(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158468
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】発色構造体
(51)【国際特許分類】
G02B 5/26 20060101AFI20231023BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
G02B5/26
G02B5/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068331
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉村 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】川下 雅史
【テーマコード(参考)】
2H148
【Fターム(参考)】
2H148FA05
2H148FA15
2H148FA24
2H148GA07
2H148GA09
2H148GA12
2H148GA32
(57)【要約】
【課題】少ない積層数で明瞭な発色を得ることができる発色構造体を提供する。
【解決手段】発色構造体10は、3以上の薄膜層を含む多層膜層30であって、干渉によって強められた反射光を射出する多層膜層30を備える。多層膜層30は、誘電体からなる薄膜層である誘電体層31と、金属からなる薄膜層である金属層32とを含み、金属層32と誘電体層31とが交互に積層された構造を有する。金属層32は、可視領域の光の反射性および透過性を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3以上の薄膜層を含む多層膜層であって、干渉によって強められた反射光を射出する前記多層膜層を備え、
前記多層膜層は、誘電体からなる前記薄膜層である誘電体層と、金属からなる前記薄膜層である金属層とを含み、前記金属層と前記誘電体層とが交互に積層された構造を有し、
前記金属層は、可視領域の光の反射性および透過性を有する
発色構造体。
【請求項2】
前記金属層は、可視領域の光の吸収性を有する
請求項1に記載の発色構造体。
【請求項3】
前記金属層の厚さは、5nm以上40nm以下である
請求項1に記載の発色構造体。
【請求項4】
前記多層膜層は、1以上の前記金属層を含み、
各金属層は、単一の金属薄膜である
請求項1~3のいずれか一項に記載の発色構造体。
【請求項5】
前記多層膜層は、1以上の前記金属層を含み、
少なくとも1つの前記金属層は、互いに異なる金属からなる複数の金属薄膜の積層体である
請求項1~3のいずれか一項に記載の発色構造体。
【請求項6】
前記多層膜層は、2以上の前記金属層を含み、
前記多層膜層のなかで、前記発色構造体における光が入射する表面である入射面に最も近い前記金属層のみが、前記複数の金属薄膜の積層体であり、他の前記金属層は、単一の金属薄膜である
請求項5に記載の発色構造体。
【請求項7】
前記誘電体層の厚さは、10nm以上300nm以下である
請求項1に記載の発色構造体。
【請求項8】
可視領域における前記誘電体層の屈折率は、1.5以上3.0以下である
請求項1に記載の発色構造体。
【請求項9】
前記多層膜層は、2以上の前記誘電体層を含み、
前記多層膜層のなかで、前記発色構造体における光が入射する表面である入射面に最も近い薄膜層は、前記誘電体層である
請求項1,7,8のいずれか一項に記載の発色構造体。
【請求項10】
前記入射面に最も近い前記誘電体層は、他の前記誘電体層よりも薄い
請求項9に記載の発色構造体。
【請求項11】
前記多層膜層は、2つの前記金属層と2つの前記誘電体層とを含む4つの前記薄膜層からなる
請求項1に記載の発色構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造色を呈する発色構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
構造色は、光の回折や干渉や散乱といった、物体の微細な構造に起因した光学現象の作用によって視認される色である。光の干渉による構造色を呈する構造体の一例が、多層膜層を備える発色構造体である。多層膜層は、高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層された構造を有する。高屈折率層および低屈折率層の各々は、例えば無機酸化物等の誘電体からなる薄膜である。高屈折率層と低屈折率層との界面の各々で光が反射し、その反射した光が干渉することによって、特定の波長域の光が強められる。
【0003】
多層膜層にて干渉により強められた反射光の射出角度は、入射光の角度に依存して決まる。そのため、平面に多層膜層を積層した発色構造体では、1つの角度からの入射光に対して上記反射光を視認可能な観察角度が狭くなる(例えば、特許文献1参照)。一方、微細な凹凸構造上に多層膜層を積層した発色構造体では、干渉によって強められた反射光が凹凸によって多方向に広がって射出されるため、上記反射光を視認可能な観察角度が広くなる(例えば、特許文献2参照)。こうした観察角度の範囲は、発色構造体の用途に応じて選択される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-229997号公報
【特許文献2】特開2005-153192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多層膜層を備える発色構造体において鮮やかな発色を得るためには、高屈折率層および低屈折率層の積層数を増やす必要がある。これにより、干渉によって強められる特定の波長域の反射光の強度が高められ、また、上記特定の波長域以外の光が干渉によって弱められてその反射が抑制される。一般に、特定の色の明瞭な発色を得るには、10層以上の誘電体薄膜の積層が必要である。
【0006】
こうした多層膜層の製造工程では、互いに異なる材料からなる高屈折率層と低屈折率層とを、精密な膜厚で交互に積層することが求められる。各層の膜厚の誤差が積み重なると、所望の発色が得られ難くなるため、歩留まりの低下が懸念される。それゆえ、誘電体薄膜の積層数が増えるほど、発色構造体の製造に要する負荷が大きくなる。
【0007】
また、多層膜層が厚いほど、入射光および反射光の角度の違いによって生じる光路差が大きくなる。観察角度が変われば、観察可能な反射光の角度およびそれに対応する入射光の角度が変わることから、結果的には、多層膜層が厚いほど、干渉により強められる波長域が観察角度によって変わりやすくなる。そのため、複数の角度から観察される物品等に発色構造体が用いられる場合に、視認される色が安定し難くなる。
したがって、少ない積層数で明瞭な発色の得られる構造が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための発色構造体は、3以上の薄膜層を含む多層膜層であって、干渉によって強められた反射光を射出する前記多層膜層を備え、前記多層膜層は、誘電体からなる前記薄膜層である誘電体層と、金属からなる前記薄膜層である金属層とを含み、前記金属層と前記誘電体層とが交互に積層された構造を有し、前記金属層は、可視領域の光の反射性および透過性を有する。
【0009】
上記構成によれば、金属層が光の透過性を有することから、多層膜層が有する各界面で反射した光が干渉を起こして、強められた特定の波長域の光が、発色構造体から射出される。そして、金属層が光の反射性を有していることにより、多層膜層が誘電体薄膜のみの積層体である場合と比較して、多層膜層からの反射光の強度が高められる。一方で、金属層が光の透過性を有さず可視領域の広い範囲で高い反射性を有する場合と比較して、干渉により強められた特定の波長域以外の光の反射が強くなることを抑えられる。
