(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015821
(43)【公開日】2023-02-01
(54)【発明の名称】シラン変性ポリプロピレン、シラン架橋ポリプロピレン、シラン変性ポリプロピレン組成物、並びにこれらを用いた成形体、架橋成形体、及び三次元網状繊維集合体
(51)【国際特許分類】
C08F 255/02 20060101AFI20230125BHJP
【FI】
C08F255/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119836
(22)【出願日】2021-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】安藤 慶
【テーマコード(参考)】
4J026
【Fターム(参考)】
4J026AA13
4J026BA43
4J026BB01
4J026DB05
4J026DB13
4J026GA01
4J026GA08
(57)【要約】
【課題】柔軟性、耐熱変形性及び形状復元性に優れるシラン架橋ポリプロピレンを可能とし、かつ、三次元網状繊維集合体成形に好適な耐熱性と流動性を示すシラン変性ポリプロピレン、該シラン変性ポリプロピレンを架橋したシラン架橋ポリプロピレン、シラン変性ポリプロピレン組成物、並びに、これらを用いた成形体、架橋成形体及び三次元網状繊維集合体を提供する。
【解決手段】原料プロピレン系重合体をシラン変性してなるシラン変性ポリプロピレンであって、該原料プロピレン系重合体が、下記成分(a)と成分(b)を、成分(a)と成分(b)の合計100質量%に対し、成分(a)を35~95質量%、成分(b)を5~65質量%の割合で含有する、シラン変性ポリプロピレン。
成分(a):α-オレフィン単位の含有率が10~30質量%であるプロピレン系重合体
成分(b):α-オレフィン単位の含有率が10質量%未満であるプロピレン系重合体
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料プロピレン系重合体をシラン変性してなるシラン変性ポリプロピレンであって、該原料プロピレン系重合体が、下記成分(a)と成分(b)を、成分(a)と成分(b)の合計100質量%に対し、成分(a)を35~95質量%、成分(b)を5~65質量%の割合で含有する、シラン変性ポリプロピレン。
成分(a):α-オレフィン単位の含有率が10~30質量%であるプロピレン系重合体
成分(b):α-オレフィン単位の含有率が10質量%未満であるプロピレン系重合体
【請求項2】
前記成分(a)の下記条件で測定される融点が110℃以下である、請求項1に記載のシラン変性ポリプロピレン。
<測定条件>
示差走査熱量計を用いて、JIS K7121(2010)に準じて、成分(a)約5mgを加熱速度100℃/分で20℃から200℃まで昇温し、200℃で3分間保持した後、冷却速度10℃/分で-10℃まで降温し、その後、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温したときの融解ピークの頂点の温度を融点とする。
【請求項3】
前記成分(b)の下記条件で測定される融点が110℃を超える、請求項1又は2に記載のシラン変性ポリプロピレン。
<測定条件>
示差走査熱量計を用いて、JIS K7121(2010)に準じて、成分(b)約5mgを加熱速度100℃/分で20℃から200℃まで昇温し、200℃で3分間保持した後、冷却速度10℃/分で-10℃まで降温し、その後、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温したときの融解ピークの頂点の温度を融点とする。
【請求項4】
前記成分(a)と成分(b)のα-オレフィンがいずれも、プロピレンを除く炭素数2~10のα-オレフィンである、請求項1~3のいずれか一項に記載のシラン変性ポリプロピレン。
【請求項5】
前記シラン変性ポリプロピレンのシラン変性部位が、下記式(1)で表される不飽和シラン化合物の重合残基である、請求項1~4のいずれか一項に記載のシラン変性ポリプロピレン。
R-Si(R’)3 ・・・(1)
(式中、Rはエチレン性不飽和炭化水素基であり、R’は互いに独立して炭素数1~10の炭化水素基又は炭素数1~10のアルコキシ基であり、R’のうちの少なくとも1つは炭素数1~10のアルコキシ基である。)
【請求項6】
密度が0.850~0.930g/cm3である、請求項1~5のいずれか一項に記載のシラン変性ポリプロピレン。
【請求項7】
JIS K7210(1999)に準拠して、230℃、2.16kg荷重にて測定したMFRが10~80g/10分である、請求項1~6のいずれか一項に記載のシラン変性ポリプロピレン。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のシラン変性ポリプロピレンと、シラノール縮合触媒とを含むシラン変性ポリプロピレン組成物。
【請求項9】
請求項8に記載のシラン変性ポリプロピレン組成物を成形してなる成形体。
【請求項10】
請求項9に記載の成形体を架橋させてなる架橋成形体。
【請求項11】
JIS K7171(2008)に準拠して測定した曲げ弾性率が300MPa以下である、請求項10に記載の架橋成形体。
【請求項12】
請求項9に記載のシラン変性ポリプロピレン組成物を成形してなる三次元網状繊維集合体。
【請求項13】
請求項12に記載の三次元網状繊維集合体を架橋させてなる架橋成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン変性ポリプロピレン、シラン架橋ポリプロピレン、シラン変性ポリプロピレン組成物、並びにこれらを用いた成形体、架橋成形体、及び三次元網状繊維集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱可塑性樹脂をループ状に押出成形して得られた三次元網状繊維集合体を、クッション材等の緩衝材として使用した家具や、枕、ベッド用マット等の寝具が普及しつつある。
【0003】
この三次元網状繊維集合体は、一般的に次の様にして製造される。即ち、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を押出機内で溶融し、多数の孔を有するダイスから溶融した樹脂を押出成形してストランドとする。ダイスの下方には水槽が設けられており、ストランドが自然流下して水槽内に着水し、ストランドが水中に滞留すると、水による冷却で樹脂が固化し、ループ状の絡み合いを持つ三次元網状繊維集合体が製造される(特許文献1)。成形に用いる熱可塑性樹脂としては、エチレン・α-オレフィン共重合体、発泡ポリウレタン、ポリエステル等が検討されている。
【0004】
熱可塑性樹脂よりなる三次元網状繊維集合体を用いた寝具等の緩衝材においては、荷重により繊維の圧縮及び引張方向に歪みが生じ、この歪みが長時間、或いは繰り返し起こることにより、該緩衝材は元の厚みに形状回復せず徐々に圧縮方向に潰れクッション性が損なわれる所謂「ヘタリ」が発生することが問題となっている。ヘタリは高温下で顕著となり、電気毛布等暖房寝具を使用した場合、寝具の一部が変形する等の不具合が生じるこが知られている。これらは、三次元網状繊維集合体を構成する熱可塑性樹脂が、高温での荷重下において、流動又は塑性変形することに起因するものである。
【0005】
そのため、ポリエチレン樹脂の大きなウィークポイントである耐熱性を向上させるため、メタロセン触媒によって重合された特定のエチレン・α-オレフィン共重合体に、エチレン性不飽和シラン化合物をグラフトさせて得られるグラフト反応物とシラノール縮合触媒とを含有する立体網目状構造体用ポリエチレン系樹脂組成物が提案されている(特許文献2)。
【0006】
一方、より優れた耐薬品性を有し、低臭気性の三次元網状繊維構造体を提供するため、発泡ポリウレタンやポリエステルに代えて、特定のプロピレン・α-オレフィン共重合体を用いることが提案されている(特許文献3)。更に、より優れた耐薬品性及び高耐熱性を有し、低臭気性の三次元網状繊維構造体を提供するため、特定のプロピレン系重合体及びプロピレン単独重合体を含んでなるポリマーアロイを用いることが提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2012/035736号
【特許文献2】特開2013-181117号公報
【特許文献3】特許第5873225号公報
