(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157717
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】タイヤトレッド用ゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 7/00 20060101AFI20231019BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20231019BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20231019BHJP
C08L 45/00 20060101ALI20231019BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
C08L7/00
C08K3/36
C08L9/00
C08L45/00
B60C1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067796
(22)【出願日】2022-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平林 和也
(72)【発明者】
【氏名】箕内 則夫
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA02
3D131AA03
3D131AA04
3D131BA05
3D131BA12
3D131BB01
3D131BB03
3D131BC02
3D131BC12
3D131BC19
3D131BC33
4J002AC011
4J002AC032
4J002AC061
4J002AC082
4J002BK003
4J002CE003
4J002DJ016
4J002FD016
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】ウェット性能と低発熱性をバランス良く改善する。
【解決手段】実施形態に係るタイヤトレッド用ゴム組成物は、天然ゴム及び合成イソプレンゴムからなる群から選択される少なくとも1種を40質量部以上含むゴム成分100質量部に対し、110℃以上の軟化点及び55℃以上のガラス転移点を有しβ-ピネン単位を含むポリテルペン樹脂5~50質量部と、シリカ50~150質量部を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム及び合成イソプレンゴムからなる群から選択される少なくとも1種を40質量部以上含むゴム成分100質量部に対し、110℃以上の軟化点及び55℃以上のガラス転移点を有しβ-ピネン単位を含むポリテルペン樹脂5~50質量部と、シリカ50~150質量部を含む、タイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム成分100質量部が、天然ゴム及び合成イソプレンゴムからなる群から選択される少なくとも1種60~100質量部、並びに、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムからなる群から選択される少なくとも1種0~40質量部を含み、
前記シリカを、前記ゴム成分100質量部に対して60~120質量部含む、
請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物を用いて作製されたトレッドを有するタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤトレッド用ゴム組成物、及びそれを用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤのトレッドを形成するためのゴム組成物においては、低燃費性の観点から転がり抵抗を低減するべく低発熱性が求められている。また、濡れた路面でのグリップ性能(ウェット性能)を向上することも求められている。ウェット性能と低発熱性は二律背反であり、これらをバランス良く改善するための手法が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、合成ジエン系ゴム及び天然ゴムからなる群から選択されるゴム成分にテルペン系樹脂を配合することにより、低い転がり抵抗と良好な湿潤牽引力とのバランスを改善することが記載されている。
【0004】
一方、特許文献2には、重荷重用タイヤのトレッドを形成するためのゴム組成物において、イソプレン系ゴムとブタジエンゴムにテルペン系樹脂を配合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2019-530793号公報