【0010】
したがって、少ない積層数で、上記特定の波長域に対応する色の明瞭な発色が得られる。その結果、発色構造体の製造に要する負担の軽減が可能である。また、多層膜層の厚さを小さくできるため、干渉によって強められる波長域が観察角度によって変化することを抑えることが可能であり、発色構造体に視認される色が安定しやすくなる。
【0011】
上記構成において、前記金属層は、可視領域の光の吸収性を有してもよい。
上記構成によれば、金属層が光の吸収性を有しているため、上記特定の波長域以外の光が発色構造体からの反射光に含まれることを抑えることができる。そのため、より明瞭な発色が得られる。
【0012】
上記構成において、前記金属層の厚さは、5nm以上40nm以下であってもよい。
上記構成によれば、金属層における光の透過性が好適に得られる。
【0013】
上記構成において、前記多層膜層は、1以上の前記金属層を含み、各金属層は、単一の金属薄膜であってもよい。
上記構成によれば、金属層が複数の金属薄膜の積層体である場合と比較して、薄膜の積層数を削減して発色構造体の製造に要する負担を軽減することが可能である。
【0014】
上記構成において、前記多層膜層は、1以上の前記金属層を含み、少なくとも1つの前記金属層は、互いに異なる金属からなる複数の金属薄膜の積層体であってもよい。
【0015】
上記構成によれば、複数の金属薄膜にて吸収する光の波長域が異なることから、金属層が単一の金属薄膜からなる場合と比較して、金属層にてより広い波長域の光の吸収が可能である。したがって、多層膜層において、上記特定の波長域以外の光がより広い波長域で吸収されるため、反射光のスペクトルにおけるピーク幅や半値幅を狭くすることができる。それゆえ、より単色性の高い発色が得られる。
【0016】
上記構成において、前記多層膜層は、2以上の前記金属層を含み、前記多層膜層のなかで、前記発色構造体における光が入射する表面である入射面に最も近い前記金属層のみが、前記複数の金属薄膜の積層体であり、他の前記金属層は、単一の金属薄膜であってもよい。
【0017】
上記構成によれば、光の吸収が主として生じる金属層が複数の金属薄膜から構成されるため、広い波長域の光の吸収が的確に可能である。したがって、多層膜層における薄膜の積層数の増加を抑えつつ、単色性の高い発色が得られる。
【0018】
上記構成において、前記誘電体層の厚さは、10nm以上300nm以下であってもよい。
上記構成によれば、誘電体層の膜厚が小さく抑えられているため、干渉によって強められる波長域の制御が困難となることや、応力による発色構造体の反りや誘電体薄膜の剥がれが生じることといった、誘電体層の膜厚の増大に起因する問題の発生が抑えられる。
【0019】
上記構成において、可視領域における前記誘電体層の屈折率は、1.5以上3.0以下であってもよい。
上記構成によれば、誘電体層の屈折率が高いため、多層膜層での光の干渉が強められて、高い強度の反射光が得られやすい。
【0020】
上記構成において、前記多層膜層は、2以上の前記誘電体層を含み、前記多層膜層のなかで、前記発色構造体における光が入射する表面である入射面に最も近い薄膜層は、前記誘電体層であってもよい。
【0021】
上記構成によれば、上記特定の波長域以外の光が干渉によって弱められやすくなる。したがって、上記特定の波長域以外の光が発色構造体からの反射光に含まれることを抑えることができるため、より明瞭な発色が得られる。
【0022】
上記構成において、前記入射面に最も近い前記誘電体層は、他の前記誘電体層よりも薄くてもよい。
上記構成によれば、反射光のスペクトルにおけるピーク幅を狭めることが可能であり、すなわち、反射光の単色性を高めることができる。
【0023】
上記構成において、前記多層膜層は、2つの前記金属層と2つの前記誘電体層とを含む4つの前記薄膜層からなってもよい。
上記構成によれば、少ない積層数で明瞭な発色を的確に得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、発色構造体において、少ない積層数で明瞭な発色を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第1実施形態の発色構造体の断面構造の一例を示す図。
【
図2】第1実施形態の発色構造体の断面構造の一例を示す図。
【
図3】第1実施形態の発色構造体の断面構造の一例を示す図。
【
図4】第1実施形態の発色構造体の断面構造の一例を示す図。
【
図5】試験例1A~1Eについての反射スペクトルを示す図。
【
図6】試験例2Aについての反射スペクトルを示す図。
【
図7】試験例3Aに入射した光の挙動についての電磁界シミュレーションによる解析結果を示す図であって、(a)は入射光の波長が500nmである場合を示し、(a)は入射光の波長が780nmである場合を示す。
【
図8】試験例3Bに入射した光の挙動についての電磁界シミュレーションによる解析結果を示す図であって、(a)は入射光の波長が500nmである場合を示し、(a)は入射光の波長が780nmである場合を示す。
【
図9】試験例3Cに入射した光の挙動についての電磁界シミュレーションによる解析結果を示す図であって、(a)は入射光の波長が500nmである場合を示し、(a)は入射光の波長が780nmである場合を示す。
【
図10】試験例3Dに入射した光の挙動についての電磁界シミュレーションによる解析結果を示す図であって、(a)は入射光の波長が500nmである場合を示し、(a)は入射光の波長が780nmである場合を示す。
【
図11】試験例3A~3Dに対する500nmの波長の光の反射と透過と吸収との割合を示す図。
【
図12】試験例3A~3Dに対する780nmの波長の光の反射と透過と吸収との割合を示す図。
【
図13】試験例4Aについての反射、透過、および、吸収のスペクトルを示す図。
【
図14】試験例4Bについての反射、透過、および、吸収のスペクトルを示す図。
【
図15】試験例4A,4Bに対する500nmの波長の光の反射と透過と吸収との割合を示す図。
【
図16】試験例4A,4Bに対する780nmの波長の光の反射と透過と吸収との割合を示す図。
【
図17】試験例5Aについて観察角度を変化させたときの反射スペクトルを示す図。
【
図18】試験例6Aについて観察角度を変化させたときの反射スペクトルを示す図。
【
図19】試験例6Aに0°で入射した光の挙動についての電磁界シミュレーションによる解析結果を示す図であって、(a)は入射光の波長が500nmである場合を示し、(a)は入射光の波長が780nmである場合を示す。
【
図20】試験例6Aに30°で入射した光の挙動についての電磁界シミュレーションによる解析結果を示す図であって、(a)は入射光の波長が500nmである場合を示し、(a)は入射光の波長が780nmである場合を示す。
【
図21】第2実施形態の発色構造体の断面構造の一例を示す図。
【
図22】試験例7A~7Eについての反射スペクトルを示す図。
【
図23】試験例7A~7Eの反射光の色をxy色度図で示す図。
【
図24】試験例8Aについての反射スペクトルを示す図。
【
図25】試験例8Aの反射光の色をxy色度図で示す図。
【
図26】試験例9Aについての反射、透過、および、吸収のスペクトルを示す図。
【
図27】試験例9Bについての反射、透過、および、吸収のスペクトルを示す図。
【
図28】試験例9Cについての反射、透過、および、吸収のスペクトルを示す図。
【
図29】試験例9A~9Cの反射光の色をxy色度図で示す図。
【
図30】試験例9A~9Cに対する525nmの波長の光の反射と透過と吸収との割合を示す図。
【
図31】試験例9A~9Cに対する580nmの波長の光の反射と透過と吸収との割合を示す図。
【
図32】試験例9A~9Cに対する600nmの波長の光の反射と透過と吸収との割合を示す図。
【
