(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015790
(43)【公開日】2023-02-01
(54)【発明の名称】レーダ装置および信号処理装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/02 20060101AFI20230125BHJP
【FI】
G01S7/02 216
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119782
(22)【出願日】2021-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】安達 正一郎
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AC02
5J070AC11
5J070AD05
5J070AD09
5J070AE04
5J070AE06
5J070AF01
5J070AH02
5J070AH31
5J070AH34
5J070BB06
(57)【要約】
【課題】 高機動目標を確実に捕捉することの可能なレーダ装置を提供すること。
【解決手段】 実施形態によれば、レーダ装置は、複数のサブアレイモジュールを有しビーム指向方向を電子的に走査可能なフェーズドアレイアンテナと、送信処理部、受信処理部、演算処理部、およびレーダ制御部を具備する。送信処理部は、フェーズドアレイアンテナからレーダ波を送信する。受信処理部は、レーダ波の反射エコーを捕捉したフェーズドアレイアンテナから出力される受信信号をデジタル変換して受信データを生成する。演算処理部は、受信データに基づいて目標への距離データを少なくとも含む目標情報を算出する。レーダ制御部は、距離データに基づいて送信ビーム幅を可変すると共に受信ビーム数を送信ビーム幅に適応させて増減する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のサブアレイモジュールを有しビーム指向方向を電子的に走査可能なフェーズドアレイアンテナと、
前記フェーズドアレイアンテナからレーダ波を送信する送信処理部と、
前記レーダ波の反射エコーを捕捉した前記フェーズドアレイアンテナから出力される受信信号をデジタル変換して受信データを生成する受信処理部と、
前記受信データに基づいて目標への距離データを少なくとも含む目標情報を算出する演算処理部と、
前記距離データに基づいて送信ビーム幅を可変するレーダ制御部とを備える、記載のレーダ装置。
【請求項2】
前記レーダ制御部は、前記レーダ波の送信に係わるサブアレイモジュールを選択的に切り替える、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記レーダ制御部は、前記距離データに基づいて、前記レーダ波の送信に係わるサブアレイモジュールの数を選択的に切り替える、請求項1または2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記レーダ制御部は、前記目標との距離が長いほど前記レーダ波の送信に係わるサブアレイモジュールの数を多くし、当該目標との距離が短いほど当該サブアレイモジュールの数を少なくする、請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記演算処理部は、前記受信データに基づいて前記目標の測角データをさらに含む前記目標情報を算出し、
前記レーダ制御部は、
前記測角データに基づいて目標方位を予測する予測演算処理部を備え、
前記予測された目標方位に専用ビームを指向させる、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記演算処理部は、前記距離データに基づいて受信ビームの数を可変するビーム形成処理部を備える、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記ビーム形成処理部は、前記サブアレイモジュールごとのビームウェイトを算出してデジタルビームフォーミングにより前記受信ビームを形成する、請求項6に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記ビーム形成処理部は、前記フェーズドアレイアンテナの開口に対する前記サブアレイモジュールの配置に対応付けて前記ビームウェイトを算出する、請求項7に記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記ビーム形成処理部は、前記目標との距離が長いほど前記受信ビームの数を少なくし、当該目標との距離が短いほど当該受信ビームの数を多くする、請求項6乃至8のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項10】
