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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158344
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】FRP製部材の締結構造
(51)【国際特許分類】
   F16B 5/02 20060101AFI20231023BHJP
   F16B 35/00 20060101ALI20231023BHJP
   F16B 37/00 20060101ALI20231023BHJP
   F16B 43/00 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
F16B5/02 U
F16B35/00 K
F16B37/00 D
F16B43/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068127
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】西田 健二
(72)【発明者】
【氏名】山本 研一
(72)【発明者】
【氏名】河村 力
【テーマコード(参考)】
3J001
3J034
【Fターム(参考)】
3J001FA01
3J001GA01
3J001GA06
3J001HA07
3J001KA19
3J001KB01
3J034DA03
(57)【要約】
【課題】コストの上昇を抑えながら、FRP製部材と締結部材とが通し孔の径方向にズレを生じた場合にもFRP製部材の座屈を抑制することができるFRP製部材の締結構造を提供する。
【解決手段】アウター部材721、インナー部材722、および内側固定部材762は、互いに重ね合わされて締結部材78で締結されている。アウター部材721はFRP製であって、重ね合わせの方向に対して交差する方向に繊維が配向されている。締結部材78のボルト781は、頭部781aと軸部781cとの間に台錐状の錐状中間部781bを有する。アウター部材721とボルト781とが通し孔721aの径方向に相対的にズレを生じた場合、錐状中間部781bは、アウター部材721における通し孔721aの縁部の内の当接部分を重ね合わせ方向に圧縮する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FRPからなるFRP製部材と、
前記FRP製部材に重ね合わされた他部材と、
前記FRP製部材と前記他部材とを締結する締結部材と、
を備え、
前記FRP製部材は、前記重ね合わせの方向である第1方向に貫通された通し孔を有するとともに、前記第1方向に対して交差する方向に配向された繊維を含み、
前記他部材は、前記FRP製部材の前記通し孔と連続する孔部を有し、
前記締結部材は、前記通し孔および前記孔部を挿通して前記FRP製部材と前記他部材とを締結するとともに、前記FRP製部材に対して相対的にズレを生じた際に、前記締結部材の一部が前記FRP製部材における前記通し孔の周囲の縁部に当接して前記FRP製部材の当接部分を前記第1方向に圧縮することが可能な圧縮部を有する、
FRP製部材の締結構造。
【請求項2】
請求項1に記載のFRP製部材の締結構造において、
前記締結部材は、前記通し孔よりも大径の頭部と、前記頭部の一方側に延びる軸部と、前記頭部と前記軸部と間でその双方と連続し、前記頭部の側から前記軸部の側へと行くのに従って横断面径が漸減するように形成された錐状中間部と、を有し、
前記締結部材は、前記頭部が前記FRP製部材における前記他部材とは反対側の外方に配され、前記錐状中間部が前記通し孔の内部に位置するように配され、
前記圧縮部は、前記錐状中間部である、
FRP製部材の締結構造。
【請求項3】
請求項1に記載のFRP製部材の締結構造において、
前記締結部材は、ボルトとナットとを含み、
前記ナットは、前記通し孔よりも大径の本体部と、前記本体部から一方側に突出するように連続形成されるとともに、前記本体部から離れるのに従って横断面径が漸減するように形成された錐状突起部と、を有し、
前記ナットは、前記本体部が前記FRP製部材における前記他部材とは反対側の外方に配され、前記錐状突起部が前記通し孔の内部に位置するように配され、
前記圧縮部は、前記ナットの前記錐状突起部である、
FRP製部材の締結構造。
【請求項4】
請求項1に記載のFRP製部材の締結構造において、
前記締結部材は、ボルトとナットとワッシャとを含み、
前記ワッシャは、前記ボルトの軸部が挿通する孔部の縁から径方向外側に離れて囲む領域において、前記重ね合わせの方向に平坦な平坦部と、前記平坦部と前記孔部の縁との間の領域において、前記径方向の外側から前記縁へと近づいて行くのに従って横断面径が漸減するように形成されるとともに、前記通し孔の内部に位置するように配される錐状突起部と、を有し、
前記圧縮部は、前記ワッシャの前記錐状突起部である、
FRP製部材の締結構造。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れかに記載のFRP製部材の締結構造において、
前記他部材は、前記孔部の縁から径方向外側に離れて囲む領域において、前記重ね合わせの方向に平坦であって前記FRP製部材の主面に当接する平坦部と、前記平坦部と前記孔部の縁との間の領域において、前記孔部の径方向の外側から前記縁へと近づいて行くのに従って横断面径が漸減するように形成されるとともに、前記通し孔の内部に位置するように配される第2錐状突起部と、を有し、
前記第2錐状突起部は、前記締結部材の前記圧縮部とは別であって、前記FRP製部材と前記他部材とが相対的に前記径方向にズレを生じた際に、当該第2錐状突起部の一部が前記FRP製部材における前記縁部に当接して前記FRP製部材の当接部分を前記第1方向に圧縮することが可能な第2圧縮部である、
FRP製部材の締結構造。
【請求項6】
FRPからなるFRP製部材と、
前記FRP製部材に重ね合わされるとともに、前記FRP製部材よりも高い剛性を有する他部材と、
前記FRP製部材と前記他部材とを締結する締結部材と、
を備え、
前記FRP製部材は、前記重ね合わせの方向である第1方向に貫通された通し孔を有するとともに、前記第1方向に対して交差する方向に配向された繊維を含み、
前記他部材は、前記FRP製部材の前記通し孔と連続する孔部を有し、
前記他部材は、前記FRP製部材に対して相対的にズレを生じた際に、前記他部材の一部が前記FRP製部材における前記通し孔の周囲の縁部に当接して前記FRP製部材の当接部分を前記第1方向に圧縮することが可能な圧縮部を有する、
FRP製部材の締結構造。
【請求項7】
請求項6に記載のFRP製部材の締結構造において、
前記締結部材は、ボルトを含み、
前記他部材は、前記ボルトの軸部が挿通する前記孔部の縁から径方向外側に離れて囲む領域において、前記第1方向に平坦であって前記FRP製部材の主面に当接する平坦部と、前記平坦部と前記孔部の縁との間の領域において、前記孔部の径方向の外側から前記縁へと近づいて行くのに従って横断面径が漸減するように形成されるとともに、前記通し孔の内部に位置するように配される錐状突起部と、を有し、
前記圧縮部は、前記錐状突起部である、
FRP製部材の締結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FRP(繊維強化樹脂)製部材の締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や航空機、さらには産業機械の構造部材として、FRP製部材が用いられる場合がある。FRP製部材は、ボルト・ナットやリベットなどの締結部材を用いて他の部材に結合される場合がある。従来技術に係るFRP製部材の締結構造について、図14を用いて説明する。
【0003】
図14(a)に示す例では、板状のFRP製部材90と、板状の金属製部材91とが互いの厚み方向に重ね合わされ、締結部材92で締結されている。FRP製部材90は、金属製部材91との重ね合わせ方向に対して交差する方向に繊維が配向された部材であって、厚み方向を貫通するように通し孔90aが開けられている。金属製部材91には、FRP製部材90と重ね合わせた際に上記通し孔90aと連続する通し孔91aが開けられている。
【0004】
締結部材92は、ボルト921とナット922とから構成されている。ボルト921の軸部921cは、通し孔90a,91aを挿通して、金属製部材91の外側でナット922と螺結されている。
【0005】
図14(a)に示すように、FRP製部材90における通し孔90aの孔径は、ボルト921の軸部921cの外径よりも大きく設定されている。このため、FRP製部材90や締結部材92に対して矢印E1で示すような力が入力された場合には、図14(b)に示すように、FRP製部材90の通し孔90aに対して締結部材92が径方向にズレを生じることがある。この場合には、図14(b)に示すように、ボルト921の軸部921cがFRP製部材90における通し孔90aの周囲の縁部90bに衝突することとなる場合もある(E2)。このようにFRP製部材90と締結部材92とが相対的にズレを生じることでFRP製部材90における通し孔90aの周囲の縁部90bに衝突した際には、FRP製部材90の一点(E2で示す箇所)に応力集中が生じ、FRP製部材90に含まれる繊維が座屈してしまうことが懸念される。
