(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158436
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】培養器具及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20231023BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20231023BHJP
C12N 5/00 20060101ALN20231023BHJP
C12N 1/00 20060101ALN20231023BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20231023BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12M1/00 A
C12N5/00
C12N1/00 A
C12N5/0775
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068278
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】392030184
【氏名又は名称】エステック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】514045843
【氏名又は名称】APC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(71)【出願人】
【識別番号】513070484
【氏名又は名称】株式会社スペース・バイオ・ラボラトリーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 生吾
(72)【発明者】
【氏名】永島 正嗣
(72)【発明者】
【氏名】崔 源煥
(72)【発明者】
【氏名】與倉 三好
(72)【発明者】
【氏名】白石 浩平
(72)【発明者】
【氏名】河原 裕美
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC02
4B029GA01
4B029GA08
4B029GB09
4B065AA93X
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA30
4B065BC41
4B065BC50
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】培地が直に接する培養面を、低温プラズマ処理によって、生物又は細胞を培養するうえで好適な状態とすることが容易な培養器具及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】生物又は細胞を培養する培養器具であって、基材を備え、前記基材は、合成樹脂材料、セルロース又はフッ素を含み、前記基材の表面の少なくとも一部を、低温プラズマ処理が施すことによって、生物又は細胞を培養可能な培地が直に接する培養面とし、前記培養面の接触角を42度以下とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物又は細胞を培養する培養器具であって、
基材を備え、
前記基材は、合成樹脂材料、セルロース又はフッ素を含み、
前記基材の表面の少なくとも一部を、低温プラズマ処理が施すことによって、生物又は細胞を培養可能な培地が直に接する培養面とし、
前記培養面の接触角を42度以下とした
ことを特徴とする培養器具。
【請求項2】
前記基材は、その両面又は片面が培養面となるシート材である
請求項1に記載の培養器具
【請求項3】
前記シート材は、屈曲又は湾曲するように曲げ形成されてなる
請求項2に記載の培養器具。
【請求項4】
前記シート材は、波状に曲げ成形された
請求項3に記載の培養器具。
【請求項5】
前記シート材は、筒状に曲げ成形された
請求項3に記載の培養器具。
【請求項6】
前記シート材を複数設け、
複数の前記シート材を積層させた
請求項2に記載の培養器具。
【請求項7】
生物又は細胞を培養する培養器具の製造方法であって、
合成樹脂材料、セルロース又はフッ素を含む基材を形成する形成工程と、
前記基材の表面の少なくとも一部を、低温プラズマ処理を施すことによって、生物又は細胞を培養可能な培地が直に接する培養面とするプラズマ処理工程とを有し、
前記プラズマ処理では、その接触角が42度以下になるように前記培養面に低温プラズマ処理を施す
