(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157860
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】遮音性能予測方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20231019BHJP
E04B 1/82 20060101ALI20231019BHJP
G06F 30/13 20200101ALI20231019BHJP
【FI】
G06F30/23
E04B1/82 A
G06F30/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023062871
(22)【出願日】2023-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2022067103
(32)【優先日】2022-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 泰知
(72)【発明者】
【氏名】荒木 陽三
【テーマコード(参考)】
2E001
5B146
【Fターム(参考)】
2E001DF02
2E001FA03
5B146AA04
5B146DJ01
5B146DJ07
(57)【要約】
【課題】建築に使われる壁の遮音性能を予測するときの計算コストを低減するとともに、予測の精度を保証する遮音性能予測方法を提案する。
【解決手段】本発明は、モード展開法により、音源室の音圧を計算するステップ(ステップS4)と、有限要素法、有限差分時間領域法、又は境界要素法により、前記音源室の音圧に基づいて壁の受音室側の壁面振動速度分布を計算するするステップ(ステップS5)と、前記モード展開法により、前記壁面振動速度分布に基づいて壁面方向の振幅を固有モードごとに計算するステップ(ステップS6)と、を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モード展開法により、音源室の音圧を計算するステップと、
有限要素法、有限差分時間領域法、又は境界要素法により、前記音源室の音圧に基づいて壁の受音室側の壁面振動速度分布を計算するするステップと、
前記モード展開法により、前記壁面振動速度分布に基づいて壁面方向の振幅を固有モードごとに計算するステップと、を有する遮音性能予測方法。
【請求項2】
前記音源室の音圧に基づいて前記音源室の平均エネルギー密度を計算するステップと、
前記壁面方向の振幅に基づいて受音室の音圧を計算するステップと、
前記受音室の音圧に基づいて前記受音室を透過する透過パワーを計算するステップと、
前記音源室の平均エネルギー密度と前記受音室を透過する透過パワーに基づいて前記壁の透過損失を計算するステップと、をさらに有する請求項1に記載の遮音性能予測方法。
【請求項3】
前記モード展開法により、複数種類の次数の固有モード関数の無限級数で表される前記音源室の音圧を有限和で近似する場合、前記有限和の計算に用いる固有モードの波数の選択範囲を、前記音源室に存在する音源の波数、前記音源室の平均吸音率、及び目的波数範囲に含まれる波数のモード密度を用いて選択する、請求項1又は請求項2に記載の遮音性能予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮音性能予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物内の騒音レベルを低減するために、建物に使われる壁、床、屋根などの研究開発が盛んである。壁に関しては、コンクリート、石膏ボード、スタッドなどの複数種類の材料から構成される二重壁などが利用されている。壁の研究開発においては、壁の遮音性能を知る必要がある。しかし、現状では、実測によって壁の遮音性能を得なければならず、遮音性能そのものを予測する手法は確立されていない。従来では、壁の遮音性能が得られた場合に、その壁を用いた室内の騒音を予測する方法が知られている程度である。例えば、特許文献1には、体験したい騒音を録音し、次に、体験したい住宅の間取りを間取り図として入力し、次に、上記間取り図に表われ上記住宅の部屋を区画する区画部材の遮音性能に関する情報を入力し、次に、録音済みの複数の騒音から騒音源の種類及びその騒音源の間取り図上の位置を指定し、次に、上記騒音の聞こえ具合を体験したい部屋を受音位置として上記間取り図上で指示し、次に、指定された騒音源位置から上記受音位置へ向かう音の経路上にある複数の上記区画部材の遮音性能から受音位置での音圧レベルを計算し、次に、騒音源位置での音圧レベルと受音位置での音圧レベルとの差に応じて、騒音信号を減衰加工し、その後、減衰加工した騒音信号を音として出力するよう構成された騒音シミュレーション方法、について開示されている。
【0003】
