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特開2023-158013Ni-Zn-Cu系フェライト粉末、焼結体、フェライトシート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158013
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】Ni-Zn-Cu系フェライト粉末、焼結体、フェライトシート
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/30 20060101AFI20231019BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20231019BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20231019BHJP
   H01F 1/36 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
C04B35/30
C01G49/00 E
C01G49/00 A
H01F1/34 140
H01F1/36
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023136607
(22)【出願日】2023-08-24
(62)【分割の表示】P 2020506574の分割
【原出願日】2019-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2018050116
(32)【優先日】2018-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000166443
【氏名又は名称】戸田工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野村 吏志
(72)【発明者】
【氏名】西尾 靖士
(72)【発明者】
【氏名】中務 愛仁
(72)【発明者】
【氏名】岡野 洋司
(72)【発明者】
【氏名】藤井 泰彦
(57)【要約】
【課題】
本発明は、例えば、860℃の低温でも焼結可能となるNi-Zn-Cu系フェライト粉末に関するものである。
【解決手段】
Feを45~49mol%、NiOを5~25mol%、ZnOを15~40mol%、CuOを5~15mol%及びCoOを0~3mol%含有し、結晶子サイズが180nm以下であることを特徴とするNi-Zn-Cu系フェライト粉末であり、該Ni-Zn-Cu系フェライト粉末を使用した焼結体、又は、フェライトシートである。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feを45~49mol%、NiOを5~25mol%、ZnOを15~40mol%、CuOを5~15mol%及びCoOを0~3mol%含有し、結晶子サイズが180nm以下であることを特徴とするNi-Zn-Cu系フェライト粉末。
【請求項2】
歪が0.330以下である請求項1に記載のNi-Zn-Cu系フェライト粉末。
【請求項3】
大気中860℃で焼成した際に、焼結密度が5.00g/cm以上となる請求項1又は請求項2に記載のNi-Zn-Cu系フェライト粉末。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のNi-Zn-Cu系フェライト粉末を使用した焼結体。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載のNi-Zn-Cu系フェライト粉末を使用したフェライトシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni-Zn-Cu系フェライト材料に関し、低温で焼結可能となるフェライト粉末に関するものであり、また、本発明は、前記フェライト粉末を使用した焼結体、フェライトシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭用及び産業用等の電子機器の小型・軽量化が進んでおり、それに伴い、前述の各種電子機器に用いられる電子部品の小型化、高効率化、高周波数化のニーズが高まっている。
【0003】
例えば電子機器の電子回路に用いられるインダクタは、磁心または空芯ボビンに絶縁被覆を有する銅線を巻線してコイルを形成する巻線型から、フェライト焼結型の積層型チップインダクタが実用化されている。
【0004】
