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特開2023-157748制御装置、制御方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157748
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 11/36 20060101AFI20231019BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20231019BHJP
   B22D 11/16 20060101ALI20231019BHJP
   B22D 11/11 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
G05B11/36 505Z
G05B23/02 302R
B22D11/16 104B
B22D11/11 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067843
(22)【出願日】2022-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】北田 宏
【テーマコード(参考)】
3C223
4E004
5H004
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223FF03
3C223FF16
3C223FF22
3C223FF26
3C223FF45
4E004MA05
4E004MB11
5H004GA29
5H004GB03
5H004KC08
5H004KC10
5H004KD31
(57)【要約】
【課題】プロセス信号がプラントの性能を直接的に示すものではない場合であっても、プラントの状態が異常である場合を判定して操作量を変更することによってプラントの状態を正常に近づけるように制御する。
【解決手段】プラントからプロセス信号を取得する計測手段と、プロセス信号から、プラントにおける操業が正常であることを示す1つの正常分類、および操業が異常であることを示す複数の異常分類のそれぞれへの分類確率を算出する分類手段と、複数の異常分類への分類確率から算出された性能指標推定値を目標値に近づけることによって複数の異常分類への分類確率がすべて0に近づくようにプラントの操作量を決定する操作量算出手段とを備える制御装置が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントからプロセス信号を取得する計測手段と、
前記プロセス信号から、前記プラントにおける操業が正常であることを示す1つの正常分類、および前記操業が異常であることを示す複数の異常分類のそれぞれへの分類確率を算出する分類手段と、
前記複数の異常分類への分類確率から算出された性能指標推定値を目標値に近づけることによって前記複数の異常分類への分類確率がすべて0に近づくように前記プラントの操作量を決定する操作量算出手段と
を備える制御装置。
【請求項2】
前記操作量算出手段は、前記操作量と前記性能指標推定値との間にフィードバックループを構成し、前記性能指標推定値と前記目標値との偏差を最小化するように前記操作量を算出する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記性能指標推定値の個数Lが前記プラント操作量の個数mより少ない場合には、前記プラント操作量に関して、新たな変数または制約条件を計m-L個を追加して、m個の操作量の値を算出する、請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記プラント操作量に関して、プラントの操作量の操業状態に異常を生じないように制約条件を追加して、m個の操作量の値を算出する、請求項1または請求項2に記載の制御装置。
【請求項5】
前記分類手段は、前記プラントの運転条件および前記プロセス信号を説明変数とする回帰モデルを用いて前記分類確率を算出する、請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項6】
前記分類手段は、前記プラントの運転条件および前記プロセス信号から算出される分類状態変数からソフトマックス関数を用いて前記分類確率を算出する、請求項5に記載の制御装置。
【請求項7】
前記分類手段は、前記プロセス信号を入力とするニューラルネットワークモデルを用いて前記分類状態変数を算出する、請求項6に記載の制御装置。
【請求項8】
前記プラントは、連続鋳造機であり、
前記プロセス信号は、前記連続鋳造機の鋳型に設置された測温装置によって取得された測温値であり、
前記正常分類は、前記鋳型内の溶鋼流に偏流が発生していない状態を示す分類であり、
前記複数の異常分類は、前記溶鋼流に第1の方向の偏流が発生している状態を示す第1の異常分類と、前記溶鋼流に第2の方向の偏流が発生している状態を示す第2の異常分類とを含み、
前記性能指標推定値は、前記第1の異常分類および前記第2の異常分類のそれぞれの分類確率から算出される対数オッズの差に基づく値であり、
前記操作量は、前記鋳型に配置された電磁ブレーキへの電流指示値である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項9】
前記操作量算出手段は、前記電流指示値が所定の設計値を下回らないように前記電流指示値を算出する、請求項8に記載の制御装置。
【請求項10】
プラントからプロセス信号を取得するステップと、
