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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157834
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】調整装置および光通信装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/08 20060101AFI20231019BHJP
【FI】
G02B26/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210755
(22)【出願日】2022-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2022067862
(32)【優先日】2022-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 正光
(72)【発明者】
【氏名】橋本 優介
【テーマコード(参考)】
2H141
【Fターム(参考)】
2H141MA12
2H141MB39
2H141MC01
2H141MC09
2H141MD12
2H141MD20
2H141MD22
2H141ME01
2H141ME04
2H141ME06
2H141ME09
2H141ME24
2H141MF28
2H141MG01
2H141MZ13
(57)【要約】
【課題】信号光の進行方向を高速かつ高精度で制御可能であり、かつ小型化に有利な技術を提供する。
【解決手段】光通信装置(1)は、調整装置(10)および受光部(200)を備える。調整装置(10)は、ウェッジプリズム(11)、アクチュエータ、検知部(12)および制御部(13)を備え、制御部(13)は、検知部(12)による検知結果と基準との差が小さくなるようにアクチュエータを制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号光の光路上に回転可能に配置されているウェッジプリズムと、
前記ウェッジプリズムを回転させるアクチュエータと、
前記ウェッジプリズムを透過する前の、または、前記ウェッジプリズムを透過した後の前記信号光の位置と設定された基準位置との差を検知する検知部と、
前記検知部により検知された差が小さくなるように前記アクチュエータを制御する制御部と、
を備えている調整装置。
【請求項2】
前記アクチュエータは、ボイスコイルモータ、DCモータ、ステッピングモータおよびピエゾアクチュエータからなる群から選ばれる一以上の装置である、請求項1に記載の調整装置。
【請求項3】
前記アクチュエータは、前記ウェッジプリズムを回転させるために前記装置の動作を前記ウェッジプリズムに伝達する機構をさらに含む、請求項2に記載の調整装置。
【請求項4】
前記ボイスコイルモータは、
前記ウェッジプリズムに対して固定され、前記ウェッジプリズムの回転軸に沿う方向の磁界を発生させるための磁石と、
前記ウェッジプリズムを回転可能に支持する基板に対して固定され、前記ウェッジプリズムの回転方向および前記磁界の向きの両方に交差する方向に延在する部分を含むコイルと、
を有する、請求項2に記載の調整装置。
【請求項5】
前記コイルは、平面視したときに前記回転軸から外側に向けて広がる扇形の形状を有する、請求項4に記載の調整装置。
【請求項6】
前記磁界の磁束密度を検出するためのホール素子をさらに有し、
前記制御部は、前記ホール素子による磁束密度の検出値に応じて前記ウェッジプリズムの回転角度を取得する、
請求項4に記載の調整装置。
【請求項7】
一枚の前記ウェッジプリズムの回転方向における二か所以上に前記ボイスコイルモータが配置されている、請求項2に記載の調整装置。
【請求項8】
複数の前記ボイスコイルモータのそれぞれは、前記ウェッジプリズムを平面視したときに、前記ウェッジプリズムの回転軸を中心とする回転対称の位置に配置されている、請求項7に記載の調整装置。
【請求項9】
前記検知部は、前記信号光の光路上に配置されて前記信号光を分岐させる分岐部と、前記信号光から分岐した光を受光する分岐光受光部と、を含む、請求項1に記載の調整装置。
【請求項10】
前記分岐光受光部は、イメージセンサまたは受光面が分割されている分割型フォトダイオードである、請求項9に記載の調整装置。
【請求項11】
前記検知部は、前記ウェッジプリズムの傾きを検出するジャイロセンサである、請求項1に記載の調整装置。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の調整装置を備えた光通信装置であって、
前記信号光を受光する受光部をさらに備えており、
前記ウェッジプリズムは、前記受光部に入射する前記信号光の光路上に配置されている、
光通信装置。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の調整装置を備えた光通信装置であって、
前記信号光を出射する発光部をさらに備えており、
前記ウェッジプリズムは、前記発光部から出射した前記信号光の光路上に配置されている、
光通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調整装置および光通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信においては、信号光の目的地までの中間伝送装置の数を減らすことが、効率を高める観点から好ましい。このためには、信号光の送受信のより高い精度が要求される。このような観点から、分岐した信号光から信号光の進行方向と基準方向との差を小さくするように、信号光の光路上に配置されたミラーの角度を調整する光通信装置が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】松本 充司、”光無線通信の課題と将来展望”、[online]、2016年3月17日、[令和4年4月6日検索]、インターネット<https://www.ieice.org/~wbs/pdf/taikai_matsumoto.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の従来技術は、信号光の進行方向を高速かつ高精度で制御することが可能である一方で、信号光の進行方向を調整するための光学的な設計と、ミラーおよびその駆動機構の配置とにスペースを要し、小型化が困難である、との問題点を有する。
【0005】
本発明の一態様は、信号光の進行方向を高速かつ高精度で制御可能であり、かつ小型化に有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る調整装置は、信号光の光路上に回転可能に配置されているウェッジプリズムと、前記ウェッジプリズムを回転させるアクチュエータと、前記ウェッジプリズムを透過する前の、または、前記ウェッジプリズムを透過した後の前記信号光の位置を検知する検知部であって、前記検知部に設定された基準位置と前記信号光の位置との差を検知する検知部と、前記検知部により検知された差が小さくなるように前記アクチュエータを制御する制御部と、を備えている。