【特許文献4】特許第5894716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2の技術は、押出されたストランドが三次元網状繊維集合体を形成するよう、押出直後のストランドの融着強度を制御するために、融点の低いエチレン・α-オレフィン共重合体の使用を前提としている。また、適切なストランド径を得るために、比較的分子量が小さい特定のエチレン・α-オレフィン共重合体を使用している。そのため、十分な耐熱性を確保することが困難であり、高温下での形状保持性が不十分となり、依然として、ヘタリや変形といった問題が生じてしまう。
【0009】
一方、特許文献3及び4の技術では、高温下でのヘタリや変形に対する改良効果は見られるものの、未だ十分な性能が得られていない。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、柔軟性、耐熱変形性及び形状復元性に優れるシラン架橋ポリプロピレンを可能とし、かつ、三次元網状繊維集合体成形に好適な耐熱性と流動性を示すシラン変性ポリプロピレン、該シラン変性ポリプロピレンを架橋したシラン架橋ポリプロピレン、シラン変性ポリプロピレン組成物、並びに、これらを用いた成形体、架橋成形体及び三次元網状繊維集合体を提供することを目的とする。
【0011】
なお、ここでいう目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも、本発明の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定のプロピレン系重合体を特定の割合で含有し、シラン変性を施したシラン変性ポリプロピレンが、好適な流動性を有し、かつ耐熱性および形状保持性に優れること、並びに、これを用いることで、良好な成形性にて、柔軟性、耐熱変形性及び形状保持性に優れる三次元網状繊維集合体が実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
【0013】
[1] 原料プロピレン系重合体をシラン変性してなるシラン変性ポリプロピレンであって、該原料プロピレン系重合体が、下記成分(a)と成分(b)を、成分(a)と成分(b)の合計100質量%に対し、成分(a)を35~95質量%、成分(b)を5~65質量%の割合で含有する、シラン変性ポリプロピレン。
成分(a):α-オレフィン単位の含有率が10~30質量%であるプロピレン系重合体
成分(b):α-オレフィン単位の含有率が10質量%未満であるプロピレン系重合体
【0014】
[2] 前記成分(a)の下記条件で測定される融点が110℃以下である、[1]に記載のシラン変性ポリプロピレン。
<測定条件>
示差走査熱量計を用いて、JIS K7121(2010)に準じて、成分(a)約5mgを加熱速度100℃/分で20℃から200℃まで昇温し、200℃で3分間保持した後、冷却速度10℃/分で-10℃まで降温し、その後、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温したときの融解ピークの頂点の温度を融点とする。
【0015】
[3] 前記成分(b)の下記条件で測定される融点が110℃を超える、[1]又は[2]に記載のシラン変性ポリプロピレン。
<測定条件>
示差走査熱量計を用いて、JIS K7121(2010)に準じて、成分(b)約5mgを加熱速度100℃/分で20℃から200℃まで昇温し、200℃で3分間保持した後、冷却速度10℃/分で-10℃まで降温し、その後、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温したときの融解ピークの頂点の温度を融点とする。
【0016】
[4] 前記成分(a)と成分(b)のα-オレフィンがいずれも、プロピレンを除く炭素数2~10のα-オレフィンである、[1]~[3]のいずれかに記載のシラン変性ポリプロピレン。
【0017】
[5] 前記シラン変性ポリプロピレンのシラン変性部位が、下記式(1)で表される不飽和シラン化合物の重合残基である、[1]~[4]のいずれかに記載のシラン変性ポリプロピレン。
R-Si(R’)3 ・・・(1)
(式中、Rはエチレン性不飽和炭化水素基であり、R’は互いに独立して炭素数1~10の炭化水素基又は炭素数1~10のアルコキシ基であり、R’のうちの少なくとも1つは炭素数1~10のアルコキシ基である。)
【0018】
[6] 密度が0.850~0.930g/cm3である、[1]~[5]のいずれかに記載のシラン変性ポリプロピレン。
【0019】
[7] JIS K7210(1999)に準拠して、230℃、2.16kg荷重にて測定したMFRが10~80g/10分である、[1]~[6]のいずれかに記載のシラン変性ポリプロピレン。
【0020】
[8] [1]~[7]のいずれかに記載のシラン変性ポリプロピレンと、シラノール縮合触媒とを含むシラン変性ポリプロピレン組成物。
【0021】
[9] [8]に記載のシラン変性ポリプロピレン組成物を成形してなる成形体。
【0022】
[10] [9]に記載の成形体を架橋させてなる架橋成形体。
【0023】
[11] JIS K7171(2008)に準拠して測定した曲げ弾性率が300MPa以下である、[10]に記載の架橋成形体。
【0024】
[12] [9]に記載のシラン変性ポリプロピレン組成物を成形してなる三次元網状繊維集合体。
【0025】
[13] [12]に記載の三次元網状繊維集合体を架橋させてなる架橋成形体。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、柔軟性、耐熱変形性及び形状復元性に優れるシラン架橋ポリプロピレンを可能とし、かつ、三次元網状繊維集合体成形に好適な耐熱性と流動性を示すシラン変性ポリプロピレン、該シラン変性ポリプロピレンを架橋したシラン架橋ポリプロピレン、シラン変性ポリプロピレン組成物、並びに、これらを用いた成形体、架橋成形体及び三次元網状繊維集合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下の実施の形態は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。また、本明細書において“質量%”と“重量%”、及び“質量部”と“重量部”とは、それぞれ同義である。
【0028】
[シラン変性ポリプロピレン]
本発明のシラン変性ポリプロピレンは、原料プロピレン系重合体をシラン変性してなるシラン変性ポリプロピレンであって、該原料プロピレン系重合体が下記成分(a)と成分(b)を、成分(a)と成分(b)の合計100質量%に対し、成分(a)を35~95質量%、成分(b)を5~65質量%の割合で含有することを特徴とするものであって、原料プロピレン系重合体にシラン化合物がグラフトされたものである。
成分(a):α-オレフィン単位の含有率が10~30質量%であるプロピレン系重合体
成分(b):α-オレフィン単位の含有率が10質量%未満であるプロピレン系重合体
【0029】
以下において、成分(a)のα-オレフィン単位の含有率が10~30質量%であるプロピレン系重合体を「プロピレン系重合体(a)」と称し、成分(b)のα-オレフィン単位の含有率が10質量%未満であるプロピレン系重合体を「プロピレン系重合体(b)」と称す場合がある。
【0030】
<プロピレン系重合体(a)>
成分(a)のプロピレン系重合体(a)は、α-オレフィン単位の含有率が10~30質量%であるプロピレン系重合体である。
プロピレン系重合体(a)のα-オレフィン単位の含有率が10質量%以上であることで、三次元網状繊維集合体を製造する際のストランドの結晶化速度遅化により、ストランドの融着強度を向上させるとともに、三次元網状繊維集合体とした際に、好適な柔軟性を得ることができる。プロピレン系重合体(a)のα-オレフィン単位の含有率の下限は、上記観点から、11質量%以上が好ましく、12質量%以上がより好ましい。
一方、プロピレン系重合体(a)のα-オレフィン単位の含有率が30質量%以下であることで、三次元網状繊維集合体を製造する際のストランドの結晶化速度を適切に維持しつつ、ダイスウェル増大を抑制することができる。プロピレン系重合体(a)のα-オレフィン単位の含有率の上限は、上記観点から、29質量%以下が好ましく、28質量%以下がより好ましい。
【0031】
プロピレン系重合体(a)は、プロピレン単位と、プロピレン以外のα-オレフィン単位(但し、ここでいう「α-オレフィン」には、エチレンも含むものとする。)との共重合体である。プロピレン系重合体(a)は、プロピレン単位と、プロピレン以外のα-オレフィン単位とα-オレフィン以外の単量体単位との共重合体であってもよい。
【0032】