複数のサブアレイモジュールを有しビーム指向方向を電子的に走査可能なフェーズドアレイレーダから、レーダ波の反射エコーに基づく受信データを取得するインタフェース部と、
前記受信データに基づいて目標への距離データを少なくとも含む目標情報を算出する演算処理部と、
前記距離データに基づいて送信ビーム幅を可変するレーダ制御部とを備える、信号処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、レーダ装置および信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フェーズドアレイレーダは、例えば、飛しょう体やドローンなどの目標を遠方から捕捉するために用いられる。アンテナ開口に複数のサブアレイを備える形式のフェーズドアレイレーダも知られている。例えば、複数のサブアレイにより送信ペンシルビームを形成し、DBF(Digital Beam Forming)により複数の受信ビームを形成するフェーズドアレイレーダ装置がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】吉田 孝 監修 「改訂レーダ技術」 電子情報通信学会、平成8年10月1日(初版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自ら運動することができ、レーダから照射されるビームに対し回避運動を行うことのできる目標は、高機動目標と総称される。特に近年、滑空飛しょう体と称される目標は高い運動能力を持つに至っている。フェーズドアレイレーダ装置を用いてこのような目標を捕捉するには、遠距離においては、目視線角の変動が少ないので捕捉を継続することは容易である。しかし距離が近づくにつれて目視線角の変動が大きくなることから、予測フィルタの予測から外れてロストする可能性が高まる。
【0005】
このように、高機動目標を遠距離から近距離にわたって捕捉しようとすることには、技術的な困難が伴う。幅広いレンジにわたって高機動目標を確実に捉えることのできる技術が要望されている。
【0006】
そこで、目的は、高機動目標を確実に捕捉することの可能なレーダ装置および信号処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、レーダ装置は、複数のサブアレイモジュールを有しビーム指向方向を電子的に走査可能なフェーズドアレイアンテナと、送信処理部、受信処理部、演算処理部、およびレーダ制御部を具備する。送信処理部は、フェーズドアレイアンテナからレーダ波を送信する。受信処理部は、レーダ波の反射エコーを捕捉したフェーズドアレイアンテナから出力される受信信号をデジタル変換して受信データを生成する。演算処理部は、受信データに基づいて目標への距離データを少なくとも含む目標情報を算出する。レーダ制御部は、距離データに基づいて送信ビーム幅を可変する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係わるレーダ装置の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1に示されるレーダ装置の一例を示す系統図である。
【
図3】
図3は、受信ビーム形成に係わる演算系統の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、サブアレイ送信器2の一例を示す系統図である。
【
図5】
図5は、サブアレイ受信器3の一例を示す系統図である。
【
図6】
図6は、走査制御部4の機能系統の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、送信処理部5の機能系統の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、受信処理部6の機能系統の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、演算処理部8の機能系統の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、レーダ制御部7の機能系統の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、目標距離に応じた送信ビーム制御とサブアレイ開口との関係について説明するための図である。
