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特開2023-158367記録媒体、印刷セット、および導電部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158367
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】記録媒体、印刷セット、および導電部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/52 20060101AFI20231023BHJP
   H05K 3/10 20060101ALI20231023BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20231023BHJP
   B41M 1/30 20060101ALI20231023BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20231023BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20231023BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20231023BHJP
   C09D 11/38 20140101ALI20231023BHJP
【FI】
B41M5/52 110
H05K3/10 D
B41J2/01 501
B41M1/30 E
B41M5/00 120
B32B27/20 Z
C09D11/52
C09D11/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068163
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】306029349
【氏名又は名称】ゼネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】磯部 浩三
(72)【発明者】
【氏名】平田 周孝
(72)【発明者】
【氏名】滝川 永一
【テーマコード(参考)】
2C056
2H113
2H186
4F100
4J039
5E343
【Fターム(参考)】
2C056FC06
2H113AA01
2H113AA03
2H113AA06
2H113BA17
2H113BB02
2H113BB07
2H113BB22
2H113BB32
2H113BC09
2H113BC10
2H113BC12
2H113CA17
2H113CA46
2H113DA04
2H113DA15
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2H113DA56
2H113DA57
2H113DA58
2H113DA63
2H113EA10
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2H186BA15
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2H186FB16
2H186FB17
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2H186FB29
2H186FB48
2H186FB56
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4F100AA20B
4F100AB01B
4F100AH02B
4F100AK01B
4F100AK23B
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4F100AT00A
4F100BA02
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5E343AA16
5E343AA18
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5E343CC06
5E343DD15
5E343DD59
5E343FF05
5E343GG11
5E343GG20
(57)【要約】
【課題】より短時間の乾燥によって良好な導電性を有する導電層を形成でき、RtoR方式での作業にも十分に対応できる上、当該作業をする装置等に影響を及ぼさない記録媒体、当該記録媒体とインクジェット印刷用のインクとを含む印刷セット、およびかかる印刷セットを用いて、ICタグ等の導電部材を生産性良く製造するための製造方法を提供する。
【解決手段】記録媒体は、基材の少なくとも片面に形成されて印刷面を構成する、親水性樹脂、充填材、および水溶性の硫酸塩を含み、分散剤によって処理された金属微粒子、水、および低級アルコールを含むインクを受容するインク受容層を含む。印刷セットは、上記記録媒体とインクとを含む。導電部材の製造方法は、上記記録媒体の印刷面に、上記インクをインクジェット印刷して導電層を形成する工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散剤によって処理された金属微粒子、水、および低級アルコールを含むインクをインクジェット印刷して導電層を形成するための印刷面を含む記録媒体であって、
・ 基材と、
・ 前記基材の少なくとも片面に形成されて前記印刷面を構成する、親水性樹脂、充填材、および水和物を形成しうる硫酸塩を含み、前記インクを受容するインク受容層と、
を含むことを特徴とする記録媒体。
【請求項2】
前記インク受容層に含まれる硫酸塩は、硫酸ナトリウム、および硫酸アルミニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載の記録媒体。
【請求項3】
前記インク受容層に含まれる親水性樹脂は、ポリビニルアセタールである請求項1に記載の記録媒体。
【請求項4】
前記インク受容層に含まれる充填材は、シリカである請求項1に記載の記録媒体。
【請求項5】
前記基材の片面に、バリア層を介して前記受容層が形成されて、前記印刷面とされているとともに、前記基材の反対面は、感熱記録面とされている請求項1に記載の記録媒体。
【請求項6】
・ 前記請求項1ないし5のいずれか1項に記載の記録媒体と、
・ 分散剤によって処理された金属微粒子、水、および低級アルコールを含み、前記記録媒体の前記印刷面にインクジェット印刷されて前記導電層を形成するためのインクと、
を含む印刷セット。
【請求項7】
前記低級アルコールは炭素数1~3の低級アルコールで、かつ前記水と前記炭素数1~3の低級アルコールの総量中に占める前記水の割合は20質量%以上、75質量%以下である請求項6に記載の印刷セット。
【請求項8】
前記インクは、さらに炭素数12以上の高級アルコールを含む請求項6に記載の印刷セット。
【請求項9】
前記請求項1ないし5のいずれか1項に記載の記録媒体の前記印刷面に、分散剤によって処理された金属微粒子、水、および低級アルコールを含むインクをインクジェット印刷して、前記導電層を形成する工程を含む導電部材の製造方法。
【請求項10】
前記低級アルコールは炭素数1~3の低級アルコールで、かつ前記水と前記炭素数1~3の低級アルコールの総量中に占める前記水の割合は20質量%以上、75質量%以下である請求項9に記載の導電部材の製造方法。
