(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158371
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】アンテナ構造体
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/08 20060101AFI20231023BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20231023BHJP
H01Q 9/14 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
H01Q13/08
H05K1/03 610L
H01Q9/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068168
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐介
(72)【発明者】
【氏名】新井 宏之
【テーマコード(参考)】
5J045
【Fターム(参考)】
5J045AA02
5J045AA04
5J045DA10
5J045EA07
5J045HA03
5J045MA07
(57)【要約】
【課題】アンテナパッチを変えずに帯域を変更することができるアンテナ構造体を提供する。
【解決手段】アンテナ構造体1は、基板10と、基板10上に設けられたアンテナパッチ20と、アンテナパッチ20の上側に設けられた比誘電率が変化する変化部30と、を有し、変化部30は、アンテナパッチ20の上側に設けられた第1の誘電層40と、第1の誘電層40より上側に、アンテナパッチ20の形状に対応して設けられた第2の誘電層50と、を有し、第2の誘電層50の第2の比誘電率が、第1の誘電層40の第1の比誘電率より大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられたアンテナパッチと、
前記アンテナパッチの上側に設けられた比誘電率が変化する変化部と、
を有し、
前記変化部は、
前記アンテナパッチの上側に設けられた第1の誘電層と、
前記第1の誘電層より上側に、前記アンテナパッチの形状に対応して設けられた第2の誘電層と、
を有し、
前記第2の誘電層の第2の比誘電率が、前記第1の誘電層の第1の比誘電率より大きい、アンテナ構造体。
【請求項2】
前記第1の誘電層が、前記基板上に直接設けられている、請求項1に記載のアンテナ構造体。
【請求項3】
前記第2の誘電層が、前記第1の誘電層上に直接設けられている、請求項1または2に記載のアンテナ構造体。
【請求項4】
前記第1の誘電層は空気層である、請求項1または2に記載のアンテナ構造体。
【請求項5】
前記第2の誘電層を前記基板から所定の高さに支持する絶縁性の誘電層支持部を有する、請求項1または2に記載のアンテナ構造体。
【請求項6】
前記誘電層支持部は、前記第1の誘電層である、請求項5に記載のアンテナ構造体。
【請求項7】
前記誘電層支持部は、前記変化部における前記第1の誘電層より上側の層を、前記アンテナパッチの中央で支持する絶縁性ペーストの硬化物を有する、請求項5に記載のアンテナ構造体。
【請求項8】
前記誘電層支持部は、前記第2の誘電層を片持ち梁構造により前記第2の誘電層を支持する、請求項5に記載のアンテナ構造体。
【請求項9】
前記誘電層支持部は、天面を有し底面が開口となった箱形中空構造を呈しており、
前記第2の誘電層は、前記天面の内側面に取り付けられている、請求項5に記載のアンテナ構造体。
【請求項10】
前記第2の誘電層は、エポキシ樹脂の硬化物を有する、請求項1または2に記載のアンテナ構造体。
【請求項11】
周波数25GHzの測定条件における前記第2の比誘電率が、10以上20以下である、請求項1または2に記載のアンテナ構造体。
【請求項12】
周波数25GHzの測定条件における前記第1の比誘電率が、1以上4以下である、請求項1または2に記載のアンテナ構造体。
【請求項13】
周波数25GHzの測定条件における前記第2の比誘電率と前記第1の比誘電率の差が6以上19以下である、請求項1または2に記載のアンテナ構造体。
【請求項14】
前記アンテナパッチは、前記基板の鉛直上方側から見て、円形を呈する、請求項1または2に記載のアンテナ構造体。
【請求項15】
前記アンテナパッチは、前記基板の鉛直上方側から見て、矩形を呈する、請求項1または2に記載のアンテナ構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ構造体に関し、例えば、基板上にアンテナパッチを設けたアンテナ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信に利用可能なアンテナのひとつとして、基板上にアンテナパッチを設けたアンテナ構造体が知られている。この種のアンテナ構造体は、誘電体基板と、誘電体基板の一方の主面に設けられた平面グランドと、誘電体基板の他方の主面に設けられたアンテナパッチ(アンテナ素子)及び平面給電線路と、により構成される。
【0003】
特許文献1には、フッ素樹脂とガラスクロスとを含む複合材料である誘電体基板と、フッ素樹脂に接する面の二次元粗度Raが0.2μm未満であるアンテナとの積層体である回路用基板を有するアンテナが開示されている。当該文献には、1GHzにて測定された回路用基板の誘電率および誘電正接が記載されている。
【0004】
特許文献2には、シロキサン変性ポリアミドイミド樹脂と高誘電率充填剤とエポキシ樹脂とを含み、25℃、1MHzにおける硬化物の比誘電率が15以上である樹脂組成物が開示されている。当該文献の実施例には、この高誘電率充填剤としてチタン酸バリウムを用いた例が記載されている。
【0005】
特許文献3には、エポキシ樹脂、誘電体粉末、ノニオン性界面活性剤、及び活性エステル系硬化剤を含有する樹脂組成物が開示されている。当該文献には、この樹脂組成物を、高周波領域で使用される電子部品の高誘電率絶縁材料や、指紋センサー用の高誘電率絶縁材料として用いることができると記載されている。当該文献の実施例には、この誘電体粉末としてチタン酸バリウムを用いた例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-41998号公報
【特許文献2】特開2004-315653号公報
【特許文献3】特開2020-105523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述のようなアンテナ構造体では、誘電体を配置し、インピーダンスを変化させることで帯域の増加させることが可能である。しかしながら、一般には帯域が低周波側に移動するため、給電点の位置やアンテナパッチの大きさの変更が必要となってしまうという課題があり、新たな技術が求められていた。特許文献1~3の技術は、上述のような課題を考慮していなかった。
【0008】
本発明は以上のような状況に鑑みなされたものであって、アンテナパッチを変えずに帯域を変更することができるアンテナ構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下の[1]~[15]の技術が提供される。
[1] 基板と、
前記基板上に設けられたアンテナパッチと、
前記アンテナパッチの上側に設けられた比誘電率が変化する変化部と、
を有し、
前記変化部は、
前記アンテナパッチの上側に設けられた第1の誘電層と、
前記第1の誘電層より上側に、前記アンテナパッチの形状に対応して設けられた第2の誘電層と、
を有し、
前記第2の誘電層の第2の比誘電率が、前記第1の誘電層の第1の比誘電率より大きい、アンテナ構造体。
[2]前記第1の誘電層が、前記基板上に直接設けられている、[1]に記載のアンテナ構造体。
[3]前記第2の誘電層が、前記第1の誘電層上に直接設けられている、[1]または[2]に記載のアンテナ構造体。
[4]前記第1の誘電層は空気層である、[1]から[3]までのいずれか1に記載のアンテナ構造体が提供される。
[5]前記第2の誘電層を前記基板から所定の高さに支持する絶縁性の誘電層支持部を有する、[1]から[4]までのいずれか1に記載のアンテナ構造体。
[6]前記誘電層支持部は、前記第1の誘電層である、[5]に記載のアンテナ構造体。
[7]前記誘電層支持部は、前記変化部における前記第1の誘電層より上側の層を複数箇所で支持する絶縁性ペーストの硬化物を有する、[5]に記載のアンテナ構造体。
[8]前記誘電層支持部は、前記第2の誘電層を片持ち梁構造により前記第2の誘電層を支持する、[5]に記載のアンテナ構造体。
[9]前記誘電層支持部は、天面を有し底面が開口となった箱形中空構造を呈しており、
前記第2の誘電層は、前記天面の内側面に取り付けられている、[5]に記載のアンテナ素子。
[10]前記第2の誘電層は、エポキシ樹脂の硬化物を有する、請求項[1]から[9]までのいずれか1記載のアンテナ構造体。
[11]周波数25GHzの測定条件における前記第2の比誘電率が、10以上20以下である、[1]から[10]までのいずれか1に記載のアンテナ構造体。
[12]周波数25GHzの測定条件における前記第1の比誘電率が、1以上4以下である、[1]から[11]までのいずれか1に記載のアンテナ構造体。
[13]周波数25GHzの測定条件における前記第2の比誘電率と前記第1の比誘電率の差が6以上19以下である、[1]から[12]までのいずれか1に記載のアンテナ構造体。
[14]前記アンテナパッチは、前記基板の鉛直上方側から見て、円形を呈する、[1]から[13]までのいずれか1に記載のアンテナ構造体。
[15]前記アンテナパッチは、前記基板の鉛直上方側から見て、矩形を呈する、[1]から[14]までのいずれか1に記載のアンテナ構造体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アンテナパッチを変えずに帯域を変更することができる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態に係る、アンテナ構造体を示す図である。
【
図2】第1の実施形態に係る、第2の誘電層を有さない従来構成のアンテナ構造体による反射特性のシミュレーション結果を示す図である。
【
図3】第1の実施形態に係る、第2の誘電層を有する構成のアンテナ構造体による反射特性のシミュレーション結果を示す図である。
【
図4】第2の実施形態に係る、アンテナ構造体を示す図である。
【
図5】第3の実施形態に係る、アンテナ構造体を示す図である。
【
図6】第4の実施形態に係る、アンテナ構造体を示す図である。
【
図7】第5の実施形態に係る、アンテナ構造体を示す図である。
【
図8】第5の実施形態に係る、誘電層支持部を製造する方法の一例(抄造法)を説明するための図である。
【
図9】第5の実施形態に係る、誘電層支持部を製造する方法の一例(抄造法)を説明するための図である。
【
図10】第5の実施形態に係る、誘電層支持部を製造する方法の一例(抄造法)を説明するための図である。
【
図11】第5の実施形態に係る、誘電層支持部を製造する方法の一例(抄造法)を説明するための図である。
【
図12】第5の実施形態に係る、誘電層支持部を製造する方法の一例(抄造法)を説明するための図である。
【
図13】実施形態の実施例に係る、実施例1~3と比較例1~2のアンテナ構造体の断面構造を模式的に一覧で示す図である。
【
図14】実施形態の実施例に係る、比較例1(基準)のアンテナ構造体の構成を説明する図である。
【
図15】実施形態の実施例に係る、実施例1のアンテナ構造体の構成を説明する図である。
【
図16】実施形態の実施例に係る、実施例2のアンテナ構造体の構成を説明する図である。
【
図17】実施形態の実施例に係る、実施例3のアンテナ構造体の構成を説明する図である。
【
図18】実施形態の実施例に係る、比較例1(基準)の反射特性のシミュレーション結果を示す図である。
【
図19】実施形態の実施例に係る、実施例1の反射特性のシミュレーション結果を示す図である。
【
図20】実施形態の実施例に係る、実施例2の反射特性のシミュレーション結果を示す図である。
【
図21】実施形態の実施例に係る、実施例3の反射特性のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
第1の実施形態では本願発明の基本的な構成(アンテナパッチの上に変化部(第2の誘電層50)を設ける構成)について説明し、第2~第5の実施形態でより具体的な構成(第2の誘電層50を支持する構成)を説明する。
【0013】
≪第1の実施形態≫
図1は本実施形態のアンテナ構造体1を示す。
図1(a)は平面図、
図1(b)は
図1(a)のX-X断面図である。アンテナ構造体1は、例えばマイクロストリップアンテナとも称される平面アンテナの一種である。
【0014】
<アンテナ構造体1の概要>
アンテナ構造体1は、基板10と、基板10の上面11に設けられたアンテナパッチ20(「アンテナエレメント」ともいう)と、アンテナパッチ20の上側に設けられた比誘電率が変化する変化部30と、を有する。変化部30は、アンテナパッチ20の上側に設けられた第1の誘電層40と、第1の誘電層40より上側にアンテナパッチ20の形状に対応して設けられた第2の誘電層50と、を有し、第2の誘電層50の第2の比誘電率が第1の誘電層40の第1の比誘電率より大きい。このような構成のアンテナ構造体1により、変化部30を有さない構成のアンテナ構造体に対して、帯域を拡大することができる。すなわち、基板10とアンテナパッチ20はそのままとして、変化部30を調整することで帯域調整が可能となる。以下、詳細に説明する。
【0015】
<基板10>
基板10は、例えば比誘電率が3.0~5.0、誘電正接が0.001~0.010の矩形形状の誘電体基板である。誘電体基板としては、例えば熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる樹脂基板を用いることができる。基板10は、一方の面(すなわち上面11)にアンテナパッチ20が設けられ、他方の面(すなわち下面12)に接地導体(図視せず)が設けられる。
【0016】
<アンテナパッチ20>
アンテナパッチ20は、上面視で円形や矩形を呈する。本実施形態においては、円形のアンテナパッチ20を例示する。アンテナパッチ20は、円形のパッチ本体21と、給電線路22とを有する。
