(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158362
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】プラズマアークハイブリッド溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/16 20060101AFI20231023BHJP
B23K 10/02 20060101ALI20231023BHJP
B23K 9/073 20060101ALI20231023BHJP
B23K 10/00 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
B23K9/16 K
B23K10/02 Z
B23K9/073 530
B23K10/00 503
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068156
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 雅之
【テーマコード(参考)】
4E001
4E082
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB08
4E001BB11
4E001DD02
4E001DD04
4E001DE03
4E001QA03
4E082AA03
4E082AA04
4E082AA09
4E082AB01
4E082BA02
4E082EF11
(57)【要約】
【課題】溶着強度が改善されたプラズマ溶接とアーク溶接とを併用するプラズマアークハイブリッド溶接装置を提供する。
【解決手段】プラズマ溶接と消耗電極式アーク溶接とを併用するプラズマアークハイブリッド溶接装置1は、プラズマ電極2と、消耗電極に給電する給電チップ3と、プラズマ電極2および給電チップ3の両方に交流電流を供給する電源ユニットPSとを備える。電源ユニットPSは、プラズマ電極2と溶接対象となる母材4との間に第1交流電流を供給し、給電チップ3と母材4との間に第2交流電流を供給するように構成される。第1交流電流と第2交流電流とは、電流の正負極性が反転するタイミングが等しい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ溶接と消耗電極式アーク溶接とを併用するプラズマアークハイブリッド溶接装置であって、
プラズマ電極と、
消耗電極に給電する給電チップと、
前記プラズマ電極および前記給電チップの両方に交流電流を供給する電源装置とを備え、
前記電源装置は、前記プラズマ電極と溶接対象となる母材との間に第1交流電流を供給し、前記給電チップと前記母材との間に第2交流電流を供給するように構成され、
前記第1交流電流と前記第2交流電流とは、同時刻において電流の正負極性が反転する、プラズマアークハイブリッド溶接装置。
【請求項2】
前記第1交流電流と前記第2交流電流とは、位相が同相または逆相である、請求項1に記載のプラズマアークハイブリッド溶接装置。
【請求項3】
前記第1交流電流は、前記プラズマ電極が正極、前記母材が負極となる時間が1周期において30%以下である、請求項1に記載のプラズマアークハイブリッド溶接装置。
【請求項4】
前記第1交流電流と前記第2交流電流とは、位相が同相であり、
前記第1交流電流は、前記プラズマ電極が正極、前記母材が負極となる時間が1周期において30%以下であり、
前記消耗電極式アーク溶接は、短絡移行溶接である、請求項1に記載のプラズマアークハイブリッド溶接装置。
【請求項5】
前記電源装置は、前記消耗電極式アーク溶接として、前記第1交流電流の交流周期より短い周期でパルス状の電流を繰返し流すパルス溶接が実行されるように、前記給電チップに給電し、前記第1交流電流の正電流期間と負電流期間で前記パルス状の電流の極性が反転する、請求項1~3のいずれか1項に記載のプラズマアークハイブリッド溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラズマ溶接とアーク溶接とを併用するプラズマアークハイブリッド溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマアークハイブリッド溶接は、先行のプラズマによって、深い溶け込みを確保するとともに、後行のアークを安定化することができるため、高速溶接が可能となり能率向上を目的として用いられる。また、ビード形状をなだらかにし、フランク角を大きくすることで疲労強度の向上させている事例もある。
【0003】