図33】試験例9A~9Cに対する780nmの波長の光の反射と透過と吸収との割合を示す図。
【
図34】試験例10Aについて観察角度を変化させたときの反射スペクトルを示す図。
【
図35】試験例10Aの反射光の色をxy色度図で示す図。
【
図36】試験例11Aについて観察角度を変化させたときの反射スペクトルを示す図。
【
図37】試験例11Aの反射光の色をxy色度図で示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第1実施形態)
図1~
図20を参照して、発色構造体の第1実施形態を説明する。発色構造体が対象とする入射光および反射光は、可視領域の光である。以下の説明において、可視領域の光とは、360nm以上830nm以下の波長域の光を指す。
【0027】
[発色構造体の構造]
図1が示すように、発色構造体10は、支持層20と多層膜層30とを備えている。多層膜層30は、誘電体層31と金属層32とを含む複数の薄膜層を備えている。誘電体層31と金属層32とは、交互に積層されている。
【0028】
支持層20は、多層膜層30を支持している。支持層20は、可視領域全体の光を透過する、すなわち、可視領域の光に対して透明である。
支持層20は、例えば、合成石英基板や樹脂フィルムである。樹脂フィルムの例は、ポリエチレンテレフタラート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル等からなるフィルムである。あるいは、支持層20は、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の樹脂が成形された層である樹脂成形層であってもよい。また、支持層20は、合成石英基板や樹脂フィルム等の基材と、基材上に積層された樹脂成形層とを備えていてもよい。
【0029】
支持層20における多層膜層30と接する表面は、平面であってもよいし、凹凸を有していてもよい。凹凸構造が含む凹部または凸部である凹凸要素の大きさは、マイクロオーダーであってもよいし、ナノオーダーであってもよい。また、凹凸要素は、規則的に並んでいてもよいし、不規則に配置されていてもよい。例えば、支持層20の表面と対向する視点から見て、凹凸要素は、可視領域の光の波長以下の幅と、所定の標準偏差で分布する不規則な長さとを有して所定の方向に延びる帯形状を有していてもよい。あるいは、凹凸要素は、上記視点から見て、10μm以上100μm以下の幅および長さを有し、二次元格子状に並んでいてもよい。
【0030】
多層膜層30は、支持層20の表面を覆い、支持層20の表面形状に追従した形状を有している。すなわち、支持層20の表面が平面であるとき、多層膜層30の表面および裏面の各々は平面である。一方、支持層20の表面が凹凸を有するとき、多層膜層30における各薄膜層が支持層20の凹凸に追従した形状を有し、多層膜層30の表面および裏面の各々は、支持層20の凹凸に追従した凹凸を有する。
【0031】
多層膜層30が備える薄膜層の数は、3以上8以下であることが好ましく、なかでも、4つであることが最も好ましい。支持層20に接する薄膜層は、誘電体層31であってもよいし、金属層32であってもよい。
【0032】
図1は、多層膜層30が3つの薄膜層を備え、支持層20に誘電体層31が接する例を示す。この場合、多層膜層30は2つの誘電体層31と1つの金属層32とを備え、2つの誘電体層31の間に金属層32が挟まれる。
図1に例示するように、薄膜層の数が奇数であって、支持層20に誘電体層31が接する場合、多層膜層30における支持層20と反対側の最外層は、誘電体層31である。
【0033】
図2は、多層膜層30が3つの薄膜層を備え、支持層20に金属層32が接する例を示す。この場合、多層膜層30は2つの金属層32と1つの誘電体層31とを備え、2つの金属層32の間に誘電体層31が挟まれる。
図2に例示するように、薄膜層の数が奇数であって、支持層20に金属層32が接する場合、多層膜層30における支持層20と反対側の最外層は、金属層32である。
【0034】
図3は、多層膜層30が4つの薄膜層を備え、支持層20に金属層32が接する例を示す。この場合、多層膜層30は2つの誘電体層31と2つの金属層32とを備え、支持層20上に金属層32と誘電体層31とがこの順に交互に並ぶ。
図3に例示するように、薄膜層の数が偶数であって、支持層20に金属層32が接する場合、多層膜層30における支持層20と反対側の最外層は、誘電体層31である。
【0035】
図4は、多層膜層30が4つの薄膜層を備え、支持層20に誘電体層31が接する例を示す。この場合、多層膜層30は2つの誘電体層31と2つの金属層32とを備え、支持層20上に誘電体層31と金属層32とがこの順に交互に並ぶ。
図4に例示するように、薄膜層の数が偶数であって、支持層20に誘電体層31が接する場合、多層膜層30における支持層20と反対側の最外層は、金属層32である。
【0036】
誘電体層31は、誘電体からなる単一の薄膜である。誘電体層31は、可視領域全体の光を透過する、すなわち、可視領域の光に対して透明である。誘電体層31の材料は、金属製の導体よりも導電性の低い材料であり、具体的には、絶縁体または半導体である。本実施形態において、導体は、バンドギャップを有さない材料であり、絶縁体は、電気を流さない程度に大きいバンドギャップを有する材料であり、半導体は、電気を流す程度に小さいバンドギャップを有する材料である。誘電体層31の材料の具体例は、TiO2、ZnS、Nb2O5、Ta2O5、ZrO2等の無機絶縁体材料や、酸化インジウムスズ等の半導体材料である。
誘電体層31の厚さは、10nm以上300nm以下であることが好ましい。誘電体層31は、スパッタリングや真空蒸着等の公知の薄膜形成技術によって形成される。
【0037】
誘電体層31の屈折率が高いと、多層膜層30における光の干渉を強めることが可能であり、また、誘電体層31の厚さを小さくできるため、好ましい。具体的には、誘電体層31の屈折率は、可視領域全体において1.5以上3.0以下であることが好ましい。
【0038】
金属層32は、金属からなる単一の薄膜である。金属層32は、可視領域の光の透過性と反射性とを有している。さらに、金属層32は、可視領域の光の吸収性を有していることが好ましい。金属層32の材料は、例えば、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、金、銀、クロム、チタン、タンタル、シリコン等である。金属層32の厚さは、5nm以上40nm以下であることが好ましい。金属層32は、スパッタリングや真空蒸着等の公知の薄膜形成技術によって形成される。
【0039】
金属層32の屈折率は、誘電体層31よりも小さいことが好ましい。多層膜層30での光の干渉を強めるためには、誘電体層31と金属層32との屈折率の差は、可視領域全体において0.3以上であることが好ましい。
なお、多層膜層30は電気的に絶縁されており、言い換えれば、誘電体層31および金属層32の各層は電気的に絶縁されている。すなわち、発色構造体10の発色に際してこれらの各層に電圧は印加されない。
【0040】
誘電体層31および金属層32が可視領域に透過性を有することから、多層膜層30に光が入射すると、誘電体層31に入射した光の一部が誘電体層31を透過して当該誘電体層31とその下層の金属層32との界面で反射し、また、金属層32に入射した光の一部が金属層32を透過して当該金属層32とその下層の誘電体層31との界面で反射する。このように、多層膜層30が有する各界面で反射した光が干渉を起こすことにより、強められた特定の波長域の光が、発色構造体10から射出される。
【0041】
支持層20の表面が凹凸を有する場合には、入射光に対する多層膜層30の各界面の角度が発色構造体10内で変化するため、様々な方向に反射光が射出される。すなわち、反射光が散乱される。結果として、干渉によって強められた特定の波長域の光が、様々な方向に射出され、上記特定の波長域に対応する色が広い観察角度で視認可能となる。