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光通信装置は、上記の調整装置と、前記信号光を受光する受光部または前記信号光を出射する発光部とを備えており、前記ウェッジプリズムは前記信号光の光路上に配置されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、信号光の進行方向を高速かつ高精度で制御可能であり、かつ小型化に有利な調整装置および光通信装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態1に係る光通信装置の機能的な構成を模式的に示す図である。
図2】本発明の実施形態1におけるアクチュエータの機能的な構成を模式的に示す図である。
図3】本発明の実施形態1におけるウェッジプリズムに対応して配置される複数のコイルの配置の一例を模式的に示す図である。
図4】本発明の実施形態1におけるコイルの通電の制御を説明するための図である。
図5】本発明の実施形態1における四分割型フォトダイオードとその出力を説明するための図である。
図6】本発明の実施形態1における検知部の検知結果からウェッジプリズムの回転角度を取得する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図7】本発明の実施形態1におけるウェッジプリズムの回転方向における位置と回転角度とを説明するための図である。
図8】本発明の実施形態1におけるウェッジプリズムに対するアクチュエータの配置の第一の例を模式的に示す図である。
図9】本発明の実施形態1におけるウェッジプリズムに対するアクチュエータの配置の第二の例を模式的に示す図である。
図10】本発明の実施形態1におけるウェッジプリズムに対するアクチュエータの配置の第三の例を模式的に示す図である。
図11】本発明の実施形態2に係る光通信装置の機能的な構成を模式的に示す図である。
図12】本発明の実施形態3に係る光通信装置の機能的な構成を模式的に示す図である。
図13】本発明の実施形態4に係る光通信装置の機能的な構成を模式的に示す図である。
図14】本発明の実施形態5に係る光通信装置の機能的な構成を模式的に示す図である。
図15】本発明の実施形態6に係る光通信装置の機能的な構成を模式的に示す図である。
図16】本発明の実施形態7に係る光通信装置の機能的な構成を模式的に示す図である。
図17】本発明の実施形態8に係る光通信装置の機能的な構成を模式的に示す図である。
図18】本発明の実施形態9に係る光通信装置の機能的な構成を模式的に示す図である。
図19】本発明の実施形態10に係る光通信装置の受光系の光学的な構成を模式的に示す図である。
図20】本発明の実施形態10に係る光通信装置の機能的な構成を模式的に示す図である。
図21】本発明の実施形態11に係るウェッジプリズムのトルク調整機構を模式的に示す図である。
図22】本発明の実施形態12に係る光通信装置におけるウェッジプリズムの回転駆動の制御システムを示すブロック図である。
図23】本発明の実施形態13に係る光通信装置におけるウェッジプリズムの回転駆動の制御システムを示すブロック図である。
図24】本発明の実施形態14に係る光通信装置におけるウェッジプリズムの回転駆動の制御システムを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態1〕
[構成]
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態1に係る光通信装置の機能的な構成を模式的に示す図である。図1に示されるように、光通信装置1は、調整装置10と受光部200とを含む。受光部200は、光通信における信号光を受信し、必要に応じて電気信号に変換して伝達可能な装置であり、例えば集光レンズ、フォトダイオードまたはCMOS(相補型金属酸化物半導体)イメージセンサである。なお、信号光は、発光部300から出射している。発光部300は、電気を光に変換する素子であり、例えば発光ダイオードまたは半導体レーザである。
【0011】
調整装置10は、信号光の光路上に回転可能に配置されているウェッジプリズム11と、ウェッジプリズムを透過した後の信号光の位置とその基準位置との差を検知する検知部12と、検知部12により検知された差が小さくなるように前記アクチュエータを制御する制御部13と、を備えている。制御部13は、例えばCPU(中央処理装置)である。
【0012】
また、調整装置10は、ウェッジプリズム11を回転させるアクチュエータを備えている。ウェッジプリズム11は、二対(四枚)のウェッジプリズムであり、各対(二枚)で信号光の進行方向における特定の方向(例えば基準方向に直交する平面上のX軸方向またはY軸方向)の成分を制御する。以下、ウェッジプリズム11とアクチュエータとについてより詳しく説明する。
【0013】
図2は、本発明の実施形態1におけるアクチュエータの機能的な構成を模式的に示す図である。図2は、一対のウェッジプリズム11を回転させる構成を模式的に示している。図2において、第一ウェッジプリズム11aは一対のうちの一方であり、第二ウェッジプリズム11bは一対のうちの他方である。第一ウェッジプリズム11aおよび第二ウェッジプリズム11bは、共通の回転軸CAを有して併設されている。
【0014】
調整装置10は、基板111、第一磁石112aおよび第二磁石112bを有している。第一磁石112aは第一ウェッジプリズム11aに対応して配置されており、第二磁石112bは第二ウェッジプリズム11bに対応して配置されている。基板111には、第一コイル113a、第二コイル113b、第一ホール素子114aおよび第二ホール素子114bが配置されている。第一磁石112aは、第一ウェッジプリズム11aの回転によって第一コイル113a上を通過するように配置されている。第二磁石112bは、第二ウェッジプリズム11bの回転によって第二コイル113b上を通過するように配置されている。なお、制御部13は基板111上に配置されている。
【0015】
図3は、本発明の実施形態1におけるウェッジプリズムに対応して配置される複数のコイルの配置の一例を模式的に示す図である。各ウェッジプリズム11は、回転可能に配置される枠115aに嵌合して支持されている。第一ウェッジプリズム11aは枠115aに支持されており、第一磁石112aも枠115aに支持されている。
【0016】
本実施形態において、第一コイル113aおよび第一ホール素子114aは、それぞれ三つずつ配置されている。第一コイル113aのそれぞれは、図3に示されるように、平面視したときの回転軸CAを回転の中心とする三回回転対称の位置に配置されている。第一コイル113aのそれぞれは、平面視したときに略扇形に巻かれている導線によって構成されている。このように第一コイル113aは、第一ウェッジプリズム11aの回転方向および後述の磁界の向きの両方に交差する方向に延在する部分を含んでいる。
【0017】
第一ホール素子114aは、回転軸CAに沿う方向においては第一コイル113aの第一磁石112aとは反対側であって、平面視したときに第一コイル113aにおける略扇形の内側に配置されている。第一ホール素子114aは、第一コイル113aに対応する第一磁石112aと後述のヨークとの間に形成される磁場(第一ウェッジプリズム11aの回転軸CAに沿う方向の磁界)に応じた電圧力を出力する素子である。第一ホール素子114aは、制御部13に接続されている。さらに、基板111における第一コイル113aとは反対側の主面上には、ヨークが配置されている。
