(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158396
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】菌又はウイルスの不活化装置、治療装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/10 20060101AFI20231023BHJP
A61B 1/00 20060101ALI20231023BHJP
A61B 18/24 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
A61L2/10
A61B1/00 621
A61B18/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068210
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 善彦
(72)【発明者】
【氏名】柳生 英昭
【テーマコード(参考)】
4C026
4C058
4C161
【Fターム(参考)】
4C026AA01
4C026BB10
4C026DD10
4C026FF17
4C026FF22
4C058AA30
4C058BB06
4C058KK02
4C058KK23
4C058KK27
4C058KK28
4C161DD03
4C161FF46
4C161HH56
(57)【要約】
【課題】従来よりも狭小領域に対して紫外光を照射して、菌又はウイルスの不活化を行うことを可能にした装置を提供する。
【解決手段】この装置は、主波長域が200nm以上240nm未満の範囲内に重なる紫外光を発する第一光源と、第一光源を収容する筐体本体と、長尺形状を呈し、光源に近い側の端部である第一端を含む部分が筐体本体内に位置しており、光源から出射された紫外光を長手方向に導光する導光体とを備える。導光体は、第一端とは反対側の端部である第二端が筐体本体よりも外側に突出するように配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主波長域の少なくとも一部が200nm以上240nm未満の範囲に属する紫外光を発する第一光源と、
前記第一光源を収容する筐体本体と、
長尺形状を呈し、光源に近い側の端部である第一端を含む部分が前記筐体本体内に位置しており、前記第一光源から出射された前記紫外光を長手方向に導光する導光体とを備え、
前記導光体は、前記第一端とは反対側の端部である第二端が前記筐体本体よりも外側に突出するように配置されていることを特徴とする、菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項2】
前記導光体は、前記紫外光を内部で全反射しながら前記第二端に導光する光学部材を含むことを特徴とする、請求項1に記載の、菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項3】
前記導光体の前記第一端、前記第二端、及び前記第一端と前記第二端との中間位置の少なくとも1箇所以上に配置され、前記紫外光に含まれる波長範囲が240nm以上280nm未満に属する波長成分の進行を抑制する光学フィルタを備えることを特徴とする、請求項1に記載の、菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項4】
前記導光体の前記第二端は、外側に向かって凸形状を呈していることを特徴とする、請求項1に記載の、菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項5】
前記導光体の前記第二端を覆う、前記紫外光に対する透過性を有する柔軟部材を備えることを特徴とする、請求項1に記載の、菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項6】
前記導光体は、前記第一端よりも前記第二端に近い領域において、前記第二端に近づくに伴って外径が縮小する領域を含むことを特徴とする、請求項1に記載の、菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項7】
前記導光体は、複数の導光部材が直列に接続されてなることを特徴とする、請求項1に記載の、菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項8】
前記導光体を構成する複数の前記導光部材のうち、少なくとも前記第二端に最も近い位置に配置された前記導光部材が光ファイバ又はライトガイドを含むことを特徴とする、請求項7に記載の、菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項9】
前記第一光源から出射された前記紫外光を、前記導光体の前記第一端に向かって集光する集光光学系を備えることを特徴とする、請求項1に記載の、菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項10】
前記第一光源は、KrCl及びKrBrの少なくとも一方を含む材料からなるガスが封入されたランプであることを特徴とする、請求項1に記載の、菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項11】
主波長域が200nm以上240nm未満の範囲に属さず、且つ主波長域が可視域及び赤外域の少なくともいずれか一方に属し、前記筐体本体内に収容された第二光源を備え、
前記導光体は、前記第二光源から出射された光を、前記第一光源から出射された前記紫外光と同一又は異なるタイミングで、前記第二端に導光することを特徴とする、請求項1に記載の、菌又はウイルスの不活化装置。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の菌又はウイルスの不活化装置を含み、治療部位に対して前記導光体の前記第二端から出射された前記紫外光を照射することを特徴とする、治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌又はウイルスの不活化装置に関する。また、本発明は、前記不活化装置を搭載した治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、殺菌用途に利用可能な小型の紫外光照射装置を提案している(下記、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された構造によれば、利用者が保持できる程度の小型な装置が実現さており、例えば靴の中等の狭い領域に対する殺菌に利用することが可能となる。
【0005】
