(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157957
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】大型ディーゼルエンジンの運転方法及び大型ディーゼルエンジン
(51)【国際特許分類】
F02B 37/18 20060101AFI20231019BHJP
F02D 19/06 20060101ALI20231019BHJP
F02D 13/02 20060101ALI20231019BHJP
F02D 23/00 20060101ALI20231019BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20231019BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20231019BHJP
F02B 37/00 20060101ALI20231019BHJP
F02B 25/14 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
F02B37/18 A
F02D19/06 B
F02D13/02 A
F02D23/00 K
F02D43/00 301Z
F02D43/00 301R
F02D45/00 360A
F02D45/00 360E
F02B37/00 302A
F02B25/14 B
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023133386
(22)【出願日】2023-08-18
(62)【分割の表示】P 2018085601の分割
【原出願日】2018-04-26
(31)【優先権主張番号】17171118.7
(32)【優先日】2017-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】515111358
【氏名又は名称】ヴィンタートゥール ガス アンド ディーゼル アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ローラント アルダー
(57)【要約】
【課題】大型ディーゼルエンジンの運転方法の提供。
【解決手段】このディーゼルエンジンは、液体燃料を燃焼のためにシリンダ内に導入する液体モードでも、あるいはガスを導入する気体モードでも運転できる。この方法は、ディーゼルエンジンのシリンダに掃気を供給して空気-燃料混合物を生成し、掃気はターボチャージャによって充填圧力で提供され、ターボチャージャはディーゼルエンジンからの排気ガスによって駆動され、ターボチャージャは周囲空気を吸入して掃気を提供し、ターボチャージャの出力は排気弁によって変更でき、排気弁によってターボチャージャを駆動する排気ガスの質量流量が調整され、ディーゼルエンジンの運転中に周囲空気又は掃気の温度及び/又は湿度の特性である制御パラメータが決定され、制御パラメータの値を使用して排気弁を調整して、ターボチャージャの出力を周囲空気の温度及び/又は湿度に応じて変化させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型ディーゼルエンジン、特に二元燃料大型ディーゼルエンジンを運転する方法であって、
液体燃料が燃焼のためにシリンダ内に導入される液体モードで運転することができ、かつ
前記二元燃料大型ディーゼルエンジンが、シリンダ内に燃料としてガスを導入する気体モードでも運転することができ、
前記大型ディーゼルエンジンのシリンダに掃気を供給して空気-燃料混合物を生成し、前記掃気はターボチャージャによって充填圧力で提供され、前記ターボチャージャは前記大型ディーゼルエンジンからの排気ガスによって駆動され、前記ターボチャージャは周囲空気を吸入して前記掃気を提供し、前記ターボチャージャの出力は排気弁によって変更可能であり、前記排気弁によって前記ターボチャージャを駆動する前記排気ガスの質量流量が調整される前記方法において、
前記大型ディーゼルエンジンの運転中に周囲空気又は掃気の温度及び/又は湿度の特性である制御パラメータが決定され、前記制御パラメータの値を使用して前記排気弁を調整して、前記ターボチャージャの出力を前記周囲空気の温度及び/又は湿度に応じて変化させることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記シリンダの出口弁を所定の閉鎖時間で閉鎖して前記シリンダの掃気を完了させ、前記閉鎖時間を決定するために前記制御パラメータの値を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ターボチャージャによって吸入された前記周囲空気の温度は、前記制御パラメータを決定するために測定によって決定される、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ターボチャージャによって吸入される前記周囲空気の湿度が、前記制御パラメータを決定するために測定によって決定される、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記制御パラメータを決定するために、前記充填空気の温度が使用される、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記排気弁を調整するために第1の相互関係が使用され、この相互関係は、前記ターボチャージャによって供給される充填圧力が前記ターボチャージャによって生成された空気質量流量に依存することを示す、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記シリンダの出口弁の閉鎖タイミングを決定するために第2の相互関係が使用され、相互関係は、提供された掃気に及ぼす掃気度の依存性を示し、掃気度は、シリンダ内の掃気の体積と、掃気の体積及び閉鎖時間におけるシリンダ内の残留ガスの合計との比である、請求項2から請求項7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記出口弁の前記閉鎖時間は、前記シリンダ内の掃気度が少なくとも70%、好ましくは少なくとも約80%になるように調整される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1及び/又は前記第2の相互関係は、ルックアップテーブルの形態で提供される、請求項6から請求項8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の相互関係は、機能的相互関係として、又はアルゴリズムの形態で提供される、請求項6から請求項9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の相互関係は、機能的相互関係として、又はアルゴリズムの形態で提供される、請求項6から請求項10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
圧縮機モデル及び掃気モデルが提供され、前記圧縮機モデルは、前記ターボチャージャによって供給される前記充填圧力と前記ターボチャージャによって生成される前記空気質量流量との間の相互関係を、前記周囲空気の温度又は湿度を考慮してモデル化したものであり、前記掃気モデルは、前記シリンダ内の前記掃気度と、供給される前記掃気と、前記出口弁の閉鎖時間との間の相互関係を、前記充填空気の温度を考慮してモデル化したものであり、前記圧縮機モデルと前記掃気モデルによって、前記制御パラメータの値に応じて、前記出口弁の閉鎖時間と前記排気弁の調整の両方が決定される、請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記シリンダ内の最終圧縮温度が所定の範囲内に維持される、請求項1から請求項12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1から請求項13までのいずれか1項に記載の方法によって運転される大型ディーゼルエンジン、特に二元燃料大型ディーゼルエンジン。
【請求項15】
長手方向に掃気される2ストロークの大型ディーゼルエンジンとして設計された、請求項14に記載の大型ディーゼルエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型ディーゼルエンジン(特に、液体燃料を燃焼のためにシリンダ内に導入する液体モードで運転可能であり、ガスをシリンダ(気筒)内に燃料として導入する気体モードでも運転可能な二元燃料大型ディーゼルエンジン)の運転方法、及びそれぞれのカテゴリーの独立請求項の前文に記載された大型ディーゼルエンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、長手方向に掃気される2ストロークの大型ディーゼルエンジンのような、2ストローク又は4ストロークエンジンとして設計され得る大型ディーゼルエンジンは、船舶用の駆動ユニットとして、又は静止運転中でさえ、電気エネルギーを生成するための大型発電機を駆動するために、しばしば使用される。エンジンは通常、連続運転ではかなりの期間稼働し、運転の安全性と可用性に対する高い要求がある。結果として、特に長いメンテナンス間隔、操作材料の低い摩耗及び経済的な取り扱い(ハンドリング)が、操作者の中心的基準である。
【0003】
近年、排気ガスの質(特に、排気ガス中の窒素酸化物濃度)は、重要性が増している別の重要な問題である。ここで、対応する排出閾値の法的要件及び限界値がますます厳しくなっている。その結果、特に2ストローク大型ディーゼルエンジンでは、排出閾値の遵守は、ますます困難になり、技術的により複雑になり、したがってより高価になってきており、又は最終的にコンプライアンスはもはや意味をなさないので、汚染物質によって非常に汚染されている古典的な重油の燃焼だけでなく、ディーゼル油又は他の燃料の燃焼も、より問題になる。
【0004】
したがって実際には、いわゆる「二元燃料エンジン」(すなわち、2つの異なる燃料で運転可能なエンジン)の必要性が、長い間存在している。ガス(例えば、天然ガス(例えば、LNG(液化天然ガス))又は液化石油ガスの形態のガス又は内燃機関を駆動するのに適した別のガス)は気体モードで燃焼され、他方では、好適な液体燃料(例えば、ガソリン、ディーゼル油、重油、アルコール、油誘導体及びそれらの水混合物、バイオ燃料、又は他の好適な液体燃料)を同じエンジン内において液体モードで燃焼させることができる。この場合、エンジンは、2ストロークと4ストロークエンジンの両方(特に、長手方向に掃気される2ストロークの大型ディーゼルエンジン)とすることができる。
【0005】
このように、二元燃料大型ディーゼルエンジンは、燃料の自己点火を特徴とするディーゼル運転だけでなく、燃料の確実な点火を特徴とするオットー運転においても作動させることができる。特に、燃料の自己点火は、別の燃料の確実な点火に対しても使用することができる。