本実施形態では、給電線路22とパッチ本体21との接続(すなわち給電方式)は、共平面給電方式として、パッチ本体21の端部から内部領域に向けて、給電線路22と平行な切込を設け、その切込の先端部に給電線路22を接続する構成を例示している。その他に、誘電体基板を貫く同軸線路やコネクタを用いてアンテナ背面からアンテナパッチ20に給電するプローブ給電方式が用いられてもよい。
【0017】
アンテナパッチ20は、金属材料、金属材料の合金、金属ペーストの硬化物、および導電性高分子のいずれかを含む。金属材料は、銅、銀、パラジウム、金、白金、アルミニウム、クロム、ニッケル、カドミウム鉛、セレン、マンガン、錫、バナジウム、リチウム、コバルト、およびチタン等を含む。合金は、複数の金属材料を含む。金属ペースト剤は、金属材料の粉末を有機溶剤、およびバインダとともに混練したものを含む。バインダは、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂を含む。導電性ポリマーは、ポリチオフェン系ポリマー、ポリアセチレン系ポリマー、ポリアニリン系ポリマー、ポリピロール系ポリマー等を含む。
【0018】
<変化部30>
変化部30は、アンテナパッチ20の上側に設けられており、基板10の基板面(上面11)に対する法線方向に比誘電率が変化する部位である。ここでは、アンテナパッチ20の上側に設けられた第1の誘電層40と、第1の誘電層40より上側にアンテナパッチ20の形状に対応して設けられた第2の誘電層50とが設けられている。また、第2の誘電層50の第2の比誘電率が、第1の誘電層40の第1の比誘電率より大きい。なお、比誘電率の変化は、段階的でもよいし、連続的であってもよい。変化部30の誘電層の数は3層以上であってもよい。
【0019】
第2の誘電層50は、アンテナパッチ20の形状に対応して設けられるが、これは第2の誘電層50がアンテナパッチ20の真上をちょうど覆うように形成されている。より具体的には、第2の誘電層50を基板10上に投影したときの形状(面積S2)と、アンテナパッチ20の形状(面積S1)とは、同一となるように設けられる。同一とは、完全に一致する必要はなく、例えば、面積比でS1/S2=0.8~1.2となる。
このような構成により、アンテナ構造体1の帯域を拡大することができる。すなわち、基板10に設けられたアンテナパッチ20を変更することなく、アンテナパッチ20の上に第2の誘電層50を設けること、また第2の誘電層50を変更することで、帯域を所望に拡大することができる。
【0020】
<第1の誘電層40>
第1の誘電層40は、基板10上に直接設けられている層である。
周波数25GHzの測定条件における第1の比誘電率が、1以上4以下である。第1の比誘電率の上限は、好ましくは3.5以下であり、より好ましくは3.0以下である。
本実施形態の第1の誘電層40は、基板10の上面11と第2の誘電層50の底面51との間の空気層(すなわちギャップ)である。空気層の比誘電率は1.0である。第1の誘電層40の誘電正接は0.0001以上0.0100以下である。第1の誘電層40の厚みは、例えば0.1mm以上1.0mm以下である。
【0021】
<第2の誘電層50>
第2の誘電層50は、第1の誘電層40上に設けられる層である。本実施形態では、第1の誘電層40に直接接した態様(すなわち隣接した態様)で設けられている。第2の誘電層50の第2の比誘電率は、第1の誘電層40の第1の比誘電率より大きい。具体的には、周波数25GHzの測定条件における第2の比誘電率は、10以上30以下である。第2の比誘電率の上限は、好ましくは25以下であり、より好ましくは20以下である。第2の誘電層50の誘電正接は、例えば、0.003以上0.010以下である。
また、第2の比誘電率は、第2の比誘電率と第1の比誘電率の差が5以上25以下になるように設定される。すなわち、第2の誘電層50の第2の比誘電率が、第1の誘電層40の第1の比誘電率よりも十分高くなるように、第1の誘電層40および第2の誘電層50の材料が選択される。
【0022】
<第2の誘電層50の材料>
第2の誘電層50の材料について説明する。第2の誘電層50は樹脂組成物からなり、第2の比誘電率が上記範囲となる材料であれば特に限定はしない。例えば、樹脂にチタン酸バリウム等の高誘電率の無機充填剤を配合したりすることで、所望の誘電率になるように調整することができる。
具体的には、例えば次の樹脂組成物が挙げられる。
【0023】
<樹脂組成物>
[熱硬化性樹脂]
本実施形態において、熱硬化性樹脂としては、シアネート樹脂、エポキシ樹脂、ラジカル重合性の炭素-炭素二重結合を1分子内に2つ以上有する樹脂、およびマレイミド樹脂から選択される一種または二種以上を用いることができる。
【0024】
エポキシ樹脂は、1分子内にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができ、その分子量や分子構造は限定されない。
【0025】
エポキシ樹脂は、例えばビフェニル型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等に例示されるトリスフェノール型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂;フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂等のナフトール型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等のトリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂からなる群から選択される1種類または2種類以上を含む。
【0026】
本発明の効果の観点から、これらの内、ノボラック型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、およびフェノールアラルキル型エポキシ樹脂を好ましく用いることができる。また、同様の観点から、エポキシ樹脂は、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂およびトリフェニルメタン型エポキシ樹脂からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましく、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂からなる群から選択される1種以上を含むことがより好ましい。
【0027】
熱硬化性樹脂は、本発明の効果の観点から、樹脂組成物全体に対して、5質量%以上、好ましくは10質量%以上含むことができる。また、エポキシ樹脂は典型的には、20質量%以下、好ましくは15質量%以下含むことができる。
【0028】
[高誘電率充填剤]
本実施形態において、高誘電率充填剤としては、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸マグネシウム、ジルコン酸マグネシウム、ジルコン酸ストロンチウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ジルコニウム、チタン酸亜鉛、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ニオブ酸マグネシウム酸バリウム、またはジルコン酸カルシウム等を挙げることができ、これらから選択される1種または2種以上を用いることができる。
本実施形態の樹脂組成物は、これらの高誘電率充填剤を含むことにより、高誘電率および低誘電正接に優れ、高周波帯においてもこれらの効果に優れる。
【0029】
高誘電率充填剤としては、本発明の効果の観点、特に低誘電正接の観点から、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウムがより好ましい。
【0030】
高誘電率充填剤の形状は、粒状、不定形、フレーク状などであり、これらの形状の高誘電率充填剤を任意の比率で用いることができる。高誘電率充填剤の平均粒子径は、本発明の効果の観点や流動性・充填性の観点から、好ましくは0.1μm以上50μm以下、より好ましくは0.3μm以上20μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上10μm以下である。
【0031】
高誘電率充填剤の配合量は、樹脂組成物全体に対して、好ましくは20質量%~80質量%、より好ましくは30質量%~70質量%、さらに好ましくは40質量%~60質量%の範囲である。高誘電率充填剤の添加量が上記範囲であると、得られる硬化物の誘電率がより低くなるとともに、成形品の製造にも優れる。
【0032】
[活性エステル硬化剤]
本実施形態の樹脂組成物は、さらに活性エステル硬化剤を含むことができる。
活性エステル硬化剤としては、1分子中に1個以上の活性エステル基を有する化合物を用いることができる。中でも、活性エステル硬化剤としては、フェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N-ヒドロキシアミンエステル類、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等の、反応活性の高いエステル基を1分子中に2個以上有する化合物が好ましい。
【0033】
活性エステル系硬化剤の好ましい具体例としては、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル系硬化剤、ナフタレン構造を含む活性エステル系硬化剤、フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル系硬化剤、フェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル系硬化剤が挙げられる。中でも、ナフタレン構造を含む活性エステル系硬化剤、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル系硬化剤がより好ましい。「ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造」とは、フェニレン-ジシクロペンチレン-フェニレンからなる2価の構造単位を表す。
【0034】
本実施形態において、活性エステル硬化剤は、例えば、以下の一般式(1)で表される構造を有する樹脂を用いることができる。
【0035】
【0036】
式(1)において、「B」は、式(B)で表される構造である。
【0037】
【0038】
式(B)中、Arは、置換または非置換のアリーレン基である。置換されたアリーレン基の置換基は炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基等が挙げられる。Yは、単結合、置換または非置換の炭素原子数1~6の直鎖または環式のアルキレン基、置換または非置換の2価の芳香族炭化水素基、エーテル結合、カルボニル基、カルボニルオキシ基、スルフィド基、あるいはスルホン基である。
【0039】
Aは、脂肪族環状炭化水素基を介して連結された置換または非置換のアリーレン基であり、
Ar’は、置換または非置換のアリール基であり、
kは、繰り返し単位の平均値であり、0.25~3.5の範囲である。
nは0または1である。
【0040】
本実施形態の樹脂組成物は、特定の活性エステル硬化剤を含むことにより、得られる硬化物は優れた誘電特性を有することができ、低誘電正接に優れる。
【0041】
本実施形態の樹脂組成物に用いられる活性エステル硬化剤は、式(B)で表される活性エステル基を有する。エポキシ樹脂と活性エステル硬化剤との硬化反応において、活性エステル硬化剤の活性エステル基はエポキシ樹脂のエポキシ基と反応して2級の水酸基を生じる。この2級の水酸基は、活性エステル硬化剤のエステル残基により封鎖される。そのため、硬化物の誘電正接が低減される。
【0042】
一実施形態において、上記式(B)で表される構造は、以下の式(B-1)~式(B-6)から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0043】
【0044】
式(B-1)~(B-6)において、
R1はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基の何れかであり、
【0045】
R2はそれぞれ独立に炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基の何れかであり、Xは炭素原子数2~6の直鎖のアルキレン基、エーテル結合、カルボニル基、カルボニルオキシ基、スルフィド基、スルホン基のいずれかであり、
nは0~4の整数であり、pは1~4の整数である。
【0046】
上記式(B-1)~(B-6)で表される構造は、いずれも配向性が高い構造であることから、これを含む活性エステル硬化剤を用いた場合、得られる樹脂組成物の硬化物は、低誘電率および低誘電正接を有するとともに、金属に対する密着性に優れ、そのため半導体封止材料として好適に用いることができる。中でも、低誘電率および低誘電正接の観点から、式(B-3)または(B-5)で表される構造を有する活性エステル硬化剤が好ましく、さらに式(B-3)のXがエーテル結合である構造、または式(B-5)において二つのカルボニルオキシ基が4,4’-位にある構造を有する活性エステル硬化剤がより好ましい。また各式中のR1はすべて水素原子であることが好ましい。
【0047】
式(1)における「Ar’」はアリール基であり、例えば、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、3,5-キシリル基、o-ビフェニル基、m-ビフェニル基、p-ビフェニル基、2-ベンジルフェニル基、4-ベンジルフェニル基、4-(α-クミル)フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等であり得る。中でも、特に誘電率および誘電正接の低い硬化物が得られることから、1-ナフチル基または2-ナフチル基であることが好ましい。
【0048】
本実施形態において、式(1)で表される活性エステル硬化剤における「A」は、脂肪族環状炭化水素基を介して連結された置換または非置換のアリーレン基であり、このようなアリーレン基としては、例えば、1分子中に二重結合を2個含有する不飽和脂肪族環状炭化水素化合物と、フェノール性化合物とを重付加反応させて得られる構造が挙げられる。
