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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158393
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】無延伸フィルム及び食品包装用袋
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20231023BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
B32B27/32
B32B27/32 E
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068205
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】北村 真未
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD01
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB51
3E086CA01
4F100AK07
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK07C
4F100AK63
4F100AK63C
4F100AK64
4F100AK64C
4F100AL02
4F100AL02C
4F100AL09
4F100AL09C
4F100AR00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100CB03
4F100CB03C
4F100EJ42
4F100GB15
4F100JA06
4F100JA13
4F100JA13C
4F100JC00
4F100JC00C
4F100JK02
4F100JK06
4F100JL12
4F100JL12C
(57)【要約】
【課題】プロピレン系樹脂製のフィルムにおいて、食品包装用袋での使用に適した各種のフィルム性能を備えるとともに、ヒートシール強度の経時変化を抑制することができる無延伸フィルム及びそのフィルムを使用した食品包装用袋を提供する。
【解決手段】表面層20と中間層30とシール層40の3層からなる無延伸フィルム10であって、表面層及び中間層はプロピレン系樹脂を主体とし、シール層は、密度0.880g/cm以下のプロピレン系エラストマー20~80重量%と、プロピレンランダム共重合体18~78重量%と、直鎖状低密度ポリエチレン2~20重量%とする組成からなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面層と中間層とシール層の3層からなる無延伸フィルムであって、
前記表面層及び前記中間層はプロピレン系樹脂を主体とし、
前記シール層は、
密度0.880g/cm以下のプロピレン系エラストマー20~80重量%と、
プロピレンランダム共重合体18~78重量%と、
直鎖状低密度ポリエチレン2~20重量%とする組成からなる
ことを特徴とする無延伸フィルム。
【請求項2】
前記中間層がプロピレン-エチレンブロック共重合体を含む請求項1に記載の無延伸フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の無延伸フィルムを用いた食品包装用袋であって、前記無延伸フィルムのシール層を内側として溶断製袋されてなることを特徴とする食品包装用袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無延伸フィルム及びこの無延伸フィルムを用いた食品包装用袋に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、食パン等の食品を包装するための袋は、溶断シールによりガゼット袋に製袋されて、食品が充填された後、開口部がヒートシールにより封止される。この種の食品包装用袋を構成するフィルムは、無延伸フィルムからなり、包装される食品の種類等に応じて透明フィルムやマット調フィルムが選択される。
【0003】
この種の食品包装用袋の製造に使用されるフィルムは、一般的に表面層と中間層とシール層の3層を備えるように構成され、フィルムの耐裂け性、溶断強度、低温シール性、易開封性、製袋適性等、食品包装用袋に必要な各性能が求められる。そこで、包装袋用のフィルムとして、易開封性及び溶断強度に優れたプロピレン系樹脂製の無延伸フィルムが知られている(特許文献1参照)。この無延伸フィルムは、表面層と中間層とヒートシール層の各層がプロピレン系樹脂を主成分とし、ヒートシール層がプロピレン系樹脂50~90重量%とエチレン-1-ブテン共重合体ゴム10~50質量%とを含有するように構成される。
【0004】
また、他の例として、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体20~80重量%とブテン重合体80~20重量%とからなる熱融着層と、プロピレン重合体層とを有するポリオレフィン多層フィルムが知られている(特許文献2参照)。このフィルムは、溶断強度を維持しながら低温熱融着性及び易開封性に優れており、包装用袋としての使用に適している。
【0005】
しかしながら、このような易開封性を備えた無延伸フィルムの中には、経時(例えばヒートシールの1日後等)によりヒートシール強度が低下するものがあった。これにより、目的の強度が得られるように袋の開口部をヒートシールしても、時間が経つと開封性が変わってしまうという問題があった。
【0006】
一方、ヒートシール強度の経時変化を抑制する易開封性フィルムも存在する(例えば、特許文献3参照)。このフィルムは、プロピレン系樹脂又はエチレン系樹脂の層と、エチレン・α-オレフィン共重合体樹脂40~87重量%と、結晶性ポリプロピレン10~40重量%と、低分子量ポリエチレンワックス3~20重量%からなるシール層とで構成され、シール層のエチレン・α-オレフィン共重合体の5℃におけるキシレン可溶分率と密度とが特定の関係を満たすことにより、低温ヒートシール性の経時変化が少ないと記載されている。
