(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157739
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】冷蔵庫
(51)【国際特許分類】
F25D 17/08 20060101AFI20231019BHJP
A23L 3/365 20060101ALN20231019BHJP
A23L 3/36 20060101ALN20231019BHJP
A23B 7/04 20060101ALN20231019BHJP
【FI】
F25D17/08 308
A23L3/365
A23L3/36 A
A23B7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067828
(22)【出願日】2022-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】307036856
【氏名又は名称】アクア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】星野 仁
(72)【発明者】
【氏名】川野 啓太
(72)【発明者】
【氏名】和田 芳彦
【テーマコード(参考)】
3L345
4B022
4B169
【Fターム(参考)】
3L345AA02
3L345AA16
3L345BB02
3L345CC06
3L345DD08
3L345DD18
3L345DD24
3L345DD70
3L345EE03
3L345EE33
3L345EE53
3L345FF03
3L345FF12
3L345FF32
3L345FF45
3L345KK01
3L345KK02
3L345KK04
3L345KK05
4B022LA05
4B022LA06
4B022LB01
4B022LF02
4B022LN01
4B022LP02
4B022LT06
4B169AA04
4B169CA04
4B169CA05
4B169CA07
4B169HA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】品質低下を生じさせずに生鮮食品の長期保存が可能な冷蔵庫を提供する。
【解決手段】生鮮食品Gを収納する収納領域20と、収納領域20に収納された生鮮食品Gを冷却する冷却機構と、収納領域20に収納された生鮮食品Gの表面温度を測定する温度センサ40と、温度センサ40の測定温度に基づき、冷却機構を制御する制御部と、を備え、制御部は冷却機構を制御して、はじめに、緩慢冷凍により収納領域20内に収納された生鮮食品Gに含まれる水分を過冷却状態にし、緩慢冷凍により下降していた温度センサ40の測定温度が上昇に転じたとき、生鮮食品Gの冷却を緩慢冷凍から急速冷凍に切り替え、急速冷凍により下降していた温度センサ40の測定温度が通常冷凍温度に達したとき、温度センサ40の測定温度が通常冷凍温度で保たれるようにする冷蔵庫を提供する。
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生鮮食品を収納する収納領域と、
前記収納領域に収納された生鮮食品を冷却する冷却機構と、
前記収納領域に収納された生鮮食品の表面温度を測定する温度センサと、
前記温度センサの測定温度に基づき、前記冷却機構を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は前記冷却機構を制御して、
はじめに、緩慢冷凍により前記生鮮食品に含まれる水分を過冷却状態にし、
前記温度センサの測定温度が上昇に転じたとき、緩慢冷凍から急速冷凍に切り替え、
前記温度センサの測定温度が通常冷凍温度に達したとき、前記温度センサの測定温度が前記通常冷凍温度で保たれるように制御することを特徴とする冷蔵庫。
【請求項2】
前記収納領域は、冷凍室内に配置された筐体に覆われており、
前記冷却機構は、
蒸発器と、第1ファンと、前記第1ファンの風力で前記蒸発器を通過した気体が開口を介して前記冷凍室内に流入するための冷却流路と、
前記収納領域と前記冷却流路とを連通させる急冷用流路と、
前記急冷用流路の開閉を行う開閉部と、を備え、
前記開閉部により前記急冷用流路が閉のとき、前記筐体の周囲の気体による冷却で前記収納領域内の生鮮食品が緩慢冷凍され、
前記開閉部により前記急冷用流路が開のとき、前記蒸発器を通過した気体が前記急冷用流路を介して前記収納領域内に流入し、前記収納領域内の生鮮食品が急速冷凍されることを特徴とする請求項1に記載の冷蔵庫。
