IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アイセロの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157869
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】熱可塑型接着フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09J 123/26 20060101AFI20231019BHJP
   C09J 123/06 20060101ALI20231019BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20231019BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
C09J123/26
C09J123/06
C08L23/26
C08L23/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064363
(22)【出願日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2022066790
(32)【優先日】2022-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000100849
【氏名又は名称】株式会社アイセロ
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】上柳 琢磨
【テーマコード(参考)】
4J002
4J040
【Fターム(参考)】
4J002BB05X
4J002BB05Y
4J002BB21W
4J002FD010
4J002FD020
4J002FD140
4J002GC00
4J002GJ01
4J002GN00
4J002GQ00
4J040DA022
4J040DA151
4J040JB01
4J040LA08
4J040MA02
4J040MA10
4J040NA05
4J040NA06
4J040NA10
4J040NA12
4J040NA15
(57)【要約】
【課題】低温で接着可能な熱可塑型接着フィルムを提供すること。
【解決手段】(A)酸変性高密度ポリエチレン、(B)直鎖状低密度ポリエチレン、(C)ポリエチレン系プラストマーを含有する樹脂組成物からなり、
(A)~(C)成分の重量比が、10~85:5~30:10~60であり、
(A)~(C)成分のMFRがいずれも1.0~5.0g/10minであり、かつ、(A)~(C)成分のMFRのうち、最大値と最小値との差が3.0g/10min以下であり、
樹脂組成物のMFRが1.0~4.0g/10minであり、
フィルム厚さが10~500μmである熱可塑型接着フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酸変性高密度ポリエチレン、(B)直鎖状低密度ポリエチレン、(C)ポリエチレン系プラストマーを含有する樹脂組成物からなり、
(A)~(C)成分の重量比が、10~85:5~30:10~60であり、
(A)~(C)成分のMFRがいずれも1.0~5.0g/10minであり、かつ、(A)~(C)成分のMFRのうち、最大値と最小値との差が3.0g/10min以下であり、
樹脂組成物のMFRが1.0~4.0g/10minであり、
フィルム厚さが10~500μmであることを特徴とする熱可塑型接着フィルム。
【請求項2】
引張強さが30MPa以上、かつ引張弾性率が200MPa以上1000MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑型接着フィルム。
【請求項3】
引張弾性率が300MPa以上700MPa以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑型接着フィルム。
【請求項4】
(B)直鎖状低密度ポリエチレン、(C)ポリエチレン系プラストマーのいずれか、または両方が含むα-オレフィンが、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテンのいずれか1以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑型接着フィルム。
【請求項5】
2つの被着物が、請求項1または2に記載の熱可塑型接着フィルムを用いて互いに接着されていることを特徴とする接着体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑型接着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン等の比較的融点や軟化点が低温である樹脂からなる成型品を他の部材と接着させる際には、通常、溶液型や反応型の接着剤が使用されており、ホットメルト型接着剤等の接着時に加熱を伴う接着剤は使用されない。これは、接着時の加熱温度によって、ポリオレフィン樹脂等からなる成型品が軟化し、変形する可能性があるためである。また、接着させたい部材が重量物の場合には、加熱接着後の冷却不足のためホットメルト型接着剤が十分に固化できず、部材の重量に耐えることができずに部材が剥がれてしまう可能性もある。
【0003】
