(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158209
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】初期胚を選別するための解析ソフトウエア及び装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20231019BHJP
【FI】
C12M1/34 D
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023146948
(22)【出願日】2023-09-11
(62)【分割の表示】P 2019114514の分割
【原出願日】2019-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2018116833
(32)【優先日】2018-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000228545
【氏名又は名称】JCRファーマ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506268175
【氏名又は名称】塩谷 雅英
(71)【出願人】
【識別番号】518219446
【氏名又は名称】大月 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100128897
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 佳希
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 雅英
(72)【発明者】
【氏名】大月 純子
(57)【要約】
【課題】体外受精の成功率を上昇させるための一手段として用いることのできるソフトウエア及び装置を提供すること。
【解決手段】受精卵の画像を解析するためのソフトウェアであって,(a)雌雄前核核膜消失時を基準として,その1~10時間前に得られた受精卵の画像から雌性前核と雄性前核の面積差を測定するステップ,(b)雌雄前核核膜消失時を基準として,その直前に得られた受精卵の画像から雌性前核と雄性前核の面積差を測定するステップ,(c)該ステップ(a)で得られた面積差と該ステップ(b)で得られた面積差の測定値を随時読み出し可能に保存するステップ,を含むものであるプロセスプロセスを実行する手段を提供するためのソフトウェア,及びこれを組み込んだ装置。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡,該顕微鏡で観察された受精卵の像を撮影するためのデジタルカメラ,該デジタルカメラで撮影された受精卵の画像を保存するためのメモリ,該メモリに保存された画像を解析するためのソフトウェアが記録された記録媒体,該解析により得られた結果を表示するための表示部,及び細胞培養器を含むものであり,
該ソフトウェアが,受精卵の画像を解析するためのソフトウェアであって,
(a)雌雄前核核膜消失時を基準として,その1時間から10時間前の何れかの時点で得られた受精卵の画像から雌性前核と雄性前核の面積差が測定されるステップ,
(b)雌雄前核核膜消失時を基準として,その直前から20分前の何れかの時点で得られた受精卵の画像から雌性前核と雄性前核の面積差が測定されるステップ,及び
(c)該ステップ(a)で得られた面積差と該ステップ(b)で得られた面積差の測定値がそれぞれ随時読み出し可能に保存されるステップ,を含むプロセスを実行する手段を提供するためのソフトウェアであり,
該顕微鏡が,該細胞培養器で培養されている状態の受精卵の像を,所定の時間間隔で撮影することのできるように配置されたものである,装置。
【請求項2】
該ソフトウェアが,
(d)該ステップ(a)及び該ステップ(b)で得られた測定値の中から,予め設定された基準を満たすものが選択されるステップ,を更に含むプロセスを実行する手段を提供するためのソフトウェアである,請求項1に記載の装置。
【請求項3】
該予め設定された基準が,
(a’)雌雄前核核膜消失時を基準として,その直前から20分前の何れかの時点で測定された雌性前核と雄性前核の面積の差が40μm2未満であること,及び
(b’)雌雄前核核膜消失時を基準として,その直前から20分前の何れかの時点で測定された雌性前核と雄性前核の面積の差が,その7時間から10時間前の何れかの時点で測定された雌性前核と雄性前核の面積の差と比較して,縮小していること,を含むものである,
請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
該予め設定された基準が,
(c’)雌雄前核核膜消失時を基準として,その直前から20分前の何れかの時点で測定された雌性前核と雄性前核の面積の差が40μm2未満であること,及び
(d’)雌雄前核核膜消失時を基準として,その直前から20分前の何れかの時点で測定された雌性前核と雄性前核の面積の差を1としたときの,その7.5時間から8.5時間前時間前の何れかの時点で測定された当該差が1.3以上であること,を含むものである,
請求項1又は2に記載の装置。
【請求項5】
細胞培養器開閉扉を更に含むものである,請求項1又は2に記載の装置。
【請求項6】
