(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157890
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】皮膚の水分含量を決定する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20231019BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
G01N33/50 Q
G01N33/50 Z
G01N33/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023066022
(22)【出願日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】22305568
(32)【優先日】2022-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】508283406
【氏名又は名称】シャネル パフュームズ ビューテ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】ボーイソー-カディオ エマニュエル
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045CB09
2G045DA36
2G045FB06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】皮膚の乾燥に特異的に関連する新規バイオマーカーの同定に関するものである。
【解決手段】これらのバイオマーカーは、拡張シナプトタグミン-3(ESYT3)、ユビキニンカルボキシル末端ヒドロラーゼ7(USP7)、ペリプラキン(PPL)および後期コーニファイドエンベロープタンパク質1C(LCE1C)であり、皮膚の水分含量を正確に評価し、特に乾燥肌の診断を可能にする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における皮膚の水分含量を決定する方法であって、前記対象から得られた皮膚サンプルにおいて、拡張シナプトタグミン-3(ESYT3)、ユビキニンカルボキシル末端ヒドロラーゼ7(USP7)、ペリプラキン(PPL)および後期コーニファイドエンベロープタンパク質1C(LCE1C)からなる群から選択される、少なくとも1つのタンパク質の発現レベルを測定する工程を含む、方法。
【請求項2】
測定された前記発現レベルに基づいて、前記皮膚を強乾燥、乾燥、しっとり、または十分しっとりに分類する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのタンパク質の発現レベルが高いほど、前記対象の前記皮膚が乾燥していると判定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記対象から得られた前記皮膚サンプルにおいて、インターロイキン-1受容体アンタゴニストタンパク質(IL1RN)のレベルを測定する工程をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記皮膚サンプルが角質層サンプルである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記角質層サンプルが、テープストリッピングされた角質層サンプルである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
対象において皮膚を水和するための化粧処置の有効性を評価する方法であって、以下の工程:
a)前記化粧処置を受ける前の前記対象から得られた皮膚サンプルにおいて、拡張シナプトタグミン-3(ESYT3)、ユビキニンカルボキシル末端ヒドロラーゼ7(USP7)、ペリプラキン(PPL)および後期コーニファイドエンベロープタンパク質1C(LCE1C)からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質の発現レベルを測定する工程;
b)前記化粧処置を受けた後の前記対象から得られた皮膚サンプルにおいて、前記少なくとも1つのタンパク質の前記発現レベルを測定する工程;
c)工程a)およびb)において測定された前記発現レベルを比較する工程;および
d)工程b)で測定された前記発現レベルが工程a)で測定された前記発現レベルより低い場合、前記化粧処置が効率的である、または工程b)で測定された前記発現レベルが工程a)で測定された前記発現レベルと同等またはそれより高い場合、前記処置が非効率的であると判定する工程
を含む、方法。
【請求項8】
皮膚を水和するための候補化粧用化合物をスクリーニングする方法であって、以下の工程:
a)皮膚サンプルにおいて、拡張シナプトタグミン-3(ESYT3)、ユビキニンカルボキシル末端ヒドロラーゼ7(USP7)、ペリプラキン(PPL)および後期コーニファイドエンベロープタンパク質1C(LCE1C)からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質の発現レベルを測定する工程;
b)試験化合物を前記皮膚サンプルに接触させる工程;
c)前記皮膚サンプルにおける前記少なくとも1つのタンパク質の発現レベルを測定する工程;および
d)工程c)で測定された発現レベルが、工程a)で測定された発現レベルより低い場合、前記化合物を選択する工程