【0018】
第一コイル113aおよび第一磁石112aは、第一コイル113aへの通電によって第一ウェッジプリズム11aを回転させるボイスコイルモータを構成している。第一コイル113aへの通電によって、扇形における径方向に直交する方向、すなわち第一ウェッジプリズム11aの回転方向に実質的に沿う方向へ第一ウェッジプリズム11aを回転させる推力が発生する。
【0019】
また、第一コイル113aへの通電によって、第一ホール素子114aは磁場(磁束密度)に応じた電圧を出力する。第一ウェッジプリズム11aの回転角度は、特定の範囲において第一ホール素子114aが検出する電圧値(磁束密度)と一次式に近似可能である。制御部13は、このような相関関係に基づいて第一ウェッジプリズム11aの回転角度を取得する。
【0020】
また、第一コイル113aは、第一ウェッジプリズム11aに対して三回回転対称の位置に三つ配置されている。第一ウェッジプリズム11aは、複数の第一コイル113aからの回転の推力によってバランスよく、かつ円滑に回転する。このため、第一コイル113aの偏りによる第一ウェッジプリズム11aの回転の不具合の発生が抑制され、当該不具合による信号光のブレの発生が抑制される。また、磁界の集中による第一ウェッジプリズム11aのスラスト方向への変位が抑制される。
【0021】
図4は、本発明の実施形態1におけるコイルの通電の制御を説明するための図である。図4に示されるように、ホール素子は、磁場(磁束密度)に応じた電圧を出力する。制御部13は、ホール素子から出力される電圧に応じて、ウェッジプリズムの回転角度(現在角度)を取得する。制御部13は、取得した現在角度に応じてボイスコイルモータによるウェッジプリズムの回動を制御し、ウェッジプリズムの回転角度を目標とする回転角度にする。
【0022】
なお、第二コイル113bについても、第一コイル113aと同様に構成され、同様に作動する。
【0023】
検知部12は、信号光の光路上に配置されて信号光を分岐させる分岐部121と、信号光から分岐した光(「分岐光」とも言う)を受光する分割型フォトダイオード122と、を含んでいる。分岐部121は、例えばキューブ型のビームスプリッタであり、信号光の進行方向に直交する方向へ、信号光を分岐させる。
【0024】
図5は、本発明の実施形態1における四分割型フォトダイオードとその出力を説明するための図である。分割型フォトダイオード122は、四分割型フォトダイオードであり、平面形状が円形の受光面を有している。当該受光面は、直交する二直線によって四つの区画に等分に分割されている。分割型フォトダイオード122は、分割された各区画における照射光の成分の強度Q1~Q4を検出可能に構成されている。分割型フォトダイオード122は制御部13と接続されており、各区画で検出される強度Q1~Q4のそれぞれが制御部13に入力されるように構成されている。
【0025】
なお、分割型フォトダイオード122は、受光した光の照射位置を検出可能な他の装置に置き換え可能である。このような分岐光の受光部には、例えばイメージセンサを用いることも可能である。
【0026】
[信号光の進行方向の制御]
調整装置10は、信号光をその光路において分岐部121で分岐させ、分岐した信号光の分割型フォトダイオード122における照射位置を読み取り、そのデータに応じてウェッジプリズム11を回転させて信号光を受光部200に向けて偏向させる。図6は、本発明の実施形態1における検知部の検知結果からウェッジプリズムの回転角度を取得する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0027】
本実施形態では、フォトダイオードを使用して、信号光から分岐した光の成分(分岐光)の、フォトダイオードに発生するブレ量を検知する。光通信装置1が傾く、あるいは、信号光が振動するなど、調整装置10と信号光との相対的な位置関係が変化すると、ウェッジプリズム11への信号光の入射角度または入射位置が変化し、信号光の受光部200における照射位置が特定の範囲から変化して(ブレて)外れることがある。「ブレ」とは、信号光または分岐光の照射位置の変化を言う。信号光が受光部200における中央部の特定の範囲に位置する場合では、分岐光は、分割型フォトダイオード122の中央部に位置する。この場合、分割型フォトダイオード122の各区分における強度Q1~Q4は、いずれも、特定の範囲内の数値で検出される。このように、分割型フォトダイオード122における分岐光の照射位置は、受光部200における信号光の照射位置に対応している。すなわち、検知部12は、検知部12に設定された信号光の基準位置と検知部12における信号光の照射位置との差を検知する。この差は、検知部12に設定された前述の特定の範囲内の位置に対する検知部12における信号光の照射位置のずれ量、とも言える。
【0028】
「基準位置」とは、信号光の照射位置の基準となるべき位置であり、例えば受光部200または分割型フォトダイオード122の中央部の特定の範囲内における任意の位置(例えば受光部200または分割型フォトダイオード122における受光面の中心)である。信号光(または分岐光)の照射位置が基準位置からずれる場合としては、前述したように、光通信装置1が傾く場合、および、信号光が振動する場合、が挙げられる。
【0029】
たとえば、光通信装置1が傾くと、信号光の入射角度が変化する。この場合、信号光の進行方向は、その基準方向からずれる。「基準方向」とは、信号光の基準となるべき進行方向であり、例えば上記の基準位置への信号光の仮想の進行方向である。また、例えば光通信装置1が振動すると、信号光の入射位置が変化する。この場合、信号光の照射位置は、その基準位置からずれる。いずれの場合も、ウェッジプリズムの回転角度によって検知部12における信号光の照射位置と基準位置との差をより小さくすることが可能である。信号光の進行方向が検出される場合には、検出部は、信号光の進行方向と基準方向との差を検知してもよい。この場合も、受光部200における信号光の照射位置と基準位置との差が検知される。
【0030】
ステップS101において、制御部13は、分割型フォトダイオード122の出力値Q1~Q4を取得する。
【0031】
分割型フォトダイオード122における分岐した光の成分の位置は、受光部200における信号光の位置のブレに対応して変化する。
【0032】
ステップS102において、制御部13は、取得した出力値Q1~Q4に応じて、信号光におけるX軸およびY軸方向の変位量をそれぞれ取得する。四分割型フォトダイオードにおいて、X軸方向の変位量ΔxおよびY軸方向の変位量Δyは、それぞれ下記式から求められる。
Δx=(Q1+Q3)-(Q2+Q4)
Δy=(Q1+Q2)-(Q3+Q4)
【0033】
ステップS103において、制御部13は、X軸またはY軸に対応するウェッジプリズム11の回転角度を算出する。たとえば、制御部13は、受光部200における信号光の位置と分割型フォトダイオード122における分岐光の位置との相関関係に基づいて、分割型フォトダイオード122におけるΔxおよびΔyから、ウェッジプリズムの回転量を取得する。
