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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157809
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】睡眠改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/742 20150101AFI20231019BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20231019BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20231019BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20231019BHJP
【FI】
A61K35/742
A61P25/20
C12N1/20 E
A23L33/135
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022076772
(22)【出願日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】佐野 優一
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LE02
4B018MD85
4B018ME14
4B018MF13
4B018MF14
4B065AA19X
4B065AC20
4B065BA16
4B065BA22
4B065BA24
4B065CA41
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC64
4C087BC65
4C087CA09
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA05
(57)【要約】
【課題】 本発明は、天然物由来の新規な睡眠改善剤を提供する。
【解決手段】 枯草菌に睡眠改善効果があることを見出し、本発明を完成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
枯草菌を有効成分とする、睡眠改善剤。
【請求項2】
枯草菌死菌体を有効成分とする、請求項1記載の睡眠改善剤。
【請求項3】
枯草菌が芽胞形成能欠損株である、請求項1又は2に記載の睡眠改善剤。
【請求項4】
睡眠改善が起床時眠気の改善、睡眠による疲労回復感の向上又は睡眠不足感の改善の何れか1以上である、請求項1又は2に記載の睡眠改善剤。
【請求項5】
睡眠改善が起床時眠気の改善、睡眠による疲労回復感の向上又は睡眠不足感の改善の何れか1以上である、請求項3に記載の睡眠改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、枯草菌を有効成分とする睡眠改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトにとって睡眠は不可欠なものであり、睡眠不足や質の低い睡眠は、身体にとってストレスとなり、不眠症をはじめとする睡眠障害を引き起こす可能性がある。また、睡眠はヒトの記憶や認知機能にも影響を与えることが知られており、睡眠への関心が高まっている。現代においては、約4割の人が、睡眠不足や日中の眠気を感じているとされており、質の高い睡眠を求めて、特に日常に取り入れやすい食品を通じて、睡眠の質を高めようとする動きが活発である。
【0003】
例えば、ラクトバチルス・デルブルエッキー等の乳酸菌、および、その代謝物の少なくとも一方を含有する睡眠の質改善用組成物(特許文献1)や産生する乳酸の旋光性がL型以外に分類される乳酸菌1つ以上を含む睡眠促進用組成物(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-138616号公報
【特許文献2】特開2021-123562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、天然物由来の睡眠改善剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、枯草菌に睡眠改善効果があることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]の態様に関する。
[1]枯草菌を有効成分とする、睡眠改善剤。
[2]枯草菌死菌体を有効成分とする、[1]記載の睡眠改善剤。
[3]枯草菌が芽胞形成能欠損株である、[1]又は[2]に記載の睡眠改善剤。