を含む、方法。
【請求項9】
前記候補化粧用化合物が植物性抽出物である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記皮膚サンプルが人工皮膚サンプルである、請求項8または9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のバイオマーカーの発現レベルに基づき、皮膚の水分含量を決定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚は主に3つの層、すなわち最も表層から順に表皮、真皮、および皮下組織からなる。皮膚の外側の層である表皮は、ケラチノサイト(大多数)、メラノサイト(皮膚の色素沈着に関与)、およびランゲルハンス細胞からなる。その機能は、外部環境から身体を保護し、その一体性を確実にすること、特に、微生物または化学物質の侵入を遅らせること、および皮膚に含まれる水分の蒸発を防ぐことである。
【0003】
このために、ケラチノサイトは、表皮の基底層に位置するケラチノサイトが、その分化の最終段階で、タンパク質およびセラミド等の脂質からなる角化包皮の形態の、完全に角化した死細胞である角質細胞を形成する、連続的な指向性の成熟過程を経る。この表皮の最上層は角質層と呼ばれ、表皮のバリア機能の必須構成要素である。
【0004】
しかし、表皮のバリア機能は、特定の気候条件下(例えば、寒さおよび/または風の影響下)、またはストレス、疲労、もしくは加齢の影響下で、破壊される可能性がある。皮膚のバリア機能の崩壊は、アレルゲン、刺激剤または微生物の侵入を促進し、皮膚の乾燥を直接もたらし、これは、張りまたは赤み等の不快感をほとんど伴わないことが多い。
【0005】
この現象を防止または修正するために、皮膚に存在する水分を捕捉し、それによってその蒸発を遅らせることを意図した糖またはポリオール等の吸湿剤を含む化粧用組成物を皮膚に適用することは公知の慣行である。
【0006】
いくつかの保湿剤化合物が公知であり、利用可能である。しかし、これらの化合物は、異なる作用機序で作用するため、異なる皮膚タイプ(乾燥肌、敏感肌、混合肌等)に適応している。残念ながら、ほとんどの人は自分の皮膚タイプを知らないため、不適切な製品を使用している。
【0007】
皮膚の乾燥は、通常、臨床的に、視覚的評価、または皮膚上層の比誘電率を測定することを目的とした角層水分計を使用することによって評価される。残念ながら、これらの方法はいずれも強い制限に直面している。皮膚の視覚的評価は、評価を行う専門家に依存するため、判定者によって異なる可能性がある。同様に、角層水分計による評価も、再現性の点で制限されており;結果は、加えられた圧力、および測定が行われる大気条件と密接に関連している。
【0008】
したがって、皮膚タイプの正しい判定を可能にする新しい評価方法が必要である。特に、乾燥肌に関連する特定のマーカーを同定し、また、皮膚の乾燥プロセスを予防/回復するための有望な標的を示すことができれば、好都合であろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Khazaka G., Bioengineering of the skin: water and stratum corneum (2005): 249
【非特許文献2】Mohamad M. et al. Journal of Physics: Conference Series. Vol. 546. No. 1. IOP Publishing, 2014
【非特許文献3】Michaels, Barry. (2002). Chapter 26 - Skin Sampling Techniques: Handbook of Topical Antimicrobials and Their Applications
【非特許文献4】Hughes, A. J., et al. British Journal of Dermatology 185.1 (2021): 26-35
【非特許文献5】Brohem et al. Pigment cell & melanoma research 24.1 (2011): 35-50
【非特許文献6】Yun et al. Journal of Pharmaceutical Investigation 48.2 (2018): 215-223
【発明の概要】
【0010】
本発明は、特許請求の範囲によって定義される。
【0011】
テープストリッピングした角質層サンプルを使用して、本発明者は、乾燥肌の表現型に関連する非常に特異的なバイオマーカーを同定した。本発明者は、さらに、これらの特異的なバイオマーカーが、実際に、皮膚の乾燥プロセスを予防、制限、またはさらには回復させるために直接標的化し得ることを示した。したがって、これらのバイオマーカーは、皮膚の乾燥の評価および処置のための非常に有望なツールである。さらに、これらのバイオマーカーは、皮膚を水和するための興味深い候補化粧用化合物の同定、およびその有効性の評価にも利用し得る。本発明の文脈で同定されたバイオマーカーは、拡張シナプトタグミン-3(ESYT3)、ユビキニンカルボキシル末端ヒドロラーゼ7(USP7)、ペリプラキン(PPL)および後期コーニファイドエンベロープタンパク質1C(LCE1C)である。
【0012】