【0006】
液体モードでは、通常、燃料はシリンダの燃焼室内に直接導入され、そこで自己点火の原理に従って、又は拡散燃焼の原理に従って燃焼する。気体モードでは、オットー原理に従って気体状態のガスを掃気と混合して、シリンダの燃焼室内で点火可能な混合物を生成することが知られている。この低圧法では、シリンダ内の混合物の点火は、通常、少量の液体燃料をまさにその瞬間にシリンダの燃焼室又はプレチャンバに噴射することによって実行され、その後、空気-ガス混合物の点火につながる。もちろん、空気-ガス混合物は、電気的に又はそれ自体既知の別の方法で確実に点火することもできる。二元燃料エンジンは、運転中に気体モードから液体モードに切り替えることができ、その逆も可能である。
【0007】
特に、気体モードでは、掃気のガスに対する正確な比率、いわゆる空気-ガス比又は空気-燃料比(空燃比)の調節が極めて重要である。実際、この空気の燃料に対する比率は、液体モード又はディーゼルモードにおいても重要であるが、気体モードにおける非最適空気-燃料比の影響は、通常、液体モードよりも顕著である。
【0008】
大型ディーゼルエンジン内のシリンダ用の掃気又は充填空気は、通常、掃気圧力又は充填圧力下でシリンダ内に導入する準備ができている掃気の質量流量を発生させるターボチャージャによって提供される。排気ターボチャージャとしても知られているターボチャージャは、典型的には、タービンと、タービンによって駆動される圧縮機とを備え、タービンは大型ディーゼルエンジンからの排気ガスによって駆動される。圧縮機は新鮮な周囲空気を吸入し、圧縮して掃気を提供する。通常、ターボチャージャの下流には、充填空気冷却器が依然としてあり、掃気がシリンダに供給される前に冷却する。
【0009】
ターボチャージャによって供給される掃気の量又は生成される充填圧力は、エンジンの負荷、ひいては出力又はトルク又はエンジンの速度に依存する。更に、ターボチャージャの出力を排気弁(これは廃棄ゲート弁としても知られている)によって調整するのが通例である。タービンに供給される排気ガスの質量流量は、この排気弁によって調整することができる。排気弁が完全に又は部分的に開いている場合、排気ガスの一部はターボチャージャのタービンに送られ、その結果、最大可能出力を提供しない。排気弁が完全に閉鎖されている場合、排気ガスの全質量流量がターボチャージャのタービンに供給され、その結果、ターボチャージャは、その最大可能出力を提供する、すなわち、掃気の最大可能質量流量を発生する。
【0010】
大型ディーゼルエンジンが現在稼働している負荷に応じて、排気弁の調整、したがって、駆動のためにターボチャージャに供給される排気ガスの質量流量を変更することが知られている。ターボチャージャによって発生される充填圧力をそれぞれの負荷条件に対して一定に保つことを意図しており、充填圧力は本質的に圧縮機の出口での空気の圧力である。典型的には、所望の充填圧力は、エンジン負荷の増加と共に増加する。例えば、低負荷領域では、中間又は高負荷領域よりも低い充填圧力が必要とされる。したがって、エンジン制御ユニット又は大型ディーゼルエンジン用の点検装置にデータが蓄積され、このデータはエンジンの各負荷又は負荷範囲に充填圧力を割り当てる。現在の負荷に応じて、排気ガス弁はこのように調整され、ターボチャージャが掃気用の所望の充填圧力を提供する。
【0011】
特に、気体モードがオットー原理に従って作動される場合、好ましくは低排出、効率的、かつ経済的なエンジン運転のためには、空気-ガス比の正確な調整が極めて重要である。ガス含有量が高すぎると、空気-ガス混合物は濃すぎる。混合物の燃焼が速過ぎる又は早過ぎるため、機械的負荷が高くなり、エンジンがノッキングし、排気ガス中の汚染物質が著しく増加する可能性がある。燃焼プロセスは、もはや、シリンダ内のピストン運動にもはや正確に適合しないので、これは、とりわけ、燃焼がピストンの運動に対して部分的に作用するという事実にもつながる。
【0012】
通常の運転条件下での現代の大型ディーゼルエンジンにおける空気-ガス比の正確な調整がもはや大きな問題ではないにしても、かなりの困難を招く可能性がある運転条件が存在する。
【0013】
例えば、通常の運転条件とは、大型ディーゼルエンジンの技術仕様が指すもの(例えば、全負荷時のその最大出力、その汚染物質排出量、燃料消費量など)を指す。排気弁の負荷に依存する調整もまた通常、通常の運転状態を指す。これらの技術仕様は、国際規格(ISO)(例えば、ISO3046-1)に規定された運転条件を指し、例えば、周囲温度(より具体的には、25℃の吸気温度)を指す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、大型ディーゼルエンジンは、しばしば、これらの「通常の」運転条件にもはや対応しない運転条件下で運転しなければならない。
【0015】
一例として、ここではいわゆる熱帯条件が言及されており、特に(しかしながら、それだけではないが)気体モード運転が困難になる可能性がある。熱帯条件は、周囲空気の非常に高い温度及び/又は非常に高い相対湿度(例えば、少なくとも27℃又は更に30℃を超える温度又は30%、40%、又は更に60%を超える相対湿度)によって特徴付けられる環境条件である。熱帯条件の一例は、60%の相対湿度及び45℃の空気温度である。ターボチャージャによって吸入されてシリンダに掃気を提供する空気もまた、このような熱帯条件下では非常に暖かい及び/又は非常に湿っている。
【0016】
暖かい空気は密度がより低く、湿った空気は充填空気冷却器の水分凝縮又は蒸気形成を非常に速く行うことができるため、この暖かい/湿った吸入空気は、ターボチャージャの空気質量流量を大幅に減少させることができる。このような空気の質量流量の減少は、特に気体モードでは、空気-ガス比に非常に敏感であり、ガスの燃焼が空気不足の範囲に入り、すなわち、シリンダ内の空気-ガス比が低下し、空気-ガス混合物が過度に濃厚になり、これによって大型ディーゼルエンジンが非常に速い燃焼の範囲に入り、高い機械的負荷又は非常に高い汚染物質の排出を招く可能性がある。
【0017】
また、船舶のエンジンのための典型的に海水である環境の高温はまた、通常、エンジンの冷却水の温度が上昇し、シリンダに供給される掃気の温度の上昇を招く。これによって、シリンダの燃焼室内の温度が上昇し、大型ディーゼルエンジンが、既に言及した関連する問題を伴う過度に高速な燃焼の範囲に入る結果になる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記の問題に対応するものである。
【0019】
したがって、この最先端技術から出発して、本発明の目的は、大型ディーゼルエンジン(特に、二元燃料大型ディーゼルエンジン)を運転する方法を提案することであり、これは、大型ディーゼルエンジンの汚染物質排出を著しく増加させることなく、好ましくない環境条件下(特に、熱帯条件下)でさえも最良の可能な空気-燃料比で大型ディーゼルエンジンを運転可能にする。更に、本発明の目的は、対応する大型ディーゼルエンジンを提案することである。
【0020】
この問題を解決する本発明の目的は、それぞれのカテゴリーの独立請求項の構成によって特徴付けられる。
【0021】
本発明によれば、大型ディーゼルエンジン(特に、二元燃料大型ディーゼルエンジン)を運転する方法であって、液体燃料が燃焼のためにシリンダ内に導入される液体モードで運転することができ、かつ二元燃料大型ディーゼルエンジンがシリンダ内に燃料としてガスを導入する気体モードでも運転することができ、大型ディーゼルエンジンのシリンダに掃気を供給して空気-燃料混合物(混合気)を生成し、掃気はターボチャージャによって充填圧力で提供され、ターボチャージャは大型ディーゼルエンジンからの排気ガスによって駆動され、周囲空気が吸入されて掃気を提供し、ターボチャージャの出力は排気弁によって変更可能であり、排気弁によってターボチャージャを駆動する排気ガスの質量流量が調整され、大型ディーゼルエンジンの運転中に周囲空気又は掃気の温度及び/又は湿度の特性である制御パラメータが決定され、制御パラメータの値を使用して排気弁を調整して、ターボチャージャの出力を周囲空気の温度及び/又は湿度に応じて変化させる方法が提案される。
【0022】
このように、ターボチャージャの出力、したがって利用可能な掃気流及び充填圧力は、もはや大型ディーゼルエンジンの現在の負荷に依存するだけでは調整されないが、周囲空気の現在の特性(特に、その温度及びその湿度)もまた、シリンダが燃焼室内で正しい空気-燃料比を調整するのに十分な掃気の質量流量が確保されることを保証するために、制御パラメータを介して考慮される。例えば、周囲空気が非常に暖かい及び/又は非常に湿っていると制御パラメータが判断した場合、排気弁は更に閉じられ、より多くの排気ガスがターボチャージャのタービンに供給され、ターボチャージャの出力が増加する。結果として、ターボチャージャは、非常に暖かい及び/又は非常に湿った周囲空気中でさえも、速い燃焼の範囲を避けることができる空気及び燃料の正しい比率を実現するのに十分な掃気の質量流量を発生する。
【0023】
特に好ましい一実施形態によれば、シリンダの出口弁は、シリンダの掃気を完了させるための所定の閉鎖時間で閉鎖され、閉鎖時間を決定するために制御パラメータの値が使用される。排気弁の開度によって供給された掃気の質量流量を調整するために使用されるターボチャージャの出力に加えて、制御パラメータもまた、周囲空気の特性(例えば、その温度及び/又はその湿度)に応じて出口弁の閉鎖時間を変更するために使用される。
【0024】
特に、排気弁を介してターボチャージャによって供給される掃気の質量流量を変更し、かつ出口弁の閉鎖時間を介してシリンダ内のそれぞれの掃気プロセスの完了を変更するこの組み合わせは、シリンダ内の空気-燃料比を調整する際に周囲空気の特性を十分に考慮し、速い燃焼状態(空気の不足範囲)を避けるために、特に有利である。
【0025】
ターボチャージャによって吸入された周囲空気の温度を測定によって決定することは、制御パラメータを決定するための好ましい方策である。
【0026】
別の好ましい方策は、制御パラメータの決定に加えて、又はその代わりとして、ターボチャージャによって吸入された周囲空気の湿度を測定によって決定することである。
【0027】
更に別の好ましい方策は、制御パラメータを決定するために充填空気の温度を使用することである。
【0028】
排気弁に関しては、排気弁を調整するために、ターボチャージャによって供給される充填圧力がターボチャージャによって生成される空気質量流量に依存することを示す第1の相互関係が使用されると有利である。ターボチャージャによって生成された充填圧力(より正確には、ターボチャージャの圧縮機の出口と入口における空気の間の圧力差)は、ターボチャージャによって供給される空気の質量流量によって変化する。したがって、それぞれ生成された質量流量は、第1の相互関係によって制御パラメータに依存して所望の値に調節されることが可能である。
