(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157761
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】コルチゾール定量用のイムノクロマト測定キット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20231019BHJP
G01N 33/533 20060101ALI20231019BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
G01N33/53 A
G01N33/53 U
G01N33/533
G01N33/543 511A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067874
(22)【出願日】2022-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山口 達哉
(57)【要約】
【課題】 本発明は、牛の飼育現場において生体試料中のコルチゾール濃度を、高感度かつ迅速、簡便に測定可能なイムノクロマト測定キットを提供する。
【解決手段】 本発明は、生体試料中のコルチゾールを定量するためのイムノクロマト測定キットであって、前記生体試料を希釈するための検体希釈液、競合試薬、およびイムノクロマトストリップを含み、前記イムノクロマトストリップは、試料添加部材、含浸部材、膜担体、吸収部材が順に連接配置されてなり、前記含浸部材には、ランタノイド錯体で標識された抗ビオチン抗体またはアビジンまたはストレプトアビジンが含浸されており、前記膜担体は、抗IgG抗体が固定化されたテストラインを備える測定キットである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中のコルチゾールを定量するためのイムノクロマト測定キットであって、
前記生体試料を希釈するための検体希釈液、競合試薬、およびイムノクロマトストリップを含み、
前記イムノクロマトストリップは、試料添加部材、含浸部材、膜担体、吸収部材が順に連接配置されてなり、
前記含浸部材には、ランタノイド錯体で標識された、抗ビオチン抗体および/またはアビジンおよび/またはストレプトアビジンが含浸されており、
前記膜担体は、抗IgG抗体が固定化されたテストラインを備えることを特徴とする測定キット。
【請求項2】
前記競合試薬は、コルチゾールとビオチンとの複合体であることを特徴とする請求項1に記載の測定キット。
【請求項3】
前記ランタノイドは、ユウロピウム、テルビウム、サマリウム、またはジスプロシウム、あるいはそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1または2に記載の測定キット。
【請求項4】
前記IgG抗体は、抗マウスIgG抗体、抗ウサギIgG抗体および抗モルモットIgG抗体からなる群から選ばれる1以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の測定キット。
【請求項5】
前記生体試料は、乳汁であることを特徴とする請求項1または2に記載の測定キット。
【請求項6】
ウシのストレス状態を判定するために用いられることを特徴とする請求項1または2に記載の測定キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中のコルチゾールを定量するためのイムノクロマト測定キットに関する。より詳しくは、生体試料(検体)を希釈するための検体希釈液、競合試薬およびイムノクロマトストリップからなる、生体試料中のコルチゾールを定量するための測定キットに関する。
【背景技術】
【0002】
家畜を快適な環境で飼うことや、家畜が健康であることは、安全・安心な畜産物の生産につながり、また、生産性の向上にも結びつくと考えられる。乳牛の飼養管理においては、気温や湿度などの牛舎環境や、人または他の乳牛との関わりなどもストレスとなり、乳牛の生産性を低下させる要因となることが指摘されている。このため、乳牛のストレス状況を把握することは、牛にとってより快適な飼養環境を提供することに大いに役立つこととなる。
【0003】
副腎皮質ホルモンであるコルチゾールは、古くから知られているストレスの指標であり、ストレスに鋭敏に反応してその濃度が増減することが知られている。しかし、血液などの生体試料中のコルチゾール濃度を調べるには、ELISA法が用いられ、煩雑な操作や多大な時間がかかるといった問題がある(非特許文献1)。
【0004】
こういった課題を解決するために、例えば特許文献1には、血液中のコルチゾールをイムノクロマト法を用いて測定する技術が開示されている。
【0005】