【
図12】
図12は、目標距離に応じた受信ビーム制御とサブアレイ開口との関係について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、実施形態に係わるレーダ装置の一例を示すブロック図である。実施形態のレーダ装置は、レーダ波を送受信するレーダ送受信部100と、信号処理装置としてのコンピュータ200とを具備する。レーダ送受信部100は、複数のサブアレイモジュールを有し、ビーム指向方向を電子的に走査可能なフェーズドアレイアンテナを具備する、フェーズドアレイレーダである。
【0010】
コンピュータ200は、ネットワーク300経由で、レーダ送受信部100と通信可能に接続される。コンピュータ200は、レーダ送受信部100に各種の制御を与えるとともに、レーダ送受信部100から種々の観測データを取得する。
【0011】
コンピュータ200は、例えばパーソナルコンピュータであり、プロセッサ201、インタフェース部202、メモリ203、およびストレージ204を備える。インタフェース部202は、レーダ送受信部100から、レーダ波の反射エコーに基づく受信データを取得する。
【0012】
プロセッサ201は、ストレージ204に記憶されたプログラムをメモリ203にロードし、プログラム中の命令を実行して、以下に説明する機能を実現する。実施形態では、ストレージ204は、演算処理プログラム204aと、レーダ制御プログラム204bとを記憶する。これによりコンピュータ200は、演算処理部、およびレーダ制御部としての機能を実現する。
【0013】
図2は、
図1に示されるレーダ装置の一例を示す系統図である。実施形態では、複数の素子アンテナを有するサブアレイモジュールを複数備える、サブアレイアンテナについて説明する。素子アンテナごとに一つの送信器または受信器を備える形式のアレイアンテナにおいても同様の議論が成り立つ。
【0014】
また、議論を単純にするため、送信アンテナの系統と受信アンテナの系統とを分離した形式のレーダ装置について説明する。これに限らず、一般的なレーダ装置が採用する送受共用アンテナであっても同様の議論が成り立つ。開口縮小の面で有利であることから、一般には送受共用フェーズドアレイアンテナが用いられている。
【0015】
図2において、送信側にM系統(#1~#M)のサブアレイ送信器2が設けられ、受信側にL系統(#1~#L)のサブアレイ受信器3が設けられる。サブアレイ送信器2、サブアレイ受信器3を、サブアレイモジュールと称する。サブアレイモジュールを規則的に配列して、ビーム指向方向を電子的に走査可能なフェーズドアレイアンテナが形成される。
【0016】
サブアレイ送信器2は、例えばK個(#1~#K)の素子アンテナを備える。素子アンテナは規則的に配列され、それぞれがレーダパルスを送信する。これによりサブアレイ送信器2自体がアレイアンテナとなる。複数のサブアレイ送信器2が規則的に配列されることでフェーズドアレイアンテナが形成され、アンテナ開口から、全体として波面を制御されたレーダ波が空間に放射される。
【0017】
また、レーダ装置は、走査制御部4、送信処理部5、および受信処理部6を備える。これらは電波部と総称される。またレーダ装置は、コンピュータ200(
図1)に実装される機能としての演算処理部8、レーダ制御部7を備える。さらに
図2のレーダ装置は表示部9を備える。この表示部9は、コンピュータ200のモニタ等であってよい。
【0018】
図2において、レーダ制御部7は目標捜索のビームスケジュールに基づき空中線制御信号を生成し、送信処理部5、走査制御部4、および受信処理部6に送る。ここで、空中線制御信号は、例えばビーム指示角、送信パルス幅、周波数、パルス繰り返し周期等のタイミング情報、送信入/切、受信ビーム数などの制御情報を含む。
【0019】
送信処理部5は、フェーズドアレイアンテナからレーダ波を送信する。すなわち送信処理部5は、空中線制御信号の送信パルス幅、周波数、パルス繰り返し周期等の制御情報に基づき送信信号を生成し、各サブアレイ送信器2(#1~#M)に出力する。なお送信信号は、例えば、チャープパルス波形を予め波形メモリにデジタルデータで保持し、パルス繰返し周期に応じて読み出し、アナログ波形に戻すことで生成することができる。
【0020】