本出願人は、特許文献1において、熱可塑性オレフィンエラストマー系樹脂(A)、酸変性ポリプロピレン系樹脂(B)、および結晶核剤(C)を含有する樹脂組成物からなる熱可塑型接着フィルムを提案している。特許文献1に記載の熱可塑型接着フィルムは、ポリプロピレン系樹脂およびポリアミド系樹脂を、樹脂の変形温度以下で接着することができ、また、樹脂材料と金属材料等の異種材料を接着することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-165865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の熱可塑型接着フィルムは、(被着物である熱可塑性樹脂の融点)>(接着温度)≧(酸変性ポリプロピレン系樹脂の融点)-20℃を、接着温度とするものである。特許文献1に記載の熱可塑型接着フィルムは、耐熱温度が低い材料を接着することができないため、より低温で接着可能な熱可塑型接着フィルムが求められていた。
そこで、本発明は、より低温で接着可能な熱可塑型接着フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題を解決するための手段は以下の通りである。
1.(A)酸変性高密度ポリエチレン、(B)直鎖状低密度ポリエチレン、(C)ポリエチレン系プラストマーを含有する樹脂組成物からなり、
(A)~(C)成分の重量比が、10~85:5~30:10~60であり、
(A)~(C)成分のMFRがいずれも1.0~5.0g/10minであり、かつ、(A)~(C)成分のMFRのうち、最大値と最小値との差が3.0g/10min以下であり、
樹脂組成物のMFRが1.0~4.0g/10minであり、
フィルム厚さが10~500μmであることを特徴とする熱可塑型接着フィルム。
2.引張強さが30MPa以上、かつ引張弾性率が200MPa以上1000MPa以下であることを特徴とする1.に記載の熱可塑型接着フィルム。
3.引張弾性率が300MPa以上700MPa以下であることを特徴とする1.または2.に記載の熱可塑型接着フィルム。
4.(B)直鎖状低密度ポリエチレン、(C)ポリエチレン系プラストマーのいずれか、または両方が含むα-オレフィンが、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテンのいずれか1以上であることを特徴とする1.または2.に記載の熱可塑型接着フィルム。
5.2つの被着物が、1.または2.に記載の熱可塑型接着フィルムを用いて互いに接着されていることを特徴とする接着体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱可塑型接着フィルムは、従来の熱可塑型接着フィルムと比較して低温での接着が可能であり、被着物への加熱によるダメージを抑えることができ、耐熱性の低い被着物にも適用することができる。本発明の熱可塑型接着フィルムは、そのMFRの値が小さいため、接着力に優れるとともに、加熱溶融接着時に被着物の間から流れだしにくく、固化するまでに接着形状が崩れにくい。本発明の熱可塑型接着フィルムは、含有する(A)~(C)成分のMFRの値が近似しているため、(A)~(C)成分が均一に分散しやすく、強度に優れている。本発明の熱可塑型接着フィルムは、強度に優れているため、このフィルムを接着層とした場合に接着層が破壊されにくく、接着強さに優れている。本発明の熱可塑型接着フィルムは、プラストマー(エラストマー)成分を含むため歪を緩和することができ、被着物の熱膨張係数等の値に大きな差があったとしても、接着後に反りや剥がれが起こりにくい。また、本発明の熱可塑型接着フィルムは、フィルム自体が柔軟であるため、接着後の被着物の形状に追従することができ、接着後の変形や剥がれを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の熱可塑型接着フィルムは、
(A)酸変性高密度ポリエチレン、(B)直鎖状低密度ポリエチレン、(C)ポリエチレン系プラストマーを含有する樹脂組成物からなり、
(A)~(C)成分の重量比が、10~85:5~30:10~60であり、
(A)~(C)成分のMFRがいずれも1.0~5.0g/10minであり、かつ、(A)~(C)成分のMFRのうち、最大値と最小値との差が3.0g/10min以下であり、
樹脂組成物のMFRが1.0~4.0g/10minであり、
フィルム厚さが10~500μmである。
なお、本明細書において、「A~B」(A、Bは数値)との記載は、A以上B以下の数値範囲を意味する。
【0009】
本発明の熱可塑型接着フィルムは、(A)酸変性高密度ポリエチレン、(B)直鎖状低密度ポリエチレン、(C)ポリエチレン系プラストマーを含有する樹脂組成物からなる。なお、後述するように、この樹脂組成物は(A)~(C)成分以外の他の成分を含んでもよい。
本発明の熱可塑型接着フィルムにおいて、(A)~(C)成分の重量比、(A:B:C、ただし、A+B+C=100)は、10~85:5~30:10~60である。
(A)成分は結晶が多くて硬く、(C)成分は結晶が少なく柔らかい。本発明の熱可塑型接着フィルムは、樹脂組成物中に一定量の(B)成分を含有させ、(A)~(C)成分の重量比をこの範囲内とすることにより結晶の量を制御して柔軟性をコントロールすることができ、引張せん断接着強さとはく離接着強さを両立させることができる。(A)~(C)成分の重量比がこの範囲外である場合には、熱可塑型接着フィルムの引張物性が低く接着強さを発揮できないことや、熱可塑型接着フィルムの耐ブロッキング性が劣る。この重量比は、20~75:8~30:17~50であることが好ましく、25~60:10~30:30~50であることがより好ましい。被着物の熱膨張係数等の値が特に大きい場合は、(A)~(C)成分の重量比を25~60:10~30:30~50とすることで、十分な接着強さを確保できる。
