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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158363
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】アルミニウム部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/18 20060101AFI20231023BHJP
   C25D 11/04 20060101ALI20231023BHJP
   C25D 11/06 20060101ALI20231023BHJP
   C25D 11/12 20060101ALI20231023BHJP
   C25D 11/16 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
C25D11/18 305
C25D11/04 302
C25D11/06 C
C25D11/12 Z
C25D11/16 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068157
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】山口 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】西川 洋介
(57)【要約】
【課題】角度依存性が低く、染色されたアルミニウム部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム部材1は、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成された基材10と、基材10の表面と接するバリア層21と、バリア層21の基材10とは反対側に配置された第1ポーラス層22と、第1ポーラス層22のバリア層21とは反対の面に接する第2ポーラス層23とを含む陽極酸化皮膜20と、を備え、陽極酸化皮膜20には染料化合物が取り込まれており、第1ポーラス層22は複数の分岐する孔を有し、第2ポーラス層23は第1ポーラス層22と第2ポーラス層23との積層方向に直線状に延びる複数の孔を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金により形成された基材と、
前記基材の表面と接するバリア層と、前記バリア層の前記基材とは反対側に配置された第1ポーラス層と、前記第1ポーラス層の前記バリア層とは反対の面に接する第2ポーラス層とを含む陽極酸化皮膜と、
を備え、
前記陽極酸化皮膜には染料化合物が取り込まれており、
前記第1ポーラス層は複数の分岐する孔を有し、
前記第2ポーラス層は前記第1ポーラス層と前記第2ポーラス層との積層方向に直線状に延びる複数の孔を有する、アルミニウム部材。
【請求項2】
前記陽極酸化皮膜側から測定した前記アルミニウム部材のL表色系におけるa値が-90~+90、b値が-90~+90である、請求項1に記載のアルミニウム部材。
【請求項3】
前記アルミニウム部材の表面から前記基材と前記陽極酸化皮膜との界面よりも深い基材部分までをスパッタリングしながらグロー放電発光分析法で測定し、アルミニウムの強度が最大強度の98%である位置を前記界面とし、スパッタリング開始時間を0%とし、スパッタリングが前記界面に到達した時間を100%とした場合に、スパッタリング開始後20%から100%までの測定時間における窒素の最小強度に対する最大強度の比が10以上である、請求項1又は2に記載のアルミニウム部材。
【請求項4】
前記染料化合物はアゾ基を有している、請求項1又は2に記載のアルミニウム部材。
【請求項5】
前記染料化合物はクロムを有している、請求項1又は2に記載のアルミニウム部材。
【請求項6】
前記陽極酸化皮膜側から測定した前記アルミニウム部材のL表色系におけるL値、a値及びb値を-15°、15°、25°、45°、75°及び110°の検出器角度で測定し、Lが最大となった値とLが最小となった値との差をΔL、aが最大となった値とaが最小となった値との差をΔa が最大となった値とbが最小となった値との差をΔbとし、(Δaと(Δbと(ΔLとの合計の平方根をΔEとした場合、前記ΔEは110以下である、請求項1又は2に記載のアルミニウム部材。
【請求項7】
ゴニオフォトメーターを用いて前記陽極酸化皮膜側の反射強度を-80度~+20度の検出器角度で測定した場合において、最小反射強度に対する最大反射強度の比が400以下である、請求項1又は2に記載のアルミニウム部材。
【請求項8】
前記陽極酸化皮膜を除去した際の前記陽極酸化皮膜側における前記基材の表面の算術平均高さSaは0.1μm~0.7μmであり、最大高さSzは25μm~50μmであり、粗さ曲線要素の平均長さRSmは5μm~50μmである、請求項1又は2に記載のアルミニウム部材。
【請求項9】
前記第1ポーラス層は前記第2ポーラス層よりも大きい平均孔径の複数の孔を有する、請求項1又は2に記載のアルミニウム部材。
【請求項10】
アルミニウム又はアルミニウム合金により形成された基材を、直線状に延びる複数の孔を形成可能な電解液で第1陽極酸化する工程と、前記第1陽極酸化された基材を、複数の分岐する孔を形成可能な電解液で第2陽極酸化する工程とを含み、前記基材の表面に陽極酸化皮膜を形成する陽極酸化工程と、
前記陽極酸化皮膜に染料化合物を取り込む工程と、
を含む、アルミニウム部材の製造方法。
【請求項11】
前記第1陽極酸化の電解液は酸性電解液であり、前記第2陽極酸化の電解液は酸性又はアルカリ性電解液である、請求項10に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項12】
前記第2陽極酸化の電解液はカルボキシル基を有する化合物及びリン酸並びにこれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項10又は11に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項13】
前記第2陽極酸化の電解液はナトリウム、カリウム及びアンモニアからなる群より選択される少なくとも一種を含有する、請求項10又は11に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項14】
前記第1陽極酸化の電解液は硫酸、アミド硫酸及びカルボキシル基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項10又は11に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項15】
前記基材の表面に凹凸を形成する工程を含み、前記凹凸が形成された基材が前記第1陽極酸化される、請求項10又は11に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルミニウム部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば携帯機器やパソコン筐体を、白色の外観にしたいという要望が増加している。このような要望に応えるため、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成された基材の表面に陽極酸化皮膜を形成することによって、アルミニウム部材の外観を白色にする試みがなされている。
【0003】
特許文献1には、基材の表面の算術平均高さSaが0.1μm~0.5μmであり、最大高さSzが0.2μm~5μmであり、粗さ曲線要素の平均長さRSmが0.5μm~10μmであるアルミニウム部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6525035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のアルミニウム部材によれば、基材の算術平均高さSa、最大高さSz及び粗さ曲線要素の平均長さRSmを所定の範囲内とすることにより、白色の外観を有するアルミニウム部材が得られる。ところで、アルミニウム部材に意匠性を付与する方法として、陽極酸化したアルミニウムを様々な色に染色する方法が知られている。しかしながら、染色したアルミニウム部材は、アルミニウム自体の光沢により、見る角度によって見え方が異なる場合がある。
【0006】
本開示は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本開示の目的は、角度依存性が低く、染色されたアルミニウム部材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様に係るアルミニウム部材は、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成された基材と、基材の表面と接するバリア層と、バリア層の基材とは反対側に配置された第1ポーラス層と、第1ポーラス層のバリア層とは反対の面に接する第2ポーラス層とを含む陽極酸化皮膜と、を備え、陽極酸化皮膜には染料化合物が取り込まれており、第1ポーラス層は複数の分岐する孔を有し、第2ポーラス層は第1ポーラス層と第2ポーラス層との積層方向に直線状に延びる複数の孔を有する。