【0049】
前記1分子中に二重結合を2個含有する不飽和脂肪族環状炭化水素化合物は、例えば、ジシクロペンタジエン、シクロペンタジエンの多量体、テトラヒドロインデン、4-ビニルシクロヘキセン、5-ビニル-2-ノルボルネン、リモネン等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。これらの中でも、耐熱性に優れる硬化物が得られることからジシクロペンタジエンが好ましい。尚、ジシクロペンタジエンは石油留分中に含まれることから、工業用ジシクロペンタジエンにはシクロペンタジエンの多量体や、他の脂肪族或いは芳香族性ジエン化合物等が不純物として含有されることがあるが、耐熱性、硬化性、成形性等の性能を考慮すると、ジシクロペンタジエンの純度90質量%以上の製品を用いることが望ましい。
【0050】
一方、前記フェノール性化合物は、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ビニルフェノール、イソプロペニルフェノール、アリルフェノール、フェニルフェノール、ベンジルフェノール、クロルフェノール、ブロムフェノール、1-ナフトール、2-ナフトール、1,4-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン等が挙げられ、それぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。これらの中でも、硬化性が高く硬化物における誘電特性に優れる活性エステル硬化剤となることからフェノールが好ましい。
【0051】
好ましい実施形態において、式(1)で表される活性エステル硬化剤における「A」は、式(A)で表される構造を有する。式(1)における「A」が以下の構造である活性エステル硬化剤を含む樹脂組成物は、その硬化物が低誘電率、低誘電正接であり、インサート品に対する密着性に優れる。
【0052】
【0053】
式(A)において、
R3はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基の何れかであり、
lは0または1であり、mは1以上の整数である。
【0054】
式(1)で表される活性エステル硬化剤のうち、特に好ましいものとして、下記式(1-1)、式(1-2)および式(1-3)で表される樹脂が挙げられ、特に好ましいものとして、下記式(1-3)で表される樹脂が挙げられる。
【0055】
【0056】
式(1-1)中、R1及びR3はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基の何れかであり、Zはフェニル基、ナフチル基、又は、芳香核上に炭素原子数1~4のアルキル基を1~3個有するフェニル基或いはナフチル基であり、lは0又は1であり、kは繰り返し単位の平均であり、0.25~3.5である。
【0057】
【0058】
式(1-2)中、R1及びR3はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基の何れかであり、Zはフェニル基、ナフチル基、又は、芳香核上に炭素原子数1~4のアルキル基を1~3個有するフェニル基或いはナフチル基であり、lは0又は1であり、kは繰り返し単位の平均であり、0.25~3.5である。
【0059】
【0060】
式(1-3)中、R1及びR3はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基の何れかであり、Zはフェニル基、ナフチル基、又は、芳香核上に炭素原子数1~4のアルキル基を1~3個有するフェニル基或いはナフチル基であり、lは0又は1であり、kは繰り返し単位の平均であり、0.25~3.5である。
【0061】
本発明で用いられる活性エステル硬化剤は、脂肪族環状炭化水素基を介してフェノール性水酸基を有するアリール基が複数結節された構造を有するフェノール性化合物(a)と、芳香核含有ジカルボン酸又はそのハライド(b)と、芳香族モノヒドロキシ化合物(c)とを反応させる、公知の方法により製造することができる。
【0062】
上記フェノール性化合物(a)と、芳香核含有ジカルボン酸又はそのハライド(b)と、芳香族モノヒドロキシ化合物(c)との反応割合は、所望の分子設計に応じて適宜調整することができるが、中でも、より硬化性の高い活性エステル硬化剤が得られることから、芳香核含有ジカルボン酸又はそのハライド(b)が有するカルボキシル基又は酸ハライド基の合計1モルに対し、前記フェノール性化合物(a)が有するフェノール性水酸基が0.25~0.90モルの範囲となり、かつ、前記芳香族モノヒドロキシ化合物(c)が有するヒドロキシル基が0.10~0.75モルの範囲となる割合で各原料を用いることが好ましく、前記フェノール性化合物(a)が有するフェノール性水酸基が0.50~0.75モルの範囲となり、かつ、前記芳香族モノヒドロキシ化合物(c)が有するヒドロキシル基が0.25~0.50モルの範囲となる割合で各原料を用いることがより好ましい。
【0063】
また、活性エステル硬化剤の官能基当量は、樹脂構造中に有するアリールカルボニルオキシ基およびフェノール性水酸基の合計を樹脂の官能基数とした場合、硬化性に優れ、誘電率及び誘電正接の低い硬化物が得られることから、200g/eq以上230g/eq以下の範囲であることが好ましく、210g/eq以上220g/eq以下の範囲であることがより好ましい。
【0064】
本実施形態の樹脂組成物において、活性エステル硬化剤とエポキシ樹脂との配合量は、硬化性に優れ、誘電率及び誘電正接の低い硬化物が得られることから、活性エステル硬化剤中の活性基の合計1当量に対して、エポキシ樹脂中のエポキシ基が0.8~1.2当量となる割合であることが好ましい。ここで、活性エステル硬化剤中の活性基とは、樹脂構造中に有するアリールカルボニルオキシ基及びフェノール性水酸基を指す。
【0065】
本実施形態の組成物において、活性エステル硬化剤は、樹脂組成物全体に対して、好ましくは0.2質量%以上15質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以上7質量%以下の量で用いられる。
特定の活性エステル硬化剤を上記範囲で含むことにより、得られる硬化物はより優れた誘電特性を有することができ、低誘電正接にさらに優れる。
【0066】
本実施形態の樹脂阻止物は、活性エステル系硬化剤と、上述の高誘電率充填剤とを組み合わせて用いることにより、高誘電率および低誘電正接により優れ、高周波帯においてもこれらの効果に優れる。
上記効果の観点から、活性エステル系硬化剤は、上述の高誘電率充填剤100質量部に対して、好ましくは1質量部以上30質量部以下、より好ましくは2質量部以上20質量部以下、さらに好ましくは3質量部以上15質量部以下となるように含むことができる。
【0067】
なお、本出願人は、特開2020-90615号公報に記載のように、本発明とは異なる半導体封止用途において、エポキシ樹脂と、所定の活性エステル硬化剤と、を含む樹脂組成物を開発している。本発明は、同公報記載の技術に対して、高誘電率充填剤を含有する点で相違している。また、高誘電率充填剤を含有するため、活性エステル硬化剤とエポキシ樹脂の組み合わせによる作用効果も、高誘電率を有する点、さらに高周波帯において高誘電率および低誘電正接に優れる点で相違している。
【0068】
[硬化剤]
本実施形態の樹脂組成物は、さらに活性エステル硬化剤以外の他の硬化剤を含むことができる。
硬化剤としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、イミダゾ-ル、BF3-アミン錯体、グアニジン誘導体等のアミン化合物;ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂等のアミド化合物;無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミンやベンゾグアナミンなどでフェノール核が連結された多価フェノール化合物)等の多価フェノール化合物が挙げられる。
【0069】
硬化剤を用いる場合、その配合量は、熱硬化性樹脂に対して、好ましくは、20質量%以上70質量%以下の量である。上記範囲の量で硬化剤を使用することにより、優れた硬化性を有する樹脂組成物が得られる。
【0070】
[硬化触媒]
本実施形態の樹脂組成物は、さらに硬化触媒を含むことができる。
硬化触媒は、硬化促進剤などと呼ばれる場合もある。硬化触媒は、熱硬化性樹脂の硬化反応を早めるものである限り特に限定されず、公知の硬化触媒を用いることができる。
【0071】
具体的には、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール類(イミダゾール系硬化促進剤);1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、ベンジルジメチルアミン等が例示されるアミジンや3級アミン、アミジンやアミンの4級塩等の窒素原子含有化合物などを挙げることができ、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0072】
これらの中でも、硬化性を向上させ、曲げ強度などの機械強度に優れた磁性材料を得る観点からはリン原子含有化合物を含むことが好ましく、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等の潜伏性を有するものを含むことがより好ましく、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が特に好ましい。
【0073】
一般式(1)で表される化合物(C)と潜伏性を有する硬化触媒とを組み合わせて用いることにより、成形性により優れるとともに、曲げ強度などの機械強度により優れた磁性材料を得ることができる。
【0074】
有機ホスフィンとしては、例えばエチルホスフィン、フェニルホスフィン等の第1ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジフェニルホスフィン等の第2ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の第3ホスフィンが挙げられる。
テトラ置換ホスホニウム化合物としては、例えば下記一般式(6)で表される化合物等が挙げられる。
【0075】
【0076】
一般式(6)において、
Pはリン原子を表す。
R4、R5、R6およびR7は、それぞれ独立に、芳香族基またはアルキル基を表す。
Aはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸のアニオンを表す。
【0077】
AHはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸を表す。
x、yは1~3、zは0~3であり、かつx=yである。
【0078】
一般式(6)で表される化合物は、例えば、以下のようにして得られる。
まず、テトラ置換ホスホニウムハライドと芳香族有機酸と塩基を有機溶剤に混ぜ均一に混合し、その溶液系内に芳香族有機酸アニオンを発生させる。次いで水を加えると、一般式(6)で表される化合物を沈殿させることができる。一般式(6)で表される化合物において、リン原子に結合するR4、R5、R6およびR7がフェニル基であり、かつAHはヒドロキシル基を芳香環に有する化合物、すなわちフェノール類であり、かつAは該フェノール類のアニオンであるのが好ましい。上記フェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコールなどの単環式フェノール類、ナフトール、ジヒドロキシナフタレン、アントラキノールなどの縮合多環式フェノール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなどのビスフェノール類、フェニルフェノール、ビフェノールなどの多環式フェノール類などが例示される。
【0079】
ホスホベタイン化合物としては、例えば、下記一般式(7)で表される化合物等が挙げられる。
【0080】
【0081】
一般式(7)において、
Pはリン原子を表す。
R8は炭素数1~3のアルキル基、R9はヒドロキシル基を表す。
fは0~5であり、gは0~3である。
【0082】
一般式(7)で表される化合物は、例えば以下のようにして得られる。
まず、第三ホスフィンであるトリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩とを接触させ、トリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩が有するジアゾニウム基とを置換させる工程を経て得られる。
【0083】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物としては、例えば、下記一般式(8)で表される化合物等が挙げられる。
【0084】
【0085】
一般式(8)において、
Pはリン原子を表す。
R10、R11およびR12は、炭素数1~12のアルキル基または炭素数6~12のアリール基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0086】
R13、R14およびR15は水素原子または炭素数1~12の炭化水素基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよく、R14とR15が結合して環状構造となっていてもよい。
【0087】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるホスフィン化合物としては、例えばトリフェニルホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリナフチルホスフィン、トリス(ベンジル)ホスフィン等の芳香環に無置換またはアルキル基、アルコキシル基等の置換基が存在するものが好ましく、アルキル基、アルコキシル基等の置換基としては1~6の炭素数を有するものが挙げられる。入手しやすさの観点からはトリフェニルホスフィンが好ましい。
【0088】