【0010】
また、(A)~(C)成分の重量比(A:B:C)の値をα:β:γとする場合(ただし、α+β+γ=100)、γはβ以上であること、すなわち、(C)成分の量が(B)成分の量以上であることが好ましい。(B)成分が(C)成分よりも多い場合には、熱可塑型接着フィルムが硬くなり、はく離接着強さが低下するおそれがある。γは、βより1以上大きいことがより好ましく、3以上大きいことがさらに好ましく、5以上大きいことがよりさらに好ましい。
【0011】
本発明の熱可塑型接着フィルムが含む(A)~(C)成分のMFRは、いずれも1.0~5.0g/10minであり、(A)~(C)成分のMFRのうち、最大値と最小値との差が3.0g/10min以下である。なお、本明細書において、MFR(メルトフローレイト)とは、JIS K7210-1:2014法に基づき、試験温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定した値である。(A)~(C)成分のMFRがこの条件を満足する、すなわち、(A)~(C)成分のMFRの値が近似していることにより、(A)~(C)成分が均一に分散した樹脂組成物を得ることが容易となる。これにより、本発明の熱可塑型樹脂フィルムは、異種高分子である(A)~(C)成分が均一に分散しており、強度に優れている。(A)~(C)成分のMFRの上限は、4.5g/10min以下が好ましく、4.0g/10min以下がより好ましく、4.0g/10min未満がさらに好ましい。
【0012】
本発明において、(A)~(C)成分の少なくとも1つのMFRが1.0~5.0g/10minの範囲外となると、均一な樹脂組成物を得ることが難しくなり、接着力の高い熱可塑型接着フィルムを得ることが難しくなる。
本発明において、(A)~(C)成分のMFRの最大値と最小値の差は3.0g/10min以下であり、2.0g/10min以下であることが好ましく、1.0g/10min以下であることがより好ましく、0.5g/10min以下であることがさらに好ましく、0.1g/10min以下であることがよりさらに好ましい。(A)~(C)成分のMFRの最大値と最小値との差が3.0g/10minを超える場合には、均一な樹脂組成物を得ることが難しくなり、接着力の高い熱可塑型接着フィルムを得ることが難しくなる。
【0013】
本発明の熱可塑型接着フィルムを形成する樹脂組成物のMFRは1.0~4.0g/10minである。樹脂組成物としてのMFRは、樹脂組成物に含まれる複数の樹脂成分それぞれのMFRと重量比とをかけ合わせた総和として求めることができ、例えば、樹脂組成物が、MFRが1.0g/10minである樹脂を20重量%、MFRが2.0g/10minである樹脂を40重量%、MFRが4.0g/10minである樹脂を40重量%含む場合、その樹脂組成物のMFRは、(1×0.2)+(2×0.4)+(4×0.4)=2.6g/10minとなる。
本発明の熱可塑型接着フィルムは、その樹脂組成物のMFRが1.0~4.0g/10minであることにより、加熱溶融させて接着する際に、溶融した熱可塑型接着フィルムが被着物の間から流れだしにくく、また、固化するまでの間に接着形状が崩れにくい。樹脂組成物のMFRが1.0g/10min未満である場合は、得られる熱可塑型接着フィルムが硬くなり、接着界面の濡れ性が悪く接着力が低下する。また、樹脂組成物のMFRが4.0g/10minを超える場合は、熱可塑型接着フィルムの強度が低下することにより、接着力が低下する場合がある。また、加熱溶融させて接着する際に、溶融した熱可塑型接着フィルムが被着物の間から流れ出ることや、固化までに接着形状が崩れやすくなる場合がある。
【0014】
(A)酸変性高密度ポリエチレン
酸変性高密度ポリエチレンは、不飽和カルボン酸や不飽和カルボン酸誘導体がグラフトされて酸変性された高密度ポリエチレン樹脂である。熱可塑型接着フィルムは、(A)酸変性高密度ポリエチレンを含有することにより、被着物への接着力を発揮すると共に、フィルム剛性が高まり、耐ブロッキング性を発揮する。一方(A)酸変性高密度ポリエチレンに代えて、酸変性低密度ポリエチレン、酸変性直鎖状低密度ポリエチレン、酸変性エラストマーを使用した場合は、熱可塑型接着フィルムが柔らかくなることで接着強さが低下したり、耐ブロッキング性が低下するおそれがある。
本発明の熱可塑型接着フィルムは、酸変性高密度ポリエチレンを含むことによりアンチブロッキング剤のようなフィラーを添加しなくてもブロッキング(熱可塑型接着フィルムの密着)を防ぐことができるため、透明な熱可塑型接着フィルムを得ることができる。そして、フィラーを含まない熱可塑型接着フィルムは、透明な被着物の外観を損なわず美観に優れ、また、灰分を含まないため燃焼時に燃え残りがない。
酸変性高密度ポリエチレンとしては、例えば、ダウ・ケミカル社製BYNEL、三井化学社製アドマー、三菱ケミカル社製モディック等を用いることができ、これらの1種または2種以上を混合して使用することができる。
【0015】
高密度ポリエチレン(HDPE)としては、エチレンのみからなるホモポリマーや、エチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとからなる共重合体などが例示できる。α-オレフィンとしては特に制限されないが、プロピレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテンなどが挙げられる。高密度ポリエチレンの密度は0.93~0.97g/cm、MFRは1.0~5.0g/10minである。