この積層型チップインダクタは次の製造工程を経て製造される。即ち、フェライト粉末を含むペーストをシート状に成膜してなるグリーンシートに、Ag、Ag-Pd等の電極材料を含むペーストを用いて導電パターンを印刷などにより形成した後、これらを積層し、所定の温度において焼結させて、外部電極を形成する工程で製造される。
【0005】
ところで、上述の如く積層型チップインダクタの製造工程においては、電極材料とフェライトの積層体を同時焼成する方法を採っているために、Ag、Ag-Pd等の電極材料とフェライトとの界面反応(相互拡散)によってフェライト本来の特性が劣化するという問題点を有しており、この問題を回避するためには約900℃以下という低温で焼成する必要があるとされている。
【0006】
しかし、900℃以下の温度で焼成した場合には、積層型チップインダクタ用の磁性体として透磁率等の電磁気特性に優れたNi系フェライト焼結体が得られ難い。
【0007】
これまで、Ni-Zn-Cu系フェライト粉末について、低温においても焼結可能な技術が幾つか提案されている。例えば焼結助剤であるホウケイ酸ガラスを添加することで焼結時に液相を生成させ、フェライト粒子の成長を促進する方法(特許文献1)、他にもガラス成分を添加する方法として、SiO、B、NaOからなるガラス成分を添加して、液相焼結を形成し、フェライト粒子成長を促進させる方法がある(特許文献2)。環境負荷の大きいPbO、フェライトの透磁率を減少させ、その他電子機器にも悪影響を与えるNaを含まないガラス成分を添加して、液相焼結を形成し、フェライト粒子成長を促進させる方法もある(特許文献3)。またRFID用用途として、Ni-Zn-Cu系フェライト粉末の結晶相のXRD回折ピークの半値幅を制御して、高透磁率化を実現させる方法がある(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5-326241号公報
【特許文献2】特開2000-208316号公報
【特許文献3】特開2007-99539号公報
【特許文献4】特開2005-64468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~3のいずれもガラス成分を添加することで液相焼結を形成し、フェライト粒子成長を促進させる方法を採っている。しかしながら、これらの添加剤の添加量はごく少量であり、均一に分散させることが難しく、フェライト粒子の不均一な成長を促進させる。また、特許文献4では、焼結助剤は添加されていないが、1060℃以上の高温で焼成する必要があり、低温での焼結は考慮されていない。
【0010】
そこで、本発明では、上記の従来技術における課題を解決するため、低温で焼結可能となるNi-Zn-Cu系フェライト粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0012】
すなわち、本発明は、Feを45~49mol%、NiOを5~25mol%、
ZnOを15~40mol%、CuOを5~15mol%及びCoOを0~3mol%含有し、結晶子サイズが180nm以下であることを特徴とするNi-Zn-Cu系フェライト粉末である(本発明1)。
【0013】
また、本発明は、歪が0.330以下である本発明1に記載のNi-Zn-Cu系フェライト粉末である(本発明2)。
【0014】
また、本発明は、大気中860℃で焼成した際に、焼結密度が5.00g/cm以上となる本発明1又は本発明2に記載のNi-Zn-Cu系フェライト粉末である(本発明3)。
【0015】
また、本発明は、本発明1~3のいずれか一項に記載のNi-Zn-Cu系フェライト粉末を使用した焼結体である(本発明4)。
【0016】
また、本発明は、本発明1~3のいずれか一項に記載のNi-Zn-Cu系フェライト粉末を使用したフェライトシートである(本発明5)。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト粉末は、結晶子サイズが小さいので、低温で焼結しても高い焼結密度のフェライト焼結体を得ることができる。また、本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト粉末は、例えば860℃の低温で焼結可能であるので、Agと磁性粉が同時焼成される積層型インダクタに使用される際、融点の低いAgの拡散を抑制出来、インダクタ性能の向上が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト粉末について述べる。
【0019】
