(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158301
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】架橋高分子モデルの生成方法、システム、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G16Z 99/00 20190101AFI20231023BHJP
C08J 3/12 20060101ALI20231023BHJP
G16C 20/00 20190101ALI20231023BHJP
【FI】
G16Z99/00
C08J3/12 Z
G16C20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068050
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】唐津 秀一
【テーマコード(参考)】
4F070
5L049
【Fターム(参考)】
4F070AA08
4F070DA58
4F070DB00
4F070DB06
5L049DD02
(57)【要約】
【課題】不均一な架橋構造を有する架橋高分子モデルの生成方法、システム、及びプログラムを提供する。
【解決手段】ポリマーモデルを構成する直鎖状又は分岐状に連なる複数の粗視化粒子のうち一部の架橋可能粒子に対して架橋確率を設定することと、複数の架橋剤粒子を凝集させた架橋剤粒子塊を生成することと、複数のポリマーモデルと、1つ以上の架橋剤粒子塊とを仮想空間に配置し、架橋剤粒子塊の凝集を維持した状態で分子動力学計算を実行して平衡化処理を実行することと、平衡化処理の後で架橋剤粒子塊を構成する各々の架橋剤粒子の凝集を解除することと、各々の架橋剤粒子の凝集を解除した状態で分子動力学計算を実行し、ポリマーモデルの架橋可能粒子が架橋剤粒子に所定距離以内に近づいた場合に架橋可能粒子に設定された架橋確率で架橋可能粒子と架橋剤粒子とを結合させる架橋反応処理を実行することと、を含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数のプロセッサが実行する方法であって、
ポリマーモデルを構成する直鎖状又は分岐状に連なる複数の粗視化粒子のうち一部の架橋可能粒子に対して架橋確率を設定することと、
複数の架橋剤粒子を凝集させた架橋剤粒子塊を生成することと、
前記複数のポリマーモデルと、1つ以上の前記架橋剤粒子塊とを仮想空間に配置し、前記架橋剤粒子塊の凝集を維持した状態で分子動力学計算を実行して平衡化処理を実行することと、
前記平衡化処理の後で前記架橋剤粒子塊を構成する各々の架橋剤粒子の凝集を解除することと、
前記各々の架橋剤粒子の凝集を解除した状態で分子動力学計算を実行し、前記ポリマーモデルの架橋可能粒子が前記架橋剤粒子に所定距離以内に近づいた場合に前記架橋可能粒子に設定された架橋確率で前記架橋可能粒子と前記架橋剤粒子とを結合させる架橋反応処理を実行することと、
を含む、架橋高分子モデルの生成方法。
【請求項2】
全ての前記架橋可能粒子に対して同一の架橋確率を設定する、請求項1に記載の架橋高分子モデルの生成方法。
【請求項3】
前記ポリマーモデルは、前記架橋剤粒子と結合可能な第1種モノマー粗視化粒子と、前記架橋剤粒子と結合不可能な第2種モノマー粗視化粒子と、を含む、請求項1又は2に記載の架橋高分子モデルの生成方法。
【請求項4】
前記ポリマーモデルは、前記架橋剤粒子と結合不可能な第3種モノマー粗視化粒子を更に含み、
前記第1種モノマー粗視化粒子はブタジエンを表し、前記第2種モノマー粗視化粒子はスチレンを表し、前記第3種モノマー粗視化粒子はエチレンを表し、前記ポリマーモデルは、水素添加SBRを表すモデルである、請求項3に記載の架橋高分子モデルの生成方法。
【請求項5】
請求項1に記載の架橋高分子モデルの生成方法を実行して、前記架橋可能粒子の全てが前記架橋剤粒子のいずれかに結合した後の前記架橋高分子モデルを生成することと、
生成した前記架橋高分子モデルについて、前記架橋剤粒子に対する動径分布関数の値を算出することと、
前記動径分布関数の値に現れるピーク値から、粒子間距離が増加するについて前記動径分布関数の値が減少するか否かを判定することと、
前記ピーク値から粒子間距離が増加するにつれて前記動径分布関数の値が減少すると判定した場合に、前記ピーク値から減少する前記動径分布関数の値の傾きに基づく値を、前記架橋高分子モデルにおける架橋の不均一度として算出することと、
を含む、架橋高分子モデルにおける架橋の不均一度の算出方法。
【請求項6】
ポリマーモデルを構成する直鎖状又は分岐状に連なる複数の粗視化粒子のうち一部の架橋可能粒子に対して架橋確率を設定する設定部と、
複数の架橋剤粒子を凝集させた架橋剤粒子塊を生成する塊生成部と、
前記複数のポリマーモデルと、1つ以上の前記架橋剤粒子塊とを仮想空間に配置し、前記架橋剤粒子塊の凝集を維持した状態で平衡化処理を実行する平衡化処理実行部と、
前記平衡化処理の後で前記架橋剤粒子塊を構成する各々の架橋剤粒子の凝集を解除する凝集解除部と、
前記各々の架橋剤粒子の凝集を解除した状態で分子動力学計算を実行し、前記ポリマーモデルの架橋可能粒子が前記架橋剤粒子に所定距離以内に近づいた場合に前記架橋可能粒子に設定された架橋確率で前記架橋可能粒子と前記架橋剤粒子とを結合させる架橋反応処理を実行する架橋反応処理部と、
を備える、架橋高分子モデルを生成するシステム。
【請求項7】
ポリマーモデルを構成する直鎖状又は分岐状に連なる複数の粗視化粒子のうち一部の架橋可能粒子に対して架橋確率を設定することと、
複数の架橋剤粒子を凝集させた架橋剤粒子塊を生成することと、
前記複数のポリマーモデルと、1つ以上の前記架橋剤粒子塊とを仮想空間に配置し、前記架橋剤粒子塊の凝集を維持した状態で平衡化処理を実行することと、