【0016】
酸変性をするための不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、アクリル酸、及びメタクリル酸などをあげることができる。上記不飽和カルボン酸の誘導体としては、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸、アクリル酸メチル等のアクリル酸アルキル、及びメタクリル酸メチル等のメタクリル酸アルキルなどをあげることができる。中でも接着性の観点から、無水マレイン酸が好ましい。不飽和カルボン酸としては、これらの1種または2種以上を混合して使用することができる。
酸変性高密度ポリエチレンの酸変性量(グラフトされている不飽和カルボン酸や不飽和カルボン酸誘導体に由来する構造単位の量)は、グラフトされている不飽和カルボン酸や不飽和カルボン酸誘導体の種類にもよるが、例えば、無水マレイン酸の場合には、接着性の観点から、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上である。一方、製膜性の観点から、好ましくは10.0重量%以下、より好ましくは5.0重量%以下である。
【0017】
酸変性高密度ポリエチレンを得る方法は限定されないが、例えば、高密度ポリエチレン樹脂100重量部と、不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸誘導体0.01~5重量部、及び有機過酸化物0.01~5重量部、を含む樹脂組成物を溶融混練して、高密度ポリエチレン樹脂に、不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸誘導体をグラフトさせる方法等を採用できる。
【0018】
有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイドなどを挙げることができ、1種または2種以上を混合して使用することができる。これらの中で、接着性の観点から、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3が好ましい
有機過酸化物配合量は、上記高密度ポリエチレン樹脂100重量部に対して、接着性の観点から、0.01重量部以上、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上である。また酸変性時の溶融粘度低下を制御する観点から、5重量部以下、好ましくは4重量部以下、より好ましくは3重量部以下である。
【0019】
(A)成分のMFRは、1.0~5.0g/10minである。(A)成分として2種以上の酸変性高密度ポリエチレン樹脂を含む場合、2種以上の酸変性高密度ポリエチレンのMFRは、いずれも1.0~5.0g/10minである。2種以上の酸変性高密度ポリエチレンのMFRの上限は、いずれも4.5g/10min以下が好ましく、4.0g/10min以下がより好ましく、4.0g/10min未満がさらに好ましい。
酸変性高密度ポリエチレンは、ブロッキング防止の点から、融点125℃以上140℃以下であることが好ましく、127℃以上135℃以下であることがより好ましい。なお、本明細書において、融点は示差走査型熱量計(DSC)により測定した値を意味する。
酸変性高密度ポリエチレンは、酸変性量や酸変性種等によって密度やMFRが影響を受けるが、密度0.93~0.97g/cmのものを使用することが好ましい。密度が0.93g/cm未満であると期待する接着力が得られないおそれがある。また、密度が0.97g/cmを超えるとMFR1.0~5.0g/10minの範囲を満たす樹脂を得ることが難しくなる。
【0020】
(B)直鎖状低密度ポリエチレン
直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)は、エチレンと炭素数3~13のα-オレフィンとの共重合体であり、重合したエチレンの主鎖から分岐した側鎖が低密度ポリエチレン(LDPE)のそれよりも短い。直鎖状低密度ポリエチレンを用いることで、熱可塑型接着フィルムの強度が向上し、接着強さが向上する。直鎖状低密度ポリエチレンに代えて、低密度ポリエチレンを用いると、熱可塑型接着フィルムの強度が低くなりやすく、接着強さが弱くなるおそれがある。また、直鎖状低密度ポリエチレンに代えて、高密度ポリエチレンを用いると、熱可塑型接着フィルムの融点が高くなることにより、低温接着を達成できなくなるおそれがある。直鎖状低密度ポリエチレンは、例えば、プライムポリマー社製エボリュー、日本ポリエチレン社製ハーモレックス、ノバテック、住友化学社製スミカセンL、宇部丸善ポリエチレン社製ユメリット等を用いることができ、これらの1種または2種以上を混合して使用することができる。
【0021】
α-オレフィンとしては特に制限されないが、プロピレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテンなどが挙げられる。これらの中で、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテンのいずれか1以上が、得られる熱可塑型接着フィルムの強度の点から好ましい。