ただし、特許文献1に開示された装置は、筐体に設けられた光取り出し面から紫外光を照射する構造であるため、ある程度広い領域に対して紫外光が照射される。このため、更に局所的な範囲に向けて紫外光を照射して当該領域内に存在し得る菌やウイルスの不活化を行うには、改良の余地が存在する。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑み、従来よりも狭小領域に対して紫外光を照射して、菌又はウイルスの不活化を行うことを可能にした装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る菌又はウイルスの不活化装置は、
主波長域の少なくとも一部が200nm以上240nm未満の範囲に属する紫外光を発する第一光源と、
前記第一光源を収容する筐体本体と、
長尺形状を呈し、光源に近い側の端部である第一端を含む部分が前記筐体本体内に位置しており、前記光源から出射された前記紫外光を長手方向に導光する導光体とを備え、
前記導光体は、前記第一端とは反対側の端部である第二端が前記筐体本体よりも外側に突出するように配置されていることを特徴とする。
【0008】
本明細書において、「主波長域」とは、光強度を波長別に分解して得られる発光スペクトルにおいて、最も高い光強度(ピーク強度)に対して40%以上の光強度を示す波長域を指す。典型的には、主波長域はピーク強度を示す波長(ピーク波長)を包含する。
【0009】
本明細書において、「不活化」とは、菌又はウイルスの少なくとも一部を死滅させる、又は感染力を低下させることを包含する概念を指す。ここで、「菌」とは細菌及び真菌(カビ)等の微生物を指す。
【0010】
波長200nm以上240nm未満の紫外光は、従来殺菌線として利用されている波長254nmを含む、波長240nm以上280nm未満の紫外光に比べて、人体に対する影響が低いことが知られている。なお、人体に対する影響を更に低下させる観点からは、光源から発せられる紫外光の主波長域の少なくとも一部が200nm以上235nm未満に属するのがより好ましい。
【0011】
上記の菌又はウイルスの不活化装置によれば、第一光源から発せられた紫外光が、長尺形状の導光体を通じて伝搬され、導光体の第二端を通じて出射される。この導光体は、第二端、すなわち出射側の端部が、第一光源を収容する筐体本体よりも外側に突出するように位置している。これにより、局所的に紫外光を照射することが可能となる。例えば、極めて狭い空間又は占有体積の小さい物品表面等に存在し得る、菌又はウイルスの不活化が可能となる。
【0012】
更には、人体の皮膚表面等、特定の箇所に対してのみ菌又はウイルスの不活化を行いたい場合などにおいても、上記装置は有用である。
【0013】
主波長域の少なくとも一部が200nm以上240nm未満の範囲内に属する紫外光を発する第一光源としては、任意の光源が利用できる。典型的には、KrCl又はKrBrを含む発光ガスが封入されたエキシマランプ、LED、又はレーザダイオードが挙げられる。前記第一光源をランプで構成する場合、上記のエキシマランプには限定されず、蛍光体等の波長変換材料を用いることで主波長域が200nm以上240nm未満の範囲内に重なる紫外光を発するランプとすることもできる。
【0014】
なお、第一光源から発せられた紫外光を、菌又はウイルスの不活化のために効率的に利用することを鑑みた場合、第一光源として、主波長域の全てが200nm以上240nm未満の範囲内に含まれる光源を利用するのが好適である。
【0015】
以下において、「菌又はウイルスの不活化装置」を、単に「不活化装置」と略記することがある。
【0016】
前記導光体は、前記紫外光を内部で全反射しながら前記第二端に導光する光学部材を含むものとしても構わない。
【0017】
このような導光体を構成する部材の例としては、石英、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、又は酸化アルミニウム(アルミナ、サファイア)等からなるガラスロッド、光ファイバ、若しくはライトガイド等が挙げられ、これらの部材が複数直列に接続されていても構わない。
【0018】
上記の導光体を利用することで、紫外光が導光体内を出射側端部(第二端)に向かって伝搬中に、紫外光が外部の側方に向かって放射(漏洩)する量が抑制される。これにより、紫外光を第二端側に効率的に紫外光を導くことができる。
【0019】
前記不活化装置は、前記導光体の前記第一端、前記第二端、及び前記第一端と前記第二端との中間位置の少なくとも1箇所以上に配置され、前記紫外光に含まれる波長範囲が240nm以上280nm未満に属する波長成分の進行を抑制する光学フィルタを備えていても構わない。
【0020】
前記第一光源が、主波長域が200nm以上240nm未満の範囲に属する紫外光を発する光源であっても、前記第一光源から出射される紫外光が240nm以上280nm未満の波長範囲内に弱い光強度を示す場合がある。KrClエキシマランプ又はKrBrエキシマランプのように、急峻な発光スペクトルを示すランプの場合、240nm以上280nm未満の波長範囲内における光強度は、ピーク強度に対して微弱ではあるものの光強度が示されることがある。また、第一光源がLEDである場合においても240nm以上280nm未満の波長範囲内における光強度が示されることがある。
【0021】
上述したように、波長が240nm以上280nm未満の紫外光は、人体に照射されると、照射時間にもよるが、人体に対する影響が懸念される。前記不活化装置は、主波長域の少なくとも一部が200nm以上240nm未満の範囲に属する紫外光を発する第一光源を備えているため、出射される紫外光には、240nm以上280nm未満の波長範囲内の成分は相対的には低くなっている。しかしながら、人体への懸念をより低下させる観点からは、この波長範囲の紫外光の強度は可能な限り低下させておくのが好ましい。特に、この不活化装置を人体の皮膚等の特定箇所に対して、菌やウイルスの不活化の目的で利用する場合には、人体に向けて直接紫外光を照射する態様が想定される。このような利用態様を想定するとき、紫外光に含まれる240nm以上280nm未満の波長範囲内の成分をできるだけ低下させておくのは肝要である。
【0022】
前記不活化装置によれば、240nm以上280nm未満の波長範囲に属する波長成分の進行を抑制する光学フィルタを備えているため、人体への影響を更に抑制できる。
【0023】
前記光学フィルタは、前記第一端、又は前記第一端と前記第二端との中間位置に配置されるのが好ましい。この場合、光学フィルタを通過した後の紫外光が、導光体内を伝搬するため、導光体内を伝搬する紫外光の線量が低下する。これにより、導光体に対する劣化の進行を遅らせることができる。また、光学フィルタが第二端に配置される場合、進行を抑制する対象となる波長成分の紫外光が、第二端に設けられた光学フィルタで第一端側へ反射される。これにより、導光体内を第二端から第一端に向かって進行する紫外光によって、導光体の劣化を進行させる可能性がある。かかる観点からも、光学フィルタは第一端、又は第一端と第二端との中間位置に配置されるのが好ましい。この構成は、特に、光学フィルタよりも第二端側の位置において、導光体の一部が、光ファイバやライトガイドといった、樹脂材料を含む導光部材で構成される場合に効果的である。