本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト粉末は、構成金属元素としてFe、Ni、Zn及びCu、必要により、Coを含有する。構成金属元素それぞれを、Fe、NiO、ZnO、CuO及びCoOに換算したときに、Fe、NiO、ZnO、CuO及びCoOの合計(100%)を基準として、Feを49mol%以下、NiOを5~25mol%、ZnOを15~40mol%、CuOを5~15mol%、及びCoOを0~3mol%含有する。
【0020】
本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト粉末のFe含有量は、Fe換算で49mol%以下である。Fe含有量が49mol%を超える場合は、焼結性が著しく低下する。Feの含有量は好ましくは48.9mol%以下、より好ましくは48.8mol%以下である。下限は45mol%程度である。
【0021】
本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト粉末のNi含有量は、NiO換算で5~25mol%である。Ni含有量が5mol%未満の場合、μ’が低下するため好ましくない。またキュリー温度が低下し、使用可能な温度範囲が限定されるため、好ましくない。Ni含有量が25mol%を超える場合も、μ’が低下するため好ましくない。Ni含有量は好ましくは6~24.9mol%、より好ましくは7~24.8mol%である。
【0022】
本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト粉末のZn含有量は、ZnO換算で15~40mol%である。Zn含有量が15mol%未満の場合、μ’が低下するため好ましくない。またキュリー温度が低下し、使用可能な温度範囲が限定されるため、好ましくない。Zn含有量が40mol%を超える場合も、μ’が低下するため好ましくない。Zn含有量は好ましくは18~38mol%、より好ましくは20~35mol%である
【0023】
本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト粉末のCu含有量は、CuO換算で5~15mol%である。Cu含有量が5mol%未満の場合、焼結性が低下し、低温で焼結体を製造することが困難になる。Cu含有量が15mol%を超える場合は、μ’が低下するため好ましくない。Cuの含有量は好ましくは6~14mol%、より好ましくは7~13mol%である。
【0024】
本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト粉末はCoを含有しても良い。Co含有量は、CoO換算で0~3mol%である。本発明においては、フェライトがCoを含有することによって、スネークの限界線が高周波数側にシフトするため、高周波数域における複素透磁率の虚数部μ”に対する実数部μ’の比であるフェライトコアのQ(μ’/μ”)を向上させることが出来る。ただし、Co含有量が、CoO換算で3mol%を超えると、透磁率が低下し、フェライトコアのQも低下する傾向がある。Co含有量は好ましくは0~2.9mol%、より好ましくは0~2.8mol%である。
【0025】
本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト粉末は、結晶子サイズが180nm以下である。結晶子サイズが180nmを超える場合、磁性粉段階で粒子成長が促進されているため、焼結体、グリーンシートを焼成する際に、焼結性が低下して、低温での焼結が出来なくなる。より好ましくは、175nm以下、さらにより好ましくは170nm以下である。下限は100nm程度である。
【0026】
本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト粉末は、結晶の歪が0.330以下が好ましい。歪が0.330を超える場合、μ’が低下することがあるため好ましくない。より好ましくは0.325以下、さらにより好ましくは0.320以下である。下限は0.100程度である。なお、本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト粉末は、スピネルフェライト単相であることが好ましい。
【0027】
本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト粉末は、その特性に影響を及ぼさない範囲で前記元素のほかに不純物レベルの種々の元素を含んでいてもよい。一般的に、Biを添加することはフェライトの焼結温度の低温化の効果があると知られている。しかし、Biの分散状態が不均一である場合、焼成時に粒子の不均一な成長を促進させるため、積極的なBi添加は好ましくなく、0ppmであることが好ましい。