【請求項3】
第2ファンを更に備え、
前記開閉部により前記急冷用流路が開のとき、前記第1ファンの風力に加えて、前記急冷用流路内に配置された前記第2ファンの風力により、前記蒸発器を通過した気体が前記収納領域内に流入することを特徴とする請求項2に記載の冷蔵庫。
【請求項4】
緩慢冷凍による前記温度センサの測定温度の降下量は0.01℃/min以下であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の冷蔵庫。
【請求項5】
急速冷凍において、前記温度センサの測定温度は-5℃以上-1℃以下の範囲内にある時間が30分以内であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の冷蔵庫。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生鮮食品の収納領域を備えた冷蔵庫に関する。
【背景技術】
【0002】
生鮮食品、例えば野菜を冷凍するとき、野菜に含まれる水分が凍結することにより体積が膨張し、野菜の細胞にダメ-ジを与え、細胞膜を損傷させることが知られている。このため、解凍時に、ドリップとして栄養素が溶けた水分とともに流出し、野菜の冷凍による品質低下が生じる。
【0003】
これに対処するため、野菜に含まれる水分を過冷却状態になるように、過冷却温度に設定された過冷却保存室を有する冷蔵庫が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、野菜に含まれる水分を過冷却状態のまま保ち続けることはできず、過冷却が解除されて氷の結晶が生じる。特許文献1に記載の冷蔵庫では、過冷却が解除された後も同じ温度設定が維持されるので、生成された氷の結晶が互いに結合して大きな氷の結晶となる。よって、大きくなった氷が野菜の細胞にダメ-ジを与え、細胞膜を損傷させるため、冷凍による野菜の品質低下の問題が生じる。
【0006】
従って、本発明の目的は、前述の課題を解決するものであり、品質低下を生じさせずに生鮮食品の長期保存が可能な冷蔵庫を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の冷蔵庫は、
生鮮食品を収納する収納領域と、
前記収納領域に収納された生鮮食品を冷却する冷却機構と、
前記収納領域に収納された生鮮食品の表面温度を測定する温度センサと、
前記温度センサの測定温度に基づき、前記冷却機構を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は前記冷却機構を制御して、
はじめに、緩慢冷凍により前記生鮮食品に含まれる水分を過冷却状態にし、
前記温度センサの測定温度が上昇に転じたとき、緩慢冷凍から急速冷凍に切り替え、
前記温度センサの測定温度が通常冷凍温度に達したとき、前記温度センサの測定温度が前記通常冷凍温度で保たれるように制御することを特徴とする。
【0008】
本発明では、緩慢冷凍により生鮮食品に含まれる水分を過冷却状態にし、温度センサで生鮮食品の表面温度を測定することにより、過冷却状態が解除されて表面温度が上昇するタイミングを的確に把握することができる。過冷却状態が解除されたときに小さな氷の結晶が生じるが、すぐに急速冷凍に切り替えることにより、生成した氷の結晶が互いに結合してより大きな結晶になるのを防ぐことができる。そして、生鮮食品の温度を通常冷凍温度で保つことにより、氷の結晶が小さい状態のまま、生鮮食品を長期間保存することができる。
【0009】
これにより、本発明の冷蔵庫では、品質低下を生じさせずに生鮮食品を長期保存することができる。
【0010】
また、本発明の冷蔵庫では、
前記収納領域は冷凍室内に配置された筐体に覆われており、
前記冷却機構は、
蒸発器と、第1ファンと、前記第1ファンの風力で前記蒸発器を通過した気体が開口を介して前記冷凍室内に流入するための冷却流路と、
前記収納領域と前記冷却流路とを連通させる急冷用流路と、
前記急冷用流路の開閉を行う開閉部と、
を備え、
前記開閉部により前記急冷用流路が閉のとき、前記筐体の周囲の気体による冷却で前記収納領域内の生鮮食品が緩慢冷凍され、
前記開閉部により前記急冷用流路が開のとき、前記蒸発器を通過した気体が前記急冷用流路を介して前記収納領域内に流入し、前記収納領域内の生鮮食品が急速冷凍されることを特徴とする。