前記プロセス信号から、前記プラントにおける操業が正常であることを示す1つの正常分類、および前記操業が異常であることを示す複数の異常分類のそれぞれへの分類確率を算出するステップと、
前記複数の異常分類への分類確率から算出された性能指標推定値を目標値に近づけることによって前記複数の異常分類への分類確率がすべて0に近づくように前記プラントの操作量を決定するステップと
を含む制御方法。
【請求項11】
プラントからプロセス信号を取得する計測手段と、
前記プロセス信号から、前記プラントにおける操業が正常であることを示す1つの正常分類、および前記操業が異常であることを示す複数の異常分類のそれぞれへの分類確率を算出する分類手段と、
前記複数の異常分類への分類確率から算出された性能指標推定値を目標値に近づけることによって前記複数の異常分類への分類確率がすべて0に近づくように前記プラントの操作量を決定する操作量算出手段と
を備える制御装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、制御方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
製品の製造などを行うプラントでは、製造される製品の品質や操業の安定性などの性能を高めるために、プラントに設置された各種のセンサを用いてプロセス信号を検出して制御に利用している。検出したプロセス信号が性能を直接的に示す指標であれば、プロセス信号に応じて制御における操作量を決定することによって所望の性能を実現することは比較的容易であるが、プラントの性能が必ずしもプロセス信号によって直接的に示されるものではない場合もある。そのような場合には、検出されたプロセス信号およびプラントの運転条件を過去の実績データと対比することによってプラントの状態が異常か正常かを判定し、異常である場合には操作量を変更してプラントの状態を正常に近づけることが必要である。
【0003】
このように、プラントの運転状態の識別結果をもとに制御装置の制御量を演算する技術の例が、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載された技術では、水処理プラントの上位レベル制御装置において、計測装置から送られてくる現在の被処理水の状態データと、上位レベル制御装置から下位レベル制御装置に送られる現在の下位レベル制御値と、データベースに保持されている過去のプラント運転情報とを統計的に処理して、現在および過去の水処理プラントの運転状態を示す統計データが作成される。さらに、統計データに基づいて現在の水処理プラントの運転状態が識別され、統計データと現在の水処理プラントの運転状態とに基づいて新たな下位レベル制御値が演算される。水処理プラントの運転状態を識別するにあたっては、統計データに対してクラスタリングを行って、現在の水処理プラントの運転状態が各プラント状態要素に対してどの程度帰属しているかを表す状態帰属度が求められ、状態帰属度の重みづけによって運転状態が決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-140712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1における運転状態の識別は、下位レベル制御装置に与える制御量を決定するためだけに用いられている。つまり、特許文献1に記載された技術において、運転状態の識別はプラントの状態が異常か正常かを判定するものではない。従って、上述のようにプラントの状態が異常である場合に操作量を変更してプラントの状態を正常に近づける制御が必要とされる場合に、特許文献1の技術を適用することはできない。
【0006】
そこで、本発明は、プロセス信号がプラントの性能を直接的に示すものではない場合であっても、プラントの状態が異常である場合を判定して操作量を変更することによってプラントの状態を正常に近づけるように制御することを可能にする制御装置、制御方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある観点によれば、プラントからプロセス信号を取得する計測手段と、プロセス信号から、プラントにおける操業が正常であることを示す1つの正常分類、および操業が異常であることを示す複数の異常分類のそれぞれへの分類確率を算出する分類手段と、複数の異常分類への分類確率から算出された性能指標推定値を目標値に近づけることによって複数の異常分類への分類確率がすべて0に近づくようにプラントの操作量を決定する操作量算出手段とを備える制御装置が提供される。
【0008】
本発明の別の観点によれば、プラントからプロセス信号を取得するステップと、プロセス信号から、プラントにおける操業が正常であることを示す1つの正常分類、および操業が異常であることを示す複数の異常分類のそれぞれへの分類確率を算出するステップと、複数の異常分類への分類確率から算出された性能指標推定値を目標値に近づけることによって複数の異常分類への分類確率がすべて0に近づくようにプラントの操作量を決定するステップとを含む制御方法が提供される。
【0009】
本発明のさらに別の観点によれば、プラントからプロセス信号を取得する計測手段と、プロセス信号から、プラントにおける操業が正常であることを示す1つの正常分類、および操業が異常であることを示す複数の異常分類のそれぞれへの分類確率を算出する分類手段と、複数の異常分類への分類確率から算出された性能指標推定値を目標値に近づけることによって複数の異常分類への分類確率がすべて0に近づくようにプラントの操作量を決定する操作量算出手段とを備える制御装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムが提供される。