ことを特徴とする培養器具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物又は細胞を培養する培養器具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材を備え、該基材の表面の少なくとも一部を、生物又は細胞が培養可能な培地が直に接する培養面とした培養器具が従来公知である。このような培養器具では、生物又は細胞の培養に適した培養面を形成することが重要であり、このような観点から、基材の表面に低温プラズマ処理を施し、培地と培養面との密着性の向上を試みた培養器具又はその製造方法が公知になっている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1の培養器具及びその製造方法によれば、培養面を、低温プラズマ処理によって、生物又は細胞の培養に適した状態に変えることが物理的には可能になる。
【0004】
しかし、その一方で、特許文献1の培養器具及びその製造方法は、培養面の状態をどの程度変更すれば、生物又は細胞を培養するうえで好適な状態になるのかが具体的に明らかではなく、課題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、培地が直に接する培養面を、低温プラズマ処理によって、生物又は細胞を培養するうえで好適な状態とすることが容易な培養器具及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の培養器具は、生物又は細胞を培養する培養器具であって、基材を備え、前記基材は、合成樹脂材料、セルロース又はフッ素を含み、前記基材の表面の少なくとも一部を、低温プラズマ処理が施すことによって、生物又は細胞を培養可能な培地が直に接する培養面とし、前記培養面の接触角を42度以下としたことを特徴とする。
【0008】
前記基材は、その両面又は片面が培養面となるシート材であるものとしてもよい。
【0009】
前記シート材は、屈曲又は湾曲するように曲げ形成されてなるものとしてもよい。
【0010】
前記シート材は、波状に曲げ成形されたものとしてもよい。
【0011】
前記シート材は、筒状に曲げ成形されたものとしてもよい。
【0012】
前記シート材を複数設け、複数の前記シート材を積層させたものとしてもよい。
【0013】
一方、本発明の培養器具の製造方法は、生物又は細胞を培養する培養器具の製造方法であって、合成樹脂材料、セルロース又はフッ素を含む基材を形成する形成工程と、前記基材の表面の少なくとも一部を、低温プラズマ処理を施すことによって、生物又は細胞を培養可能な培地が直に接する培養面とするプラズマ処理工程とを有し、前記プラズマ処理では、その接触角が42度以下になるように前記培養面に低温プラズマ処理を施すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
培地が直に接する培養面に対して、その接触角が42度以下になるように低温プラズマ処理を施すことによって、生物又は細胞を培養するうえで好適な状態とする作業を容易に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の培養器具を適用した培養シートの構成を示す平面図である。
【
図2】本発明の培養器具を適用した培養シートの構成を示す正断面図である。
【
図4】プラズマ処理装置の構成を簡略的に説明する説明図である。
【
図5】別実施形態に係る培養シートの正断面図である。
【
図6】別実施形態に係る培養シートの正断面図である。
【
図7】(A),(B)は別実施形態に係る培養シートの平面図及び正面図である。
【
図8】別実施形態に係る培養シートの平断面図である。
【
図9】無血清培地で培養した5個のサンプルの3日経過後の写真である。
【
図10】血清培地で培養した5個のサンプルの3日経過後の写真である。
【
図11】「Sumibe´´」及び「Bacteria´´」のサンプルの4日経過後の写真である。
【
図12】「BSP-T1」、「BSP-T2」、「BSP-T3」、「BSP-T4」、「BSP-T5」、「BSP-T6」及び「BSP-T7」のサンプルの4日経過後の写真である。
【
図13】「BSP-J1」、「BSP-J2」、「BSP-J3」、「BSP-J4」、「BSP-J6」及び「BSP-T7」のサンプルの4日経過後の写真である。
【
図14】「BSP-S1」、「BSP-S2」、「BSP-S3」、「BSP-S4」、「BSP-S6」及び「BSP-S7」のサンプルの4日経過後の写真である。
【
図15】「Thermo」及び「Bacteria´´´」のサンプルの4日経過後の写真である。
【
図16】「BSP-T1´」、「BSP-T2´」、「BSP-T3´」、「BSP-T4´」、「BSP-T5´」、「BSP-T6´」及び「BSP-T7´」のサンプルの4日経過後の写真である。