【0034】
図7は、本発明の実施形態1におけるウェッジプリズムの回転方向における位置と回転角度とを説明するための図である。Δxから、X軸に対応するウェッジプリズム11の回転角度(回転量)θxが求まり、Δyから、Y軸に対応するウェッジプリズム11の回転角度θyが求まる。
【0035】
θxは図7中のAxおよびBxの差分であり、θyはAyおよびByの差分である。AxおよびAyは、それぞれ、分割型フォトダイオード122の中心位置の角度、例えば角度0度(初期位置あるいは基準位置)である。BxおよびByは、それぞれ、信号光のブレを補正するための補正回転角度であり、例えばPID制御での目標値である。
【0036】
当該目標値は、検知部により検知された前述の差を小さくする値であればよい。信号光のブレの速度に比べて十分に速い速度でウェッジプリズム11を回転可能なアクチュエータを用いる場合では、フィードバック制御によって、ブレた信号光を受光部200の特定の範囲に向けて繰り返し補正し、特定の範囲内に収めることが可能である。ウェッジプリズム11の回転角度の制御は、例えば従来の光通信装置におけるミラーの角度の調製と同様の制御によって実現可能である。上記の目標値は、信号光の進行方向と基準方向との差分以下の値であってもよいし、信号光の照射位置と基準位置との差分以下の値であってもよい。このように、制御部13は、受光部200に表れるブレをウェッジプリズムにより補正するための補正量を算出する。
【0037】
ステップS104において、制御部13は、例えばPID処理によってステップS103で求めた回転角度を実現するように、ボイスコイルモータの通電量を制御する。このように、制御部13は、検知部により検知された差が小さくなるようにアクチュエータを制御する。前述したように信号光は分岐部121で分岐する。したがって、信号光は、制御部13の制御によって受光部200の特定の範囲内に位置するとともに、その分岐光の分割型フォトダイオード122における位置は、中央部に向かって移動する(Q1~Q4のそれぞれが実質的に等価になる)。このように、分割型フォトダイオード122では、分岐光の位置には、受光部200における信号光の位置が反映される。
【0038】
制御部13は、少なくとも光通信中、上記のステップS101からS104を繰り返し実行する。信号光のブレが高速かつ微細な振動によるものであったとしても、信号光が基準方向または基準位置からずれたときに、ウェッジプリズム11はこのずれを解消する回転角度に回転する。このように、本実施形態では、上記の処理を高速で行うことにより、受光部200における信号光のブレ量を抑え込むことが可能となる。
【0039】
[本実施形態の主な作用効果]
本実施形態において、ウェッジプリズム11による信号光の偏向は、二次元的な走査に対応可能である。そのため、本実施形態では、信号光のブレが複合した振動(例えば光通信装置の傾きとウェッジプリズム11における信号光の照射位置の変化との両方を含む場合など)であったとしても、分割型フォトダイオード122により検知したブレ量に基づいて、信号光の照射位置を、受光部200の受光面における特定の補正範囲に変更させることが可能である。
【0040】
特に、本実施形態では、ウェッジプリズム11を透過した後の信号光の照射位置と基準位置との差を検知部(分岐部121と分割型フォトダイオード122)で検知することから、分割型フォトダイオード122では補正後の信号光の分岐光の照射位置が検知される。よって、受光部200における信号光と同じ制御が行われた光が検知部(分割型フォトダイオード122)で検知されることから、正確かつ簡易にフィードバック制御を実施する観点で有利である。
【0041】
本実施形態では、信号光のブレの補正について説明しているが、調整装置10は、受信側の光通信装置を走査する(ビーコンの)ための信号光の進行方向を調整するなど、光通信装置1の所望の機能を実現するための他の偏向制御をさらに実施していてもよい。
【0042】
また、本実施形態では、ウェッジプリズム11を回転させるアクチュエータにボイスコイルモータを採用している。したがって、小型かつ軽量な構成によって高速で、かつ正確な位置へウェッジプリズム11を回転させる観点から有利である。
【0043】
[アクチュエータの態様]
なお、本実施形態において、アクチュエータの種類およびそれに関する構造は、信号光のブレを補正するのに十分に高速かつ高精度にウェッジプリズム11を回転可能な範囲において適宜に選択し得る。図8図10に、本発明の実施形態1におけるウェッジプリズムに対するアクチュエータの配置の第一から第三の例のそれぞれを模式的に示す。
【0044】
たとえば図8に示されるように、本実施形態におけるアクチュエータ16は、ウェッジプリズム11と一体的に搭載される直接駆動の略面状の一体型面状アクチュエータであってよい。このようなアクチュエータは、一般に軽量で、省スペースであり、かつ直接駆動することから、光路上に並列するウェッジプリズムと一体的に配置することができ、かつ高速かつ高精度でのウェッジプリズムの回転運動を実現する観点から好適である。このようなアクチュエータ16の例には、ボイスコイルモータおよびピエゾアクチュエータが含まれる。
【0045】
また、本実施形態におけるアクチュエータ16は、例えば図9に示されるように、ウェッジプリズム11の外部に配置されてウェッジプリズム11を直接回転させる外部アクチュエータであってもよい。外部アクチュエータは、例えばウェッジプリズム11を回転可能に支持する基板に配置される。外部アクチュエータは、通常、ウェッジプリズム11またはそれと一体的な支持部材(例えば枠115a)に対して、駆動力を伝達するために接触して配置されるが、駆動力を伝達可能であれば非接触で配置されていてもよい。外部アクチュエータは、一般に設置空間の大きさの制約が前述の一体型面状アクチュエータよりも少なく、より大きな出力のアクチュエータを配置するのに好適である。また、外部アクチュエータは、多数のウェッジプリズム11またはより重たいウェッジプリズム11を高速かつ高精度で回転させるのに有利である。このような直接駆動の外部アクチュエータの例には、ボイスコイルモータ、ピエゾモータ、BLDC(ブラシレス直流)モータ、ステッピングモータおよびDC(直流)モータが含まれる。
【0046】
さらに、本実施形態におけるアクチュエータ16は、例えば図10に示されるように、上記の外部アクチュエータに加えて伝達機構17をさらに含んでいてもよい。このような駆動伝達型の外部アクチュエータも、前述した外部アクチュエータと同様の観点で有利である。伝達機構17の例には、ギヤ、リンク機構およびクランク機構が含まれる。外部アクチュエータと伝達機構17とは、駆動力を伝達可能であれば、互いに接触して配置されていてもよいし、非接触で配置されていてもよい。
【0047】
〔実施形態2~9〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、以降の実施形態において、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0048】
[実施形態2]