直鎖状低密度ポリエチレンは、その重合触媒や重合方法により形状の異なる高分子となる。本発明で使用する直鎖状低密度ポリエチレンとしては、メタロセン触媒を用いて重合したメタロセン触媒重合型直鎖状低密度ポリエチレンやチーグラー・ナッタ触媒を用いて重合したチーグラー・ナッタ触媒重合型直鎖状低密度ポリエチレンを採用できる。
【0022】
(B)成分のMFRは、1.0~5.0g/10minである。(B)成分として2種以上の直鎖状低密度ポリエチレンを含む場合、2種以上の直鎖状低密度ポリエチレンのMFRは、いずれも1.0~5.0g/10minである。2種以上の直鎖状低密度ポリエチレンのMFRの上限は、いずれも4.5g/10min以下が好ましく、4.0g/10min以下がより好ましく、4.0g/10min未満がさらに好ましい。
直鎖状低密度ポリエチレンは、ブロッキング防止や低温接着性の点から、融点100℃以上125℃以下であることが好ましく、110℃以上120℃以下であることがより好ましい。また、直鎖状低密度ポリエチレンは、密度0.91~0.93g/cmのものを使用することが好ましい。
【0023】
(C)ポリエチレン系プラストマー
ポリエチレン系プラストマーは、ポリエチレン系エラストマーとも表記されることもあり、プラスチック特性とエラスチック特性を有し、通常のポリエチレン系樹脂よりも、大きな柔軟性を持つ樹脂である。また、超低密度ポリエチレン(VLLDPE)と表記されることもある。ポリエチレン系プラストマーを加えることで、熱可塑型接着フィルムに柔軟性を付与し、特にはく離接着強さの向上に寄与する。ポリエチレン系プラストマーは、例えば、住友化学社製エクセレン、ダウ・ケミカル社製AFFINITY、日本ポリエチレン社製カーネル、三井化学社製タフマー等を用いることができ、これらの1種または2種以上を混合して使用することができる。
【0024】
ポリエチレン系プラストマーは、エチレンとα-オレフィンとの共重合体からなる。α-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテンなどが挙げられ、これらの中で、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテンのいずれか1以上が、得られる熱可塑型接着フィルムの接着強さの点から好ましい。
ポリエチレン系プラストマーは、ジエン単位をさらに含むこともできる。
【0025】
(C)成分のMFRは、1.0~5.0g/10minである。(C)成分として2種以上のポリエチレン系プラストマーを含む場合、2種以上のポリエチレン系プラストマーのMFRは、いずれも1.0~5.0g/10minである。2種以上のポリエチレン系プラストマーのMFRの上限は、いずれも4.5g/10min以下が好ましく、4.0g/10min以下がより好ましく、4.0g/10min未満がさらに好ましい。
(C)ポリエチレン系プラストマーの融点は、(B)直鎖状低密度ポリエチレンの融点よりも低温であることが好ましい。また、(C)ポリエチレン系プラストマーの融点は、低温接着性の点から、融点50℃以上120℃以下であることが好ましく、55℃以上110℃以下であることがより好ましい。
ポリエチレン系プラストマーは、密度0.85~0.92g/cmのものを使用することが好ましい。
【0026】
本発明の熱可塑型接着フィルムは、上記した(A)~(C)成分を含む樹脂組成物からなるが、この樹脂組成物は、他の熱可塑性樹脂、赤外線吸収材料、無機フィラー、粘着付与剤、架橋剤、可塑剤等の(A)~(C)成分以外の任意の材料を含むことができる。ただし、樹脂組成物全体に対する(A)~(C)成分の合計が占める割合は、90重量%以上が好ましく、93重量%以上がより好ましく、96重量%以上がさらに好ましく、97重量%以上がよりさらに好ましい。
他の熱可塑性樹脂としては、(A)~(C)成分と均一に混練可能なものであれば特に制限することなく使用することができ、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等が挙げられる。他の熱可塑性樹脂を含む場合、そのMFRは、(A)~(C)成分と同じく1.0~5.0g/10minであることが好ましく、その上限は、4.5g/10min以下が好ましく、4.0g/10min以下がより好ましく、4.0g/10min未満がさらに好ましい。また、他の熱可塑性樹脂のMFRは(A)~(C)成分のMFRの最大値と最小値の間に含まれていることが好ましく、他の熱可塑性樹脂の融点は(A)~(C)成分の融点の最大値と最小値の間に含まれていることが好ましい。
【0027】
赤外線吸収材料としては、カーボンブラック、グラフェン、グラファイト、ジイモニウム塩、アミニウム塩、シアニン化合物、フタロシアニン化合物、ジチオール金属錯体、ナフトキノン化合物、アゾ化合物、タルク等が挙げられる。近赤外線吸収性材料を含有することにより、レーザー光等の赤外線を照射して効率的に加熱することができ、接着が容易となる。
無機フィラーとしては、タルク、炭酸カルシウム、セピオライト、ベーマイト、ベントナイト、ハイドロタルサイト、ゼオライト、シリカ、マイカ、雲母、石英、酸化チタン、酸化亜鉛、ガラスビーズ、アルミ・ニッケル・銅などの金属繊維等が挙げられる。無機フィラーを含有することにより、熱可塑型接着フィルムの剛性を高めることができる。
【0028】
本発明の熱可塑型接着フィルムは、公知の溶融押出成形によって得ることができ、樹脂組成物をTダイ、サーキュラーダイ等から溶融押出・冷却固化することでフィルム又はシートを形成することができる。