【
図17】「BSP-J1´」、「BSP-J2´」、「BSP-J3´」、「BSP-J4´」、「BSP-J6´」及び「BSP-T7´」のサンプルの4日経過後の写真である。
【
図18】「BSP-S1´」、「BSP-S2´」、「BSP-S3´」、「BSP-S4´」、「BSP-S6´」及び「BSP-S7´」のサンプルの4日経過後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1,
図2は本発明の培養器具を適用した培養シートの構成を示す平面図及び正断面図であり、
図3は
図1,
図2に示す培養シートの要部拡大図である。図示する培養シート1は、生物(具体的には微生物)又は細胞を培養する培養器具の一種である。培養シート1は、本例では、フレキシブルに変更なフィルム状の基材2のみから構成されている。基材2は、好ましくは多孔質のフィルムから構成され、その材料として、例えば、セルロースを用いる。なお、基材2の材料としては、その他、合成樹脂やフッ素を含む材料を用いることも可能である。
【0017】
図示する例では、培養シート1は、シャーレ3等の容器に貯留された液体培地(培地)4に浸漬され、その片面又は両面(
図2に示す例では、片面)には、該培地が接して生物又は細胞が培養される培養面2aが形成されている。言い換えると、培養シート1(基材2)の培地4と接する面が培養面2aになる。この培地4としては、本例のような液体培地の他、固体培地を用いてもよい。
【0018】
ところで、培養面2aは、培地を用いた生物又は細胞の培養が可能の培地や、生物又は細胞自体に対して、好適に状態とする必要がある。このため、後述するプラズマ処理装置50(
図4参照)を用い、培養面2aに対して、低温プラズマ処理を施し、その特性を変更する処理を行う。
【0019】
すなわち、培養シート1の製造方法は、合成樹脂材料、セルロース又はフッ素を含む材料から基材2を形成する形成工程と、該形成工程によって形成された基材2の表面の少なくとも一部に低温プラズマ処理を施して培養面2aを形成するプラズマ処理工程とを有している。
【0020】
なお、プラズマ処理工程では、培養面2aの親水性を高めて培地との密着性を向上させることを目的とし且つその接触角が10~42度以下になるように、低温プラズマ処理を施す。なお、最も好ましくは、その接触角が30度になるように、培養面2aに対して低温プラズマ処理を施す。
【0021】
図4は、プラズマ処理装置の構成を簡略的に説明する説明図である。プラズマ処理装置50は、チャンバー51と、該チャンバー51に各別に接続された排気管52及び供給管53と、排気管52に接続され且つチャンバー51内の気体をその外部に排出する減圧ポンプ54と、チャンバー51内に配置された一対の電極55,56と、一対の電極55,56間に電圧を印加する電源57と、を備えている。
【0022】
減圧ポンプ54による気体の外部への排出によって、大気圧よりも低い気圧に保持された雰囲気(低圧雰囲気)をチャンバー51内に形成することが可能になる。さらには、減圧ポンプ54による真空引きによってチャンバー51内に真空雰囲気又は減圧雰囲気を形成することができる。すなわち、チャンバー51は真空チャンバーとして機能させることが可能であるとともに、減圧ポンプ54は真空ポンプとして機能させることが可能である。
【0023】
チャンバー51内には、供給管53を介して、処理ガスが導入される。この処理ガスによって、プラズマ処理に適した処理ガスで満たされた減圧雰囲気を、チャンバー51内に形成することが可能になる。言い換えると、チャンバー51と、処理ガスが充填されたボンベ等の容器とは供給管53を介して接続されている。
【0024】
ちなみに、排気管52及び供給管53の夫々には、その流路を開閉して気体の流動の有無の切換を行う開閉弁58,59が設けられている。これらの開閉弁58,59を閉状態に切り換えることによって、チャンバー51内を真空状態または所定の気体(ガス)が導入された状態で密閉させることが可能になる。
【0025】
電源57は高周波電源である。この電源の出力は1kW~20kWであり、その実行電圧は50V~100kV(好ましくは100V~6kV、さらに好ましくは200V~5kV)である。電圧や周波数が適宜調整できる電源57を用いてもよい。一対の電極55,56の一方は電気的に接地されたアース電極55であり、他方は電源57によって電圧が印加される印加電極56である。勿論、印加電極56は、アース電極55に対してマイナスの電圧になる場合もある。図示する例では、水平なアース電極55上に、プラズマ処理の対象となる基材2が、その培養面2aを上に向けた状態で設置されている。
【0026】