【0008】
本開示の第2の態様に係るアルミニウム部材の製造方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成された基材を、直線状に延びる複数の孔を形成可能な電解液で第1陽極酸化する工程と、第1陽極酸化された基材を、複数の分岐する孔を形成可能な電解液で第2陽極酸化する工程とを含み、基材の表面に陽極酸化皮膜を形成する陽極酸化工程と、陽極酸化皮膜に染料化合物を取り込む工程とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、角度依存性が低く、染色されたアルミニウム部材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係るアルミニウム部材の一例を示す断面図である。
図2】本実施形態に係るアルミニウム部材の製造方法の一例を示す図である。
図3】分光測色計を用いて角度依存性を評価する方法を説明する図である。
図4】ゴニオフォトメーターを用いて角度依存性を評価する方法を説明する図である。
図5】参考実施例1のアルミニウム部材の断面をFIB(集束イオンビーム)加工し、TEM(透過型電子顕微鏡)で2,550倍に拡大した画像である。
図6】参考実施例1のアルミニウム部材の断面をFIB加工し、TEMで19,500倍に拡大した画像である。
図7】参考実施例1のアルミニウム部材の断面をFIB加工し、TEMで43,000倍に拡大した画像である。
図8】参考比較例1のアルミニウム部材の断面をFIB加工し、TEMで2,550倍に拡大した画像である。
図9】参考比較例1のアルミニウム部材の断面をFIB加工し、TEMで19,500倍に拡大した画像である。
図10】参考比較例1のアルミニウム部材の断面をFIB加工し、TEMで43,000倍に拡大した画像である。
図11】参考比較例2のアルミニウム部材の断面をFIB加工し、TEMで2,550倍に拡大した画像である。
図12】参考比較例2のアルミニウム部材の断面をFIB加工し、TEMで19,500倍に拡大した画像である。
図13】参考比較例2のアルミニウム部材の断面をFIB加工し、TEMで43,000倍に拡大した画像である。
図14】参考実施例2のアルミニウム部材をGD-OES(グロー放電発光分析法)で測定した結果である。
図15】参考比較例3のアルミニウム部材をGD-OESで測定した結果である。
図16】実施例7のアルミニウム部材をGD-OESで測定した結果である。
図17】比較例7のアルミニウム部材をGD-OESで測定した結果である。
図18】実施例9のアルミニウム部材をGD-OESで測定した結果である。
図19】比較例9のアルミニウム部材をGD-OESで測定した結果である。
図20】実施例11のアルミニウム部材をGD-OESで測定した結果である。
図21】比較例11のアルミニウム部材をGD-OESで測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本実施形態に係るアルミニウム部材及びアルミニウム部材の製造方法について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
[アルミニウム部材]
まず、本実施形態に係るアルミニウム部材1について図1を用いて説明する。図1に示すように、アルミニウム部材1は、基材10と、陽極酸化皮膜20とを備えている。以下において、これらの構成要素を説明する。
【0013】
(基材10)
基材10は、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成される。基材10は、例えば、1000系合金、2000系合金、3000系合金、4000系合金、5000系合金、6000系合金、7000系合金又は8000系で形成されていてもよい。1000系合金としては、JIS規格に記載のA1050、A1050A、A1070、A1080、A1085、A1100、A1200、A1N00及びA1N30を例示することができる。2000系合金としては、JIS規格に記載のA2011、A2014、A2014A、A2017、A2017A、A2024、及びA2N01を例示することができる。3000系合金としては、JIS規格に記載のA3003、A3103、A3203、A3004、A3104、A3005及びA3105を例示することができる。4000系合金としては、JIS規格に記載のA4032を例示することができる。5000系合金としてはJIS規格に記載のA5005、A5N01、A5021、A5052、5N02及びA5042を例示することができる。6000系合金としては、JIS規格に記載のA6101、A6061、A6005、A6N01、A6151及びA6063を例示することができる。7000系合金としては、A7003、A7005、A7010、A7020、A7050、A7075A及びA7N01を例示することができる。8000系合金としては、JIS規格に記載のA8021、A8079を例示することができる。基材10は、0質量%~10質量%のマグネシウムと、5質量%以下の鉄と、13質量%以下のケイ素とを含有し、残部がアルミニウム及び不可避不純物であるアルミニウム又はアルミニウム合金により形成されてもよい。基材10は、0質量%~10質量%のマグネシウムと、5質量%以下の鉄と、13質量%以下のケイ素と、10質量%以下の亜鉛とを含有し、残部がアルミニウム及び不可避不純物であるアルミニウム又はアルミニウム合金により形成されてもよい。基材10は、0質量%~10質量%のマグネシウムと、5質量%以下の鉄と、13質量%以下のケイ素と、10質量%以下の銅とを含有し、残部がアルミニウム及び不可避不純物であるアルミニウム又はアルミニウム合金により形成されてもよい。基材10は、0質量%~10質量%のマグネシウムと、5質量%以下の鉄と、13質量%以下のケイ素と、10質量%以下の銅と、3質量%以下のマンガンとを含有し、残部がアルミニウム及び不可避不純物であるアルミニウム又はアルミニウム合金により形成されてもよい。
【0014】
マグネシウムは必ずしも基材10に含有されている必要はないが、基材10がマグネシウムを含有していると、アルミニウムとマグネシウムとが固溶して、基材10の強度を向上させることができる。また、マグネシウムの含有量を10質量%以下とすることにより、基材10の耐食性の低下を抑制しつつ、基材10の強度を向上させることができる。マグネシウムの含有量は、0.5質量%以上であってもよく、1質量%以上であってもよい。また、マグネシウムの含有量は、8質量%以下であってもよく、5質量%以下であってもよい。
【0015】
鉄、マンガン及びケイ素はアルミニウムと固溶しにくい。そのため、基材10がこれらの元素を含有する場合、これらの元素は陽極酸化皮膜20内に鉄又はケイ素を含む第二相として析出しやすい。陽極酸化皮膜20がこれらのような第二相を含有する場合、陽極酸化皮膜20内を透過する光の一部が第二相に吸収されるため、アルミニウム部材1が黄色を帯びた色のように見えてしまうことがある。基材10は3質量%以下の鉄を含有していてもよい。また、基材10は2質量%以下のマンガンを含有していてもよい。また、基材10は8質量%以下のケイ素を含有していてもよい。
【0016】
亜鉛は必ずしも基材10に含有されている必要はないが、基材10が亜鉛を含有していると、基材10の強度を維持することができる。また、亜鉛の含有量を10質量%以下とすることにより、基材10の強度を維持しつつアルミニウム部材1の外観が損なわれにくい。亜鉛の含有量は8質量%以下であってもよい。
【0017】
基材10は不可避不純物を含有していてもよい。本実施形態において、不可避不純物とは、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入したりするものを意味する。不可避不純物は、本来は不要なものであるが、微量であり、アルミニウム又はアルミニウム合金中の特性に影響を及ぼさないため、許容されている不純物である。アルミニウム又はアルミニウム合金中に含有される可能性がある不可避不純物は、アルミニウム、マグネシウム、鉄、及びケイ素以外の元素である。不可避不純物は、亜鉛以外の元素であってもよく、銅以外の元素であってもよい。アルミニウム又はアルミニウム合金中に含有される可能性がある不可避不純物としては、例えば、クロム、チタン、ガリウム、ホウ素、バナジウム、ジルコニウム、鉛、カルシウム及びコバルトなどが挙げられる。不可避不純物の量は、アルミニウム又はアルミニウム合金中に合計で0.5質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましく、0.15質量%以下がさらに好ましく、0.10質量%以下が特に好ましい。また、不可避不純物として含まれる個々の元素の含有量は0.05質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがさらに好ましい。
【0018】