該撮影が,5分から20分毎に実行されるものである,請求項1又は2に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,初期胚を選別するための解析ソフトウエア及び,該解析ソフトウエアが記録された記録媒体を内蔵する解析装置に関する。より詳しくは,例えば,顕微鏡下で観察された雌雄前核核膜消失(PNMBD)前の雌雄性前核面積を,雌雄前核核膜消失4~8時間前,及び雌雄前核核膜消失直前で観察することにより,体外受精で得られた受精卵の中から,子宮腔内への移植されるべきものを選択するために用いることのできるソフトウェア及び当該ソフトウェアが記録された記録媒体を含む装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの不妊症は,全カップルの10%程度に見られると言われている。このため不妊治療の需要は大きく,現在では広く行われている。不妊治療として行われているうち,精子や卵を直接取り扱うものは,人工授精及び体外受精である。人工授精は,カテーテル等の器具により,精子を子宮頸部近くの膣内又は直接子宮内や卵管に注入することによって受精を促す技術であり,精子が卵子と遭遇するに至るまでに存在する諸々の障害を回避することによって,受精の確率を高めることを目的とするものである。これに対し,体外受精は,患者に排卵誘発剤を投与して産生させた卵を体内から採取し,試験管内で精子と混ぜ合わせることで受精させ(媒精),受精卵を培養し,通常,培養2日目又は3日目に,4分割又は8分割の胚をカテーテルで,一般には子宮腔内に移植する技術である。移植された胚が着床し易いように,通常は,子宮内膜を整えるための黄体ホルモン補充が行われる。
【0003】
着床前胚は,母体に自らの存在について信号を発するために,発生時に数種の因子を産生する。例えばインターロイキン-1(IL-1)は,母体の子宮内膜と胚の間での情報交換を調節する主要な因子であり,完全なIL-1系が,ヒト胚において発生の全ての段階で検出される(非特許文献1)。他の胚由来因子であるヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)は,2細胞期胚で既にその遺伝子が転写されている(非特許文献2)。またこれらの因子を含む情報交換に関連する数種の胚由来因子が,インビトロ(試験管内)において胚を培養したとき細胞外へ放出されることが観察されている。すなわち,子宮内膜の受容力を調節する数種の胚由来因子が,胚の培養上清中に検出される(非特許文献3~9)。インビボ(生体内)でも,卵管において発生している胚が,子宮内膜の分化を誘導することが知られている(非特許文献10)。これらのこと全てが,胚の発生初期段階において,胚と子宮内膜との間で,胚が産生する因子を介して情報交換が行われていることを示している。事実,子宮腔内の着床前胚のみならず,卵管内の初期胚もまた,着床を胚そのものが制御できるように,子宮内膜の分子を調節することができることが明らかにされている(非特許文献10)。
【0004】
近年,体外受精の一形態である胚盤胞移植が,ヒトの不妊治療における着床の確率を改善する方法として提唱され,臨床上行われている(非特許文献11~13)。この移植技術は,上記の体外受精後の胚を5日目~6日目まで培養し,それにより胚盤胞にまで成育させたものを子宮腔内に注入する。胚盤胞移植では,子宮内膜と胚の発生段階との生理的同期化ができること,また長期間の体外培養により着床能の高い胚を選択することが比較的容易になること等により,初期胚移植に比して着床の確率が高くなる(非特許文献14及び15)。着床に至るまでの日数が,2~3日培養の胚では4~5日であるのに比して,胚盤胞移植では1日と短く,子宮外への胚の流失のリスクが低下することも,着床に有利である。しかしそれでも,ヒトの胚盤胞移植における妊娠率は,36.4%程度に留まっているのが現状である。胚盤胞移植における着床の不成功は,胚盤胞が透明帯から孵化できなかったためか,あるいは移植された胚盤胞の発生が子宮腔内において停止したこと等によるものと考えられている。このように,現在行われている胚盤胞移植によっても妊娠に至らないケースが多いことから,妊娠の確率を高める更なる手段が求められている。
【0005】
近年,妊娠の確率を高めるための手段として,受精卵の雌性前核及び雄性前核の面積をパラメータとして用いる方法が報告されている(非特許文献16)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】De los Santos MJ, et al., Biol Reprod. 59. 1419-24 (1998)
【非特許文献2】Jurisicova A I. et al., Hum Reprod. 14. 1852-8 (1999)
【非特許文献3】Tazuke SI. et al., Semin Reprod Endocrinol. 14. 231-45 (1996)
【非特許文献4】Simon C. et al., J Clin Endocrinol Metab. 82. 2607-16 (1997)
【非特許文献5】Giudice LC. et al., Semin Reprod Endocrinol. 13. 93-101 (1995)
【非特許文献6】Sheth KV. et al., Fertil Steril. 55. 952-7 (1991)
