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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157891
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】繊維構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/04 20060101AFI20231019BHJP
   D01D 5/06 20060101ALI20231019BHJP
   D04H 3/033 20120101ALI20231019BHJP
   A61L 15/28 20060101ALI20231019BHJP
   A61L 15/42 20060101ALI20231019BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20231019BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20231019BHJP
   A61L 27/56 20060101ALI20231019BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20231019BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20231019BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20231019BHJP
   C12N 11/04 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
D01F9/04
D01D5/06 Z
D01D5/06 A
D04H3/033
A61L15/28 100
A61L15/42 310
A61L27/20
A61L27/52
A61L27/56
A61L31/04 120
A61L31/12 100
A61L31/14 300
A61L31/14 400
C12N11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066128
(22)【出願日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2022067333
(32)【優先日】2022-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100171941
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 忠行
(72)【発明者】
【氏名】森田 有亮
【テーマコード(参考)】
4B033
4C081
4L035
4L045
4L047
【Fターム(参考)】
4B033NA16
4B033NB48
4B033NB63
4B033NB64
4B033NB65
4B033NC04
4B033ND12
4B033NG05
4C081AA02
4C081AA12
4C081AB11
4C081BA11
4C081BA12
4C081CD041
4C081CD34
4C081DA02
4C081DA03
4C081DA04
4C081DA12
4C081DB04
4C081EA02
4C081EA03
4L035AA04
4L035BB03
4L035BB15
4L035BB16
4L035FF01
4L035FF05
4L045AA02
4L045AA13
4L045AA20
4L045BA58
4L045DA32
4L045DA33
4L047AA12
4L047AB03
4L047BD03
4L047CA16
4L047CC03
(57)【要約】
【課題】 連通性が良好で溶液や細胞の浸透に有利であり、かつ、製造時の条件設定によって構造を容易に制御することができる繊維構造体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 繊維構造体は、アルギン酸塩(II)のハイドロゲルからなるアルギン酸ゲルファイバーを構成繊維とする繊維集合体の凍結乾燥物である。繊維構造体の製造方法は、アルギン酸塩(I)を含む紡糸原液を連続的に吐出する紡糸原液吐出工程と、紡糸原液吐出工程において吐出された紡糸原液を、吐出直後に、多価の金属イオンを含む凝固液と接触させてゲル化させることにより紡糸する紡糸工程と、紡糸工程で生成したファイバーを巻取ることにより巻取りドラム上に繊維集合体を形成する巻取り工程と、巻取り工程で回収した繊維集合体を凍結乾燥する凍結乾燥工程とを備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸塩(II)のハイドロゲルからなるアルギン酸ゲルファイバーを構成繊維とする繊維集合体の凍結乾燥物である、繊維構造体。
【請求項2】
シート状、チューブ状又は繊維束状である、請求項1に記載の繊維構造体。
【請求項3】
アルギン酸塩(I)を含む紡糸原液を連続的に吐出する紡糸原液吐出工程と、
前記紡糸原液吐出工程において吐出された紡糸原液を、吐出直後に、多価金属イオンを含む凝固液と接触させてゲル化させることにより紡糸する紡糸工程と、
前記紡糸工程で生成したファイバーを巻取ることにより巻取りドラム上に繊維集合体を形成する巻取り工程と、
前記巻取り工程で回収した繊維集合体を凍結乾燥する凍結乾燥工程と
を備える、請求項1に記載の繊維構造体の製造方法。
【請求項4】
前記巻取り工程において、紡糸工程で生成したファイバーを綾振りしながら巻取ることにより巻取りドラム上に網目構造を有する繊維集合体を形成する、請求項3に記載の繊維構造体の製造方法。
【請求項5】
アルギン酸塩(II)のハイドロゲル中に細胞を含むアルギン酸ゲルファイバーを構成繊維とする、繊維構造体。
【請求項6】
前記細胞が、軟骨細胞、筋芽細胞、心筋細胞、繊維芽細胞からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項5または請求項6に記載の繊維構造体。
【請求項7】
シート状、チューブ状又は繊維束状である、請求項5または請求項6に記載の繊維構造体。
【請求項8】
アルギン酸塩(I)と細胞を含む紡糸原液を連続的に吐出する紡糸原液吐出工程と、
前記紡糸原液吐出工程において吐出された紡糸原液を、吐出直後に、多価金属イオンを含む凝固液と接触させてゲル化させることにより紡糸する紡糸工程と、
前記紡糸工程で生成したファイバーを巻取ることにより巻取りドラム上に繊維構造体を形成する巻取り工程と
を備える、請求項5または請求項6に記載の繊維構造体の製造方法。
【請求項9】
前記巻き取り工程において、前記紡糸原液の吐出速度と、前記巻取りドラムへの前記ファイバーの巻取り速度の差により前記ファイバー径と、前記ファイバー中のファイバー長手方向の前記細胞の分布をコントロールする請求項8に記載の繊維構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギン酸ゲルは生体適合性が高く、不織布状やスポンジなどの形態で、医療材料(例えば、創傷被覆材など)として利用されている(例えば、不織布状の医療材料につき特許文献1~3など、スポンジ形態の医療材料につき特許文献4など参照)。
市販品としては、不織布状の医療材料として、カルトスタット(登録商標)(Convatec社)、ソーブサン(登録商標)(アルケア社)、アルゴダーム(登録商標)(メディコン社)、スポンジ形態の医療材料として、クラビオ(登録商標)AG(クラレ社)などが知られている。
