(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157832
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】分子設計の方法、装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G16C 60/00 20190101AFI20231019BHJP
【FI】
G16C60/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209321
(22)【出願日】2022-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2022067155
(32)【優先日】2022-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】辻本 浩行
(72)【発明者】
【氏名】山川 菜摘
(72)【発明者】
【氏名】木村 一平
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀樹
(57)【要約】
【課題】現実に合成可能な分子設計の範疇において、より適切な性能を有する分子設計の結果を出力できる方法、装置、及びプログラムを提供することを目的とする。
【解決手段】 装置が、ポリマーに関する候補情報Aと、検知対象物質に関する情報Bと、感応膜の膜構成に関する参考情報Cと、をモデルに入力することにより、前記ポリマーを用いて構成した前記感応膜の、前記検知対象物質に対する感度情報Dを出力する感度推定工程を実行する、方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置が、
ポリマーに関する候補情報Aと、検知対象物質に関する情報Bと、感応膜の膜構成に関する参考情報Cと、をモデルに入力することにより、前記ポリマーを用いて構成した前記感応膜の、前記検知対象物質に対する感度情報Dを出力する感度推定工程を実行する、
方法。
【請求項2】
前記情報Bが、前記検知対象物質の1次元の溶解度パラメータH2-1を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記情報Bが、前記検知対象物質のロンドン分散力項、双極子項、及び水素結合項の3次元の溶解度パラメータH2-2を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記情報Bが、前記検知対象物質のハンセン溶解度パラメータH2-3を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記感度推定工程において、前記ポリマーと前記検知対象物質との相互作用に関する情報Fを、前記モデルにさらに入力し、
前記情報Fが、χパラメータを含む、
請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記感度推定工程において、前記ポリマーと前記検知対象物質との相互作用に関する情報Fを、前記モデルにさらに入力し、
前記情報Fが、χパラメータ及び/又はRaパラメータを、含む、
請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記感度推定工程において、前記モデルが、前記感応膜の膜構成に関する推奨情報C’をさらに出力する、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記感度推定工程前に、
前記ポリマーの分子構造の候補を作成する工程と、
作成した前記分子構造に基づいて、前記ポリマーの溶解度パラメータH1を算出する工程と、をさらに実行し、
前記候補情報Aが、算出した前記溶解度パラメータH1を含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記分子構造が、前記ポリマーの有する官能基、及び/又は、前記ポリマーの共重合比を含む、
請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
複数の候補情報Aに対して前記感度情報Dをそれぞれ出力する工程と、
出力された複数の前記感度情報Dのうち、予め定められた条件を満たす前記感度情報Dを特定する工程と、
特定した前記感度情報Dに対応する前記候補情報Aの前記ポリマーの分子構造を、前記感応膜を構成するポリマーの分子構造に関する情報Eとして、出力する分子構造推定工程と、をさらに実行する、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記感度推定工程前に、
前記ポリマーの分子構造を特定せずに、前記情報Bに基づいて前記ポリマーの溶解度パラメータH1の候補を作成する工程と、をさらに実行し、
前記候補情報Aが、作成した前記溶解度パラメータH1を含む、
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
複数の候補情報Aに対して前記感度情報Dをそれぞれ出力する工程と、
出力された複数の前記感度情報Dのうち、予め定められた条件を満たす前記感度情報Dを特定する工程と、
特定した前記感度情報Dに対応する前記候補情報Aの前記ポリマーの前記溶解度パラメータH1-1に基づいて、前記ポリマーの分子構造を推定する工程と、
推定した前記ポリマーの分子構造を、前記感応膜を構成するポリマーの分子構造に関する情報Eとして、出力する分子構造推定工程と、をさらに実行する、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ポリマーに関する候補情報Aと、検知対象物質に関する情報Bと、感応膜の膜構成に関する参考情報Cと、をモデルに入力することにより、前記ポリマーを用いて構成した前記感応膜の、前記検知対象物質に対する感度情報Dを出力する推定部を有する、
装置。
【請求項14】
前記推定部が、前記ポリマーと前記検知対象物質との相互作用に関する情報Fを、前記モデルにさらに入力し、
前記情報Fが、χパラメータ及び/又はRaパラメータを、含む、
請求項13に記載の装置。
【請求項15】
装置に、
ポリマーに関する候補情報Aと、検知対象物質に関する情報Bと、感応膜の膜構成に関する参考情報Cと、をモデルに入力することにより、前記ポリマーを用いて構成した前記感応膜の、前記検知対象物質に対する感度情報Dを出力する感度推定工程を、実行させる、
プログラム。
【請求項16】
前記感度推定工程において、前記ポリマーと前記検知対象物質との相互作用に関する情報Fを、前記モデルにさらに入力し、
前記情報Fが、χパラメータ及び/又はRaパラメータを、含む、
請求項15に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子設計の方法、装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
所定の機能を満たす新規材料を得るべく、技術者は、経験や発想などといった暗黙知に基づいて試行錯誤を重ね、その新規材料の分子設計を行っている。例えば、所定の機能を有する分子を設計することを目的として、技術者は暗黙知や技術常識から分子骨格のおよその予想を行い、さらに、実際にその分子骨格を有しかつ置換基等にバリエーションを有する化合物群を合成し、それら化合物群について所望の機能を奏するかを検証実験により確認する。
【0003】
このような従来法では、分子骨格の予測の段階では実際に設計しようとしている分子が所望の機能を有するか否かは不確定であり、合成した化合物を検証実験する必要がある。化合物の合成にも、その機能の検証実験にも相当な時間を要するのが通常であるため、従来の新規材料の分子設計には、試行錯誤に多くの時間を要する。そこで、情報処理技術を使用して、分子設計をする試みがなされており、例えば、非特許文献1にはヒルデブラントの溶解性パラメータ(SP値)、及びハンセン溶解度パラメータ(HSP値)を用いて高分子センサの応答性を評価することが検討されている。
【0004】
ところで、近年、嗅覚センサとして膜型表面応力センサ(MSS)が注目されている。膜型表面応力センサは、MEMSセンサアレイ上に感応膜を備える構造を有し、感応膜が検知対象物質の吸着・膜内への拡散により膨張すると、その膨張がセンサの検知部に加えた応力を電気抵抗等として電気的に検出される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Belmares et al., Vol. 25, No. 15, pp 1814-1826 Journal of Computational Chemistry
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような膜型表面応力センサにより様々なにおいを検出するためには、検出ターゲットとする検知対象物質(におい分子)ごとに、吸着感度が高く膨張率が高い感応膜を設計する必要がある。しかし、数十万種類あるといわれるにおい分子に対して、それぞれ適切な検出性能を示す感応膜を設計するのは困難である。特に、材料開発の分野においては、上記従来法のように技術者が試行錯誤を繰り返して一つの感応膜を作成する所定の機能を有する分子を設計する。そのため、嗅覚センサとしての膜型表面応力センサの普及には、新たな感応膜の設計技術及び作製技術が必要とされる。
【0007】
このような技術的な課題に対して、例えば、技術者の有する暗黙知や技術常識を数値化し、新規材料に求める機能から、相当の精度で分子設計を行うことが可能となれば、材料開発の加速化や開発コストの大幅な削減が期待できる。
【0008】
しかしながら一方で、非特許文献1のように、情報処理技術を使用して分子設計をしようという試みはなされているが、実際に分子を合成してその結果を実証することまでは至っておらず、その精度の評価ができていないことが多い。また、情報処理技術を使用して得られた分子構造は合成経路についての考慮はされておらず、実際に分子を合成してその機能を実証しようとしても、出力された分子骨格自体の合成が極めて困難であり、実証ができないことが多い。このように情報処理技術を使用した従来の分子設計手法では、およそ現実の使用に耐えられないという問題がある。
【0009】