しかしながら、血液中のコルチゾールを測定するために行う採血は、牛に対して少なからずストレスを与えてしまうこととなる。このため、牛に与えるストレスが少ない方法で採取できる唾液や乳汁などのコルチゾールを対象に、コルチゾール濃度を簡易に測定できることが望ましい。一方で、唾液や乳汁中のコルチゾール濃度は、血液中に比べて著しくその濃度が低いことが報告されており(非特許文献2)、通常のイムノクロマト法で測定することは困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Prev.Vet.Med.,2015,120(3-4):291-297
【非特許文献2】J.Dairy.Sci.,87:1713-1718
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開公報2009/066787号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するために案出されたもので、乳汁などの生体試料中に存在するコルチゾール濃度を高感度かつ迅速に測定することができる測定キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下に示す手段により前記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1) 生体試料中のコルチゾールを定量するためのイムノクロマト測定キットであって、
前記生体試料を希釈するための検体希釈液、競合試薬、およびイムノクロマトストリップを含み、
前記イムノクロマトストリップは、試料添加部材、含浸部材、膜担体、吸収部材が順に連接配置されてなり、
前記含浸部材には、ランタノイド錯体で標識された、抗ビオチン抗体および/またはアビジンおよび/またはストレプトアビジンが含浸されており、
前記膜担体は、抗IgG抗体が固定化されたテストラインを備える測定キット。
(2) 前記競合試薬は、コルチゾールとビオチンとの複合体である(1)に記載の測定キット。
(3) 前記ランタノイドは、ユウロピウム、テルビウム、サマリウム、またはジスプロシウム、あるいはそれらの組み合わせである、(1)または(2)に記載の測定キット。
(4) 前記IgG抗体は、抗マウスIgG抗体、抗ウサギIgG抗体および抗モルモットIgG抗体からなる群から選ばれる1以上である(1)または(2)に記載の測定キット。
(5) 前記生体試料は、乳汁である(1)または(2)に記載の測定キット。
(6) ウシのストレス状態を判定するために用いられる(1)または(2)に記載の測定キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、牛の飼育現場において生体試料中のコルチゾール濃度を高感度、迅速、かつ簡便に測定することが可能なコルチゾール定量用のイムノクロマト測定キットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の測定キットに含まれるイムノクロマトストリップの一例を示す模式図(上面図)である。
【
図2】本発明の測定キットに含まれるイムノクロマトストリップの一例を示す模式図(側面図)である。
【
図3】本発明の測定キットに含まれるイムノクロマトストリップをハウジングケースに収容した一例を示す模式図である。
【
図4】本発明のイムノクロマト測定キットを用いて得られたコルチゾールの測定結果の一例を示すグラフである。
【
図5】本発明のイムノクロマト測定キットおよびELISA測定法による測定値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明は、生体試料中のコルチゾールを定量するためのイムノクロマト測定キットであって、前記生体試料を希釈するための検体希釈液、競合試薬、およびイムノクロマトストリップを含み、前記イムノクロマトストリップは、試料添加部材、含浸部材、膜担体、吸収部材が順に連接配置されてなり、前記含浸部材には、ランタノイド錯体で標識された抗ビオチン抗体またはアビジンまたはストレプトアビジンが含浸されており、前記膜担体は、抗IgG抗体が固定化されたテストラインを備える測定キットである。
【0015】
(生体試料)
本発明において、生体試料は、特に限定されるものではないが、唾液、乳汁、尿、糞、血液(全血でも血清でも血漿でもよい)等が適している。動物種も、ウシの他、ヒト、ウマ、イヌ、ネコなどの乳汁等を測定対象とすることが出来る。
【0016】
(コルチゾール)
コルチゾールは副腎皮質から放出されるステロイドホルモンであり、糖質コルチコイドの一種である。炭水化物、脂肪、およびタンパク質代謝を制御しており、生体にとって必須のホルモンである。コルチゾールは3種の糖質コルチコイドの中で最も生体内量が多く、糖質コルチコイド活性の約95%はこれによるものである。急性のストレスは血中のコルチゾール濃度を増加させることが知られている。また,コルチゾールは様々な生物学的作用を有することから、ストレスと病気を結びつけるホルモンとして注目されている。更に、コルチゾールは炎症との関連も深いことから,肥満、メタボリック・シンドローム、心疾患などとの関連についても研究が行われている。