【請求項11】
前記インクは、さらに炭素数12以上の高級アルコールを含む請求項9に記載の導電部材の製造方法。
【請求項12】
前記導電部材は、ICチップを含むICタグ、前記導電層は、前記ICチップのアンテナであって、形成した前記導電層上に、前記ICチップを実装する工程をさらに含む請求項9に記載の導電部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子を含むインクをインクジェット印刷して導電層を形成するための印刷面を含む記録媒体、当該記録媒体とインクジェット印刷用のインクとを含む印刷セット、およびかかる印刷セットを用いて導電部材を製造するための製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、RFIDなどのICタグが、商品管理等に多用されている。従来のICタグは、シート状の基材の表面にラミネートされた、アルミ箔等の金属箔からなるアンテナと、当該アンテナ上に実装されたICチップとで構成されるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-004375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし上記従来技術では、ラミネートされた金属箔を所定のアンテナの形状にパターン形成するために、レジスト印刷、エッチング処理、レジスト除去等の多数の工程を経なければならず、生産性が低いという課題がある。また、エッチング処理やレジスト除去の際に発生する廃液等の処理も問題となる。そこで、水等の分散媒中に金属微粒子(金属ナノ粒子)を分散させた金属コロイド溶液を原料とするインクを用いて、インクジェット印刷によって、導電層を、基材の表面に直接に、所定の平面形状となるようにパターン形成することが検討された。
【0005】
金属コロイド溶液は、たとえば金属塩の水溶液に、高分子分散剤等の分散剤と、還元剤とを添加するか、あるいは分散剤と還元剤とを兼ねるデキストリン等を添加することで、液中に金属を微粒子状に還元析出させたのち、脱塩、濃縮等の工程を経て製造される。析出した金属微粒子は、表面が分散剤によって処理、すなわち分散剤によって覆われて、金属コロイド溶液中での分散安定性が維持される。
【0006】
インクは、金属コロイド溶液に、必要に応じて水や水溶性有機溶剤等の分散媒、あるいは界面活性剤等を加えて調製される。ところが、かかるインクを用いて、インクジェット印刷によってパターン形成した層は、金属微粒子間に分散剤が介在しているため良好な導電性を有さず、いわば、導電層の前駆層の状態に過ぎない。
【0007】
当該前駆層に良好な導電性を発現させて、導電層として十分に機能させるためには、形成した前駆層を焼成して、金属微粒子間に介在する分散剤を除去しなければならない。そのため、かかる形成方法では、熱に弱いプラスチック等の基材上に、導電層を形成することはできない。
【0008】
またICタグ等では、基材の、アンテナを形成する面と反対面に感熱記録層を形成する等して、当該反対面を、たとえばバーコード等の可視的な情報を記録するための感熱記録面とすることが検討されている。しかし、焼成を伴う上記の形成方法では、焼成時に感熱記録面が感熱発色して、感熱記録の機能が失われてしまうため、アンテナとして適した導電性を有する導電層を含み、しかも感熱記録の機能を兼ね備えたICタグ等を製造することはできない。
【0009】
特許文献1には、シート状の基材上に、ハロゲンの塩を含む多孔質のインク受容層を形成した記録媒体を用いることにより、当該インク受容層の表面(印刷面)に、焼成せずに常温(5~35℃)程度の環境下で導電層を形成することが開示されている。
【0010】
すなわち、金属コロイド溶液を原料とするインクを上記インク受容層の印刷面に供給すると、当該インク中の水がインク受容層中に浸透して、当該インク受容層中に含まれるハロゲンの塩を溶解させる。そして金属微粒子の表面を被覆する分散剤が、溶解によって生じたハロゲンのイオンと反応して金属微粒子の表面から離脱し、当該金属微粒子を印刷面上に残した状態で、水とともにインク受容層中に取り込まれる。
【0011】
そのため印刷面上では、インクの乾燥が促進されるとともに、当該印刷面上に残された多数の金属微粒子が、インクの乾燥に伴い、分散剤が除去されて互いに直接に接触する機会が増加した状態で凝集される。その結果、焼成しなくても常温程度の環境下で、適度の導電性が発現された導電層が形成される。つまり、インク受容層中に含まれるハロゲンの塩は、焼成工程に代わる導電性発現剤として機能することになる。この記録媒体を、インクジェット印刷による導電層の形成に適用することが考えられる。
【0012】
ところが、とくにインクの乾燥性を高めて乾燥時間を短くするために、当該インクの分散媒として、水とともに、揮発性を有する炭素数5以下の低級アルコールを併用すると、特許文献1に記載の記録媒体では、インクの乾燥性が却って低下してしまう傾向がある。そして、適度の導電性を有する導電層を形成するために比較的長時間を要し、たとえばインクジェット印刷後の記録媒体を、一定時間に亘って静置して乾燥させなければならない場合を生じる。
【0013】
そのため上記の記録媒体では、とくに産業用途での生産性を考慮したロール・ツー・ロール(RtoR)方式の作業に十分に対応できないという課題がある。RtoR方式の作業とは、一般に、長尺のロール状に巻回した記録媒体をロールから繰り出しながら何らかの処理、この場合はインクジェット印刷による導電層の形成処理をした後、記録媒体を停止させずに送り続けながら、連続的にロール状に巻き取る作業を指す。
【0014】
また、ハロゲンの塩は金属に対する腐食性が強いため、たとえばRtoR方式の作業をする装置に通常に組み込まれている金属ロール等の金属部品を使用できなくなる場合もある。
【0015】
本発明の目的は、現状よりも短時間の乾燥によって良好な導電性を有する導電層を形成できるため、RtoR方式での作業にも十分に対応できる上、当該作業をする装置等に影響を及ぼさない記録媒体、当該記録媒体とインクジェット印刷用のインクとを含む印刷セット、およびかかる印刷セットを用いて、ICタグ等の導電部材を生産性良く製造するための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、分散剤によって処理された金属微粒子、水、および低級アルコールを含むインクをインクジェット印刷して導電層を形成するための印刷面を含む記録媒体であって、
・ 基材と、
・ 前記基材の少なくとも片面に形成されて前記印刷面を構成する、親水性樹脂、充填材、および水和物を形成しうる硫酸塩を含み、前記インクを受容するインク受容層と、
を含むことを特徴とする記録媒体である。
【0017】
また本発明は、
・ 前記本発明の記録媒体と、
・ 分散剤によって処理された金属微粒子、水、および低級アルコールを含み、前記記録媒体の前記印刷面にインクジェット印刷されて前記導電層を形成するためのインクと、
を含む印刷セットである。
【0018】