【0003】
しかしながら、上記公知の不織布状あるいはスポンジ状のアルギン酸ゲルを用いた医療材料の場合、つぎのような問題がある。
すなわち、上記不織布状の医療材料においては、用途に応じて溶液や細胞の浸透を最適化するような繊維径と目開き(メッシュ数)・開口率の制御が難しい。物質分離膜などで使用する際の溶液の透過性や分離効率などの調整が困難となる。
一方、上記スポンジ形態の医療材料においては、シート状をしたアルギン酸ゲル状体を凍結乾燥により製造されているが、体液など間質液の吸収性は良いものの、凍結乾燥では、水分が除去されて残った空洞によって多孔構造が形成されるものであるため、空孔サイズの大幅な制御が困難である上、孔の連通性の低さから、溶液や細胞の浸透が不十分となる。また治癒過程における血管などの新生組織の形成を阻害することも危惧される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2627344号公報
【特許文献2】特開平5-209318号公報
【特許文献3】特開平9-256226号公報
【特許文献4】国際公開第2018/012605号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、製造時の条件設定によって構造を容易に制御することができる繊維構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、アルギン酸ゲルの単なる凍結乾燥物ではなく、アルギン酸ゲルファイバーを構成繊維とする繊維集合体の凍結乾燥物とすることで、従来にないユニークな繊維構造体が得られることを見出した。
また、凍結乾燥前の繊維集合体を作製するに当たり、湿式紡糸により生成したアルギン酸ゲルファイバーを巻き取る工程を繊維集合体の作製に利用することで、この繊維集合体作製時の条件設定により、目的物である繊維構造体のファイバー径、目開き(メッシュ数)、開口率、厚みなどの制御も容易になし得ることを見出した。
また、繊維構造体を作製するにあたり、アルギン酸塩(I)中に予め細胞を混合した状態で湿式紡糸により生成したアルギン酸ゲルファイバーを巻き取るようにすれば、得られる繊維集合体を、そのまま繊維構造体として使用することができることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0007】
すなわち、本発明の繊維構造体1は、アルギン酸塩(II)のハイドロゲルからなるアルギン酸ゲルファイバーを構成繊維とする繊維集合体の凍結乾燥物である。
【0008】
本発明の繊維構造体1の製造方法は、アルギン酸塩(I)を含む紡糸原液を連続的に吐出する紡糸原液吐出工程と、前記紡糸原液吐出工程において吐出された紡糸原液を、吐出直後に、多価金属イオンを含む凝固液と接触させてゲル化させることにより紡糸する紡糸工程と、前記紡糸工程で生成したファイバーを巻取ることにより巻取りドラム上に繊維集合体を形成する巻取り工程と、前記巻取り工程で回収した繊維集合体を凍結乾燥する凍結乾燥工程とを備える。
【0009】
また、本発明の繊維構造体2は、アルギン酸塩(II)のハイドロゲル中に細胞を含むアルギン酸ゲルファイバーを構成繊維とする。
本発明の繊維構造体2の製造方法は、アルギン酸塩(I)中に細胞が分散された紡糸原液を連続的に吐出する紡糸原液吐出工程と、前記紡糸原液吐出工程において吐出された紡糸原液を、吐出直後に、多価金属イオンを含む凝固液と接触させてゲル化させることにより紡糸する紡糸工程と、前記紡糸工程で生成したファイバーを巻取ることにより巻取りドラム上に繊維構造体を形成する巻取り工程とを備える。
【0010】
本発明において、細胞としては、たとえば、軟骨細胞、筋芽細胞、心筋細胞、繊維芽細胞などが挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の繊維構造体1は、従来のスポンジ形態の凍結乾燥物と異なり、連通性が良好で溶液や細胞の浸透に有利な構造を備えている。
また、本発明の繊維構造体1の製造方法によれば、繊維集合体作製時の条件設定により、目的物である繊維構造体1のファイバー径、目開き(メッシュ数)、開口率、厚みなどの制御を容易に行うことができる。
【0012】
本発明の繊維構造体2は、アルギン酸塩(II)のハイドロゲル中に細胞を含むアルギン酸ゲルファイバーを構成繊維とするので、ファイバーの長手方向で、細胞をほぼ所望ピッチに分散された状態にすることができる。すなわち、細胞が所望位置に分散された状態の構造体とすることができ、所望の細胞培養を安定して行うことが可能となる。
また、本発明の繊維構造体2の製造方法によれば、繊維構造体2作製時の条件設定により、目的物である繊維構造体2の細胞の分布調整、ファイバー径、目開き(メッシュ数)、開口率、厚みなどの制御を容易に行うことができる。
また、巻取り速度を徐々に、あるいは、段階的に変更するなど、巻取り条件を変えながら繊維構造体2を作製することで、厚み方向に対して細胞密度やファイバー密度などが傾斜構造を有するような調整が容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の繊維構造体1の製造に好適に用いられる製造装置の一例を示す模式図である。
図2】本発明の繊維構造体1の製造過程で得られる繊維集合体の具体例を示す模式説明図である。
図3】本発明の繊維構造体1の製造過程で得られる繊維集合体の別の具体例を示す模式説明図である。
図4】実施例で繊維構造体1の製造に用いた装置の写真である。
図5】実施例1で得た繊維構造体1を上方から撮影したカメラ写真である。
図6】実施例1で得た繊維構造体1のSEM写真(倍率:30倍)である。
図7】実施例1で得た繊維構造体1のSEM写真(倍率:200倍)である。
図8】実施例2で得た繊維構造体1を上方から撮影したカメラ写真である。
図9】実施例2で得た繊維構造体1のSEM写真(倍率:30倍)である。
図10】実施例2で得た繊維構造体1のSEM写真(倍率:200倍)である。
図11】実施例3でSA2およびSA3を紡糸原液として用いてアルギン酸ゲルファイバーを巻き取りドラムに巻き取ったときの、吐出速度と、ファイバー径の関係をあらわすグラフである。
図12】実施例3で作製した繊維構造体1a、繊維構造体1b、繊維構造体1cの顕微鏡写真である。
図13】実施例3で冷却速度を変化させて得られた各繊維構造体1のファイバー断面の顕微鏡写真である。
図14】冷却速度とファイバー長軸短軸比の関係を示すグラフである。
図15】アルギン酸塩(I)溶液濃度と、得られた繊維構造体1から取り出したファイバーの膨潤前の引張強度の関係を示すグラフである
図16】アルギン酸塩(I)溶液濃度と、得られた繊維構造体1から取り出したファイバーの膨潤後の引張強度の関係を示すグラフである
図17】紡糸原液のアルギン酸塩(I)の濃度と、得られた繊維構造体1の断面積より求めた体積変化率の関係を示すグラフである。
図18】紡糸原液のアルギン酸塩(I)の濃度と、吸水率の関係を示すグラフである。
図19】本発明の繊維構造体2の製造過程で得られる繊維構造体2の具体例を示す模式説明図である。
図20】上記繊維構造体2の細胞間距離の測定方法を概略的に説明する図である。
図21】実施例4で、160rpmで得られた繊維構造体2のファイバーを顕微鏡で観察した結果を示す顕微鏡写真である。
図22】ファイバー径ごとの、ファイバーの長手方向の細胞ピッチの関係を示すグラフである。
図23】ファイバー径ごとの、ファイバーの径方向の中心から細胞までの距離の関係を示すグラフである。
