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特開2023-15796固体電解質、固体電解質製造用の粉末および固体電解質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015796
(43)【公開日】2023-02-01
(54)【発明の名称】固体電解質、固体電解質製造用の粉末および固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20230125BHJP
   C04B 35/447 20060101ALI20230125BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20230125BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
H01B1/06 A
C04B35/447
C01B25/45 H
C01B25/45 T
H01B13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119796
(22)【出願日】2021-07-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業「全固体電池を実現する接合プロセス技術革新」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】石井 健斗
(72)【発明者】
【氏名】打越 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】三好 正悟
(72)【発明者】
【氏名】高田 和典
【テーマコード(参考)】
5G301
【Fターム(参考)】
5G301CD01
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、密度が高く電気伝導度に優れたNASICON型LTP固体電解質およびその製造に好適な易焼結性粉末を提供することである。
【解決手段】バルク部がNASICON型LTPからなり、ネック部には酸化コバルトが存在する焼結体からなる固体電解質とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルク部がNASICON型LTPからなり、
ネック部には酸化コバルトが存在する焼結体からなる、固体電解質。
【請求項2】
バルク部がNASICON型LATPおよびNASICON型LAGPからなる群より選ばれる1種類以上の電解質からなる、請求項1記載の固体電解質。
【請求項3】
バルク部がNASICON型LATPからなる、請求項1記載の固体電解質。
【請求項4】
固体電解質母材と前記固体電解質母材の表面を覆う被覆材からなる粉末であって、
前記固体電解質母材はNASICON型LTPからなり、
前記被覆材はコバルト(Co)イオンを含み、
前記被覆材の厚さが原子層オーダーである、固体電解質製造用の粉末。
【請求項5】
前記固体電解質母材は、NASICON型LATPおよびNASICON型LAGPからなる群より選ばれる1以上からなる、請求項4記載の粉末。
【請求項6】
前記固体電解質母材は、NASICON型LATPからなる、請求項5記載の粉末。
【請求項7】
コバルトイオンは、前記被覆材にのみ含まれる、請求項4から6の何れか1項記載の粉末。
【請求項8】
前記被覆材は、コバルト硝酸塩を含む、請求項4から7の何れか1項記載の粉末。
【請求項9】
コバルト塩を、水と共沸させることが可能な溶媒に溶解させて溶液を作製することと、
NASICON型LTPからなる固体電解質母材を前記溶液に投入、分散させた分散液(スラリー)を作製することと、
前記分散液を乾燥させて固形物を得ることと、
前記固形物を解砕してコバルトイオンを含有する粉体を得ることと、
前記粉体を成型して成型体を得ることと、
前記成型体を酸素が存在する環境下で焼結する、固体電解質の製造方法。
【請求項10】
前記固体電解質母材は、NASICON型LATPおよびNASICON型LAGPからなる群より選ばれる1以上からなる、請求項9記載の固体電解質の製造方法。
【請求項11】
前記固体電解質母材は、NASICON型LATPである、請求項9記載の固体電解質の製造方法。
【請求項12】
前記コバルト塩は、コバルト硝酸塩である、請求項9から11の何れか1項記載の固体電解質の製造方法。
【請求項13】
前記コバルト硝酸塩は、Co(NO・6HOである、請求項12記載の固体電解質の製造方法。
【請求項14】
前記溶媒は、メタノール、エタノールおよびプロパノールからなる群より選ばれる1以上を含む、請求項9から13の何れか1項記載の固体電解質の製造方法。
【請求項15】
前記溶媒は、エタノールである、請求項14記載の固体電解質の製造方法。