【0006】
上記のような問題に対して、特許文献1で提案されている構造を採用することも考えられる。特許文献1には、FRP製部材に開けられた通し孔に対して、通し孔の径方向に積層される2つのカラーを装着してなる構造が開示されている。2つのカラーの内の外周側に配される外側カラーには、周方向の一部にスリットが設けられている。そして、内周側に配される内側カラーは、外側カラーをFRP製部材における通し孔の縁部全体に押し付けるように押圧力を付与できるようになっている。このようなカラーを通し孔に装着することにより、FRP製部材と締結部材とが通し孔の径方向にズレを生じた場合においても、FRP製部材における縁部の一点に応力集中が発生するのを抑制することができるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2019/058459号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、FRP製部材の通し孔に上記特許文献1で提案されているカラーを装着しようとする場合には、部品点数の増加や製造工程の複雑化などによりコストの上昇を招いてしまう。具体的には、上記特許文献1で提案されているカラーについてはFRP製部材における締結部材を挿通させる通し孔ごとに装着しなければならず、部品点数が大幅に増加してしまう。また、上記特許文献1で提案されているカラーは、FRP製部材における通し孔の縁部に対して接着剤などを用いて装着されているので、製造工程の複雑化を招いてしまう。
【0009】
本発明は、上記のような問題の解決を図ろうとなされたものであって、コストの上昇を抑えながら、FRP製部材と締結部材とが通し孔の径方向にズレを生じた場合にもFRP製部材の座屈を抑制することができるFRP製部材の締結構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係るFRP製部材の締結構造は、FRPからなるFRP製部材と、前記FRP製部材に重ね合わされた他部材と、前記FRP製部材と前記他部材とを締結する締結部材と、を備え、前記FRP製部材は、前記重ね合わせの方向である第1方向に貫通された通し孔を有するとともに、前記第1方向に対して交差する方向に配向された繊維を含み、前記他部材は、前記FRP製部材の前記通し孔と連続する孔部を有し、前記締結部材は、前記通し孔および前記孔部を挿通して前記FRP製部材と前記他部材とを締結するとともに、前記FRP製部材に対して相対的にズレを生じた際に、前記締結部材の一部が前記FRP製部材における前記通し孔の周囲の縁部に当接して前記FRP製部材の当接部分を前記第1方向に圧縮することが可能な圧縮部を有する。
【0011】
上記態様に係るFRP製部材の締結構造では、締結部材が圧縮部を有するので、FRP製部材に対して締結部材が相対的にズレ(通し孔の径方向へのズレ)を生じ、締結部材の圧縮部がFRP製部材の縁部に当接した場合には、FRP製部材における当接部分が第1方向に圧縮される。FRP製部材は、第1方向に対して交差する方向(交差方向)に繊維が配向された部材であるので、第1方向に圧縮された場合に当該圧縮された箇所での繊維の第1方向への座屈が抑制され、繊維長方向の圧縮強度を効率よく利用することができる。これによって、圧縮された箇所で繊維の密度が高まり、当該当接部分における上記ズレの方向(交差方向)に入力された力に対する強度の向上が図られる。
【0012】
従って、上記態様に係るFRP製部材の締結構造では、上記特許文献1で提案されているようなカラーを通し孔に装着しなくても、上記ズレを生じた場合におけるFRP製部材の座屈を抑制することができる。
【0013】
上記態様に係るFRP製部材の締結構造において、前記締結部材は、前記通し孔よりも大径の頭部と、前記頭部の一方側に延びる軸部と、前記頭部と前記軸部と間でその双方と連続し、前記頭部の側から前記軸部の側へと行くのに従って横断面径が漸減するように形成された錐状中間部と、を有し、前記締結部材は、前記頭部が前記FRP製部材における前記他部材とは反対側の外方に配され、前記錐状中間部が前記通し孔の内部に位置するように配され、前記圧縮部は、前記錐状中間部である、としてもよい。
【0014】
上記態様に係るFRP製部材の締結構造では、締結部材を構成する部材の内の締結部材に錐状中間部が設けられており、当該錐状中間部が上記圧縮部として機能する部位である。このため、上記態様に係るFRP製部材の締結構造では、FRP製部材に対して締結部材が相対的にズレ(通し孔の径方向へのズレ)を生じ、締結部材の錐状中間部の一部がFRP製部材における通し孔の周囲の縁部に当接した場合に、圧縮部である錐状中間部からの圧縮力を受けてFRP製部材における当接部分が第1方向に圧縮される。よって、上記態様に係るFRP製部材の締結構造では、上記特許文献1で提案されているようなカラーを通し孔に装着しなくても、上記ズレを生じた場合におけるFRP製部材の座屈を抑制することができる。
【0015】
上記態様に係るFRP製部材の締結構造において、前記締結部材は、ボルトとナットとを含み、前記ナットは、前記通し孔よりも大径の本体部と、前記本体部から一方側に突出するように連続形成されるとともに、前記本体部から離れるのに従って横断面径が漸減するように形成された錐状突起部と、を有し、前記ナットは、前記本体部が前記FRP製部材における前記他部材とは反対側の外方に配され、前記錐状突起部が前記通し孔の内部に位置するように配され、前記圧縮部は、前記ナットの前記錐状突起部である、としてもよい。
【0016】
上記態様に係るFRP製部材の締結構造では、締結部材を構成する部材の内のナットに錐状突起部が設けられており、当該錐状突起部が上記圧縮部として機能する部位である。このため、上記態様に係るFRP製部材の締結構造では、FRP製部材に対して締結部材が相対的にズレ(通し孔の径方向へのズレ)を生じ、ナットの錐状突起部の一部がFRP製部材における通し孔の周囲の縁部に当接した場合に、圧縮部である錐状突起部からの圧縮力を受けてFRP製部材における当接部分が第1方向に圧縮される。よって、上記態様に係るFRP製部材の締結構造では、上記特許文献1で提案されているようなカラーを通し孔に装着しなくても、上記ズレを生じた場合におけるFRP製部材の座屈を抑制することができる。
【0017】
上記態様に係るFRP製部材の締結構造において、前記締結部材は、ボルトとナットとワッシャとを含み、前記ワッシャは、前記ボルトの軸部が挿通する孔部の縁から径方向外側に離れて囲む領域において、前記重ね合わせの方向に平坦な平坦部と、前記平坦部と前記孔部の縁との間の領域において、前記径方向の外側から前記縁へと近づいて行くのに従って横断面径が漸減するように形成されるとともに、前記通し孔の内部に位置するように配される錐状突起部と、を有し、前記圧縮部は、前記ワッシャの前記錐状突起部である、としてもよい。
【0018】
上記態様に係るFRP製部材の締結構造では、締結部材を構成する部材の内のワッシャに錐状突起部が設けられており、当該錐状突起部が上記圧縮部として機能する部位である。このため、上記態様に係るFRP製部材の締結構造では、FRP製部材に対して締結部材が相対的にズレ(通し孔の径方向へのズレ)を生じ、ワッシャの錐状突起部の一部がFRP製部材における通し孔の周囲の縁部に当接した場合に、圧縮部であるワッシャの錐状突起部からの圧縮力を受けてFRP製部材における当接部分が第1方向に圧縮される。よって、上記態様に係るFRP製部材の締結構造では、上記特許文献1で提案されているようなカラーを通し孔に装着しなくても、上記ズレを生じた場合におけるFRP製部材の座屈を抑制することができる。
【0019】
上記態様に係るFRP製部材の締結構造において、前記他部材は、前記孔部の縁から径方向外側に離れて囲む領域において、前記重ね合わせの方向に平坦であって前記FRP製部材の主面に当接する平坦部と、前記平坦部と前記孔部の縁との間の領域において、前記孔部の径方向の外側から前記縁へと近づいて行くのに従って横断面径が漸減するように形成されるとともに、前記通し孔の内部に位置するように配される第2錐状突起部と、を有し、前記第2錐状突起部は、前記締結部材の前記圧縮部とは別であって、前記FRP製部材と前記他部材とが相対的に前記径方向にズレを生じた際に、当該第2錐状突起部の一部が前記FRP製部材における前記縁部に当接して前記FRP製部材の当接部分を前記第1方向に圧縮することが可能な第2圧縮部である、としてもよい。
【0020】