基材10は陽極酸化皮膜20側の表面11に凹凸を有していてもよい。アルミニウム部材1は、表面11に形成された凹凸によって陽極酸化皮膜20を透過する光を拡散反射することができる。表面11の凹凸は、後述する粗面化処理によって形成することができる。陽極酸化皮膜20を除去した際の陽極酸化皮膜20側における基材10の表面11の算術平均高さSaは0.1μm~0.7μmであってもよい。また、陽極酸化皮膜20を除去した際の陽極酸化皮膜20側における基材10の表面11の最大高さSzは25μm~50μmであってもよい。また、陽極酸化皮膜20を除去した際の陽極酸化皮膜20側における基材10の表面11の粗さ曲線要素の平均長さRSmは5μm~50μmであってもよい。陽極酸化皮膜20を除去した際の陽極酸化皮膜20側における基材10の表面11の算術平均高さSaは0.1μm~0.7μmであり、最大高さSzは25μm~50μmであり、かつ、粗さ曲線要素の平均長さRSmは5μm~50μmであってもよい。
【0019】
算術平均高さSaを0.1μm以上とすることにより、陽極酸化皮膜20を透過した光が基材10の表面11で拡散反射するため、角度依存性をさらに改善することができる。また、算術平均高さSaを0.7μm以下とすることにより、陽極酸化皮膜20を透過した光が基材10の表面11の凹凸間で捕捉されるのを抑制することができるため、アルミニウム部材1の外観が灰色になるのを抑制することができる。算術平均高さSaは0.2μm以上であってもよく、0.3μm以上であってもよい。算術平均高さSaは0.4μm以下であってもよい。算術平均高さSaは、ISO25178に準じて測定することができる。
【0020】
最大高さSzを25μm以上とすることにより、陽極酸化皮膜20を透過した光が基材10の表面11で拡散反射するため、角度依存性をさらに改善することができる。また、最大高さSzを50μm以下とすることにより、陽極酸化皮膜20を透過した光が基材10の表面11の凹凸間で捕捉されるのを抑制することができるため、アルミニウム部材1の外観が灰色になるのを抑制することができる。最大高さSzは30μm以上であってもよい。最大高さSzは、ISO25178に準じて測定することができる。
【0021】
粗さ曲線要素の平均長さRSmを5μm以上とすることにより、基材10の表面11の凹凸のピッチが小さくなりすぎないため、陽極酸化皮膜20を透過した光が基材10の表面11の凹凸間で捕捉されるのを抑制することができる。したがって、アルミニウム部材1の外観が灰色になるのをさらに抑制することができる。また、粗さ曲線要素の平均長さRSmを50μm以下とすることにより、基材10の表面11の凹凸のピッチが大きくなりすぎない。そのため、陽極酸化皮膜20を透過した光が基材10の表面11で拡散反射し、角度依存性をさらに改善することができる。粗さ曲線要素の平均長さRSmは、10μm以上であってもよく、15μm以上であってもよい。また、粗さ曲線要素の平均長さRSmは、40μm以下であってもよい。粗さ曲線要素の平均長さRSmは、JIS B0601:2013(ISO 4287:1997,Amd.1:2009)に準じて測定することができる。
【0022】
基材10の表面11の算術平均高さSa、最大高さSz及び粗さ曲線要素の平均長さRSmは、基材10から陽極酸化皮膜20を除去することにより測定することができる。なお、基材10の表面11の凹凸は陽極酸化によって滑らかになるため、陽極酸化前の基材10の表面11の凹凸と陽極酸化後の基材10の表面11の凹凸とは形状が異なっているおそれがある。そのため、本実施形態では、陽極酸化皮膜20除去後の基材10の表面11の形状を測定している。基材10から陽極酸化皮膜20を除去する方法は特に限定されない。例えばJIS H8688:2013(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の単位面積当たりの質量測定方法)に準じ、アルミニウム部材1をリン酸クロム酸(VI)溶液に浸し、陽極酸化皮膜20を溶解して除去することができる。
【0023】
基材10の形状や厚さは特に限定されず、用途に応じて適宜変更することができる。また、基材10は、加工処理又は熱処理などがされていてもよい。
【0024】
(陽極酸化皮膜20)
陽極酸化皮膜20は、基材10の表面11に設けられる。このような陽極酸化皮膜20により、耐食性や耐摩耗性などを向上させることができる。陽極酸化皮膜20の膜厚は特に限定されないが、1μm~50μmであることが好ましい。陽極酸化皮膜20の膜厚を1μm以上とすることで、基材10が腐食するのを抑制することができる。また、陽極酸化皮膜20の膜厚を50μm以下とすることにより、光が陽極酸化皮膜20で吸光されるのを抑制することができる。陽極酸化皮膜20は、バリア層21と、第1ポーラス層22と、第2ポーラス層23とを含んでいる。
【0025】
バリア層21は基材10の表面11と接している。バリア層21は緻密な無孔質の層である。バリア層21の厚さは特に限定されないが、例えば1nm以上であってもよく、10nm以上であってもよい。また、バリア層21の厚さは、500nm以下であってもよく、300nm以下であってもよい。
【0026】
バリア層21は、酸化アルミニウムを含んでいる。また、バリア層21は、アルミニウム及び酸素の他、陽極酸化で用いた電解液の成分に由来する元素を含んでいてもよい。電解液の成分に由来する元素は、硫黄、炭素、ナトリウム、カリウム、リン、ケイ素、及び、アンモニアの構成元素である窒素からなる群より選択される少なくとも一種の元素であってもよい。
【0027】
第1ポーラス層22はバリア層21の基材10とは反対側に配置されている。本実施形態では、第1ポーラス層22はバリア層21の基材10とは反対側の面に接しているが、バリア層21と第1ポーラス層22との間に図示しない第3ポーラス層が配置されていてもよい。
【0028】
第1ポーラス層22は複数の分岐する孔を有している。第1ポーラス層22の各孔は樹状構造を有しており、第1ポーラス層22にはバリア層21の表面から第2ポーラス層23に向かって分岐しながら延びる複数の孔が設けられてもよい。第1ポーラス層22には、バリア層21の表面から第2ポーラス層23に向かって延びる直線状の孔が設けられており、直線状の孔から分岐する孔が設けられていてもよい。
【0029】
第1ポーラス層22は第2ポーラス層23よりも大きい平均孔径の複数の孔を有していてもよい。孔径を大きくする場合、電圧を高くすることができ、成膜速度を速くすることができる。また、第1ポーラス層22は第2ポーラス層23よりも小さい平均孔径の複数の孔を有していてもよい。なお、本明細書において、平均孔径は、透過型電子顕微鏡でアルミニウム部材1の断面を観察して10以上の孔を測定した平均値である。
【0030】
第1ポーラス層22の複数の孔の平均孔径は、5nm~350nmの範囲内であってもよい。第1ポーラス層22の平均孔径は、20nm以上であってもよく、50nm以上であってもよい。また、第1ポーラス層22の平均孔径は、300nm以下であってもよく、200nm以下であってもよく、150nm以下であってもよい。
【0031】
第1ポーラス層22の厚さは、特に限定されないが、10nm以上20000nm以下であってもよい。第1ポーラス層22の厚さを上記の範囲とすることにより、光の拡散反射を促進させることができる。第1ポーラス層22の厚さは、50nm以上であってもよく、100nm以上であってもよい。第1ポーラス層22の厚さは、15000nm以下であってもよく、10000nm以下であってもよい。
【0032】
第1ポーラス層22は、酸化アルミニウムを含んでいる。また、第1ポーラス層22は、アルミニウム及び酸素の他、陽極酸化の電解液に由来する成分を含んでいてもよい。電解液に由来する成分は、硫酸、リン酸及びこれらの塩類、蓚酸、サリチル酸、クエン酸、マレイン酸及び酒石酸等のようなカルボキシル基を含む酸並びにこれらの塩類、ケイ酸塩、並びに、アンモニウム塩などであってもよい。塩としては、ナトリウム塩及びカリウム塩などが挙げられる。
【0033】
第2ポーラス層23は、第1ポーラス層22のバリア層21とは反対の面に接している。第2ポーラス層23はアルミニウム部材1の最外層として配置され、露出していてもよい。第2ポーラス層23は、陽極酸化皮膜20の最外層であってもよい。
【0034】
第2ポーラス層23は第1ポーラス層22と第2ポーラス層23との積層方向に直線状に延びる複数の孔を有している。第2ポーラス層23は、第1ポーラス層22と接する面から露出する表面24に向かって整列して直線状に延びる複数の孔を有していてもよい。第2ポーラス層23の孔は、第1ポーラス層22の孔と連なっていてもよい。
【0035】
第2ポーラス層23の複数の孔の平均孔径は、1nm~200nmの範囲内であってもよい。第2ポーラス層23の平均孔径は、5nm以上であってもよく、10nm以上であってもよい。また、第2ポーラス層23の平均孔径は、100nm以下であってもよく、50nm以下であってもよく、20nm以下であってもよい。
【0036】
