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  • 特開-腐食環境監視装置 図1
  • 特開-腐食環境監視装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157771
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】腐食環境監視装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/04 20060101AFI20231019BHJP
   G01N 33/2045 20190101ALI20231019BHJP
   G01N 27/26 20060101ALN20231019BHJP
【FI】
G01N17/04
G01N33/2045 100
G01N27/26 351J
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067888
(22)【出願日】2022-04-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】592061599
【氏名又は名称】株式会社近計システム
(72)【発明者】
【氏名】西川 英治
(72)【発明者】
【氏名】山口 保孝
(72)【発明者】
【氏名】大橋 善和
【テーマコード(参考)】
2G050
2G055
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050EB05
2G055AA02
2G055BA12
2G055CA07
2G055EA10
2G055FA06
(57)【要約】
【課題】Atmospheric Corrosion Monitor 型腐食センサー(以後ACMセンサーと言う)のガルバニック電流を計測することで周囲の腐食環境監視を行う腐食環境監視装置において、ACMセンサーの寿命を延ばし、交換の手間を省く。
【解決手段】ガルバニック電流計測回路に更に切り替え回路を設け、非計測時にはACMセンサーの電極間に防蝕電圧を印加し非計測時のガルバニック電流を抑制する。また、ガルバニック電流抑制時は直前のガルバニック電流抑制前の電流値がそのまま流れ続けたものとして電流値を積算する機能を設けた。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
近接させて設置した2個の異種の金属を電極とし、これをAtmospheric Corrosion Monitor 型腐食センサー(以後ACMセンサーという)としてその間のガルバニック電流を計測することで周囲の腐食環境計測を行う腐食環境監視装置において、ACMセンサー、ガルバニック電流計測回路、切り替え回路および防蝕電圧発生回路を設け、非計測時には前記ACMセンサーとガルバニック電流計測回路間の接続を切り離し、前記ACMセンサーを防蝕電圧発生回路側に接続して、前記ACMセンサーの電極間に防蝕電圧を印加することを特徴とした腐食環境監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載の腐食環境監視装置において、一定時間毎にガルバニック電流計測値を計測し、ディジタルデータに変換するとともに、更にガルバニック電流積算部を設け、上記計測値に計測時間間隔を掛けて計測の度に積算し、単位時間毎にガルバニック電流積算値を算出することを特徴とした腐食環境監視装置。
【請求項3】
請求項1および請求項2に記載の腐食環境監視装置において、防蝕電圧発生回路を設けず、非計測時はセンサーの電極間の回路を単に開放状態とすることを特徴とした腐食環境監視装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Atmospheric Corrosion Monitor 型腐食センサー(以後ACMセンサーという)による腐食環境監視装置および、そのシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁の鉄骨や送電線の鉄塔などへの金属腐食の環境計測のためにACMセンサーを用いて腐食環境を監視する装置が考案されている。[特許文献1]
【0003】
ACMセンサーは鉄などの薄い金属板の上に部分的に絶縁層を設け、その上に銀など溶出しにくい金属をコーティングしたもので、コーティングされた銀の面の淵が一定の長さを保つような形に溝が掘られており、下地の鉄板がその溝の部分に露出していて、雨滴などが掛かるとコーティングされた金属面の淵で絶縁層を跨いで双方の金属が導通し、金属がイオンとなって溶出し、その溶出量に応じて電極間に電流が流れるようになっている。