【0042】
金属層32が反射性を有していることにより、金属層32に代えて反射性の低い誘電体からなる層が配置されている場合、すなわち、多層膜層が誘電体薄膜のみの積層体である場合と比較して、少ない積層数であっても、多層膜層30からの反射光の強度が高められる。一方で、金属層32が光の透過性を有さず可視領域の広い範囲で高い反射性を有する場合と比較して、干渉により強められた特定の波長域以外の光の反射が強くなることは抑えられる。
【0043】
また、金属層32は、発色構造体10にて発色させたい色に対応する上記特定の波長域とは異なる波長域に吸収性を有していることが好ましい。これにより、上記特定の波長域以外の光が発色構造体10からの反射光に含まれることを抑えることができる。
【0044】
金属層32における光の吸収性を利用することで、誘電体薄膜のみからなる多層膜層では困難であった色相の鮮やかな発色も可能である。例えば、赤色を発色させたい場合、誘電体薄膜のみからなる多層膜層では、反射光のスペクトルにおいて赤色に対応する波長域以外の波長域にもピークが出現することを抑えることが困難である。これに対し、本実施形態の発色構造体10であれば、銅のように赤色以外の波長域に吸収性を有する金属からなる金属層32を用いることで、鮮やかな赤色の発色が可能である。
【0045】
このように、金属層32は、可視領域の光の透過性と反射性と吸収性とを有していることが好ましい。具体的には、可視領域のなかで、多層膜層30にて干渉により強められる上記特定の波長域を対象波長域とし、対象波長域以外の波長域を非対象波長域とするとき、金属層32は、対象波長域の少なくとも一部において、5%以上の透過率を有していることが好ましく、20%以上の透過率を有していることがより好ましい。また、金属層32は、対象波長域の少なくとも一部において、30%以上の反射率を有していることが好ましく、50%以上の反射率を有していることがより好ましい。そして、金属層32は、非対象波長域の少なくとも一部において、20%以上の吸収率を有していることが好ましい。また、金属層32は、非対象波長域の少なくとも一部において、50%以下の反射率を有していることが好ましい。なお、非対象波長域の全体において、金属層32が有する反射率は、60%以下であることが好ましい。
【0046】
金属層32における各波長域での透過率、反射率、吸収率の大きさは、金属層32の材料および厚さによって制御可能である。金属層32の材料としては、非対象波長域における複素誘電率の虚部が大きく、対象波長域における複素誘電率の実部が小さい金属材料が選択されることが好ましい。そして、対象波長域や非対象波長域での透過率、反射率、吸収率の大きさが上述したバランスとなるように、金属層32の厚さが設定されればよい。なお、複数の金属層32に、互いに異なる種類の金属からなる金属層32が含まれていてもよい。これにより、多層膜層30において吸収される波長域の調整が可能である。
【0047】
また、対象波長域は、金属層32および誘電体層31の材料および厚さによって制御可能である。例えば、誘電体層31の厚さが10nm異なると、対象波長域の違いが異なる色として認識可能である。複数の誘電体層31に、互いに異なる種類の誘電体からなる誘電体層31が含まれていてもよい。
【0048】
なお、非対象波長域の光を干渉によって弱めることによっても、非対象波長域の光が反射光に含まれることを抑えることができる。非対象波長域の光は、金属層32からの反射光に含まれやすいため、干渉による打ち消し合いを効果的に生じさせるためには、多層膜層30のなかで観察者に最も近い層、言い換えれば、発色構造体10における光が入射する表面である入射面に最も近い薄膜層が、誘電体層31であることが好ましい。
【0049】
例えば、多層膜層30に対して支持層20と反対側から発色構造体10が観察される場合には、多層膜層30における支持層20と反対側の最外層は、誘電体層31であることが好ましい。さらに、最外の誘電体層31の厚さが、他の誘電体層31の厚さの7割以下であると、反射光のスペクトルにおけるピーク幅が狭くなり、すなわち、反射光の単色性が高められる。
【0050】
以上のように、誘電体層31と金属層32とが交互に積層された多層膜層30であれば、反射光の強度が高められるとともに、干渉によって強められる特定の波長域以外の光が反射光に含まれることを抑えられるため、反射光の波長選択性が高められる。それゆえ、誘電体薄膜のみからなる多層膜層と比較して、少ない積層数で、上記特定の波長域に対応する色の明瞭な発色が得られる。
【0051】
その結果、発色構造体10の製造に要する負担の軽減が可能である。また、多層膜層30の厚さを小さくすることが可能であり、誘電体薄膜の数を少なくすることができるため、入射光および反射光の角度の違いによって生じる光路差を小さくすることができる。これにより、干渉によって強められる波長域が観察角度によって変化することを抑えることができるため、発色構造体10に視認される色が安定しやすくなる。
【0052】
また、干渉を強めるために誘電体層31の厚さを過度に大きくすることも避けられる。そのため、干渉によって強められる波長域の制御が困難となることや、応力による発色構造体の反りや誘電体薄膜の剥がれが生じること、誘電体薄膜が凹凸構造に沿い難くなって反射光の散乱効果が得られ難くなることといった、誘電体層31の厚さの増大に起因する問題の発生が抑えられる。
【0053】
[発色構造体の光学作用]
発色構造体10の光学作用について、従来の多層膜層を備える構造体と比較しつつ詳細に説明する。
【0054】
<薄膜の積層数に関する解析>
図5は、誘電体薄膜のみからなる多層膜層を備える試験例1A~1Eについて、シミュレーションによって得た反射スペクトルを示す。各試験例に対する光の入射角は0°であり、
図5に示す反射スペクトルは、反射角0°での反射スペクトルである。
【0055】
各試験例は、支持層上に、高屈折率層と低屈折率層との組を備え、その組の数が試験例ごとに異なっている。支持層の材料はポリエチレンテレフタラートであり、高屈折率層の材料はTiO2であり、低屈折率層の材料はSiO2である。高屈折率層の厚さは60nmであり、低屈折率層の厚さは80nmであり、支持層に接する層は高屈折率層である。入射光は、多層膜層に対して支持層と反対側から構造体に入射する。
【0056】
試験例1Aは1組の高屈折率層および低屈折率層を備える。試験例1Bは2組の高屈折率層および低屈折率層を備える。試験例1Cは3組の高屈折率層および低屈折率層を備える。試験例1Dは4組の高屈折率層および低屈折率層を備える。試験例1Eは5組の高屈折率層および低屈折率層を備える。すなわち、各試験例が備える薄膜層の数は、試験例1Aが2層、試験例1Bが4層、試験例1Cが6層、試験例1Dが8層、試験例1Eが10層である。
【0057】
表1は、試験例1A~1Eの反射光の色をL*a*b*色空間で表した場合における各座標の値を示す。L*の値が大きいほど明るさが大きく、a*およびb*の値が0から離れるほど色が鮮やかになる。
【0058】
【0059】
図5および表1が示すように、薄膜層の積層数が増えるほど、500nm付近の波長域の反射光の強度が高くなり、鮮やかな青色の発色が得られる。試験例1Aおよび試験例1Bが示すように、薄膜層の積層数が4層以下であると、反射光の波長選択性が低く、青色の発色を確認できなかった。
【0060】
図6は、第1実施形態の発色構造体10に対応する試験例2Aについて、実測した反射スペクトルを示す。試験例2Aの発色構造体10は、4層の薄膜層からなる多層膜層30を備え、支持層20に近い位置から、第1の金属層32、第1の誘電体層31、第2の金属層32、第2の誘電体層31がこの順に並ぶ。反射スペクトルは、多層膜層30に対して支持層20と反対側から光を入射させて測定した。