第2ポーラス層23の厚さは、特に限定されないが、2μm以上50μm以下であってもよい。第2ポーラス層23の厚さを2μm以上とすることにより、基材10の上に生成された陽極酸化皮膜20の干渉色を抑制することができる。第2ポーラス層23の厚さを50μm以下とすることにより、陽極酸化皮膜20を形成する際の溶解を低減することができる。第2ポーラス層23の厚さは、5μm以上であってもよく、8μm以上であってもよい。また、第2ポーラス層23の厚さは、25μm以下であってもよく、15μm以下であってもよい。
【0037】
第2ポーラス層23は、酸化アルミニウムを含んでいる。また、第2ポーラス層23は、酸化アルミニウムに加え、陽極酸化の電解液に由来する成分を含んでいてもよい。陽極酸化の電解液に由来する成分は、硫酸、アミド硫酸、リン酸及びこれらの塩類、蓚酸、サリチル酸、クエン酸、マレイン酸及び酒石酸等のようなカルボキシル基を含む酸並びにこれらの塩類、ケイ酸塩、並びに、アンモニウム塩などであってもよい。塩としては、ナトリウム塩及びカリウム塩などが挙げられる。第2ポーラス層23が上記成分を含むことにより、第2ポーラス層23の透光性が高くなることから、基材10の表面11で拡散された光を透過しやすくなる。
【0038】
陽極酸化皮膜20には染料化合物が取り込まれている。これにより、アルミニウム部材1は、取り込まれた染料化合物に起因する色を呈することができ、意匠の自由度を高めることができる。染料化合物は、第1ポーラス層22及び第2ポーラス層23の少なくともいずれか一方に取り込まれていてもよい。染料化合物は、第1ポーラス層22の孔内に配置されていてもよく、第2ポーラス層23の孔内に配置されていてもよい。染料化合物は表面24を含む陽極酸化皮膜20の表層に配置されていてもよい。染料化合物は、有機染料化合物及び無機染料化合物の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。染料化合物は、例えば、窒素元素を有していてもよい。
【0039】
有機染料化合物は、ニトロ基、アゾ基、スルホ基及びカルボニル基からなる群より選択される少なくとも一種の不飽和原子団を有していてもよい。また、有機染料化合物は、例えば、窒素元素を有していてもよい。例えば、染料化合物はアゾ基を有していてもよい。有機染料化合物は芳香族環を有していてもよい。有機染料化合物は、遷移金属元素を含んでいてもよい。有機染料化合物は、遷移金属元素より選ばれる少なくとも一種の元素を含んでいてもよく、二種以上の元素を含んでいてもよい。有機染料化合物は、クロム、コバルト、銅、ニッケル及び錫からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。例えば、染料化合物はクロムを有していてもよい。
【0040】
無機染料化合物は、遷移金属元素を含んでいてもよい。無機染料化合物は、遷移金属元素より選ばれる少なくとも一種の元素を含んでいてもよく、二種以上の元素を含んでいてもよい。無機染料化合物は、鉄、コバルト及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでいてもよい。無機染料化合物は、ニトロ基、アゾ基及びカルボニル基からなる群より選択される少なくとも一種の不飽和原子団を有していなくてもよい。無機染料化合物は芳香族環を有していなくてもよい。無機染料化合物は、シュウ酸鉄アンモニウム、シュウ酸鉄、シュウ酸コバルト、シュウ酸銅、酢酸鉄、酢酸コバルト、酢酸銅、硫酸鉄、硫酸コバルト、硫酸銅、塩化鉄、塩化コバルト、塩化銅、リン酸鉄、リン酸コバルト、及びリン酸銅からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0041】
第1ポーラス層22及び第2ポーラス層23の少なくともいずれか一方の複数の孔は、アルミニウムが水和されたアルミニウム水和物を含む封孔物を有していてもよい。封孔物はニッケル化合物を含んでいてもよい。また、封孔処理の代わりに透明の有機系材料、無機系材料、複合材料でコーティングされてもよい。有機系材料のコーティングの例としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びフッ素樹脂のような樹脂コーティングなどが挙げられる。無機系材料のコーティングの例としては、DLC(Diamond-like Carbon)、ケイ素などの金属がスパッタリングされたスパッタ膜、及び株式会社ディ・アンド・ディ製のパーミエイト(登録商標)シリーズ等でコーティングされた無機成分を含有する無機コーティング膜などが挙げられる。複合材料のコーティングの例としては、樹脂と無機物質とを含むコーティングなどが挙げられる。
【0042】
陽極酸化皮膜20側から測定したアルミニウム部材1のL表色系におけるL値、a値、及びb値は特に限定されない。L値は、0以上、10以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上、70以上、80以上、又は、90以上であってもよい。L値は、100以下、90以下、80以下、70以下、60以下、50以下、40以下、30以下、20以下、又は、10以下であってもよい。a値は、-90~+90以下であってもよい。a値は、-80以上、-70以上、-60以上、-50以上、-40以上、-30以上、-20以上、-10以上、0以上、10以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上であってもよい。a値は、80以下、70以下、60以下、50以下、40以下、30以下、20以下、10以下、0以下、-10以下、-20以下、-30以下、-40以下、-50以下、-60以下であってもよい。b値は、-90~+90以下であってもよい。b値は、-80以上、-70以上、-60以上、-50以上、-40以上、-30以上、-20以上、-10以上、0以上、10以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上であってもよい。b値は、80以下、70以下、60以下、50以下、40以下、30以下、20以下、10以下、0以下、-10以下、-20以下、-30以下、-40以下、-50以下、-60以下であってもよい。L表色系におけるL値、a値及びb値は、JIS Z8781-4:2013(測色-第4部:CIE 1976 L*a*b*色空間)に準じて求めることができる。L値、a値及びb値は色彩色差計などを用いて測定することができ、拡散照明垂直受光方式(D/0)、視野角2°、C光源のような条件で測定することができる。
【0043】
アルミニウム部材1の表面24から基材10と陽極酸化皮膜20との界面よりも深い基材部分までをスパッタリングしながらグロー放電発光分析法(GD-OES)で測定し、アルミニウムの強度が最大強度の98%である位置を上記界面とし、スパッタリング開始時間を0%とし、スパッタリングが上記界面に到達した時間を100%とした場合に、スパッタリング開始後20%から100%までの測定時間における窒素の最小強度に対する最大強度の比が10以上であってもよい。この場合、染料化合物が窒素元素を有し、染料化合物による意匠性の向上を期待することができる。なお、スパッタリング開始時間の0%からスパッタリング開始後20%までの時間は、陽極酸化皮膜の表層部分にあたり、強度のばらつきが多いことから測定対象外としている。
【0044】
陽極酸化皮膜20側から測定したアルミニウム部材1のL表色系におけるL値、a値及びb値を-15°、15°、25°、45°、75°及び110°の検出器角度で測定し、Lが最大となった値とLが最小となった値との差をΔL、aが最大となった値とaが最小となった値との差をΔa が最大となった値とbが最小となった値との差をΔbとし、(Δaと(Δbと(ΔLとの合計の平方根をΔEとした場合、ΔEは110以下であってもよい。ΔEは110以下であってもよく、100以下であってもよく、90以下であってもよく、80以下であってもよく、70以下であってもよく、60以下であってもよく、50以下であってもよい。ΔEの値を小さくするほど、角度依存性を改善することができる。そのため、上記比の下限値は0である。
【0045】
ゴニオフォトメーターを用いて陽極酸化皮膜20側の反射強度を-80度~+20度の検出器角度で測定した場合において、最小反射強度に対する最大反射強度の比が400以下であってもよい。上記比は、200以下であってもよく、100以下であってもよく、50以下であってもよく、20以下であってもよく、10以下であってもよく、4以下であってもよい。上記比を小さくするほど、角度依存性を改善することができる。そのため、上記比の下限値は1である。
【0046】
以上の通り、アルミニウム部材1は、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成された基材10を備える。アルミニウム部材1は、基材10の表面11と接するバリア層21と、バリア層21の基材10とは反対側に配置された第1ポーラス層22と、第1ポーラス層22のバリア層21とは反対の面に接する第2ポーラス層23とを含む陽極酸化皮膜20を備える。陽極酸化皮膜20には染料化合物が取り込まれている。第1ポーラス層22は複数の分岐する孔を有している。第2ポーラス層23は第1ポーラス層22と第2ポーラス層23との積層方向に直線状に延びる複数の孔を有する。
【0047】