図11は、本発明の実施形態2に係る光通信装置の機能的な構成を模式的に示す図である。図11に示されるように、本実施形態における光通信装置2は、調整装置10に代えて調整装置20を備える以外は、実施形態1の光通信装置1と同様に構成されている。調整装置20は、検知部12がウェッジプリズム11の受光部200とは反対側に配置されている以外は、実施形態1の調整装置10と同様に構成されている。
【0049】
本実施形態では、検知部は、ウェッジプリズムを透過する前の信号光の位置と基準位置との差、を検知する。本実施形態では、ウェッジプリズム11による偏向の影響を含まない分岐光の検知結果に応じて、実施形態1と同様の信号光のブレの補正を実施することが可能である。
【0050】
[実施形態3]
図12は、本発明の実施形態3に係る光通信装置の機能的な構成を模式的に示す図である。図12に示されるように、本実施形態における光通信装置3は、調整装置10に代えて調整装置30を備える以外は、実施形態1の光通信装置1と同様に構成されている。調整装置30は、信号光の光路上に直列に配置される二つのウェッジプリズム31、32を有している。また、調整装置30において、検知部12は二つのウェッジプリズム31、32の間に配置され、制御部13は二つのウェッジプリズム31、32のそれぞれを制御するように構成されている。調整装置30は、それら以外は、実施形態1の調整装置10と同様に構成されている。なお、ウェッジプリズム31、32のうち、ウェッジプリズム32はより受光部200側に配置されている。
【0051】
本実施形態では、検知部は、ウェッジプリズム31を透過した後の信号光であって、ウェッジプリズム32を透過する前の信号光の分岐光の位置を検知する。本実施形態では、ウェッジプリズム31、32における信号光の偏向の制御の機能をより細分化することが可能である。
【0052】
たとえば、本実施形態では、PID制御による信号光のブレの補正を、ウェッジプリズム31、32のそれぞれにおいて段階的に行ってもよい。あるいは、本実施形態では、ウェッジプリズム31、32の一方に基づいてビーコンのための偏向制御などの信号光の所望の偏向制御を実施し、他方に基づいて信号光のブレを補正してもよい。ウェッジプリズム31、32のそれぞれにおいて段階的に行う場合では、ウェッジプリズム31、32の一方による回転角度の影響を他方で検出することが可能となる。よって、本実施形態は、受光部200における信号光の照射位置を基準位置へ近づけるための回転角度の設定値の正確性をさらに高める観点から有利である。
【0053】
[実施形態4、5]
図13は、本発明の実施形態4に係る光通信装置の機能的な構成を模式的に示す図である。図13に示されるように、実施形態4における光通信装置4は、受光部200に代えて発光部300を有し、調整装置10に代えて調整装置40を備える以外は、実施形態1の光通信装置1と同様に構成されている。調整装置40は、調整装置10と同じ構成を有し、光通信装置4において、分岐部121がウェッジプリズム11を透過する前の信号光を分岐するように配置されている。
【0054】
また、図14は、本発明の実施形態5に係る光通信装置の機能的な構成を模式的に示す図である。図14に示されるように、実施形態5における光通信装置5は、受光部200に代えて発光部300を有し、調整装置20に代えて調整装置50を備える以外は、実施形態2の光通信装置2と同様に構成されている。調整装置50は、調整装置20と同じ構成を有し、光通信装置5において、分岐部121がウェッジプリズム11を透過した後の信号光を分岐するように配置されている。
【0055】
これらの実施形態は、発光部300またはウェッジプリズム11のゆるみによる信号光の振動あるいは信号光の進行方向の変化を検出し、当該信号光の進行方向を補正するのにより一層効果的である。
[実施形態6]
本発明の実施形態に係る光通信装置は、送信側の構成と受信側の構成との両方の構成を備えていてもよい。図15は、本発明の実施形態6に係る光通信装置の機能的な構成を模式的に示す図である。図15に示されるように、本実施形態における光通信装置6は、発光部300、分岐部310、ウェッジプリズム320および反射鏡330をさらに有する以外は、実施形態1の光通信装置1と同様の構成を有している。
【0056】
分岐部310は、発光部300とウェッジプリズム320との間に配置されている。分岐部310は、発光部300が出射した信号光を透過し、ウェッジプリズム320を透過した外部からの信号光を分岐する。ウェッジプリズム320は、発光部300が出射した(例えばビーコンのための)信号光の進行方向を制御する。また、ウェッジプリズム320は、外部からの信号光を受信する場合には、特定の位置(例えば前述の基準位置)で当該信号光を透過させる。反射鏡330は、分岐部310が分岐した外部からの信号光をウェッジプリズム11(受光部200)に向けて反射する。反射鏡330は、分岐部310の位置と受光部200の位置とによって決まる特定の位置に固定されている。
【0057】
本実施形態では、信号光の出射と受光との両方を実施可能であり、前述したように、受光に際して信号光の相対的な振動または傾きを補正することが可能である。
【0058】
[実施形態7]
図16は、本発明の実施形態7に係る光通信装置の機能的な構成を模式的に示す図である。図16に示されるように、本実施形態における光通信装置7は、調整装置10に代えて調整装置20を備える以外は、実施形態6の光通信装置6と同様の構成を有している。本実施形態でも、前述の実施形態6と同様に、信号光の出射と受光との両方を実施可能であり、また受光に際して信号光の相対的な振動または傾きを補正することが可能である。
【0059】
[実施形態8]
図17は、本発明の実施形態8に係る光通信装置の機能的な構成を模式的に示す図である。図17に示されるように、本実施形態における光通信装置8は、分岐部310とウェッジプリズム320との出射される信号光の光路上の位置が入れ替わっている以外は、前述の実施形態7の光通信装置7と同様の構成を有している。
【0060】
本実施形態では、外部からの信号光は、ウェッジプリズム320を透過する前に受光部200に分岐する。したがって、発光部300からのウェッジプリズム320によって進行方向が制御された信号光の出射と、受光する外部からの信号光の相対的な振動または傾きの補正とを同時に実施することが可能である。
【0061】
[実施形態9]
図18は、本発明の実施形態9に係る光通信装置の機能的な構成を模式的に示す図である。図18に示されるように、本実施形態における光通信装置9は、調整装置10に代えて調整装置90を有する以外は前述した実施形態1の光通信装置1と同様の構成を有している。調整装置90は、検知部12に代えてジャイロセンサ91を有している。ジャイロセンサ91は、ウェッジプリズム11を保持する光通信装置9の傾きを検出し、検出信号を制御部13に出力する。光通信装置9の傾きによって、ウェッジプリズム11における信号光の進行方向が変化し、進行方向と基準方向との差が生じる。ジャイロセンサ91は、ウェッジプリズム11を通過する前の信号光の進行方向と基準方向との差を検知する検知部となっている。
【0062】