壁の遮音性能の実測は、JIS A 1416(実験室における建築部材の空気音遮断性能の測定方法)で規格化されている。しかし、このような規格に則って壁の遮音性能を実測することは、多大な時間及びコストを要する。そこで、数値解析などのシミュレーションによって壁の遮音性能を予測する研究・開発が進められている。従来では、壁の遮音性能を予測する方法として、有限要素法(FEM:Finite Element Method),有限差分時間領域法(FDTD;Finite-Difference Time-Domain method),境界要素法(BEM:Boundary Element Method)などの数値解析が知られている。しかし、これらの数値解析は、所望の予測精度を得るために多大な計算コストを要するため、実用的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような観点から、本発明は、建築に使われる壁の遮音性能を予測するときの計算コストを低減するとともに、壁の特性が反映された予測結果を得ることができる遮音性能予測方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は、モード展開法により、音源室の音圧を計算するステップと、有限要素法、有限差分時間領域法、又は境界要素法により、前記音源室の音圧に基づいて壁の受音室側の壁面振動速度分布を計算するするステップと、前記モード展開法により、前記壁面振動速度分布に基づいて壁面方向の振幅を固有モードごとに計算するステップと、を有する遮音性能予測方法である。
上記によれば、数値解析の対象領域の大部分を占める音源室及び受音室に対してFEMなどではなくモード展開法により計算を行うため、音源室及び受音室に対してもFEMなどにより計算を行った場合と比較して大幅に計算コストを低減できる。また、壁に対してはFEMなどによる計算を行うため、壁の特性が遮音性能の予測結果に反映される。したがって、建築に使われる壁の遮音性能を予測するときの計算コストを低減するとともに、壁の特性が反映された予測結果を得ることができる。
また、予測した遮音性能を元にして居室の騒音レベル又は音圧レベルを予測することができる。よって、壁の遮音性能が未知又は知得不可能な場合であっても居室の騒音レベル又は音圧レベルを予測することができる。
【0007】
また、前記音源室の音圧に基づいて前記音源室の平均エネルギー密度を計算するステップと、前記壁面方向の振幅に基づいて受音室の音圧を計算するステップと、前記受音室の音圧に基づいて前記受音室を透過する透過パワーを計算するステップと、前記音源室の平均エネルギー密度と前記受音室を透過する透過パワーに基づいて前記壁の透過損失を計算するステップと、をさらに有することが好ましい。
かかる構成によれば、音源室及び受音室における音場の波動的性質を考慮して壁の遮音性能を予測することができる。
また、前記モード展開法により、複数種類の次数の固有モード関数の無限級数で表される前記音源室の音圧を有限和で近似する場合、前記有限和の計算に用いる固有モードの波数の選択範囲を、前記音源室に存在する音源の波数、前記音源室の平均吸音率、及び目的波数範囲に含まれる波数のモード密度を用いて選択することが好ましい。これにより、有限和の近似において所望の計算精度を得つつ、計算時間をできるだけ短縮するのに必要となる固有モードの波数の数(打ち切り次数の範囲)の選択を最適化できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、建築に使われる壁の遮音性能を予測するときの計算コストを低減するとともに、壁の特性が反映された予測結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】壁の遮音性能を測定するための試験室の模式図である。
【
図5】本実施形態の遮音性能予測方法のフローチャートである。
【
図6】音源を有する部屋における固有モードの波数と振幅絶対値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるもではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0011】
[壁の遮音性能の測定方法]
まず、建物に使われる壁の遮音性能の実測方法として、すでに述べたJIS A 1416で規格化された測定方法について説明する。
図1は、壁の遮音性能を測定するための試験室の模式図である。
図1の試験室1は、試験体となる壁2を略中央に立設することで、音源室3及び受音室4に分割される。音源室3内の所定位置には音源となるスピーカ5が設置されている。音源室3の複数個所には、音源室3内の音を収集するためのマイクロホン(図示略)が設置されている。また、受音室4の複数個所には、受音室4内の音を収集するためのマイクロホン(図示略)が設置されている。また、試験室1に対して演算装置が用意されている。スピーカ5から音が出力されると、演算装置は、音源室3及び受音室4で収集された音を解析する。壁2の遮音性能は、(音響)透過損失Rで表現することができる。透過損失Rは、以下の式から算出される。
【0012】
【0013】
ここで、L1は、音源室3の音圧レベルである。L2は、受音室4の音圧レベルである。よってL1-L2は、スピーカ5から音を出力したときの音源室3と受音室4との間の音圧レベル差である。音圧レベルL1は、音源室3に設置された複数のマイクロホンの各々で測定した音圧レベルの平均値(平均音圧レベル)である。音圧レベルL2は、受音室4に設置された複数のマイクロホンの各々で測定した音圧レベルの平均値(平均音圧レベル)である。音圧レベル差L1-L2をとる場合、音圧レベルL1,L2はそれぞれ、音源室3及び受音室4の音圧二乗値の対数値で表すことができる。S12は、壁2の壁面の面積である。A2は、例えば、等価吸音面積であり、受音室4の吸音条件を意味する。JISによれば、等価吸音面積A2を以下のように表される。