【0024】
ところで、上述したように、導光体の第一端は、第一光源からの紫外光が入射される端部である。仮に、この領域に光学フィルタを配置すると、導光体に取り込まれる紫外光の線量自体を低下させてしまう可能性がある。よって、第一光源から出射された紫外光についてはなるべく多く導光体に取り込み、導光体内を紫外光が伝搬される間に導光体への劣化の進行を抑制し、且つ、第二端から出射される紫外光には人体に対して悪影響を示す波長域の成分をなるべく低下させるという観点からは、前記光学フィルタを、前記第一端と前記第二端との中間位置に配置するのが特に好ましいといえる。
【0025】
光学フィルタを導光体の第一端と第二端との中間位置に配置する方法としては、複数の導光部材を直列に接続させることで導光体を形成した上で、最も光源に近い側に位置する導光部材(便宜上「第一導光部材」と称する。)の入射側の端面、及び最も出射端(導光体の第二端)に近い側に位置する導光部材(便宜上、「第二導光部材」と称する。)の出射側の端面を除く、いずれかの端面に光学フィルタを配置すればよい。例えば、第一導光部材の出射側、すなわち後段の導光部材と接続されている側の端面や、第二導光部材の入射側、すなわち前段の導光部材と接続されている側の端面に、光学フィルタを配置することで実現できる。また、第一導光部材と第二導光部材との間に、更に別の導光部材(便宜上「第三導光部材」と称する。)が単一又は複数直列に接続されている場合には、第三導光部材のいずれかの端面に光学フィルタを配置するものとしても構わない。
【0026】
なお、複数の導光部材を直列に接続させることで導光体を形成する場合においては、複数の導光部材のうちの、少なくとも一部が筐体本体の内部に位置する導光部材の端面に、光学フィルタを設けるのが好ましい。一例として、導光体が上記第一導光部材と第二導光部材とが直列に接続されてなる場合には、第一導光部材の端面に光学フィルタを設けるのが好ましい。別の一例として、第一導光部材と第二導光部材との間に、単一又は複数の第三導光部材が直列に接続されている場合には、第一導光部材の端面、又は、その一部が筐体本体の内部に位置する第三導光部材の断面に、光学フィルタを設けるのが好ましい。これにより、筐体本体の外側に位置する導光体の部分(典型的には、第二導光部材)に対する劣化の進行を遅らせることができる。
【0027】
光学フィルタは、導光体を構成する部材(導光部材)の端面に、コーティングされているものとしても構わない。つまり、前記導光体は、少なくとも一の端面に光学フィルタがコーティングされてなる導光部材を含むものとして構わない。この構成によれば、光学フィルタが配置された基材を導光部材の端面に接触させてなる構成と比較して、不活化装置の製造コストを低廉化できる。
【0028】
前記不活化装置の一態様として、複数の導光部材を直列に接続して導光体を形成し、最も出射側に位置する導光部材(第二導光部材)を光ファイバ又はライトガイドで構成する態様が想定される。そして、このような不活化装置は、ユーザが第二導光部材を手にしながら対象箇所に向けて照射方向を定める利用態様が想定される。
【0029】
第二導光部材が光ファイバやライドガイドで構成される場合、第二導光部材に入射した紫外光は、第二導光部材内を全反射しながら出射側端部(すなわち導光体の第二端)に向かって伝搬する。しかし、狭い空間内において、ユーザが第二導光部材を手にしながら照射方向を調整する過程で、第二導光部材の屈曲状態が鋭角になったり、素線の一部が損傷したり断線するという可能性はゼロではない。このような事態が生じた場合、仮に、第二導光部材内を伝搬する紫外光に波長範囲が240nm以上280nm未満に属する波長成分が含まれていると、第二導光部材内の側部から漏れ出た紫外光がユーザに照射されることも考えられる。かかる観点からも、前記光学フィルタは、前記導光体の前記第一端、又は前記導光体の前記第一端と前記第二端との中間位置に配置されるのが好ましいといえる。これにより、第二導光部材内を伝搬する紫外光は、波長範囲が240nm以上280nm未満に属する成分が極めて低くなり、ユーザに対して人体への影響が懸念される波長域の紫外光が照射されるリスクを更に低下できる。
【0030】
前記導光体の前記第二端は、外側に向かって凸形状を呈しているものとしても構わない。
【0031】
例えば、この不活化装置を人体の皮膚の特定箇所に存在し得る菌又はウイルスの不活化の用途に用いる場合、人体に含まれる体液の一部が導光体の先端、すなわち第二端近傍に付着することが考えられる。体液に含まれるタンパク質は、200nm以上240nm未満の範囲内の紫外光に対して吸収性を示すため、仮に導光体の第二端に体液が付着してしまうと、対象領域に対する紫外光の照度が低下して、不活化効果が低下することが想定される。
【0032】
これに対し、上記構造のように、導光体の第二端を外側に向かって凸形状とすることで、仮に体液が第二端に接触したとしても、その接触状態が継続しにくくなる。よって、紫外光の照度低下が抑制される。この場合、導光体の第二端を人体に接触させながら紫外光を照射するような利用態様においては、人体の接触箇所に物理的な損傷を与えにくくする観点から、第二端は緩やかなカーブを描く凸形状を呈しているのが好ましく、典型的には球又は楕円球の一部を構成する曲面で構成されるのが好ましい。
【0033】
なお、人体に対する照射の場面にとどまらず、水分を初めとする液体が周囲に存在し得る環境下でこの不活化装置を利用する場合においても、同様に、導光体の第二端に液体が付着し続けるという事態を招きにくくなる効果が得られる。例えば、塵や埃を含む水分が導光体の第二端に付着し続けると、照度低下を招くおそれがある。
【0034】
前記不活化装置は、前記導光体の前記第二端を覆う、前記紫外光に対する透過性を有する柔軟部材を備えるものとしても構わない。
【0035】
上記構成によれば、第二導光体の出射側端部を人体に接触させながら紫外光を照射するような利用態様において、人体の接触箇所に物理的な損傷を与えにくくなる。なお、このような柔軟部材の材料としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ETFE(テトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、又はFEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)等のフッ素系樹脂、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PVA(ポリビニルアルコール)、PVC(ポリ塩化ビニル)、COC(環状オレフィンコポリマー)、シリコーン樹脂等が挙げられる。これらの中では、入手容易性に鑑みて、PTFEが好適に利用可能である。これらの素材は、厚みを極めて薄くすると紫外光に対する透過性が得られる一方、厚みを厚くすると紫外光に対する反射性を示す。よって、導光体の出射側端面(第二端)にPTFE等からなる、薄膜の柔軟部材を配置しておくことで、紫外光の照度低下を抑制しつつ、人体への物理的損傷が防止できる。例えば、導光体の第二端を含み、1mm~5mm程度の領域の外側面を薄膜の柔軟部材で覆う構成が採用できる。