【特許文献2】特開2021-054377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、特許文献1には、ゴム成分にテルペン系樹脂を配合することによりウェット性能と低発熱性が改善されることが記載されている。しかしながら、特許文献1に具体的に開示されたゴム組成物において、ゴム成分はスチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムからなり、ウェット性能と低発熱性の改善効果が十分とはいえない。本発明者らの検討によれば、ゴム成分におけるイソプレン系ゴムの量の少ないと十分な改善効果が得られないことが判明した。
【0007】
特許文献2には、上記のようにイソプレン系ゴムにテルペン系樹脂を配合することが記載されている。しかしながら、特許文献2は、氷上性能と摩耗性能を改善することを目的としており、シリカを50質量部以上配合した系にテルペン系樹脂を配合することは開示されておらず、ウェット性能と低発熱性を両立することはできない。
【0008】
本発明の実施形態は、ウェット性能と低発熱性をバランス良く改善することができるタイヤ用ゴム組成物、及びそれを用いたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態に係るタイヤトレッド用ゴム組成物は、天然ゴム及び合成イソプレンゴムからなる群から選択される少なくとも1種を40質量部以上含むゴム成分100質量部に対し、110℃以上の軟化点及び55℃以上のガラス転移点を有しβ-ピネン単位を含むポリテルペン樹脂5~50質量部と、シリカ50~150質量部を含むものである。
【0010】
前記タイヤトレッド用ゴム組成物においては、前記ゴム成分100質量部が、天然ゴム及び合成イソプレンゴムからなる群から選択される少なくとも1種60~100質量部、並びに、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムからなる群から選択される少なくとも1種0~40質量部を含んでもよい。また、前記シリカが前記ゴム成分100質量部に対して60~120質量部含まれてもよい。
【0011】
本発明の実施形態に係るタイヤは、上記タイヤトレッド用ゴム組成物を用いて作製されたトレッドを有するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態によれば、ウェット性能と低発熱性をバランス良く改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態に係るタイヤトレッド用ゴム組成物(以下、ゴム組成物ともいう。)は、(A)ゴム成分、(B)ポリテルペン樹脂、及び(C)シリカを含む。
【0014】
[(A)ゴム成分]
ゴム成分としてはジエン系ゴムが用いられる。ジエン系ゴムとは、共役二重結合を持つジエンモノマーに対応する繰り返し単位を持つゴムをいい、ポリマー主鎖に二重結合を有する。ジエン系ゴムの具体例としては、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム等、ゴム組成物において通常使用される各種ジエン系ゴムが挙げられる。これらのジエン系ゴムには、必要に応じて末端や主鎖を変性したもの(例えば、末端変性SBR)や、所望の特性を付与するべく改質したもの(例えば、改質NR)も、その概念に包含される。
【0015】
本実施形態において、ゴム成分100質量部は、天然ゴム(NR)及び合成イソプレンゴム(IR)からなる群から選択される少なくとも1種のイソプレン系ゴムを40質量部以上含む。このようにゴム成分中にイソプレン系ゴムを40質量%以上含むことにより、ゴム成分に対するポリテルペン樹脂の相溶性が向上し、ウェット性能と低発熱性の改善効果を高めることができる。イソプレン系ゴムとしては、天然ゴムが好ましく用いられる。
【0016】
ゴム成分100質量部におけるイソプレン系ゴムの量は、50質量部以上であることが好ましく、より好ましくは60質量部以上であり、さらに好ましくは70質量部以上であり、さらに好ましくは80質量部以上であり、さらに好ましくは90質量部以上であり、100質量部でもよい。このようにゴム成分はイソプレン系ゴムのみで構成されてもよく、イソプレン系ゴムと他のジエン系ゴムを併用してもよい。併用する他のジエン系ゴムとしては、例えば、上記のスチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム等が挙げられ、これらをいずれか1種又は2種以上併用することができる。
【0017】
一実施形態において、ゴム成分100質量部は、天然ゴム及び合成イソプレンゴムからなる群から選択される少なくとも1種60~100質量部、並びに、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムからなる群から選択される少なくとも1種0~40質量部を含むことが好ましい。すなわち、ゴム成分100質量部は、上記イソプレン系ゴム単独でもよく、あるいはまた、イソプレン系ゴム60質量部以上とスチレンブタジエンゴム及び/又はブタジエンゴム40質量部以下とで構成されてもよい。