特開2005-230867号公報には、上記の能率向上および疲労強度の向上を目的としたプラズマアークハイブリッド溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2005-230867号公報には、正極性(すなわち溶接用鋼ワイヤをマイナス極)で行なう溶極式のガスシールドアーク溶接法と正極性で行なう非溶極式のプラズマ溶接法とを組み合わせた溶接法を採用すると記載されている。
【0006】
本明細書では、用語の統一のために、電極をマイナスとする上記「正極性」をEN極性と呼ぶこととし、逆に電極をプラスとする「逆極性」をEP極性と呼ぶこととする。
【0007】
特開2005-230867号公報に記載されたハイブリッド溶接は、ワイヤ極性がEN(電極が負極)の直流であり、ワイヤ上に陰極点が形成されるため溶滴移行がスムーズに行なわれず、一様なビードが形成できない、スパッタが発生する等の課題がある。
【0008】
本開示は、EN極性の直流よりも安定し、EP極性の直流よりも溶着金属量が多いプラズマ溶接とアーク溶接とを併用するプラズマアークハイブリッド溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、プラズマ溶接と消耗電極式アーク溶接とを併用するプラズマアークハイブリッド溶接装置に関する。プラズマアークハイブリッド溶接装置は、プラズマ電極と、消耗電極に給電する給電チップと、プラズマ電極および給電チップの両方に交流電流を供給する電源装置とを備える。電源装置は、プラズマ電極と溶接対象となる母材との間に第1交流電流を供給し、給電チップと前記母材との間に第2交流電流を供給するように構成される。第1交流電流と第2交流電流とは、電流の正負極性が反転するタイミングが等しい。
【発明の効果】
【0010】
本開示のプラズマアークハイブリッド溶接装置によれば、溶接の能率が向上するとともに、EN極性の直流よりも溶接を安定させ、EP極性の直流よりも高溶着となるため、ギャップ裕度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1のプラズマアークハイブリッド溶接方法を実施するためのプラズマアークハイブリッド溶接装置の構成図である。
【
図2】タイミング制御装置13の構成を示すブロック図である。
【
図3】実施の形態1のプラズマアークハイブリッド溶接装置がトーチに供給する電流および電圧を示した波形図である。
【
図4】タイミング制御装置13Aの構成を示すブロック図である。
【
図5】実施の形態2のプラズマアークハイブリッド溶接装置がトーチに供給する電流および電圧を示した波形図である。
【
図6】実施の形態3のプラズマアークハイブリッド溶接装置がトーチに供給する電流および電圧を示した波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下では、複数の実施の形態について説明するが、各実施の形態で説明された構成を適宜組み合わせることは出願当初から予定されている。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0013】
[実施の形態1]
図1は、実施の形態1のプラズマアークハイブリッド溶接方法を実施するためのプラズマアークハイブリッド溶接装置の構成図である。
【0014】
プラズマアークハイブリッド溶接装置1は、溶接トーチWTと、電源ユニットPSとを備える。
【0015】
電源ユニットPSは、プラズマ溶接電源装置11と、アーク溶接電源装置12と、タイミング制御装置13とを含む。溶接トーチWTは、プラズマ電極2と、給電チップ3と、図示しないガスノズルとを含む。
【0016】
ガスノズルからは、たとえばアルゴンガス、アルゴンガスと炭酸ガスとの混合ガス等のシールドガスが供給される。給電チップ3に設けられた貫通孔からは、溶接ワイヤ7が送給される。給電チップ3は、溶接ワイヤ7に対して導通している。しかし、溶接ワイヤ7は、プラズマ電極2とは絶縁されている。溶接ワイヤ7は、図示しないが、送給モータを駆動源とする送給ロールの回転によって送給される。
【0017】
プラズマ電極2は、たとえば銅または銅合金で形成されている。プラズマ電極2は、冷却水によって直接的または間接的に冷却されていることが好ましい。
【0018】
溶接トーチWTは、ロボット等によって保持された状態で、母材4に対して移動する。溶接ワイヤ7の先端と母材4との間には、アーク6が発生する。プラズマ電極2と母材4との間には、プラズマアーク5が発生する。
【0019】