【0036】
なお、ここでいう薄膜とは、0.01mm~1.0mmの厚みを指し、より好ましくは、0.02mm~0.5mmである。
【0037】
更に、柔軟部材を厚くすることで反射性を示すことを利用して、導光体のうち、紫外光を出射したくない領域には、第二端よりも厚い柔軟部材で覆うものとしても構わない。
【0038】
前記導光体は、前記第一端よりも、前記第二端に近い領域において、前記第二端に近づくに伴って外径が縮小する領域を含むものとしても構わない。
【0039】
かかる構成とすることで、第二端に近い領域に位置する導光体の、狭小領域における取り回しが容易化される。これにより、狭小領域に対して紫外光を照射しやすくなり、狭小領域に存在し得る菌又はウイルスの不活化に資する。典型的な一例として、導光体が、第一光源に近い側(第一端)に位置する第一導光部材と、前記第一導光部材に対して直列に接続され出射側の端部(第二端)に近い第二導光部材とを含む構成である場合、第二導光部材の出射側端面(すなわち第二端)に近い領域を、第二端に近づくに連れて外径が縮小するような形状とすることができる。
【0040】
前記不活化装置は、前記第一光源から出射された前記紫外光を、前記導光体の前記第一端に向かって集光する集光光学系を備えるものとしても構わない。
【0041】
かかる構成によれば、導光体の入射側の端面(第一端)と光源とが離れた位置にある場合においても、導光体に対して第一光源からの紫外光を高効率に入射させることができる。
【0042】
前記不活化装置は、主波長域が200nm以上240nm未満の範囲に属さず、且つ主波長域が可視域及び赤外域の少なくともいずれか一方に属し、前記筐体本体内に収容された第二光源を備え、
前記導光体は、前記第二光源から出射された光を、前記第一光源から出射された前記紫外光と同一又は異なるタイミングで、前記第二端に導光するものとしても構わない。
【0043】
不活化処理を行う対象領域が局所的な領域である場合、環境光に乏しく対象領域が視認しづらい場合が考えられる。前記不活化装置が、可視域の光を発する前記第二光源を備えることで、不活化装置の利用時に、照射領域を可視光で照明しながら紫外光を照射できる。
【0044】
また、菌やウイルスによっては、紫外光と赤外光が併用されることで、不活化効果が高められる場合がある。前記不活化装置が、赤外域の光を発する前記第二光源を備えることで、対象領域に対する不活化効果を高めることができる。
【0045】
なお、前記第二光源は、可視域の光を発する光源と、赤外域の光を発する光源とを含むものとしても構わない。
【0046】
また、本発明に係る治療装置は、上記の菌又はウイルスの不活化装置を含み、治療部位に対して前記導光体の前記第二端から出射された前記紫外光を照射することを特徴とする。
【0047】
上記構成によれば、局所的な治療部位に対して所定の治療を施しつつも、皮膚に存在し得る菌又はウイルスの不活化を併せて行うことができ、感染症への対策が可能となる。このような治療装置としては、内視鏡、歯科用の切削器具、関節鏡等が挙げられる。
【0048】
本発明に係る菌又はウイルスの不活化装置、及び治療装置によれば、人や動物の皮膚や目に紅斑や角膜炎を起こすことなく、紫外光本来の殺菌、ウイルスの不活化能力を提供することができる。このことは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「あらゆる年齢の全ての人々が健康的な生活を確保し、福祉を促進する」に対応し、また、ターゲット3.3「2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶すると共に、肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する」に大きく貢献するものである。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、従来よりも狭小領域に対して、菌又はウイルスの不活化を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】一実施形態における不活化装置の構造を模式的に示す断面図であり、一部の要素はブロック図として表記されている。
【
図2】
図1に図示された不活化装置を端部突出部側から見たときの模式的な平面図である。
【
図3】光源ユニットに含まれる紫外光源の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図4】第一導光部材内を紫外光が伝搬する様子を模式的に示す図面である。
【
図5】第二導光部材が設けられた不活化装置の構造を模式的に示す断面図である。
【
図6】第二導光部材の出射側端部を拡大して模式的に示す図面である。
【
図7】第二導光部材の出射側端部を更に拡大して模式的に示す図面である。
【
図8】導光体の別の構成例を模式的に示す図面である。
【
図9】不活化装置の別の構成例を
図1にならって模式的に示す断面図である。
【
図10】光源ユニットに含まれる紫外光源の別の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図11】光源ユニットの別の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図12】光源ユニットの別の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図13】光源ユニットの別の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図14】光源ユニットの別の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図15】不活化装置を含む内視鏡の構成例を模式的に示す図面である。
【
図16】内視鏡の挿入部の先端箇所を拡大して模式的に示す図面である。
【
図17】第一導光部材の別の構成例を模式的に示す図面である。
【
図18】第二導光部材の別の構成例を模式的に示す図面である。
【