図24】培養前後の繊維構造体2の明視野画像である。
図25】培養14日目の繊維構造体2のサフラニンO染色画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明にかかる繊維構造体及びその製造方法の好ましい実施形態について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0015】
〔繊維構造体1〕
本発明の繊維構造体1は、アルギン酸塩(II)のハイドロゲルからなるアルギン酸ゲルファイバーを構成繊維とする繊維集合体の凍結乾燥物である。
繊維構造体の構造は、繊維集合体の構造を反映したものとなるが、この繊維集合体の構造としては、例えば、織物状、編物状、不織布状のいずれでも良い。
上記織物状や編物状の繊維集合体は、例えば、アルギン酸塩(I)溶液を、多価金属塩を含む凝固液にノズルを通して吐出することで紡糸し、アルギン酸ゲルファイバーとして回収した後、このアルギン酸ゲルファイバーを、公知の方法で織ったり、編んだりすることで、作製することができる。
不織布状の繊維集合体は、例えば、アルギン酸塩(I)溶液を、多価の金属塩を含む凝固液中に、ノズル先端から間欠的に吐出して凝固液中でアルギン酸ゲルファイバーの短繊維を紡糸し、あるいは、ノズル先端から吐出されたアルギン酸ゲルファイバーを凝固液中でチョップすることでアルギン酸ゲルファイバーの短繊維が分散された凝固液を得たのち、この短繊維が分散された凝固液を抄造することによって、アルギン酸ゲルファイバーの短繊維からなるウェットな不織布状体としたり、1つないし1つ以上のノズルから吐出されたアルギン酸ゲルファイバーを長繊維のまま凝固液中に分散させて不織布状体としたりすることができる。
なお、上記の湿式紡糸の考え方をさらに発展させて、湿式紡糸により生成したアルギン酸ゲルファイバーを巻き取る工程を、単なるファイバーの回収工程としてではなく、繊維集合体の作製工程として利用してもよい。以下に詳述する本発明にかかる繊維構造体の製造方法では、この製造方法を採用しており、不織布状では困難なファイバー径、目開き(メッシュ数)、開口率、の制御なども容易になし得る。そして、目的物である繊維構造体の構造は、繊維集合体の構造が反映されるため、繊維集合体作製時の条件設定により、目的物である繊維構造体1のファイバー径、目開き(メッシュ数)、開口率、厚みなどの制御も容易になし得る。
【0016】
〔繊維構造体1の製造方法〕
本発明の繊維構造体の製造方法は、紡糸原液吐出工程と、紡糸工程と、巻取り工程と、凍結乾燥工程とを備える。
図1は、本発明の繊維構造体1の製造方法における紡糸原液吐出工程、紡糸工程及び巻取り工程を実施するための装置の一例を模式的に示す図である。以下、この図1も参照しつつ、各工程の説明を行う。
【0017】
<紡糸原液吐出工程>
紡糸原液吐出工程では、アルギン酸塩(I)を含む紡糸原液を連続的に吐出する。
【0018】
アルギン酸塩(I)は、アルギン酸と1価金属イオンとの塩であり、具体的には、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムなどが挙げられる。
紡糸原液におけるアルギン酸塩(I)の濃度としては、特に限定するわけではないが、例えば、0.5~3w/v%である。
【0019】
紡糸原液は、アルギン酸塩(I)を含む水溶液であり、アルギン酸塩(I)の他に、他の成分を含有していても良い。
紡糸原液に含まれる他の成分は、後述の紡糸工程において紡糸原液が凝固することで、生成したファイバーに内包されることになる。
このようなアルギン酸塩(I)以外の成分としては、用途等に応じて、適宜決定することができる。例えば、コラーゲンやゼラチンなどが挙げられる。また、細胞や細胞培養物を用いることで、細胞や細胞培養物が内包されたファイバーを紡糸することもできる。
【0020】
図1に示す繊維集合体の作製装置1では、紡糸原液吐出工程を実施するための部材としてシリンジ2を用いている。
シリンジ2内に、アルギン酸塩(I)を含む紡糸原液3を充填し、所望の速度で紡糸原液3を押し出すことにより、紡糸原液3を連続的に吐出することができる。
【0021】
シリンジ2の先端にはノズル21が装着されており、このノズル21から、紡糸原液3を凝固液5中に吐出することができる。
シリンジポンプを用いることで、紡糸原液を、シリンジから正確な量、速度で持続的に吐出することができる。
【0022】
なお、紡糸原液3の凝固液5への吐出は、シリンジのようにあらかじめ一定量の紡糸原液を充填して吐出を行う方法に限られず、例えば、ディスペンサーなどの供給装置や、貯液槽などの紡糸原液供給源から、供給路を介して、連続的に紡糸原液を供給しつつ、吐出する方法であっても良い。
また、紡糸原液3の凝固液5への吐出方法は、1本のノズル21から1つの凝固液5中に吐出させるだけでなく、たとえば、複数のシリンジ2のノズル21を、1つの凝固液5中に臨ませる、あるいは、供給路を2本以上に分岐してそれぞれの分岐路にノズル21を装着するとともに、各ノズル21を1つの凝固液5に臨ませて、複数本のノズル21から同時に吐出させるようにしても構わないし、同時に吐出する複数のノズル21のノズル径を異なる径にして、凝固液5中で、異なる径の繊維が混在するようにしても構わない。
【0023】
<紡糸工程>
紡糸工程では、前記紡糸原液吐出工程において吐出された紡糸原液3を、凝固浴4内の多価の金属イオンを含む凝固液5と吐出直後に接触させてゲル化させることにより紡糸する。
【0024】
アルギン酸塩(I)の水溶液に、多価金属イオンを作用させると、アルギン酸分子中の複数のカルボキシル基が架橋され(イオン架橋)、分子運動が妨げられることにより、速やかに不溶化(ゲル化)し、アルギン酸塩(II)のハイドロゲルが得られる。
【0025】
多価金属イオンとしては、たとえば、カルシウムイオン、銅イオン、アルミニウムイオンが挙げられ、特に限定するわけではないが、多価金属イオンを含む凝固液5としては、塩化カルシウムのような溶解度の高い2価金属塩の水溶液が好適である。
因みに、凝固液5における2価金属塩の濃度は、特に限定するわけではないが、例えば、0.2~3w/v%である。
【0026】
ノズル21先端の吐出口径は、不溶化して凝固液5中に連続的に生成されるファイバー3’の径に影響を与える。従って、吐出口径を適宜調整することで、ファイバー径を調整することができる。特に限定するわけではないが、例えば、吐出口径50~500μmである。特に限定するわけではないが、吐出口径100μm以下のノズルとして、例えば、微小ガラス管をプーラーで引き延ばし作製したガラスノズルを使用することができる。また、吐出口径100μm以上のノズルとして、例えば、注射針の先端をフラットに加工したものが使用できる。また、ディスペンサー用金属ノズルや精密ノズルを使用してもよい。
【0027】
<巻取り工程>
巻取り工程では、紡糸工程で生成したファイバー3’を巻取りドラム7で巻取ることによって、巻取りドラム7上に繊維集合体8を形成する。
【0028】
紡糸工程で生成したファイバー3’をトラバースガイド6で案内し、トラバースガイド6の往復運動により綾振りしながら巻取ることによって、巻取りドラム7上に、網目構造を有する繊維集合体8を形成することができる。
なお、トラバースガイド6を設けずに、ノズル21を往復運動させるように変更しても良い。
【0029】
形成される繊維集合体8を図2に模式的に示す。