【0007】
ところで、食パン等の食品を包装するために溶断シールされるフィルムは、表面層と中間層とシール層の各層について、例えば特許文献1のように、プロピレン系樹脂等の同種の樹脂を主体として各層を構成することが各層同士の相性等から好ましい。そこで、この種のプロピレン系樹脂製の無延伸フィルムにおいても、ヒートシール強度の経時変化を抑制することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2021/039352号公報
【特許文献2】特開2002-210897号公報
【特許文献3】特開2016-172794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記状況に鑑み提案されたものであり、プロピレン系樹脂製のフィルムにおいて、食品包装用袋での使用に適した各種のフィルム性能を備えるとともに、ヒートシール強度の経時変化を抑制することができる無延伸フィルム及びそのフィルムを使用した食品包装用袋を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、請求項1の発明は、表面層と中間層とシール層の3層からなる無延伸フィルムであって、前記表面層及び前記中間層はプロピレン系樹脂を主体とし、前記シール層は、密度0.880g/cm以下のプロピレン系エラストマー20~80重量%と、プロピレンランダム共重合体18~78重量%と、直鎖状低密度ポリエチレン2~20重量%とする組成からなることを特徴とする無延伸フィルムに係る。
【0011】
請求項2の発明は、前記中間層がプロピレン-エチレンブロック共重合体を含む請求項1に記載の無延伸フィルムに係る。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の無延伸フィルムを用いた食品包装用袋であって、前記無延伸フィルムのシール層を内側として溶断製袋されてなることを特徴とする食品包装用袋に係る。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明に係る無延伸フィルムによると、表面層と中間層とシール層の3層からなる無延伸フィルムであって、前記表面層及び前記中間層はプロピレン系樹脂を主体とし、前記シール層は、密度0.880g/cm以下のプロピレン系エラストマー20~80重量%と、プロピレンランダム共重合体18~78重量%と、直鎖状低密度ポリエチレン2~20重量%とする組成からなるため、食品包装用袋での使用に適する優れた各種フィルム性能を備えるとともに、ヒートシール強度の経時変化を適切に抑制することができる。
【0014】
請求項2の発明に係る無延伸フィルムによると、請求項1の発明において、前記中間層がプロピレン-エチレンブロック共重合体を含むため、溶断製袋後に溶断部に裂けが生じにくくなる。
【0015】
請求項3の発明に係る食品包装用袋によると、請求項1又は2に記載の無延伸フィルムを用いた食品包装用袋であって、前記無延伸フィルムのシール層を内側として溶断製袋されてなるため、側辺が適切にシールされてヒートシール強度の経時変化が抑制された包装用袋を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る食品包装用無延伸フィルムの概略断面図である。
図2】食品包装用無延伸フィルムを溶断製袋して得られた食品包装用袋の概略平面図である。
図3】食品包装用無延伸フィルムを溶断シールによって製袋する工程の概略斜視図である。
図4】ガゼット折りにより折り重ねられたフィルムの折部の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示す本発明の一実施形態に係るフィルム10は、表面層20、中間層30、シール層40の3層からなるプロピレン系樹脂製の無延伸フィルムである。このフィルム10は、Tダイ法等の公知の製造方法により製造される。
【0018】
本発明の無延伸フィルム10は、主として溶断シールによって製袋される食品包装用袋の材料として使用される。このフィルム10では、用途等に応じて外観が透明やマット調(つや消し調)等に構成される。この無延伸フィルム10では、マット調とする場合、JIS K 7136(2000)に準拠して測定したヘーズ値を40%以上に構成することが好ましい。一方、透明なフィルムとする場合には、ヘーズ値を10%未満に構成することが好ましい。
【0019】
表面層20は、製袋後に包装用袋の外側となる層であって、適宜の印刷が施される印刷層に相当する。この表面層20では、必要に応じて表面にコロナ処理等の表面処理を施して、フィルム表面の印刷性能を高めてもよい。
【0020】
中間層30は、フィルムのコシの強さ(剛性)を付与して当該無延伸フィルム10の製袋適性を得る層である。この中間層30は、無延伸フィルム10に占める層の厚さが他の層に対して比較的厚く形成されることが好ましい。
【0021】
表面層20及び中間層30は、プロピレン系樹脂を主体とし、必要に応じてプロピレン系樹脂以外の樹脂が混合される組成からなる。プロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン)や、プロピレンとエチレンやブテン等の他のオレフィンとの共重合体(プロピレンコポリマー)等のプロピレンを主体とする重合体から選択される。プロピレン系樹脂の配合割合は、プロピレン系樹脂100重量%の場合を含めて配合される樹脂の中で最も多い割合であれば特に限定されない。
【0022】