プロピレン以外のα-オレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-へプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、2-エチル-1-ヘキセン、2,2,4-トリメチル-1-ペンテン等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、プロピレンを除く炭素数2~10のα-オレフィン、即ち、エチレンと炭素数4~10のα-オレフィンが好ましく、より好ましくはエチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンである。プロピレン系重合体(a)には、プロピレン以外のα-オレフィン単位の1種のみが含まれていてもよく、任意の2種以上が含まれていてもよい。
【0033】
α-オレフィン以外の単量体としては、酢酸ビニル、ビニルアルコール、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、スチレン、スチレン誘導体等のビニル結合含有単量体の1種又は2種以上が挙げられる(ここで「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」の一方又は双方を示す。)。ただし、シラン変性ポリプロピレンとした際のダイスウェル等の観点から、プロピレン系重合体(a)中のこれらの他の単量体単位の含有率は10質量%以下、特に5質量%以下であることが好ましく、0重量%(含まない)ことが最も好ましい。
【0034】
α-オレフィン以外の単量体単位を含有する場合も含めて、プロピレン系重合体(a)のプロピレン単位の含有率は70質量%以上、特に72~88質量%であることが好ましい。
【0035】
また、プロピレン系重合体(a)は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。
【0036】
プロピレン系重合体(a)の具体例としては、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・炭素数4~20のα-オレフィン共重合体、プロピレン・エチレン・炭素数4~20のα-オレフィン共重合体が挙げられる。
【0037】
プロピレン系重合体(a)の融点は、三次元網状繊維集合体を製造する際のストランドの結晶化速度遅化により、ストランドの融着強度を向上させる観点から110℃以下、特に109℃以下であることが好ましい。一方、三次元網状繊維集合体としたときの耐熱性の観点からプロピレン系重合体(a)の融点は通常60℃以上であり、61℃以上であることが好ましい。
【0038】
本発明においてプロピレン系重合体(a)、後述のプロピレン系重合体(b)等のプロピレン系重合体の融点は、下記測定条件で測定される。
<測定条件>
示差走査熱量計を用いて、JIS K7121(2010)に準じて、プロピレン系重合体約5mgを加熱速度100℃/分で20℃から200℃まで昇温し、200℃で3分間保持した後、冷却速度10℃/分で-10℃まで降温し、その後、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温したときの融解ピークの頂点の温度を融点とする。
【0039】
プロピレン系重合体(a)のJIS K7210(1999)に準拠して温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定したメルトフローレート(MFR)は、三次元網状繊維集合体成形時のループコイルの形成しやすさの観点から、0.5g/10分以上が好ましく、1g/10分以上がより好ましく、80g/10分以下が好ましく、70g/10分以下がより好ましい。
【0040】
プロピレン系重合体(a)のJIS K7112(1999)にて測定した密度は、三次元網状繊維集合体の柔軟性の観点から、0.840g/cm3以上であることが好ましく、0.850g/cm3以上であることがより好ましく、0.940g/cm3以下であることが好ましく、0.930g/cm3以下であることがより好ましい。
【0041】
本発明に好適なプロピレン系重合体(a)としては市販品を用いることもでき、エクソンモービル社製「ビスタマックス(登録商標)」シリーズ、ダウケミカル社製「バーシファイ(登録商標)」、三井化学社製「タフマー(登録商標)」シリーズ、LyondellBasell社製「アドフレックス(登録商標)」シリーズ等の中から前記の特性に該当するものを適宜選択して用いることができる。
【0042】
プロピレン系重合体(a)は原料プロピレン系重合体中に1種のみが含まれていてもよく、単量体単位組成や物性等の異なるものの2種以上が含まれていてもよい。
【0043】
<プロピレン系重合体(b)>
成分(b)のプロピレン系重合体(b)は、α-オレフィン単位の含有率が10質量%未満であるプロピレン系重合体である。
プロピレン系重合体(b)のα-オレフィン単位の含有率が10質量%未満であることで、三次元網状繊維集合体としての耐熱温度を高めることができる。プロピレン系重合体(b)のα-オレフィン単位の含有率の上限は、上記観点から、9質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましい。
【0044】
プロピレン系重合体(b)としては、プロピレン単独重合体、プロピレン単位と、プロピレン以外のα-オレフィン単位(但し、ここでいう「α-オレフィン」には、エチレンも含むものとする。)との共重合体、プロピレン単位と、プロピレン以外のα-オレフィン単位と、α-オレフィン以外の単量体単位との共重合体が挙げられる。
【0045】
プロピレン以外のα-オレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-へプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、2-エチル-1-ヘキセン、2,2,4-トリメチル-1-ペンテン等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、プロピレンを除く炭素数2~10のα-オレフィン、即ち、エチレンと炭素数4~10のα-オレフィンが好ましく、より好ましくはエチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンである。プロピレン系重合体(b)には、プロピレン以外のα-オレフィン単位の1種のみが含まれていてもよく、任意の2種以上が含まれていてもよい。
【0046】
α-オレフィン以外の単量体としては、酢酸ビニル、ビニルアルコール、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、スチレン、スチレン誘導体等のビニル結合含有単量体の1種又は2種以上が挙げられる(ここで「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」の一方又は双方を示す。)。ただし、シラン変性ポリプロピレンとした際のダイスウェル等の観点から、プロピレン系重合体(b)中のこれらの他の単量体単位の含有率は10質量%以下、特に5質量%以下であることが好ましく、0重量%(含まない)ことが最も好ましい。
【0047】
α-オレフィン以外の単量体単位を含有する場合も含めて、プロピレン系重合体(b)のプロピレン単位の含有率は90質量%以上、特に92~100質量%であることが好ましい。
【0048】
また、プロピレン系重合体(b)は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。
【0049】
プロピレン系重合体(b)の具体例としては、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・炭素数4~20のα-オレフィン共重合体、プロピレン・エチレン・炭素数4~20のα-オレフィン共重合体が挙げられる。
【0050】
プロピレン系重合体(b)の融点は三次元網状繊維集合体の耐熱性の観点から110℃を超えることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。一方、三次元網状繊維集合体成形時のブツ低減には、より低い温度の成形が有効であることから、プロピレン系重合体(b)の融点は通常170℃以下であり、165℃以下であることが好ましい。
本発明においてプロピレン系重合体(b)の融点は、プロピレン系重合体(a)の融点と同様の測定条件で測定される。
【0051】
プロピレン系重合体(b)のJIS K7210(1999)に準拠して温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定したメルトフローレート(MFR)は、三次元網状繊維集合体成形時のループコイルの形成しやすさの観点から、0.5g/10分以上が好ましく、1g/10分以上がより好ましく、80g/10分以下が好ましく、70g/10分以下がより好ましい。
【0052】