【0028】
本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト粉末は、不可避的な不純物としてSiをSiO換算で500ppmを上限として含有してもよい。Snなどは含有しないことが好ましい(0ppm)。
【0029】
本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト粉末は、常法により、フェライトを構成する各元素の酸化物、炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩等の原料を所定の組成割合で混合して得られた原料混合物、又は、水溶液中で各元素を沈殿させて得られた共沈物を、大気中において650~950℃の温度範囲で1~20時間仮焼成した後、粉砕することにより得ることができる。仮焼成の温度は、好ましくは700~940℃である。
【0030】
本発明においては、Fe原料であるFeのBET比表面積が6.0m/g以上であることが好ましい。FeのBET比表面積が6.0m/g未満の場合、各原料の混合が不均一となり、フェライト磁性粉としての焼結性が低下し、低温焼結時に高い焼結密度が得られない。FeのBET比表面積は6.5~40.0m/gがより好ましく、更により好ましくは7.0~30.0m/gである。なお、FeのBET比表面積は、Feの合成段階、焼成段階及び粉砕等でコントロールできる。
【0031】
また、本発明では、Ni-Zn-Cu系フェライト粉末の製造時に焼結助剤を添加していないため、粒子の不均一な成長を抑制できる。
【0032】
次に、本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト焼結体について述べる。
【0033】
フェライト焼結体の焼結密度は、低温焼結時でも高い焼結密度が得られることが好ましく、例えば860℃程度の低温焼成時においても、5.00g/cm以上であることが好ましい。焼結密度が5.00g/cm未満の場合、十分な電磁気特性が得られず、また焼結体の機械的強度が低くなり好ましくない。焼結密度の上限は5.40g/cm程度である。
【0034】
本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト焼結体は、本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト粉末を金型を用いて、0.3~3.0×10t/mの圧力で加圧する、所謂、粉末加圧成型法により得られた成型体、又は、本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト粉末を含有するグリーンシートを積層する、所謂、グリーンシート法により得られた積層体を840~1050℃で1~20時間、好ましくは1~10時間焼結することによって得ることができる。成型方法としては、公知の方法を使用できるが、上記粉末加圧成型法やグリーンシート法が好ましい。
【0035】
焼結温度が840℃未満であると、焼結密度が低下する為、十分な電磁気特性が得られず、また焼結体の機械的強度が低くなる。焼結温度が1050℃を越える場合には、焼結体に変形が生じやすくなる為、所望の形状の焼結体を得ることが困難になる。また例えば積層チップインダクタの場合、Ag、Ag-Pd等の電極材料とフェライトの積層体を同時焼成するため、電極とフェライトの界面反応(相互拡散)によって、電極の断線及びフェライト本来の特性が劣化する。より好ましい焼結温度は860~1040℃である。
【0036】
本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト焼結体は、用途に応じて、所定の形状とすることによって、積層チップインダクタ、インダクタンス素子、その他電子部品用の磁性材料として用いることができる。
【0037】
次に、本発明におけるグリーンシートについて述べる。
【0038】
グリーンシートとは、上記Ni-Zn-Cu系フェライト粉末を結合材料、可塑剤及び溶剤等と混合することによって塗料とし、該塗料をドクターブレード式コーター等で数μmから数百μmの厚さに成膜した後、乾燥してなるシートである。このシートを重ねた後、加圧することで積層体とし、用途に応じて、該積層体を所定の温度で焼結させることで、積層チップインダクタ、インダクタンス素子、その他電子部品を得ることができる。
【0039】