したがって、本発明の第1の態様は、対象の皮膚の水分含量を決定する方法に関し、前記方法は、前記対象から得られた皮膚サンプルにおいて、ESYT3、USP7、PPLおよびLCE1Cからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質の発現レベルを測定する工程を含む。このような方法は、特に、乾燥肌を検出することを可能にし、したがって、そのような状態の適切な処置を可能にする。
【0013】
第2の態様によれば、本発明はまた、対象の皮膚を水和するための化粧処置の有効性を評価する方法に関し、前記方法は、以下の工程:
a)前記化粧処置を受ける前の前記対象から得られた皮膚サンプルにおいて、ESYT3、USP7、PPLおよびLCE1Cからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質の発現レベルを測定する工程;
b)前記化粧処置を受けた後の前記対象から得られた皮膚サンプルにおいて、前記少なくとも1つのタンパク質の発現レベルを測定する工程;
c)工程a)およびb)において測定された発現レベルを比較する工程;および
d)工程b)で測定された発現レベルが工程a)で測定された発現レベルより低い場合、前記化粧処置が効率的であると判定する、または工程b)で測定された発現レベルが工程a)で測定された発現レベルと同等またはそれ以上の場合、前記処置が非効率的であると判定する工程を含む。
【0014】
最後に、本発明はさらに、皮膚を水和するための候補化粧用化合物をスクリーニングする方法に関し、前記方法は、以下の工程:
a)皮膚サンプルにおいて、ESYT3、USP7、PPLおよびLCE1Cからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質の発現レベルを測定する工程;
b)試験化合物を前記皮膚サンプルに接触させる工程;
c)前記皮膚サンプルにおける前記少なくとも1つのタンパク質の発現レベルを測定する工程;および
d)工程c)で測定された発現レベルが工程a)で測定された発現レベルより低い場合、化合物を選択する工程
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、皮膚の乾燥と特異的に関連する新規バイオマーカーの同定に関する。これらのバイオマーカーは、拡張シナプトタグミン-3(ESYT3)、ユビキニンカルボキシル末端ヒドロラーゼ7(USP7)、ペリプラキン(PPL)および後期コーニファイドエンベロープタンパク質1C(LCE1C)であり、これらは皮膚の水分含量の正確な評価を可能にし、特に乾燥肌の診断を可能にする。本発明者は、これらのバイオマーカーが、普通肌と比較して乾燥肌で有意に過剰発現していること、およびその発現レベルが皮膚の乾燥と直接関連していることを特に明らかにした。本発明者は、さらに、保湿処置が本発明によるバイオマーカーの発現レベルに直接的な影響を及ぼすことを実証し、したがって、乾燥肌の処置および新規保湿剤の同定のための極めて有望なツールであることを示した。
【0016】
本明細書に開示された結果は:
-皮膚サンプルにおけるESYT3、USP7、PPLおよびLCE1Cの発現レベルによって、前記皮膚が水和されているか否かを評価することができること、
-これらのバイオマーカーは、乾燥肌のプロセスに直接関与しており、したがって、乾燥肌を予防/処置するための適切な標的となり得ること、および
-ESYT3、USP7、PPLおよびLCE1Cの発現レベルは、皮膚を水和するための興味深い化粧用化合物を同定するためのマーカーとして使用し得ること
を示す。
【0017】
したがって、本発明の第1の態様は、皮膚の水分含量を決定する方法、および特に対象の乾燥肌を診断する方法に関し、前記方法は、前記対象から得られた皮膚サンプルにおいて、ESYT3、USP7、PPLおよびLCE1Cからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質の発現レベルを測定する工程を含む。このような方法は、特に、乾燥肌を検出することを可能にし、したがって、そのような状態の適切な処置を可能にする。
【0018】
ESYT3、USP7、PPLおよびLCE1Cは、当業者が完全に熟知している公知のタンパク質である。
【0019】
拡張シナプトタグミン-3(ESYT3)は、オルソログが酵母からヒトに至る生物に見出されるマルチドメインC2膜タンパク質を含む、拡張シナプトタグミン(Esyt)ファミリーの一員である。マウスおよびヒトには3つのEsyt遺伝子が存在する。これらの遺伝子は、小胞体と細胞膜との間の接合部の形成、ならびにCa2+依存的な膜リン脂質の更新に関与していることが知られている。ESYT3は、バレル様ドメインでグリセロリン脂質と結合し、細胞内脂質輸送に関与している可能性が報告されている。ヒトESYT3の配列は、UniprotデータベースのエントリA0FGR9でアクセス可能である。
【0020】
ユビキニンカルボキシル末端ヒドロラーゼ7(USP7)は、p53およびPTEN等の多くのシグナル伝達分子の更新を制御することが示されてきた。Liら(EMBO Rep. 2020 May 6; 21(5))は、ケラチノサイトにおけるUSP7の欠失が、IKKα(IκBキナーゼα)のユビキチン化の増加をもたらし、これが細胞分化中のIKKαのレベルの減少をもたらすことを示している。USP7 KO細胞を移植した皮膚には、表皮の肥厚および基底細胞の拡大等の表皮の異常が顕著に見られる。表皮ケラチノサイトにおけるUSP7の欠失は、IKKαレベルの低下および異常な分化をもたらす。ヒトUSP7の配列は、UniprotデータベースのエントリQ93009の下で入手可能である。
【0021】