プロピレン系重合体(b)のJIS K7112(1999)にて測定した密度は、三次元網状繊維集合体の柔軟性の観点から、0.840g/cm3以上であることが好ましく、0.850g/cm3以上であることがより好ましく、0.940g/cm3以下であることが好ましく、0.930g/cm3以下であることがより好ましい。
【0053】
本発明に好適なプロピレン系重合体(b)としては市販品を用いることもでき、三菱ケミカル社製「ゼラス(登録商標)」シリーズ、日本ポリプロ社製「ノバテック(登録商標)」シリーズ、プライムポリマー社製「プライムポリプロ(登録商標)」シリーズ等の中から前記の特性に該当するものを適宜選択して用いることができる。
【0054】
プロピレン系重合体(b)は原料プロピレン系重合体中に1種のみが含まれていてもよく、単量体単位組成や物性等の異なるものの2種以上が含まれていてもよい。
【0055】
<原料プロピレン系重合体>
本発明に係る原料プロピレン系重合体は、プロピレン系重合体(a)とプロピレン系重合体(b)とを、これらの合計100質量%に対し、プロピレン系重合体(a)を35~95質量%、プロピレン系重合体(b)を5~65質量%の割合で含有する。原料プロピレン系重合体中のプロピレン系重合体(a)の含有割合が35質量%以上で、プロピレン系重合体(b)の含有割合が65質量%以下であることで、三次元網状繊維集合体を形成する際に好適な硬度に制御しやすい。上記観点から原料プロピレン系重合体中のプロピレン系重合体(a)の含有割合の下限は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上で、プロピレン系重合体(b)の含有割合の上限は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下である。
一方で、原料プロピレン系重合体中のプロピレン系重合体(a)の含有割合が95質量%以下で、プロピレン系重合体(b)の含有割合が5質量%以上であることで、シラン変性ポリプロピレンとした場合に、ストランドを三次元網状構造体の形成に適した結晶化速度に制御でき、三次元網状構造体の製造が容易となる。上記観点から、原料プロピレン系重合体中のプロピレン系重合体(a)の含有割合の上限は、好ましくは65質量%以下、より好ましくは60質量%以下で、プロピレン系重合体(b)の含有割合の下限は、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。
【0056】
一般的に、α-オレフィン単位を含むプロピレン共重合体において、α-オレフィン単位の含有割合が高くなると、架橋した際にポリマーの分子量が増大し、ダイスウェルや溶融張力の上昇及び圧縮永久歪み特性の向上がみられる。しかしながら、三次元網状繊維集合体の製造において、良好な三次元網状繊維集合体を得るためには、適切なダイスウェルや溶融張力が必要であるため、シラン変性ポリプロピレンを製造するための原料プロピレン系重合体において、上記に示すプロピレン系重合体(a)とプロピレン系重合体(b)の含有割合の選定が重要である。
【0057】
プロピレン系重合体(a)とプロピレン系重合体(b)を含む原料プロピレン系重合体中のプロピレン単位の含有率は、得られる三次元網状繊維集合体等のクッション性や耐熱性、更には形状保持性等の観点から、原料プロピレン系重合体100質量%対して、好ましくは74~99質量%であり、より好ましくは77~97質量%であり、更に好ましくは80~95質量%であり、特に好ましくは83~993質量%であり、とりわけ好ましくは86~92質量%である。一方、原料プロピレン系重合体中の、プロピレン単位以外のα-オレフィン単位及びα-オレフィン以外の単量体単位の合計の含有率は、同様の理由から、原料プロピレン系重合体100質量%に対して、好ましくは1~26質量%であり、より好ましくは3~23質量%であり、更に好ましくは5~20質量%であり、特に好ましくは7~17質量%であり、とりわけ好ましくは8~14質量%である。
【0058】
原料プロピレン系重合体の密度(JIS K7112(1999)にて測定)は、特に限定されないが、クッション性や耐熱性及び耐熱変形性等の観点から、0.850~0.930g/cm3であることが好ましく、より好ましくは0.860~0.925g/cm3、更に好ましくは0.870~0.920g/cm3である。
【0059】
原料プロピレン系重合体のメルトフローレート(MFR、JIS K7210(1999)に準拠して温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定)は、特に限定されないが、1~60g/10分が好ましく、より好ましくは2~59g/10分、更に好ましくは3~58g/10分である。原料プロピレン系重合体のMFRが上記上限以下であれば、三次元網状繊維集合体成形時の溶融張力が低すぎず、ストランドが延伸されにくく、安定した成形体を得やすい傾向がある。原料プロピレン系重合体のMFRが上記下限以上であれば、三次元網状繊維集合体とするとき、溶融張力が高すぎるためにストランド径が増加しすぎて、溶融状態のストランドが変形しにくくループ形成が困難となることがなく、安定した成形体を得やすい傾向がある。
【0060】
<その他のプロピレン系重合体>
本発明に係る原料プロピレン系重合体は、上記したプロピレン系重合体(a)とプロピレン系重合体(b)以外のその他のプロピレン系重合体を、上記の原料プロピレン系重合体中の好適なプロピレン単位の含有率を充足する範囲で含有していてもよい。
【0061】
その他のプロピレン系重合体としては、α-オレフィン単位(ここで、α-オレフィン単位としてはプロピレン系重合体(a),プロピレン系重合体(b)に含まれるα-オレフィン単位として例示したものが挙げられる。)の含有率が30質量%を超え50質量%以下のプロピレン系重合体や、α-オレフィン以外の単量体(ここでα-オレフィン以外の単量体としては、プロピレン系重合体(a),プロピレン系重合体(b)に含まれるα-オレフィン以外の単量体として例示したものが挙げられる。)とプロピレンとの共重合体などが挙げられる。
【0062】
その他のプロピレン系重合体の市販品としては、出光興産社製「エルモーデュ(登録商標)」シリーズ等を挙げることができる。
【0063】
その他のプロピレン系重合体は原料プロピレン系重合体中に1種のみが含まれていてもよく、単量体単位組成や物性等の異なるものの2種以上が含まれていてもよい。
【0064】
原料プロピレン系重合体がその他のプロピレン系重合体を含有する場合、その他のプロピレン系重合体の含有量は、プロピレン系重合体(a)とプロピレン系重合体(b)の合計100質量部に対して30質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることが更に好ましい。
【0065】
<シラン変性>
本発明のシラン変性ポリプロピレンは、上述した原料プロピレン系重合体にシラン化合物がグラフトされたものである。グラフト導入されるシラン化合物は、アルコキシ基を有するシラン化合物である限り、特に限定されないが、本発明のシラン変性ポリプロピレンのシラン変性部位は、下記式(1)で表される不飽和シラン化合物の重合残基であることが好ましい。
【0066】
R-Si(R’)3 ・・・(1)
上記式(1)中、Rはエチレン性不飽和炭化水素基であり、R’は互いに独立して炭素数1~10の炭化水素基又は炭素数1~10のアルコキシ基であり、R’のうちの少なくとも1つは炭素数1~10のアルコキシ基である。なお、Rは、プロピレン系重合体へのグラフト導入時に、結合部位となる。
【0067】
上記式(1)において、Rは、好ましくは炭素数2~10のエチレン性不飽和炭化水素基であり、より好ましくは炭素数2~6のエチレン性不飽和炭化水素基である。具体的には、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、シクロヘキセニル基等のアルケニル基が挙げられる。
【0068】
上記式(1)において、R’は好ましくは炭素数1~6の炭化水素基又は炭素数1~6のアルコキシ基であり、より好ましくは炭素数1~4の炭化水素基又は炭素数1~4のアルコキシ基である。また、R’のうちの少なくとも1つは、好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基であり、より好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基である。
【0069】