【0018】
例えば、ゴム成分100質量部は、イソプレン系ゴム60~90質量部と、スチレンブタジエンゴム及び/又はブタジエンゴム10~40質量部とを含んでもよく、イソプレン系ゴム65~85質量部と、スチレンブタジエンゴム及び/又はブタジエンゴム15~35質量部とを含んでもよい。
【0019】
一実施形態において、イソプレン系ゴムと併用するスチレンブタジエンゴムは、変性スチレンブタジエンゴムであることが好ましい。変性スチレンブタジエンゴムとしては、分子末端又は分子鎖中に官能基が導入されることで、当該官能基により変性されたものが挙げられる。官能基としては、例えばアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、エポキシ基、シリル基、及びカルボキシ基からなる群から選択された少なくとも1種が挙げられる。このような変性スチレンブタジエンゴムを含むことにより、充填剤としてのシリカの分散性を向上することができる。
【0020】
[(B)ポリテルペン樹脂]
ポリテルペン樹脂は、テルペン化合物を重合して得られる樹脂であり、テルペン化合物に由来する単位を有する。本実施形態ではβ-ピネン単位を含むポリテルペン樹脂が用いられる。β-ピネン単位とは、β-ピネンに由来する単位である。ポリテルペン樹脂は、イソプレン系ゴムとの相溶性が高いため、ウェット性能の指標となる0℃付近の粘弾性ロスが大きくなる。また、シリカの凝集を防ぎ、シリカを均一に分散させることができる。そのため、ウェット性能と低燃費性を両立することができる。
【0021】
ポリテルペン樹脂は、テルペン化合物(テルペンモノマー)のみを重合して得られる樹脂であることが好ましい。例えば、ポリテルペン樹脂は、β-ピネンのホモポリマーでもよい。あるいはまた、ポリテルペン樹脂は、α-ピネン単位とβ-ピネン単位を含む共重合体でもよく、すなわち、α-ピネンとβ-ピネンの混合物を重合して得られるα-ピネン/β-ピネン混合樹脂でもよい。α-ピネン単位とは、α-ピネンに由来する単位である。
【0022】
α-ピネン/β-ピネン混合樹脂において、α-ピネン単位とβ-ピネン単位の質量比は、特に限定しないが、35:65~4:96であることが好ましく、より好ましくは20:80~4:96であり、さらに好ましくは10:90~4:96である。一実施形態において、β-ピネン単位の含有率は65~96質量%であることが好ましく、より好ましくは80~96質量%であり、さらに好ましくは90~96質量%である。また、α-ピネン単位の含有率は4~35質量%であることが好ましく、より好ましくは4~20質量%であり、さらに好ましくは4~10質量%である。
【0023】
ポリテルペン樹脂は、β-ピネン(又はα-ピネン及びβ-ピネン)とともに、他のテルペン化合物を共重合することにより得られるものであってもよい。上記他のテルペン化合物としては、例えば、リモネン、δ-3-カレン、β-フェランドレン、カンフェン、ミルセン等が挙げられる。
【0024】
本実施形態において、ポリテルペン樹脂としては、110℃以上の軟化点及び55℃以上のガラス転移点(Tg)を持つものが用いられる。このような高軟化点で高ガラス転移点のポリテルペン樹脂を用いることにより、上記ゴム成分としてイソプレン系ゴムを用いることと相俟って、ウェット性能と低燃費性を両立することができるとともに、耐摩耗性の低下を抑えることができる。
【0025】
ポリテルペン樹脂の軟化点は、110~150℃であることが好ましく、より好ましくは110~130℃である。軟化点は、ASTM D6090(刊行日1997年)に準拠して測定される。
【0026】
ポリテルペン樹脂のガラス転移点は、55~81℃であることが好ましく、より好ましくは55~71℃である。ガラス転移点は、TA Instrumentsの示差走査熱量計SC Q2000を使用してASTM D6604(刊行日2013年)に準拠して測定される。
【0027】
ポリテルペン樹脂の合成方法は特に限定されない。例えば、ポリテルペン樹脂は、ルイス酸触媒を用いて、β-ピネンを含むモノマーをカチオン重合することにより合成することができる。ルイス酸触媒の具体例としては、特に限定されず、金属ハライド(例えば、BF3、BBr3、AlF3、AlBr3、TiCl4、TiBr4、FeCl3、FeCl2、SnCl4、WCl6、MoCl5、ZrCl4、SbCl3、SbCl5、TeCl2及びZnCl2)、金属アルキル化合物(例えば、Et3Al、Et2AlCl、EtAlCl2、Et3Al2Cl3、(iBu)3Al、(iBu)2AlCl、(iBu)AlCl2、Me4Sn、Et4Sn、Bu4Sn及びBu3SnCl)、並びに金属アルコキシ化合物(例えば、Al(OR)3-xClx及びTi(OR)4-yCly(式中、Rはアルキル基又はアリール基を表し、xは1又は2の整数を表し、yは1~3の整数を表す))が挙げられる。ここで、Etはエチル基、iBuはイソブチル基、Meはメチル基、Buはブチル基をそれぞれ表す。