ペリプラキン(PPL)は、ケラチノサイトの角化エンベロープの構成要素である。角化エンベロープは、トランスグルタミナーゼの作用下で架橋される一連の前駆体タンパク質から組み立てられる。その結果得られる構造は、脂質が共有結合したタンパク質の不溶性の層であり、その厚さは約15nmであり、ケラチノサイトの細胞膜の内面に沈着する。ペリプラキンが属するプラキンタンパク質ファミリーのメンバーは、表皮の細胞連結因子、ならびに細胞-細胞間および細胞-マトリックス間の接着複合体、すなわちそれぞれデスモソームおよびヘミデスモソームの構成要素として機能する。ヒトPPLの配列は、UniprotデータベースのエントリO60437で入手可能である。
【0022】
後期コーニファイドエンベロープタンパク質1C(LCE1C)は、角質層の角化エンベロープの前駆体である。LCE1Cは、エンベロープ成熟のプロセスにおいてトランスグルタミナーゼを介した架橋により、そのメンバーが角化エンベロープに統合される後期コーニファイドエンベロープ(LCE)ファミリーに属する。ヒトLCE1Cの配列は、UniprotデータベースのエントリQ5T751で入手可能である。
【0023】
本発明の文脈では、これらのバイオマーカーの少なくとも1つの発現レベルが測定される。これらのバイオマーカーのうちの1つの発現レベルは、皮膚の水分含量を決定するのに十分である。それにもかかわらず、本発明による方法は、これら4つのバイオマーカーの1、2、3または全ての発現レベルを測定することを含んでいてもよい。
【0024】
当技術分野の当業者は、タンパク質の発現レベルを決定するために日常的に使用されている多くの技術に精通している。
【0025】
タンパク質の発現レベルは、それをコードする遺伝子の発現レベルを測定することによって評価することができる。遺伝子の発現レベルは、典型的には、その遺伝子から転写されるmRNA(複数可)を分析することによって決定される。これらの核酸分子は、典型的には、対象から得られた生体サンプルから抽出され、標準的な方法によって分析することができる。一般的に用いられる方法の1つは、単離されたmRNAを、逆転写(「RT」)と、目的の遺伝子に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」)増幅に供することである。mRNAの定量化は、典型的には、SYBR Green(登録商標)またはTaqMan(登録商標)と呼ばれる2つのリアルタイム定量化技術のうちの1つを使用して行うことができる。
【0026】
また、タンパク質の発現レベルは、サンプル中に検出された前記タンパク質の量を測定することによって直接的に評価することができる。このような方法は、典型的には、分析すべき生体サンプルを、標的タンパク質を特異的に結合することができる剤と接触させることを含む。この剤は通常、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体である。その後、タンパク質の存在は、典型的には電気泳動によるタンパク質の分離(「ウェスタンブロッティング」とも呼ばれる技術)、または直接法、間接法、競合法、もしくは免疫捕捉法(「ELISA」とも呼ばれる技術)による免疫アッセイによるタンパク質の分離の後に標準的な免疫検出法によって検出される。目的のタンパク質と前記タンパク質を標的とする抗体(複数可)との間の複合体の形成は、通常、着色、化学発光または蛍光生成物を生成する酵素反応を測定することによって検出および定量化される。
【0027】
「皮膚の水分含量」は、本明細書において、皮膚、および特に角質層に含まれる水分の量を指す。我々の皮膚は70%が水分で構成されており、それは深部の70%から低下し表面で15%に達する勾配で分布している。この皮膚発汗と呼ばれる自然現象は、皮膚内の水分保持を可能にする良質な皮膚バリアによって可能となっている。健康な皮膚バリアは、水分(15%)と脂質(10~15%)の微妙な均衡に基づいている。健康で正常な角質層は、約15~20%の水分を含む。この正常な条件下では、皮膚はしなやかで柔らかい。皮膚の水分含量によって、皮膚の水分量に従って皮膚を分類することが可能である。一般的に、皮膚は4つの群、十分しっとり肌、普通肌/しっとり肌、乾燥肌、および強乾燥肌に分類される。乾燥肌は、角質層の水分量が15%未満、特に10%未満の場合をいい、前記水分量が5%以下の場合を強乾燥肌という。同様に、普通肌/しっとり肌は、角質層の水分量が15~20%の間であり、十分しっとり肌では、前記水分量は20%超である。乾燥肌は、上記の均衡が崩れること、ならびに特に脂質の不足およびその物理的バリアの乱れによって定義され、これによって水分の損失、および細胞の成熟度の低下が引き起こされる。この永久的な皮膚状態は、つっぱり感、赤み、および鱗屑によって特徴付けられる。保湿化合物は一般的に、セラミドまたは尿素でこの表面脂質の不足を補い、経表皮水分損失を低減することを目的としている。
【0028】
皮膚の水分含量は、皮膚科医および皮膚の専門家によって日常的に評価される基準である。現在、皮膚の水分含量を決定するために、いくつかの技術が使用されている。これらの技術には、例えば、角層水分計の使用、視覚的評価または近赤外(NIR)分光法が含まれる(例えば、概説のためにKhazaka G., Bioengineering of the skin: water and stratum corneum (2005): 249;またはMohamad M. et al. Journal of Physics: Conference Series. Vol. 546. No. 1. IOP Publishing, 2014を参照のこと)。