さらに本発明は、前記本発明の記録媒体の前記印刷面に、分散剤によって処理された金属微粒子、水、および低級アルコールを含むインクをインクジェット印刷して、前記導電層を形成する工程を含む導電部材の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、現状よりも短時間の乾燥によって良好な導電性を有する導電層を形成できるため、RtoR方式での作業にも十分に対応できる上、当該作業をする装置等に影響を及ぼさない記録媒体、当該記録媒体とインクジェット印刷用のインクとを含む印刷セット、およびかかる印刷セットを用いて、ICタグ等の導電部材を生産性良く製造するための製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
《記録媒体》
本発明は、上述したように、分散剤によって処理された金属微粒子、水、および低級アルコールを含むインクをインクジェット印刷して導電層を形成するための印刷面を含む記録媒体であって、
・ 基材と、
・ 当該基材の少なくとも片面に形成されて、インクジェット印刷によって導電層を形成するための印刷面を構成する、親水性樹脂、充填材、および導電性発現剤としての、水和物を形成しうる硫酸塩を含み、インクを受容するインク受容層と、
を含むことを特徴とするものである。
【0021】
前述した従来の記録媒体の印刷面に、水と低級アルコールとの混合分散媒を含むインクを用いてインクジェット印刷をした際に、当該インクの乾燥性が却って低下してしまうのは、従来の記録媒体で導電性発現剤として用いているハロゲンの塩が、主な原因である。すなわちハロゲンの塩は、上記混合分散媒に対する溶解性が低いため、低級アルコールを併用する分、インク中での水の濃度が低くなることと相まって、インク受容層中に水を効果的に取り込ませて、インクを速やかに乾燥させることができない。
【0022】
そのため従来の記録媒体では、上記混合分散媒を含むインクの乾燥性が却って低下して、前述したようにRtoR方式での作業に適した短時間でインクを十分に乾燥させることができない。
【0023】
これに対し、本発明の記録媒体によれば、インク受容層に含まれる、水和物を形成しうる硫酸塩、つまり基本的に水溶性の硫酸塩が、従来のハロゲンの塩と同様に、導電性付与剤として機能する。すなわち水溶性の硫酸塩は、インク中の水によって溶解して硫酸イオンを発生し、発生した硫酸イオンは、金属微粒子の表面を被覆する分散剤と反応することで、当該分散剤を金属微粒子の表面から離脱させて、水とともにインク受容層中に取り込ませる働きをする。
【0024】
そのため、印刷面上でのインクの乾燥が促進されるとともに、当該印刷面上に残された多数の金属微粒子が、インクの乾燥に伴い、分散剤が除去されて互いに直接に接触する機会が増加した状態で凝集される。その結果、焼成しなくても常温程度の環境下で、適度の導電性が発現された導電層が形成される。
【0025】
その上、水溶性の硫酸塩は、従来のハロゲンの塩よりも、水と低級アルコールとの混合分散媒に対する溶解性にとくに優れているため、インク受容層中に、上記のメカニズムによって、水をより効果的に取り込ませることもできる。したがって、本来的に高い乾燥性を有する上記混合分散媒を含むインクを組み合わせることにより、より短時間でインクを速やかに乾燥させて、適度の導電性が発現された導電層を形成することができる。
【0026】
しかも水溶性の硫酸塩は、ハロゲンの塩のように、金属に対する強い腐食性を有しないため、本発明によれば、RtoR方式での作業に十分に対応できる上、当該作業をする装置等に影響を及ぼさない記録媒体を提供することが可能となる。
【0027】
〈基材〉
本発明の記録媒体を構成する基材としては、たとえば紙類や樹脂フィルム等が挙げられ、このうち紙類としては、たとえば上質紙、中質紙、アート紙、ボンド紙、再生紙、パライタ紙、キャストコート紙、段ボール紙、コンデンサー紙、グラシン紙等が挙げられる。
【0028】
また、樹脂フィルムを構成する樹脂としては、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリスチレン、ABS樹脂等のスチレン系樹脂;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、トリアセテート、エポキシ樹脂、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、フッ素樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンスルファイド、セロファン、ナイロン等が挙げられる。これらの樹脂の、1種または2種以上を用いることができる。
【0029】
とくに本発明によれば、先に説明したように、導電層の形成時に焼成を必要としないため、基材としては、上記ポリプロピレン等の、耐熱性の低いプラスチックのフィルムを用いることも可能である。また基材としては、上記紙類や樹脂フィルムの2種以上を積層した積層体を用いることもできる。
【0030】
本発明の記録媒体は、上記基材の片面または両面に、インク受容層用の塗剤を塗布し、乾燥させてインク受容層を形成することで、当該片面または両面を、インクジェット印刷によって導電層を形成するための印刷面とすることで構成される。
【0031】
基材の厚みは、製造する記録媒体や導電部材の用途、あるいは使用する基材の種類や構成(単層か積層体か、印刷面は片面か両面か)等に応じて、任意に設定することができる。
【0032】
また、導電層の形成時に焼成を必要としないため、本発明の記録媒体は、上記基材の片面を、インク受容層を形成して上記印刷面とするとともに、反対面は、前述したように感熱記録層を形成する等して、感熱記録面として機能させることもできる。
【0033】
(感熱記録層)
感熱記録面を構成する感熱記録層は、従来同様に、たとえば塩基性で通常は無色の色素(ロイコ色素)と、酸性の顕色剤とを組み合わせて構成することができる。感熱記録層の厚みは、任意に設定できる。しかし、感熱記録層の熱応答性や印字の鮮明性を向上すること等を考慮すると、感熱記録層の厚みは4μm以上、とくに6μm以上であるのが好ましく、10μm以下、とくに8μm以下であるのが好ましい。
【0034】
(バリア層)
とくに基材が浸透性を有する紙類である場合、当該基材とインク受容層との間には、バリア層を介在させるのが好ましい。バリア層としては、たとえばインク受容層用の塗剤や、インク受容層の表面である印刷面にインクジェット印刷されるインクに含まれる成分が、基材を通して感熱記録層に浸透するのを抑制するべく、上記両者間を物理的、かつ化学的に隔離できる層が好ましい。
【0035】
かかるバリア層を介在させることにより、感熱記録層中のロイコ色素が、インク受容層用の塗剤やインクに含まれる成分、とくにアルコールと反応して感熱記録層の全体が地発色するのを抑制することができる。また、顕色剤とロイコ色素との反応が妨げられて、感熱記録時に発色不良が生じるのを抑制することもできる。
【0036】
またバリア層は、印刷面にインクジェット印刷されたインク中の水分やアルコールによって、とくに紙類からなる基材がふやけて波打ったりするのを抑制するためにも機能する。さらにバリア層は、基材上に水性のインク受容層用の塗剤を塗布した際に、とくに紙類からなる基材がふやけて波打ったりするのを抑制する、いわゆる目止めとしても機能する。
【0037】