【0011】
本発明では、冷凍室内の筐体の周囲の気体による間接的な冷却により緩慢冷凍を行うことができる。それとともに、急冷用流路を介して蒸発器を通過した気体を収納領域内に直接流入させることにより、急速冷凍を行うことができる。このように、冷蔵庫の既存の冷却機構を利用して、効率的に緩慢冷凍及び急速冷凍を行うことができる。
【0012】
また、本発明の冷蔵庫では、
第2ファンを更に備え、
前記開閉部により前記急冷用流路が開のとき、前記第1ファンの風力に加えて、前記急冷用流路内に配置された前記第2ファンの風力により、前記蒸発器を通過した気体が前記収納領域内に流入することを特徴とする。
【0013】
本発明では、第1ファンの風力に加えて第2ファンの風力により、蒸発器を通過した気体を収納領域内により速い流速で流入させることができる。これにより、より効果的に収納領域内の生鮮食品を急速冷凍することができる。
【0014】
本発明では、緩慢冷凍による前記温度センサの測定温度の降下量は0.01℃/min以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、緩慢冷凍による前記温度センサの測定温度の降下量が0.01℃/min以下なので、確実に生鮮食品含まれる水分を過冷却状態にすることができ、過冷却状態が解除されたときに、確実に小さな氷の結晶を生成できる。
【0016】
また、本発明の冷蔵庫では、
急速冷凍において、前記温度センサの測定温度は-5℃以上-1℃以下の範囲内にある時間が30分以内であることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、氷の結晶が結合し合ってより大きな結晶となり易い-5℃以上-1℃以下の温度範囲を迅速に脱出できるので、生鮮食品に含まれる氷の結晶の大きさを小さいまま維持できる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明では、品質低下を生じさせずに生鮮食品の長期保存が可能な冷蔵庫を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】収納領域に収納された生鮮食品を冷却する本発明の1つの実施形態に係る冷却機構の概要を示す冷蔵庫の側面断面図であって、緩慢冷凍の場合を示す図である。
【
図1B】
図1Aに示す冷却機構において、急速冷凍の場合を示す図である。
【
図2】
図1A、
図1Bに示す冷却機構を制御する制御システムの一例を示すブロック図である。
【
図3】温度センサで検出した収納領域に収納された生鮮食品の表面温度の時間的変化を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施例及び比較例を示す図(写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための実施形態を説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。各図面中、同一の機能を有する部材には、同一符号を付している場合がある。
【0021】
野菜、果物、鮮魚、精肉といった生鮮食品を、冷蔵庫で品質を低下させずに長期間保存することが望まれている。長期保存するには、生鮮食品を冷凍保存するのが有効である。しかし、特に生鮮食品を冷凍する場合、冷凍時に生鮮食品に含まれる水分が凍結して体積が膨張する。これにより、生鮮食品の細胞にダメ-ジを与え、細胞膜を損傷させる。このため、解凍時に、ドリップとして、栄養素が水分とともに流出する。これにより、栄養素が失われ、水分が抜けて歯ごたえや食感が変化して、生鮮食品の品質低下が生じる。特に、生鮮食品の中でも、野菜で大きな問題となる。
【0022】
このため、業務用の冷凍野菜を作る場合には、冷凍前に野菜の水分を少なくする工夫や、プランチングと呼ばれる簡単な加熱処理を行って、冷凍による生鮮食品の品質低下を抑制している。しかし、家庭では、前述のような前処理は大きな手間がかかるので、野菜を冷蔵庫で冷凍して保存することは推奨されてこなかった。これまでも野菜室の機能向上を図って、野菜の長期保存が試みられているが、1~2週間程度しか鮮度が保てず、冷凍保存のように1ヶ月以上の長期保存は実現できていない。
【0023】
下記に示す本発明の1つの実施形態に係る冷却機構を備えた冷蔵庫2によれば、収納領域20に収納された生鮮食品Gの品質を低下させずに、1ヶ月以上の長期保存が可能となる。
