(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158377
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】押出プレス装置及び押出プレス装置における省エネ運転モータ起動制御方法。
(51)【国際特許分類】
B21C 31/00 20060101AFI20231023BHJP
H02P 1/16 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
B21C31/00
H02P1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068185
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】薬師川 敦
(72)【発明者】
【氏名】江本 幸男
【テーマコード(参考)】
4E029
5H001
【Fターム(参考)】
4E029AA06
4E029AA07
4E029TA08
5H001AA03
5H001AB01
5H001AC02
5H001AD01
5H001AE01
(57)【要約】
【課題】押出工程中に起動される油圧ポンプにより、押出速度に影響を及ぼさず、起動電流(トルク)や起動時間が、作動油の温度や油圧ポンプ等の油圧部品の経年変化に伴うモータ負荷の変動によって変動する場合でも、省エネ効果を得る。
【解決手段】直前又は以前の成形サイクルにおいて起動装置により取得した各モータの起動時間と、実行中の押出工程において算出させた押出終了予定時間と、から、停止させていた各油圧ポンプのモータを、押出工程終了までに起動させる起動タイミングを算出させる停止油圧ポンプ起動タイミング算出工程と、起動タイミングにおいて、停止させていた各油圧ポンプの吐出管路の各アンロード弁が開放状態において、停止させていた各油圧ポンプのモータを起動装置により起動させる停止油圧ポンプ起動工程と、を備えることを特徴とする、押出プレス装置における省エネ運転モータ起動制御方法によって達成される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の油圧ポンプと、前記油圧ポンプを駆動するモータと、制御装置と、を備え、前記モータの起動装置が、ソフトスタータ、インバータ及びACサーボのいずれかであって、前記モータの起動時の電流を制限する押出プレス装置であって、
前記起動装置により、各前記モータの起動時間及び起動直後の無負荷電流値を取得すると共に、
前記油圧ポンプの各吐出管路に、タンク管路への開閉制御が可能なアンロード弁と、圧力検出手段と、が配置されることを特徴とする押出プレス装置。
【請求項2】
請求項1に記載の押出プレス装置における省エネ運転モータ起動制御方法であって、
直前又は以前の成形サイクルにおいて前記起動装置により取得した各前記モータの起動時間と、
実行中の押出工程において算出させた押出終了予定時間と、から、停止させていた各前記油圧ポンプの前記モータを、押出工程終了までに起動させる起動タイミングを算出させる停止油圧ポンプ起動タイミング算出工程と、
前記起動タイミングにおいて、停止させていた各前記油圧ポンプの前記吐出管路の各前記アンロード弁が開放状態において、停止させていた各前記油圧ポンプの前記モータを前記起動装置により起動させる停止油圧ポンプ起動工程と、
を備えることを特徴とする、押出プレス装置における省エネ運転モータ起動制御方法。
【請求項3】
直前又は以前の成形サイクルにおいて、前記起動装置により取得した各前記モータの起動時間が、予め設定した閾値を超えている場合、該前記モータが駆動する前記油圧ポンプを、次の押出工程において停止させる前記油圧ポンプから除外すると共に、起動負荷異常警報を発信させる停止油圧ポンプ選択工程を備えることを特徴とする請求項2に記載の、押出プレス装置における省エネ運転モータ起動制御方法。
【請求項4】
直前又は以前の成形サイクルにおいて、前記起動装置により取得した各前記モータの起動直後の無負荷電流値が、予め設定した閾値を超えている場合、該前記モータが駆動する前記油圧ポンプを、次の押出工程において停止させる前記油圧ポンプから除外すると共に、起動負荷異常警報を発信させる停止油圧ポンプ選択工程を備えることを特徴とする請求項2に記載の、押出プレス装置における省エネ運転モータ起動制御方法。
【請求項5】