前記平衡化処理の後で前記架橋剤粒子塊を構成する各々の架橋剤粒子の凝集を解除することと、
前記各々の架橋剤粒子の凝集を解除した状態で分子動力学計算を実行し、前記ポリマーモデルの架橋可能粒子が前記架橋剤粒子に所定距離以内に近づいた場合に前記架橋可能粒子に設定された架橋確率で前記架橋可能粒子と前記架橋剤粒子とを結合させる架橋反応処理を実行することと、
を1又は複数のプロセッサに実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、架橋高分子モデルの生成方法、システム、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
分子動力学計算を用いた分子シミュレーションに用いるモデルの種々の生成方法が提案されている。ポリマーと架橋剤とが結合している架橋構造が不均一な架橋高分子モデルを生成する方法として、例えば特許文献1には、仮想空間を複数のセルに分割して、セル毎に異なる架橋密度を設定し、セルに配置したポリマーに設定する架橋可能粒子の数を、セルに対応する架橋密度に応じた数に設定することが開示されている。
【0003】
また、別の方法として、特許文献2には、高分子モデルを構成するポリマーの分子鎖に複数の架橋可能粒子を設定し、複数の架橋可能粒子のうち一部の架橋可能粒子に架橋確率が高い優先架橋粒子を設定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-27402号公報
【特許文献2】特開2015-187189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、実験では、硫黄などの架橋剤をゴムなどのポリマーに加えてポリマーと架橋剤を混合した直後の状態では架橋剤の凝集部分が残っており、加硫時に架橋剤が分散しながらポリマーと架橋していくと考えられる。そうすると、上記従来の手法では、高分子モデルの現象解明に必ずしも適しているモデル生成方法とはいえない可能性があり、不均一架橋高分子モデルの生成方法に別のアプローチがあると考えられる。
【0006】
本開示は、不均一な架橋構造を有する架橋高分子モデルの生成方法、システム、及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の架橋高分子モデルの生成方法は、1又は複数のプロセッサが実行する方法であって、ポリマーモデルを構成する直鎖状又は分岐状に連なる複数の粗視化粒子のうち一部の架橋可能粒子に対して架橋確率を設定することと、複数の架橋剤粒子を凝集させた架橋剤粒子塊を生成することと、前記複数のポリマーモデルと、1つ以上の前記架橋剤粒子塊とを仮想空間に配置し、前記架橋剤粒子塊の凝集を維持した状態で分子動力学計算を実行して平衡化処理を実行することと、前記平衡化処理の後で前記架橋剤粒子塊を構成する各々の架橋剤粒子の凝集を解除することと、前記各々の架橋剤粒子の凝集を解除した状態で分子動力学計算を実行し、前記ポリマーモデルの架橋可能粒子が前記架橋剤粒子に所定距離以内に近づいた場合に前記架橋可能粒子に設定された架橋確率で前記架橋可能粒子と前記架橋剤粒子とを結合させる架橋反応処理を実行することと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】システムが実行する処理を示すフローチャート。
【
図3】本実施形態で生成する架橋高分子モデルを示す模式図。
【
図4】ポリマーモデルの粒子に設定されるモノマー粗視化粒子の種別に関する説明図であり、(a)は第1高分子モデルについての説明図、(b)は第2高分子モデルについての説明図。
【
図5】(a)架橋剤粒子を凝集させた架橋剤粒子塊を仮想空間に配置した例を示し、(b)架橋剤粒子を1個ずつ仮想空間に配置した例を示す図。
【
図6】架橋高分子モデル(実施形態1~4、比較例1~4)を構成するポリマーモデルの粗視化粒子の内訳を示す図。
【
図7】実施例1と比較例1の応力ひずみ曲線と、実施例1と比較例1のモデルにおける架橋剤粒子4の配置位置を示す図。
【
図8】実施例2と比較例2の応力ひずみ曲線と、実施例2と比較例2のモデルにおける架橋剤粒子4の配置位置を示す図。
【
図9】実施例3と比較例3の応力ひずみ曲線と、実施例3と比較例3のモデルにおける架橋剤粒子4の配置位置を示す図。
【
図10】実施例4と比較例4の応力ひずみ曲線と、実施例4と比較例4のモデルにおける架橋剤粒子4の配置位置を示す図。
【
図12】実施例1~2及び比較例1~2の架橋剤粒子4に対する動径分布関数g(r)の値を示すグラフ。
【
図13】実施例3~4及び比較例3~4の架橋剤粒子4に対する動径分布関数g(r)を示すグラフ。
【
図14】実施例1~4の架橋の不均一度を示すグラフ。
【
図15】架橋剤粒子を凝集させた5つの架橋剤粒子塊を仮想空間に配置した例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0010】
[モデル生成システム]
本実施形態のシステム1(装置)は、架橋高分子モデルを生成する。本実施形態において架橋高分子モデルの一例として、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)と、水素添加SBRの2種のモデルを生成する例を挙げるが、生成可能な架橋高分子モデルはこれら2種に限定されない。SBRはブタジエンとスチレンの共重合体であり、ブタジエン部分が硫黄などの架橋剤と架橋する。SBRに水素添加するとブタジエン部分の二重結合に水素が添加され、エチレン構造となる。本実施形態において、分子動力学計算を含む分子シミュレーションには、分子シミュレーションソフトウェア「LAMMPS」を用いている。
【0011】