本発明の熱可塑型接着フィルムの厚さは10~500μmである。フィルムの厚さが10μm未満では、期待する接着強さを得られない場合がある。一方500μmを超える場合は、熱接着時に被着物の間からはみ出してしまうおそれや、フィルムが厚いことによって引張せん断接着強さが低くなるおそれがある。また、本発明の熱可塑型接着フィルムは、表面濡れ性を向上させる目的で、表面にコロナ放電処理、プラズマ放電処理、UV/オゾン処理、火炎処理等を施すことができる。フィルムの厚さは、20μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましく、また、400μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましい。
【0029】
本発明の熱可塑型接着フィルムは、JIS K6732に準じた厚さ80μmのダンベル型試験片の、JIS K7161を参照した条件、23℃、50%RHの雰囲気下、引張速度500mm/分、チャック間距離50mmで測定した引張強さが30MPa以上、JIS K7127を参照した条件、23℃、50%RHの雰囲気下、引張速度20mm/分、チャック間距離100mmで測定した引張弾性率が200MPa以上1000MPa以下であることが好ましい。この引張強さが30MPa未満では、熱可塑型接着フィルムの強度が低く、引張せん断接着強さやはく離接着強さが低い傾向となる。この引張弾性率が200MPa未満の場合は、熱可塑型接着フィルムが柔らかく、引張せん断接着強さが低くなったり、ブロッキングしやすくなり、1000MPaを超えると、熱可塑型接着フィルムが硬く、はく離接着強さが低下する傾向になる。
本発明の熱可塑型接着フィルムは、フィルム形状を維持した状態で被着物を接着する接着層となるが、上記した引張強さと引張弾性率とを満足する場合、接着層が破壊されにくいため、優れた接着力を発揮することができる。この引張強さは35MPa以上であることがより好ましく、40MPa以上であることがさらに好ましく、45MPa以上であることがよりさらに好ましい。また、この引張弾性率は、300MPa以上であることがより好ましく、400MPa以上であることがさらに好ましく、450MPa以上であることがよりさらに好ましく、また、700MPa以下であることがより好ましい。
【0030】
本発明の熱可塑型接着フィルムは、片面に基材層を設け、多層フィルム又は多層シートとすることができる。基材層は、本発明の熱可塑型接着フィルムの折り曲げ強度、こわさ、耐熱性等の物性や厚さを調整することを目的として採用され、その材質は特に制限されないが、ポリエチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリアミド系樹脂等を使用することができる。
【0031】
本発明の熱可塑型接着フィルムは、2つの被着物を接着して接着体を得る用途に使用され、自動車用内装品、靴やサンダル等の履物、家具、スマートフォン・タブレット端末・PCの筐体、家電筐体等の各種用途の接着体を作製するための接着材料として使用することができる。
被着物としては、本発明の熱可塑型接着フィルムにより接着できるものであれば特に制限されず、樹脂、ゴム、FRP(繊維強化プラスチック)、木材、金属、紙、ガラス、陶器、セラミックス、織布、不織布等の任意の材料からなるものを選択することができる。本発明の熱可塑型接着フィルムは、例えば、樹脂と金属等の異種材料を接着させる用途に好適に用いることができる。中でも、2つの被着物の少なくとも一方は樹脂であることが好ましく、その樹脂は熱可塑性樹脂及び熱やエネルギー線硬化性樹脂のいずれでも良い。特に、2つの被着物のうちの少なくとも一方の被着物をポリエチレン系樹脂材料、ポリアミド系樹脂材料、ポリエステル系樹脂材料、セルロース系樹脂材料、エポキシ系樹脂材料等とすることができる。
また、本発明の熱可塑型接着フィルムは、(A)酸変性高密度ポリエチレン、(B)直鎖状低密度ポリエチレン、(C)ポリエチレン系プラストマー、とポリエチレン系樹脂を配合した樹脂組成物から構成されることから、被着物として各種ポリエチレン製成型品とのホットメルトによる接着が容易である。特に、一般的にホットメルトによる接着が困難な材料として知られている超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)との熱接着も可能である。
【0032】
本発明の熱可塑型接着フィルムは、被着物を接着した後の、引張せん断接着強さは10MPa以上が好ましい。また、本発明の熱可塑型接着フィルムは、はく離接着強さは70N/25mm以上が好ましく、100N/25mm以上がより好ましい。一般的な接着剤は、引張せん断接着強さは強いが、はく離接着強さに劣っていた。本発明の熱可塑型接着フィルムは、引張せん断接着強さとはく離接着強さの両方の接着力に優れており、接着体に衝撃を加えても、接着フィルムを起因とした破壊が生じにくい。
【0033】
本発明の熱可塑型接着フィルムの熱加圧接着条件は、熱可塑型接着フィルムの厚さや被着物の種類に応じて適宜設定することができるが、熱加圧プレスの場合には熱板の設定温度は70~180℃、加圧は0.1~0.6MPaの条件とすることが好ましい。また、熱加圧接着については熱板プレスの他に、高周波誘電加熱接着、抵抗加熱接着、高周波誘導加熱接着、赤外線加熱接着、レーザー加熱接着、オートクレーブ加熱接着、熱ラミネート、超音波加熱接着、振動加熱接着、摩擦加熱接着、エアーホットプレス、パルス加熱接着、ダブルベルトプレス加熱接着、インサート成形加熱接着等を採用することができる。