上記態様に係るFRP製部材の締結構造では、他部材に第2錐状突起部が設けられており、当該第2錐状突起部が上記第2圧縮部として機能する部位である。このため、上記態様に係るFRP製部材の締結構造では、FRP製部材に対して締結部材とともに他部材が相対的にズレ(通し孔の径方向へのズレ)を生じ、他部材の第2錐状突起部の一部がFRP製部材における通し孔の周囲の縁部に当接した場合に、第2圧縮部である第2錐状突起部からの圧縮力を受けてFRP製部材における当接部分が第1方向に圧縮される。よって、上記態様に係るFRP製部材の締結構造では、締結部材の圧縮部と他部材の第2圧縮部との協働によってFRP製部材における通し孔の縁部の強度向上が図られるので、上記特許文献1で提案されているようなカラーを通し孔に装着しなくても、上記ズレを生じた場合におけるFRP製部材の座屈を抑制することができる。
【0021】
本発明の別態様に係るFRP製部材の締結構造は、FRPからなるFRP製部材と、前記FRP製部材に重ね合わされるとともに、前記FRP製部材よりも高い剛性を有する他部材と、前記FRP製部材と前記他部材とを締結する締結部材と、を備え、前記FRP製部材は、前記重ね合わせの方向である第1方向に貫通された通し孔を有するとともに、前記第1方向に対して交差する方向に配向された繊維を含み、前記他部材は、前記FRP製部材の前記通し孔と連続する孔部を有し、前記他部材は、前記FRP製部材に対して相対的にズレを生じた際に、前記他部材の一部が前記FRP製部材における前記通し孔の周囲の縁部に当接して前記FRP製部材の当接部分を前記第1方向に圧縮することが可能な圧縮部を有する。
【0022】
上記態様に係るFRP製部材の締結構造では、他部材が圧縮部を有するので、FRP製部材に対して締結部材とともに他部材が相対的にズレ(通し孔の径方向へのズレ)を生じ、他部材の一部である圧縮部がFRP製部材の縁部に当接した場合には、FRP製部材における当接部分が第1方向に圧縮される。FRP製部材は、第1方向に対して交差する方向(交差方向)に繊維が配向された部材であるので、圧縮された箇所での繊維の密度が高まり、当該当接部分における上記ズレの方向(交差方向)に入力された力に対する強度の向上が図られる。
【0023】
従って、上記態様に係るFRP製部材の締結構造では、上記特許文献1で提案されているようなカラーを通し孔に装着しなくても、上記ズレを生じた場合におけるFRP製部材の座屈を抑制することができる。
【0024】
上記態様に係るFRP製部材の締結構造において、前記締結部材は、ボルトを含み、前記他部材は、前記ボルトの軸部が挿通する前記孔部の縁から径方向外側に離れて囲む領域において、前記第1方向に平坦であって前記FRP製部材の主面に当接する平坦部と、前記平坦部と前記孔部の縁との間の領域において、前記孔部の径方向の外側から前記縁へと近づいて行くのに従って横断面径が漸減するように形成されるとともに、前記通し孔の内部に位置するように配される錐状突起部と、を有し、前記圧縮部は、前記錐状突起部である、としてもよい。
【0025】
上記態様に係るFRP製部材の締結構造では、他部材に錐状中間部が設けられており、当該錐状中間部が上記圧縮部として機能する部位である。このため、上記態様に係るFRP製部材の締結構造では、FRP製部材に対して締結部材とともに他部材が相対的にズレ(通し孔の径方向へのズレ)を生じ、他部材の錐状中間部の一部がFRP製部材における通し孔の周囲の縁部に当接した場合に、圧縮部である錐状中間部からの圧縮力を受けてFRP製部材における当接部分が第1方向に圧縮される。よって、上記態様に係るFRP製部材の締結構造では、上記特許文献1で提案されているようなカラーを通し孔に装着しなくても、上記ズレを生じた場合におけるFRP製部材の座屈を抑制することができる。
【発明の効果】
【0026】
上記の各態様に係るFRP製部材の締結構造では、コストの上昇を抑えながら、FRP製部材と締結部材とが通し孔の径方向にズレを生じた場合にもFRP製部材の座屈を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施形態に係るFRP製部材の締結構造が適用された車両の前部構成を示す斜視図である。
図2】ストラットタワーバーの構成を示す斜視図である。
図3】ストラットタワーバーの一部構成を示す展開斜視図である。
図4図3の矢印B1で示す部分の締結構造を示す断面図である。
図5図3の矢印B2で示す部分の締結構造を示す断面図である。
図6】(a)、(b)は、アウター部材の通し孔に対してボルトが径方向にずれていない状態を示す断面図および平面図であり、(c)、(d)は、アウター部材の通し孔に対してボルトが径方向のずれた状態を示す断面図および平面栖である。
図7】(a)は、インナー部材の通し孔に対して内側固定部材の錐状突起部が径方向にずれていない状態を示す断面図であり、(b)は、インナー部材の通し孔に対して内側固定部材の錐状突起部が径方向にずれた状態を示す断面図である。
図8】(a)は、変形例1に係るFRP製部材の締結構造を示す断面図であり、(b)は、変形例2に係るFRP製部材の締結構造を示す断面図である。
図9】変形例3に係るFRP製部材の締結構造を示す断面図である。
図10】(a)は、変形例4に係るFRP製部材の締結構造を示す断面図であり、(b)は、変形例5に係るFRP製部材の締結構造を示す断面図である。
図11】(a)は、変形例6に係るFRP製部材の締結構造を示す断面図であり、(b)は、変形例7に係るFRP製部材の締結構造を示す断面図である。
図12】(a)は、変形例8に係るFRP製部材の締結構造を示す断面図であり、(b)は、変形例9に係るFRP製部材の締結構造を示す断面図である。
図13】変形例10に係るFRP製部材の締結構造を示す断面図である。
図14】従来技術に係るFRP製部材の締結構造を示す図であって、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明の一例であって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0029】
[実施形態]
1.車両1の前部構成
本実施形態に係るFRP製部材の締結構造が適用された車両1の前部構造について、図1を用いて説明する。なお、図1において、「FR」は車両前方、「RR」は車両後方、「LH」は車両左方、「RH」は車両右方、「UP」は車両上方、「LO」は車両下方をそれぞれ示す。
【0030】
図1に示すように、車両1の前部構造は、ダッシュパネル2と、フロントサイドフレーム3と、エプロンレイン(エプロンレインフォースメント)4と、サスペンションタワー5と、ストラットタワーバー7とを備える。ダッシュパネル2は、エンジンルーム6と車室との間を仕切るように設けられている。フロントサイドフレーム3は、エンジンルーム6の左右両側において、それぞれがダッシュパネル2から前方に向けて延びるように設けられている。なお、図示を省略するが、それぞれのフロントサイドフレーム3の前端部には、クラッシュカンが接合される。
【0031】
エプロンレイン4も、左右両側に設けられており、それぞれが前後方向に延びるように設けられている。なお、図示を省略するが、エプロンレイン4は、後端部でヒンジピラーの上部と接合されている。
【0032】
サスペンションタワー5は、左右それぞれにおいて、フロントサイドフレーム3とエプロンレイン4との間に設けられている。サスペンションタワー5は、上部がフロントサスペンションハウジングによって構成されている。フロントサスペンションハウジングは、フロントサスペンションの上端が取り付けられるダンパ取付け部を有する。
【0033】
ストラットタワーバー7は、左右のサスペンションタワー5同士の間を連結するように左右方向に延びて形成されている。図1に示すように、本実施形態では、ストラットタワーバー7は、左右方向の中央部分がサスペンションタワー5との連結部分よりも後方側に位置するように、平面視で略U字形状をもって形成されている。
【0034】
2.ストラットタワーバー7の構造
ストラットタワーバー7の構造について、図2および図3を用いて説明する。なお、図3は、図2の矢印Aで指し示す部分を展開した状態で示す図である。
【0035】
図2に示すように、ストラットタワーバー7は、3つのバー部材71~73と、2つの連結部材74,75と、2つの固定部材76,77とから構成されている。なお、図示を省略しているが、バー部材71~73同士の連結、およびバー部材71~73と連結部材74,75あるいは固定部材76,77との連結には、ボルトとナットなどを含む締結部材が用いられている。
【0036】
図3に示すように、バー部材72は、2つのFRP製部材721,722との組み合わせによって構成されている。FRP製部材721,722のそれぞれは、略U字形状の断面構造を有し、互いに重ね合わせた際に、互いの胴部同士の間に空間が空くように構成されている。FRP製部材721は、ストラットタワーバー7の外側に配されるアウター部材であり、FRP製部材722は、内側に配されるインナー部材である。
【0037】