バリア層は、これらの機能を有する種々の材料、とくに樹脂によって形成することができる。バリア層のもとになる樹脂としては、たとえば完全けん化ポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール等の任意のけん化度を有するポリビニルアルコール系樹脂;アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、ジアセトン変性ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、ケイ素変性ポリビニルアルコール、イタコン酸変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコール系樹脂;エチレン-ビニルアルコール共重合体、ウレタン系樹脂、任意のけん化度を有するブテンジオール-ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。これらの樹脂の、1種または2種以上を用いることができる。
【0038】
バリア層の厚みは、任意に設定できる。しかし、上述したバリア層としての機能をより効果的なものとすること等を考慮すると、バリア層の厚みは1μm以上、とくに2μm以上であるのが好ましく6μm以下、とくに4μm以下であるのが好ましい。
【0039】
〈インク受容層〉
基材の片面または両面に形成するインク受容層は、前述したように親水性樹脂、充填材、および水溶性の硫酸塩を含んでいる。インク受容層は、先に説明したように、これらの成分を含む塗剤を、基材の片面または両面に塗布したのち乾燥させて形成される。
【0040】
インク受容層の厚みは、製造する記録媒体や導電部材の用途、あるいは使用する基材の種類や構成(印刷面は片面か両面か)等に応じて、任意に設定することができる。しかしインク受容層の厚みは1μm以上、中でも3μm以上、とくに5μm以上であるのが好ましく、40μm以下、中でも35μm以下、とくに30μm以下であるのが好ましい。
【0041】
インク受容層の厚みがこの範囲未満では、インク中の混合分散媒や金属微粒子の分散剤を効率よくインク受容層中に取り込んでインクを速やかに乾燥させる効果が不十分になる場合がある。一方、インク受容層の厚みが上記の範囲を超える場合には、基材の種類や厚み等にもよるが、基材に対するインク受容層の追従性が低下して、当該基材から剥離したりしやすくなる場合がある。これに対し、インク受容層の厚みを上記の範囲とすることにより、当該インク受容層に適度の柔軟性を付与して、基材から剥離しにくい状態を維持しながら、インクを速やかに乾燥させる効果をさらに向上することができる。
【0042】
(親水性樹脂)
親水性樹脂は、充填材や硫酸塩を結着して、インク受容層を形成するためのバインダとして機能する。また親水性樹脂は、インク受容層の表面である印刷面にインクがインクジェット印刷された際に、当該インク中の、水と低級アルコールとの混合分散媒をインク受容層中に取り込んで、インクの乾燥を促進する働きもする。さらに親水性樹脂は、取り込んだ水によって硫酸塩を溶解させて硫酸イオンを発生させ、当該硫酸イオンを金属微粒子の表面を被覆する分散剤と反応させて金属微粒子の表面から離脱させて、水とともにインク受容層中に取り込む働きもする。
【0043】
親水性樹脂としては、たとえばポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール系樹脂;ポリアクリル酸等のアクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ウレタン系樹脂、デンプン系樹脂、カルボキシメチルセルロース系樹脂などの、従来公知の種々の、親水性の樹脂がいずれも使用可能である。
【0044】
ただし、特許文献1の実施例で効果を検証しているポリビニルアルコールは、水と低級アルコールとの混合分散媒に若干の膨潤性を有しており、乾燥性に影響を及ぼす場合がある。ポリビニルアルコールをアセタール化してなるポリビニルアセタールのうち、アセタール化度が50モル%を超えるものも同様の傾向がある。
【0045】
これに対し、ポリビニルアルコールをアセタール化してなり、アセタール化度が50モル%以下であるポリビニルアセタールは、水と低級アルコールとの混合分散媒の吸収性に優れる上、かかる混合分散媒に膨潤せず、それ自体の乾燥性にも優れている。そのため、親水性樹脂としては、アセタール化度が50モル%以下であるポリビニルアセタールが好適に使用される。
【0046】
アセタール化度が上記の範囲にあるポリビニルアセタールの具体例としては、これに限定されないが、たとえば積水化学工業(株)製のエスレック(登録商標)シリーズのポリビニルアセタールのうち、2-プロパノールと水との混合溶媒による溶液として供給されるKX-1〔アセタール化度:8±2モル%、固形分量:8±2質量%〕、KX-5〔アセタール化度:9±2モル%、固形分量:8±2質量%〕、水溶液として供給されるKW-M〔アセタール化度:24±3モル%、固形分量:20±2質量%〕、KW-10〔アセタール化度:9±2モル%、固形分量:24±2質量%〕等が挙げられる。これらポリビニルアセタールの1種または2種以上を用いることができる。
【0047】
ただし本発明では、ポリビニルアルコールや、アセタール化度が50モル%を超えるポリビニルアセタールを排除するものではなく、これらの樹脂を、親水性樹脂として使用することも可能である。
【0048】
このうち、ポリビニルアルコールの具体例としては、これに限定されないが、たとえばバインダ用として、いずれも揮発分が5%以下の固形で供給される、(株)クラレ製のクラレポバール(登録商標)シリーズのポリビニルアルコールのうちPVA-105、PVA-117、PVA-124等の完全けん化ポリビニルアルコール、PVA-205、PVA-217、PVA-224等の部分けん化ポリビニルアルコール、PVA-205C、PVA-217C、PVA-224C等の部分けん化高純度ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらポリビニルアルコールの1種または2種以上を用いることができる。
【0049】
さらに、アセタール化度が50モル%を超えるポリビニルアセタールの具体例としては、これに限定されないが、たとえば積水化学工業(株)製のエスレックシリーズのポリビニルアセタールのうち、いずれも揮発分が3%以下の固形で供給されるBL-10〔アセタール化度:約70モル%〕、BL-1〔アセタール化度:約63モル%〕、BL-1H〔アセタール化度:約69モル%〕、BL-S〔アセタール化度:約72モル%〕、BL-2H〔アセタール化度:約69モル%〕、BL-5Z〔アセタール化度:約77モル%〕、BL-7Z〔アセタール化度:約69モル%〕等が挙げられる。これらポリビニルアセタールの1種または2種以上を用いることができる。
【0050】
親水性樹脂の割合は、固形分換算で、インク受容層を形成する固形分の総量100質量部中の5質量部以上、とくに10質量部以上であるのが好ましく、35質量部以下、とくに30質量部以下であるのが好ましい。親水性樹脂の割合がこの範囲未満では、インク受容層の柔軟性や、基材に対する追従性が低下して、当該基材から剥離したりしやすくなる場合がある。
【0051】
一方、親水性樹脂の割合が上記の範囲を超える場合には、相対的に充填材の割合が少なくなるため、次項で説明する、充填材を配合することによる、インク受容層を多孔質化して、インク中に含まれる混合分散媒の吸収性を向上する効果が十分に得られない場合がある。また、相対的に硫酸塩の割合が少なくなって、当該硫酸塩を配合することによる、より短時間でインクを速やかに乾燥させて、適度の導電性が発現された導電層を形成する効果が得られない場合がある。