また、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるキノン化合物としては、ベンゾキノン、アントラキノン類が挙げられ、中でもp-ベンゾキノンが保存安定性の点から好ましい。
【0089】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物の製造方法としては、有機第三ホスフィンとベンゾキノン類の両者が溶解することができる溶媒中で接触、混合させることにより付加物を得ることができる。溶媒としてはアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類で付加物への溶解性が低いものがよい。しかしこれに限定されるものではない。
【0090】
一般式(8)で表される化合物において、リン原子に結合するR10、R11およびR12がフェニル基であり、かつR13、R14およびR15が水素原子である化合物、すなわち1,4-ベンゾキノンとトリフェニルホスフィンを付加させた化合物が封止用樹脂組成物の硬化物の熱時弾性率を低下させる点で好ましい。
【0091】
ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物としては、例えば下記一般式(9)で表される化合物等が挙げられる。
【0092】
【0093】
一般式(9)において、
Pはリン原子を表し、Siは珪素原子を表す。
【0094】
R16、R17、R18およびR19は、それぞれ、芳香環または複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。
R20は、基Y2およびY3と結合する有機基である。
R21は、基Y4およびY5と結合する有機基である。
【0095】
Y2およびY3は、プロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基Y2およびY3が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。
【0096】
Y4およびY5はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基Y4およびY5が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。
R20、およびR21は互いに同一であっても異なっていてもよく、Y2、Y3、Y4およびY5は互いに同一であっても異なっていてもよい。
Z1は芳香環または複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基である。
【0097】
一般式(9)において、R16、R17、R18およびR19としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ナフチル基、ヒドロキシナフチル基、ベンジル基、メチル基、エチル基、n-ブチル基、n-オクチル基およびシクロヘキシル基等が挙げられ、これらの中でも、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ヒドロキシナフチル基等のアルキル基、アルコキシ基、水酸基などの置換基を有する芳香族基もしくは無置換の芳香族基がより好ましい。
【0098】
一般式(9)において、R20は、Y2およびY3と結合する有機基である。同様に、R21は、基Y4およびY5と結合する有機基である。Y2およびY3はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y2およびY3が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。同様にY4およびY5はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y4およびY5が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。基R20およびR21は互いに同一であっても異なっていてもよく、基Y2、Y3、Y4、およびY5は互いに同一であっても異なっていてもよい。このような一般式(9)中の-Y2-R20-Y3-、およびY4-R21-Y5-で表される基は、プロトン供与体が、プロトンを2個放出してなる基で構成されるものであり、プロトン供与体としては、分子内にカルボキシル基、または水酸基を少なくとも2個有する有機酸が好ましく、さらには芳香環を構成する隣接する炭素にカルボキシル基または水酸基を少なくとも2個有する芳香族化合物が好ましく、芳香環を構成する隣接する炭素に水酸基を少なくとも2個有する芳香族化合物がより好ましく、例えば、カテコール、ピロガロール、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,2'-ビフェノール、1,1'-ビ-2-ナフトール、サリチル酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、クロラニル酸、タンニン酸、2-ヒドロキシベンジルアルコール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,2-プロパンジオールおよびグリセリン等が挙げられるが、これらの中でも、カテコール、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレンがより好ましい。
【0099】
一般式(9)中のZ1は、芳香環または複素環を有する有機基または脂肪族基を表し、これらの具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基およびオクチル基等の脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基およびビフェニル基等の芳香族炭化水素基、グリシジルオキシプロピル基、メルカプトプロピル基、アミノプロピル基等のグリシジルオキシ基、メルカプト基、アミノ基を有するアルキル基およびビニル基等の反応性置換基等が挙げられるが、これらの中でも、メチル基、エチル基、フェニル基、ナフチル基およびビフェニル基が熱安定性の面から、より好ましい。
ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物の製造方法は、例えば以下である。
【0100】
メタノールを入れたフラスコに、フェニルトリメトキシシラン等のシラン化合物、2,3-ジヒドロキシナフタレン等のプロトン供与体を加えて溶かし、次に室温攪拌下ナトリウムメトキシド-メタノール溶液を滴下する。さらにそこへ予め用意したテトラフェニルホスホニウムブロマイド等のテトラ置換ホスホニウムハライドをメタノールに溶かした溶液を室温攪拌下滴下すると結晶が析出する。析出した結晶を濾過、水洗、真空乾燥すると、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が得られる。
【0101】
硬化触媒を用いる場合、その含有量は、樹脂組成物全体に対して、好ましくは0.01~1質量%、より好ましくは0.02~0.8質量%である。このような数値範囲とすることにより、他の性能を過度に悪くすることなく、十分に硬化促進効果が得られる。
【0102】
[無機充填剤]
本実施形態の樹脂組成物は、さらに、吸湿性低減、線膨張係数低減、熱伝導性向上および強度向上のために、高誘電率充填剤以外に無機充填剤を含むことができる。
【0103】
無機充填剤としては、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミ、窒化ホウ素、ベリリア、ジルコニア、ジルコン、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニア等の粉体、またはこれらを球形化したビーズ、ガラス繊維などが挙げられる。これらの無機充填材は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の無機充填材の中で、線膨張係数低減の観点からは溶融シリカが、高熱伝導性の観点からはアルミナが好ましく、充填材形状は成形時の流動性および金型摩耗性の点から球形が好ましい。
【0104】
高誘電率充填剤以外の無機充填材の配合量は、成形性、熱膨張性の低減、および強度向上の観点から、樹脂組成物全体に対して、好ましくは15質量%以上、60質量%以下、より好ましくは20質量%以上、50質量%以下の範囲とすることができる。上記範囲であれば、熱膨張性低減および成形性に優れる。
【0105】
[その他の成分]
本実施形態の樹脂組成物は、上記成分に加え、必要に応じて、シランカップリング剤、離型剤、着色剤、分散剤、低応力化剤等の種々の成分を含むことができる。
【0106】
[樹脂組成物]
本実施形態の樹脂組成物は、上述の各成分を均一に混合することにより製造できる。製造方法としては、所定の配合量の原材料をミキサー等によって十分混合した後、ミキシングロール、ニーダ、押出機等によって溶融混練した後、冷却、粉砕する方法を挙げることができる。得られた樹脂組成物は、必要に応じて、成形条件に合うような寸法および質量でタブレット化してもよい。
【0107】
本実施形態の樹脂組成物は、スパイラルフローの流動長が50cm以上、好ましくは55cm以上、さらに好ましくは60cm以上である。したがって、本実施形態の樹脂組成物は、成形性に優れる。
【0108】
スパイラルフロー試験は、たとえば低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製「KTS-15」)を用いて、EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用の金型に金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で樹脂成形材料を注入し、流動長を測定することにより行うことができる。
【0109】
また、本実施形態の樹脂組成物は、下記条件で測定された矩形圧が0.1MPa以上、好ましくは0.15MPa以上、さらに好ましくは0.20MPa以上である。
矩形圧は、溶融粘度のパラメータであり、数値が小さい方が、溶融粘度が低い。本実施形態の樹脂組成物は、矩形圧が上記範囲であることにより、成形時における金型充填性に優れる。
【0110】
(条件)
低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入速度177mm3/秒の条件にて、幅13mm、厚さ1mm、長さ175mmの矩形状の流路に樹脂組成物を注入し、流路の上流先端から25mmの位置に埋設した圧力センサーにて圧力の経時変化を測定し、前記樹脂組成物の流動時における最低圧力を算出して、この最低圧力を矩形圧とする。
【0111】
本実施形態の熱硬化性樹脂と、高誘電率充填剤と、を含む樹脂組成物は、200℃で90分加熱して硬化させた硬化物において、以下の誘電率および誘電正接(tanδ)を有する。
空洞共振器法による18GHzでの誘電率が10以上、好ましくは12以上、より好ましくは13以上、特に好ましくは14以上とすることができる。
空洞共振器法による18GHzでの誘電正接(tanδ)が0.04以下、好ましくは0.03以下、より好ましくは0.02以下、特に好ましくは0.015以下とすることができる。
【0112】
<第2の誘電層50による効果>
図2および
図3を参照して、円形のアンテナパッチ20の上側に第1の誘電層40を挟んで第2の誘電層50を配置した構成の効果について説明する。
図1に示したアンテナ構造体1に具体的な数値を反映させて反射特性のシミュレーションを行った結果を示す。
図2は第2の誘電層50を有さない従来構成のアンテナ構造体による反射特性のシミュレーション結果を示す図である。
図3は第2の誘電層50を有する構成のアンテナ構造体1による反射特性のシミュレーション結果を示す図である。
シミュレーションの条件は次の通りである。
・アンテナパッチ20の第2の誘電層50の半径(r):1.57mm
・第1の誘電層40の高さ(gap
d):0.5mm
・第2の誘電層50の厚み(h
d):0.5mm
・第2の誘電層50の比誘電率(Dk):10
・第2の誘電層50無しの第1の誘電層40の比誘電率(a):1.0
・第2の誘電層50有りの第1の誘電層40の比誘電率(a):1.0、1.2、1.4
アンテナパッチ20の幅はW=a×2rとして計算した。
なお、第1の誘電層40の比誘電率(a)が1.2と1.4の条件は、第3の実施形態で説明する構成に対応するものである。
図2に示すように、第2の誘電層50を設けていない従来構成のアンテナ構造体の場合、損失-10dBとなる帯域A0は約0.85GHzである。
図3に示すように、第2の誘電層50を設けたアンテナ構造体1の場合、比誘電率(a)が1.0の場合、帯域A1は損失-10dBとなる帯域A1は約2.6GHzである。比誘電率(a)を1.2および1.4とした場合、帯域A2が約2.5GHz、帯域A3が1.5GHzと拡大している。
【0113】
≪第2の実施形態≫
図4を参照して本実施形態のアンテナ構造体101を説明する。
図4は、アンテナ構造体101の断面構造を示す。アンテナ構造体101は、第1の実施形態で示したアンテナ構造体1に、第2の誘電層50を所定の高さに支持する誘電層支持部160を追加した構成である。以下、誘電層支持部160に着目して説明し、第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0114】
本実施形態の誘電層支持部160は、上面161が有底であり底面が開口となった箱形中空構造(LID構造)である。側面162の下側端部163が基板10の上面11の外縁部分に固定される。誘電層支持部160の上面161の内面部分161aに第2の誘電層50が取り付けられる。
【0115】
誘電層支持部160の材料は、例えば比誘電率が3.0~5.0、誘電正接が0.001~0.010の熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる部材を用いることができる。
【0116】
このような構造の誘電層支持部160によって、第2の誘電層50は、アンテナパッチ20からの所定の高さに維持される。すなわち、第1の誘電層40が所定高さのギャップとして構成される。また、誘電層支持部160を変更することで、第2の誘電層50の固定高さを調整することができる。