第2ポーラス層23は、直線状に延びる複数の孔を有するために透光性が高く、入射光の大部分が第2ポーラス層23で吸収されずに第1ポーラス層22まで到達する。第1ポーラス層22は複数の分岐する孔を有する。そのため、第1ポーラス層22を通過した光が第1ポーラス層22で拡散反射する。基材10の表面11で反射された光は、第1ポーラス層22でさらに拡散反射し、第2ポーラス層23を通過する。そのため、本実施形態の染色されたアルミニウム部材1は、角度依存性が低いと推定される。アルミニウム部材1は、例えばスマートフォンやパソコンなどの筐体に好ましく用いることができる。
【0048】
[アルミニウム部材の製造方法]
次に、本実施形態に係るアルミニウム部材1の製造方法について説明する。アルミニウム部材1の製造方法は、図2に示すように、粗面化処理工程S1と、エッチング工程S2と、陽極酸化工程S3と、染色工程S6と、封孔処理工程S7とを含んでいる。
【0049】
(粗面化処理工程S1)
粗面化処理工程S1では、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成される基材10の表面11に凹凸を形成する。粗面化処理工程S1は必須の工程ではないが、アルミニウム部材1の角度依存性をさらに改善することができる。凹凸を形成する基材10は、例えば、所定の元素を有する溶湯の調製、鋳造、押出、圧延、熱処理などにより作製してもよい。また、凹凸を形成する基材10は、鋳造後、圧延後又は熱処理後、特段の表面処理をせずに、そのまま用いてもよい。また、凹凸を形成する基材10は、フライス盤による研削、並びに、エメリー紙、バフ研磨、化学研磨及び電解研磨等により表面11を研磨して用いてもよい。凹凸を形成する基材10の表面11は、算術平均高さSaを100nm未満程度に研磨してもよい。基材10の表面11の算術平均高さSaを100nm未満とすることにより基材10の明度が高くなる。
【0050】
基材10の表面11の凹凸は例えばブラスト処理で形成してもよい。ブラスト処理では、基材10の表面11に粒子を衝突させて凹凸を形成することができる。ブラスト処理の方法は特に限定されず、例えばウェットブラスト及びドライブラストの少なくともいずれか一方を用いることができる。凹凸を形成する工程では20μm以下の平均粒子径を有する粒子を基材10の表面11に衝突させて凹凸を形成してもよい。平均粒子径を20μm以下とすることにより、陽極酸化皮膜20を通過した光が基材10の表面11の凹凸で吸収されるのを抑制することができる。
【0051】
ブラスト処理の粒子の平均粒子径は、15μm以下であってもよく、12.5μm以下であってもよく、10.5μm以下であってもよい。一方、平均粒子径の下限は特に限定されないが、2μm以上であってもよい。平均粒子径を2μm以上とすることにより、基材10の表面11に適度に凹凸が形成されることから、陽極酸化皮膜20を通過してきた光を拡散反射させることができる。そのため、アルミニウム部材1の角度依存性をさらに改善することができる。ブラスト処理の粒子の平均粒子径は、5μm以上であってもよい。なお、平均粒子径は、体積基準における粒度分布の累積値が50%の時の粒子径を表し、例えば、レーザー回折・散乱法により測定することができる。
【0052】
ブラスト処理に用いられる粒子としては、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素、アルミナ、ジルコニアなどを含むセラミックビーズ、ステンレス、スチールなどを含む金属ビーズ、ナイロン、ポリエステル、メラミン樹脂などを含む樹脂ビーズ、ガラスなどを含むガラスビーズなどが挙げられる。なお、ウェットブラストの場合は、粒子を水などの液体に混ぜて基材10に吹き付けることができる。ブラスト処理の際の噴射圧力、粒子総数などの条件は特に限定されず、基材10の状態などに応じて適宜変更することができる。ブラスト処理では、入射角が所定値以下となるように粒子を基材10の表面11に衝突させてもよい。入射角は、60度以下であってもよく、45度以下であってもよく、30度以下であってもよく、15度以下であってもよく、5度以下であってもよい。
【0053】
基材10の表面11に凹凸を形成する方法はブラスト処理に限定されず、レーザー加工及び粗面化処理剤などを用いたエッチング処理などの他の方法で形成してもよい。レーザー加工では、基材10の表面11にレーザー光を照射することで凹凸を形成する。基材10の表面11の凹部及び凸部の径、深さ及びピッチなどは、レーザー光のスポット径、波長、出力、周波数及びパルス幅、基材10に対するレーザー光の移動速度などを調節することによって変更することができる。エッチング処理による粗面化処理では、例えば、奥野製薬工業株式会社のアルサテン(登録商標)OL-25等のフッ化物を含有した薬品を用いてエッチング処理することで凹凸を形成してもよい。基材10の表面11の凹部の深さ及び凸部の高さなどは、エッチング液の温度、濃度及び時間などを調節することによって変更することができる。
【0054】
(エッチング工程S2)
エッチング工程S2は、必須の工程ではないが、粗面化処理工程S1で形成された基材10の表面11の凹凸の角を取り除き、凹凸を滑らかにすることができる。エッチングの条件は特に限定されない。
【0055】
エッチング工程S2では、粗面化された基材10を、酸性溶液及びアルカリ性溶液の少なくともいずれか一方によりエッチングしてもよい。酸性溶液としては、例えば、塩酸、硫酸及び硝酸などの水溶液を用いることができる。また、アルカリ性溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び炭酸ナトリウムなどの水溶液を用いることができる。酸性溶液及びアルカリ性溶液の濃度などは特に限定されないが、水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合、例えば10g/L~100g/Lであってもよい。
【0056】
エッチング時間やエッチング温度も特に限定されず、基材10の状態やエッチング液に応じて適宜調整することができる。一例を挙げると、エッチング時間は5秒~90秒、エッチング温度は40℃~60℃である。
【0057】
(陽極酸化工程S3)
陽極酸化工程S3では、基材10の表面11に陽極酸化皮膜20を形成する。陽極酸化工程S3は、第1陽極酸化工程S4と、第2陽極酸化工程S5とを含んでいる。本実施形態では、第1陽極酸化工程S4と第2陽極酸化工程S5とによって基材10の表面11に陽極酸化皮膜20を形成しているが、第2陽極酸化工程S5の後に第3陽極酸化工程など、1以上の追加の陽極酸化を実施してもよい。
【0058】
(第1陽極酸化工程S4)
第1陽極酸化工程S4では、凹凸が形成された基材10を、直線状に延びる複数の孔を形成可能な電解液で第1陽極酸化する。第1陽極酸化で用いられる電解液は、第2ポーラス層23中にストレート状の複数の孔を形成可能であれば特に限定されない。電解液は、例えば、硫酸、アミド硫酸、リン酸及びこれらの塩類、カルボキシル基を含む酸並びにこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の電解質を含む水溶液であってもよい。カルボキシル基を含む酸としては、蓚酸、サリチル酸、クエン酸、マレイン酸及び酒石酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸が挙げられる。これらの中でも、第1陽極酸化の電解液は硫酸、アミド硫酸及びカルボキシル基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。第1陽極酸化の電解液は酸性電解液であることが好ましく、電解液のpHは例えば0~2であることが好ましい。電解液における上記電解質の濃度は、例えば1g/L~600g/Lである。
【0059】
第1陽極酸化の条件は特に制限されず、基材10の状態などに応じて適宜調整することができる。電解液の温度は、例えば0℃~30℃であってもよい。電流密度は、例えば1mA/cm~50mA/cmであってもよい。電解時間は、例えば3分~50分であってもよい。
【0060】
(第2陽極酸化工程S5)
第2陽極酸化工程S5では、第1陽極酸化された基材10を、複数の分岐する孔を形成可能な電解液で第2陽極酸化する。第2陽極酸化の電解液は、上記直線状に延びる複数の孔よりも大きい平均孔径を有する複数の孔を形成可能な電解液であってもよい。第2陽極酸化の電解液は、上記直線状に延びる複数の孔よりも小さい平均孔径を有する複数の孔を形成可能な電解液であってもよい。第2陽極酸化工程S5で用いられる電解液は、第1ポーラス層22中に複数の分岐する孔を形成可能であれば特に限定されない。電解液は、例えば蓚酸及び酒石酸などのようなカルボキシル基を有する化合物、リン酸、クロム酸、ホウ酸及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種の電解質を含む水溶液であってもよい。これらの中でも、第2陽極酸化の電解液は、カルボキシル基を有する化合物及びリン酸並びにこれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。例えば、第2陽極酸化の電解液は酒石酸塩水溶液であってもよい。第2陽極酸化の電解液はナトリウム、カリウム及びアンモニアからなる群より選択される少なくとも一種を含有していてもよい。第2陽極酸化の電解液は酸性又はアルカリ性電解液であってもよい。第2陽極酸化の電解液がアルカリ性電解液である場合、電解液のpHは例えば9~14である。電解液をアルカリ性にするため、電解液に水酸化ナトリウムなどを混合してもよい。電解液における上記電解質の濃度は、例えば0.5g/L~300g/Lである。