【0029】
出口弁の作動に関して、シリンダの出口弁の閉鎖時間を決定するために、シリンダ内の掃気体積と、閉鎖時のシリンダ内の掃気及び残留ガスの体積の合計との比率である掃気度が、供給された掃気、閉鎖時間、及び掃気又は周囲空気の温度に依存することを示す第2の相互関係が使用される場合、有利である。
【0030】
大型ディーゼルエンジン(特に、長手方向に掃気される2ストローク大型ディーゼルエンジン)のシリンダの掃気段階では、前の燃焼プロセスから生じた残留ガスは、シリンダの排気弁を介して完全に排出することができず、その結果、掃気プロセスの終了時(すなわち、出口弁がちょうど完全に閉鎖されるとき)に、ある量の残留ガスがシリンダ内に依然として存在することが知られている。そこで掃気度は、シリンダ内の体積のどれくらいが新鮮な空気によって(すなわち、出口弁が閉じられた状態で空気を掃気することによって)取り込まれるかを示している。例えば、80%の掃気度とは、出口弁の閉鎖時に、シリンダ内の体積(ピストン面とシリンダヘッド又はシリンダカバーとの間の体積)の80%が新鮮な空気又は掃気によって、20%が残留ガスによって取り込まれることを意味している。
【0031】
したがって、第2の相互関係は、閉鎖時間及び利用可能な掃気(質量流量、充填圧力、温度)に対する掃気度の依存性を示す。
【0032】
最良の可能な燃焼プロセスに関しては、出口弁の閉鎖時間がそのように調節され、シリンダ内の掃気度が少なくとも70%、好ましくは少なくとも約80%であることが特に好ましい
【0033】
第1及び/又は第2の相互関係は、ルックアップテーブルの形態で提供されてもよい。ルックアップテーブルは、例えば、大型ディーゼルエンジンの点検装置又は制御装置に格納することができる。ここで、第1の相互関係のためのルックアップテーブルは、例えば、周囲空気の温度の異なる値、ターボチャージャによって生成された充填圧力が搬送空気の質量流量に応じてどのように変化するかに関する情報を含む。第2の相互関係のためのルックアップテーブルは、例えば、出口弁の閉鎖時間、充填圧力、及び掃気の質量流量に応じて、シリンダ内の掃気度がどのように変化するかを示す。
【0034】
しかしながら、第1の相互関係を機能的な(関数的)相互関係として、又はアルゴリズムの形態で提供することも可能である。
【0035】
更に、第2の相互関係を機能的な(関数的)相互関係として、又はアルゴリズムの形態で提供することが可能である。
【0036】
更なる有利な変形例は、圧縮機モデル及び掃気モデルを提供することであり、圧縮機モデルは、ターボチャージャによって提供される充填圧力とターボチャージャによって生成される空気質量流量との相互関係を、周囲空気の温度又は湿度を考慮してモデル化したものであり、掃気モデルは、シリンダ内の掃気度と供給された掃気と出口弁の閉鎖時間の相互関係を、充填空気の温度を考慮してモデル化したものであり、圧縮機モデルと掃気モデルによって、制御パラメータの値に応じて、出口弁の閉鎖時間と排気弁の調整の両方が決定される。排気弁の調整は、制御パラメータの値に応じて充填圧力を調整するために使用される。
【0037】
この変形例では、ターボチャージャ(特に、ターボチャージャの圧縮機)及びシリンダ内の掃気はそれぞれモデルによって表され、次にこのモデルを用いて排気弁の開度及び出口弁の閉鎖時間のための制御パラメータのそれぞれの値に対する適切な値を決定することができる。
【0038】
この方法の別の好ましい一実施形態は、シリンダ内の最終圧縮温度が所定の範囲内に維持されることである。最終的な圧縮温度は、シリンダ内の温度を示し、これは空気-燃料混合物の圧縮の終了時(すなわち、シリンダ内の混合物の点火の直前)に有効である。最終圧縮温度が高すぎると、これは空気-燃料混合物の不利な早期点火をもたらす。これは、最終圧縮温度を所定の範囲内に保つことが有利であることを意味する。
【0039】
本発明によれば、大型ディーゼルエンジン(特に、本発明に係る方法によって運転される二元燃料大型ディーゼルエンジン)もまた提案される。
【0040】
大型ディーゼルエンジンは、好ましくは、長手方向に掃気される2ストローク大型ディーゼルエンジンとして設計される。
【0041】
本発明の更なる有利な方策及び実施形態は、従属請求項に記載される。
【0042】
以下において、本発明は、実施形態を参照して器械的及び手続き的な態様の両方からより詳細に説明される。
【発明を実施するための形態】
【0043】
一実施形態に基づく本発明の以下の説明では、実用上特に重要な二元燃料大型ディーゼルエンジンの場合に例示的な性質が言及されているが、これは長手方向に掃気された2ストロークの大型ディーゼルエンジンとして設計される。
【0044】
二元燃料大型ディーゼルエンジンは、2つの異なる燃料で運転することができるエンジンである。特に、大型ディーゼルエンジンは、1つの液体燃料のみがシリンダの燃焼室内に噴射される液体モードで運転することができる。液体燃料(例えば、重油又はディーゼル油)は、通常、適切な時間に燃焼室内に直接噴射され、自己点火のディーゼル原理に従って点火する。大型ディーゼルエンジンは、燃料として機能するガス(例えば、天然ガス)が点火のために燃焼室内に空気-ガス混合物の形態で導入される気体モードで運転することもできる。特に、本明細書に記載の大型ディーゼルエンジンの実施形態は、低圧法に係る気体モードで動作し、すなわち、ガスは気体状態でシリンダ内に導入される。低圧法とは、気体燃料が各シリンダの燃焼室内に噴射される噴射圧力が最大で100バール(10MPa)であることを意味する。好ましくは、噴射圧力は、最大で50バール(5MPa)、特に好ましくは最大で20バール(2MPa)である。しかしながら、気体燃料の最大噴射圧力は、更に低くてもよい(例えば、15バール又はそれ以下)。ガスと空気との混合は、シリンダ自体の中で、又は更にはシリンダの外側で行うこともできる。空気-ガス混合物は、オットー原理に従って燃焼室内で確実に点火される。この確実な点火は、通常、少量の液体燃料が適切な瞬間に燃焼室又はプレチャンバに導入され、その燃料が自己着火し、空気-ガス混合物の確実な着火を引き起こすという事実によって引き起こされる。もちろん、電気的に又は他の手段によって確実な点火を実現することも可能である。
【0045】
大型ディーゼルエンジンは、4ストロークエンジンとして、及び2ストロークエンジンとしての両方で設計することができる。ここで説明する実施形態では、大型ディーゼルエンジンは、少なくとも液体モードにおいて、コモンレールシステムを用いた長手方向に掃気される2ストローク大型ディーゼルエンジンとして設計される。
【0046】
大型ディーゼルエンジンの構造及び個々の構成要素(例えば、液体モード用噴射システム、気体モード用ガス供給システム、シリンダ当たり少なくとも1つの出口弁、排気システム、又は掃気又は充填空気を供給するためのターボチャージャシステムを含むガス交換システム、及び大型ディーゼルエンジン用の点検システム及び制御システム)は、2ストロークエンジンとしての設計並びに4サイクルエンジンとしての設計の両方において当業者に周知であるので、更なる説明はここでは必要ない。大型ディーゼルエンジンは、電子制御エンジンとして設計され、特に、ガス交換システム及び各燃料の導入は、電子的に制御される。すなわち、出口弁及び噴射システム又はガス供給システムの作動は、エンジンの点検装置及び制御装置からの電気的又は電子的信号によって行われる。この電子制御は、運転パラメータ(例えば、個々のシリンダへの燃料供給の開始又は終了、又は出口弁の開放時間又は出口弁の閉鎖時間)を自由に選択することができるので、最大限の可能な柔軟性の利点を提供し、作業サイクル内で(例えば、機械式カップリングを介して)特定のクランク角に縛られない。
【0047】
ここに記載される長手方向に掃気された2ストローク大型ディーゼルエンジンの実施形態では、掃気スロットは、通常、各シリンダ又はシリンダライナの下部領域に設けられ、シリンダ内でピストンの動作によって周期的に開閉され、これによって掃気スロットが開いている限り、充填圧力下でターボチャージャによって供給される掃気が、掃気スロットを通ってシリンダ内に流入することができる。主に中央に配置された出口弁がシリンダヘッド又はシリンダカバーに設けられており、これにより、燃焼プロセス後に燃焼ガスをシリンダから排気システムに排出することができる。もちろん、複数の出口弁(例えば、2つ又は特に4つの出口弁)が各シリンダに設けられている実施形態も可能である。1以上の燃料噴射ノズルが液体燃料の導入のために設けられ、例えば、出口弁近くのシリンダヘッド内に配置される。気体モードのガス供給のためのガス供給システムが設けられ、このシステムは、ガス入口ノズルを有する少なくとも1つのガス入口弁を備える。ガス入口ノズルは、典型的には、例えば、ピストンの上死点と下死点との間のほぼ中間の高さで、シリンダの壁に設けられている。
【0048】
更に、大型ディーゼルエンジンが船舶の駆動ユニットであるという応用への例として以下に言及する。
【0049】
本発明に係る方法は、大型ディーゼルエンジンが通常試験され、技術的特性が通常言及する通常の運転条件とは著しく異なる環境条件であっても、シリンダ内の最適な空気-燃料比を保証するために主に役立ち、これによって特に、上記の急速燃焼の不利な状態(あまりにも豊富な混合物)を避ける。大型ディーゼルエンジンは、通常、気体モードにおいて誤って調整された空気-燃料比に対してはるかに敏感に反応するので、以下では、例示的性質で二元燃料大型ディーゼルエンジンの気体モードに言及する。しかしながら、本発明に係る方法はまた、同様に液体モードにも使用できることは明らかである。
【0050】
排ガス排出値に関する法律上の規制のために、海岸近くの大型ディーゼルエンジンは、しばしば、気体モードで運転されなければならない。さもなければ、排ガス排出物(特に、窒素酸化物NOx及び硫黄酸化物)の所定の限界値は、もはや満たされないからである。
【0051】
気体モードでは、最も低い可能な排ガスを有する空気-ガス混合物の効率及び燃焼は、空気量とガス量の比に敏感である。この比率は、通常、燃焼に利用可能な空気の質量と燃料として使用されるガスの質量との比を示すλ値によって示される。
【0052】
最適な空気-ガス比は、エンジンによって生成される駆動トルクに依存し、したがって、エンジンが作動する船舶の所望の速度又は負荷に依存する。
【0053】
船舶を駆動するエンジンによって生成されたトルクは、本質的に作業サイクル(2ストロークエンジンのピストン運動の1期間と4ストローク機械のピストン運動の2期間)にわたって平均化されたトルクであるBMEP(ブレーキ平均有効圧力)トルクとしばしば呼ばれる。
【0054】