【請求項16】
前記焼結は、大気環境で行われる、請求項9から15の何れか1項記載の固体電解質の製造方法。
【請求項17】
前記焼結の温度は、600℃以上800℃以下である、請求項9から16の何れか1項記載の固体電解質の製造方法。
【請求項18】
前記固体電解質母材のモル量Aに対する前記コバルト塩のモル量Bの比率B/Aは、0.001以上0.1以下である、請求項9から17の何れか1項記載の固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質、固体電解質製造用の粉末および固体電解質の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
次世代の充電池として、全固体二次電池が強く期待されている。
全固体二次電池は、正極および負極の電極と固体電解質が主要構成材であるが、特に現在注目を集めているリチウムイオン全固体二次電池では、固体電解質として電気伝導度、機械的強度、化学的安定性などが優れた特性を有するNASICON型のLTP系固体電解質、特に性能が優れているLi1.3Al0.3Ti1.7(POなどのLATP固体電解質が主に検討されている。
【0003】
全固体二次電池を生産性高く低コストで効率的に生産するためには、電極とLTPやLATP固体電解質を一体焼結法で作製するのが好ましい。
LTPやLATP固体電解質は一般的に焼結法によって作製されるが、その焼結温度は1000℃以上である。一方、橄欖石型(オリビン型)の正極活物質の一般的な焼結温度は、電極との拡散を抑制するため、約800℃である。
このため、一体焼結を行う場合、焼結温度は、正極活物質のそれがボトルネックになって、LTPやLATP固体電解質よりも低い800℃に制限される。ちなみに、1000℃で焼結すると、電極とLTPやLATP固体電解質間で拡散が起こり、固相反応による高抵抗相の生成などの電気特性が優れなくなるという問題が起こる。
【0004】
焼結温度を約800℃とした場合、焼結助剤無添加LTPやLATPの相対密度は、1000℃で焼結させた場合の約80%に対して、約60%と大変低く、電気伝導度も低いものになる。
【0005】
そこで、焼結温度が800℃以下で、高密度化が可能であり、高い機械的強度と電気伝導度に優れた易焼結性のLTP固体電解質、その固体電解質を製造する上で欠かせない固体電解質製造用粉末、およびそれらの製造方法が嘱望されていた。
【0006】
特許文献1には、オリビン型正極活物質とNASICON型固体電解質を同時焼成する際に、正極活物質から固体電解質へのLi金属元素(Mn、Co、Ni)の拡散を抑制し、充放電時への影響を抑制する全固体二次電池および製造方法が開示されている。そこでは、電解質層に拡散する遷移金属を添加するが、それにより反応が抑制され、焼結性を向上させている。ここで、遷移金属の添加は、電解質の合成時もしくは合成した電解質に対して、酸化物、炭酸塩もしくは酢酸塩により行われる。なお、酸化物により添加される方法は、粒径や粒子の分散性に起因した不均一性が局所構造に生じるため、焼結助剤が多く取り残された構造や不純物相を形成しやすく、粉末粒子の分散制御に課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-11864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の背景技術で説明した従来の問題点を解消するためになされたものであり、密度が高く電気伝導度に優れた易焼結性のNASICON型LTPやLATP固体電解質およびその固体電解質の製造に好適な焼結用粉末を提供することを目的とする。
また、焼結温度が800℃以下で、密度が高く電気伝導度に優れた易焼結性のNASICON型LTPやLATP固体電解質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の構成を下記に示す。
(構成1)
バルク部がNASICON型LTPからなり、
ネック部には酸化コバルトが存在する焼結体からなる、固体電解質。
(構成2)
バルク部がNASICON型LATPおよびNASICON型LAGPからなる群より選ばれる1種類以上の電解質からなる、構成1記載の固体電解質。
(構成3)
バルク部がNASICON型LATPからなる、構成1記載の固体電解質。
(構成4)
固体電解質母材と前記固体電解質母材の表面を覆う被覆材からなる粉末であって、
前記固体電解質母材はNASICON型LTPからなり、
前記被覆材はコバルト(Co)イオンを含み、
前記被覆材の厚さが原子層オーダーである、固体電解質製造用の粉末。
(構成5)
前記固体電解質母材は、NASICON型LATPおよびNASICON型LAGPからなる群より選ばれる1以上からなる、構成4記載の粉末。
(構成6)
前記固体電解質母材は、NASICON型LATPからなる、構成5記載の粉末。