本発明の熱可塑型接着フィルムは、例えば被着物がポリアミド系樹脂等の熱可塑性樹脂の場合、接着する際の加熱温度である接着温度を、(被着物である熱可塑性樹脂の融点)>(接着温度)≧(酸変性ポリエチレン系樹脂の融点)-5℃(但し、融点は示差走査型熱量計で測定した数値)とすることで、被着物の変形を抑制し接着させることができる。
本発明の熱可塑型接着フィルムは、融点の低いポリエチレン系樹脂を含む。そのため、本発明の熱可塑型接着フィルムは、ポリプロピレン系樹脂を主成分とする熱可塑型接着フィルムと比較して、低温での接着が可能であり、例えば、125℃以上140℃以下での接着が可能である。
【実施例0034】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
なお、実施例は本発明の一形態を示すものであり本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
本発明で使用した樹脂とその物性を表1に示す。
【表1】
【0036】
表2、表4に記載の組成になるように、各成分を混合し、溶融混練して、厚さ80μmのフィルム状物、又は1000μmのシート状物に成形して各熱可塑型接着フィルムを得た。
【0037】
得られた熱可塑型接着フィルムについて、下記評価を行った。結果を表2に示す。
(引張特性)
得られたフィルムから、JIS K6732に準じてダンベル型試験片を作製し、引張強さ、引張弾性率の測定に用いた。
<引張強さ>
JIS K7161を参照した条件、23℃、50%RHの雰囲気下、オートグラフ(島津製作所製AGS-X)を用いて、引張速度500mm/分、チャック間距離50mmにて引張強さ(MPa)を測定した。引張強さの測定は、フィルムのMD方向、TD方向で測定を行った。
<引張弾性率>
JIS K7127を参照した条件、23℃、50%RHの雰囲気下、オートグラフ(島津製作所製AGS-X)を用いて、引張速度20mm/分、チャック間距離100mmにて引張弾性率(MPa)を測定した。引張弾性率の測定は、フィルムのMD方向、TD方向で測定を行った。
【0038】
(引張せん断接着強さ1)
JIS K6850を参考に、2枚の鉄板(0.8mm厚×20mm幅×75mm長さ)間に実施例1~12及び比較例1~5の熱可塑型接着フィルム(0.08mm厚×20mm幅×10mm長さ)を重ね、長さ10mmで配置して3層構造とし、これを上下とも180℃にセットした熱板プレス機(新東工業製CYPT-50)にて0.6MPa、60秒にて熱加圧接着し、接着サンプルを得た。また、2枚の鉄板(0.8mm厚×20mm幅×75mm長さ)間に比較例6の熱可塑型接着フィルム(1mm厚×20mm幅×10mm長さ)を重ね、長さ10mmで配置して3層構造とし、これを上下とも180℃にセットした熱板プレス機(新東工業製CYPT-50)にて0.1MPa、60秒にて熱加圧接着し、接着サンプルを得た。
上側の被着物と下側の被着物の接着されていないそれぞれの端部を、その端部から50mmの部分までジグで掴んだ。下側の被着物を固定し、上側の被着物を掴んだジグを引張速度100mm/分で上方に引っ張った。接着箇所が破壊、又は接着箇所にて界面剥離したときの強度をオートグラフ(島津製作所製AGS-X)にて測定し、これを接着面積で除して引張せん断接着強さ(MPa)を得た。
【0039】
(はく離接着強さ1)
JIS K6850を参考に、アルミ板(0.5mm厚×25mm幅×130mm長さ)2枚の間に実施例1~12及び比較例1~5の熱可塑型接着フィルム(0.08mm厚×25mm幅×100mm長さ)を重ね、長さ100mmで配置して3層構造とし、これを上下とも180℃にセットした熱板プレス機(新東工業製CYPT-50)にて0.6MPa、60秒にて熱加圧接着し、接着サンプルを得た。また、アルミ板(0.5mm厚×25mm幅×130mm長さ)2枚の間に比較例6の熱可塑型接着フィルム(1mm厚×20mm幅×100mm長さ)を重ね、長さ100mmで配置して3層構造とし、これを上下とも180℃にセットした熱板プレス機(新東工業製CYPT-50)にて0.1MPa、60秒にて熱加圧接着し、接着サンプルを得た。
上側の被着物と下側の被着物の、接着されていないそれぞれの端部を、90度に曲げ、T字型にし、その端部から20mmの部分までジグで掴んだ。下側の被着物を固定し、上側の被着物を掴んだジグを引張速度100mm/分で上方に引っ張った。接着箇所が破壊、又は接着箇所にて界面剥離したときの強度をオートグラフ(島津製作所製AGS-X)にて測定し、はく離接着強さ(N/25mm)を得た。
【0040】
(耐ブロッキング性)
幅50mm、長さ100mmの熱可塑型接着フィルムを準備し、フィルム同士をヒートシールテスター(テスター産業社製:TP-701B)を用いてシール(シール幅10mm、シール温度50℃、シール圧力0.2MPa、シール時間10秒の条件)し、オートグラフ(島津製作所製AGS-X)を用いて、引張速度500mm/分でブロッキング強さ(N)を測定し、以下の基準で評価した。
○:ブロッキング強さが4N未満
×:ブロッキング強さが4N以上
【0041】
【表2】
【0042】
表2に示すように、本発明である実施例1~12で得られた熱可塑型接着フィルムは、引張強さ、引張弾性率に優れ、引張せん断接着強さとはく離接着強さが優れていた。これは、本発明の熱可塑型接着フィルムを接着層とした場合、接着層の強さが優れているためである。また、本発明である実施例1~12で得られた熱可塑型接着フィルムは、耐ブロッキング性に優れ、フィルムとしての取り扱い性に優れていた。