【0014】
【0015】
ここで、V2は受音室4の体積である。また、T2は受音室4の残響時間である。
(1)式の右辺第3項は、音圧レベル差L1-L2に対する補正項である。例えば、透過損失Rは、複数種類のオクターブバンド(例:1/1オクターブ、1/3オクターブ)における音の中心周波数の関数として算出される。
【0016】
音源室3の音圧レベルL
1は、壁2の音源室3側の壁面に外力を及ぼす。この外力により壁2が振動する。壁2の振動は、受音室4側の壁面に伝播し、受音室4に外力を及ぼす。受音室4への外力は、受音室4の音圧レベルL
2に変換される。なお、
図1中の符号10は、受音室4を透過する正味の透過パワーである。透過パワー10は、各点での音の強さを示すベクトルであるインテンシティの面積分であり、インテンシティ積分とも呼ばれる。
【0017】
試験室1に壁2を施工すること、壁2の材料を発注することなどの準備が必要となるため、壁の遮音性能の実測は、多大な時間及びコストを要する。このため、有限要素法(FEM)、境界要素法(BEM)又は有限差分時間領域法(FDTD)などによる数値解析により、音場及び振動場をモデル化して壁の遮音性能を予測する方法が検討されている。数値解析による方法では、(1)式及び以下の(3)式によって、透過損失Rが算出される。
【0018】
【0019】
ここで、E1は、音源室3のエネルギー密度(音圧レベルL1から算出可)である。cは、音速である。Wtransは、受音室4へ透過する正味の透過パワーである。(3)式は、入射するエネルギー(右辺第1項)と透過するエネルギー(右辺第2項)から透過損失Rを算出する式である。(1)式及び(3)式により、以下の関係式が得られる。
【0020】
【0021】
FEM,FDTD,BEMなどの数値解析はいずれも、領域をメッシュ状に分割して解析する方法であり、メッシュの分割が多くなるほど計算負荷が増大する。以下、本実施形態では、FEMについて説明を続ける。
【0022】
[フルFEM]
遮音性能測定の数値解析のシミュレーションにおいて、最も単純な運用法は、試験室1全体をメッシュ分割して解析する方法である。この数値解析の方法をフルFEMと称する。
図2は、フルFEMの説明図である。フルFEMによる研究例は、例えば、参考文献1:残響室における壁体の音響透過損失の数値シミュレーション(會田ら,日本建築学会環境系論文集 85巻768号,2020)に開示されている。
図2の例では、縦に9節点、横に19(=8+3+8)節点用意し、メッシュ分割をしている。フルFEMでは、メッシュ分割した数の自由度数の逆行列を解くことで、受音室4側の壁面に発生したインテンシティの積分値である透過パワー20を求める。フルFEMによる問題点は、音場及び振動場をすべてメッシュで分割しているため、非常に大きな計算コストがかかることである。このため、参考文献1においては、メッシュ分割が粗くてもよい低周波数帯域のみにおける解析にとどまっており、遮音性能予測方法としては実用的ではない。
【0023】
[弱連成FEM]
フルFEMの問題点に鑑みて、例えば、試験室1の全体メッシュを音源室3、壁2、受音室4の3領域に分割し、音源室3→壁2→受音室4の順番に解析する方法がある。この数値解析の方法を弱連成FEMと称する。
図3は、弱連成FEMの説明図である。試験室1全体のメッシュ分割は
図2と同じである。解析装置は、音源室3に対するFEMにより、壁2の音源室3側の壁面に及ぼす外力を求める。また、解析装置は、メッシュ分割された壁2に対するFEMにより、音源室3で求めた外力から壁2の振動を求める。また、解析装置は、メッシュ分割された受音室4に対するFEMにより、壁2の振動から受音室4に及ぼす外力を求める。弱連成FEMでは、音源室3、壁2、及び受音室4の各々で、メッシュ分割した数の自由度数の逆行列を解くことで、受音室4側の壁面に発生したインテンシティの積分値である透過パワー30を求める。弱連成FEMは、比較的小さいメッシュを複数個解けばよいため、フルFEMと比較して計算コストを多少低減できる。また、弱連成FEMでは、音源室3←壁2←受音室4の順番で解析することはできないが、遮音性能測定のシミュレーションにおいて、この順番の解析は無視できることが多いため、得られる遮音性能の精度をある程度保証できる。しかし、弱連成FEMも試験室1の全体をメッシュに分割しなければならないため、計算コストは非常に大きく、フルFEMと同様、遮音性能予測方法として実用的ではない。
【0024】
また、フルFEM及び弱連成FEMの共通点として、壁2の遮音性能を求めるために、壁2に対する解析のみならず、壁2に付随する音源室3及び受音室4に対する解析もしなければならない点がある。試験室1全体に対し、音源室3及び受音室4の体積が相対的に大きいため、音源室3及び受音室4に対する計算が大部分となっており、このことが遮音性能予測方法への実用化を妨げる要因となっている。
【0025】
