、接合した部分は加熱される前の寸法に順に戻る。これにより、繊維強化樹脂部材と金属部材との熱膨張差が複合部材の歪みに与える影響が部分的かつ一時的となり、熱膨張差が緩和されながら徐々に接合されるので、繊維強化樹脂部材の全体を溶融させて金属部材の表面全体に一度に接合させる場合と比べて、複合部材に生じる歪みが低減される。このように、この製造方法は、金属部材と繊維強化樹脂部材との間で熱膨張率の差がある場合であっても、複合部材における歪み及び剥離の発生を抑制できる。よって、この複合部材の製造方法によれば、部材間の熱膨張率の差による接合強度の低下を抑制できる。
【0007】
一実施形態に係る複合部材の製造方法では、接合工程において、テーププレースメント成形又は超音波連続溶着により金属部材の表面に繊維強化樹脂部材を直接接合してもよい。この場合、金属部材及び繊維強化樹脂部材を入れ込む金型が不要であるため、金属部材の全体及び繊維強化樹脂部材の全体が加熱されないので、この複合部材の製造方法は、金属部材及び繊維強化樹脂部材における膨張及び収縮によって生じる複合部材の歪み及び剥離の発生を抑制できる。また、金型が不要であることから、製造する複合部材の自由度が高くなる。
【0008】
一実施形態に係る複合部材の製造方法は、繊維強化樹脂部材に対して、フルオレン骨格を有する化合物を添加する添加工程をさらに含み、接合工程において、添加工程により化合物が添加された繊維強化樹脂部材を部分的に溶融しつつ表面処理工程により形成された凹凸を有する金属部材の表面に繊維強化樹脂部材の溶融した部分を接合することを繰り返すことにより、金属部材と繊維強化樹脂部材とを直接接合してもよい。添加工程において、繊維強化樹脂部材にフルオレン骨格を有する化合物が添加されることで、例えば、繊維強化樹脂部材の溶融粘度が低下し、溶融時の流動性が向上する。このため、接合工程において繊維強化樹脂部材が金属部材の表面に成形される場合に繊維強化樹脂部材の転写性が向上し、密着性が向上する。また、フルオレン骨格を有する化合物が添加された繊維強化樹脂部材は、低い温度で溶融するため、接合工程において金属部材及び繊維強化樹脂部材が高温に加熱されることが抑制される。よって、この複合部材の製造方法は、金属部材及び繊維強化樹脂部材における膨張及び収縮によって生じる複合部材の歪み及び剥離の発生を抑制でき、部材間の熱膨張率の差による接合強度の低下をさらに抑制できる。
【0009】
一実施形態に係る複合部材の製造方法では、表面処理工程において凹凸が形成された金属部材の表面の算術平均傾斜は0.17以上0.50以下であってもよい。この場合、表面処理工程において、金属部材の表面の算術平均傾斜が0.17以上0.50以下となるように凹凸が形成される。この複合部材の製造方法は、金属部材の表面積を増大させ、複合部材におけるアンカー効果を適切に発揮させることができる。
【0010】
一実施形態に係る複合部材の製造方法では、表面処理工程は、ブラスト加工により凹凸を形成する工程であってもよい。この複合部材の製造方法は、部材を接合するための他の表面処理手法に比べて、接合面の表面構造を定量的に制御可能であり、低コスト及び短時間で表面加工を行うことができる。
【0011】
本開示の他の形態によれば、複合部材が提供される。複合部材は、金属部材と繊維強化樹脂部材とを備える。金属部材には、その表面にマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸が形成されている。繊維強化樹脂部材は、凹凸が形成された金属部材の表面に直接接触する。複合部材において、-40℃から140 ℃に加熱して140 ℃に30分間維持した後に、140 ℃から-40 ℃に冷却して-40 ℃に30 分間維持する1サイクルを300 回実行する温度変化衝撃試験の実行後のせん断強度が、温度変化衝撃試験の実行前のせん断強度に比べて15.4%以下の低下に留まる。
【0012】
この複合部材では、金属部材の表面にマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸が形成されている。繊維強化樹脂部材は、金属部材の表面に形成された凹凸に入り込んで硬化しているため、アンカー効果が生じる。また、この複合部材は、金属部材と繊維強化樹脂部材とが適切な温度で接合されることで成形されるため、温度変化衝撃試験後のせん断強度が温度変化衝撃試験前のせん断強度に比べて15.4%以下の低下に抑えることができる。よって、この複合部材は、部材間の熱膨張率の差による接合強度の低下を抑制できる。
【0013】
一実施形態に係る複合部材は、フルオレン骨格を有する化合物を前記繊維強化樹脂部材中に備えていてもよい。繊維強化樹脂部材中にフルオレン骨格を有する化合物が含まれていることで、繊維強化樹脂部材の溶融粘度が低下し、溶融時の流動性が向上する。このため、繊維強化樹脂部材が金属部材の表面に成形される場合に繊維強化樹脂部材の転写性が向上し、密着性が向上する。また、フルオレン骨格を有する化合物が添加された繊維強化樹脂部材は低い温度で溶融するため、金属部材と繊維強化樹脂部材とが接合する際に高温に加熱されることが抑制され、金属部材及び繊維強化樹脂部材の膨張及び収縮による複合部材の歪み及び剥離が生じにくくなる。よって、この複合部材は、部材間の熱膨張率の差による接合強度の低下を抑制できる。
【0014】
一実施形態に係る複合部材では、凹凸が形成された金属部材の表面の算術平均傾斜は0.17以上0.50以下であってもよい。算術平均傾斜が0.17以上0.50以下となる表面を有する金属部材を用いることで、金属部材の表面積が増大し、この複合部材は、アンカー効果を適切に発揮することができる。
【発明の効果】
【0015】
本開示の一側面および実施形態によれば、部材間の熱膨張率の差による接合強度の低下を抑制できる複合部材の製造方法、及び、部材間の熱膨張率の差による接合強度の低下を抑制できる複合部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る複合部材を示す斜視図である。
図2図1のII-II線に沿った複合部材の断面図である。
図3】実施形態に係る複合部材の製造方法に用いるブラスト加工装置の概念図である。
図4】実施形態に係る複合部材の製造方法に用いるブラスト加工装置の構成を説明する図である。
図5図4の噴射ノズルの断面図である。
図6】テーププレースメント成形に用いられる成形装置の部分拡大図である。
図7】実施形態に係る複合部材の製造方法のフローチャートである。
図8】ブラスト加工の概念図である。
図9】ブラスト加工の走査を説明する図である。
図10】複合部材の製造工程を説明する図である。
図11】実施例に係る温度変化衝撃試験結果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、本実施形態における「接合強度」は「せん断強度」として説明する。
【0018】
[複合部材]
図1は、実施形態に係る複合部材1を示す斜視図である。図1に示されるように、複合部材1は、複数の部材が接合により一体化された部材である。複合部材1は、後述のとおり衝撃吸収性能を有する。複合部材1は、金属部材2及び繊維強化樹脂部材3を備える。金属部材2は、一例として板状の部材である。繊維強化樹脂部材3は、金属部材2の表面に直接接触している。図1では、繊維強化樹脂部材3は、金属部材2の表面の一部(金属部材2の接合面4)に直接接触しており、重ね継手構造を有する。金属部材2の材料は、例えば、アルミニウム、鉄、銅又はこれらの合金である。金属部材2の材料は、上記の材料に限定されない。
【0019】
繊維強化樹脂部材3の材料は、熱可塑性の繊維強化樹脂である。熱可塑性の繊維強化樹脂は、例えば、アラミド繊維強化熱可塑性樹脂(AFRTP:Aromatic polyamide Fiber Reinforced Thermo Plastics)、炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP:Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics)、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂(GFRTP:Glass Fiber Reinforced Thermo Plastics)を含む。繊維強化樹脂部材3のマトリックス樹脂(後述の樹脂部6の材料)は、例えば、ポリアミドである。
【0020】
