(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158283
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】エキシマランプ、ランプユニット、及びエキシマランプの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01J 65/00 20060101AFI20231023BHJP
H01J 61/30 20060101ALI20231023BHJP
H01J 61/35 20060101ALI20231023BHJP
H01J 61/16 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
H01J65/00 C
H01J61/30 N
H01J61/35 F
H01J61/16 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068021
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186060
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】藤原 崇子
(72)【発明者】
【氏名】十川 博行
【テーマコード(参考)】
5C015
5C043
【Fターム(参考)】
5C015PP03
5C015PP04
5C015PP05
5C043CC16
5C043DD27
5C043DD39
5C043EA11
5C043EA19
5C043EC02
5C043EC03
(57)【要約】
【課題】 紫外光の発光強度や透過性能の著しい低下を招かないことに加え、紫外光強度を相応に担保しつつ人体への悪影響に配慮したエキシマランプ、ランプユニット、及びエキシマランプの製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】 エキシマランプは、放電容器と、前記放電容器に封入される放電用ガスと、前記放電容器の少なくとも内面に設けられる紫外光透過薄膜とを備え、前記紫外光透過薄膜は、前記紫外光透過薄膜内に分散し、紫外光を散乱する第1粒子と、前記第1粒子間の空隙を埋める第2粒子とを含み、前記第1粒子の平均粒径は、前記第2粒子の平均粒径より大きいことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電容器と、
前記放電容器に封入される放電用ガスと、
前記放電容器の少なくとも内面に設けられる紫外光透過薄膜と、
を備え、
前記紫外光透過薄膜は、
前記紫外光透過薄膜内に分散し、紫外光をミー散乱する第1粒子と、
前記第1粒子間の空隙を埋める第2粒子と、
を含み、
前記第1粒子の平均粒径は、前記第2粒子の平均粒径より大きく、
前記第1粒子の平均粒径は100nm~450nmであり、
前記紫外光透過膜の膜厚が、100nm~500nmである(ただし、前記第1粒子の平均粒径は、前記紫外光透過膜の膜厚を超えない)
ことを特徴とするエキシマランプ。
【請求項2】
前記第2粒子の平均粒径が、30nm以下である、
請求項1に記載のエキシマランプ。
【請求項3】
前記第1粒子が、シリカ粒子であり、
前記第2粒子が、アルミナ粒子である、
請求項1に記載のエキシマランプ。
【請求項4】
前記放電容器が、アルカリ金属系成分を含み、
前記放電用ガスが、ハロゲン系成分を含む、
請求項1に記載のエキシマランプ。
【請求項5】
放電容器と、
前記放電容器に封入される放電用ガスと、
前記放電容器の少なくとも内面に設けられる紫外光透過薄膜と、
を備え、
前記紫外光透過薄膜は、
前記紫外光透過薄膜内に分散し、紫外光をミー散乱する第1粒子と、
前記第1粒子間の空隙を埋める第2粒子と、
を含み、
前記第1粒子の平均粒径は、前記第2粒子の平均粒径より大きく、
粒径パラメータα(ここで、αは、前記放電用ガスから発せられる紫外光の波長をλ、前記第1粒子の平均粒径をDとしたときにα=πD/λで表されるパラメータ)が、1~7であり、