【0061】
支持層の材料はポリエチレンテレフタラートであり、各誘電体層31の材料は、TiO2であり、各金属層32の材料は銅である。第1の誘電体層31の厚さは50nmであり、第2の誘電体層31の厚さは35nmである。2つの金属層32の厚さは、いずれも20nmである。各誘電体層31および各金属層32は、真空蒸着法によって成膜した。
【0062】
表2は、試験例2Aの反射光の色をL*a*b*色空間で表した場合における各座標の値を示す。
【0063】
【0064】
図6および表2が示すように、800nm付近の波長域で反射光の強度が高く得られており、鮮やかな赤色の発色が得られている。このように、試験例2Aでは、薄膜層の積層数が4層であっても十分な発色が得られており、試験例1A~1Eのように多層膜層が誘電体薄膜のみからなる場合と比較して、少ない積層数で明瞭な発色が得られることが確認された。
【0065】
続いて、1層~4層の薄膜層を備える試験例3A~3Dについて、各層での光の挙動を電磁界シミュレーションにより解析した。
図7~
図10は、試験例3A~3Dの構造体に対し、500nmと780nmの波長の光をそれぞれ入射したときの、構造体が吸収したエネルギーおよび電磁場のエネルギーの分布のシミュレーション結果を示す。光の入射角は0°である。
【0066】
試験例3A~3Dが備える各薄膜層の材料および厚さは試験例2Aと同じである。
図6に示したように、試験例2Aにおいて、500nmは、反射率の最も低い領域の波長であり、非対象波長域に含まれる。一方、780nmは、反射率の最も高い領域の波長であり、対象波長域に含まれる。
図7~
図10の各図には、入射光の波長ごとに、試験例の層構成およびエネルギー分布を示す。エネルギー分布のうち、左は吸収のエネルギーの分布、右は電磁場のエネルギーの分布である。
【0067】
図7(a)および(b)は、試験例3Aに対するシミュレーション結果を示す。試験例3Aは、ポリエチレンテレフタラートからなる支持層20上に、銅からなる20nmの第1の金属層32のみを備える。
図7(a)の対象波長は500nmであり、
図7(b)の対象波長は780nmである。
【0068】
図7(a)が示すように、500nmの波長では、第1の金属層32にて、吸収のエネルギーおよび電磁場のエネルギーの双方が大きくなっている。したがって、第1の金属層32での光の吸収が生じていることがわかる。また、電磁場のエネルギーは第1の金属層32の上方および下方の各々でもやや大きくなっており、光の反射や透過も起こっていると判断できる。
図7(b)が示すように、780nmの波長では、第1の金属層32にて吸収のエネルギーが相対的に大きくなっているが、その値は500nmの場合と比較して大幅に小さく、電磁場のエネルギーは第1の金属層32の上方にて大きくなっている。したがって、光の挙動としては、第1の金属層32とその上層の空気層との界面での反射が支配的であると判断できる。
【0069】
図8(a)および(b)は、試験例3Bに対するシミュレーション結果を示す。試験例3Bは、試験例3Aと同一の支持層20および第1の金属層32の上に、TiO
2からなる50nmの厚さの第1の誘電体層31を備える。
図8(a)の対象波長は500nmであり、
図8(b)の対象波長は780nmである。
【0070】
図8(a),(b)が示すように、500nmおよび780nmの波長のいずれにおいても、吸収のエネルギーは第1の金属層32で大きく第1の誘電体層31で小さい。さらに、電磁場のエネルギーは、第1の金属層32および第1の誘電体層31で大きく、第1の金属層32の下方でのエネルギーが、第1の誘電体層31の上方でのエネルギーよりも大きくなっている。したがって、第1の金属層32で光の吸収が生じる一方、第1の誘電体層31では光の吸収が生じておらず、光の反射よりも透過が支配的であると判断できる。
【0071】
なお、吸収のエネルギーの大きさおよび電磁場のエネルギーの分布について、500nmの波長と780nmの波長とを比較すると、780nmの波長の方が、吸収が小さく反射および透過が大きいと判断できる。
【0072】
図9(a)および(b)は、試験例3Cに対するシミュレーション結果を示す。試験例3Cは、試験例3Bと同一の支持層20、第1の金属層32、第1の誘電体層31の上に、銅からなる20nmの第2の金属層32を備える。
図9(a)の対象波長は500nmであり、
図9(b)の対象波長は780nmである。
【0073】
図9(a)が示すように、500nmの波長では、第2の金属層32にて、吸収のエネルギーおよび電磁場のエネルギーの双方が大きくなっており、また、第1の金属層32でも吸収のエネルギーがやや大きくなっている。したがって、第2の金属層32で光が大きく吸収されており、第1の金属層32でも僅かに光の吸収が生じていることがわかる。また、電磁場のエネルギーは第2の金属層32の上方でもやや大きくなっており、光の反射も起こっていると判断できる。
【0074】
図9(b)が示すように、780nmの波長では、第2の金属層32にて吸収のエネルギーが相対的に大きくなっているが、その値は500nmの場合と比較して大幅に小さく、電磁場のエネルギーは第2の金属層32の上方にて大きくなっている。したがって、光の挙動としては、第1および第2の金属層32での反射が支配的であると判断できる。
【0075】
図10(a)および(b)は、試験例3Dに対するシミュレーション結果を示す。試験例3Dは、試験例3Cと同一の支持層20、第1の金属層32、第1の誘電体層31、第2の金属層32の上に、TiO
2からなる35nmの厚さの第2の誘電体層31を備える。
図10(a)の対象波長は500nmであり、
図10(b)の対象波長は780nmである。
【0076】
図10(a)が示すように、500nmの波長では、吸収のエネルギーが、第2の金属層32にて大きくなっており、第1の金属層32でもやや大きくなっている。一方、電磁場のエネルギーは、第2の誘電体層31で大きくなっており、第2の誘電体層31の上方では小さい。したがって、500nmの波長の光は、第2の金属層32で大きく吸収されるとともに第1の金属層32でも僅かに吸収され、さらに各金属層32で反射された成分は第2の誘電体層31で干渉により弱められて、多層膜層30から反射光として射出される成分はほぼないと判断できる。
【0077】
図10(b)が示すように、780nmの波長では、第2の金属層32にて吸収のエネルギーが相対的に大きくなっているが、その値は500nmの場合と比較して大幅に小さく、電磁場のエネルギーは第2の誘電体層31の上方にて大きくなっている。したがって、780nmの波長の光の挙動としては、多層膜層30での反射が支配的であると判断できる。
【0078】
以上のように、4層の薄膜層からなる多層膜層30を備える発色構造体10では、発色させたい色に対応する780nmの波長で反射が大きく、発色させたい色とは異なる500nmの波長で反射が的確に抑えられている。そのため、鮮やかな発色が得られている。
【0079】
また、
図7~
図10を参照すると、いずれの波長においても、薄膜層の積層数が増えるにつれて、より詳細には金属層32の積層数が増えるにつれて、最下層である第1の金属層32における電磁場のエネルギーは小さくなる。そして、4層の薄膜層からなる試験例3Dにおける第1の金属層32のエネルギーは、最大に対する3割以下の程度である。それゆえ、4層よりも多く薄膜層を積層したとしても、光の挙動に対する最下層やその付近の薄膜層の影響は小さい。
【0080】
そのため、例えば、薄膜層が4層,6層,8層の場合の各々について、発色構造体10の反射光の強度は大きく変わらず、発色構造体10に視認される色は大きく変わらない。したがって、薄膜層の積層数を少なくする観点では、多層膜層30が備える薄膜層の数は4層であることが最も好ましい。
【0081】