図1に示すように、システム1は、設定部10と、塊生成部11と、モデル配置部12と、平衡化処理実行部13と、凝集解除部14と、架橋反応処理部15と、を有する。システム1は、動径分布関数算出部16と、判定部17と、不均一度算出部18と、を有するとしてもよい。これら各部10~18は、プロセッサ1a、メモリ1b、各種インターフェイス等を備えたコンピュータにおいて予め記憶されている
図2に示す処理ルーチンをプロセッサ1aが実行することによりソフトウェア及びハードウェアが協働して実現される。本実施形態では、1つの装置におけるプロセッサ1aが各部を実現しているが、これに限定されない。例えば、ネットワークを用いて分散させ、複数のプロセッサが各部の処理を実行するように構成してもよい。すなわち、1又は複数のプロセッサが処理を実行する。メモリ1bは、架橋高分子モデルを生成するためのポリマーモデル3及び架橋剤粒子4に関するデータ(粒子の結合構造、粒子数、粒子に設定される結合ポテンシャルまたは非結合ポテンシャル)、生成した高分子モデルに関するデータ、分子動力学計算を実行するための解析条件(圧力温度一定条件、体積温度一定条件、仮想空間に設定する周期境界条件など)を記憶する。本実施形態では、SBRモデルに対応する第1高分子モデル21と、水素添加SBRモデルに対応する第2高分子モデル22とを生成するため、これらのデータがメモリ1bに記憶される。
【0012】
図3で模式的に示すように、生成した架橋高分子モデル2は、複数のポリマーモデル3と、架橋剤粒子4とを有する。ポリマーモデル3は、直鎖状または分岐状に連なる複数の粗視化粒子30を有する。複数の粗視化粒子30は、架橋剤粒子4と結合可能に設定された架橋可能粒子と、架橋剤粒子4と結合不可能に設定された架橋不可能粒子と、を含む。架橋剤粒子4は、ポリマーモデル3を構成する複数の粗視化粒子のうち架橋可能粒子と結合(架橋反応)する。
【0013】
図4は、ポリマーモデル3の粒子30に設定されるモノマー粗視化粒子の種別に関する説明図であり、
図4(a)は、第1高分子モデル21について、
図4(b)は、第2高分子モデル22についての説明図である。
図4(a)及び
図4(b)では、1つのポリマーモデル3の分子鎖のみを模式的に図示している。
図4(a)に示すように、SBRモデルに対応する第1高分子モデル21におけるポリマーモデル3の粗視化粒子30は、第1種モノマー粗視化粒子B及び第2種モノマー粗視化粒子Sと、を含む複数種類のモノマー粗視化粒子のいずれかを表す。同図では、ポリマーモデル3の鎖を構成する各々の粗視化粒子30に、モノマーの特性を表すための各種のポテンシャル(相互作用)が設定されている。これにより、本来であれば多数の粒子からなるモノマーを1つの粗視化粒子30で表現するので、コンピュータで扱う粒子数を削減して計算コストを低減している。第1種モノマー粗視化粒子Bがブタジエンを表し、第2種モノマー粗視化粒子Sがスチレンを表している。
図4(b)に示すように、水素添加SBRモデルに対応する第2高分子モデル22におけるポリマーモデル3の粗視化粒子30は、第1種モノマー粗視化粒子B、第2種モノマー粗視化粒子S及び第3種モノマー粗視化粒子Eを含む複数種類のモノマー粗視化粒子のいずれかを表す。
第1高分子モデル21及び第2高分子モデル22のいずれも、第1種モノマー粗視化粒子Bは、ブタジエンを表すため、架橋剤粒子4と結合可能に設定可能である。第1種モノマー粗視化粒子Bの全てが架橋剤粒子4と結合可能に設定される必要があるのではなく、第1種モノマー粗視化粒子Bの一部が架橋剤粒子4と結合可能に設定され、残りが架橋剤粒子4と結合不可能に設定されてもよい。第2種モノマー粗視化粒子Sは、スチレンを表すため、架橋剤粒子4と結合不可能に設定されている。また、第3種モノマー粗視化粒子Eは、エチレンを表すために、架橋剤粒子4と結合不可能に設定されている。
【0014】
ポリマーモデル3を構成する複数の粗視化粒子30は、直鎖状又は分岐状に結合ポテンシャル(結合相互作用ともいう)によって接続され、各粒子30に非結合ポテンシャル(非結合相互作用ともいう)が設定されている。架橋剤粒子4は、非結合ポテンシャルが設定されている。結合ポテンシャルは、結合相手との間に作用するポテンシャルであり、FENE+LJポテンシャルを設定可能である。具体的には、式(2)に示すKremer-Grestモデルの結合ポテンシャル(U
bond)を設定可能である。非結合ポテンシャルは他の粒子との間に作用するポテンシャルであり、WCAポテンシャル(斥力のみのLJポテンシャル)を設定可能である。具体的には、式(1)に示すKremer-Grestモデルの非結合ポテンシャル(U
non-bond)を設定可能である。ポリマーモデル3の粗視化粒子30に対して設定する結合ポテンシャルは、設定されるモノマーの種別(ブタジエン、スチレン、エチレン)に応じて式(3)に示す角度ポテンシャル(U
angle)を追加で設定している。これにより、設定されるモノマーの種別に応じた特性が再現される。ポリマーモデル3および架橋剤粒子4に対して設定されるポテンシャルは、下記式(1)及び(2)におけるK=30.0、R
0=1.5、ε=1.0、σ=1.0に統一している。第1種モノマー粗視化粒子Bの角度パラメータ(K
angle)が3.1、第2種モノマー粗視化粒子Sの角度パラメータ(K
angle)を6.3、第3種モノマー粗視化粒子Eの角度パラメータ(K
angle)を4.0に設定した。rは粒子間距離、θは結合関係にある粒子の間の角度を表す。なお、パラメータは一例であり、これに限定されない。
【数1】
【0015】
図1に示す設定部10は、ポリマーモデル3を構成する各々の粗視化粒子30及び架橋剤粒子4に対して上記ポテンシャルを設定する。また、設定部10は、
図4(a)及び
