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特開2023-157724マグネシウム合金からなる蓄電池用の電極材料及び電極材の製造方法
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  • 特開-マグネシウム合金からなる蓄電池用の電極材料及び電極材の製造方法 図1
  • 特開-マグネシウム合金からなる蓄電池用の電極材料及び電極材の製造方法 図2
  • 特開-マグネシウム合金からなる蓄電池用の電極材料及び電極材の製造方法 図3
  • 特開-マグネシウム合金からなる蓄電池用の電極材料及び電極材の製造方法 図4
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  • 特開-マグネシウム合金からなる蓄電池用の電極材料及び電極材の製造方法 図9
  • 特開-マグネシウム合金からなる蓄電池用の電極材料及び電極材の製造方法 図10
  • 特開-マグネシウム合金からなる蓄電池用の電極材料及び電極材の製造方法 図11
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157724
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】マグネシウム合金からなる蓄電池用の電極材料及び電極材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 23/02 20060101AFI20231019BHJP
   C22F 1/06 20060101ALI20231019BHJP
   H01M 4/46 20060101ALI20231019BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20231019BHJP
【FI】
C22C23/02
C22F1/06
H01M4/46
C22F1/00 681
C22F1/00 622
C22F1/00 623
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067806
(22)【出願日】2022-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(71)【出願人】
【識別番号】591267855
【氏名又は名称】埼玉県
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】附田 之欣
(72)【発明者】
【氏名】会田 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】栗原 英紀
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA01
5H050BA15
5H050CA02
5H050CB11
5H050GA02
5H050GA04
5H050GA25
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】電気化学活性に優れたマグネシウム合金からなる蓄電池用の負極材料及びその製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】マグネシウム合金からなる蓄電池用の負極材料であって、以下質量%にてAl:6.0~12.0%,Ca:2.0~5.0%含有していることを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金からなる蓄電池用の電極材料であって、以下質量%にてAl:6.0~12.0%,Ca:2.0~5.0%含有していることを特徴とする蓄電池用の電極材料。
【請求項2】
Al:6.0~12.0%,Ca:2.0~5.0%含有するマグネシウム合金を用いて液体急冷凝固法により薄帯を得ることを特徴とする蓄電池用の電極材の製造方法。
【請求項3】
Al:6.0~12.0%,Ca:2.0~5.0%含有するマグネシウム合金を用いて液体急冷凝固法により薄帯を得るステップと、前記薄帯にレーザー加工により凹凸又は/及び孔を得るステップとを有していることを特徴とする蓄電池用の電極材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池用の電極材料に関し、特にマグネシウム合金からなる負極材に係る。
【背景技術】
【0002】
現在蓄電池としては、リチウムイオン電池が主流となっているが、さらなる体積当たりの電気容量が大きく、安価な蓄電池として電荷が2価のマグネシウム蓄電池が次世代蓄電池として注目されている。
しかし、Mgをそのまま蓄電池の負極材に用いた場合に、電気化学活性が不十分であり、実用化までに至っていない。
本出願に係る発明者である栗原らは、Cuを含有するマグネシウム合金を用いることにより充放電中に粒子状のMgCuが露出して、電気化学デバイスとしての性能(レート特性)が格段に向上することを報告している(特許文献1)。また、圧延展伸材で導入できるCa、質量%で0.01~0.70%を添加し、表面と(0001)面を傾斜させて存在させると電気化学デバイスとしての性能(レート特性)が格段に向上することを報告している(特許文献2)。