【0029】
本発明による方法によって、皮膚の水分含量を決定することが可能になる。したがって、本発明の文脈において、本方法は、本バイオマーカーの発現レベルに基づいて、皮膚を非常に乾燥、乾燥、正常/保湿、または十分な保湿と分類する工程を有利に含む。
【0030】
上述したように、本発明者は、本発明によるバイオマーカーが乾燥肌で過剰発現されることを明らかにした。本発明者は、特に、皮膚サンプルにおいてバイオマーカーがより多く発現しているほど、その皮膚がより乾燥していることを示した。したがって、本発明による方法は、特に、乾燥肌(強乾燥肌を含む)の診断、すなわち、検出を可能にする。したがって、特定の実施形態によれば、本発明による方法は、前記少なくとも1つのタンパク質の発現レベルが高いほど、対象の皮膚がより乾燥していると判定することを含む。
【0031】
有利には、本発明によるバイオマーカーの発現レベルは、基準値と比較し得る。この基準値は、各バイオマーカーについて決定される。それは、実験的、経験的または理論的に決定することができ、最適な特異性および選択性を得るために設定される。この基準値は、対照集団、例えば普通肌/しっとり肌、あるいは乾燥肌で得られた結果に基づいて決定することができる。普通肌/しっとり肌に基づいて決定された閾値と同等の発現レベルは、普通肌プロファイルと関連付けられるが、この値から有意に異なる発現レベル、および特にこの基準値よりも高い発現レベルは、乾燥肌プロファイルと関連付けられるであろう。逆に、乾燥肌に基づいて決定された閾値と同等の発現レベルは、乾燥肌プロファイルと関連付けられるが、有意に異なり、特にこのような基準値より低い発現レベルは、普通肌/しっとり肌プロファイルと関連付けられるであろう。
【0032】
好ましい実施形態によれば、基準値は、普通肌/しっとり肌で測定された本発明によるバイオマーカーの発現レベルに基づいて決定される。このような実施形態によれば、本発明は、対象の皮膚の水分含量を決定する方法に関し、前記方法は、以下の工程:
a)前記対象から得られた皮膚サンプルにおいて、ESYT3、USP7、PPLおよびLCE1Cからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質の発現レベルを測定する工程;
b)前記少なくとも1つのタンパク質の発現レベルを、普通肌/しっとり肌で決定された基準値と比較する工程;および
c)前記少なくとも1つのタンパク質の発現レベルが基準値よりも高い場合、対象の皮膚が乾燥している、または非常に乾燥していると結論づける工程
を含む。
【0033】
本発明による「皮膚サンプル」は、本発明によるタンパク質の発現レベルを検出および測定することができる任意の皮膚サンプルであり得る。典型的には、本発明による皮膚サンプルは、角質層サンプルである。角質層サンプルは、生検、皮膚削り取りまたはテープストリッピングを含む様々な技術によって得ることができる(概説のためにMichaels, Barry. (2002). Chapter 26 - Skin Sampling Techniques: Handbook of Topical Antimicrobials and Their Applicationsを参照のこと)。本発明によるサンプルは、好ましくは、非侵襲的な技術を使用することによって得られる。好ましい実施形態によれば、前記角質層サンプルは、テープストリッピングされた角質層サンプルである。典型的には、粘着テープが皮膚の表面に押し付けられ、その後、突然除去される。この技術は、皮膚科学研究の分野で日常的に使用されている(概説のためにHughes, A. J., et al. British Journal of Dermatology 185.1 (2021): 26-35を参照のこと)。
【0034】
本発明による「対象」は、哺乳動物であり、好ましくはヒトである。
【0035】
特定の実施形態によれば、本発明による方法は、インターロイキン-1受容体アンタゴニストタンパク質(IL1RN)の発現レベルを測定することをさらに含む。この具体的な実施形態によれば、本発明による方法は、ESYT3、USP7、PPLおよびLCE1Cから選択される1、2 3または4つのタンパク質(複数可)の発現レベルを測定することを含み、IL1RNの発現レベルを測定することをさらに含む。IL1RNは、IL-1ファミリーの抑制性サイトカインの1つである。これは、ケラチノサイトで発現し、抗炎症作用を有する。ヒトIL1RNの配列は、UniprotデータベースのエントリP18510で入手可能である。本発明者は、IL1RNの発現レベルが、乾燥した/非常に乾燥肌とも相関することを示した。
【0036】
本明細書を通じて説明したように、本発明によるタンパク質の発現レベルは、皮膚の水分含量と関連している。したがって、これらのタンパク質は、皮膚の水分含量に対する化合物の影響を評価するための、特に、化合物が皮膚の水分量を改善することを可能にするかどうかを評価するための、優れたマーカーである。したがって、これらのタンパク質の発現レベルは、保湿処置が効率的であるかどうかを評価するため、またあるいは、候補化粧用化合物をスクリーニングするために使用することができる。
【0037】
したがって、さらなる実施形態によれば、本発明は、対象の皮膚を水和するための化粧処置の有効性を評価するための方法にも関し、前記方法は、以下の工程:
a)前記化粧処置を受ける前の前記対象から得られた皮膚サンプルにおいて、拡張シナプトタグミン-3(ESYT3)、ユビキン-カルボキシル末端ヒドロラーゼ7(USP7)、ペリプラキン(PPL)および後期コーニファイドエンベロープタンパク質1C(LCE1C)からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質の発現レベルを測定する工程;
b)前記化粧処置を受けた後の前記対象から得られた皮膚サンプルにおいて、前記少なくとも1つのタンパク質の発現レベルを測定する工程;
c)工程a)およびb)において測定された発現レベルを比較する工程;および
d)工程b)で測定された発現レベルが工程a)で測定された発現レベルより低い場合、前記化粧処置が効率的である、または工程b)で測定された発現レベルが工程a)で測定された発現レベルと同等またはそれ以上の場合、前記処置が非効率的であると判定する工程
を含む。
【0038】
本発明はまた、皮膚を水和するための候補化粧用化合物をスクリーニングする方法にも関し、前記方法は以下の工程:
a)皮膚サンプルにおいて、拡張シナプトタグミン-3(ESYT3)、ユビキニンカルボキシル末端ヒドロラーゼ7(USP7)、ペリプラキン(PPL)および後期コーニファイドエンベロープタンパク質1C(LCE1C)からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質の発現レベルを測定する工程;
b)試験化合物を前記皮膚サンプルに接触させる工程;
c)前記皮膚サンプルにおける前記少なくとも1つのタンパク質の発現レベルを測定する工程;および
d)工程c)で測定された発現レベルが工程a)で測定された発現レベルより低い場合、化合物を選択する工程
を含む。
【0039】
候補化粧用化合物は、任意の種類であってもよい。それは、天然起源であっても、または化学合成によって製造されたものであってもよい。これは、構造的に定義された化学化合物のライブラリ、未特定の化合物もしくは物質、または化合物の混合物を含むことができる。
【0040】
天然化合物には、植物のような植物起源の化合物が含まれる。好ましくは、候補化粧用化合物は植物性であり、好ましくは植物性抽出物から選択される。
【0041】
好ましい実施形態によれば、本発明によるスクリーニング方法の文脈で使用される皮膚サンプルは、人工皮膚サンプルである。人工皮膚は、化粧研究の分野で主に使用されており(例えば、Brohem et al. Pigment cell & melanoma research 24.1 (2011): 35-50;またはYun et al. Journal of Pharmaceutical Investigation 48.2 (2018): 215-223を参照のこと)、また専門の製造者から容易に入手することができる。
【0042】
本開示はまた、乾燥肌の処置のための方法を提供し、前記方法は、本発明の方法によって乾燥していると特定された皮膚を、有効量の水和化合物で処置する工程を含む。
【0043】
本発明は、以下の非限定的な実施例によってさらに説明される。
【実施例0044】
[実施例1]
乾燥肌のバイオマーカーの同定:
試験は、脚の普通肌(17)または強乾燥肌(20)を有する35~40歳の37人の女性に対して実施された。女性の皮膚状態は異なるパラメータ;皮膚科医の管理下で視覚的に、乾燥肌のグレードスケールを用いて、TWEL、静電容量の測定によって、および連続的なテープストリップのサンプリングによって分類した。テープストリップの染色によって、テープストリップ上の角質細胞の分布、数、および色の濃さによって、乾燥肌の異なるグレードを分類することが可能になる。12本のテープストリップを溶解し、プロテオミクスによる同定および定量を行った。このプロテオミクス的特徴付けにより、乾燥肌の表面で優先的に発現する4つの新規バイオマーカーを同定することが可能になった。
【0045】
1-材料および方法
コホートの説明:本試験の目的は、乾燥肌にのみ関与する標的を明らかにすることであった。これらの標的を同定できるようにするために、普通肌対強乾燥肌を有する女性のコホートを選択した。この試験では、フォトタイプ1~3の範囲の35~40歳の37人のボランティアを集め、2つのサブ集団:一方は普通肌を有する女性17人、他方は目に見えて強乾燥肌の女性20人に分けた。この分布は、皮膚科医が試験当日の視覚的な外観に関連して、サンプリング領域である脚の前面を評価することによって行われた。写真の支持による確認は、TWELおよび静電容量等の生物物理学的測定と相関があった。
【0046】
サンプリング方法の説明:非侵襲的な方法であるテープストリッピングにより、角質層の最初の層を除去することが可能である。最初のテープストリップを脚の前面に配置し、次に標準化された重りを一定かつ反復可能な圧力として適用する。重りは10秒間かけられた後、持ち上げられる。テープストリップの輪郭を描き、次のテープストリップを同じ位置に貼り付ける。次に、テープストリップをためらいのない手振りでクリップを用いて一気に取り除く。最初のテープストリップは、次に採取する量を標準化するために廃棄される。次に、次のテープストリップを、最初のテープストリップと同様の手順で貼り付け、取り除く。その後、テープストリップは-80℃で保存される。3つの別の領域にある合計15枚のテープストリップをサンプリングした。そのうち12枚をタンパク質抽出に、1つを形態学的染色に使用した。
【0047】