図2(a)に示すように、巻取りドラム7には、巻取りドラム7の形状に対応して、繊維集合体8がチューブ状に形成されるが、これを軸方向に切断し、展開することで、図2(b)に示すように、シート状とすることもできる。図2(c)は、図2(b)の部分拡大図である。なお、図2(a)~(c)は模式図であり、ファイバーの寸法等は実際の寸法を示すものではない。
【0030】
図1に示す装置1では、トラバースガイド6と巻取りドラム7を同時に動かすことにより、紡糸工程で生成したファイバー3’を綾振りしながら巻取りドラム7に巻取るように構成されている。
【0031】
巻取りドラム7の回転軸71をモーター(不図示)と接続することで、駆動力を与え、巻取り速度を制御することができる。
巻取りドラム7による巻取り速度としては、吐出量に応じ、巻取り中のファイバーがたるまない速度以上に調整し,また巻取り中に破断しない速度以下とするように調整するのが好ましい。特に限定するわけではないが、具体的には、例えば、10~150mm/sである。
【0032】
トラバースガイド6は、トラバース駆動装置(不図示)と連結され、巻取りドラム7の回転軸71と平行な方向で往復運動を行う。
トラバースガイド6による往復運動の速度(トラバース速度)は、得ようとする繊維集合体によって適宜決定されるので、特に限定するわけではないが、例えば、0~150mm/sである。ただし、トラバース速度は、ドラムの直径などによっても異なるので、他の条件との関係も考慮することが好ましい。
なお、ドラム上にトラバース幅の筒状の繊維集合体を得るには、単純に考えるとドラム1回転でファイバー1本分ずれるのが最小,トラバース幅進むのが最大と考えられるため、理論的には、ファイバー直径をdf,ドラム直径D,巻取り速度Vw,トラバース幅(トラバースの移動ピッチ)Wtとするとき,トラバースの移動速度Vtを下記の条件を満たすように設定すればよいと考えられる。
f/(πD/Vw)<Vt<Wt/(πD/Vw
【0033】
巻取り速度が速いほど、また、トラバース速度が遅いほどファイバーピッチは小さくなる。
一方、巻取り速度が遅いほど、また、トラバース速度が速いほどファイバーピッチは大きくなる。
また、巻取り速度やトラバース速度が大きくなると、ファイバーへの張力が増大する。そして、ファイバーへの張力が増大すると、ファイバーが引き延ばされてファイバー径を縮小させることができるが、張力が大きくなりすぎるとファイバーの破断を招く。
ファイバーピッチやファイバー径は、巻取り速度とトラバース速度の双方の影響を受けるので、上記の傾向を加味した上で、所望の条件(組合せ)を選定すればよい。
【0034】
巻取りドラム6上へのファイバー3’の巻取り時間を長くすることで、厚みのある繊維集合体を形成することができる。また、その際に、巻取り速度やトラバース速度を途中で変更することで、ファイバー径やファイバーピッチの異なる多層構造の繊維集合体を製造することもできる。
【0035】
さらに、トラバースガイド6による往復運動の速度を0もしくは極低速とすることで、図3に示すように、繊維束状の繊維集合体8’を形成することもできる。
具体的には、トラバースガイド6による往復運動の速度を0もしくは極低速として巻取りドラム7にファイバー3’を巻き取っていくと、図3(a)に示すように、巻取りドラム7上に、繊維集合体8’として、輪ゴムを重ねたような多重巻回体(極低速の場合はコイルのような多重巻回体)が形成される。これを、図3(b)に示すように、巻取りドラム7から取り外し、両端(図3(b)では符号a,bで示す2点)を外側に引っ張るようにすると、図3(c)に示すように繊維束状の繊維集合体8’となる。なお、図3(a)~(c)も模式図であり、ファイバーの寸法等は実際の寸法を示すものではない。
また、トラバース速度の制御以外に、トラバース幅を0又はほぼ0に制御することによっても、繊維束状の繊維集合体8’を形成することができる。
【0036】
<凍結乾燥工程>
凍結乾燥工程では、前記巻取り工程で回収した繊維集合体を凍結乾燥する。
なお、凍結乾燥工程においては、繊維集合体をドラムから外さずにドラムごと凍結乾燥するようにしても構わない。
【0037】
具体的には、まず、巻取り工程で回収した繊維集合体を冷凍庫などの公知の手段で凍結する。
凍結条件は、凍結乾燥に適した条件であれば、特に限定されず、例えば、凍結温度-20~-80℃である。
繊維集合体をそのままの状態で凍結させても良いし、繊維集合体を水などの液体に浸した状態で凍結させても良い。
【0038】
次に、凍結乾燥機を用い、凍結した繊維集合体の水分を減圧下で昇華させることにより除去する。この凍結乾燥は、市販の凍結乾燥機を用いて、常法により行うことができ、例えば、10~20Paの減圧条件で凍結乾燥を行う。
【0039】
〔凍結乾燥後の繊維構造体1〕
上記各工程を経て、アルギン酸塩(II)のハイドロゲルからなるアルギン酸ゲルファイバーを構成繊維とする繊維集合体の凍結乾燥物である繊維構造体が得られる。
図2(a)に示すチューブ状の繊維集合体を凍結乾燥すればチューブ状の繊維構造体1が、図2(b)に示すシート状の繊維集合体を凍結乾燥すればシート状の繊維構造体1が、図3(c)に示す繊維束状の繊維集合体を凍結乾燥すれば繊維束状の繊維構造体1が、それぞれ得られる。
この繊維構造体1の構造は、凍結乾燥に伴う各種寸法の変化(主に収縮)はあるものの、基本的には、凍結乾燥前の繊維集合体のファイバー径、目開き(メッシュ数)、開口率、厚みなどが反映されることとなる。従って、繊維集合体1の製造時における各条件設定、具体的には、吐出口径や巻取り速度の調整によるファイバー径の調整、巻取り速度やトラバース速度の調整によるファイバーピッチの調整、巻取り時間による厚みの調整などによって、繊維構造体における構造の制御を容易に行うことができる。また、巻取り速度やトラバース速度の変化により、ファイバー径やファイバーピッチを厚み方向で変化させることができる。
【0040】
この繊維構造体1は、例えば、創傷被覆材、止血材、再生医療用スキャホールド、医療用物質分離膜などの医療用材料などとして好適に利用することができる。また、用途に応じて、チューブ状、シート状、繊維束状などの種々の形態で利用することができる。
ファイバー径は、用途や細胞の種類に応じて適宜決定すればよいが、例えば、100nm~100μmの範囲である。
【0041】
〔繊維構造体2〕
本発明の繊維構造体2は、アルギン酸塩(II)のハイドロゲル中に細胞を含むアルギン酸ゲルファイバーを構成繊維とする。
繊維構造体2の構造は、例えば、織物状、編物状、不織布状のいずれでも良い。
上記細胞としては、特に限定されないが、例えば、軟骨細胞、筋芽細胞、心筋細胞、繊維芽細胞などの成熟した細胞だけでなく、未分化系として幹細胞やiPS細胞なども用いることが可能である。また、これらの細胞は、単独で用いられてもよいし、複合して用いられても構わない。
【0042】
〔繊維構造体2の製造方法〕
本発明の繊維構造体2の製造方法は、紡糸原液として予めアルギン酸塩(I)溶液に細胞が分散混合された紡糸原液を用い、繊維構造体1と同様の紡糸原液吐出工程と、紡糸工程と、巻取り工程を備えている。
すなわち、得られる繊維構造体2は、構成繊維としてのアルギン酸ゲルファイバーが、実施例1~実施例3の繊維集合体と同様に、湿潤状態を保持した網目構造体となっている。
ここで、湿潤状態とは、アルギン酸ゲルファイバーがアルギン酸ゲルファイバー中に包含される細胞を死滅させない程度の含水率を有する状態となっていればよく、含水率は細胞の種類によって異なる場合もある。
細胞としては、ファイバーの長手方向への分散均一化を図るならば、予め単離されたものを用いることが好ましい。また、細胞スフェロイドや組織細片を混合して構造体とすることも可能である。