【0017】
(ランタノイド)
ランタノイド(Ln)とは、周期表で第6周期第3族に位置する15個の金属元素の総称である。これらの金属は他の分子との複合体(錯体)を形成したときに強い蛍光を発するが、その蛍光は、通常の有機化合物の蛍光に比べて、水中で約1万倍から10万倍という長い蛍光寿命を持つことが大きな特徴である。ランタノイド錯体の蛍光プローブを用いれば、励起光を当てた後に一定の時間を置いて(余分な蛍光が減衰してから)測定を開始することにより、高いS/N比で測定することが出来る。これは時間分解測定と呼ばれる。ランタノイド錯体として、前記特性を有するユウロピウム、テルビウム、サマリウム、ジスプロシウム等を利用することができる。
【0018】
(ランタノイド標識)
ランタノイド錯体は、蛍光標識物質として抗体などのタンパク質に結合させることが出来る。例えば、市販の標識体作成のためのキット(QuickALLAssayTMユーロピウムキレートラベリングキット、BNpands、W1024)などを利用することが出来る。キットを利用して、例えば、ユウロピウム錯体標識した抗ビオチン抗体を作製することが出来る。
【0019】
(蛍光強度測定)
前述のように、ランタノイドは、通常の蛍光物質と比較し蛍光寿命が非常に長いという特徴がある。この特徴を利用した時間分解測定では、通常の蛍光が消光した後に測定を開始し、一定時間内の蛍光強度の測定を行う。更に、ランタノイドはストークスシフト(ユウロピウムの場合は、励起波長340nm、蛍光波長615nm)が非常に広いという特徴も持ち合わせているため、バックグラウンドの影響を最小限に抑えることができる。本発明の測定キットの蛍光強度測定には、ユウロピウムの時間分解測定に対応したイムノクロマトリーダーなどが好適に利用出来る。
【0020】
(検体希釈液)
本発明において、検体希釈液は、所定のpH範囲において充分な緩衝能力を有していれば、いかなる種類の緩衝剤を用いてもよく、例えば、トリス、リン酸、フタル酸、クエン酸、マレイン酸、コハク酸、シュウ酸、ホウ酸、酒石酸、酢酸、炭酸、グッドバッファー(MES、ADA、PIPES、ACES、コラミン塩酸、BES、TES、HEPES、アセトアミドグリシン、トリシン、グリシンアミド、ビシン)等が挙げられる。
【0021】
本発明において、検体希釈液は、イムノクロマトストリップ上での生体試料の展開性を向上させ、かつ免疫反応に影響しない非イオン性界面活性剤を含むことが好ましい。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(Triton(登録商標)系界面活性剤等)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(Brij(登録商標)系界面活性剤等)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween(登録商標)系界面活性剤等)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アルキルグルコシド、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。また、前記界面活性剤は単独で用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、検体希釈液中の界面活性剤の濃度は、生体試料の希釈倍率にもよるが0.01質量%以上0.2質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.2質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上0.15質量%以下がさらに好ましい。濃度が低すぎると、生体試料(希釈液)が展開しにくくなることがあり、濃度が高すぎると、テストラインのシグナルが低くなることがある。
【0022】
また、検体希釈液は、競合反応の効率化、促進、特異性向上のために、ポリエチレングリコールおよび/または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。検体希釈液へのポリエチレングリコール、塩化ナトリウムの添加濃度は、生体試料希釈液中の終濃度がそれぞれ、1質量%以上4質量%以下、1質量%以上3質量%以下となるように添加するのが好ましい。なお、使用するポリエチレングリコールの数平均分子量は、好ましくは2000以上16000以下であり、より好ましくは5000以上10000以下である。数平均分子量が小さい場合、本発明に適した充分な抗原抗体反応の促進作用が得られないことがある。また、数平均分子量が大きい場合、同様に、抗原抗体反応の促進作用が得られないとか、生体試料希釈液の粘性が高くなり、イムノクロマトストリップ上の展開性が低下することがある。