さらに、試験例3A~3Dにおける各波長の光の反射と透過と吸収との割合を算出した。表3は、試験例3A~3Dの薄膜層の材料における500nmおよび780nmの波長での屈折率n、消衰係数k、これらから算出される複素誘電率の実部ε′と虚部ε″を示す。そして、表4および
図11は、試験例3A~3Dにおける500nmの波長の光の反射と透過と吸収との割合を示し、表5および
図12は、試験例3A~3Dにおける780nmの波長の光の反射と透過と吸収との割合を示す。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
表4,5および
図11,12が示すように、1層の薄膜層を備える試験例3Aでは、780nmの波長で反射が70%以上と大きく、500nmの波長でも反射が40%近くで比較的大きい。したがって、試験例3Aでは可視領域の波長の反射が全体的に大きくなり、光沢を有するような金属特有の発色が生じる。
【0086】
2層の薄膜層を備える試験例3Bでは、500nmの波長については、試験例3Aと比べて反射が10%以下にまで大幅に小さくなり、透過および吸収が大きくなっている。一方で、780nmの波長でも、反射が40%以下にまで小さくなり、透過および吸収が大きくなっている。特に、透過が50%近くまで大きくなっている。したがって、試験例3Bでも、波長選択性の高い発色は得られない。
【0087】
3層の薄膜層を備える試験例3Cでは、780nmの波長で反射が90%近くまで大きくなる。500nmの波長でも反射が25%まで大きくなるが、赤色の発色は確認できる。
【0088】
4層の薄膜層を備える試験例3Dでは、780nmの波長での反射が、試験例3Cと比較して10%ほど低下はするものの、80%近くであり十分大きい。一方、500nmの波長では、吸収が80%程度まで大きくなり、反射は0%になる。したがって、試験例3Dでは、発色させたい色以外の波長域の光の反射が的確に抑えられるため、波長選択性の高い発色、すなわち、明瞭な赤色の発色が得られる。
【0089】
続いて、厚さの異なる金属層32を備える試験例4A,4Bについて、反射と透過と吸収との各々のスペクトルをシミュレーションによって求めて、各波長の光の反射と透過と吸収との割合を算出した。
【0090】
試験例4Aは、試験例2Aと同一の層構成を有する。すなわち、試験例4Aは、銅からなる金属層32とTiO2からなる誘電体層31とが交互に積層された多層膜層30を備えており、試験例4Aが備える薄膜層の数は4層である。第1の誘電体層31の厚さは50nmであり、第2の誘電体層31の厚さは35nmであり、2つの金属層32の厚さは、いずれも20nmである。試験例4Bは、第1の金属層32の厚さのみが試験例4Aと異なる。試験例4Bにおける第1の金属層32の厚さは、100nmである。
【0091】
図13は、試験例4Aについての、反射スペクトル、透過スペクトル、吸収スペクトルの各々を示す。
図14は、試験例4Bについての、反射スペクトル、透過スペクトル、吸収スペクトルの各々を示す。また、
図15は、試験例4A,4Bにおける500nmの波長の光の反射と透過と吸収との割合を示し、
図16は、試験例4A,4Bにおける780nmの波長の光の反射と透過と吸収との割合を示す。
【0092】
図13,
図15,
図16が示すように、試験例4Aでは、500nmの波長において、反射が0%、透過が19%、吸収が81%であり、780nmの波長において、反射が77%、透過が7%、吸収が16%である。一方、
図14,
図15,
図16が示すように、試験例4Bでは、500nmの波長において、反射が3%、透過が0%、吸収が97%であり、780nmの波長において、反射が85%、透過が0%、吸収が15%である。
【0093】
試験例4Aにおける第1の金属層32は、可視領域の光の透過性を有することに対し、 試験例4Bにおける第1の金属層32は、厚さが大きいために、可視領域の光の透過性を有していない。そのため、試験例4Bの第1の金属層32は、試験例4Aの第1の金属層32よりも大きい反射率を有する傾向がある。
【0094】
その結果、500nmの波長では、試験例4Aで反射が0%であることに対し、試験例4Bでは3%の反射が生じている。一方、780nmの波長では、試験例4A,4Bのいずれでも反射が支配的であり、試験例4Aと試験例4Bとで吸収は同程度である。
したがって、透過性を有する金属層32を用いることで、発色させたい色以外の波長域の光の反射が的確に抑えられるため、明瞭な発色が得られる。
【0095】
<観察角度に関する解析>
図17は、誘電体薄膜のみからなる多層膜層を備える試験例5Aについて、観察角度を変化させた場合に対応する反射スペクトルを示す。詳細には、
図17は、光の入射角および反射角が、0°,30°,40°のそれぞれである場合について、シミュレーションによって得た反射スペクトルを示す。反射角が、観察角度に対応する。
【0096】
試験例5Aは、試験例1Eと同一の層構成を有する。すなわち、試験例5Aは、TiO2からなる60nmの厚さの高屈折率層と、SiO2からなる80nmの厚さの低屈折率層とが交互に積層された多層膜層を備えており、試験例5Aが備える薄膜層の数は10層である。
【0097】
表6は、試験例5Aについて各観察角度での反射光の色をL*a*b*色空間で表した場合における各座標の値を示す。さらに、表6は、観察角度が30°,40°である場合の各々について、観察角度が0°である場合に対する各座標の差および色差を表すΔE*を示す。ΔE*が小さいほど、0°での反射光の色との差が小さいことを意味する。
【0098】
【0099】
図17が示すように、観察角度が変化すると、反射光の波長域が変化することがわかる。また、ΔE
*が6.5以上であることは、JIS規格での標準色票やマンセル色票等の1歩度に相当する色差であるC級許容差以上の色差があることを示す。したがって、表6が示すように、0°,30°,40°の各観察角度での色は、互いに異なる色であると言える。
【0100】
図18は、第1実施形態の発色構造体10に対応する試験例6Aについて、観察角度を変化させた場合に対応する反射スペクトルを示す。詳細には、
図18は、光の入射角および反射角が、0°,30°,40°のそれぞれである場合について、シミュレーションによって得た反射スペクトルを示す。
【0101】
試験例6Aは、試験例2Aと同一の層構成を有する。すなわち、試験例6Aは、銅からなる金属層32とTiO2からなる誘電体層31とが交互に積層された多層膜層30を備えており、試験例6Aが備える薄膜層の数は4層である。第1の誘電体層31の厚さは50nmであり、第2の誘電体層31の厚さは35nmであり、2つの金属層32の厚さは、いずれも20nmである。
【0102】
表7は、試験例6Aについて、各観察角度での反射光の色をL*a*b*色空間で表した場合における各座標の値と、観察角度が0°である場合を基準とした各座標の差および色差を表すΔE*とを示す。
【0103】
【0104】
図18が示すように、試験例6Aでは、観察角度が変化しても、反射光の波長域の変化が小さい。また、表7が示すように、ΔE
*がいずれの場合も6.5より小さいことから、0°,30°,40°の各観察角度での色は、異なる色であると認知可能なほどの差を有していないと言える。
【0105】
続いて、試験例6Aについて、光の入射角を変えた場合の光の挙動を電磁界シミュレーションにより解析した。
図19および
図20は、試験例6Aの構造体に対し、500nmと780nmの波長の光をそれぞれ入射したときの、構造体が吸収したエネルギーおよび電磁場のエネルギーの分布のシミュレーション結果を示す。
【0106】
図19は、光の入射角が0°である場合を示し、
図20は、光の入射角が30°である場合を示す。
図19(a)および
図20(a)の対象波長は500nmであり、
図19(b)および