なお、誘電層支持部160の箱形中空構造(LID構造)は第2の誘電層50を所定位置に支持できれば各種の構造を採用でき、例えば、上面161や側面162にメッシュ状に開口が設けられてもよい。
【0117】
≪第3の実施形態≫
図5を参照して本実施形態のアンテナ構造体201を説明する。
図5は、アンテナ構造体201の正面図である。アンテナ構造体201は、第1の実施形態で示したアンテナ構造体1に、第2の誘電層50を所定の高さに支持する誘電層支持部260を追加した構成である。また、アンテナパッチ20が2箇所に設けられている構成について例示する。以下、誘電層支持部260に着目して説明し、第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0118】
誘電層支持部260は、アンテナパッチ20の中心に設けられた絶縁性部材であり、変化部30における第1の誘電層40より上側の層(ここでは第2の誘電層50)を支持する。絶縁性部材は、例えば絶縁性ペーストの硬化物(ポスト成形品)とすることができる。絶縁性ペーストとして特許4780041号に記載の絶縁性半導体用樹脂ペーストを好適に用いることができる。誘電層支持部260の比誘電率は3.0~5.0、誘電正接が0.001~0.010とすることができる。
なお、誘電層支持部260を設ける位置および数は、アンテナパッチ20の中心に限らず、アンテナ構造体201の周波数特性に影響を及ぼさない限り、適宜選択しうる。
【0119】
このような構造の誘電層支持部260によって、第2の誘電層50は、アンテナパッチ20からの所定の高さに維持される。すなわち、第1の誘電層40が所定高さのギャップとして構成される。また、誘電層支持部260の量を調整することで、第2の誘電層50の固定高さを調整することができる。
【0120】
≪第4の実施形態≫
図6を参照して本実施形態のアンテナ構造体301を説明する。
図6はアンテナ構造体301を示す図であり、
図6(a)が正面図、
図6(b)が側面図である。アンテナ構造体301は、第1の実施形態で示したアンテナ構造体1に、第2の誘電層50を所定の高さに支持する誘電層支持部360を追加した構成である。また、アンテナパッチ20が2箇所に設けられている構成について例示する。以下、誘電層支持部360に着目して説明し、第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0121】
誘電層支持部360は、二つの第2の誘電層50を共通にアンテナパッチ20から所定の高さに、片持ち梁構造により支持する。具体的には、誘電層支持部360は、壁面361と、壁面361の上端から水平に延びる梁部362とを有する。壁面361は、基板10の上面11の長手方向端部に沿って立設する。梁部362は、壁面361の上端から水平に延出するプレート状の梁部362を有する。梁部362は、アンテナパッチ20の上方位置まで延びており、梁部362の延出端部において第2の誘電層50を吊り下げるように固定している。
【0122】
誘電層支持部360の材料は、例えば比誘電率が3.0~5.0、誘電正接が0.001~0.010の熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる部材を用いることができる。
【0123】
このような構造の誘電層支持部360によって、第2の誘電層50は、アンテナパッチ20からの所定の高さに維持される。すなわち、第1の誘電層40が所定高さのギャップとして構成される。また、誘電層支持部360を変更することで、第2の誘電層50の固定高さを調整することができる。
なお、二つの第2の誘電層50を共通に支持する誘電層支持部360について例示したが、それぞれの第2の誘電層50に誘電層支持部360が設けられてもよい。
【0124】
≪第5の実施形態≫
図7を参照して本実施形態のアンテナ構造体401を説明する。
図7はアンテナ構造体401の断面図である。アンテナ構造体401は、第1の実施形態で示したアンテナ構造体1に、第2の誘電層50を所定の高さに支持する誘電層支持部460として第1の誘電層40を設けている。以下、誘電層支持部460に着目して説明し、第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0125】
誘電層支持部460は、二つの第2の誘電層50を共通にアンテナパッチ20から所定の高さに支持する。誘電層支持部460は、低誘電体層であって、アンテナパッチ20の上に設けられる。さらに、誘電層支持部460の上に第2の誘電層50が設けられる。
【0126】
誘電層支持部460の材料、すなわち第1の誘電層40の材料は第1の比誘電率が1.0~4.0、誘電正接が0.001~0.010の熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる部材(例えばシート部材や発泡樹脂部材)を用いることができる。
第1の比誘電率の上限は、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.0以下である。
なお、誘電層支持部460(すなわち第1の誘電層40)は、異なる材質や異なる比誘電率の複数層で構成されてもよい。また、誘電層支持部460は、基板10の上面11全体を覆うように設けられてもよいし、アンテナパッチ20の上側のみに設けられてもよい。
【0127】
<誘電層支持部460の材料>
誘電層支持部460として発泡樹脂部材を用いることができる。発泡樹脂部材としては、例えば、特許6365798号や特許6972611号に記載の材料を用いることができ、具体的には、熱膨張性マイクロカプセルを使用した発泡フェノール樹脂を好適に用いることができる。この発泡フェノール樹脂としては、レゾール型フェノール樹脂をマトリックスに使用するとともに、必要に応じて繊維(繊維束)が含有される。以下では、繊維(繊維束)が含有される発泡フェノール樹脂について例示する。
【0128】
誘電層支持部460を構成する発泡樹脂部材は、樹脂2および繊維束3を含み、製造工程において熱膨張性マイクロカプセルを用いて発泡(空隙)を形成している。誘電層支持部460は、樹脂2のマトリックスに繊維束3が分散することによって複合化され、高い機械的特性を示す。これにより、誘電層支持部460の機械的特性をより高めることができる。なお、誘電層支持部460が変形に繋がるような応力を受けない場合、繊維束3は不要または少量であってよい。すなわち、繊維束3については、必要される機械的特性や熱伝導性の観点から適宜適切な量、大きさ等が選択される。また、熱膨張性マイクロカプセルを用いて発泡(空隙)が形成されるため、誘電層支持部460の軽量化が図られるとともに、空隙率を調整することで誘電層支持部460の比誘電率の調整が図られる。
【0129】
(樹脂)
誘電層支持部460は、樹脂2と、複数の単繊維が束ねられてなる繊維束3と、を含んでいる。
このような誘電層支持部460では、樹脂2が繊維束3で補強されているため、軽量であるにもかかわらず高い機械的強度が得られる。
【0130】
樹脂2は、誘電層支持部460に成形性や保形性を付与したり、繊維束3同士を結着するバインダとして機能したりする。したがって、樹脂2としては、このような機能を有するものであれば特に限定されない。例えば、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、メラミン系樹脂、ポリウレタンのような熱硬化性樹脂、ポリアミド系樹脂(例えばナイロン等)、熱可塑性ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリカーボネート、ポリエステル系樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、フッ素樹脂(例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等)、変性ポリフェニレンエーテル、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミドのような熱可塑性樹脂等が挙げられる。なお、樹脂2には、これらのうちの少なくとも1種が含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0131】
樹脂2は、特に熱硬化性樹脂を含むことが好ましい。これにより、誘電層支持部460の機械的特性および耐熱性をより高めることができる。
【0132】
また、樹脂2は、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂およびビスマレイミド樹脂のうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。これにより、誘電層支持部460の機械的特性および耐熱性を特に高めることができる。
【0133】
フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、アリールアルキレン型ノボラック樹脂のようなノボラック型フェノール樹脂、未変性のレゾールフェノール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油のような変性した油変性レゾールフェノール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。
【0134】
これらの中でも、コストおよび成形性の観点から、ノボラック型フェノール樹脂が好ましく用いられる。
【0135】
フェノール樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、1000~15000程度であるのが好ましい。なお、フェノール樹脂の重量平均分子量が前記下限値を下回ると、樹脂2の粘度が低くなり過ぎて製造時の成形が難しくなるおそれがある。一方、フェノール樹脂の重量平均分子量が前記上限値を上回ると、樹脂2の粘度が高くなり過ぎて製造時の成形性が低下するおそれがある。
【0136】
フェノール樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定されたポリスチレン換算の重量分子量として求めることができる。
【0137】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型のようなビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型のようなノボラック型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型、臭素化フェノールノボラック型のような臭素化型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0138】
これらの中でも、高流動性や成形性等の観点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0139】
また、比較的分子量の低いビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂がより好ましく用いられる。
【0140】
さらに、耐熱性の観点から、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂がさらに好ましく用いられ、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂が特に好ましく用いられる。
【0141】
ビスマレイミド樹脂としては、例えば、分子鎖の両末端にマレイミド基を有する樹脂であれば、特に限定されないが、ベンゼン環を有するものが好ましく、下記一般式(1)で表されるものがより好ましく用いられる。
【0142】
【化12】
[式中、R
1~R
4は、置換基を有していてもよい炭素数1~4の炭化水素基または水素原子を表す。また、R
5は、2価の有機基を表す。]
【0143】
ただし、ビスマレイミド樹脂は、分子鎖の両末端以外にマレイミド基を有していてもよい。
【0144】
ここで、有機基とは、炭素原子以外の原子を含んでいてもよい炭化水素基であり、炭素原子以外の原子としてはO、S、N等が挙げられる。
【0145】
R5は、好ましくはメチレン基と芳香環とエーテル結合(-O-)とが任意の順序で結合した主鎖構造を有し、主鎖上に置換基および側鎖の少なくとも一方を有していてもよい。主鎖構造に含まれるメチレン基と芳香環とエーテル結合との合計数は15個以下である。上記の置換基または側鎖としては、例えば、炭素数3個以下の炭化水素基、マレイミド基、フェニレン基等が挙げられる。
【0146】
ビスマレイミド樹脂としては、例えば、N,N’-(4,4’-ジフェニルメタン)ビスマレイミド、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、m-フェニレンビスマレイミド、p-フェニレンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、N,N’-エチレンジマレイミド、N,N’-ヘキサメチレンジマレイミド等が挙げられる。
【0147】
また、樹脂2とともに、必要に応じて硬化剤が併用される。
例えば、樹脂2としてノボラック型フェノール樹脂が用いられる場合、硬化剤としては、通常、ヘキサメチレンテトラミンが用いられる。
【0148】
また、例えば、樹脂2としてエポキシ樹脂が用いられる場合、硬化剤としては、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、ジシアミンジアミドのようなアミン化合物、脂環族酸無水物、芳香族酸無水物のような酸無水物、ノボラック型フェノール樹脂のようなポリフェノール化合物、イミダゾール化合物等が用いられる。
【0149】
これらの中でも、取り扱い性や環境面の観点から、ノボラック型フェノール樹脂が好ましく用いられる。特に、エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、およびトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂を用いる場合、硬化剤としては、硬化物の耐熱性がより向上し易いという観点から、ノボラック型フェノール樹脂が好ましく用いられる。
