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特開2023-157770レーザビーム真直度測定機及びレーザビーム真直度測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157770
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】レーザビーム真直度測定機及びレーザビーム真直度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/42 20060101AFI20231019BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
G01J1/42 E
G01J1/02 L
G01J1/02 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067887
(22)【出願日】2022-04-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公益社団法人 精密工学会(JSPE) 2022 2022年度 精密工学会春季大会 学術講演会大会講演論文集(令和4年3月2日発行)
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(71)【出願人】
【識別番号】592004404
【氏名又は名称】中央精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080090
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 邦男
(72)【発明者】
【氏名】明田川 正人
(72)【発明者】
【氏名】山田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】安原 寿規
【テーマコード(参考)】
2G065
【Fターム(参考)】
2G065AA11
2G065AA12
2G065AB09
2G065BA04
2G065BC35
2G065CA30
2G065DA01
2G065DA20
(57)【要約】
【課題】簡素な構成でありながら高精度化を実現し得る真直度測定機を提供する。
【解決手段】真直度測定機10によれば、空気揺らぎ誤差(δXri,δYri)及び真直度誤差(2Xrti,2Yrti)が既知である多様なレーザビームLrの二次元強度分布Iri(X,Y)を入力データとし、入力データに対応する空気揺らぎ誤差(δXri,δYri)及び真直度誤差(2Xrti,2Yrti)を出力データとして、予め教師あり学習をしておき、二次元イメージセンサ11で検出された未知の二次元強度分布Imi(X,Y)について、教師あり学習の結果によって空気揺らぎ誤差(δXmi,δYmi)及び真直度誤差(2Xmti,2Ymti)を推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザビームを受光して前記レーザビームの二次元強度分布を検出する二次元イメージセンサと、
前記二次元イメージセンサで検出された前記二次元強度分布に基づき、前記レーザビームの空気揺らぎ誤差及び真直度誤差を推定する機械学習装置と、
を備え、
前記機械学習装置は、
前記空気揺らぎ誤差及び前記真直度誤差が既知である多様な前記二次元強度分布を入力データとし、前記入力データに対応する前記空気揺らぎ誤差及び前記真直度誤差を出力データとして、予め教師あり学習をする手段と、
前記空気揺らぎ誤差及び前記真直度誤差が未知である前記二次元強度分布について、前記教師あり学習の結果によって前記空気揺らぎ誤差及び前記真直度誤差を推定する手段と、
を有する、
レーザビーム真直度測定機。
【請求項2】
前記教師あり学習において使用する前記真直度誤差は、前記二次元強度分布を平行移動させる画像処理によって前記二次元強度分布に付与されたものである、
請求項1記載のレーザビーム真直度測定機。
【請求項3】
空気揺らぎの存在しない領域を通過するレーザビームに対して任意の波面歪みを付与する波面歪み付与装置と、
前記波面歪みが付与された前記レーザビームについて、前記二次元イメージセンサで検出された前記二次元強度分布の輝度重心を計算する計算装置と、
を更に備え、