プラズマ溶接電源装置11は、プラズマ電極2と母材4との間にプラズマ溶接電圧Vpを印加することによりプラズマ溶接電流Ipを通電するための電源である。アーク溶接電源装置12は、給電チップ3を介して溶接ワイヤ7と母材4との間に、アーク溶接電圧Vaを印加することにより、アーク溶接電流Iaを通電するための電源である。
【0020】
ここで、電極と母材の電流(電圧)の極性について説明する。本明細書において、電極が正極であり母材が負極である極性を「EP」という。なお、「EP」は特開2005-230867号公報のように「逆極性」と呼ばれる場合がある。また、電極が負極であり母材が正極である極性を「EN」という。なお、「EN」は特開2005-230867号公報のように「正極性」と呼ばれる場合がある。
【0021】
プラズマ極性をEPとした場合にはプラズマ溶接の電極消耗が著しいため、特開2005-230867号公報に開示されたプラズマアークハイブリッド溶接では、ENが採用されている。また、アーク溶接のワイヤ極性をEPとした場合、電磁力によってスパッタの低減が困難であるため、アーク溶接についてもENが採用されている。
【0022】
一般的なワイヤ極性がEPの直流溶接と比べると、ワイヤ極性がENである期間を含む交流溶接は、より高溶着な溶接法であることが知られている。したがって、溶着強度の改善を図るためには交流溶接を用いることが考えられる。しかし、交流溶接を用いることでギャップ裕度確保等の施工裕度の拡大に繋がるにも関わらず、プラズマアークハイブリッド溶接において、交流溶接を用いて安定して溶接できる制御方法については検討されていなかった。
【0023】
まず、プラズマ溶接を直流、アーク溶接を交流とした場合には、アーク溶接がEPからENに切り替わった場合に電磁力の向きが反転し、プラズマ溶接にも影響を与えてしまう。
【0024】
また、プラズマアークハイブリッド溶接において、ともに交流とした場合には、プラズマ溶接とアーク溶接の交流の正負切替タイミングがずれると、作用する電磁力の向きの関係が安定しない可能性がある。
【0025】
そこで、本実施の形態では、プラズマ溶接電源装置11およびアーク溶接電源装置12は、ともに交流電圧、交流電流を溶接トーチWTに対して供給する。このときに、交流の正負切替タイミングを制御するために、タイミング制御装置13は、プラズマ溶接電源装置11およびアーク溶接電源装置12に対してタイミング制御信号Sp,Saをそれぞれ送信する。交流電圧、交流電流の正負極性の切り替わりタイミングは、タイミング制御信号Sp,Saによって制御される。
【0026】
タイミング制御装置13は、作用する電磁力の向きが一定方向となるようにするため、ワイヤ極性とプラズマ極性について、極性の組み合わせが常にEP-EPまたはEN-ENという同相になるようにタイミング制御信号Sp,Saを発生する。
【0027】
図2は、タイミング制御装置13の構成を示すブロック図である。タイミング制御装置13は、EP比率入力部21と、プラズマ用信号発生部22と、アーク用信号発生部23とを含む。
【0028】
EP比率入力部21は、図示しない操作パネルなどからのユーザの入力に基づいて、交流の正と負の切替タイミングを示す制御の基本信号を発生するように構成される。プラズマ用信号発生部22と、アーク用信号発生部23は、この基本信号を受けて、同相のタイミング制御信号Sp,Saを出力するように構成される。
【0029】
図3は、実施の形態1のプラズマアークハイブリッド溶接装置がトーチに供給する電流および電圧を示した波形図である。
図3には、プラズマ溶接電流Ip、アーク溶接電流Ia、アーク溶接電圧Vaが上から順に示されている。なお、
図2におけるタイミング制御信号Sp,Saは、プラズマ溶接電流Ipと同様な波形である。
【0030】
プラズマ溶接電流Ipは、時刻t1~t2がEP極性であり、時刻t2~t3がEN極性である。1周期におけるEP極性である比率(EP比率)は、プラズマ電極の消耗を抑えるために、半分以下好ましくは30%以下に制御される。そして時刻t4以降は同じ周期、同じEP比率で波形が繰り返される。
【0031】
アーク溶接電源装置12は、プラズマ溶接とは異なり、交流周期よりも短い周期でパルス溶接を実行し、パルス溶接の極性がタイミング制御信号Saに基づいて切替えられる。
【0032】
具体的には、時刻t1~t2において、アーク溶接電圧Vaはプラスであり、この間にアーク溶接電源装置12は、2つのプラスの電流パルスを給電チップ3および溶接ワイヤ7に供給する。続く時刻t3~t4において、アーク溶接電圧Vaはマイナスであり、この間にアーク溶接電源装置12は、4つのマイナスの電流パルスを給電チップ3および溶接ワイヤ7に供給する。そして時刻t4以降は同じ正負切替タイミングで同様なパルス電流波形が繰り返される。
【0033】