【0028】
ポリテルペン樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して5~50質量部であることが好ましく、より好ましくは10~40質量部であり、更に好ましくは15~30質量部である。
【0029】
[(C)シリカ]
本実施形態に係るゴム組成物には、充填剤としてシリカが配合される。シリカとしては、例えば湿式シリカ、乾式シリカが挙げられる。好ましくは、湿式沈降法シリカ、湿式ゲル化法シリカなどの湿式シリカを用いることである。
【0030】
本実施形態において、シリカは、ゴム成分100質量部に対して50~150質量部配合される。シリカの含有量が50質量部以上であることにより、ウェット性能と低燃費性の両立効果を高めることができる。シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、60~120質量部であることが好ましく、より好ましくは65~115質量部であり、さらに好ましくは70~110質量部である。
【0031】
ゴム組成物に配合する充填剤としては、シリカ単独でもよいが、シリカとともにカーボンブラックを配合してもよい。充填剤は、シリカを80質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは90質量%以上含むことである。カーボンブラックの含有量は、特に限定されず、ゴム成分100質量部に対して15質量部以下でもよく、10質量部以下でもよく、5質量部以下でもよい。
【0032】
カーボンブラックとしては、特に限定されず、公知の種々の品種を用いることができる。具体的には、SAF級(N100番台)、ISAF級(N200番台)、HAF級(N300番台)、FEF級(N500番台)、GPF級(N600番台)(ともにASTMグレード)が挙げられる。これら各グレードのカーボンブラックは、いずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0033】
[その他の成分]
本実施形態に係るゴム組成物には、上記成分の他に、シランカップリング剤、オイル、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックス、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤が配合されてもよい。
【0034】
シランカップリング剤としては、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエキトシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィドシランカップリング剤、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプトシランカップリング剤、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-プロピオニルチオプロピルトリメトキシシラン、3-ヘキサノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリメトキシシラン等のチオエステル基含有シランカップリング剤が挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0035】
シランカップリング剤の含有量は、特に限定されないが、シリカ量の2~25質量%、すなわち、シリカ100質量部に対して2~25質量部であることが好ましい。シランカップリング剤の含有量は、より好ましくはシリカ量の5~20質量%である。
【0036】
オイルの含有量は、特に限定されず、例えば、ゴム成分100質量部に対して0~30質量部でもよく、3~20質量部でもよく、5~15質量部でもよい。
【0037】
酸化亜鉛の含有量は、特に限定されず、例えば、ゴム成分100質量部に対して0~10質量部でもよく、0.5~5質量部でもよく、1~4質量部でもよい。
【0038】
ステアリン酸の含有量は、特に限定されず、例えば、ゴム成分100質量部に対して0~10質量部でもよく、0.5~5質量部でもよく、1~4質量部でもよい。
【0039】
ワックスの含有量は、特に限定されず、例えば、ゴム成分100質量部に対して0~10質量部でもよく、0.3~5質量部でもよく、0.5~3質量部でもよい。
【0040】
老化防止剤の含有量は、特に限定されず、例えば、ゴム成分100質量部に対して0~10質量部でもよく、0.5~5質量部でもよく、1~4質量部でもよい。
【0041】
加硫剤としては、硫黄が好ましく用いられる。加硫剤の含有量は、特に限定されないが、ゴム成分100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部であり、1~3質量部でもよい。