走査制御部4は、素子アンテナ1に給電される送信信号の位相を制御するための移相制御信号と、送信タイミングを制御するタイミング信号(送信入/切信号)とを、空中線制御信号のビーム指示角に基づいて生成し、サブアレイ送信器2(#1~#M)に入力する。また、走査制御部4は、空中線制御信号のビーム指示角に基づいて、受信信号の位相を制御するための移相制御信号を生成し、サブアレイ受信器3に出力する。
【0021】
サブアレイモジュールとしてのサブアレイ受信器3は、それぞれ設定された移相データの方向から到来する電波を捕捉し、受信信号として受信処理部6に出力する。
受信処理部6は、送信されたレーダ波の反射エコーを捕捉したフェーズドアレイアンテナから出力される受信信号をデジタル変換し、受信データを生成する。すなわち受信処理部6は、入力した各受信信号をアナログ/デジタル(A/D)変換したのちI/Q検波して、デジタルのサブアレイI/Q信号(受信データ)を生成する。この受信データは演算処理部8に渡される。
【0022】
演算処理部8は、サブアレイI/Q信号からDBFによるビーム形成を行う。この時、ビーム形成ウェイトによりビーム指向角が変わる。また、複数種類のビーム形成ウェイトを用いることにより、複数種類のビームが同時形成される。ビーム形成後の信号に対し、パルス圧縮処理、積分処理等の信号処理がなされた後、測距、測角を含む検出処理を行う。これにより得られた目標への距離データ、および測角データは、目標情報としてレーダ制御部7に出力される。
【0023】
レーダ制御部7は目標情報から、カルマンフィルタ等の予測演算処理を施して、目標の移動予測を行い、予測の方位に専用ビームを向けるため、空中線制御信号を出力する。捜索で検出した目標に対し、目標移動予測を行い、予測方向に専用ビームを指向させることができる。次に、専用ビームにより検出した信号から、目標予測を行い、予測方向に専用ビームを指向させる。
【0024】
この一連の動作シーケンスの中で、実施形態では、目標までの距離データに応じて、各サブアレイ送信器2の送信オン/オフ(入/切)制御により送信ビーム幅を可変し、併せて受信ビーム形成数を可変する。
【0025】
図3は、受信ビーム形成に係わる演算系統の一例を示す図である。ここでは、サブアレイの開口配置との関係と合わせて、受信ビーム形成を説明する。
図3において、全開口のサブアレイ数LのサブアレイI、Q信号が入力される。ここで、開口を4分割し、開口(1)、開口(2)、開口(3)、開口(4)に分けて受信ビームを形成する。
【0026】
複数本のビーム形成を実施するため、例えばJ種類のビームウェイトを用意する。入力信号にビームウェイトJ種類を乗算することにより、Σビーム1、・・・、ΣビームJ、ΔAZビーム1、・・・、ΔAZビームJ、ΔELビーム1、・・・、ΔELビームJが形成される。
【0027】
ここで、Σは和ビームであり、ウェイト乗算後に全開口を加算したものになる。また、Δは差ビームを表す。ΔAZは、アンテナ開口を方位方向に2分割し、それぞれのビームの差分である。同様に、ΔELはアンテナ開口を仰角方向に2分割し、それぞれのビームの差分である。Σ、ΔAZ、ΔELを、それぞれ式(1)により求めることができる。
【0028】
【0029】
図4は、サブアレイ送信器2の一例を示す系統図である。サブアレイ送信器2は、素子アンテナ#1~#Kに各々対応する、K個(#1~#K)の送信系統40を有する。
図4において、走査制御部4(
図2)からの移相制御信号は移相分配回路46でK系統に分配され、各送信系統40に入力される。また、送信処理部5(
図2)からの送信信号(入力RF(Radio Frequency)信号)が、K分配器41によりK個の系統に分配され、各送信系統40に入力される。
【0030】
送信系統40は、移相器42、送信増幅器43、および、ローパスフィルタ44を備える。移相器42は、移相制御信号に基づいて送信信号(入力RF信号)の位相を制御する。移相制御された送信信号は、送信増幅器43により送信レベルにまで増幅される。ローパスフィルタ44は、増幅により発生した2倍波、3倍波、4倍波、5倍波などの高調波を抑圧し、送信信号を素子アンテナ1に給電する。これにより送信信号は空間に放射される。なお、送信増幅器43の電源は電源回路45から供給される電力であり、この電力は、増幅器入/切信号に応じてオン/オフされる。
【0031】
図5は、サブアレイ受信器3の一例を示す系統図である。サブアレイ受信器3は、素子アンテナ#1~#Jに各々対応する、J個(#1~#J)の受信系統50を有する。
図5において、走査制御部4(
図2)からの移相制御信号(移相データ)は移相分配回路55でJ系統に分配され、各受信系統50に入力される。
【0032】