【0150】
また、例えば、樹脂2としてビスマレイミド樹脂が用いられる場合、硬化剤としては、イミダゾール化合物が用いられる。
なお、硬化剤としては、上述したもののうちの1種または2種以上が用いられる。
【0151】
一方、樹脂2は、特に熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。これにより、誘電層支持部460の成形性を特に高めることができ、より寸法精度が高い誘電層支持部460が得られる。
【0152】
さらに、樹脂2は、熱可塑性樹脂の中でもスーパーエンジニアリングプラスチックを含むことが好ましい。これにより、熱可塑性樹脂がもたらす効果に加え、高い機械的特性という効果が付加されることとなる。なお、スーパーエンジニアリングプラスチックとしては、例えば、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、液晶ポリマー、フッ素樹脂等が挙げられる。
【0153】
樹脂2の融点は、特に限定されないが、200~400℃であるのが好ましく、210~390℃であるのがより好ましく、260~380℃であるのがさらに好ましい。このような樹脂2を用いることにより、誘電層支持部460の機械的特性および耐熱性を十分に高めることができる。
【0154】
なお、樹脂2の融点が前記下限値を下回ると、誘電層支持部460の構成によっては、誘電層支持部460の高温時の寸法精度が低下したり、耐熱性に基づく難燃性が低下したりするおそれがある。一方、樹脂2の融点は前記上限値を上回ってもよいが、それに伴って一部の物性(例えば耐衝撃性等)が低下するおそれがある。
【0155】
ここで、樹脂2の融点は、原則として結晶融点のことであり、例えば、示差走査熱量計(DSC-2920、TAインスツルメント社製)により測定できる。
【0156】
また、樹脂2に結晶融点が存在せずガラス転移温度が存在する場合には、本発明における樹脂2の融点はガラス転移温度も含むものとする。このガラス転移温度も、上記の示差走査熱量計により測定可能である。
【0157】
さらに、樹脂2が熱硬化性樹脂の場合であって結晶融点もガラス転移温度も存在しない場合には、本発明における樹脂2の融点は熱硬化性樹脂の硬化物の耐熱温度も含むものとする。この耐熱温度は、JIS K 6911:1995の熱可塑性プラスチック一般試験方法に規定されている荷重たわみ温度とする。
【0158】
(繊維束3)
繊維束3は、誘電層支持部460の機械的特性を向上させたり、熱伝導性を高めたりすることに寄与する。
【0159】
このような繊維束3としては、例えば、長い繊維束を所定の長さに切断したものであって、必要に応じて開繊処理等が施されたものである。
【0160】
繊維束3の幅は、熱、電子等の伝導性や機械的特性等の物性を左右するので、繊維束3の幅を調整することによって、特性を異ならせることができる。
繊維束3の幅とは、撮像された観察像に写っている各第1繊維束31の最大幅のことをいう。観察時の倍率は、観察像内に繊維束3が10本以上写る倍率とする。
【0161】
繊維束3として用いられる繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アルミニウム繊維、銅繊維、ステンレス鋼繊維、黄銅繊維、チタン繊維、鋼繊維、リン青銅繊維のような金属繊維、綿繊維、絹繊維、木質繊維のような天然繊維、アルミナ繊維のようなセラミック繊維、全芳香族ポリアミド(アラミド)、全芳香族ポリエステル、全芳香族ポリエステルアミド、全芳香族ポリエーテル、全芳香族ポリカーボネート、全芳香族ポリアゾメチン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリ(パラ-フェニレンベンゾビスチアゾール)(PBZT)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(パラ-フェニレン-2,6-ベンゾビスオキサゾール)(PBO)のような合成繊維等が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種を含むものが用いられる。
【0162】
なお、繊維束3は、それぞれ一種類の単繊維のみで構成されるものに限定されず、複数種類の単繊維が束ねられてなるものであってもよい。
【0163】
そして、繊維束3は、前述した範囲の幅のものであれば、有機繊維を含む繊維束であっても無機繊維を含む繊維束であってもよい。換言すれば、繊維束3に含まれる単繊維は、有機繊維であっても無機繊維であってもよい。
【0164】
このうち、繊維束3として有機繊維を用いることにより、誘電層支持部460の軽量化を図ることができる。また、有機繊維の中には、機械的強度が非常に高いものもあるため、それらを選択することによって軽量化と高強度化との両立を図ることができる。なお、有機繊維としては、例えば、天然繊維、合成繊維等が挙げられる。
【0165】
一方、繊維束3として無機繊維を用いることにより、誘電層支持部460の高強度化を図ることができる。すなわち、無機繊維は、一般に引張強度等の機械的強度が高いため、誘電層支持部460の高強度化に寄与し易い。また、無機繊維は、熱伝導性、導電性、低膨張性等の特長を有するため、これらの物性を誘電層支持部460に付加することができる。このため、様々な付加価値を持つ誘電層支持部460を実現することができる。なお、無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維等が挙げられる。
【0166】
なお、誘電層支持部460には、繊維束3以外に、繊維束3が完全に開繊されてなる単繊維やその他の単繊維が含まれていてもよい。
【0167】
また、繊維束3に含まれる単繊維の平均径は、特に限定されないが、1~100μm程度であるのが好ましく、5~80μm程度であるのがより好ましい。単繊維の平均径を前記範囲内に設定することにより、誘電層支持部460の機械的特性を高めつつ、誘電層支持部460を製造するときの成形性を高めることができる。
【0168】
なお、単繊維の平均径とは、誘電層支持部460の樹脂2を溶解する等して100本以上の単繊維を取り出した後、その径をそれぞれ測定し、平均した値のことをいう。
【0169】
また、繊維束3には、必要に応じて、カップリング剤処理、界面活性剤処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、プラズマ照射処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0170】
このうち、カップリング剤としては、例えば、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシランのようなアミノ基含有アルコキシシラン、およびそれらの加水分解物等が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種を含むものが用いられる。
【0171】
誘電層支持部460における繊維束3の含有量は、特に限定されないが、樹脂2の1~300体積%程度であるのが好ましく、5~150体積%程度であるのがより好ましく、10~120体積%程度であるのがさらに好ましい。繊維束3の含有量を前記範囲内に設定することにより、樹脂2と繊維束3との量的なバランスが最適化されるため、誘電層支持部460の機械的特性を特に高めることができる。すなわち、繊維束3の含有量が前記下限値を下回ると、繊維束3が相対的に不足するため、樹脂2の組成や繊維束3の長さ、構成材料等によっては、誘電層支持部460の機械的特性が低下するおそれがある。一方、繊維束3が前記上限値を上回ると、樹脂2の含有量が相対的に不足するため、樹脂2の組成や繊維束3の長さ、構成材料等によっては、誘電層支持部460の機械的特性が低下するおそれがある。
【0172】
なお、繊維束3の形状は、いかなる形状であってもよく、例えば直線状であってもよいしせん状、蛇行形状等であってもよい。
【0173】
また、繊維束3は、誘電層支持部460中においていかなる方向に配向していてもよいが、好ましくは表面と平行になるように配向しているのが好ましい。これにより、誘電層支持部460の表面の引張方向において靭性を高めることができる。また、誘電層支持部460の表面の耐摩耗性や硬度も高くなる。
【0174】
なお、誘電層支持部460には、繊維束3に加えて、任意の開繊度合いを有する別の繊維が加えられていてもよい。
【0175】
(パルプ)
誘電層支持部460は、必要に応じてパルプを含んでいてもよい。パルプとは、フィブリル構造を有する繊維材料であり、上記繊維束3とは異なるものである。パルプは、例えば、繊維材料を機械的または化学的にフィブリル化することによって得ることができる。
【0176】
また、誘電層支持部460を抄造法によって製造するとき、材料の凝集性を高めることができるので、効率よく安定的に抄造することができる。
【0177】
パルプとしては、例えば、リンターパルプ、木材パルプのようなセルロース繊維、ケナフ、ジュート、竹のような天然繊維、パラ型全芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)およびその共重合体、芳香族ポリエステル繊維、ポリベンザゾール繊維、メタ型アラミド繊維およびそれらの共重合体、アクリル繊維、アクリロニトリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアミド繊維のような有機繊維等をフィブリル化したものが挙げられ、これらのうちの少なくとも1種が用いられる。
【0178】
また、誘電層支持部460におけるパルプの含有量は、特に限定されないが、樹脂2の0.5~10質量%程度であるのが好ましく、1~8質量%程度であるのがより好ましく、1.5~5質量%程度であるのがさらに好ましい。これにより、機械的特性や熱伝導性がより良好な誘電層支持部460を実現することができる。
【0179】
パルプの平均径は、繊維束3に含まれる単繊維の平均径より小さいことが好ましく、具体的には0.01~2μm程度であるのが好ましい。
【0180】
また、パルプの平均長さは、特に限定されないが、0.1~100mm程度であるのが好ましく、0.5~10mm程度であるのがより好ましい。
【0181】
なお、パルプのフィブリル化の指標としては、BET比表面積が用いられる。パルプのBET比表面積は、特に限定されないが、3~25m2/g程度であるのが好ましく、5~20m2/g程度であるのがより好ましい。これにより、パルプ同士あるいはパルプと繊維束3との絡み合いを十分に確保しつつ、誘電層支持部460を抄造法によって製造するときには抄造安定性を図ることができる。
【0182】
(凝集剤)
誘電層支持部460は、必要に応じて凝集剤を含んでいてもよい。
【0183】
凝集剤としては、例えば、カチオン性高分子凝集剤、アニオン性高分子凝集剤、ノニオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤等が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種が用いられる。
【0184】
より具体的には、例えば、カチオン性ポリアクリルアミド、アニオン性ポリアクリルアミド、ホフマンポリアクリルアミド、マンニックポリアクリルアミド、両性共重合ポリアクリルアミド、カチオン化澱粉、両性澱粉、ポリエチレンオキサイド等を挙げられる。
【0185】
また、誘電層支持部460における凝集剤の含有量は、特に限定されないが、樹脂2の0.01~1.5質量%程度であるのが好ましく、0.05~1質量%程度であるのがより好ましく、0.1~0.5質量%程度であるのがさらに好ましい。これにより、誘電層支持部460を例えば抄造法により製造するとき、脱水処理等を容易かつ安定的に行うことができ、最終的に機械的特性に優れた誘電層支持部460が得られる。
【0186】
(その他の添加剤)
誘電層支持部460は、必要に応じてその他の添加剤を含んでいてもよい。
【0187】
かかる添加剤としては、例えば、充填材、金属粉、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、離型剤、可塑剤、硬化触媒、硬化助剤、顔料、耐光剤、帯電防止剤、抗菌剤、導電剤、分散剤等が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種が用いられる。
【0188】
このうち、硬化助剤としては、例えば、イミダゾール化合物、三級アミン化合物、有機リン化合物、酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0189】
また、充填材には、例えば、無機充填材、有機充填材等が用いられる。具体的な構成材料としては、例えば、酸化チタン、アルミナ、シリカ、ジルコニア、酸化マグネシウム、酸化カルシウムのような酸化物類、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素のような窒化物類、硫酸バリウム、硫酸鉄、硫酸銅のような硫化物類、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムのような水酸化物類、カオリナイト、タルク、天然マイカ、合成マイカのような鉱物類、炭化ケイ素のような炭化物類等が挙げられる。さらに、これらの粉末にカップリング剤処理のような表面処理が施されたものであってもよい。
【0190】
また、充填材として、金属粉、ガラスビーズ、ミルドカーボン、グラファイト、ポリビニルブチラール、木粉等が用いられてもよい。
【0191】
また、離型剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0192】
また、カップリング剤としては、例えば、エポキシシランカップリング剤、カチオニックシランカップリング剤、アミノシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤等が挙げられる。
【0193】
また、難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムのような金属水酸化物、アンチモン化合物、ハロゲン化合物、リン化合物、窒素化合物、ホウ素化合物等が挙げられる。
【0194】
(空孔)