つまり、実施の形態1においては、第1交流電流(Ip)および第2交流電流(Ia)は同時刻t1,t2,t3,t4において電流の極性が反転する。そして、第1交流電流(Ip)と第2交流電流(Ia)とは、位相が同相である。そして、
図3に示すように、第1交流電流(Ip)は、プラズマ電極が正極、母材が負極となる時間Tp1が1周期Tc1において30%以下とすることができる。
【0034】
さらに、
図3に示すように、電源ユニットPSは、消耗電極式アーク溶接として、第1交流電流(Ip)における、正電流期間t1~t2および負電流期間t2~t3の各々において、第1交流電流(Ip)の交流周期Tc1より短い周期Tc2でパルス状に繰返し電流を流すパルス溶接が実行されるように、給電チップ3に給電する。そして、正電流期間t1~t2では正方向にパルス状に電流が流れ、電流期間t2~t3では負方向にパルス状に電流が流れるというように、パルスの極性が反転している。
【0035】
このように、プラズマ溶接電流とアーク溶接電流の正負を同じように切替えるので、プラズマアークハイブリッド溶接において、ともに交流とした場合に、プラズマ溶接とアーク溶接に作用する電磁力の向きの関係が安定する。
【0036】
また、アーク溶接にEN期間を含む交流を使用することができるので溶着強度を向上させることができる。
【0037】
[実施の形態2]
実施の形態1では、プラズマ溶接電流とアーク溶接電流はともに交流であり、その正負極性は同相であった。実施の形態2では、プラズマ溶接電流とアーク溶接電流はともに交流であるが、その正負極性が逆相である例を説明する。
【0038】
図1に示したプラズマアークハイブリッド溶接装置の構成については、実施の形態2でも同様である。なお、タイミング制御装置13の内部の構成が異なるので、実施の形態2で用いられるものをタイミング制御装置13Aとする。
【0039】
タイミング制御装置13Aは、作用する電磁力の向きが一定方向となるようにするため、ワイヤ極性とプラズマ極性について、極性の組み合わせが常にEP-ENまたはEN-EPという逆相になるようにタイミング制御信号Sp,Saを発生する。
【0040】
図4は、タイミング制御装置13Aの構成を示すブロック図である。タイミング制御装置13Aは、EP比率入力部21と、プラズマ用信号発生部22と、アーク用信号発生部23とに加えて、位相反転回路24をさらに含む。
【0041】
このような構成とすることによってEP比率入力部21が発生する基本信号の同相のタイミング制御信号Spをプラズマ用信号発生部22が出力し、逆相のタイミング制御信号Saをアーク用信号発生部23が出力する。
【0042】
図5は、実施の形態2のプラズマアークハイブリッド溶接装置がトーチに供給する電流および電圧を示した波形図である。
図5には、プラズマ溶接電流Ip、アーク溶接電流Ia、アーク溶接電圧Vaが上から順に示されている。なお、
図4におけるタイミング制御信号Spは、プラズマ溶接電流Ipと同様な波形であり、タイミング制御信号Saはその反転信号である。
【0043】
プラズマ溶接電流Ipは、時刻t1~t2がEP極性であり、時刻t2~t3がEN極性である。1周期におけるEP極性である比率(EP比率)は、プラズマ電極の消耗を抑えるために、50%以下とし、好ましくは30%以下に制御される。そして時刻t4以降は同じ周期、同じEP比率で波形が繰り返される。
【0044】
アーク溶接電源装置12は、プラズマ溶接とは異なり、交流周期よりも短い周期でパルス溶接を実行し、パルス溶接の極性がタイミング制御信号Saに基づいて切替えられる。
【0045】
具体的には、時刻t1~t2において、アーク溶接電圧Vaはマイナスであり、この間にアーク溶接電源装置12は、2つのマイナスの電流パルスを給電チップ3および溶接ワイヤ7に供給する。続く時刻t3~t4において、アーク溶接電圧Vaはプラスであり、この間にアーク溶接電源装置12は、4つのプラスの電流パルスを給電チップ3および溶接ワイヤ7に供給する。そして時刻t4以降は同じ正負切替タイミングで同様なパルス電流波形が繰り返される。
【0046】
つまり、実施の形態2においては、第1交流電流(Ip)および第2交流電流(Ia)は同時刻t1,t2,t3,t4において電流の極性が反転する。そして、第1交流電流(Ip)と第2交流電流(Ia)とは、位相が逆相である。そして、
図5に示すように、第1交流電流(Ip)は、プラズマ電極が正極、母材が負極となる時間Tp1が1周期Tc1において30%以下とすることができる。
【0047】
さらに、