【0052】
これに対し、親水性樹脂の割合を上記の範囲とすることにより、インク受容層に適度の柔軟性を付与して、基材から剥離しにくい状態を維持しながら、インク受容層を多孔質化して、インク中に含まれる混合分散媒の吸収性を向上することができる。また、より短時間でインクを速やかに乾燥させて、適度の導電性が発現された導電層を形成することも可能となる。
【0053】
(充填材)
充填材は、親水性樹脂中に分散されることでインク受容層を多孔質化して、インク中に含まれる混合分散媒の吸収性を向上するために機能する。充填材としては、無機系または有機系の、種々の充填材を用いることができる。
【0054】
このうち無機系充填材としては、たとえば軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、ジルコニア、セリウム、酸化アンチモン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、シリカ(非晶質合成シリカ、コロイダルシリカ、シリカゾル等)、アルミナ、コロイダルアルミナ、アルミナ水和物、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、水酸化マグネシウム等からなる、多孔質または非多孔質の微粒子等が挙げられる。
【0055】
また有機系充填材としては、たとえばポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン/アクリル系樹脂、スチレン/ブタジエン系樹脂、スチレン/イソプレン系樹脂、メチルメタクリレート/ブチルメタクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、シリコーン系樹脂、尿素樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂等からなる、多孔質または非多孔質の微粒子等が挙げられる。
【0056】
充填材の平均粒子径は、当該充填材の種類(無機系か有機系か、多孔質体か非多孔質体か)等に応じて適宜選択することができる。ただし充填材としては、混合分散媒の吸収性を向上する効果の点で、酸性、中性、ないしアルカリ性で、かつ一次粒子径が1nm~100nm程度の各種シリカ(コロイダルシリカ、シリカゾル等)が好ましい。
【0057】
充填材の割合も、当該充填材の種類等に応じて適宜選択することができる。たとえば充填材がシリカである場合、当該シリカの割合は、インク受容層を形成する固形分の総量100質量部中の40質量部以上、とくに50質量部以上であるのが好ましく、80質量部以下、とくに70質量部以下であるのが好ましい。またシリカの割合は、親水性樹脂100質量部あたり200質量部以上、とくに250質量部以上であるのが好ましく、400質量部以下、とくに350質量部以下であるのが好ましい。
【0058】
シリカの割合がこの範囲未満では、当該シリカを配合することによる、インク受容層を多孔質化して、インク中に含まれる混合分散媒の吸収性を向上する効果が十分に得られない場合がある。一方、シリカの割合が上記の範囲を超える場合には、相対的に、結着剤としての親水性樹脂の割合が少なくなるため、インク受容層の柔軟性や、基材に対する追従性が低下して、当該基材から剥離したりしやすくなる場合がある。
【0059】
これに対し、シリカの割合を上記の範囲とすることにより、インク受容層に適度の柔軟性を付与して、基材から剥離しにくい状態を維持しながら、インク受容層を多孔質化して、インク中に含まれる混合分散媒の吸収性を向上することができる。
【0060】
なおシリカとして、任意の分散媒中にシリカ微粒子を分散させた、コロイダルシリカやシリカゾル等を用いる場合、上記の割合は、当該コロイダルシリカ等の中に含まれる、固形分としてのシリカ自体の質量部とする。
【0061】
これら充填材のうちの1種、または種類や粒子径の異なる2種以上を用いることができる。
【0062】
(硫酸塩)
硫酸塩としては、水和物を形成しうる、すなわち水溶性を有する種々の硫酸塩を用いることができる。水溶性の硫酸塩としては、たとえば硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。中でも、前述した硫酸塩を配合することによる効果の点で、とくに硫酸ナトリウム、および硫酸アルミニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種がさらに好ましい。
【0063】
このうち硫酸ナトリウムとしては、結晶化の温度によって異なる無水物、および10水和物のいずれを用いることもできる。また硫酸アルミニウムとしては、水酸化アルミニウムを硫酸に溶かした溶液を濃縮、冷却して合成される18水和物や、当該18水和物を熱処理して得られる16水和物、10水和物、6水和物、無水物のいずれを用いることもできる。さらに硫酸マグネシウムとしては、天然に存在する7水和物や、当該7水和物を熱処理して得られる1水和物、無水物のいずれを用いることもできる。
【0064】
硫酸塩の割合は、無水物換算で、インク受容層を形成する固形分の総量100質量部中の5質量部以上、とくに10質量部以上であるのが好ましく、35質量部以下、とくに30質量部以下であるのが好ましい。また硫酸塩の割合は、無水物換算で、親水性樹脂100質量部あたり25質量部以上、とくに50質量部以上であるのが好ましく、175質量部以下、とくに150質量部以下であるのが好ましい。
【0065】
硫酸塩の割合がこの範囲未満では、当該硫酸塩を配合することによる、より短時間でインクを速やかに乾燥させて、適度の導電性が発現された導電層を形成する効果が得られない場合がある。一方、硫酸塩の割合が上記の範囲を超える場合には、過剰の硫酸塩が阻害成分となって、導電層の導電性が却って低下する場合がある。これに対し、硫酸塩の割合を上記の範囲とすることにより、より短時間でインクを速やかに乾燥させて、適度の導電性が発現された導電層を形成することが可能となる。
【0066】
《印刷セット》
本発明の印刷セットは、先に説明したように、上記本発明の記録媒体と、当該記録媒体の印刷面に導電層を形成するためのインクとを含んでいる。
【0067】
〈インク〉
印刷セットを構成するインクは、従来同様に、水等の分散媒中に金属微粒子(金属ナノ粒子)を分散させた金属コロイド溶液を原料として調製される。金属微粒子を形成する金属としては、金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、ニッケル、ビスマス、アルミニウム、亜鉛、スズ、コバルト、鉄等が挙げられる。これら金属の1種のみ、もしくは2種以上の合金を用いることができる。とくに、前述したICタグの、ICチップのアンテナ用としては銀またはその合金が好ましい。
【0068】
金属微粒子を含む金属コロイド溶液は、従来同様に金属塩の水溶液に、高分子分散剤等の分散剤と還元剤とを添加したり、分散剤と還元剤とを兼ねるデキストリン等を添加したりすることで、液中に、金属を微粒子状に還元析出させる工程を経て製造される。析出した金属微粒子は、表面が分散剤によって処理、すなわち分散剤によって覆われて、金属コロイド溶液中での分散安定性が維持される。あるいは金属コロイド溶液は、気相法、液相法等の各種の製造方法によって製造された金属微粒子を、水等の分散媒中に、分散剤とともに分散させて製造することもできる。
【0069】