【0061】
第2陽極酸化の条件は特に制限されず、基材10の状態などに応じて適宜調整することができる。一例を挙げると、電解液の温度は、例えば0℃~40℃であってもよい。電圧は、例えば2V~500Vであってもよい。単位面積当たりの電気量は、例えば0.05C/cm~40C/cmであってもよい。電解時間は、例えば0.1分~180分であってもよい。
【0062】
(染色工程S6)
染色工程S6では、陽極酸化皮膜20に染料化合物を取り込む。染色工程S6では、陽極酸化皮膜20を浸漬などによって染料に接触させることにより、陽極酸化皮膜20に染料化合物を取り込むことができる。電解着色法により、染料化合物を陽極酸化皮膜20に取り込んでもよい。染料化合物は、上述したものを用いることができる。
【0063】
染料は、アゾ染料、アニオン染料、アントラキノン染料、塩基性染料、カルボニウム染料、キノリン染料、キノンイミン染料、金属錯塩染料、蛍光染料、酸性染料、直接染料、天然染料、反応染料、バット染料、媒染染料、フタロシアニン染料、分散染料、メチン染料、硫化染料及び建染染料からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。なお、アゾ染料としてはナフトール染料などが挙げられる。カルボニウム染料としては、ローダミン染料などのキサンテン染料、アクリジン染料、トリフェニルメタン染料などが挙げられる。キノンイミン染料としては、オキサジン染料及びチアジン染料などが挙げられる。バット染料としては、ロイコエステル染料などが挙げられる。メチン染料としては、メロシアニン染料などのシアニン染料、アゾメチン染料及びポリメチン染料などが挙げられる。
【0064】
染料は、有機染料及び無機染料の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。有機染料は、上述した有機染料化合物を含む染料である。無機染料は、上述した無機染料化合物を含む染料である。有機染料は、クロム酸塩アゾ染料、クロム錯塩アゾ染料及びコバルト錯塩アゾ染料からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。無機染料はシュウ酸鉄アンモニウム及び酢酸コバルトの少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。
【0065】
(封孔処理工程S7)
封孔処理工程S7は必須の工程ではないが、第1ポーラス層22の孔及び第2ポーラス層23の孔を封孔することにより、アルミニウム部材1の耐食性を向上させることができる。封孔処理は公知の方法で実施することができ、例えば、高温の水、高温の水蒸気、酢酸ニッケル水溶液、フッ化ニッケル、ケイ酸塩及びこれらの組み合わせによって実施することができる。封孔処理により、アルミニウムが水和されたアルミニウム水和物が、孔内に生成される。
【0066】
以上の通り、本実施形態に係るアルミニウム部材1の製造方法は、基材10の表面11に陽極酸化皮膜20を形成する陽極酸化工程S3と、陽極酸化皮膜20に染料化合物を取り込む工程とを含む。陽極酸化工程S3は、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成された基材10を、直線状に延びる複数の孔を形成可能な電解液で第1陽極酸化する工程S4を含む。陽極酸化工程S3は、第1陽極酸化された基材10を、複数の分岐する孔を形成可能な電解液で第2陽極酸化する工程S5を含む。
【0067】
上記方法は、第1陽極酸化工程S4及び第2陽極酸化工程S5を含むため、バリア層21と第1ポーラス層22と第2ポーラス層23とを含む陽極酸化皮膜20が形成される。そのため、上述したアルミニウム部材1を製造することができる。
【実施例0068】
以下、本実施形態を実施例及び比較例並びに参考実施例及び参考比較例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0069】
まず、実施例及び比較例に係るアルミニウム部材を作製した。
【0070】
[実施例1]
(粗面化処理)
圧延及び焼鈍した厚さ3mmの5000系アルミニウム合金板を、長さ50mm及び幅50mmに切り出したものを基材とした。5000系アルミニウム合金は、マグネシウム2.64質量%、鉄0.05質量%、ケイ素0.03質量%及び銅0.08質量%を含有し、残部がアルミニウム及び不可避不純物である。
【0071】
上記基材にドライブラストで粒子を衝突させ、基材の表面に凹凸を形成した。粒子は、株式会社不二製作所製のフジランダムWA 粒番号1200(アルミナ粒子、最大粒子径27.0 μm 平均粒子径 9.5±0.8μm)を用いた。ブラスト処理後、基材を200g/Lの硝酸水溶液に室温(約20℃)で2分間浸漬させて脱脂した。
【0072】
(エッチング)
凹凸が形成された基材を、温度50℃で濃度50g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に1分間浸漬してエッチングした後、濃度200g/Lの硝酸水溶液に室温(約20℃)で2分間浸漬してスマットを除去した。
【0073】
(第1陽極酸化)
エッチングされた基材を、濃度180g/Lの硫酸を含むpH0の酸性水溶液に浸漬し、温度18℃、電流密度15mA/cm及び電解時間22分の電解条件で第1陽極酸化した。
【0074】
(第2陽極酸化)
第1陽極酸化された部材を、濃度200g/Lの酒石酸二ナトリウム・2水和物と濃度3.5g/Lの水酸化ナトリウムとを含有するpH13のアルカリ性水溶液に浸漬させた。そして、上記部材を、温度5℃、電圧160V、昇圧速度1V/秒及び電解時間約3分の電解条件で第2陽極酸化した。
【0075】
(染色)
陽極酸化した部材を、3g/Lとなるように赤色染料(奥野製薬工業株式会社のTAC FIERY RED-GBM(Red105):クロム錯塩アゾ系酸性染料)を水に溶解して作製した染色液を用い、55℃で5分間染色した。
【0076】
(封孔処理)
染色した部材を、酢酸ニッケル系封孔剤(花見化学株式会社製 商品名:Sealing X)を用いて封孔処理した。封孔条件は、封孔剤の濃度33mL/L、封孔温度95℃、封孔時間20分とした。このようにして、本例のアルミニウム部材を作製した。
【0077】
[実施例2]
ブラスト処理をせずに基材を陽極酸化した以外は実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0078】
[実施例3]
赤色染料に代えて青色染料(奥野製薬工業株式会社のTAC BLUE BRL(Blue507):有機染料)を用いた以外は実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0079】
[実施例4]
ブラスト処理をせずに基材を陽極酸化した以外は実施例3と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0080】
[実施例5]
赤色染料に代えて黒色染料(奥野製薬工業株式会社のTAC BLACK-SLH-AN(Black415):クロム錯塩アゾ系酸性染料)を用いた以外は実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0081】
[実施例6]
ブラスト処理をせずに基材を陽極酸化した以外は実施例5と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0082】
[実施例7]
陽極酸化した部材を、10g/Lとなるように上記赤色染料を水に溶解した染色液を用い、55℃で10分間染色した以外は実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0083】
[実施例8]
ブラスト処理をせずに基材を陽極酸化した以外は実施例7と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0084】
[実施例9]
陽極酸化した部材を、10g/Lとなるように上記青色染料を水に溶解した染色液を用い、55℃で10分間染色した以外は実施例3と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0085】
[実施例10]
ブラスト処理をせずに基材を陽極酸化した以外は実施例9と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0086】
[実施例11]
陽極酸化した部材を、10g/Lとなるように上記黒色染料を水に溶解した染色液を用い、55℃で10分間染色した以外は実施例5と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0087】
[実施例12]