【非特許文献7】Baranao RI. et al., Am J Reprod Immunol. 37. 191-4 (1997)
【非特許文献8】Licht P. et al., Semin Reprod Med. 19. 37-47 (2001)
【非特許文献9】Perrier d'Hauterive S. et al., Hum Reprod. 19. 2633-43 (2004)
【非特許文献10】Wakuda K. et al., J Reprod Fertil. 115. 315-24 (1999)
【非特許文献11】Gardner DK. et al., Hum Reprod. 13. 3434-40 (1998)
【非特許文献12】Scholtes MC. et al., Fertil Steril. 69. 78-83 (1998)
【非特許文献13】Milki AA. et al., Fertil Steril. 72. 225-8 (1999)
【非特許文献14】Gardner DK. et al., Fertil Steril. 69. 84-88 (1998)
【非特許文献15】Edwards RG. et al., Hum Reprod. 14. 1-4 (1999)
【非特許文献16】Otsuki J. et al., Reprod Med Biol. 16. 200-5 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は,体外受精で得られた受精卵の中から子宮腔内へ移植されるべきものを選択する手段を提供するためのソフトウェア及び当該ソフトウェアが記録された記録媒体を含む装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的に向けた研究において,受精卵の雌雄前核核膜消失(PNMBD)前の雌雄性前核面積差を,雌雄前核核膜消失4~8時間前と雌雄前核核膜消失直前で比較したときに,雌雄性前核面積差が雌雄前核核膜消失直前で縮小したものを選択して子宮腔内に移植することにより,体外受精における出産率を上昇させることができることを見出し,本発明を完成した。すなわち,本発明は以下を含むものである。
1.受精卵の画像を解析するためのソフトウェアであって,
(a)雌雄前核核膜消失時を基準として,その1時間から10時間前の何れかの時点で得られた受精卵の画像から雌性前核と雄性前核の面積差が測定されるステップ,
(b)雌雄前核核膜消失時を基準として,その直前から20分前の何れかの時点で得られた受精卵の画像から雌性前核と雄性前核の面積差が測定されるステップ,及び
(c)該ステップ(a)で得られた面積差と該ステップ(b)で得られた面積差の測定値が随時読み出し可能に保存されるステップ,を含むプロセスを実行する手段を提供するためのソフトウェア。
2.(d)該ステップ(a)及び該ステップ(b)で得られた測定値の中から,予め設定された基準を満たすものが選択されるステップ,を更に含むプロセスを実行する手段を提供するための,上記1のソフトウェア。
3.該予め設定された基準が,
(a’)雌雄前核核膜消失時を基準として,その直前から20分前の何れかの時点で測定された雌性前核と雄性前核の面積の差が40μm2未満であること,及び
(b’)雌雄前核核膜消失時を基準として,その直前から20分前の何れかの時点で測定された雌性前核と雄性前核の面積の差が,その7時間から10時間前の何れかの時点で測定された雌性前核と雄性前核の面積の差と比較して,縮小していること,を含むものである,
上記1又は2のソフトウェア。
4.該予め設定された基準が,
(c’)雌雄前核核膜消失時を基準として,その直前から20分前の何れかの時点で測定された雌性前核と雄性前核の面積の差が40μm2未満であること,及び
(d’)雌雄前核核膜消失時を基準として,その直前から20分前の何れかの時点で測定された雌性前核と雄性前核の面積の差を1としたときの,その7.5時間から8.5時間前の何れかの時点で測定された当該差が1.3以上であること,を含むものである,
上記1又は2のソフトウェア。
5.該予め設定された基準が,
(e’)前核形成時を基準として,その直後から8時間後までの何れかの時点で測定された雌性前核及び雄性前核の面積比(雄性前核/雌性前核)が常に1を超えること,を更に含むものである,上記3又は4のソフトウェア。
6.上記1乃至5の何れかのソフトウェアが記録された記録媒体。
7.顕微鏡,該顕微鏡で観察された受精卵の像を撮影するためのデジタルカメラ,デジタルカメラで撮影された受精卵の画像を保存するためのメモリ,該メモリに保存された画像を解析するためのソフトウェアが記録された上記6の記録媒体,及び該解析により得られた結果を表示するための表示部を含むものである,装置。
8.細胞培養器を更に含み,該顕微鏡が,該細胞培養器で培養されている状態の受精卵の像を,所定の間隔で撮影することのできるように配置されたものである,上記7の装置。
