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  • 特開-グリース組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158326
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/06 20060101AFI20231023BHJP
   C10M 117/00 20060101ALI20231023BHJP
   C10M 139/00 20060101ALI20231023BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20231023BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20231023BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20231023BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20231023BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20231023BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20231023BHJP
【FI】
C10M169/06
C10M117/00
C10M139/00 Z
C10N50:10
C10N10:04
C10N10:12
C10N30:06
C10N40:04
C10N40:02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068097
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000102670
【氏名又は名称】NOKクリューバー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼澤 伸明
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BA08A
4H104BB08A
4H104BB14B
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104CA04A
4H104FA02
4H104FA06
4H104LA03
4H104PA01
4H104PA02
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】耐荷重性および耐摩耗性に優れたグリース組成物の提供。
【解決手段】基油と、バリウム複合石けんである増ちょう剤と、有機モリブデン化合物と、を含み、前記有機モリブデン化合物の含有量が、モリブデン換算で0.25~10質量%である、グリース組成物。前記グリース組成物においては、前記有機モリブデン化合物の含有量が、モリブデン換算で0.6~5質量%であってもよく、前記バリウム複合石けんの含有量が、15~45質量%であってもよく、前記バリウム複合石けんの含有量が、25~40質量%であってもよく、前記基油の動粘度が、40℃で15~100mm/sであってもよく、ASTM D2596に従って測定した融着荷重が3900N以上であり、かつ、ASTM D2266に従って測定した摩耗痕径が0.45mm以下であってもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、バリウム複合石けんである増ちょう剤と、有機モリブデン化合物と、を含み、前記有機モリブデン化合物の含有量が、モリブデン換算で0.25~10質量%である、グリース組成物。
【請求項2】
前記有機モリブデン化合物の含有量が、モリブデン換算で0.6~5質量%である、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記バリウム複合石けんの含有量が、15~45質量%である、請求項1または2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記基油の動粘度が、40℃で15~100mm/sである、請求項1または2に記載のグリース組成物。
【請求項5】
ASTM D2596に従って測定した融着荷重が3900N以上であり、かつ、ASTM D2266に従って測定した摩耗痕径が0.45mm以下である、請求項1または2に記載のグリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
グリース組成物は、産業機械、輸送機械および一般機械等の様々な分野において、潤滑剤として用いられている。特に、減速機ギヤ、ボールねじおよび軸受等の荷重の大きい適用箇所においては、耐荷重性に優れるグリース組成物が求められる。
【0003】
特許文献1には、基油、増ちょう剤、清浄分散剤、硫黄-リン系極圧剤、有機モリブデン化合物およびリグニン化合物を含有する等速ジョイント用グリース組成物が、耐荷重性および摩擦係数低減効果に優れることが開示されている。一方で、荷重の大きい潤滑箇所に用いられるグリース組成物は、高い耐荷重性のみならず、高い耐摩耗性をも有することが望ましい。しかしながら、一般に、耐荷重性および耐摩耗性の両立は困難であり、このいずれにも十分に優れるグリース組成物が依然として求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-189765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐荷重性および耐摩耗性に優れたグリース組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨構成は以下の通りである。