図4(b)に示すように、ポリマーモデル3について全ての粗視化粒子のうちの23.5%の粒子30にスチレンを示す第2種モノマー粗視化粒子Sに設定する。SBRモデル(第1高分子モデル21)の場合には、ポリマーモデル3について全ての粗視化粒子の76.5%の粒子30にブタジエンを示す第1種モノマー粗視化粒子Bを設定する。水素添加SBRモデル(第2高分子モデル22)の場合には、ポリマーモデル3について全ての粗視化粒子の76.5%に対する水素添加率に応じた数の粒子30に対して、第1種モノマー粗視化粒子B及び第3種モノマー粗視化粒子Eをそれぞれ割り振る。設定部10は、モノマー粗視化粒子の種別に応じた角度ポテンシャルを設定する。具体的な粒子の数については、下記に
図6と共に示している。
また、設定部10は、ポリマーモデル3を構成する複数の粗視化粒子30のうち一部の架橋可能粒子に対して架橋確率を設定する。本実施形態では、架橋可能に設定された全ての第1種モノマー粗視化粒子Bに対して同一の架橋確率(20%)を設定している。
なお、LAMMPSにおいて、結合ポテンシャルの設定は、bond_style feneコマンドで実現可能であり、非結合ポテンシャルの設定は、pair_style lj/cutコマンドで実現可能であり、結合ポテンシャルのうち角度ポテンシャルの設定は、angle_style cosineコマンドで実現可能である。
【0016】
図1に示す塊生成部11は、複数の架橋剤粒子4を凝集させた架橋剤粒子塊40を生成する。本実施形態では、64個の架橋剤粒子4を一辺4個として立方体状に凝集させた(4
3=64)。64個の架橋剤粒子4それぞれに対して隣接する架橋剤粒子4との間に、上記結合ポテンシャルを設定することで、結合状態(凝集状態)にする。
【0017】
図1に示すモデル配置部12は、複数のポリマーモデル3と、1つ以上の架橋剤粒子塊40とを仮想空間Ar1に配置する。本実施形態では、
図5(a)に示すように、まず、ポリマーモデル3を仮想空間Ar1にランダムで位置を決定して配置し、その後、ポリマーモデル3に重ならないように、3つの架橋剤粒子塊40を仮想空間Ar1内にランダムに配置している。
図5(b)は、架橋剤粒子4を1個ずつ仮想空間Ar1に配置した例である。なお、
図5(a)及び
図5(b)では、架橋剤粒子4を表示し、ポリマーモデル3を表示していない。
なお、LAMMPSにおいて、モデルの仮想空間への配置は、create_atomコマンドで実現可能であるが、LAMMPS以外の外部プログラムを実行することでも座標配置が可能である。
【0018】
図1に示す平衡化処理実行部13は、架橋剤粒子塊40の凝集を維持した状態(架橋剤粒子4同士の結合ポテンシャルを設定した状態)で分子動力学計算を実行して平衡化処理を実行する。具体的には、平衡化処理実行部13は、所定の解析条件(圧力温度一定または体積温度一定など)の下、平衡状態になるまで分子動力学計算を繰り返し実行する。例えば、圧力温度一定の条件で所定ステップ分子動力学計算を実行し、その後、体積温度一定の条件で所定ステップ、分子動力学計算を実行することが挙げられる。平衡状態とは、例えば、モデル全体のポテンシャルエネルギーの一定期間の変動が一定幅以内に収まる状態などが挙げられる。本実施形態では一例として、温度と圧力を1.0[LJ単位(レナードジョーンズ単位)]としているが、これは一例であり、種々の値に設定可能である。
なお、LAMMPSにおいて、圧力と温度を一定にする指定は、fix nptコマンドで設定可能であり、体積と温度を一定にする指定は、fix nvtコマンドで実現可能である。
【0019】
図1に示す凝集解除部14は、平行化処理の後で平衡状態になった架橋高分子モデル2における架橋剤粒子塊40を構成する各々の架橋剤粒子4の凝集を解除する。具体的には、架橋剤粒子塊40を構成する各々の架橋剤粒子4に設定された、隣接する架橋剤粒子4との間に設定される結合ポテンシャルの設定を解除する。これにより、分子動力学計算を実行すれば、凝集していた架橋剤粒子4同士の間に設定された非結合ポテンシャルの斥力によって、架橋剤粒子4同士が反発して、架橋剤粒子4の分散が開始されることになる。
【0020】
図1に示す架橋反応処理部15は、各々の架橋剤粒子4の凝集を解除した状態で分子動力学計算を実行し、架橋反応処理を実行する。架橋反応処理は、分子動力学計算を実行して、ポリマーモデル3の架橋可能粒子(本実施形態では第1種モノマー粗視化粒子B)が架橋剤粒子4に所定距離以内に近づいた場合に架橋可能粒子(第1種モノマー粗視化粒子B)に設定された架橋確率で架橋可能粒子(第1種モノマー粗視化粒子B)と架橋剤粒子4とを結合させる処理である。本実施形態では、分子動力学計算を10計算ステップ実行するたびに、所定距離以内(本実施形態では、距離が1.0以内)にある架橋可能粒子(第1種モノマー粗視化粒子B)と架橋剤粒子4の組み合わせをすべて評価対象とし、評価対象の架橋可能粒子と架橋剤粒子4とを設定された架橋確率で結合させる。架橋反応処理は、全ての架橋剤粒子4が結合済みとなるまで、繰り返し実行される。全ての架橋剤粒子4が結合済みとなれば、架橋高分子モデル2が生成完了となる。必要に応じて架橋高分子モデル2に対して平衡化処理を実行してもよい。
なお、LAMMPSにおいて、架橋反応処理で架橋可能粒子と架橋剤粒子4とを結合する処理には、fix bond/createコマンドで実現可能である。
【0021】
[架橋高分子モデルの生成方法]
上記システム1が実行する、架橋高分子モデルの生成方法を、
図2を用いて説明する。ここでは、高分子モデルとしてSBRモデル(第1高分子モデル21)を生成する例を挙げる。メモリ1bには、分子動力学計算で用いる指定圧力、指定温度が予め設定され、記憶されている。また、メモリ1bには、SBRモデルを構成するポリマーモデル3に関するデータ(鎖長粒子数、ポリマーの本数、設定されるスチレン及びブタジエンの数)及び架橋剤粒子4に関するデータが予め設定され、記憶されている。