(構成7)
コバルトイオンは、前記被覆材にのみ含まれる、構成4から6の何れか1項記載の粉末。
(構成8)
前記被覆材は、コバルト硝酸塩を含む、構成4から7の何れか1項記載の粉末。
(構成9)
コバルト塩を、水と共沸させることが可能な溶媒に溶解させて溶液を作製することと、
NASICON型LTPからなる固体電解質母材を前記溶液に投入、分散させた分散液(スラリー)を作製することと、
前記分散液を乾燥させて固形物を得ることと、
前記固形物を解砕してコバルトイオンを含有する粉体を得ることと、
前記粉体を成型して成型体を得ることと、
前記成型体を酸素が存在する環境下で焼結する、固体電解質の製造方法。
(構成10)
前記固体電解質母材は、NASICON型LATPおよびNASICON型LAGPからなる群より選ばれる1以上からなる、構成9記載の固体電解質の製造方法。
(構成11)
前記固体電解質母材は、NASICON型LATPである、構成9記載の固体電解質の製造方法。
(構成12)
前記コバルト塩は、コバルト硝酸塩である、構成9から11の何れか1項記載の固体電解質の製造方法。
(構成13)
前記コバルト硝酸塩は、Co(NO・6HOである、構成12記載の固体電解質の製造方法。
(構成14)
前記溶媒は、メタノール、エタノールおよびプロパノールからなる群より選ばれる1以上を含む、構成9から13の何れか1項記載の固体電解質の製造方法。
(構成15)
前記溶媒は、エタノールである、構成14記載の固体電解質の製造方法。
(構成16)
前記焼結は、大気環境で行われる、構成9から15の何れか1項記載の固体電解質の製造方法。
(構成17)
前記焼結の温度は、600℃以上800℃以下である、構成9から16の何れか1項記載の固体電解質の製造方法。
(構成18)
前記固体電解質母材のモル量Aに対する前記コバルト塩のモル量Bの比率B/Aは、0.001以上0.1以下である、構成9から17の何れか1項記載の固体電解質の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、密度が高く電気伝導度に優れた易焼結性のNASICON型LTP固体電解質およびその固体電解質の製造に好適な焼結用粉末が提供される。また、焼結温度が800℃以下で、密度が高く電気伝導度に優れた易焼結性のNASICON型LTP固体電解質の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の焼結体の構造を示す説明図である。
図2】本発明の易焼結固体電解質の製造フローチャート図である。
図3】粉体の構造を示す説明図である。
図4】本発明の易焼結固体電解質の相対密度の焼結温度依存性をCo添加量をパラメータにして示した特性図である。
図5】本発明の易焼結固体電解質の相対密度のCo添加量依存性を示す特性図であり、その焼結条件は大気圧下800℃である。
図6】焼結条件をArガス下800℃としたときの固体電解質の相対密度のCo添加量依存性を示す特性図である。
図7】Co未添加で、800℃で焼結形成した焼結体の破断面組織のSEM写真である。
図8】Coを添加して800℃で焼結形成した焼結体(易焼結固体電解質(Co-LATP))の破断面組織のSEM写真である。
図9】Coを添加して1000℃で焼結形成した焼結体(易焼結固体電解質(Co-LATP))の破断面組織のSEM写真である。
図10】800℃で焼結形成した本発明の易焼結固体電解質の電気伝導率特性を示す特性図である。
図11】1000℃で焼結形成した本発明の易焼結固体電解質の電気伝導率特性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。以下に記載する本発明の詳細な説明は、代表的な態様、実施形態、および実施例に基づいてなされることがあるが、これらは例示であり、本発明はそのような態様、実施形態、及び実施例に限定されるものではない。
なお、「A~B」は、A以上B以下を示す。
【0013】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明のNASICON型LTP易焼結性リチウムイオン固体電解質の製造方法を説明する。
【0014】
本発明は、溶解、析出反応により電解質粒子表面に極少量の焼結助剤となる元素(コバルト(Co))のイオンを均一かつ簡便にコーティングさせて固体電解質の焼結性を向上させるものである。その結果、固体電解質に接して配置される電極およびその電極を構成する活物質との反応や拡散が抑制される800℃というような比較的低温の焼結で固体電解質としての必要十分な高い電気伝導度や高い相対密度が得られる。ここで、相対密度が高いと、一般に、高い機械強度が得られる。
以下、その詳細を下記に示す。
【0015】
実施の形態1による全固体電解質の製造工程を図2に示す。
最初に、コバルト塩を溶媒に溶解させる(工程S01)。