図20(b)の対象波長は780nmである。各図には、入射光の波長ごとに、試験例の層構成およびエネルギー分布を示す。エネルギー分布のうち、左は吸収のエネルギーの分布、右は電磁場のエネルギーの分布である。
【0107】
図19および
図20が示すように、500nmと780nmとのいずれの波長についても、入射角の違いによる光の挙動の違いは確認できない。このことからも、試験例6Aでは、観察角度による色の変化は殆どないと言える。
【0108】
以上、第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)発色構造体10が、誘電体層31と、可視領域の光の透過性を有する金属層32とが交互に積層された多層膜層30を備える。これにより、多層膜層30が有する各界面で反射した光が干渉を起こして、強められた特定の波長域の光が、発色構造体10から射出される。金属層32が反射性を有していることにより、多層膜層が誘電体薄膜のみの積層体である場合と比較して、多層膜層30からの反射光の強度が高められる。一方で、金属層32が光の透過性を有さず可視領域の広い範囲で高い反射性を有する場合と比較して、干渉により強められた特定の波長域以外の光の反射が強くなることを抑えられる。
【0109】
したがって、少ない積層数で、上記特定の波長域に対応する色の明瞭な発色が得られる。その結果、発色構造体10の製造に要する負担の軽減が可能である。また、多層膜層30の厚さを小さくできるため、干渉によって強められる波長域が観察角度によって変化することを抑えることが可能であり、発色構造体10に視認される色が安定しやすくなる。
【0110】
(2)金属層32が、可視領域の光の吸収性を有していることにより、上記特定の波長域以外の光が発色構造体10からの反射光に含まれることを抑えることができる。そのため、より明瞭な発色が得られる。
【0111】
(3)金属層32の厚さが5nm以上40nm以下であることにより、金属層32における光の透過性が好適に得られる。
(4)各金属層32が単一の金属薄膜であることにより、金属層32が複数の金属薄膜の積層体である場合と比較して、薄膜の積層数を削減して発色構造体10の製造に要する負担を軽減することが可能である。
【0112】
(5)誘電体層31の厚さが10nm以上300nm以下であることにより、誘電体層31の膜厚が小さく抑えられているため、干渉によって強められる波長域の制御が困難となることや、応力による発色構造体の反りや誘電体薄膜の剥がれが生じることといった、誘電体層31の膜厚の増大に起因する問題の発生が抑えられる。
【0113】
(6)可視領域における誘電体層31の屈折率が1.5以上3.0以下であることにより、高い屈折率を有する誘電体層31が実現されるため、多層膜層30での光の干渉が強められ、高い強度の反射光が得られやすい。
【0114】
(7)多層膜層30のなかで、発色構造体10における光の入射面に最も近い薄膜層が誘電体層31であることにより、上記特定の波長域以外の光が干渉によって弱められやすくなる。したがって、上記特定の波長域以外の光が発色構造体10からの反射光に含まれることを抑えることができるため、より明瞭な発色が得られる。
【0115】
(8)上記入射面に最も近い誘電体層31が、他の誘電体層31よりも薄いことにより、反射光のスペクトルにおけるピーク幅を狭めることが可能であり、すなわち、反射光の単色性を高めることができる。
(9)多層膜層30が、2つの金属層32と2つの誘電体層31とを含む4つの薄膜層からなる構造であれば、少ない積層数で明瞭な発色を的確に得ることができる。
【0116】
(第2実施形態)
図21~
図37を参照して、発色構造体の第2実施形態を説明する。以下では、第2実施形態と第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0117】
発色構造体が呈する色の鮮明さ、言い換えれば単色性をより高めるためには、視認される反射光の波長域が狭いことが好ましい。例えば、発色させたい色が、赤色や青色のように可視領域の端部の波長域に対応する色である場合、反射スペクトルのピーク位置が可視領域と近赤外領域あるいは紫外領域との境界付近になるように多層膜層を設計することで、ピークに含まれる波長域の一部を視認できない波長域とし、視認される反射光の波長域を狭くすることが可能である。一方、発色させたい色が、緑色や黄色のように可視領域の中央付近の波長域に対応する色である場合、赤色や青色のようなピーク位置の調整によって視認される波長域を狭くする手法は適用できないため、単色性を高めるためには、反射スペクトルのピーク幅や半値幅を狭くする必要がある。
【0118】
一般に、多層膜層においては、高屈折率層と低屈折率層との組を増やすことで、反射スペクトルのピーク幅を狭くすることが可能である。しかしながら、薄膜の積層数が増えれば、製造に要する負担が増加し、多層膜層の厚さが大きくなれば、光路差の増大に起因して観察角度によって色が変わりやすくなるという問題が起こることは上述の通りである。
第2実施形態の目的は、薄膜の積層数や多層膜層の厚さの増加をできるだけ抑えつつ、反射光の単色性を高めることである。
【0119】
[発色構造体の構造]
図21が示すように、第2実施形態の発色構造体11は、第1実施形態と同様に、支持層20と、誘電体層31と金属層32とが交互に積層された多層膜層30とを備える。ただし、第2実施形態においては、少なくとも1つの金属層32が、互いに異なる材料からなる2以上の金属薄膜の積層体である。すなわち、多層膜層30は、金属薄膜が連続して積層された部分を有する。
【0120】
図21が示す例では、支持層20上に、第1の金属層32、第1の誘電体層31、第2の金属層32、第2の誘電体層31が、この順に交互に並ぶ。そして、第2の金属層32は、第1金属薄膜33aと第2金属薄膜33bとの2つの金属薄膜を備えている。第1金属薄膜33aと第2金属薄膜33bとの材料は互いに異なる。また、第1の金属層32の材料は、第1金属薄膜33aおよび第2金属薄膜33bのいずれかの材料と一致していてもよいし、いずれの材料とも異なっていてもよい。
誘電体層31と金属層32との数や積層の順序については、第1実施形態の発色構造体10と同様の構成が適用できる。
【0121】
金属薄膜33a,33bの材料は、例えば、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、金、銀、クロム、チタン、タンタル、シリコン等である。金属薄膜33a,33bの屈折率は、誘電体層31の屈折率よりも小さいことが好ましく、誘電体層31と金属薄膜33a,33bとの屈折率の差は、可視領域全体において0.3以上であることが好ましい。
【0122】
複数の金属薄膜33a,33bからなる金属層32の厚さは、5nm以上40nm以下であることが好ましい。複数の金属薄膜33a,33bからなる金属層32が、第1実施形態と同様、可視領域の光の透過性と反射性と吸収性とを有するように、金属層32の厚さが制御されることが好ましい。なお、支持層20および誘電体層31の構成は第1実施形態と同様である。
【0123】
第2実施形態では、第1金属薄膜33aと第2金属薄膜33bとの材料が異なっていることから、第1金属薄膜33aと第2金属薄膜33bとで吸収する光の波長域が異なる。そのため、金属層32が単一の金属薄膜からなる場合と比較して、金属層32にてより広い波長域の光の吸収が可能である。したがって、多層膜層30において、干渉によって強められる波長域以外の光がより広い波長域で吸収されるため、反射光のスペクトルにおけるピーク幅や半値幅を狭くすることができる。それゆえ、より単色性の高い発色が得られる。
【0124】
例えば、第1金属薄膜33aと第2金属薄膜33bとをそれぞれ1つの金属層32とし、その間に誘電体層31を挟むと、多層膜層30における薄膜の積層数が増える。さらに、干渉によって強められる波長域の調整のために、第1金属薄膜33aと第2金属薄膜33bとの積層体を1つの金属層32とする場合よりも、各金属薄膜の厚さを大きくせざるを得ない。したがって、多層膜層30の厚さが増加する。