本発明におけるグリーンシートは、本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト粉末を100重量部に対して結合材料を2~20重量部、可塑剤を0.5~15重量部含有する。好ましくは、結合材料を4~15重量部、可塑剤を1~10重量部含有する。また、成膜後の乾燥が不十分なことにより溶剤が残留していても良い。更に、必要に応じて粘度調整剤等の公知の添加剤を添加しても良い。
【0040】
結合材料の種類は、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸エステル、ポリメチルメタクリレート、塩化ビニル、ポリメタクリル酸エステル、エチレンセルロース、アビエチン酸レジン等である。好ましい結合材料は、ポリビニルブチラールである。
【0041】
結合材料が2重量部未満の場合はグリーンシートが脆くなり、また、強度を持たす為には20重量部を越える含有量は必要ない。
【0042】
可塑剤の種類は、フタル酸ベンジル-n-ブチル、ブチルフタリルグリコール酸ブチル、ジブチルフタレート、ジメチルフタレート、ポリエチレングリコール、フタル酸エステル、ブチルステアレート、メチルアジテート等である。
【0043】
可塑剤が0.5重量部未満の場合はグリーンシートが固くなり、ひび割れが生じやすくなる。可塑剤が15重量部を越える場合はグリーンシートが軟らかくなり、扱いにくくなる。
【0044】
本発明におけるグリーンシートの製造においては、Ni-Zn-Cu系フェライト粉末100重量部に対して15~150重量部の溶剤を使用する。溶剤が上記範囲外である場合は、均一なグリーンシートが得られないので、これを焼結して得られる積層チップインダクタ、インダクタンス素子、その他電子部品は特性にバラツキのあるものとなりやすい。
【0045】
溶剤の種類は、アセトン、ベンゼン、ブタノール、エタノール、メチルエチルケトン、トルエン、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、酢酸n-ブチル、3メチル-3メトキシ-1ブタノール等である。
【0046】
積層圧力は、0.2×10~0.6×10t/mが好ましい。
【0047】
次に、本発明に係るフェライトシートについて述べる。
【0048】
本発明では、Ni-Zn-Cu系フェライト焼結体を板状にして用いて、フェライトシートにすることができる。
【0049】
本発明における板状のフェライト焼結体の厚さは、0.01~1mmが好ましい。より好ましくは0.02~1mmであり、更に好ましくは0.03~0.5mmである。
【0050】
本発明に係るフェライトシートでは、フェライト焼結板の少なくとも一方の表面には粘着層を設けることができる。粘着層の厚みは0.001~0.1mmが好ましい。
【0051】
本発明に係るフェライトシートでは、フェライト焼結板の少なくとも一方の表面には保護層を設けることができる。保護層の厚みは0.001~0.1mmが好ましい。
【0052】
本発明における粘着層としては、両面粘着テープが挙げられる。両面粘着テープとしては、特に制限されるものではなく、公知の両面粘着テープを使用し得る。また、粘着層として、フェライト焼結板の片面に粘着層、屈曲性且つ伸縮性のフィルム又はシート、粘着層および離型シートを順次積層したものであってもよい。
【0053】
本発明における保護層は、これを設けることによりフェライト焼結板を分割した場合の粉落ちに対しての信頼性及び耐久性を高めることができる。該保護層としては、フェライトシートを屈曲させた場合に破断することなく伸びる樹脂であれば特に制限されるものではなく、PETフィルム等が例示される。
【0054】
本発明に係るフェライトシートは、屈曲した部分に密着させて貼付する為と、使用時に割れることを防ぐ為に、予め、フェライト焼結板の少なくとも一方の表面に設けられた少なくとも1つの溝を起点としてフェライト焼結板が分割可能に構成されてもよい。前記溝は連続していても、断続的に形成されていてもよく、また、多数の微小な凹部を形成することで、溝の代用とすることもできる。溝は断面がU字型又はV字型が望ましい。
【0055】
本発明に係るフェライトシートは、屈曲した部分に密着させて貼付する為と、使用時に割れることを防ぐ為に、予め、フェライト焼結板を小片状に分割しておくことが好ましい。例えば、予め、フェライト焼結板の少なくとも一方の表面に設けられた少なくとも1つの溝を起点としてフェライト焼結板を分割したり、溝を形成することなくフェライト焼結板を分割して小片状とする方法のいずれでもよい。
【0056】