前記教師あり学習において使用する前記空気揺らぎ誤差は、前記計算装置で計算された前記輝度重心である、
請求項1又は2記載のレーザビーム真直度測定機。
【請求項4】
前記波面歪み付与装置は、
前記レーザビームを反射する鏡面と前記鏡面の形状を変形させる駆動素子とを有する形状可変ミラーと、
ゼルニケ近似多項式を用いて前記駆動素子を制御する制御装置と、
を含む、
請求項3記載のレーザビーム真直度測定機。
【請求項5】
レーザビームを受光して前記レーザビームの二次元強度分布を検出する二次元イメージセンサと、
前記二次元イメージセンサで検出された前記二次元強度分布に基づき、前記レーザビームの空気揺らぎ誤差及び真直度誤差を推定する機械学習装置と、
を用い、
前記空気揺らぎ誤差及び前記真直度誤差が既知である多様な前記二次元強度分布を入力データとし、前記入力データに対応する前記空気揺らぎ誤差及び前記真直度誤差を出力データとして、前記機械学習装置に予め教師あり学習をさせておき、
前記教師あり学習済みの前記機械学習装置を用いて、前記空気揺らぎ誤差及び前記真直度誤差が未知である前記二次元強度分布について前記空気揺らぎ誤差及び前記真直度誤差を推定する、
レーザビーム真直度測定方法。
【請求項6】
前記教師あり学習において使用する前記真直度誤差は、前記二次元強度分布を平行移動させる画像処理によって前記二次元強度分布に付与されたものである、
請求項5記載のレーザビーム真直度測定方法。
【請求項7】
空気揺らぎの存在しない領域を通過するレーザビームに対して任意の波面歪みを付与する波面歪み付与装置と、
前記波面歪みが付与された前記レーザビームについて、前記二次元イメージセンサで検出された前記二次元強度分布の輝度重心を計算する計算装置と、
を更に用い、
前記教師あり学習において使用する前記空気揺らぎ誤差は、前記計算装置で計算された前記輝度重心である、
請求項5又は6記載のレーザビーム真直度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザビームの真直度を測定するレーザビーム真直度測定機及びレーザビーム真直度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精密測定や精密加工の分野において、重要な測定項目の一つである真直度に対してはレーザの持つ直進性を利用する方法がある(例えば特許文献1、2参照)。レーザによる真直度の測定方法は様々に研究されているが、現在ではレーザ干渉を用いるタイプと、共通光路距離センサ上のビーム位置の変動を直接検出するタイプとが、それぞれ測定機として市販されている。本発明では後者の測定機を扱う。これらレーザを用いた測定はその多くが大気中で行われるため、環境要因によって空気屈折率が変動し、測定結果に系統誤差として現れる。この空気屈折率の時間的及び空間的な変化を空気揺らぎと呼称する。この空気揺らぎはレーザビームの波面に変動をもたらし(波面収差の発生)、ビームプロファイルの変化を引き起こし、レーザビームの直進性を損なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平01‐057111号公報「直線運動測定装置」
【特許文献2】特開平01‐057110号公報「直線運動測定装置」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空気揺らぎによる影響を補正する方法は、天文学分野では補償光学と呼ばれて発展が著しい。精密測定分野においては、デジタル光学的位相共役法などが提案されている。デジタル光学的位相共役法では、光路の波面収差を波面センサで測定し、測定した波面収差に共役な収差をビームに与える(例えば空間光学変調器で反射する)ことにより、波面収差を除去する。しかしながら、デジタル光学的位相共役法では、波面センサを必要とするなど、構成が複雑化するという問題があった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、収差によるビームプロファイル(レーザビームの強度分布)に着目することにより、簡素な構成でありながら高精度化を実現し得るレーザビーム真直度測定機等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るレーザビーム真直度測定機は、
レーザビームを受光して前記レーザビームの二次元強度分布を検出する二次元イメージセンサと、