表面層20を構成する樹脂の具体例としては、透明フィルムとする場合には、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体等が挙げられる。これらは1種類を使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。また、これらにエチレン系エラストマーやプロピレン系エラストマー、スチレン系エラストマー等のエラストマー成分を加えて構成することも出来る。エラストマー成分を加える場合、配合量は10重量%以内とするのが妥当である。配合量が10重量%を超えると耐熱性が低下して、溶断製袋機の熱刃にフィルムが付着するトラブルが発生するおそれがある。マット調フィルムとする場合には、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体とポリエチレンのブレンド、ホモポリプロピレン及び/又はプロピレンランダム共重合体とポリエチレンとのブレンド等が挙げられる。2種以上の樹脂をブレンドする方法としては、コンパウンド、ドライブレンド等から選択できる。
【0023】
中間層30を構成する樹脂は、プロピレン-エチレンブロック共重合体を含む組成であることが好ましい。プロピレン-エチレンブロック共重合体は、例えば、キシレン可溶分割合が12%以上のものが好ましく使用される。プロピレン-エチレンブロック共重合体のキシレン可溶分とは、プロピレン-エチレンブロック共重合体に含有されるキシレン中へ溶解するエラストマー成分と考えられる。プロピレン-エチレンブロック共重合体のキシレン可溶分割合が12%未満である場合、溶断部に裂けが生じやすくなるおそれがある。
【0024】
表面層20及び中間層30を構成する樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)は特に制限されないが、フィルムの成形性、溶断シール部の外観不良(ヒゲ)の発生の観点からJIS K 7210に記載の230℃、荷重2.16kgの条件で0.1~20g/10分が好ましく、1~13g/10分がより好ましい。表面層20及び中間層30を構成する樹脂組成物のMFRは、樹脂組成物を実際に混合して押出機でペレタイズしたものを測定しても良いし、簡易的にはそれぞれの構成樹脂のMFRから下記式(i)を用いて計算MFRとして算出してもよい。
【0025】
【数1】
【0026】
ここで、式(i)の記号は以下のとおりである。
MFR:樹脂組成物の計算MFR(g/10min)
n:樹脂組成物を構成する樹脂の総数
:樹脂組成物を構成する樹脂iの配合割合
MFR:樹脂組成物を構成する樹脂iのMFR(g/10min)
【0027】
シール層40は、製袋後に包装袋の内側となる層であり、低温シール性や易開封性等の性能を有する。このシール層40は、密度0.880g/cm以下のプロピレン系エラストマー20~80重量%と、プロピレンランダム共重合体18~78重量%と、直鎖状低密度ポリエチレン2~20重量%とする組成からなる。
【0028】
プロピレン系エラストマーは、特にシングルサイト触媒(メタロセン系触媒もしくは幾何拘束型触媒)によるものが好ましい。シングルサイト触媒によるプロピレン系エラストマーは、低分子量成分が少ないためフィルムにべたつきが生じにくく、配合量が多くても滑り性やブロッキング等の問題が起こりにくい等の利点がある。プロピレン系エラストマーは、配合割合が小さすぎると、シール開始温度が高くなり低温ヒートシール性が得られないおそれがある。また、配合割合が大きすぎると、シール開始温度が低くなりすぎるとともに易開封性が得られないおそれがある。プロピレン系エラストマーの密度が0.880g/cmより高い場合、シール部分の剥離時にフィルムが伸びて易開封性が得られなくなるおそれがある。プロピレン系エラストマーのメルトフローレート(MFR)は特に制限されないが、フィルムの成形性、溶断シール部の外観不良(ヒゲ)の発生の観点からJIS K 7210に記載の230℃、荷重2.16kgの条件で0.1~20g/10分が好ましく、1~13g/10分がより好ましい。
【0029】
プロピレンランダム共重合体は、ヒートシール開始温度を調整しヒートシール性能を確保する役割を持つ樹脂である。このプロピレンランダム共重合体としては、例えば、プロピレンとエチレンとの二元ランダム共重合体、プロピレンとα-オレフィンとの二元ランダム共重合体、プロピレンとエチレンとブテンとの三元ランダム共重合体等を挙げることができる。プロピレンランダム共重合体の融点は、ヒートシール性能を確保する為に120℃以上である事が好ましく、125℃以上である事がより好ましい。プロピレンランダム共重合体のメルトフローレート(MFR)は特に制限されないが、フィルムの成形性、溶断シール部の外観不良(ヒゲ)の発生の観点からJIS K 7210に記載の230℃、荷重2.16kgの条件で0.1~20g/10分が好ましく、1~13g/10分がより好ましい。
【0030】
直鎖状低密度ポリエチレンは、エチレンと炭素数3~8のα-オレフィンとのランダム共重合体であり、シール層40に上記の配合割合で配合されることによりヒートシール強度の経時変化が抑制される。直鎖状低密度ポリエチレンの具体的なα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン等であり、複数の種類でも構わない。α-オレフィンの炭素数が3未満ではα-オレフィン導入の意味を成さない。また、炭素数が9以上のα-オレフィンを備えた樹脂の入手はほぼ困難である。そのため、現実的に入手可能であり適切な性能を勘案すると、α-オレフィンの炭素数の適当な範囲は3ないし8である。直鎖状低密度ポリエチレンのメルトフローレート(MFR)は特に制限されないが、フィルムの成形性の観点からJIS K 7210に記載の190℃、荷重2.16kgの条件で0.1~20g/10分が好ましく、1~10g/10分がより好ましい。また、直鎖状低密度ポリエチレンの密度は0.940以下であることが好ましく、0.930以下である事がより好ましい。なお、直鎖状低密度ポリエチレンは、植物由来のものでも化石由来のものでもよい。
【0031】