固定部材76は、3つの金属部材761~763の組み合わせによって構成されている。部材761は、ストラットタワーバー7の外側に配される外側固定部材であり、部材762は、内側に配される内側固定部材である。また、部材763は、外側固定部材761と内側固定部材762との間に介挿されるパッチ部材である。
【0038】
アウター部材721とインナー部材722との締結、およびこれらと固定部材76との締結は、矢印B1で示す第1締結部と、矢印B2で示す第2締結部とによってなされる。本実施形態では、第1締結部B1の締結および第2締結部B2の締結が、ともにボルトとナットを含む締結部材によってなされる。
【0039】
アウター部材721には、締結用の通し孔(ボルトの軸部の挿通を許す孔)が4つ開けられている(通し孔721a,721b)。インナー部材722にも、締結用の通し孔(ボルトの軸部の挿通を許す孔)が2つ開けられている(通し孔722a)。
【0040】
外側固定部材761にも、締結用の通し孔(ボルトの軸部の挿通を許す孔)が2つ開けられている(通し孔761a)。内側固定部材762にも、締結用の通し孔(ボルトの軸部の挿通を許す孔)が4つ開けられている(通し孔762a,762b)。パッチ部材763にも、締結用の通し孔(ボルトの軸部の挿通を許す孔)が2つ開けられている(通し孔763a)。
【0041】
3.第1締結部B1の締結構造
図3に示す第1締結部B1の締結構造について、図4を用いて説明する。
【0042】
図4に示すように、第1締結部B1では、アウター部材721と、インナー部材722と、内側固定部材762とが厚み方向に重ね合わされ、締結部材78で締結されている。ここで、アウター部材721とインナー部材722と内側固定部材762とが重ね合わされる方向を「第1方向」とする。そして、第1方向に対して交差する方向を「第2方向」とする。
【0043】
締結部材78は、ボルト781とナット782とを含む。ボルト781は、頭部781aと錐状中間部781bと軸部781cとが一体形成されている。頭部781aは、アウター部材721の通し孔721aの内径D2よりも大きな外径をもって形成されている。軸部781cは、周面に雄ネジが形成されており、アウター部材721の通し孔721a、インナー部材722の通し孔722a、および内側固定部材762の通し孔762aの各内径D2~D4よりも小さな外径D1をもって形成されている。
【0044】
ボルト781の錐状中間部781bは、頭部781aの側の部分の外径がD5であり、軸部781cの側で軸部781cと同じ外径D1となるよう台錐状に形成されている。即ち、錐状中間部781bは、頭部781aの側から軸部781cの側へと行くのに従って横断面径(第2方向での外径)が漸減するように形成されている。なお、錐状中間部781bにおける最大の横断面径D5は、アウター部材721の通し孔721aの内径D2と同じかそれよりも小さく設定されている。これより、ボルト781の錐状中間部781bは、軸部781cとともにアウター部材721の通し孔721aの内部へと挿入される。
【0045】
内側固定部材762は、通し孔762aから第2方向に離間した外周領域において、第1方向に凹凸がなく平坦であって、インナー部材722との重ね合わせにおいて隙間なく当該インナー部材722の主面に当接する平坦部762dと、通し孔762aと平坦部762dとの間の領域において、インナー部材722の通し孔722aに向けて突設された錐状突起部762cとを有する。錐状突起部762cは、平坦部762dとの境界部分から通し孔762aの縁部に行くのに従って横断面径(第2方向での外径)が漸減するように台錐状に形成されている。なお、錐状突起部762cにおける最大の横断面径D6は、インナー部材722の通し孔722aの内径D3と同じかそれよりも小さく設定されている。これより、インナー部材722に内側固定部材762を重ね合わせた際に、錐状突起部762cは、インナー部材722の通し孔722aの内部へと挿入され、平坦部762dは、インナー部材722の主面に対して略隙間なく当接する。
【0046】
なお、内側固定部材762における錐状突起部762cは、「第2錐状突起部」であり、「第2圧縮部」である。
【0047】
ナット782は、内側固定部材762の裏面側に突出するボルト781の軸部781cの先端部分に螺結される。
【0048】
4.第2締結部B2の締結構造
図3に示す第2締結部B2の締結構造について、図5を用いて説明する。
【0049】
図5に示すように、第2締結部B2では、外側固定部材761と、アウター部材721と、パッチ部材763と、内側固定部材762とが厚み方向に重ね合わされ、締結部材79で締結されている。締結構造B2においても、部材761,721,763,762の重ね合わせ方向を「第1方向」とし、第1方向に対して交差する方向を「第2方向」とする。
【0050】
締結部材79は、ボルト791とナット792とを含む。上記の第1締結構造B1とは異なり、ボルト791は、錐状中間部を有さず、頭部791aと軸部791bとが一体形成されてなる。ボルト791の頭部781aも、外側固定部材761の通し孔761aの内径よりも大きな外径をもって形成されている。軸部791bは、周面に雄ネジが形成されており、外側固定部材761の通し孔761a、アウター部材721の通し孔721b、パッチ部材763の通し孔763a、および内側固定部材762の通し孔762bの各内径D7~D10よりも小さな外径D11をもって形成されている。ボルト791は、軸部791bだけが部材761,721,763,762の通し孔761a,721b,763b,762bの内部へと挿入される。
【0051】
パッチ部材763は、通し孔763aから第2方向に離間した外周領域において、第1方向に凹凸がなく平坦であって、アウター部材721との重ね合わせにおいて隙間なく当該アウター部材721の主面に当接する平坦部763cと、通し孔763aと平坦部763cとの間の領域において、アウター部材721の通し孔721bに向けて突設された錐状突起部763bとを有する。錐状突起部763bは、平坦部763cとの境界部分から通し孔763aの縁部に行くのに従って横断面径(第2方向での外径)が漸減するように台錐状に形成されている。なお、錐状突起部763bにおける最大の横断面径D12は、アウター部材721の通し孔721bの内径D8と同じかそれよりも小さく設定されている。これより、アウター部材721にパッチ部材763を重ね合わせた際に、錐状突起部763bは、アウター部材721の通し孔721bの内部へと挿入され、平坦部763cは、アウター部材721の主面に対して略隙間なく当接する。
【0052】
ナット792は、内側固定部材762の裏面側に突出するボルト791の軸部791bの先端部分に螺結される。
【0053】
5.ボルト781によるアウター部材721の圧縮メカニズム
本実施形態においては、アウター部材721と締結部材78におけるボルト781とが相対的に第2方向にズレを生じた場合に、アウター部材721における通し孔721aの周囲の一部が第1方向に圧縮される。このメカニズムについて、図6を用いて説明する。
【0054】
図6(a)、(b)に示すように、アウター部材721に対して締結部材78のボルト781が第2方向にズレを生じていない場合には、ボルト781の錐状中間部781bは通し孔721aの内部に配されている。
【0055】
一方、図6(c),(d)に示すように、アウター部材721に対して締結部材78のボルト781が矢印C1で示すように第2方向にズレを生じ、錐状中間部781bの一部がアウター部材721における通し孔721aの周囲の縁部に当接した場合には、アウター部材721における当接部分721cが錐状中間部781bの外周面からの圧縮力を受ける。このため、アウター部材721の当接部分721cは、矢印C2で示すように第1方向に圧縮される。即ち、当接部分721cが被圧縮部となる。
【0056】
ここで、アウター部材721では、繊維が第2方向に配向されているので、当接部分721cでは繊維密度が高くなり、ボルト781の相対的なズレに伴う押圧力に対するアウター部材721の強度の向上が図られる。
【0057】
6.内側固定部材762によるインナー部材722の圧縮メカニズム
本実施形態においては、内側固定部材762とインナー部材722とが相対的に第2方向にズレを生じた場合に、インナー部材722における通し孔722aの周囲の一部が第1方向に圧縮される。このメカニズムについて、図7を用いて説明する。
【0058】
図7(a)に示すように、インナー部材722に対して内側固定部材762が第2方向にズレを生じていない場合には、内側固定部材762の錐状突起部762cは通し孔722aの内部に配されている。
【0059】
一方、図7(b)に示すように、インナー部材722に対して締結部材78とともに内側固定部材762が矢印D1で示すように第2方向にズレを生じ、錐状突起部762cの一部がインナー部材722における通し孔722aの周囲の縁部に当接した場合には、インナー部材722における当接部分722bが錐状突起部762cの外周面からの圧縮力を受ける。このため、インナー部材722の当接部分722bは、矢印D2で示すように第1方向に圧縮される。即ち、当接部分722bが被圧縮部となる。