[1]基油と、バリウム複合石けんである増ちょう剤と、有機モリブデン化合物と、を含み、前記有機モリブデン化合物の含有量が、モリブデン換算で0.25~10質量%である、グリース組成物。
[2]前記有機モリブデン化合物の含有量が、モリブデン換算で0.6~5質量%である、[1]のグリース組成物。
[3]前記バリウム複合石けんの含有量が、15~45質量%である、[1]または[2]のグリース組成物。
[4]前記基油の動粘度が、40℃で15~100mm/sである、[1]~[3]のいずれかのグリース組成物。
[5]ASTM D2596に従って測定した融着荷重が3900N以上であり、かつ、ASTM D2266に従って測定した摩耗痕径が0.45mm以下である、[1]~[4]のいずれかのグリース組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐荷重性および耐摩耗性に優れたグリース組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例および比較例において、有機モリブデン化合物のモリブデン換算含有量とグリース組成物の融着荷重との関係を示す片対数プロットである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のグリース組成物は、基油と、バリウム複合石けんである増ちょう剤と、有機モリブデン化合物と、を含む。前記有機モリブデン化合物の含有量は、モリブデン換算で0.25~10質量%である。以下、本発明のグリース組成物について成分ごとに詳細に説明する。
【0010】
[基油]
本発明のグリース組成物に含まれる基油の種類は特に限定されないが、例えば合成油および鉱油等が挙げられる。合成油および鉱油は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0011】
前記合成油としては、例えばポリα-オレフィン、エチレン-α-オレフィン共重合体、ポリブテン(ポリイソブチレン)、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の炭化水素油;ジエステル(ジカルボン酸とモノアルコールとのエステル)、ポリオールエステル、芳香族エステル等のエステル油;アルキルジフェニルエーテル等のエーテル油等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの合成油は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0012】
中でも炭化水素油が好ましく、ポリα-オレフィンがより好ましい。ここで、ポリα-オレフィンとは、少なくとも1種のα-オレフィンを多量体化(典型的には3~8量体化)させたものを指す。また、α-オレフィンとは、3つ以上の炭素原子を有し、α位に炭素-炭素二重結合を有する直鎖アルケンを指す。α-オレフィンとしては、例えば炭素数3~30、好ましくは炭素数4~20、より好ましくは炭素数6~16のものが用いられるが、これらに限定されない。α-オレフィンの例としては、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
本発明のグリース組成物に含まれる基油の動粘度は特に限定されないが、40℃で5~200mm/sであることが好ましく、40℃で15~100mm/sであることが好ましく、40℃で20~50mm/sであることがより好ましい。基油の動粘度が適切な範囲内であることにより、耐荷重性および耐摩耗性をより高度に両立することができる。
【0014】
[増ちょう剤]
本発明のグリース組成物は、バリウム複合石けんである増ちょう剤を含む。本発明のグリース組成物は、特定量の有機モリブデン化合物と共に増ちょう剤としてバリウム複合石けんを含むことにより、耐荷重性および耐摩耗性を両立することができる。当該効果は、有機モリブデン化合物と共に用いる増ちょう剤として他の増ちょう剤を選択した場合よりも顕著である。
【0015】
バリウム複合石けんとしては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等の脂肪酸;分子中に1個以上のヒドロキシ基を有する炭素数12~24のヒドロキシ脂肪酸;芳香族カルボン酸;炭素数2~20の脂肪族ジカルボン酸;およびそれらのエステルまたはアミド(特に、カルボン酸モノアミド)からなる群より選択される少なくとも2種の化合物を、水酸化バリウムと反応させることにより得られるものが挙げられるが、これらに限定されない。なお、当該反応は基油中で行ってもよい。その際、前記少なくとも2種の化合物を同時に水酸化バリウムと反応させてもよく、1種ずつ水酸化バリウムと反応させてもよい。また、複数のバリウム石けんを別々に基油に投入し、基油中でバリウム複合石けんとしてもよい。
【0016】
上記炭素数12~24のヒドロキシ脂肪酸としては、例えば12-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシラウリン酸、16-ヒドロキシパルミチン酸等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、12-ヒドロキシステアリン酸が好ましい。上記芳香族カルボン酸としては、例えば安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、サリチル酸、p-ヒドロキシ安息香酸等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