なお、本発明の無延伸フィルム10に使用される材料は、化石由来、バイオマス由来、マテリアルリサイクル由来、ケミカルリサイクル由来等の材料から自由に選択できる。また、表面層20、中間層30、シール層40の各層には、必要に応じてアンチブロッキング剤、スリップ剤、帯電防止剤、防曇材、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、結晶核剤等の各種添加剤や端材等、各層の特性を損なわない範囲で適宜に添加することができる。各種添加剤は、各樹脂重合後のパウダーへ直接添加しても良く、高濃度マスターバッチを用意してフィルムを得るまでの任意の工程で混合しても良い。マスターバッチを用いる場合、意図せず少量の樹脂が配合されることがあるが、各層の特性を損なわない範囲で使用できる。
【0032】
上記フィルム10では、取り扱い易さや強度等の観点からフィルム厚が20~50μmの範囲とすることが好ましく、より好ましい厚みは25~40μmである。また、各層の厚みは特に限定されないが、表面層及びシール層の厚みは2μm以上が好ましく、より好ましくは3μm以上である。各層の比率は、例えば、表面層5~40%、中間層30~90%、シール層5~30%と設定され、より好ましくは表面層10~30%、中間層50~83%、シール層7~20%と設定される。
【0033】
本発明のフィルム10は、溶断シールによる製袋に用いられて、食品包装用袋を得るものである。溶断シールによる製袋は、シール層を内側として折り返された食品包装用無延伸フィルムの底部となる折部の直交方向に対し、加熱された溶断刃を押し当てて、切断とともに熱溶着して袋状に成形するものである。溶断製袋は公知の方法のうちから適宜選択され、角底ガゼット袋等の適宜の形状の溶断袋が得られる。
【0034】
図2に示す実施例は、溶断製袋された底部52に角底ガゼット部53を有する食品包装用袋50である。図示の食品包装用袋50では、袋本体51の側辺51aから角底ガゼット部53の側辺53aを含む袋側辺部(図の太線部分)54が、溶断シールされた溶断部55である。角底ガゼット部53を有する食品包装用袋50は、パン類の包装用袋として好適である。
【0035】
ここで、角底ガゼット部52を有する食品包装用袋50の製袋工程を説明する。まず、図3(a)に示すように、折り返されたフィルム10の折部11がガゼット折りにより側面止略W字状に折り込まれる。この時、フィルム10は、シール層40が内側となるように折り返されている。続いて、図3(b)に示すように、ガゼット折りされた折部11を含めてフィルム10が折り重ねられ、折部11の直交方向に相当するフィルム10の両側部(図の点線部分)12,12にて溶断シールが行われる。そして、図3(c)に示すように、フィルム10は、折り返された折部11と、溶断シールされた両側部である溶断部54,54の三方が封止された袋形状(50A)に形成され、食品包装用袋50(図4参照)が得られる。
【0036】
このように溶断シールにより製袋される食品包装用袋50では、図4に示すように、ガゼット折りされた折部11においてフィルム10が4段重ねで溶断シールされている。そのため、溶断シールされた折部11においては、1段目のフィルム10aと2段目のフィルム10bの内側となるシール層40同士がシールされ(シール部15a)、2段目のフィルム10bと3段目のフィルム10cの外側となる表面層20同士がシールされ(シール部15b)、3段目のフィルム10cと4段目のフィルム10dの内側となるシール層40同士がシールされる(シール部15c)。
【0037】
本発明の食品包装用無延伸フィルム10では、溶断シールによる製袋に際して、シール層40同士の溶断シールだけでなく、表面層20同士の溶断シールも強固に行うことができる。
【実施例0038】
[溶断袋の作製]
試作例1~19の溶断袋(食品包装用袋)の作製に際し、まず後述の各材料をドライブレンドして、Tダイ法にて三層共押出Tダイフィルム成型機から表面層、中間層、シール層の順に各層の厚みが8μm、18μm、4μmとなるように共押出しして、各試作例1~19の溶断袋に対応する無延伸フィルムを成形した。次に、作製した各無延伸フィルムを、それぞれシール層を内側として半折りした後、底部に角底のガゼット折りを形成し、溶断製袋装置(トタニ技研工業株式会社製;「HK-40V」)を用いて、溶断刃の先端角度120°、溶断温度350℃、製袋速度194枚/minにて溶断製袋して、試作例1~19の溶断袋を得た。
【0039】
[使用材料]
表面層、中間層、ヒートシール層の樹脂組成物として、以下の樹脂を使用した。各樹脂の特性として、メルトフローレート(MFR)はJIS K 7210(2014)に準拠し、プロピレン系樹脂は230℃、2.16kg、エチレン系樹脂は190℃、2.16kgで測定された値、密度はJIS K 7112に準拠して測定した値である。
【0040】
また、樹脂A1,A2については、キシレン可溶分割合(%)を求めた。キシレン可溶分割合を求めるに際し、まず樹脂5~6gを取って重量を測定した(溶解前の樹脂の重量X)。次に、これをキシレン中で還流溶解し、冷却後に遠心分離してキシレン可溶分液と不溶分とに分離した。キシレン可溶分液をさらに濃縮し、メタノールを添加して析出、沈殿させて、この析出物をろ過して回収、乾燥して、重量を測定した(キシレン可溶分の析出物の重量Y)。そこで、溶解前の樹脂の重量Xと、キシレン可溶分の析出物の重量Yから、下記式(ii)に基づいてキシレン可溶分割合Z(%)を求めた。
【0041】
【数2】
【0042】
さらに、樹脂B1~B3について、融点(℃)を求めた。樹脂の融点は、JIS K 7121(2012)の示差走査熱量測定(DSC)の測定に準拠し、示差走査熱量計(ネッチ・ジャパン株式会社製;「DSC 214 Polyma」)を使用して、加熱速度10℃/minで昇温した際に得られたDSC曲線から融解ピーク温度を求めて融点とした。
【0043】
・樹脂A1:プロピレン-エチレンブロック共重合体(日本ポリプロ株式会社製;「BC3HF」)、MFR(230℃、2.16kg):8.5g/10min、キシレン可溶分割合10.6%、密度0.9g/cm