[本実施形態の数値解析]
上記に鑑みて本実施形態では、音源室3及び受音室4に対してはモード展開法を用いる数値解析を導入する。つまり、試験室1全体に対して、(1)音源室3に対するモード展開法、(2)壁2に対するFEM、(3)受音室4に対するモード展開法、の順番で解析する数値解析である。
図4は、本実施形態の数値解析の説明図である。壁2のメッシュ分割は、
図2、
図3の場合と同じである。
モード展開法は、ある音場に生じる音圧を、その音場固有の基本的な音圧分布の組の重ね合わせで表現する方法のことである。音場固有の基本的な音圧分布は、固有モードと呼ばれる。モード展開法は、広く知られた理論計算手法であり、FEMなどに比較して計算時間を大幅に短縮できる利点がある。従来では、壁2の壁面全体が振動し、音場を加振しているという状態(モデル)がなかったため、モード展開法とFEMとを結合させることができなかった。
【0026】
解析装置は、音源室3に対するモード展開法により、音源室3の音圧から壁2の音源室3側の壁面に及ぼす外力を求める。また、解析装置は、メッシュ分割された壁2に対するFEMにより、音源室3で求めた外力から壁2の振動を求める。また、解析装置は、受音室4に対するモード展開法により、壁2の振動から受音室4に及ぼす外力を求める。本実施形態の数値解析では、壁2に対しては、メッシュ分割した数の自由度数の逆行列を解くことで、受音室4側の壁面に発生したインテンシティの積分値である透過パワー40を求める。
【0027】
本実施形態の数値解析の詳細を説明する。本実施形態の数値解析の対象となる空間は、
図1に示すものと同様である。壁2の遮音性能を予測することを目的とする。壁2は、複数種類の材料から構成されているとする。壁2の壁面内の直交二軸方向をそれぞれx,y方向とし、壁面に垂直な方向をz方向とする。
【0028】
本実施形態の数値解析をする解析装置は、入力部、出力部、制御部、および、記憶部といったハードウェアを備える。例えば、制御部がCPU(Central Processing Unit)から構成される場合、その制御部を含むコンピュータによる情報処理は、CPUによるプログラム実行処理で実現される。また、そのコンピュータに含まれる記憶部は、CPUの指令により、そのコンピュータの機能を実現するためのさまざまなプログラムを記憶する。これによりソフトウェアとハードウェアの協働が実現される。前記プログラムは、記録媒体に記録したり、ネットワークを経由したりすることで提供可能となる。
【0029】
図5は、本実施形態の遮音性能予測方法のフローチャートである。本実施形態の解析装置は、
図5のフローチャートに従って処理を実行する。まず、解析装置に、受音室4の形状、及び受音室4の吸音条件A
2が入力される(ステップS1)。次に、解析装置に、音源室3内の音源、つまりスピーカ5の位置が入力される(ステップS2)。次に、解析装置に、音源室3の形状、及び音源室3の吸音条件が入力される(ステップS3)。音源室3の吸音条件は、例えば、音源室3の壁面の吸音率の平均値(平均吸音率α)とすることができる。次に、解析装置は、入力された、スピーカ5の位置、音源室3の形状、及び音源室3の吸音条件を用いて、モード展開法により音源室3の音圧p
srcを計算する(ステップS4)。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
ここで、kは、音源の波数である。knは、音源室3の形状から算出される各次固有モードの波数である。V1は、音源室3の体積である。振幅Xnは、音場の方程式((7)式の最上段)の音圧pに、(5)式の音圧psrcを代入することにより、(7)式の最下段に示すとおり導出される。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
ここで、αは、音源室3の吸音条件としての平均吸音率αである。knは、n次の波数である。lは、平均自由行路であり、定数である。S1は、音源室3の表面積である。V1は、音源室3の体積である。(8)式から、平均自由行路lを消去して、
【0038】
【0039】
が得られる。
また、(6)式右辺の1/V1は、モード関数の係数調整用である。
【0040】
本来、固有モード関数は無限に存在するため、(5)式は無限和となる。しかし、コンピュータで計算するために(5)式を有限和で近似する必要がある。(6)式によれば、kとknとの差が大きいほど、その固有モードが音圧psrcに与える影響は小さくなる。そこで、本実施形態では、例えば、2k - kn > 0を満たすn次モードのみを計算対象とし、有限和の近似を行う。しかし、有限和の近似の手法は、上記に限られない。
【0041】
解析装置は、(5)式で得られた音圧psrcを以下の式に代入して、音源室3の平均エネルギー密度E1を計算する(ステップS5)。
【0042】
【0043】
ここで、ρは、空気密度である。cは、空気の音速である。p*
srcは、音圧psrcの複素共役である。なお、音源室3の平均エネルギー密度E1は、(10)式のように音圧のみから計算してもよいし、以下の式のように、粒子速度usrcと音圧psrcの両方から計算してもよい。u*
srcは、usrcの複素共役である。
【0044】
【0045】