効率的かつ特に低排ガス運転では、2つの限界曲線(すなわち、ノッキング限界と失火限界)との間の各負荷でエンジンを運転することが望ましい。ノッキング限界を超える運転条件では、空気-ガス混合物又はより一般的には空気-燃料混合物が濃すぎる(すなわち、混合物中に空気が少なすぎる)。濃すぎる混合物は、様々な問題を引き起こす可能性がある(すなわち、燃焼があまりにも速く起こる(速い燃焼)、又はエンジンがノッキングを開始する、又はシリンダ内の混合物がその後、通常(作業サイクルに関連する)高すぎるガス含有量に起因する自己点火によってあまりにも早く燃焼し始める(前点火)。失火限界を超える運転条件では、空気-ガス混合物は薄すぎる(すなわち、燃焼室内での最適燃焼のために利用可能な十分なガスがない)。
【0055】
この理由のため、大型ディーゼルエンジンを(特に、気体モード(液体モードも含む)において)常に空気-燃料比の最適範囲内(すなわち、ノッキング限界と失火限界との間にある範囲内)で運転する努力がなされている。例えば、空気-燃料比とエンジンによって生成されたトルクとの間の相互関係を示す運転ラインがこの運転を特徴付ける。この運転ラインの終わりは、大型ディーゼルエンジンが100%負荷で運転される全負荷時(すなわち、全負荷運転時)に大型ディーゼルエンジンによって生成されるトルクに対応する。運転ラインはそこから部分負荷範囲(例えば全負荷の50~75%)を通って、低負荷範囲、及びエンジンの無負荷運転又は停止に対応する運転ラインの開始まで延びる。気体モードでは、例えば、大型ディーゼルエンジンは、2~3(例えば、2.5の範囲)のλ値で運転される。
【0056】
既に述べたように、これらの曲線(ノッキング限界、失火限界、運転ライン)は、それぞれの場合においてISO条件(すなわち、大型ディーゼルエンジンの技術仕様が参照する標準化された条件)を指す。したがって、上記の曲線は、特に25℃の空気温度を指す。空気温度は、吸気の温度(すなわち、ターボチャージャによって吸入される周囲空気の温度)を指す。これらの標準化された条件からの重大な逸脱(例えば、言及された熱帯条件)は、曲線の著しい変化につながる可能性がある。
【0057】
既に述べたように、シリンダに供給される掃気は、通常、タービンと圧縮機とを含むターボチャージャによって生成される。タービンは、大型ディーゼルエンジンの排気ガスシステムからの排気ガスによって駆動され、次に周囲空気を吸入し圧縮する圧縮機を駆動する。このようにして生成された掃気はその後、通常は充填空気冷却器を通過し、その後、掃気スロットを通ってシリンダ内に供給される準備が整う。
【0058】
大型ディーゼルエンジンの排気ガスシステムには、典型的には特別な排気ガス弁が設けられ、ターボチャージャの出力(したがって、掃気の供給された質量流量)を制御又は調節し、排気ガス弁は廃棄ゲート弁としても知られており、それによってターボチャージャに供給される排気ガスの質量流量を調節することができる。廃棄ゲート弁が完全に又は部分的に開いている場合、排気ガスの一部がターボチャージャを越えて導かれるので、それは最大可能出力を提供しない。廃棄ゲート弁が完全に閉鎖されると、排気ガスの全質量流量がターボチャージャに供給されるので、その最大可能出力で動作し、したがって早期の最大可能質量流量を生成する。廃棄ゲート弁の位置は、廃棄ゲート弁の開位置を示す。廃棄ゲート弁が完全に開いている場合、シリンダからの排気ガスの可能な最大割合がターボチャージャを越えて導かれ(ターボチャージャによって生成される掃気空気の最小質量流量)、廃棄ゲート弁が完全に閉鎖されている場合、シリンダからの全ての排気ガスは、ターボチャージャに導かれるので、その最大出力(すなわち、掃気の最大質量流量)を達成する。
【0059】
ターボチャージャによって生成された充填圧力は、ターボチャージャによって供給される空気の質量流量と共に変化する。例えば、この相互関係はほぼ正方形である。実際には、エンジンの負荷に応じてターボチャージャの出力が調整されることが多い。例えば、エンジンの各負荷又は各負荷範囲に対する充填圧力の値はルックアップテーブルに格納され、その値はその後、各場合において、エンジンをノッキング限界以下維持するために、掃気をシリンダに適度に供給することを確実にするべきである。典型的には、要求される充填圧力は、エンジンの負荷と共に増加する。エンジンのそれぞれの負荷に応じて、エンジンの点検及び制御装置は、ある程度まで排気ガス弁を開閉し、所望の充填圧力が圧縮機の出口で生成されるようにする。
【0060】
充填圧力(したがって、掃気の質量流量もまた)のそれぞれの調整はまた、「正常」又は標準化された運転条件(すなわち、例えば、吸入された周囲空気の温度)を指す値に基づく。例えば、上記の熱帯条件が周囲空気の温度を著しく上昇させる場合、これは空気の密度がより低いことに起因して、ターボチャージャによって生成された掃気の質量流量がシリンダ内の正しい空気-燃料比のために十分な空気を供給するのにもはや十分ではないという事実をもたらす。シリンダ内の燃焼が不十分な空気範囲に入り、高速燃焼の悪影響をもたらす危険性がある。
【0061】
本発明によれば、制御パラメータは大型ディーゼルエンジンの運転中に決定され、このパラメータは周囲空気又は掃気の温度及び/又は湿度に特有であり、制御パラメータの値は排気弁を調整するために使用されるので、ターボチャージャの出力は周囲空気の温度及び/又は湿度に応じて変化する。この措置により、エンジンは常に最適な空気-燃料混合物で運転される。
【0062】
特に、大型ディーゼルエンジンが(特に、気体モードで)熱帯条件下で運転される場合にも、これは可能である。熱帯条件とは、周囲空気の高温及び/又は高湿度によって(したがってターボチャージャによって吸入される空気によって)特徴付けられる条件である。高温とは、少なくとも27℃の温度を指す。しかしながら、熱帯条件下では、周囲空気の温度は、30℃又は35℃をかなり上回ることができる、又は45℃とすることができる。この温度は、ターボチャージャの入口における空気の温度を指す。高湿度とは、周囲空気の相対湿度が少なくとも40%(特に、少なくとも50%)であることを指す。湿度は、まさに60%又は更にそれ以上とすることができる。
【0063】
制御パラメータとして適切な変数は、例えば、ターボチャージャによって吸入される周囲空気の温度、ターボチャージャによって吸入される周囲空気の相対湿度、充填空気の現在の温度、又はこれらの変数の組み合わせである。これらの変数は既知であるか、又は測定によって決定することができる。
【0064】
第1の特に簡単な実施形態によれば、制御パラメータ(したがって、周囲空気の特性(特に、その温度又は湿度))は、排気弁の負荷依存調整において更に考慮される。したがって、排気弁の調整(したがって、ターボチャージャの出力)は、エンジンが作動される特定の負荷に依存するだけでなく、ターボチャージャによって吸入される周囲空気の現在の温度及び/又は湿度にも依存する。例えば、大型ディーゼルエンジンが一定の負荷(例えば、全負荷の50%~75%の中負荷範囲のどこか)で運転される場合、周囲空気の温度が著しく上昇して密度が低下すると、排気弁は更に閉じられ、より多くの排気ガスの質量流量がターボチャージャのタービンに導かれ、その出力は増加する。これは、圧縮機の出口における周囲空気の密度が低下したにもかかわらず、掃気の十分な質量流量又は十分な充填圧力が依然として提供されることを確実にする。
【0065】
異なる負荷範囲及び制御パラメータの異なる値に適した排気弁の位置は、大型ディーゼルエンジンの点検装置又は制御装置に、例えばルックアップテーブルの形態で格納又は保管することができる。
【0066】
別の好ましい一実施形態によれば、排気弁の温度依存又は湿度依存調整に加えて、それぞれの掃気プロセスの終了を決定する出口弁の閉鎖時間もまた、制御パラメータの現在の値に応じて調整される。出口弁の閉鎖時間は、シリンダ内の有効圧縮比を決定する。このように、閉鎖時間を変更して有効圧縮比を変更することにより、例えば、非常に暖かい周囲空気(したがって、より暖かい掃気)の場合に、空気密度の減少を補うことができる。
【0067】
大型ディーゼルエンジンの運転中、ターボチャージャの出力は、空気-燃料混合物は燃焼のための最適な配合を有するように、排気弁の調整及び出口弁の閉鎖時間を越えたシリンダの掃気の完了を介して、エンジンの負荷及び周囲空気の特性(例えば、その温度及び/又はその湿度)に応じて調整される。
【0068】
これは、特に簡単な一実施形態では、例えば、2つの相互関係(すなわち、ターボチャージャによって生成された空気質量流量に対するターボチャージャによって提供される充填圧力の依存性を示す第1の相互関係と、供給された掃気(充填圧力及び/又は質量流量)及び出口弁の閉鎖時間に対するシリンダ内の掃気度の依存性を示す第2の相互関係)を考慮した1以上のルックアップテーブルによって可能である。好ましくは、制御パラメータによって記述される周囲空気の特性及び/又は掃気の温度又は湿度は、両方の相互関係において考慮される。
【0069】
ここで、シリンダ内の掃気度とは、出口弁の閉鎖時間におけるシリンダ内の全体積に対する新鮮な空気又は掃気の体積比を指す。出口弁が完全に閉鎖されると、シリンダの掃気は停止し、シリンダ内の圧縮が開始する。このとき、ピストンの頂部、シリンダ壁、及びシリンダカバー又はシリンダヘッドは、シリンダ内の特定の体積を制限し、これは以前に(及び以後で)「全体積」という用語で呼ばれる。しかしながら、この全体積は、典型的には、新鮮な掃気によって完全には満たされない。例えば、少なくとも全体積と同じ大きさであるが通常は全体積よりも大きい新鮮な掃気の十分に大きな充填体積が、シリンダの掃気中に掃気スロットを通ってシリンダ内に導入されたとしても、新たに供給された掃気の一部が、シリンダ内の最後の燃焼に由来して排出された残留ガスと共に、出口弁を通って流出するので、全体積は通常、新鮮な掃気で完全に満たされることはできない。
【0070】
その結果、ある量の残留ガス(すなわち、先行する燃焼に起因するガス)が、出口弁の閉鎖時にシリンダの全体積に通常存在し、これにより掃気が停止される。
【0071】
次に、掃気度は、出口弁の閉鎖時に新鮮な掃気で満たされた全体積のパーセンテージを示す。全体積は、掃気で満たされた体積と残留ガスで満たされた体積とから構成されているので、掃気度は、掃気の体積と、掃気の体積及び残留ガスの体積の合計との商によって決定されるか、又は、これは等価であるが、掃気体積と、出口弁の閉鎖時の全体積との商によって決定される。掃気度は、通常パーセントで示される。
【0072】
このように、掃気度は、充填圧力、出口弁の閉鎖時間、及び温度に依存する。第1の相互関係を参照して上述したように、充填圧力は、ターボチャージャによって供給される空気の質量流量に依存するので、少なくとも充填圧力を超えた掃気度もまた、掃気の質量流量に依存する。
【0073】
シリンダ内の最適な燃焼を可能にし、特に速い燃焼又は過濃な空気-燃料混合物の防止する掃気度が実現される出口弁の閉鎖時間の値は、第1の相互関係、第2の相互関係、及び制御パラメータの現在の値によって、周囲空気のそれぞれの現在の特性(温度、湿度)に対して決定することができる。