テープストリップの染色:テープストリップは、各ボランティアの角質細胞の分布および形態を強調するために着色した。テープストリップを室温で解凍し、37℃のホットプレート上に置いた後に、Stain PMS:塩基性フクシンおよびトルイジンブルーの混合物で1時間覆った。次いで、染色されたテープストリップを連続的な水道水浴でリンスし、外気中で乾燥させた後、さらなる分析のためにスライドとラメラの間に配置する。
【0048】
画像分析:スライドスキャンは、ScanScope(登録商標)AT Turboスライドスキャナーを使用して、0.25μm/pxlの解像度のためにx40倍率で行った。カラーデコンボリューションに基づいて、2つのアルゴリズムを以下のために開発した:
1)染色に陽性な組織表面を測定し、3クラスの比色強度にしたがって陽性角膜細胞の表面を分類する。このアルゴリズムは、その陽性組織表面の測定において、比色強度勾配を適用する。したがって、角層細胞の表面を3つの群:角層細胞の標識の弱、中、および強に分類するのに十分である。最後に、アルゴリズムは、各テープストリップについて、角質細胞の平均強度に対応する平均光学濃度の正規化値を決定する。角質細胞の表面の測定および色勾配による分類に使用される閾値とパラメータは、各テープストリップについて同じである。
2)角質細胞によって形成された小島を数え、その面積を測定する。最初に、解析領域および可能な除外領域を決定する。次に、カラーデコンボリューションを適用して、画像の残りの部分から陽性組織を抽出することで、画像の解析を変化させる可能性のある人工産物から解放される。最後に、アルゴリズムが小島をセグメント化および個別化し、小島の数を数え、面積を測定できるようにする。分析した総面積と小島が占める面積との間の比率から、テープストリップあたりの小島の密度をパーセント値として定量化することができる。
【0049】
タンパク質の抽出:各テープは、粘着面を上にして、それ自体の20mLホウケイ酸シンチレーションバイアル(Wheaton;VWR)に入れた。テープを、SDS(0.2%)、プロピレングリコール(0.5%)およびHALT抗プロテアーゼカクテル(1X)を含むPBS緩衝剤に浸漬した。バイアルを超音波処理槽に60分間入れた。細胞溶解液を各バイアルから採取し、ドナー番号にしたがってプールした。タンパク質を90%メタノール溶液中で-20℃にて一晩沈殿させた。沈殿したタンパク質を遠心分離(15000g、20分、4℃)により回収し、尿素(8M)を含むTris-HCl緩衝剤に溶解した。タンパク質濃度は、BCA法を用いて決定した。
【0050】
タンパク質の精製および濃縮:FASP法(Filter Aided Sample Preparation)にしたがって、ペプチド抽出物を調製した。50μgのタンパク質を限外濾過装置(Amicon Ultra 0.5、10kDa MWCO)にロードした後、還元(ジチオトレイトール)、アルキル化(ヨードアセトアミド)およびトリプシンによる消化を行った。ペプチドはSPEクロマトグラフィー(C18)で精製し、乾燥し、0.1%ギ酸水溶液100μlに可溶化した。ペプチド濃度は、BCA法を用いて決定した。
【0051】
タンパク質分析LC-MS/MS<<ショットガンプロテオミクス>>:可能な場合、各サンプルについてペプチド250ngずつを3回に分けて注入した。ペプチド濃度が未確定なサンプルについては、10μlの未希釈のサンプルを使用した。クロマトグラフィーは、Ultimate3000(Dionex)装置を使用し、C18(75μm x 50cm、2μm材料)カラムを用いて、プレカラム上の3分間のトラッピング工程の後、300nl/分の流速で2.5%~35%アセトニトリルの60分勾配を適用して行った。データはQ-Exactive Plus(Thermo)質量分析計を使用して取得した。MSスキャンは、70000の分解能および60msの蓄積時間で実施した。MS/MSスキャンは、各サイクルの最も強い10個のイオンに17500の分解能で、60msの蓄積時間で実行した。5600サイクルを実行したため、クロマトグラフィーのピークあたり平均14サイクルであった。以下の実験設定を適用した:電源電圧(2300V)掃引ガス(0psi)Transfertチューブ温度(275℃)正規化衝突エネルギー28*(*衝突エネルギーは、分析化合物の質量および電荷に応じて自動的に決定される)。
【0052】
タンパク質の同定:タンパク質は、SEQUEST-HTアルゴリズムとUNIPROTからマイニングされたHuman reference proteomeを集めたデータベースを使用して同定した。検索パラメータは:酵素=トリプシン(フル);許容されるiscleavage=2;前駆体エラー許容度=10ppm;断片エラー許容度=0.02Da;動的修飾=酸化(M)、脱アミド(N/Q);タンパク質末端修飾=アセチル化;静的修飾=カルバミドメチル(C)、であった。偽発見率(FDR)の判定は、Percolatorアルゴリズムを用いて行った。
【0053】