【0060】
ここで、インナー部材722では、繊維が第2方向に配向されているので、当接部分722bでは繊維密度が高くなり、締結部材78におけるボルト781や内側固定部材762の相対的なズレに伴う押圧力に対するインナー部材722の強度の向上が図られる。
【0061】
なお、図5に示した第2締結部B2においても、アウター部材721に対してパッチ部材763が第2方向にズレを生じた場合に、パッチ部材763によってアウター部材721の一部(通し孔721bの周囲の縁部の一部)が圧縮される。このメカニズムについても上記同様である。
【0062】
7.効果
本実施形態に係るFRP製部材721の締結構造では、締結部材78が圧縮部(ボルト781の錐状中間部781b)を有するので、FRP製部材であるアウター部材721に対して締結部材78が相対的にズレ(第2方向へのズレ)を生じ、ボルト781の錐状中間部781bの一部がアウター部材721の通し孔721aの周囲の縁部に当接した場合には、アウター製部材721における当接部分721cが第1方向に圧縮される。アウター製部材721は、第1方向に対して交差する第2方向に繊維が配向された部材であるので、第1方向に圧縮された箇所(当接部分721c)で繊維の座屈が抑制されることで繊維長方向の圧縮強度を効率よく利用することができる。これによって、圧縮された箇所で繊維の密度が高まり、当該当接部分721cにおける第2方向に入力された力に対する強度の向上が図られる。
【0063】
従って、本実施形態に係るFRP製部材721の締結構造では、上記特許文献1で提案されているようなカラーを通し孔に装着しなくても、第2方向のズレを生じた場合におけるアウター部材721の座屈を抑制することができる。
【0064】
また、本実施形態に係るFRP製部材721の締結構造では、ボルト781の錐状中間部781bにおける最大の横断面径D5がアウター部材721に設けられた通し孔721aの内径D2以下に設定されているので、アウター部材721に対して締結部材78のボルト781が相対的にズレ(第2方向へのズレ)を生じていない状態では、通し孔721aの縁部を圧縮変形させることなく、アウター部材721とインナー部材722および内側固定部材762とをしっかりと締結することができる。
【0065】
一方、アウター部材721に対して締結部材78のボルト781が相対的にズレ(第2方向へのズレ)を生じ、錐状中間部781bの一部がアウター部材721における通し孔721aの周囲の縁部に当接した場合には、上記のようにアウター部材721の当接部分721cが第1方向に圧縮されることにより第2方向への相対的な上記ズレによって締結部材78のボルト781から入力される力に対する強度の向上が図られる。
【0066】
また、本実施形態に係るFRP製部材721,722の締結構造では、図4を用いて説明したように、他部材である内側固定部材762に錐状突起部762cが設けられており、当該錐状突起部762cがインナー部材722における通し孔722aの周囲の縁部を圧縮する第2圧縮部として機能する。このため、本実施形態に係るFRP製部材721,722の締結構造では、インナー部材722に対して締結部材78とともに内側固定部材762が相対的にズレ(第2方向へのズレ)を生じ、内側固定部材762の錐状突起部762cの一部がインナー部材722における通し孔722aの周囲の縁部に当接した場合に、圧縮部である錐状突起部762cからの圧縮力を受けてインナー部材722における当接部分722bが第1方向に圧縮される。よって、本実施形態に係るFRP製部材721,722の締結構造では、締結部材78におけるボルト781の錐状中間部781bでのアウター部材721の一部の圧縮と、内側固定部材762の錐状突起部762cでのインナー部材722の一部の圧縮とにより、FRP製部材であるアウター部材721およびインナー部材722のそれぞれにおける通し孔721a,722aの縁部の強度向上が図られるので、上記特許文献1で提案されているようなカラーを通し孔に装着しなくても、第2方向への相対的な上記ズレを生じた場合におけるアウター部材721およびインナー部材722の座屈を抑制することができる。
【0067】
また、本実施形態に係るFRP製部材721,722の締結構造では、内側固定部材762の錐状突起部762cにおける最大の横断面径D6がインナー部材722に設けられた通し孔722aの内径D3以下に設定されているので、FRP製部材であるインナー部材722に対して内側固定部材762が相対的にズレ(第2方向へのズレ)を生じていない状態では、通し孔722aの縁部を圧縮変形させることなく、インナー部材722と内側固定部材762との間に隙間が空くことなく、互いがしっかりと締結される。
【0068】
一方、インナー部材722に対して内側固定部材762が相対的にズレ(第2方向へのズレ)を生じ、錐状突起部762cの一部がインナー部材722における通し孔722aの周囲の縁部に当接した場合には、上記のようにインナー部材722の当接部分722bが第1方向に圧縮されることにより第2方向への相対的な上記ズレによって締結部材78などから入力される力に対する強度の向上が図られる。
【0069】
また、本実施形態に係るFRP製部材721の締結構造では、図5を用いて説明したように、パッチ部材763が圧縮部としての錐状突起部763bを有するので、FRP製部材であるアウター部材721に対して締結部材78とともにパッチ部材763が相対的にズレ(第2方向へのズレ)を生じ、パッチ部材763の一部である錐状突起部763bがアウター部材721における通し孔721bの縁部に当接した場合には、アウター部材721における当接部分が第1方向に圧縮される。アウター部材721は、上述のように第2方向に繊維が配向された部材であるので、圧縮された箇所での繊維の密度が高まり、当該当接部分における第2方向への相対的な上記ズレの方向(第2方向)に入力された力に対する強度の向上が図られる。
【0070】
従って、本実施形態に係るFRP製部材721の締結構造では、上記特許文献1で提案されているようなカラーを通し孔に装着しなくても、第2方向への相対的な上記ズレを生じた場合におけるアウター部材721における通し孔721bの周囲の縁部での座屈を抑制することができる。
【0071】
また、本実施形態に係るFRP製部材721の締結構造では、パッチ部材763の錐状突起部763bにおける最大の横断面径D12がアウター部材721に設けられた通し孔721bの内径D8以下に設定されているので、アウター部材721に対してパッチ部材763が相対的にズレ(第2方向へのズレ)を生じていない状態では、通し孔721bの縁部を圧縮変形させることなく、アウター部材721とパッチ部材763との間に隙間が空くことなく、互いがしっかりと締結される。
【0072】
一方、FRP製部材であるアウター部材721に対してパッチ部材763が相対的にズレ(第2方向へのズレ)を生じ、錐状突起部763bの一部がアウター部材721における通し孔721bの周囲の縁部に当接した場合には、上記のようにアウター部材721の当接部分が第1方向に圧縮されることにより第2方向への相対的な上記ズレによって締結部材78などから入力される力に対する強度の向上が図られる。
【0073】
以上のように、本実施形態に係るFRP製部材721,722の締結構造では、コストの上昇を抑えながら、FRP製部材であるアウター部材721やインナー部材722と締結部材78などとが第2方向(通し孔721a,721b,722aの径方向)にズレを生じた場合にもアウター部材721およびインナー部材722での座屈の発生を抑制することができる。
【0074】
[変形例1]
変形例1に係るFRP製部材80の締結構造について、図8(a)を用いて説明する。
【0075】
図8(a)に示すように、本変形例に係る締結構造は、FRP製部材80と、金属部材81と、締結部材82とを備える。FRP製部材80と金属部材81とは、主面同士が当接するように重ね合わされる(第1方向に重ね合わされる)。そして、FRP製部材80は、第1方向に対して交差する第2方向に繊維が配向されている。
【0076】
FRP製部材80および金属部材81のそれぞれには、締結部材82に含まれるボルト821の軸部の挿通を許す通し孔80a,81cが開けられている。FRP製部材80と金属部材81とは、図8(a)に示すように重ね合わされた上で、ボルト821とナット822との螺結により接合される。
【0077】
本変形例に係る締結構造において、金属部材81は、通し孔81cから第2方向に離間した外周領域において、第1方向に凹凸がなく平坦であって、FRP製部材80との重ね合わせにおいて隙間なく当該FRP製部材80の主面に当接する平坦部81bと、通し孔81cと平坦部81bとの間の領域において、FRP製部材80の通し孔80aに向けて突設された錐状突起部81aとを有する。
【0078】