【0074】
好ましくは、出口弁の閉鎖時間は、シリンダ内の掃気度が少なくとも70%(好ましくは約80%又は少なくとも80%)となるように調整される。
【0075】
特に、閉鎖時間の調整は、シリンダ内の最終圧縮温度を所定の範囲内に維持するために、したがって、例えば、シリンダ内の空気-燃料混合物の前点火を回避するために使用することもできる。
【0076】
制御パラメータの各値及びエンジンのそれぞれの負荷に依存して排気弁及び出口弁の閉鎖時間を調整するための値は、例えば、大型ディーゼルエンジンの検査装置又は制御装置内にルックアップテーブルとして保管することができる。このようなルックアップテーブルは、例えば、多次元テーブル又はマトリクスとすることができ、それぞれの場合において、排気弁の調整のための値及び出口弁の閉鎖時間のための値は、モータが運転される負荷と制御パラメータの値との異なる組み合わせに割り当てられる。制御パラメータの現在値及びエンジンが作動する実際の負荷に基づいて、エンジンの点検装置及び制御装置は、排気弁を調整するための値及び出口弁の閉鎖タイミングのための値をルックアップテーブルから取り、これらの値に従って排気弁及び出口弁を制御する。
【0077】
しかしながら、第1及び第2の相互関係を用いて、制御パラメータの値及びエンジンの負荷を入力パラメータとして有し、排気弁を調節するため及び出口弁の閉鎖時間のためのそれぞれ適した値を出力パラメータとして提供する、機能的(関数的)相互関係又はアルゴリズムを提供することも可能である。
【0078】
ルックアップテーブル又はアルゴリズムの値は、経験的データ、シミュレーション又はモデル計算、テストラン、計算、又はこれらの組み合わせに基づいて決定することができる。
【0079】
別の可能性は、シリンダ及び/又はターボチャージャ内の掃気をモデル化すること、又はモデルによってそれを示すことである。この目的のために、例えば、掃気モデル及び/又は圧縮機モデルを作成することができる。圧縮機モデルは、制御パラメータ(特に、周囲空気の温度又は湿度)を考慮して、ターボチャージャによって供給される充填圧力とターボチャージャによって生成される空気質量流量との間の相互関係を表す。掃気モデルは、制御パラメータ(特に、掃気の温度又は湿度)を考慮して、シリンダ内の掃気度と出口弁の閉鎖時間との間の相互関係を表す。次いで、圧縮機モデル及び掃気モデルを使用して、制御パラメータの値に応じて出口弁の閉鎖時間及び排気弁の調節の両方を決定する。もちろん、掃気モデルと圧縮機モデルを組み合わせて全体モデルを形成することもできる。
【0080】
本発明に係る方法は、大型ディーゼルエンジンにレトロフィットさせる(特に、二元燃料大型ディーゼルエンジンにレトロフィットさせる)のに特に適している。本発明に係る方法は、主要な追加の装置の有無にかかわらず実現可能であるので、既存の大型ディーゼルエンジンのリフィット(補修)又はレトロフィットに特に適しているので、不都合な周囲条件下(特に、熱帯条件下)でさえも効率的に、安全に、環境に配慮して、経済的に、大型ディーゼルエンジンを運転することができる。
【手続補正書】
【提出日】2023-08-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二元燃料大型ディーゼルエンジンを運転する方法であって、
液体燃料が燃焼のためにシリンダ内に導入される液体モードで運転することができ、かつ
前記二元燃料大型ディーゼルエンジンが、シリンダ内に燃料としてガスを導入する気体モードでも運転することができ、
前記二元燃料大型ディーゼルエンジンのシリンダに掃気を供給して空気-燃料混合物を生成し、前記掃気はターボチャージャによって充填圧力で提供され、前記ターボチャージャは前記二元燃料大型ディーゼルエンジンからの排気ガスによって駆動され、前記ターボチャージャは周囲空気を吸入して前記掃気を提供し、前記ターボチャージャの出力は排気弁によって変更可能であり、前記排気弁によって前記ターボチャージャを駆動する前記排気ガスの質量流量が調整される前記方法において、
前記二元燃料大型ディーゼルエンジンの運転中に周囲空気の湿度の特性である制御パラメータが決定され、前記制御パラメータの値を使用して前記排気弁を調整して、前記ターボチャージャの出力を前記周囲空気の湿度に応じて変化させ、前記シリンダの出口弁を所定の閉鎖時間で閉鎖して前記シリンダの掃気を完了させ、前記閉鎖時間を決定するために前記制御パラメータの値を使用することを特徴とする方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型ディーゼルエンジン(特に、液体燃料を燃焼のためにシリンダ内に導入する液体モードで運転可能であり、ガスをシリンダ(気筒)内に燃料として導入する気体モードでも運転可能な二元燃料大型ディーゼルエンジン)の運転方法、及びそれぞれのカテゴリーの独立請求項の前文に記載された大型ディーゼルエンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、長手方向に掃気される2ストロークの大型ディーゼルエンジンのような、2ストローク又は4ストロークエンジンとして設計され得る大型ディーゼルエンジンは、船舶用の駆動ユニットとして、又は静止運転中でさえ、電気エネルギーを生成するための大型発電機を駆動するために、しばしば使用される。エンジンは通常、連続運転ではかなりの期間稼働し、運転の安全性と可用性に対する高い要求がある。結果として、特に長いメンテナンス間隔、操作材料の低い摩耗及び経済的な取り扱い(ハンドリング)が、操作者の中心的基準である。
【0003】
近年、排気ガスの質(特に、排気ガス中の窒素酸化物濃度)は、重要性が増している別の重要な問題である。ここで、対応する排出閾値の法的要件及び限界値がますます厳しくなっている。その結果、特に2ストローク大型ディーゼルエンジンでは、排出閾値の遵守は、ますます困難になり、技術的により複雑になり、したがってより高価になってきており、又は最終的にコンプライアンスはもはや意味をなさないので、汚染物質によって非常に汚染されている古典的な重油の燃焼だけでなく、ディーゼル油又は他の燃料の燃焼も、より問題になる。
【0004】
したがって実際には、いわゆる「二元燃料エンジン」(すなわち、2つの異なる燃料で運転可能なエンジン)の必要性が、長い間存在している。ガス(例えば、天然ガス(例えば、LNG(液化天然ガス))又は液化石油ガスの形態のガス又は内燃機関を駆動するのに適した別のガス)は気体モードで燃焼され、他方では、好適な液体燃料(例えば、ガソリン、ディーゼル油、重油、アルコール、油誘導体及びそれらの水混合物、バイオ燃料、又は他の好適な液体燃料)を同じエンジン内において液体モードで燃焼させることができる。この場合、エンジンは、2ストロークと4ストロークエンジンの両方(特に、長手方向に掃気される2ストロークの大型ディーゼルエンジン)とすることができる。
【0005】
このように、二元燃料大型ディーゼルエンジンは、燃料の自己点火を特徴とするディーゼル運転だけでなく、燃料の確実な点火を特徴とするオットー運転においても作動させることができる。特に、燃料の自己点火は、別の燃料の確実な点火に対しても使用することができる。
【0006】
液体モードでは、通常、燃料はシリンダの燃焼室内に直接導入され、そこで自己点火の原理に従って、又は拡散燃焼の原理に従って燃焼する。気体モードでは、オットー原理に従って気体状態のガスを掃気と混合して、シリンダの燃焼室内で点火可能な混合物を生成することが知られている。この低圧法では、シリンダ内の混合物の点火は、通常、少量の液体燃料をまさにその瞬間にシリンダの燃焼室又はプレチャンバに噴射することによって実行され、その後、空気-ガス混合物の点火につながる。もちろん、空気-ガス混合物は、電気的に又はそれ自体既知の別の方法で確実に点火することもできる。二元燃料エンジンは、運転中に気体モードから液体モードに切り替えることができ、その逆も可能である。
【0007】
特に、気体モードでは、掃気のガスに対する正確な比率、いわゆる空気-ガス比又は空気-燃料比(空燃比)の調節が極めて重要である。実際、この空気の燃料に対する比率は、液体モード又はディーゼルモードにおいても重要であるが、気体モードにおける非最適空気-燃料比の影響は、通常、液体モードよりも顕著である。
【0008】
大型ディーゼルエンジン内のシリンダ用の掃気又は充填空気は、通常、掃気圧力又は充填圧力下でシリンダ内に導入する準備ができている掃気の質量流量を発生させるターボチャージャによって提供される。排気ターボチャージャとしても知られているターボチャージャは、典型的には、タービンと、タービンによって駆動される圧縮機とを備え、タービンは大型ディーゼルエンジンからの排気ガスによって駆動される。圧縮機は新鮮な周囲空気を吸入し、圧縮して掃気を提供する。通常、ターボチャージャの下流には、充填空気冷却器が依然としてあり、掃気がシリンダに供給される前に冷却する。
【0009】
ターボチャージャによって供給される掃気の量又は生成される充填圧力は、エンジンの負荷、ひいては出力又はトルク又はエンジンの速度に依存する。更に、ターボチャージャの出力を排気弁(これは廃棄ゲート弁としても知られている)によって調整するのが通例である。タービンに供給される排気ガスの質量流量は、この排気弁によって調整することができる。排気弁が完全に又は部分的に開いている場合、排気ガスの一部はターボチャージャのタービンに送られ、その結果、最大可能出力を提供しない。排気弁が完全に閉鎖されている場合、排気ガスの全質量流量がターボチャージャのタービンに供給され、その結果、ターボチャージャは、その最大可能出力を提供する、すなわち、掃気の最大可能質量流量を発生する。
【0010】
大型ディーゼルエンジンが現在稼働している負荷に応じて、排気弁の調整、したがって、駆動のためにターボチャージャに供給される排気ガスの質量流量を変更することが知られている。ターボチャージャによって発生される充填圧力をそれぞれの負荷条件に対して一定に保つことを意図しており、充填圧力は本質的に圧縮機の出口での空気の圧力である。典型的には、所望の充填圧力は、エンジン負荷の増加と共に増加する。例えば、低負荷領域では、中間又は高負荷領域よりも低い充填圧力が必要とされる。したがって、エンジン制御ユニット又は大型ディーゼルエンジン用の点検装置にデータが蓄積され、このデータはエンジンの各負荷又は負荷範囲に充填圧力を割り当てる。現在の負荷に応じて、排気ガス弁はこのように調整され、ターボチャージャが掃気用の所望の充填圧力を提供する。
【0011】
特に、気体モードがオットー原理に従って作動される場合、好ましくは低排出、効率的、かつ経済的なエンジン運転のためには、空気-ガス比の正確な調整が極めて重要である。ガス含有量が高すぎると、空気-ガス混合物は濃すぎる。混合物の燃焼が速過ぎる又は早過ぎるため、機械的負荷が高くなり、エンジンがノッキングし、排気ガス中の汚染物質が著しく増加する可能性がある。燃焼プロセスは、もはや、シリンダ内のピストン運動にもはや正確に適合しないので、これは、とりわけ、燃焼がピストンの運動に対して部分的に作用するという事実にもつながる。