図19】光源ユニットの別の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図20】光源ユニットの別の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図21】不活化装置の別の構成例を模式的に示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明に係る菌又はウイルスの不活化装置(以下、「不活化装置」と略記する。)の実施形態につき、適宜図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比と実際の寸法比は必ずしも一致していない。また、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0052】
図1は、本実施形態の不活化装置の構造を模式的に示す断面図であり、一部の要素がブロック図にて図示されている。不活化装置1は、光源ユニット20を内蔵する筐体本体3、筐体本体3の一つの外側面に設けられた端部突出部5を備える。
図2は、不活化装置1を端部突出部5側から見たときの模式的な平面図である。
【0053】
不活化装置1は、筐体本体3内に、光源ユニット20、電源ユニット31、及び制御ユニット32を内蔵する。光源ユニット20は、後述するように紫外光L1を発する紫外光源20U(
図3参照)を含む。電源ユニット31は、例えばインバータ等を含む電源回路で構成され、光源ユニット20に対する電力を供給する。制御ユニット32は、電源ユニット31に対する制御を行う機構であり、光源ユニット20からの紫外光L1の強度や点灯/消灯の制御を行う。
【0054】
光源ユニット20が搭載する紫外光源20U(
図3参照)は、主波長域の少なくとも一部が200nm以上240nm未満の範囲に属する紫外光を発する光源である。
【0055】
端部突出部5は、筐体本体3の外側面から外方に向けて突出しており、周囲を取り囲む筒形状を呈してなる。端部突出部5は、筐体本体3と同一の素材で形成されていても構わない。筐体本体3は、紫外光に対する耐性を有する材料で構成されるのが好ましく、例えばPTFE等の樹脂、ステンレス、アルミニウム等の金属で構成される。
【0056】
図1に示すように、不活化装置1は、光源ユニット20から出射された紫外光を端部突出部5側に導くための導光体10を備える。
図1には、導光体10が、単一の第一導光部材11で構成される例が図示されている。導光体10は、好ましくは、光源ユニット20から出射された紫外光を内部にて全反射を繰り返しながら端部突出部5側に導く構成である。導光体10は、典型的には、石英、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、又は酸化アルミニウム(アルミナ、サファイア)等からなるガラスロッド、光ファイバ、ライトガイドである。なお、
図1では、不活化装置1が備える導光体10は、単一の第一導光部材11で構成されている例が示されているが、複数の導光部材が直列に接続されて構成されていても構わない。この点は、
図5等を参照して後述される。
【0057】
より詳細には、
図1に示すように、導光体10は長尺形状を呈し、光源ユニット20に近い側の第一端10aを含む部分が筐体本体3内に位置している。また、導光体10の、第一端10aとは反対側の第二端10bは、筐体本体3の外側に位置している。本実施形態では、塵等の異物が付着するのを防止する観点で、導光体10の第二端10b側の径方向に係る周囲が端部突出部5で覆われている。なお、導光体10の第二端10bの端面は端部突出部5で覆われていない。ただし、導光体10の第二端10b側の一部が端部突出部5で覆われていない構成についても本発明の射程範囲である。
【0058】
なお、
図1に示す不活化装置1の場合、導光体10が第一導光部材11で構成されているため、導光体10の光源ユニット20側の端部である第一端10aは、第一導光部材11の入射側端部11aに対応し、導光体10の光源ユニット20とは反対側の端部である第二端10bは、第一導光部材11の出射側端部11bに対応する。
【0059】
本実施形態の不活化装置1においては、第一導光部材11の出射側端部11bに、光学フィルタ7が設けられている。この光学フィルタ7は、200nm以上240nm未満の波長範囲に属する光については実質的に透過する一方、240nm以上280nm未満の波長範囲に属する光の進行を抑制する機能を奏する。
【0060】
光学フィルタ7は、屈折率の異なる層が積層されてなる誘電体多層膜を用いることができる。例えば、屈折率が異なるシリカ(SiO2)とハフニア(HfO2)とが積層された誘電体多層膜である。他の材料としては、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)等が利用可能である。
【0061】
光学フィルタ7は、200nm以上240nm未満の波長範囲に属する紫外光を実質的に透過し、240nm以上300nm未満の波長範囲に属する紫外光の進行を抑制するように、誘電体多層膜を構成する各層の膜厚及び積層数が調整されてなる。光学フィルタ7は、200nm以上235nm未満の波長範囲に属する紫外光を実質的に透過するように構成されているのがより好ましく、200nm以上230nm未満の波長範囲に属する紫外光を実質的に透過するように構成されているのが特に好ましい。
【0062】
なお、光学フィルタ7が、「200nm以上240nm未満の波長範囲に属する紫外光を実質的に透過する」とは、光学フィルタ7に対して垂直に、すなわち入射角0°で入射された紫外光のうち、200nm以上240nm未満の波長範囲に属する紫外光の最大透過率が20%以上であることを意味する。なお、光学フィルタ7は、入射角0°で入射された紫外光のうち、200nm以上240nm未満の波長範囲に属する紫外光の最大透過率が30%以上であるのがより好ましく、40%以上であるのが特に好ましい。他の波長範囲においても、同様である。
【0063】
また、光学フィルタ7が、「240nm以上300nm未満の波長範囲内に属する紫外光の進行を抑制する」とは、光学フィルタ7に対して入射される前後で、200nm以上240nm未満の範囲内に属するピーク波長における光強度(ピーク強度)に対する、240nm以上300nm未満の波長範囲内に属する光強度の比率を低下させることを意味する。好ましい例として、光学フィルタ7を通過した紫外光L1は、240nm以上300nm未満の光強度が、前記ピーク強度に対して5%未満にまで低減されていることが好ましく、3%未満にまで低減されていることがより好ましく、1%未満にまで低減されていることが特に好ましい。
【0064】
つまり、導光体10に光学フィルタ7が設けられることで、導光体10を介して不活化装置1から出射される紫外光L1は、人体に対する影響が懸念される240nm以上300nm未満の波長範囲内に属する成分の強度が十分低下される。ただし、光源ユニット20から出射される紫外光のスペクトルにおいて、240nm以上300nm未満の波長域の光強度が、人体への影響を考慮する必要がない程度に極めて低い場合は、導光体10に光学フィルタ7が設けられていなくても構わない。例えば、光源ユニット20側に、光学フィルタ7と同種の機能を示す光学部材を備えている場合には、導光体10の端面に必ずしも光学フィルタ7を設ける必要はない。