前記二次元イメージセンサで検出された前記二次元強度分布に基づき、前記レーザビームの空気揺らぎ誤差及び真直度誤差を推定する機械学習装置と、
を備えている。
前記機械学習装置は、
前記空気揺らぎ誤差及び前記真直度誤差が既知である多様な前記二次元強度分布を入力データとし、前記入力データに対応する前記空気揺らぎ誤差及び前記真直度誤差を出力データとして、予め教師あり学習をする手段と、
前記空気揺らぎ誤差及び前記真直度誤差が未知である前記二次元強度分布について、前記教師あり学習の結果によって前記空気揺らぎ誤差及び前記真直度誤差を推定する手段と、
を有する。
【0007】
本発明に係るレーザビーム真直度測定方法は、
レーザビームを受光して前記レーザビームの二次元強度分布を検出する二次元イメージセンサと、
前記二次元イメージセンサで検出された前記二次元強度分布に基づき、前記レーザビームの空気揺らぎ誤差及び真直度誤差を推定する機械学習装置と、
を用いるものであり、次のステップを含む。
(1)前記空気揺らぎ誤差及び前記真直度誤差が既知である多様な前記二次元強度分布を入力データとし、前記入力データに対応する前記空気揺らぎ誤差及び前記真直度誤差を出力データとして、前記機械学習装置に予め教師あり学習をさせておく。
(2)前記教師あり学習済みの前記機械学習装置を用いて、前記空気揺らぎ誤差及び前記真直度誤差が未知である前記二次元強度分布について前記空気揺らぎ誤差及び前記真直度誤差を推定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、空気揺らぎ誤差及び真直度誤差が既知である多様なレーザビームの二次元強度分布を入力データとし、入力データに対応する空気揺らぎ誤差及び真直度誤差を出力データとして、予め教師あり学習をしておき、二次元イメージセンサで検出された未知の二次元強度分布について、教師あり学習の結果によって空気揺らぎ誤差及び真直度誤差を推定する。従来の数値計算では、空気揺らぎ誤差と真直度誤差とが混ざりあった未知の二次元強度分布について、空気揺らぎ誤差と真直度誤差とを短時間で正確に分けて求めることは極めて困難であった。これに対し、本発明によれば、未知の二次元強度分布について直ちに正確な空気揺らぎ誤差及び真直度誤差を推定できるので、簡素な構成でありながら高精度化を実現し得るレーザビーム真直度測定機等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1の真直度測定機を示すブロック図である。
図2】実施形態1における機械学習装置を示すブロック図である。
図3】実施形態2の真直度測定機を示すブロック図である。
図4】実施形態2における機械学習装置を示すブロック図である。
図5】実施形態3の真直度測定方法を示すフローチャートである。
図6図5におけるステップの詳細例を示すフローチャートであり、図6[A]はステップS1、図6[B]はステップS2である。
図7】空気揺らぎと波面収差を説明するための概念図である。
図8】真直度のずれを説明するための概念図である。
図9】空気揺らぎ誤差と真直度誤差とが混ざり合う場合を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下「実施形態」という。)について説明する。以下の説明では、「レーザビーム真直度測定機」及び「レーザビーム真直度測定方法」を、単に「真直度測定機」及び「真直度測定方法」という。
【0011】
<空気揺らぎと波面収差>
図7に、空気揺らぎによる影響の概念図を示す。空気揺らぎにより光路上に複雑な屈折率の分布が存在するため、レーザ光源71から射出されたレーザビーム72の各部分で位相差(波面収差)が生じる。レーザビーム72の等位相面である波面は、A平面とB平面の間に空気揺らぎ73が存在すると前述のように位相差が生じて、波面が変形してしまう(波面収差)。また、波面の法線としての光線は、変形が無いときとは違う点を通り、ビームプロファイル74に変形を引き起こす。ビームプロファイル74の変形は、空気揺らぎ誤差δとして輝度重心の計算に影響を与え、真直度測定において系統誤差を与える要因になる。
【0012】
<真直度のずれ>