受信系統30は、素子アンテナ1に接続されるフィルタ51、受信増幅器(ローノイズアンプ)52、移相器53を備える。フィルタ51は、素子アンテナ1で捕捉された電波から干渉波を抑圧する。受信増幅器52は、干渉波を除去された電波を低雑音で増幅する。移相器53は、増幅後の電波を移相データに基づいて位相制御し、J合成器56に送出する。J合成器56は、各受信系統50からの位相制御された信号を合成し、サブアレイ出力(受信信号)として受信処理部6(
図2)に送る。
【0033】
図6は、走査制御部4の機能系統の一例を示す図である。走査制御部4は、移相演算回路61、および移相分配回路62を備える。移相演算回路61は、レーダ制御部7(
図2)からの空中線制御信号に含まれるビーム指向方向から、各サブアレイモジュールの位置ベクトルに対応する移相データを算出する。つまり、各サブアレイ送信器2、サブアレイ受信器3の、フェーズドアレイアンテナのアンテナ開口における位置毎に、移相データが計算される。この移相データは、移相分配回路62を経由して各サブアレイ送信器2、各サブアレイ受信器3に出力される。
【0034】
図7は、送信処理部5の機能系統の一例を示す図である。送信処理部は、送信タイミング制御回路71、送信制御回路72を備える。送信タイミング制御回路71は、レーダ制御部7(
図2)からの空中線制御信号に基づいて送信タイミング、パルス幅、および増幅器入/切信号生成し、送信制御回路72に与える。送信制御回路72は、波形メモリ73から送信デジタル波形を読み出し、D/A変換器74でアナログ波形に戻したのちアップコンバータ75でRF信号にまで周波数変換する。このRF信号は増幅回路76で増幅され、分配回路57で信号分配されて、送信信号として各サブアレイ送信器2に出力される。
【0035】
図8は、受信処理部6の機能系統の一例を示す図である。受信処理部6は、受信タイミング制御回路81、受信回路82を備える。受信タイミング制御回路81は、レーダ制御部7(
図2)からの空中線制御信号に基づいて、局発信号、A/D変換CLK、減衰制御(受信飽和回避)信号を生成し、受信回路82に与える。受信回路82は、サブアレイ受信器3からの受信信号#1~#Lをダウンコンバータ83で周波数変換し、A/D変換器84でデジタルに変換し、I/Q検波回路85でデジタルI/Q信号に変換する。その後、各デジタルI/Q信号は、データ転送回路86にて高速シリアル信号のI/Qデータ#1~#L(受信データ)として、演算処理部8に渡される。
【0036】
図9は、演算処理部8の機能系統の一例を示す図である。演算処理部8は、受信データに基づいて目標への距離データを少なくとも含む目標情報を算出する。実施形態では、演算処理部8は、さらに、目標の測角データを含む目標情報を算出する。
【0037】
図9において、演算処理部8は、それぞれ実行中のプログラム(プロセス)としてのビーム形成処理91、パルス圧縮処理92、MTI処理93、積分処理94、検出処理/測角処理95、および、目標情報作成処理96を生成する。
【0038】
ビーム形成処理91は、ビーム形成用のI/Qデータを受信回路82から取得し、目標までの距離データに基づいてビーム形成を行う。目標までの距離に応じて、例えば1本~J本(最大ビーム形成数)までビーム数が可変される。ビーム形成処理91は、目標との距離が長いほど受信ビームの数を少なくし、目標との距離が短いほど受信ビームの数を多くする。
【0039】
すなわちビーム形成処理91は、サブアレイ受信器3ごとのビームウェイトを算出して、デジタルビームフォーミングにより受信ビームを形成する。ビームウェイトは、フェーズドアレイアンテナの開口に対するサブアレイ受信器3の配置に対応付けて算出される。
【0040】
図9に示されるように、最大数J本のビームが形成された場合、各ビームに対して、パルス圧縮処理92、MTI(Moving Target Indicator)処理93、積分処理94が施され、検出処理/測角処理95が施される。検出処理においてはノイズスレッショルド、CFAR、クラッタマップ等の一般的な処理に加え、ビーム間相関および最大値検出を実施する。検出処理により目標までの距離データが得られると、測角処理が行われて、目標の測角データが算出される。
【0041】
図10は、レーダ制御部7の機能系統の一例を示す図である。レーダ制御部7は、目標の距離データに基づいて送信ビーム幅を可変する。実施形態では、レーダ制御部7は、距離データに基づいて、レーダ波の送信に係わるサブアレイ送信器2を選択的に切り替える。あるいはレーダ制御部7は、距離データに基づいて送信入/切信号をオンオフして、レーダ波を送信するサブアレイ送信器2の数を選択的に切り替える。すなわちレーダ制御部7は、目標との距離が長いほど多くのサブアレイ送信器2をオンし、目標との距離が短いほどオン状態のサブアレイ送信器2を少なくする(つまり多くのサブアレイ送信器2をオフする)。