次に、解析装置に、壁2を構成する部材の幾何学情報が入力される(ステップS6)。壁2を構成する部材の幾何学情報とは、例えば、壁2を構成する部材の形状、及び壁2を構成する部材同士の結合をいう。次に、解析装置に、壁2を構成する部材の力学的パラメータが入力される(ステップS7)。壁2を構成する部材の力学的パラメータとは、例えば、部材のヤング率、ポアソン比、(部材を伝播するときの)音速等、一般のFEM解析に必要な種々のパラメータをいう。
【0046】
【0047】
次に、解析装置は、ステップS1で入力した受音室4の形状と、ステップS8によって計算された受音室4側の壁面振動速度分布v(x,y)とを用いて、モード展開法により受音室4側のx,y方向(受音室4側の壁2の壁面に亘る方向。壁面方向。)における各モードの振幅Ynを計算する(ステップS9)。計算した振幅Ynは、以下の式の通りである。
【0048】
【0049】
ここで、φnは、受音室4のx,y方向の各固有モード関数である。kzは、x,y方向の固有モードの周波数から求められるz方向(壁2の壁面垂直方向)の波数である。Lzは、受音室4のz方向の長さである。ωは、減衰固有角振動数である。次に、解析装置は、(12)式を用いて、受音室4の音圧ptransを以下の式の通り計算する(ステップS10)。つまり、受音室4の音圧分布は、壁2の壁面から受音室4に外力として入力される振動を元にして、受音室4の音場固有の基本的な音圧分布(固有モード)の和として表現される。(12)式のYnは、当該音圧分布の振幅となる。
【0050】
【0051】
受音室4に関する(13)式は、音源室3に関する(6)式に対応しており、係数項Yn及びモード関数φn(x,y)cos(kzz)からなる。モード関数φn(x,y)cos(kzz)は、受音室4の部屋の形状のみで決定することができず、波数kz(または周波数)は、以下の(14)式のように、音源室3にある音源の波数k(または周波数)に依存する。このような事情のため、モード関数をφn(x,y)cos(kzz)のようにz方向に関する項は、φn と分けて記載している。
【0052】
【0053】
(12)式の振幅Ynは、(6)式の振幅Xnよりも複雑である。(6)式は、壁2の壁面(境界)が剛境界としたうえで、音源室3内に点音源があるときの強制振動解である。これに対し(12)式に関しては、受音室4側の壁2の壁面(境界)は、壁面全体が振動している状態であり、剛境界ではない。また、(14)式のように、音源の波数k(周波数)と、x,y方向の固有モードφnの波数kn(周波数)によって、z方向の固有モードの波数(周波数)、ひいては受音室4全体の固有モードの波数(周波数)が決まる。このような事情のため、モードの直交性を利用できない。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
次に、解析装置は、(10)式で求めた音源室3の平均エネルギー密度E
1と、(15)式で求めた、受音室4を透過する透過パワーW
transを(3)式に代入して、壁2の透過損失Rを計算する(ステップS12)。最後に、解析装置は、計算結果を出力する(ステップS13)。例えば、出力される計算結果は、透過損失Rや受音室4の音圧p
transを含むが、これらに限定されない。以上で、
図5の処理が完了する。
【0058】
[本発明の検証結果]
音源室3の室容積が64m3であり、受音室4の室容積が57m3であり、壁2の面積が12m2である試験室1にて、31.5Hz~1000Hzの周波数帯域の透過損失Rを、フルFEMで計算した場合と、本発明の方法で計算した場合とで比較した。比較の結果、通常遮音性能評価に用いられる100Hzより上の帯域において、本発明の方法はフルFEMとほぼ変わらない計算結果を得ることができた。また、フルFEMによる計算時間が約52時間であるのに対し、本発明の方法による計算時間は約18時間であり、計算時間を約1/3に短縮することができた。
【0059】
[固有モードの計算次数の選択(次数の打ち切り)]
上記の計算方法によれば、実用上十分な計算スピードで解析可能であるが、より高音域の遮音性能を波動音響的に求める、より大規模な空間で呈する部材の遮音性能を求める、という観点から解析効率化の適用範囲を広げることができることが見込まれる。すでに説明したように、モード展開法により音源室3の音圧psrcを計算する際、(5)式の無限級数の計算範囲を有限和で近似した。その際、計算範囲(計算対象。打ち切り次数。)を以下の(16)式から求めた(以下、「第1選択方法」と呼ぶ場合がある。)。
【0060】
【0061】
ただし、kは音源の波数であり、knは各固有モードの波数である.(16)式を満たす最大の次数nまでを計算する。発明者らは、上記の打ち切り次数の範囲を効率的に選択する式を見出した。この式により、計算時間を約1/3に短縮できた上記方法よりもさらに10倍以上の計算高速化を実現した。以下、詳細を説明する。なお、説明の都合上、2次元(長方形)を例に採り上げる場合もあるが、3次元(直方体)に拡張しても一般性を失わない。
【0062】
すでに説明したように、モード展開法によりスピーカ5が存在する音源室3の音圧psrcは、(5)式で算出されるが、より一般化して、1つの点音源が存在する矩形室に対して、定常状態での音圧psrcも、モード展開法を用いると(5)式で算出できる。ただし、(5)式中のXnは、((6)式に代えて)以下の(17)式で表される。