図8に、真直度のずれの概念図を示す。図8の真直度測定機80は、レーザ光源71、コーナーキューブ81、移動台82及びCCDセンサ83を備えている。移動台82は、例えばX-Yステージであり、コーナーキューブ81を移動自在に支持している。レーザ光源71から射出されたレーザビーム72は、コーナーキューブ81で反射し、CCDセンサ83で受光される。ここで、コーナーキューブ81が、レーザビーム72の進行方向にΔL移動し、かつ進行方向に直角にS移動したとする。このとき、CCDセンサ83では受光位置が2S動く。この2Sを以下では真直度誤差tと表記する。
【0013】
<空気揺らぎ誤差と真直度誤差とが混ざり合う場合>
図9に、空気揺らぎ誤差と真直度誤差とが混ざり合う場合の概念図を示す。レーザ光源71から射出されコーナーキューブ81で反射したレーザビーム91は、コーナーキューブ81で真直度誤差tが生じるとともに、空気揺らぎにより各部分で位相差(波面収差)が生じる。レーザビーム91の等位相面である波面は、A平面とB平面の間に空気揺らぎ73が存在すると前述のように位相差が生じて、波面が変形してしまう(波面収差)。また、波面の法線としての光線は、変形が無いときとは違う点を通り、ビームプロファイル92に変形を引き起こす。ビームプロファイル92の変形は、空気揺らぎ誤差δとして輝度重心の計算に真直度誤差tとともに影響を与え、真直度測定において系統誤差を与える要因になる。
【0014】
<実施形態1>
図1は、実施形態1の真直度測定機を示すブロック図である。図2は、実施形態1における機械学習装置を示すブロック図である。以下、図1及び図2に基づき説明する。
【0015】
以下で用いる主な添え字の意味は、次のとおりである。
i:測定番号
r:学習用データ(既知)
m:推定用データ(未知)
δ:空気揺らぎ
t:真直度
【0016】
真直度測定機10は、二次元イメージセンサ11及び機械学習装置12を備えている。二次元イメージセンサ11は、レーザビームLmを受光してレーザビームLmの二次元強度分布Imi(X,Y)を検出する。機械学習装置12は、二次元イメージセンサ11で検出された二次元強度分布Imi(X,Y)に基づき、レーザビームLmの空気揺らぎ誤差(δXmi,δYmi)及び真直度誤差(2Xmti,2Ymti)を推定する。
【0017】
機械学習装置12は、学習手段及び推定手段を有する。図1における機械学習装置12は推定手段として、図2における機械学習装置12は学習手段として、それぞれ動作している。
【0018】
学習手段は、空気揺らぎ誤差(δXri,δYri)及び真直度誤差(2Xrti,2Yrti)が既知である多様な二次元強度分布Iri(X,Y)を入力データとし、この入力データに対応する空気揺らぎ誤差(δXri,δYri)及び真直度誤差(2Xrti,2Yrti)を出力データとして、予め教師あり学習をする。推定手段は、空気揺らぎ誤差(δXmi,δYmi)及び真直度誤差(2Xmti,2Ymti)が未知である二次元強度分布Imi(X,Y)について、教師あり学習の結果によって空気揺らぎ誤差(δXmi,δYmi)及び真直度誤差(2Xmti,2Ymti)を推定する。
【0019】
二次元イメージセンサ11は、例えばCMOSセンサ又はCCDセンサなどである。ここで「二次元」とは、レーザビームに垂直なX-Y平面のこという。
【0020】
機械学習装置12は、例えば、コンピュータ内にコンピュータプログラムによって各手段が構築されたニューラルネットワーク120である。ニューラルネットワーク120は、多数のニューロン同士が入力と出力で繋がっており、入力層121、中間層122及び出力層123からなる一般的なものである。本実施形態1では、空気揺らぎ誤差(δXri,δYri)及び真直度誤差(2Xrti,2Yrti)が既知である多様な二次元強度分布Iri(X,Y)を用いて、予め機械学習装置12に教師あり学習をさせている。なお、中間層122は、図2では複数層となっているが、単数層としてもよい。ニューラルネットワーク120としては、入力層、畳み込み層、活性化関数、プーリング層、全結合層及び出力層からなる畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いてもよい。
【0021】
本実施形態1の真直度測定機10には、レーザ光源13及びリトロリフレクタ14が付設されている。レーザ光源13は、半導体レーザ又はHe-Neレーザなど一般的なものでよい。リトロリフレクタ14は、入射光を入射方向に平行かつ入射方向と反対方向へ反射する装置又は面であり、例えばコーナーキューブプリズムである。リトロリフレクタ14は、例えば被測定物に取り付けられる。