図5に示すように、電源ユニットPSは、消耗電極式アーク溶接として、第1交流電流(Ip)における、正電流期間t12~t13および負電流期間t11~t12の各々において、第2交流電流(Ia)の交流周期Tc1より短い周期Tc2でパルス状に繰返し電流を流すパルス溶接が実行されるように、給電チップ3に給電する。そして、正電流期間t11~t12では負方向にパルス状に電流が流れ、電流期間t12~t13では正方向にパルス状に電流が流れるというように、パルスの極性が反転している。
【0048】
このように、プラズマ溶接電流とアーク溶接電流の正負を常に逆になるようにタイミングを合わせて切替えるので、プラズマアークハイブリッド溶接において、ともに交流とした場合に、プラズマ溶接とアーク溶接に作用する電磁力の向きの関係が安定する。
【0049】
また、アーク溶接にEN期間を含む交流を使用することができるので溶着強度を向上させることができる。
【0050】
厚さt=3.2mmの亜鉛めっき鋼板の重ね隅肉継手において、下記条件で溶接を行った。その結果、ビード幅が均一となり、良好な溶接結果が得られた。
【0051】
溶接速度1.0m/min、電極極性=交流(逆相となる組み合わせ)、EP比率(プラズマ=20%、アーク=80%)、プラズマ溶接電流100A、アーク溶接電流250A、アーク溶接電圧20V。
【0052】
[実施の形態3]
実施の形態1で説明したように、プラズマ溶接電流とアーク溶接電流の極性を同相とする場合、アークのEP比率が50%未満となり、パルス溶接では安定した溶滴の移行が困難となり、スパッタ等が増加する場合がある。そのような場合には、アーク溶接法を短絡移行溶接法に限定するとよい。短絡移行溶接法ではアーク長が短く、また、短絡により溶滴が移行するため、安定して溶接を行なうことができる。
【0053】
このため、同相の交流をプラズマ電極およびアーク溶接の給電チップに供給する場合おいて、プラズマ溶接電流のEP比率が50%未満(EN比率が50%以上)となる場合には、アーク溶接のパルス溶接を短絡移行溶接としてアークを安定させ、溶滴移行を安定させると良い。
【0054】
図6は、実施の形態3のプラズマアークハイブリッド溶接装置がトーチに供給する電流および電圧を示した波形図である。
図6には、プラズマ溶接電流Ip、アーク溶接電流Ia、アーク溶接電圧Vaが上から順に示されている。なお、
図2におけるタイミング制御信号Sp,Saは、プラズマ溶接電流Ipと同様な波形である。
【0055】
プラズマ溶接電流Ipは、時刻t21~t22がEP極性であり、時刻t22~t23がEN極性である。1周期におけるEP極性である比率(EP比率)は、プラズマ電極の消耗を抑えるために、50%以下好ましくは30%以下に制御される。そして時刻t24以降は同じ周期、同じEP比率で波形が繰り返される。
【0056】
アーク溶接電源装置12は、プラズマ溶接とは異なり、交流周期よりも短い周期で短絡する短絡移行溶接を実行し、短絡移行溶接における印加電流の極性がタイミング制御信号Saに基づいて切替えられる。
【0057】
具体的には、時刻t1~t2において、アーク溶接電圧Vaはプラスであり、この間にアーク溶接電圧Va=0となる2つの短絡期間が存在し、そのときに電流が多く流れ溶滴がワイヤから母材に移行する。続く時刻t23~t24において、アーク溶接電圧Vaはマイナスであり、この間にアーク溶接電圧Va=0となる5つの短絡期間が存在し、そのときに電流が多く流れ溶滴がワイヤから母材に移行する。
【0058】
つまり、実施の形態3においては、
図6に示すように、第1交流電流(Ip)と第2交流電流(Ia)とは、位相が同相である。第1交流電流(Ip)は、プラズマ電極が正極、母材が負極となる時間Tp1が1周期Tc1において30%以下である。消耗電極式アーク溶接は、短絡移行溶接である。
【0059】
このようにすることにより、ワイヤから母材への溶滴の移行が安定化し溶接品質を向上させることができる。
【0060】
以上説明したように、実施の形態1~3のプラズマアークハイブリッド溶接装置によれば、プラズマアークハイブリッド溶接において、より安定して高溶着な溶接が可能になり、溶接欠陥を防ぎつつ、ギャップ裕度等の施工裕度を拡大することができる。
【0061】
なお、実施の形態1~3では、先行をプラズマ溶接、後行をアーク溶接としたが逆であっても良い。
【0062】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
1 プラズマアークハイブリッド溶接装置、2 プラズマ電極、3 給電チップ、4 母材、5 プラズマアーク、6 アーク、7 溶接ワイヤ、11 プラズマ溶接電源装置、12 アーク溶接電源装置、13,13A タイミング制御装置、21 EP比率入力部、22 プラズマ用信号発生部、23 アーク用信号発生部、24 位相反転回路、PS 電源ユニット、WT 溶接トーチ。