ブラスト処理をせずに基材を陽極酸化した以外は実施例11と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0088】
[比較例1]
第2陽極酸化をせずに第1陽極酸化した部材を染色した以外は実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0089】
[比較例2]
第2陽極酸化をせずに第1陽極酸化した部材を染色した以外は実施例2と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0090】
[比較例3]
第2陽極酸化をせずに第1陽極酸化した部材を染色した以外は実施例3と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0091】
[比較例4]
第2陽極酸化をせずに第1陽極酸化した部材を染色した以外は実施例4と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0092】
[比較例5]
第2陽極酸化をせずに第1陽極酸化した部材を染色した以外は実施例5と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0093】
[比較例6]
第2陽極酸化をせずに第1陽極酸化した部材を染色した以外は実施例6と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0094】
[比較例7]
第2陽極酸化をせずに第1陽極酸化した部材を染色した以外は実施例7と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0095】
[比較例8]
第2陽極酸化をせずに第1陽極酸化した部材を染色した以外は実施例8と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0096】
[比較例9]
第2陽極酸化をせずに第1陽極酸化した部材を染色した以外は実施例9と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0097】
[比較例10]
第2陽極酸化をせずに第1陽極酸化した部材を染色した以外は実施例10と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0098】
[比較例11]
第2陽極酸化をせずに第1陽極酸化した部材を染色した以外は実施例11と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0099】
[比較例12]
第2陽極酸化をせずに第1陽極酸化した部材を染色した以外は実施例12と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0100】
上記のようにして得られたアルミニウム部材の色調(L値、a値及びb値)、表面特性(Sa,Sz及びRSm)、第1ポーラス層平均孔径、及び、第2ポーラス層平均孔径を以下の通り評価した。結果を表1に示す。また、アルミニウム部材の角度依存性を、測色及び反射強度によって評価した。結果を表2~表13に示す。
【0101】
(色調)
JIS Z8722に準拠し、コニカミノルタジャパン株式会社製の色彩色差計CR400を用い、陽極酸化皮膜の表面からアルミニウム部材の色調を測色し、L値、a値及びb値を求めた。色調は、照明・受光光学系を拡散照明垂直受光方式(D/0)、観察条件をCIE2°視野等色関数近似、光源をC光源、及び、表色系をLの条件で測定した。
【0102】
(算術平均高さSa及び最大高さSz)
まず、JIS H8688:2013に準じ、上記のようにして得られたアルミニウム部材をリン酸クロム酸(VI)溶液に浸し、陽極酸化皮膜を溶解させて除去した。次に、基材の陽極酸化皮膜側の表面の算術平均高さSa及び最大高さSzを、ブルカー・エイエックスエス株式会社の3次元白色干渉型顕微鏡ContourGT-Iを用いて、ISO25178に準じて測定した。算術平均高さSa及び最大高さSzは、測定範囲を60μm×79μm、対物レンズを115倍、内部レンズを1倍の条件で測定した。
【0103】
(粗さ曲線要素の平均長さRSm)
まず、JIS H8688:2013に準じ、上記のようにして得られたアルミニウム部材の陽極酸化皮膜をリン酸クロム酸(VI)溶液に溶解させて除去した。次に、基材の陽極酸化皮膜側の表面における粗さ曲線要素の平均長さRSmを、ブルカー・エイエックスエス株式会社の3次元白色干渉型顕微鏡ContourGT-Iを用いて、JIS B0601:2013に準じて測定した。粗さ曲線要素の平均長さRSmは、カットオフλcを80μm、対物レンズを115倍、内部レンズを1倍、測定距離を79μmの条件で測定した。
【0104】
(平均孔径)
アルミニウム部材の断面を透過型電子顕微鏡で観察し、ポーラス層の平均孔径を測定した。
【0105】
(角度依存性-測色)
コニカミノルタジャパン株式会社製の分光測色計CM-M6を用い、L値、a値及びb値を測定した。具体的には、図3に示すように、光源からの光を入射角が45°となるようにアルミニウム部材101に照射し、反射角が45°となる角度を検出器角度0°とした。検出器角度0°よりも光源に近い位置を検出器角度の正の方向とし、検出器角度が-15°、15°、25°、45°、75°及び110°の場合のL値、a値及びb値を測定した。-15°、15°、25°、45°、75°及び110°におけるL値、a値及びb値のうち、Lが最大となった値(Lmax)とLが最小となった値(Lmin)との差をΔL、aが最大となった値(amax)とaが最小となった値(amin)との差をΔa が最大となった値(bmax)とbが最小となった値(bmin)との差をΔbとした。そして、(Δaと(Δbと(ΔLとの合計の平方根をΔEとして算出した。なお、測色の光源をD65光源、観察条件を2°視野とした。
【0106】
(角度依存性-反射強度)
アルミニウム部材の角度依存性を、ニッカ電測株式会社製のゴニオフォトメーター(GP-2型)を用いて評価した。具体的には、図4に示すように、アルミニウム部材101に対して光を照射し、検出器102が受光する光の強度を測定した。検出器102は、アルミニウム部材101を中心として所定の距離をおいて回転可能に設けられている。入射光103の入射角が45度及び反射光104の反射角が45度の位置に検出器102が配置される場合を検出器角度0度とした。検出器角度が-80度~+40度の範囲において0.5度間隔でアルミニウム部材101が反射する反射光104の陽極酸化皮膜側の反射強度を測定した。そして、検出器角度が-80度~+20度の範囲における最小反射強度に対する最大反射強度(最大反射強度/最小反射強度)の比を算出した。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【0110】
【表4】
【0111】
【表5】
【0112】
【表6】
【0113】
【表7】
【0114】
【表8】
【0115】
【表9】
【0116】
【表10】
【0117】
【表11】
【0118】
【表12】
【0119】
【表13】
【0120】
表2~表13に示すように、第1陽極酸化のみの場合と比較し、第1陽極酸化及び第2陽極酸化を実施したアルミニウム部材は、ΔE及び反射強度比の値が小さくなった。これらの結果から、第2陽極酸化により、角度依存性が低下し、アルミニウム部材を見る角度によって見え方が変わりにくくなったことが分かる。
【0121】
次に、実施例13~実施例16及び比較例13~比較例16に係るアルミニウム部材を作製した。そして、各例で得られたアルミニウム部材において、算術平均高さSa、最大高さ粗さSz、粗さ曲線要素の平均長さRSm、ΔE及び強度比をそれぞれ上記と同様に評価した。各例の詳細と評価結果をそれぞれ表14に示す。
【0122】
[実施例13]
粒番号1200の粒子に代えて、株式会社不二製作所製のフジランダムWA 粒番号800(最大粒子径38.0μm 平均粒子径14.0±1.0μm)を用いてブラスト処理した以外は、実施例7と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0123】
[比較例13]
粒番号1200の粒子に代えて、株式会社不二製作所製のフジランダムWA 粒番号800(最大粒子径38.0μm 平均粒子径14.0±1.0μm)を用いてブラスト処理した以外は、比較例7と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0124】
[実施例14]
粒番号1200の粒子に代えて、株式会社不二製作所製のフジランダムWA 粒番号1000(最大粒子径32.0μm 平均粒子径11.5±1.0μm)を用いてブラスト処理した以外は、実施例7と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0125】
[比較例14]
粒番号1200の粒子に代えて、株式会社不二製作所製のフジランダムWA 粒番号1000(最大粒子径32.0μm 平均粒子径11.5±1.0μm)を用いてブラスト処理した以外は、比較例7と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0126】