本発明では、固体電解質用粉末は、その表面がコバルトを含んだ被覆材で覆われていることを特徴とするが、そのコバルトを含んだ被覆材の仕込みとしてコバルト塩を用いる。
ここで、コバルト塩としては、コバルト硝酸塩を好んで挙げることができ、コバルト硝酸塩六水和物(Co(NO・6HO)を特に好んで用いることができる。コバルト硝酸塩は、焼結の際に硝酸基が揮発してコバルトのみが残るため、不純物の残存を極力抑えることが可能になる。さらに、コバルト硝酸塩の水和物、特にCo(NO・6HOにすることにより、溶媒によく溶け、少量のコバルトが極めて均一に含有された被覆材を得ることが可能になる。
【0016】
溶媒は、水と共沸させることが可能な溶媒であり、例えばメタノール、エタノール、プロパノールからなる群より選ばれる1以上を含む溶媒、特に好んではエタノールを挙げることができる。ここで、例えばエタノールを含む溶媒としては、エタノールに水が添加された溶媒を挙げることができる。
なお、この溶解には、スターラー攪拌や超音波印加を伴って行うことが好ましい。温度は室温が、取り扱いが容易で、低コストなため好ましい。
【0017】
次に、NASICON型LTP固体電解質母材を前記溶媒に投入、分散させた分散液を作製する(工程S02)。
ここで、LTPは、LATPおよびNASICON型LAGPからなる群より選ばれる1以上とすることがより好ましい。LATPおよび/またはLAGPにするとより性能の高い固体電解質を得ることが容易になる。
ここで、本発明におけるLATPは、それを構成するAlの原子数比率x(Li1+xAlTi2-x(POのx)が0以上1以下であるリチウム-アルミニウム-チタン-リン酸化合物のことをいう。この中でも、Li1.3Al0.3Ti1.7(POが、汎用に用いられているため、好んで用いることができる。
さらに、LATPは、LATPのチタン(Ti)をゲルマニウム(Ge)に置換したLAGPより固体電解質に接触して配置される電極との反応性が低いので、LATPを特に好んで用いることができる。
なお、この混合、分散には、スターラー攪拌や超音波印加を伴うことが好ましく、温度は室温が、取り扱いが容易で、低コストなため好ましい。
【0018】
発明者は、長年の研究により、CoがLATPの焼結助剤として優れていることを見出していた。すなわち、CoがLATP粉間の界面に介在していると、低温でも十分な焼結が行えて、焼結材の相対密度が高くなり、また電気伝導度も向上することを見出していた。
その検討の中で、多量の焼結助剤は、LATPの固体電解質としての性能低下、例えば電気伝導度や相対密度の低下をもたらすことも見出していた。
そこで、どうやったら少量のCoをLATP粉に均一にコーティングできるかを鋭意検討してきた。
その結果、コバルトを塩の形で、水と共沸させることが可能な溶媒に溶解させた溶液を用いればよいこと、さらにはコバルト塩を、焼結の際に硝酸基が揮発してコバルトのみが残るコバルト硝酸塩とすればさらによいこと、コバルト硝酸塩としてコバルト硝酸塩水和物、特にCo(NO・6HOを用いるとさらにいっそう少量のCoをLATP紛に均一にコーティングできることを多大な試行錯誤の結果導き出した。これは、この溶媒が硝酸塩の水和物をよく溶解させることと、表面張力が小さく、かつLATPとの界面張力も小さいことから、LATPの表面によく馴染んで均一な液膜が形成され、その液膜の乾燥時もムラなく溶液が引いていくことによると考えている。
【0019】
固体電解質母材とコバルト塩の添加量に関しては、固体電解質母材のモル量Aに対するコバルト塩のモル量Bの比率B/Aを0.001以上0.1以下とすることが好ましい。添加量をこの範囲にすることにより、高い相対密度および高い電気伝導度の焼結体を得ることができる。
【0020】
しかる後、分散液を乾燥させて固形物を得る(工程S03)。乾燥方法としては、加熱乾燥、真空乾燥を挙げることができる。
【0021】
次に、固形物の凝集体を解砕して粉体を得て、その後粉体を加圧成型する(工程S04)。ここで、解砕の方法としては、乳棒・乳鉢による方法、ボールミルを挙げることができる。成型には、例えば一軸加圧成型、CIP(Cold Isostatic Pressing)、シート成型などを用いることができ、圧力としては、例えば20MPa以上350MPa以下とすることができる。加圧の雰囲気は大気、Arガス、Nガス、Oガスとすることができるが、大気が取り扱い容易でコストも低いので好んで用いることができる。
【0022】
このようにしてできた粉体1の構造を図3に示す。