そのため、材料開発の分野において、従来法の分子設計を情報処理技術により代替する又は情報処理技術により開発者の参考となるような情報を提供するためには、現実に合成可能な分子設計の範疇において、より適切な性能を有する分子設計の結果を出力できるシステムが望まれる。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、現実に合成可能な分子設計の範疇において、より適切な性能を有する分子設計の結果を出力できる方法、装置、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
装置が、
ポリマーに関する候補情報Aと、検知対象物質に関する情報Bと、感応膜の膜構成に関する参考情報Cと、をモデルに入力することにより、前記ポリマーを用いて構成した前記感応膜の、前記検知対象物質に対する感度情報Dを出力する感度推定工程を実行する、
方法。
〔2〕
前記情報Bが、前記検知対象物質の1次元の溶解度パラメータH2-1を含む、
〔1〕に記載の方法。
〔3〕
前記情報Bが、前記検知対象物質のロンドン分散力項、双極子項、水素結合項の3次元の溶解度パラメータH2-2を含む、
〔1〕に記載の方法。
〔4〕
前記情報Bが、前記検知対象物質のハンセン溶解度パラメータH2-3を含む、
〔1〕に記載の方法。
〔5〕
前記感度推定工程において、前記ポリマーと前記検知対象物質との相互作用に関する情報Fを、前記モデルにさらに入力し、
前記情報Fが、χパラメータを含む、
〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の方法。
〔6〕
前記感度推定工程において、前記ポリマーと前記検知対象物質との相互作用に関する情報Fを、前記モデルにさらに入力し、
前記情報Fが、χパラメータ及び/又はRaパラメータを、含む、
〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の方法。
〔7〕
前記感度推定工程において、前記モデルが、前記感応膜の膜構成に関する推奨情報C’をさらに出力する、
〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の方法。
〔8〕
前記感度推定工程前に、
前記ポリマーの分子構造の候補を作成する工程と、
作成した前記分子構造に基づいて、前記ポリマーの溶解度パラメータH1を算出する工程と、をさらに実行し、
前記候補情報Aが、算出した前記溶解度パラメータH1を含む、
〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の方法。
〔9〕
前記分子構造が、前記ポリマーの有する官能基、及び/又は、前記ポリマーの共重合比を含む、
〔8〕のいずれか一項に記載の方法。
〔10〕
複数の候補情報Aに対して前記感度情報Dをそれぞれ出力する工程と、
出力された複数の前記感度情報Dのうち、予め定められた条件を満たす前記感度情報Dを特定する工程と、
特定した前記感度情報Dに対応する前記候補情報Aの前記ポリマーの分子構造を、前記感応膜を構成するポリマーの分子構造に関する情報Eとして、出力する分子構造推定工程と、をさらに実行する、
〔9〕に記載の方法。
〔11〕
前記感度推定工程前に、
前記ポリマーの分子構造を特定せずに、前記情報Bに基づいて前記ポリマーの溶解度パラメータH1の候補を作成する工程と、をさらに実行し、
前記候補情報Aが、作成した前記溶解度パラメータH1を含む、
〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の方法。
〔12〕
複数の候補情報Aに対して前記感度情報Dをそれぞれ出力する工程と、
出力された複数の前記感度情報Dのうち、予め定められた条件を満たす前記感度情報Dを特定する工程と、
特定した前記感度情報Dに対応する前記候補情報Aの前記ポリマーの前記溶解度パラメータH1に基づいて、前記ポリマーの分子構造を推定する工程と、
推定した前記ポリマーの分子構造を、前記感応膜を構成するポリマーの分子構造に関する情報Eとして、出力する分子構造推定工程と、をさらに実行する、
〔11〕に記載の方法。
〔13〕
ポリマーに関する候補情報Aと、検知対象物質に関する情報Bと、感応膜の膜構成に関する参考情報Cと、をモデルに入力することにより、前記ポリマーを用いて構成した前記感応膜の、前記検知対象物質に対する感度情報Dを出力する推定部を有する、
装置。
〔14〕
前記推定部が、前記ポリマーと前記検知対象物質との相互作用に関する情報Fを、前記モデルにさらに入力し、
前記情報Fが、χパラメータ及び/又はRaパラメータを、含む、
〔13〕に記載の装置。
〔15〕
装置に、
ポリマーに関する候補情報Aと、検知対象物質に関する情報Bと、感応膜の膜構成に関する参考情報Cと、をモデルに入力することにより、前記ポリマーを用いて構成した前記感応膜の、前記検知対象物質に対する感度情報Dを出力する感度推定工程を、実行させる、
プログラム。
〔16〕
前記感度推定工程において、前記ポリマーと前記検知対象物質との相互作用に関する情報Fを、前記モデルにさらに入力し、
前記情報Fが、χパラメータ及び/又はRaパラメータを、含む、
〔15〕に記載のプログラム。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、現実に合成可能な分子設計の範疇において、より適切な性能を有する分子設計の結果を出力できる方法、装置、及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る装置の機能的な構成を示すブロック図の一例である。
【
図2A】本実施形態に係る情報Aの一例を示す概略図である。
【
図2B】本実施形態に係る情報Bの一例を示す概略図である。
【
図2C】本実施形態に係る情報Cの一例を示す概略図である。
【
図2D】既知のモノマーユニットとそのモノマーユニットの溶解度パラメータH1とが対応したリストを示す概略図である。
【
図3A】本実施形態に係る処理方法のフローチャートの一例を示す概略図である。
【
図3B】
図3AのステップS303の具体的な処理を示すフローチャートの一例を示す概略図である。
【
図3C】
図3AのステップS303の具体的な処理を示すフローチャートの一例を示す概略図である。
【
図3D】
図3AのステップS308の具体的な処理を示すフローチャートの一例を示す概略図である。
【
図4】情報Eを他の装置に対して出力する場合の一態様を示す概略図である。
【
図5A】本実施形態に係る処理方法のフローチャートの一例を示す概略図である。
【
図5B】
図5AのステップS503の具体的な処理を示すフローチャートの一例を示す概略図である。
【
図5C】
図5AのステップS503の具体的な処理を示すフローチャートの一例を示す概略図である。
【
図5D】
図5AのステップS507の具体的な処理を示すフローチャートの一例を示す概略図である。
【
図5E】
図5AのステップS509の具体的な処理を示すフローチャートの一例を示す概略図である。
【
図5F】
図5AのステップS509の具体的な処理を示すフローチャートの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0015】
1.センサ
初めに、感応膜が使用される膜型表面応力センサの一例について説明する。膜型表面応力センサは、センサ本体上に感応膜を設けたセンサである。このセンサは、当該感応膜が検知対象物質(検体分子)を吸着・膜内への拡散することで生じる物理パラメータの変化を、センサ本体により検出する。本実施形態のセンサにおいて使用可能なセンサ本体の種類は、特に制限されず、物理パラメータ種類によって適宜選択できる。
【0016】
このような物理パラメータとしては、特に限定されないが、例えば、表面応力、応力、力、表面張力、圧力、質量、弾性、ヤング率、ポアソン比、共振周波数、周波数、体積、厚み、粘度、密度、磁力、磁気量、磁場、磁束、磁束密度、電気抵抗、電気量、誘電率、電力、電界、電荷、電流、電圧、電位、移動度、静電エネルギー、キャパシタンス、インダクタンス、リアクタンス、サセプタンス、アドミッタンス、インピーダンス、コンダクタンス、プラズモン、屈折率、光度および温度やその他の様々な物理パラメータが挙げられる。
【0017】
また、別の種類のセンサ本体として、例えば、水晶振動子マイクロバランス装置(QCM装置)を適用しうる。QCM装置は、交流電場を印加した水晶振動子の電極表面に物質が吸着すると、その吸着質の質量や粘弾性等に応じて共振周波数が減少する性質を利用して微量な質量変化を計測する質量センサであり、in-situでの測定が可能である。本実施形態のセンサをQCM装置として適用する場合、例えば、電極の表面に感応膜を形成することにより、当該感応膜が検知対象物質を吸着することで起こる質量変化をセンサ本体で検出してシグナルを出力する。また、QCMの電極としては、様々な導電性材料を適用しうるが、本実施形態における感応膜に導電性を持たせる場合、当該感応膜をQCMの電極として用いることもできる。
【0018】
なお、本明細書において、「吸着」という用語は、ある物体の界面において、(吸着質
となる)他の物質の濃度が周囲よりも増加する現象を含む意味で用いており、物理吸着だ
けではなく、化学結合や生化学的な作用による化学吸着も含むものである。
【0019】
1.1.感応膜
感応膜は、特に限定されないが、例えば、所定のモノマーユニットから構成されるポリマーを含み、必要に応じてフィラーを含んでいてもよい。感応膜がフィラーを含むことにより、感応膜のヤング率など物理強度等に関するパラメータを調整することができる。これによって、センサの体積膨張率を制御することができ、それによって感度を高めることなども可能となる。
【0020】
感応膜を構成するポリマーは検知対象物質と相互作用して体積膨張等を生じ、フィラーや空隙などは感応膜の体積膨張のしやすさなどを調整する要素となる。本実施形態の分子設計の対象は上記ポリマーあるいはポリマーを構成するモノマーユニットである。
【0021】
感応膜を構成するポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シアネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、などが挙げられる。
【0022】
フィラーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリスチレンやポリメチルメタクリレート、ポリフェニレンオキシド等のポリマービーズやアクリルラテックス等の球状粒子;窒化シリコン等の金属窒化物;シリカ、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化スズ等の金属酸化物;チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、ITO等の複合金属化合物;金や銀、銅、パラジウム、白金、鉄、アルミニウム等の無機金属フィラー;カーボンナノチューブやグラフェン、カーボンブラック、カーボンドット、ナノカーボン等のカーボン材料から選ばれる1種以上を含むことができる。