【0023】
(競合試薬)
本発明において、競合試薬は、生体試料中の遊離またはタンパク質に結合した状態のコルチゾールと競合することが出来、かつ標識体(物質)により検出が可能であれば特に制限はない。競合試薬としては、コルチゾールとビオチンとの複合体を用いるのが好ましい。詳細な理由は不明だが、本発明者の検討によれば、コルチゾールと低分子量であるビオチンとの複合体は、コルチゾールとアルブミン等の高分子量物質との複合体よりも、生体試料中のコルチゾールに対して競合原理が働きやすい傾向がある。また、コルチゾールと低分子量物質との複合体は、コルチゾールと牛血清アルブミンなどのタンパク質(高分子量物質)との複合体よりも製造コストを低く抑えられるメリットもある。
【0024】
なお、ビオチンと複合体を形成したコルチゾールは不安定な化合物であり、光や熱によって二重結合の異性化が起こりやすく、また酸や空気、金属イオンとも反応しやすいため容易に分解してしまう畏れがある。そのため、競合試薬は低温、暗所にて使用時まで保存するのが好ましい。保存温度としては4℃以下が好ましく、-20℃以下がより好ましく、-80℃以下がさらに好ましい。
【0025】
本発明において、生体試料1mLに対して競合試薬を0.1pg以上10ng以下添加するのが好ましい。生体試料中のコルチゾール濃度と競合試薬の添加量の差が大きすぎると競合が上手くいかず定量性が低下することがある。なお、競合試薬は凍結乾燥等されたものを用いてもよいし、溶液の状態であってもよい。
【0026】
(希釈倍率)
本発明において、生体試料の希釈倍率は、30倍以上300倍以下とするのが適当である。希釈倍率が低すぎると、生体試料中の夾雑物質が定量値に影響を与えることがある。また、希釈倍率が高すぎると、生体試料中のコルチゾール量が少なくなるため、測定の精度が低くなることがある。
【0027】
(イムノクロマトストリップ)
イムノクロマトストリップの具体例としては、
図1、2に示すようなイムノクロマトストリップ8が挙げられる。
図1、2において、1は粘着シート、2は含浸部材、3は膜担体、4はテストライン、5はコントロールライン、6は試料添加部材、7は吸収部材を示している。膜担体3は、幅5mm、長さ25mmの細長い帯状のニトロセルロース製メンブレンからなり、同じく幅5mmの粘着シート1の中ほどに貼り付けられている。膜担体3には、クロマト展開の始点側、すなわち
図1、2の左側(上流側)の末端から右側(下流側)に向かって3mm以上15mm以下の位置に、抗コルチゾール抗体を捕捉するためのテストライン4が形成(抗マウスIgG抗体または抗ウサギIgG抗体または抗モルモットIgG抗体が線状に固定)されている。さらに、膜担体3の上流側の末端から下流側に向かって8mm以上25mm以下の位置にコントロールライン5(ランタノイド標識抗体を特異的に結合する抗体が線状に固定)が形成されている。なお、テストラインはコントロールラインよりも上流側に配置され、テストラインとコントロールラインとの距離は3mm以上10mm未満とするのが好ましい。コントロールライン5は、分析対象物質であるコルチゾールの存否に係わらずイムノクロマト展開が行われたことを確認するためのものである。
【0028】
(試料添加部材)
本発明において、試料添加部材6は、例えば、多孔質ポリエチレンおよび多孔質ポリプロピレンなどのような多孔質合成樹脂のシートまたはフィルム、あるいは、濾紙および綿布などのようなセルロース製の紙または不織布などを用いることができる。
【0029】
(含浸部材)
本発明において、含浸部材2は、5mm×15mmの帯状のガラス繊維を用いるが、これに限定されるものではなく、例えば、濾紙、ニトロセルロース膜、ポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔質プラスチック不織布なども使用できる。含浸部材2は、ランタノイド錯体で標識された抗体および/またはアビジンおよび/またはストレプトアビジンを含む溶液を前記ガラス繊維等の部材に含浸せしめ、これを乾燥させることによって作製できる。
【0030】
(膜担体)
本発明において、膜担体3は、ニトロセルロース製メンブレンフィルターを用いるが、生体試料に含まれるコルチゾールをクロマト展開可能で、かつテストライン4を形成する抗体等の物質を固定可能なものであれば、いかなるものであってもよく、他のセルロース類膜、ナイロン膜、ガラス繊維膜なども使用できる。
【0031】
(テストライン)
本発明において、テストライン4に固定化する抗体は、マウスIgGまたはウサギIgGまたはモルモットIgGに特異的に結合することが出来る抗体、即ち、抗マウスIgG抗体または抗ウサギIgG抗体または抗モルモットIgG抗体であればよく、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよいが、反応特異性の観点から、モノクローナル抗体であることが好ましい。テストラインに固定化した抗体に直接結合するのは、生体試料希釈液中に添加した抗コルチゾール抗体(マウスIgG)であり、この結合量は試料中に存在するコルチゾール量を反映している。従って、固定化する抗体の反応特異性は非常に重要である。