直前又は以前の成形サイクルにおいて、前記圧力検出手段により取得した、停止させていた各前記油圧ポンプの前記モータ起動時の各前記吐出管路の圧力が、予め設定した閾値を超えている場合、該前記モータが駆動する前記油圧ポンプを、次の押出工程において停止させる前記油圧ポンプから除外すると共に、起動負荷異常警報を発信させる停止油圧ポンプ選択工程を備えることを特徴とする請求項2に記載の、押出プレス装置における省エネ運転モータ起動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータにより駆動される油圧ポンプを有する押出プレス装置及び押出プレス装置における省エネ運転モータ起動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属材料、例えばアルミニウム又はその合金材料等からなるビレットを押出プレス装置により押し出す場合、ダイスにコンテナを押し付けた状態で、ビレットをビレットインサーターによりコンテナ内に収納し、そして、メインラムを油圧シリンダの駆動により前進させると、ビレットはメインラムの先端に取り付けられた押出ステムによって押圧されて、ダイスの出口部から、成形された製品として押し出される。ビレットを押し出した後は、メインラムとコンテナを若干後退させて、ダイス面に残ったビレット、即ちディスカードを、コンテナ外へ露出させる。次に、コンテナとダイスとの間にシャー装置の切断刃を送り込み、ダイス面に残ったディスカードを切り離す。その後は、メインラムを後退させて押出ステムをコンテナから抜き出し、次のビレットをコンテナに挿填して次サイクルの押出成形に移行する。
【0003】
特許文献1は、高いエネルギー効率の動作が実現できる、ソフトスタート手段がメインラムを駆動する油圧ポンプの電動モータに設けられた押出プレス装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
押出プレス装置は、メインラムを駆動する油圧シリンダをはじめ、押出プレス装置を構成する各油圧シリンダに対して、並列に配置された複数台の油圧ポンプから作動油が供給されるように構成されることが一般的である。複数台の油圧ポンプは、その全てが常に作動されるわけではなく、メインラムの前進工程(以下、「押出工程」という)においては、選択された一部の油圧ポンプが作動される。一方、押出工程と次の押出工程との間の時間(以下、「アイドル工程」という)においては、その全台数または一部が、例えば、サイドシリンダ、コンテナシリンダ、及びディスカード切断用のシャー装置等を駆動するために作動される。そのため、押出プレス装置においては、押出工程中に不要となる油圧ポンプを停止することによって省エネを図っている。この場合、押出工程後のアイドル工程に備えて、押出工程終了までに、停止させていた油圧ポンプのモータを事前に起動しておく必要がある。
【0006】
一方、押出プレス装置の油圧ポンプに用いられるモータは200kW等、比較的大容量のものが多く、起動停止を頻繁に行うとモータ焼損や機械的損傷が発生する。そのため、特許文献1のソフトスタータや、インバータ及びACサーボといった起動装置を使用して、起動電流(トルク)や起動時間を制御しながら運転・停止を行う省エネ運転が行われている。
【0007】
このような省エネ運転においては、押出工程中に、停止させていた油圧ポンプのモータを起動させるため、起動時に油圧ポンプから吐出される作動油が、押出工程中のメインラムの前進速度に影響を与えるという問題があった。また、省エネ運転において制御される起動電流(トルク)や起動時間が、作動油の温度や油圧ポンプ等の油圧部品の経年変化に伴うモータ負荷の変動によって変動するため、余裕を鑑みた起動時間を設定せざるを得ず、十分な省エネ効果を得ることができないという問題があった。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであって、押出工程中に起動される油圧ポンプにより、押出速度に影響を及ぼさず、起動電流(トルク)や起動時間が、作動油の温度や油圧ポンプ等の油圧部品の経年変化に伴うモータ負荷の変動によって変動する場合でも、省エネ効果を得ることができる、押出プレス装置及び押出プレス装置における省エネ運転モータ起動制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、複数の油圧ポンプと、前記油圧ポンプを駆動するモータと、制御装置と、を備え、前記モータの起動装置が、ソフトスタータ、インバータ及びACサーボのいずれかであって、前記モータの起動時の電流を制限する押出プレス装置であって、