【0010】
上記の構成によれば、プロセス信号がプラントの性能を直接的に示すものではない場合であっても、プラントの操業状態を示す正常分類および複数の異常分類の分類確率を算出し、複数の異常分類の分類確率がすべて0に近づくようにプラントの操作量を決定することによって、プラントの状態を正常に近づけるように制御することができる。この際、複数の異常分類への分類確率がすべて0に近づくときに目標値に近づくように定義された性能指標推定値を用いることによって、安定的にプラントの状態を正常に近づけるような制御が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施形態に係るプラント制御システムを示す概略的なブロック図である。
図2】本発明の第1の実施形態において実行されるプラント制御方法を示す概略的なフローチャートである。
図3】分類手段がニューラルネットワークモデルを用いる場合について説明するための図である。
図4】実績データベースの構築方法の例について説明するための図である。
図5】性能指標推定値から操作量を算出するためのPI制御則の例を示す図である。
図6】本発明の第2の実施形態に係るプラント制御システムを示す概略的なブロック図である。
図7】本発明の第2の実施形態における連続鋳造機の鋳型付近の構成を示す図である。
図8図7に示した鋳型の拡大断面図である。
図9】連続鋳造機において正常に分類される鋳型銅板測温値の表面分布を示す図である。
図10】連続鋳造機において異常に分類される鋳型銅板測温値の表面分布を示す図である。
図11】本発明の第2の実施形態において実行されるプラント制御方法を示す概略的なフローチャートである。
図12】連続鋳造機における偏流の発生モデルにおいて、偏流抑制のためのPI制御を実施しなかった場合のシミュレーション結果を示す図である。
図13】連続鋳造機における偏流の発生モデルにおいて、偏流抑制のためのPI制御を実施した場合のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の例示的な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0013】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るプラント制御システムを示す概略的なブロック図である。プラント1は、操作装置2の操作に従って操業を実施する。操作装置2は、演算装置3が決定した操作量、具体的には例えば材料供給量、電力量、圧力、燃料供給量、または可動部の動作量などに従って、プラント1を操作する。また、プラント1では運転条件、例えば原料の成分、装入する材料の温度等が設定されており、この運転条件と操作装置2による操作とによって操業が実行される。プラント1に設置された各種のセンサ、具体的には温度計、圧力計、検流計または距離計などによって取得されたプロセス信号が、演算装置3に入力される。演算装置3は、以下で説明するような計測手段31、分類手段32および操作量算出手段33の機能によって、操作装置2における操作量を決定し、制御信号として出力する。演算装置3は、例えばCPU(Central Processing Unit)、記憶装置、通信装置、入出力手段などを備え、プログラムに従って各種の演算を実行する。プログラムは、記憶装置に格納されるか、またはリムーバブル記憶媒体に格納されて演算装置3に読み込まれる。演算装置3は、プログラムに従って動作することによって、制御装置として機能する。
【0014】
ここで、プラント1の性能、具体的には例えば製造される製品の品質や操業の安定性などは、運転条件および操作装置2による操作のみによって決定されるわけではなく、様々な外乱、具体的には例えば材料品質のばらつき、気温、湿度、設備の経年劣化、または操作量の測定誤差などの影響を受ける。従って、所望の性能を実現するために演算装置3において決定される操作量を最適化することは容易ではない。また、プロセス信号は、必ずしもプラント1の性能を直接的に示すものではない。つまり、プラント1の性能は、プロセス信号によって示される状態量を適切な関数に入力すれば自動的に評価されるようなものではない。本実施形態では、上記のような知見に基づき、プラント1において所望の性能を実現するために、演算装置3においてより適切な操作量を決定するための処理を実行する。
【0015】
図2は、本発明の第1の実施形態において実行されるプラント制御方法を示す概略的なフローチャートである。上述した演算装置3において、ステップS31は計測手段31によって実行され、ステップS32は分類手段32によって実行され、ステップS33は操作量算出手段33によって実行される。
【0016】
ステップS31において、計測手段31は、プラント1からプロセス信号を取得する。本実施形態において、プロセス信号はI種類の信号を含む(I≧1)。それぞれの信号は、例えば単一のセンサの測定値を示すものであってもよいし、複数のセンサの測定値の配列、平均または代表値を示すものであってもよい。以下では、計測手段31が取得するプロセス信号をs,・・・,sとする。
【0017】