前記紫外光透過膜の膜厚が、100nm~500nmである
ことを特徴とするエキシマランプ。
【請求項6】
前記粒径パラメータαが、4~5である、
請求項5に記載のエキシマランプ。
【請求項7】
長手方向に相対すると共に、各々開口する一端と他端とを有する放電容器の前記一端を、紫外光を散乱する第1粒子と、前記第1粒子とは別の第2粒子とが分散する分散液に浸漬させる分散液浸漬ステップと、
前記一端が前記分散液に浸漬した状態で、前記放電容器の前記他端から前記放電容器内を減圧し、前記放電容器の内面に前記分散液が付着するよう前記分散液を吸引する分散液吸引ステップと、
前記分散液が前記内面に付着した前記放電容器を熱処理し、前記第1粒子と、前記第1粒子間の空隙を埋めるよう位置する前記第2粒子とを含む紫外光透過薄膜を生成する紫外光透過薄膜生成ステップと、
前記放電容器に、放電用ガスを充填するガス充填ステップと、
を含むエキシマランプの製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載のエキシマランプを備える
ランプユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキシマランプ、ランプユニット、及びエキシマランプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放電容器に封入され、外部電極によって励起(放電)された放電用ガス(エキシマ分子)からのエキシマ光(紫外光)を発光源とするエキシマランプが提供されている。より詳しくは、エキシマランプにおける放電用ガスの励起光は、単一波長とみなし得る半値幅の小さい発光特性を有する。そのため、エキシマランプは、研究用や各種工業用の光源として利用されている。エキシマランプに関する発明は、例えば、下記特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示のエキシマランプは、放電容器の内表面を覆う紫外線(紫外光)反射膜を有する。しかしながら、前記紫外光反射膜は、紫外光散乱体としてシリカ粒子を有する。このように、微粒子状の物質から薄膜(紫外光反射膜)が生成される場合、粒子間(特許文献1の発明の場合、シリカ粒子間)に空隙が生じる。その結果、放電用ガスの一部が、紫外光反射膜を通って、放電容器の内面と接触する事態が想定される。
【0005】
ところで、特許文献1のエキシマランプにおいて、ホウケイ酸ガラスのようなアルカリ金属系成分を含む放電容器(ガラス容器)と、KrClガス(KrガスとCl2ガスとの混合ガス)のようなハロゲン系成分を含む放電用ガスとが用いられる場合、紫外光反射膜を通った放電用ガスと放電容器との接触により、放電用ガスのハロゲン系成分と放電容器のアルカリ金属系成分とが化学反応する。これにより、放電用ガス内のハロゲン系成分が減少して発光強度が低減される。それに加えて、ハロゲン系成分とアルカリ金属系成分との反応生成物が、放電容器の内表面に付着し、放電容器の紫外光透過特性が落ちる。
【0006】
他方、例えば、KrClガス(放電用ガス)から照射される紫外光は、人体への影響が少ない222nmの発光ピーク波長を有する。ただし、KrClガスからの紫外光が、そのような性質を有するとしても、紫外光被爆に関する許容値を定めたACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists)等を遵守することが求められる。
【0007】
このような状況下、紫外光による人体への悪影響を低減する方法として、例えば、放電用ガスから得られる紫外光を所定の紫外光散乱体によって散乱させ、放電容器から出る紫外光の照射方向を拡げる(拡散させる)方法が挙げられる。これにより、紫外光強度を相応に担保する一方、人体に直接照射させる場合に比べて紫外光強度を下げることができる。しかしながら、前記課題や解決手段は、特許文献1に開示も示唆もされていない。
【0008】