紡糸されたファイバー中での細胞の分布は、紡糸工程での紡糸原液の吐出速度と、巻取り工程での巻取り速度に依存する。すなわち、吐出速度より巻取り速度を速くすると、紡糸原液の送り出し直後のファイバーが、巻き取り機に達するまでに徐々に径が細くなるとともに、ファイバー中の細胞間の距離が大きくなる。また、細胞間の距離については、紡糸原液中の細胞濃度によってもコントロールすることができる。
【0043】
この繊維構造体2は、例えば、組織再生、培養組織、細胞移植用キャリア、生体外組織モデル、再生医療用スキャホールドなどの医療用材料などとして好適に利用することができる。また、用途に応じて、チューブ状、シート状、繊維束状などの種々の形態で利用することができる。
ファイバー径は、ファイバー中の細胞径や繊維構造体2の用途に応じて適宜決定される。
因みに、細胞が、たとえば、軟骨細胞の場合、細胞径が10~15μm程度であるため、細胞を1つずつファイバーの長手方向に並んだ状態のものを得ようとすれば、ファイバー径を30μm以下とすることが好ましい。
【実施例0044】
以下、本発明にかかる繊維構造体1,2及びその製造方法について実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
〔実施例1〕
<繊維集合体1の作製に用いた装置>
図1に模式的に示した装置の構成に従って、繊維集合体の作製装置(図4)を作製した。
【0046】
この装置は、紡糸原液を吐出するためのシリンジポンプ、吐出された紡糸原液をゲル化するための凝固浴、紡糸原液のゲル化により生成したファイバーを巻き取るための巻取りドラム、巻取りの際にファイバーを巻取りドラムの軸方向に往復移動させるためのトラバース機構で構成されている。
【0047】
紡糸原液を凝固液中へ吐出し、ファイバーを紡糸するため、zステージを用いた高さ調節により、シリンジに装着したノズルの先端(吐出口)を凝固液に着水可能な機構とした。凝固液中に紡糸したファイバーを集積するための巻取りドラム(直径10mm)は、スピードコントロールモーターユニット(FBL220A-A、オリエンタルモーター株式会社)のモーター回転軸に軸受を連結し、速度調節可能とした。
【0048】
巻取りドラムは、下半部を凝固液に着水可能に配置し、凝固液中にてファイバーの集積を可能とした。
【0049】
図4の装置は、また、紡糸したファイバーを網目状に集積させるため、ファイバーを巻取りドラムで巻き取りながら往復移動させるトラバース機構を備える。このトラバース機構は、コンパクトリニアアクチュエータユニット(DRL42-10A8P-KB、オリエンタルモーター株式会社)を接続したzステージにファイバーを捕捉するトラバースガイドを接続した構成を備える。巻取りドラムに巻き取られるファイバーをトラバースガイドで捕捉し、トラバース移動させることで、網目構造を有する構造体を作製することができる。
【0050】
<繊維集合体1の作製>
上記装置を用いて、網目構造を有する繊維集合体1を作製した。
紡糸原液としては、アルギン酸ナトリウム(分子量:1000kDa)の1.0w/v%水溶液を調製した。
また、凝固液としては、塩化カルシウム二水和物(C7902-500G,SIGMA-ALDLICH)を蒸留水に溶解し、1.2w/v%水溶液を調製した。
【0051】
図4のシリンジ内に紡糸原液を充填し、図4の凝固浴に、シリンジに装着したノズルの先端(吐出口)と、巻取りドラムの下半分が着水する高さまで凝固液を満たした。
【0052】
紡糸原液は、マイクロシリンジポンプ(MSPE-3,アズワン株式会社)を用いてシリンジに装着したノズルとしての先端内径220μmの27G注射針の先端(吐出口)から、吐出量100μl/minで、凝固液中に押し出した。
【0053】
凝固液中に生成したファイバーは巻き取り速度52mm/sおよびトラバース速度40mm/sで回転するドラムに集積し、網目構造を有する繊維集合体1を作製した。
【0054】
巻取りドラムに集積された繊維集合体1を、巻取りドラムの軸方向に沿って切断し、展開してシート状とした。
得られたシート状の繊維集合体1は、縦20mm×横30mm×厚み1mmであった。
【0055】
また、作製直後の繊維集合体1を位相差顕微鏡で観察し、観察画像より画像解析ソフトであるImage Jを用いて、ファイバー径およびファイバーピッチの測定を行ったところ、以下のとおりであった。
ファイバー径:258.6±9.6μm
ファイバーピッチ:137.4±6.8μm
【0056】
なお、ファイバー径の値は、構造体を形成するファイバー100本の直径を測定し、得られた平均値であり、ファイバーピッチの値は、ファイバーの巻取り方向をy軸、トラバースの移動方向をx軸とし、x-y平面上で平行に並列する2本のファイバー間の距離を100箇所測定し、得られた測定値の平均値である。
【0057】
<繊維集合体1の凍結乾燥>
上記で得られたシート状の繊維集合体1を冷凍庫に入れ、-80℃で24時間かけて凍結させた。
次いで、凍結乾燥機(FDU-1200,東京理科機械株式会社)で乾燥させることにより、繊維集合体1の凍結乾燥物である繊維構造体1(シート状)を得た。
繊維集合体1のファイバー径の測定方法と同様にして、繊維構造体1(凍結乾燥物)のファイバー径を測定したところ、41.1±15.8μmであった。
【0058】
〔実施例2〕
実施例1と同様にして網目構造を有するシート状の繊維集合体1を作製した。
得られたシート状の繊維集合体1は、縦20mm×横30mm×厚み1mmであった。
【0059】
作製直後の繊維集合体1のファイバー径及びファイバーピッチを実施例1と同様にして測定したところ、以下のとおりであった。
ファイバー径:258.6±9.6μm
ファイバーピッチ:137.4±6.8μm
【0060】
このシート状の繊維集合体1を水に浸した状態で、冷凍庫に入れ、-80℃で凍結させた。
次いで、凍結乾燥機(FDU-1200,東京理科機械株式会社)で乾燥させることにより、繊維集合体1の凍結乾燥物である繊維構造体1を得た。
繊維集合体1のファイバー径の測定方法と同様にして、繊維構造体1(凍結乾燥物)のファイバー径を測定したところ、33.4±9.6μmであった。
【0061】
〔評価〕
実施例1で得られた繊維構造体1(凍結乾燥物)のカメラ画像を図5に示し、SEM画像を図6(倍率:30倍),図7(倍率:200倍)に示す。
同様に、実施例2で得られた繊維構造体1(凍結乾燥物)のカメラ画像を図8に示し、SEM画像を図9(倍率:30倍),図10(倍率:200倍)に示す。
【0062】
以上に示す結果から分かるように、実施例1及び2の繊維構造体1(凍結乾燥物)は、いずれも、凍結乾燥前の繊維集合体1の構造を反映している。
ゼラチンゲルなどの水溶性ゲルでは温水に入れることで可溶化するが、上記繊維構造体1は、アルギン酸ゲルで構成されているため、水に浸してゲル化しても耐水性が向上して形態が維持される。さらに、凍結乾燥には物理的架橋の効果もあるため、普通に乾燥させるより、架橋によりファイバーの機械的特性の向上が期待される。
従って、本発明によれば、連通性が良好で、溶液や細胞の浸透に有利な繊維集合体1の構造が反映された、従来にないユニークな凍結乾燥物が得ることができるとともに、その製造時の条件設定により目的物である繊維構造体1の構造制御も容易になし得ることが分かった。
【0063】
〔実施例3〕
さらに、繊維構造体1について、以下のようにして、吐出速度の探索,繊維集合体1の作製および評価、乾燥方法の検討、繊維構造体1の強度試験、体積変化率の評価、吸水率の評価を行った。
〈吐出速度の探索〉