【0023】
また、感応膜は、空隙を有していてもよい。空隙を有することにより、物理強度等に関するパラメータを調整することができる。また、その他、空隙を有することにより、感応膜内に検知対象物質が浸入しやすくなり、体積膨張率などを調整することができる。これによってセンサの感度を調整することができる。
【0024】
1.2.検知対象物質
検知対象物質は感応膜と相互作用する化合物であり、作製するセンサの目的に応じて適宜選択できる。このような検知対象物質としては、特に限定されないが、例えば、揮発性有機物質(VOC)ガス、酸化還元型ガス、可燃性ガス、水蒸気、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0025】
2.装置
本実施形態の装置は、感応膜を構成するポリマーに関する情報Aと、検知対象物質に関する情報Bと、感応膜の膜構成に関する参考情報Cと、をモデルに入力することにより、ポリマーを用いて構成した感応膜の、検知対象物質に対する感度情報Dを出力する推定部を有する。
【0026】
これにより、技術者の有する暗黙知や技術常識を数値化し、新規な感応膜に求める性能から、そのような性能を実現し得る分子を設計するための情報を得ることが可能となる。またそれにより、材料開発の加速化や開発コストの大幅な削減が期待できる。
【0027】
本実施形態では、例えば、
図1に示すように、装置100は、任意の情報を取得または出力するために、他の装置200と有線又は無線のネットワークNを介して接続されてもよい。また、装置100は、
図1に示す少なくとも一部の情報をネットワークNで接続したサーバなどの他の装置から取得してもよいし、又は、
図1に示す機能部の少なくとも一部の処理を、ネットワークNで接続したサーバなどの他の装置により実行させるような構成としてもよい。
【0028】
2.1.ハードウェア構成
図1を参照しつつ、装置100のハードウェア構成について説明する。装置100は、例えば、プロセッサ110、通信インターフェース120、入出力インターフェース130、メモリ140、ストレージ150、及びこれらの構成要素を相互接続するための1つ又は複数の通信バス160を含む。
【0029】
プロセッサ110は、ストレージ150に記憶されるプログラムに含まれるコード、又は、命令によって実現する処理、機能、又は、方法を実行する。プロセッサ110は、限定でなく例として、1又は複数の中央処理装置(CPU)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、マイクロプロセッサ(microprocessor)、プロセッサコア(processor core)、マルチプロセッサ(multiprocessor)、ASIC(Application-Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等を含み、集積回路(IC(Integrated Circuit)チップ、LSI(Large Scale Integration))等に形成された論理回路(ハードウェア)や専用回路によって各実施形態に開示されるそれぞれの、処理、機能、又は、方法を実現してもよい。
【0030】
通信インターフェース120は、ネットワークを介して他の装置と各種データの送受信を行う。当該通信は、有線、無線のいずれで実行されてもよく、互いの通信が実行できるのであれば、どのような通信プロトコルを用いてもよい。例えば、通信インターフェース120は、ネットワークアダプタ等のハードウェア、各種の通信用ソフトウェア、又はこれらの組み合わせとして実装される。
【0031】
ネットワークは、限定でなく例として、アドホック・ネットワーク(Ad Hoc Network)、イントラネット、エクストラネット、仮想プライベート・ネットワーク(Virtual Private Network:VPN)、ローカル・エリア・ネットワーク(Local Area Network:LAN)、ワイヤレスLAN(Wireless LAN:WLAN)、広域ネットワーク(Wide Area Network:WAN)、ワイヤレスWAN(Wireless WAN:WWAN)、大都市圏ネットワーク(Metropolitan Area Network:MAN)、インターネットの一部、公衆交換電話網(Public Switched Telephone Network:PSTN)の一部、携帯電話網、ISDNs(Integrated Service Digital Networks)、無線LANs、LTE(Long Term Evolution)、CDMA(Code Division Multiple Access)、ブルートゥース(Bluetooth(登録商標))、衛星通信等であってよく、これらが組み合わせられてもよい。ネットワークは、1つまたは複数のネットワークを含むことができる。
【0032】
入出力インターフェース130は、装置100に対する各種操作を入力する入力装置、および、装置100で処理された処理結果を出力する出力装置を含む。例えば、入出力インターフェース130は、キーボード、マウス、及びタッチパネル等の情報入力装置、及びディスプレイ等の情報出力装置を含む。なお、装置100は、外付けの入出力インターフェース130を接続することで、所定の入力を受け付けてもよいし、所定の出力を実行してもよい。
【0033】
例えば、装置100は、外付けの入出力インターフェース130として、ポリマーやモノマーユニットの分子構造とそのSP値とが対応したデータ(
図2D参照)を記録した他の装置200と、有線又は無線のネットワークNで接続されていてもよい。これにより、例えば、他の装置200が、ポリマーやモノマーユニットの分子構造とそのSP値とが対応したデータを最新に保つことにより、装置100は常にその最新に保たれたデータを利用することができる。そのため、装置100は、より多くのポリマーやモノマーユニットを後述する推定処理の基礎として用いることができる。また、これに加えて、複数の装置100が個別にこれらSP値を重複して計算して蓄積するような無駄を削減できる。ここで、他の装置200は、要求に応じてポリマーやモノマーユニットの分子構造とそのSP値とが対応したデータを提供するサーバであってもよい。
【0034】
なお、ここで、「分子構造」とは、ポリマーや検知対象物質の分子が有する官能基や分子骨格、あるいは、ポリマーの共重合比などをいう。
【0035】
また、装置100は、外付けの入出力インターフェース130として、検知対象物質に関する情報Bを記録した他の装置200と、有線又は無線のネットワークNで接続されていてもよい。検知対象物質に関する情報Bは、蒸気圧、分子体積、あるいは溶解度パラメータなどの複数の情報を含んでもよい。これら情報は検知対象物質に固有の情報であり、例えば、CAS(Chemical Abstracts Service)番号などの固有IDと対応付けることができる。そのため、検知対象物質に関する情報Bを記録した他の装置200と接続することで、装置100は例えばCAS番号などを主キーとして速やかに情報Bを取得することができる。これにより、使用者が装置100に対して情報Bを入力する手間を削減できる。ここで、他の装置200は、要求に応じて情報Bを提供するサーバであってもよい。
【0036】
メモリ140は、ストレージ150からロードしたプログラムを一時的に記憶し、プロセッサ110に対して作業領域を提供する。メモリ140には、プロセッサ110がプログラムを実行している間に生成される各種データも一時的に格納される。メモリ140は、例えば、DRAM、SRAM、DDR RAM又は他のランダムアクセス固体記憶装置などの高速ランダムアクセスメモリであってよく、これらが組み合わせられてもよい。
【0037】
ストレージ150は、プログラム、各機能部、及び各種データを記憶する。ストレージ150は、例えば、1つ又は複数の磁気ディスク記憶装置、光ディスク記憶装置、フラッシュメモリデバイス、又は他の不揮発性固体記憶装置などの不揮発性メモリ等であってよく、これらが組み合わせられてもよい。ストレージ150の他の例としては、プロセッサ110から遠隔に設置される1つ又は複数の記憶装置を挙げることができる。
【0038】
本発明の一実施形態において、ストレージ150はプログラム、機能部及びデータ構造、又はそれらのサブセットを格納する。装置100は、ストレージ150に記憶されているプログラムに含まれる命令をプロセッサ110が実行することによって、
図1に示すように、推定部156として機能するように構成されている。
【0039】
オペレーティングシステム151は、例えば、様々な基本的なシステムサービスを処理するとともにハードウェアを用いてタスクを実行するためのプロシージャを含む。
【0040】
ネットワーク通信部152は、例えば、装置100を他のコンピュータに、通信インターフェース120、及びインターネット、他の広域ネットワーク、ローカル・エリア・ネットワーク、大都市圏ネットワークなどの1つ又は複数の通信ネットワークを介して接続するために使用される。
【0041】
以下、「溶解性パラメータH1-1」又は「溶解性パラメータH2-1」は、Hildebrandtの1次元の溶解性パラメータを意味する。
【0042】
「溶解性パラメータH1-2」又は「溶解性パラメータH2-2」は、ロンドン分散力項、双極子項、水素結合項の3次元の溶解性パラメータを意味する。この3次元の溶解性パラメータには、Hansenの溶解性パラメータ、Van Krevelen&Hoftyzerの溶解性パラメータ、HoyのSP値、SmallのSP値等が含まれてもよい。
【0043】
「ハンセン溶解性パラメータH1-3」又は「ハンセン溶解性パラメータH2-3」は、上記の3次元の溶解性パラメータのうちのハンセン溶解度パラメータを意味する。「ハンセン溶解度パラメータ」は単に「HSP値」ともいう。
【0044】
3次元の溶解性パラメータ及びHSP値は、広義の意味でSP値の下位概念としてSP値に内包される。本実施形態において、感応膜を構成するモノマーユニットが有する溶解度パラメータは、溶解度パラメータH1という。単に「溶解度パラメータH1」と表現するときは、溶解性パラメータH1-1~H1-3を特に区別せず、これらを包括する概念として用いていることを意味する。また、検知対象物質が有する溶解度パラメータは、溶解度パラメータH2という。単に「溶解度パラメータH2」と表現するときは、溶解性パラメータH2-1~H2-3を特に区別せず、これらを包括する概念として用いていることを意味する。また、「溶解度パラメータH1」,「溶解度パラメータH2」をそれぞれ「SP1」,「SP2」ともいう。