【0022】
真直度測定機10の動作は、次のとおりである。
【0023】
まず、レーザ光源13から射出されたレーザビームLoは、リトロリフレクタ14で反射する前後で、真直度のずれ(Xmti,Ymti)が生ずるとともに、空気揺らぎの存在する領域15を通過することにより、波形歪みを生じたレーザビームLmとなる。レーザビームLmは二次元イメージセンサ11で受光され、二次元イメージセンサ11は真直度のずれ及び空気揺らぎの影響を受けた二次元強度分布Imi(X,Y)を検出する。
【0024】
続いて、二次元強度分布Imi(X,Y)のデータは機械学習装置12に入力され、機械学習装置12は入力データから推定される空気揺らぎ誤差(δXmi,δYmi)及び真直度誤差(2Xmti,2Ymti)のデータを出力する。この入力から出力までの処理は、入力データを使って輝度重心の計算をする場合に比べて、複雑な計算を要しないため極めて短時間となる。空気揺らぎは時々刻々変化するので、処理速度が大きいほど高精度化が図れる。なお、空気揺らぎ誤差(δXmi,δYmi)及び真直度誤差(2Xmti,2Ymti)の和は、輝度重心(X,Y)miとなる。
【0025】
真直度測定機10の効果は、次のとおりである。
【0026】
真直度測定機10では、空気揺らぎ誤差(δXri,δYri)及び真直度誤差(2Xrti,2Yrti)が既知である多様なレーザビームLrの二次元強度分布Iri(X,Y)を入力データとし、入力データに対応する空気揺らぎ誤差(δXri,δYri)及び真直度誤差(2Xrti,2Yrti)を出力データとして、予め教師あり学習をしておき、二次元イメージセンサ11で検出された未知の二次元強度分布Imi(X,Y)について、教師あり学習の結果によって空気揺らぎ誤差(δXmi,δYmi)及び真直度誤差(2Xmti,2Ymti)を推定する。
【0027】
従来の数値計算では、空気揺らぎ誤差と真直度誤差とが混ざり合った未知の二次元強度分布Imi(X,Y)について、空気揺らぎ誤差(δXmi,δYmi)と真直度誤差(2Xmti,2Ymti)とを短時間で正確に分けて求めることは極めて困難であった。これ対し、真直度測定機10によれば、未知の二次元強度分布Imi(X,Y)について直ちに正確な空気揺らぎ誤差(δXmi,δYmi)及び真直度誤差(2Xmti,2Ymti)を推定できるので、簡素な構成でありながら高精度化を実現できる。
【0028】
<実施形態2>
図3は、実施形態2の真直度測定機を示すブロック図である。図4は、実施形態2における機械学習装置を示すブロック図である。以下、図3及び図4に基づき説明する。本実施形態2では、実施形態1と同じ構成要素には同じ符号を付すことにより、重複説明を省略する。
【0029】
真直度測定機20は、空気揺らぎの存在しない領域26を通過するレーザビームLoに対して任意の波面歪みを付与する波面歪み付与装置21と、波面歪みが付与されたレーザビームLmについて、二次元イメージセンサ11で検出された二次元強度分布Imi(X,Y)の輝度重心(X,Y)miを計算する計算装置22と、を更に備えている。教師あり学習において使用する空気揺らぎ誤差(δXri,δYri)は、計算装置22で計算された輝度重心(X,Y)miである。
【0030】
教師あり学習において使用する真直度誤差(2Xrti,2Yrti)は、二次元強度分布Imi(X,Y)を平行移動させる画像処理手段によって、二次元強度分布Imi(X,Y)に付与されたものである。平行移動とは、図形上のすべての点が同一方向に同一距離だけ移動することである。二次元強度分布Imi(X,Y)に真直度誤差(2Xrti,2Yrti)が付与されて、二次元強度分布Iri(X,Y)となる。なお、画像処理手段は、計算装置22に設けられているが、機械学習装置12に設けてもよい。
【0031】
波面歪みが付与されたレーザビームLmの二次元強度分布Imi(X,Y)に、既知の真直度誤差(2Xrti,2Yrti)を付与して二次元強度分布Iri(X,Y)とし、これを教師あり学習において使用する入力データとする。計算装置22で計算された輝度重心(X,Y)miを空気揺らぎ誤差(δXri,δYri)とし、これを入力データに対応する出力データ(教師データ)とする。既知の真直度誤差(2Xrti,2Yrti)を、入力データに対応する出力データ(教師データ)とする。
【0032】