それに対し、比較例1である(A)酸変性高密度ポリエチレンのみから形成した熱可塑型接着フィルムは、引張せん断接着強さには優れていたが、フィルムが硬い為に、はく離接着強さに劣っていた。(A)酸変性高密度ポリエチレンを含まない比較例2で得られた熱可塑型接着フィルムは、引張せん断接着強さ、はく離接着強さともに劣っていた。比較例3は(B)直鎖状低密度ポリエチレンが組成物中に多く含有する為、はく離接着強さが劣っていた。これら比較例で得られた熱可塑型接着フィルムを接着層とした場合、本発明の熱可塑型接着フィルムと比較して接着層が壊れやすいため、はく離接着強さが劣っていた。比較例4で得られた熱可塑型接着フィルムは、引張強さ、引張弾性率が本発明の熱可塑型接着フィルムより劣っていた。さらに、比較例4、5で得られた熱可塑型接着フィルムは、酸変性高密度ポリエチレンを使用していないため、耐ブロッキング性に劣り、フィルムとしての取り扱い性も劣っていた。比較例6の熱可塑型接着フィルムはフィルム厚が1000μmと厚く、0.1MPa、60秒の熱加圧接着により接着サンプルを得ることができ、はく離接着強さには優れていたが、引張せん断接着強さが劣っていた。
【0043】
アルミ板に対する引張せん断接着強さ2を測定した。
(引張せん断接着強さ2)
JIS K6850を参考に、2枚のアルミ板(0.8mm厚×20mm幅×75mm長さ)間に実施例4及び比較例4、5の熱可塑型接着フィルム(20mm幅×10mm長さ)を重ね長さ10mmで配置して3層構造とし、これを上下とも180℃にセットした熱板プレス機(新東工業製CYPT-50)にて0.6MPa、60秒にて熱加圧接着し、接着サンプルを得た。
引張せん断接着強さ1と同様にして引張せん断接着強さ(MPa)を得た。鉄板に対する引張せん断接着強さ1と合わせて、結果を表3に示す。
【0044】
【表3】
表3に示すように、アルミ板に対する引張せん断接着強さ2は、鉄板に対する引張せん断接着強さ1と同様の傾向であることが分かった。
【0045】
比較的低温である140℃の接着温度で引張せん断接着強さ3を測定した。結果を表4に示す。
(引張せん断接着強さ3)
JIS K6850を参考に、2枚の鉄板(0.8mm厚×20mm幅×75mm長さ)間に実施例4及び比較例7の熱可塑型接着フィルム(20mm幅×10mm長さ)を重ね長さ10mmで配置して3層構造とし、これを上下とも140℃にセットした熱板プレス機(新東工業製CYPT-50)にて0.6MPa、60秒にて熱加圧接着し、接着サンプルを得た。
引張せん断接着強さ1と同様にして引張せん断接着強さ(MPa)を得た。
【0046】
【表4】
本発明である実施例4で得られた熱可塑型接着フィルムは、比較的低温である140℃の接着温度でも、十分な引張せん断接着強さで接着することができた。
それに対し、比較例7で得られた熱可塑型接着フィルムは、140℃の接着温度では、引張せん断接着強さが劣っていた。
【0047】
実施例4で得られた熱可塑型接着フィルムについて、HDPE板と鉄板との引張せん断接着強さ(引張せん断接着強さ4)、超高分子量ポリエチレン板と鉄板との引張せん断接着強さ(引張せん断接着強さ5)や超高分子量ポリエチレン板とアルミ板とのはく離接着強さ(はく離接着強さ2)を測定した。結果を表5に示す。
【0048】
(引張せん断接着強さ4)
JIS K6850を参考に、HDPE板(0.8mm厚×20mm幅×75mm長さ)と鉄板(0.8mm厚×20mm幅×75mm長さ)間に実施例4の熱可塑型接着フィルム(20mm幅×10mm長さ)を重ね長さ10mmで配置して3層構造とし、これを上下とも140℃にセットした熱板プレス機(新東工業製CYPT-50)にて0.6MPa、60秒にて熱加圧接着し、接着サンプルを得た。
引張せん断接着強さ1と同様にして引張せん断接着強さ(MPa)を得た。
【0049】
(引張せん断接着強さ5)
JIS K6850を参考に、超高分子量ポリエチレン板(5mm厚×20mm幅×75mm長さ)と鉄板(0.8mm厚×20mm幅×75mm長さ)間に実施例4の熱可塑型接着フィルム(20mm幅×10mm長さ)を重ね長さ10mmで配置して3層構造とし、超高分子量ポリエチレン板側を70℃、鉄板側を180℃にセットした熱板プレス機(新東工業製CYPT-50)にて0.6MPa、60秒にて熱加圧接着し、接着サンプルを得た。
引張せん断接着強さ1と同様にして引張せん断接着強さ(MPa)を得た。
【0050】
(はく離接着強さ2)
JIS K6850を参考に、超高分子量ポリエチレン板(0.5mm厚×25mm幅×130mm長さ)とアルミ板(0.5mm厚×25mm幅×130mm長さ)の間に実施例4の熱可塑型接着フィルム(25mm幅×100mm長さ)を重ね長さ100mmで配置して3層構造とし、超高分子量ポリエチレン板側を70℃、アルミ板側を180℃に熱板プレス機(新東工業製CYPT-50)にて0.6MPa、60秒にて熱加圧接着し、接着サンプルを得た。
はく離接着強さ1と同様に測定し、はく離接着強さ(N/25mm)を得た。
【0051】
【表5】
【0052】
本発明である実施例4で得られた熱可塑型接着フィルムは、140℃の低温加熱であっても被着物であるポリエチレン系樹脂成型品と十分な引張せん断接着強さを示し、異種材料であるポリエチレン系樹脂と鉄とを強固に接着することができた。また、一般的にホットメルトによる接着が困難な材料として知られている超高分子量ポリエチレン板との十分な引張せん断接着強さとはく離接着強さを示した。