【0063】
【0064】
【0065】
前述のように、本来であれば、固有モード関数は無限にあるため(5)式は無限和となる。しかしながら、コンピュータで計算するためには有限和で近似しなければならない。(17)式からわかるようにkとknの差が大きいほどその固有モードがpsrcに与える影響は小さくなる。また実際には、kは矩形室の各モードの減衰を考慮した複素数となり、具体的には(17)式中のkを k - 2jη(jは、虚数単位。ηは、モードの減衰比。)で置き換えることとなる。実際に式で表すと、(18)式のようになる。
【0066】
【0067】
(18)式もXn(の絶対値)はkとknの差が大きいほどその固有モードがpsrcに与える影響は小さくなる、という点は同じであるが、kとknの差が0のときもXnは発散せず,有限の値を持つ点が異なる((17)式をそのまま用いると,k=knのとき(18)式は発散してしまう)。
【0068】
一方,モードの減衰比ηは通常測定が難しいので、部屋(矩形室)の音の減衰に関わる平均吸音率αを使って表すことを考える。まず矩形室の過渡応答時の時間減衰項は(19)式で表される。
【0069】
【0070】
ここで3次元の拡散音場を仮定すると、音のエネルギーバランスの式は(20)式のようになる。
【0071】
【0072】
ここで、Eは音のエネルギーであり、αは部屋(矩形室)の平均吸音率である。また、Sは部屋の表面積である。この音のエネルギーEの時間減衰項は、(20)式より、(21)式で表される。
【0073】
【0074】
最終的に、(19)式と(21)式を比較することによって,ηは吸音率αを用いて(22)式で表される。
【0075】
【0076】
なお,(20)式は3次元の場合であり、2次元の場合(部屋(矩形室)を長方形で表現)は右辺が異なる値となる。具体的には、以下(23)式で示される。ただし、Lは長方形の周長であり、Sは長方形の面積である。
【0077】
【0078】
以降の説明では、3次元の場合と2次元の場合とを区別せずに扱うことができるようにするため、(20)式の右辺、及び(23)式の右辺をγと表すことにし、(22)式をη=γ/2と表すことにし、ηの代わりにγを用いる。
【0079】
【0080】
図6中の●は、一つ一つの固有モードである。また、
図6中の曲線は●の点群に対するフィッティング曲線である。(16)式によれば、解析したい周波数(の波数)の2倍の固有モードまで固有モードを足せばよいということになる.
図6において、解析したい周波数の波数は、Kで示す。すると、
図6に示すように、足せばよいとする固有モードに対応する周波数の波数の上限は、2Kとなる。強制振動においては、解析したい周波数の波数(k=K)は、一番振幅の大きな固有モードが得られる点音源の周波数の波数付近(目的波数範囲)となることが多い(つまり、解析したい周波数の波数 = 点音源の周波数の波数となることが多い)。このため、解析したい周波数の波数(k=K)での振幅X
nを計算するにあたり、点音源の周波数の波数の2倍の波数まで固有モードを計算すれば、解析結果に十分に高い精度が得られるという算段に基づいて、(16)式を導出した。なお、必要とする精度に応じて、2倍よりも大きな倍率にしてもよいし、2倍よりも小さな倍率にしてもよい。しかしながら、(16)式を利用した方法では、以下のケース[1]~ケース[3]の場合において、不具合が生じる可能性がある。
【0081】
ケース[1]:非常に高い周波数領域まで解析する場合
(16)式を利用した方法は:非常に高い周波数を解析する場合(解析したい周波数の値が所定値以上である場合)、考慮すべき固有モードの数が非常に大きくなってしまい、計算負荷が増大してしまうという問題がある。(16)式によれば、非常に高い周波数のさらに2倍(ないしn倍)の周波数までの固有モードを考慮に入れないといけないからである(それでも、従来のようにFEMを解く場合と比較すると計算負荷はずっと小さい。)。また3次元の場合、固有モードの数は周波数fの3乗に比例して多くなるのでなおさら問題となる。
【0082】
ケース[2]:音波の減衰が大きい場合
点音源が存在する部屋の吸音率が高い場合、点音源からの音波の減衰が大きくなる。このような場合、部屋の平均吸音率αが増大すると、最も振幅の大きい周波数では振幅が小さくなるが、その他の周波数の振幅はほとんど変わらない。
図6のグラフでいえば、部屋の平均吸音率αを増大させたときに、振幅絶対値のピークの値は下がるが、裾野の値の下がり幅は無視できるほど小さい。よって、(16)式に従い、打ち切る固有モードの次数を単に解析したい周波数の波数(
図6中のK)の2倍(ないしn倍)として解析を行うと決めた場合には、音波の減衰の程度によっては所望の解析精度が得られない可能性がある。
【0083】
ケース[3]:解析する部屋のモード密度が小さい場合
解析したい周波数が低い(
図6中のKが小さい)場合や、点音源が存在する部屋の容積(2次元の場合は床面積)が小さい場合、解析する部屋のモード密度が小さくなってしまう。モード密度は、単位周波数あたりに含まれる固有モードの数である。このような場合、解析したい周波数(多くの場合、点音源の周波数)付近(目的波数範囲)に十分な数の固有モードが存在しない。よって、(16)式に従い、打ち切る固有モードの次数を単に解析したい周波数(