9.該撮影が,5分から1分毎に実行されるものである,上記7又は8の装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば,例えば,体外受精の成功率を上昇させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】媒精法(IVF)により受精させた受精卵の,雌雄前核核膜消失時を基準として,その直前(0時間前),4時間前,及び8時間前の雌性前核及び雄性前核の面積の変化を示す図。(A)は移植後に出産に至った群,(B)は移植後に出産に至らなかった群の,当該面積の変化をそれぞれ示す。縦軸は面積(μm
2)を,横軸は雌雄前核核膜消失時を基準とした時間(h)を示す。黒ダイヤは雌性前核の面積,黒丸は雌性前核の面積をそれぞれ示す。
【
図2】卵細胞質内精子注入法(ICSI)により受精させた受精卵の,雌雄前核核膜消失時を基準として,その直前(0時間前),4時間前,及び8時間前の雌性前核及び雄性前核の面積の変化を示す図。(A)は移植後に出産に至った群,(B)は移植後に出産に至らなかった群の,当該面積の変化をそれぞれ示す。縦軸は面積(μm
2)を,横軸は雌雄前核核膜消失時を基準とした時間(h)を示す。黒ダイヤは雌性前核の面積,黒丸は雌性前核の面積をそれぞれ示す。
【
図3】本発明の装置の一実施形態の模式的な外観斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において受精というときは,精子が卵細胞の細胞質内に入った時点をいう。また,本発明で受精卵というときは,受精済みの卵子のことをいう。受精から約2時間後に第二極体放出が起こり,第二極体放出から約2時間後に雌性前核と雄性前核が観察されるようになる。この雌性前核と雄性前核が観察されるようになる時点を前核形成という。雌性前核と雄性前核は,前核形成から15~21時間後に,何れも消失する。この雌性前核と雄性前核が消失する現象を,雌雄前核核膜消失(Pronuclear membrane breakdown, 略号:PNMBD)という。受精から雌雄前核核膜消失までの時間は概ね19~25時間である。
【0012】
雌性前核と雄性前核の面積の測定は,受精卵を顕微鏡で観察して得られる像に基づいて実施される。かかる面積を算出するための手法(計算式を含む)に制限はなく,例えば,雌性前核の水平方向の最大幅を水平方向直径,垂直方向の最大幅を垂直方向直径として,雌性前核面積=π×1/2×水平方向直径×1/2×垂直方向直径(μm2)として求めることができる。雄性前核面積についても同様である。
【0013】
本発明において,雌性前核と雄性前核の面積は継時的に測定される。測定間隔は,好ましくは5分~1時間毎であり,より好ましくは10分~30分であり,更に好ましくは80分~20分であり,例えば5分毎,10分毎,15分毎,20分毎である。
【0014】
雌性前核と雄性前核の面積の測定は,前核形成が起こる前から開始され,雌雄前核核膜消失まで行われることが好ましい。但し,当該面積の測定は,受精後の直後から開始してもよく,また雌雄前核核膜消失後も,移植に用いられるまで継続してもよい。
【0015】
ここで,雌性前核と雄性前核の面積の測定において,前核形成時を基準としたその直後とは,継時的に観察した受精卵の画像において,前核形成が認められた画像が最初に得られた観察時点のことをいう。また,前核形成時を基準とした6時間後というときは,前核形成が認められた画像が最初に得られた観察時点,又は前核形成が認められた画像が最初に得られた観察時点の直前の観察時点のことをいう。
【0016】
前核形成時を基準とする雌性前核と雄性前核の面積の測定について以下に詳述する。当該面積の測定は,好ましくは前核形成時の直後から12時間後までの何れかの時点で,より好ましくは前核形成時の直後から10時間後までの何れかの時点で,更に好ましくは前核形成時の直後から8時間後までの何れかの時点で行われる。当該面積の測定はこれに限らず,前核形成時の直後から6時間後までの何れかの時点,前核形成時の直後から4時間後までの何れかの時点で行ってもよい。測定は1回でもよく,2回以上であってもよい。通常,測定は継時的に行われ,測定間隔は,好ましくは5分~1時間毎であり,より好ましくは10分~30分であり,更に好ましくは10分~20分であり,例えば5分毎,10分毎,15分毎,20分毎である。この間,雌性前核及び雄性前核の面積比(雄性前核/雌性前核)は常に1を超えることが好ましい。
【0017】
次いで,雌雄前核核膜消失時を基準とする雌性前核と雄性前核の面積の測定について以下に詳述する。当該面積の測定は,雌雄前核核膜消失時を基準として,その直前から20分前の何れかの時点で,又はその直前から30分前の何れかの時点で,必ず行われる。ここで,雌雄前核核膜消失時を基準としたその直前とは,継時的に観察した受精卵の画像において,雌雄2前核核膜の消失が認められた画像が得られた直前の観察時点のことをいう。また,雌雄前核核膜消失時を基準とした30分~16時間前というときは,雌雄2前核核膜の消失が認められた画像が得られた観察時点の直前の観察時点又は,雌雄2前核核膜の消失が認められた画像が得られた観察時点から,30分~16時間前のことをいう。
【0018】
また,当該面積の測定は,雌雄前核核膜消失時を基準として,好ましくは,その1時間~16時間の間に1~3回行われる。この間に測定を1回行う場合は,雌雄前核核膜消失時を基準として,そのタイミングは例えば,好ましくは4~12時間前,より好ましくは6~12時間前,更に好ましくは8~12時間であり,例えば,4時間前,6時間前,8時間前又は10時間前である。この間に測定を2回行う場合は,雌雄前核核膜消失時を基準として,そのタイミングは例えば,好ましくは6~12時間前と3~5時間前,より好ましくは7~10時間前と3.5~4.5時間前,更に好ましくは7.5~8.5時間前と3.5~4.5時間前であり,例えば,4時間前と8時間前,4時間前と10時間前である。