波面歪み付与装置21は、レーザビームLoを反射する鏡面231と鏡面231の形状を変形させる駆動素子232とを有する形状可変ミラー23と、ゼルニケ近似多項式を用いて駆動素子232を制御する制御装置24と、を含む。形状可変ミラー23は一般的なものでよく、駆動素子232は例えば圧電素子である。形状可変ミラー23の代わりに、位相変調器等を用いてもよい。また、空気揺らぎの存在しない領域26を実現するために、形状可変ミラー23、リトロリフレクタ14及び二次元イメージセンサ11は、筐体27内に収容されている。なお、「空気揺らぎの存在しない領域」とは、換言すると、空気揺らぎを無視できる領域ということである。
【0033】
制御装置24は、計算装置22及び機械学習装置12とともに、コンピュータ25内にコンピュータプログラムによって構築されている。本コンピュータプログラムは、非一時的な記録媒体(例えば、光ディスク、半導体メモリなど)に記録されてもよく、記録媒体からコンピュータ25に読み出され実行される。コンピュータ25は、例えばパーソナルコンピュータである。また、コンピュータ25は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit )又はFPGA(Field Programmable Gate Array )に置き換えることも可能である。
【0034】
実施形態1の真直度測定機が実測時の構成であるのに対し、真直度測定機20は教師あり学習時の構成に特徴がある。真直度測定機20の動作は、次のとおりである。ただし、ゼルニケ近似多項式を用いて駆動素子232を制御することにより所望の形状の鏡面231を得ることは、補償光学などの分野で周知であるので、詳しい説明を省略する。
【0035】
まず、レーザ光源13から射出されたレーザビームLoは、形状可変ミラー23の鏡面231で反射する際に波面歪みが付与される。鏡面231を反射したレーザビームLmは、リトロリフレクタ14で反射する前後で、空気揺らぎの存在しない領域26を通過することにより、付与された波形歪みを維持したまま、二次元イメージセンサ11で受光される。二次元イメージセンサ11は、付与された波面歪みの影響を受けた二次元強度分布Imi(X,Y)のデータを、計算装置22へ出力する。計算装置22は、二次元強度分布Imi(X,Y)について、その輝度重心(X,Y)miを計算する。輝度重心の計算は、例えば、X-Y平面の光強度を質量に置き換えた平板の重心を求めることと同じである。輝度重心(X,Y)miが空気揺らぎ誤差(δXri,δYri)である。
【0036】
続いて、二次元強度分布Imi(X,Y)を(2Xrti,2Yrti)だけ平行移動させることによって、二次元強度分布Imi(X,Y)に真直度誤差(2Xrti,2Yrti)を付与して二次元強度分布Iri(X,Y)を得る。
【0037】
続いて、二次元強度分布Iri(X,Y)とその空気揺らぎ誤差(δXri,δYri)及び真直度誤差(2Xrti,2Yrti)との一対のデータは、機械学習装置12に入力される。機械学習装置12は、二次元強度分布Iri(X,Y)を入力データとしたとき、教師データである空気揺らぎ誤差(δXri,δYri)及び真直度誤差(2Xrti,2Yrti)が出力データとなるように、各ニューロンの重み付けを調整する。これらの学習には、一般的なディープラーニングを用いることができる。
【0038】
以上の動作を、鏡面231の形状を少しずつ変えながら、かつ、真直度誤差(2Xrti,2Yrti)を少しずつ変えながら、例えば数万回繰り返して、二次元強度分布Iri(X,Y)とその空気揺らぎ誤差(δXri,δYri)及び真直度誤差(2Xrti,2Yrti)との数万対のデータを収集し、これらのデータを機械学習装置12に学習させる。このとき、先に数万個の二次元強度分布Iri(X,Y)を取得した後、それらの輝度重心(X,Y)miを計算することにより、数万対のデータを収集してもよい。
【0039】
真直度測定機20の効果は、次のとおりである。
【0040】
真直度測定機20によれば、空気揺らぎの存在しない領域26を通過するレーザビームLoに対して任意の波面歪みを付与する波面歪み付与装置21と、二次元イメージセンサ11で検出された二次元強度分布Imi(X,Y)の輝度重心(X,Y)miを計算する計算装置22と、を更に備えたことにより、教師あり学習において使用する入力データ及び出力データを的確に収集できる。
【0041】