前記課題に鑑み、紫外光の発光強度や透過性能の著しい低下を招かないことに加え、紫外光強度を相応に担保しつつ人体への悪影響に配慮したエキシマランプ、ランプユニット、及びエキシマランプの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決するため、本発明に係るエキシマランプは、
放電容器と、
前記放電容器に封入される放電用ガスと、
前記放電容器の少なくとも内面に設けられる紫外光透過薄膜と、
を備え、
前記紫外光透過薄膜は、
前記紫外光透過薄膜内に分散し、紫外光をミー散乱する第1粒子と、
前記第1粒子間の空隙を埋める第2粒子と、
を含み、
前記第1粒子の平均粒径は、前記第2粒子の平均粒径より大きく、
前記第1粒子の平均粒径は100nm~450nmであり、
前記紫外光透過膜の膜厚が、100nm~500nmである(ただし、前記第1粒子の平均粒径は、前記紫外光透過膜の膜厚を超えない)
ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るエキシマランプは、
放電容器と、
前記放電容器に封入される放電用ガスと、
前記放電容器の少なくとも内面に設けられる紫外光透過薄膜と、
を備え、
前記紫外光透過薄膜は、
前記紫外光透過薄膜内に分散し、紫外光をミー散乱する第1粒子と、
前記第1粒子間の空隙を埋める第2粒子と、
を含み、
前記第1粒子の平均粒径は、前記第2粒子の平均粒径より大きく、
粒径パラメータα(ここで、αは、前記放電用ガスから発せられる紫外光の波長をλ、前記第1粒子の平均粒径をDとしたときにα=πD/λで表されるパラメータ)が、1~7であり、
前記紫外光透過膜の膜厚が、100nm~500nmである
ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るエキシマランプの製造方法は、
長手方向に相対すると共に、各々開口する一端と他端とを有する放電容器の前記一端を、紫外光を散乱する第1粒子と、前記第1粒子とは別の第2粒子とが分散する分散液に浸漬させる分散液浸漬ステップと、
前記一端が前記分散液に浸漬した状態で、前記放電容器の前記他端から前記放電容器内を減圧し、前記放電容器の内面に前記分散液が付着するよう前記分散液を吸引する分散液吸引ステップと、
前記分散液が前記内面に付着した前記放電容器を熱処理し、前記第1粒子と、前記第1粒子間の空隙を埋めるよう位置する前記第2粒子とを含む紫外光透過薄膜を生成する紫外光透過薄膜生成ステップと、
前記放電容器に、放電用ガスを充填するガス充填ステップと、
を含むことを特徴とする。
【0012】
更に、本発明に係るランプユニットは、
前記エキシマランプを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、紫外光の発光強度や透過性能の著しい低下を招かないことに加え、紫外光強度を相応に担保しつつ人体への悪影響に配慮したエキシマランプ、ランプユニット、及びエキシマランプの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一本実施形態に係るエキシマランプの長手方向の断面図。
【
図2】本実施形態に係るエキシマランプの横断面図。
【
図3】本実施形態の紫外光透過薄膜の表面のSEM像を示す写真代用図。
【
図4】紫外光散乱のシミュレーション結果を示す図。
【
図5】本実施形態のエキシマランプの製造方法に係る各工程の概要図。
【
図6】本発明の実施例1と比較例1におけるエキシマランプからの照射範囲の違いを説明するための概略斜視図。
【
図7】本発明の実施例1と比較例1におけるエキシマランプの照度維持時間の評価結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[構成]
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係るエキシマランプを詳細に説明する。初めに、
図1~
図4を参照して、本実施形態に係るエキシマランプ1を説明する。ここで、
図1は、エキシマランプ1の長手方向の断面図である。また、
図2は、エキシマランプ1の横断面図(エキシマランプ1の長手方向に直交する断面図)である。更に、