【0042】
図10において、レーダ制御部7は、それぞれ実行中のプログラム(プロセス)としての予測演算処理103、スケジュール生成処理101、および空中線制御処理102を生成する。
【0043】
スケジュール生成処理101は、予め記憶された捜索シーケンスに従って、スケジュール制御データを空中線制御処理102に出力する。空中線制御処理102は、スケジュールに従って各ハードウェア構成品に空中線制御信号(ビーム指示角、送信パルス幅、周波数、パルス繰り返し周期等のタイミング情報、送信入/切、受信ビーム数の制御情報)を出力する。
【0044】
一方、捜索により検出された目標情報が入力されると、予測演算処理103は、測角データに基づいて目標方位を予測する。すなわち予測演算処理103は、ビーム指向予測を行い、専用ビームを捜索に割り込ませるためのスケジュール割込情報を出力する。これに応じてスケジュール生成処理101は、専用ビームの割込を含めた再スケジュールを生成する。これらのシーケンス制御は繰り返し実行され、移動する目標に対して専用ビームが継続的に照射される。
【0045】
<作用>
図11は、目標距離に応じた送信ビーム制御とサブアレイ開口との関係について説明するための図である。
図11において、例えばn×n素子から成るサブアレイアンテナを基本単位とする。送信期間において、目標までの例えば長距離、中距離、単距離の3段階にわたる距離に応じて1個からN×N個までのサブアレイアンテナを送信入/切制御することで、送信ビーム幅を可変する。
【0046】
ここで、S/Nに対するレーダ方程式は式(2)で表される。
【数2】
【0047】
式(2)において、S/N:信号対ノイズの電力比、Pt:送信電力、Gt:送信アンテナ利得、Gr:受信アンテナ利得、λ:波長、σ:目標反射面積、τ:送信パルス幅、k:ボルツマン定数、Ts:システム温度、R:目標距離、Lsys:システム損失である。
【0048】
式(3)は、測角精度とS/Nの関係を示す。
【数3】
【0049】
式(3)において、S/N:信号対ノイズの電力比、σ:測角精度、θr:受信ビーム幅、km:モノパルス係数である。
【0050】
式(2)、式(3)からわかるように、送信ビーム幅θtは、送信サブアレイ数を少なくすると広がり、送信サブアレイ数を多くすると狭くなる。すなわち、送信アンテナ利得Gtおよび送信電力Ptは送信ビームが広いほど小さくなり、送信ビーム幅が狭いほど大きくなる。
【0051】
S/Nはレーダ方程式から距離の4乗に反比例し、距離が近いほどS/Nが高くなるため、距離が近くなるに従い送信アンテナ利得Gt、送信電力Ptが下がってもS/Nを一定以上の値に保つことができる。
【0052】
次に、測角精度は受信ビーム幅θrとS/Nの関数であり、一定値以上のS/Nを得るためには受信ビーム幅θrに依存することになる。ここで、受信ビーム幅θrは全サブアレイアンテナ開口のビーム幅であり、絶えず一定となる。従って、オン状態のサブアレイ送信器2の数を切り替え制御して送信ビーム幅を可変したとしても、ある一定の測角精度を担保する設計は可能であることが示される。
【0053】
図12は、目標距離に応じた受信ビーム制御とサブアレイ開口との関係について説明するための図である。受信期間においては、DBFにより常時N×N個のサブアレイアンテナによるビーム形成を実施する。ただし実施形態では、送信ビーム幅に合わせて、形成するビームの数(本数)を可変する。
図12においては、3段階の距離に対応して受信ビーム本数を3段階に切り替える。このように、近距離において多数の受信ビームを形成することで、近距離において高機動目標が目視線角方向に予測よりも大きく移動し、1本のビームから外れたとしても、他のビームで捕捉することが可能となる。このように、受信専用ビームを遠方では1本とし、目標が近づくに従って本数を増加させることにより、単一ビームから予測演算が外れた場合でも他のビームで目標を継続して捕捉することが可能になる。
【0054】
<構成および作用のまとめ>
実施形態における構成および作用を、以下に示す。
[1] 送信期間では、送信するサブアレイ数を距離に応じて可変し、遠方では全数送信、近距離では送信サブアレイ数を1つとし、その間の距離では、距離に応じて送信するサブアレイ数を最適化する。
[2] [1]により送信ビーム幅が距離に応じて可変され、遠距離のビーム幅は狭く、近距離では広くなる。