該構成のプラズマ処理装置50によって上述したプラズマ処理工程を実行する。プラズマ処理工程の詳細について説明すると、まず、チャンバー51内に基材2を導入して設置する。そして、排気管52側の開閉弁58を開状態に切り換えるとともに供給管53側の開閉弁59を閉状態に切り換えた状態で、減圧ポンプ54によりチャンバー51内に低圧雰囲気(さらに具体的には真空雰囲気)を形成する。
【0027】
続いて、排気管52側の開閉弁58を閉状態に切り換えるとともに、供給管53側の開閉弁59を開状態に切り換え、チャンバー51内の気圧を、5~150Paの範囲に保って前記低圧雰囲気を保持させながら、該チャンバー51内にアルゴン(Ar)ガス、空気、酸素(O2)又はこれらの混合ガス混合ガス等の処理ガスを導入する。特に、酸素を含むガスを用いるのが好ましい。圧力測定等によって所定量の処理ガスがチャンバー51内の導入されたことが確認されると、2つの開閉弁58,59の夫々を閉状態とし、チャンバー51内を密閉する。
【0028】
続いて、電源57によって、上述した状態の交流電圧を、一対の電極55,56の間に印加し、チャンバー51内に低温プラズマを生じさせ、基材2の培養面2aにプラズマ処理を施す。プラズマ処理を継続させる時間は、プラズマ処理する培養面2aの面積や電源57の出力や電圧や周波数によって異なるが、例えば、E値を50~10000W・min/m2の範囲で調整する。E値とは、単位時間あたりの単位面積あたりの電力量である。その他、培養面2aの状態を示唆する物理量である接触角を何らかの手段によって検出し、この物理量からプラズマ処理の進捗の程度を認識してもよい。
【0029】
なお、プラズマ処理によって、種々の効果が期待できるが、培養面2aへの官能基の表出(形成)もその1つである。
【0030】
ちなみに、表出する官能基としては、主に、水酸基、カルボキシル基等が考えられる。そして、官能基を高密度で表出させるには、プラズマ処理を継続する時間をできるだけ長く設定する必要がある。具体的には、上述したE値を増加させる。
【0031】
ところが、これらの官能基を表出させる目的で、培養面2aにプラズマ処理を施した場合、この培養面2aに対するエッチング処理も意図せずに施されることになる。このエッチングによって、培養面2aに凹凸が形成される。この凹凸が所定以上に大きい場合、不測の不具合が生じる可能性もある。ちなみに、凹凸の大きさ等の物理量は、培養面2aの面粗度を知ることによって客観的に把握可能である。
【0032】
以上の要素を加味し、エッチング処理の進捗度合いを最小限に抑制しつつ、官能基の表出が最大限進むように、培養面2aに対してプラズマ処理を施すことも可能であり、具体的には、一対の電極55,56の間に印加する電圧の値を上述した低い範囲に設定しつつ、その面粗度が予め定めた所定値以下になるように、プラズマ処理を行う際の前記E値を上述した範囲に設定する。
【0033】
以上のように構成される培養器具及びその製造方法によれば、培地を用いた細胞又は生物の培養に最適な培養面を得ることが容易になり、しかも、培養面2aを低温プラズマ処理によって状態変化させればよいため、基材2自体の形状は自由に選択可能である。例えば、図示する例では、培養シート1が垂直な方向を視て八角形状に成形されているが、これを方形状、円状又はその他の多角形状に成形してもよく、さらには、立体的な形状を有する培養器具1を用いてもよい。
【0034】
また、上述のような低温プラズマ処理を行った培養面2aは、その効果が通常の低温プラズマ処理よりも持続し、継続的な効果が期待できる。
【0035】
なお、培養シート1をシャーレ3とは別に設けることは必須ではなく、シャーレ3の底面3aに対して、低温プラズマ処理を行い、該底面3aを培養面としてもよい。
【0036】
次に、
図5に基づき、本発明の別実施形態に関して上述の実施形態と異なる部分を説明する。
【0037】
図5は別実施形態に係る培養シートの正断面図である。上述した実施形態では、培養シート1の片面のみを培養面2aとしたが、本実施形態では、スペーサ6によって培養シート1と、シャーレ3との間に隙間を設け、両面を培養面2a,2bとして機能させている。この場合、培養シート1の両面の全体に低温プラズマ処理を施す必要がある。
【0038】
ちなみに、多孔質のフィルムから構成された培養シート1の両面に低温プラズマ処理を施した場合、その表裏の培養面2a,2bの一方に付着した細胞を、他方に付着した細胞と繋げることも可能になる。
【0039】
次に、
図6に基づき、本発明の別実施形態に関して上述の実施形態と異なる部分を説明する。
【0040】
図6は別実施形態に係る培養シートの正断面図である。複数のシート状の基材2を複数設け、それを厚み方向に積層させてもよい。この場合、シート状の基材2同士の間には、スペース6を介在させ、各基材2の両面を培養面2a,2bとして機能させる。