【0045】
さらに、単に「SP値」又は「溶解性パラメータ」と表現するときは、特に区別なく、上記のいずれかを意味するものとする。
【0046】
2.1.1.情報A
情報Aに関するデータ153には、感応膜を構成するポリマーの溶解度パラメータH1に関する情報が格納される。情報Aに関するデータ153には、感応膜を構成するポリマーとそのSP1とが対応して格納されてもよい。
図2Aに、ストレージ150に記憶される情報Aに関するデータ153の一例を示す。
【0047】
情報AはSP1に関する情報であれば、特に限定されず、ポリマーのSP1そのものであってもよいし、SP1を算出するための情報であってもよい。SP1を算出するための情報としては、特に限定されないが、例えば、モノマーユニットの化学式(Functional Group)が挙げられる。モノマーユニットの化学式があれば、後述するグループ寄与法によりSP1を算出できる。化学式の記法としては、SMILES,MOL,SDF,InChI,InChIKey等を挙げることができる。
【0048】
また、感応膜を構成するポリマーが単独重合体の場合には、情報Aに関するデータ153には、例えば、C6H5-SiO3/2などの1種のポリマーのSP1が保存されていてもよい。また、感応膜を構成するポリマーが共重合体の場合には、情報Aに関するデータ153には、例えば、共重合体を構成する2種以上のモノマーユニットを所定の組成で用いた場合のSP1が保存されていてもよい。また、実験的に取得した測定値をSP1として用いることもできる。
【0049】
例えば、
図2Aに示すように、C
6H
5-SiO
3/2(60mol%),HO-C
6H
4-SiO
3/2(40mol%)を使用したコポリマーを想定した場合には、C
6H
5-SiO
3/2(60mol%),HO-C
6H
4-SiO
3/2(40mol%)というモノマーユニットの組成から、グループ寄与法などによって導き出せるSP1が情報Aに関するデータ153に記憶されてもよい。
【0050】
本実施形態において、「モノマーユニット」とは、ポリマーを構成する繰り返し単位である。例えば、ポリマーとしてシリコーンを想定した場合、縮合前のモノマー状態としてはアルコキシシランが想定される。フェニル基を有するアルコキシシランであるPhSi(OCH3)3を例にすると、PhSi(OCH3)3はモノマーであり、PhSiO3/2がモノマーユニットにあたる。ここで、PhSiO3/2は、PhSi(OCH3)3のOCH3が反応して、Si-O-Siの結合になったものである。
【0051】
また、本実施形態においては、ポリマーやモノマーユニットの分子構造から溶解度パラメータH1を算出したり、溶解度パラメータH1からそれを満たすポリマーやモノマーユニットの分子構造を推定したりしてもよい。この際に、既知のモノマーユニットとそのモノマーユニットの溶解度パラメータH1とが対応したリストを使用してもよい。そのようなリストの一例を
図2Dに示す。
【0052】
図2Dに示すように、リストには、ポリマーやモノマーユニットごとに、溶解度パラメータH1が記録されていてもよく、ポリマーやモノマーユニットの化学式(Functional Group)、モノマーユニットの種類(Type)などが含まれていてもよい。
【0053】
「Functional Group」には、ポリマーやモノマーユニットの化学式などの情報が含まれてもよい。化学式などの情報は、ポリマーやモノマーユニットを一意に特定するための情報として用いることもできる。
【0054】
「Type」には、
図2Dに示すようにSiliconeやAcrylateなどのモノマーユニットが構成する重合体の種類に関する情報が含まれてもよいし、これに変えて又は加えて重合性官能基に関する情報が含まれてもよい。例えば、ある2種のモノマーユニットを組み合わせたポリマーが目的とする感応膜として適しているとしても、それらモノマーユニットの重合性官能基の種類が異なり共重合不能であれば、その2種のモノマーユニットを組み合わせたポリマーを合成することは不可能であり、出力結果は非現実的なものとなる。そのため、「Type」に格納された情報により、モノマーユニットどうしが共重合可能かどうかを判別してもよい。これにより、実際に合成し得るポリマーの構造を出力することができる。
【0055】
溶解度パラメータは、ヒルデブラントによって導入された正則溶液論により定義された値である。3次元の溶解度パラメータHとしては、溶解度パラメータδt((MPa)1/2)を、ロンドン分散力項δd((MPa)1/2)、双極子間力項δp((MPa)1/2)、水素結合力項δh((MPa)1/2)に分割したものである。この中で、ハンセンによって定義された3次元の溶解性パラメータをHSPという。このように3成分に分けられた溶解度に関連するパラメータは、三次元ベクトルとして扱うことができ、類似するベクトルを有する化合物は互いに親和性が高い傾向にあると評価できる。3次元の溶解度パラメータを用いることにより、出力される結果の精度がより向上する傾向にある。
【0056】
また、このようにして記録される溶解度に関連するパラメータは、予め、計算して記憶されたものであってもよい。例えば、情報Aに関するデータ153は、予め有限の個数、例えば1000個程度のモノマーユニットのそれぞれに対して溶解度に関連するパラメータを算出して、記憶したものであってもよい。
【0057】
ここで、溶解度パラメータHに関連するパラメータの算出方法は、分子動力学計算による方法、機械学習や深層学習を利用した手法、蒸発潜熱や凝集エネルギー密度から算出できる。特に限定されないが、例えば、比較的簡易なグループ寄与法から求めることができる。グループ寄与法とは、-CH3、-OHなどの官能基(グループ)の数と種類に物性値が依存するとして、物質の構造をグループに分割し、そのグループに割り当てられたパラメータを用いて物性値を推算する方法である。3次元溶解度パラメータのグループ寄与法としては、特に限定されないが、例えば、Hoyの方法(K.L.Hoy, J.Paint Techn., 1970, 42, 76)、van Krevelen & Hoftyzer 法(Van Krevelen, D. W., Hoftyzer, P. J. J. Appl. Polymer Sci. 1967 ,11, 2189)、特開2018-173336号公報に示された方法、特にハンセンの溶解性パラメータを算出する方法としてはHSPiPソフトウェア(https://www.hansen-solubility.com/HSPiP/)に組み込まれたYMBシュミレータ、Stefanis & Panayioyou 法(Stefanis E., Panayiotou C. International Journal of Thermophysique, 2008, 29, 568)、などが挙げられる。
【0058】
実験的に溶解度パラメータH1を決定する場合は、物理量からの、例えば表面張力からδt、屈折率からδd、誘電率及び双極子間力からδp、溶媒極性パラメータからδhを、また、種々の溶媒への溶解性試験から溶解球法、iGC法等を用いて決定することもできる。
【0059】
2.1.2.情報B
検知対象物質に関する情報Bは、感応膜と相互作用する検知対象物質に関する情報である。
図2Bに、ストレージ150に記憶される情報Bに関するデータ154の一例を示す。
図2Bに示すように、情報Bには、検知対象物質の溶解度パラメータH2、分子構造、Cas番号、分子体積、飽和蒸気圧、相対揮発度(PER)、濃度などが含まれていてもよい。
【0060】
図2Bにおいて、Cas番号は、CAS(Chemical Abstracts Service)が運営・管理する化学物質登録システムから付与される化学物質に固有の数値識別番号である。Cas番号は、本システムが検知対象物質を一意に認識するための固有IDとして用いてもよい。
【0061】
また、検知対象物質の溶解度パラメータH2は、溶解度パラメータδt((MPa)1/2)、ロンドン分散力項δd((MPa)1/2)、双極子間力項δp((MPa)1/2)、水素結合力項δh((MPa)1/2)が含まれていてもよい。情報Bが検知対象物質の溶解度パラメータH2を含むことにより、情報Aの溶解度パラメータH1との親和性を考慮することができる。
【0062】
また、濃度は、感応膜と検知対象物質とが接する雰囲気における、検知対象物質の想定濃度である。使用用途に応じて検知対象物質の濃度は変わりうる。そこで、このような想定濃度を考慮することで、感応膜と検知対象物質の相互作用をより適切に考慮した感応膜を設計することができる。
【0063】
2.1.3.参考情報C
上述のように、感応膜は、ポリマーが検知対象物質を吸着することで体積膨張を生じさせ、フィラーや空隙率、あるいは感応膜の体積などの膜構成が、その体積膨張の程度を調整する役割を果たす。そのため、感応膜の膜構成が変化すると、感応膜の体積膨張率などの物理パラメータが変化し、感度情報Dが影響を受ける。本実施形態のセンサは、このような感応膜の変化をセンサ本体により検出するものであるので、このような感応膜の変化を想定してより適切なセンサを設計するためには、形成される感応膜の外形、フィラーや空隙などポリマー以外に感応膜の物理パラメータに影響を与える要素を考慮することが望ましい。
【0064】
参考情報Cは、このような感応膜の膜構成に関する情報を含む。具体的には、
図2Cに示すように、感応膜の膜体積、膜面積、膜形状などといった外形に関する情報;フィラーの種類、フィラーの配合量、フィラーの粒子径、空隙率などといった硬さ等の物理パラメータに関する情報を含んでもよい。
【0065】
2.1.4.推定部
推定部156は、感応膜を構成するポリマーの溶解度パラメータH1に関する情報Aと、検知対象物質に関する情報Bと、感応膜の膜構成に関する参考情報Cと、をモデルに入力することにより、ポリマーを用いて構成した感応膜の検知対象物質に対する感度情報Dを出力する感度推定工程を実行する。
【0066】
感度情報Dは、感応膜の検知対象物質に対する感度に関する情報であり、検知対象物質と感応膜とが相互作用した際の、感応膜の体積変化に関する情報を含んでもよい。このような感度情報Dとしては、特に限定されないが、例えば、信号の振幅強度、信号の微分強度または積分強度、信号の立ち上がり時間または立ち下り時間、並びにこれらの時定数等の所定濃度の検知対象物質が所定温度で吸着したときの体積膨張率の程度を数値等であらわしたものなどが挙げられる。但し、感度情報Dはこれに限られない。センサの種類によって感度として検出する物理パラメータは異なるため、感度情報Dはセンサの種類によって適宜選択することができる。