【0012】
通常の運転条件下での現代の大型ディーゼルエンジンにおける空気-ガス比の正確な調整がもはや大きな問題ではないにしても、かなりの困難を招く可能性がある運転条件が存在する。
【0013】
例えば、通常の運転条件とは、大型ディーゼルエンジンの技術仕様が指すもの(例えば、全負荷時のその最大出力、その汚染物質排出量、燃料消費量など)を指す。排気弁の負荷に依存する調整もまた通常、通常の運転状態を指す。これらの技術仕様は、国際規格(ISO)(例えば、ISO3046-1)に規定された運転条件を指し、例えば、周囲温度(より具体的には、25℃の吸気温度)を指す。
【0014】
しかしながら、大型ディーゼルエンジンは、しばしば、これらの「通常の」運転条件にもはや対応しない運転条件下で運転しなければならない。
【0015】
一例として、ここではいわゆる熱帯条件が言及されており、特に(しかしながら、それだけではないが)気体モード運転が困難になる可能性がある。熱帯条件は、周囲空気の非常に高い温度及び/又は非常に高い相対湿度(例えば、少なくとも27℃又は更に30℃を超える温度又は30%、40%、又は更に60%を超える相対湿度)によって特徴付けられる環境条件である。熱帯条件の一例は、60%の相対湿度及び45℃の空気温度である。ターボチャージャによって吸入されてシリンダに掃気を提供する空気もまた、このような熱帯条件下では非常に暖かい及び/又は非常に湿っている。
【0016】
暖かい空気は密度がより低く、湿った空気は充填空気冷却器の水分凝縮又は蒸気形成を非常に速く行うことができるため、この暖かい/湿った吸入空気は、ターボチャージャの空気質量流量を大幅に減少させることができる。このような空気の質量流量の減少は、特に気体モードでは、空気-ガス比に非常に敏感であり、ガスの燃焼が空気不足の範囲に入り、すなわち、シリンダ内の空気-ガス比が低下し、空気-ガス混合物が過度に濃厚になり、これによって大型ディーゼルエンジンが非常に速い燃焼の範囲に入り、高い機械的負荷又は非常に高い汚染物質の排出を招く可能性がある。
【0017】
また、船舶のエンジンのための典型的に海水である環境の高温はまた、通常、エンジンの冷却水の温度が上昇し、シリンダに供給される掃気の温度の上昇を招く。これによって、シリンダの燃焼室内の温度が上昇し、大型ディーゼルエンジンが、既に言及した関連する問題を伴う過度に高速な燃焼の範囲に入る結果になる可能性がある。
【0018】
特許文献1は、ターボチャージャおよび内燃機関の効率を最大にするためのターボチャージャ制御および管理システムに関するものであり、特許文献2は、機関からの排気ガスをターボ過給装置のタービン部に給送する供給管を介して機関の排気管と連結されたターボ過給装置を有するディーゼル機関に関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第6134888号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0058678号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、上記の問題に対応するものである。
したがって、この最先端技術から出発して、本発明の目的は、大型ディーゼルエンジン(特に、二元燃料大型ディーゼルエンジン)を運転する方法を提案することであり、これは、大型ディーゼルエンジンの汚染物質排出を著しく増加させることなく、好ましくない環境条件下(特に、熱帯条件下)でさえも最良の可能な空気-燃料比で大型ディーゼルエンジンを運転可能にする。更に、本発明の目的は、対応する大型ディーゼルエンジンを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この問題を解決する本発明の目的は、それぞれのカテゴリーの独立請求項の構成によって特徴付けられる。
本発明によれば、二元燃料大型ディーゼルエンジンを運転する方法であって、液体燃料が燃焼のためにシリンダ内に導入される液体モードで運転することができ、かつ二元燃料大型ディーゼルエンジンがシリンダ内に燃料としてガスを導入する気体モードでも運転することができ、二元燃料大型ディーゼルエンジンのシリンダに掃気を供給して空気-燃料混合物(混合気)を生成し、掃気はターボチャージャによって充填圧力で提供され、ターボチャージャは大型ディーゼルエンジンからの排気ガスによって駆動され、周囲空気が吸入されて掃気を提供し、ターボチャージャの出力は排気弁によって変更可能であり、排気弁によってターボチャージャを駆動する排気ガスの質量流量が調整され、二元燃料大型ディーゼルエンジンの運転中に周囲空気の湿度の特性である制御パラメータが決定され、制御パラメータの値を使用して排気弁を調整して、ターボチャージャの出力を周囲空気の湿度に応じて変化させ、シリンダの出口弁を所定の閉鎖時間で閉鎖してシリンダの掃気を完了させ、閉鎖時間を決定するために制御パラメータの値を使用する方法が提案される。
【0022】
このように、ターボチャージャの出力、したがって利用可能な掃気流及び充填圧力は、もはや二元燃料大型ディーゼルエンジンの現在の負荷に依存するだけでは調整されないが、周囲空気の現在の特性(特に、その湿度)もまた、シリンダが燃焼室内で正しい空気-燃料比を調整するのに十分な掃気の質量流量が確保されることを保証するために、制御パラメータを介して考慮される。例えば、周囲空気が非常に湿っていると制御パラメータが判断した場合、排気弁は更に閉じられ、より多くの排気ガスがターボチャージャのタービンに供給され、ターボチャージャの出力が増加する。結果として、ターボチャージャは、非常に非常に湿った周囲空気中でさえも、速い燃焼の範囲を避けることができる空気及び燃料の正しい比率を実現するのに十分な掃気の質量流量を発生する。
【0023】
シリンダの出口弁は、シリンダの掃気を完了させるための所定の閉鎖時間で閉鎖され、閉鎖時間を決定するために制御パラメータの値が使用される。排気弁の開度によって供給された掃気の質量流量を調整するために使用されるターボチャージャの出力に加えて、制御パラメータもまた、周囲空気の特性(その湿度)に応じて出口弁の閉鎖時間を変更するために使用される。
【0024】
特に、排気弁を介してターボチャージャによって供給される掃気の質量流量を変更し、かつ出口弁の閉鎖時間を介してシリンダ内のそれぞれの掃気プロセスの完了を変更するこの組み合わせは、シリンダ内の空気-燃料比を調整する際に周囲空気の特性を十分に考慮し、速い燃焼状態(空気の不足範囲)を避けるために、特に有利である。
【0025】
ターボチャージャによって吸入された周囲空気の温度を測定によって決定することは、制御パラメータを決定するための好ましい方策である。
【0026】
別の好ましい方策は、制御パラメータの決定に加えて、又はその代わりとして、ターボチャージャによって吸入された周囲空気の湿度を測定によって決定することである。
【0027】
更に別の好ましい方策は、制御パラメータを決定するために掃気空気の温度を使用することである。
【0028】
排気弁に関しては、排気弁を調整するために、ターボチャージャによって供給される充填圧力がターボチャージャによって生成される空気質量流量に依存することを示す第1の相互関係が使用されると有利である。ターボチャージャによって生成された充填圧力(より正確には、ターボチャージャの圧縮機の出口と入口における空気の間の圧力差)は、ターボチャージャによって供給される空気の質量流量によって変化する。したがって、それぞれ生成された質量流量は、第1の相互関係によって制御パラメータに依存して所望の値に調節されることが可能である。
【0029】
出口弁の作動に関して、シリンダの出口弁の閉鎖時間を決定するために、シリンダ内の掃気体積と、閉鎖時のシリンダ内の掃気及び残留ガスの体積の合計との比率である掃気度が、供給された掃気、閉鎖時間、及び掃気又は周囲空気の温度に依存することを示す第2の相互関係が使用される場合、有利である。
【0030】
二元燃料大型ディーゼルエンジン(特に、長手方向に掃気される2ストローク大型ディーゼルエンジン)のシリンダの掃気段階では、前の燃焼プロセスから生じた残留ガスは、シリンダの排気弁を介して完全に排出することができず、その結果、掃気プロセスの終了時(すなわち、出口弁がちょうど完全に閉鎖されるとき)に、ある量の残留ガスがシリンダ内に依然として存在することが知られている。そこで掃気度は、シリンダ内の体積のどれくらいが新鮮な空気によって(すなわち、出口弁が閉じられた状態で空気を掃気することによって)取り込まれるかを示している。例えば、80%の掃気度とは、出口弁の閉鎖時に、シリンダ内の体積(ピストン面とシリンダヘッド又はシリンダカバーとの間の体積)の80%が新鮮な空気又は掃気によって、20%が残留ガスによって取り込まれることを意味している。
【0031】
したがって、第2の相互関係は、閉鎖時間及び利用可能な掃気(質量流量、充填圧力、温度)に対する掃気度の依存性を示す。
【0032】
最良の可能な燃焼プロセスに関しては、出口弁の閉鎖時間がそのように調節され、シリンダ内の掃気度が少なくとも70%、好ましくは少なくとも約80%であることが特に好ましい
【0033】
第1の相互関係は、ルックアップテーブルの形態で提供されてもよい。ルックアップテーブルは、例えば、二元燃料大型ディーゼルエンジンの点検装置又は制御装置に格納することができる。ここで、第1の相互関係のためのルックアップテーブルは、例えば、周囲空気の温度の異なる値、ターボチャージャによって生成された充填圧力が搬送空気の質量流量に応じてどのように変化するかに関する情報を含む。第2の相互関係のためのルックアップテーブルは、例えば、出口弁の閉鎖時間、充填圧力、及び掃気の質量流量に応じて、シリンダ内の掃気度がどのように変化するかを示す。
【0034】
しかしながら、第1の相互関係を機能的な(関数的)相互関係として、又はアルゴリズムの形態で提供することも可能である。
【0035】
更に、第2の相互関係を機能的な(関数的)相互関係として、又はアルゴリズムの形態で提供することが可能である。
【0036】
更なる有利な変形例は、圧縮機モデル及び掃気モデルを提供することであり、圧縮機モデルは、ターボチャージャによって提供される充填圧力とターボチャージャによって生成される空気質量流量との相互関係を、周囲空気の湿度を考慮してモデル化したものであり、掃気モデルは、シリンダ内の掃気度と供給された掃気と出口弁の閉鎖時間の相互関係を、掃気空気の温度を考慮してモデル化したものであり、圧縮機モデルと掃気モデルによって、制御パラメータの値に応じて、出口弁の閉鎖時間と排気弁の調整の両方が決定される。排気弁の調整は、制御パラメータの値に応じて充填圧力を調整するために使用される。