上記式(1)において、R’の炭素数1~10の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基のいずれであってもよいが、脂肪族炭化水素基であることが好ましい。また、R’の炭素数1~10のアルコキシ基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、直鎖状又は分岐状であることが好ましい。R’の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基、n-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基等に代表されるアルキル基、又はフェニル基等に代表されるアリール基が挙げられるが、これらに特に限定されない。R’のアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、β-メトキシエトキシ基が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0070】
上記式(1)において、3つのR’のうち少なくとも1つはアルコキシ基であるが、2つ以上のR’がアルコキシ基であることが好ましく、3つ全てのR’がアルコキシ基であることがより好ましい。
【0071】
不飽和シラン化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、プロペニルトリメトキシシラン等に代表されるビニルトリアルコキシシランが特に好ましい。これはエチレン性不飽和炭化水素基によって原料プロピレン系重合体のシラン変性が容易であることに加えて、3つのアルコキシ基によって後述の架橋反応を生じさせることができるからである。すなわち、原料プロピレン系重合体にグラフト導入されたアルコキシシランのアルコキシ基が、シラノール縮合触媒の存在下、水と反応して加水分解してシラノール基を生成させ、かかるシラノール基同士が脱水縮合することにより、シラン変性ポリプロピレン同士が結合する架橋反応が起こる。なお、不飽和シラン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0072】
シラン変性ポリプロピレン中のシラン化合物の含有率(原料プロピレン系重合体に導入された不飽和シラン化合物量)は、特に限定されないが、成形時の粘度や取扱性、耐熱性、耐熱変形性、及び形状保持性等の観点から、シラン変性ポリプロピレンの総量に対して、0.1~5.0質量%であることが好ましい。シラン変性ポリプロピレン中のシラン化合物の含有率は、より好ましくは0.2質量%以上であり、更に好ましくは0.3質量%以上であり、一方、より好ましくは4.0質量%以下、更に好ましくは3.0質量%以下である。
シラン化合物の含有率は、変性前の原料プロピレン系重合体の総量に対する、シラン化合物(導入される不飽和シラン化合物)の質量割合であり、サンプルを加熱燃焼させて灰化し、灰分をアルカリ融解して純水に溶解後定量し、高周波プラズマ発光分析装置を用いるICP発光分析法によっても確認することができる。
【0073】
本発明のシラン変性ポリプロピレンは、本発明の効果を損なわない範囲で、シラン化合物(不飽和シラン化合物)以外の化合物(以下、「他のグラフト化合物」ともいう。)がグラフトされていてもよい。他のグラフト化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸等の不飽和カルボン酸、及び、これらの酸無水物が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0074】
本発明のシラン変性ポリプロピレンは、上述したとおり、原料プロピレン系重合体にシラン化合物をグラフト導入してシラン変性することにより製造することができる。シラン変性の方法は、公知の手法に従って行うことができ、特に限定されない。例えば、溶液変性、溶融変性、電子線や電離放射線の照射による固相変性、超臨界流体中での変性が好適に用いられる。これらの中でも、設備やコスト競争力に優れた溶融変性がより好ましく、連続生産性に優れた押出機を用いた溶融混練変性が更に好ましい。溶融混練変性に用いられる装置としては、例えば単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサーが挙げられる。これらの中でも連続生産性に優れた単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機が好ましい。
【0075】
一般に、プロピレン系重合体へのシラン化合物のグラフト導入は、プロピレン系重合体の炭素-水素結合を開裂させて炭素ラジカルを発生させ、これに不飽和官能基が付加する、といったグラフト重合反応によって行うことができる。炭素ラジカルの発生源としては、上述した電子線や電離放射線の他、高温とする方法や、有機、無機過酸化物等のラジカル発生剤を用いることで行うこともできる。コストや操作性の観点からは、有機過酸化物を用いることが好ましい。
【0076】
本発明のシラン変性ポリプロピレンを製造する際に用いるラジカル発生剤としては、特に限定されないが、例えば、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル及びケトンパーオキサイド群に含まれる有機過酸化物、及びアゾ化合物が挙げられる。
【0077】
具体的には、ハイドロパーオキサイド群としては、キュメンハイドロパーオキサイド、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイドが挙げられる。ジアルキルパーオキサイド群としては、ジクミルパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジターシャリーブチルパーオキシヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジターシャリーブチルパーオキシヘキシン-3が挙げられる。ジアシルパーオキサイド群としては、ラウリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドが挙げられる。パーオキシエステル群としては、ターシャリーパーオキシアセテート、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエイト、ターシャリーブチルパーオキシイソプロピルカーボネートが挙げられる。ケトンパーオキサイド群としては、シクロヘキサノンパーオキサイドが挙げられる。アゾ化合物としては、アゾビスイソブチロニトリル、メチルアゾイソブチレートが挙げられる。これらのラジカル発生剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0078】
一般的に用いられる押出機を用いた溶融混練変性の操作としては、原料プロピレン系重合体、グラフト導入されるシラン化合物の前駆体化合物(例えば不飽和シラン化合物)、及び必要に応じて有機過酸化物等のラジカル発生剤を配合し、ブレンドして混練機や押出機に投入し、加熱溶融混練しながら押出しを行い、ダイスから出てくる溶融樹脂を水槽等で冷却してシラン変性ポリプロピレンを得る。
【0079】
原料プロピレン系重合体とグラフト導入されるシラン化合物の前駆体化合物(例えば不飽和シラン化合物)との配合割合は、所望するシラン化合物の導入割合に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。所望するシラン変性量を得るとともに未反応物の残留を低減する等の観点から、原料プロピレン系重合体100質量部に対し、シラン化合物の前駆体化合物の配合割合は0.3~10質量部が好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。
【0080】
また、必要に応じて配合するラジカル発生剤の使用量は、適宜調整することができ、特に限定されないが、有機過酸化物の場合には、所望するシラン変性量を得るとともに、得られるシラン変性ポリプロピレンの劣化を抑制する等の観点から、シラン化合物の前駆体化合物(例えば不飽和シラン化合物)100質量部に対し、有機過酸化物の配合割合は0.001~10質量部が好ましく、より好ましくは0.01~5質量部である。
【0081】
また、溶融押出変性条件としては、例えば単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機を用いる場合には、150~300℃程度の温度で押出すことが好ましい。
【0082】
<配合剤>
本発明のシラン変性ポリプロピレンには、樹脂組成物に常用されている配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲で配合してもよい。このような配合剤としては、例えば熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、防錆剤、粘度調整剤、顔料を挙げることができる。
【0083】