アルギン酸塩(I)としてのアルギン酸ナトリウムを生理食塩水(3311401A7010,株式会社大塚製薬工業)に溶解して、濃度1.0w/v%のアルギン酸ナトリウム溶液(以下、「SA1」と記す)、濃度2.0w/v%のアルギン酸ナトリウム溶液(以下、「SA2」と記す)、濃度3.0w/v%のアルギン酸ナトリウム溶液(以下、「SA3」と記す)を用意した。
そして、内径100μm、200μm、300μmのノズルをそれぞれセットした図4に示す装置を用いて、上記実施例1と同様の凝固浴中に吐出速度5~650μm/minで段階的に変化させて押し出し、アルギン酸ゲルファイバー(以下、「ファイバー」はアルギン酸ゲルファイバー意味する)を構成繊維とする繊維構造体1を得た。
得られた各繊維構造体1を位相差顕微鏡(IX71,OLYMPUS)で観察し、画像解析ソフト(ImageJ、Wayne Rasband (NIH))を用いて各繊維構造体1のアルギン酸ゲルファイバー径を測定した。
図11に、SA2およびSA3を紡糸原液として用いてアルギン酸ゲルファイバーを巻き取りドラムに巻き取ったときの、吐出速度と、ファイバー径の関係をあらわすグラフを示した。なお、図11中、(a)はノズル内径100μm、濃度2w/v%のときに得られる繊維構造体1のファイバー径とアルギン酸ナトリウムの吐出速度の関係、(b)はノズル内径100μm、濃度3w/v%のときに得られる繊維構造体1のファイバー径とアルギン酸ナトリウムの吐出速度の関係、(c)はノズル内径200μm、濃度2w/v%のときに得られる繊維構造体1のファイバー径とアルギン酸ナトリウムの吐出速度の関係、(d)はノズル内径200μm、濃度3w/v%のときに得られる繊維構造体1のファイバー径とアルギン酸ナトリウムの吐出速度の関係、(e)はノズル内径300μm、濃度2w/v%のときに得られる繊維構造体1のファイバー径とアルギン酸ナトリウムの吐出速度の関係、(f)はノズル内径300μm、濃度3w/v%のときに得られる繊維構造体1のファイバー径とアルギン酸ナトリウムの吐出速度の関係をあらわす。
図11から、ある吐出速度を超えると、ファイバー径がほぼ一定になることがわかるとともに、吐出速度とファイバー径とが、ほぼ比例関係になることがわかった。
【0064】
〈繊維集合体1の作製および評価〉
上記SA2を内径300μmのノズルから上記実施例1と同様の凝固液中に、上記吐出速度の探索において決定した安定吐出速度である142μm/minで押し出すとともに、実施例1と同様のドラムに回転速度129rpm,トラバース速度74.16mm/sでドラムの周囲に巻回集積し、繊維集合体1を得た。
上記のようにして得られた作製直後の繊維集合体1を、メス刃を用いてドラムから切り出したシート状の繊維集合体1を、位相差顕微鏡で観察し、上記画像解析ソフトを用いてファイバー径、ファイバー間距離の測定を行った。
【0065】
〈乾燥方法の検討〉
上記のようにして得られたシート状の繊維集合体1を、真空下常温乾燥、大気圧下常温乾燥、凍結乾燥の3種類の乾燥法で乾燥し、繊維構造体1a、繊維構造体1b、繊維構造体1cを得た。
作製後の繊維構造体1a、繊維構造体1b、繊維構造体1cについてそれぞれ走査型電子顕微鏡(JSM-6390LT型、日本電子株式会社)で観察し、顕微鏡写真を図12に示す。
図12中、(a)は繊維構造体1a、(b)は繊維構造体1b、(c)は繊維構造体1cをそれぞれあらわし、バーは250μmの指標である。
図12から、凍結乾燥することで、他の乾燥法に比べ、繊維集合体1のファイバー形状を維持した繊維構造体1を良好に得られることがわかる。
【0066】
〈冷却速度の決定〉
ディッシュに入れた上記繊維集合体1の作製と同様に得たシート状の繊維集合体1をディッシュに入れた状態(以下、「状態1」と記す)、耐熱ウレタン容器で前記ディッシュ全面を覆った状態(以下、「状態2」と記す)、耐熱ウレタン容器の蓋を取り除き、前記ディッシュ下面のみを覆った状態(以下、「状態3」と記す)でそれぞれ-80℃、-25℃の冷凍庫にて24時間冷凍した。
また、それぞれの条件での繊維集合体1の冷却速度をディッシュの内部底面に固定した温度センサ(CM-O-K,東亜電器)を用いて1min間隔で測定した。
温度の測定結果から、決定係数が0.95以上になる範囲で直線近似し、求めた傾きを冷却速度とした、各冷却状態における冷却速度を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
また、各冷却速度で冷却したときのファイバー断面をそれぞれ走査型電子顕微鏡で観察し、顕微鏡写真を図13に示し、冷却速度とファイバー長軸短軸比の関係を図14に示した。
なお図13中、(a)は冷却速度-7.03℃/min、(b)は冷却速度-2.58℃/min、(c)は冷却速度-1.45℃/min、(d)は冷却速度-2.87℃/min、(e)は冷却速度-2.68℃/minをそれぞれあらわし、バーは50μmの指標である。
また、図14から、冷却速度がファイバー形状に影響することが確認され、冷却速度が-2.58℃/minで長軸短軸比が1に近づくことが示された。
すなわち、このように長軸短軸比が1に近づくことで比表面積が上がり、細胞接着の向上が期待される。
【0069】
〈繊維構造体1の強度試験〉
冷凍庫温度-80℃、上記状態3で、以下の表2に示す条件で9種類の繊維構造体1を作製した。
【0070】
【表2】
【0071】
そして、上記9種類の繊維構造体1より取出したファイバーの膨潤前後の引張強度を以下のように測定し、膨潤前の測定結果を図15に示し、膨潤後の測定結果を図16に示した。
なお、図15図16中、(a)はノズル径が100μmのとき、(b)はノズル径が200μmのとき、(c)はノズル径が300μmのときをそれぞれ示す。
【0072】
〔引張試験〕
(1)膨潤前
膨潤前の各繊維構造体1からファイバーを一本取り出し、フィルムチャック(MODEL-228G-10v AIKOH ENGINERING)に取り付け、引張速度1mm/minで引張試験を行った。
(2)膨潤後
膨潤後の繊維構造体1から取り出した一本のファイバーを上記フィルムチャックに取り付け、ファイバー下部に蒸留水を50μL滴下し、5min静置後、引張速度1mm/minで引張試験を行った。
【0073】
〔引張強度の算出〕
引張強度は、上記引張試験の測定結果から求めた最大耐力をファイバーの破断面の面積で割ることにより算出した。
なお、膨潤前の破断面の面積は、膨潤前のファイバーにおいては、破断面を走査型電子顕微鏡で観察し、上記画像解析ソフトを用いて算出し、膨潤後のファイバーにおいては、破断面を位相差顕微鏡で観察し、上記画像解析ソフトを用いて算出した。
【0074】
図15図16から、紡糸原液中のアルギン酸塩(I)の濃度を高くすることにより、強度が上がることがわかる。すなわち、紡糸原液中のアルギン酸塩(I)の濃度が高くなることにより分子鎖の絡まりが強くなるため、分子鎖が疑似架橋点となり強度向上につながると考えられる。
【0075】
〈体積変化率の評価〉
Rhodamine-Bにより蛍光標識したたんぱく質溶液1mLと生理食塩水9mLをアルギン酸ナトリウムと混合した。その後攪拌・脱泡装置を用いて2000rpm,30min条件でアルギン酸混合生理食塩水を攪拌し、アルギン酸ナトリウム(アルギン酸塩(I))の濃度が1.0w/v%、2.0w/v%、3.0w/v%のタンパク質混合アルギン酸塩(I)溶液を調整した。
上記のようにして得た3種類のタンパク質混合アルギン酸塩(I)溶液をそれぞれ100μm、200μm、300μmのノズルから凝固液中に押し出すとともに、ドラムに巻き取り、タンパク質を混合した9種類の繊維集合体1を得た。
そして、上記3種類のタンパク質を混合した繊維集合体1をそれぞれ24h凍結乾燥し、タンパク質を混合した繊維構造体1を得た。