前記起動装置により、各前記モータの起動時間及び起動直後の無負荷電流値を取得すると共に、
前記油圧ポンプの各吐出管路に、タンク管路への開閉制御が可能なアンロード弁と、圧力検出手段と、が配置されることを特徴とする押出プレス装置によって達成される。
【0010】
また、本発明の上記目的は、前述した押出プレス装置における省エネ運転モータ起動制御方法であって、直前又は以前の成形サイクルにおいて前記起動装置により取得した各前記モータの起動時間と、
実行中の押出工程において算出させた押出終了予定時間と、から、停止させていた各前記油圧ポンプの前記モータを、押出工程終了までに起動させる起動タイミングを算出させる停止油圧ポンプ起動タイミング算出工程と、
前記起動タイミングにおいて、停止させていた各前記油圧ポンプの前記吐出管路の各前記アンロード弁が開放状態において、停止させていた各前記油圧ポンプの前記モータを前記起動装置により起動させる停止油圧ポンプ起動工程と、
を備えることを特徴とする、押出プレス装置における省エネ運転モータ起動制御方法によって達成される。
【0011】
また、本発明に係る、押出プレス装置における省エネ運転モータ起動制御方法においては、直前又は以前の成形サイクルにおいて、前記起動装置により取得した各前記モータの起動時間が、予め設定した閾値を超えている場合、該前記モータが駆動する前記油圧ポンプを、次の押出工程において停止させる前記油圧ポンプから除外すると共に、起動負荷異常警報を発信させる停止油圧ポンプ選択工程を備えていることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明に係る、押出プレス装置における省エネ運転モータ起動制御方法においては、直前又は以前の成形サイクルにおいて、前記起動装置により取得した各前記モータの起動直後の無負荷電流値が、予め設定した閾値を超えている場合、該前記モータが駆動する前記油圧ポンプを、次の押出工程において停止させる前記油圧ポンプから除外すると共に、起動負荷異常警報を発信させる停止油圧ポンプ選択工程を備えていることが好ましい。
【0013】
一方、本発明に係る、押出プレス装置における省エネ運転モータ起動制御方法においては、直前又は以前の成形サイクルにおいて前記圧力検出手段により取得した、停止させていた各前記油圧ポンプの前記モータ起動時の各前記吐出管路の圧力が、予め設定した閾値を超えている場合、該前記モータが駆動する前記油圧ポンプを、次の押出工程において停止させる前記油圧ポンプから除外すると共に、起動負荷異常警報を発信させる停止油圧ポンプ選択工程を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る、押出プレス装置は、複数の油圧ポンプと、前記油圧ポンプを駆動するモータと、制御装置と、を備え、前記モータの起動装置が、ソフトスタータ、インバータ及びACサーボのいずれかであって、前記モータの起動時の電流を制限する押出プレス装置であって、
前記起動装置により、各前記モータの起動時間及び起動直後の無負荷電流値を取得すると共に、
前記油圧ポンプの各吐出管路に、タンク管路への開閉制御が可能なアンロード弁と、圧力検出手段と、が配置されることを特徴とする押出プレス装置であるため、本発明に係る、押出プレス装置における省エネ運転モータ起動制御方法の実施に好適である。
【0015】
そして、本発明に係る、押出プレス装置における省エネ運転モータ起動制御方法は、直前又は以前の成形サイクルにおいて前記起動装置により取得した各前記モータの起動時間と、
実行中の押出工程において算出させた押出終了予定時間と、から、停止させていた各前記油圧ポンプの前記モータを、押出工程終了までに起動させる起動タイミングを算出させる停止油圧ポンプ起動タイミング算出工程と、
前記起動タイミングにおいて、停止させていた各前記油圧ポンプの前記吐出管路の各前記アンロード弁が開放状態において、停止させていた各前記油圧ポンプの前記モータを前記起動装置により起動させる停止油圧ポンプ起動工程と、