本発明の印刷セットを構成するインクは、上記金属コロイド溶液に、分散媒として水と低級アルコールとを加え、さらに必要に応じて高級アルコールや界面活性剤等を添加して調製される。分散媒として水と、揮発性を有する低級アルコールとの混合分散媒を用いることにより、先に説明した本発明の記録媒体を用いることと相まってインクの乾燥性を高めて、乾燥時間をより一層、短くすることができる。
【0070】
低級アルコールとしては、炭素数5以下の種々の低級アルコールが使用可能であり、とくに炭素数1~3の低級アルコールが、より揮発性が高いため好適に使用される。炭素数1~3の低級アルコールとしては、たとえばメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等が挙げられる。これら低級アルコールの1種または2種以上を用いることができる。
【0071】
水と低級アルコールとの混合分散媒における両者の割合は、任意に設定することができる。ただし水と、炭素数1~3の低級アルコールとの総量中に占める水の割合は、20質量%以上、とくに30質量%以上であるのが好ましく、75質量%以下、とくに70質量%以下であるのが好ましい。水の割合がこの範囲未満では、相対的に炭素数1~3の低級アルコールの割合が多くなりすぎて、記録媒体のインク受容層中に含まれる硫酸塩の溶解性が低下する。そのため、先に説明したメカニズムによる、金属微粒子の表面を覆う分散剤をインク受容層中に取り込んで、導電層に適度の導電性を付与する効果が不十分になる場合がある。
【0072】
またインクが乾燥しやすくなるため、当該インクを、とくにオンデマンド型のインクジェットプリンタに使用して、デキャップタイムの終了後に印刷を再開した際に、ノズルで目詰まりして掠れ等を生じやすく、間欠印刷性が良好でなくなる場合もある。デキャップタイムとは、インクジェットプリンタに複数設けられたノズルのうち、間欠印刷時に、印刷パターンに応じてインク滴が吐出されない待機状態とされたノズル内のインクが、外気にさらされている時間を指す。
【0073】
オンデマンド型のインクジェットプリンタには通常、運転停止時に、ノズル内のインクが外気にさらされ続けることで乾燥して目詰まりしたりしないように、ノズルを閉じる(キャップする)機能が付与されているのが一般的である。しかし印刷時には、キャップは解除されている。そのため、とくに間欠印刷時に待機状態となるノズルは、次にインク滴が吐出されるまでの間、ノズルが閉じられていない状態(デキャップの状態)が続き、その間、ノズル内のインクは外気にさらされ続けることになる。
【0074】
よって上記時間、つまりデキャップタイムが長いほど、インクが乾燥してノズルの目詰まりを生じやすくなる傾向がある。デキャップタイムに乾燥しにくく、ノズルの目詰まりを生じにくい特性が、「間欠印刷性」の良否として評価される。目詰まりを生じないデキャップタイムが長ければ長いほど、インクは、間欠印刷性が良好であると評価できる。
【0075】
一方、混合溶媒における水の割合が前述した範囲を超える場合には、相対的に炭素数1~3の低級アルコールの割合が少なくなり、当該低級アルコールを水と併用することによる、インクの乾燥性を高めて乾燥時間を短くする効果が不十分になる場合がある。これに対し、水の割合を前述した範囲とすることにより、間欠印刷性に優れる上、乾燥性を高めて、より短時間で、適度の導電性を有する導電層を形成しうるインクを提供することが可能となる。なお、混合溶媒における水の割合は、インクの調製時に加える水と、金属コロイド溶液中に含まれる水との合計の割合である。
【0076】
インクには、前述したように高級アルコールを添加してもよい。高級アルコールは、上述したデキャップタイムに、ノズルの先端部で、インクの液面を覆う薄膜を形成して、当該インクの乾燥によるノズルの目詰まりを抑制するために機能する。すなわち高級アルコールは、炭素数1~3の低級アルコールには良好に溶解するものの、水にはほとんど溶解しない。
【0077】
ところがノズルの先端部におけるインクの液面、つまり空気との界面付近では、低級アルコールの揮発が速いため、揮発しにくい水が残って、当該水の濃度が高くなる傾向がある。そのため、インク中から高級アルコールが析出しやすくなり、析出した高級アルコールがインクの液面を覆う薄膜を形成して、インクの乾燥が抑制される。よって、高級アルコールを添加することにより、ノズルの目詰まりをさらに抑制して、インクの間欠印刷性をより一層向上できる。高級アルコールとしては、とくに炭素数12以上の高級アルコールが好ましい。なお高級アルコールの炭素数の上限はとくに限定されないが、18以下であるのが好ましい。
【0078】
炭素数12以上の高級アルコールとしては、これに限定されないが、たとえば新日本理化(株)製のコノール(登録商標)シリーズの高級アルコールのうち1275〔ラウリルアルコール、C12:70~80%、C14:20~30%〕、1495〔ミリスチルアルコール、C14:≧99%〕、1695〔セチルアルコール、C16:≧99%〕、30OC〔セトステアリルアルコール、C16:68~78%、C18:22~32%〕、30RC〔セトステアリルアルコール、C16:65~75%、C18:25~35%〕、30CK〔セトステアリルアルコール、C16:45~55%、C18:45~55%〕、1865〔ステアリルアルコール、C16:25~35%、C18:65~75%〕、30F〔ステアリルアルコール、C16:7~17%、C18:83~93%〕、30S〔ステアリルアルコール、C16:≦5%、C18:≧95%〕、30SS〔ステアリルアルコール、C18:≧99%〕等が挙げられる。これら高級アルコールの1種または2種以上を用いることができる。
【0079】
界面活性剤は、インクジェットプリンタのノズル等に対するインクの濡れ性を調整して、当該ノズルからのインク滴の吐出を適正化したりするために機能する。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤が、いずれも使用可能である。
【0080】
インクを構成する上記各成分のうち、金属微粒子の割合は、インクの総量中の5質量%以上、とくに10質量%以上であるのが好ましく、40質量%以下、とくに30質量%以下であるのが好ましい。金属微粒子の割合は、形成する導電層の導電性に応じて、上記の範囲で適宜調整することができる。特に高い導電性を有することが求められる、ICチップのアンテナの場合は、金属微粒子の割合を、上記の範囲でもより高い範囲に設定すればよい。ただし、1回の印刷で導電性が低くても、2回、3回と重ねて印刷することで、導電性を向上することは可能である。
【0081】
炭素数12以上の高級アルコールの割合は、インクの総量中の0.1質量%以上であるのが好ましく、1.0質量%以下であるのが好ましい。また界面活性剤の割合は、インクの総量中の0.1質量%以上であるのが好ましく、0.5質量%以下であるのが好ましい。
【0082】
このうち高級アルコールの割合が上記の範囲未満では、当該高級アルコールを配合することによる、前述した、インクの間欠印刷性を向上する効果が十分に得られない場合がある。一方、高級アルコールの割合が上記の範囲を超える場合には、インクの安定性が低下したり、印刷面に形成された導電層中に高級アルコールが残留して、当該導電層の導電性が低下したりする場合がある。これに対し、高級アルコールの割合を上記の範囲とすることにより、導電層の導電性が低下するのを抑制しながら、インクの間欠印刷性を、さらに向上することができる。