・樹脂A2:プロピレン-エチレンブロック共重合体(株式会社プライムポリマー製;「F-274NP」)、MFR(230℃、2.16kg):2.5g/10min、キシレン可溶分割合15.8%、密度0.9g/cm
【0044】
・樹脂B1:プロピレンランダム共重合体(プロピレン-エチレンランダム共重合体)(日本ポリプロ株式会社製;「WFW4M」)、MFR(230℃、2.16kg):7g/10min、密度0.9g/cm、融点135℃
・樹脂B2:プロピレンランダム共重合体(プロピレン-エチレンランダム共重合体)(日本ポリプロ株式会社製;「WFX5233」)、MFR(230℃、2.16kg):7g/10min、密度0.9g/cm、融点130℃
・樹脂B3:プロピレンランダム共重合体(プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体)(日本ポリプロ株式会社製;「FW4BT」)、MFR(230℃、2.16kg):6.5g/10min、密度0.9g/cm、融点138℃
【0045】
・樹脂C1:低密度ポリエチレン(宇部丸善ポリエチレン株式会社製;「R300」)、MFR(190℃、2.16kg):0.35g/10min、密度0.920g/cm
【0046】
・樹脂D1:シングルサイト触媒によるプロピレン系エラストマー(ダウ・ケミカル社製;「VERSIFY3200」)、MFR(230℃、2.16kg):8g/10min、密度0.876g/cm
・樹脂D2:シングルサイト触媒によるプロピレン系エラストマー(エクソンモービル社製;「VISTAMAXX6102FL」)、MFR(230℃、2.16kg):3g/10min、密度0.862g/cm
・樹脂D3:シングルサイト触媒によるプロピレン系エラストマー(エクソンモービル社製;「VISTAMAXX3588FL」)、MFR(230℃、2.16kg):8g/10min、密度0.889g/cm
【0047】
・樹脂E1:植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン(ブラスケム社製;「SLH118」)、MFR(190℃、2.16kg):1g/10min、密度0.916g/cm
・樹脂E2:直鎖状低密度ポリエチレン(宇部丸善ポリエチレン株式会社製;「2040FC」)、MFR(190℃、2.16kg):5g/10min、密度0.919g/cm
・樹脂E3:直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製;「KF360T」)、MFR(190℃、2.16kg):3.5g/10min、密度0.898g/cm
【0048】
・樹脂F1:高密度ポリエチレン(株式会社プライムポリマー製;「1300J」)、MFR(190℃、2.16kg):13g/10min、密度0.960g/cm
【0049】
[試作例1]
試作例1は、表面層が樹脂A1を95重量%と樹脂C1を5重量%、中間層が樹脂A2を100重量%、シール層が樹脂B1を33重量%と樹脂D1を65重量%と樹脂E2を2重量%として製膜された無延伸フィルムからなる溶断袋である。
【0050】
[試作例2]
試作例2は、表面層が樹脂A1を95重量%と樹脂C1を5重量%、中間層が樹脂A2を100重量%、シール層が樹脂B1を31重量%と樹脂D1を65重量%と樹脂E2を4重量%として製膜された無延伸フィルムからなる溶断袋である。
【0051】
[試作例3]
試作例3は、表面層が樹脂A1を95重量%と樹脂C1を5重量%、中間層が樹脂A2を100重量%、シール層が樹脂B1を25重量%と樹脂D1を65重量%と樹脂E2を10重量%として製膜された無延伸フィルムからなる溶断袋である。
【0052】
[試作例4]
試作例4は、表面層が樹脂A1を95重量%と樹脂C1を5重量%、中間層が樹脂A2を100重量%、シール層が樹脂B1を31重量%と樹脂D1を65重量%と樹脂E3を4重量%として製膜された無延伸フィルムからなる溶断袋である。
【0053】
[試作例5]
試作例5は、表面層が樹脂A1を95重量%と樹脂C1を5重量%、中間層が樹脂A2を100重量%、シール層が樹脂B1を29重量%と樹脂D1を65重量%と樹脂E3を6重量%として製膜された無延伸フィルムからなる溶断袋である。
【0054】
[試作例6]
試作例6は、表面層が樹脂A1を95重量%と樹脂C1を5重量%、中間層が樹脂A2を100重量%、シール層が樹脂B1を25重量%と樹脂D1を65重量%と樹脂E3を10重量%として製膜された無延伸フィルムからなる溶断袋である。
【0055】
[試作例7]
試作例7は、表面層が樹脂A1を95重量%と樹脂C1を5重量%、中間層が樹脂A2を100重量%、シール層が樹脂B1を25重量%と樹脂D1を65重量%と樹脂E2を3.5重量%と樹脂E3を6.5重量%として製膜された無延伸フィルムからなる溶断袋である。
【0056】
[試作例8]
試作例8は、表面層が樹脂A1を95重量%と樹脂C1を5重量%、中間層が樹脂A2を100重量%、シール層が樹脂B1を18重量%と樹脂D1を65重量%と樹脂E2を3.5重量%と樹脂E3を13.5重量%として製膜された無延伸フィルムからなる溶断袋である。
【0057】
[試作例9]
試作例9は、表面層が樹脂A1を95重量%と樹脂C1を5重量%、中間層が樹脂A2を100重量%、シール層が樹脂B2を43.7重量%と樹脂D2を50重量%と樹脂E2を6.3重量%として製膜された無延伸フィルムからなる溶断袋である。
【0058】
[試作例10]
試作例10は、表面層が樹脂A1を95重量%と樹脂C1を5重量%、中間層が樹脂A2を100重量%、シール層が樹脂B2を74.4重量%と樹脂D2を20重量%と樹脂E2を5.6重量%として製膜された無延伸フィルムからなる溶断袋である。
【0059】
[試作例11]
試作例11は、表面層が樹脂A1を95重量%と樹脂C1を5重量%、中間層が樹脂A2を70重量%と樹脂B1を15重量%と樹脂E1を15重量%、シール層が樹脂B2を74.4重量%と樹脂D2を20重量%と樹脂E2を5.6重量%として製膜された無延伸フィルムからなる溶断袋である。