図3は、エキシマランプ1の後述する紫外光透過薄膜の表面を走査電子顕微鏡によって撮影したSEM(Scanning Electron Microscope)像である。更に、
図4は、紫外光散乱のシミュレーション結果を示す図である。
【0016】
図1及び
図2に示されるように、エキシマランプ1は、放電容器10、放電容器10に充填される放電用ガス20、放電容器10の内面11を覆う紫外光透過薄膜30、外部電極40等を備える。外部電極40によって放電容器10(放電用ガス220)に電圧が印加されることで、放電用ガス(エキシマ分子)からエキシマ光(紫外光)が発せられる。
【0017】
より詳しくは、放電容器10は、長手方向に延在する筒状容器であると共に、長手方向に相対する一端12と他端13を有する。放電容器10の素材は、特に限定されないが、例えば、石英ガラス、ソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、高ケイ酸ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス等が挙げられる。本実施形態の放電容器10は、比較的安価なホウケイ酸ガラスから成る。
【0018】
次に、放電用ガス20は、エキシマ分子を含むものであれば特に限定されない。放電用ガス20の例として、Xeガス、Arガス、Krガス、XeFガス、XeClガス、XeBrガス、ArFガス、ArClガス、ArBrガス、KrFガス、KrClガス、KrBrガス等が挙げられる。本実施形態の放電用ガス20は、KrClガスである。すなわち、ピーク波長222nmのエキシマ光(紫外光)が、エキシマランプ1から出射される。
【0019】
図3に示されるように、紫外光透過薄膜30は、紫外光(エキシマ光)透過機能を有する第1粒子31と第2粒子32を含む。第1粒子31は、紫外光透過薄膜30内に分散しており、第2粒子32は、第1粒子31間の空隙を埋める。ここで第1粒子31は、紫外光を散乱する特性を有する。
【0020】
第1粒子31と第2粒子32の例として、放電用ガス20から発せられる紫外光の光エネルギーより大きなバンドギャップを有する金属酸化物(例えば、SiO2)、金属窒化物(例えば、SiN)、金属硫化物(例えば、ZnS)等が挙げられる。
【0021】
本実施形態の第1粒子31は、シリカ粒子(SiO2粒子)である。また、本実施形態の第2粒子32は、アルミナ粒子(Al2O3粒子)である。ただし、これに限定されない。また、本実施形態とは異なり、第1粒子31と第2粒子32とが同種であってもよい(第1粒子31と第2粒子32とが同種の場合、粒子の平均粒径の違いで双方を区別する)。
【0022】
また、第1粒子31の平均粒径は、前記第2粒子の平均粒径より大きい。第1粒子31の平均粒径は、放電用ガス20からの紫外光を有効に散乱させる観点(例えば、ミー散乱が起こる条件を満たす観点)から、100nm~500nm程度であることが好ましい。第1粒子31の平均粒径が前記条件を満たすことで、放電用ガス20から発せられる紫外光と紫外光透過薄膜30との相互作用によって、前記紫外光が強く散乱する。
【0023】
これにより、放電用ガス20からの紫外光が、それまでの進行方向に対して側方側(例えば、横前方側)に向く成分が増加し、紫外光の照射範囲を拡げることができる。その結果、紫外光強度を相応に担保しつつ、より広範囲に紫外光を照射することができる。
【0024】
ここで、
図4を参照して、1つの第1粒子31(シリカ粒子:屈折率1.5)の粒径を変化させた場合の紫外光の散乱状態のシミュレーション結果を説明する。なお、第1粒子31の粒径範囲は、0nm(第1粒子31がない場合)~600nmである。また、シミュレーションにおける光源は、
図4(a)に示されるように、第1粒子31に対向するよう配置され、第1粒子31の粒径より十分大きい面光源である。更に、面光源から発せられる光は、KrClガスのエキシマ光と同じ222nmの波長を有する。
【0025】