誘電層支持部460は、内部に空孔を含む。これにより、誘電層支持部460は発泡構造を呈し、密度(比重)を低下させ、軽量化を図ることができる。
【0195】
空孔は、誘電層支持部460に内包されている空間のことをいう。この空孔は、その1つ1つまたは複数個が連結したものが系外と隔離されている(樹脂2等によって取り囲まれている)空間(独立気泡)であってもよく、系外と連通している空間(連続気泡)であってもよい。
【0196】
このうち、特に限定されるものではないが、独立気泡が連続気泡よりも多いことが好ましい。これにより、空孔を含んでいても誘電層支持部460の機械的特性がより低下し難くなる。これは、独立気泡が圧壊し難いので、それに伴って誘電層支持部460の機械的強度が低下し難いことによる。
【0197】
なお、独立気泡が連続気泡より多いとは、誘電層支持部460の断面を拡大観察したとき、その独立気泡が占める面積の合計が、連続気泡が占める面積の合計より大きい状態をいう。
【0198】
誘電層支持部460が空孔として独立気泡を含む場合、空孔の平均径は、特に限定されないが、2~300μm程度であるのが好ましく、5~200μm程度であるのがより好ましい。これにより、空孔による誘電層支持部460の軽量化と、空孔による誘電層支持部460の機械的特性の低下の抑制と、を両立させることができる。すなわち、空孔の平均径が前記下限値を下回る場合、空孔率によっては、誘電層支持部460の軽量化が難しくなるおそれがある。一方、空孔の平均径が前記上限値を上回る場合、空孔率によっては、空孔が屈折や亀裂等の起点になり易くなるため、誘電層支持部460の機械的特性が低下するおそれがある。
【0199】
なお、空孔の平均径とは、誘電層支持部460の断面から空孔の面積と同じ面積を持つ円を仮想したとき、その円の直径(円相当径)として求められる。
【0200】
誘電層支持部460の空孔率は、特に限定されないが、10~90%程度であるのが好ましく、15~87.5%程度であるのがより好ましく、20~85%程度であるのがさらに好ましい。空孔率を前記範囲内に設定することにより、誘電層支持部460の軽量化と機械的特性とをバランスよく両立させることができる。すなわち、空孔率が前記下限値を下回ると、樹脂2の組成や繊維束3の長さ、構成材料等によっては、誘電層支持部460の軽量化が不十分になるおそれがある。一方、空孔率が前記上限値を上回ると、樹脂2の組成や繊維束3の長さ、構成材料等によっては、誘電層支持部460の機械的特性が低下するおそれがある。
【0201】
なお、空孔が独立気泡を含む場合には、誘電層支持部460の断熱性が向上する。これにより、誘電層支持部460における熱伝導性が低下するので、難燃性を高めることができる。
【0202】
誘電層支持部460の空孔率は、例えば誘電層支持部460の断面の面積において、空孔が占める面積の割合(空孔の面積率)として求められる。
【0203】
(製法および用途)
誘電層支持部460は、いかなる方法で製造されたものであってもよいが、後述するような抄造体であるのが好ましい。抄造体は、繊維を含む分散液を抄きとることによって得られる、繊維が分散した構造体である。このような抄造体によれば、比較的長い繊維同士が絡み合っているため、機械的強度をより高め易い。したがって、繊維の含有量を抑えたり、空孔率を高めたりした場合でも、機械的強度の高い誘電層支持部460が得られる。
【0204】
なお、繊維を含む構造体は、抄造体以外(例えば、繊維フィラーを含む組成物の射出成形体、押出成形体等)にも知られているが、特に長い繊維を均一に分散させた構造体を得やすいという観点からも、抄造体が好ましく用いられる。
【0205】
<誘電層支持部460の製造方法>
誘電層支持部460の製造方法について説明する。
図8~12は誘電層支持部460を製造する方法の一例(抄造法)を説明するための図である。
【0206】
誘電層支持部460の製造方法は、樹脂2と繊維束3とを含む分散液6を調製する工程と、分散液6から素形体9を抄造する工程と、素形体9を加熱しつつ加圧成形することにより、樹脂2の少なくとも一部を溶融させ、誘電層支持部460(抄造成形体)を得る工程と、を有する。以下、各工程について順次説明する。
【0207】
[1]
図8に示すように、樹脂2と繊維束3とこれらを分散させる分散媒5とを含む分散液6を調製する。調製した分散液6は、十分に撹拌、混合される。なお、分散液6には、必要に応じて、前述した凝集剤やパルプ、その他の添加剤等が添加されていてもよい。
【0208】
本工程における樹脂2の形状は、特に限定されず、例えば、略球形粒子状、薄膜粒子状等の粒子状(粉状)または繊維状とされる。これにより、後述する抄造において、繊維束3とともに樹脂2を抄きとることができる。その結果、樹脂2と繊維束3とを絡み合わせることができ、強固な誘電層支持部460を製造可能な素形体9が得られる。
【0209】
なお、樹脂2が熱硬化性樹脂を含む場合、その熱硬化性樹脂は半硬化状態であることが好ましい。半硬化の熱硬化性樹脂は、素形体9を製造後、加熱、加圧によって所望の形状に成形されて硬化に至る。これにより、熱硬化性樹脂の特性を生かした誘電層支持部460が得られることとなる。
【0210】
一方、繊維束3としては、例えば樹脂2よりも融点が高い繊維が用いられる。このような繊維束3を用いることにより、後述する工程において素形体9を加熱しつつ加圧成形するとき、樹脂2のみを選択的に溶融させることができる。これにより、樹脂2を繊維束3の周辺で溶融、分散させることができ、強固な誘電層支持部460が得られる。
【0211】
繊維束3の融点は、樹脂2の融点よりも高ければよいが、その差が10℃以上であるのが好ましく、50℃以上であるのがより好ましい。
【0212】
また、分散媒5としては、樹脂2や繊維束3を溶解させ難く、かつ、樹脂2や繊維束3を分散させる過程において揮発し難いものが好ましく用いられる。また、脱溶媒させ易いものが好ましく用いられる。かかる観点から、分散媒5の沸点は50~200℃程度であるのが好ましい。
【0213】
分散媒5としては、例えば、水、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、エチレングリコールのようなアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、2-ヘプタノン、シクロヘキサノンのようなケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸メチルのようなエステル類、テトラヒドロフラン、イソプロピルエーテル、ジオキサン、フルフラールのようなエーテル類等が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種が用いられる。
【0214】
これらの中でも、水が好ましく用いられる。水は、入手が容易であり、環境負荷が低く安全性も高いことから、分散媒5として有用である。
【0215】
また、分散液6における分散媒5の含有量は、特に限定されないが、固形分総量に対して10質量倍以上1000質量倍以下程度であるのが好ましい。
【0216】
また、誘電層支持部460に空孔を形成する為に、分散液6に熱膨張性を有するマイクロカプセルを添加する。このマイクロカプセルは、加熱されたときに膨張し、空孔となる。
【0217】
この熱膨張性を有するマイクロカプセルとは、揮発性の液体発泡剤を、ガスバリア性を有する熱可塑性シェルポリマーによりマイクロカプセル化した粒子である。このようなマイクロカプセルは、次のようなメカニズムにより、発泡剤として機能する。マイクロカプセルが加熱されると、カプセルの外殻が軟化しつつ、カプセルに内包した液体発泡剤が気化し圧力が増加する。その結果、カプセルが膨張し、中空球状粒子が形成される。この中空球状粒子は、加圧成形後においても残存するため、結果的に空孔の形成に寄与する。
【0218】
液体発泡剤としては、例えば、イソペンタン、イソブタン、イソプロパン等といった低沸点の炭化水素が挙げられる。
【0219】
熱可塑性シェルポリマーとしては、例えば、ポリアクリロニトリル、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、塩化ビニリデン-メチルメタクリレート共重合体、塩化ビニリデン-エチルメタクリレート、アクリロニトリル-メチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル-エチルメタクリレート等が挙げられ、これらを単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0220】
マイクロカプセルとしては、例えば、エクスパンセル(日本フェライト社製)、マイクロスフェアーF50、マイクロスフェアーF60(以上、松本油脂製薬社製)、アドバンセルEM(積水化学工業社製)といった市販品を用いることができる。
【0221】
マイクロカプセルの添加量は、樹脂2の0.05~10質量%程度とするのが好ましく、0.1~5質量%程度とするのがより好ましい。
【0222】
[2]続いて、調製した分散液6から素形体9を抄造する。これにより、誘電層支持部460を製造するための素形体9を得る(
図11参照)。
【0223】
具体的には、まず、
図9に示すように、底面にフィルター71が設けられた容器70を用意する。
【0224】
次に、容器70内に分散液6を供給する。そして、分散液6中の分散媒5を、フィルター71を介して容器70の底面から外部へ排出する。これにより、分散液6中の分散質である樹脂2と第1繊維束31および第2繊維束32とがフィルター71上に残存する(抄造)。この残存物を乾燥させることにより、素形体9を得る。
【0225】
このとき、フィルター71の形状を適宜選択することにより、所望の形状を有する素形体9を製造することができる。
【0226】
分散液6の粘度は、前述した凝集剤(定着剤)の濃度を適宜設定することによって調整可能である。例えば、分散液6中に添加される凝集剤の濃度は、質量比で50~1000ppmであるのが好ましく、100~500ppmであるのがより好ましい。これにより、分散液6の粘度が最適化され、分散液6において繊維束3を均一に分散させることができる。
【0227】
なお、分散液6における凝集剤の濃度が前記下限値を下回ると、分散液6の粘度が低くなり過ぎるため、繊維束3が凝集したり、沈降速度が速すぎて繊維の偏在が大きくなり過ぎたりするおそれがある。
【0228】
このようにして得られた素形体9は、分散媒5を含んでいても、含んでいなくてもよい。
【0229】
また、素形体9の形成後、必要に応じて、
図10に示すように、プレス型72とプレス型73との間に素形体9を配置し、プレス型72とプレス型73との間に形成される図示しないキャビティーによって素形体9を圧縮する。例えば、プレス型72を矢印Pのように降下させることにより、プレス型72とプレス型73との間で素形体9が圧縮される。これにより、素形体9に残存していた分散媒5を十分に排出し、素形体9を乾燥させることができる。
なお、必要に応じて、さらに乾燥機等で乾燥させるようにしてもよい。
【0230】
また、樹脂2として特に繊維状のものを用いた場合には、見かけ密度が特に小さい素形体9を得ることができる。このような素形体9は、後述する加圧成形においてその条件を適宜設定することにより、密度が小さい誘電層支持部460の製造を可能にする。すなわち、十分な軽量化が図られた誘電層支持部460が得られる。
【0231】
また、繊維状をなす樹脂2の平均長さは、繊維束3の平均長さの10~1000%程度であるのが好ましく、20~500%程度であるのがより好ましい。これにより、繊維状をなす樹脂2と繊維束3との絡まり合いの程度がより顕著になるため、素形体9の保形性がより良好になるとともに、より幅広い範囲の空孔率の誘電層支持部460を容易に製造可能な素形体9が得られる。
【0232】
また、繊維状をなす樹脂2の平均径は、特に限定されないが、1~100μm程度であるのが好ましく、5~80μm程度であるのがより好ましい。繊維状をなす樹脂2の平均径を前記範囲内に設定することにより、繊維状をなす樹脂2自体がある程度の機械的強度を有するものとなるため、素形体9において繊維状をなす樹脂2が均一に分散した状態を維持し易くなる。その結果、製造される誘電層支持部460において実現可能な空孔率の幅をより広くとることができる。
【0233】
なお、繊維状をなす樹脂2の平均径とは、任意の100本以上の繊維状をなす樹脂2について、その径を測定し、平均した値のことをいう。
【0234】
また、繊維状をなす樹脂2の径に対する長さの比(長さ/径)は、10以上であるのが好ましく、100以上であるのがより好ましい。これにより、繊維状をなす樹脂2が上記のような効果をより確実に発揮する。
【0235】
また、素形体9には、さらに、融点が200℃未満である熱可塑性樹脂(以下、「低融点樹脂」という。)が含まれていてもよい。この低融点樹脂が含まれることにより、素形体9の保形性をより高めることができる。すなわち、素形体9が加圧成形における加熱温度よりも低温で加熱されたとき(例えば乾燥等)、低融点樹脂が溶融して繊維束3等の繊維同士、樹脂2同士または繊維と樹脂2との間を結着する。これにより、素形体9はその形状を維持し易くなる。その結果、最終的に得られる誘電層支持部460についても、目的とする空孔率が得られ易くなるとともに、寸法精度や機械的特性についても低下し難くなる。また、素形体9が型崩れし難くなるため、素形体9を把持し易くなり、可搬性が高くなる。これにより、素形体9を梱包したり、搬送したりする作業をより容易に行うことができる。
【0236】
溶融する前の低融点樹脂の形状は、特に限定されず、略球形粒子状、薄膜粒子状等の粒子状(粉状)をなしていてもよく、繊維状をなしていてもよい。
【0237】
また、素形体9における低融点樹脂の含有量は、特に限定されないが、0.5~30体積%程度であるのが好ましく、1~20体積%程度であるのがより好ましく、2~10体積%程度であるのがさらに好ましい。これにより、前述した効果を損なうことなく、低融点樹脂を添加することによる素形体9の保形性を高めるという効果が必要かつ十分に確保される。
【0238】