[4]睡眠改善が起床時眠気の改善、睡眠による疲労回復感の向上又は睡眠不足感の改善の何れか1以上である、[1]又は[2]に記載の睡眠改善剤。
[5]睡眠改善が起床時眠気の改善、睡眠による疲労回復感の向上又は睡眠不足感の改善の何れか1以上である、[3]記載の睡眠改善剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、天然物由来の睡眠改善剤を提供できる。また、殺菌後の死菌において睡眠改善効果が認められることから、枯草菌の死菌体を使用することで、製造設備の衛生管理や製品の品質管理が容易になり、睡眠改善剤を効率的に製造できる。また、有効成分が化学合成品ではなく、食経験のある菌のため、継続した長期的な摂取が望ましい睡眠改善剤として最適である。さらに、芽胞形成能欠損株を使用すれば、一般的な微生物と同様に100℃以下の穏和な条件で殺菌を行うことができ、芽胞菌で問題となる殺菌不足による製造設備の汚染を防ぐことができるため、各種食品への添加や製剤化が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の睡眠改善剤は、枯草菌を有効成分とするものであり、摂取により、起床時眠気の改善、睡眠による疲労回復感の向上又は睡眠不足感の改善効果を発揮できる。
【0010】
本発明に記載の枯草菌は、前記機能性製剤の有効成分となる枯草菌(Bacillus subtilis)であれば、生菌でも死菌でもよく、特に限定されないが、バチルス・サブチリス・サブスピーシーズ・サブチリス(B.subtilis.subsp.subtilis)が好ましく、バチルス・サブチリスNBRC3009、バチルス・サブチリスNBRC3013、バチルス・サブチリスNBRC3335、バチルス・サブチリスNBRC13169等の納豆菌がより好ましく、独立行政法人製品評価技術基盤機構等から入手することができる。死菌でも睡眠改善効果があるため、枯草菌の死菌体を使用することで、製造設備の衛生管理や製品の品質管理が容易になり、睡眠改善剤を効率的に製造できる。また、芽胞形成能欠損株を使用すれば、100℃以下の穏和な殺菌条件で死菌体を調製することができるため、芽胞菌で問題となる殺菌不足による製造設備の汚染を防ぐことができ、各種食品への添加や製剤化が容易となる。
【0011】
本発明で使用される枯草菌は、特に限定されないが、芽胞形成能欠損株が好ましく、芽胞形成能欠損株の取得方法としては、遺伝子組換えによる方法、突然変異による方法等が例示できるが、自然突然変異による方法が好ましい。自然突然変異による芽胞形成能欠損株の取得方法は、特に限定されず、高温培養法や、野生株と欠損株のコロニーのメラニン色素の着色により識別するランダム法、異化代謝産物抑制(Catabolite repression)様現象を利用した方法(J.F.Michel,B.Cami,P.Schaeffer:Ann.Inst.Pasteur,114,11;21(1968))が例示できるが、異化代謝産物抑制様現象を利用した方法が好ましい。異化代謝産物抑制様現象を利用する方法により得られる芽胞形成能欠損株は、芽胞形成能と供にリゾチーム活性及び形質転換能が欠損しているため、溶菌による問題がなく継代することができ、芽胞形成能欠損という形質を維持することができる。
【0012】
枯草菌の培養には、通常の細菌培養用培地が使用でき、炭素源、窒素源、無機物、その他枯草菌が必要とする微量栄養素等を含有するものであれば、合成培地、天然培地の何れでも使用可能である。炭素源としては、グルコース、シュクロース、デキストリン、澱粉、グリセリン、糖蜜等が使用できる。窒素源としては、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機塩類、DL-アラニン、L-グルタミン酸等のアミノ酸類、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー等の窒素含有天然物が使用できる。無機物としては、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化第二鉄等が使用できる。
【0013】
枯草菌の培養条件は、適宜設定できるが、通気、振盪、攪拌等により好気的に液体培養するのが好ましく、培養温度は例えば20~50℃が例示でき、30~45℃が好ましく、培養時間は例えば2~72時間が例示でき、4~48時間が好ましく、6~36時間がより好ましく、培地のpHは例えば5.0~9.0が例示でき、5.5~8.5が好ましい。
【0014】