【0024】
(1つの実施形態に係る冷却機構)
図1Aは、収納領域20に収納された生鮮食品Gを冷却する本発明の1つの実施形態に係る冷却機構の概要を示す冷蔵庫2の側面断面図であって、緩慢冷凍の場合を示す図である。
図1Bは、
図1Aに示す冷却機構において、急速冷凍の場合を示す図である。
【0025】
本実施形態に係る冷蔵庫2は、外箱と内箱の間に断熱材が充填された本体4と、本体4の前側(図で左側)に回転自在に取り付けられた扉6とを備える。本体4と扉6とで囲まれた空間には、前側(図で左側)に冷凍室8が配置され、仕切板12を介して、後ろ側(図で右側)に冷却流路10が配置されている。冷凍室8の上側には、図示されていない冷蔵室が配置されている。
【0026】
本体4の後側の内面と仕切板12とで囲まれた冷却流路10には、蒸発器14及び第1ファン16が配置されている。蒸発器14は、冷媒が流れる冷却サイクルの一部を構成する。冷却サイクルでは、圧縮機18で吐出された冷媒が、凝縮器、キャピラリチューブ等を流れて蒸発器14に流入し、蒸発器14の熱交換チューブを流れた溶媒が、再び圧縮機18の吸込側に戻るようになっている。
【0027】
第1ファン16が稼働することにより、冷却流路10内の気体が下から上の方向に流動し、蒸発器14を通過する。気体は、蒸発器14の熱交換チューブの間を通過するときに冷却される。冷却された気体は、開口12Aを介して、冷凍室8内に流入することができる。更に詳細に述べれば、図示しない冷凍室ダンパにより、開口12Aを開閉することができる。冷凍室ダンパが開のとき、蒸発器14を通過した気体が冷凍室8内に流入し、冷凍室8内を流れて、再び下側の開口から冷却流路10内に流入し、蒸発器14の下側に戻る。
【0028】
冷凍室ダンパが閉のときには、蒸発器14を通過した気体が冷凍室8内に流入しないようになっている。蒸発器14を通過した気体は、冷却通路10内を図示された領域よりも上側へも流れ、冷蔵室内に流入することもできる。
図1A、
図1Bでは、冷蔵室ダンパ38が閉になっており、蒸発器14を通過した気体が冷蔵室側に流れない状態を示す。
【0029】
本実施形態では、筐体22が冷凍室8の中に配置されており、筐体22に覆われた収納領域20に野菜、果物、鮮魚、精肉等の生鮮食品Gが収納される。筐体22は断熱材で覆われている。これにより、冷凍室8の中に配置されていても、収納領域20に収納された生鮮食品Gが急速冷凍されるのを防ぐことができる。
【0030】
収納領域20には入側開口24が設けられ、入側開口24にダクト32の出側の端部が開口している。ダクト32の入側の端部は、冷却流路10に開口している。ダクト32により、筐体22で囲まれた収納領域20と冷却流路10とを連通する急冷用流路30が形成されている。急冷用流路30内には、ダンパ34及び第2ファン36が配置されている。ダンパ34が開のときには、収納領域20と冷却流路10とが連通し、ダンパ34が閉のときには、収納領域20と冷却流路10とが連通しない。ダンパ34を、急冷用流路30の開閉を行う開閉部と称することもできる。
【0031】
第1ファン16の風力で気体は流動するので、ダンパ34が開のとき、蒸発器14を通過した気体は急冷用流路30を流れて収納領域20内に流入する。これに加えて、第2ファン36を稼働させることにより、蒸発器14を通過した気体を収納領域20内により速い流速で流入させることができる。これにより、収納領域20に収納された生鮮食品Gをより強く冷却することができる。収納領域20内に流入した気体は、出側開口26から収納領域20の外側へ流出する。流出した気体は、冷凍室8内を流れて、再び冷却流路10に戻る。
【0032】
本実施形態では、ダクト32が筐体22の上面に接続されているが、これに限られるものではない。ダクト32が筐体22の側面や底面に取り付けられる場合もあり得る。また、ダンパ34や第2ファン36が配置可能であれば、筐体22の後側を開口させて、直接、冷却流路10と連通させることもできる。
【0033】
以上のように、本実施形態に係る冷却機構は、冷却流路10、蒸発器14、第1ファン16及び圧縮機18といった冷蔵庫2の既存の冷却機構を利用している。更に、本実施形態に係る冷却機構は、収納領域20に収納された生鮮食品Gを急速冷凍するための、急冷用流路30(ダクト32)、ダンパ34及び第2ファン36を含む。
【0034】
(冷却機構を制御する制御システム)
図2は、
図1A、