上記炭素数2~20の脂肪族ジカルボン酸としては、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、トリデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ペンタデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ヘプタデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、トリデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ペンタデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ヘプタデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸が好ましく、アゼライン酸、セバシン酸がより好ましい。
【0018】
上記カルボン酸モノアミドとしては、例えば上記脂肪族ジカルボン酸の一のカルボキシ基がアミド化されたものが挙げられるが、これらに限定されない。中でも、アゼライン酸またはセバシン酸の一のカルボキシ基がアミド化されたものが好ましい。アミド化に用いるアミンとしては、例えばブチルアミン、アミルアミン、へキシルアミン、へプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン等の脂肪族第1級アミン;ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミン、ジラウリルアミン、モノメチルラウリルアミン、ジステアリルアミン、モノメチルステアリルアミン、ジミリスチルアミン、ジパルミチルアミン等の脂肪族第2級アミン;アリルアミン、ジアリルアミン、オレイルアミン、ジオレイルアミン等の脂肪族不飽和アミン;シクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン等の脂環式アミン;アニリン、メチルアニリン、エチルアニリン、ベンジルアミン、ジベンジルアミン、ジフェニルアミン、α-ナフチルアミン等の芳香族アミン等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、ヘキシルアミン、へプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミン、モノメチルラウリルアミン、モノメチルステアリルアミン、オレイルアミンが好ましい。
【0019】
本発明のグリース組成物におけるバリウム複合石けんの含有量は特に限定されないが、3~50質量%であることが好ましく、15~45質量%であることがより好ましく、20~43質量%であることがさらに好ましく、25~40質量%であることが特に好ましく、30~35質量%であることが最も好ましい。バリウム複合石けんの含有量が適切な範囲内であることにより、耐荷重性および耐摩耗性をより高度に両立することができる。
【0020】
本発明のグリース組成物は、本発明の効果が奏される限り、バリウム複合石けんを除く他の増ちょう剤をさらに含んでいてもよい。他の増ちょう剤としては、例えばリチウム石けん、リチウム複合石けん、カルシウム石けん、カルシウム複合石けん、アルミニウム石けん、アルミニウム複合石けん等の石けん系増ちょう剤;ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物等のウレア系増ちょう剤;ベントナイト;シリカゲル;フッ素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
[有機モリブデン化合物]
本発明のグリース組成物は、有機モリブデン化合物を含む。有機モリブデン化合物としては、例えばモリブデンジチオカルバメート(MoDTC)、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)等が挙げられるが、これらに限定されない。有機モリブデン化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
本発明のグリース組成物における有機モリブデン化合物の含有量は、モリブデン換算で0.25~10質量%である。本発明のグリース組成物は、増ちょう剤としてバリウム複合石けんを用いつつ、有機モリブデン化合物を上記含有量で含むことにより、耐荷重性および耐摩耗性を両立することができる。
【0023】
なお、有機モリブデン化合物のモリブデン換算の含有量は、使用する有機モリブデン化合物の含有量に、当該有機モリブデン化合物中においてモリブデンが占める質量割合を乗ずることで算出可能である。例えば、グリース組成物が有機モリブデン化合物を5質量%含有し、当該有機モリブデン化合物中においてモリブデンが占める質量割合が10質量%である場合、グリース組成物における有機モリブデン化合物の含有量は、モリブデン換算で5×(10/100)=0.5質量%である。
【0024】
本発明のグリース組成物における有機モリブデン化合物の含有量は、モリブデン換算で0.6~5質量%であることが好ましく、0.7~4質量%であることがより好ましく、0.8~3.5質量%であることがさらに好ましく、1~3質量%であることが特に好ましく、1.5~2.5質量%であることが最も好ましい。有機モリブデン化合物の含有量が適切な範囲内であることにより、耐荷重性および耐摩耗性をより高度に両立することができる。また、有機モリブデン化合物の含有量が適切な範囲内であることにより、モリブデンによる金属の腐食を防止することができる。