【0060】
[試作例12]
試作例12は、表面層が樹脂B2を100重量%、中間層が樹脂A2を100重量%、シール層が樹脂B3を30重量%と樹脂D1を65重量%と樹脂E2を5重量%として製膜された無延伸フィルムからなる溶断袋である。
【0061】
[試作例13]
試作例13は、表面層が樹脂A1を95重量%と樹脂C1を5重量%、中間層が樹脂A2を100重量%、シール層が樹脂B1を35重量%と樹脂D1を65重量%として製膜された無延伸フィルムからなる溶断袋である。
【0062】
[試作例14]
試作例14は、表面層が樹脂A1を95重量%と樹脂C1を5重量%、中間層が樹脂A2を100重量%、シール層が樹脂D3を100重量%として製膜された無延伸フィルムからなる溶断袋である。
【0063】
[試作例15]
試作例15は、表面層が樹脂A1を95重量%と樹脂C1を5重量%、中間層が樹脂A2を100重量%、シール層が樹脂B1を33重量%と樹脂D1を65重量%と樹脂F1を2重量%として製膜された無延伸フィルムからなる溶断袋である。
【0064】
[試作例16]
試作例16は、表面層が樹脂A1を95重量%と樹脂C1を5重量%、中間層が樹脂A2を100重量%、シール層が樹脂B1を32重量%と樹脂D1を65重量%と樹脂F1を3重量%として製膜された無延伸フィルムからなる溶断袋である。
【0065】
[試作例17]
試作例17は、表面層が樹脂A1を95重量%と樹脂C1を5重量%、中間層が樹脂E2を100重量%、シール層が樹脂B1を29重量%と樹脂D1を65重量%と樹脂E2を6重量%として製膜された無延伸フィルムからなる溶断袋である。
【0066】
[試作例18]
試作例18は、表面層が樹脂A1を95重量%と樹脂C1を5重量%、中間層が樹脂E2を100重量%、シール層が樹脂B1を35重量%と樹脂D1を65重量%として製膜された無延伸フィルムからなる溶断袋である。
【0067】
[試作例19]
試作例19は、表面層が樹脂B2を100重量%、中間層が樹脂A2を100重量%、シール層が樹脂B3を35重量%と樹脂D1を65重量%として製膜された無延伸フィルムからなる溶断袋である。
【0068】
試作例1~19の溶断袋に関し、溶断袋を構成するフィルムの各層の樹脂組成について表1~3に示した。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
試作例1~19の溶断袋に使用される各フィルムの性能評価として、ヒートシール開始温度(直後、1日後、経時変化)、易開封性(直後、1日後)、ヘーズ値、引張弾性率、ガゼット部の溶断強度、袋本体の溶断強度について測定した。なお、各試験は、いずれも23℃の室内で行った。
【0073】
[ヒートシール開始温度(直後)]
試作例1~19に対応するフィルムについて、JIS Z 1713(2009)に準拠してヒートシール開始温度を測定した。ヒートシール試験機(株式会社東洋精機製作所製;「熱傾斜試験機」)を使用し、シールバーの形状10mm×25mm、シール圧力0.4MPa、シール時間1秒にて、各フィルムを2枚用意してそれぞれシール層同士を重ねてヒートシールした。ヒートシール後、すぐに15mm幅の試験片を切り出し、ヒートシールにより融着した試験片を180°に開いて、引張試験機(株式会社島津製作所製;「小型卓上試験機 EZ-SX」)により、200mm/minの引張速度でシール部分を剥離して、ヒートシール強度が3N/15mm幅に到達した時点の温度(ヒートシール開始温度)を求めた。測定したヒートシール開始温度が、80~120℃の場合に「良(〇)」、80℃未満又は120℃を超えた場合に「不可(×)」として、低温シール性を評価した。
【0074】
[ヒートシール開始温度(1日後)]
試作例1~19に対応するフィルムについて、JIS Z 1713(2009)に準拠してヒートシール開始温度を測定した。ヒートシール試験機(株式会社東洋精機製作所製;「熱傾斜試験機」)を使用し、シールバーの形状10mm×25mm、シール圧力0.4MPa、シール時間1秒にて、各フィルムを2枚用意してそれぞれシール層同士を重ねてヒートシールした。ヒートシール後、23℃にて1日間静置した後、15mm幅の試験片を切り出し、ヒートシールにより融着した試験片を180°に開いて、引張試験機(株式会社島津製作所製;「小型卓上試験機 EZ-SX」)により、200mm/minの引張速度でシール部分を剥離して、ヒートシール強度が3N/15mm幅に到達した時点の温度(ヒートシール開始温度)を求めた。測定したヒートシール開始温度が、80~120℃の場合に「良(〇)」、80℃未満又は120℃を超えた場合に「不可(×)」として、低温シール性を評価した。
【0075】
[ヒートシール開始温度(経時変化)]
試作例1~19に対応するフィルムについて、上記「ヒートシール開始温度(1日後)」の測定値から「ヒートシール開始温度(直後)」の測定値を引いた値を、ヒートシール開始温度が経時変化した温度(℃)として計算した。経時変化した温度が7℃未満の場合に「良(〇)」、7℃以上の場合に「不可(×)」として、ヒートシール強度の経時変化を評価した。
【0076】
[易開封性(直後)]
試作例1~19に対応するフィルムについて、易開封性を試験した。ヒートシール試験機(株式会社東洋精機製作所製;「熱傾斜試験機」)を使用し、ヒートシール開始温度を測定するのと同様の方法で、各フィルムを2枚用意してそれぞれシール層同士を重ねて、120℃でヒートシールした。ヒートシール後すぐに15mm幅の試験片を切り出し、ヒートシールにより融着した試験片を180°に開いて、引張試験機(株式会社島津製作所製;「小型卓上試験機 EZ-SX」)により、200mm/minの引張速度で試験片を引っ張った際の剥離の状態を目視にて観察した。フィルムが伸びを伴わずに剥離された場合に「良(〇)」、伸びを伴って剥離された場合に「不可(×)」として、易開封性を評価した。
【0077】
[易開封性(1日後)]