【0019】
継時的に測定された雌性前核と雄性前核の面積から,雌性前核と雄性前核の面積差が求められる。雄性前核の面積は雌性前核のそれより大きいことから,雌性前核と雄性前核の面積差は,雄性前核面積-雌性前核面積として求められる。
【0020】
本発明の一実施形態における効果として,体外受精の成功率を向上させることがある。その目的で,継時的に測定された雌性前核と雄性前核の面積をパラメータとして用いることができる。以下,媒精法(IVF)及び卵細胞質内精子注入法(ICSI)に区別して,当該面積のパラメータとしての使用に関し詳述する。
【0021】
IVFにおける当該面積のパラメータとしての使用について以下に例示する。IVFにおいては,雌性前核と雄性前核の面積は,それぞれ,雌雄前核核膜消失時を基準として,その7.5~8.5時間前(特に8時間前),3.5~4.5時間前(特に4時間前),及び直前に測定される。そうして,表1に示す選択基準1~6に合致する受精卵が,移植に用いられるべき受精卵として選択される。選択基準1~6は,単独で又は組み合わせて用いることができ,例えば,選択基準1と選択基準2~4の何れかを組み合わせること,選択基準1~4の何れかと選択基準5を組み合わせることもできる。また,選択基準1と選択基準2~4の何れかを組み合わせたものに,選択基準5を組み合わせ,これに更に選択基準6を組み合わせることもできる。
【0022】
【0023】
表1の選択基準1~7は例示である。選択基準1~6において,「その直前~20分前」とあるのは,例えば,「その直前」,「その直前~10分前」,「その直前~30分前」であってもよい。また,選択基準1~4において,「7.5~8.5時間前」とあるのは,例えば,「8時間前」,「7~9時間前」「7~10時間前」としてもよい。また,選択基準1~3及び5において,「3.5~4.5時間前」とあるのは,例えば,「4時間前」,「3.0~5.0時間前」「4~5時間前」としてもよい。
【0024】
選択基準3において,雌雄前核核膜消失時を基準として,その直前に測定した雌性前核及び雄性前核の面積の差を1としたときの,その7.5~8.5時間前(特に8時間前),3.5~4.5時間前(特に4時間前)に測定した当該差が,それぞれ1.6以上,1.4以上であることは,好ましい実施形態の一つであるが,これに限定されるものではない。例えば,7.5~8.5時間前(特に8時間前)に測定した当該差は,好ましくは1.5以上であり,より好ましくは1.6以上であり,更に好ましくは1.8以上である。また,3.5~4.5時間前(特に4時間前)に測定した当該差は,好ましくは1.3以上であり,より好ましくは1.4以上であり,更に好ましくは1.6以上である。選択基準4及び5についても同様である。
【0025】
選択基準6において,雌雄前核核膜消失時を基準として,雌雄前核核膜消失時を基準として,その直前に測定した雌性前核及び雄性前核の面積の差は40 μm2未満であることは,好ましい実施形態の一つであるが,これに限定されるものではない。例えば,当該差は,好ましくは45 μm2未満であり,より好ましくは40 μm2未満であり,更に好ましくは35 μm2である。
【0026】
選択基準7において,「その直後から8時間後」とあるのは,例えば,「その直後から4時間後」,「その直後から6時間後」,「その直後から10時間後」,「その直後から12時間後」としてもよい。
【0027】
ICSIにおける当該面積のパラメータの使用について以下に例示する。ICSIにおいては,雌性前核と雄性前核の面積は,それぞれ,雌雄前核核膜消失時を基準として,その7.5~8.5時間前(特に8時間前),3.5~4.5時間前(特に4時間前),及び直前に測定される。そうして,表2に示す選択基準1~7に合致する受精卵が,移植に用いられるべき受精卵として選択される。選択基準1~7は,単独で又は組み合わせて用いることができ,例えば,選択基準1~5の何れかを組み合わせること,選択基準1~5の何れかと選択基準6を組み合わせることもできる。また,選択基準1~5の何れかと,選択基準6を組み合わせ,これに更に選択基準7を組み合わせることもできる。
【0028】
【0029】
表2の選択基準1~7は例示である。選択基準1~6において,「その直前~20分前」とあるのは,例えば,「その直前」,「その直前~10分前」,「その直前~30分前」であってもよい。また,選択基準1~4において,「7.5~8.5時間前」とあるのは,例えば,「8時間前」,「7~9時間前」「7~10時間前」としてもよい。また,選択基準1~3及び5において,「3.5~4.5時間前」とあるのは,例えば,「4時間前」,「3.0~5.0時間前」「4~5時間前」としてもよい。
【0030】