図6中のK)の2倍(ないしn倍)として解析を行うと決めた場合には、解析したい周波数付近に固有モードの数によっては所望の解析精度が得られない可能性がある。
【0084】
ケース[1]~[3]を考慮して、以下の(24)式~(26)式を用いて、有限和をとる固有モードの波数knを決める手法(有限和の計算に用いる固有モードの波数の選択範囲を選択する手法)を見出した(以下、「第2選択方法」と呼ぶ場合がある)。
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
ここで、kminは、解析対象とする波数(解析したい周波数に対応する波数)knの最小値である。また、kmaxは、解析対象とする波数knの最大値である。また、βは補正係数である。βは所望する解析精度に応じて適宜変更可能である。以下の説明ではβ=10としている。また、ωは減衰固有角振動数である((12)式参照)。また、wは、部屋によるモード密度の減少に起因する音波の減衰を考慮した補正項である。また、Nfは、単位周波数当たりモード密度である。
なお、γは、γ=2ηであり、(22)式により、ηと、音源室3の平均吸音率αとが関係している。つまり、wは、αの関係式である。また、詳細は後記するが、モード密度は、解析したい周波数に対応する波数付近のモード密度であり、つまり、目的波数範囲に含まれる波数のモード密度である。モード密度は、波数の単位幅に含まれる固有モードの数である。
【0089】
【0090】
【0091】
(27)式の絶対値は、k=knのとき最大値をとり、その最大値Xmaxは(28)式で示される。
【0092】
【0093】
(27)式と(28)式の絶対値の比|X(kn)|/|Xmax|をとると、この比は、取り得る最大のモード振幅に対する各モード振幅を表している。この比が1/β以上になるknを考えると、そのknは、以下の(29)式を満たす。
【0094】
【0095】
(29)式を満たす固有モードの波数knを有限和の計算に組み込めば、計算するモードを減らすことができる(Xnの計算量を低減できる。)。また、この(29)式中では、音波の減衰も考慮している(平均吸音率αから導出されるγ)。よって、(29)式により、ケース[1]、[2]の問題は解決できる。しかしながら、上記の仮定Aにより、実際には連続関数ではないものを連続関数と見なしてしまっていることや、εnやψnを考慮していないことから、特に部屋の容積が小さかったり、解析したい周波数が低かったりすると、解析の精度が上がらない。つまり、ケース[3]の問題は残る。具体的には、実際にはknは離散値をとるにも関わらず連続関数であると仮定をしたため、解析したい周波数に対応する波数kに対して、k=knとなる(またはそれに近い)knが存在せず、(28)式のXmaxが過剰に見積もられる。その結果として(29)式において、考慮すべきモードの数が少なくなってしまった(近似に用いる有限和の項数が少なくなってしまった)ことから起こる問題である。
【0096】
そこで、解析したい周波数付近のモード密度を推定し、モード密度が低いためケース[3]の現象が生じやすいときには、(29)式よりも多くの範囲のモードを考える(次数の打ち切りの範囲を広げる)ことでこの問題を解決する。(25)式中のwは、この問題を解決するための補正項である。(26)式中のγは、γ=2ηであるが、半値幅(山型の関数において、ピークの半分(-3dB)になる周波数の幅。目的波数範囲の例。)を表す係数でもある。また、Nfは半値幅内のモード密度であるため、その積(つまり、γNf)は半値幅内のモードの数を表す。
【0097】
また、γ及びNfの積γNfとwは、(26)式で示す関係になっている。つまり、wは、γNfに関する単調増加関数である(グラフの図示は省略)。(26)式によれば、半値幅内のモードの数が多ければ(つまり、γNfの値が十分に大きければ)wは1に近づき(常にw<1)、半値幅内のモードの数が概ね5以下になるとwは大きく減少する(つまり、γNf<5の場合、wは十分に小さい)。これにより、ケース[3]の状況が想定される場合、モード密度が低く、γNfの値が小さいため、一見すると所望の解析精度を得るのに必要となる固有モードの数が不足すると思われる。しかし、(25)式によれば、kminは、より小さい値をとるように補正され、かつ、kmaxは、より大きな値をとるように補正される。よって、(24)式を満たす固有モードの波数knの数を増大させることができる。つまり、有限和で近似するための固有モードの打ち切り次数の範囲を拡大させることができる。その結果、ケース[3]の状況が想定される場合であっても、所望の解析精度を得るのに必要となる固有モードの数を確保できる。
【0098】
[第2選択方法の検証結果]