ステップS32において、分類手段32は、プロセス信号s,・・・,sから予め定義されたn個の状態分類のそれぞれへの分類確率pを算出する(n≧2、i=1,・・・,n)。より具体的には、分類手段32は、式(1)に示す関数fを用いてプロセス信号s,・・・,sから分類状態変数z,・・・,zを算出する。分類状態変数zは各々が実数を取る変数であり、プロセス信号を状態分類iに分類する場合、zは分類状態変数のなかで最大の値をとる。ここで、a,・・・,aは運転条件を示す変数である。さらに、分類手段32は、式(2)に示すソフトマックス関数を用いて分類状態変数z,・・・,zから各状態分類iへの分類確率pを算出する。なお、n個の状態分類のうち、プラント1における操業が正常であることを示す分類は1つ(n番目の分類。以下、正常分類ともいう)であり、残りはプラント1における操業が異常であることを示す分類(1番目~n-1番目の分類。以下、異常分類ともいう)である。
【0018】
【数1】
【0019】
上記の分類状態変数z,・・・,zの算出は、例えば式(1)の関数fに線形モデルまたはニューラルネットワークモデルを用いて実行することができる。ここで、線形モデルを用いる場合、式(1)における関数fは式(3)に示すようなn行(I+J)列の係数行列Aとプロセス信号とプラント1の運転条件を並べたベクトルの積で表される。
【0020】
【数2】
【0021】
図3は、分類手段がニューラルネットワークモデルを用いる場合について説明するための図である。図示された例では、入力層、複数の中間層および出力層からなる多層型ニューラルネットワークモデルと出力層のユニットの出力を用いて分類確率を計算するソフトマックス関数が用いられる。ニューラルネットワークモデルは種々提案されているが、より具体的には多層パーセプトロンモデルを用いることができる。多層パーセプトロンモデルは、多入力1出力のユニットを並列に並べた中間層をもち、L-1段目の中間層の出力をL段目の中間層の入力とする多層型のモデルである。L段目の中間層のi番目のユニットには、L-1段目の中間層の各ユニットからの出力を並べた入力に対して荷重ベクトルWi(L)との内積をとった結果に式(4)のシグモイド関数を適用した0から1までの信号を出力するものが使われてもよい。なお、入力層はプロセス信号s,・・・,sをそのまま出力するユニットであり、その出力は1段目の中間層に入力される。また、出力層は中間層の最終段にあるn個のユニットの出力を並べた入力に対して荷重ベクトルWiFとの内積をとった結果をzとして出力するn個のユニットである。ソフトマックス関数は、式(2)の計算式に基づきz,・・・zを用いて各区分の分類確率pを出力する。
【0022】
【数3】
【0023】
分類手段32は、線形モデルを用いる場合には係数行列をパラメータとして動作し、またニューラルネットワークモデルを用いる場合は中間層の各ユニットにおける荷重係数ベクトルの各成分をパラメータとして動作する。これらのパラメータの値は、例えば過去の時刻tにおける運転条件データa1t,...,aJtおよびプロセス信号s1t,・・・,sItの組み合わせデータと時刻tにおいてプラントが正常分類かまたはいずれかの異常分類に属するか判定して定めた状態分類ラベルyitを、状態分類ラベルを教師データとして与えた上で学習計算することによって決定され、後述する実績データベース324に格納されている。
【0024】
図4は、実績データベースの構築方法の例について説明するための図である。図示された例では、プラント1のプロセス信号の複数セットの実績データ321と、実績データ321における各セットのプロセス信号が取得された時刻tにおける状態分類ラベル322とが蓄積される。これらの実績データ321におけるプロセス信号を説明変数とし、状態分類ラベル322yitに該当するi番目の成分を1、それ以外の成分を0とするn成分のベクトルデータdを目的変数としたものを教師データとして、パラメータの学習計算を実行する。分類手段32が線形回帰モデルを用いる場合、学習計算には例えば多クラスロジスティック回帰法(参考文献:C.M.ビショップ著,元田,栗田,樋口,松本,村田監訳,パターン認識と機械学 上,丸善出版,4.3.4節,p208)を用いることができる。また、分類手段32がニューラルネットワークモデルを用いる場合は例えばバックプロパゲーション法を用いることができる。これらの学習計算では、ソフトマックス関数の計算値pitの自然対数値logpitをi番目の成分とするベクトルと教師データベクトルdの内積をすべての教師データについて和を取り符号を反転させた値を評価関数

として、E(w)が最小になるように学習する。ただし、wは線形モデルの係数行列成分またはニューラルネットワークモデルの荷重係数からなるベクトル、Tは教師データの個数である。これにより、n個の状態分類のうちi番目の状態分類に分類されるべきプロセス信号が入力された場合にi番目の状態分類に分類される分類確率pが最大になるようにモデルのパラメータが決定される。このパラメータを、プラント1の運転条件323とともに実績データベース324に格納する。
【0025】
なお、上記の学習計算において与えられる状態分類ラベル322は、例えばプラント1の操業状態の観察や製品の品質検査の結果などによってオペレータにより(もしくは第2実施形態に記載のようにニューラルネットワークモデルを用いて)決定されるが、同じプロセス信号のセットについて複数の状態分類が該当する場合は、これらの状態分類を統合した状態分類ラベル322を設定することによって分類を排他的にすることができる。
【0026】
再び図2を参照して、ステップS33において、操作量算出手段33は、分類手段32が算出した状態分類への分類確率pのうち、異常分類の分類確率p,・・・,pn-1がすべて0に近づくようにプラント1の操作量を決定する。このように操作量を決定すれば、正常分類の分類確率pは1に近づくため、プラント1において正常な操業が実現される可能性が高くなる。上記のステップS31~S33の処理が、プラント1の制御周期ごとに、操業終了まで繰り返される(ステップS34)。