タンパク質の定量化:データは、MinoraおよびProteome Discoverer 2.2ソフトウェアのフィーチャーマッパーを使用して処理された。ピーク統合パラメータは以下の通りであった:獲得後再較正=True(ファインパラメータ)最小トレース長=5;アイソトープの最小数=2;アイソトープについての最大デルタRT=積分について0.2分PSM信頼水準=高。クロマトグラフィーアライメントパラメータは以下の通りであった:RTアラインメント=TRUE;パラメータ調整=ファイン;最大RTシフト=5分質量許容度10ppm。フィーチャーマッピングパラメータは以下の通りであった:RT許容度=自動;質量許容度=自動;S/N閾値=2。統計解析は、Proteome Discoverer 2.2ソフトウェアのPrecursors Ions quantifier nodeを使用して実施した。General Quantification Settingsは以下の通りであった:Peptide to use=Unique+RAZOR(Unique=異なるタンパク質またはタンパク質グループで共有されていないペプチド;RAZOR=複数のタンパク質の群で共有されているが、ユニークペプチドの数が最も多く、アミノ酸配列が最も長いタンパク質の定量にのみ使用するペプチド);Consider Proteins Groups for Peptide Uniqueness=True;Reject Quan Results with Missing Channels=False。Precursor Quantification Settingsは以下の通りであった:Precursor Abundance Based on Area;Min number Replicate feature=50%(定量に使用するペプチドは、1つの群のサンプルの少なくとも50%で検出される必要がある)。Normalization設定:Total Peptide量(同定された全てのペプチドについて、各注入の存在量値の総和を計算し、総存在量が最も高い注入を基準として使用して、他の全ての注入の存在量値を注入ごとに一定の係数で補正し、最終的に総存在量が全ての注入で同じになるようにする)。Quan Rollup Hypothesis Testing設定:Ratio Calculation=Summed abundance based(Protein Ratioは、複製群のサンプル存在量の合計の中央値から計算される)。Imputation Mode=Replicate Based Resampling(欠損値は、(技術的、生物学的)複製物の検出値の中央値を中心とした分布からサンプリングしたランダムな値で置換される)。
Hypothesis Test=ANOVA(個々のタンパク質)。
【0054】
2/結果:
テープストリップ染色:形態学的分析。
テープストリップ染色は、テープストリップ全体の上で角質細胞が占める表面から、それらによって形成される小島の数および関連する比色強度に至るまで、広範な情報を提供した。実際、乾燥肌は、テープストリップ上の角質細胞が占める表面の増大を徐々に伴った。また、乾燥肌は、高い比色濃度を有する小島の数の増加も徐々に伴った。角質細胞の比色濃度および密な分布は、皮膚の乾燥の程度に直接相関している。
【0055】
染色されたテープストリップの定量的分析
皮膚科医が行った分析および前記分析と生物物理学的測定値との相関に加えて、普通肌の集団および乾燥肌を有する人々の集団を決定した。同じ分布を適用した後、これらの結果は、テープストリップ全体で得られた小島の平均サイズに関して得られた結果と相関していた。
【0056】
乾燥肌の角質細胞は、普通肌と比較して、テープストリップ表面の43%超を占めている。小島の表面は、乾燥肌では平均して28%増加する。乾燥肌は、普通肌で観察されるよりも255%高い比色強度を示す。
【0057】
乾燥肌におけるプロテオミクス的特徴付け:
乾燥肌と普通肌の分析により、同定された613個のタンパク質のうち、340個が乾燥肌において差次的に制御されていることが明らかになった。乾燥肌群と普通肌群のサンプルから、それぞれ平均227個と212個のタンパク質が同定された。定量的な観点から、340個の定量可能なタンパク質(キュレーション後)のうち、88個が敏感肌で過剰発現していると考えられ、77個が低発現していると考えられた(閾値:p値<0.05、倍数変化>1.5または<0.67)。
【0058】
乾燥肌の特異的なタンパク質バイオマーカー:
普通肌に100%のインピュテーションの割合を適用することによって、対照的に、乾燥肌では非常に低いパーセント比率が得られる。この低い割合のインピュテーションは、乾燥肌における標的の発現に反比例している。結果的に、このことは、インピュテーションのパーセント比率が低いほど、標的が皮膚でより多く発現していることを意味する。この実験により、乾燥肌で優先的に発現する標的を選択することができた。乾燥肌にのみ存在する5つの主要な標的は:ペリプラキン、ESYT3、LCE1C、USP7およびIL1RNである。
【0059】
ケラチノサイトレベルでこれらの異なる標的を過剰発現させることにより、乾燥肌の研究のための新規モデルを作成することが可能になる。次いで、これらの標的に対する選択された有効成分の作用を評価し、その保湿効果を評価することができる。
【0060】
[実施例2]
選択されたバイオマーカーに対する保湿剤の効果:
言及された4つのタンパク質の過剰発現は、乾燥肌を特徴付ける。その結果、それらの過剰発現を低減する有効成分は、乾燥肌を正常な状態に戻すことを可能にするであろう。この仮定は、LCE1Cについて試験された。0.1%と0.033%の2つの異なる濃度で活性Anthyllisを全身に処置した場合のメラニン化した再構成表皮への影響を決定した。処置の5日後、LCE1Cの発現は、未処理の対象と比較して、それぞれ4.1分の1および11.8分の1に減少している。
【0061】
したがって、本発明によるバイオマーカーは、乾燥肌を正確に診断することを可能にし、水和化合物の有効性を評価するため、または水和処置の有効性をモニターするための極めて関連性の高い標的を表す。