【0037】
この変形例では、ターボチャージャ(特に、ターボチャージャの圧縮機)及びシリンダ内の掃気はそれぞれモデルによって表され、次にこのモデルを用いて排気弁の開度及び出口弁の閉鎖時間のための制御パラメータのそれぞれの値に対する適切な値を決定することができる。
【0038】
この方法の別の好ましい一実施形態は、シリンダ内の最終圧縮温度が所定の範囲内に維持されることである。最終的な圧縮温度は、シリンダ内の温度を示し、これは空気-燃料混合物の圧縮の終了時(すなわち、シリンダ内の混合物の点火の直前)に有効である。最終圧縮温度が高すぎると、これは空気-燃料混合物の不利な早期点火をもたらす。これは、最終圧縮温度を所定の範囲内に保つことが有利であることを意味する。
【0039】
本発明によれば、二元燃料大型ディーゼルエンジン(特に、本発明に係る方法によって運転される二元燃料大型ディーゼルエンジン)もまた提案される。
【0040】
二元燃料大型ディーゼルエンジンは、好ましくは、長手方向に掃気される2ストローク大型ディーゼルエンジンとして設計される。
【0041】
本発明の更なる有利な方策及び実施形態は、従属請求項に記載される。
【0042】
以下において、本発明は、実施形態を参照して器械的及び手続き的な態様の両方からより詳細に説明される。
【発明を実施するための形態】
【0043】
一実施形態に基づく本発明の以下の説明では、実用上特に重要な二元燃料大型ディーゼルエンジンの場合に例示的な性質が言及されているが、これは長手方向に掃気された2ストロークの大型ディーゼルエンジンとして設計される。
【0044】
二元燃料大型ディーゼルエンジンは、2つの異なる燃料で運転することができるエンジンである。特に、大型ディーゼルエンジンは、1つの液体燃料のみがシリンダの燃焼室内に噴射される液体モードで運転することができる。液体燃料(例えば、重油又はディーゼル油)は、通常、適切な時間に燃焼室内に直接噴射され、自己点火のディーゼル原理に従って点火する。大型ディーゼルエンジンは、燃料として機能するガス(例えば、天然ガス)が点火のために燃焼室内に空気-ガス混合物の形態で導入される気体モードで運転することもできる。特に、本明細書に記載の大型ディーゼルエンジンの実施形態は、低圧法に係る気体モードで動作し、すなわち、ガスは気体状態でシリンダ内に導入される。低圧法とは、気体燃料が各シリンダの燃焼室内に噴射される噴射圧力が最大で100バール(10MPa)であることを意味する。好ましくは、噴射圧力は、最大で50バール(5MPa)、特に好ましくは最大で20バール(2MPa)である。しかしながら、気体燃料の最大噴射圧力は、更に低くてもよい(例えば、15バール又はそれ以下)。ガスと空気との混合は、シリンダ自体の中で、又は更にはシリンダの外側で行うこともできる。空気-ガス混合物は、オットー原理に従って燃焼室内で確実に点火される。この確実な点火は、通常、少量の液体燃料が適切な瞬間に燃焼室又はプレチャンバに導入され、その燃料が自己着火し、空気-ガス混合物の確実な着火を引き起こすという事実によって引き起こされる。もちろん、電気的に又は他の手段によって確実な点火を実現することも可能である。
【0045】
大型ディーゼルエンジンは、4ストロークエンジンとして、及び2ストロークエンジンとしての両方で設計することができる。ここで説明する実施形態では、大型ディーゼルエンジンは、少なくとも液体モードにおいて、コモンレールシステムを用いた長手方向に掃気される2ストローク大型ディーゼルエンジンとして設計される。
【0046】
大型ディーゼルエンジンの構造及び個々の構成要素(例えば、液体モード用噴射システム、気体モード用ガス供給システム、シリンダ当たり少なくとも1つの出口弁、排気システム、又は掃気又は充填空気を供給するためのターボチャージャシステムを含むガス交換システム、及び大型ディーゼルエンジン用の点検システム及び制御システム)は、2ストロークエンジンとしての設計並びに4サイクルエンジンとしての設計の両方において当業者に周知であるので、更なる説明はここでは必要ない。大型ディーゼルエンジンは、電子制御エンジンとして設計され、特に、ガス交換システム及び各燃料の導入は、電子的に制御される。すなわち、出口弁及び噴射システム又はガス供給システムの作動は、エンジンの点検装置及び制御装置からの電気的又は電子的信号によって行われる。この電子制御は、運転パラメータ(例えば、個々のシリンダへの燃料供給の開始又は終了、又は出口弁の開放時間又は出口弁の閉鎖時間)を自由に選択することができるので、最大限の可能な柔軟性の利点を提供し、作業サイクル内で(例えば、機械式カップリングを介して)特定のクランク角に縛られない。
【0047】
ここに記載される長手方向に掃気された2ストローク大型ディーゼルエンジンの実施形態では、掃気スロットは、通常、各シリンダ又はシリンダライナの下部領域に設けられ、シリンダ内でピストンの動作によって周期的に開閉され、これによって掃気スロットが開いている限り、充填圧力下でターボチャージャによって供給される掃気が、掃気スロットを通ってシリンダ内に流入することができる。主に中央に配置された出口弁がシリンダヘッド又はシリンダカバーに設けられており、これにより、燃焼プロセス後に燃焼ガスをシリンダから排気システムに排出することができる。もちろん、複数の出口弁(例えば、2つ又は特に4つの出口弁)が各シリンダに設けられている実施形態も可能である。1以上の燃料噴射ノズルが液体燃料の導入のために設けられ、例えば、出口弁近くのシリンダヘッド内に配置される。気体モードのガス供給のためのガス供給システムが設けられ、このシステムは、ガス入口ノズルを有する少なくとも1つのガス入口弁を備える。ガス入口ノズルは、典型的には、例えば、ピストンの上死点と下死点との間のほぼ中間の高さで、シリンダの壁に設けられている。
【0048】
更に、大型ディーゼルエンジンが船舶の駆動ユニットであるという応用への例として以下に言及する。
【0049】
本発明に係る方法は、大型ディーゼルエンジンが通常試験され、技術的特性が通常言及する通常の運転条件とは著しく異なる環境条件であっても、シリンダ内の最適な空気-燃料比を保証するために主に役立ち、これによって特に、上記の急速燃焼の不利な状態(あまりにも豊富な混合物)を避ける。大型ディーゼルエンジンは、通常、気体モードにおいて誤って調整された空気-燃料比に対してはるかに敏感に反応するので、以下では、例示的性質で二元燃料大型ディーゼルエンジンの気体モードに言及する。しかしながら、本発明に係る方法はまた、同様に液体モードにも使用できることは明らかである。
【0050】
排ガス排出値に関する法律上の規制のために、海岸近くの大型ディーゼルエンジンは、しばしば、気体モードで運転されなければならない。さもなければ、排ガス排出物(特に、窒素酸化物NOx及び硫黄酸化物)の所定の限界値は、もはや満たされないからである。
【0051】
気体モードでは、最も低い可能な排ガスを有する空気-ガス混合物の効率及び燃焼は、空気量とガス量の比に敏感である。この比率は、通常、燃焼に利用可能な空気の質量と燃料として使用されるガスの質量との比を示すλ値によって示される。
【0052】
最適な空気-ガス比は、エンジンによって生成される駆動トルクに依存し、したがって、エンジンが作動する船舶の所望の速度又は負荷に依存する。
【0053】
船舶を駆動するエンジンによって生成されたトルクは、本質的に作業サイクル(2ストロークエンジンのピストン運動の1期間と4ストローク機械のピストン運動の2期間)にわたって平均化されたトルクであるBMEP(ブレーキ平均有効圧力)トルクとしばしば呼ばれる。
【0054】
効率的かつ特に低排ガス運転では、2つの限界曲線(すなわち、ノッキング限界と失火限界)との間の各負荷でエンジンを運転することが望ましい。ノッキング限界を超える運転条件では、空気-ガス混合物又はより一般的には空気-燃料混合物が濃すぎる(すなわち、混合物中に空気が少なすぎる)。濃すぎる混合物は、様々な問題を引き起こす可能性がある(すなわち、燃焼があまりにも速く起こる(速い燃焼)、又はエンジンがノッキングを開始する、又はシリンダ内の混合物がその後、通常(作業サイクルに関連する)高すぎるガス含有量に起因する自己点火によってあまりにも早く燃焼し始める(前点火)。失火限界を超える運転条件では、空気-ガス混合物は薄すぎる(すなわち、燃焼室内での最適燃焼のために利用可能な十分なガスがない)。
【0055】
この理由のため、大型ディーゼルエンジンを(特に、気体モード(液体モードも含む)において)常に空気-燃料比の最適範囲内(すなわち、ノッキング限界と失火限界との間にある範囲内)で運転する努力がなされている。例えば、空気-燃料比とエンジンによって生成されたトルクとの間の相互関係を示す運転ラインがこの運転を特徴付ける。この運転ラインの終わりは、大型ディーゼルエンジンが100%負荷で運転される全負荷時(すなわち、全負荷運転時)に大型ディーゼルエンジンによって生成されるトルクに対応する。運転ラインはそこから部分負荷範囲(例えば全負荷の50~75%)を通って、低負荷範囲、及びエンジンの無負荷運転又は停止に対応する運転ラインの開始まで延びる。気体モードでは、例えば、大型ディーゼルエンジンは、2~3(例えば、2.5の範囲)のλ値で運転される。
【0056】
既に述べたように、これらの曲線(ノッキング限界、失火限界、運転ライン)は、それぞれの場合においてISO条件(すなわち、大型ディーゼルエンジンの技術仕様が参照する標準化された条件)を指す。したがって、上記の曲線は、特に25℃の空気温度を指す。空気温度は、吸気の温度(すなわち、ターボチャージャによって吸入される周囲空気の温度)を指す。これらの標準化された条件からの重大な逸脱(例えば、言及された熱帯条件)は、曲線の著しい変化につながる可能性がある。
【0057】
既に述べたように、シリンダに供給される掃気は、通常、タービンと圧縮機とを含むターボチャージャによって生成される。タービンは、大型ディーゼルエンジンの排気ガスシステムからの排気ガスによって駆動され、次に周囲空気を吸入し圧縮する圧縮機を駆動する。このようにして生成された掃気はその後、通常は充填空気冷却器を通過し、その後、掃気スロットを通ってシリンダ内に供給される準備が整う。
【0058】
大型ディーゼルエンジンの排気ガスシステムには、典型的には特別な排気ガス弁が設けられ、ターボチャージャの出力(したがって、掃気の供給された質量流量)を制御又は調節し、排気ガス弁は廃棄ゲート弁としても知られており、それによってターボチャージャに供給される排気ガスの質量流量を調節することができる。廃棄ゲート弁が完全に又は部分的に開いている場合、排気ガスの一部がターボチャージャを越えて導かれるので、それは最大可能出力を提供しない。廃棄ゲート弁が完全に閉鎖されると、排気ガスの全質量流量がターボチャージャに供給されるので、その最大可能出力で動作し、したがって早期の最大可能質量流量を生成する。廃棄ゲート弁の位置は、廃棄ゲート弁の開位置を示す。廃棄ゲート弁が完全に開いている場合、シリンダからの排気ガスの可能な最大割合がターボチャージャを越えて導かれ(ターボチャージャによって生成される掃気空気の最小質量流量)、廃棄ゲート弁が完全に閉鎖されている場合、シリンダからの全ての排気ガスは、ターボチャージャに導かれるので、その最大出力(すなわち、掃気の最大質量流量)を達成する。