【0027】
上記のステップS33において、操作量算出手段33は、分類確率pを、式(5)を用いて対数オッズ推定値yに変換する。これによって、0から1の値をとる確率pを、-∞から+∞の値をとる単調な関数に変換することができる。なお、このような変換には対数オッズ推定値以外の値が用いられてもよい。また、式(6)に示すような微小な正の定数εを用いて確率pを上下限が制約されたp~に変換し、式(5)でこのp~を用いることによって、数値計算を安定させることができる。なお、定数εに基づき式(7)の定数Mを定義する。一方、pの値が0および1になることを仮定する場合にはM=∞とする。
【0028】
【数4】
【0029】
上述のように、分類手段32のモデルはプロセス信号が取得されたときの状態分類がi番目の分類である場合に、確率pが1に近づき、確率p,・・・,pi-1,pi+1,・・・,pはすべて0に近づくように学習される。この場合、i番目の分類の対数オッズ推定値yは正の大きな値になり、対数オッズ推定値y,・・・,yi-1,yi+1,・・・,yは負の大きな値になる。従って、異常分類の分類確率p,・・・,pn-1をすべて0に近づける場合、異常分類の対数オッズ推定値y,・・・,yn-1はすべて-∞に近づく。式(6)によって上下限が制約されたp~を用いる場合、異常分類の対数オッズ推定値y,・・・,yn-1は-Mに近づく。
【0030】
より具体的には、操作量算出手段33は、n-1個の異常分類から異なる2つの異常分類(i番目およびj番目、i<j、i,j=1,・・・,n-1)を抽出したときの組み合わせの個数をL=n(n-1)/2で表したとき、これらのL個の組み合わせ各々について、式(8)に示すように対数オッズ推定値y,yの差を性能指標推定値yijとする。全ての異常分類の確率の対数オッズが等しくなるのは、各々の対数オッズの値が-Mになるときに限られるので、この性能指標推定値yijがすべてのi,jの組み合わせについて0に近づけば、すべての異常分類の対数オッズ推定値y,・・・,yn-1は-Mに近づき、すべての異常分類の分類確率p,・・・,pn-1は0に近づく。なお、性能指標推定値yijは、対数オッズ推定値y,yの差に0でない定数aを乗じた値であってもよい。
【0031】
【数5】
【0032】
プラントの操作量がm個(m≧1)とする。操作量算出手段33は、m≧Lの場合にL個の性能指標推定値をすべて0に近づけるように少なくともL個の操作量を算出する。図5は、L個の性能指標推定値からL個の操作量を算出する場合に、性能指標推定値yijの各々からに一対一に対応する操作量uk(i,j)を求めるためのPI制御則の例を示す図である。上記のすべてのi,jとk(i,j)の組み合わせは例えばk(i,j)=j-i+(i-1)(2n-i)/2と定義すればよい。操作量算出手段33は、プラント1が操作量uに対して可制御かつ性能指標推定値yijに対して可観測である場合には操作量uk(i,j)と性能指標推定値yijとの間にフィードバックループを構成し、性能指標推定値yijと目標値0との偏差を最小化するように、定値制御能力を持った制御則、例えば図5に示すようなPI制御則に従って操作量uを算出する。なお、図5においてKIは積分ゲイン係数であり、Kpは比例ゲイン係数である。
【0033】
あるいは、操作量算出手段33は、プラント1に対する複数の操作量を所定の変換式で変換したL個の仮想的操作量を設定し、この仮想的操作量について性能指標推定値yijに対するフィードバックループを用いた上記のような制御則を適用して算出してもよい。この場合、上記変換式は、線形独立等一意に定まる逆変換式をもつものとし、算出された仮想的操作量を変換式を用いて逆変換することによって個々の操作量を算出する。
【0034】
なお、m=Lの場合には上記の逆変換によりすべての操作量が一意に定まるが、m>Lの場合にはL個の操作量しか逆変換式によって定まらない。その場合は、m-L個の操作量については、新たな変数かまたは制約条件を計m-L個設定して数理最適化を適用する等の方法で常に解が得られるようにして、プラント1の操作量が不定になることを避けてもよい。
【0035】
さらに、各々の操作量については、物理的な制約条件、およびプロセス信号から検出できない事前知識によるものも含めて、プラント1の操業状態に異常を生じないように制約条件を設定してもよい。
【0036】
以上で説明したような本発明の第1の実施形態によれば、プロセス信号がプラント1の性能を直接的に示すものではない場合であっても、プラント1の操業状態を示す正常分類および複数の異常分類の分類確率p,・・・,pを算出し、このうち複数の異常分類の分類確率p,・・・,pn-1がすべて0に近づくようにプラント1の操作量を決定することによって、プラント1の状態を正常に近づけるように制御することができる。この際、複数の異常分類への分類確率がすべて0に近づくときに目標値に近づくように定義された性能指標推定値yijを用いることによって、安定的にプラント1の状態を正常に近づけるような制御が可能になる。
【0037】