【0004】
上記電流をガルバニック電流と言い、これをセンサー出力とし、前記の腐食環境監視装置および同装置を備えた腐食環境監視システムはこのACMセンサーの出力電流をセンサーの電極間に接続した電流計によって計測し、その値を、通信ネットワークを利用して遠方に伝送するものである。
【0005】
この場合、ACMセンサーの一方の電極材料の鉄は電極に電子を残してイオン化し溶出する。この電子は電流計を通して陽極となる銀の電極に流れるが、この電流値の積算結果は正確に鉄の溶出量に比例する。よって、この電流値を計測して単位時間分積算すれば鉄の単位時間内の溶出量が判り、環境による腐食性が評価できる。
【0006】
しかしながら、ACMセンサーの電極の鉄がイオン化して溶出し、劣化するため数か月毎にセンサーを交換することが必要となる。しかるに、このACMセンサーは河川に掛けられた橋梁の鉄骨部分や山間部の鉄塔のかなりの地上高の部分など、人が容易に近づけない所に取り付けられることが多いため、センサーの交換は容易なことではないという問題があった。
【0007】
また、センサーの設置場所毎にセンサーの劣化の度合いも異なるため一律に交換するのは無駄が多く、かといって個々に管理して一定の劣化度に達した時点で交換するのは管理が大変で手間が掛かり、ミスも発生しやすく管理が容易でない。
【特許文献1】(特許第6812335号)腐食環境監視装置および同装置を備えた腐食環境監視システム
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
こういった点に鑑みて、本願が解決すべき課題は、従来の計測機能に影響を与えることなくACMセンサーの長寿命化を図り、ACMセンサーの交換が必要となる頻度を低減した腐食環境監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
腐食は徐々に進展する現象であるため、腐食時に生じるガルバニック電流の観測は10分に1回程度で良く、[引用文献1]の装置においてもデータ収録間隔は10分に1回である。一方でセンサーの電極間に取り付けられている配線は非計測時においてもそのままで、計測していない間もガルバニック電流は流れ続けており、流れた電流のクーロン値に応じた電極材料の金属がイオンとなって流出して電極が消耗し続ける。
【0010】
そのため、この無駄な金属イオンの流出を防ぐことが出来れば必要以上の電極の消耗を避けることができ、センサーを長持ちさせ、センサー交換の手間を省くことができると考えられる。
【0011】
そこで、本願の発明者は電気防食の技術を用いることで容易にACMセンサーの劣化を低減させることができるのではないかと考えた。すなはち、非計測時はガルバニック電流の計測回路を外し、ACMセンサーの陰極にマイナス、陽極に+の電圧を外部から過防蝕にならない程度に印加することでセンサーの劣化を低減させられると考えたのである。
【0012】
また、非計測時においても防蝕せずガルバニック電流を流し続けた場合の総腐食量を推定する場合は、計測時の計測結果の電流値の積算量をディジタル演算で求めることができると考えた。
【0013】
具体的には従来のガルバニック電流の計測回路にリレーを設け、そのリレーのON接点側(a接点側)に従来の計測回路を接続し、OFF接点(b接点側)に防蝕電圧印加回路の電圧を掛けておく。
【0014】
そして、計測時のみリレーの接点をONにすることで、計測時のみセンサー出力回路の接続先がガルバニック電流計測回路に切り替わってガルバニック電流値が計測され、非計測時にはセンサー出力回路の接続先が防食電圧印加回路側に切り替わってガルバニック電流の通電が阻止され、かつ防蝕電圧が印加されてセンサー電極の劣化は阻止される。
【0015】
上記の方法において、非計測時に防蝕電圧を印加する代わりに単にガルバニック電流の計測回路を開放状態にするだけでもセンサー電極の錆の進行はかなり阻止されるので、簡易にはこの方法を用いても良い。
【0016】
また、計測値はデータロガーを設けて、そこでガルバニック電流を収集記録し、また、ガルバニック電流の積算値をディジタル演算で算出させることで、ガルバニック電流を流し続けた場合の総腐食量を推定することとすれば、従来の機能を害することなくACMセンサーの長寿命化を図ることができる。
【0017】