粉体1は、LTP、LATPやLAGPなどからなる固体電解質母材11がコバルト塩からなる被覆材12で覆われた構造である。ここで、被覆材は均一な厚さで切れ目や欠損の少ない緻密なものになる。被覆材の厚さは、原子層オーダーの制御が好ましい。具体的には、1原子層以上10原子層以下が好ましく、より好ましくは1原子層以上4原子層以下、さらに好ましくは1原子層以上2原子層以下がよい。この厚さの制御は、コバルト塩の仕込み量、すなわち固体電解質母材のモル量Aに対するコバルト塩のモル量Bの比率B/Aにより制御できる。特に、コバルト硝酸塩および水と共沸させることが可能な溶媒を用いることにより、コバルトの分布ムラが生じにくくなって、原子層オーダーで制御された極薄膜をムラを抑えて形成することが可能になる。
被覆材がこのような薄い膜であると、焼結助剤の量を減らしながら稠密で十分な焼結を行うことができるので、焼結温度が低くても、高い相対密度や高い電気伝導度などの固体電解質として求められる十分な性能を得ることができる。
【0023】
この粉体中のコバルトは、粉体形成までは固体電解質母材内に拡散するほどの高温処理が行われていないので、固体電解質母材11内には入り込まず、被覆材12にのみ存在する。このことにより、コバルトの量を固体電解質の緻密性を上げる焼結助剤として機能するに必要な極小量にすることができ、高い性能をもつ固体電解質を製造することが可能になる。
【0024】
なお、コバルトが存在するとは、成分として含むことを意味し、存在しないとは成分として含まないことを意味する。ここでは、不純物として意図せず混入したものは含まないものとして取り扱う。コバルトは、固体電解質母材11内に不純物としても含まないことが好ましいが、そのために精製純度を上げることは、コストパフォーマンスを鑑みて判断することが好ましい。
【0025】
しかる後、大気など酸素が存在する環境下で焼結を行う(工程S05)。
焼結温度は、600℃以上800℃以下が好ましく、800℃がより一層好ましい。この上限温度の維持時間は、例えば1Hr以上10Hr以下とすることができ、昇温および降温の速度(レート)は、例えば100℃/Hr以上300℃/Hrとすることができる。このような焼結条件では、固体電解質に接して配置される電極との間で拡散などが起きにくく、この固体電解質を用いて作製された二次電池は高い性能をもつものになる。
酸素が関与してコバルトが酸化し、効率の高い焼結助剤となるので、800℃というような低い焼結温度でも二次電池などに求められる高い相対密度や高い電気伝導度などを備えた固体電解質が供給される。なお、焼結を大気下で行うことは、取り扱いが容易でコストメリットもあることから好ましい。
【0026】
このようにして形成された焼結体101は、図1に示すように、バルク部21がNASICON型LTPからなり、ネック部22には酸化コバルトが存在する焼結体からなる固体電解質になる。ネック部22はNASICON型LTP以外の酸化コバルトを含むが少量なので、酸化コバルトの存在による電気特性の低下は僅かなものとなる。一方で、ネック部22でバルク部21同士が十分に密着し、高い相対密度の焼結体101になる。
【0027】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、上記実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
また、上記説明では、全固体二次電池用の固体電解質を念頭に述べてきたが、この固体電解質の適用は全固体二次電池に限るものではなく、例えば、セパレーター、COセンサー、キャパシタ、電気化学的デバイス、海水中のリチウムイオン回収などにも適用が可能である。
【実施例0028】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、必ずしも下記の実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
最初に、焼結助剤になる硝酸塩を作製するために硝酸コバルト・六水和物(Wako)を準備し、それを特に脱水処理のされていない市販のエタノールからなる溶媒に溶解させて、硝酸塩溶液を作製した(図2の工程S01)。ここで、この溶解は大気下の室温で行った。
次に、固体電解質母材としてNASICON型構造をもつ市販のLATP粉(豊島製作所)を用意し、それを超音波印加下で硝酸塩溶液に分散、攪拌させて分散液(スラリー)を作製した(工程S02)。その環境は大気圧、室温である。ここで、LATPの量は、エタノール溶媒に対して固形分濃度が15vol%になる量とし、硝酸コバルト・六水和物の量は、LATPの重量に対してCoの重量比が0.1~2.0wt%(LATPに対するCoのモル比は0.006506~0.130123)になるように電子天秤を用いて秤量した。
【0030】
その後、得られたスラリーをディスポーサブル容器中に平坦、均一になるように拡げ、50℃のオーブン中大気圧下で1時間の乾燥処理を行った(工程S03)。乾燥試料はメノウ乳鉢で力をかけずにすり潰し、乾燥処理により生じた粗大固形物の解砕を行った。
しかる後、得られた解砕物であるCoが添加されたLATP(Co-LATP)を金型に充填し、プレスして、成型体を得た(工程S04)。そのときの圧力は100MPaとし、3分大気圧下で圧力を印加した。