図2は、図1のII-II線に沿った複合部材1の断面図である。図2に示されるように、金属部材2は、その表面2aの一部に凹凸2bを有する。凹凸2bは、マイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸である。マイクロオーダーの凹凸とは、1μm以上1000 μm未満の高低差を有する凹凸である。ナノオーダーの凹凸とは、1 nm以上1000 nm未満の高低差を有する凹凸である。より具体的な一例として、表面2aの一部において、JIS B0601(1994)に規定される算術平均粗さRa、最大高さRy、及び、十点平均粗さRzは、それぞれ0.2μm以上5.0 μm以下、1.0 μm以上30.0 μm以下、1.0 μm以上20.0 μm以下としてもよい。算術平均粗さRa、最大高さRy、及び、十点平均粗さRzのそれぞれが上記範囲内であれば、凹凸2bは、繊維強化樹脂部材3に対するアンカー効果を十分に奏する。したがって、金属部材2と繊維強化樹脂部材3との接合強度が高くなる。
【0021】
また、JIS B0601(1994)に規定される算術平均傾斜RΔaを制御した場合、より高い接合強度が得られることが見出された。具体的な一例として、算術平均傾斜RΔaを0.17以上0.50以下としてもよい。算術平均傾斜RΔaが小さくなるほど接合強度は小さくなる。算術平均傾斜RΔaが0.17よりも小さい場合、実用的な接合強度を得ることが困難となる。また、算術平均傾斜RΔaが大きくなるほど凹凸2bを形成するための加工条件をより高い次元で制御する必要がある。このため、算術平均傾斜RΔaが0.50より大きい場合、生産性が低下するおそれがある。特に、このような凹凸2bを後述するブラスト加工により形成した場合は、0.50を超える算術平均傾斜RΔaとなるように加工することは困難である。
【0022】
さらに、算術平均傾斜RΔaに加えて二乗平均平方根傾斜RΔqを制御した場合、より高い接合強度が得られることが見出された。具体的な一例として、二乗平均平方根傾斜RΔqを0.27以上0.60以下としてもよい。二乗平均平方根傾斜RΔqが小さくなるほど接合強度は小さくなる。二乗平均平方根傾斜RΔqが0.27よりも小さい場合、実用的な接合強度を得ることが困難となる。また、二乗平均平方根傾斜RΔqが大きくなるほど凹凸2bを形成するための加工条件をより高い次元で制御する必要がある。このため、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.60より大きい場合、生産性が低下するおそれがある。特に、このような凹凸2bを後述するブラスト加工により形成した場合は、0.60を超える二乗平均平方根傾斜RΔqとなるように加工することは困難である。
【0023】
繊維強化樹脂部材3は、その一部が凹凸2bに入り込んだ状態で、金属部材2に接合される。繊維強化樹脂部材3は凹凸2bの中に入り込んで固着されているため、アンカー効果を奏する。このような構造は、例えば、後述するテーププレースメント成形又は超音波連続溶着により形成される。繊維強化樹脂部材3は、繊維部5及び樹脂部6から形成される。繊維部5の材料は、例えば、アラミド繊維、炭素繊維、又はガラス繊維などの繊維である。樹脂部6の材料は、例えば、ポリアミドなどの樹脂である。樹脂部6の材料は、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリプロピレン、アクリルニトリルブタジエンスチレンなどの樹脂であってもよい。例えば、繊維部5に樹脂部6を含侵させて半硬化状態にしたプリプレグを積層し、熱及び圧力をかけることにより、繊維強化樹脂部材3が製造される。
【0024】
複合部材1は、例えば、フルオレン骨格を有する化合物を繊維強化樹脂部材3中に備えている。フルオレン骨格を有する化合物とは、例えば、9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(アルキル-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレンなどである。複合部材1において、例えば、繊維強化樹脂部材3の樹脂部6の質量の1%以上15 %以下に相当する質量のフルオレン骨格を有する化合物が含まれている。
【0025】
複合部材1の機能は、温度変化衝撃試験前後におけるせん断強度で評価される。温度変化衝撃試験は、複合部材1に対して、-40℃から140 ℃に加熱して140 ℃に30 分間維持した後に、140 ℃から-40 ℃に冷却して-40 ℃に30 分間維持する1サイクルを300回実行する試験である。温度変化衝撃試験についての詳細は後述する。複合部材1における温度変化衝撃試験の実行後のせん断強度は、温度変化衝撃試験の実行前のせん断強度に比べて15.4%以下の低下に留まる。
【0026】
以上、本実施形態に係る複合部材1は、繊維強化樹脂部材3と直接接触する金属部材2の表面2aに凹凸2bがあるため、アンカー効果を奏する。このため、この複合部材1は、優れた接合強度を有する。また、この複合部材1は、金属部材2と繊維強化樹脂部材3とが適切な温度で接合されることで成形されるため、温度変化衝撃試験後のせん断強度が温度変化衝撃試験前のせん断強度に比べて15.4%以下の低下に抑えることができる。よって、この複合部材1によれば、部材間の熱膨張率の差による接合強度の低下を抑制できる。また、複合部材1に衝撃が加わった場合、繊維強化樹脂部材3が金属部材2と強固に接合しているため繊維強化樹脂部材3が金属部材2から剥離する前に繊維強化樹脂部材3の中の繊維部5が断裂する。これにより、複合部材1に加わる衝撃が吸収される。よって、繊維強化樹脂部材3が接合された複合部材1は、繊維部5を含有しない樹脂部材が接合された複合部材と比べて、高い衝撃吸収性能を有する。このような高い衝撃吸収性能は、繊維強化樹脂部材3が接合された箇所に付与される。このため、金属部材2の変形態様は、繊維強化樹脂部材3の接合箇所に応じて制御され得る。
【0027】
また、複合部材1は、フルオレン骨格を有する化合物を繊維強化樹脂部材3中に備えている。繊維強化樹脂部材3の樹脂部6中にフルオレン骨格を有する化合物が含まれていることで、繊維強化樹脂部材3の樹脂部6の溶融粘度が低下し、溶融時の流動性が向上する。このため、繊維強化樹脂部材3が金属部材2の表面に成形される場合に繊維強化樹脂部材3の転写性が向上し、密着性が向上する。さらに、繊維部5と樹脂部6との密着性が向上することで、繊維強化樹脂部材3自体の強度も向上する。また、フルオレン骨格を有する化合物が添加された繊維強化樹脂部材3の樹脂部6は低い温度で溶融するようになるため、金属部材2と繊維強化樹脂部材3とが接合する際に高温に加熱されることが抑制され、金属部材2及び繊維強化樹脂部材3の膨張及び収縮による複合部材1の歪み及び剥離が生じにくくなる。よって、この複合部材1によれば、部材間の熱膨張率の差による接合強度の低下を抑制できる。
【0028】
また、複合部材1では、凹凸2bが形成された金属部材2の表面の算術平均傾斜は0.17以上0.50以下である。算術平均傾斜が0.17以上0.50以下となる表面を有する金属部材2を用いることで、金属部材2の表面積が増大し、複合部材1は、アンカー効果を適切に発揮することができる。
【0029】
[複合部材の製造方法]
複合部材1の製造方法に用いる装置概要を説明する。最初に、金属部材2の表面にマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸を形成する表面処理工程であるブラスト加工工程を行う装置を説明する。表面処理工程とは、金属部材2の表面を粗面化する処理を行う工程である。ブラスト加工装置は、重力式(吸引式)のエアブラスト装置、直圧式(加圧式)のエアブラスト装置、遠心式のブラスト装置、等何れのタイプを用いてもよい。本実施形態に係る製造方法は、一例として、いわゆる直圧式(加圧式)のエアブラスト装置を用いる。図3は、複合部材1の製造方法に用いるブラスト加工装置10の概念図である。ブラスト加工装置10は、処理室11、噴射ノズル12、貯留タンク13、加圧室14、圧縮気体供給機15及び集塵機(不図示)を備える。
【0030】
処理室11の内部には、噴射ノズル12が収容されており、処理室11にてワーク(ここでは金属部材2)に対してブラスト加工が行われる。噴射ノズル12にて噴射された噴射材は、粉塵とともに処理室11の下部に落下する。落下した噴射材は、貯留タンク13に供給され、粉塵は集塵機へ供給される。貯留タンク13に貯留された噴射材は加圧室14に供給され、圧縮気体供給機15により加圧室14が加圧される。加圧室14に貯留された噴射材は、圧縮気体ととともに噴射ノズル12に供給される。このように、噴射材を循環させながらワークがブラスト加工される。
【0031】
図4は、実施形態に係る複合部材1の製造方法に用いるブラスト加工装置10の構成を説明する図である。図4に示されるブラスト加工装置10は、図3に示された直圧式のブラスト装置である。図4では、処理室11の壁面を一部省略して示している。
【0032】