選択基準3において,雌雄前核核膜消失時を基準として,その直前に測定した雌性前核及び雄性前核の面積の差を1としたときの,その7.5~8.5時間前(特に8時間前),3.5~4.5時間前(特に4時間前)に測定した当該差が,それぞれ1.4以上,1.2以上であることは,好ましい実施形態の一つであるが,これに限定されるものではない。例えば,7.5~8.5時間前(特に8時間前)に測定した当該差は,好ましくは1.3以上であり,より好ましくは1.4以上であり,更に好ましくは1.5以上である。また,3.5~4.5時間前(特に4時間前)に測定した当該差は,好ましくは1.1以上であり,より好ましくは1.2以上であり,更に好ましくは1.3以上である。選択基準4及び5についても同様である。
【0031】
選択基準6において,雌雄前核核膜消失時を基準として,雌雄2核核膜消失時を基準として,その直前に測定した雌性前核及び雄性前核の面積の差は30 μm2未満であることは,好ましい実施形態の一つであるが,これに限定されるものではない。例えば,当該差は,好ましくは35 μm2未満であり,より好ましくは30 μm2未満であり,更に好ましくは25 μm2である。
【0032】
選択基準7において,「その直後から8時間後」とあるのは,例えば,「その直後から4時間後」,「その直後から6時間後」,「その直後から10時間後」,「その直後から12時間後」としてもよい。
【0033】
IVFとICSIにおける当該面積のパラメータの使用について上記のごとく例示したが,IVFとICSIにより受精させた受精卵を区別しない場合に適用される選択基準について表3に例示する。IVFとICSIの何れの選択基準を適用すべきか不明となる状況は,臨床上考えにくいが,かかる状況となった場合に適用されるべき選択基準である。この場合,雌性前核と雄性前核の面積は,それぞれ,雌雄前核核膜消失時を基準として,その7.5~8.5時間前(特に8時間前),3.5~4.5時間前(特に4時間前),及び直前に測定される。そうして,表3に示す選択基準1~7に合致する受精卵が,移植に用いられるべき受精卵として選択される。選択基準1~7は,単独で又は組み合わせて用いることができ,例えば,選択基準1~5の何れかを組み合わせること,選択基準1~5の何れかと選択基準6を組み合わせることもできる。また,選択基準1~5の何れかと,選択基準6を組み合わせ,これに更に選択基準7を組み合わせることもできる。
【0034】
【0035】
表3の選択基準1~7は例示である。選択基準1~6において,「その直前~20分前」とあるのは,例えば,「その直前」,「その直前~10分前」,「その直前~30分前」であってもよい。また,選択基準1~4において,「7.5~8.5時間前」とあるのは,例えば,「8時間前」,「7~9時間前」「7~10時間前」としてもよい。また,選択基準1~3及び5において,「3.5~4.5時間前」とあるのは,例えば,「4時間前」,「3.0~5.0時間前」「4~5時間前」としてもよい。
【0036】
選択基準3において,雌雄前核核膜消失時を基準として,その直前に測定した雌性前核及び雄性前核の面積の差を1としたときの,その7.5~8.5時間前(特に8時間前),3.5~4.5時間前(特に4時間前)に測定した当該差が,それぞれ1.4以上,1.2以上であることは,好ましい実施形態の一つであるが,これに限定されるものではない。例えば,7.5~8.5時間前(特に8時間前)に測定した当該差は,好ましくは1.3以上であり,より好ましくは1.4以上であり,更に好ましくは1.5以上である。また,3.5~4.5時間前(特に4時間前)に測定した当該差は,好ましくは1.1以上であり,より好ましくは1.2以上であり,更に好ましくは1.3以上である。選択基準4及び5についても同様である。
【0037】
選択基準6において,雌雄前核核膜消失時を基準として,雌雄前核核膜消失時を基準として,その直前に測定した雌性前核及び雄性前核の面積の差は40 μm2未満であることは,好ましい実施形態の一つであるが,これに限定されるものではない。例えば,当該差は,好ましくは45 μm2未満であり,より好ましくは40 μm2未満であり,更に好ましくは35 μm2である。
【0038】
選択基準7において,「その直後から8時間後」とあるのは,例えば,「その直後から4時間後」,「その直後から6時間後」,「その直後から10時間後」,「その直後から12時間後」としてもよい。
【0039】
本発明のソフトウェアは,受精卵の画像を解析し,雌性前核と雄性前核の面積を求め,その面積差を算出するステップ,及び得られた面積差の測定値を随時読み出し可能に保存するステップを含むプロセスを実行する手段を提供するために用いることのできるものである。ソフトウェアは記録媒体に記録させて需要者に供給することができる。このとき使用される記録媒体に特に制限がないが,ハードディスクドライブ,CD-ROM等の電磁的手段による記録媒体が好適に使用できる。
【0040】
本発明のソフトウェアが記録された記録媒体が組み込まれた,受精卵を選別するための装置につき,以下詳述する。当該装置は,顕微鏡,該顕微鏡で観察された受精卵の像を撮影するためのデジタルカメラ,該デジタルカメラで撮影された受精卵の画像を保存するためのメモリ,該メモリに保存された画像を解析するためのソフトウェアが記録された記録媒体,及び該解析により得られた結果を表示するための表示部を含むものである。
【0041】
装置に含まれる顕微鏡は,雌性前核及び雄性前核を観察するためのものである。このとき用いられる顕微鏡は,受精卵中の雌性前核及び雄性前核を観察できるものである限り特に限定はないが,例えば,光学顕微鏡,位相差顕微鏡である。顕微鏡の倍率は好ましくは15~25倍である。
【0042】