上記タンパク質を混合した繊維構造体1をスライドガラスに載せたのちカバーガラスで封入し、多光子励起顕微鏡(Multiphoton microscope :以下、「MPM」と記す)(TCS SP8 Multi-Photon、Leica)にて観察した。
また、上記タンパク質を混合した繊維構造体1を蒸留水で膨潤させたのち、同様にしてMPMにて観察した。
また、膨潤前後の繊維構造体1をそれぞれスライドガラスで挟みディッシュに貼り付けてMPMにて観察し、上記画像解析ソフトにより膨潤前後のファイバー断面積の測定を行った。
上記測定の結果から、ノズル径が100μm、300μmときの各濃度のタンパク質混合アルギン酸塩(I)溶液から得られた繊維構造体1の濃度と体積変化率の関係を図17に示した。
図17から、アルギン酸塩(I)濃度が低くなるほど,体積変化率は高くなることがわかる。
【0076】
〈吸水率の評価〉
上記9種類の繊維構造体1からそれぞれ1cm×1cmの試験片を切り出し、その質量を計測し、膨潤前の試験片質量とした。
つぎに、上記膨潤前の試験片に1mLの蒸留水を滴下し、試験片を膨潤させた。500mLのろ過ビン(017810-500 柴田科学)に真空ポンプのチューブ(DA-20D,ULVAC)、フィルタホルダーのシリコン栓(06180-4751A,柴田科学)を取り付けた。フィルターホルダーサポートスクリーン(06180-4731,柴田科学)上に目開き30μmのフィルター(PET30,くればぁ)を置き、フィルター上に膨潤させた試験片を載せた。そして、30s真空ポンプで吸引し、試験片の網目内の水分を取り除いたのち、試験片の質量を測定し、膨潤後の試験片の質量とし、紡糸原液のアルギン酸塩(I)の濃度と、吸水率の関係を図18に示した。
図18から、紡糸原液中のアルギン酸塩(I)の濃度を高くすることで吸水率が低下することがわかる。
【0077】
〔実施例4〕
<繊維構造体2の作製に用いた装置>
図4に示す、繊維集合体1の作製に用いたのと同じ作製装置を用いた。
【0078】
<繊維構造体2の作製>
上記装置を用いて、以下のようにして、厚さ約0.5mm、縦幅約15mm、横幅約20mmの網目構造を有する繊維構造体2を作製した。
【0079】
〔細胞〕
生後約6ケ月、体重約100kgの食用豚後足膝関節より採取した軟骨組織を細切したのち、この軟骨組織からコラゲナーゼ処理により細胞外マトリックス(以下、「ECM」と記す)を取り除き、軟骨細胞を単離した。
【0080】
〔アルギン酸塩(I)溶液〕
1%抗生物質を添加したDMEMにアルギン酸ナトリウムを混合した。その後、攪拌・脱泡装置(HM-500、KEYENCE)を用いてSA混合DMEMを攪拌しアルギン酸塩(I)溶液を調製した。
【0081】
〔細胞入り紡糸原液〕
上記のようにして単離した軟骨細胞とアルギン酸塩(I)溶液を、アルギン酸塩(I)溶液がアルギン酸塩(I)濃度2.0w/v%、細胞密度4.0×106cells/m1となるように調整して細胞入り紡糸原液(軟骨細胞混合アルギン酸塩(I)溶液)を得た。
【0082】
〔凝固液〕
塩化カルシウム二水和物(C7902-500G,SIGMA-ALDLICH)を蒸留水に溶解し、1.2w/v%水溶液を調製した。
【0083】
〔繊維構造体2の作製〕
上記細胞入り紡糸原液を、繊維構造体1の作製に用いた同様の内径50μmのノズルから凝固液中に吐出量100μL/minで押し出した。
そして、凝固液中で生成したファイバーを回転速度130、160rpmのドラムとトラバース速度1.2mm/sで集積し、軟骨細胞混合SA溶液の吐出時間は5mimとしてドラム上に筒状の繊維構造体2を作製した。すなわち、作製された繊維構造体2は、ファイバー内に細胞が包含されている以外は、上記実施例1~3の繊維集合体1と同様になっている。
そして、得られる繊維構造体2は、ファイバーを構成するアルギン酸ゲルは湿潤状態を保持している。
紡糸後に筒状の繊維構造体2を、メス刃を用いて切断し、シート状をした繊維構造体2としてドラムから取り外した。
【0084】
〈繊維構造体2の評価〉
ドラム回転速度130、160rpmで得られた作製直後の繊維構造体2のそれぞれについて、位相差顕微鏡(lX71、OLYMPUS)で写真画像および顕微鏡写真画像を観察したところ、いず
れの繊維構造体2も、図19に模式的に示すように、細胞cが長手方向に分散されたファイバー3aが交差した状態になっていることが確認された。すなわち、この製造方法によって繊維構造体2が良好に得られることがわかった。
つぎに、上記観察画像を用いて 画像解析ソフト(ImageJ、Wayne Rasband (NIH))を用いて繊維構造体2の厚さ、ファイバー径D、ファイバー交差角θ、ファイバー間距離Pfおよび細胞c間距離の測定を行った。
なお、上記繊維構造体2の厚さは、繊維構造体2の底面から上面までの距離を2箇所測定し、得られた測定値の平均値とした。
ファイバー径は、繊維構造体2を形成するファイバー20本の直径を測定し、得られた測定値の平均値をファイバー径とした。
各条件におけるファイバー間距離Pfは、ファイバーの巻取り方向をy軸、トラバースの移動方向をX軸とし、X、y平面上で平行に並列する2本のファイバー間の距離を20箇所測定し、得られた測定値の平均値とした。
ファイバー交差角は20点のファイバー交差点における角度を計測し、得られた測定値の平均値をファイバー交差角とした。
細胞間距離は、図20に示すように、ファイバーの直径の3倍の長さの区間をランダムに選び、明視野画像から、ファイバー内に封入された細胞の投影距離を長軸方向と径方向に分けて測定した。また、長軸方向の細胞間距離は区間内に包埋された細胞の中心間距離をそれぞれ計測した。径方向の細胞分布は、ファイバー中心線から細胞中心までの径方向への距雛をそれぞれ計測した。
ドラム回転速度130rpm、160rpmで得られた繊維構造体2のファイバー径、ファイバー交差角、ファイバー間距離の測定結果を表3に示す。
【0085】
【表3】
【0086】
160rpmで得られた繊維構造体2のファイバーを顕微鏡で観察し、顕微鏡写真を図21に示した。なお、バーは長さ100μmの指標である。
図21から、上記条件で繊維構造体2を製造条件では、軟骨細胞が、ファイバーの長手方向で重なることなくうまく分散されることがわかる。
すなわち、この製造方法によれば、これまで困難であった細胞分布の制御や長期培養を伴うサイズの大きい培養組織の作製が可能となり、生体組織を模倣するような再生組織設計が実現できることで、新規再生医療技術の開発実現が期待できる。
【0087】
上記表3に示すように、ファイバー径はドラム回転速度130rpmが 105.2μm、160rpmでは84.2μmであった。これは、アルギン酸塩(I)溶液が粘性を有しているため、ドラム回転速度を高めたとき、単位時間あたりに巻き取られる長さが大きくなり、張力によりファイバーが伸長し断面積が小さくなったため、ファイバー径が減少しているものと考えられる。したがって、巻き取り速度を制御することで、ファイバー径を制御可能であると考えられる。
一方、ファイバー間距離はドラム回転速度130rpmで56.5μm、ドラム回転速度160rpmで63.9μmであった。これは、トラバース速度が等しいため、ドラム巻き取り速度が大きいほど、トラバース速度に対するドラム回転速度が大きくなり、ドラムに巻き取られる角度が変化するものである。
なお、ファイバー交差角は、ドラム回転速度が高いほど、トラバース速度の影響が少なくなり、浅い角度で巻き取られるため、ファイバー交差角は小さくなる。ファイバー交差角が小さい場合、新しく巻き取られるファイバーがファイバー間に入り込むように巻き取られるため、ファイバー間距離も小さくなる。