本願第一の発明は、近接させて設置した2個の異種の金属を電極とし、これをACMセンサーとしてその間のガルバニック電流を計測することで周囲の腐食環境計測を行う腐食環境監視装置において、ACMセンサー、ガルバニック電流計測回路、切り替え回路および防蝕電圧発生回路を設け、非計測時には前記ACMセンサーとガルバニック電流計測回路間の接続を切り離し、前記ACMセンサーを防蝕電圧発生回路側に接続して、前記ACMセンサーの電極間に防蝕電圧を印加することを特徴とした腐食環境監視装置である。
【0018】
また、本願第二の発明は、上記装置において、更にガルバニック電流積算部を設け、一定時間毎にガルバニック電流値を計測し、ディジタルデータに変換するとともに、上記ガルバニック電流積算部において、ガルバニック電流計測値に計測時間間隔を掛けて計測の度に積算し、単位時間毎にガルバニック電流積算値を算出することを特徴とした腐食環境監視装置である。
【0019】
さらに、本願第三の発明は、上記腐食環境監視装置において、敢えて防蝕電圧発生回路を設けず、非計測時は前記ACMセンサーの電極間の回路を単に開放状態とすることを特徴とし、計測時に得られたガルバニック電流値を基に単位時間毎にガルバニック電流積算値を算出することを特徴とした腐食環境監視装置である。
【発明の効果】
【0020】
本願発明により、計測時以外はセンサーの電極に防食電圧が印加され、もしくは計測回路の切り離しによりガルバニック電流の流れが阻止されるのでセンサー電極の錆の進行を遅らせることができ、センサーを長持ちさせ交換のインターバルを長期化できる。しかも、金属の溶出量は積算演算により非計測時も金属溶出が続いたものとして算出されるので従来の様にガルバニック電流を流し放しにした場合の溶出量推定が可能であり、従来通りの腐食環境監視が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本願の実施形態を詳細に説明する。図1は本願の装置全体を示す概念図である。
【0022】
図1に示すように、本願装置は主にACMセンサー、ガルバニック電流計測回路、切り替え回路、ガルバニック電流積算部、防食電圧発生回路、から成る。
【0023】
ACMセンサーの電極からの配線は切り替え回路に接続されており、切り替え回路は10分に1回の計測時には、計測中の約数秒から数十秒の間、ガルバニック電流計測回路に接続される。一方、前記ガルバニック電流計測回路では切り替え後の電流値をその値の安定したところで計測し、A/D変換する。
【0024】
また、非計測時にはACMセンサーの電極からの配線は切り替え回路によって防食電圧発生回路に接続される。
【0025】
防食電圧発生回路は非計測時においてACMセンサーの電極に防食用の電圧(電極間に発生する電圧値と同極性で若干高めの防食用電圧)を印加するための起電力を有する。
【0026】
この防食電圧は高すぎるとセンサー電極面に電気二重層コンデンサ―を形成させ、さらには電極に付着した水滴を電気分解するに至る。そのような場合、電気二重層コンデンサ―に蓄積された電荷は計測時に計測値が安定するまでの時間が掛かる原因となり、また電気分解状態になると電極表面にガスが発生し、計測値を乱す原因になるので防食に必要な最小限の値としている。
【0027】
計測タイミングが近くなった時、この防食用起電力の電圧値はACMセンサー内に蓄電された余分な電荷をディスチャージし端子間開放時のACMセンサーの本来の電圧になるよう調整される。
【0028】
この電圧調整の代わりに、別途短絡用回路を設け、計測に先立ってACMセンサー内部の余分な電荷をディスチャージするために出力端子間を短時間短絡しても良い。
【0029】
10分の計測時間間隔内で実際に計測に必要な時間は数秒もしくは数十秒であり、回路切り替え後ガルバニック電流値が安定した時点で計測している。残りの時間は切り替え回路が防食電圧発生回路に接続され、この間ガルバニック電流は流れない。しかし、腐食の進み具合を評価する上においてはこの期間もガルバニック電流が流れたとして金属イオンの総流出量を算出する必要があるので、10分ごとの計測で得られたガルバニック電流値はガルバニック電流積算部でディジタル的に積算され単位時間毎の積算結果を出力している。
【0030】
例えば10分毎の計測値が10[μA]、20[μA]、30[μA]、40[μA]、50[μA]、60[μA]のように計測された場合、その1時間のガルバニック電流積算値はそれらの合計値“210[μA]”に10[min]/60[min]を掛けて、210[μA]×10[min]/60[min]=35[μAh]と計算されて出力されるが、実際にセンサーに流れるガルバニック電流値は各々の計測時にその時間間隔600秒の内の数秒から数十秒間のみなので35[μAh]より遥かに小さな値となる。