まず、ステップST1において、設定部10は、各種設定を行う。具体的には、設定部10は、ポリマーモデル3を構成する直鎖状又は分岐状に連なる複数の粗視化粒子30のうち一部の架橋可能粒子に対して架橋確率を設定する。また、設定部10は、ポリマーモデルを構成する粗視化粒子30及び架橋剤粒子4に対してポテンシャルを設定する。
次のステップST2において、塊生成部11は、複数の架橋剤粒子4を凝集させた架橋剤粒子塊40を生成する。
次のステップST3において、モデル配置部12は、複数のポリマーモデル3と、1つ以上の架橋剤粒子塊40とを仮想空間Ar1に配置する。
次のステップST4において、平衡化処理実行部13は、架橋剤粒子塊40の凝集を維持した状態で分子動力学計算を実行して平衡化処理を実行する。
次のステップST5において、凝集解除部14は、平衡化処理の後で架橋剤粒子塊を構成する各々の架橋剤粒子の凝集を解除する。
次のステップST6において、架橋反応処理部15は、各々の架橋剤粒子の凝集を解除した状態で分子動力学計算を実行し、ポリマーモデル3の架橋可能粒子が架橋剤粒子4に所定距離以内に近づいた場合に架橋可能粒子に設定された架橋確率で架橋可能粒子と架橋剤粒子4とを結合させる架橋反応処理を実行する。
【0022】
<実施例1~4、及び比較例1~4>
本明細書に記載の手法で生成した4つの実施例1~4と、それ以外の手法で生成した4つの比較例1~4について説明する。SBRモデルか水素添加SBRモデルであるかで2パターン、架橋可能粒子の多少で2パターン、架橋構造が均一となる手法(
図5(b))か、不均一となる本開示の手法(
図5(a))で2パターンあり、これらの組み合わせで、8パターンの例を生成した。8つの例のいずれの高分子モデルも、200個の粗視化粒子30(鎖長200個)で形成されたポリマーモデル3を200本、仮想空間Ar1に配置して生成している。架橋剤粒子数「少」は、架橋剤粒子4の数は192粒子であり、
図5(a)に示すように、3つの架橋剤粒子塊40を仮想空間Ar1に配置する。架橋剤粒子数「多」は、架橋剤粒子4の数は320粒子であり、
図15に示すように、5つの架橋剤粒子塊40を仮想空間Ar1に配置する。
図6は、架橋高分子モデル2を構成するポリマーモデル3の粗視化粒子30の内訳を示す図である。
【0023】
実施例1(SBR、架橋剤粒子数「少」、
図5(a)に示す架橋剤粒子4を凝集させる本手法)
SBRモデル(第1高分子モデル21)であり、架橋剤粒子4の数は192粒子であり、架橋剤粒子4を凝集させる本手法で生成した。ブタジエン(第1種モノマー粗視化粒子B)のうちの約13%のブタジエンを架橋可能粒子とし、その他のブタジエンを架橋不可能粒子に設定した。
図6に示すように、スチレン(第2種モノマー粗視化粒子S)の数は9457個、架橋不可能ブタジエンの数は26553個、架橋可能ブタジエンの数は3990個である。架橋反応処理に要した時間は、24分53秒であった。
【0024】
比較例1(SBR、架橋剤粒子数「少」、
図5(b)に示す架橋剤粒子4を1個ずつ配置する手法)
図5(b)に示すように、架橋剤粒子4を1個ずつ仮想空間Ar1に配置する手法とし、架橋剤粒子4を凝集させていない。それ以外は、実施例1と同じである。架橋反応処理に要した時間は、4分47秒であった。
【0025】
実施例2(SBR、架橋剤粒子数「多」、
図5(a)に示す架橋剤粒子4を凝集させる本手法)
架橋剤粒子4の数は320粒子である。それ以外は、実施例1と同じである。架橋反応処理に要した時間は、17分35秒であった。
【0026】
比較例2(SBR、架橋剤粒子数「多」、
図5(b)に示す架橋剤粒子4を1個ずつ配置する手法)
図5(b)に示すように、架橋剤粒子4を1個ずつ仮想空間Ar1に配置する手法とし、架橋剤粒子4を凝集させていない。それ以外は、実施例2と同じである。架橋反応処理に要した時間は、7分27秒であった。
【0027】
実施例3(水素添加SBR、架橋剤粒子数「少」、
図5(a)に示す架橋剤粒子4を凝集させる本手法)
水素添加SBRモデル(第2高分子モデル22)であり、架橋剤粒子4の数は192粒子であり、架橋剤粒子4を凝集させる本手法で生成した。ブタジエン(第1種モノマー粗視化粒子B)の全てを架橋可能粒子に設定した。
図6に示すように、スチレン(第2種モノマー粗視化粒子S)の数は9457個、架橋不可能ブタジエンの数は0個、架橋可能ブタジエンの数は1583個であり、エチレン(第3種モノマー粗視化粒子E)の数は28960個である。水素添加率は約95%である。架橋反応処理に要した時間は、48分42秒であった。
【0028】
比較例3(水素添加SBR、架橋剤粒子数「少」、
図5(b)に示す架橋剤粒子4を1個ずつ配置する手法)
図5(b)に示すように、架橋剤粒子4を1個ずつ仮想空間Ar1に配置する手法とし、架橋剤粒子4を凝集させていない。それ以外は、実施例3と同じである。架橋反応処理に要した時間は、17分29秒であった。
【0029】
実施例4(水素添加SBR、架橋剤粒子数「多」、
図5(a)に示す架橋剤粒子4を凝集させる本手法)
架橋剤粒子4の数は320粒子である。それ以外は、実施例3と同じである。架橋反応処理に要した時間は、1時間27分59秒であった。
【0030】
比較例4(水素添加SBR、架橋剤粒子数「多」、
図5(b)に示す架橋剤粒子4を1個ずつ配置する手法)
図5(b)に示すように、架橋剤粒子4を1個ずつ仮想空間Ar1に配置する手法とし、架橋剤粒子4を凝集させていない。それ以外は、実施例4と同じである。架橋反応処理に要した時間は、34分13秒であった。
【0031】
架橋反応処理に要する時間について、実施例1~4は、それぞれ対応する比較例1~4に比べて時間がかかっており、これは、架橋剤粒子の凝集部分が残りながら分散していく過程を模擬することに伴う所要時間の増加と考えられる。また、実施例4(水素添加SBR)が、対応する実施例2(SBR)よりも架橋反応処理に要する時間が著しく増加しているのは、水素添加するに伴って加硫速度が遅くなるからと考えられる。
【0032】