酸化防止剤の具体例としては、フェノール系、硫黄系、又はリン系の酸化防止剤が挙げられるが、これらに特に限定されない。
酸化防止剤の配合量は、特に限定されないが、シラン変性ポリプロピレン100質量部に対して、0.01~2.0質量部が好ましく、より好ましくは0.1~1.0質量部である。
【0084】
紫外線吸収剤の具体例としては、2-ヒドロキシ-4-ノルマル-オクチルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-4-カルボキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-N-オクトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系;2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアリゾール系;フェニルサルチレート、p-オクチルフェニルサルチレート等のサリチル酸エステル系のものが挙げられるが、これらに特に限定されない。
紫外線吸収剤の配合量は、特に限定されないが、シラン変性ポリプロピレン100質量部に対して、0.01~1.0質量部が好ましく、より好ましくは0.02~0.5質量部である。
【0085】
粘度調整剤としては、ゴム配合油、具体的にはパラフィン系プロセスオイルが好ましい。
粘度調整剤の配合量は、シラン変性ポリプロピレン100質量部に対して、0.5~5質量部が好ましく、より好ましくは0.8~3質量部である。
【0086】
<物性>
本発明のシラン変性ポリプロピレンの融点は、特に限定されないが、120℃以上が好ましく、より好ましくは125℃以上、更に好ましくは130℃以上である。融点が上記下限値以上であると、耐熱性が高く、得られる三次元網状繊維集合体において、良好な耐熱性を持つ製品を作製しやすくなる。また、融点を上記下限値以上とすることで、高温での使用時にヘタリが生じにくい傾向にある。一方、本発明のシラン変性ポリプロピレンの融点の上限は特に限定されないが、通常165℃以下である。
シラン変性ポリプロピレンの融点は、示差走査熱量計を用いて、JIS K7121(2010)に準じて、試料約5mgを加熱速度100℃/分で20℃から200℃まで昇温し、200℃で3分間保持した後、冷却速度10℃/分で-10℃まで降温し、その後、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温した時に測定されたサーモグラムから補外ピーク終了点(℃)を算出し融点としたものを用いる。
【0087】
本発明のシラン変性ポリプロピレンのメルトフローレート(MFR、JIS K7210(1999)に準拠して温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定)は、特に限定されないが、10g/10分以上が好ましく、より好ましくは11g/10分以上、更に好ましくは12g/10分以上であり、80g/10分以下が好ましく、より好ましくは79g/10分以下、更に好ましくは78g/10分以下である。MFRが上記下限値以上であると、ダイスウェル及び溶融張力が低いためストランド径が増加しにくく、得られる三次元網状繊維集合体において集合体側面に沿ってループを形成しやすく、良好な反発感を持つ製品を作製しやすい傾向にある。また、MFRが上記上限値以下であると、複数のストランドを押出成形する際、ストランドの吐出が安定しやすく、複数のストランドが丸まって固まった樹脂塊を形成し難い傾向にある。またループ形成及びストランドの融着が安定し、ストランド径も均一となりやすく、得られる三次元網状繊維集合体の均一性が良好となり、製品としての性能、品質が向上されやすい傾向にある。
【0088】
本発明のシラン変性ポリプロピレンのダイスウェル比は特に限定されないが、その下限は0.40以上が好ましく、0.42以上がより好ましく、0.44以上が更に好ましい。一方、その上限は0.70以下が好ましく、0.68以下がより好ましく、0.66以下が更に好ましい。シラン変性ポリプロピレンのダイスウェル比が上記上限以下であることで、三次元網状構造成形時のストランドのスウェルが所望の線径以上に太くなることを抑制でき、ループコイルを形成しやすい傾向にある。一方、ダイスウェル比が上記下限以上であることで、ストランド径が細くなりすぎないよう制御し、三次元網状繊維集合体としたときの、耐久性を維持しやすい傾向にある。
【0089】
シラン変性ポリプロピレンのダイスウェル比は、JIS K7199の4.7.2に準拠して測定・算出した値を用いる。具体的には、ダイス温度を210℃としたダイスから、10mm/minの速度でシラン変性ポリプロピレンを押出し、直径がD(mm)(室温で測定)のダイスを通過させたときに得られる押出し成形物の太さDa(mm)(室温で測定)において、ダイスウェル比Saは次の式(2)で算出される。
Sa=Da/D ・・・(2)
【0090】
本発明のシラン変性ポリプロピレンの密度は、プレス成形した厚さ2mmのシート状の試験片を用い、JIS K7112(1999)に準拠して測定される。本発明のシラン変性ポリプロピレンの密度は、特に限定されないが、三次元網状繊維集合体としたときの柔軟性の観点から、0.850g/cm3以上が好ましく、より好ましくは0.855g/cm3以上、更に好ましくは0.860g/cm3以上であり、0.930g/cm3以下が好ましく、より好ましくは0.925g/cm3以下、更に好ましくは0.920g/cm3以下である。
【0091】
[シラン変性ポリプロピレン組成物]
本発明のシラン変性ポリプロピレン組成物は、上述した本発明のシラン変性ポリプロピレンと、シラノール縮合触媒とを少なくとも含むものである。
【0092】
<シラノール縮合触媒>
ここで用いるシラノール縮合触媒としては、金属有機酸塩、チタネート、ホウ酸塩、有機アミン、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、無機酸及び有機酸、並びに無機酸エステルからなる群から選択される1種以上の化合物が挙げられる。
【0093】
金属有機酸塩としては、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクトエート、酢酸第一錫、オクタン酸第一錫、ナフテン酸コバルト、オクチル酸鉛、ナフテン酸鉛、オクチル酸亜鉛、カプリル酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸鉄、オクチル酸鉄、ステアリン酸鉄等が挙げられるが、これらに特に限定されない。チタネートとしては、チタン酸テトラブチルエステル、チタン酸テトラノニルエステル、ビス(アセチルアセトニトリル)ジ-イソプロピルチタネート等が挙げられるが、これらに特に限定されない。有機アミンとしては、エチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルソーヤアミン、テトラメチルグアニジン、ピリジン等が挙げられるが、これらに特に限定されない。アンモニウム塩としては、炭酸アンモニウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等が挙げられるが、これらに特に限定されない。ホスホニウム塩としては、テトラメチルホスホニウムハイドロオキサイド等が挙げられるが、これらに特に限定されない。無機酸及び有機酸としては、硫酸、塩酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸、トルエンスルホン酸、アルキルナフチルスルホン酸等のスルホン酸等が挙げられるが、これらに特に限定されない。無機酸エステルとしては、特に限定されるものではないが、リン酸エステル等が挙げられる。
【0094】
これらの中でも、好ましくは金属有機酸塩、スルホン酸、リン酸エステルが挙げられ、更に好ましくは錫の金属カルボン酸塩、例えばジオクチル錫ジラウレート、アルキルナフチルスルホン酸、エチルヘキシルリン酸エステルが挙げられる。なお、シラノール縮合触媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0095】
本発明のシラン変性ポリプロピレン組成物中のシラノール縮合触媒の含有量は、特に限定されないが、架橋前の成形品の成形時の早期架橋を抑制するとともにシラン架橋ポリプロピレン作製時の架橋反応を促進させ、得られる三次元網状繊維集合体等の耐熱性を向上させる等の観点から、シラン変性ポリプロピレン100質量部に対し、0.01~0.5質量部が好ましく、より好ましくは0.03~0.3質量部である。
【0096】