図4に示されるように、ブラスト加工装置10は、圧縮気体供給機15が接続され密閉構造に形成された噴射材の貯留タンク13及び加圧室14と、加圧室14内に貯留タンク13と連通する定量供給部16と、定量供給部16に連接管17を介して連通する噴射ノズル12と、噴射ノズル12の下方にワークを保持しながら可動する加工テーブル18と、制御部19とを備える。
【0033】
制御部19は、ブラスト加工装置10の構成要素を制御する。制御部19は、一例として表示部及び処理部を含む。処理部は、CPU及び記憶部などを有する一般的なコンピュータである。制御部19は、設定された噴射圧力及び噴射速度に基づいて貯留タンク13及び加圧室14へ圧縮気体を供給する圧縮気体供給機15のそれぞれの供給量を制御する。また、制御部19は、設定されたワークとノズルとの間の距離、及び、ワークの走査条件(速度、送りピッチ、走査回数など)に基づいて、噴射ノズル12の噴射位置の制御をする。具体的な一例として、制御部19は、ブラスト加工処理前に設定された走査速度(X方向)と送りピッチ(Y方向)とを用いて噴射ノズル12の位置を制御する。制御部19は、ワークを保持する加工テーブル18を移動させることにより、噴射ノズル12の位置を制御する。
【0034】
図5は、図4の噴射ノズル12の断面図である。噴射ノズル12は、本体部である噴射管ホルダー120を有する。噴射管ホルダー120は、内部に噴射材及び圧縮気体を通過させる空間を有する筒状部材である。噴射管ホルダー120の一端は、噴射材導入口123であり、その他端は噴射材吐出口122である。噴射管ホルダー120の内部には、噴射材導入口123側から噴射材吐出口122に向けて先細りした内壁面が形成されており、傾斜角度を有する円錐形状の収束加速部121が構成されている。噴射管ホルダー120の噴射材吐出口122側には、円筒形状の噴射管124が連通して設けられている。収束加速部121は、噴射管ホルダー120の円筒形部の中間から噴射管124に向けて先細りしている。これにより、圧縮気体流115が形成される。
【0035】
噴射ノズル12の噴射材導入口123には、ブラスト加工装置10の連接管17が接続されている。これにより、貯留タンク13、加圧室14内の定量供給部16、連接管17、及び、噴射ノズル12が順次連接された噴射材経路を形成している。
【0036】
このように構成されたブラスト加工装置10は、制御部19により制御された供給量の圧縮気体が圧縮気体供給機15から貯留タンク13及び加圧室14に供給される。そして、一定の圧流力によって、貯留タンク13内の噴射材は、加圧室14内の定量供給部16で定量され、連接管17を介して噴射ノズル12に供給され、噴射ノズル12の噴射管よりワークの加工面に噴射される。これにより、常に一定の噴射材がワークの加工面に噴射される。そして、噴射ノズル12のワークの加工面への噴射位置が制御部19により制御され、ワークがブラスト加工される。
【0037】
また、噴射された噴射材とブラスト加工で生じた切削粉は、図示しない集塵機により吸引される。処理室11から集塵機に向かう経路には図示しない分級機が配置されており、再使用可能な噴射材とその他微粉(再使用できないサイズとなった噴射材やブラスト加工で生じた切削粉)とに分離される。再利用可能な噴射材は貯留タンク13に収容され、再び噴射ノズル12に供給される。微粉は集塵機にて回収される。
【0038】
次に、テーププレースメント成形(Automated Tape Laying (ATL)/Automated Fiber Placement(AFP))について説明する。テーププレースメント成形は、繊維強化樹脂部材(プリプレグテープ)を加熱及び加圧しながら金属部材の表面に直接成形する成形方法である。本実施形態のテーププレースメント成形は、載置台に載置された金属部材2に対して、熱及び圧力を部分的にテープ状の繊維強化樹脂部材3に加えて貼り付けることで、金属部材2と繊維強化樹脂部材3とを接合させる。テーププレースメント成形は、テープ状の繊維強化樹脂部材3を部分的に溶融しつつ金属部材2の表面に繊維強化樹脂部材3の溶融した部分を接合することを繰り返すことで、金属部材2と繊維強化樹脂部材3とを直接接合させる。図6は、テーププレースメント成形に用いられる成形装置の部分拡大図である。図6に示されるように、成形装置20は、載置台21の上方に設けられる。金属部材2は、載置台21上に載置される。成形装置20は、載置台21の温度を制御可能である。載置台21は、金属部材2の表面の温度を調整する。載置台21は、例えば、空冷、水冷、ヒートシンク等によって金属部材2を冷却することができ、ヒーター等によって金属部材2を加熱することができる。成形装置20は、例えば、金属表面の温度が23℃(室温)以上100℃以下となるように載置台21の温度を制御する。
【0039】
成形装置20は、樹脂供給部22と、押圧部23と、レーザ照射部24とを備える。樹脂供給部22は、所定の量及び厚さのテープ状(帯状)の繊維強化樹脂部材3を押圧部23に向かって供給する。押圧部23は、回転軸を中心に回転可能であって、載置台21上の金属部材2に近接可能な円柱状の回転体を有する。押圧部23は、回転体の回転に従って繊維強化樹脂部材3を樹脂供給部22から載置台21に向かって(図6に示される矢印R1方向に)巻き取る。押圧部23は、巻き取った繊維強化樹脂部材3を、回転体の底部において金属部材2に対して供給し、テープ状の繊維強化樹脂部材3を金属部材2に向かって回転しながら押圧する。レーザ照射部24は、押圧部23に巻き取られた繊維強化樹脂部材3に対してレーザを照射する。レーザ照射部24は、例えば、金属部材2の接合面4の近傍まで移動した繊維強化樹脂部材3にレーザを照射する。
【0040】
成形装置20は、少なくとも押圧部23を載置台21に対して移動可能な図示しない移動装置を有し、載置台21上の金属部材2と押圧部23との距離、及び、金属部材2の延在方向に対する位置を調整する。例えば、図6では、繊維強化樹脂部材3を金属部材2に供給するとき、移動装置は、押圧部23をレーザ照射部24側に移動させる。押圧部23は、当該移動装置による移動に合わせて回転し、繊維強化樹脂部材3を載置台21上の金属部材2に押圧(加圧)すると共に、樹脂供給部22から供給された繊維強化樹脂部材3を巻き取る。繊維強化樹脂部材3はレーザ照射部24によって照射されたレーザによって加熱されて溶融するため、押圧部23によって金属部材2の表面に向かって押圧されることで凹凸2bに入り込んで密着する。成形装置20は、図示しない温度センサ及び圧力センサの検出結果等に基づいて、成形装置20のパラメータが調整され成形品が製造される。パラメータには、金属部材2の表面温度、繊維強化樹脂部材3の表面温度、押圧部23の押圧力、押圧部23の回転体の回転速度、移動装置の移動速度などが含まれる。成形装置20は、テープ状の繊維強化樹脂部材3を金属部材2に供給することで金属部材2上に繊維強化樹脂部材3の層を1層成形することができる。レーザによって加熱された繊維強化樹脂部材3は、レーザ照射部24によるレーザの照射範囲外に位置することによって加熱されず、室温まで冷却される。成形装置20は、繊維強化樹脂部材3の層上に繊維強化樹脂部材3をさらに重ねるように供給し、所定の厚さの繊維強化樹脂部材3の層を成形する。成形装置20で成形された成形品は、所定面積で接合する重ね継手構造となる。
【0041】
次に、複合部材1の製造方法の一連の流れを説明する。図7は、実施形態に係る複合部材1の製造方法MTのフローチャートである。図8に示されるように、最初に、準備工程(S10)として、所定の噴射材がブラスト加工装置10に充填される。噴射材(砥粒)の粒子径は、例えば30μm以上300 μmである。粒子径が小さくなるほど、質量が小さくなるため、慣性力が低くなる。このため、粒子径が30 μmより小さい場合には所望の形状の凹凸2bを形成することが困難となる。粒子径が大きくなるほど、質量が大きくなるため、慣性力が高くなる。このため、金属部材2との衝突により噴射材が粉砕され易くなる。その結果、(1)衝突のエネルギーが凹凸2bの形成以外に分散されることから加工効率が悪い(2)噴射材の損耗が激しく、経済的でない、等の問題が発生する。このような問題は、粒子径が300μmを超えた場合に顕著となる。
【0042】