【0041】
次に、
図7に基づき、本発明の別実施形態に関して上述の実施形態と異なる部分を説明する。
【0042】
図7(A),(B)は別実施形態に係る培養シートの平面図及び正面図である。培養シート1は、その長手方向に波状をなすように曲げ形成(図示する例では屈曲形成)してもよく、さらに、その長手方向の端部同士を連結して固定し、全体を筒状に変形させてもよい。そして、筒状に曲げ変形された培養シート1は、その軸方向を上下方向に向けた姿勢で、液体培地4で満たされた有底筒状の容器7内に浸漬される。
【0043】
この際、培養シート1の筒形状の内周面側の面と、外周面側の面との夫々が液体培地4と直に接する培養面2a,2bを構成する。上述した形態では、培養面2a,2bは水平面であったが、本実施形態では、上述の構成によって、培養面2a,2bが水平でない方向に向けられている。本実施形態のような構成でも、培養面2a,2bに生物や細胞を安定的に定着させることは容易である。
【0044】
次に、
図8に基づき、本発明の別実施形態に関して上述の実施形態と異なる部分を説明する。
【0045】
図8は別実施形態に係る培養シートの平断面図である。上述した実施形態では培養シート1を一巻きして全体を筒状に成形したが、本実施形態では、培養シート1を複数巻きにすることによって、全体を筒状に変形させてもよい。この際、培養シート1の重な合う部分同士の間にスペーサ6を介在させることによって、その間に液体培地が導入される隙間が形成され、培養面2a,2bの有効面積が広くなる。
【0046】
次に、
図1乃至
図3に示す培養シート1の性能を確認するために行った一の実験の結果について説明する。
【0047】
培養シート(基材)1として、PETフィルム(具体的には、厚みが50μmのルミラーフィルムT60)に低温プラズマ処理を施したものを用いた。具体的には、その接触角が10度になるように低温プラズマ処理を施した培養シート1と、その接触角が22.5度になるように低温プラズマ処理を施した培養シート1と、その接触角が45度になるように低温プラズマ処理を施した培養シート1とを用いた。
【0048】
シャーレ3としては、100mmの径を有するアズワンのアズノール滅菌シャーレを用いた。培地4としては、市販の無血清培地を用いた。1cm2当たり5000個の量のヒト間葉系幹細胞(hMSCs)を、その底面に培養シート1が敷かれたシャーレ3の内周面側の空間に導入して培養した。
【0049】
接触角が10度の培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「Film 10」)と、接触角が22.5度の培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「Film 22.5」)と、接触角が45度の培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「Film 45」)との夫々について、時間経過に伴う細胞の増減を観察した。
【0050】
また、比較対象として、上述したものと同一のシャーレ3の底面に、直に(培養シート1を敷かずに)上記無血清培地を導入し、そこに上記細胞を同一の割合で導入して培養したサンプル(以下、「Bacteria」)も用意し、時間経過に伴う細胞の増減を観察した。ちなみに、上述のアズワンのアズノール滅菌シャーレである前記シャーレ3は、細菌(具体的には、バクテリア)用の培養皿であり、その表面は親水化されていないため、それを表面処理せずにそのまま用いたサンプルは、ネガコンを意図したものになる。
【0051】
さらに、別の比較対象として、100mmmの径を有する住友ベークライト社製のシャーレの底面に、直に(培養シート1を敷かずに)無血清培地を導入し、そこに上記細胞を同一の割合で導入して培養したサンプル(以下、「Sumibe」)も用意し、時間経過に伴う細胞の増減を観察した。ちなみに、この住友ベークライト社製のシャーレは、市販の細胞培養用皿であり、細胞が定着(接着)するようにPS製容器に独自の表面処理が施されて親水化されているため、これをそのまま用いたサンプルは、ポジコンのサンプルを意図したものになる。さらに、同種のシャーレを用いた後述のサンプルもポジコンを意図したサンプルになる。
【0052】
図9は、無血清培地で培養した5個のサンプルの3日経過後の写真である。また、初期から比較した3日後の細胞の増減に関する具体的な数字は以下の表に示す通りである。
【0053】
【0054】
「Bacteria」のサンプルでは、細胞の定着が確認されなかった。一方、「Film 10」、「Film 22.5」及び「Film 45」の3個のサンプルと、「Sumibe」のサンプルとにおいては細胞の定着が確認できた。特に、「Film 22.5」のサンプルが良好な結果になった。