なお、シラノール縮合触媒は、ポリプロピレンとシラノール縮合触媒とを配合したシラノール縮合触媒含有マスターバッチとして用いることが好ましい。このシラノール縮合触媒含有マスターバッチに用いることのできるポリプロピレンとしては、例えば、プロピレンの重合体であるホモポリプロピレン、プロピレンと、エチレン又はブテン、ヘキセン、オクテン等のα-オレフィン(ただし、プロピレンを除く)との共重合体が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、柔軟性等の観点から、ホモポリプロピレン、プロピレン・エチレン共重合が好ましい。ここで、プロピレン・エチレン共重合体は、プロピレン60~98質量%と、エチレン2~40質量%とを共重合させたものであることが好ましい。なお、シラノール縮合触媒のマスターバッチにおいて、これらのポリプロピレンの1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0097】
シラノール縮合触媒を、ポリプロピレンとシラノール縮合触媒とを配合したシラノール縮合触媒含有マスターバッチとして用いる場合、マスターバッチ中のシラノール縮合触媒の含有率には特に制限はないが、通常0.1~5.0質量%程度とすることが好ましい。なお、シラノール縮合触媒含有マスターバッチとしては市販品を用いることができ、例えば、三菱ケミカル社製「PZ010」を用いることができる。
【0098】
<その他の成分>
本発明のシラン変性ポリプロピレン組成物は、上述したシラン変性ポリプロピレン及びシラノール縮合触媒以外に、その他の成分として各種の添加剤やシラン変性ポリプロピレン以外の樹脂、更にはシラノール縮合触媒含有マスターバッチ中のポリプロピレン以外の樹脂等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有していてもよい。例えば、本発明のシラン変性ポリプロピレンに配合し得る、前述の配合剤を含有していてもよい。
【0099】
その他の成分の具体例としては、ポリプロピレン以外の熱可塑性固形樹脂、固形状ゴム、液状樹脂、軟化剤、可塑剤等が挙げられる。これらは、接着性或いは相溶性等を改善するための粘着付与剤として用いることもできる。例えば、ロジンとその誘導体、テルペン樹脂や石油樹脂とその誘導体、アルキッド樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、クマロンインデン樹脂、合成テルペン樹脂、アルキレン樹脂、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリブテン、イソブチレンとブタジエンの共重合物、鉱油、プロセスオイル、パイン油、アントラセン油、松根油、可塑剤、動植物油、重合油等を含有していてもよい。
【0100】
[シラン架橋ポリプロピレン]
本発明のシラン変性ポリプロピレン組成物は、水含有雰囲気中に曝すことにより、シラノール基間の架橋反応を進行させ、シラン架橋ポリプロピレン(以下、「本発明のシラン架橋ポリプロピレン」と称す場合がある。)とすることができる。水含有雰囲気中に曝す方法は、各種の条件を採用することができ、特に限定されない。例えば、水分を含む空気中に放置する方法、水蒸気を含む空気を送風する方法、水浴中に浸漬する方法、温水を霧状に散水させる方法が挙げられる。
【0101】
詳述すると、本発明のシラン変性ポリプロピレン組成物においては、シラン変性ポリプロピレンにグラフト導入されたシラン化合物(例えば不飽和シラン化合物)由来の加水分解可能なアルコキシ基が、シラノール縮合触媒の存在下、水と反応して加水分解することによりシラノール基が生成し、更にシラノール基同士が脱水縮合することにより、架橋反応が進行し、シラン変性ポリプロピレン同士が結合して、シラン架橋ポリプロピレンを生成する。
【0102】
架橋条件は水含有雰囲気中に曝す条件によって決まり、特に限定されないが、通常20~130℃の温度範囲、且つ10分~1週間の範囲が好ましく、より好ましくは20~130℃の温度範囲、且つ1時間~160時間の範囲である。水分を含む空気を使用する場合、相対湿度は1~100%の範囲内で適宜調整すればよい。
【0103】
[成形体・架橋成形体]
上述した架橋処理前に、本発明のシラン変性ポリプロピレン組成物を押出成形、射出成形、プレス成形等の各種成形方法により所定形状に成形することで、(未架橋の)成形体とすることができる。そして、得られた(未架橋の)成形体を水含有雰囲気中に曝すことにより、シラノール基間の架橋反応を進行させ、架橋成形体(シラン架橋ポリプロピレン成形体)とすることができる。
【0104】
[三次元網状繊維集合体]
本発明のシラン変性ポリプロピレン組成物を押出成形してストランド(成形体)とし、次いでこのストランド同士を熱融着してから、水冷却することにより、三次元網状繊維集合体とすることができる。例えば国際公開第2012/035736号に記載されているような製造装置及び成形方法により、シラン変性ポリプロピレン組成物を三次元網状繊維集合体に成形することができる。このようにして得られた三次元網状繊維集合体は、前述したように水雰囲気に曝し、シラン架橋三次元網状成形体として用いることが好ましい。
【0105】
本発明のシラン変性ポリプロピレン組成物は、成形時には架橋せずに成形することができるため、成形直後のループ性、熱接着性等特殊な成形性を必要とする三次元網状繊維集合体を効率よく成形することができる。しかも得られる成形体は、エチレン・α-オレフィン共重合体等のエチレン系共重合体の大きな課題である耐熱性が改善されたものとなり、高温での荷重下でもヘタリの問題が大きく改善され、優れたクッション性を示す三次元網状繊維集合体を提供することができる。
【0106】
[シラン架橋ポリプロピレンの物性]
以下に挙げる本発明のシラン架橋ポリプロピレンの物性の評価に用いる試験片は、具体的には、後掲の実施例の項に記載の方法で製造される。
【0107】
本発明のシラン架橋ポリプロピレンの曲げ弾性率は、JIS K7171(2008)に準拠して、射出成形した厚さ4mm、長さ800mm、幅10mmの試験片を用いて測定できる。
本発明のシラン架橋ポリプロピレンの曲げ弾性率は、特に限定されないが、30MPa以上が好ましく、より好ましくは、40MPa以上、更に好ましくは50MPa以上であり、300MPa以下が好ましく、より好ましくは290MPa以下、更に好ましくは280MPa以下である。曲げ弾性率が上記下限値以上であることで、得られる三次元網状繊維集合体において、荷重に耐え得る十分な強度を獲得しやすく、ヘタリが生じにくい傾向にある。また、曲げ弾性率が上記上限値以下であることで、得られる三次元網状繊維集合体において、使用するのに十分な柔軟性を得やすい傾向にある。
【0108】
本発明のシラン架橋ポリプロピレンの圧縮永久歪みは、射出成形した厚さ2mmのシート状成形体を直径30mmの円形状に打ち抜き、これを6枚重ね、JIS K6262(2013)に準拠して、スペーサーにより25%圧縮した状態で、試験温度70℃で22時間熱処理を行い、圧縮を解き、23℃、50%RHの恒温室に30分放置した後、厚さを測定し、圧縮永久歪み(CS:単位%)を計算したものである。本発明のシラン架橋ポリプロピレンの圧縮永久歪みは、特に限定されないが、60%以下が好ましく、より好ましくは59%以下、更に好ましくは58%以下である。圧縮永久歪が上記上限値以下であることで、耐熱変形性、及び形状復元性に優れ、得られる三次元網状繊維集合体において、ヘタリが生じにくい傾向にある。圧縮永久歪みの下限には特に制限はない。
【0109】
[用途]
本発明のシラン変性ポリプロピレン、シラン変性ポリプロピレン組成物及びシラン架橋ポリプロピレンの用途は、特に限定されない。例えば家具、ベッド用マット、枕等の寝具;車両用、船舶等の乗物用座席等のクッション材として好適に用いることができる。なお、これらの用途に適用される場合、前述の三次元網状繊維集合体として用いることが好ましい。この三次元網状繊維集合体は、必要に応じて、他の材料との積層体として用いることもできる。ただし、上述したとおり、成形体の形状は、三次元網状繊維集合体に限定されるものではなく、用途に応じて所定の形状に成形することができる。
【実施例0110】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0111】
[原料]
実施例及び比較例で用いた原料を以下に示す。
なお、シラン変性に供する原料プロピレン系重合体の密度とMFRは、原料プロピレン系重合体に配合されるプロピレン系重合体(a)とプロピレン系重合体(b)のそれぞれの密度及びMFRと配合割合とから比例計算により求められる値とほぼ一致する。
【0112】
<プロピレン系重合体(a)>
・PP-a1:ビスタマックス(登録商標)6202(エクソンモービル社製、プロピレン・エチレン共重合体、MFR:20g/10分(230℃、2.16kg荷重)、密度:0.86g/cm3、融点:102℃、エチレン単位含有率:15質量%)