図4に示されるように、第1粒子31の粒径が50nm程度の場合、レイリー散乱が起こる結果、側方側(横前方側)の散乱成分が現れ始める。続いて、第1粒子31の粒径が100nm程度の場合、ミー散乱が起こる結果、側方側(横前方側)の散乱成分が強くなる。更に、第1粒子31の粒径が増えるに伴い、側方側(横前方側)の散乱成分がより強くなる。第1粒子31の粒径が300nm程度の場合、前方への出射強度を維持しつつ、側方側(横前方側)へ光が強く散乱されている。第1粒子31の粒径が450nm程度の場合、粒径300nmの場合と比較して前方への出射強度が相対的に弱くなり、側方側(横前方側)の散乱成分が相対的に強くなる。従って、第1粒子31の粒径は、ミー散乱を有しつつ、所望の領域へ紫外光を照射する場合を考えると、100~450nm程度が好ましい。そして、前方への照射強度を維持しつつ、広範囲に紫外光を照射できる点で粒径300nm程度が好ましい。これにより、効率的に広範囲の領域へ紫外光を照射し、殺菌・滅菌を行うことができる。
【0026】
これに対して、第1粒子31の粒径が450nmを超え、600nm程度に至ると、散乱の態様が幾何光学的散乱となるため、側方側(横前方側)の散乱成分が弱まる。このシミュレーション結果からも、第1粒子31の好ましい平均粒径が100nm~500nmであると示唆される。
【0027】
他方、面光源に用いられる光の波長をλ、第1粒子31の平均粒径をDとしたときの粒径パラメータをα=πD/λとする(すなわち、粒径パラメータαは、放電用ガス20から発せられる紫外光の波長をλ、第1粒子31の平均粒径をDとしたときにα=πD/λで表されるパラメータに対応する)。αが1より小さい範囲(面光源の波長が粒径の1/3程度)ではレイリー散乱となり、1より大きい範囲でミー散乱となり、αが8以上(粒子径が波長の2.5倍以上)となると幾何学的散乱となる。つまり、側方側(横前方側)への散乱を起こすにはαが1~7程度が好ましい。そして、前方への照射強度を維持しつつ、広範囲の領域へ紫外光を照射する点でαが4~5程度がより好ましい。
【0028】
他方、第2粒子32の平均粒径は、第1粒子31の平均粒径未満であれば良いが、紫外光透過薄膜30の空隙率を低減させる観点から、平均粒径が5nm~50nm程度であることが好ましい。第2粒子32の平均粒径が5nmを下回ると、例えば、粒径が小さすぎるため、粒子の製造が難しくなり、分散液の安定供給やコストの点で好ましくない。これに対して、第2粒子32の平均粒径が50nmを上回る場合、紫外光透過薄膜30の空隙率が高くなり、紫外光透過薄膜30における放電用ガス20の遮断機能(放電用ガス20が放電容器10に接触することを防ぐ機能)が低下し得る点で好ましくない。
【0029】
特に、本実施形態の場合、放電容器10は、アルカリ金属系成分を含むホウケイ酸ガラスである一方、放電用ガス20は、KrClガス(ハロゲン系成分を含むガス)である。そのため、仮に、紫外光透過薄膜30の空隙率が高いと、KrClガスが、紫外光透過薄膜30を通過し、最終的に放電容器10と接触する。その結果、放電用ガス20のハロゲン系成分(本実施形態の場合、塩素成分)と、放電容器10のアルカリ金属系成分とが化学反応することで、放電用ガス20のハロゲン系成分が減少する。これにより、放電用ガス20(KrClガス)を生成するCl成分の濃度が低下し、発光強度が低減されてしまう。それに加えて、放電用ガス20のハロゲン系成分(本実施形態の場合、塩素成分)と、放電容器10のアルカリ金属系成分との反応生成物が、放電容器10の内表面に付着し、放電容器10の紫外光透過特性が落ちる。
【0030】
これに対して、第2粒子32の平均粒径が30nm以下であることによって、紫外光透過薄膜30の空隙率を低減させることができる。これにより、放電用ガス20の減少に伴う発光強度の低減と、放電容器10の紫外光透過特性の低下を防止することができる。
【0031】