錐状突起部81aは、上記実施形態における内側固定部材762の錐状突起部762cやパッチ部材763の錐状突起部763bと同様の形状をもって形成されている。また、通し孔80aに対する錐状突起部81aにおける最大の横断面径についても、上記実施形態における内側固定部材762の錐状突起部762cやパッチ部材763の錐状突起部763bと同様である。
【0079】
本変形例では、板状のFRP製部材80と同じく板状の金属部材81とを締結部材82で締結してなる構造を有し、金属部材81における錐状突起部81aが圧縮部として機能する。即ち、本変形例でも、FRP製部材80と金属部材81とが第2方向にズレを生じ、錐状突起部81aの一部がFRP製部材80における通し孔80aの周囲の縁部に当接した場合には、FRP製部材80における当接された箇所が第1方向に圧縮を受ける。これにより、本変形例でも、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0080】
[変形例2]
変形例2に係るFRP製部材80の締結構造について、図8(b)を用いて説明する。
【0081】
図8(b)に示すように、本変形例に係る締結構造は、締結部材83がボルト831およびナット832に加えて、ワッシャ(平座金)833を含む点で上記変形例1と異なり、その他の点は、上記変形例1と同様である。
【0082】
本変形例では、締結部材83がワッシャ833を含むので、上記変形例1が奏する効果に加えて、ボルト831の頭部831aがFRP製部材80にめり込むのを抑制することができる。
【0083】
[変形例3]
変形例3に係るFRP製部材80の締結構造について、図9を用いて説明する。
【0084】
図9に示すように、本変形例に係る締結構造は、FRP製部材80と、金属部材85と、締結部材84とを備える。FRP製部材80と金属部材85とは、主面同士が当接するように重ね合わされる(第1方向に重ね合わされる)。そして、FRP製部材80は、第1方向に対して交差する第2方向に繊維が配向されている。
【0085】
FRP製部材80および金属部材85のそれぞれには、締結部材84に含まれるボルト841の軸部の挿通を許す通し孔80a,85cが開けられている。FRP製部材80と金属部材85とは、図9に示すように重ね合わされた上で、ボルト841とナット842との螺結により接合される。
【0086】
本変形例に係る締結構造において、金属部材85は、上記変形例1,2と同様に、外周領域に平坦部85bを有し、通し孔85cと平坦部85bとの間の領域において、FRP製部材80の通し孔80aに向けて突設された錐状突起部85aを有する。
【0087】
また、ボルト841は、上記実施形態の第1締結部B1で用いたボルト781と同様に、錐状中間部841bを有する。ボルト841の錐状中間部841bは、ボルト841とナット842とを螺結させた際に、FRP製部材80の通し孔80aの内部に挿入される。
【0088】
ここで、本変形例では、FRP製部材80における通し孔80aの第1方向での寸法をH1、ボルト841における錐状中間部841bの第1方向での寸法をH2、金属部材85における錐状突起部85aの第1方向での突出寸法をH3とするとき、次の関係を満たすように構成されている。
H1≧(H2+H3) ・・(数1)
以上のような構成を有する本変形例に係るFRP製部材80の締結構造では、ボルト841に圧縮部としての錐状中間部841bが設けられ、且つ、金属部材85に第2圧縮部としての錐状突起部85aが設けられているので、FRP製部材80に対して締結部材84とともに金属部材85が相対的にズレ(第2方向へのズレ)を生じ、ボルト841の錐状中間部841bの一部および金属部材85の錐状突起部85aの一部がFRP製部材80における通し孔80aの周囲の縁部に当接した場合に、FRP製部材80における当接部分が第1方向に圧縮される。よって、本変形例係るFRP製部材80の締結構造でも、締結部材84におけるボルト841の錐状中間部(圧縮部)841bと金属部材85の錐状突起部(第2圧縮部)85aとの協働によってFRP製部材80における通し孔80aの縁部の強度向上が図られるので、上記特許文献1で提案されているようなカラーを通し孔に装着しなくても、上記ズレを生じた場合におけるFRP製部材80の座屈を抑制することができる。
【0089】
なお、FRP製部材80における通し孔80aの内径に対するボルト841の錐状中間部841bの最大横断面径および金属部材85の錐状突起部85aの最大横断面径の関係については、上記実施形態および上記変形例1,2と同様である。よって、本変形例に係るFRP製部材80の締結構造においても、上記実施形態および上記変形例1,2と同様の効果を得ることができる。
【0090】
[変形例4]
変形例4に係るFRP製部材80の締結構造について、図10(a)を用いて説明する。なお、以下では、上記変形例2に係るFRP製部材80の締結構造との差異を主に説明する。
【0091】
図10(a)に示すように、本変形例に係るFRP製部材80の締結構造は、FRP製部材80と、金属部材87と、締結部材86とを備える。金属部材87は、通し孔87aの周囲に錐状突起部が形成されておらず、平坦に形成されている。
【0092】
締結部材86は、ボルト861と、ナット862と、ワッシャ863とを含む。ボルト861およびナット862は、上記変形例2のボルト831およびナット832と同様に錐状中間部や錐状突起部を有さない。
【0093】
ボルト861の頭部の下に介挿されるワッシャ863は、ボルト861の軸部の挿通を許す通し孔から径方向に離間した外周領域において、FRP製部材80の主面に沿うように平坦に設けられた平坦部863bと、通し孔と平坦部863bとの間の領域において、FRP製部材80の通し孔80aに向けて突設された錐状突起部863aとを有する。
【0094】
本変形例に係るFRP製部材80の締結構造では、締結部材86に含まれるワッシャ863に錐状突起部863aが設けられており、当該錐状突起部863aが上記実施形態における第1締結部B1のボルト781の錐状中間部781bと同様に圧縮部として機能する。このため、本変形例に係るFRP製部材80の締結構造では、FRP製部材80に対して締結部材86が相対的にズレ(第2方向へのズレ)を生じ、ワッシャ863の錐状突起部863aの一部がFRP製部材90における通し孔80aの周囲の縁部に当接した場合に、錐状突起部863aの一部からの圧縮力を受けてFRP製部材80における当接部分が第1方向に圧縮される。よって、本変形例に係るFRP製部材80の締結構造では、上記特許文献1で提案されているようなカラーを通し孔に装着しなくても、上記ズレを生じた場合におけるFRP製部材80の座屈を抑制することができる。
【0095】
なお、FRP製部材80における通し孔80aの内径に対するワッシャ863の錐状突起部863aの最大横断面径の関係については、上記実施形態における通し孔721aの内径D2に対するボルト781における錐状中間部781bの最大横断面径D5と同様である。よって、本変形例に係るFRP製部材80の締結構造においても、上記実施形態などと同様の効果を得ることができる。
【0096】
[変形例5]
変形例5に係るFRP製部材80の締結構造について、図10(b)を用いて説明する。なお、以下では、上記変形例4に係るFRP製部材80の締結構造との差異を主に説明する。
【0097】
図10(b)に示すように、本変形例に係るFRP製部材80の締結構造では、上記変形例4に係るFRP製部材80の締結構造に対して、金属部材85の構造が相違する。金属部材85は、上記変形例3に係るFRP製部材80の締結構造における金属部材85と同じである。即ち、金属部材85は、通し孔85cの周囲にFRP製部材80の通し孔80aに向けて突設された錐状突起部85aを有する。
【0098】
なお、ワッシャ863における錐状突起部863aの第1方向への突出寸法と、金属部材85における錐状突起部85aの第1方向への突出寸法との合計寸法は、FRP製部材80に開けられた通し孔80aの第1方向での寸法以下に設定されている。
【0099】
以上のような構成を有する本変形例に係るFRP製部材80の締結構造では、ワッシャ863に圧縮部としての錐状突起部863aが設けられ、且つ、金属部材85に第2圧縮部としての錐状突起部85aが設けられている。これより、FRP製部材80に対して締結部材86とともに金属部材85が相対的にズレ(第2方向へのズレ)を生じ、ワッシャ863の錐状突起部863aの一部および金属部材85の錐状突起部85aの一部がFRP製部材80における通し孔80aの周囲の縁部に当接した場合に、FRP製部材80における当接部分が第1方向に圧縮される。よって、本変形例係るFRP製部材80の締結構造でも、締結部材86におけるワッシャ863の錐状突起部(圧縮部)863aと金属部材85の錐状突起部(第2圧縮部)85aとの協働によってFRP製部材80における通し孔80aの縁部の強度向上が図られるので、上記特許文献1で提案されているようなカラーを通し孔に装着しなくても、上記ズレを生じた場合におけるFRP製部材80の座屈を抑制することができる。