【0031】
なお、本願装置の電源はバッテリーおよび太陽光パネルを用いているが、有線でDC電源を外部から接続しても良い。
【0032】
本願装置の出力データはディジタルデータとして無線で外部のサーバもしくはクライアント端末装置に送られるが、パソコンなどから成るモニター装置を構成して有線で接続しデータ出力しても良い。
【0033】
また、本実施形態以外にも、非計測時におけるガルバニック電流を単に阻止するだけでもACMセンサーの劣化は低減させることができるので、防食電圧発生回路を省略し、非計測時はACMセンサーの出力を単に開放し、または半導体スイッチなどを用いて完全開放とはならないまでも高抵抗接続状態にしても良い。
【実施例0034】
図2の写真は左が従来の方式によるロガーに接続してセンサーを腐食環境下に2カ月間放置した場合のACMセンサーの状態を示しており、右が本願装置に接続して同一環境下に2カ月間放置した場合のACMセンサーの状態を示したものである。
【0035】
左のACMセンサーはスリットの部分に黒い点が多数見えることより、明らかに右のACMセンサーより腐食が進んでいることが判る。なお、図2の写真の左側のセンサーの現物は赤茶色の錆を生じており、目視で容易に見分けがつく。錆の部分が増えると錆の酸化鉄は不導体であるためガルバニック電流を阻害して電流値計測が正しく行えなくなるのでセンサーの交換が必要となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】装置全体の構成図
図2】従来方式(左)と本願方式(右)でのACMセンサーの腐食状態比較
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-05-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近接させて設置した2個の異種の金属を電極とし、これをAtmospheric Corrosion Monitor 型腐食センサー(以後ACMセンサーという)としてその間のガルバニック電流を計測することで周囲の腐食環境計測を行う腐食環境監視装置において、ACMセンサー、ガルバニック電流計測回路、切り替え回路および防蝕電圧発生回路を設け、非計測時には前記ACMセンサーとガルバニック電流計測回路間の接続を切り離し、前記ACMセンサーを防蝕電圧発生回路側に接続して、前記ACMセンサーの電極間に防蝕電圧を印加することを特徴とした腐食環境監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載の腐食環境監視装置において、一定時間毎にガルバニック電流計測値を計測し、ディジタルデータに変換するとともに、更にガルバニック電流積算部を設け、上記計測値に計測時間間隔を掛けて計測の度に積算し、単位時間毎にガルバニック電流積算値を算出することを特徴とした腐食環境監視装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Atmospheric Corrosion Monitor 型腐食センサー(以後ACMセンサーという)による腐食環境監視装置および、そのシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁の鉄骨や送電線の鉄塔などへの金属腐食の環境計測のためにACMセンサーを用いて腐食環境を監視する装置が考案されている。[特許文献1]
【0003】
ACMセンサーは鉄などの薄い金属板の上に部分的に絶縁層を設け、その上に銀など溶出しにくい金属をコーティングしたもので、コーティングされた銀の面の淵が一定の長さを保つような形に溝が掘られており、下地の鉄板がその溝の部分に露出していて、雨滴などが掛かるとコーティングされた金属面の淵で絶縁層を跨いで双方の金属が導通し、金属がイオンとなって溶出し、その溶出量に応じて電極間に電流が流れるようになっている。
【0004】
上記電流をガルバニック電流と言い、これをセンサー出力とし、前記の腐食環境監視装置および同装置を備えた腐食環境監視システムはこのACMセンサーの出力電流をセンサーの電極間に接続した電流計によって計測し、その値を、通信ネットワークを利用して遠方に伝送するものである。
【0005】
この場合、ACMセンサーの一方の電極材料の鉄は電極に電子を残してイオン化し溶出する。この電子は電流計を通して陽極となる銀の電極に流れるが、この電流値の積算結果は正確に鉄の溶出量に比例する。よって、この電流値を計測して単位時間分積算すれば鉄の単位時間内の溶出量が判り、環境による腐食性が評価できる。