低融点樹脂の融点は、樹脂2の融点から10~250℃程度低いのが好ましく、50~200℃程度低いのがより好ましい。このような融点の差があることにより、低融点樹脂が乾燥等の工程において溶融するとともに、加圧成形の際には熱分解して除去され易くなる。このため、低融点樹脂が持つ機能を最大限に発揮させることができる。すなわち、素形体9においては低融点樹脂がその形状を維持させるように働き、誘電層支持部460においては低融点樹脂が多く存在することによる機械的特性の低下を抑制することができる。
【0239】
素形体9における繊維束3の含有量は、特に限定されないが、樹脂2の20~300体積%程度であるのが好ましく、30~150体積%程度であるのがより好ましく、40~90体積%程度であるのがさらに好ましい。繊維束3の含有量を前記範囲内に設定することにより、樹脂2と繊維束3との量的なバランスが最適化されるため、素形体9の保形性を高めつつ、さらには、より幅広い範囲の空孔率を実現可能な誘電層支持部460を製造することができる素形体9が得られる。
【0240】
[3]次に、素形体9を加熱しつつ加圧成形する。これにより、素形体9中の樹脂2の少なくとも一部を溶融させ、誘電層支持部460(抄造成形体)が得られる。
【0241】
具体的には、
図12に示すように、成形型74と成形型75との間に素形体9を配置し、成形型74と成形型75との間に形成される図示しないキャビティーによって素形体9を加圧成形する。
【0242】
例えば、成形型74を矢印Pのように降下させることにより、成形型74と成形型75との間で素形体9が圧縮される。このとき、素形体9は同時に加熱されるため、樹脂2の少なくとも一部が溶融し、繊維束3の間に流れ込み、これらを結着するバインダとして機能する。その後、樹脂2が硬化することにより、樹脂2によって繊維同士が結着される。これにより、素形体9から誘電層支持部460が得られる。
【0243】
このときの加熱温度は、樹脂2の組成等に応じて適宜設定されるが、一例として150~350℃程度であるのが好ましく、160~300℃程度であるのがより好ましい。
【0244】
また、このときの加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定されるが、1~180分程度であるのが好ましく、5~60分程度であるのがより好ましい。
【0245】
また、このときの加圧力は、加熱温度や加熱時間に応じて適宜設定されるが、0.05~80MPa程度であるのが好ましく、0.1~60MPa程度であるのがより好ましい。
【0246】
なお、本工程における条件を適宜変更することにより、誘電層支持部460の空孔率を調整することが可能である。例えば、加熱温度を低くしたり、加熱時間を短くしたり、加圧力を小さくしたりしたときには、比較的空孔率の大きい誘電層支持部460を得ることができる。一方、加熱温度を高くしたり、加熱時間を長くしたり、加圧力を大きくしたりしたときには、比較的空孔率の小さい誘電層支持部460を得ることができる。
【0247】
このような構造の誘電層支持部460によって、第2の誘電層50は、アンテナパッチ20からの所定の高さに維持される。すなわち、誘電層支持部460である第1の誘電層40により、第2の誘電層50は所定の高さに支持される。
【0248】
<第1~第5の実施形態の特徴のまとめ>
以上、本発明の実施形態の特徴を簡単に纏めると次の通りである。
[1] 基板と、
前記基板上に設けられたアンテナパッチと、
前記アンテナパッチの上側に設けられた比誘電率が変化する変化部と、
を有し、
前記変化部は、
前記アンテナパッチの上側に設けられた第1の誘電層と、
前記第1の誘電層より上側に、前記アンテナパッチの形状に対応して設けられた第2の誘電層と、
を有し、
前記第2の誘電層の第2の比誘電率が、前記第1の誘電層の第1の比誘電率より大きい、アンテナ構造体。
[2]前記第1の誘電層が、前記基板上に直接設けられている、[1]に記載のアンテナ構造体。
[3]前記第2の誘電層が、前記第1の誘電層上に直接設けられている、[1]または[2]に記載のアンテナ構造体。
[4]前記第1の誘電層は空気層である、[1]から[3]までのいずれか1に記載のアンテナ構造体が提供される。
[5]前記第2の誘電層を前記基板から所定の高さに支持する絶縁性の誘電層支持部を有する、[1]から[4]までのいずれか1に記載のアンテナ構造体。
[6]前記誘電層支持部は、前記第1の誘電層である、[5]に記載のアンテナ構造体。
[7]前記誘電層支持部は、前記変化部における前記第1の誘電層より上側の層を複数箇所で支持する絶縁性ペーストの硬化物を有する、[5]に記載のアンテナ構造体。
[8]前記誘電層支持部は、前記第2の誘電層を片持ち梁構造により前記第2の誘電層を支持する、[5]に記載のアンテナ構造体。
[9]前記誘電層支持部は、天面を有し底面が開口となった箱形中空構造を呈しており、
前記第2の誘電層は、前記天面の内側面に取り付けられている、[5]に記載のアンテナ素子。
[10]前記第2の誘電層は、エポキシ樹脂の硬化物を有する、請求項[1]から[9]までのいずれか1記載のアンテナ構造体。
[11]周波数25GHzの測定条件における前記第2の比誘電率が、10以上20以下である、[1]から[10]までのいずれか1に記載のアンテナ構造体。
[12]周波数25GHzの測定条件における前記第1の比誘電率が、1以上4以下である、[1]から[11]までのいずれか1に記載のアンテナ構造体。
[13]周波数25GHzの測定条件における前記第2の比誘電率と前記第1の比誘電率の差が6以上19以下である、[1]から[12]までのいずれか1に記載のアンテナ構造体。
[14]前記アンテナパッチは、前記基板の鉛直上方側から見て、円形を呈する、[1]から[13]までのいずれか1に記載のアンテナ構造体。
[15]前記アンテナパッチは、前記基板の鉛直上方側から見て、矩形を呈する、[1]から[14]までのいずれか1に記載のアンテナ構造体。
【0249】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0250】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
以下、実施例に示す解析結果等は、AET社製の解析ソフト「CST STUDIO SUITE」を使用した結果である。
図13は実施例1~3および比較例1、2のアンテナ構造体のリストを断面構造として示した図である。実施例1~3および比較例1、2について、以下に示すモデルを用いて反射特性のシミュレーションを行った。
比較例1のモデルは、基板上にアンテナパッチを設けた基本的な基準モデルである。比較例2および実施例1~3では、比較例1の基準モデルに、それぞれ高誘電体(誘電体ブロック)を配置して、シミュレーションを実施した。なお、上述の実施形態では円形のアンテナパッチを例示したが、実施例では矩形(正方形)のアンテナパッチのモデルを用いた。
【0251】
<比較例1>
図14は比較例1におけるアンテナ構造体のモデルを説明する図であって、平面図で示している。
基板上にアンテナパッチを設け高誘電体を設けない基準モデルである。
モデルの仕様概要は次の通りである。
基板寸法(A11): 10mm×10mm
アンテナパッチ寸法(A12):2.62mm×2.62mm
給電線路の長さ(A13): 3.06mm (50Ω)
給電線路の幅(A14): 3.06mm (50Ω)
【0252】
<比較例2>
比較例1で示した基準モデルのアンテナパッチ上に高誘電体を直接配置した。
高誘電体の仕様は以下の通りである。形状は四角錐台とした。なお、比較例1及び実施例1、2の高誘電体の仕様は同一である(
図15、
図16参照)。
底辺(A21):2.00mm×(a_block)
上辺(A22):1.83mm×(a_block)
高さ(A23):1.00mm
a_block:高誘電体の倍率
ep_block:高誘電体の誘電率
高誘電体の底辺(A21)と上辺(A22)にa_block(倍率)を掛けて、水平方向の大きさを変更してシミュレーションを行った。なお、
図15、16ではa_block=1としている。
また、高誘電体の誘電率(ep_block)を変更してシミュレーションを行った。
【0253】
<実施例1>
図15は実施例1におけるアンテナ構造体のモデルを説明する図であって、
図15(a)が平面図、
図15(b)が
図15(a)のX11-X11断面図である。
実施例1は第5の実施形態に対応するもので、比較例1で示した基準モデルのアンテナパッチ上に発泡材(第5の実施形態の誘電層支持部460)を配置し、さらにその上に高誘電体を配置したモデルを用いた。
発泡材の仕様は以下の通りである。形状は、底面が正方形の直方体とした。
底辺(A31):3.62mm
高さ(A23):0.50mm
誘電率: 1.4
高誘電体の底辺(A21)と上辺(A22)にa_block(倍率)を掛けて、水平方向の大きさを変更してシミュレーションを行った。なお、
図15ではa_block=1としている。
また、高誘電体の誘電率(ep_block)を変更してシミュレーションを行った。
【0254】
<実施例2>
図16は実施例2におけるアンテナ構造体のモデルを説明する図であって、
図16(a)が平面図、
図16(b)が
図16(a)のX12-X12断面図である。
実施例2は第3の実施形態に対応するもので、比較例1で示した基準モデルのアンテナパッチ上に絶縁性のペーストからなる円柱状のポスト(第3の実施形態の誘電層支持部260)を設け、さらにその上に高誘電体を配置したモデルを用いた。
ペースト(ポスト)の仕様は以下の通りである。
直径(A41):1.00mm(半径0.5mm)
高さ(A42):0.50mm
誘電率: 4.0
高誘電体の底辺(A21)と上辺(A22)にa_block(倍率)を掛けて、水平方向の大きさを変更してシミュレーションを行った。なお、
図16ではa_block=1としている。
また、高誘電体の誘電率(ep_block)を変更してシミュレーションを行った。
【0255】
<実施例3>
図17は実施例1におけるアンテナ構造体のモデルを説明する図であって、
図17(a)が平面図、
図17(b)が
図17(a)のX13-X13断面図である。
実施例3は第2の実施形態に対応するもので、比較例1で示した基準モデルのアンテナパッチ上に、箱形中空構造(LID構造)の誘電層支持部により、底面が正方形の直方体の高誘電体をアンテナパッチ上の0.5mmの高さに配置したモデルを用いた。
高誘電体の仕様は次の通りである。
底辺(A21):2.00mm×(a_block)
高さ(A23):1.00mm
a_block:高誘電体の倍率
ep_block:高誘電体の誘電率
箱形中空構造(LID構造)の誘電層支持部の仕様は次の通りである。
底面外寸(A51):6mm
底面内寸(A52):5mm
内寸高さ(A53):0.5mm
高誘電体の底辺にa_block(倍率)を掛けて、水平方向の大きさを変更してシミュレーションを行った。なお、
図17ではa_block=1としている。
また、高誘電体の誘電率(ep_block)を変更してシミュレーションを行った。
【0256】
<シミュレーション結果>
図18~
図21および表1にシミュレーション結果を示す。
図18~
図20は反射特性のシミュレーション結果(グラフ)を示している。表1はシミュレーション結果をまとめて示したものである。評価1は、中心周波数28GHzを維持したままでどのような帯域が得られたかを示す。評価2は帯域拡大が最大のときの中心周波数のシフトと帯域について示すものである。
【0257】
図18は比較例1の反射特性のシミュレーション結果を示す図であり、基準となるものである。
中心周波数が28GHz、-10dBの帯域が0.51GHzであった。
【0258】
比較例2は帯域が3.2GHz(基準比6.2倍)となった。ただし、比較例2の構造は、高誘電体を直接アンテナパッチに取り付けることから、アンテナパッチの形状や給電位置等の変更、すなわち基板変更が必要である。
【0259】
図19は実施例1のシミュレーション結果を示している。
図19(a)は中心周波数28GHzとなる条件の一例であり、高誘電体の誘電率(ep_block)=18、高誘電体の倍率(a_block)=1.4としたときの反射特性のシミュレーション結果(グラフ)である。
図19(b)は中心周波数28GHzとなる7例について、高誘電体の誘電率(ep_block)、高誘電体の倍率(a_block)、-10dBとなる下側周波数(b_min[GHz])および上側周波数(b_max[GHz])、帯域(band[GHz]=b_max-b_min)を纏めたテーブルである。
図19(c)は帯域が最大となった条件、ここでは高誘電体の誘電率(ep_block)=18、高誘電体の倍率(a_block)=1.5としたときの反射特性のシミュレーション結果(グラフ)である。
図19(a)、(b)に示されるように、中心周波数28GHzを維持したまま、帯域拡大が実現されることが確認できた。また、
図19(c)に示されるように、帯域を大幅(2GHz以上)に拡大させることで、中心周波数は高周波側に増加するものの、周波数28GHzの反射特性は-10dB以下に収まっており、十分な実用性を達成できることが確認できた。
【0260】
図20は実施例2のシミュレーション結果を示している。
図20(a)は中心周波数28GHzとなる条件の一例であり、高誘電体の誘電率(ep_block)=16、高誘電体の倍率(a_block)=1.4としたときの反射特性のシミュレーション結果(グラフ)である。
図20(b)は帯域が最大となった条件、ここでは高誘電体の誘電率(ep_block)=20、高誘電体の倍率(a_block)=1.4としたときの反射特性のシミュレーション結果(グラフ)である。
実施例1と比較すると帯域拡大が小さいものの、基準(実施例1)と比較して十分な帯域拡大を実現できることが確認できた。
【0261】
図21は実施例3のシミュレーション結果を示している。
図20は帯域が最大となった条件、ここでは高誘電体の誘電率(ep_block)=10、高誘電体の倍率(a_block)=1.4としたときの反射特性のシミュレーション結果(グラフ)である。なお、実施例3のモデルでは、中心周波数28GHzを維持したままの特性を得ることができる条件はなかった。
実施例3のモデルでは、中心周波数がある程度シフトすることを許容できる場合であれば、十分な帯域拡大を実現できることが確認できた。
【0262】
【0263】
また表1のシミュレーション結果では、アンテナパッチ1つのみで検証しているが、アンテナパッチが4つのアレイ状に並んだアンテナ構造体の場合は、更に帯域拡大を実現することができる。