【0083】
水と、炭素数1~3の低級アルコールの合計の割合は、他の成分の残量である。すなわち、金属コロイド溶液中に含まれる金属微粒子や分散剤、添加する高級アルコールや界面活性剤の割合を、それぞれ上記の範囲に設定した際に、インクの総量が100質量%となるように、配合量を設定すればよい。
【0084】
《導電部材の製造方法》
本発明の導電部材の製造方法は、上記本発明の印刷セットを用いることを特徴とする。すなわち本発明の製造方法は、本発明の記録媒体の、片面または両面に形成したインク受容層の表面である印刷面に、印刷セットのインクを用いて、インクジェット印刷によって導電層をパターン形成する工程を含んでいる。
【0085】
かかる本発明の製造方法によれば、焼成せずに常温程度の環境下で、しかもRtoR方式での作業に適した短時間でインクを十分に乾燥させて、適度の導電性を有する導電層を形成して、任意の導電部材を製造することができる。そのため、たとえば基材として、ポリプロピレン等の、耐熱性の低いプラスチックのフィルムを用いた導電部材を製造することが可能となる。
【0086】
また基材の片面を、インク受容層を形成して印刷面とするとともに、反対面は、前述したように感熱記録層を形成して、感熱記録面として機能させて、導電部材としてのICタグを製造することもできる。すなわち印刷面に、印刷セットのインクを用いて、インクジェット印刷によって、アンテナとしての導電層をパターン形成したのち、当該導電層上に、任意の方法でICチップを実装し、さらに反対面である感熱記録面に、感熱記録によって、バーコード等の可視的な情報を記録すると、ICタグが製造される。
【実施例0087】
以下に本発明を、実施例、比較例に基づいてさらに説明するが、本発明の構成は、これらの例に限定されるものではない。
【0088】
《記録媒体》
〈実施例i〉
(インク受容層用塗剤の調製)
下記の各成分を表1に示す割合で配合し、さらに水とエタノールの混合分散媒を加えたのちかく拌して混合させて、インク受容層用塗剤を調製した。
【0089】
親水性樹脂:ポリビニルアセタール〔積水化学工業(株)製のエスレックKX-1、アセタール化度:8±2モル%、固形分量:8±2質量%〕
充填材:コロイダルシリカ〔扶桑化学工業(株)製のクォートロン(登録商標)PL-3、一次粒子径:35nm、シリカ濃度:20%〕
硫酸塩:硫酸ナトリウム無水物
なお表中、親水性樹脂の質量部は、イソプロパノールと水の混合溶媒による溶液として供給されるKX-1中に含まれる、固形分としてのポリビニルアセタール自体の質量部であり、充填材としてのシリカの質量部は、コロイダルシリカPL-3中に含まれる、固形分としてのシリカ自体の質量部である。
【0090】
【表1】
【0091】
(基材、およびバリア層の形成)
基材としては、坪量64.0g/mの上質紙を用意し、当該基材の片面に、ウレタン系樹脂を含む、バリア層用の塗剤を塗布したのち乾燥させて、厚み3μmのバリア層を形成した。
【0092】
(記録媒体の作製)
上記基材のバリア層上に、先に調製したインク受容層用塗剤を塗布したのち乾燥させて、厚み10μmのインク受容層を形成して、記録媒体を作製した。
【0093】
〈実施例ii〉
硫酸塩として、硫酸アルミニウム無水物を同量配合したこと以外は実施例iと同様にしてインク受容層用塗剤を調製し、記録媒体を作製した。
【0094】
〈実施例iii〉
硫酸塩として、硫酸マグネシウム無水物を同量配合したこと以外は実施例iと同様にしてインク受容層用塗剤を調製し、記録媒体を作製した。
【0095】
〈比較例i〉
硫酸塩に代えて、ハロゲンの塩である塩化ナトリウムを同量配合したこと以外は実施例iと同様にしてインク受容層用塗剤を調製し、記録媒体を作製した。
【0096】
〈実施例iv〉
親水性樹脂としてポリビニルアルコール〔(株)クラレ製のクラレポバールPVA-117、固形〕を同量配合したこと以外は実施例iと同様にしてインク受容層用塗剤を調製し、記録媒体を作製した。
【0097】
〈実施例v〉
親水性樹脂としてポリビニルアセタール〔積水化学工業(株)製のエスレックKW-M、アセタール化度:24±3モル%、固形分量:20±2質量%〕を、固形分量が同量となるように配合したこと以外は実施例iと同様にしてインク受容層用塗剤を調製し、記録媒体を作製した。
【0098】
〈実施例vi〉
親水性樹脂としてポリビニルアセタール〔積水化学工業(株)製のエスレックBL-1、アセタール化度:約63モル%、固形〕を同量配合したこと以外は実施例iと同様にしてインク受容層用塗剤を調製し、記録媒体を作製した。
【0099】
〈実施例vii~xii〉
親水性樹脂としてのポリビニルアセタール〔積水化学工業(株)製のエスレックKX-1、アセタール化度:8±2モル%、固形分量:8±2質量%〕、充填材としてのコロイダルシリカ〔扶桑化学工業(株)製のクォートロンPL-3、一次粒子径:35nm、シリカ濃度:20%〕、および硫酸塩を、それぞれ表2に示す質量部で配合したこと以外は実施例iと同様にしてインク受容層用塗剤を調製し、記録媒体を作製した。
【0100】
なお表中、親水性樹脂の質量部は、イソプロパノールと水の混合溶媒による溶液として供給されるKX-1中に含まれる、固形分としてのポリビニルアセタール自体の質量部であり、充填材としてのシリカの質量部は、コロイダルシリカPL-3中に含まれる、固形分としてのシリカ自体の質量部である。
【0101】
【表2】
【0102】
《インク》
〈インク1〉
(銀コロイド溶液の調製)
硝酸銀16.98質量部、水74.90質量部、および0.1Nの硝酸2質量部を含む硝酸酸性の硝酸銀水溶液に、高分子分散剤〔ビックケミー・ジャパン(株)製のディスパービック(Disperbyk、登録商標)190〕0.52質量部を加えて溶解させた。次いで、高分子分散剤が完全に溶解した時点で、還元剤としてのトリエタノールアミン5.6質量部を加えて銀を微粒子状に還元析出させた。この時点での銀濃度は10.8質量%であった。次いで、上記反応液をイオン交換処理して脱塩し、さらに濃縮して銀コロイド溶液を調製した。銀コロイド溶液の総量中の、各成分の割合は、銀が50質量%、高分子分散剤が2質量%、水が48質量%であった。
【0103】
(インクの作製)
上記銀コロイド溶液25質量部に、下記の各成分を表3に示す割合で配合し、かく拌して混合させた後、3μmのメンブランフィルタを用いてろ過して、導電層形成用のインクを作製した。
【0104】
界面活性剤:シリコーン系界面活性剤
高級アルコール:セチルアルコール〔新日本理化(株)製のコノール1695、C16:≧99%〕
水:超純水
低級アルコール:エタノール〔炭素数:2〕
【0105】
【表3】
【0106】
銀コロイド溶液中の水(=12質量部)を加えた水と、エタノールとの総量中に占める水の割合は45.0質量%、インクの総量中の銀微粒子の割合は12.5質量%であった。
【0107】
〈インク2〉
インクの作製時に添加する水の量を74.60質量部として、エタノールを配合しなかったこと以外はインク1と同様にしてインクを調製した。
【0108】
銀コロイド溶液中の水(=12質量部)を加えた水と、エタノールとの総量中に占める水の割合は100.0質量%、インクの総量中の銀微粒子の割合は12.5質量%であった。
【0109】
〈インク3~7〉
インクの作製時に添加する水、およびエタノールの量を、それぞれ表4に示す質量部としたこと以外はインク1と同様にしてインクを調製した。