を備えるため、押出工程中に起動される油圧ポンプにより、押出速度に影響を及ぼさず、起動電流(トルク)や起動時間が、作動油の温度や油圧ポンプ等の油圧部品の経年変化に伴うモータ負荷の変動によって変動する場合でも、省エネ効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】油圧ポンプ及び油圧ポンプ用モータの配置も含めた本発明の第1実施形態に係る、押出プレス装置の概略的な構造図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る、押出プレス装置の油圧ポンプを駆動する各モータの起動装置について説明する図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る、モータ起動時の起動電流の変化を示すグラフである。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る、押出プレス装置における省エネ運転モータ起動制御方法を説明する図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る、押出プレス装置における省エネ運転モータ起動制御方法の停止油圧ポンプ起動タイミング算出工程を説明する図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る、押出プレス装置における省エネ運転モータ起動制御方法の停止油圧ポンプ選択工程を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0018】
[第1実施形態]
まず、第1実施形態に係る押出プレス装置の基本構成について、
図1を参照しながら説明する。
図1に示す押出方向を押出プレス装置の前方、その逆を後方とする。第1実施形態に係る押出プレス装置100においては、エンドプラテン1とメインシリンダ2が対向して配置され、両者は複数のタイロッド3によって連結されている。エンドプラテン1の内側面には押出孔が形成されたダイス4を挟んでコンテナホルダ12に保持されるようにコンテナ5が配置される。コンテナ5内にはビレット6が装填され、これをダイス4に向けて押出加圧することでダイス4の押出孔に応じた断面の押出製品が押出成形される。コンテナ5(コンテナホルダ12)は、エンドプラテン1に固定されたコンテナシリンダ13によってダイス4に対して接離するように構成されている。
【0019】
押出作用力を発生させるメインシリンダ2は、メインラム9を内蔵し、油室2aに作動油を供給することにより、メインラム9をコンテナ5に向けて加圧移動可能に配置されている。メインシリンダ2は、本実施形態では、3台の並列に配置された可変容量型のメインポンプ141~143(メインポンプユニット160)から作動油を供給されてメインラム9を押出方向に前進移動させる。メインラム9の前端部には、コンテナ5のビレット装填穴と同芯配置されるように押出ステム7がその先端に図示しないフィックスダミーブロックを密接させて、コンテナ5に向けて突出状態でメインクロスヘッド8を介して取り付けられている。したがって、メインシリンダ2を駆動してメインクロスヘッド8を前進させると、押出ステム7がコンテナ5のビレット装填穴に挿入され、装填されたビレット6の後端面を加圧して押出製品を押し出す。なお、メインラム9は、サイドシリンダ14によって後退移動させられるが、サイドシリンダ14は、メインシリンダ2を駆動してメインクロスヘッド8を前進させる際も、メインシリンダ2と協働して駆動させる。
【0020】
メインポンプ141~143は、それぞれモータ131~133により駆動され、押出中にメインラム9を前進させるために作動油をメインシリンダ2及びサイドシリンダ14のヘッド側室に供給する。メインポンプ141~143は、押出プレス装置100のアイドル工程中に、メインクロスヘッド8を介してメインラム9及び押出ステム7を後退させるために図示されない管路により作動油をサイドシリンダ14のロッド側室へ、及びコンテナ5をダイス4から離間させるためにコンテナシリンダ13のヘッド側室へ、及びディスカード切断用のシャー装置22へも供給する。メインポンプ141~143からの作動油は、図示されない複数の方向切換弁によって流路を切り替えられて、上述したシリンダ等へ供給される。メインポンプ141~143は、本実施形態では可変容量ポンプであり、より詳しくは可変容量型斜板式ピストンポンプである。
【0021】
メインポンプ141~143の各ポンプの吐出量可変機構(可変容量型斜板式ピストンポンプ等)に作動油を供給させる油圧ポンプユニットが、油圧ポンプ145及びモータ135である。油圧ポンプ145は固定吐出量油圧ポンプで、且つ、モータ135は所定の回転数でオープン制御される。そして、油圧ポンプ145から吐出量可変機構に供給される作動油の流量(あるいは圧力)が、吐出量可変機構側に配置された電磁弁への流量制御指令により制御され、各メインポンプの吐出量が制御される。
【0022】
