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  • 特開-燃料噴射ポンプ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158358
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】燃料噴射ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F02M 59/48 20060101AFI20231023BHJP
【FI】
F02M59/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068147
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 修
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AA07
3G066AB02
3G066AC01
3G066BA55
3G066BA56
3G066CA01S
3G066CA09
3G066CE02
3G066CE34
(57)【要約】
【課題】簡易な加工で済み、また、簡単な組付け作業でスプリングシートとタペットとを締結可能な構成の燃料噴射ポンプを提供する。
【解決手段】カムの回転に伴ってプランジャ(7)及びタペット(30)が往復移動することで加圧室(6)に燃料を導入するとともに当該燃料を加圧し圧送する燃料噴射ポンプ(1)において、タペット(30)及びスプリングシート(8)は、それぞれ互いに連通する貫通孔(35,36)を有し、貫通孔(35,36)に挿入されてタペット(30)及びスプリングシート(8)のそれぞれに係止される係止部材(50)により締結されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プランジャバレル(5)内に軸方向へ往復摺動可能に挿入され、軸方向の一端側に設けられた加圧室(6)内の燃料を加圧するプランジャ(7)と、タペット摺動孔(2a)内を軸方向へ往復摺動可能に収容されたタペット(30)と、前記タペット(30)を前記加圧室(6)側とは反対側へ付勢するプランジャスプリング(29)と、前記プランジャ(7)の他端側に係止され、前記プランジャスプリング(29)の一端を支持するスプリングシート(8)と、を備え、カムの回転に伴って前記プランジャ(7)及び前記タペット(30)が往復移動することで前記加圧室(6)に燃料を導入するとともに当該燃料を加圧し圧送する燃料噴射ポンプ(1)において、
前記タペット(30)及び前記スプリングシート(8)は、それぞれ互いに連通する貫通孔(35,36)を有し、前記貫通孔(35,36)に挿入されて前記タペット(30)及び前記スプリングシート(8)のそれぞれに係止される係止部材(50)により締結されている、ことを特徴とする燃料噴射ポンプ。
【請求項2】
前記タペット(30)及び前記スプリングシート(8)は、それぞれ互いに連通する二組の貫通孔(35,36)を有し、
前記係止部材(50)は、前記二組の貫通孔(35,36)にそれぞれ挿入される二つの脚部(51a,51b)と、前記二つの脚部(51a,51b)をつなぐ基部(55)と、を有するU字状を成し、
前記係止部材(50)の前記二つの脚部(51a,51b)は、前記スプリングシート(8)側から前記二組の貫通孔(35,36)にそれぞれ挿入され、
前記基部(55)が前記スプリングシート(8)に係止され、前記二つの脚部(51a,51b)の先端部に設けられた屈曲部(53a,53b)が前記タペット(30)に係止されて、前記タペット(30)及び前記スプリングシート(8)が締結される、請求項1に記載の燃料噴射ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の燃料噴射システムに用いられる燃料噴射ポンプには、カムの回転に伴って軸方向に往復移動し、プランジャを往復移動させるタペットが備えられている。タペットは、スプリングシートを介してプランジャスプリングの付勢力を受けてカムに押し付けられ、カムの回転に伴って、カムプロファイルにしたがって往復移動する。これにより、プランジャが往復移動し、加圧室へ燃料が吸入されるとともに、加圧室内の燃料が加圧されて圧送される(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