<引張試験シミュレーション及び得られる応力ひずみ曲線>
作成した高分子モデルが定性的な挙動を示すか否かを確認するために、引張試験シミュレーションを実行した。特開2017-96871で説明されている公知の手法を用いているので、詳細な説明は省略する。具体的には、仮想空間に高分子モデルを配置し、仮想空間を体積温度一定条件にてz軸方向に徐々に伸長していき、伸長比と応力を算出する。目的の伸長比まで一度に伸長することができないため、微量に伸長させる処理と、緩和処理(平衡処理)を繰り返し実行する。例えば、約1.0139倍に伸長し、その後、緩和処理を実行し、再度1.0139倍に伸長する処理を繰り返し実行する。z軸方向に約1.0139倍に伸長する処理を100回繰り返せば、伸長比を1から7まで得られ、その各時点の応力が得られ、ひずみも得られる。x軸、y軸、z軸それぞれについて、伸長し、得られる応力の平均値を取得した。これにより、伸長比と応力の関係を示す応力ひずみ曲線を得ることができる。
生成した高分子モデルの結合ポテンシャルがFENE+LJポテンシャルであるため、ゴムモデルを引き延ばしても破断しない。破断開始時点を特定するために、得られる応力をエネルギー弾性の成分とエントロピー弾性の成分に分離する。ポリマーモデル3の伸びきりに起因してエネルギー弾性の成分が増加する。エネルギー弾性の成分が増加を開始した時点のひずみを破断開始点としている。
図7~10に示す応力ひずみ曲線において破断状態の部分は点線で示している。
【0033】
図7は、実施例1と比較例1の応力ひずみ曲線と、実施例1と比較例1のモデルにおける架橋剤粒子4の配置位置を示す図である。
図8は、実施例2と比較例2の応力ひずみ曲線と、実施例2と比較例2のモデルにおける架橋剤粒子4の配置位置を示す図である。
図7及び
図8を比べれば、架橋構造が不均一なモデルが破断するまでの伸びは、架橋構造が均一なモデルが破断するまでの伸びに比べて低下することが表れている。
図9は、実施例3と比較例3の応力ひずみ曲線と、実施例3と比較例3のモデルにおける架橋剤粒子4の配置位置を示す図である。
図10は、実施例4と比較例4の応力ひずみ曲線と、実施例4と比較例4のモデルにおける架橋剤粒子4の配置位置を示す図である。
図9及び
図10を比べれば、水素添加SBRモデル(第2高分子モデル22)において架橋粒子数が多いモデルにおいては、不均一なモデルを生成しにくく、結果的に均一なモデルに近いモデルとなったことが理解できる。
【0034】
[架橋の不均一度の算出方法、システム]
図8~10に示すように、架橋構造が均一であるか不均一であるかは架橋剤粒子4の分布を目視で見て感覚的な評価になりがちである。そこで、ここでは、架橋の不均一度の算出方法を提供する。
【0035】
図1に示す動径分布関数算出部16は、架橋高分子モデル2について、架橋剤粒子4に対する動径分布関数g(r)を算出する。動径分布関数g(r)は、式(4)及び
図11に示すように、或る粒子から距離r離れた位置の粒子の分布を表す関数である。n(r)は距離rから距離(r+dr)の範囲(
図11の外側の円と内側の円の間の範囲)に存在する粒子の個数を表す。rは粒子間距離を表し、ρはモデルの密度を表す。
図11において、粒子を実線の円で示し、或る粒子を中心とする半径rの円および半径(r+dr)の円を一点鎖線の円で示している。
【数2】
【0036】
図12は、動径分布関数算出部16が算出した、実施例1~2及び比較例1~2の架橋剤粒子4に対する動径分布関数g(r)の値を示すグラフである。
図13は、動径分布関数算出部16が算出した、実施例3~4及び比較例3~4の架橋剤粒子4に対する動径分布関数g(r)を示すグラフである。
図12及び
図13を見ると、架橋剤粒子4が比較的均一に分散していると考える比較例1~4は、いずれも粒子間距離rが増加するにつれて、動径分布関数g(r)が0から1まで上昇した後、動径分布関数g(r)の値が1前後を維持した形状になっていることがわかる。一方、架橋剤粒子4が比較的不均一に分散していると考えている実施例1~4は、いずれも粒子間距離rが増加するにつれて、動径分布関数g(r)の値が0から、1よりも大きなピーク値Pvまで上昇し、その後、動径分布関数g(r)の値が1に収束するまである一定の傾斜(近似的な)をもって減少していることがわかる。また、実施例1~4を比較すると、不均一であるほど、上記減少する傾斜(右下がり)の角度が大きいことがわかる。よって、上記傾きの大きさを、架橋の不均一度を表す値として利用可能と考える。
なお、一例として、気体、液体、粒子が格子状に配置された固体の動径分布関数g(r)は、上記不均一の架橋構造を有する高分子モデルのような、ピーク値Pvから動径分布関数g(r)の値が1に収束するまである一定の傾斜をもって減少するという特徴がなく、上記知見は知られていないと考える。
【0037】
図1に示す判定部17は、新たな上記知見を利用したものであり、動径分布関数g(r)の値に現れるピーク値Pvから、粒子間距離rが増加するについて動径分布関数g(r)の値が減少するか否かを判定する。ピーク値Pvから粒子間距離rが増加するにつれて動径分布関数g(r)の値が減少する条件に合致しないと判定した場合には、対象の架橋高分子モデルの架橋構造が不均一とはいえないと判定する。
【0038】
図1に示す不均一度算出部18は、ピーク値Pvから粒子間距離rが増加するにつれて動径分布関数g(r)の値が減少すると判定した場合に、ピーク値Pvから減少する動径分布関数g(r)の値の傾きに基づく値を、架橋高分子モデルにおける架橋の不均一度として算出する。本実施形態では、ピーク値Pvから粒子間距離rが増加するにつれて動径分布関数g(r)の値が減少する条件に合致するのは、実施例1~4であり、比較例1~4が該当しない。そして、実施例1~4に対して、粒子間距離r=5~15の範囲の動径分布関数g(r)の値に対して、一次関数の近似式[g(r)=ar+b]をフィッティングし、傾きaと、切片bを算出した。フィッティングには、最小二乗法を用いている。傾きaが負の値であり且つ小さな値であるため、絶対値に変換し且つ100倍にした結果(実施例1~4の架橋の不均一度を示す)を