【0065】
また、光学フィルタ7の配置位置は、導光体10を構成する導光部材の態様によって、適宜調整することができる。この点は、後述される。
【0066】
図3は、光源ユニット20に含まれる紫外光源20Uの構成例を模式的に示す断面図である。
図3に示す例では、紫外光源20Uはエキシマランプで構成されている。紫外光源20Uが、「第一光源」に対応する。
【0067】
この紫外光源20Uは、石英等の誘電体材料からなる発光管21と、発光管21の管壁の外表面に配置された一対の電極23,24とを有する。発光管21の内部は、例えばKrClを含む発光ガスが封入された発光空間25を構成する。一対の電極23,24は、相互に離間して配置されており、電源ユニット31(
図1)を通じて電圧が供給される。一対の電極23,24に対して電圧が印加されると、誘電体を介して発光空間25内の発光ガスに電圧が印加されて誘電体バリア放電が生じ、エキシマ発光による紫外光L20Uが生じる。発光ガスがKrClを含む場合、紫外光L20Uはピーク波長が222nm近傍のスペクトルを示す。なお、ここで「近傍」と表記したのは、発光空間25内に封入されているガスの混合比率や個体差によって生じ得る1nm~5nm程度の誤差を許容する趣旨である。
【0068】
発光空間25内に封入される発光ガスとしては、主波長域の少なくとも一部が200nm以上240nm未満の範囲に属する紫外光L20Uを生じることのできる材料であればよい。KrCl以外には、KrBrが例示される。
【0069】
図3に示す紫外光源20Uは、発光管21の外壁の一部箇所に、導光体10を構成する第一導光部材11が連結されている。このとき、導光体10の第一端、すなわち第一導光部材11の入射側端部11aは、発光管21の外壁に接触している。製造の容易化の観点からは、発光管21と第一導光部材11とは同一の材料で構成されるのが好ましい。この場合、発光管21と第一導光部材11とは一体的な構造となる。
【0070】
発光空間25内で発生した紫外光L20Uは、導光体10(第一導光部材11)側に入射され、導光体10(第一導光部材11)内を伝搬する。第一導光部材11を石英等で構成することで、紫外光L20Uは、第一導光部材11の構成材料と空気との屈折率差に起因して第一導光部材11内において全反射を繰り返しながら伝搬する。そして、第一導光部材11の出射側端部11b、すなわち導光体10の第二端10bに達した後、紫外光L1として外部に出射される(
図1、
図4参照)。
【0071】
紫外光源20Uが
図3に示す構造である場合、紫外光源20Uは、発光空間25内で発生した紫外光L20Uが第一導光部材11に効率的に入射されるよう、第一導光部材11とは反対側に進行する紫外光源20Uを第一導光部材11側に導くための反射部材を備えるものとしても構わない。
【0072】
図1に示す不活化装置1によれば、長尺形状の導光体10の端部(第二端10b)から、菌又はウイルスを不活化させるために効果的な、主波長域の少なくとも一部が200nm以上240nm未満の範囲に属する紫外光L1が出射される。このため、従来よりも狭小領域に対する不活化処理に資する。
【0073】
なお、第一導光部材11の長手方向(軸方向)に直交する平面で切断したときの断面積は、好ましくは1mm2~100mm2であり、より好ましくは10mm2~20mm2である。
【0074】
図5に示すように、不活化装置1が備える導光体10は、複数の導光部材11,12が連結されていても構わない。第二導光部材12は、典型的には光ファイバ、又は光ファイバが所定の被覆材料で被覆されてなるライトガイドであり、柔軟性を有する。なお、「柔軟性を有する」とは、ユーザが把持しながら容易に形状や方向を変化させることが可能であることを意味する。
【0075】
図5に示す態様の場合、導光体10は、第一導光部材11と第二導光部材12が直列に接続されてなり、光源ユニット20(
図1)に最も近い第一導光部材11の入射側端部11aが導光体10の第一端10aに対応し、紫外光L1が取り出される出射側に最も近い第二導光部材12の出射側端部11bが導光体10の第二端10bに対応する。そして、光学フィルタ7は、導光体10の第一端10aと第二端10bとの中間位置である、第一導光部材11と第二導光部材12との境界に配置されている。
【0076】
この構成によれば、より狭い領域や奥まった箇所に対して局所的に紫外光L1を照射することができるため、局所的な箇所に対する菌又はウイルスの不活化処理に資する。
【0077】
第二導光部材12が光ファイバ又はライトガイドで構成される場合、表面が樹脂等で被覆されることが多い。第一導光部材11と第二導光部材12との境界箇所に光学フィルタ7を備えることで、第二導光部材12内を伝搬する紫外光は、240nm以上280nm未満の波長成分の強度が大幅に低下されている。これにより、第二導光部材12内を伝搬する紫外光の線量が低下するため、第二導光部材12の劣化の進行が抑制できる。
【0078】
図6に示すように、第二導光部材12の出射側端部12bは、外側に向かって凸形状を呈するのが好適である。このような構成によれば、不活化装置1が人体の特定箇所の皮膚表面に存在し得る菌又はウイルスの不活化目的で利用される場合、体液が出射側端部12bに付着しても付着状態が継続しにくくなる。体液に含まれるタンパク質は、200nm以上240nm未満の範囲内の紫外光に対して吸収性を示すため、第二導光部材12の出射側端部12bに体液が付着し続けると、照射面における紫外光L1の照度が低下する懸念がある。紫外光L1が出射される端部を構成する第二導光部材12の出射側端部12b(これは導光体10の第二端10bにも対応する)に、体液が接触した状態が継続されにくい構成とすることは、不活化処理を効率的に行う観点からは肝要である。
【0079】
なお、人体の皮膚に対する不活化のみならず、水分が周囲に存在する環境下において、狭い領域に対して不活化処理を行う場合においても、第二導光部材12として
図6に示す構造を採用することは効果的である。
【0080】
局所的な箇所に対して紫外光L1を照射する観点からは、
図6に示すように、第二導光部材12は、出射側端部12bに近い箇所において、出射側端部12bに近づくに連れて外径が縮小するような形状(先細りする形状)を呈しているのが好ましい。
【0081】
図7に示すように、第二導光部材12の出射側端部12bは、薄膜の柔軟部材15で覆われているものとしてもよい。特に、人体の特定箇所の皮膚に対して紫外光L1を照射する場面では、第二導光部材12の出射側端部12bが皮膚に接触することが予想される。第二導光部材12の出射側端部12bが柔軟部材15で覆われていることで、皮膚に対する物理的な損傷を与えにくくする効果が得られる。