なお、第1粒子31と第2粒子32の平均粒径(粒径分布)の測定方法は、特に限定されない。前記平均粒径の測定方法の例として、X線小角散乱、電子顕微鏡画像等に対する画像解析等が挙げられる。画像解析を行う場合、例えば、第1粒子31(第2粒子32)の粒径は、第1粒子31(第2粒子32)の面積値をもとに、第1粒子31(第2粒子32)を球円とみなしたときの断面の直径(円相当径)を指す。また、第1粒子31(第2粒子32)の「平均粒径」とは、例えば、電子顕微鏡画像から得られる所定数個の第1粒子31(第2粒子32)の円相当径のメジアン径を指す。
【0032】
また、紫外光透過薄膜30の厚みは、100nm~500nmであることが好ましい。更に、紫外光透過薄膜30の厚みは、100nm~300nmであることがより好ましい。これに対して、紫外光透過薄膜30の厚みが100nmを下回る場合、放電容器10と放電用ガス20との接触確率が増え得る点で好ましくない。また、紫外光透過薄膜30の厚みが500nmを上回る場合、紫外光透過率(放電容器10から出射される照射光強度)が過度に低減され得る点で好ましくない。
【0033】
[製造方法]
次に、
図5を参照して、本実施形態に係るエキシマランプ1の製造方法を説明する。ここで、
図5は、エキシマランプ1の製造方法に係る各工程(ステップ)の概要図である。まず、
図5(a)に示されるように、一端12と他端13とを開口した放電容器10(本実施形態の場合、ホウケイ酸ガラスからなるガラス管)を用意する。
【0034】
続いて、
図5(b)に示されるように、第1粒子31(本実施形態の場合、シリカ粒子)と第2粒子32(本実施形態の場合、アルミナ粒子)とが溶媒中に分散する分散液51に、放電容器10の一端12を浸漬させる(分散液浸漬ステップ)。
【0035】
なお、後述する熱処理によって、第1粒子31同士が融合する(例えば、第1粒子31が粗大化し、粒径が増える)。そのため、熱処理前(分散液浸漬ステップ時点を含む)の第1粒子31を「熱処理前の第1粒子31」と言う場合がある。これに対して、熱処理後の第1粒子31を「熱処理後の第1粒子31」と言う場合がある。また、第2粒子32に関しても同様である。ここで、本実施形態のように、第1粒子31がシリカ粒子、第2粒子32がアルミナ粒子である場合、熱処理前の第2粒子32の平均粒径は、紫外光透過薄膜30の空隙率に大きく影響する。熱処理によってアルミナ粒子同士が融合することによって、空隙が少なくなるからである。本実施形態の場合の熱処理前の第2粒子の平均粒径は、5nm~30nm程度であることが好ましい。
【0036】
続いて、
図5(c)に示されるように、一端12が分散液51に浸漬した状態で、放電容器10の他端13から放電容器10内を減圧する。これにより、分散液51が放電容器10の一端12から他端13に向けて吸引され、放電容器10の内面11を覆うよう分散液51が付着する(分散液吸引ステップ)。
【0037】
続いて、
図5(d)に示されるように、放電容器10の一端12付近に付着した分散液を除去する(分散液除去ステップ)。続いて、
図5(e)に示されるように、分散液51が内面11に付着した放電容器10を熱処理し、紫外光透過薄膜30を生成する(紫外光透過薄膜生成ステップ)。ここで、熱処理の条件は、特に限定されない。一例として、温度500℃~700℃で5分~30分等の条件で熱処理する態様が挙げられる。
【0038】
続いて、
図5(f)に示されるように、放電容器10の一端12を閉じた後、放電用ガス20(本実施形態の場合、KrClガス)を放電容器10に充填し、放電容器10の他端13を封じる(ガス充填ステップ)。最後に、外部電極40を放電容器10に装着する。
【実施例0039】
以上説明したエキシマランプ1及びその製造方法において、具体的な実施の例を以下に示す。ただし、本発明は、下記の実施例により限定及び制限されるものではない。
【0040】
紫外光透過薄膜30を放電容器10の内面11に付着させたエキシマランプ(前述のエキシマランプ1:実施例1)と、紫外光透過薄膜30を放電容器10の内面11に付着させていないエキシマランプ2(比較例1)とを製造し、以下の評価を行った。
(1)エキシマランプ(ランプユニット)からの紫外光の照射範囲の評価。
(2)エキシマランプの照度維持時間の評価。
【0041】