【0067】
推定部156は、感度推定工程において、ポリマーと検知対象物質との相互作用に関する情報Fをモデルにさらに入力することにより、ポリマーを用いて構成した感応膜の検知対象物質に対する感度情報Dを出力してもよい。これにより、検知対象物質と所定の相互作用するモノマーユニットを選定することができる。
【0068】
ここで、情報Fはχパラメータ及び/又はRaパラメータを含んでいてもよい。χパラメータはFlory-Huggins理論における相互作用パラメータであり、格子モデルにおけるポリマー-低分子の混合自由エネルギー変化により求められる相互作用を意味する無次元のパラメータである。χパラメータは以下の式で算出される。
【数1】
【0069】
また、Raパラメータはハンセン溶解度パラメータ含む3次元溶解度パラメータH1とハンセン溶解度パラメータ含む3次元溶解度パラメータH2のベクトル間距離を示すパラメータである。Raは以下の式で算出される。
【数2】
【0070】
また、推定部156は、感度推定工程において、モデルにより、感応膜の膜構成に関する推奨情報C’をさらに出力してもよい。ここで、推奨情報C’としては、特に限定されないが、例えば、ポリマーを用いて構成した感応膜をどのような膜構成とすると所望のセンサを作成できるかという推奨情報であってもよい。このように、単に所定の感度情報Dを有するモノマーユニットを提案することに加えて、そのモノマーユニットを用いて作成した感応膜のフィラー量や空隙量などの推奨情報C’を提案することにより、モノマーユニットを選定して設計したポリマーをより適切に機能させるための、感応膜の膜構成を合わせて提案することが可能となる。
【0071】
推奨情報C’は、感応膜の膜構成に関する情報を含み、具体的には、感応膜の膜体積、膜面積、膜形状などといった外形に関する情報;感応膜の弾性率、フィラーの配合量、フィラーの粒子径、空隙率などといった硬さ等の物理パラメータに関する情報を含んでもよい。
【0072】
2.1.5.モデル
本実施形態で使用するモデルは、情報Aと、情報Bと、参考情報Cと、を入力値とし、ポリマーを用いて構成した感応膜の検知対象物質に対する感度情報Dを出力値とする。また、これに加えて、本実施形態で使用するモデルは、ポリマーと検知対象物質との相互作用に関する情報Fを入力値として含んでもよい。さらに、本実施形態で使用するモデルは、感度情報Dを満たすポリマーの分子構造に関する情報E、感応膜の膜構成に関する推奨情報C’を出力値として含んでもよい。
【0073】
このようなモデルは、上記入力値と上記出力値とを、を含む学習用データに基づいて、機械学習処理を行って得られる学習済みモデルであってもよい。機械学習のアルゴリズムは特に制限されず、PLS、リッジ回帰、ラッソ回帰、決定木、勾配ブースティングやランダムフォレスト等のアンサンブル学習、サポートベクターマシン、ニューラルネットワーク(NN)等公知の学習アルゴリズムを用いることができる。
【0074】
3.方法(動作処理)
次に、本実施形態に係る装置の動作処理の方法について説明する。本実施形態の方法は、装置が、感応膜を構成するポリマーのSP1に関する情報Aと、検知対象物質に関する情報Bと、感応膜の膜構成に関する参考情報Cと、をモデルに入力することにより、ポリマーを用いて構成した感応膜の検知対象物質に対する感度情報Dを出力する感度推定工程を実行する。
【0075】
本実施形態に係る方法は、その手順によって分子骨格ファースト法とSPファースト法に分けることができる。
【0076】
3.1.分子骨格ファースト法
分子骨格ファースト法では、情報Aとして、感応膜を構成するポリマーのモノマーユニットの組成候補、つまりポリマーの分子骨格の候補をはじめに特定する。そして、その分子骨格を有するポリマーを用いて感応膜を形成したとしたときの感度情報Dを推定する。
【0077】
以下、
図3A~
図3Dを参照しつつ、分子骨格ファースト法の処理方法について説明する。
【0078】
3.1.1.情報B及び参考情報Cの入力
ステップS301において、装置100の入出力インターフェース130は、検知対象物質に関する情報B、及び/又は、感応膜の膜構成に関する参考情報Cの入力を受け付けてもよい。また、装置100の推定部156は、受け付けた各情報を、それぞれ、データ154、155に格納してもよい。
【0079】
ステップS302において、装置100の推定部156は、情報Bに基づいて検知対象物質の溶解度パラメータH2を特定してもよい。この際、装置100の推定部156は、グループ寄与法により溶解度パラメータH2を求めてもよい。
【0080】
3.1.2.候補となる情報Aの作成処理
ステップS303において、装置100の推定部156は、感応膜を構成するポリマーに関する情報Aを作成してもよい。分子骨格ファースト法では、情報Aとして、感応膜を構成するポリマーのモノマーユニットの組成候補、つまりポリマーの分子骨格の一または複数の候補をはじめに特定してもよい。なお、グループ寄与法によれば、感応膜を構成するポリマーやモノマーユニットの分子構造から、SP1を推定することができる。そのため、ここで作成する情報Aには、SP1に代えて又は加えて感応膜を構成するポリマーやモノマーユニットの分子構造に関する情報が含まれてもよい。
【0081】
分子骨格ファースト法では、情報Aの作成に当たり、既知のモノマーユニットとそのモノマーユニットの溶解度パラメータH1とが対応したリストから、適したモノマーユニットを選定してもよい。このリストに含まれるモノマーユニットは、市販されているモノマーに由来するものや、技術者がこれまで使用したモノマーに由来するものなど、技術者にとって既知の構造を有するものであってもよい。そのため、分子骨格ファースト法では、もともとある程度合成可能なモノマーユニットのなかから、検知対象物質に適したモノマーユニットを選定することとなるため、設計した分子合成の実現性に優れる。
【0082】
また、ステップS303において作成する情報Aは、以降の工程において出力される情報Eの候補であってもよい。具体的には、以降の工程において、推定部156は、作成した情報Aに対して、検知対象物質に対する感度情報Dを出力する。そして、推定部156は、その感度情報Dが予め定められた条件を満たす場合には、情報Aを情報Eとして出力できる。他方で、推定部156は、感度情報Dが予め定められた条件を満たさない場合には、情報Aに代えて、新しい情報Aを作成し、新しい情報Aに対して感度情報Dを出力することができる。このように、推定部156は、作成した情報Aの感度情報Dが予め定められた条件を満たすまで、ステップS303~S307をループして実行することができる。
【0083】
なお、
図3A~
図3Dにおいて、情報Aや感度情報Dに付す添え字「n」と「n+1」を付している。情報Anは、n回目のループで作成した情報Aを意味し、感度情報Dnは、情報Anに基づいて出力された感度情報Dを意味する。また、情報An+1は、n+1回目のループで作成した情報Aを意味し、感度情報Dn+1は、情報An+1に基づいて出力された感度情報Dを意味する。
【0084】
ステップS303において、推定部156は、情報Aを、感応膜を構成するポリマーやモノマーユニットをランダムに選定して作成してもよいし、所定のアルゴリズムにしたがって作成してもよい。
図3C及び3Dに情報Aの作成方法の一例を示す。
【0085】
3.1.2.1.候補となる情報Aの作成処理例1
例えば、
図3Bでは、推定部156は、過去に行った推定結果を使用して情報Aを作成する。この方法では、ステップS3031において、推定部156は、他の検知対象物質に対して推定したポリマーの分子構造に関する情報Eのなかから、今回の検知対象物質に近い近似分子を特定する。近似分子の特定方法は、特に制限されないが、例えば、SP値を基準として、χパラメータはRaパラメータなどを利用して、今回の検知対象物質のSP値と近いSP値を有する分子を特定する方法があげられる。
【0086】
次いで、ステップS3032において、推定部156は、特定した近似分子に対して推定したポリマーの分子構造に関する情報Eを、候補となる情報Aとする。つまり、近似分子に適した感応膜の分子構造が、今回の検知対象物質の感応膜の分子構造としても適しているとの一応の推定のもと、候補となる情報Aとして、特定した近似分子に対して推定したポリマーの分子構造に関する情報Eを使用する。
【0087】
これにより、過去に行った推定結果を使用して、簡便かつ適切に情報Aを作成することができる。なお、特定する近似分子は最もSP値が近い一つの分子を選定してもよいし、今回の検知対象物質と所定のχパラメータやRaパラメータを満たす関係にある、一または複数の近似分子を選定してもよい。特定する近似分子が複数である場合には、候補となる情報Aを複数作成できる。これにより、複数の情報Aそれぞれに対して、複数の感度情報Dを得ることができ、その中でより適した感度情報Dを有する情報Aを特定することができる。
【0088】
3.1.2.2.候補となる情報Aの作成処理例2
また、他の例として、例えば、
図3Cでは、推定部156は、既知のモノマーユニットとそのモノマーユニットのSP値とが対応したリストと、グループ寄与法とを使用して情報Aを作成する。この方法では、ステップS3033において、推定部156は、既知のモノマーユニットとそのモノマーユニットのSP値とが対応したリストの中から、単独のモノマーユニットとしてみたときに、今回の検知対象物質とSP値が近いモノマーユニットを特定する。
【0089】
次いで、ステップS3034において、推定部156は、検知対象物質のSP値に、特定したモノマーユニットのSP値が近づくように、共重合させる他のモノマーユニットを選定し、それらモノマーユニットを組み合わせた組成を、候補となる情報Aとして作成する。より具体的には、特定したモノマーユニットのSP値よりも検知対象物質のSP値が高ければ、特定したモノマーユニットのSP値よりも高いSP値を有する共重合モノマーユニットを特定し、検知対象物質のSP値により近づくように組み合わせた組成を候補となる情報Aを作成し、特定したモノマーユニットのSP値よりも検知対象物質のSP値が低ければ、特定したモノマーユニットのSP値よりも低いSP値を有する共重合モノマーユニットを特定し、検知対象物質のSP値により近づくように組み合わせた組成を候補となる情報Aとする。
【0090】