図6は、本発明の第2の実施形態に係るプラント制御システムを示す概略的なブロック図である。本実施形態におけるプラントは、連続鋳造機10である。連続鋳造機10は、本実施形態における操作装置である電磁ブレーキ制御装置20の操作に従って操業を実施する。電磁ブレーキ制御装置20は、演算装置30が決定した操作量、具体的には電磁ブレーキへの電流指示値u,uに従って、連続鋳造機10の電磁ブレーキ(後述)を操作する。また、連続鋳造機10では運転条件が設定されており、この運転条件と電磁ブレーキ制御装置20の操作とによって操業が実行される。連続鋳造機10の鋳型に設置された測温装置(後述)によって取得されたプロセス信号である測温値が、演算装置30に入力される。演算装置30は、図1の計測手段に対応する鋳型銅板測温装置131、分類手段に対応するニューラルネットワークモデル132、および操作量算出手段133の機能によって、操作装置2における操作量を決定し、制御信号として出力する。また、演算装置30は、分類選択手段134をさらに含む。分類選択手段134は、ニューラルネットワークモデル132が算出した分類確率から、鋳型銅板測温装置131が取得した測温値に対応付けられる分類ラベルを決定する。演算装置30は、例えばCPU、記憶装置、通信装置、入出力手段などを備え、プログラムに従って各種の演算を実行する。プログラムは、記憶装置に格納されるか、またはリムーバブル記憶媒体に格納されて演算装置30に読み込まれる。演算装置30は、プログラムに従って動作することによって、制御装置として機能する。
【0038】
図7は、本発明の第2の実施形態における連続鋳造機の鋳型付近の構成を示す図である。図1に示されるように、鋳型11の開口部の中心に浸漬ノズル12が配置され、浸漬ノズル12の吐出口13から溶鋼が供給される。鋳型11に接触した溶鋼は、冷却されて鋳型11に沿った凝固シェルを形成する。連続鋳造機では、凝固シェルをロール(図示せず)で支持しながら連続的に鋳型11から引き抜き、さらに鋳型11外で冷却水を吹き付けて溶鋼を完全に凝固させることによって鋳片を製造する。
【0039】
本実施形態では、鋳型11の各面で、鋳型11の周方向(図中のx方向)および鋳造方向、すなわち鋳型11の深さ方向(図中のz方向)に、鋳型11を構成する銅板の温度を測定するための測温装置14が配列される。測温装置14は、例えば熱電対、または光ファイバを用いたFBG(Fiber Bragg Grating)測温装置などの測温素子である。測温装置14の測温点は、熱電対の場合は接合点、FBG測温装置の場合は光ファイバのグレーチングの位置である。測温点は、例えば、鋳型11の各面の垂直方向中心線について対称に、かつ対向する各面の間で対応する位置に配置することが好ましい。
【0040】
また、鋳型11の長辺面に対向する位置に、電磁ブレーキ装置15が配置される。図7に示す例では、2組の電磁ブレーキ装置15が、鋳型11の長辺面の幅方向中心線を基準として両側に配置されている(第1および第2の電磁ブレーキ装置)。電磁ブレーキ装置15は、溶鋼流動制御手段の例であり、鋳型11を挟むようにN極とS極を配置した電磁石を備え、コイルに直流電流を流して溶鋼の吐出流に対して垂直な方向(N極からS極に向かう方向)に磁場を発生させることによって、ローレンツ力により吐出流の速度を抑制する。他の実施形態では、電磁ブレーキ装置15以外の溶鋼流動制御手段が配置されてもよい。電磁ブレーキ装置15は、測温装置14および電磁ブレーキ装置15にそれぞれ接続された演算装置30が決定する操作量に従って制御される。なお、簡単のため、測温装置14および電磁ブレーキ装置15と演算装置30とを接続する通信線は、一部だけが図示されている。
【0041】
例えば連続鋳造機10で偏平比の大きい矩形断面をもつスラブを鋳造する場合、浸漬ノズル12の吐出口13は鋳型11の矩形断面の両方の短辺面に向けられる。浸漬ノズル12内に介在物などの固着によるつまりがない場合には両側の吐出口13からの溶鋼流量はほぼ均等であるが、浸漬ノズル12内につまりが発生するとその付近で溶鋼流が乱れるため、両側の吐出口13の溶鋼流量が均等ではなくなる。また、吐出口13からの溶鋼流は設計上、鋳型11の矩形断面の両方の短辺面に向けられているが、上記のつまりなどの影響で溶鋼流の方向がいずれかの長辺面の側に傾く場合がある。このような両側の吐出口13からの溶鋼流量および溶鋼流の方向の変化が、浸漬ノズル12を中心とする鋳型11内の溶鋼流の非対称性、すなわち偏流を発生させる。本実施形態では、このような偏流が発生した状態を異常な操業とし、偏流が発生していない状態を正常な操業として、正常な操業を実現するために適切な操作量を決定する。
【0042】
図8は、図7に示した鋳型の拡大断面図である。図2に示されるように、鋳型11はめっきをした銅板16を筒状に組み合わせることによって形成されている。銅板16の外側に冷却水17を流すことによって、銅板16を介して溶鋼から抜熱され、鋳型11内面に凝固シェル18が形成される。鋳型11内の溶鋼と凝固シェル18との間では対流熱伝達により熱が伝えられる。この熱伝達における熱流束qは、熱伝達係数hを用いて以下の式(9)のように表される。なお、zは鋳型深さ方向位置、tは時刻、Tは溶鋼温度、Tは凝固シェルと溶鋼の界面温度である。
q(z,t)=h(z,t)(T-T) ・・・(9)
【0043】
熱伝達係数hは、溶鋼と凝固シェル18との間の境界層が層流境界層である場合は、溶鋼流速の1/2乗に比例して大きくなる。すなわち、凝固シェル18に沿う溶鋼流速成分が大きい位置では、熱伝達係数hが高くなる。また、鋳型11内の溶鋼温度はほぼ均一であるため、銅板16内部の温度分布は熱伝達係数hの分布を反映する。ある位置で熱伝達係数hが大きくなると、当該位置における銅板16への熱流入が増加し、銅板16に埋設された測温装置14の測温値Tm.obsも高くなるためである。
【0044】