【0042】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チウラム系、チアゾール系、及びグアニジン系などの各種加硫促進剤が挙げられ、いずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の含有量は、特に限定されないが、ゴム成分100質量部に対して0.1~7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部であり、1~3質量部でもよい。
【0043】
[ゴム組成物の調製方法]
本実施形態に係るゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、例えば、第一混合段階(ノンプロ練り工程)で、ゴム成分に対し、ポリテルペン樹脂及びシリカとともに、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤が添加混合される。次いで、得られた混合物に、最終混合段階(プロ練り工程)で加硫剤及び加硫促進剤が添加混合される。これにより、未加硫のゴム組成物を調製することができる。
【0044】
[ゴム組成物の用途]
本実施形態に係るゴム組成物は、タイヤトレッド用ゴム組成物として用いることができる。タイヤとしては、乗用車用タイヤ、トラックやバスの重荷重用タイヤなど各種用途及び各種サイズの空気入りタイヤが挙げられる。
【0045】
一実施形態に係るタイヤは、上記ゴム組成物を用いて作製されたトレッドを有するタイヤである。すなわち、一実施形態に係るタイヤは、上記ゴム組成物からなるトレッドゴムを備えたものである。
【0046】
タイヤのトレッドゴムには、キャップゴムとベースゴムとの2層構造からなるものと、両者が一体の単層構造のものがある。単層構造のものでは、当該トレッドゴムが上記ゴム組成物で形成されてもよい。2層構造のものでは、路面に接地する外側のキャップゴムが上記ゴム組成物で形成されてもよく、キャップゴムの内側に配されるベースゴムが上記ゴム組成物で形成されてもよく、キャップゴムとベースゴムの双方が上記ゴム組成物で形成されてもよい。
【0047】
タイヤの製造方法は、特に限定されない。例えば、上記ゴム組成物は、常法に従い、押出加工によって所定の形状に成形されて、未加硫のドレッドゴム部材が得られる。該トレッドゴム部材を他のタイヤ部材と組み合わせることにより、未加硫タイヤ(グリーンタイヤ)が作製される。その後、例えば140~180℃で加硫成形することにより、タイヤを製造することができる。
【実施例0048】
以下、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
実施例及び比較例で使用した各成分は以下のとおりである。
・天然ゴム:RSS#3
・SBR1:乳化重合スチレンブタジエンゴム(未変性)、JSR株式会社製「SBR1502」
・SBR2:溶液重合スチレンブタジエンゴム(アルコキシ基及びアミノ基末端変性)、JSR株式会社製「HPR350」
・BR:ブタジエンゴム、アランセオ社製「Buna CB22」
【0050】
・カーボンブラック:N339、東海カーボン(株)製「シーストKH」
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」
・シランカップリング剤:ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニック社製「Si69」
・オイル:ENEOS(株)製「プロセスNC140」
【0051】
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「酸化亜鉛2種」
・ステアリン酸:日油(株)製「ビーズステアリン酸」
・ワックス:日本精蝋(株)製「OZOACE0355」
・老化防止剤:N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
【0052】
・石油樹脂:C5/C9系炭化水素樹脂、東ソー(株)製「ペトロタック90」
・ポリテルペン樹脂(1):α-ピネン/β-ピネン混合樹脂、クレイトン社製「SYLVATRAXX4150」(α-ピネン単位:5質量%、β-ピネン単位:95質量%、軟化点:115℃、Tg:61℃)
・ポリテルペン樹脂(2):β-ピネン樹脂、DRT社製「DERCOLYTE S 115」(軟化点:114℃、Tg:70℃)
【0053】
・硫黄:鶴見化学工業(株)「粉末硫黄」
・加硫促進剤:住友化学(株)製「ソクシノールCZ」
【0054】
実施例及び比較例における評価方法は以下のとおりである。
【0055】
(1)ウェット性能
未加硫のゴム組成物を170℃にて15分間加熱することにより加硫して得られたゴムサンプルを用いた。JIS K6394:2007に準じて、(株)東洋精機製作所製の粘弾性試験機を使用し、静歪み(初期歪み)10%、動歪み1%、周波数10Hz、温度0℃の条件下で、損失正接tanδを測定した。表1では比較例1、表2では比較例5、表3では比較例6、表4では比較例7、表5では比較例8のtanδをそれぞれ100とした指数で示した。指数が大きいほどtanδが大きく、タイヤとしてのウェット性能に優れることを表す。