また、附田らは、熱間圧延や冷間加工による薄板の圧延では、比較的高濃度のCaを含有するMg合金を得ることは困難であるが、ロール式急冷凝固法等のいわゆる液体急冷凝固法によれば、高濃度のCa添加Mg合金が得られることに着目し、同工法により厚さ0.1mmオーダーのMg-5.3%Al-3%Ca合金の薄帯を製作し評価したところ、電気化学活性がAZ31圧延材の数十倍に達していることが分かり、これは結晶構造がランダム配向で、組織はサブミクロンオーダーの微細Mg相と、その粒界に第二相としてAlCa,MgCa,(Mg,Al)Ca等の金属間化合物によるものと推定されることを報告している(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2020/013328号公報
【特許文献2】WO2020/013327号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Materials Transactions:Vol.63(2022), No.4, pp.408-414.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、さらに電気化学活性に優れたマグネシウム合金からなる蓄電池用の電極材料及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
Mg合金材料を蓄電池の負極材の電極材料に用いるには、結晶粒の微細化及び粒界晶出物の制御のみならず、充放電反応特性の向上の観点からも電極材表面積の増大化が不可欠として研究した結果、本発明に至った。
【0007】
本発明に係る蓄電池用の負極材料は、マグネシウム合金からなる蓄電池用の電極材料であって、以下質量%にてAl:6.0~12.0%,Ca:2.0~5.0%含有していることを特徴とする。
また、本発明に係る蓄電池用の負極材料の製造方法は、Al:6.0~12.0%,Ca:2.0~5.0%含有するマグネシウム合金を用いて液体急冷凝固法により薄帯を得ることを特徴とする。
ここで、Al:6.0~12.0%,Ca:2.0~5.0%含有するマグネシウム合金を用いて液体急冷凝固法により薄帯を得るステップと、前記薄板材にレーザー加工により凹凸又は/及び孔を得るステップとを有するのが好ましい。
【0008】
詳細は後述するが、Mgに単にAl単独あるいはCa単独で添加すると、電気化学的活性が低下するが、Mgに所定のAl量とCa量とを組み合せて合金化すると、電気化学的活性が向上することから、附田らは非特許文献1にて報告しているとおり、これまでにMg-5.3%Al-3%CaからなるMg合金を提案している。
今回、液体急冷凝固法に得られたMg-Al-Ca系合金の薄帯の表面積増大を目的に、フェムト秒レーザーにてレーザー加工を実施したところ、表面から微粉が発生することが明らかになった。
そこで、さらにAlとCaとの添加量を検討した結果、Alを6.0%以上添加することで、この微粉化を抑えることができ、本発明に至ったものである。
【0009】
なお、従来のAZ31の圧延材に対して電気化学活性を向上させる点では、Al:3.0~12%の範囲,Ca:2.0~8.0%の範囲からなるMg合金であってもよい。
これらのMg合金も液体急冷凝固法により、厚さ0.2mm以下の薄板材(薄帯)を得ることができる。
【0010】
本発明において、Al:6.0~12.0%,Ca:2.0~5.0%含有しているマグネシウム合金(Mg合金)と表現したのは、Al:6.0~12.0%,Ca:2.0~5.0%含有し、残部がMgからなる合金のみならず、必要に応じて他の成分が含まれていてもよい趣旨である。
その場合に、電気化学活性に悪影響を与えない範囲にて、不純物や他の成分が含まれていてもよい。
【0011】
本発明において、液体急冷凝固法は、所定の合金組成からなる溶融金属の溶湯を回転ロールに向けて供給することで、溶湯がこの回転ロールにて急冷凝固され、帯状の薄板材が得られるものであれば、公知の技術を用いることができる。
例えば、単ロール液体急冷凝固法,双ロール液体急冷凝固法,遊星ロール液体急冷凝固法,遠心液体急冷凝固法等が例として挙げられる。
【0012】
本発明においてレーザー加工とは、電極材の電気化学活性表面積を増大させる目的で行われるレーザー加工をいい、近年は超短光パルス発生とその増幅技術が急速に発展しており、パルス幅がフェムト秒(10-15s)~アト秒(10-18s)レベル、ピーク強度がテラワット(TW=1012W)~ペタワット(PW=1015W)レベルまで、超高速,超電界化が進んでいる。
このようなレーザー加工においては熱影響を抑えつつ、微細な加工が可能になっている。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る蓄電池用の電極材料(負極材)にあっては、Mg合金の組織において結晶粒界に(Mg,Al)Caが晶出し、電気化学活性が向上し、レーザー加工にて微粉化を抑えつつ、表面積を増大させることができるので、さらに電気化学活性を向上させることができる。
また、電極材のレーザー加工と同時にCu箔やAl箔等からなる集電体との接合も可能になることが期待される。