また、メインポンプ141~143の各吐出管路には、タンク管路への開閉制御が可能なアンロード弁141a~143aと、圧力検出手段141b~143bが配置されている。図を見易くするため、アンロード弁141a~143aと、圧力検出手段141b~143bは、メインポンプ141にのみ図示している。
【0023】
オイルクーラポンプ51はモータ51aにより駆動され、メインシリンダ2等より戻ってきた高温の作動油を所定の温度まで冷却するために、図示しない作動油タンクから作動油をオイルクーラ21へ供給するためのポンプである。オイルクーラポンプ51は、本実施形態では固定容量型ポンプである。
【0024】
コンテナシールポンプ53はモータ53aにより駆動され、押出工程中に、ダイス4にコンテナ5を押圧させてコンテナシール力を発生させるために、コンテナシリンダ13のロッド側室に作動油を送るためのポンプである。コンテナシールポンプ53は、本実施形態では固定容量型ポンプである。
【0025】
加勢ポンプ151はモータ152により駆動され、アイドル工程においてシャー装置22の動作や、メインラム9を後退させる際のサイドシリンダ14の移動速度の増速のために作動油を供給するためのポンプである。加勢ポンプ151の吐出管路にも、メインポンプ141~143と同様に、タンク管路への開閉制御が可能なアンロード弁151aと、圧力検出手段151bが配置されている。
【0026】
次に、
図2及び
図3を参照しながら第1実施形態に係る押出プレス装置の油圧ポンプを駆動する各モータの起動装置について説明する。
図2に示すように、起動装置45は、3φ電源41からブレーカ42及び開閉器(マグネット)43を経由して、各モータに電源を供給する。また、起動装置45は、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)46と電気的に接続され、PLC46は、起動装置45へ、起動・停止指令47を発信すると共に、モータ起動時の起動時間及び起動直後の無負荷電流値48を起動装置45から取得するよう構成されている。起動装置45により、モータ起動時の電流を制限することにより各モータの成形サイクル毎の起動停止を可能にする。モータ起動時の電流の制限値は、例えば、定格電流の160%とすると、この状態でのモータ起動に要する時間は、諸条件にもよるが約10秒以内が通常である。
【0027】
ここで、モータ起動時の起動電流の変化を
図3のグラフに示す。横軸が時間tで、縦軸が定格電流に対する割合で示した電流値Iである。モータ起動時の電流値を、定格電流の160%に制限すると、起動電流は起動時から定格電流の160%まで上昇し、所定時間経過後の起動完了時には定格電流よりも低い値で安定する。この安定時の電流値は例えば定格電流の30%程度である。後述するように、モータが起動される油圧ポンプの吐出管路に配置されているアンロード弁は開放状態(タンク管路へ接続)であるため、モータは無負荷運転状態である。起動装置45は、
図2に示すように、起動されるモータの起動時間及び起動直後の無負荷電流値を取得してPLC46へ発信する。
【0028】
次に、
図4及び
図5を参照しながら、第1実施形態に係る押出プレス装置における省エネ運転モータ起動制御方法を説明する。
図4に示すように、押出工程と次の押出工程の間(アイドル工程/非押出時間)においては、基本的に、メインポンプユニット160及び加勢ポンプ151等、全ての油圧ポンプが駆動される。そして、押出工程においては、押出設定速度により、駆動される油圧ポンプの台数がメインポンプユニット160の中から選択される。この選択にしたがって、押出工程において選択されなかった油圧ポンプのモータが停止される。また、モータが停止された油圧ポンプの吐出管路に配置されるアンロード弁がタンク管路に開放される。
図1に示すように、
図4は、メインポンプユニットの油圧ポンプ台数が3台で、その内の1台のみが押出工程中に駆動され、残りの2台が停止されるものとする。
【0029】
押出工程中、図示しない制御装置では、停止油圧ポンプ起動タイミング算出工程が行われる。具体的には、まず、実行されている押出工程の終了時間を算出する。
図5に示すように、メインラム9が後退限位置にある状態(ラムストロークS=0)の、押出ステム7及びダイス4端面までの距離をA、予め設定される押出終了時のディスカード(ビレット6の押残り)10の厚みをD、メインラム9の計測時の位置(ラムストローク)をSとすると、実行中の押出工程の終了タイミングは、実行中の押出工程の残り時間Tとして下記の式で算出される。
・((A-D)-S)/実押出速度(mm/sec.)=残り時間T(sec.)