偏流のような鋳型11内の溶鋼流の変化は、深さ方向について必ずしも一様ではない。従って、深さ方向について特定の点での測温値Tm.obsや熱伝達係数hを比較することによっては、必ずしも偏流の発生が検出されない。そこで、本実施形態では、以下で説明するように鋳型11の各面における測温値Tm.obs(または熱伝達係数h)の分布に基づいて溶鋼流動パターンを認識することで偏流を検出する。
【0045】
ここで、連続鋳造機のストランドの鋳造方向を北から南の方向と仮定すると、鋳型11の短辺方向は浸漬ノズル12に対して東および西に位置する。以下、限定的ではない例として、これらの方位を用いて説明する。この例において、鋳型11の短辺は東西方向にあるため、浸漬ノズル12の吐出口13もそれぞれ東および西を向いて配置される。本実施形態では、連続鋳造機の状態分類として、西側の吐出口13からの溶鋼流量がより多くなる西偏流、東側の吐出口13からの溶鋼流量がより多くなる東偏流、および東西の吐出口13の溶鋼流量が均等な中立の3つを定義する。西偏流および東偏流が異常分類であり、中立が正常分類である。また、測温装置14の測温値Tm.obsによって示される温度分布をプロセス信号とする。
【0046】
図9は連続鋳造機において正常に分類される鋳型銅板測温値の表面分布を示す図であり、図10は異常に分類される鋳型銅板測温値の表面分布を示す図である。なお、上記の方位の例に従うと、各図の左側が西、右側が東である。各図の上段の長方形は、鋳型11の南側の長辺面である。下段の3つの長方形は、左から、鋳型11の西側の短辺面、北側の長辺面、および東側の短辺面である。なお、以下の説明では、鋳型11の南側の長辺面をF面(Fix Side)、北側の長辺面をL面(Loose Side)ともいう。各図では、測温装置14の測温値Tm.obsの分布が灰色の濃淡で示されており、黒が低温、白が高温を意味する。ただし、温度は絶対的な温度ではなく、鋳造速度等による温度の時間平均の変化を考慮して、鋼種と鋳造条件等で整理した銅板上の位置ごとの平均温度からの偏差で示されている。図10に示された表面分布では、西側の短辺面の温度が東側の短辺面の温度に比べて高いため、西偏流が発生していると考えられる。
【0047】
図11は、本発明の第2の実施形態において実行されるプラント制御方法を示す概略的なフローチャートである。上述した演算装置30において、ステップS131は計測手段である鋳型銅板測温装置131によって実行され、ステップS132は分類手段であるニューラルネットワークモデル132によって実行され、ステップS133は操作量算出手段133によって実行され、ステップS134は分類選択手段134によって実行される。
【0048】
ステップS131において、鋳型銅板測温装置131は、連続鋳造機10に配置された測温装置14から測温値Tm.obsを取得する。測温値Tm.obsは、それぞれの測温装置14による測温値を並べたベクトルとしてニューラルネットワークモデル132に入力される。
【0049】
ステップS132において、ニューラルネットワークモデル132は、測温値Tm.obsから上記の3つの状態分類、すなわち西偏流、東偏流および中立への分類確率p,p,pneutを算出する。既に述べたように、西偏流および東偏流は異常分類であり、中立は正常分類である。
【0050】
ステップS133において、操作量算出手段133は、ニューラルネットワークモデル132が算出した分類確率p,p,pneutのうち、異常分類の分類確率p,pがすべて0に近づくように操作量である電磁ブレーキへの電流指示値u,uを決定する。このように操作量を決定すれば、正常分類の分類確率pneutは1に近づくため、連続鋳造機10において正常な操業が実現される可能性が高くなる。
【0051】
具体的には、操作量算出手段133は、西偏流と東偏流の分類確率p,pをそれぞれ上記の式(6)で定数ε=0.0001として確率p~,p~に変換し、式(10)を用いて対数オッズ推定値y~,y~を算出する。さらに、式(11)を用いて、西偏流と東偏流との対数オッズの差の1/2を偏流度y~として算出する。この偏流度y~は、上記の第1の実施形態で説明した性能指標推定値yijにあたる。
【0052】
【数6】
【0053】
式(6)で確率の上下限を設定したことによって、偏流がない場合には確率p~,p~が定数εに近く、偏流度y~は0に近くなり、対数オッズの差が極端に大きくなることがない。偏流度y~が絶対値が大きい正の値である場合には鋳型11内の溶鋼流動が東偏流である可能性が高く、偏流度y~が絶対値が大きい負の値である場合には鋳型11内の溶鋼流動が西偏流である可能性が高い。このように偏流の程度および方向を表現することができる偏流度y~は、性能指標推定値として現実のプロセスとの一致性が高い。従って、偏流度y~=0を目標値として電磁ブレーキへの電流指示値u,uを決定することによって、鋳型11内の溶鋼流動における偏流を抑制して正常な操業状態を維持することができる。
【0054】
本実施形態において、操作量算出手段133は、仮想的操作量u~を用いて電流指示値u,uを決定する。具体的には、操作量算出手段133は、PI制御則において、時刻tにおける仮想的操作量u~を式(12)、式(13)および式(14)を用いて逐次算出する。概ね、時刻tにおける偏流度y~が正の値である場合に仮想的操作量u~は負の値になり、偏流度y~が負の値である場合に仮想的操作量u~は正の値になる。
【0055】
【数7】
【0056】