ケース[1],[2]が起こりやすい条件(第1条件)を満たす、辺の長さがそれぞれ3m,4mの長方形(点音源が存在する部屋)において、5,000Hzの周波数を対象にモード展開をしたときの第2選択方法による計算結果を、参照解を用いて評価した。参照解としては、解析したい周波数の4倍(=20,000Hz)までのモードを計算したものを用いた。第1選択方法による計算結果は、参照解と比較すると、誤差が非常に小さかったが、計算に用いるモードの数が非常に多く、多くの計算時間を要した。これに対し、第2選択方法による計算結果は、参照解と比較すると、(平均吸音率αのほぼ全範囲に亘って)誤差は10%程度あるものの、計算に用いるモードの数は、第1選択方法に比べて1/10~1/250程度に減少した。ゆえに計算時間を短縮できた。
また、ケース[2],[3]が起こりやすい条件(第2条件)を満たす、辺の長さがそれぞれ3m,4mの長方形(点音源が存在する部屋)において、125Hzの周波数を対象にモード展開をしたときの第2選択方法による計算結果を、参照解を用いて評価した。参照解としては、解析したい周波数の4倍(=5,00Hz)までのモードを計算したものを用いた。第2選択方法によれば、平均吸音率αが極端に高い(α~1.0)場合においても、第2選択方法による計算結果の誤差が第1条件同様に10%程度に収まっていることが確認できた。また、その程度の誤差で済む計算精度を担保できるようにするために、平均吸音率αが0.6以上になった場合には、第1選択方法と比較して、計算に用いるモードの数が増大していたことを確認できた。
具体的な応用例として、壁2の遮音性能を予測する問題において、音場をモード展開する方法に対して、第1選択方法と第2選択方法とで比較した。音源室3の室容積が63m3であり、受音室4の室容積が57m3であり、壁2の部材の大きさ(面積)が11.4m2の条件で、中心周波数31.5Hzの1/3オクターブバンド下限から1000Hzの上限まで1/48オクターブごと256周波数で計算した透過損失Rを1/3オクターブバンド毎に再構成した結果を、第1選択方法と第2選択方法とで比較した。第1選択方法による手法では12時間かかる計算を、第2選択方法による手法では50分で計算することができた。
【0099】
[まとめ]
本実施形態によれば、数値解析の対象領域の大部分を占める音源室3及び受音室4に対してFEMなどではなくモード展開法により計算を行うため、音源室3及び受音室4に対してもFEMなどにより計算を行った場合と比較して大幅に計算コストを低減できる。また、壁2に対してはFEMなどによる計算を行うため、壁2の特性が反映された予測結果を得ることができる。したがって、建築に使われる壁2の遮音性能を予測するときの計算コストを低減するとともに、予測の精度を保証することができる。
また、予測した遮音性能を元にして居室の騒音レベル又は音圧レベルを予測することができる。よって、壁2の遮音性能が未知又は知得不可能な場合であっても居室の騒音レベル又は音圧レベルを予測することができる。
また、音源室3及び受音室4における音場の波動的性質を考慮して壁2の遮音性能を予測することができる。
また、モード展開法により、複数種類の次数の固有モード関数の無限級数で表される音源室3の音圧((5)式)を有限和で近似する場合、有限和の計算に用いる固有モードの波数(kn)の選択範囲((24)式~(26)式)を、音源室3に存在する音源の波数(k)、音源室3の平均吸音率(γとの関係式を有するα)、及び目的波数範囲(解析したい周波数に対応する波数付近を示す範囲)に含まれる波数のモード密度を用いて選択することとした。これにより、有限和の近似において所望の計算精度を得つつ、計算時間をできるだけ短縮するのに必要となる固有モードの波数の数(打ち切り次数の範囲)の選択を最適化できる。
【0100】
[変形例]
(a):壁2に対してFEMでなくFDTDやBEMにより数値解析をする場合であっても本発明を適用することができる。
(b):音源室3及び受音室4の少なくとも一方が開空間であっても所定条件下で本発明を適用することができる。
(c):音源室3の空間の形状は
図1に示すように矩形状である場合、これまでに説明した通り本発明の数値計算を適用でき、曲面に囲まれた空間であっても所定条件下で本発明の数値計算を適用できる。受音室4の空間の形状は
図1に示すように矩形状である場合、これまでに説明した通り本発明の数値計算を適用でき、曲面に囲まれた空間であっても所定条件下で本発明の数値計算を適用できる。
(d):壁2の面形状は水平である場合、これまでに説明した通り本発明の数値計算を適用でき、曲面であっても本発明の数値計算を適用できる。
なお、(b)~(d)において、室が矩形の場合は、(6)式や(12)式のようにモード展開法の係数を陽に求めることができる。この場合、壁2の形状は水平となっており、壁2の内部に曲面の部材や凸凹の部材が存在していても、モード展開法の係数を陽に求めることができる。また、曲面状や凸凹形状に対してもモード展開の数値計算は可能であるため、(b)~(d)が成立し得る。
【0101】
(e):本実施形態で説明した種々の技術を適宜組み合わせた技術を実現することもできる。
(f):本実施形態で説明したソフトウェアをハードウェアとして実現することもでき、ハードウェアをソフトウェアとして実現することもできる。
(g):その他、本発明の構成要素について、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0102】
1 試験室
2 壁
3 音源室
4 受音室
5 スピーカ(音源)
10,20,30,40 透過パワー