また、鏡面231の形状を駆動素子232によって変形させる形状可変ミラー23と、ゼルニケ近似多項式を用いて駆動素子232を制御する制御装置24とから、波面歪み付与装置21を構成した場合は、様々な波形歪みを容易に実現できるので、多種多様なデータを収集できる。例えば、扇風機などで人工的な空気揺らぎを形成してレーザビームに波面歪みを付与する場合は、少ない種類の波面歪みしか付与できない。
【0042】
これに加え、多種多様なデータを機械学習装置12に学習させることができるので、機械学習装置12の性能を向上できる。つまり、未知なるデータに対しても正解を得る能力が向上する。したがって、真直度測定機20によれば、簡素な構成でありながら高精度化を更に実現できる。
【0043】
二次元強度分布Imi(X,Y)を画像処理によって平行移動させることにより二次元強度分布Imi(X,Y)に真直度誤差(2Xrti,2Yrti)を付与する場合は、リトロリフレクタ14をX-Yステージなどで動かして真直度誤差(2Xrti,2Yrti)を付与する場合に比べて、特別なハードウェアを必要とせずにソフトウェアだけで容易に真直度誤差(2Xrti,2Yrti)を付与できる。本実施形態2のその他の作用及び効果は、実施形態1のそれらと同様である。
【0044】
<実施形態3>
実施形態3は、本発明を方法の発明として捉えたものである。図5は、実施形態3の真直度測定方法を示すフローチャートである。図6は、図5におけるステップS1,S2の詳細例を示すフローチャートである。以下、図1乃至図6に基づき説明する。
【0045】
本実施形態3の真直度測定方法では、二次元イメージセンサ11及び機械学習装置12を用いる。二次元イメージセンサ11は、レーザビームLmを受光してレーザビームLmの二次元強度分布Imi(X,Y)を検出する。機械学習装置12は、二次元イメージセンサ11で検出された二次元強度分布Imi(X,Y)に基づき、レーザビームLmの空気揺らぎ誤差(δXmi,δYmi)及び真直度誤差(2Xmti,2Ymti)を推定する。
【0046】
そして、本実施形態3の真直度測定方法は、次のステップ(図5参照)を含む。
空気揺らぎ誤差(δXri,δYri)及び真直度誤差(2Xrti,2Yrti)が既知である多様な二次元強度分布Iri(X,Y)を入力データとし、この入力データに対応する空気揺らぎ誤差(δXri,δYri)及び真直度誤差(2Xrti,2Yrti)を出力データとして、機械学習装置12に予め教師あり学習をさせておく(ステップS1~S3)。
教師あり学習済みの機械学習装置12を用いて、空気揺らぎ誤差(δXmi,δYmi)及び真直度誤差(2Xmti,2Ymti)が未知である二次元強度分布Imi(X,Y)について、教師あり学習の結果によって空気揺らぎ誤差(δXmi,δYmi)及び真直度誤差(2Xmti,2Ymti)を推定する(ステップS4)。
【0047】
また、本実施形態3の真直度測定方法では、更に波面歪み付与装置21及び計算装置22を用いる。波面歪み付与装置21は、空気揺らぎの存在しない領域26を通過するレーザビームLoに対して任意の波面歪みを付与する。計算装置22は、波面歪みが付与されたレーザビームLmについて、二次元イメージセンサ11で検出された二次元強度分布Imi(X,Y)の輝度重心(X,Y)miを計算する。
【0048】
ここで、教師あり学習において使用する空気揺らぎ誤差(δXri,δYri)は、計算装置22で計算された輝度重心(X,Y)miである。教師あり学習において使用する真直度誤差(2Xrti,2Yrti)は、二次元強度分布Imi(X,Y)を平行移動させる画像処理によって、二次元強度分布Imi(X,Y)に付与されたものである。
【0049】
次に、図5の各ステップについて説明する。
【0050】
(ステップS1)空気揺らぎの存在しない領域26を通過するレーザビームLoに対して波面歪み付与装置21を介して波面歪みを付与するとともに、波面歪みが付与されたレーザビームLmを二次元イメージセンサ11で受光することにより、多様な二次元強度分布Imi(X,Y)のデータを取得する。
【0051】