このような燃料噴射ポンプにおいて、プランジャがプランジャバレル内で固着した場合、プランジャの一端に連結されたスプリングシートがプランジャとともに上死点位置に残され、タペットとスプリングシートが離間する。このため、タペットに対して、プランジャスプリングによるカムへの押し付け荷重がかからず、タペットが自由移動可能な状態となる。そうすると、タペットがカムプロファイルの変化に追従することができず、カムによってタペットが打ち付けられてカムの破損を生じるおそれがある。
【0004】
これに対して、図5に示すように、スプリングシート101及びタペットボディ103にそれぞれボルト穴105,107を形成し、スプリングシート101とタペットボディ103とを締結ボルト109により締結する対策が取られている。これにより、スプリングシート101とタペットボディ103とが離間しないようになり、タペットの損傷が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-106532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、締結ボルトを用いた構造では、スプリングシート及びタペットにネジ溝を有するボルト穴を形成する加工が必要である。また、当該構造では、組付け時に締結ボルトを締め付ける作業が必要になり、作業効率が低くなるおそれがある。
【0007】
本発明は、簡易な加工で済み、また、簡単な組付け作業でスプリングシートとタペットとを締結可能な構成の燃料噴射ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、プランジャバレル内に軸方向へ往復摺動可能に挿入され、軸方向の一端側に設けられた加圧室内の燃料を加圧するプランジャと、タペット摺動孔内を軸方向へ往復摺動可能に収容されたタペットと、タペットを加圧室側とは反対側へ付勢するプランジャスプリングと、プランジャの他端側に係止され、プランジャスプリングの一端を支持するスプリングシートと、を備え、カムの回転に伴ってプランジャ及びタペットが往復移動することで加圧室に燃料を導入するとともに当該燃料を加圧し圧送する燃料噴射ポンプであって、タペット及びスプリングシートは、それぞれ互いに連通する貫通孔を有し、貫通孔に挿入されてタペット及びスプリングシートのそれぞれに係止される係止部材により締結されている燃料噴射ポンプが提供される。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明によれば、簡易な加工で済み、また、簡単な組付け作業でスプリングシートとタペットとを締結することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る燃料噴射ポンプの構成例を示す断面図である。
図2】同実施形態に係る燃料噴射ポンプのタペットを示す断面図である。
図3】同実施形態に係る燃料噴射ポンプのタペットを示す別の断面図である。
図4】同実施形態に係る係止部材の例を示す斜視図である。
図5】従来の燃料噴射ポンプにおけるタペットを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の燃料噴射ポンプに関する実施形態について具体的に説明する。ただし、この実施形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の範囲内で任意に変更することが可能である。なお、それぞれの図中、同じ符号を付してあるものについては同一の部材を示しており、適宜説明が省略されている。
【0012】
図1は、本実施形態に係る燃料噴射ポンプの構成例を示す断面図である。図1において、本発明の説明に不要な構成要素の図示は省略されている。
【0013】
燃料噴射ポンプ1は、加圧された高圧燃料を内燃機関に噴射供給するためのものである。燃料噴射ポンプ1は、ポンプハウジング2、ポンプハウジング2内に嵌め込まれたプランジャバレル5、プランジャ7、及びプランジャバレル5とプランジャ7とによって区画された加圧室6とを備えている。また、プランジャバレル5の上方側にはデリバリバルブ4及びホルダ17が装着されており、ホルダ17はポンプハウジング2にねじ止めされている。
【0014】
プランジャバレル5には燃料の吸排ポート5bが形成されている。ポンプハウジング2とプランジャバレル5との間には、吸排ポート5bに対向する位置に燃料溜まり室9が形成されている。プランジャ7は、プランジャバレル5のプランジャ挿入孔5a内に、軸回転方向に回転自在に、かつ、上下方向に摺動自在に挿入されている。プランジャ7には軸方向燃料通路7bと、当該軸方向燃料通路7bに連通する傾斜リード7aが形成されている。
【0015】