図1Bに示す冷却機構を制御する制御システムの一例を示すブロック図である。冷蔵庫2の制御システムでは、第1ファン16、圧縮機18、ダンパ34及び第2ファン36を制御する制御部50を備える。また、制御部50は、収納領域20に配置され、収納領域20に収納された生鮮食品Gの表面温度を測定する温度センサ40から信号を受けるようになっている。
【0035】
温度センサ40は、生鮮食品Gから放射された赤外線を検出素子に集光し、検出素子で電気信号に変換して制御部50へ送信する。生鮮食品Gが透光性を有する樹脂製の袋等で覆われていても、生鮮食品Gから放射された赤外線が樹脂製袋を透過して検出素子に入射するので、生鮮食品Gの表面温度を測定することができる。
【0036】
(冷却機構における気体の流れ)
制御部50の制御に基づく、前述の冷却機構における気体に流れを以下に説明する。
<緩慢冷凍>
制御部50が、第1ファン16を稼働させ、冷凍室ダンパを開にすることにより、蒸発器14を通過した気体は、開口12Aを介して冷凍室8に流入する。制御部50の制御により、第2ファン36が停止し、ダンパ34が閉のとき、急冷用流路30が閉となり、蒸発器14を通過した気体は、収納領域20内に流入しない状態となっている。
【0037】
このとき、冷凍室8内に配置された筐体22で囲まれた収納領域20に収納された生鮮食品Gの冷却を考えると、次のようになる。
【0038】
筐体22の外面と筐体22の周囲の気体との間の熱伝達、断熱材を含む筐体22の外面から内面への熱伝導、筐体22の内面と収納領域20内の気体との間の熱伝達により、収納領域20内の気体が冷却される。そして、冷却された収納領域20内の気体と収納された生鮮食品Gの表面との間の熱伝達で、生鮮食品Gが緩慢冷凍される。
【0039】
緩慢冷凍の程度については、圧縮機18、第1ファン16等の制御による、冷凍室8内の筐体22の周囲の気体の温度と、筐体22の断熱の程度により定まる。筐体22の周囲の気体の温度を比較的高くして緩慢冷凍を行う場合には、断熱材で覆わない樹脂製の筐体22で収納領域20を囲むことも考えられる。
【0040】
<急速冷凍>
第1ファン16が稼働し、冷凍室ダンパが開のときにおいて、制御部50が、第2ファン36も稼働し、ダンパ34を閉から開の状態にすると、急冷用流路30が開の状態になる。このとき、蒸発器14を通過した気体は、急冷用流路30を介して収納領域20内に流入する。蒸発器14を通過した気体は、第1ファン16の風力に加えて、急冷用流路30内に配置された第2ファン36の風力により、収納領域20内に強く吹き込まれる。これにより、収納領域20に収納された生鮮食品Gに冷気を強く当てて、急速冷凍することができる。急冷用流路30を開閉する開閉手段は、ダンパ34に限られるものではなく、電磁弁をはじめとするその他の任意の開閉機構を採用することができる。
【0041】
(冷却の制御)
図3は、温度センサ40で検出した収納領域20に収納された生鮮食品Gの表面温度の時間的変化を示すグラフである。次に、
図3を参照しながら、本実施形態に係る冷却機構における冷却の制御を説明する。
図3に示すグラフの縦軸は、温度センサ40で測定した生鮮食品Gの表面温度(℃)を示し、横軸は冷却の経過時間(min)を示す。
【0042】
前述のように、制御部50の制御により、第1ファン16が稼働し、冷凍室ダンパが開のときにおいて、第2ファン36が停止し、ダンパ34が閉で急冷用流路30が閉のとき、冷凍室8内の筐体22の周囲の気体による冷却で収納領域20内の生鮮食品Gは緩慢冷凍される。このとき温度センサ40で測定した生鮮食品Gの表面温度は、
図3に示すグラフに示すように、0.01℃/minという遅い冷却速度で徐々に降下していく。このような緩慢冷凍により、生鮮食品Gに含まれる水分は、凝固点以下の温度まで冷却しても固体にならず、液体のままの過冷却の状態となる。
【0043】
0.01℃/minより遅い冷却速度の緩慢冷凍でも過冷却の状態となるが、冷凍効率等を考慮すると、0.005℃/min以上0.01℃/min以下の範囲の冷却速度で緩慢冷凍するのが好ましい。
【0044】
温度センサ40の測定温度(生鮮食品Gの表面温度)の降下量を0.01℃/min以下にすることにより、確実に生鮮食品Gに含まれる水分を過冷却状態にすることができる。これにより、過冷却状態が解除されたときに、確実に小さな氷の結晶を生成することができる。
【0045】
過冷却の状態は不安定な状態であり、過冷却の状態を長期間維持することは難しい。核となり得る粒子の存在や微少な振動等により、過冷却の状態の水は急に凝固を開始する。凝固は吸熱反応なので、