【0056】
(2)低発熱性
未加硫のゴム組成物を170℃にて15分間加熱することにより加硫して得られたゴムサンプルを用いた。JIS K6394:2007に準じて、(株)東洋精機製作所製の粘弾性試験機を用い、静歪み(初期歪み)10%、動歪み1%、周波数10Hz、温度60℃の条件下で、損失正接tanδを測定した。表1では比較例1、表2では比較例5、表3では比較例6、表4では比較例7、表5では比較例8のtanδをそれぞれ100とした指数で示した。指数が小さいほどtanδが小さく、従って、発熱し難く、低発熱性に優れるため、タイヤとしての低燃費性能に優れることを示す。
【0057】
(3)耐摩耗性
未加硫のゴム組成物を170℃にて15分間加熱することにより加硫して得られたゴムサンプルを用いた。JIS K6264に準じて、ランボーン摩耗試験機を用いて、荷重3kg、スリップ率20%、温度23℃、落砂量20g/分で摩耗量を測定した。表1では比較例1、表2では比較例5、表3では比較例6、表4では比較例7、表5では比較例8についての摩耗量の逆数をそれぞれ100とした指数で示した。指数が大きいほど摩耗量が少なく、耐摩耗性に優れることを示す。
【0058】
[第1実験例]
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ゴム成分に対し硫黄及び加硫促進剤を除く配合剤を添加し混練した(排出温度=160℃)。次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して(排出温度=90℃)、ゴム組成物を調製した。得られた各ゴム組成物について、ウェット性能、低発熱性、及び耐摩耗性を評価した。
【0059】
【0060】
結果は表1に示すとおりである。ゴム成分が天然ゴム単独でありかつシリカを相当量含む配合系において、石油樹脂を配合すると、比較例2に示されるように、ウェット性能は大幅に改善されたものの、低発熱性及び耐摩耗性が大きく悪化した。これは、天然ゴム主体の配合系に石油樹脂を添加した場合、シリカの凝集が起こるためと考えられる。
【0061】
これに対し、ポリテルペン樹脂(1)を規定量配合した実施例1~3であると、樹脂未配合の比較例1に対して、低発熱性を維持ないし改善しながら、ウェット性能が大幅に向上した。また耐摩耗性の低下も抑えられていた。一方、ポリテルペン樹脂(1)の配合量が少ない比較例3では、性能の改善効果はほとんどみられなかった。逆に、ポリテルペン樹脂(1)の配合量が多い比較例4では、ウェット性能には優れるものの、低発熱性及び耐摩耗性が低下した。
【0062】
[第2実験例]
下記表2に示す配合(質量部)に従い、その他は第1実験例と同様にしてゴム組成物を調製した。得られた各ゴム組成物について、ウェット性能、低発熱性、及び耐摩耗性を評価した。結果は表2に示すとおりである。
【0063】
【0064】
[第3実験例]
下記表3に示す配合(質量部)に従い、その他は第1実験例と同様にしてゴム組成物を調製した。得られた各ゴム組成物について、ウェット性能、低発熱性、及び耐摩耗性を評価した。結果は表3に示すとおりである。
【0065】
【0066】
[第4実験例]
下記表4に示す配合(質量部)に従い、その他は第1実験例と同様にしてゴム組成物を調製した。得られた各ゴム組成物について、ウェット性能、低発熱性、及び耐摩耗性を評価した。結果は表4に示すとおりである。
【0067】
【0068】
[第5実験例]
下記表5に示す配合(質量部)に従い、その他は第1実験例と同様にしてゴム組成物を調製した。得られた各ゴム組成物について、ウェット性能、低発熱性、及び耐摩耗性を評価した。結果は表5に示すとおりである。
【0069】
【0070】
表2~4に示されるように、天然ゴム/スチレンブタジエンゴム、及び天然ゴム/ブタジエンゴムの配合系においても、天然ゴム単独の配合系と同様、ポリテルペン樹脂(1)あるいはポリテルペン樹脂(2)を配合した実施例4~6であると、石油樹脂を配合した比較例5~7に比べて、ウェット性能と低発熱性の双方を改善することができ、耐摩耗性にも優れていた。
【0071】
一方、表5に示されるように、ゴム成分中の天然ゴムの比率が少ない配合系では、ポリテルペン樹脂(1)を配合した比較例9は、石油樹脂を配合した比較例8に対して、ウェット性能及び低発熱性が悪化した。これは、天然ゴムの比率が低い配合系ではゴム成分へのポリテルペン樹脂(1)の相溶性が低下するためであると考えられる。
【0072】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0073】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。