【0030】
この残り時間Tを基準として、直前の成形サイクルにおいて起動装置45から取得した、停止させている油圧ポンプのモータの起動時間から、停止させている油圧ポンプのモータの起動タイミングを算出する。具体的には、
図4の下方、押出2本目に記載されているように、直前(押出1本目)の成形サイクルにおけるモータ1の起動時間が7秒、モータ2の起動時間が8秒だったとすると、モータ1の起動タイミングを、押出工程の終了タイミングから7+8=15秒前に設定し、モータ2の起動を、押出工程の終了タイミングから8秒前に設定する。
【0031】
そして、停止油圧ポンプ起動タイミング算出工程において設定された、停止させている油圧ポンプのモータの起動タイミングにしたがって、それぞれのモータを1台ずつ起動させる(停止油圧ポンプ起動工程)。それぞれのモータを同時に起動させることも可能ではあるが、電源の負荷を鑑み、1台ずつ起動させることが好ましい。
【0032】
このように、押出工程中に停止させている油圧ポンプのモータを、直前の成形サイクルにおいて起動装置45から取得した起動時間に準じて起動させるため、起動時間が作動油の温度や油圧ポンプ等の油圧部品の経年変化に伴うモータ負荷の変動によって変動する場合でも、モータの停止時間を最大にできるため、十分な省エネ効果を得ることができる。
【0033】
また、上述したモータの起動時、起動させるモータが駆動する油圧ポンプの吐出管路のアンロード弁が開放状態であるため、モータを起動させた油圧ポンプからの作動油の吐出が押出工程における押出速度に影響を与えることがない。さらに、起動させるモータが駆動する油圧ポンプの吐出管路のアンロード弁が開放状態であるため、起動させるモータへの起動負荷を最小に抑えることができ、起動電流制限を行い起動できる安価なソフトスタータを起動装置に採用する場合に好適である。
【0034】
なお、停止油圧ポンプ起動タイミング算出工程においては、直前の成形サイクルにおけるモータの起動時間に基づいて、各モータの起動タイミングを算出するが、1本目の成形サイクルにおいては、
図4の下方、押出1本目に記載されているように、予め設定した起動時間、例えば10秒を起動時間として、各モータの起動タイミングが算出されればよい。
【0035】
また、メインポンプユニット160を構成する各メインポンプは、油圧ポンプの稼働状況を均一にするため、押出工程において駆動させる油圧ポンプと停止させる油圧ポンプとを固定せず、成形サイクル毎、あるいは、複数成形サイクル毎に変更するように図示しない制御装置により制御される。そのため、直前の成形サイクルにおいて、押出工程中に停止されなかった油圧ポンプを次の成形サイクルで停止させる場合、直前の成形サイクルにおけるモータ起動時の起動時間が取得されていない。この場合は、同油圧ポンプが最後に停止された際の以前の成形サイクルにおいて取得された起動時間が適用される。
【0036】
[第2実施形態]
次に、
図6を参照しながら、第2実施形態に係る押出プレス装置における省エネ運転モータ起動制御方法を説明する。第2実施形態の第1実施形態との差異は、第2実施形態が、押出工程において停止させる油圧ポンプを選択する停止油圧ポンプ選択工程を備える点である。それ以外は、第1実施形態と同じであるため、停止油圧ポンプ選択工程のみを説明する。
【0037】
第2実施形態においても、メインポンプユニットの油圧ポンプ台数が3台で、その内の1台のみが押出工程中に駆動され、残りの2台が停止されるものとする。
【0038】
停止油圧ポンプ選択工程は、押出工程が終了して、次の押出工程が開始されるまでに図示しない制御装置において行われる。具体的には、
図6に示すように、メインポンプユニットの各メインポンプについて、次の3点を確認して、押出工程中のモータの停止が可能か判断する。1点は、起動装置45により取得したモータの起動時間が予め設定した閾値以内であるかを確認する。これは、油圧ポンプは経年変化等でモータ起動時の負荷が増大して、これにより、起動時間が増加する傾向があるため、起動時間を監視することにより油圧ポンプの経年変化等による劣化を判断させるものである。この閾値は、例えば、モータの起動電流を定格電流の160%に制限した場合においては10秒が設定される。
【0039】
次の1点は、起動装置45により取得した起動直後の無負荷電流値が閾値以内であるかを確認する。これは、油圧ポンプは経年変化等でモータ起動時の負荷が増大して、これにより、起動直後の無負荷電流値が増加する傾向があるため、起動直後の無負荷電流値を監視することにより油圧ポンプの経年変化等による劣化を判断させるものである。この閾値は、例えば、起動直後の安定した無負荷電流値の正常値プラス5%とする。先に説明したように、モータの起動電流を定格電流の160%に制限した場合において、起動直後の安定した無負荷電流値の正常値が定格電流の30%程度であるため、この場合は定格電流の35%が閾値となる。