また、プランジャ7は、上側の上端エッジ部11と下側の傾斜エッジ部12とを有している。上端エッジ部11は、プランジャ7の上端面の縁部により構成されている。傾斜エッジ部12は、傾斜リード7aの上端部により構成されている。プランジャ7の軸線方向の運動により、これらの上端エッジ部11及び傾斜エッジ部12が吸排ポート5bの開口部14上を移動する。この場合、圧送開始を規定する上端エッジ部11が吸排ポート5bの開口部14を閉じることによって燃料圧送が開始され、圧送終了を規定する傾斜エッジ部12が吸排ポート5bの開口部14を開放することで、燃料圧送が終了する。
【0016】
また、傾斜エッジ部12は、プランジャ7の軸方向に対して傾斜して設けられており、プランジャ7の軸回転方向の位相を変えることによって、傾斜エッジ部12が吸排ポート5bの開口部14を開放するタイミングが変化し、ポンプによる燃料圧送量を調節することができる。なお、本実施形態においては、吸排ポート5b、燃料溜まり室9及び傾斜エッジ部12は180°の位相差をもって二組設けられている。
【0017】
また、プランジャバレル5の外周にはコントロールスリーブS1が嵌合され、コントロールスリーブS1の下部には、プランジャ7のつば部7cが嵌合される溝Stが形成されている。したがって、コントロールスリーブS1をコントロールラックL1によって回動させることで、プランジャ7が軸回転方向に変位し、吸排ポート5bに対する軸方向燃料通路7bや傾斜リード7aの相対位置が変化する。
【0018】
また、プランジャ7の下端部7dにはスプリングシート8が係止されており、プランジャ7は、スプリングシート8を介してプランジャスプリング29の弾性力により下方へ付勢されている。また、プランジャ7の下端部7d及びスプリングシート8はタペット30に押圧接触させられ、さらにタペット30が図示しないカム軸に固定されたカムに押圧接触させられている。タペット30は、ポンプハウジング2に設けられたタペット摺動孔2a内に、往復摺動可能に収容され、カム軸及びカムの回転に伴い、カムプロファイルにしたがってタペット30が往復移動する。これにより、プランジャ7が軸方向に往復移動する。
【0019】
図2図3は、タペット30及びスプリングシート8の締結構造を示す説明図である。図2及び図3は、それぞれ円筒状のタペット30を軸方向に沿って切断した軸心を含む断面であって、位相が90度異なる位置での断面図を示す。
【0020】
タペット30は、タペットボディ31、ローラピン41、軸受43及びタペットローラ45を有して構成されている。タペットボディ31は、タペット摺動孔2aの断面形状に適合する断面円形状の円筒形状を有する。タペットボディ31の上部(プランジャ7側)には、スプリングシート8が配置される凹部32が形成されている。凹部32は、円形状のスプリングシート8を収容可能な円筒形状に形成されている。スプリングシート8は、プランジャ7の下端部が係合される係合部8aを上面に有する。
【0021】
また、タペットボディ31の下部には、タペットローラ45が配置されるローラ収容凹部33が形成されている。ローラ収容凹部33を挟んだ両側にはピン挿入孔38a,38bが形成され、ローラピン41が挿入されている。ローラピン41には、軸受43を介してタペットローラ45が回転自在に支持されている。タペットボディ31及びローラピン41には、互いに連通するピン挿入孔39,41aがそれぞれ形成されており、二つのピン挿入孔39,41aに亘って固定ピン47が軽圧入されることで、ローラピン41がタペットボディ31に組付けられている。
【0022】
また、タペットボディ31には、凹部32とローラ収容凹部33とを連通する油孔37a,37bが形成されている。油孔37は、タペット30が上昇する際に、ポンプハウジング2のタペット摺動孔2a内の潤滑油をカム室側へ流出させる一方、タペット30が下降する際に潤滑油をタペット摺動孔2a内へ流入させる。これにより、タペット摺動孔2a内の圧力変動を抑制して、タペット30及びプランジャ7の往復移動が阻害されないようになっている。
【0023】
ここで、スプリングシート8及びタペットボディ31には、それぞれ互いに連通する二組の貫通孔35,36が形成されている。二組の貫通孔35,36は、それぞれスプリングシート8に形成された大径孔部35a,36a及び小径孔部35b,36bと、タペットボディ31に形成された孔部35c,36cとからなり、スプリングシート8の上面から、タペットボディ31のローラ収容凹部33まで貫通する。貫通孔35,36には、係止部材50が挿入されている。
【0024】