試作例1~19に対応するフィルムについて、易開封性を試験した。ヒートシール試験機(株式会社東洋精機製作所製;「熱傾斜試験機」)を使用し、ヒートシール開始温度を測定するのと同様の方法で、各フィルムを2枚用意してそれぞれシール層同士を重ねて、120℃でヒートシールした。ヒートシール後23℃にて1日間静置した後、15mm幅の試験片を切り出し、ヒートシールにより融着した試験片を180°に開いて、引張試験機(株式会社島津製作所製;「小型卓上試験機 EZ-SX」)により、200mm/minの引張速度で試験片を引っ張った際の剥離の状態を目視にて観察した。フィルムが伸びを伴わずに剥離された場合に「良(〇)」、伸びを伴って剥離された場合に「不可(×)」として、易開封性を評価した。
【0078】
[ヘーズ値]
試作例1~19に対応するフィルムについて、JIS K 7136(2000)に準拠してヘーズ値を測定した。ヘーズ値(%)は透明性の指標であり、ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製;「ヘーズメーター NDH-4000」)を使用して測定を行った。
【0079】
[引張弾性率]
試作例1~19に対応するフィルムについて、JIS K 7127(1999)に準拠して引張弾性率(GPa)を測定した。引張試験機(株式会社エー・アンド・デイ製;「テンシロン万能材料試験機 RTF-1310」)を使用し、各フィルムの巻き取り方向(MD)と、それに直交する横方向(TD)の2方向において測定を行った。測定結果が0.65GPa以上の場合に「優良(◎)」、0.50GPa以上の場合に「良(〇)」とし、0.50GPa未満の場合に「不可(×)」として、フィルムのコシの強さを評価した。
【0080】
[ガゼット部の溶断強度]
試作例1~19の溶断袋について、ガゼット部の溶断部(図2の符号53a)の溶断強度(N/15mm幅)を測定した。この測定では、溶断袋のガゼット部の溶断部を15mm幅に切り出し、引張試験機(株式会社島津製作所製;「小型卓上試験機 EZ-SX」)により、上下のチャックにそれぞれフィルムを2枚ずつ挟んで、200mm/minで引張し、溶断部が破断した時点までの最大強度を求めた。測定結果が15N/15mm幅以上の場合に「良(〇)」、15N/15mm幅未満の場合に「不可(×)」として、ガゼット部の溶断強度を評価した。
【0081】
[袋本体の溶断強度]
試作例1~19の溶断袋について、袋本体の溶断部(図2の符号51a)の溶断強度(N/15mm幅)を測定した。この測定では、溶断袋の袋本体(ガゼット部でない部分)の溶断部を15mm幅に切り出し、引張試験機(株式会社島津製作所製;「小型卓上試験機 EZ-SX」)により、上下のチャックにそれぞれフィルムを1枚ずつ挟んで、200mm/minで引張し、溶断部が破断した時点までの最大強度を求めた。測定結果が17N/15mm幅以上の場合に「良(〇)」、17N/15mm幅未満の場合に「不可(×)」として、袋本体の溶断強度を評価した。
【0082】
試作例1~19の溶断袋に対応する各フィルム及び試作例1~19の溶断袋の試験結果と判定を表4~6に示す。なお、表4~6において、総合評価として、各試験の判定がすべて「良(〇)」以上の場合を「良(〇)」とし、「不可(×)」が1つでもある場合を「不可(×)」とした。
【0083】
【表4】
【0084】
【表5】
【0085】
【表6】
【0086】
[結果と考察]
表1~3及び表4~6に示すように、試作例1~12は総合評価が「良(〇)」であり、試作例13~19は総合評価が「不可(×)」であった。そこで、良品の試作例1~12と、不良品の試作例13~19との性能の相違について、各試作例のフィルムの構成を対比して考察する。
【0087】
試作例1~11,13~18はいずれもヘーズ値が40%以上であり、試作例12,19はいずれもヘーズ値が10%未満であった。すなわち、試作例1~11,13~18では表面層がプロピレン-エチレンブロック共重合体を主体とした組成により良好なマット調が得られ、試作例12,19では表面層がプロピレンランダム共重合体を主体とした組成により良好な透明性が得られた。
【0088】
まず、試作例13は、シール層に直鎖状低密度ポリエチレンを含まない従来のプロピレン系樹脂製のフィルムからなる溶断袋である。また、試作例14は、シール層を比較的高密度(0.889g/cm)のプロピレン系エラストマーで構成して直鎖状低密度ポリエチレンを配合しないものである。ここで、試作例1~8と試作例13,14とを対比すると、試作例1~8は、試作例13の樹脂組成と比較して、シール層に主成分の樹脂D1(プロピレン系エラストマー)の配合割合を変えずに直鎖状低密度ポリエチレンを配合した点で相違する。
【0089】
従来のフィルムからなる試作例13は、ヒートシール開始温度の経時変化が10℃であり、ヒートシール強度が経時により大きく低下していた。これに対し、シール層に直鎖状低密度ポリエチレンを含む試作例1~8は、いずれもヒートシール開始温度の経時変化が小さく、試作例13と比較してヒートシール強度の経時変化が抑制された。試作例14は、ヒートシール開始温度の経時変化が小さいものの、易開封性が得られなかった。
【0090】
試作例1~6について対比すると、試作例1~3と試作例4~6とはシール層に配合した直鎖状低密度ポリエチレンの種類が異なり、試作例1~3の直鎖状低密度ポリエチレン(樹脂E2)は、試作例4~6の直鎖状低密度ポリエチレン(樹脂E3)より高密度のものである。直鎖状低密度ポリエチレンの配合割合が等しい試作例2と試作例4、試作例3と試作例6をそれぞれ比較すると、直鎖状低密度ポリエチレンの種類が異なっても各性能に大きな差は見られなかった。
【0091】
試作例1~3は、直鎖状低密度ポリエチレンの配合割合を変化させたものであり、直鎖状低密度ポリエチレンの配合割合の増加に伴ってヒートシール開始温度が低下し、ヒートシール開始温度の経時変化も抑制される傾向が見られた。試作例4~6についても同様の傾向が見られた。一方、試作例7,8は、シール層に異なる種類の直鎖状低密度ポリエチレン(樹脂E2,樹脂E3)を配合したものである。試作例7の直鎖状低密度ポリエチレンの配合割合は、樹脂E2と樹脂E3を合わせて10重量%であり、配合割合が等しい試作例3,6と比較すると、各性能に大きな差は見られなかった。試作例8は試作例7と比較して樹脂E3(樹脂E2より低密度の直鎖状低密度ポリエチレン)の配合割合を増加させたものであり、試作例7と比較してヒートシール開始温度が低下した。