さらに、Mg溶湯は反応性が高いが、Caの添加による防燃効果も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】Mg-A%Al-3%Ca合金の定電流充電特性を評価したグラフを示す。グラフ中、AX03,AX33,AX63,AX93,AX143は、それぞれAlの含有量が0,3,6,9,14%であることを示す。
図2】Mg-6%Al-X%Ca合金の定電流充電特性を評価したグラフを示す。グラフ中、AX60,AX61,AX63,AX65,AX612は、それぞれCaの含有量が0,1,3,5,12%であることを示す。
図3】Mg-9%Al-X%Ca合金の定電流充電特性を評価したグラフを示す。グラフ中、AX90,AX91,AX93,AX95は、それぞれCa含有量が0,1,3,5%であることを示す。
図4】レーザー加工の有無による定電流充電特性を評価したグラフを示す。グラフ中、AX93はMg-9%Al-3%Ca合金薄帯,AX93-Laserは、上記合金薄板材の表面にレーザー加工した結果、AZ31RはMg-3%Al-1%Zn合金圧延板,AZ31Rはその圧延板の表面にレーザー加工した結果を示す。
図5】MgにAlを0,6,9%をそれぞれ添加した場合の定電流充電特性変化を示す。
図6】MgにCaを0,3,15,30をそれぞれ添加した場合の定電流充電特性変化を示す。
図7】マグネシウム蓄電池の模式図を示す。
図8】単一ロールによる液体急冷凝固法の構成例を示す。
図9】レーザー加工した薄板材の表面及び裏面の写真を示す。
図10】レーザー加工による表面積の変化を示す。
図11】Al集電体箔の上に電極材を重ね、レーザー加工にて表面積増大と同時にこの電極材を集電体に接合する例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
Mgに所定の量のAl,Caを添加したMg合金の溶湯を調整し、図8に示した単一ロールによる液体急冷凝固法にて、厚さ0.1mmオーダーの薄帯を作製し、定電流充電特性を評価したので、以下説明する。
定電流充電特性は、3極式セルを用いて実施した。
【0016】
本発明に係るマグネシウム合金からなる電極を陰極材(負極材)に用いた場合の蓄電池の構造例を図7に模式的に示す。
本発明は、このような負極材に適用した場合に効果的である。
【0017】
単一ロール式液体急冷凝固法による薄帯材の製造例を図8に示す。
高速回転する冷却用の単一ロール(Cooling roll)表面に向けて、ノズル(SUS430 nozzle)中に装填した供給材(Extrude disc)に加熱と噴射圧(Injection pressure)を加えて噴射する例となっている。
なお、薄板材が得られれば、これに限定されない。
【0018】
各種マグネシウム合金を用いて、厚さ0.15mmの薄板材を作製し、その定電流充電特性を評価した結果を図1図6のグラフに示す。
図5はMgにAlを単独で添加した場合、図6はMgにCaを単独で添加した場合の結果を示す。
これらのグラフから、MgにAl又はCaを単独にて添加すると、逆に電気化学活性が低下することがわかる。
これに対して、図1にMg-A%Al-3%Caの合金の評価結果を示すように、Mgに3%のCaを添加し、これにAlを添加すると電気化学活性が向上し、Alの添加量が14%(AX143)では低下していることから、Alの添加量は3.0~12%の範囲が好ましい。
図2は、Mg-6%Al-X%Ca合金であり、Caの添加量による電気化学活性を評価したものである。
この場合に、Caの添加量が12%(AX612)にて活性が低下していることから、Caの添加量は2.0~8.0%の範囲が好ましい。
図3は、Mg-9%Al-X%Ca合金を評価した結果を示す。
このグラフからAlの添加量が9%(6%以上)の場合には、Caの添加量は2.0~5.0%の範囲が好ましいことが分かる。
【0019】
次に、上記単一ロール式液体急冷凝固法にて0.15mmのMg-9%Al-3%Ca合金薄帯と、圧延にて0.28mmのMg―3%Al-1%Zn(AZ31R)合金を作製し、レーザー加工の有無による定電流充電特性評価した結果を図4に示す。
レーザー加工は、フェムト秒レーザーにより穴直径60μm,最密充填配置の中心間距離80μmの貫通孔をあけた(AX93-Laser,AZ31R-Laser)。
その表面(Free solidification side)と、裏面(Roll contact side)の拡大写真を図9に示す。
図10に穴径40μm、60μm,中心間距離と表面積の関係を示す。
図4に示したレーザー加工の有無による定電流充填特性の結果から、レーザー加工にて表面積が2倍以上増加し、電気化学活性が向上することが分かる。
Mg-3%Al-3%Caの合金からなる薄板材では、レーザー加工の際に多くの微粉が発生したが、Alの添加量を6%以上にすると、この微粉化を抑えることができた。
したがって、レーザー加工を施す場合にあっては、Al:6.0%~12.0%,Ca:2.0~5.0%の範囲が好ましい。
また、このようなレーザー加工を用いると、図11に示すようにレーザー加工と同時に孔の深さを調整することで、電極材を集電体に接合することも可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11