【0055】
また、これらの結果によれば、その表面で直に細胞又は微生物を培養できないようなシャーレ3を用いた場合でも、培養シート1を敷設することによって、その培養が可能になることが確認された。
【0056】
次に、
図1乃至
図3に示す培養シート1の性能を確認するために行った他の一の実験の結果について説明する。
【0057】
培養シート(基材)1及びシャーレ3は、上述した実験と同様のものを用いた。培地は、一般的な有血清培地(具体的には、L-DMEM+10%FBS)を用いた。
【0058】
そして、低温プラズマ処理によって接触角が10度になった培養シート1を用いたサンプル(以下、「Film 10´」)と、接触角が22.5度になった培養シート1を用いたサンプル(以下、「Film 22.5´」)と、接触角が45度になった培養シート1を用いたサンプル(以下、「Film 45´」)との夫々について、時間経過に伴う細胞の増減を観察した。
【0059】
また、100mmの径を有するアズワンのアズノール滅菌シャーレの底面に、培養シート1を敷かず、直に上記血清培地を導入し、細胞を培養したサンプル(以下、「Bacteria´」)を比較例として用いた。
【0060】
さらに、100mmmの径を有する上述の住友ベークライト社製のシャーレの底面に、培養シート1を敷かず、直に上記血清培地を導入し、細胞を培養したサンプル(「Sumibe´」)を比較例として用いた。
【0061】
図10は、血清培地で培養した5個のサンプルの3日経過後の写真である。また、初期から比較した3日後の細胞の増減に関する具体的な数字は以下の表に示す通りである。
【0062】
【0063】
無血清培地の場合と同様、血清培地を用いて細胞を培養した場合でも、「Bacteria´」のサンプルでは、細胞の定着が確認されなかった。一方、「Film 10´」、「Film 22.5´」及び「Film 45´」の3個のサンプルと、「Sumibe´」のサンプルとにおいては細胞の定着が確認できた。特に、「Film 45´」のサンプルが良好な結果になった。
【0064】
次に、
図1乃至
図3に示す培養シート1の性能を確認するために行った他の一の実験の結果について説明する。
【0065】
シャーレ3としては、100mmの径を有するアズワンのアズノール滅菌シャーレを用いる。培地4としては、研究用の無血清培地を用いた。培養対象とした細胞は、1cm2あたり5000個の量のヒト間葉系幹細胞(hMSCs)を用いた。
【0066】
PETフィルム(具体的には、厚みが100μmのルミラーフィルムT60)に対し、適宜、従来公知の所定の種類の処理ガスを用い、その接触角を異ならせて複数の培養シート1(具体的には、その接触角が55度、42度、40度、30度、20度、15度、10度の7つの培養シート1)を用意した。
【0067】
そして、55度の接触角を有する培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「BSP-T1」)と、42度の接触角を有する培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「BSP-T2」)と、40度の接触角を有する培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「BSP-T3」)と、30度の接触角を有する培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「BSP-T4」)と、20度の接触角を有する培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「BSP-T5」)と、15度の接触角を有する培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「BSP-T6」)と、10度の接触角を有する培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「BSP-T7」)との夫々について、時間経過に伴う細胞の増減を観察した。
【0068】
PETフィルム(具体的には、厚みが100μmのルミラーフィルムT60)に対し、適宜、従来公知の所定の種類の処理ガスを用い、その接触角を異ならせて複数の培養シート1(具体的には、その接触角が50度、45度、30度、25度、15度、10度の6つの培養シート1)を用意した。
【0069】