ブラスト加工装置10の制御部19は、準備工程(S10)として、ブラスト加工条件を取得する。制御部19は、ブラスト加工条件を、オペレータの操作又は記憶部に記憶された情報に基づいて取得する。ブラスト加工条件には、噴射圧力、噴射速度、ノズル間距離、ワークの走査条件(速度、送りピッチ、走査回数)などが含まれる。噴射圧力は、例えば0.5MPa以上2.0 MPa以下である。噴射圧力が小さくなるほど、慣性力が低くなる。このため、噴射圧力が0.5 MPaより小さい場合には所望の形状の凹凸2bを形成することが困難となる。噴射圧力が大きくなるほど、慣性力が高くなる。このため、金属部材2との衝突により噴射材が粉砕され易くなる。その結果、(1)衝突のエネルギーが凹凸2bの形成以外に分散されることから加工効率が悪い(2)噴射材の損耗が激しく、経済的でない、等の問題が発生する。このような問題は、噴射圧力が2.0MPaを越えた場合に顕著となる。制御部19は、ブラスト加工条件を管理することで、金属部材2の表面2aの凹凸2bの大きさや深さ、密度などをマイクロオーダー又はナノオーダーで精密にコントロールする。なお、ブラスト加工条件には、ブラスト加工対象領域を特定する条件が含まれていてもよい。この場合、選択的な表面処理が可能となる。
【0043】
次に、ブラスト加工装置10は、ブラスト加工工程(S12)として、以下の一連の処理を行う。まず、ブラスト加工対象となる金属部材2が処理室11内の加工テーブル18上にセットされる。次に、制御部19は、図示しない集塵機を作動させる。集塵機は、制御部19の制御信号に基づいて、処理室11の内部を減圧して負圧状態とする。次に、噴射ノズル12は、制御部19の制御信号に基づいて、噴射圧力0.5MPa以上2.0 MPa以下の範囲で、噴射材を圧縮空気の固気二相流として噴射する。次いで、制御部19は、加工テーブル18を作動させ、金属部材2を固気二相流の噴射流中(図4では噴射ノズルの下方)に移動させる。図8は、ブラスト加工の概念図である。図8に示されるように、噴射ノズル12から金属部材2の表面2aの一部領域2cへ噴射材が噴射される。ここで、制御部19は、加工テーブル18の作動を継続させて、金属部材2に対して噴射流が予め設定された軌跡を描くように作動させる。図9は、ブラスト加工の走査を説明する図である。図9に示されるように、制御部19は、加工テーブル18を送りピッチPで走査する軌跡Lに従って動作させる。図10は、複合部材の製造工程を説明する図である。図10の(A)に示されるように、金属部材2の表面に所望のマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸2bが形成される。
【0044】
粒子径30 μm以上300μm以下の噴射材を用いて、噴射圧力0.5 MPa以上2.0 MPa以下の範囲でブラスト加工をすることにより、金属部材2の表面2aに所望のマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸2b(例えば、算術平均傾斜RΔa及び二乗平均平方根傾斜RΔqがそれぞれ0.17以上0.50以下、0.27以上0.60以下に制御された凹凸2b)が形成される。ブラスト加工装置10の作動を停止した後、金属部材2を取り出し、ブラスト加工が完了する。
【0045】
次に、添加工程(S14)として、添加剤を繊維強化樹脂部材3に添加する。添加剤は、フルオレン骨格を有する化合物を含む。フルオレン骨格を有する化合物とは、例えば、9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(アルキル-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレンなどである。添加工程(S14)では、例えば、繊維強化樹脂部材3の樹脂部6の質量の1%以上15 %以下に相当する質量のフルオレン骨格を有する化合物が含まれるように、当該化合物を添加する。当該化合物の添加が完了することで繊維強化樹脂部材3の樹脂部6の溶融粘度が低下し、溶融時の流動性が向上する。
【0046】
次に、接合工程(S16)として、上述した成形装置20を用いてテーププレースメント成形を行う。まず、載置台21上にブラスト加工された金属部材2が載置される。成形装置20は、樹脂供給部22から繊維強化樹脂部材3を押圧部23に供給する。成形装置20は、レーザ照射部24から押圧部23に巻き取られた繊維強化樹脂部材3に対してレーザを照射し、繊維強化樹脂部材3を部分的に溶融する。成形装置20は、図示しない温度センサの検出結果に基づいて、押圧部23に巻き取られた繊維強化樹脂部材3の温度が設定値になるように制御する。成形装置20は、図示しない温度センサの検出結果に基づいて、金属部材2の表面の温度が所定の温度以上に上昇しないよう、載置台21の温度を制御することで金属部材2の表面の温度を調整する。また、成形装置20は、図示しない圧力センサの検出結果に基づいて、金属部材2に対する押圧部23の押圧力が設定値になるように制御する。その後、成形装置20は、設定された温度、押圧力及び移動装置による移動速度に基づいて、テープ状の繊維強化樹脂部材3を金属部材2上に供給する。金属部材2の表面上に供給された繊維強化樹脂部材3は、溶融しているため、凹凸2b内に浸入する。金属部材2の表面に供給された繊維強化樹脂部材3は、冷却され、固化して金属部材2と接合する。図10の(B)に示されるように、金属部材2の表面に繊維強化樹脂部材3が一層形成される。成形装置20は、繊維強化樹脂部材3が所定の厚さになるように繊維強化樹脂部材3上に繊維強化樹脂部材3を供給して積層する。図10の(C)に示されるように、金属部材2の表面上に複数の繊維強化樹脂部材3の層が形成される。成形装置20は、繊維強化樹脂部材3が所定の厚さになるまで繊維強化樹脂部材3を積層する処理を繰り返す。繊維強化樹脂部材3の厚さが所定の厚さになった後、成形装置20は、移動装置によって押圧部23を載置台21から離間させて、金属部材2及び繊維強化樹脂部材3が一体化された複合部材1を取り出す。接合工程(S16)が終了すると、図7に示されたフローチャートが終了する。
【0047】
以上説明したように、複合部材1の製造方法MTによれば、表面処理工程の一例であるブラスト加工工程(S12)において、金属部材2の表面2aにはマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸2bが形成される。接合工程(S16)において、繊維強化樹脂部材3は、部分的に溶融されて金属部材2の表面に接合される。繊維強化樹脂部材3が金属部材2の表面に形成された凹凸2bに入り込んで硬化することにより、アンカー効果が生じる。また、接合工程(S16)において、繊維強化樹脂部材3の溶融される箇所が一部分に限定されるため、金属部材2の全体が高温に加熱されることが抑制される。接合工程(S16)前後での金属部材2の全体の温度変化が小さくなることで金属部材2の膨張及び収縮が生じにくくなるため、金属部材2の熱膨張が複合部材1の歪みに与える影響が小さくなる。そして、繊維強化樹脂部材3の部分的な溶融及び接合が繰り返されることにより、繊維強化樹脂部材3は徐々に金属部材2の表面に連続的に接合される。繊維強化樹脂部材3及び金属部材2は、接合した部分から順に冷却され、接合した部分は加熱される前の寸法に順に戻る。これにより、繊維強化樹脂部材3と金属部材2との熱膨張差が複合部材1の歪みに与える影響が部分的かつ一時的となり、熱膨張差が緩和されながら徐々に接合されるので、繊維強化樹脂部材の全体を溶融させて金属部材の表面全体に一度に接合させる場合と比べて、複合部材1に生じる歪みが低減される。このように、製造方法MTは、金属部材2と繊維強化樹脂部材3との間で熱膨張率の差がある場合であっても、複合部材1における歪み及び剥離の発生を抑制できる。よって、製造方法MTによれば、部材間の熱膨張率の差による接合強度の低下を抑制できる。また、複合部材1に衝撃が加わった場合、繊維強化樹脂部材3が金属部材2と強固に接合しているため繊維強化樹脂部材3が金属部材2から剥離する前に繊維強化樹脂部材3の中の繊維部5が断裂する。これにより、複合部材1に加わる衝撃が吸収される。よって、繊維強化樹脂部材3が接合された複合部材1は、繊維部5を含有しない樹脂部材が接合された複合部材と比べて、高い衝撃吸収性能を有する。このような高い衝撃吸収性能は、繊維強化樹脂部材3が接合された箇所に付与される。このため、金属部材2の変形態様は、繊維強化樹脂部材3の接合箇所に応じて制御され得る。
【0048】
製造方法MTによれば、接合工程(S16)において、テーププレースメント成形により金属部材2の表面に繊維強化樹脂部材3を直接接合する。この場合、金属部材2及び繊維強化樹脂部材3を入れ込む金型が不要であるため、金属部材2の全体及び繊維強化樹脂部材3の全体が加熱されない。具体的には、成形装置20によるレーザ照射部24からのレーザ照射箇所のみが部分的に加熱されるため、レーザ照射部24の照射箇所を制御することで、繊維強化樹脂部材3の溶融される箇所が一部分に限定され、金属部材2が加熱される範囲を最低限に抑えることができる。よって、金属部材2の全体が高温に加熱されることが抑制される。そして、部分的に溶融した繊維強化樹脂部材3は、押圧部23の移動及び押圧により徐々に金属部材2の表面に連続的に接合される。金属部材2の表面に接合した繊維強化樹脂部材3及び金属部材2は、成形装置20の移動によってレーザ照射部24の照射箇所から外れるため、接合した部分から順に冷却され、接合した部分は加熱される前の寸法に順に戻る。これにより、繊維強化樹脂部材3と金属部材2との熱膨張差が複合部材1の歪みに与える影響が部分的かつ一時的となり、熱膨張差が緩和されながら徐々に接合されるので、繊維強化樹脂部材の全体を溶融させて金属部材の表面全体に一度に接合させる場合と比べて、複合部材1に生じる歪みが低減される。このように、製造方法MTは、金属部材2と繊維強化樹脂部材3との間で熱膨張率の差がある場合であっても、複合部材1における歪み及び剥離の発生を抑制できる。また、金型が不要であることから、製造する複合部材1の自由度が高くなる。