【0110】
銀コロイド溶液中の水(=12質量部)を加えた水と、エタノールとの総量中に占める水の割合は表4に示す通りであり、インクの総量中の銀微粒子の割合は、いずれも12.5質量%であった。
【0111】
【表4】
【0112】
〈インク8〉
インクの作製時に添加する水の量を32.30質量部、エタノールの量を42.50質量部として、セチルアルコールを配合しなかったこと以外はインク1と同様にしてインクを調製した。
【0113】
銀コロイド溶液中の水(=12質量部)を加えた水と、エタノールとの総量中に占める水の割合は51.0質量%、インクの総量中の銀微粒子の割合は12.5質量%であった。
【0114】
〈インク9~11〉
インクの作製時に添加する水、エタノール、およびセチルアルコールの量を、それぞれ表5に示す質量部としたこと以外はインク1と同様にしてインクを調製した。
【0115】
銀コロイド溶液中の水(=12質量部)を加えた水と、エタノールとの総量中に占める水の割合は表5に示す通りであり、インクの総量中の銀微粒子の割合は、いずれも12.5質量%であった。
【0116】
【表5】
【0117】
《印刷セット、および導電部材の製造》
〈実施例1~21、比較例1、2〉
上記実施例i~xiiの記録媒体と、インク1~11とを、表6~表11に示すように組み合わせて印刷セットとし、記録媒体の印刷面に導電層をパターン形成して、導電部材としてのICタグのモデルを製造した際の、下記の各特性を評価した。
【0118】
(導電性評価)
実施例i~xiiの記録媒体の印刷面に、インク1~11のいずれかを用いて、インクジェット印刷によって、解像度600dpiで幅5mm、長さ5cmの長方形の導電層を2回、重ねてパターン形成した。
【0119】
そして印刷直後から10分間に亘って静置した後、導電層の両端間の抵抗値(Ω)を、抵抗計〔日置電機(株)製のRM3545〕を用いて4短針プローブ法によって測定して、下記の基準で導電性を評価した。
【0120】
◎:50Ω以下。○:50Ω超で、かつ200Ω以下。△:200Ω超で、かつ500Ω以下。×:500Ω超。
【0121】
(乾燥性評価)
実施例i~xiiの記録媒体の印刷面に、インク1~11のいずれかを用いて、インクジェット印刷によって、解像度600dpiで幅5mm、長さ5cmの長方形の導電層を1回パターン形成した。
【0122】
そして印刷直後から一定時間に亘って静置した後の導電層上に紙片を重ね、さらに10cm×10cm、重さ700gの金属製平板を載せた際の、紙片へのインクの転移(裏写り)の有無を観察した。そして下記の基準で、インクの乾燥性を評価した。
【0123】
○:静置時間が5分間でも裏写りは生じなかった。△:静置時間が5分間では裏写りを生じたが、10分間では裏写りは生じなかった。×:静置時間が10分間でも裏写りを生じた。
【0124】
(間欠印刷性評価)
実施例i~xiiの記録媒体の印刷面に、インク1~11のいずれかを用いて、インクジェット印刷によって、解像度600dpiで幅5mm、長さ5cmの長方形の導電層を1回パターン形成した。次いで、インクジェットプリンタをデキャップの状態で一定時間に亘って停止させた後、別に用意した同じ記録媒体の印刷面に、再びインクジェット印刷によって同じ導電層を同条件で1回パターン形成した。そして、印刷再開後に形成した導電層の状態を観察して、下記の基準で、インクの間欠印刷性を評価した。
【0125】
○:停止時間が10分間でも導電層に欠け等は見られなかった。△:停止時間が10分間では導電層に欠け等が見られたが、停止時間が5分間では導電層に欠け等は見られなかった。×:停止時間が5分間でも、導電層に欠け等が見られ、停止時間を1分間以下にしないと、導電層の欠け等は解消されなかった。
【0126】
以上の結果を、表6~表10に示す。なお表中、親水性樹脂の欄のPVAcはポリビニルアセタール、PVAはポリビニルアルコールを示す。また「水(質量%)」は、前述したように銀コロイド溶液中の水を加えた水と、低級アルコールとしてのエタノールとの総量中に占める水の割合を示す。
【0127】
【表6】
【0128】
【表7】
【0129】
【表8】
【0130】
【表9】
【0131】
【表10】
【0132】
表1~表10の実施例1~12、比較例1の結果より、記録媒体のインク受容層は、親水性樹脂、充填材、および水溶性の硫酸塩を含む層である必要があることが判った。また実施例1、4~6の結果より、親水性樹脂としては、アセタール化度が50モル%以下であるポリビニルアセタールが好ましいことが判った。
【0133】
実施例1~3の結果より、硫酸塩としてはナトリウム塩、またはマグネシウム塩が好ましいこと、実施例1、7~12の結果より、硫酸塩の割合は、無水物換算で、インク受容層を形成する固形分の総量100質量部中の5質量部以上、とくに10質量部以上であるのが好ましく、35質量部以下、とくに30質量部以下であるのが好ましいことが判った。
【0134】
実施例1、比較例2の結果より、上記記録媒体と組み合わせるインクは、分散剤によって処理された金属微粒子、水、および低級アルコールを含んでいる必要があることが判った。また実施例1、13~17の結果より、水と低級アルコールの総量中に占める水の割合は、20質量%以上、とくに30質量%以上であるのが好ましく、75質量%以下、とくに70質量%以下であるのが好ましいことが判った。さらに実施例1、18~21の結果より、インクは、炭素数12以上の高級アルコールをも含んでいるのが好ましいこと、その割合は、インクの総量100質量部中の0.10質量部以上、1.00質量部以下であるのが好ましいことが判った。
【0135】
《感熱記録層への影響検討》
実施例1で作成したのと同じ、基材の片面に、バリア層を介してインク受容層を形成した記録媒体の反対面に、当該インク受容層を形成する前に、あらかじめロイコ色素と顕色剤とを組み合わせた感熱記録層を形成したものを試験例1とした。当該試験例1の記録媒体の印刷面に、インク1を用いて、インクジェット印刷によって、解像度600dpiで幅5mm、長さ5cmの長方形の導電層を2回、重ねてパターン形成し、印刷直後から10分間に亘って静置した後、前記と同様にして評価をしたところ、導電性は「◎」、乾燥性は「○」であった。また、感熱記録層に感熱記録をしたところ、問題なく記録をすることができた。
【0136】
一方、試験例1においてバリア層を省略したものを試験例2として、同様に評価をしたところ、導電性は「◎」、乾燥性は「○」であったが、感熱記録層に感熱記録をしたところ、発色が薄くなって良好な記録をすることができなかった。
【0137】
さらに、試験例1の記録媒体に、インク2を用いて導電層をパターン形成したものを試験例3として、同様に評価をしたところ、導電性は「◎」であったが、乾燥性は「×」であった。そこで熱風乾燥させたのち、感熱記録層に感熱記録をしたところ、発色が薄くなって良好な記録をすることができなかった。
【0138】
以上の結果より、インク受容層を形成した面と反対面を感熱記録面とする場合には、基材とインク受容層との間にバリア層を介在させることにより、インク受容層用の塗剤中やインク中にアルコールが含まれていても、感熱記録層が地発色したり、感熱記録時に発色不良が生じたりするのを抑制できることが判った。また、組み合わせるインクとしては、水と低級アルコールとを含むものを用い、焼成せずに常温程度の環境下で導電層を形成するのが好ましいことが判った。