図4は、本実施形態に係る燃料噴射ポンプ1に用いられている係止部材50の斜視図を示す。係止部材50は、二つの脚部51a,51bと、二つの脚部51a,51bをつなぐ基部55とを有する略U字状に構成されている。二つの脚部51a,51bの先端部には、屈曲して形成された屈曲部53a,53bが設けられている。二つの脚部51a,51bは、それぞれスプリングシート8及びタペットボディ31に形成された貫通孔35,36に挿入される。二つの脚部51a,51bの先端の屈曲部53a,53bは、タペットボディ31の孔部35c,36cがローラ収容凹部33に開口する部分のエッジに係止される(図2を参照)。
【0025】
係止部材50の基部55は、半円形状に構成され、スプリングシート8におけるプランジャ7の下端部7dが係合される係合部8aの外周に沿って配置される。当該基部55の一部は、スプリングシート8の大径孔部35a,36aがスプリングシート8の上面に開口する部分のエッジに係止される(図2及び図3を参照)。このように、本実施形態では、係止部材50の基部55がスプリングシート8に係止され、二つの脚部51a,51bの先端部に設けられた屈曲部53a,53bがタペットボディ31に係止されて、タペット30及びスプリングシート8が締結される。
【0026】
係止部材50は、燃料噴射ポンプ1の使用時の変形に対する耐性を有する素材を用いて構成される。係止部材50は、例えば鋼材からなる線材を成形したものであってよい。また、係止部材50が線材により構成されることで、係止部材50が所定の弾性を有する。このため、係止部材50を貫通孔35,36に挿入し、屈曲部53a,53bをタペットボディ31に係止する作業を容易に行うことができる。具体的には、係止部材50の二つの脚部51a,51bをU字の内側方向に撓ませた状態で、スプリングシート8及びタペットボディ31の二つの貫通孔35,36に挿入し、係止部材50の基部55がスプリングシート8の上面に当接する位置まで係止部材50を押し込んだ後で二つの脚部51a,51bの撓みを開放する。これにより、二つの脚部51a,51bの先端の屈曲部53a,53bが、タペットボディ31の孔部35c,36cのエッジに係止した状態となる。
【0027】
このように構成される締結構造は、スプリングシート8をタペットボディ31の凹部32に配置した後、係止部材50の二つの脚部51a,51bをスプリングシート8側からそれぞれ貫通孔35,36に挿入し、二つの脚部51a,51bの先端部の屈曲部53a,53bをタペットボディ31の孔部35c,36cのエッジに係止することにより構成される。したがって、スプリングシート8にプランジャ7の下端部7dを係合した状態であっても、スプリングシート8とタペット30とを容易に締結することができる。さらに、係止部材50が所定の弾性を有する構造であるため、スプリングシート8とタペット30とを分解する際にも、容易に係止部材50を取り外すことができる。
【0028】
また、スプリングシート8及びタペットボディ31に形成される貫通孔35,36は、ネジ穴である必要がないことから、貫通孔35,36を形成する加工を簡易なものとすることができる。
【0029】
以上説明したように、本実施形態に係る燃料噴射ポンプ1は、タペット30とスプリングシート8とを締結する構造として、ネジ穴を加工する必要がないようになっている。また、スプリングシート8とタペット30とを締結する構造として簡易な構成が採用され、スプリングシート8とタペット30との組み立て作業及び分解作業を容易に行うことができる。
【0030】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが本発明はこのような例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0031】
例えばスプリングシートとタペットとを締結する係止部材の構成は上記実施形態の例に限られない。上記実施形態の係止部材は、二つの脚部を有するU字状に構成されていたが、二つの脚部が分離され、それぞれスプリングシート及びタペットに係止される複数の係止部材により構成されていてもよい。
【0032】
また、上記実施形態で説明した燃料噴射ポンプの構成は一例にすぎず、各構成要素の構成や形状が異なっていてもよい。また、タペット及びスプリングシートを締結する構成のポンプであれば、ポンプの種類も限定されるものではない。
【符号の説明】
【0033】
1:燃料噴射ポンプ、2:ポンプハウジング、4:デリバリバルブ、5:プランジャバレル、5a:プランジャ挿入孔、6:加圧室、7:プランジャ、7a:傾斜リード、7b:軸方向燃料通路、8:スプリングシート、9:燃料溜まり室、11:上端エッジ部、12:傾斜エッジ部、14:開口部、30:タペット、35・36:貫通孔、50:係止部材、51a・51b:脚部、53a・53b:屈曲部、55:基部
図1
図2
図3
図4
図5