【0040】
最後の1点は、モータを起動させる油圧ポンプの吐出管路に配置された圧力検出手段により取得した、モータ起動時の吐出管路の圧力が、予め設定した閾値以内であるかを確認する。油圧ポンプは経年変化等でモータ起動時の吐出量が増大して、これにより、吐出圧力が増加する傾向があるため、モータ起動時の吐出管路の圧力を監視することにより油圧ポンプの経年変化等による劣化を判断させるものである。この閾値は、モータ起動時の吐出管路の圧力を継続して監視することにより、油圧ポンプのメンテナンス時の劣化及び再調整の判断と紐付け、適宜好適な値が設定されればよい。
【0041】
このように、メインポンプユニットの各メインポンプのモータについて、上記3点を確認して、一つでも該当しない(閾値を超えた)項目がある場合(No)、制御装置や操作盤に起動負荷異常警報を発信させる。一方、すべて該当した場合(Yes)、該当モータの押出工程中の停止が可能と判断する。
【0042】
なお、先に説明したように、メインポンプユニット160を構成する各メインポンプは、油圧ポンプの稼働状況を均一にするため、押出工程において駆動させる油圧ポンプと停止させる油圧ポンプとを固定せず、成形サイクル毎、あるいは、複数成形サイクル毎に変更するように図示しない制御装置により制御される。そのため、直前の成形サイクルにおいて、押出工程中に停止されなかった油圧ポンプについては、直前の成形サイクルにおけるモータ起動時の起動時間や起動直後の無負荷電流値、吐出管路の圧力が取得されていない。この場合は、同油圧ポンプが最後に停止された際の以前の成形サイクルにおいて取得された各数値が適用され、該当モータの押出工程中の停止の可否が判断される。
【0043】
そして、図示はしていないが、次の成形サイクルの押出工程において停止させる予定の油圧ポンプと、停止油圧ポンプ選択工程において、押出工程中の停止の可否が判断されたモータで駆動される油圧ポンプとが比較され、停止させる予定の油圧ポンプが停止可能であれば、予定通り該当油圧ポンプが押出工程中に停止される。一方、停止させる予定の油圧ポンプに停止不可(起動不可異常警報発信)の油圧ポンプが含まれている場合は、制御装置により、停止可能な油圧ポンプに変更される。
【0044】
このように、停止油圧ポンプ選択工程により、油圧ポンプのモータ起動時の起動時間や起動直後の無負荷電流値、吐出管路の圧力を取得して、油圧ポンプの経年変化等によるモータの起動負荷の増加を判断させるため、起動負荷が増加したモータの起動を回避し、モータの焼損を防止しつつ、押出工程において不要な油圧ポンプのモータを停止させる省エネ運転の継続が可能になる。また、起動負荷が増加したモータで駆動される油圧ポンプを、起動負荷異常警報の発信によりオペレータに周知させ、予防保全を行わせることができる。
【0045】
以上、発明を実施するための形態について、第1実施形態及び第2実施形態を説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された内容を逸脱しない範囲で、色々な形で実施できることは言うまでもない。
【0046】
例えば、第2実施形態において、停止油圧ポンプ選択工程におけるメインポンプ停止可否判断を、油圧ポンプのモータ起動時の起動時間や起動直後の無負荷電流値、吐出管路の圧力の3点を閾値と比較することにより行うとしたが、必ずしも3点でなくてもよく、2点あるいは1点で判断させてもよい。
【0047】
また、停止油圧ポンプ選択工程におけるメインポンプ停止可否判断を、メインポンプユニットを構成する油圧ポンプを前提に説明したが、押出工程中に停止される加勢ポンプ151についても停止油圧ポンプ選択工程におけるポンプ停止可否判断を行って、加勢ポンプ151の経年変化等による起動負荷の増加を監視させてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 エンドプラテン、2 メインシリンダ、2a 油室、3 タイロッド、4 ダイス、5 コンテナ、6 ビレット、7 押出ステム、8 メインクロスヘッド、9 メインラム、10 ディスカード、12 コンテナホルダ、13 コンテナシリンダ、14 サイドシリンダ、21 オイルクーラ、22 シャー装置、
41 3φ電源、42 ブレーカ、43 開閉器(マグネット)、45 起動装置、46 PLC、47 起動・停止指令、48 起動時間及び起動直後の無負荷電流値、
51 オイルクーラポンプ、51a モータ、53 コンテナシールポンプ、53a モータ、
100 押出プレス装置、131~133 モータ、135 モータ、141~143 メインポンプ、145 油圧ポンプ、141a~143a アンロード弁、141b~143b 圧力検出手段、151 加勢ポンプ、151a アンロード弁、151b 圧力検出手段、152、モータ、160 メインポンプユニット、