本実施形態によれば、光通信装置9の傾きをジャイロセンサ91により検知し、ウェッジプリズム11により受光部200に発生する信号光のブレを補正することが可能である。本実施形態では、信号光が分岐されずに受光部200に到達する。よって、分岐光に基づいて信号光の進行方向を補正する場合に比べて、信号光の分岐による減衰を防止する観点から有利である。
【0063】
なお、調整装置90は、必要に応じて前述の分岐光受光部などの他のセンサを必要に応じてさらに有していてよい。このように他のセンサの検出値をさらに参照することによって、調整装置90は、前述の他の実施形態と同様に、信号光の傾き(チルト)のみならず信号光の照射位置のずれ(シフト)の補正を実現することも可能である。また、調整装置90は、前述した実施形態と同様に、信号光送信側の光通信装置にも適用することによって信号光のブレを補正することが可能である。また、調整装置90は、前述した実施形態と同様に、送信側の構成と受信側の構成との両方の構成を有する光通信装置にも適用可能であり、当該光通信装置において信号光のブレを補正することが可能である。
【0064】
〔大気の揺らぎによる信号光のブレ〕
大気は、天候および湿度などの自然現象によって揺らぎ、それにより大小の大気塊が生じる。大気塊は、その周囲の大気に対して異なる屈折率を示す。そのため、上記の大気の揺らぎは、信号光のブレを生じる。大気塊は、大きいほど振幅が大きく周波数の低い信号光の振動もたらし、小さいほど振幅が小さく周波数の低い信号光の振動をもたらす。このような大気塊による信号光のブレは、おおよそ1Hz~2KHzの周波数の範囲で生じ得る。大気中での光通信では、このような大気の揺らぎによる信号光のブレを適切に補正することが望まれる。
【0065】
大気の大きな(低周波の)揺らぎは、前述した機器の振動に起因する信号光のブレと同様にして補正され得る。大気の小さな(高周波の)揺らぎに対しては、信号光のブレは、高い周波数でのウェッジプリズムの回転駆動により補正され得る。以下、主に、高周波の大気の揺らぎによる信号光のブレを補正するのに好適な形態を説明する。
【0066】
[実施形態10]
図19は、本発明の実施形態10に係る光通信装置の受光系の光学的な構成を模式的に示す図である。図19に示されるように、受光部220は、アンテナ221、エキスパンダ222およびシングルモードファイバ223を有する。シングルモードファイバ223は、その一端が受光端であり、他端にはコネクタ224を有している。
【0067】
アンテナ221は、集光系の光学素子である。アンテナ221は、例えば集光レンズであり、シングルモードファイバ223が受光可能なビーム径まで信号光を集光させる。
【0068】
エキスパンダ222は、アンテナ221が集光した信号光をコリメート光としてシングルモードファイバ223の受光端に向けて出射する。エキスパンダ222は、例えばコリメートレンズが用いられる。
【0069】
シングルモードファイバ223は、コアとクラッドとを有する。エキスパンダ222からの信号光のコリメート光は、シングルモードファイバ223の一端においてコアに直接、または適当なコネクタを介してコアに導かれる。
【0070】
このように、本実施形態の受光部220は、信号光を受光するシングルモードファイバ223と、シングルモードファイバのコアに導光されるビーム径に信号光を集光する集光光学系(アンテナ221およびエキスパンダ222)と、を含む。当該集光光学系は、シングルモードファイバ223に至る信号光の光路中に配置されていればよく、信号光の光路におけるシングルモードファイバ223の直前でなくてもよい。
【0071】
上記の受光部を備える光通信装置の構成の一例を説明する。図20は、本発明の実施形態10に係る光通信装置の機能的な構成を模式的に示す図である。図20に示されるように、光通信装置1Aは、アンテナ221、エキスパンダ222、ウェッジプリズム11、11、アクチュエータ16、分岐部121、分割型フォトダイオード122、制御部13、シングルモードファイバ223およびコネクタ224を有する。アンテナ221およびエキスパンダ222は、シングルモードファイバ223で受光可能なビーム径まで信号光を集光し、コリメート光としてウェッジプリズム11、11に出射する。当該コリメート光は、分岐部121を通り、シングルモードファイバ223に受光される。それ以外は、前述した実施形態1と同様である。
【0072】
本実施形態では、シングルモードファイバ223が信号光を直接受光する。したがって、受光部200としてイメージセンサを用いる場合の信号変換処理が不要である。よって、当該処理による制御の遅延が発生しないことから、ウェッジプリズム11、11の回転の制御への負荷をより軽減可能である。そのため、ウェッジプリズム11、11の回転制御のさらなる高速化が図られ、前述した高周波の揺らぎによる信号光のブレを抑制する観点からより有利である。また、信号光が直接シングルモードファイバ223に到達することから、空間中での光通信において一般的な光ファイバ通信と同等の通信が実現可能となる。
【0073】
[実施形態11]
本実施形態は、ウェッジプリズム11を回転させるアクチュエータに加えて、トルク調整装置をさらに有する以外は、前述した実施形態と同様である。図21は、本発明の実施形態11に係るウェッジプリズムのトルク調整機構を模式的に示す図である。図21に示されるように、ウェッジプリズム11には、ウェッジプリズム11を回転させるためのアクチュエータ16に加えて、トルク調整装置26がさらに取り付けられている。トルク調整装置26は、アクチュエータ16と同様にウェッジプリズム11を回転駆動可能な装置であり、実施形態1で前述した各種のアクチュエータから適宜に選ばれ得る。高速かつ高精度でのウェッジプリズムの回転運動を実現する観点から、トルク調整装置26は、ボイスコイルモータであることが好ましい。
【0074】
ボイスコイルモータでは、特定の周波数付近までトルクと周波数とが近似的に比例関係で増加する傾向を有する。ここで、周波数とは周期の逆数であり、当該周期とは、ウェッジプリズムの正転と逆転とによる一回の振幅に要する時間である。このように、ボイスコイルモータによる周波数特性は、概ねトルクに比例し、振幅に反比例する特性を示す。したがって、ウェッジプリズム11の回転運動におけるトルクを高めることにより、当該回転運動の周波数を高めることが可能となる。
【0075】
一つのウェッジプリズム11に対するトルク調整装置26の設置数は、単数でも複数でもよく、その上限はトルク向上による周波数向上の効果が得られる範囲、あるいは所望の周波数が実現可能な範囲で適宜に決めることができる。複数のトルク調整装置26を有することは、ウェッジプリズム11の回転駆動機構におけるバランスを改善する観点から有利である。このような観点によれば、トルク調整装置26およびアクチュエータ16が、アクチュエータ16の回転中心に対して略回転対称の位置に配置されることも、有利な一態様である。
【0076】
このように、本実施形態では、光通信装置がトルク調整装置26をさらに有することから、ウェッジプリズム11の回転の周波数をより一層高めることが可能となる。したがって、前述した高周波の揺らぎによる信号光のブレを抑制する観点からより有利である。
【0077】
[実施形態12]