図14にグラフとして示す。
図14は、縦軸の値は不均一度を表しており、縦軸の値が0に近いほど架橋が均一になり、縦軸の値が大きいほど、不均一となる。実施例1~4は、比較例1~4に比べて架橋構造が不均一なモデルであるが、その中でも実施例1が最も不均一であり、実施例3、実施例2、実施例4の順番で不均一度が下がる(すなわち、均一になっている)ことが数値で分かり、不均一度を数値化することが可能となる。
【0039】
傾きを算出する粒子間距離の範囲について、最小値は動径分布関数g(r)の値がピーク値Pvとなるところである。最大値は、仮想空間Ar1の一辺の長さの半分としてもよく(本実施形態では、周期境界条件が設定されており、立法体の仮想空間Ar1の一辺が40なので、その半分の20)、さらに好ましくは、動径分布関数g(r)の値がピーク値以降に1になるところが挙げられる。すなわち、傾きを算出する粒子間距離の範囲は、動径分布関数g(r)の値がピーク値Pv以上であり且つ動径分布関数g(r)の値が1よりも大きい範囲が好ましい。本実施形態においては、実施例1,3,4において粒子間距離r=15で動径分布関数g(r)の値が1以上であり、実施例1~4において粒子間距離r=5が動径分布関数g(r)のピーク値Pvよりも大きいために、実施例1~4で共通する範囲としてr=5~15を対象とした。これは一例であり、比較する複数のモデルにおいて動径分布関数g(r)の傾きを評価する範囲が共通していればよいと考える。
【0040】
[1]
以上のように、本実施形態の架橋高分子モデル2の生成方法は、1又は複数のプロセッサが実行する方法であって、ポリマーモデル3を構成する直鎖状又は分岐状に連なる複数の粗視化粒子30のうち一部の架橋可能粒子に対して架橋確率を設定することと、複数の架橋剤粒子4を凝集させた架橋剤粒子塊40を生成することと、複数のポリマーモデル3と、1つ以上の架橋剤粒子塊40とを仮想空間Ar1に配置し、架橋剤粒子塊40の凝集を維持した状態で分子動力学計算を実行して平衡化処理を実行することと、平衡化処理の後で架橋剤粒子塊40を構成する各々の架橋剤粒子4の凝集を解除することと、各々の架橋剤粒子4の凝集を解除した状態で分子動力学計算を実行し、ポリマーモデル3の架橋可能粒子が架橋剤粒子4に所定距離以内に近づいた場合に架橋可能粒子に設定された架橋確率で架橋可能粒子と架橋剤粒子4とを結合させる架橋反応処理を実行することと、を含む、としてもよい。
【0041】
このように、ポリマーモデル3と架橋剤粒子塊40が混ざり合った平衡状態において、架橋剤粒子4は凝集した塊状態である。その後、架橋剤粒子4の凝集を解除した状態で架橋反応処理を実行するので、実験において架橋剤の凝集部分が残りつつ、加硫時に分散することを模擬した不均一な架橋構造を得ることができると考えられる。
【0042】
[2]
上記[1]に記載の架橋高分子モデルの生成方法において、全ての架橋可能粒子に対して同一の架橋確率を設定する、としてもよい。
架橋可能粒子にそれぞれ異なる架橋確率を設定しなくても、不均一な架橋構造を得ることが可能となる。また、架橋高分子モデルを生成するための設定も容易となるうえ、恣意的な設定を排除可能となる。
【0043】
[3]
上記[1]又は[2]に記載の架橋高分子モデルの生成方法において、ポリマーモデル3は、架橋剤粒子4と結合可能な第1種モノマー粗視化粒子Bと、架橋剤粒子4と結合不可能な第2種モノマー粗視化粒子Sと、を含む、としてもよい。
ポリマーモデル3を、架橋可能な第1種モノマーと、架橋不可能な第2種モノマーで表現可能である。
【0044】
[4]
上記[3]に記載の架橋高分子モデルの生成方法において、ポリマーモデル3は、架橋剤粒子4と結合不可能な第3種モノマー粗視化粒子Eを更に含み、第1種モノマー粗視化粒子Bはブタジエンを表し、第2種モノマー粗視化粒子Sはスチレンを表し、第3種モノマー粗視化粒子Eはエチレンを表し、ポリマーモデル3は、水素添加SBRを表すモデルである、としてもよい。
【0045】
[5]
架橋高分子モデルにおける架橋の不均一度の算出方法は、上記[1]~[4]のいずれかに記載の架橋高分子モデルの生成方法を実行して、架橋可能粒子の全てが架橋剤粒子4のいずれかに結合した後の架橋高分子モデル2を生成することと、生成した架橋高分子モデル2について、架橋剤粒子4に対する動径分布関数g(r)の値を算出することと、動径分布関数g(r)の値に現れるピーク値Pvから、粒子間距離rが増加するについて動径分布関数g(r)の値が減少するか否かを判定することと、ピーク値Pvから粒子間距離rが増加するにつれて動径分布関数g(r)の値が減少すると判定した場合に、ピーク値Pvから減少する動径分布関数g(r)の値の傾きに基づく値[|傾き|×100]を、架橋高分子モデル2における架橋の不均一度として算出することと、を含む、としてもよい。
【0046】
従来では、仮想空間Ar1に配置されているモデルを構成する架橋剤粒子の配置位置を目視して、架橋が均一であるか、不均一であるかを目視で判定することが考えられる。しかし、この手法によれば、架橋高分子モデルの架橋の不均一度を数値として取得可能となり、有用である。
【0047】
[6]
架橋高分子モデルを生成するシステムは、ポリマーモデル3を構成する直鎖状又は分岐状に連なる複数の粗視化粒子30のうち一部の架橋可能粒子に対して架橋確率を設定する設定部10と、複数の架橋剤粒子4を凝集させた架橋剤粒子塊40を生成する塊生成部11と、複数のポリマーモデル3と、1つ以上の架橋剤粒子塊40とを仮想空間Ar1に配置し、架橋剤粒子塊40の凝集を維持した状態で平衡化処理を実行する平衡化処理実行部13と、平衡化処理の後で架橋剤粒子塊40を構成する各々の架橋剤粒子4の凝集を解除する凝集解除部14と、各々の架橋剤粒子4の凝集を解除した状態で分子動力学計算を実行し、ポリマーモデル3の架橋可能粒子が架橋剤粒子4に所定距離以内に近づいた場合に架橋可能粒子に設定された架橋確率で架橋可能粒子と架橋剤粒子4とを結合させる架橋反応処理を実行する架橋反応処理部15と、を備える、としてもよい。