そして、接触角が50度の培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「BSP-J1」)と、接触角が45度の培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「BSP-J2」)と、接触角が30度の培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「BSP-J3」)と、接触角が25度の培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「BSP-J4」)と、接触角が15度の培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「BSP-J6」)と、接触角が10度の培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「BSP-J7」)との夫々について、時間経過に伴う細胞の増減を観察した。
【0070】
PETフィルム(具体的には、厚みが100μmのルミラーフィルムT60)に対し、適宜、従来公知の所定の種類の処理ガスを用い、その接触角を異ならせて複数の培養シート1(具体的には、その接触角が55度、40度、30度、20度、15度、10度の6つの培養シート1)を用意した。
【0071】
そして、接触角が55度の培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「BSP-S1」)と、接触角が40度の培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「BSP-S2」)と、接触角が30度の培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「BSP-S3」)と、接触角が20度の培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「BSP-S4」)と、接触角が15度の培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「BSP-S6」)と、接触角が10度の培養シート1を用いて培養を行ったサンプル(以下、「BSP-S7」)との夫々について、時間経過に伴う細胞の増減を観察した。
【0072】
一方、比較対象として、上述したものと同一のシャーレ3の底面に、直に(培養シート1を敷かずに)上記無血清培地を導入し、そこに上記細胞を同一の割合で導入して培養したサンプル(以下、「Bacteria´´」)も用意し、時間経過に伴う細胞の増減を観察した。
【0073】
さらに、別の比較対象として、100mmmの径を有する上述の住友ベークライト社製のシャーレの底面に、直に(培養シート1を敷かずに)上記無血清培地を導入し、そこに上記細胞を同一の割合で導入して培養したサンプル(以下、「Sumibe´´」)も用意し、時間経過に伴う細胞の増減を観察した。
【0074】
これら9個のサンプルに関し、初期から比較した4日後の細胞の増減に関する具体的な数字は以下の表に示す通りである。また、
図11は「Sumibe´´」及び「Bacteria´´」のサンプルの4日経過後の写真であり、
図12は「BSP-T1」、「BSP-T2」、「BSP-T3」、「BSP-T4」、「BSP-T5」、「BSP-T6」及び「BSP-T7」のサンプルの4日経過後の写真であり、
図13は「BSP-J1」、「BSP-J2」、「BSP-J3」、「BSP-J4」、「BSP-J6」及び「BSP-T7」のサンプルの4日経過後の写真であり、
図14は「BSP-S1」、「BSP-S2」、「BSP-S3」、「BSP-S4」、「BSP-S6」及び「BSP-S7」のサンプルの4日経過後の写真である。
【0075】
【0076】
「Bacteria´´」のサンプルでは、上述した実験結果と同様、上記細胞の定着が確認できなかった。また、「BSP-T1」のサンプルと、「BSP-J1」のサンプルと、「BSP-J2」のサンプルと、「BSP-S1」とのサンプルとの4つについても上記細胞の定着が確認できなかった。これに対して、それ以外のサンプルについては、細胞の定着が確認された。さらに、
図11乃至
図14の写真によれば、本発明を適用し且つ細胞の定着が確認できたサンプルでは、
図9及び
図10に写真と比較して細胞がより均一に培養され、その斑が解消されていた。
【0077】
次に、
図1乃至
図3に示す培養シート1の性能を確認するために行った他の一の実験の結果について説明する。
【0078】
シャーレ3としては、100mmの径を有するアズワンのアズノール滅菌シャーレを用いる。培地4としては、有血清培地(具体的には、H-DMEM+10%FBS)を用いた。培養対象とした細胞は、1cm2あたり15000個の量のラット骨格筋筋芽細胞(L6)を用いた。
【0079】