顕微鏡で観察された受精卵の像は,デジタルカメラで観察される。デジタルカメラは顕微鏡で観察された受精卵の像が撮影できるように,顕微鏡の接眼レンズを含む部材に隣接して配置される。デジタルカメラで撮影された画像はメモリに保存される。メモリは,独立した部材として配置されたものであってもよく,また記録媒体にメモリ区画として配置されたものでもよい。メモリに保存された画像は,記録媒体に記録されソフトウェアにより解析されて,雌性前核の面積,雄性前核の面積,及びこれらの差が算出される。
【0043】
算出された雌性前核の面積,雄性前核の面積,及びこれらの差は,表示部に表示させることができる。表示部は解析結果を表示するための画面を含むものであり,好ましくは液晶画面を含むものである。表示部に表示された数値に基づいて,移植に適した受精卵を選択することができる。このとき,ソフトウェアに選択基準を記憶させておき,受精卵が当該選択基準を満たすものであるか否かを表示部に表示させるようにすることもできる。
【0044】
顕微鏡による受精卵の観察は継時的に行われ,測定間隔は,例えば5分毎,10分毎,15分毎,20分毎である。従って,測定毎に受精卵を細胞培養器から取り出して顕微鏡で観察することは困難である。装置に細胞培養器を組み込むことによりこの問題は解消される。細胞培養器は,培養プレート上で培養されている受精卵が,顕微鏡の焦点を合わせたときにその視野に常に入るように,装置に配置される。
【0045】
顕微鏡,該顕微鏡で観察された受精卵の像を撮影するためのデジタルカメラ,デジタルカメラで撮影された受精卵の画像が保存されるメモリ,該メモリに保存された画像を解析するためのソフトウェアが記録された記録媒体,該解析により得られた結果を表示するための表示部,及び細胞培養器,を含むものである装置の一実施形態を
図3に模式的に示す。本装置は,本体内部に受精卵を培養することのできる細胞培養器(図示されない)を含む。細胞培養器からの細胞の出し入れは,本体(1)前面にある細胞培養器開閉扉(2)で行われる。本装置の使用者は,把手(3)をもって細胞培養器開閉扉(2)を前面に引き出すことにより,細胞培養器内にアクセスすることができる。受精卵を含む培養プレートは,細胞培養器内にセットされる。細胞培養器の上方には,培養中の受精卵を随時観察可能なように顕微鏡(4)が配置されている。図示されていないが,顕微鏡(4)の対物レンズは本体(1)内にあり,顕微鏡の焦点は培養プレートの受精卵に合わさっている。デジタルカメラ(5)が,顕微鏡(4)で得られた像が撮影可能なように配置されている。デジタルカメラ(5)で撮影された像は,ケーブル(6)を通じて本体(1)内のメモリ(10)に送信され,メモリ(10)に保存される。メモリ(10)に保存された像は,ケーブル(6’)を通じて記録媒体(7)に送信される。
【0046】
記録媒体(7)には,撮影された受精卵の像の雄性前核と雌性前核とをそれぞれ認識し,これらの水平方向直径及び垂直方向直径を計測し,雄性前核と雌性前核のそれぞれの面積,及びこれらの差を算出することのできるソフトウェアが記録されている。
【0047】
記録媒体(7)に記録された受精卵の像,雄性前核と雌性前核のそれぞれの面積,及びこれらの差は,液晶画面の表示部(8)に表示させることができる。予め受精卵の選択基準を記録媒体に記録させておくことにより,雄性前核と雌性前核のそれぞれの面積,及びこれらの差から,移植に適した細胞をソフトウェアに選択させ,その結果を表示部(8)させることもできる。装置の制御は,制御パネル(9)を用いて行われる。
【実施例0048】
以下,実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが,本発明が実施例に限定されることは意図しない。
【0049】
〔実施例1〕臨床プロトコール
71名の患者を登録した。これらの患者は,エストロゲンとプロゲステロンによるホルモン補充療法(HRT)下に,凍結融解された胚盤胞の移植を受けた。
【0050】
前治療サイクルとして,患者はロングプロトコールによる措置を施された。すなわち,治療前周期の高温期の7日目からゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニスト600 μgを使用開始し,月経3日目から,次席卵胞の直径が18 mmになるまで連日卵胞刺激ホルモン(FSH製剤又はHMG製剤)による卵巣刺激を受けた。次席卵胞の直径が18 mmを超えたとき,排卵を促した。ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)5000単位を筋肉注射しその36時間後に,超音波検査法を頼りに経膣的に採卵した。卵胞の計測は,超音波スキャニング(Mitsubishi RDF173H)により行った。
【0051】