フェライト焼結板は、溝によって任意の大きさの三角形、四辺形、多角形またはそれらの組合せに区分される。例えば、三角形、四辺形、多角形の1辺の長さは、通常1~12mmであり、被付着物の接着面が曲面の場合は、好ましくは1mm以上でその曲率半径の1/3以下、より好ましくは1mm以上で1/4以下である。溝を形成した場合、溝以外の場所で不定形に割れることなく、平面は勿論、円柱状の側曲面および多少の凹凸のある面に密着または実質的に密着することが出来る。
【0057】
フェライト焼結板に形成する溝の開口部の幅は、通常250μm以下が好ましく、より好ましくは1~150μmである。開口部の幅が250μmを超える場合は、フェライト焼結板の透磁率の低下が大きくなり好ましくない。また、溝の深さは、フェライト焼結板の厚さの通常1/20~3/5である。なお、厚さが0.1mm~0.2mmの薄い焼結フェライト板の場合、溝の深さは、焼結フェライト板の厚さの好ましくは1/20~1/4、より好ましくは1/20~1/6である。
【実施例0058】
以下に、本発明における実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
【0059】
[Fe原料の比表面積の測定]
Fe原料の比表面積は、「Macsorb HM model-1208」(Mountech株式会社製)を用いて、BET法により測定した。実施例、比較例に使用した各Fe原料の比表面積を表1に記載した。
【0060】
[フェライト組成の測定]
上述のフェライトコア用のフェライト仮焼粉の組成は、多元素同時蛍光X線分析装置 Simultix 14((株)リガク)を用いて測定した。
【0061】
[結晶相の同定・定量]
フェライトを構成する結晶相は、D8 ADVANCEを用いて評価した。
【0062】
[結晶子サイズ、歪、格子定数]
フェライトの結晶子サイズ、歪及び格子定数は、前記X線回折と同様にして、D8 ADVANCEを用いて、TOPASソフトウェアVer.4にて評価した。
【0063】
[フェライトコアの磁気特性の測定]
上述のフェライトコア用のフェライト仮焼粉15g及び6.5%希釈したPVA水溶液1.5mLを混合した粉末を、外径20mmφ、内径10mmφの金型に投入し、プレス機にて、1ton/cmで圧縮し、860、880、900、920℃で2時間焼成することで、初透磁率を測定するためのフェライトのリングコアを得た。
【0064】
リングコアの初透磁率は、インピーダンス/マテリアルアナライザーE4991A(アジレント・テクノロジー(株)製)を用いて100kHz及び1MHzの周波数において測定した。
【0065】
[フェライトコアの焼結密度の測定]
前述の磁気特性測定用のフェライト焼結体の焼結密度は、外径、内径寸法及び重量を測定し、計算で求めた。
【0066】
実施例1:
Ni-Zn-Cuフェライトの組成が、所定の組成になるように各酸化物原料を秤量し、湿式混合を行った後、混合スラリーを濾別・乾燥して原料混合粉末を得た(Fe原料は、表1の酸化鉄(1)を使用した)。該原料混合粉末を大気中で750~850℃で2時間焼成して得られた仮焼成物を振動ミルで粉砕し、本発明に係るNi-Zn-Cuフェライト粉末を得た。得られた粉末の組成、結晶子サイズ、歪及び格子定数を表2に記載した。
【0067】
得られたNi-Zn-Cuフェライト粉末を前述の方法で成型体をとした。この成型体を大気中で焼結温度860~920℃において、2時間焼結して得られるフェライト焼結体の焼結密度及び初透磁率(100kHz、1MHz)を表2に記載した。
【0068】
得られたNi-Zn-CuフェライトのXRDによる評価から、スピネルフェライトの単相であることが確認出来た。
【0069】
実施例2、3:
組成範囲を種々変更した以外は実施例1と同様にしてNi-Zn-Cuフェライト粉末を得た。得られたNi-Zn-Cuフェライト粉末の組成、結晶子サイズ及び歪を表2に記載した。また得られたNi-Zn-Cuフェライト粉末を用いて、実施例1と同様にして作製したフェライト焼結体の焼結密度及び初透磁率(100kHz、1MHz)を表2に記載した。
【0070】
実施例4、5:
組成範囲を種々変更し、Coを追加した以外は実施例1と同様にしてNi-Zn-Cu-Coフェライト粉末を得た。得られたNi-Zn-Cu-Coフェライト粉末の組成、結晶子サイズ及び歪を表2に記載した。また得られたNi-Zn-Cu-Coフェライト粉末を用いて、実施例1と同様にして作製したフェライト焼結体の焼結密度及び初透磁率(100kHz、1MHz)を表2に記載した。
【0071】
比較例1:
組成範囲を種々変更した以外は実施例1と同様にしてNi-Zn-Cuフェライト粉末を得た。得られたNi-Zn-Cuフェライト粉末の組成、結晶子サイズ及び歪を表2に記載した。また得られたNi-Zn-Cuフェライト粉末を用いて、実施例1と同様にして作製したフェライト焼結体の焼結密度及び初透磁率(100kHz、1MHz)を表2に記載した。