以下の実施形態12~14では、光通信装置におけるウェッジプリズムの回転駆動を制御する形態を説明する。図22は、本発明の実施形態12に係る光通信装置におけるウェッジプリズムの回転駆動の制御システムを示すブロック図である。本実施形態では、制御部13は、フィードフォワード制御とフィードバック制御との両方を実施してウェッジプリズムの回転駆動を制御する。
【0078】
図22に示されるように、制御部13において、目標値算出部131は、ホール素子114からの出力信号に応じてウェッジプリズム11の回転角度の目標値を算出する。
【0079】
フィードフォワード(FF)制御器132は、当該目標値を取得し、所期の出力が得られるアクチュエータ(ACT)16の入力値を取得する。
【0080】
当該入力値は、フィードバック(FB)制御器133からの補正値によって補正され、アクチュエータ16は、補正された入力値に応じて駆動する。
【0081】
フィードバック(FB)制御器133は、補正された入力値によるアクチュエータ16駆動後のホール素子114からの出力信号と前述の目標値との偏差を取得して前述の補正値を取得する。
【0082】
一般に、光軸の調整等にはウェッジプリズムの回転角度を精度よく算出する必要がある。この観点によれば、ウェッジプリズムの回転位置によるフィードバックが有効である。一方で、光軸の調整等では高速での動作も必要である。この観点によれば、ウェッジプリズムの回転位置の確認処理は、制御周期の遅延を発生させることがあり、前述した高周波の揺らぎに対応するための高速動作の妨げになり得る。なお、「制御周期」とは、ウェッジプリズムの回転制御に係る一連の制御動作の周期を意味する。
【0083】
本実施形態では、前述のように、フィードフォワード制御をフィードバック制御に組み込んだ制御システムによって、フィードフォワード制御の誤差の補正としてフィードバック制御を活用してウェッジプリズムの回転駆動を制御する。よって、本実施形態は、位置演算によってウェッジプリズムの回転駆動の精度をより高めつつ、当該位置演算による制御の負荷を軽減させ、演算速度の向上を実現する観点から有利である。このような本実施形態は、高周波のブレの信号光の光軸補正などの、ウェッジプリズムの高速駆動とウェッジプリズムの位置制御との両方が求められる光通信装置の用途において有利である。
【0084】
[実施形態13]
図23は、本発明の実施形態13に係る光通信装置におけるウェッジプリズムの回転駆動の制御システムを示すブロック図である。本実施形態では、制御部13は、フィードフォワード制御によってウェッジプリズムの回転駆動を制御する。
【0085】
図23に示されるように、制御部13において、目標値算出部131は、ホール素子114からの出力信号に応じてウェッジプリズム11の回転角度の目標値を算出する。フィードフォワード制御器132は、当該目標値を取得し、所期の出力が得られるアクチュエータ16の入力値を取得する。アクチュエータ16は、当該入力値に応じて駆動する。
【0086】
このように、本実施形態では、ウェッジプリズムの位置制御が含まれない。そのため、前述の実施形態12に比べて、制御周期をより短くすることができ、制御遅れがより抑制され得る。よって、本実施形態は、ウェッジプリズムの回転運動の周期を短くするのにより一層効果的であり、前述した高周波の大気の揺らぎへの対応の観点からより有利である。よって、本実施形態は、高周波の信号光のブレの補正が求められる光通信装置の用途において有利である。
【0087】
[実施形態14]
図24は、本発明の実施形態14に係る光通信装置におけるウェッジプリズムの回転駆動の制御システムを示すブロック図である。本実施形態では、制御部13は、フィードバック制御によってウェッジプリズムの回転駆動を制御する。
【0088】
図24に示されるように、制御部13において、目標値算出部131は、ホール素子114からの出力信号に応じてウェッジプリズム11の回転角度の目標値を算出する。当該目標値は、補正された入力値によるアクチュエータ16駆動後のホール素子114からの出力信号に基づいて補正される。フィードバック制御器133は、補正された目標値を取得し、アクチュエータ16の入力値を取得する。アクチュエータ16は、当該入力値に応じて駆動する。
【0089】
このように、本実施形態では、位置制御によってウェッジプリズムの回転駆動を制御する。そのため、前述の実施形態13に比べて、ウェッジプリズムの回転位置をより正確に制御することが可能である。よって、本実施形態は、光通信装置におけるウェッジプリズムの回転駆動系が実現可能な周波数の範囲において、信号光の揺らぎを抑制する観点からより一層効果的である。本実施形態の制御は、設置によって発生する位置情報の誤差を調整することが求められる光通信装置の用途、あるいは信号光の受信位置をより精密に維持ことが求められる光通信装置の用途において有利である。
【0090】
以上の実施形態10~14(特には11~13)によれば、光通信装置の振動と、大気の揺らぎによる信号光の振動と、の両方による信号光のブレを補正し、安定した光通信を実現する観点からより一層効果的である。
【0091】
通常、空間内での光通信では、信号光を特定のエネルギーで送信し、これを受信する。信号光の送信のエネルギーは、受光側に到達可能な最低限のエネルギー以上に設定される。しかしながら、前述したような大気の揺らぎが存在すると、信号光のエネルギーが変化し、特に大気の大きな揺らぎによって前述の最低限のエネルギーを下回ることがある。信号光のエネルギーが当該最低限のエネルギーを下回ると光通信が途切れる。したがって、大気の大きな揺らぎによる信号光のブレを補正することで、信号光が受信に十分なエネルギーを有して受信側で受診され、光通信が安定して実施される。
【0092】
大気の小さな揺らぎによる信号光のエネルギーの損失は小さいが、信号光の高周波のブレをもたらし、光通信において信号光の一定のブレ幅をもたらす。したがって、大気の小さな揺らぎによる信号光のブレを補正することで、信号光のブレ幅をより縮小することが可能となる。
【0093】
このように、大気の大小の揺らぎによる信号光のブレを補正することによって、光通信における信号光のエネルギーが、送信時のエネルギーおよび上記の縮小されたブレ幅の範囲に保たれる。大気の小さな揺らぎによる信号光の高周波のブレの補正の精度が高いほど、例えばより高周波のブレの補正が可能であるほど、上記のブレ幅がより縮小され、信号光のエネルギーにおける送信時のエネルギーからのずれがより小さくなる。その結果、送信時のエネルギーを前述の最低限のエネルギーにより近い値に設定することが可能となる。よって、光通信の安定化に加えて光通信の省力化の観点からも有利となる。
【0094】
〔ソフトウェアによる実現例〕
制御部13の機能は、制御部13としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、制御部13の各制御ブロックとしてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0095】