(ステップS2)取得された多様な二次元強度分布Imi(X,Y)について、計算装置22で各輝度重心(X,Y)miを計算する。これらの輝度重心(X,Y)miが、空気揺らぎ誤差(δXri,δYri)であり、教師あり学習において出力データ(教師データ)となる。一方、二次元強度分布Imi(X,Y)を(2Xrti,2Yrti)だけ平行移動させることによって、二次元強度分布Imi(X,Y)に真直度誤差(2Xrti,2Yrti)を付与する。これらの真直度誤差(2Xrti,2Yrti)が、教師あり学習において使用する出力データ(教師データ)となる。そして、二次元強度分布Imi(X,Y)に真直度誤差(2Xrti,2Yrti)が付与された二次元強度分布Iri(X,Y)が、教師あり学習において使用する入力データとなる。
【0052】
(ステップS3)取得された多様な二次元強度分布Iri(X,Y)を入力データとし、入力データに対応する空気揺らぎ誤差(δXri,δYri)及び真直度誤差(2Xrti,2Yrti)を出力データ(教師データ)として、機械学習装置12に教師あり学習をさせておく。
【0053】
(ステップS4)空気揺らぎの存在する領域15を通過したレーザビームLmを二次元イメージセンサ11で受光して未知の二次元強度分布Imi(X,Y)を検出し、検出された未知の二次元強度分布Imi(X,Y)に対応する空気揺らぎ誤差(δXmi,δYmi)及び真直度誤差(2Xrti,2Yrti)を機械学習装置12で推定する。
【0054】
このように、ステップS1は二次元強度分布の取得、ステップS2は出力データ(教師データ)及び入力データの取得、ステップS3は教師あり学習、ステップS4は実測、である。
【0055】
図6[A]に示すように、ステップS1の詳しい一例は次のとおりである。まず鏡面231の形状を変え(ステップS101)、波面歪みが付与されたレーザビームLmを受光し(ステップS102)、二次元強度分布Imi(X,Y)のデータを出力し(ステップS103)、そのデータ数が所定値に達したか否かを判断し(ステップS104)、データ数が所定値に達したならばステップS2へ進み、データ数が所定値に達していなければステップS101へ戻る。
【0056】
図6[B]に示すように、ステップS2の詳しい一例は次のとおりである。まず、二次元強度分布Imi(X,Y)について、計算装置22で各輝度重心(X,Y)miすなわち空気揺らぎ誤差(δXri,δYri)を計算する(ステップ201)。続いて、二次元強度分布Imi(X,Y)を画像処理で(2Xrti,2Yrti)だけ平行移動させることによって、二次元強度分布Imi(X,Y)に真直度誤差(2Xrti,2Yrti)を付与する。(ステップS202)。これにより、空気揺らぎ誤差(δXri,δYri)及び真直度誤差(2Xrti,2Yrti)が付与された二次元強度分布Iri(X,Y)が得られる(ステップS203)。
【0057】
本実施形態3の真直度測定方法の作用及び効果は、実施形態1、2の真直度測定装置の作用及び効果と同様である。
【0058】
<その他>
以上、上記各実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細については当業者が理解し得るさまざまな変更を加えることができ、そのように変更された技術も本発明に含まれる。また、本発明には、上記各実施形態の一部又は全部を相互に組み合わせたものも含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、例えば半導体製造や超精密微細加工などの分野において、例えばサブピコメートルオーダの分解能を持つ変位計測技術に利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
10 真直度測定機
11 二次元イメージセンサ
12 機械学習装置
120 ニューラルネットワーク
121 入力層
122 中間層
123 出力層
13 レーザ光源
14 リトロリフレクタ
15 空気揺らぎの存在する領域
20 真直度測定機
21 波面歪み付与装置
23 形状可変ミラー
231 鏡面
232 駆動素子
24 制御装置
22 計算装置
25 コンピュータ
26 空気揺らぎの存在しない領域
27 筐体
Lo,Lr,Lm レーザビーム
Io(X,Y),Iri(X,Y),Imi(X,Y) 二次元強度分布
(X,Y)o,(X,Y)ri,(X,Y)mi 輝度重心
(δXri,δYri),(δXmi,δYmi) 空気揺らぎ誤差
(2Xrti,2Yrti),(2Xmti,2Ymti) 真直度誤差
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9