これにより、過去の情報がなくとも、既知のモノマーユニットとそのモノマーユニットのSP値とが対応したリストを使用して、簡便かつ適切に情報Aを作成することができる。なお、ステップS3033において特定するモノマーユニットは、最もSP値が近い一つのモノマーユニットを選定してもよいし、今回の検知対象物質と所定のχパラメータやRaパラメータを満たす関係にある、一または複数のモノマーユニットを選定してもよい。特定するモノマーユニットが複数である場合には、候補となる情報Aを複数作成できる。これにより、複数の情報Aそれぞれに対して、複数の感度情報Dを得ることができ、その中でより適した感度情報Dを有する情報Aを特定することができる。
【0091】
3.1.3.感応膜と検知対象物質の相互作用に関する情報Fの算出処理
上記のように、候補となる情報Aとして分子骨格が先に特定されるときは、ステップS304において、装置100の推定部156は、ポリマーの分子構造に関する情報に基づいて、候補となる情報AのSP1をグループ寄与法などによって求めてもよい。
【0092】
さらに、ステップS305において、装置100の推定部156は、候補となる情報AのSP1と検知対象物質のSP2から、感応膜と検知対象物質の相互作用に関する情報Fを出力してもよい。ここで、相互作用に関する情報Fとしては、特に制限されないが、χパラメータやRa値などが計算されてもよい。ここで計算した、χパラメータやRaパラメータなどは続く推定処理において、モデルに入力する情報の一つとして用いることができる。
【0093】
また、情報Fをモデルにさらに入力することに変えて、後述するステップS306において、装置100の推定部156は、情報AのSP1と情報BのSP2とを、モデル内で考慮してもよい。より具体的には、装置100の推定部156は、情報AのSP1と情報BのSP2から、χパラメータ及び/又はRaパラメータを算出し、その値をモデルで考慮するようにしてもよい。これにより、検知対象物質に対して所定の感度を有するポリマーやそれを構成するモノマーユニットを選定することができる。
【0094】
3.1.4.推定処理
ステップS306において、装置100の推定部156は、上記のようにして作成した情報Aと、検知対象物質に関する情報Bと、感応膜の膜構成に関する参考情報Cと、をモデルに入力することにより、情報Aにより構成される感応膜の検知対象物質に対する感度情報Dを出力する。この工程を感度推定工程ともいう。
【0095】
モデルは、特に制限されないが、例えば、学習用データに基づく機械学習処理によって生成される学習済みモデルであってもよい。学習用データとしては、感応膜を構成するポリマーのSP1に関する情報Aと、検知対象物質に関する情報Bと、感応膜の膜構成に関する参考情報Cと、ポリマーを用いて構成した感応膜の検知対象物質に対する感度情報Dと、を含んでもよい。すなわち、この学習用データは、所定の検知対象物質を、所定のポリマーと膜構成によって特定される感応膜に作用させたとしたら、その感度がどの程度であるかということを示すデータとなる。
【0096】
このような学習用データを相当数揃えて機械学習処理によって生成したモデルは、感応膜を構成するポリマーとその膜構成に関する情報(情報A,C)と、検知対象物質に関する情報Bとに基づいて、感応膜の検知対象物質に対する感度情報Dを出力するものとなる。
【0097】
さらに、装置100の推定部156は、感度推定工程において、モデルを用いて感度情報Dに加えて、感応膜の膜構成に関する推奨情報C’をさらに出力してもよい。同一のポリマーを用いたとしても、感応膜の体積などの形状や、フィラーや空隙の割合によって感応膜の物理特性は影響を受け得る。装置100の推定部156は、そのような影響を考慮して、ポリマーの感度情報Dとともに、所定の構造を有するポリマーを使用して感応膜を作製する場合に、感応膜がどのようなフィラー含有量や空隙量などを有すればよいかを示唆することができる。
【0098】
ステップS307において、装置100の推定部156は、感度情報Dが所定の条件を満たすか否か判定してもよい。所定の条件としては、特に限定されないが、例えば、感度情報Dが一定の閾値以上であること;感度情報Dを目的関数とした最適化処理により極大値又は極小値が得られたこと;その他、必要に応じてあらかじめ定めた感度情報Dに関する条件が挙げられる。
【0099】
3.1.5.感度情報Dが所定の条件を満たさない場合(ループ処理)
感度情報Dが所定の条件を満たさない場合には、ステップS308において、装置100の推定部156は、改めて、次の候補となる情報An+1を作成してもよい。情報An+1は、ステップS303において述べた方法を使用してもよいし、情報Anに基づいて情報An+1を作成してもよい。このようにループ処理を行うことで、情報An,An+1,An+2・・・について感度情報Dn,Dn+1,Dn+2,・・・を調べることで、感度情報Dを目的関数において極大値又は極小値を探索することができ、最適化処理を行うことができる。
【0100】
情報Anに基づいて情報An+1を作成する方法の一例を
図3Dに示す。この方法では、例えば、ステップS307で判定した情報Anが複数種類ある場合には、ステップS3081において、推定部156は、そのうち感度情報Dが上記所定の条件に近い情報Anを選定する。なお、ステップS307で判定した情報Anが一種類である場合には、ステップS3081は省いてもよい。
【0101】
次いで、ステップS3082において、推定部156は、ステップS3081で選定した情報Anとして特定したポリマーのSP値よりも、SP値が高く又は低くなるように、情報Anにおけるモノマーユニットの一部または全部を変更する、又は、情報Anにおけるモノマーユニットの使用比率を変更することにより、次の候補となる情報An+1を作成する。これにより、モノマーユニットの組成が情報Anと類似する情報An+1を一又は複数作成することができる。このような情報An+1について、ステップS304~S306を改めて実行して、感度情報Dn+1を出力することで、より感度情報Dが上記所定の条件に近い情報Aを探索することができる。
【0102】
ステップS308について具体例を挙げて説明する。例えば、情報A1,A2として、以下の共重合体1と2の二つのモノマーユニット組成について、感度情報Dを得た結果、感度情報Dが所定の条件を満たさなかったとする。すると、ステップS3081において、推定部156は、共重合体1と2のうち、感度情報Dがあらかじめ定めた条件に近いものを選択する。ここでは、共重合体1を選択したとする。
情報A1:共重合体1:C6H5-SiO3/2(60mol%)、HO-C6H4-SiO3/2(40mol%)
情報A2:共重合体2:HOOC-C6H4-SiO3/2(30mol%)、 H2N-C6H4-SiO3/2(70mol%)
【0103】
ついで、ステップS3081において、推定部156は、共重合体1のモノマーユニットの比率を変更して、共重合体3と共重合体4を、次の候補となる情報An+1として作成する。そして、このような情報An+1について、ステップS304~S306を改めて実行して、感度情報Dn+1を出力することで、より適した感度情報Dを有する情報Aを探索することができる。
情報A3:共重合体3:C6H5-SiO3/2(55mol%)、HO-C6H4-SiO3/2(45mol%)
情報A4:共重合体4:C6H5-SiO3/2(65mol%)、HO-C6H4-SiO3/2(35mol%)
【0104】
なお、候補となる情報An+1として何を選ぶか、あるいは、情報Anをどの程度どの程度変更して情報An+1を作成するかという点は、遺伝的アルゴリズム、ブートストラップ法、ベイズ最適化等の公知のアルゴリズムを用いて決めてもよい。
【0105】
さらに、上記においては、情報Anを変更し、新たな情報An+1を作成することについて述べたが、ステップS308では、情報A以外にも、情報Cの条件を変えて、ステップS304~S306を改めて実行してもよい。例えば、情報Cに含まれる条件として、フィラーの種類や含有量、空隙率、膜の体積などを変更し、膜の硬さや柔軟さ体積変化のしやすさなどを調整することで、より適切な感度情報Dを得てもよい。
【0106】
3.1.6.感度情報Dが所定の条件を満たす場合(出力処理)
感度情報Dが所定の条件を満たす場合には、ステップS309において、装置100の推定部156は、感度情報Dに基づいて、モノマーの分子構造に関する情報Eをさらに出力してもよい(分子構造推定工程)。この際、推定部156は、所定の条件を満たす感度情報Dnに対応する情報Aを、情報Eとして出力してもよい。ここで、感応膜のポリマーの分子構造に関する情報Eは、所定の条件を満たす感度情報Dnに対応する情報Aにおける、ポリマーやそれを構成するモノマーユニットの分子構造であってもよい。さらに、情報Eは、フィラーや空隙率、あるいは感応膜の体積などの膜構成など、所定の感度情報Dを満たすために好適な感応膜の膜構成に関する情報を含んでいてもよい。
【0107】
3.1.7.情報Eの利用
ステップS310において、装置100の推定部156は、情報Eを入出力インターフェース130に出力してもよい。より具体的には、装置100の推定部156は、ディスプレイに情報Eを出力制御したり、情報Eを他の装置に対して出力したりしてもよい。
【0108】
図4に、情報Eを他の装置に対して出力する場合の一態様を示す。
図4には、他の装置として、秤量装置700、重合装置800、及び混合装置900を示す。
【0109】
装置100の推定部156は、情報Eを秤量装置700に出力してもよい。秤量装置700の制御部710は、情報Eに基づいて、各モノマーを秤量し、感応膜の原料を調整することができる。ここで、秤量装置700は各モノマーを保管するタンク720と、それらタンクと配管等により接続された調製タンク730とを有してもよい。例えば、情報Eがモノマーαを50部とモノマーβを50部とを共重合して感応膜に関する情報である場合、秤量装置700はモノマーαのタンクとモノマーβのタンクからそれぞれ50部となるように各モノマーを秤量し、秤量した各モノマーを調製タンク730へ誘導できる。
【0110】
このように、情報Eは、感応膜の原料を調整する秤量装置に送信され、利用されてもよい。
【0111】
また、秤量装置700は、上記のようにして調整された感応膜の原料を重合する重合装置800と接続されていてもよいし、秤量装置700が重合装置800の一部であってもよい。制御部810の重合条件の制御のもと、重合装置800の重合タンク820は、上記のようにして調整された感応膜の原料を重合する。
【0112】