【0006】
しかしながら、ACMセンサーの電極の鉄がイオン化して溶出し、劣化するため数か月毎にセンサーを交換することが必要となる。しかるに、このACMセンサーは河川に掛けられた橋梁の鉄骨部分や山間部の鉄塔のかなりの地上高の部分など、人が容易に近づけない所に取り付けられることが多いため、センサーの交換は容易なことではないという問題があった。
【0007】
また、センサーの設置場所毎にセンサーの劣化の度合いも異なるため一律に交換するのは無駄が多く、かといって個々に管理して一定の劣化度に達した時点で交換するのは管理が大変で手間が掛かり、ミスも発生しやすく管理が容易でない。
【特許文献1】(特許第6812335号)腐食環境監視装置および同装置を備えた腐食環境監視システム
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
こういった点に鑑みて、本願が解決すべき課題は、従来の計測機能に影響を与えることなくACMセンサーの長寿命化を図り、ACMセンサーの交換が必要となる頻度を低減した腐食環境監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
腐食は徐々に進展する現象であるため、腐食時に生じるガルバニック電流の観測は10分に1回程度で良く、[引用文献1]の装置においてもデータ収録間隔は10分に1回である。一方でセンサーの電極間に取り付けられている配線は非計測時においてもそのままで、計測していない間もガルバニック電流は流れ続けており、流れた電流のクーロン値に応じた電極材料の金属がイオンとなって流出して電極が消耗し続ける。
【0010】
そのため、この無駄な金属イオンの流出を防ぐことが出来れば必要以上の電極の消耗を避けることができ、センサーを長持ちさせ、センサー交換の手間を省くことができると考えられる。
【0011】
そこで、本願の発明者は電気防食の技術を用いることで容易にACMセンサーの劣化を低減させることができるのではないかと考えた。すなはち、非計測時はガルバニック電流の計測回路を外し、ACMセンサーの陰極にマイナス、陽極に+の電圧を外部から過防蝕にならない程度に印加することでセンサーの劣化を低減させられると考えたのである。
【0012】
また、非計測時においても防蝕せずガルバニック電流を流し続けた場合の総腐食量を推定する場合は、計測時の計測結果の電流値の積算量をディジタル演算で求めることができると考えた。
【0013】
具体的には従来のガルバニック電流の計測回路にリレーを設け、そのリレーのON接点側(a接点側)に従来の計測回路を接続し、OFF接点(b接点側)に防蝕電圧印加回路の電圧を掛けておく。
【0014】
そして、計測時のみリレーの接点をONにすることで、計測時のみセンサー出力回路の接続先がガルバニック電流計測回路に切り替わってガルバニック電流値が計測され、非計測時にはセンサー出力回路の接続先が防食電圧印加回路側に切り替わってガルバニック電流の通電が阻止され、かつ防蝕電圧が印加されてセンサー電極の劣化は阻止される。
【0015】
また、計測値はデータロガーを設けて、そこでガルバニック電流を収集記録し、また、ガルバニック電流の積算値をディジタル演算で算出させることで、ガルバニック電流を流し続けた場合の総腐食量を推定することとすれば、従来の機能を害することなくACMセンサーの長寿命化を図ることができる。
【0016】
本願第一の発明は、近接させて設置した2個の異種の金属を電極とし、これをACMセンサーとしてその間のガルバニック電流を計測することで周囲の腐食環境計測を行う腐食環境監視装置において、ACMセンサー、ガルバニック電流計測回路、切り替え回路および防蝕電圧発生回路を設け、非計測時には前記ACMセンサーとガルバニック電流計測回路間の接続を切り離し、前記ACMセンサーを防蝕電圧発生回路側に接続して、前記ACMセンサーの電極間に防蝕電圧を印加することを特徴とした腐食環境監視装置である。
【0017】
また、本願第二の発明は、上記装置において、更にガルバニック電流積算部を設け、一定時間毎にガルバニック電流値を計測し、ディジタルデータに変換するとともに、上記ガルバニック電流積算部において、ガルバニック電流計測値に計測時間間隔を掛けて計測の度に積算し、単位時間毎にガルバニック電流積算値を算出することを特徴とした腐食環境監視装置である。
【発明の効果】
【0018】