【0049】
ここで、接合工程においてプレス成形が採用された場合、金属部材及び繊維強化樹脂部材を収容する金型の温度は、例えば約220℃である。接合工程において射出成形が採用された場合、金属部材を収容する金型の温度は約50 ℃以上約160 ℃以下であって、繊維強化樹脂部材の加熱温度は、約230℃以上約300 ℃以下である。このように、プレス成形及び射出成形では、金属部材及び繊維強化樹脂部材が高温に加熱されて膨張した状態で接合する。室温まで複合部材が冷却される際に、金属部材が収縮するため、内部残留応力が高くなる。内部残留応力によってせん断強度が低下し、特に後述の温度変化衝撃試験後における強度の低下度合いが大きくなる。したがって、高温状態で成形された複合部材には、歪みが生じ、金属部材と樹脂部材との接合界面での剥離が発生する可能性がある。したがって、プレス成形及び射出成形と比較して、テーププレースメント成形を用いた製造方法MTによれば、複合部材1の歪み及び剥離の発生を抑制できる。
【0050】
また、接合工程において金属部材の表面に柔らかい接着剤又は硬い接着剤を貼り付け、その表面に繊維強化樹脂部材を接着した例を説明する。柔らかい接着剤は、例えば、アクリル等である。柔らかい接着剤は、柔軟性があり、接着剤によって金属部材と繊維強化樹脂部材との熱膨張率の差の影響によるずれを緩和する機能を有する。しかし、柔らかい接着剤によって成形される複合部材におけるせん断強度は、本実施形態の複合部材1のせん断強度に比べて低い。硬い接着剤は、例えば、エポキシ、ウレタン等である。硬い接着剤は、外力に強く、複合部材のせん断強度を高い状態で維持する機能を有する。しかし、接着剤によって金属部材と繊維強化樹脂部材との熱膨張率の差の影響によるずれを緩和できない。さらに、金属部材と繊維強化樹脂部材との双方に相性のよい(高い接合強度を発揮する)接着剤は少ない。したがって、接着剤を用いた接合方法と比較して、テーププレースメント成形を用いた製造方法MTは、複合部材1の歪み及び剥離の発生を抑制しつつ、複合部材1において高いせん断強度を発揮できる。また、当該製造方法MTは、テープ状の繊維強化樹脂部材3を積層していくため、複合部材1の仕様(繊維強化樹脂部材3の厚み)を途中で変更することが可能であり、複合部材1の設計の自由度が高くなる。
【0051】
製造方法MTによれば、繊維強化樹脂部材3に対して、フルオレン骨格を有する化合物を添加する添加工程(S14)をさらに含み、接合工程(S16)において、添加工程(S14)により化合物が添加された繊維強化樹脂部材3を部分的に溶融して金属部材2の表面に連続的に成形することにより直接接合する。添加工程(S14)において、繊維強化樹脂部材3にフルオレン骨格を有する化合物が添加されることで、例えば、繊維強化樹脂部材3の樹脂部6の溶融粘度が低下し、溶融時の流動性が向上する。このため、接合工程(S16)において繊維強化樹脂部材3が金属部材2の表面に成形される場合に繊維強化樹脂部材3の転写性が向上し、密着性が向上する。さらに、繊維部5と樹脂部6との密着性が向上することで、繊維強化樹脂部材3自体の強度も向上する。また、フルオレン骨格を有する化合物が添加された繊維強化樹脂部材3の樹脂部6また、フルオレン骨格を有する化合物が添加された繊維強化樹脂部材3は、低い温度で溶融するため、接合工程(S16)において金属部材2及び繊維強化樹脂部材3が高温に加熱されることが抑制される。よって、この複合部材1の製造方法MTによれば、金属部材2及び繊維強化樹脂部材3における膨張及び収縮によって生じる複合部材1の歪み及び剥離の発生を抑制でき、部材間の熱膨張率の差による接合強度の低下をさらに抑制できる。
【0052】
製造方法MTによれば、表面処理工程の一例であるブラスト加工工程(S12)において凹凸2bが形成された金属部材2の表面の算術平均傾斜は0.17以上0.50以下である。この場合、ブラスト加工工程(S12)において、金属部材2の表面の算術平均傾斜が0.17以上0.50以下となるように凹凸が形成される。この複合部材1の製造方法MTは、金属部材2の表面積を増大させ、複合部材1におけるアンカー効果を適切に発揮させることができる。
【0053】
製造方法MTによれば、表面処理工程は、ブラスト加工により凹凸2bを形成するブラスト加工工程(S12)であってもよい。この場合、部材を接合するための他の表面処理手法に比べて、接合面4の表面構造を定量的に制御可能であり、低コスト及び短時間で表面加工を行うことができる。
【0054】
以上、本実施形態について説明したが、本発明は、上記本実施形態に限定されるものでなく、本実施形態以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0055】
[母材、繊維強化樹脂部材の変形例]
上記実施形態に係る金属部材2及び繊維強化樹脂部材3として、板状部材を例として示したが、形状に限定されることはなく、互いに接触可能なあらゆる形状を採用できる。上記実施形態に係る繊維強化樹脂部材3は、金属部材2の表面の一部に接触していたが、金属部材2の表面全てに接触していてもよい。
【0056】
[表面処理工程の変形例]
複合部材1の製造方法では、表面処理工程として、ブラスト加工工程(S12)に限定されず、種々の表面処理工程を実行してよい。例えば、他の表面処理工程の一例として、化学エッチング処理工程又はレーザ加工工程が挙げられる。化学エッチング処理工程は、化学エッチングにより金属部材の表面に微細形状を形成する工程である。レーザ加工工程は、レーザ加工により金属部材の表面に微細形状を形成する工程である。
【0057】
[接合工程前の処理の変形例]
接合工程(S16)の実行前において、金属部材2に対して所定の処理を実行してもよい。例えば、接合工程(S16)の実行前において、表面水酸化工程として、ブラスト加工された金属部材2の表面と水とを、熱及びプラズマの少なくとも一方を用いて反応させて、金属部材2の表面を金属水酸化物に改質してもよい。表面水酸化工程では、水熱処理、水蒸気処理、過熱水蒸気処理、液中プラズマ及び水を混入させた大気圧プラズマの何れか1つを用いて金属部材2の表面と水とを反応させる。これにより、凹凸2bは、丸み付けられ、金属水酸化膜が形成される。金属水酸化膜は、金属水酸化物を含み、凹凸2bの表面に表面ナノ構造を形成し得る。その後、金属水酸化物に改質された金属部材2の表面に繊維強化樹脂部材3が直接接合される。繊維強化樹脂部材3は、丸み付けされた凹凸2bに入り込んで硬化する。このように、表面水酸化工程によって繊維強化樹脂部材3の破断の起点となり得る鋭角な突起を除去できるため、複合部材1の接合強度をさらに向上させることができる。さらに、金属部材2の表面において、主にヒドロキシル基の酸素原子と、繊維強化樹脂部材3に含まれる水素原子とは水素結合する。このため、金属部材2の表面と繊維強化樹脂部材3との間で化学的な結合が生じることから、接合強度を向上させることができる。さらに、金属部材2の表面は、数十nm以上数百 nm以下の細孔を有する。このため、アンカー効果が増強される。
【0058】
表面水酸化工程では、水により金属部材2の表面を洗浄してもよい。水により金属部材2の表面が洗浄され、表面炭素濃度を低下させることができる。なお、水熱処理と超音波洗浄とを組み合わせて、積極的に表面炭素濃度を低下させてもよい。例えば、金属部材2を60℃以上に加熱された純水に浸漬させた状態で純水に超音波を照射する。これにより、水熱処理と表面洗浄とを同時に行うことができる。表面水酸化工程が実行される場合、準備工程(S10)において準備される噴射材(砥粒)の粒子径は、例えば30μm以上710 μm以下であってもよい。
【0059】