【0082】
柔軟部材15の材料としては、PTFE、ETFE、PFA、PVDF、PP、PE、PVA、PVC、COC、シリコーン樹脂等の各種樹脂が挙げられる。また、出射側端部12bに位置する柔軟部材15の厚みとしては、0.01mm~1.0mmが好ましく、0.02mm~0.5mmがより好ましい。上記の材料は、厚みを極めて薄くすると紫外光L1に対する透過性が得られるため、照度低下を抑制しながらも、人体を初めとする対象物への物理的損傷を軽減できる。また、上記柔軟部材15が設けられることで、紫外光L1を拡散透過させる機能が奏される。これにより、例えば不活化処理の対象となる局所領域のほぼ全域に対して、一括して紫外線を照射することも可能となる。
【0083】
図8に示すように、導光体10は、光源ユニット20に最も近い位置に配置された第一導光部材11、及び紫外光L1が出射される端部に最も近い位置に配置された第二導光部材12に加えて、これらの導光部材11,12の間に配置された第三導光部材13を備えてもよい。この場合において、第三導光部材13は、複数の導光部材が直列に接続されてなる構成であってもよい。言い換えれば、導光体10は、3以上の導光部材が直列に接続されて形成されていても構わない。
図8の例では、光学フィルタ7は、第三導光部材13と第二導光部材12との境界面、言い換えれば、第二導光部材12の入射側端部12a又は第三導光部材13の出射側端部13bに配置されている。この位置は、導光体10の第一端10aと第二端10bとの中間位置に対応する。
【0084】
上述したように、不活化装置1が備える導光体10は、光源ユニット20とは反対側の端部である第二端10bが、筐体本体3から外側に突出していればよい。このため、複数の導光部材(11,12,…)が直列に接続されて導光体10が形成される場合、筐体本体3の一の外側面に端部突出部5を備えなくても構わない(
図9参照)。
図9に示す不活化装置1の場合、第一導光部材11が筐体本体3内に位置している一方、第一導光部材11に直列に接続されてなる第二導光部材12が、筐体本体3から外側に突出している。なお、
図8を参照して上述したように、導光体10が、3以上の導光部材を有してなる場合においても同様の議論が可能である。
【0085】
光源ユニット20に含まれる紫外光源20Uの構造は、
図3に図示した例には限定されない。
図10は、
図3とは異なる一形態の紫外光源20Uの構造を模式的に示す断面図である。
【0086】
図10に示す紫外光源20Uは、U字形状の発光管21において、外側の管壁に電極23が配置され、内側の管壁に電極24が配置されている。発光管21の内側は、発光ガスが封入された発光空間25を構成する。発光管21の一部の壁面が、導光体10の第一端10a(より詳細には、第一導光部材11の入射側端部11a)と接触することで、発光管21と導光体10とが連結されている。
【0087】
図10に示す構成においても、電極23,24間に電圧が印加されることで、発光空間25内で生じたエキシマ光由来の紫外光L20Uが、導光体10に入射され、導光体10内を出射側の端部(第二端10b)に向かって伝搬され、第二端10bより紫外光L1が外部に取り出される。
図5、
図8を参照して上述したように、導光体10が第二導光部材12等の他の導光部材を備える場合においても同様である。
【0088】
不活化装置1は、
図11に示すように、紫外光源20Uで生成された紫外光L20Uを、導光体10の第一端10aに導くための集光レンズ27を備えても構わない。別の例として、不活化装置1は、
図12に示すように、紫外光源20Uで生成された紫外光L20Uを、導光体10の第一端10aに導くための集光反射鏡28を備えても構わない。つまり、本発明において、導光体10と紫外光源20Uとは必ずしも接触していなくても構わない。これらの集光レンズ27及び集光反射鏡28は、「集光光学系」に対応する。典型的な一例として、集光レンズ27は凸レンズであり、集光反射鏡28は楕円ミラーである。
【0089】
また、
図3、
図10及び
図11に示すように、紫外光源20Uの発光管21(封体)が長尺な形状である場合、発光空間25内で生じた紫外光L20Uを取り出す面(光放射面)は、発光管21の一端部側に形成されることが好ましい。より詳細には、導光体10の第一端10aが、前記放射面に連結するか、又は前記放射面に対して対向するように配置されることが好ましい。封体の一端部側に光放射面が形成されることで、封体内の発光空間25の奥行きを確保し易くなり、光放射面から高い放射強度で紫外光L20Uを導光体10に向けて取り出すことができる。
【0090】
図13及び
図14に示すように、光源ユニット20は、紫外光源20Uに加えて可視光源20Wを備えていても構わない。可視光源20Wは、典型的には白色光を発するLED又はランプであるが、可視域の光を発する光源であれば白色光源には限定されない。この場合、可視光源20Wが「第二光源」に対応する。
【0091】
図13の例では、導光体10の第一端10a、より詳細には第一導光部材11の入射側端部11aに対して、紫外光源20Uからの紫外光L20Uと、可視光源20Wからの可視光L20Wとが入射される。第一導光部材11内において、紫外光L20Uと可視光L20Wの両者が混合された状態で伝搬し、導光体10の第二端10bに導かれる。
【0092】
図14の例では、第一導光部材11が光源ユニット20側において第一分枝11uと第二分枝11wとに分岐されている。第一分枝11uの入射側端部11a1が、導光体10の第一端10aに対応し、紫外光源20Uからの紫外光L20Uが第一分枝11uに入射される。一方、可視光源20Wからの可視光L20Wは第二分枝11wの入射側端部11a2に入射される。この場合においても、第一導光部材11の途中において紫外光L20Uと可視光L20Wの両者が混合され、この混合光が第一導光部材11内を伝搬し、導光体10の第二端10bに導かれる。
【0093】
不活化処理を行う対象領域が局所的な領域である場合、環境光に乏しく対象領域が視認しづらいことが想定される。これに対し、上記構成によれば、不活化装置1の利用時において、紫外光L1と共に可視光が照射されるため、照射領域を可視光で照明しながら紫外光L1を照射できる。なお、
図14の例では、第一導光部材11が分岐しているものとしたが、可視光L20Wの伝搬用の別の導光部材が、第一導光部材11と並列に設けられて、端部突出部5(
図1参照)まで導かれる構成であってもよい。また、光源ユニット20が、紫外光源20Uと可視光源20Wとを備える場合において、紫外光源20Uと可視光源20Wとは必ずしも同時に点灯される必要はなく、それぞれが異なるタイミングで点灯されてもよい。
【0094】
図15は、不活化装置1を搭載した内視鏡40の一例である。内視鏡40は、コネクタ41、操作部42、及び挿入部43を備える。コネクタ41は、不活化装置1を含むシステム本体に接続される。操作部42は、典型的には内視鏡の湾曲を上下左右に制御するアングルノブ、送気送水ボタン、吸引ボタンや処置具を挿入する鉗子口が設けられている。挿入部43は、内視鏡用のケーブルである。