図3のグラフに示すように、凝固が始まると、徐々に降下していた生鮮食品Gの表面温度が急に上昇に転じる。
図3では、生鮮食品Gの表面温度が-4.5℃程度まで下がったときに、凝固が始まり、急に-0.5℃ぐらいまで温度が上昇したところを示す。
【0046】
温度センサ40の測定温度(生鮮食品Gの表面温度)に基づき、生鮮食品Gの表面温度が急に上昇に転じたとき、制御部50は、第1ファン16の稼働を維持し、冷凍室ダンパが開の状態も維持した状態で、第2ファン36を稼働し、ダンパ34を閉から開に変更して、急冷用流路30を開の状態にする。これにより、蒸発器14を通過した気体を直接、収納領域20内に流入させて、収納領域20内の生鮮食品Gを急速冷凍することができる。
【0047】
過冷却状態の水で凝固が開始するか否かの判断は、例えば、所定の閾値(例えば、+0.5℃)を定めて、温度センサ40の測定温度(生鮮食品Gの表面温度)が閾値以上に上昇したとき、制御部50が、凝固開始と判断することを例示できる。
【0048】
生鮮食品Gに含まれる水分は、緩慢冷凍により過冷却状態となったため、凝固開始時に比較的小さな氷の結晶が生成される。しかし、-5℃以上-1℃以下の温度域では、生成された氷の結晶が互いに結合して大きな結晶となることが知られている。そこで、本実施形態では、温度センサの測定温度(生鮮食品Gの表面温度)が-5℃以上-1℃以下の範囲内にある時間が30分以内となるように急速冷凍を行う。言い換えれば、制御部50は、0.14℃/min以上の冷却速度で急速冷凍を行うように制御を行う。
【0049】
これにより、氷の結晶が結合し合ってより大きな結晶となり易い-5℃以上-1℃以下の温度範囲を迅速に脱出できるので、生鮮食品Gに含まれる氷の結晶の大きさを小さいまま維持できる。
【0050】
急速冷凍における制御としては、温度センサ40の測定温度(生鮮食品Gの表面温度)及び冷凍室8内の温度に基づいて、圧縮機18、第1ファン16及び第2ファン36の制御を行う。また、冷凍室ダンパやダンパ34の開度を制御することもできる。
【0051】
急速冷凍により、温度センサ40の測定温度(生鮮食品Gの表面温度)が下がり、通常の冷凍温度に達したとき、制御部50は、温度センサ40の測定温度(生鮮食品Gの表面温度)が通常の冷凍温度に保たれるように制御する。例えば、温度センサ40の測定温度(生鮮食品Gの表面温度)が-20℃以上-18℃以下の温度範囲に収まるように制御する。具体的には、急速冷凍の状態から、第2ファン36を停止したり、ダンパ34の開度を狭めたり、ダンパ34を開にする等の制御が考えられる。更に、冷凍室8の冷却にも関わる圧縮機18、第1ファン16も制御して、温度センサ40の測定温度(生鮮食品Gの表面温度)が-20℃以上-18℃以下の温度範囲に収まるようにする。
【0052】
これにより、過冷却により生じた小さな氷の結晶が互いに結合するのを防いで、小さな氷の結晶のまま通常の冷凍温度で生鮮食品Gを長期間保存することができる。よって、生鮮食品Gに含まれる水分の凍結により、細胞にダメ-ジを与えたり、細胞膜を損傷させるのを防ぐことができる、これにより、解凍時に、ドリップとして栄養素が溶けた水分とともに流出して、品質低下が生じるのを防ぐことができる。
【0053】
冷凍室8を冷却する冷却サイクルの冷却性能や収納領域20の大きさ等によっては、第2ファン36を備えず、第1ファン16の風力のみにより、蒸発器14を通過した気体を収納領域20に供給する場合もあり得る。
【0054】
更に、前述のように、急冷用流路30を介して、蒸発器14を通過した気体を収納領域20に供給する場合に限られない。例えば、温度設定の高い冷却機構と、温度設定の低い冷却機構とを個別に備える冷蔵庫では、各々の冷却機構から温度の異なる気体を収納領域20に供給することにより、緩慢冷却及び急速冷凍を行うこともできる。
【0055】
また、筐体22にペルチェ素子のような加熱・冷却手段を備えることも考えられる。この場合、前述のような冷蔵庫2の冷却機構に、ペルチェ素子のような加熱・冷却手段を加えることもできる。
【0056】