【0032】
(抗コルチゾール抗体)
コルチゾール(分子量362)は低分子化合物であり十分な複雑性を備えていないため、通常では免疫応答を誘発できない。このため、免疫した動物に抗体を産出させるには、卵白アルブミンなどのキャリアタンパク質にコルチゾールを化学結合したものを免疫原として用いる必要がある。また、アジュバントを混合して免疫原を注入すると、免疫応答強度が上がり、よい抗体を得る可能性が高まる。ポリクローナル抗体は、ウサギやマウスなどに免疫して得られた抗血清から精製して得ることが出来る。モノクローナル抗体の産生細胞は、例えば、コルチゾールと卵白アルブミンの結合物を適当なアジュバントとともにマウスのような動物に免疫したのち、免疫された動物の脾細胞とミエローマ細胞とを融合し、融合細胞のみが増殖出来る選択培地で培養し、増殖した細胞を前記コルチゾールとの結合物などを使用して、たとえば酵素標識免疫法などを利用して選別することにより取得することができる。
【0033】
(コントロールライン)
本発明において、コントロールライン5には、標識抗体中の抗体および/またはアビジンおよび/またはストレプトアビジンに特異的に結合する抗体が固定化されているのが好ましい。前記抗体としては、抗IgG抗体を用いることができ、例えば、標識抗体中の抗ビオチン抗体がヤギ由来であれば抗ヤギIgG抗体を膜担体に固定化することによって形成することができる。この場合、抗ヤギIgG抗体と抗ビオチン抗体(ヤギIgG)が特異的に結合し、ラインの蛍光シグナルが確認出来ればよい。コントロールラインを用いることにより、標識された抗体が膜担体の最下流部まで移動したこと、即ち、イムノクロマト展開が(正常に)行われたことを確認することができる。
【0034】
(吸収部材)
本発明において、吸収部材7は、液体をすみやかに吸収、保持できる材質のものであればよく、綿布、濾紙、およびポリエチレン、ポリプロピレン等からなる多孔質プラスチック不織布等を挙げることができるが、特に濾紙が最適である。
【0035】
イムノクロマトストリップは、これを保護するため、また、取り扱いがし易いように、プラスチック製のハウジングケース9などに収容されるのが好ましい(
図3)。このケースは、例えば、イムノクロマトストリップの試料添加部材6の上部に試料滴下部10が開口され、テストライン4およびコントロールライン5の上部に判定部(判定窓)11が開口されていることが好ましい。
【0036】
(イムノクロマト展開)
本発明のコルチゾールの定量方法について説明する。まず、生体試料、競合試薬、および検体希釈液を混合して生体試料希釈液を調製する。得られた生体試料希釈液をイムノクロマトストリップの試料滴下部に滴下して毛細管現象を利用してイムノクロマトストリップ上を展開させる。展開中の生体試料希釈液は、含浸部材を通過する際に、標識された抗体(および/または標識されたアビジンおよび/または標識されたストレプトアビジン)および抗コルチゾール抗体を溶出させる。生体試料希釈液中のコルチゾールは、展開中に競合試薬(コルチゾールとビオチンとの複合体)と競合的に抗コルチゾール抗体に捕捉される。そして、標識された抗体は、抗コルチゾール抗体に捕捉された競合試薬(コルチゾールとビオチンとの複合体)に結合し、更に、この結合体はテストラインの抗IgG抗体によって捕捉される。こうして得られたテストラインのシグナル(蛍光強度)を測定することにより定量することが出来る。なお、展開開始後、5~12分の間にテストラインのシグナルを測定することが望ましい。この間に測定を行えば、コルチゾールと、競合試薬(コルチゾールと化合物の複合体)との競合反応が最も効果的に起き、コルチゾールの濃度変化に応じた測定値の変化がテストラインにおいて得られ、コルチゾール濃度が測定値に的確に反映されるため好ましい。即ち、生体試料中のコルチゾール濃度を正確に測定することが出来る。5分未満では、抗コルチゾール抗体と生体試料中のコルチゾールまたは競合試薬(コルチゾールと化合物との複合体)との反応が充分でないため測定値が低くなるとか、生体試料中のコルチゾール濃度を正確に反映した測定値を得ることが出来ないことがある。また、12分を超えると、抗コルチゾール抗体に対する非特異的な反応が増加するため、生体試料中のコルチゾール濃度に応じた正確な測定値が得られないことがある。
【0037】
(競合法)
本発明において、生体試料中のコルチゾールは競合法により定量するのが好ましい。コルチゾールのような低分子化合物は、2種類の抗体でサンドイッチすることが難しいため、競合法をとることが好ましい。
【0038】
(イムノクロマト測定キット)