[実施例15]
実施例7と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0127】
[比較例15]
比較例7と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0128】
[実施例16]
粒番号1200の粒子に代えて、株式会社不二製作所製のフジランダムWA 粒番号2000(最大粒子径19.0μm 平均粒子径6.7±0.9μm)を用いてブラスト処理した以外は、実施例7と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0129】
[比較例16]
粒番号1200の粒子に代えて、株式会社不二製作所製のフジランダムWA 粒番号2000(最大粒子径19.0μm 平均粒子径6.7±0.9μm)を用いてブラスト処理した以外は、比較例7と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0130】
【表14】
【0131】
【表15】
【0132】
【表16】
【0133】
【表17】
【0134】
表14~表17に示すように、ブラスト粒子の平均粒子径が大きい程、Sa、Sz及びRSmが大きくなる傾向にあった。しかしながら、いずれのブラスト粒子を用いた場合であっても、第1陽極酸化のみの場合と比較し、第1陽極酸化及び第2陽極酸化を実施したアルミニウム部材は、ΔE及び反射強度比の値が小さくなった。これらの結果から、Sa、Sz及びRSmが変わっても、第2陽極酸化により、角度依存性が低下することが分かる。
【0135】
次に、透過型電子顕微鏡で断面を観察するためにアルミニウム部材を以下のようにして作製した。
【0136】
[参考実施例1]
(粗面化処理)
圧延及び焼鈍した厚さ3mmの5000系アルミニウム合金板を、長さ50mm及び幅50mmに切り出したものを基材とした。5000系アルミニウム合金は、マグネシウム4.31質量%、鉄0.02質量%及びケイ素0.02質量%を含有し、残部がアルミニウム及び不可避不純物である。
【0137】
上記基材にドライブラストで粒子を衝突させ、基材の表面に凹凸を形成した。粒子は、株式会社不二製作所製のフジランダムWA 粒番号1200(アルミナ粒子、最大粒子径27.0μm 平均粒子径9.5±0.8μm)を用いた。ブラスト処理後、基材を200g/Lの硝酸水溶液に室温(約20℃)で3分間浸漬させて脱脂した。
【0138】
(エッチング)
凹凸が形成された基材を、温度60℃で濃度50g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に60秒間浸漬してエッチングした後、濃度200g/Lの硝酸水溶液に室温(約20℃)で2分間浸漬してスマットを除去した。
【0139】
(第1陽極酸化)
エッチングされた基材を、濃度180g/Lの硫酸を含むpH0の酸性水溶液に浸漬し、温度18℃、電流密度15mA/cm及び電解時間11分の電解条件で第1陽極酸化した。
【0140】
(第2陽極酸化)
第1陽極酸化された部材を、濃度106g/Lの酒石酸二ナトリウム・2水和物と濃度3g/Lの水酸化ナトリウムとを含有するpH13のアルカリ性水溶液に浸漬させた。そして、上記部材を、温度5℃、電圧160V、昇圧速度1V/秒及び電解時間180秒の電解条件で第2陽極酸化した。このようにして、本例のアルミニウム部材を作製した。
【0141】
[参考比較例1]
第2陽極酸化を実施しなかった以外は参考実施例1と同様にして本例のアルミニウム部材を作製した。
【0142】
[参考比較例2]
第1陽極酸化を実施せず、第2陽極酸化の電圧を110V、電解時間を11分とした以外は参考実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0143】
図5図6及び図7は、参考実施例1のアルミニウム部材の断面をFIB加工し、透過型電子顕微鏡で2,550倍、19,500倍及び43,000倍にそれぞれ拡大した画像である。図8図9及び図10は、参考比較例1のアルミニウム部材の断面をFIB加工し、透過型電子顕微鏡で2,550倍、19,500倍及び43,000倍にそれぞれ拡大した画像である。図11図12及び図13は、参考比較例2のアルミニウム部材の断面をFIB加工し、透過型電子顕微鏡で2,550倍、19,500倍及び43,000倍にそれぞれ拡大した画像である。図5図13に示すように、第1ポーラス層は複数の分岐する孔を有し、第2ポーラス層は直線状に延びる複数の孔を有することが分かる。図5図13並びに図示しないGD-OESによる元素分析の結果から、参考実施例1の陽極酸化皮膜は、第2陽極酸化に由来するバリア層及び第1ポーラス層が基材の表面に形成されていることが分かった。また、第1陽極酸化に由来する第2ポーラス層が第1ポーラス層の表面に形成されていることが分かった。
【0144】
なお、上記実施例のアルミニウム部材についても、第2ポーラス層は直線状に延びる複数の孔を有し、第1ポーラス層は複数の分岐する孔を有していた。以上の結果から、第1ポーラス層と第2ポーラス層を備え、第1ポーラス層が複数の分岐する孔を有し、陽極酸化皮膜には染料化合物が取り込まれているアルミニウム部材は、角度依存性が低いことが分かる。
【0145】
次に、染料の状態について確認するため、各例のアルミニウム部材をGD-OESにより測定した。図14図21は、参考実施例2、参考比較例3、実施例7、比較例7、実施例9、比較例9、実施例11、及び比較例11に係るアルミニウム部材のGD-OES結果である。
【0146】
[参考実施例2]
陽極酸化した部材を染色せずに封孔処理した以外は、実施例7と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0147】
[参考比較例3]
陽極酸化した部材を染色せずに封孔処理した以外は、比較例7と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0148】
図14及び図16並びに図15及び図17の結果から、赤色染料で染色したアルミニウム部材は、染料に由来するCrが陽極酸化皮膜中に存在することが確認できた。図14及び図18並びに図15及び図19の結果から、青色染料で染色したアルミニウム部材は、陽極酸化皮膜中にCrが存在していないことが確認できた。これは、青色染料には、Crが確認可能なくらいまで含まれていなかったためと考えられる。図14及び図20並びに図15及び図21の結果から、黒色染料で染色したアルミニウム部材は、染料に由来するCrが陽極酸化皮膜中に存在することが確認できた。
【0149】
また、GD-OESにより、染料に含まれる窒素元素を確認した。具体的には、陽極酸化皮膜側の露出した表面からアルミニウム部材をスパッタリングしながら、窒素の強度を0.2秒間隔で測定した。陽極酸化皮膜の表層部分にあたる部分は、窒素強度が安定していないと考えられる。したがって、陽極酸化皮膜に取り込まれた染料化合物の状態を確認するため、アルミニウムの強度が最大強度の98%である位置を基材と陽極酸化皮膜との界面とした。そして、スパッタリング開始時間を0%とし、スパッタリングが界面に到達した時間を100%とした場合に、スパッタリング開始後20%から100%までの測定時間における窒素の強度を測定した。そして、窒素の最小強度に対する最大強度の比を算出した。すなわち、スパッタリング開始からアルミニウムの強度が最大強度の98%に達するまで要した時間は、陽極酸化皮膜部分のスパッタリング時間に相当する。また、アルミニウムの強度が最大強度の98%に達した以降の時間は基材のスパッタリング時間に相当する。そして、本例では、陽極酸化皮膜部分の分析は、表層20%を除く残り80%の時間の窒素の強度値を用いた。また、最小強度及び最大強度は、スパッタリング開始よりX秒後からX+1秒後までの実測強度を平均したものを、スパッタリング開始よりX秒後における強度として使用した。例えば、スパッタリング開始より200秒後の強度は、200秒後、200.2秒後、200.4秒後、200.6秒後、200.8秒後、201秒後の強度の平均値とした。結果を表18に示す。
【0150】
【表18】
【0151】
表18に示すように、染色されていない参考実施例2及び参考比較例3のアルミニウム部材と比較し、染色された実施例7、比較例7、実施例9、比較例9、実施例11及び比較例11のアルミニウム部材の窒素強度は大きいことが確認できた。具体的には、染色されたアルミニウム部材の窒素強度は10以上であることが確認できた。このことから、染色されたアルミニウム部材には、窒素を有する染料化合物が取り込まれていることが分かる。
【0152】
以上、本実施形態を実施例及び比較例によって説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0153】
1 アルミニウム部材
10 基材
11 表面
20 陽極酸化皮膜
21 バリア層
22 第1ポーラス層
23 第2ポーラス層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21