以上のように、本実施形態に係る冷蔵庫2は、生鮮食品Gを収納する収納領域20と、収納領域20に収納された生鮮食品Gを冷却する冷却機構と、収納領域20に収納された生鮮食品Gの表面温度を測定する温度センサ40と、温度センサ40の測定温度に基づき、冷却機構を制御する制御部50と、を備え、制御部50は冷却機構を制御して、はじめに、緩慢冷凍により生鮮食品Gに含まれる水分を過冷却状態にし、温度センサ40の測定温度が上昇に転じたとき、緩慢冷凍から急速冷凍に切り替え、温度センサ40の測定温度が通常冷凍温度に達したとき、温度センサ40の測定温度が通常冷凍温度で保たれるように制御する。
【0057】
本実施形態では、緩慢冷凍により生鮮食品Gに含まれる水分を過冷却状態にし、温度センサ40で生鮮食品Gの表面温度を測定することにより、過冷却状態が解除されて表面温度が上昇するタイミングを的確に把握することができる。過冷却状態が解除されたときに小さな氷の結晶が生じるが、すぐに急速冷凍に切り替えることにより、生成した氷の結晶が互いに結合してより大きな結晶になるのを防ぐことができる。そして、生鮮食品Gの温度を通常冷凍温度で保つことにより、氷の結晶が小さい状態のまま、生鮮食品Gを長期間保存することができる。これにより、本実施形態に係る冷蔵庫2では、品質低下を生じさせずに生鮮食品Gを長期保存することができる。
【0058】
更に、本実施形態に係る冷蔵庫2は、収納領域20が冷凍室8内に配置された筐体22に覆われており、冷却機構が、蒸発器14と、第1ファン16と、第1ファン16の風力で蒸発器14を通過した気体が開口12Aを介して冷凍室8内に流入するための冷却流路10と、収納領域20と冷却流路10とを連通させる急冷用流路30と、急冷用流路30の開閉を行う開閉部34と、を備え、開閉部34により急冷用流路30が閉のとき、筐体22の周囲の気体による冷却で収納領域20内の生鮮食品Gが緩慢冷凍され、開閉部34により急冷用流路30が開のとき、蒸発器14を通過した気体が急冷用流路30を介して収納領域20内に流入し、収納領域20内の生鮮食品Gが急速冷凍される。
【0059】
冷凍室8内の筐体22の周囲の気体による間接的な冷却により、緩慢冷凍を行うことができる。それとともに、急冷用流路30を介して蒸発器14を通過した気体を収納領域20内に直接流入させることにより、急速冷凍を行うことができる。このように、冷蔵庫2の既存の冷却機構を利用して、効率的に緩慢冷凍及び急速冷凍を行うことができる。
【0060】
また、第2ファン36を更に備え、開閉部34により急冷用流路30が開のとき、第1ファン16の風力に加えて、急冷用流路30内に配置された第2ファン36の風力により、蒸発器14を通過した気体を収納領域20内により速い流速で流入させることができる。これにより、より効果的に収納領域20内の生鮮食品Gを急速冷凍することができる。
【0061】
(実施例・比較例)
図4は、本発明の実施例及び比較例を示す図(写真)である。前述の実施形態に示す冷却機構を試作し、実際にジャガイモを緩慢冷凍及び急速冷凍して実施例とした。更に、ジャガイモを急速冷凍だけして比較例とし、ジャガイモを通常冷凍だけして比較例とした。そして、実施例と比較例とについて、解凍後の表面の状態を観察し、解凍時のドリップ量(%)を測定した。
【0062】
図4から明らかなように、緩慢冷凍及び急速冷凍した実施例では、急速冷凍のみまたは通常冷凍のみの比較例に比べて、解凍後のジャガイモ表面のシワが少なくなっている。ドリップ量も、緩慢冷凍及び急速冷凍した実施例では4.5%であるのに対して、急速冷凍のみの比較例では6.7%や、通常冷凍のみの比較例では7.9%となり、実施例は比較例に比べてドリップ量が低い値となった。
【0063】
このように、実施例から、緩慢冷凍及び急速冷凍により、品質低下を生じさせずに生鮮食品Gを長期保存できることが実証された。
【0064】
本発明の実施の形態、実施の態様を説明したが、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施の形態、実施の態様における要素の組合せや順序の変化等は請求された本発明の範囲および思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【符号の説明】
【0065】
2 冷蔵庫
4 本体
6 扉
8 冷凍室
10 冷却流路
12 仕切板
12A 開口
14 蒸発器
16 第1ファン
18 圧縮機
20 収納領域
22 筐体
24 入側開口
26 出側開口
30 急冷用流路
32 ダクト
34 ダンパ
36 第2ファン
38 冷蔵室ダンパ
40 温度センサ
50 制御部
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