本発明のイムノクロマト測定キットは、上記のイムノクロマトストリップに加えて、検体を希釈するための検体希釈液、競合試薬を少なくとも含み、更に必要に応じて、検量線を作成するためのコルチゾール標準液や、生体試料希釈液を調製するための容器などを含む。また、イムノクロマト結果を測定するための測定装置(クロマトリーダー等)も含む場合がある。
【実施例0039】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例で測定された特性値の測定は、以下の方法に従った。
【0040】
(競合試薬の調製)
コルチゾール(シグマアルドリッチ、C106)を、Biotin-hydrazide(同仁化学、B303)を用いて、ビオチン化することにより、競合試薬(コルチゾール-ビオチン複合体)を調製した。調製後、使用時まで-30℃にて保存した。
【0041】
(ランタノイド錯体標識抗ビオチン抗体の作製)
蛍光標識試薬であるユウロピウム錯体(ATBTA-Eu3+、東京化成工業、A2083)を用いた。即ち、タンパク質のアミノ基にジクロロトリアジニル基を導入し、DTBTA-Eu3+に変換することにより、抗ビオチン抗体のアミノ基をユウロピウム錯体標識して作製した。抗ビオチン抗体として、Goat Anti-Biotin antibody、シグマアルドリッチ、B3640を用いた。
【0042】
(検体希釈液の調製)
リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4、ナカライテスク社、27576-21)に、TritonX-100(シグマアルドリッチ社、10789704001)、ポリエチレングリコール、およびNaClの終濃度がそれぞれ、0.15質量%、2.0質量%、1.5質量%になるように加えて溶解させ、検体希釈液を調製した。
【0043】
(抗コルチゾール抗体の調製)
コルチゾールとBSA(ウシ血清アルブミン)の結合物をマウスに免疫して得られた血清から、アフィニティクロマトグラフィーによりIgGを精製して得られたものを、抗コルチゾール抗体とした。
【0044】
(抗IgG抗体)
抗IgG抗体(Goat Anti―Mouse IgG、アブカム、ab6708)として、抗マウスIgG抗体を用いた。
【0045】
(含浸部材の作製)
8mm×150mmの帯状のガラス繊維不織布に、上記で得られたユウロピウム錯体標識した抗ビオチン抗体および抗コルチゾール抗体が、いずれも0.5mg/mLの濃度になるように混合調製した抗体液を含浸させた。室温で乾燥させた後に、8mm×5mmの大きさに切断し、含浸部材とした。
【0046】
(膜担体の作製)
前記の抗マウスIgG抗体を1mg/mLの濃度に調整した後、これを25mm×300mmのニトロセルロース製メンブレンフィルターに1.0μL/cmの量で線状に塗布してテストラインを作製した。
次に、抗ヤギIgG抗体(アブカム、ab182021)を1mg/mLの濃度に調製した後、上記ニトロセルロース製メンブレンフィルターに1.0μL/cmの量で線状に塗布してコントロールラインを作製した。
テストラインおよびコントロールラインを作製後、50℃で30分間乾燥させ、25mm×5mmの大きさに切断し、膜担体とした。
【0047】
(イムノクロマトストリップの作製)
粘着シート上に、調製した膜担体、含浸部材に加えて試料添加部材、吸収部材を配置し、イムノクロマトストリップを作製した。
【0048】
(コルチゾール標準液の調製)
コルチゾール(シグマアルドリッチ、C106)をPBS(リン酸緩衝生理食塩液)に添加し、コルチゾール標準液を調製した。
【0049】
(測定キットを用いた定量)
上記標準液に検体希釈液を加えて表1に示す各濃度のコルチゾール希釈液を調製した。得られた各コルチゾール希釈液100μLあたり3pgの競合試薬を加えた後、イムノクロマトストリップの試料滴下部に100μL滴下し、展開させた。滴下より10分後に、イムノクロマトリーダー(浜松ホトニクス社製、C10066-50)を用いてテストラインの蛍光強度を測定した。結果を表1および
図4に示す。本発明の測定キットを用いることにより、コルチゾールを精度よく定量できることが確認された。
【0050】
【0051】
(ELISA法測定との対比実験)
12頭の乳用牛から得られた乳汁中のコルチゾール濃度を、それぞれELISA法および本発明のイムノクロマト測定キットを用いて測定した。ELISA法による測定は、Cortisol ELISA kit(Abcam、ab108665)にて測定した。イムノクロマト法では、標準液を同時に測定して得られた標準曲線を用いて、各検体中のコルチゾール濃度を算出し測定結果を表2および
図5に示した。イムノクロマト法の測定値とELISA法による測定値の相関係数は0.96であり、良好な相関関係を示した。本発明の測定キットを用いることにより、精度よくコルチゾールを定量できることが確認された。
【0052】
本発明により、乳牛の飼育現場において生体試料中のコルチゾール濃度を高感度かつ迅速、簡便に測定することができるので、牛のストレス状態を素早く客観的に把握することが可能となる。