回収卵子は媒精法,又は卵細胞質内精子注入法により受精させた。受精卵をBlastAssist System 培地1〔合成血漿代替物 (SSR),ヒト血漿アルブミン,グルコース,ピルビン酸ナトリウム,乳酸塩,硫酸カリウム,硫酸マグネシウム,塩化ナトリウム,リン酸水素ナトリウム,非必須アミノ酸,L-グルタミン,タウリン,重炭酸ナトリウム,HEPES,ストレプトマイシン 50 mg/L,ペニシリン 50,000 IU/L,及びフェノールレッドを含有;MediCult社, Jyllinge, Denmark〕の小滴50 μL中で培養し,2日目に初期胚を得た。次いで,得られた初期胚の1~4個をミネラルオイル(Oil Embryo Culture, Irvine Scientific Santa Ana California USA)の被膜下で,BlastAssist System培地2〔合成血漿代替物 (SSR),ヒト血漿アルブミン,グルコース,ピルビン酸ナトリウム,乳酸,硫酸カリウム,硫酸マグネシウム,塩化ナトリウム,リン酸水素ナトリウム,必須アミノ酸,非必須アミノ酸,L-グルタミン,重炭酸ナトリウム,ストレプトマイシン 50 mg/L,ペニシリン 50,000 IU/L,及びフェノールレッドを含有;MediCult社, Jyllinge, Denmark〕の小滴50 μL中で,すなわち胚1個当たりの培地量12.5~50 μLで,更に3日,合わせて5日目まで培養し胚盤胞を得た。培養プレートとして,FALCON353002 Tissue Culture Dish(Becton Dickinson,Franklin Lakes USA)を使用した。胚の培養は5% CO2, 5% O2, 90% N2, 37℃, 100%湿度に設定したインキュベーター(TE-HER PRODUCT O2・CO2 incubator CP O2-1800 シリーズ,ヒラサワ社)内で実施した。この培養過程で得られた胚盤胞を子宮腔内に移植した。移植を受けた患者のその後の出産状況を追跡した。
【0052】
〔実施例2〕受精卵の観察
上記受精後の受精卵をEmbryoScopeTM time lapse sysytem(Vitrofile社)を用いて,10分毎に撮影し画像を得た。EmbryoScopeは,細胞培養器と,細胞培養器で培養されている受精卵を継時的に観察することのできる顕微鏡,顕微鏡で観察された受精卵の像を撮影するためのデジタルカメラ,デジタルカメラで撮影された像を保存するための記録媒体,及び当該像を表示するための液晶を含む装置である。この装置の動作を以下に概略する。EmbryoScopeを用いて得られた画像から,雌雄前核核膜消失時を基準として,その8時間前,4時間前,及び直前に得られたものを選択し,これらの画像に映し出された雌性前核と雄性前核の面積を求めた。雌性前核及び雄性前核(合わせて前核という)の面積は,前核面積=π×1/2×水平方向直径×1/2×垂直方向直径(μm2)の算出式で求めた。また,前核形成時を基準として,その直後から8時間後までの雌性前核及び雄性前核の面積をそれぞれ求めた。
【0053】
〔実施例3〕前核面積の解析
実施例2で得られた前核面積の値を,媒精法(IVF)及び卵細胞質内精子注入法(ICSI)により受精させた受精卵に群分けしてその平均値を求めた。また,それぞれの群を,更に移植後に出産に至った群と出産に至らなかった群(計4群)に分けた。各群について雌雄前核核膜消失時を基準として,その直前,4時間前,及び8時間前の雌性前核及び雄性前核の面積の変化を
図1及び
図2に示す。
【0054】
図1及び
図2の結果は,IVF及びICSIの何れにおいても,出産に至った群では,2前核核膜消失時を基準として,その8時間前,4時間前,及び直前に測定した雌性前核及び雄性前核の面積の差が,継時的に縮小する一方で,出産に至らなかった群では,2前核核膜消失時を基準として,その8時間前,4時間前,及び直前に測定した雌性前核及び雄性前核の面積の差に,ほぼ変化が認められないことを示す。
【0055】
また,IVF群において出産に至った群では,2前核核膜消失時を基準として,その直前に測定した雌性前核及び雄性前核の面積の差を1としたときの,その8時間前,4時間前に測定した当該差は,それぞれ2.08と1.80であった。また,ICSI群において出産に至った群では,2前核核膜消失時を基準として,その直前に測定した雌性前核及び雄性前核の面積の差を1としたときの,その8時間前,4時間前に測定した当該差は,それぞれ1.78と1.44であった。
【0056】
また,IVF群において出産に至った群では,2前核核膜消失時を基準として,その直前に測定した雌性前核及び雄性前核の面積の差は30μm2であり,ICSI群において出産に至った群では,当該差は20.6μm2であった。
【0057】
また,IVF群において出産に至った群及びICSI群において出産に至った群では,何れにおいても,前核形成の直後から6時間後までの雌性前核及び雄性前核の面積比(雄性前核/雌性前核)は常に1を超えるものであった。
【0058】
〔実施例4〕受精卵の選択基準の設定
実施例3の結果から,IVFについて,移植に用いられるべき受精卵の選択基準を設けることができる。その一例を表4に示す。選択基準1~5は,単独で又は組み合わせて用いることができ,例えば,選択基準1~4の何れかと選択基準5を組み合わせることもできる。また,選択基準1~4の何れかと選択基準5を組み合わせたものに,選択基準6を更に組み合わせることもできる。
【0059】
【0060】
実施例3の結果から,ICSIについて,移植に用いられるべき受精卵の選択基準を設けることができる。その一例を表5に示す。選択基準1~5は,単独で又は組み合わせて用いることができ,例えば,選択基準1~4の何れかと選択基準5を組み合わせることもできる。また,選択基準1~4の何れかと選択基準5を組み合わせたものに,選択基準6を更に組み合わせることもできる。
【0061】