【0100】
なお、FRP製部材80における通し孔80aの内径に対するワッシャ863の錐状突起部863aの最大横断面径および金属部材85の錐状突起部85aの最大横断面径の関係については、上記変形例3,4と同様である。よって、本変形例に係るFRP製部材80の締結構造においても、上記変形例3,4などと同様の効果を得ることができる。
【0101】
[変形例6]
変形例6に係るFRP製部材80の締結構造について、図11(a)を用いて説明する。
【0102】
図11(a)に示すように、本変形例に係る締結構造は、FRP製部材80と、金属部材87と、締結部材88とを備える。FRP製部材80と金属部材87とは、主面同士が当接するように重ね合わされる(第1方向に重ね合わされる)。FRP製部材80は、上記変形例1と同様に、第1方向に対して交差する第2方向に繊維が配向されている。また、金属部材87は、上記変形例4と同様に、通し孔87aの周囲に錐状突起部が設けられていない部材である。
【0103】
本変形例では、締結部材88がボルト881とナット882とを含む。ボルト881は、金属部材87の側に頭部が配され、軸部が金属部材87の通し孔87aからFRP製部材80の通し孔80aを挿通するように配される。そして、ナット882は、FRP製部材80における金属部材87とは反対側に配される。
【0104】
本変形例では、ナット882が、FRP製部材80の通し孔80aに向けて突設された錐状突起部882aを有する。錐状突起部882aは、ボルト881の軸部が螺結される雌ネジ孔の周囲に設けられ、ナット882の本体部(スパナなどを係合する部分)882bの側から端部に向けて横断面径が漸減する台錐状に設けられている。
【0105】
本変形例では、板状のFRP製部材80と同じく板状の金属部材87とを締結部材88で締結してなる構造を有し、ナット882における錐状突起部882aが圧縮部として機能する。即ち、本変形例では、FRP製部材80と締結部材88とが第2方向にズレを生じ、錐状突起部882aの一部がFRP製部材80における通し孔80aの周囲の縁部に当接した場合には、FRP製部材80における当接された箇所が第1方向に圧縮を受ける。これにより、本変形例でも、上記実施形態などと同様の効果を得ることができる。
【0106】
なお、本変形例におけるナット882の錐状突起部882aの最大横断面径は、FRP製部材80の通し孔80aの内径以下に設定されている。このため、FRP製部材80に対して締結部材88が相対的にズレ(第2方向へのズレ)を生じていない状態では、通し孔80aの縁部を圧縮変形させることなく、FRP製部材80と金属部材87とをしっかりと締結することができる。
【0107】
一方、FRP製部材80に対して締結部材88が相対的にズレ(第2方向へのズレ)を生じ、錐状突起部882aの一部がFRP製部材80における通し孔80aの周囲の縁部に当接した場合には、FRP製部材80の当接部分が第1方向(重ね合わせ方向)に圧縮されることにより相対的な上記ズレによって締結部材88から入力される力に対する強度の向上が図られる。
【0108】
[変形例7]
変形例7に係るFRP製部材80の締結構造について、図11(b)を用いて説明する。
【0109】
図11(b)に示すように、本変形例に係る締結構造は、FRP製部材80と、金属部材85と、締結部材89とを備える。FRP製部材80と金属部材85とは、主面同士が当接するように重ね合わされる(第1方向に重ね合わされる)。FRP製部材80は、上記変形例1と同様に、第1方向に対して交差する第2方向に繊維が配向されている。また、金属部材85は、上記変形例5と同様に、通し孔85cの周囲に錐状突起部85aを有する。
【0110】
締結部材89は、ボルト891とナット892とを含む。ボルト891は、上記変形例6のボルト881と同様に、錐状中間部を有さず、金属部材85の側に頭部が配され、軸部が金属部材85の通し孔85cからFRP製部材80の通し孔80aを挿通するように配される。
【0111】
ナット892は、FRP製部材80における金属部材85とは反対側に配され、FRP製部材80の通し孔80aに向けて突設された錐状突起部892aを有する。錐状突起部892aは、上記変形例6のナット892と同様に、ボルト891の軸部が螺結される雌ネジ孔の周囲に設けられ、ナット892の本体部(スパナなどを係合する部分)892bの側から端部に向けて横断面径が漸減する台錐状に設けられている。
【0112】
ここで、本変形例では、FRP製部材80における通し孔80aの第1方向での寸法をH4、ナット892における錐状突起部892aの第1方向での寸法をH5、金属部材85における錐状突起部85aの第1方向での突出寸法をH6とするとき、次の関係を満たすように構成されている。
H4≧(H5+H6) ・・(数2)
以上のような構成を有する本変形例に係るFRP製部材80の締結構造では、ナット892に圧縮部としての錐状突起部892aが設けられ、且つ、金属部材85に第2圧縮部としての錐状突起部85aが設けられているので、FRP製部材80に対して締結部材89とともに金属部材85が相対的にズレ(第2方向へのズレ)を生じ、ナット892の錐状突起部892aの一部および金属部材85の錐状突起部85aの一部がFRP製部材80における通し孔80aの周囲の縁部に当接した場合に、FRP製部材80における当接部分が第1方向に圧縮される。よって、本変形例係るFRP製部材80の締結構造でも、締結部材89におけるナット892の錐状突起部(圧縮部)892aと金属部材85の錐状突起部(第2圧縮部)85aとの協働によってFRP製部材80における通し孔80aの縁部の強度向上が図られるので、上記特許文献1で提案されているようなカラーを通し孔に装着しなくても、上記ズレを生じた場合におけるFRP製部材80の座屈を抑制することができる。
【0113】
なお、FRP製部材80における通し孔80aの内径に対するナット892の錐状突起部892aの最大横断面径および金属部材85の錐状突起部85aの最大横断面径の関係については、上記変形例3,6などと同様である。よって、本変形例に係るFRP製部材80の締結構造においても、この点において上記変形例3,6と同様の効果を得ることができる。
【0114】
[変形例8]
変形例8に係るFRP製部材100,101の締結構造について、図12(a)を用いて説明する。
【0115】
図12(a)に示すように、本変形例に係る締結構造は、FRP製部材100と、FRP製部材101と、締結部材102とを備える。FRP製部材100とFRP製部材101とは、主面同士が当接するように重ね合わされる(第1方向に重ね合わされる)。そして、FRP製部材100およびFRP製部材101のそれぞれは、第1方向に対して交差する第2方向に繊維が配向されている。
【0116】
FRP製部材100およびFRP製部材101のそれぞれには、締結部材102に含まれるボルト1021の軸部の挿通を許す通し孔100a,101aが開けられている。FRP製部材100とFRP製部材101とは、図12(a)に示すように重ね合わされた上で、ボルト1021とナット1022との螺結により接合される。
【0117】
本変形例に係る締結構造において、締結部材102のボルト1021は、上記実施形態における第1締結部B1のボルト781と同様に、錐状中間部1021bを有する。また、締結部材102のナット1022は、上記変形例6のナット882と同様に、錐状突起部1022aを有する。
【0118】
本変形例では、締結部材102によってFRP製部材100とFRP製部材101とを締結した場合に、締結部材102におけるボルト1021の錐状中間部1021bが、FRP製部材100における通し孔100aの周囲の縁部を第1方向に圧縮する圧縮部として機能する。また締結部材102におけるナット1022の錐状突起部1022aが、FRP製部材101における通し孔101aの周囲の縁部を第1方向に圧縮する圧縮部として機能する。即ち、本変形例では、FRP製部材100およびFRP製部材101に対して締結部材102が第2方向にズレを生じ、ボルト1021の錐状中間部1021bの一部がFRP製部材100における通し孔100aの周囲の縁部に当接し、ナット1022の錐状突起部1022aがFRP製部材101における通し孔101aの周囲の縁部に当接した場合には、FRP製部材100およびFRP製部材のそれぞれにおける当接された箇所が第1方向に圧縮を受ける。これにより、本変形例でも、上記実施形態などと同様の効果を得ることができる。
【0119】
なお、FRP製部材100における通し孔100aの内径に対するボルト1021の錐状中間部1021bの最大横断面径の関係、およびFRP製部材101における通し孔101aの内径に対するナット1022の錐状突起部1022aの最大横断面径の関係については、上記実施形態および上記変形例6などと同様である。よって、本変形例に係るFRP製部材100,101の締結構造においても、この点において上記実施形態および上記変形例6と同様の効果を得ることができる。