【0048】
[7]
プログラムは、ポリマーモデル3を構成する直鎖状又は分岐状に連なる複数の粗視化粒子30のうち一部の架橋可能粒子に対して架橋確率を設定することと、複数の架橋剤粒子4を凝集させた架橋剤粒子塊40を生成することと、複数のポリマーモデル3と、1つ以上の架橋剤粒子塊40とを仮想空間Ar1に配置し、架橋剤粒子塊40の凝集を維持した状態で分子動力学計算を実行して平衡化処理を実行することと、平衡化処理の後で架橋剤粒子塊40を構成する各々の架橋剤粒子4の凝集を解除することと、各々の架橋剤粒子4の凝集を解除した状態で分子動力学計算を実行し、ポリマーモデル3の架橋可能粒子が架橋剤粒子4に所定距離以内に近づいた場合に架橋可能粒子に設定された架橋確率で架橋可能粒子と架橋剤粒子4とを結合させる架橋反応処理を実行することと、を1又は複数のプロセッサに実行させる、としてもよい。
【0049】
以上、本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0050】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0051】
(A)前記実施形態において架橋高分子モデルと一例として、SBRと水素添加SBRを挙げたが、これに限定されない。また、架橋高分子のポリマーモデル3に複数種類(3種類)のモノマー粗視化粒子を設定したが、これに限定されず、ポリマーモデル3が一種のモノマー粗視化粒子で構成されていてもよい。
【0052】
(B)前記実施形態において、架橋可能粒子に設定した第1種モノマー粗視化粒子Bに対して全て同一の架橋確率(20%)を設定しているが、設定する架橋確率が粒子に応じて異なっていてもよい。また、設定する架橋確率は0%でなければ、適宜変更可能であり、例えば、100%に設定してもよい。
【0053】
(C)ポリマーモデル3を構成する複数の粗視化粒子30のうち、架橋可能粒子に設定する割合は、シミュレーションで実現したい物に応じて適宜変更可能である。よって、ポリマーモデル3の全ての粗視化粒子30を架橋可能粒子にしてもよいし、一部の粗視化粒子30を架橋可能粒子にしてもよい。
【0054】
(D)前記実施形態において、ポリマーモデル3と架橋剤粒子塊40を仮想空間Ar1に配置する際に、まず、ポリマーモデル3をすべて配置した後に架橋剤粒子塊40を配置しているが、順序は適宜変更可能である。
【0055】
(E)前記実施形態において、架橋高分子モデルにおける架橋の不均一度の算出方法は、上記架橋高分子モデルの生成方法により生成された架橋高分子モデルに適用しているが、これに限定されない。例えば、別の手法で生成された架橋高分子モデルに対して実行することが可能である。また、架橋高分子モデルを生成するだけであれば、
図1に示す動径分布関数算出部16、判定部17及び不均一度算出部18は省略可能である。
【0056】
(F)前記実施形態において、64個の架橋剤粒子4を立方体状に凝集させて架橋剤粒子塊40としているが、これに限定されない。1つの架橋剤粒子塊40を構成する架橋剤粒子4の個数は任意に変更可能である。また、複数の架橋剤粒子4を凝集させる形状は、立方体状に限定されず、任意の形状に変更可能である。さらに、架橋剤粒子塊40は、複数の架橋剤粒子4を結合ポテンシャルで凝集させているが、結合ポテンシャルの設定に限定されない。例えば、纏まった状態の複数の架橋剤粒子4を剛体として設定しておき、凝集を解除する際に剛体の設定を解くことが挙げられる。
【0057】
例えば、特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現できる。特許請求の範囲、明細書、および図面中のフローに関して、便宜上「まず」、「次に」等を用いて説明したとしても、この順で実行することが必須であることを意味するものではない。
【0058】
図1に示す各部は、所定プログラムを1又は複数のプロセッサで実行することで実現しているが、各部を専用メモリや専用回路で構成してもよい。上記実施形態のシステム1は、一つのコンピュータのプロセッサ1aにおいて各部が実装されているが、各部を分散させて、複数のコンピュータやクラウドで実装してもよい。すなわち、上記方法を1又は複数のプロセッサで実行してもよい。
【0059】
システム1は、プロセッサ1aを含む。例えば、プロセッサ1aは、中央処理ユニット(CPU)、マイクロプロセッサ、またはコンピュータ実行可能命令の実行が可能なその他の処理ユニットとすることができる。また、システム1は、システム1のデータを格納するためのメモリ1bを含む。一例では、メモリ1bは、コンピュータ記憶媒体を含み、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリまたはその他のメモリ技術、CD-ROM、DVDまたはその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージまたはその他の磁気記憶デバイス、あるいは所望のデータを格納するために用いることができ、そしてシステム1がアクセスすることができる任意の他の媒体を含む。
【符号の説明】
【0060】
10…設定部、11…塊生成部、13…平衡化処理実行部、14…凝集解除部、15…架橋反応処理部、2…架橋高分子モデル、3…ポリマーモデル、30…粗視化粒子、4…架橋剤粒子、40…架橋剤粒子塊、Ar1…仮想空間、B…第1種モノマー粗視化粒子、S…第2種モノマー粗視化粒子、E…第3種モノマー粗視化粒子。