【0113】
・PP-a2:タフマー(登録商標)PN-2060(三井化学社製、プロピレン・エチレン・ブテン共重合体、MFR:6.0g/10分(230℃、2.16kg荷重)、密度:0.87g/cm3、融点:160℃、α-オレフィン単位(エチレン単位+ブテン単位)含有率:16質量%)
【0114】
・PP-a3:アドフレックス(登録商標)V-109F(LyondellBasell社製、プロピレン・エチレン共重合体、MFR:12g/10分(230℃、2.16kg荷重)、密度:0.88g/cm3、融点:142℃、エチレン単位含有率:14質量%)
【0115】
<プロピレン系重合体(b)>
・PP-b1:ゼラス(登録商標)7055(三菱ケミカル社製、プロピレン・エチレン共重合体、MFR:7.0g/10分(230℃、2.16kg荷重)、密度:0.89g/cm3、融点:160℃、エチレン単位含有率:7質量%)
【0116】
・PP-b2:ノバテックPP(登録商標)MG03BD(日本ポリプロ社製、プロピレン・エチレン共重合体、MFR:30g/10分(230℃、2.16kg荷重)、密度:0.90g/cm3、融点:155℃、エチレン単位含有率:2質量%)
【0117】
・PP-b3:ノバテック(登録商標)MA3Q(日本ポリプロ社製、プロピレン単独重合体、MFR:11g/10分(230℃、2.16kg荷重)、密度:0.90g/cm3、融点:160℃)
【0118】
<その他のオレフィン系重合体>
・EP-c1:タフマー(登録商標)P-0275(三井化学社製、エチレン・プロピレン共重合体、MFR:2.9g/10分(190℃、2.16kg荷重)、密度:0.86g/cm3、エチレン単位含有率:71質量%、融点:24℃)
【0119】
<触媒マスターバッチ(MB)>
・触媒MB:PZ010(三菱ケミカル社製、錫触媒(ジオクチル錫ジラウレート)含有ホモポリプロピレン(MFR:16g/10分(230℃、2.16kg荷重)、密度:0.90g/cm3)、ジオクチル錫ジラウレート含有率:1質量%)
を使用した。
【0120】
[測定・評価方法]
各種物性、特性の測定・評価方法は以下の通りである。
【0121】
〔シラン変性ポリプロピレンの測定〕
<融点>
日立ハイテクサイエンス社製の示差走査熱量計、商品名「DSC6220」を用いて、JIS K7121(2010)に準じて、試料約5mgを加熱速度100℃/分で20℃から200℃まで昇温し、200℃で3分間保持した後、冷却速度10℃/分で-10℃まで降温し、その後、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温した時に測定されたサーモグラムから補外ピーク終了点(℃)を算出し融点とした。
【0122】
<メルトフローレート(MFR)>
JIS K7210(1999)に準拠して、230℃、2.16kg荷重にて測定し
た。
【0123】
<ダイスウェル比>
JIS K7199の4.7.2に準拠して測定・算出した値を用いた。具体的には、ダイス温度を210℃としたダイスから、10mm/minの速度でシラン変性ポリプロピレンを押出し、直径がD(mm)(室温で測定)のダイスを通過させたときに得られる押出し成形物の太さDa(mm)(室温で測定)から、下記式(2)でダイスウェル比Saを算出した。
Sa=Da/D ・・・(2)
【0124】
<密度>
シラン変性ポリプロピレンをプレス成形して得られた厚さ2mmのシート状の試験片を用い、JIS K7112(1999)に準拠して測定した。
【0125】
〔シラン架橋ポリプロピレンの評価〕
<曲げ弾性率>
JIS K7171(2008)に準拠して、射出成形した厚さ4mm、長さ800mm、幅10mmのシラン架橋試験片を用いて測定した。
【0126】
<圧縮永久歪み>
射出成形した厚さ2mmのシラン架橋シート状成形体を直径30mmの円形状に打ち抜き、これを6枚重ね、JIS K6262(2013)に準拠して、スペーサーにより25%圧縮した状態で、試験温度70℃で22時間熱処理を行い、圧縮を解き、23℃、50%RHの恒温室に30分放置した後、厚さを測定し、圧縮永久歪み(CS:単位%)をそれぞれ計算した。圧縮永久歪みの値は低い方が良好である。
【0127】
〔実施例・比較例〕
[実施例1]
PP-a1を60質量部、PP-b1を40質量部、シラン化合物前駆体として不飽和シラン化合物であるビニルトリメトキシシラン(VTMOS)を1.0質量部、ラジカル発生剤として有機過酸化物であるジターシャリーブチルパーオキサイド0.01量部をブレンダーにて攪拌した。その後、温度200℃に設定された単軸スクリュー押出機(アイ・ケー・ジー社製、PMS50)に投入し、ノズルより出てきたストランドを水槽にて冷却固化させた後にペレット状にカッティングして、シラン変性ポリプロピレンAを得た。得られたシラン変性ポリプロピレンAについて、前述の測定・評価法に従って融点、MFR、ダイスウェル比、密度を測定した。結果を表1に示す。
なお、シラン変性ポリプロピレンAの原料プロピレン系重合体の密度は0.87(=0.86×0.6+0.89×0.4)g/cm3で、MFRは14.8(=20×0.6+7.0×0.4)g/10分と算出される。
【0128】
上記で得られたシラン変性ポリプロピレンA100質量部に対して、触媒MBとしてPZ010を5質量部加えてシラン変性ポリプロピレン組成物Aを得た。これを射出成形機に投入し、200℃の条件下で厚さ4mm又は2mmのシート状に成形した。このシート状成形体を85℃、85%RHの恒温恒湿機中に16時間放置し、シラン架橋ポリプロピレンAを含むシート状成形体を得た。得られたシート状成形体を用いて、前述の測定・評価法に従って曲げ弾性率、圧縮永久歪みを測定した。結果を表1に示す。
【0129】
[実施例2~6、比較例1~5]
表1に記載の原料配合組成とした以外は実施例1と同様にして、それぞれシラン変性ポリプロピレンB~K、シラン架橋ポリプロピレンB~Kを含むシート状成形体を製造し、評価測定を実施した。結果を表1に示す。
【0130】
【0131】
上記の結果より次のことが分かる。
【0132】
実施例1~6のシラン変性ポリプロピレンA~Fは、MFR及び密度が適切で、かつ、ダイスウェル比が小さいため、三次元網状繊維集合体への成形性が良好であり、優れたクッション性が期待できる。
実施例1~6のシラン架橋ポリプロピレンA~Fは、耐熱変形性及び形状復元性の指標となる70℃における圧縮永久歪みにおいて歪みが小さかった。また、柔軟性の指標となる曲げ弾性率は、三次元網状繊維集合体として使用するのに十分な柔軟性を示す数値であった。
【0133】
原料プロピレン系重合体にプロピレン系重合体(a)を用いていない比較例1のシラン架橋ポリプロピレンGは、70℃の圧縮永久歪は良好であったが、シラン変性ポリプロピレンGのMFRが低く、かつ、ダイスウェル比が大きいため、三次元網状繊維集合体への成形性に劣ることが推定される。
原料プロピレン系重合体としてプロピレン系重合体(a)のみを用いた比較例2のシラン架橋ポリプロピレンHは、圧縮永久歪みが大きく、耐熱変形性及び形状復元性に劣る結果となった。このため歪みが残りやすく、三次元網状繊維集合体とした際に、ヘタリが発生すると考えられる。
原料プロピレン系重合体中のプロピレン系重合体(a)の含有率が少ない或いはプロピレン系重合体(b)のみを用いた比較例3~6のシラン架橋ポリプロピレンI~Kは、圧縮永久歪みが大きく、耐熱変形性及び形状復元性に劣る結果となった。このため歪みが残りやすく、三次元網状繊維集合体とした際に、ヘタリが発生すると考えられる。また、柔軟性の指標となる曲げ弾性率は、三次元網状繊維集合体として使用するには硬すぎる数値であった。
【0134】
以上のことから、本発明のシラン変性ポリプロピレンは、MFR、融点、ダイスウェル比、密度が好適であることから、三次元網状繊維集合体の成形性に優れ、このシラン変性ポリプロピレンを架橋処理したシラン架橋ポリプロピレンは柔軟性、耐熱変形性、形状復元性にも優れることが示された。
本発明のシラン変性ポリプロピレンは、耐熱性に優れ、且つ、三次元網状繊維集合体を成形するために好適な流動性である。そのため、当該シラン変性ポリプロピレンを用いて、三次元網状繊維集合体を製造することで、加温条件下でも圧縮永久歪みが小さく、電気毛布等の電気寝具の使用によるヘタリや変形が発生しにくい、耐熱変形性及び形状復元性に優れる三次元網状繊維集合体を与えることができる。このため、本発明のシラン変性ポリプロピレン、及びシラン変性ポリプロピレン組成物、並びに、これらを用いた成形体、架橋成形体及び三次元網状繊維集合体は、例えば家具、ベッド用マット、枕等の寝具;車両用、船舶用座席等のクッション材の構成材料において、広く且つ有効に利用することができる。