「BSP-T1」のサンプルと同一の培養シート1を用いた上記細胞の培養を行ったサンプル(以下、「BSP-T1´」)と、「BSP-T2」のサンプルと同一の培養シート1を用いた上記細胞の培養を行ったサンプル(以下、「BSP-T2´」)と、「BSP-T3」のサンプルと同一の培養シート1を用いた上記細胞の培養を行ったサンプル(以下、「BSP-T3´」)と、「BSP-T4」のサンプルと同一の培養シート1を用いた上記細胞の培養を行ったサンプル(以下、「BSP-T4´」)と、「BSP-T5」のサンプルと同一の培養シート1を用いた上記細胞の培養を行ったサンプル(以下、「BSP-T5´」)と、「BSP-T6」のサンプルと同一の培養シート1を用いた上記細胞の培養を行ったサンプル(以下、「BSP-T6´」)と、「BSP-T7」のサンプルと同一の培養シート1を用いた上記細胞の培養を行ったサンプル(以下、「BSP-T7´」)と、「BSP-J1」のサンプルと同一の培養シート1を用いた上記細胞の培養を行ったサンプル(以下、「BSP-J1´」)と、「BSP-J2」のサンプルと同一の培養シート1を用いた上記細胞の培養を行ったサンプル(以下、「BSP-J2´」)と、「BSP-J3」のサンプルと同一の培養シート1を用いた上記細胞の培養を行ったサンプル(以下、「BSP-J3´」)と、「BSP-J4」のサンプルと同一の培養シート1を用いた上記細胞の培養を行ったサンプル(以下、「BSP-J4´」)と、「BSP-J6」のサンプルと同一の培養シート1を用いた上記細胞の培養を行ったサンプル(以下、「BSP-J6´」)と、「BSP-J7」のサンプルと同一の培養シート1を用いた上記細胞の培養を行ったサンプル(以下、「BSP-J7´」)と、「BSP-S1」のサンプルと同一の培養シート1を用いた上記細胞の培養を行ったサンプル(以下、「BSP-S1´」)と、「BSP-S2」のサンプルと同一の培養シート1を用いた上記細胞の培養を行ったサンプル(以下、「BSP-S2´」)と、「BSP-S3」のサンプルと同一の培養シート1を用いた上記細胞の培養を行ったサンプル(以下、「BSP-S3´」)と、「BSP-S4」のサンプルと同一の培養シート1を用いた上記細胞の培養を行ったサンプル(以下、「BSP-S4´」)と、「BSP-S6」のサンプルと同一の培養シート1を用いた上記細胞の培養を行ったサンプル(以下、「BSP-S6´」)と、「BSP-S7」のサンプルと同一の培養シート1を用いた上記細胞の培養を行ったサンプル(以下、「BSP-S7´」)との夫々について、時間経過に伴う細胞の増減を観察した。
【0080】
また、比較対象として、上述したものと同一のシャーレ3の底面に、直に(培養シート1を敷かずに)上記無血清培地を導入し、そこに上記細胞を同一の割合で導入して培養したサンプル(以下、「Bacteria´´´」)も用意し、時間経過に伴う細胞の増減を観察した。
【0081】
さらに、別の比較対象として、100mmの径を有する「Thermo Scientific」社のシャーレの底面に、直に(培養シート1を敷かずに)上記無血清培地を導入し、そこに上記細胞を同一の割合で導入して培養したサンプル(以下、「Thermo」)も用意し、時間経過に伴う細胞の増減を観察した。ちなみに、「Thermo」のサンプルも、「Sumibe」等の上述した住友ベークライト社製のシャーレを用いたサンプルと同様、ポジコンのサンプルを意図している。
【0082】
これら22個のサンプルに関し、初期から比較した4日後の細胞の増減に関する具体的な数字は以下の表に示す通りである。また、
図15は「Thermo」及び「Bacteria´´´」のサンプルの4日経過後の写真であり、
図16は「BSP-T1´」、「BSP-T2´」、「BSP-T3´」、「BSP-T4´」、「BSP-T5´」、「BSP-T6´」及び「BSP-T7´」のサンプルの4日経過後の写真であり、
図17は「BSP-J1´」、「BSP-J2´」、「BSP-J3´」、「BSP-J4´」、「BSP-J6´」及び「BSP-T7´」のサンプルの4日経過後の写真であり、
図18は「BSP-S1´」、「BSP-S2´」、「BSP-S3´」、「BSP-S4´」、「BSP-S6´」及び「BSP-S7´」のサンプルの4日経過後の写真である。
【0083】
【0084】
全てのサンプルについては細胞の定着が確認された。ちなみに、
図15乃至
図18の写真によれば、本発明を適用し且つ細胞の定着が確認できたサンプルでは、
図9及び
図10に示す写真と比較して細胞がより均一に培養され、その斑が解消されていることが確認できた。また、「Bacteria´´´」のサンプルでは、細胞塊もその数に含まれ、数字よりも悪い状態であった。
【符号の説明】
【0085】
1 培養シート(培養器具)
2 基材
2a 培養面
2b 培養面
3 シャーレ
3a 培養面(底面)
4 液体培地(培地)
6 スペーサ
7 容器