【0025】
本発明のグリース組成物において、有機モリブデン化合物の含有量(モリブデン換算)は、バリウム複合石けん100質量部に対して0.75~30質量部であることが好ましく、1.5~15質量部であることがより好ましく、2~12質量部であることがさらに好ましく、2.5~10質量部であることがさらに好ましく、3~8質量部であることが特に好ましく、5~7質量部であることが最も好ましい。
【0026】
[その他の成分]
本発明のグリース組成物は、本発明の効果が奏される限り、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば有機モリブデン化合物を除く極圧剤、酸化防止剤、防錆剤、油性剤、粘度指数向上剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
有機モリブデン化合物を除く極圧剤としては、例えばリン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン等のリン系化合物;スルフィド、ジスルフィド等の硫黄系化合物;金属ジチオホスフェート、金属ジチオカルバメート等の有機金属化合物(ただし、有機モリブデン化合物を除く)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
酸化防止剤としては、例えばアミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
アミン系酸化防止剤としては、例えばアルキル化ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、フェノチアジン、アルキル化α-ナフチルアミン、アルキル化フェノチアジン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルメチル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
リン系酸化防止剤としては、アルキルホスファイト類、アルキルアリールホスファイト類およびアリールホスファイト類が挙げられる。アリールホスファイト類としては、例えばトリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリス(エチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
防錆剤としては、例えば芳香族スルホン酸または飽和脂肪族ジカルボン酸のカルシウム塩またはナトリウム塩、脂肪酸、脂肪酸アミン、アルキルスルホン酸金属塩、アルキルスルホン酸アミン塩、酸化パラフィン、ポリオキシアルキルエーテル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
油性剤としては、例えば脂肪酸またはそのエステル、高級アルコール、多価アルコールまたはそのエステル、脂肪族エステル、脂肪族アミン、脂肪酸モノグリセライド、モンタンワックス、アミド系ワックス等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
粘度指数向上剤としては、例えばポリメタクリレート、エチレン-プロピレン共重合体、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、水添スチレン-イソプレン共重合体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
本発明のグリース組成物は、以上の各成分を公知の方法により混合する方法等により製造することができる。その際、各成分の混合順は特に限定されない。
【0035】
本発明のグリース組成物は、ASTM D2596に従って測定した融着荷重が3900N以上であり、かつ、ASTM D2266に従って測定した摩耗痕径が0.45mm以下であることが好ましい。融着荷重および摩耗痕径は、四球試験により評価されるものである。なお、融着荷重および摩耗痕径は、実施例に記載の条件に従って測定することができる。
【0036】
本発明のグリース組成物は、ASTM D2596に従って測定した融着荷重が4000N以上であることがより好ましく、5000N以上であることがさらに好ましく、6000N以上であることが特に好ましく、7000N以上であることが最も好ましい。また、本発明のグリース組成物は、ASTM D2266に従って測定した摩耗痕径が0.42mm以下であることがより好ましく、0.40mm以下であることがさらに好ましく、0.38mm以下であることが特に好ましく、0.36mm以下であることが最も好ましい。
【0037】
本発明のグリース組成物は、減速機ギヤ、ボールねじおよび軸受等の荷重の大きい適用箇所の潤滑用途に好適であるが、必要に応じてその他の用途、例えば複写機、プリンター等の事務機器用部品;減速機・増速機、ギヤ、チェーン、モータ等の動力伝達装置、走行系部品、ABS等の制動系部品、操舵系部品、変速機等の駆動系部品、ステアリング装置、パワーウィンドウモーター、パワーシートモーター、サンルーフモーター等の自動車部品;電子情報機器、携帯電話等のヒンジ部品;食品・薬品工業、鉄鋼、建設、ガラス工業、セメント工業、フィルムテンター等の化学・ゴム・樹脂工業、環境・動力設備、製紙・印刷工業、木材工業、繊維・アパレル工業における各種部品;その他相対運動する機械部品等に広く適用することができる。
【実施例0038】