枯草菌は培養後に殺菌してもよく、殺菌条件は一般的な方法であれば特に限定されないが、例えば加熱温度は、70~150℃であり、加熱時間は、温度に応じて決定すればよいが、通常1~60分である。また本発明に記載の芽胞形成能欠損株は、芽胞を形成しないため、100℃以下の穏和な条件で殺菌を行うことができ、例えば70~100℃、5~20分間の加熱が例示できる。菌体の回収は、遠心分離機等で培地を除去した後、緩衝液、生理食塩水、滅菌水等で菌体を洗浄し、遠心分離機等により固液分離して集菌できる。さらに、エアードライ、スプレードライ、真空及び/又は凍結乾燥等を行って粉末化してもよい。
【0015】
本発明の睡眠改善剤はその有効成分が天然物由来であり、かつ、製造が容易なため、広く利用でき、各種製品に添加が可能で、液状で添加してもよく、冷蔵、冷凍又は乾燥状態で添加してもよく、睡眠改善効果を有する飲食品、医薬品、飼料等を調製することができる。各種製品中の枯草菌含有量は、摂取により睡眠改善効果が認められる量であれば特に限定されないが、1~2,000億個が好ましく、2~1,000億個がより好ましく、5~500億個がさらに好ましい。
【実施例0016】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【0017】
(1.枯草菌菌体の調製)
異化代謝産物抑制様現象を利用した自然突然変異により、枯草菌の一種であるバチルス・サブチリスNBRC13169から、芽胞形成能を欠損した、芽胞形成能欠損株:バ
利用した自然突然変異は、特許第6019528号公報の実施例に記載の方法で行い、該公報に記載の方法で芽胞形成能が欠損した株であることを確認した。
【0018】
前記枯草菌を、液体培地(酵母エキス:2%、グルコース:5%、水道水:93%)に接種して37℃で24時間通気攪拌培養した後、90℃で10分間加熱殺菌処理した。次いで、遠心分離機を用いて培地を除去し、回収した菌体を水道水で洗浄した後、さらに遠心分離機で固液分離することで、菌体を回収した。回収した菌体をスプレードライヤーで乾燥し、枯草菌の死菌体粉末を調製した。該枯草菌を用いて、QOL納豆菌(登録商標)(1.0×1011個/g)を調製し、下記の睡眠評価試験を行った。
【0019】
(2.睡眠評価試験)
睡眠に問題がある健常な成人60人を試験食摂取群と対照食摂取群の2グループにわけ、1日に1回、1カプセルを8週間連続で摂取させた。
試験食のカプセルの内容物の内訳は、枯草菌:200mg、パインデックス#100:147mg及びステアリン酸カルシウム:3mg(合計:250mg)とし、対照食のカプセルの内容物の内訳は、サンデック#300:200mg、パインデックス#100:147mg及びステアリン酸カルシウム:3mg(合計:250mg)とした。
各群の被験者に、摂取前、摂取4週間目、摂取8週間目で、OSA睡眠調査票MA版(山本由華吏ら:中高年・高齢者を対象としたOSA睡眠調査票(MA版)の開発と標準化.脳と精神の医学,vol.10,p.401-409,1999)による、睡眠に関する調査を行った。各群でそれぞれ解析除外者が1名ずつ出たため、解析対象者は最終的に各群29名ずつとなった。
【0020】
OSA睡眠調査票MA版は、第1因子(起床時眠気)、第2因子(入眠と睡眠維持)、第3因子(夢み)、第4因子(疲労回復)、第5因子(睡眠時間)の5因子から起床時の睡眠内省を評価する心理尺度である。5因子は、16個の質問項目から成り立ち、選択した心理尺度から各因子のスコアを算出し、スコアが高いほど睡眠が良好であることを示す。
今回の調査結果で得られた各因子のスコアについて、各群で一標本t検定を行い、摂取前と摂取4週目、摂取8週目との間で差があるかを検定した。結果を表1に示した。
【0021】
【表1】
【0022】
第1因子(起床時眠気)のスコア値は、試験食摂取群において、摂取4週目、摂取8週目で有意に増加することを確認し、対照食摂取群では、有意な増加を確認できなかった。
第2因子(入眠と睡眠維持)のスコア値は、両群において、摂取4週目、摂取8週目で有意に増加することを確認した。
第3因子(夢み)のスコア値は、両群において有意な増加を確認できなかった。
第4因子(疲労回復)のスコア値は、試験食摂取群において、摂取4週目、摂取8週目で有意に増加することを確認し、対照食摂取群では、有意な増加を確認できなかった。
第5因子(睡眠時間)のスコア値は、試験食摂取群において、摂取4週目、摂取8週目で有意に増加することを確認し、対照食摂取群では、摂取4週目で有意な増加を確認できたが、摂取8週目では有意な増加を確認できなかった。
【0023】
以上より、第1因子(起床時眠気)、第4因子(疲労回復)及び第5因子(睡眠時間)で優位な改善が認められ、第5因子(睡眠時間)においては、長期的に摂取することで、枯草菌の効果が発現すると考えられた。起床時の眠気の改善、睡眠による疲労回復感の向上及び睡眠不足感の改善において、枯草菌が効果を示すことを確認できたことから、枯草菌を摂取することで起床時の睡眠感が改善され、睡眠の質が向上することが明らかになった。