混合装置900の制御部910は、情報Eに基づいて、フィラーなどを秤量し、重合体と混合することができる。ここで、混合装置900は、フィラー、溶剤などモノマー以外を保管するその他のタンク920と、それらタンクと配管等により接続された混合タンク930とを有していてもよい。ここで、フィラーは材料種ごと、粒子径ごとに、個別のタンクに保管されていてもよい。例えば、情報Eが所定の粒子径を有するフィラーを含む感応膜に関する情報である場合、混合装置900は所定のフィラーを秤量し、秤量したフィラーを混合タンク930へ誘導できる。これにより、混合タンク930において、感応膜形成用組成物が得られる。
【0113】
なお、他の装置は上記構成に限られない。例えば、秤量装置700はフィラー、溶剤などモノマー以外を保管するその他のタンクをさらに有してもよく、重合装置800はフィラーなどの存在下で各モノマーの重合を実施してもよい。この場合、混合装置900は設けなくてもよい。
【0114】
3.2.SPファースト法
次にSPファースト法について説明する。分子骨格ファースト法では、予めポリマーやモノマーユニットの分子構造の候補を作成し、そのポリマーの感度情報を推定したが、SPファースト法では、予めSP値の候補を作成し、そのSP値に基づいて感度情報Dを推定することで、最適なSP値を特定する。そして、特定した最適なSP値を満たすポリマーの構造を、例えばグループ寄与法などで特定する。つまり、分子骨格ファースト法では、初めにポリマーの分子構造の候補を作成するのに対して、SPファースト法では、SP値が特定されてから分子構造を特定する。そのため、分子骨格ファースト法では、初めにポリマーの分子構造の候補を作成するために、ポリマーやモノマーユニットとして既知の分子構造を扱う必要がある。これに対して、SPファースト法では、分子構造を特定しないまま最適なSP値を特定し、その後に最適なSP値に基づいて構造を推定するため技術者にとって未知のモノマーユニットの構造を扱うことができる。
【0115】
以下、
図5A~
図5Eを参照しつつ、SPファースト法の処理方法について説明する。
【0116】
3.2.1.情報B及び参考情報Cの入力
ステップS501において、装置100の入出力インターフェース130は、検知対象物質に関する情報B、及び/又は、感応膜の膜構成に関する参考情報Cの入力を受け付けてもよい。また、装置100の推定部156は、受け付けた各情報を、それぞれ、データ154、155に格納してもよい。
【0117】
ステップS502において、装置100の推定部156は、情報Bに基づいて検知対象物質の溶解度パラメータH2を特定してもよい。この際、装置100の推定部156は、グループ寄与法により溶解度パラメータH2を求めてもよい。
【0118】
3.2.2.候補となる情報Aの作成処理
ステップS503において、装置100の推定部156は、感応膜を構成するポリマーの溶解度パラメータH1に関する情報Aを作成してもよい。SPファースト法では、情報Aとして、感応膜を構成するポリマーのSP値をはじめに特定する。つまり、ポリマーのSP値の特定の時点で、情報Aには、そのSP値に対応する具体的な分子骨格に関する情報は含まれなくてもよい。
【0119】
このように、SPファースト法では、SP値については特定するものの、具体的なポリマーやモノマーユニットの構造を特定しないまま感度情報Dの推定処理を進め、あとで、SP値に基づいて具体的なポリマーやモノマーユニットの構造を特定する処理を行う。ここで、具体的な構造の特定されていないポリマーのSP値を、便宜上、「仮想ポリマーのSP値」ということとする。そして、具体的な構造の特定される前のモノマーユニットを、便宜上、「仮想モノマーユニット」ということとする。
【0120】
また、ステップS503において作成する情報Aは、以降の工程において出力される情報Eの候補であってもよい。具体的には、以降の工程において、推定部156は、作成した情報Aに対して、検知対象物質に対する感度情報Dを出力する。そして、推定部156は、その感度情報Dが予め定められた条件を満たす場合には、情報Aを満たす分子構造を生成し、その分子構造を情報Eとして出力できる。他方で、推定部156は、感度情報Dが予め定められた条件を満たさない場合には、情報Aに代えて、新しい情報Aを作成し、新しい情報Aに対して感度情報Dを出力することができる。このように、推定部156は、作成した情報Aの感度情報Dが予め定められた条件を満たすまで、ステップS504~S508をループして実行することができる。
【0121】
ステップS503において、推定部156は、情報Aに含まれるSP1を、ランダムに作成してもよいし、所定のアルゴリズムにしたがって作成してもよい。
図5C及び5Dに情報Aの作成方法の一例を示す。
【0122】
3.2.2.1.候補となる情報Aの作成処理例1
例えば、
図5Bでは、過去に行った推定結果を使用して情報Aを作成する。この方法では、ステップS5031において、推定部156は、他の検知対象物質に対して推定したポリマーの分子構造に関する情報Eのなかから、今回の検知対象物質に近い近似分子を特定する。近似分子の特定方法は、特に制限されないが、例えば、SP値を基準として、今回の検知対象物質のSP値と近いSP値を有する分子を特定する方法があげられる。
【0123】
次いで、ステップS5032において、推定部156は、特定した近似分子に対して推定したポリマーの分子構造に関する情報Eを、候補となる情報Aとする。つまり、近似分子に適した感応膜の分子構造が、今回の検知対象物質の感応膜の分子構造としても適しているとの一応の推定のもと、候補となる情報Aとして、特定した近似分子に対して推定したポリマーの分子構造に関する情報EのSP値を使用する。
【0124】
これにより、過去に行った推定結果を使用して、簡便かつ適切に情報Aを作成することができる。なお、特定する近似分子は最もSP値が近い一つの分子を選定してもよいし、今回の検知対象物質と所定のχパラメータやRaパラメータを満たす関係にある、一または複数の近似分子を選定してもよい。特定する近似分子が複数である場合には、候補となる情報Aを複数作成できる。これにより、複数の情報Aそれぞれに対して、複数の感度情報Dを得ることができ、その中でより適した感度情報Dを有する情報Aを特定することができる。
【0125】
3.2.2.2.候補となる情報Aの作成処理例2
また、他の例として、例えば、
図5Cでは、検知対象物質のSP2を使用して情報Aを作成する。この方法では、ステップS3033において、推定部156は、今回の検知対象物質のSP2を算出し、それと同じ値のSP1を情報Aとして特定してもよい。
【0126】
なお、感度情報Dとは、例えば、感応膜に検知対象物質が作用したことによる体積変化率などの物理パラメータの変化を感度として検出したものである。そのため、SP1とSP2とが一致したとしても、それだけで感度情報Dに優れるとは判断できず、感度情報Dは情報Aと参考情報Cを合わせて考慮して推定されるものである。
【0127】
したがって、
図5Cのように、SP2をと同じ値のSP1を情報Aとして特定したとしても、それが単に最適解となるわけではなく、以下に記載する各ステップを経て、所定の条件を満たす感度情報Dが特定され、それに基づいて情報Eが推定される。
【0128】
3.2.3.感応膜と検知対象物質の相互作用に関する情報Fの算出処理
ステップS504において、装置100の推定部156は、候補となる情報AのSP1と検知対象物質のSP2から、感応膜と検知対象物質の相互作用に関する情報Fを出力してもよい。ここで、相互作用に関する情報Fとしては、特に制限されないが、χパラメータやRa値などが計算されてもよい。ここで計算した、χパラメータやRaパラメータなどは続く推定処理において、モデルに入力する情報の一つとして用いることができる。
【0129】
また、情報Fをモデルにさらに入力することに変えて、後述するステップS505において、装置100の推定部156は、候補となる情報AのSP1と検知対象物質のSP2とを、モデル内で考慮してもよい。より具体的には、装置100の推定部156は、候補となる情報AのSP1と検知対象物質のSP2から、χパラメータ及び/又はRaパラメータを算出し、その値をモデルで考慮するようにしてもよい。これにより、検知対象物質に対して所定の感度を有するポリマーを選定することができる。
【0130】
3.2.4.推定処理
ステップS505において、装置100の推定部156は、上記のようにして作成した情報Aと、検知対象物質に関する情報Bと、感応膜の膜構成に関する参考情報Cと、をモデルに入力することにより、情報Aにより構成される感応膜の検知対象物質に対する感度情報Dを出力する。この工程を感度推定工程ともいう。
【0131】
モデルは、特に制限されないが、例えば、分子骨格ファースト法において記載したものと同様のモデルを用いることができる。
【0132】
さらに、装置100の推定部156は、感度推定工程において、モデルを用いて感度情報Dに加えて、感応膜の膜構成に関する推奨情報C’をさらに出力してもよい。同一のポリマーを用いたとしても、感応膜の体積などの形状や、フィラーや空隙の割合によって感応膜の物理特性は影響を受け得る。装置100の推定部156は、そのような影響を考慮して、ポリマーの感度情報Dとともに、所定の構造を有するポリマーを使用して感応膜を作製する場合に、感応膜がどのようなフィラー含有量や空隙量などを有すればよいかを示唆することができる。
【0133】
ステップS506において、装置100の推定部156は、感度情報Dが所定の条件を満たすか否か判定してもよい。所定の条件としては、特に限定されないが、例えば、感度情報Dが一定の閾値以上であること;感度情報Dを目的関数とした最適化処理により極大値又は極小値が得られたこと;その他、必要に応じてあらかじめ定めた感度情報Dに関する条件が挙げられる。
【0134】
3.2.5.感度情報Dが所定の条件を満たさない場合(ループ処理)
感度情報Dが所定の条件を満たさない場合には、ステップS507において、装置100の推定部156は、改めて、次の候補となる情報An+1を作成してもよい。情報An+1は、ステップS503において述べた方法を使用してもよいし、情報Anに基づいて情報An+1を作成してもよい。このようにループ処理を行うことで、情報An,An+1,An+2・・・について感度情報Dn,Dn+1,Dn+2,・・・を調べることで、感度情報Dを目的関数において極大値又は極小値を探索することができ、最適化処理を行うことができる。
【0135】
情報Anに基づいて情報An+1を作成する方法の一例を