時刻tにおける各電磁ブレーキへの電流指示値uet,uwtは、上記のようにして算出された仮想的操作量u~に基づいて以下の式(15)、式(16)および式(17)によって決定される。なお、決定の過程ではもう1つの仮想的操作量uctが用いられる。また、電流値uは、溶鋼の下向きの流れを抑制するために適切な磁場強度を実現する共通の設計値である。このような仮想的操作量uctおよび電流指示値uet,uwtの決定によって、仮想的操作量u~が負の値である場合は、東側の電磁ブレーキの電流指示値uetが設計値である電流値uから増加する。仮想的操作量u~が正の値である場合、西側の電磁ブレーキの電流指示値uwtが設計値である電流値uから増加する。また、仮想的操作量u~が定常的に0である場合には、電流指示値uet,uwtが電流値uに漸近し、かつ電流値uを下回らないように制御される。
【0057】
【数8】
【0058】
一方、ステップS134において、分類選択手段134は、ステップS132でニューラルネットワークモデル132が算出した分類確率p,p,pneutから、ステップS131で鋳型銅板測温装置131が取得した測温値Tm.obsに対応付けられる分類ラベルを決定する。例えば、分類ラベルは3次元のベクトル(v,v,vneut)であり、分類確率p,p,pneutの中で西偏流の分類確率pが最大である場合には(1,0,0)、東偏流の分類確率pが最大である場合には(0,1,0)、中立の分類確率pneutが最大である場合には(0,0,1)といったように、分類確率が最大である分類に対応する要素には1が、それ以外の要素には0が設定される。このような分類ラベルは、例えば第1の実施形態で図4を参照して説明したような実績データベースの構築において、状態分類ラベル322として利用することができる。上記のステップS131~S134の処理が、連続鋳造機10の制御周期ごとに、操業終了まで繰り返される(ステップS135)。
【0059】
以上で説明したような本発明の第2の実施形態によれば、鋳型11内の浸漬ノズル12の両側で磁場強度を制御可能な電磁ブレーキ装置15を備えた連続鋳造機10において、溶鋼吐出流の偏流が生じる場合に電磁ブレーキ装置15に加える電流値を操作することによって、偏流を抑制して鋳造の安定性と鋳片の品質を良好に保つ制御が可能となる。
【実施例0060】
上記の第2の実施形態で説明したような連続鋳造機における偏流の発生を、東側および西側の電磁ブレーキの電流指示値uet,uwtおよび外乱dによる偏流度y~の時間変化として、以下の式(18)、式(19)および式(20)のようにモデル化した。なお、nは平均0、標準偏差1の正規分布に従う。
【0061】
【数9】
【0062】
また、ニューラルネットワークによる偏流の分類モデルの動作を、東偏流および西偏流以外の分類をまとめたものを中立とする以下の式(21)、式(22)および式(23)のモデルで近似する。ここで、z,zneut,zは、各分類の分類状態変数である。各分類の分類確率p,pneut,pは、式(24)で算出することができる。
【0063】
【数10】
【0064】
図12および図13は、連続鋳造機における偏流の発生モデルにおいて、偏流抑制のためのPI制御を実施しなかった場合(図12)および実施した場合(図13)のシミュレーション結果を示す図である。図示された例において、偏流がない場合に溶鋼の下向きの流れを抑制するための電磁ブレーキへの電流指示値uは500Aである。図12には、比較例として、電磁ブレーキへの電流指示値をu=500Aに保持した場合のシミュレーション結果を示す。図13には、実施例として、上述した本発明の第2の実施形態に従ってPI制御を実施した場合のシミュレーション結果を示す。それぞれの図においてグラフは時間チャートであり、「外乱」は偏流の原因になる外乱信号d、「確率」は西偏流、中立および東偏流の分類確率p,pneut,p、「電流(A)」は西側および東側の電磁ブレーキの電流指示値u,u、「西偏流」は分類選択手段による西偏流分類の選択結果v(選択された場合は1、それ以外の場合は0。他の分類についても同様)、「中立」は分類選択手段による中立分類の選択結果vneut、「東偏流」は分類選択手段による東偏流の選択結果v、「偏流度」は操作量算出手段によって算出された偏流度y~を示す。
【0065】
図12に示された比較例では、外乱dのために時刻200s以降は西偏流に偏った分類結果になった。偏流度y~も、時刻200s以降は連続して負の値になっている。これに対して、図13に示された実施例では、偏流度y~がほぼ0付近に制御され、分類結果もほぼ中立になった。また、電磁ブレーキの電流指示値u,uは500Aを下回っておらず、分類結果が中立の間は設計値のu=500Aに漸近しているため、操業上の要請も満たされていることがわかる。
【0066】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれらの例に限定されない。本発明の属する技術の分野の当業者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0067】
1…プラント、2…操作装置、3…演算装置、10…連続鋳造機、11…鋳型、12…浸漬ノズル、13…吐出口、14…測温装置、15…電磁ブレーキ装置、16…銅板、17…冷却水、18…凝固シェル、20…電磁ブレーキ制御装置、30…演算装置、31…計測手段、32…分類手段、33…操作量算出手段、131…鋳型銅板測温装置、132…ニューラルネットワークモデル、133…操作量算出手段、134…分類選択手段、321…実績データ、322…状態分類ラベル、323…運転条件、324…実績データベース。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13