また、表3に示すように、2条件とも同等のファイバー交差角およびファイバー間距離であったが、これは、トラバース速度を等しく設定したこと、ファイバー間距離の差が生じるほどにドラム巻き取り速度に差がなかったからであると考えられる。したがって、差が認められなかったため、細胞活性や基質産生に対してファイバー間距離の影響は小さかった可能性が考えられる。
【0088】
また、得られる繊維構造体2のファイバー径ごとの、ファイバーの長手方向の細胞ピッチを調べ、その結果を図22に示し、得られる繊維構造体2のファイバー径ごとの、ファイバーの径方向の中心から細胞までの距離を調べ、その結果を図23に示した。
図22および図23から、ファイバー径が小さくなれば、軟骨細胞の分布が、ファイバーの長手方向に拡がることと、軟骨細胞のファイバー半径方向の広がりが小さくなっていることがわかる。すなわち、ドラム回転速度を上げ、ファイバー径を細くすれば、細胞間距離が長くなることがわかる。
さらに、ファイバー径が細くなると,ファイバー間隔が広くなると同時に半径方法の分散が抑えられ直線状に配列されるようになり、加えて、ファイバー径を30μm以下にすることで,ファイバーが長手方向に重ならず,また半径方向へ細胞サイズほどずれない直線配置となることがわかった。
【0089】
つぎに、以下のようにして繊維構造体2中に封入された軟骨細胞を細胞培養するとともに、封入軟骨細胞の生存評価、細胞外基質の産生評価を行った。
〈細胞培養〉
作製した繊維構造体2を、培養液7m1を加えた60mm Dishに静置し、湿度100%、温度37℃、CO2濃度5%のインキュベーター内で7日および14日間培養した。また、2日ごとに培養液を交換した。
なお、上記培養液は10%FBS、1%抗生物質および0.05%L-アスコルビン酸を含むDMEMとした。培養中に網目構造を崩れにくくするために20×15mmのPC製の培養用チャンバーを使用した。
【0090】
〈封入軟骨細胞の生存評価〉
上記細胞培養法でファイバー中に封入された軟骨細胞を培養し、7日培養後および14日培養後の繊維構造体2の形状による細胞活性を評価するために、蛍光染色による細胞生存評価を以下のようにして行った。
作製直後の繊維構造体2を7m1のPBSで浸漬し2回洗浄した。2回目の洗浄では添加後5min静置した。その後、生細胞染色用色素としての0.1%Calcein AM solution(C1359-100UL、 SIGNIA・ALDLICH)および細胞不透過性の生存率指標である0.3%Elhidium homodimer solution(E1903-5ML SIGNIA・ALDLICH)を含む300μLの生理食塩水を添加し、5min静置した。
静置後、繊維構造体2を300μLの生理食塩水で2回洗浄し、上記MPMを用いて染色された細胞を観察した。
図24に、培養前後の繊維構造体2の明視野画像を示す。なお、図24中、(a)はドラム巻き取り速度 130rpmで得た繊維構造体2で、左から培養0日目、培養7日目、培養14日目を、(b)は、ドラム巻き取り速度 160rpmで得た繊維構造体2で、左から培養0日目、培養7日目、培養14日目をそれぞれあらわし、バーはそれぞれ100μmの指標である。
図24から、ドラム巻き取り速度 130rpm、160rpmの両方で培養の増殖が見られ、本発明の繊維構造体2を用いれば、細胞培養可能であることわかる。
【0091】
〈細胞外基質の産生評価〉
1.第二高調波の検出によるコラーゲン分布の観察
培養した繊維構造体2内部におけるコラーゲンの産生を評価するために、MPMを用いた第二高調波(Second hamonic generation:SHG)の検出によりコラーゲン分布を観察した。
培養7日および14日後に、繊維構造体2を7m1のPBSで 2回洗浄し、MPMを用いて構造体の中央450×450μm表面から深さ500μmの観察領域におけるコラーゲンの分布を3次元的に観察した。
観察の結果、コラーゲンの3次元的な分布を確認できた。一方、定性的な評価では、ファイバー径の異なるファブリックのコラーゲン産生量には大きな違いは確認されなかった。
2.サフラニンOによるプロテオグリカンの観察
繊維構造体2に含まれ、関節軟骨を構成する硝子軟骨に豊富に含まれるタンパク質であるプロテオグリカン(以下、「PG」と記す)を軟骨細胞の形質維持の指標としてサフラニンOによって以下のようにして染色し産生を確認した。
MPMによるLive/Dead観察後のサンプルを300μLのPBSで1回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドに24h浸漬させることで繊維構造体2を固定した。その後、サフラニンO溶液に浸漬しPGを染色した。そして、位相差顕微鏡を用いて染色されたPGを観察した。
図25に、培養14日目の繊維構造体2のサフラニンO染色画像を示す。なお、図25中、(a)はドラム巻き取り速度 130rpmで得た繊維構造体2を、(b)はドラム巻き取り速度 160rpmで得た繊維構造体2をそれぞれあらわし、バーはそれぞれ100μmの指標である。
図25から、2条件とも細胞が増殖し、ECMと細胞によるスフェロイド状組織の形成が確認された。また、いくつかのスフェロイドが連結した組織が確認された。
3.グリコサミノグリカン(以下、「GAG」と記す)/DNAの評価
因みに、軟骨細胞の表現型の指標として軟骨細胞から産生されたGAG量の測定が行われている。また、DNA量を測定することでGAG量の正規化が行われている。
そこで、培養した繊維構造体2における軟骨細胞のECMの産生量を定量的に評価するために、PGを構成するグリコサミノグリカン(GAG)の産生量と培養後の軟骨細胞のDNA量を測定することでGAG/DNAを算出した。
上記DNA量は、培養後の繊維構造体2のアルギン酸ゲルを溶解して得た試験溶液を遠心分離してその上澄みを廃棄し、パパイン溶液で酵素処理し、酵素処理後、密閉式超音波細胞破砕装置(Biorupter、COSMOBIO)により細胞膜を破砕した後、遠心分離し、フルオロメーターおよびQubitTM dsDNA HS assay kit(Q32851,Thermo Fisher Scientific)を用いてDNA濃度を測定した。
GAG量は、上記試験溶液を遠心分離して得た上澄みと、DMMB(ジメチルメチレンブルー)を96 well plateに加えて、マイクロプレートリーダー(Speak、TECAN)により波長525nmにおける吸光度を測定し、コンドロイチン硫酸スタンダード溶液から得た吸光度-コンドロイチン硫酸濃度の校正曲線から測定した。
上記のようにして測定したDNA量、GAG量およびGAG/DNAを表4に示す。
表4に示すように、いずれのドラム巻取り速度においても、GAG量およびDNA量が培養に数が増加するにつれて、増加しており、細胞培養が十分行われていることがわかる。
また、ドラム巻取り速度130rpmで作製した繊維構造体2の方が、ドラム巻取り速度130rpmで作製した繊維構造体2より、すべての値が高かったことがわかる。
これは、生細胞率評価より、細胞活性が高かったため、培養による基質産生量も大きかったといえる。
【0092】
【表4】
【符号の説明】
【0093】
1 繊維集合体(繊維構造体)の作製装置
2 シリンジ
21 ノズル
3 紡糸原液
3’,3a (ゲル化により生成した)ファイバー
4 凝固浴
5 凝固液
6 トラバースガイド
7 巻取りドラム
71 巻取りドラムの回転軸
8,8’ 繊維集合体
8a 繊維構造体
c 細胞
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