[3] 受信期間では、DBF処理により、送信ビーム幅に応じてビーム形成数を可変し、遠距離では1本、距離が近づくに従いビーム数を増加させていく。
[4] [1]、[2]、[3]の結果、距離が近づくに従い、送信ビーム幅は広くなるが、受信ビーム幅は絶えず全アンテナ開口のビーム幅となる。
[5] [1]、[2]、[3]の結果、送信電力は距離が近づくに従い低くなる。
[6] 観測精度のうち、レーダにとって厳しい測角精度はS/Nと受信ビーム幅の関数であるが、S/Nは距離の4乗に反比例し、目標が近づくに従い増加し、受信ビーム幅は一定となる。よって、距離が近づくに従い送信アンテナ利得および送信電力が低くなったとしても、ある一定以上の観測精度を保つことが可能となる。
[7] なお、方位角、仰角ともに受信DBFにて複数本のビーム形成をする場合は、サブアレイを3次元配列にするのが好ましい。
【0055】
<効果>
以上説明したように、実施形態によれば、サブアレイアンテナ構成のフェーズドアレイレーダにおいて、目標が高機動で運動したとしても、遠距離から近距離までにわたって専用ビームでの捕捉が可能となる。
【0056】
一般に、高機動目標に対し、遠距離では、全アンテナ開口を使用したペンシルビームで捕捉することは容易であるが、近距離において、目視線角が大きく変動する場合、予測フィルタの予測から外れる可能性が高い。これは、同一のビーム幅で考えると、遠距離になるに従い照射面性が増加し、目標が高機動に運動してもビームから外れないが、近距離になるに従い、照射面積が小さくなるため、目標が高機動に運動するとビームから外れ易くなることによる。つまり専用ビームによる捕捉を行う場合、1本のペンシルビームでは近距離でビームから外れる可能性が高くなる。
また、遠距離においては目標のS/Nが低いため観測精度が劣化する。一方、近距離になると目標のS/Nは高くなり観測精度は十分すぎるほど高くなる。
【0057】
そこで実施形態では、目標の距離データを取得し、その結果に基づいて送信ビーム幅を可変するとともに、受信ビームの本数を適応的に可変するようにした。つまり遠距離目標に対しては、例えば送信ペンシルビーム、受信ペンシルビームを用いるが、距離が近づくにつれ送信ビームはファンビーム形状とし、受信ビームは、送信ビームの形状(太さ)に適応させてマルチビームの本数を増加させるようにした。これにより送信電力、受信電力にもそれぞれ技術的な合理性を担保できるとともに、目標をロストする可能性も極めて低くすることができる。これらのことから、実施形態によれば、高機動目標を確実に捕捉できるレーダ装置および信号処理装置を提供することが可能となる。
【0058】
なお、この発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば
図11、
図12において3段階での距離について議論したが、もちろん、5段階、または10段階、あるいは任意の切り替え数で構わない。また、DBFによりビーム形成処理の種別を瞬時に切り替えることも可能である。
【0059】
以上、実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示するものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
1…素子アンテナ、2…サブアレイ送信器、3…サブアレイ受信器、4…走査制御部、5…送信処理部、6…受信処理部、7…レーダ制御部、8…演算処理部、9…表示部、30…受信系統、40…送信系統、41…K分配器、42…移相器、43…送信増幅器、44…ローパスフィルタ、45…電源回路、46…移相分配回路、50…受信系統、51…フィルタ、52…受信増幅器、53…移相器、55…移相分配回路、56…J合成器、57…分配回路、61…移相演算回路、62…移相分配回路、71…送信タイミング制御回路、72…送信制御回路、73…波形メモリ、74…D/A変換器、75…アップコンバータ、76…増幅回路、81…受信タイミング制御回路、82…受信回路、83…ダウンコンバータ、84…A/D変換器、85…I/Q検波回路、86…データ転送回路、91…ビーム形成処理、92…パルス圧縮処理、93…MTI処理、94…積分処理、95…検出処理/測角処理、96…目標情報作成処理、100…レーダ送受信部、101…スケジュール生成処理、102…空中線制御処理、103…予測演算処理、200…コンピュータ、201…プロセッサ、202…インタフェース部、203…メモリ、204…ストレージ、204a…演算処理プログラム、204b…レーダ制御プログラム、300…ネットワーク。