例えば、接合工程(S16)の実行前において、被膜形成工程として、金属部材2の凹凸2bの表面に対して、分子接合剤を供給し、金属部材2と結合する被膜を形成してもよい。分子接合剤は、例えば、トリアジンチオール誘導体を含む結合剤である。当該被膜形成工程は、例えば、上記の表面水酸化工程の後に実行され得る。この場合、金属部材2の表面の凹凸2bの中に被膜が入り込むこと、凹凸2b表層における表面ナノ構造によって金属部材2と被膜との接触表面積が増大し、かつ、表面ナノ構造の中に被膜が入り込むこと、さらに、凹凸2bの表面に存在する官能基と被膜に含まれるトリアジンチオール誘導体とが分子接合されること、の3つの作用が組み合わされる。これらの3つの構成が有機的に結合することで、個々の構成から奏される効果を単純に足しただけでは為し得ない相乗効果が生まれ、強固な結合が実現する。繊維強化樹脂部材3は、その表面に存在する官能基と、被膜に含まれるトリアジンチオール誘導体とが分子接合されることで、強固に結合される。
【0060】
[接合の変形例]
例えば、接合工程(S16)において、レーザ照射部24は、押圧部23近傍の金属部材2の表面にレーザを照射してもよい。繊維強化樹脂部材3が金属部材2の表面に向かって押圧部23によって押圧されるときに、金属部材2の表面を加熱されていることによって金属部材2の表面に押圧された繊維強化樹脂部材3が加熱されて溶融し、凹凸2bに入り込んで密着する。例えば、レーザ照射部24は、押圧部23近傍の金属部材2の表面と、金属部材2の接合面4の近傍まで移動した繊維強化樹脂部材3とにそれぞれレーザを照射してもよい。レーザ照射部24によって照射されるレーザの範囲は、繊維強化樹脂部材3を金属部材2の表面に溶着させる位置を中心として部分的な範囲に留まる。したがって、レーザ照射部24のレーザによって金属部材2の全体及び繊維強化樹脂部材3の全体が加熱されることが抑制される。
【0061】
複合部材1の製造方法では、接合工程(S16)において、金属部材2の表面に繊維強化樹脂部材3を部分的に溶融して連続的に成形する方法は限定されない。例えば、接合工程(S16)において、テーププレースメント成形ではなく超音波連続溶着により金属部材2の表面に繊維強化樹脂部材3を直接接合してもよい。この場合、成形装置20は、レーザ照射部24を有さなくてもよい。例えば、押圧部23が繊維強化樹脂部材3を超音波によって振動する機能を有する。押圧部23は、例えば、超音波ホーンである。成形装置20は、樹脂供給部22から押圧部23に供給された繊維強化樹脂部材3を超音波振動により加熱する。押圧部23は、加熱されて溶融した繊維強化樹脂部材3を金属部材2の表面に押圧する。すなわち、金属部材2の表面に押圧する直前の繊維強化樹脂部材3を超音波振動によって加熱して溶融することで、金属部材2の表面及び他の繊維強化樹脂部材3が加熱されることを抑制される。これにより、超音波振動によって加熱された繊維強化樹脂部材3を部分的に溶融して金属部材2の表面上に連続的に成形する超音波連続溶着が実行される。超音波連続溶着による複合部材の製造方法は、テープレースメント成形による複合部材の製造方法と同様の効果を有する。具体的には、押圧部23における超音波によって振動する箇所のみが部分的に加熱されるため、押圧部32における超音波の出力等を制御することで、繊維強化樹脂部材3の溶融される箇所が一部分に限定され、金属部材2が加熱される範囲を最低限に抑えることができる。よって、金属部材2の全体が高温に加熱されることが抑制される。そして、部分的に溶融した繊維強化樹脂部材3は、押圧部23の移動及び押圧により徐々に金属部材2の表面に連続的に接合される。金属部材2の表面に接合した繊維強化樹脂部材3及び金属部材2は、成形装置20の移動によって押圧部32の超音波による振動箇所から外れるため、接合した部分から順に冷却され、接合した部分は加熱される前の寸法に順に戻る。これにより、繊維強化樹脂部材3と金属部材2との熱膨張差が複合部材1の歪みに与える影響が部分的かつ一時的となり、熱膨張差が緩和されながら徐々に接合されるので、繊維強化樹脂部材の全体を溶融させて金属部材の表面全体に一度に接合させる場合と比べて、複合部材1に生じる歪みが低減される。このように、この製造方法MTは、金属部材2と繊維強化樹脂部材3との間で熱膨張率の差がある場合であっても、複合部材1における歪み及び剥離の発生を抑制できる。また、金型が不要であることから、製造する複合部材1の自由度が高くなる。また、プレス成形及び射出成形と比較して、超音波連続溶着は、複合部材1の歪み及び剥離の発生を抑制できる。なお、押圧部23は、超音波ホーンではなくローラによって加圧する形態であってもよい。
【0062】
例えば、接合工程(S16)において、成形装置20は、金属部材2の表面に供給した繊維強化樹脂部材3の層の上に繊維強化樹脂部材3をさらに供給して積層しなくてもよい。成形装置20は、金属部材2の表面に供給したフルオレン骨格を有する化合物が添加されている繊維強化樹脂部材3の層の上に、フルオレン骨格を有する化合物が添加されていない繊維強化樹脂部材3を積層してもよい。この場合、複合部材1の歪み及び剥離が発生しやすい金属部材2の表面では、金属部材2とフルオレン骨格を有する化合物が添加されている繊維強化樹脂部材3とが接合しているので、密着性が高く、せん断強度は大きく保たれる。
【実施例0063】
[温度変化衝撃試験前後のせん断強度の確認]
図11は、実施例に係る温度変化衝撃試験結果を説明する図である。図11で示されるように、実施例1~10及び比較例1~6を用意して温度変化衝撃試験前後のせん断強度を確認した。
[実施例1]
図3図5に示されるブラスト加工装置を用いてブラスト加工工程(S12)を実行した。金属部材は、アルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。アルミニウム板は、縦、横、厚さが25mm×200 mm×1.6 mmとなるように設定した。ブラスト加工には、材料がアルミナ、砥粒中心粒径が106 μm~125 μmの噴射材を用いた。ブラスト圧は1.0MPaとした。続いて、添加工程(S14)を実行した。繊維強化樹脂部材は、CFRTPを用いた。繊維強化樹脂部材のマトリックス樹脂(樹脂部の材料)はポリアミド6(PA6)であって、繊維部の材料は炭素繊維(CF)である。添加剤として、大阪ガスケミカル製 OGSOL MF-11を、ポリアミド6の質量に対して5%に相当する質量分だけポリアミド6に添加した。続いて、接合工程(S16)を実行した。超音波連続溶着を実行可能な成形装置20及び載置台21を用いて、金属部材に繊維強化樹脂部材を接合させた。載置台21に載置した金属部材への加熱はなく、金属部材の表面が23℃(室温)になるように設定した。成形装置20の樹脂供給部22は、幅が12 mm、厚さが90 μmとなるようなテープ状の繊維強化樹脂部材を押圧部23に供給した。成形装置20は、金属部材上に15枚のテープ状の繊維強化樹脂部材を積層した。金属部材と繊維強化樹脂部材とが接合する部分の大きさは、縦、横が12mm×25 mmとなるように設定した。接合工程(S16)における接合方法は、超音波連続溶着であって、押圧部23は、超音波振動によって繊維強化樹脂部材を加熱しつつ、ローラによって金属部材の表面に加圧する。超音波連続溶着を行う装置としてアドウェルズ SW1000LSを用いた。超音波周波数は、20kHzであって、押圧部23におけるローラ押圧力は300Nであった。移動装置による載置台21に対する押圧部23の移動速度は、10 mm/sであった。
[実施例2]
実施例2は、金属部材として、実施例1と同一のブラスト加工工程(S12)を実行したアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。実施例2は、繊維強化樹脂部材として、実施例1と同一の添加工程(S14)を実行したCFRTPを用いた。実施例2では、接合工程(S16)において、載置台21に載置した金属部材の表面が80℃となるように加熱した。実施例2では、接合工程(S16)におけるその他の条件は実施例1と同一とした。
[実施例3]
実施例3は、金属部材として、実施例1と同一のブラスト加工工程(S12)を実行したアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。実施例3は、繊維強化樹脂部材として、実施例1と同一の添加工程(S14)を実行したCFRTPを用いた。実施例3では、接合工程(S16)において、テーププレースメント成形を実行可能な成形装置20及び載置台21を用いて、金属部材に繊維強化樹脂部材を接合させた。載置台21に載置した金属部材への加熱はなく、金属部材の表面が23℃(室温)になるように設定した。成形装置20の樹脂供給部22は、幅が12 mm、厚さが90 μmとなるようなテープ状の繊維強化樹脂部材を押圧部23に供給した。成形装置20は、金属部材上に15枚のテープ状の繊維強化樹脂部材を積層した。金属部材と繊維強化樹脂部材とが接合する部分の大きさは、縦、横が12mm×25 mmとなるように設定した。接合工程(S16)における接合方法は、テーププレースメント成形であって、押圧部23は、レーザ照射部24によって繊維強化樹脂部材を加熱しつつ、ローラによって金属部材の表面に加圧する。レーザ照射部24において、レーザ出力は4kW、レーザの波長は1060 nmであった。テーププレースメント成形を行う装置は、図6に示される成形装置20と同一の仕様であった。押圧部23におけるローラ押圧力は370Nであった。移動装置による載置台21に対する押圧部23の移動速度は、25 mm/sであった。