【0092】
試作例9,10は、試作例1~3に対して、シール層のプロピレンランダム共重合体の融点とプロピレン系エラストマーの密度及び配合割合を変えたものである。このように、シール層のプロピレンランダム共重合体の融点とプロピレン系エラストマーの密度、及びこれらの配合割合を変更する事で、ヒートシール温度を適切にコントロールすることが出来る。試作例9から理解されるように、異なるプロピレンランダム共重合体やプロピレン系エラストマーを配合しても、各性能に大きな変化は見られなかった。また、試作例10は試作例9と比較してシール層のプロピレン系エラストマーの配合割合が小さい為ヒートシール開始温度が高くなった。また、試作例11は、試作例10に対して、中間層にプロピレンランダム共重合体(樹脂B1)と直鎖状低密度ポリエチレン(樹脂E1)とを配合したものである。試作例11では、試作例10と比較して引張弾性率が向上した。
【0093】
試作例15は、試作例1と対比して、シール層の直鎖状低密度ポリエチレン(樹脂E2)の代わりに高密度ポリエチレン(樹脂F1)を配合したものである。試作例15では、ヒートシール開始温度の経時変化が11℃でヒートシール強度が経時で大きく低下しており、さらに、1日後に易開封性が得られなかった。また、試作例15に対して高密度ポリエチレン(樹脂F1)の配合割合を増やした試作例16でも、同様の結果であった。
【0094】
試作例17は、シール層に直鎖状低密度ポリエチレンを配合したフィルムの中間層を直鎖状低密度ポリエチレン(樹脂E1)で構成したものである。試作例17は、ヒートシール開始温度の経時変化が小さいものの、易開封性が得られず、引張弾性率や袋本体の溶断強度が大きく低下した。また、試作例18は、試作例17と対比して、シール層に直鎖状低密度ポリエチレン(樹脂E2)が配合されていないものである。試作例18では、試作例17と対比して、ヒートシール開始温度の経時変化が大きくなった。
【0095】
試作例12,19は透明タイプのフィルムからなる溶断袋であり、試作例12はシール層に直鎖状低密度ポリエチレン(樹脂E2)が配合され、試作例19はシール層に直鎖状低密度ポリエチレン(樹脂E2)が配合されていないものである。試作例12ではヒートシール開始温度の経時変化が小さいのに対し、試作例19ではヒートシール開始温度の経時変化が大きくなった。
【0096】
上記試作例1~8と試作例13の対比から理解されるように、シール層に直鎖状低密度ポリエチレンが配合された試作例1~8でヒートシール開始温度の経時変化が小さくなった。一方、試作例15,16のように、シール層に直鎖状低密度ポリエチレンの代わりに高密度ポリエチレンが配合された場合には、ヒートシール開始温度の経時変化を小さくすることができなかった。したがって、シール層に直鎖状低密度ポリエチレンを配合することによって、ヒートシール開始温度の経時変化が小さくなってヒートシール強度の経時変化が抑制されることがわかった。また、試作例12と試作例19の対比から理解されるように、透明タイプであっても、試作例12のようにシール層に直鎖状低密度ポリエチレン(樹脂E2)が配合されることによって、ヒートシール強度の経時変化が抑制されることがわかった。
【0097】
試作例1~8から理解されるように、シール層の直鎖状低密度ポリエチレンの配合割合が多いほどヒートシール開始温度が低くなり、ヒートシール強度の経時変化がより抑制されることがわかった。また、試作例10,11、試作例17,18から理解されるように、中間層やシール層が様々な樹脂組成で構成された場合でも、シール層に直鎖状低密度ポリエチレンが配合されることによってヒートシール強度の経時変化が抑制されることがわかった。しかしながら、試作例14,17のように、ヒートシール強度の経時変化が抑制された場合でも、他のフィルム性能が不十分であれば、食品包装用袋として使用するには好ましくない。
【0098】
そこで、食品包装用袋での使用に適した各種のフィルム性能の確保や、直鎖状低密度ポリエチレンのシール層の特性への影響等を考慮すると、シール層の樹脂組成の配合割合は、密度0.880g/cm以下のプロピレン系エラストマーが20~80重量%程度、プロピレンランダム共重合体が18~78重量%程度、直鎖状低密度ポリエチレンが2~20重量%程度であることが好ましいと考えられる。
【0099】
以上の通り、試作例1~12の溶断袋は、プロピレン系樹脂を主成分とするフィルムで構成され、低温シール性(ヒートシール開始温度)、易開封性、マット調又は透明性(ヘーズ値)、フィルムのコシの強さ(引張弾性率)、溶断部の溶断強度の各性能がいずれも良好であった。また特に、従来のフィルムと比較して、ヒートシール開始温度の経時変化を小さくすることができた。したがって、食品包装用袋での使用に適する優れた各種フィルム性能を備えたプロピレン系樹脂製フィルムで、ヒートシール強度の経時変化を適切に抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の食品包装用無延伸フィルム及び食品包装用袋は、食品包装用袋に必要な各性能を良好に保持し、特にヒートシール強度の経時変化が適切に抑制される。そのため、従来の食品包装用無延伸フィルムや食品包装用袋の代替として有望である。
【符号の説明】
【0101】
10,10a~10d 無延伸フィルム
11 折部
12 フィルムの側部
15a,15b,15c シール部
20 表面層
30 中間層
40 シール層
50 食品包装用袋
50A 袋形状のフィルム
51 袋本体
51a 袋本体の側辺
52 底部
53 角底ガゼット部
53a 角底ガゼット部の側辺
54 袋側辺部
55 溶断シール部
図1
図2
図3
図4