なお、実施例1において、平均粒径30nmの熱処理前の第1粒子31(シリカ粒子)と、平均粒径10nmの熱処理前の第2粒子32(アルミナ粒子)とを有機溶媒(メチルイソブチルケトン)に分散させた分散液を用いて、紫外光透過薄膜30を生成した。また、紫外光透過薄膜30における、熱処理後の第1粒子31(シリカ粒子)の平均粒径は、約300nmであり、熱処理後の第2粒子32(アルミナ粒子)の平均粒径は、約30nmであった。更に、紫外光透過薄膜30の空隙率は、約1.6%であった。ここで、紫外光透過薄膜30の空隙は、熱処理によって第1粒子31と第2粒子32が溶融することによって少なくなる。第2粒子32の熱処理後の平均径は、5nm~50nm程度であることが好ましい。特に、第2粒子32の熱処理後の平均粒径は、紫外光透過薄膜30の空隙率を低減させる観点から、10nm~30nm程度であることがより好ましい。
【0042】
<紫外光の照射範囲の比較>
図6を参照し、実施例1と比較例1とのエキシマランプからの照射範囲の違いを説明する。ここで、
図6(a)は、実施例1のエキシマランプ1を備えるランプユニット61と、ランプユニット61からの紫外光の照射範囲を示す。また、
図6(b)は、比較例1のエキシマランプ2を備えるランプユニット62と、ランプユニット62からの紫外光の照射範囲を示す。
【0043】
なお、ランプユニット61は、エキシマランプ1に加えて、エキシマランプ1の上方側を覆う反射ミラー3を備える。また、本評価にあたり、ランプユニット61を建物等の壁面に取り付けた。ランプユニット62も同様に、エキシマランプ2に加えて、エキシマランプ2の上方側を覆う反射ミラー3を備える。本評価にあたり、ランプユニット62を建物等の壁面に取り付けた。なお、紫外光の照射範囲を説明するために建物等の壁面に取り付けたランプユニット62について説明するが、ランプユニットの形態や設置場所、紫外光の照射対象はこれに限らず、例えば床や物体、人体にも適用できる。
【0044】
図6に示されるように、比較例1の紫外光の照射範囲に比べて、実施例1の紫外光の照射範囲が拡がった。実施例1のエキシマランプ1(ランプユニット61)によれば、比較例1に比べて紫外光強度が下がるが、紫外光強度を相応に担保しつつ人体への悪影響に配慮可能なエキシマランプ(ランプユニット)を提供できる
【0045】
<照度維持時間の比較>
エキシマランプの照度維持時間の評価結果は、
図7に示される通りである。ここで、
図7の横軸は、エキシマランプ1,2の点灯時間(連続発光時間)を示す。また、
図7の縦軸は、エキシマランプ1,2の点灯開始時点(横軸の0時間)の照度を100%とした場合の各点灯時間における照度維持率を示す。
【0046】
図7に示されるように、実施例1の場合、点灯開始時点から照度維持率が70%まで低下するまでの時間が、約3200時間であった。これに対して、比較例1の場合、点灯開始時点から照度維持率が70%まで低下するまでの時間が、約250時間であった。このように、実施例1によれば、紫外光透過薄膜30によって、放電用ガス20(例えば、KrClガス)と放電容器10(ホウケイ酸ガラス)との接触が避けられ、良好な照射状態が長時間維持可能であることが示唆された。
【0047】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明した。ただし、前述の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定する趣旨で記載されたものではない。本発明には、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るものを含み得る。また、本発明にはその等価物が含まれる。
【0048】
例えば、紫外光透過薄膜30を、放電容器10の内面11だけでなく、外面にも配してもよい。また、放電容器10の内面11に、紫外光透過薄膜30を配する一方、放電容器10の外面に、紫外光の散乱構造体(例えば、放電容器10の外面から径方向外側に突出する多数の微小突部を有し、多数の微小突部を所定の間隔で規則的に配列させた構造を有する散乱構造体)を配してもよい。