【0072】
比較例2:
Fe原料に表1中の酸化鉄原料(2)を使用した以外は、実施例1と同様にしてNi-Zn-Cuフェライト粉末を得た。得られたNi-Zn-Cuフェライト粉末の組成、結晶子サイズ及び歪を表2に記載した。また得られたNi-Zn-Cuフェライト粉末を用いて、実施例1と同様にして作製したフェライト焼結体の焼結密度及び初透磁率(100kHz、1MHz)を表2に記載した。
【0073】
比較例3:
Fe原料に表1中の酸化鉄原料(3)を使用した以外は、実施例1と同様にしてNi-Zn-Cuフェライト粉末を得た。得られたNi-Zn-Cuフェライト粉末の組成、結晶子サイズ及び歪を表2に記載した。また得られたNi-Zn-Cuフェライト粉末を用いて、実施例1と同様にして作製したフェライト焼結体の焼結密度及び初透磁率(100kHz、1MHz)を表2に記載した。
【0074】
比較例4:
Fe原料に表1中の酸化鉄原料(4)を使用した以外は、実施例1と同様にしてNi-Zn-Cuフェライト粉末を得た。得られたNi-Zn-Cuフェライト粉末の組成、結晶子サイズ及び歪を表2に記載した。また得られたNi-Zn-Cuフェライト粉末を用いて、実施例1と同様にして作製したフェライト焼結体の焼結密度及び初透磁率(100kHz、1MHz)を表2に記載した。
【0075】
比較例5:
Fe原料に表1中の酸化鉄原料(2)を使用した以外は、実施例4と同様にしてNi-Zn-Cu-Coフェライト粉末を得た。得られたNi-Zn-Cu-Coフェライト粉末の組成、結晶子サイズ及び歪を表2に記載した。また得られたNi-Zn-Cu-Coフェライト粉末を用いて、実施例1と同様にして作製したフェライト焼結体の焼結密度及び初透磁率(100kHz、1MHz)を表2に記載した。
【0076】
比較例6:
Fe原料に表1中の酸化鉄原料(2)を使用した以外は、実施例5と同様にしてNi-Zn-Cu-Coフェライト粉末を得た。得られたNi-Zn-Cu-Coフェライト粉末の組成、結晶子サイズ及び歪を表2に記載した。また得られたNi-Zn-Cu-Coフェライト粉末を用いて、実施例1と同様にして作製したフェライト焼結体の焼結密度及び初透磁率(100kHz、1MHz)を表2に記載した。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
本発明に係るNi-Zn-Cu系フェライト粉末は、例えば860℃等の低温で焼結した場合でも、焼結密度5.00g/cm以上であり、また、100kHz及び1MHzにおける透磁率について、同じ焼結温度で対比した場合、比較例対比で高くなっている。よって、フェライト焼結体及びフェライトシートの前駆体として好適であり、また積層チップインダクタ、インダクタンス素子、その他電子部品用の磁性粉として好適である。
【手続補正書】
【提出日】2023-09-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feを45~49mol%、NiOを5~25mol%、ZnOを15~40mol%、CuOを5~15mol%及びCoOを0~3mol%含有し、結晶子サイズが180nm以下であるNi-Zn-Cu系フェライト粉末であって、前記Ni-Zn-Cu系フェライト粉末がスピネルフェライト単相であることを特徴とするNi-Zn-Cu系フェライト粉末。
【請求項2】
歪が0.330以下である請求項1に記載のNi-Zn-Cu系フェライト粉末。
【請求項3】
大気中860℃で焼成した際に、焼結密度が5.00g/cm以上となる請求項1又は請求項2に記載のNi-Zn-Cu系フェライト粉末。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のNi-Zn-Cu系フェライト粉末を使用した焼結体。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載のNi-Zn-Cu系フェライト粉末を使用したフェライトシート。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
すなわち、本発明は、Feを45~49mol%、NiOを5~25mol%、ZnOを15~40mol%、CuOを5~15mol%及びCoOを0~3mol%含有し、結晶子サイズが180nm以下であるNi-Zn-Cu系フェライト粉末であって、前記Ni-Zn-Cu系フェライト粉末がスピネルフェライト単相であることを特徴とするNi-Zn-Cu系フェライト粉末である(本発明1)。