最後に、得られた成型体を大気圧の各温度(800℃、1000℃)で焼成して、焼結体を得た(工程S05)。このとき、昇温速度100℃/Hr、最大温度維持時間10Hr、そして降温速度は100℃/Hrとした。
【0031】
パラメータをCo添加量、焼結温度を800℃と1000℃の2水準としたときのCo-LATPの相対密度の焼結温度依存性を図4に示す。ここで、相対密度の測定は、嵩密度(体積/重量)とした。なお、同図には焼結を行う前の相対密度も併せて示している(このデータは25℃のところに表示している)。
800℃の焼結温度において、Coを添加した全てのLATP焼結体は未添加のLATPよりも高い相対密度になっており、Coの添加が相対密度改善に寄与していることがわかる。
【0032】
図5は、焼結温度を800℃として大気下で以上の工程により作製した焼結体(Co-LATP)の相対密度およびCo添加量依存性を示す。Coを0.1wt%(LATPに対するモル比は0.006506)添加することにより相対密度はCoを添加しない場合の約59%より約2割向上して約71%になり、Coを0.2wt%~2.0wt%(LATPに対するモル比0.013012~0.130123)添加することにより相対密度は75%を超え、Coを0.3wt%(LATPに対するモル比0.019518)添加したときに相対密度が極大の約80%になることがわかる。なお、Coを10wt%(LATPに対するモル比0.650617)添加したときの相対密度は54.54%、焼結収縮率は-10.23%になった。Coを添加しないときの相対密度は58.63%、焼結収縮率は-6.84%であり、10wt%というような量が多いCo添加は相対密度改善に有意な効果を生まなかった。
【0033】
図6は、焼結の雰囲気が大気からArガスに変わった以外は図5と同じ条件で作製した試料の相対密度とCo添加量依存性を示す。酸素が介在しない焼結条件では、酸素が存在する焼結とは異なり、Co添加による相対密度の向上は僅かなものにとどまっている。これは、相対密度向上のメカニズムにCoの酸化が大いに寄与していることを示している。焼結の環境として酸素が存在することが好ましいことがこの結果からわかる。
【0034】
図7は、大気下800℃で焼結したCo未添加LATPの破断面組織のSEM写真であり、図8はCoを添加した以外同じ条件で焼結作成したCo-LATPの破断面組織のSEM写真である。図7の(a)と(b)は倍率が異なり、(a)は(b)の10倍の倍率で、図7(a)と図8は同じ倍率になっている。
この結果から、Co未添加LATPよりもCo添加LATPの粒子成長は促進されておらず、Co添加により各粒子間のネック部の形成が認められた。
【0035】
図9は、大気下1000℃で焼結したCo-LATPの破断面組織SEM写真である。図8に示した800℃で焼結したCo-LATPよりも焼結が進行し、緻密化している組織が観察された。
【0036】
図10に大気下800℃で焼結したCo-LATPの電気伝導率測定結果を示す。
Co添加量0.5wt%(LATPに対するモル比0.032531)までは添加量の増加に伴い電気伝導率が向上した。Co添加量が1.0wt%(LATPに対するモル比0.065062)以上から電気伝導率は低下するが、Co未添加の電気伝導率と同等かそれ以上の値であった。
Co添加量が0.5wt%までは主に密度の向上が電気伝導率の向上に寄与しているものと考えられる。Co添加量が1.0wt%以上では、不純物相の影響が顕著になるため、電気伝導率が減少に転じたものと考えられる。
【0037】
図11に大気下1000℃で焼結したCo-LATPの電気伝導率測定結果を示す。
Co添加量の増加に伴い電気伝導率は減少した。1000℃ではCo未添加のLATPが十分に焼結する温度であり、全ての試料において、密度の差異よりCo添加による不純物相の生成量の差異が電気伝導率に反映されていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明により、密度が高く電気伝導度に優れたNASICON型LTP固体電解質、その製造に好適な易焼結性の粉末、および正極活物質の拡散が十分抑えられる800℃以下の焼結で、密度が高く電気伝導度に優れた易焼結性のNASICON型LTP固体電解質の製造方法が提供される。この固体電解質、その固体電解質製造用粉末および固体電解質の製造方法を用いれば、機械特性および電気特性が優れるリチウムイオン全固体二次電池を生産性良く低コストで供給できるため、民生、産業用途を問わず、産業に寄与すると考えられる。
【符号の説明】
【0039】
1:粉体
11:固体電解質母材(LATP)
12:コバルト含有被覆材
21:バルク部
22:ネック部
101:焼結体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
図11