[実施例4]
実施例4は、金属部材として、実施例1と同一のブラスト加工工程(S12)を実行したアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。実施例4は、繊維強化樹脂部材として、実施例1と同一の添加工程(S14)を実行したCFRTPを用いた。実施例4では、接合工程(S16)において、載置台21に載置した金属部材の表面が80℃となるように加熱した。実施例4では、接合工程(S16)におけるその他の条件は実施例3と同一とした。
[実施例5]
実施例5は、金属部材として、実施例1と同一のブラスト加工工程(S12)を実行したアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。実施例5は、添加工程(S14)を実行していないポリアミド6をマトリックス樹脂(樹脂部)とし、炭素繊維(CF)を繊維部としたCFRTPを、繊維強化樹脂部材として用いた。実施例5では、接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
[実施例6]
実施例6は、金属部材として、冷間圧延鋼板(JIS:SPCC)を用いた。金属部材に対して実行されるブラスト加工工程(S12)の条件は実施例1と同一とした。実施例6は、繊維強化樹脂部材として、実施例1と同一の添加工程(S14)を実行したCFRTPを用いた。実施例6では、接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
[実施例7]
実施例7は、金属部材として、実施例1と同一のブラスト加工工程(S12)を実行したアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。実施例7は、ポリアミド6をマトリックス樹脂(樹脂部)とし、ガラス繊維(GF)を繊維部としたGFRTPを、繊維強化樹脂部材として用いた。実施例7の繊維強化樹脂部材のマトリックス樹脂には実施例1と同一の添加工程(S14)を実行した。実施例7では、接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
[実施例8]
実施例8は、金属部材として、実施例1と同一のブラスト加工工程(S12)を実行したアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。実施例8は、添加工程(S14)を実行していないポリフェニレンサルファイド(PPS)をマトリックス樹脂(樹脂部)とし、炭素繊維(CF)を繊維部としたCFRTPを、繊維強化樹脂部材として用いた。実施例8では、接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
[実施例9]
実施例9は、金属部材として、実施例1と同一のブラスト加工工程(S12)を実行したアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。実施例9は、添加工程(S14)を実行していないポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)をマトリックス樹脂(樹脂部)とし、炭素繊維(CF)を繊維部としたCFRTPを、繊維強化樹脂部材として用いた。実施例9では、接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
[実施例10]
実施例10は、金属部材として、実施例1と同一のブラスト加工工程(S12)を実行したアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。実施例10は、添加工程(S14)を実行していないポリブチレンテレフタレート(PBT)をマトリックス樹脂(樹脂部)とし、炭素繊維(CF)を繊維部としたCFRTPを、繊維強化樹脂部材として用いた。実施例10では、接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
[比較例1]
比較例1は、金属部材として、実施例1と同一のブラスト加工工程(S12)を実行したアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。比較例1は、繊維強化樹脂部材として、実施例1と同一の添加工程(S14)を実行したCFRTPを用いた。比較例1では、接合工程(S16)において、載置台21に載置した金属部材の表面が150℃となるように加熱した。比較例1では、接合工程(S16)におけるその他の条件は実施例1と同一とした。
[比較例2]
比較例2は、金属部材として、実施例1と同一のブラスト加工工程(S12)を実行したアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。比較例2は、繊維強化樹脂部材として、実施例1と同一の添加工程(S14)を実行したCFRTPを用いた。比較例2では、接合工程(S16)において、載置台21に載置した金属部材の表面が150℃となるように加熱した。比較例2では、接合工程(S16)におけるその他の条件は実施例3と同一とした。
[比較例3]
比較例3は、金属部材として、実施例1と同一のブラスト加工工程(S12)を実行したアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。比較例3は、繊維強化樹脂部材として、実施例5と同様、添加工程(S14)を実行していないCFRTPを用いた。比較例3では、接合工程(S16)において、射出成形によって金属部材と繊維強化樹脂部材とを接合させた。射出成形として、インサート成形を用いた。インサート成形では、所定の金型にインサート部品として金属部材を装着し、金型を加熱し、金型内に炭素繊維(CF)を配置し、溶融された樹脂(ポリアミド6)を金型内に注入して所定時間保持して、繊維強化樹脂部材を成形すると共に、金属部材と繊維強化樹脂部材を固化させた。このとき、樹脂の射出時における金型の温度が140℃になるように金型を加熱した。これにより、金型内に装着された金属部材の表面は少なくとも約140 ℃となり得る。射出時において、射出速度は20 mm/s、射出圧力は53MPa以上93 MPa以下、射出時間は0.56 sとした。保持時において、保持圧力は80 MPa、保持時間は8 sとした。比較例3では、その他の条件は実施例5と同一とした。
[比較例4]
比較例4は、金属部材として、実施例1と同一のブラスト加工工程(S12)を実行したアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。比較例4は、繊維強化樹脂部材として、実施例5と同様、添加工程(S14)を実行していないCFRTPを用いた。比較例4では、接合工程(S16)において、プレス成形によって金属部材と繊維強化樹脂部材とを接合させた。プレス成形の保持時(型閉じ時)において、金型温度は220℃、保持圧力は5 MPa、保持時間は300 sとした。これにより、金型内に載置された金属部材の表面は少なくとも約220 ℃となり得る。比較例4では、その他の条件は実施例5と同一とした。
[比較例5]
比較例5は、金属部材として、ブラスト加工工程(S12)を実行していないアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。比較例5は、繊維強化樹脂部材として、実施例1と同一の添加工程(S14)を実行したCFRTPを用いた。比較例5では、接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
[比較例6]
比較例6は、金属部材として、ブラスト加工工程(S12)を実行していないアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。比較例6は、繊維強化樹脂部材として、添加工程(S14)を実行していないポリアミド6をマトリックス樹脂(樹脂部)とし、炭素繊維(CF)を繊維部としたCFRTPを用いた。比較例6では、接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
【0064】
[温度変化衝撃試験]