【0120】
[変形例9]
変形例9に係るFRP製部材100,101の締結構造について、図12(b)を用いて説明する。なお、以下では、上記変形例8との差異を主に説明する。
【0121】
図12(b)に示すように、本変形例に係るFRP製部材100,101の締結構造では、金属部材103,104と、FRP製部材100,101と、締結部材105とを備える。この内、FRP製部材100,101の構成については、上記変形例8と同様である。
【0122】
金属部材103は、上記実施形態における第2締結部B2のパッチ部材763と同様に、平坦部103bと錐状突起部103aとを有する。錐状突起部103aは、FRP製部材100に開けられた通し孔100aに向けて台錐状に突設形成されている。
【0123】
金属部材104も、上記実施形態における第2締結部B2のパッチ部材763と同様に、平坦部104bと錐状突起部104aとを有する。錐状突起部104aは、FRP製部材101に開けられた通し孔101aに向けて台錐状に突設形成されている。
【0124】
ここで、本変形例では、金属部材103,104の通し孔103c,104cの内径が、FRP製部材100,101の通し孔100a,101aの内径よりも小径に形成されている。
【0125】
締結部材105は、ボルト1051と、ナット1052と、ワッシャ1053,1054とを含む。ボルト1051には錐状中間部は設けられておらず、ナット1052にも錐状突起部は設けられていない。また、ワッシャ1053,1054にも錐状突起部は設けられていない。
【0126】
本変形例では、締結部材105によって金属部材103,104およびFRP製部材100,101を締結した場合に、金属部材103における錐状突起部103aが、FRP製部材100における通し孔100aの周囲の縁部を第1方向に圧縮する圧縮部として機能する。また金属部材104における錐状突起部104aが、FRP製部材101における通し孔101aの周囲の縁部を第1方向に圧縮する圧縮部として機能する。即ち、本変形例では、FRP製部材100およびFRP製部材101に対して締結部材105とともに金属部材103,104が第2方向にズレを生じ、金属部材103の錐状突起部103aの一部がFRP製部材100における通し孔100aの周囲の縁部に当接し、金属部材104の錐状突起部104aがFRP製部材101における通し孔101aの周囲の縁部に当接した場合には、FRP製部材100およびFRP製部材のそれぞれにおける当接された箇所が第1方向に圧縮を受ける。これにより、本変形例でも、上記変形例8などと同様の効果を得ることができる。
【0127】
なお、FRP製部材100における通し孔100aの内径に対する金属部材103の錐状突起部103aの最大横断面径の関係、およびFRP製部材101における通し孔101aの内径に対する金属部材104の錐状突起部104aの最大横断面径の関係については、上記実施形態などと同様である。よって、本変形例に係るFRP製部材100,101の締結構造においても、この点において上記実施形態などと同様の効果を得ることができる。
【0128】
[変形例10]
変形例10に係るFRP製部材100,101の締結構造について、図13を用いて説明する。
【0129】
図13に示すように、本変形例に係るFRP製部材100,101の締結構造では、金属部材106と、FRP製部材100,101と、締結部材107とを備える。この内、FRP製部材100,101の構成については、上記変形例8,9と同様である。
【0130】
金属部材106は、上記実施形態における第2締結部B2のパッチ部材763と同様に、平坦部106bと錐状突起部106aとを有する。錐状突起部106aは、FRP製部材100に開けられた通し孔100aに向けて台錐状に突設形成されている。
【0131】
なお、本変形例では、金属部材106は、FRP製部材100とFRP製部材101との間に配される。また、金属部材106の通し孔106bの内径は、FRP製部材100,101の通し孔100a,101aの内径よりも小径に設けられている。
【0132】
締結部材107は、ボルト1071と、ナット1072と、ワッシャ1073,1074とを含む。ボルト1071には錐状中間部は設けられておらず、ナット1072にも錐状突起部は設けられていない。そして、ワッシャ1073には、錐状突起部は設けられていないが、ワッシャ1074には、通し孔1074bの周囲にFRP製部材101に開けられた通し孔101aに向けて台錐状に突設された錐状突起部1074aが設けられている。
【0133】
なお、本変形例では、ワッシャ1074の通し孔1074bの内径は、FRP製部材100,101の通し孔100a,101aの内径よりも小径に設けられている。
【0134】
本変形例では、締結部材107によって金属部材106およびFRP製部材100,101を締結した場合に、金属部材106における錐状突起部106aが、FRP製部材100における通し孔100aの周囲の縁部を第1方向に圧縮する圧縮部として機能する。また締結部材107におけるワッシャ1074の錐状突起部1074aが、FRP製部材101における通し孔101aの周囲の縁部を第1方向に圧縮する圧縮部として機能する。即ち、本変形例では、FRP製部材100およびFRP製部材101に対して締結部材107とともに金属部材106が第2方向にズレを生じ、金属部材106の錐状突起部106aの一部がFRP製部材100における通し孔100aの周囲の縁部に当接し、ワッシャ1074の錐状突起部1074aがFRP製部材101における通し孔101aの周囲の縁部に当接した場合には、FRP製部材100およびFRP製部材のそれぞれにおける当接された箇所が第1方向に圧縮を受ける。これにより、本変形例でも、上記変形例8,9などと同様の効果を得ることができる。
【0135】
なお、FRP製部材100における通し孔100aの内径に対する金属部材106の錐状突起部106aの最大横断面径の関係、およびFRP製部材101における通し孔101aの内径に対するワッシャ1074の錐状突起部1074aの最大横断面径の関係については、上記実施形態などと同様である。よって、本変形例に係るFRP製部材100,101の締結構造においても、この点において上記実施形態などと同様の効果を得ることができる。
【0136】
[その他の変形例]
上記実施形態では、車両1の前部構造に含まれるストラットタワーバー7に本発明に係るFRP製部材の締結構造を適用したが、本発明は、車両の他の部材(フロアパネル下の補強部材など)や車両以外の構造物(船舶や航空機、あるいは産業機械)などに適用することも可能である。
【0137】
上記実施形態などでは、ボルト781,791とナット782,792を含む締結部材78,79を採用したが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、上記第1締結部B1における内側固定部材762などの当て板部材に雌ネジを形成しておき、当該雌ネジに対してボルトを螺結させることもできる。また、締結部材としてリベットなどを採用することもできる。
【0138】
FRP製部材100.101,721,722については、第2方向(重ね合わせの方向である第1方向に交差する方向)に繊維が配向されてなる構成を採用したが、FRP製部材における繊維の配向については、一方向であってもよいし、互いに交差する複数方向であってもよい。
【0139】
上記実施形態や上記変形例1~10では、特に言及しなかったが、FRP製部材100,101,721,722の具体例としては、種々の繊維強化樹脂部材を採用することができる。例えば、GFRPやCFRPなどを採用することができる。
【0140】
また、上記実施形態および上記変形例1~10では、錐状突起部を有する他部材として金属部材81,85,103,104,106,762,763を採用することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。FRP製部材よりも高強度の部材であればよく、樹脂材料を採用することもできる。
【符号の説明】
【0141】
7 ストラットタワーバー
71~73 バー部材
80,100 FRP製部材
78,79,82,83,84,86,88,89,102,105,107 締結部材
81,85,103,104,106,762,763 金属部材(他部材)
81a,85a,103a,104a,106a,762c,763b 錐状突起部(圧縮部)
721 アウター部材(第1部材)
722 インナー部材(第1部材)
781,841,1021 ボルト
781b、841b,1021b 錐状中間部(圧縮部)
882,892,1022 ナット
882a,892a,1022a 錐状突起部(圧縮部)
863,1074 ワッシャ
863a,1074a 錐状突起部(圧縮部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14