以下、本発明を実施例等によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等により何ら限定されない。
【0039】
[グリース組成物の調製]
(1)基油
(1a)ポリα-オレフィン1(PAO1):Synfluid PAO 6cSt(Chevron Phillips Chemical社製)、40℃動粘度30mm/s
(1b)ポリα-オレフィン2(PAO2):2種の市販ポリα-オレフィン基油の混合物、40℃動粘度100mm/s
【0040】
(2)増ちょう剤
(2a)バリウム複合石けん(Ba-comp):セバシン酸27.5質量%、カルボン酸モノステアリルアミド41.5質量%、および水酸化バリウム31質量%を基油中で反応させて得られたもの
(2b)リチウム石けん(Li石けん):12-ヒドロキシステアリン酸88質量%、および水酸化リチウム12質量%を基油中で反応させて得られたもの
(2c)リチウム複合石けん(Li-comp):12-ヒドロキシステアリン酸63.5質量%、アゼライン酸19質量%、および水酸化リチウム17.5質量%を基油中で反応させて得られたもの
(2d)ジウレア化合物:ジフェニルメタンジイソシアネート50質量%、およびオクチルアミン50質量%を基油中で反応させて得られたもの
【0041】
(3)添加剤(有機モリブデン化合物を含む添加剤)
(3a)モリブデンジチオカルバメート1(MoDTC1):アデカサクラルーブ(登録商標)600(株式会社ADEKA製)、モリブデン含有量約28質量%
(3b)モリブデンジチオカルバメート2(MoDTC2):アデカサクラルーブ(登録商標)525(株式会社ADEKA製)、モリブデン含有量約10質量%
(3c)モリブデンジチオカルバメート3(MoDTC3):アデカサクラルーブ(登録商標)165(株式会社ADEKA製)、モリブデン含有量約4.5質量%
(3d)モリブデンジチオホスフェート(MoDTP):アデカサクラルーブ(登録商標)300(株式会社ADEKA製)、モリブデン含有量約9質量%
【0042】
表1~表3の配合率となるよう、上記の基油および増ちょう剤の混合物に対して添加剤を加え、混合して均一なグリース組成物を得た(実施例1~10、比較例1~16)。なお、各表における配合量の数値は質量%である。なお、各表における「(Mo量)」は、有機モリブデン化合物の含有量をモリブデン換算で表した量を表す。
【0043】
[グリース組成物の評価]
得られたグリース組成物について、下記の融着荷重試験および摩耗痕径試験を行った。結果を表1~表3に示す。
【0044】
・融着荷重試験
ASTM D2596に従い、下記の条件で四球試験により測定した。
回転数:1770rpm
時間:10秒
温度:室温
【0045】
・摩耗痕径試験
ASTM D2266に従い、下記の条件で四球試験により測定した。
回転数:1200rpm
時間:60分
温度:75℃
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
実施例1~10の結果から、基油と、バリウム複合石けんである増ちょう剤と、有機モリブデン化合物と、を含み、前記有機モリブデン化合物の含有量が、モリブデン換算で0.25~10質量%であるグリース組成物は、耐荷重性および耐摩耗性に優れることがわかる。
【0050】
実施例2~6の結果から、上記に加え、有機モリブデン化合物の含有量が、モリブデン換算で0.6~5質量%であることにより、グリース組成物は、耐荷重性および耐摩耗性をより高度に両立できることがわかる。
【0051】
実施例4および6の結果から、上記に加え、基油の動粘度が、40℃で15~50mm/sであることにより、グリース組成物は、耐荷重性および耐摩耗性をより高度に両立できることがわかる。
【0052】
比較例1~5、12~16の結果から、有機モリブデン化合物の含有量が、モリブデン換算で0.25質量%を下回ると、耐荷重性および耐摩耗性を十分に両立することができないことがわかる。
【0053】
比較例6および7の結果を比較すると、増ちょう剤としてリチウム石けんを用いた場合、有機モリブデン化合物の含有量が、モリブデン換算で0.25~10質量%であると、耐荷重性は向上するものの、耐摩耗性は向上せず、むしろ低下することがわかる。
【0054】
比較例8および9の結果を比較すると、増ちょう剤としてリチウム複合石けんを用いた場合、有機モリブデン化合物の含有量が、モリブデン換算で0.25~10質量%であると、耐荷重性は向上するものの、耐摩耗性は向上せず、むしろ低下することがわかる。
【0055】
比較例10および11の結果を比較すると、増ちょう剤としてジウレア化合物を用いた場合、有機モリブデン化合物の含有量が、モリブデン換算で0.25~10質量%であると、耐摩耗性は向上するものの、耐荷重性の向上効果は限定的であることがわかる。
【0056】
すなわち、実施例1~10および比較例6~11の結果からは、増ちょう剤としてバリウム複合石けんを用いた上で、有機モリブデン化合物の含有量が、モリブデン換算で0.25~10質量%である場合に限り、グリース組成物は、耐荷重性および耐摩耗性を両立できることがわかる。
【0057】
図1は、実施例および比較例において、有機モリブデン化合物のモリブデン換算含有量とグリース組成物の融着荷重との関係を示す片対数プロットである。図1からわかるように、増ちょう剤としてバリウム複合石けんを用いた上で、有機モリブデン化合物の含有量を、モリブデン換算で0.25質量%以上とすると、融着荷重が著しく向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のグリース組成物は、特に減速機ギヤ、ボールねじおよび軸受等の荷重の大きい適用箇所の潤滑用途に好適に利用可能である。
図1