上記条件で作成された実施例1~10及び比較例1~6に対して、温度変化衝撃試験を実施した。実施した温度変化衝撃試験は、ISO 16750-4に相当するJASO D 014-4:2014(自動車部品―電気・電子機器の環境条件及び機能確認試験―第4部:気候負荷)に準拠した試験である。温度変化衝撃試験では、作動温度範囲として最低温度Tminは-40 ℃、最高温度Tmaxは140℃として設定した。実施例1~10及び比較例1~6をそれぞれ最低温度Tminから最高温度Tmaxに変更した後、30 分間最高温度Tmaxで維持した。その後、実施例1~10及び比較例1~6をそれぞれ最高温度Tmaxにから再度最低温度Tminに変更し、30分間最低温度Tminで維持した。この処理を1サイクルとし、試験サイクル数として300 サイクル実行した。
【0065】
[接合強度評価]
上記条件で作成された実施例1~10及び比較例1~6のせん断強度を測定した。評価装置は、ISO 19095に準拠する試験方法で測定した。温度変化衝撃試験前における実施例1のせん断強度は、42MPaであり、実施例2のせん断強度は、40 MPaであり、実施例3のせん断強度は、40 MPaであり、実施例4のせん断強度は、39 MPaであり、実施例5のせん断強度は、32MPaであり、実施例6のせん断強度は、39 MPaであり、実施例7のせん断強度は、36 MPaであり、実施例8のせん断強度は、39 MPaであり、実施例9のせん断強度は、43MPaであり、実施例10のせん断強度は、40 MPaであった。温度変化衝撃試験前における比較例1のせん断強度は、38 MPaであり、比較例2のせん断強度は、38MPaであり、比較例3のせん断強度は、30 MPaであり、比較例4のせん断強度は、31 MPaであった。比較例5及び比較例6は、金属部材と繊維強化樹脂部材とが接合しなかったため、せん断強度は計測しなかった。
【0066】
温度変化衝撃試験後における実施例1のせん断強度は、40MPaであり、実施例2のせん断強度は、35 MPaであり、実施例3のせん断強度は、38 MPaであり、実施例4のせん断強度は、33 MPaであり、実施例5のせん断強度は、30MPaであり、実施例6のせん断強度は、36 MPaであり、実施例7のせん断強度は、34 MPaであり、実施例8のせん断強度は、36 MPaであり、実施例9のせん断強度は、39MPaであり、実施例10のせん断強度は、37 MPaであった。温度変化衝撃試験前における比較例1のせん断強度は、25 MPaであり、比較例2のせん断強度は、24MPaであり、比較例3のせん断強度は、19 MPaであり、比較例4のせん断強度は、22 MPaであった。比較例5及び比較例6は、温度変化衝撃試験前において金属部材と繊維強化樹脂部材とが接合しなかったため、温度変化衝撃試験後においてせん断強度を計測しなかった。
【0067】
温度変化衝撃試験前の複合部材のせん断強度に対する温度変化衝撃試験後の複合部材のせん断強度の割合を示す低下率を算出した。当該低下率は、温度変化衝撃試験前の複合部材のせん断強度と温度変化衝撃試験後の複合部材のせん断強度との差分を温度変化衝撃試験前の複合部材のせん断強度で除して得られた値を百分率で表した値である。実施例1の低下率は、4.8%であり、実施例2の低下率は、12.5 %であり、実施例3の低下率は、5.0 %であり、実施例4の低下率は、15.4 %であり、実施例5の低下率は、6.3 %であり、実施例6の低下率は、7.7%であり、実施例7の低下率は、5.6 %であり、実施例8の低下率は、7.7 %であり、実施例9の低下率は、9.3 %であり、実施例10の低下率は、7.5 %であった。比較例1の低下率は、34.2%であり、比較例2の低下率は、36.8 %であり、比較例3の低下率は、36.7 %であり、比較例4の低下率は、29.0 %であった。比較例5及び比較例6は、温度変化衝撃試験前において金属部材と繊維強化樹脂部材とが接合しなかったため、低下率は算出しなかった。
【0068】
実施例1,2と比較例1とを比較することにより、超音波連続溶着を実行した接合工程(S16)において、金属部材の表面の温度を低く抑えれば抑えるほど、温度変化衝撃試験前においても温度変化衝撃試験後においてもせん断強度の向上に大きく寄与することが確認された。実施例3,4と比較例2とを比較することにより、テーププレースメント成形を実行した接合工程(S16)において、金属部材の表面の温度を低く抑えれば抑えるほど、温度変化衝撃試験前においても温度変化衝撃試験後においてもせん断強度の向上に大きく寄与することが確認された。また、超音波連続溶着又はテーププレースメント成形が実行された接合工程(S16)において、金属部材の表面の温度が高温(比較例1,2では150℃)であることで、温度変化衝撃試験後におけるせん断強度の低下率が3割以上になることが確認された。一方で、接合工程(S16)における金属部材の表面の温度が高温ではない(実施例1~4では23℃及び80 ℃である)ことで、温度変化衝撃試験後におけるせん断強度の低下率が16 %未満(15.4 %以下)に抑えられることが確認された。実施例1~4と比較例1,2との結果から、接合工程(S16)における金属部材と繊維強化樹脂部材との接合方法として、超音波連続溶着とテーププレースメント成形との間に優位な差は認められず、いずれの接合方法においても、金属部材の表面の温度を高温にしないことによって、温度変化衝撃試験前後において高いせん断強度が発揮されることが確認された。
【0069】
実施例1と実施例5とを比較することにより、添加工程(S14)を実行した実施例1の方が、添加工程(S14)を実行していない実施例5と比べて、温度変化衝撃試験前後におけるせん断強度がわずかに大きく、低下率が小さい。これは、添加工程(S14)において添加された添加剤によって、繊維強化樹脂部材の流動性が向上し、金属部材への密着性が向上したため、せん断強度が増進したと考えられる。実施例2,5と比較例1とを比べることで、添加工程(S14)が実行されていない実施例5は、接合工程(S16)において金属部材の表面の温度が実施例5より高温である実施例2及び比較例1に比べて、温度変化衝撃試験前後のせん断強度が大きく、低下率が小さいことが確認された。これにより、添加剤の有無に比べて、金属部材の表面の温度が高温であることの方が、せん断強度の低下に大きく寄与することが確認された。
【0070】
実施例5と比較例3,4とを比較することにより、超音波連続溶着を実行した接合工程(S16)の方が、射出成形又はプレス成形を実行した接合工程よりも、温度変化衝撃試験前後のせん断強度が大きく、低下率が小さいことが確認された。比較例3,4の金型の温度が高温(比較例3,4ではそれぞれ140℃,220 ℃)であるため、金属部材の表面及び金属部材の全体は、金型によって加熱され、高温になり得る。よって、実施例5と比較例3,4との結果から、接合工程(S16)における金属部材と繊維強化樹脂部材との接合方法として、超音波連続溶着と、射出成形及びプレス成形との間に優位な差が認められ、金属部材の全体の温度を高温にしない接合方法によって、温度変化衝撃試験前後において高いせん断強度が発揮され、かつ低下率が抑制されることが確認された。
【0071】
比較例5,6の結果から、複合部材を製造するにあたって、金属部材の表面を粗面化する表面処理工程(ブラスト加工工程(S12))は必須の処理であることが確認された。表面処理工程(ブラスト加工工程(S12))が実行されないことで、添加剤の有無に関わらず、金属部材と繊維強化樹脂部材とは接合しないことが確認された。
【0072】
実施例1,6と比較例1~6を比較することにより、金属部材の材料の種類に関わらず、実施形態に記載の製造方法を実施した複合部材は、温度変化衝撃試験前後においてせん断強度が大きく、低下率が小さいことが確認された。実施例1,7と比較例1~6とを比較することにより、繊維強化樹脂部材の繊維部の材料の種類に関わらず、実施形態に記載の製造方法を実施した複合部材は、温度変化衝撃試験前後においてせん断強度が大きく、低下率が小さいことが確認された。実施例5,8,9,10と比較例1~6とを比較することにより、繊維強化樹脂部材のマトリックス樹脂(樹脂部)の材料の種類に関わらず、実施形態に記載の製造方法を実施した複合部材は、温度変化衝撃試験前後においてせん断強度が大きく、低下率が小さいことが確認された。
【符号の説明】
【0073】
1…複合部材、2…金属部材、3…繊維強化樹脂部材、5…繊維部、6…樹脂部、10…ブラスト加工装置、11…処理室、12…噴射ノズル、13…貯留タンク、14…加圧室、15…圧縮気体供給機、16…定量供給部、17…連接管、18…加工テーブル、19…制御部、20…成形装置、21…載置台、22…樹脂供給部、23…押圧部、24…レーザ照射部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11