本願発明により、計測時以外はセンサーの電極に防食電圧が印加され、ガルバニック電流の流れが阻止されるのでセンサー電極の錆の進行を遅らせることができ、センサーを長持ちさせ交換のインターバルを長期化できる。しかも、金属の溶出量は積算演算により非計測時も金属溶出が続いたものとして算出されるので従来の様にガルバニック電流を流し放しにした場合の溶出量推定が可能であり、従来通りの腐食環境監視が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本願の実施形態を詳細に説明する。図1は本願の装置全体を示す概念図である。
【0020】
図1に示すように、本願装置は主にACMセンサー、ガルバニック電流計測回路、切り替え回路、ガルバニック電流積算部、防食電圧発生回路、から成る。
【0021】
ACMセンサーの電極からの配線は切り替え回路に接続されており、切り替え回路は10分に1回の計測時には、計測中の約数秒から数十秒の間、ガルバニック電流計測回路に接続される。一方、前記ガルバニック電流計測回路では切り替え後の電流値をその値の安定したところで計測し、A/D変換する。
【0022】
また、非計測時にはACMセンサーの電極からの配線は切り替え回路によって防食電圧発生回路に接続される。
【0023】
防食電圧発生回路は非計測時においてACMセンサーの電極に防食用の電圧(電極間に発生する電圧値と同極性で若干高めの防食用電圧)を印加するための起電力を有する。
【0024】
この防食電圧は高すぎるとセンサー電極面に電気二重層コンデンサ―を形成させ、さらには電極に付着した水滴を電気分解するに至る。そのような場合、電気二重層コンデンサ―に蓄積された電荷は計測時に計測値が安定するまでの時間が掛かる原因となり、また電気分解状態になると電極表面にガスが発生し、計測値を乱す原因になるので防食に必要な最小限の値としている。
【0025】
計測タイミングが近くなった時、この防食用起電力の電圧値はACMセンサー内に蓄電された余分な電荷をディスチャージし端子間開放時のACMセンサーの本来の電圧になるよう調整される。
【0026】
この電圧調整の代わりに、別途短絡用回路を設け、計測に先立ってACMセンサー内部の余分な電荷をディスチャージするために出力端子間を短時間短絡しても良い。
【0027】
10分の計測時間間隔内で実際に計測に必要な時間は数秒もしくは数十秒であり、回路切り替え後ガルバニック電流値が安定した時点で計測している。残りの時間は切り替え回路が防食電圧発生回路に接続され、この間ガルバニック電流は流れない。しかし、腐食の進み具合を評価する上においてはこの期間もガルバニック電流が流れたとして金属イオンの総流出量を算出する必要があるので、10分ごとの計測で得られたガルバニック電流値はガルバニック電流積算部でディジタル的に積算され単位時間毎の積算結果を出力している。
【0028】
例えば10分毎の計測値が10[μA]、20[μA]、30[μA]、40[μA]、50[μA]、60[μA]のように計測された場合、その1時間のガルバニック電流積算値はそれらの合計値“210[μA]”に10[min]/60[min]を掛けて、210[μA]×10[min]/60[min]=35[μAh]と計算されて出力されるが、実際にセンサーに流れるガルバニック電流値は各々の計測時にその時間間隔600秒の内の数秒から数十秒間のみなので35[μAh]より遥かに小さな値となる。
【0029】
なお、本願装置の電源はバッテリーおよび太陽光パネルを用いているが、有線でDC電源を外部から接続しても良い。
【0030】
本願装置の出力データはディジタルデータとして無線で外部のサーバもしくはクライアント端末装置に送られるが、パソコンなどから成るモニター装置を構成して有線で接続しデータ出力しても良い。
【実施例0031】
図2の写真は左が従来の方式によるロガーに接続してセンサーを腐食環境下に2カ月間放置した場合のACMセンサーの状態を示しており、右が本願装置に接続して同一環境下に2カ月間放置した場合のACMセンサーの状態を示したものである。
【0032】
左のACMセンサーはスリットの部分に黒い点が多数見えることより、明らかに右のACMセンサーより腐食が進んでいることが判る。なお、図2の写真の左側のセンサーの現物は赤茶色の錆を生じており、目視で容易に見分けがつく。錆の部分が増えると錆の酸化鉄は不導体であるためガルバニック電流を阻害して電流値計測が正しく行えなくなるのでセンサーの交換が必要となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】装置全体の構成図
図2】従来方式(左)と本願方式(右)でのACMセンサーの腐食状態比較