図5Dに示す。この方法では、例えば、Step 506で判定した情報Anが複数種類ある場合には、Step 5071において、推定部156は、そのうち感度情報Dが上記所定の条件に近い情報Anを選定する。なお、Step 506で判定した情報Anが一種類である場合には、Step 5071は省いてもよい。
【0136】
次いで、Step 5072において、推定部156は、Step 5071で選定した情報AnのSP1よりも、SP値が高く又は低くなるように、SP1を設定した情報An+1を次の候補として作成する。これにより、ポリマーやモノマーユニットの組成が情報Anと類似する情報An+1を一又は複数作成することができる。このような情報An+1について、ステップS503~S505を改めて実行して、感度情報Dn+1を出力することで、より感度情報Dが上記所定の条件に近い情報Aを探索することができる。
【0137】
なお、候補となる情報An+1として何を選ぶか、あるいは、情報Anをどの程度どの程度変更して情報An+1を作成するかという点は、遺伝的アルゴリズム、ブートストラップ法等の公知のアルゴリズムを用いて決めてもよい。
【0138】
さらに、上記においては、情報Anを変更し、新たな情報An+1を作成することについて述べたが、Step 507では、情報A以外にも、情報Cの条件を変えて、ステップS503~S505を改めて実行してもよい。例えば、情報Cに含まれる条件として、フィラーの種類や含有量、空隙率、膜の体積などを変更し、膜の硬さや柔軟さ体積変化のしやすさなどを調整することで、より適切な感度情報Dを得てもよい。
【0139】
3.2.6.感度情報Dが所定の条件を満たす場合(出力処理)
感度情報Dが所定の条件を満たす場合には、ステップS508において、装置100の推定部156は、感度情報Dに対応する情報Aを出力してもよい。この際、推定部156は、情報Aとともに、フィラーや空隙率、あるいは感応膜の体積などの膜構成など、所定の感度情報Dを満たすために好適な感応膜の膜構成に関する情報を出力してもよい。
【0140】
そして、ステップS509において、装置100の推定部156は、出力した情報AのSP1に基づいて、仮想ポリマーの具体的な分子構造に関する情報Eを出力してもよい。
【0141】
具体的には、推定部156は、官能基とそのSP値とが対応したリストと、グループ寄与法を用いて、任意にモノマーユニットの分子構造を一又は複数設計し、設計したモノマーユニットを、ステップS508で特定したSP値を満たすように単独または組み合わせることで、仮想ポリマーの具体的な分子構造に関する情報Eを作成してもよい。
【0142】
また、推定部156は、過去に行った推定結果を使用して仮想ポリマーや仮想モノマーユニットの具体的な分子構造に関する情報Eを作成してもよいし;既知のモノマーユニットとそのモノマーユニットのSP値とが対応したリストと、グループ寄与法とを用いて、リスト内のモノマーユニットを、ステップS508で特定したSP値を満たすように単独または組み合わせることで、仮想ポリマーや仮想モノマーユニットの具体的な分子構造に関する情報Eを作成してもよい。以下に、より具体的な例を示す。
【0143】
3.2.6.1.仮想ポリマーや仮想モノマーユニットの分子構造の推定処理例1
例えば、
図5Dでは、推定部156は、過去に行った推定結果を使用して仮想ポリマーや仮想モノマーユニットの分子構造を推定する。この方法では、ステップS5091において、推定部156は、他の検知対象物質に対して推定した仮想ポリマーや仮想モノマーユニットの分子構造に関する情報Eのなかから、ステップS508で特定したSP値に近い近似分子を特定する。近似分子の特定方法は、特に制限されないが、例えば、SP値を基準として、χパラメータはRaパラメータなどを利用して、ステップS508で特定したSP値と近いSP値を有する分子を特定する方法が挙げられる。
【0144】
次いで、ステップS5092において、推定部156は、特定した近似分子に対して推定したポリマーの分子構造に関する情報を、情報Eとする。つまり、過去に推定した感応膜の分子構造のうちSP値が近いものが、今回の感応膜の分子構造としても適しているとの一応の推定のもと、情報Eを特定する。
【0145】
これにより、過去に行った推定結果を使用して、簡便かつ適切に情報Eを作成することができる。また、任意にモノマーユニットの分子構造を一から設計仕様とすれば、剛性が現実的ではないもの物含まれるが、過去に行った推定結果を使用することで合成上の問題は解消することができる。
【0146】
3.2.6.2.仮想ポリマーや仮想モノマーユニットの分子構造の推定処理例2
また、他の例として、例えば、
図5Eでは、推定部156は、既知のモノマーユニットとそのモノマーユニットのSP値とが対応したリストと、グループ寄与法を使用して情報Aを作成する。この方法では、ステップS5093において、推定部156は、既知のモノマーユニットとそのモノマーユニットのSP値とが対応したリストの中から、単独のモノマーユニットとしてみたときに、ステップS508で特定したSP値とSP値が近いモノマーユニットを特定する。
【0147】
次いで、ステップS5094において、推定部156は、ステップS508で特定したSP値に、特定したモノマーユニットのSP値が近づくように、共重合させる他のモノマーユニットを選定し、それらモノマーユニットを組み合わせた組成を、情報Eとして作成する。より具体的には、特定したモノマーユニットのSP値よりもステップS508で特定したSP値が高ければ、特定したモノマーユニットのSP値よりも高いSP値を有する共重合モノマーユニットを特定し、検知対象物質のSP値により近づくように組み合わせた組成を情報Eとして作成する。また、特定したモノマーユニットのSPよりもステップS508で特定したSP値が低ければ、特定したモノマーユニットのSP値よりも低いSP値を有する共重合モノマーユニットを特定し、検知対象物質のSPにより近づくように組み合わせた組成をEとして作成する。
【0148】
これにより、過去の情報がなくとも、既知のモノマーユニットとそのモノマーユニットのSP値とが対応したリストを使用して、簡便かつ適切に情報Eを作成することができる。なお、ステップS5093において特定するモノマーユニットは、最もSP値が近い一つのモノマーユニットを選定してもよいし、χパラメータやRaパラメータが所定の関係を満たす一または複数のモノマーユニットを選定してもよい。
【0149】
3.1.7.情報Eの利用
ステップS310において、装置100の推定部156は、情報Eを入出力インターフェース130に出力してもよい。より具体的には、装置100の推定部156は、ディスプレイに情報Eを出力制御したり、情報Eを他の装置に対して出力したりしてもよい。情報Eの利用については、分子骨格ファースト法で例示したものと同様の方法を例示できる。
【0150】
4.プログラム
本実施形態のプログラムは、装置に、感応膜を構成するポリマーに関する候補情報Aと、検知対象物質に関する情報Bと、感応膜の膜構成に関する参考情報Cと、をモデルに入力することにより、ポリマーを用いて構成した感応膜の、検知対象物質に対する感度情報Dを出力する感度推定工程を、実行させる。
【0151】
上述したように、本実施形態のプログラムは、感度推定工程において、装置に、ポリマーと検知対象物質との相互作用に関する情報Fを、モデルにさらに入力することにより、ポリマーを用いて構成した感応膜の検知対象物質に対する感度情報Dを出力させてもよい。
【0152】
本実施形態のプログラムは、コンピュータに読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供されてもよい。ここで、記憶媒体は、「一時的でない有形の媒体」に、プログラムを記憶可能である。プログラムは、限定でなく例として、ソフトウェアプログラムやコンピュータプログラムを含む。
【0153】
なお、本開示は、上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において様々な変形が可能である。すなわち、上記実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。例えば、上述した各処理ステップは処理内容に矛盾を生じない範囲で任意に順番を変更し、又は並列に実行することができる。
【実施例0154】
〔実施例〕
説明変数として、感応膜を構成するポリマーの溶解度パラメータH1(δt、δd,δp,δh);χパラメータ,Raパラメータ;検知対象物質の分子体積及び蒸気圧;感応膜の塗布体積;シリカの配合量;シリカの粒子径などの感応膜の膜構成に関する情報を有し、目的変数に250ppmでの様々な単一ガスへの最高感度を持つ教師データを1000種類用意し、80%を訓練、20%をテストデータとし、ランダムフォレストモデルにより機械学習モデルを得た。
【0155】
得られたモデルに、モデル構築に使用していないテストデータを入力して、感度情報を出力値として得た。そして、実際に化合物を合成して確認したセンサ感度の実測値と、モデルにより予測した感度情報の相関係数r
2を確認した。その結果、相関係数r
2は0.83と算出され、実施例におけるモデルの汎化性が高いことが確認できた。
図6Aにその結果を示す。
【0156】
そこで、すべての教師データを用いて、再度モデルを構築し、そのモデルを用いてアセトン250ppmにおいて感度の高い感応膜構造を予測し、上位10種類の提案構造を得た。そのうちの一つを実際に合成し、センサを作成し、アセトン250ppmに対する実測値を得たところ、代表的な教師データに用いた分子骨格の感応膜(教師データ例)にくらべ、少なくとも3倍以上の感度を持つセンサが得られた。
【0157】
〔比較例〕
非特許文献に示された式を用いてランダムに抽出した15データからフィッティングパラメータのフィッティングを実施し、残りを検証データとした。フィッティングに使用したデータのr2=0.64に対して、r2=-0.46となり新しいデータ(バリデーションデータ)に対する汎化性がなく、分子骨格予測モデルとして使用できなかった。
図6Bにその結果を示す。
100…装置、110…プロセッサ、120…通信インターフェース、130…入出力インターフェース、140…メモリ、150…ストレージ、151…オペレーティングシステム、152…ネットワーク通信部、153…情報Aに関するデータ、154…情報Bに関するデータ、155…参考情報Cに関するデータ、156…推定部、160…通信バス、200…装置、700…秤量装置、710…制御部、720…タンク、730…調製タンク、800…重合装置、810…制御部、820…重合タンク、900…混合装置、910…制御部、920…タンク、930…混合タンク