【0059】
ターボチャージャによって生成された充填圧力は、ターボチャージャによって供給される空気の質量流量と共に変化する。例えば、この相互関係はほぼ正方形である。実際には、エンジンの負荷に応じてターボチャージャの出力が調整されることが多い。例えば、エンジンの各負荷又は各負荷範囲に対する充填圧力の値はルックアップテーブルに格納され、その値はその後、各場合において、エンジンをノッキング限界以下維持するために、掃気をシリンダに適度に供給することを確実にするべきである。典型的には、要求される充填圧力は、エンジンの負荷と共に増加する。エンジンのそれぞれの負荷に応じて、エンジンの点検及び制御装置は、ある程度まで排気ガス弁を開閉し、所望の充填圧力が圧縮機の出口で生成されるようにする。
【0060】
充填圧力(したがって、掃気の質量流量もまた)のそれぞれの調整はまた、「正常」又は標準化された運転条件(すなわち、例えば、吸入された周囲空気の温度)を指す値に基づく。例えば、上記の熱帯条件が周囲空気の温度を著しく上昇させる場合、これは空気の密度がより低いことに起因して、ターボチャージャによって生成された掃気の質量流量がシリンダ内の正しい空気-燃料比のために十分な空気を供給するのにもはや十分ではないという事実をもたらす。シリンダ内の燃焼が不十分な空気範囲に入り、高速燃焼の悪影響をもたらす危険性がある。
【0061】
本発明によれば、制御パラメータは大型ディーゼルエンジンの運転中に決定され、このパラメータは周囲空気又は掃気の温度及び/又は湿度に特有であり、制御パラメータの値は排気弁を調整するために使用されるので、ターボチャージャの出力は周囲空気の温度及び/又は湿度に応じて変化する。この措置により、エンジンは常に最適な空気-燃料混合物で運転される。
【0062】
特に、大型ディーゼルエンジンが(特に、気体モードで)熱帯条件下で運転される場合にも、これは可能である。熱帯条件とは、周囲空気の高温及び/又は高湿度によって(したがってターボチャージャによって吸入される空気によって)特徴付けられる条件である。高温とは、少なくとも27℃の温度を指す。しかしながら、熱帯条件下では、周囲空気の温度は、30℃又は35℃をかなり上回ることができる、又は45℃とすることができる。この温度は、ターボチャージャの入口における空気の温度を指す。高湿度とは、周囲空気の相対湿度が少なくとも40%(特に、少なくとも50%)であることを指す。湿度は、まさに60%又は更にそれ以上とすることができる。
【0063】
制御パラメータとして適切な変数は、例えば、ターボチャージャによって吸入される周囲空気の温度、ターボチャージャによって吸入される周囲空気の相対湿度、充填空気の現在の温度、又はこれらの変数の組み合わせである。これらの変数は既知であるか、又は測定によって決定することができる。
【0064】
第1の特に簡単な実施形態によれば、制御パラメータ(したがって、周囲空気の特性(特に、その温度又は湿度))は、排気弁の負荷依存調整において更に考慮される。したがって、排気弁の調整(したがって、ターボチャージャの出力)は、エンジンが作動される特定の負荷に依存するだけでなく、ターボチャージャによって吸入される周囲空気の現在の温度及び/又は湿度にも依存する。例えば、大型ディーゼルエンジンが一定の負荷(例えば、全負荷の50%~75%の中負荷範囲のどこか)で運転される場合、周囲空気の温度が著しく上昇して密度が低下すると、排気弁は更に閉じられ、より多くの排気ガスの質量流量がターボチャージャのタービンに導かれ、その出力は増加する。これは、圧縮機の出口における周囲空気の密度が低下したにもかかわらず、掃気の十分な質量流量又は十分な充填圧力が依然として提供されることを確実にする。
【0065】
異なる負荷範囲及び制御パラメータの異なる値に適した排気弁の位置は、大型ディーゼルエンジンの点検装置又は制御装置に、例えばルックアップテーブルの形態で格納又は保管することができる。
【0066】
別の好ましい一実施形態によれば、排気弁の温度依存又は湿度依存調整に加えて、それぞれの掃気プロセスの終了を決定する出口弁の閉鎖時間もまた、制御パラメータの現在の値に応じて調整される。出口弁の閉鎖時間は、シリンダ内の有効圧縮比を決定する。このように、閉鎖時間を変更して有効圧縮比を変更することにより、例えば、非常に暖かい周囲空気(したがって、より暖かい掃気)の場合に、空気密度の減少を補うことができる。
【0067】
大型ディーゼルエンジンの運転中、ターボチャージャの出力は、空気-燃料混合物は燃焼のための最適な配合を有するように、排気弁の調整及び出口弁の閉鎖時間を越えたシリンダの掃気の完了を介して、エンジンの負荷及び周囲空気の特性(例えば、その温度及び/又はその湿度)に応じて調整される。
【0068】
これは、特に簡単な一実施形態では、例えば、2つの相互関係(すなわち、ターボチャージャによって生成された空気質量流量に対するターボチャージャによって提供される充填圧力の依存性を示す第1の相互関係と、供給された掃気(充填圧力及び/又は質量流量)及び出口弁の閉鎖時間に対するシリンダ内の掃気度の依存性を示す第2の相互関係)を考慮した1以上のルックアップテーブルによって可能である。好ましくは、制御パラメータによって記述される周囲空気の特性及び/又は掃気の温度又は湿度は、両方の相互関係において考慮される。
【0069】
ここで、シリンダ内の掃気度とは、出口弁の閉鎖時間におけるシリンダ内の全体積に対する新鮮な空気又は掃気の体積比を指す。出口弁が完全に閉鎖されると、シリンダの掃気は停止し、シリンダ内の圧縮が開始する。このとき、ピストンの頂部、シリンダ壁、及びシリンダカバー又はシリンダヘッドは、シリンダ内の特定の体積を制限し、これは以前に(及び以後で)「全体積」という用語で呼ばれる。しかしながら、この全体積は、典型的には、新鮮な掃気によって完全には満たされない。例えば、少なくとも全体積と同じ大きさであるが通常は全体積よりも大きい新鮮な掃気の十分に大きな充填体積が、シリンダの掃気中に掃気スロットを通ってシリンダ内に導入されたとしても、新たに供給された掃気の一部が、シリンダ内の最後の燃焼に由来して排出された残留ガスと共に、出口弁を通って流出するので、全体積は通常、新鮮な掃気で完全に満たされることはできない。
【0070】
その結果、ある量の残留ガス(すなわち、先行する燃焼に起因するガス)が、出口弁の閉鎖時にシリンダの全体積に通常存在し、これにより掃気が停止される。
【0071】
次に、掃気度は、出口弁の閉鎖時に新鮮な掃気で満たされた全体積のパーセンテージを示す。全体積は、掃気で満たされた体積と残留ガスで満たされた体積とから構成されているので、掃気度は、掃気の体積と、掃気の体積及び残留ガスの体積の合計との商によって決定されるか、又は、これは等価であるが、掃気体積と、出口弁の閉鎖時の全体積との商によって決定される。掃気度は、通常パーセントで示される。
【0072】
このように、掃気度は、充填圧力、出口弁の閉鎖時間、及び温度に依存する。第1の相互関係を参照して上述したように、充填圧力は、ターボチャージャによって供給される空気の質量流量に依存するので、少なくとも充填圧力を超えた掃気度もまた、掃気の質量流量に依存する。
【0073】
シリンダ内の最適な燃焼を可能にし、特に速い燃焼又は過濃な空気-燃料混合物の防止する掃気度が実現される出口弁の閉鎖時間の値は、第1の相互関係、第2の相互関係、及び制御パラメータの現在の値によって、周囲空気のそれぞれの現在の特性(温度、湿度)に対して決定することができる。
【0074】
好ましくは、出口弁の閉鎖時間は、シリンダ内の掃気度が少なくとも70%(好ましくは約80%又は少なくとも80%)となるように調整される。
【0075】
特に、閉鎖時間の調整は、シリンダ内の最終圧縮温度を所定の範囲内に維持するために、したがって、例えば、シリンダ内の空気-燃料混合物の前点火を回避するために使用することもできる。
【0076】
制御パラメータの各値及びエンジンのそれぞれの負荷に依存して排気弁及び出口弁の閉鎖時間を調整するための値は、例えば、大型ディーゼルエンジンの検査装置又は制御装置内にルックアップテーブルとして保管することができる。このようなルックアップテーブルは、例えば、多次元テーブル又はマトリクスとすることができ、それぞれの場合において、排気弁の調整のための値及び出口弁の閉鎖時間のための値は、モータが運転される負荷と制御パラメータの値との異なる組み合わせに割り当てられる。制御パラメータの現在値及びエンジンが作動する実際の負荷に基づいて、エンジンの点検装置及び制御装置は、排気弁を調整するための値及び出口弁の閉鎖タイミングのための値をルックアップテーブルから取り、これらの値に従って排気弁及び出口弁を制御する。
【0077】
しかしながら、第1及び第2の相互関係を用いて、制御パラメータの値及びエンジンの負荷を入力パラメータとして有し、排気弁を調節するため及び出口弁の閉鎖時間のためのそれぞれ適した値を出力パラメータとして提供する、機能的(関数的)相互関係又はアルゴリズムを提供することも可能である。
【0078】
ルックアップテーブル又はアルゴリズムの値は、経験的データ、シミュレーション又はモデル計算、テストラン、計算、又はこれらの組み合わせに基づいて決定することができる。
【0079】
別の可能性は、シリンダ及び/又はターボチャージャ内の掃気をモデル化すること、又はモデルによってそれを示すことである。この目的のために、例えば、掃気モデル及び/又は圧縮機モデルを作成することができる。圧縮機モデルは、制御パラメータ(特に、周囲空気の温度又は湿度)を考慮して、ターボチャージャによって供給される充填圧力とターボチャージャによって生成される空気質量流量との間の相互関係を表す。掃気モデルは、制御パラメータ(特に、掃気の温度又は湿度)を考慮して、シリンダ内の掃気度と出口弁の閉鎖時間との間の相互関係を表す。次いで、圧縮機モデル及び掃気モデルを使用して、制御パラメータの値に応じて出口弁の閉鎖時間及び排気弁の調節の両方を決定する。もちろん、掃気モデルと圧縮機モデルを組み合わせて全体モデルを形成することもできる。
【0080】
本発明に係る方法は、大型ディーゼルエンジンにレトロフィットさせる(特に、二元燃料大型ディーゼルエンジンにレトロフィットさせる)のに特に適している。本発明に係る方法は、主要な追加の装置の有無にかかわらず実現可能であるので、既存の大型ディーゼルエンジンのリフィット(補修)又はレトロフィットに特に適しているので、不都合な周囲条件下(特に、熱帯条件下)でさえも効率的に、安全に、環境に配慮して、経済的に、大型ディーゼルエンジンを運転することができる。
【外国語明細書】