この場合、制御部13は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0096】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0097】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0098】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。たとえば、分割型フォトダイオード122または受光部200における照射位置の変化の周期、変化量および変化の方向と、当該変化を打ち消すためのウェッジプリズムの回転角度とを学習データとして、取得すべきウェッジプリズムの回転角度、適用すべき目標値(信号光の進行方向と基準方向との差の目標値の適用、信号光の照射位置と基準位置との差の目標値の適用、これらの目標値の適用順序、または、これらの目標値の比率、など)を学習させ、学習結果をアクチュエータの制御に反映させてもよい。この場合、AIは制御部13で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0099】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の第一の態様に係る調整装置(1)は、信号光の光路上に回転可能に配置されているウェッジプリズム(11)と、ウェッジプリズムを回転させるアクチュエータと、ウェッジプリズムを透過する前の、または、ウェッジプリズムを透過した後の信号光の位置を検知する検知部(12)であって、検知部に設定された基準位置と信号光の位置との差を検知する検知部と、検知部により検知された差が小さくなるようにアクチュエータを制御する制御部(13)と、を備えている。この構成によれば、信号光の進行方向を高速かつ高精度で制御可能であり、かつ小型化に有利な調整装置を実現することができる。
【0100】
本発明の第二の態様に係る調整装置は、第一の態様において、アクチュエータが、ボイスコイルモータ、DCモータ、ステッピングモータおよびピエゾアクチュエータからなる群から選ばれる一以上の装置であってもよい。この構成は、高速かつ高精度でのウェッジプリズムの回転運動を実現する観点からより一層効果的である。
【0101】
本発明の第三の態様に係る調整装置は、第二の態様において、ウェッジプリズムを回転させるために上記の装置の動作をウェッジプリズムに伝達する機構をさらに含んでもよい。この構成は、様々なタイプのアクチュエータを調整装置に適用可能にする観点からより一層効果的である。
【0102】
本発明の第四の態様に係る調整装置は、第二の態様または第三の態様において、ボイスコイルモータが、ウェッジプリズムに対して固定され、ウェッジプリズムの回転軸に沿う方向の磁界を発生させるための磁石と、ウェッジプリズムを回転可能に支持する基板に対して固定され、ウェッジプリズムの回転方向および磁界の向きの両方に交差する方向に延在する部分を含むコイルと、を有していてもよい。この構成は、調整装置の小型化および軽量化を実現する観点からより一層効果的である。
【0103】
本発明の第五の態様に係る調整装置は、第四の態様において、コイルが、平面視したときに回転軸から外側に向けて広がる扇形の形状を有していてもよい。この構成は、ウェッジプリズムの回転の推力のロスを軽減する観点からより一層効果的である。
【0104】
本発明の第六の態様に係る調整装置は、第二の態様から第五の態様のいずれかにおいて、調整装置が磁界の磁束密度を検出するためのホール素子をさらに有し、制御部がホール素子による磁束密度の検出値に応じてウェッジプリズムの回転角度を取得してもよい。この構成は、ウェッジプリズムの回転角度を迅速かつ簡易に求める観点からより一層効果的である。
【0105】
本発明の第七の態様に係る調整装置は、第二の態様から第六の態様のいずれかにおいて、一枚のウェッジプリズムの回転方向における二か所以上にボイスコイルモータが配置されていてもよい。この構成は、調整装置の性能の安定性を高める観点からより一層効果的である。
【0106】
本発明の第八の態様に係る調整装置は、第七の態様において、複数のボイスコイルモータのそれぞれが、ウェッジプリズムを平面視したときに、回転軸を中心とする回転対称の位置に配置されていてもよい。この構成は、磁気回路の集中によってウェッジプリズムがスラスト方向に変位することを抑制する観点からより一層効果的である。
【0107】
本発明の第九の態様に係る調整装置は、第一の態様から第八の態様のいずれかにおいて、検知部が、信号光の光路上に配置されて信号光を分岐させる分岐部と、分岐された信号光の一方を受光する分岐光受光部と、を含んでいてもよい。この構成は、信光のブレのタイプに関わらずに受光部における信号光の位置の変化を検知する観点からより効果的である。
【0108】
本発明の第十の態様に係る調整装置は、第九の態様において、分岐光受光部が、イメージセンサ、または、受光面が分割されている分割型フォトダイオード、であってもよい。この構成は、信光のブレのタイプに関わらずに受光部における信号光の位置の変化を検知する観点からより一層効果的である。
【0109】
本発明の第十一の態様に係る調整装置は、第一の態様から第八の態様のいずれかにおいて、検知部がウェッジプリズムの傾きを検出するジャイロセンサであってもよい。この構成は、信号光の分岐による減衰を抑制する観点からより一層効果的である。
【0110】
本発明の第十二の態様に係る光通信装置は、第一の態様から第十一の態様のいずれかの調整装置を備えた光通信装置であって、信号光を受光する受光部をさらに備えており、ウェッジプリズムが、受光部に入射する信号光の光路上に配置されていてもよい。
【0111】
本発明の第十三の態様に係る光通信装置は、第一の態様から第十一の態様のいずれかのいずれかの調整装置を備えた光通信装置であって、信号光を受光する受光部をさらに備えており、ウェッジプリズムが、発光部から出射した信号光の光路上に配置されていてもよい。
【0112】
第十二の態様および第十三の態様のいずれも、信号光の進行方向を高速かつ高精度で制御可能であり、かつ小型化に有利な光通信装置を実現することができる。
【0113】
本発明は、上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0114】
本発明によれば、光通信装置における微振動などによる信号光の受光部における受光位置を光通信装置において適切に補正でき、かつ光通信装置のさらなる小型化に有利である。よって、情報インフラの整備および技術革新の拡大へのさらなる貢献が期待され、産業および技術革新の基盤に関する持続可能な開発目標(SDGs)の達成への貢献が期待される。
【符号の説明】
【0115】
1~9 光通信装置
10、20、30、40、50、90 調整装置
11、31、32、320 ウェッジプリズム
11a 第一ウェッジプリズム
11b 第二ウェッジプリズム
12 検知部
13 制御部
26 トルク調整装置
91 ジャイロセンサ
111 基板
112a 第一磁石
112b 第二磁石
113a 第一コイル
113b 第二コイル
114a 第一ホール素子
114b 第二ホール素子
115a 枠
121、310 分岐部
122 分割型フォトダイオード
131 目標値算出部
132 FF制御器
133 FB制御器
200 受光部
221 アンテナ
222 エキスパンダ
223 シングルモードファイバ
224 コネクタ
300 発光部
330 反射鏡
CA 回転軸
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