【0095】
図16は、
図15の挿入部43の先端部を模式的に示す拡大図である。挿入部43内には、人体の組織に対して所定の処置を施すための処置具46、対物レンズ47、及び採取した組織や異物等を吸引するための吸引口48の他、上述した第二導光部材12が内蔵されている。
図15及び
図16に示す内視鏡40によれば、臓器内部を観察しながらも、第二導光部材12の出射側端部12b、すなわち導光体10の第二端10bから紫外光L1を特定の治療部位に照射することができるため、治療部位の表面に対する菌又はウイルスの不活化処理を並行して行うことが可能となる。
【0096】
図15及び
図16に図示した内視鏡は、治療装置の一例である。不活化装置1を搭載した治療装置の他の例としては、歯科用の切削器具、関節鏡等が挙げられる。
【0097】
[別実施形態]
以下、不活化装置1の別実施形態について説明する。
【0098】
〈1〉導光体10を構成する導光部材の端面に、光学フィルタ7がコーティングされていても構わない。例えば、
図17に示すように、導光体10を構成する第一導光部材11の出射側端部11bに、光学フィルタ7がコーティングされていてもよい。また、導光体10が、第一導光部材11と第二導光部材12とを含む場合には、例えば
図18に示すように、第二導光部材12の入射側端部12aに光学フィルタ7がコーティングされていても構わない。第一導光部材11の入射側端部11a、及び第二導光部材12の出射側端部12bの少なくとも一方に光学フィルタ7がコーティングされていてもよい。
【0099】
ただし、光源ユニット20からの紫外光L20Uを第一導光部材11に多く取り込む観点からは、第一導光部材11の入射側端部11aには光学フィルタ7を設けないのが好ましい。言い換えれば、第一導光部材11の出射側端部11b、第二導光部材12の入射側端部12a、及び第二導光部材12の出射側端部12bのうちの1箇所以上に、光学フィルタ7を設けるのが好ましい。
【0100】
図8に示すように、導光体10が、第一導光部材11、第三導光部材13、及び第二導光部材12が直列に接続されてなる場合には、第一導光部材11の出射側端部11b、第三導光部材13の入射側端部13a、第三導光部材13の出射側端部13b、及び第二導光部材12の入射側端部12aの少なくともいずれか1箇所に、光学フィルタ7がコーティングされていても構わない。
【0101】
〈2〉
図19に示すように、光源ユニット20は、紫外光源20Uに加えて赤外光源20Iを備えていても構わない。赤外光源20Iは、例えば主波長域が700nm~2000nmの赤外域に属する赤外光L20Iを発する光源である。なお、この場合において、
図14と同様に、第一導光部材11が入射側端部において複数の分枝を有すると共に、各分枝にそれぞれの光源からの光が入射されるものとしても構わない。
【0102】
照射対象箇所に存在し得る菌、ウイルスによっては、紫外光L20Uに加えて、赤外光L20Iを照射することで、いわゆるハードル効果によって不活化作用が高められる場合がある。上記構成によれば、導光体10の第二端10bから、紫外光と共に赤外光が照射されるため、不活化効果が高められる。この構成において、赤外光源20Iが「第二光源」に対応する。
【0103】
なお、紫外光源20Uと赤外光源20Iとは、同時に点灯させても構わないし、異なるタイミングで点灯させても構わない。言い換えれば、導光体10の第二端10bからは、紫外光L1と赤外光L20Iとが混合されてなる光が出射されても構わないし、紫外光L1と赤外光L20Iとが、別々のタイミングで出射されても構わない。
【0104】
更に、
図20に示すように、光源ユニット20は、紫外光源20U、可視光源20W及び赤外光源20Iを備えていても構わない。この場合においても、
図14と同様に、第一導光部材11が入射側端部において複数の分枝を有すると共に、各分枝にそれぞれの光源からの光が入射されるものとしても構わない。この構成においては、可視光源20W及び赤外光源20Iが「第二光源」に対応する。
【0105】
〈3〉
図21は、不活化装置1の別実施形態の構成を模式的に示す図面である。不活化装置1が備える光源ユニット20は、複数の紫外光源20Uと、紫外光源20Uからの紫外光L20Uを透過する窓部材29とを含む。紫外光源20Uは、ランプで構成される。
【0106】
不活化装置1は、光源ユニット20と共に利用される導光ユニット50を備える。導光ユニット50は、複数の第一導光部材11を内蔵し、それぞれの第一導光部材11の入射側端部11aが、光取り込み面51に対面している。導光ユニット50は、それぞれの第一導光部材11内を伝搬した光が合成して入射される、第二導光部材12を備えている。
【0107】
複数の第一導光部材11は、紫外光源20Uの長手方向に平行な方向に沿って配置されている。不活化装置1の利用の際には、導光ユニット50の光取り込み面51と、光源ユニット20の窓部材29とが、接触するように配置される。
図21に示す例では、光源ユニット20が複数の紫外光源20Uを備えており、導光ユニット50の光取り込み面51と光源ユニット20の窓部材29とが接触すると、複数の第一導光部材11がそれぞれの紫外光源20Uの長手方向に沿うように配置されている。
【0108】
複数の紫外光源20Uから出射された紫外光L20Uは、導光ユニット50内の複数の第一導光部材11を通じて伝搬し、第二導光部材12の出射側端部12b、すなわち導光体10の第二端10bから、紫外光L1が出射される。
図21に示す不活化装置1によっても、より狭い領域や奥まった箇所に対して局所的に紫外光L1を照射することができる。
【0109】
〈4〉上述した実施形態では、光源ユニット20に含まれる紫外光源20Uがエキシマランプである場合について説明したが、LEDやレーザダイオード素子などの固体光源であっても構わない。
【0110】
〈5〉上述した各実施形態の構成は、適宜組み合わせて実現することができる。
【符号の説明】
【0111】
1 :不活化装置
3 :筐体本体
5 :端部突出部
7 :光学フィルタ
10 :導光体
10a :導光体の第一端
10b :導光体の第二端
11 :第一導光部材
12 :第二導光部材
13 :第三導光部材
15 :柔軟部材
20 :光源ユニット
20I ;赤外光源
20U :紫外光源
20W :可視光源
21 :発光管
23 :電極
24 :電極
25 :発光空間
27 :集光レンズ
28 :集光反射鏡
29 :窓部材
31 :電源ユニット
32 :制御ユニット
40 :内視鏡
41 :コネクタ
42 :操作部
43 :挿入部
46 :処置具
47 :対物レンズ
48 :吸引口
50 :導光ユニット
51 :光取り込み面
L1 :紫外光
L20I :赤外光
L20U :紫外光
L20W :可視光