これに対し、第2実施形態の発色構造体11であれば、多層膜層30における薄膜の積層数および厚さの増加を抑えつつ、反射光の単色性を高めることができる。
【0125】
多層膜層30における薄膜の積層数の増加を抑える観点では、多層膜層30が有する金属層32のうちで、複数の金属薄膜からなる金属層32の数は1つであることが好ましい。さらに、第1実施形態で説明したように、誘電体層31と金属層32とを4層よりも多く積層したとしても、光の挙動に対する最下層付近の薄膜層の影響は小さく、光の吸収は主として最外層に近い金属層32で生じる。したがって、多層膜層30は、2層の誘電体層31と2層の金属層32とを備え、2つの金属層32のうち、光の入射面に近い方の金属層32が、複数の金属薄膜33a,33bから構成されていることが好ましい。
【0126】
具体的には、
図21に示したように、発色構造体11は、支持層20上に、第1の金属層32、第1の誘電体層31、第2の金属層32、第2の誘電体層31をこの順に備え、多層膜層30に対して支持層20と反対側から光が入射する場合、第2の金属層32が、複数の金属薄膜33a,33bから構成されていることが好ましい。そして、第1の金属層32は、単一の金属薄膜からなることが好ましい。
【0127】
[発色構造体の光学作用]
発色構造体11の光学作用について、従来の多層膜層を備える構造体と比較しつつ詳細に説明する。
【0128】
<薄膜の積層数に関する解析>
図22は、誘電体薄膜のみからなる多層膜層を備える試験例7A~7Eについて、シミュレーションによって得た反射スペクトルを示す。各試験例に対する光の入射角は0°であり、
図22に示す反射スペクトルは、反射角0°での反射スペクトルである。
【0129】
各試験例は、支持層上に、高屈折率層と低屈折率層との組を備え、その組の数が試験例ごとに異なっている。支持層の材料はポリエチレンテレフタラートであり、高屈折率層の材料はTiO2であり、低屈折率層の材料はSiO2である。高屈折率層の厚さは85nmであり、低屈折率層の厚さは50nmであり、支持層に接する層は高屈折率層である。入射光は、多層膜層に対して支持層と反対側から構造体に入射する。
【0130】
試験例7Aは1組の高屈折率層および低屈折率層を備える。試験例7Bは2組の高屈折率層および低屈折率層を備える。試験例7Cは3組の高屈折率層および低屈折率層を備える。試験例7Dは4組の高屈折率層および低屈折率層を備える。試験例7Eは5組の高屈折率層および低屈折率層を備える。すなわち、各試験例が備える薄膜層の数は、試験例7Aが2層、試験例7Bが4層、試験例7Cが6層、試験例7Dが8層、試験例7Eが10層である。
【0131】
表8は、試験例7A~7Eの反射光の色をCIE 1931 XYZ色空間で表した場合、および、L
*a
*b
*色空間で表した場合における各座標の値を示す。また、
図23は、試験例7A~7Eの反射光の色を、CIE1931 XYZ色空間のxy色度図で示す。なお、
図23では、xy色度図における赤(R)、黄(Y)、緑(G)、シアン(C)、青(B)の色の大まかな位置を、各色に対応する符号で示している。
【0132】
【0133】
図22が示すように、誘電体薄膜の積層数が多いほど、反射スペクトルにおけるピーク幅は狭くなり、反射率は高くなる。その結果、
図23が示すように、誘電体薄膜の積層数が多いほど、反射光の色が、緑や黄や赤が混じった色から、緑色に近づくことがわかる。
【0134】
L*a*b*色空間で表した場合、a*が小さいほど色相は緑色に近づき、b*が大きいほど色相は黄色に近づく。表8が示すように、誘電体薄膜の積層数が最も多い試験例7Eにおいても、a*は小さい一方でb*は大きい。それゆえ、試験例7A~7Eのなかで反射光が最も緑色に近い試験例7Eであっても、反射光の色は黄が混じった緑、すなわち黄緑色であると言える。
【0135】
図24は、第2実施形態の発色構造体11に対応する試験例8Aについて、実測した反射スペクトルを示す。試験例8Aの発色構造体11は、
図21に示した構造を有しており、支持層20に近い位置から、第1の金属層32、第1の誘電体層31、第2の金属層32、第2の誘電体層31をこの順に備える。第2の金属層32は、第1金属薄膜33aおよび第2金属薄膜33bからなる。第1金属薄膜33aは第1の誘電体層31に接し、第2金属薄膜33bは第2の誘電体層31に接する。反射スペクトルは、多層膜層30に対して支持層20と反対側から光を入射させて測定した。
【0136】
支持層20の材料はポリエチレンテレフタラートであり、各誘電体層31の材料は、TiO2である。第1の金属層32の材料はアルミニウムであり、第2の金属層32における第1金属薄膜33aの材料はニッケルであり、第2金属薄膜33bの材料は銅である。第1の誘電体層31の厚さは100nmであり、第2の誘電体層31の厚さは25nmである。第1の金属層32の厚さは20nmであり、第2の金属層32における第1金属薄膜33aおよび第2金属薄膜33bの各々の厚さは10nmである。すなわち、第2の金属層32の厚さは20nmである。誘電体層31および金属層32は、真空蒸着法によって成膜した。
【0137】
表9は、試験例8Aの反射光の色をCIE 1931 XYZ色空間で表した場合、および、L
*a
*b
*色空間で表した場合における各座標の値を示す。また、
図25は、試験例8Aの反射光の色を、CIE1931 XYZ色空間のxy色度図で示す。なお、
図25では、xy色度図における赤(R)、黄(Y)、緑(G)、シアン(C)、青(B)の色の大まかな位置を、各色に対応する符号で示している。
【0138】
【0139】
図24が示すように、試験例8Aでは、
図22に示した10層の誘電体薄膜が積層された試験例7Eよりも、反射スペクトルにおけるピーク幅および半値幅、特に半値幅が狭くなっている。そして、
図25が示すように、試験例8Aの反射光の色は、
図23に示した試験例7Eの反射光の色よりも緑色に近づいている。表9が示すように、試験例8Aではa
*が小さいことに加えてb
*も小さくなっており、単色性の高い緑色の反射光が得られていると言える。
【0140】
試験例7Eの多層膜層の厚さが675nmであることに対し、試験例8Aの多層膜層30の厚さは165nmである。このように、本実施形態の発色構造体11によれば、誘電体薄膜が積層された多層膜層を備える従来の構造体と比較して、薄膜の積層数および多層膜層30の厚さが大幅に低減されていながら、単色性の高い発色が得られる。
【0141】
続いて、第1の実施形態の発色構造体10に対応する試験例9Aおよび試験例9Bと、第2実施形態の発色構造体11に対応する試験例9Cとについて、反射と透過と吸収との各々のスペクトルをシミュレーションによって求めた。
【0142】
試験例9A~試験例9Cは、ポリエチレンテレフタラートからなる支持層20上に、第1の金属層32、第1の誘電体層31、第2の金属層32、第2の誘電体層31をこの順に備える。第2の金属層32以外の層の材料および厚さは、試験例9A~試験例9Cにおいて共通する。第1の金属層32の材料はアルミニウムであり、厚さは20nmである。第1の誘電体層31の材料はTiO2であり、厚さは100nmである。第2の誘電体層31の材料はTiO2であり、厚さは25nmである。
【0143】
試験例9Aの第2の金属層32は、単一の金属薄膜であって、その材料は銅であり、厚さは20nmである。試験例9Bの第2の金属層32は、単一の金属薄膜であって、その材料はニッケルであり、厚さは20nmである。試験例9Cの第2の金属層32は、第1金属薄膜33aと第2金属薄膜33bとの積層体である。第1金属薄膜33aの材料はニッケルであり、厚さは10nmである。第2金属薄膜33bの材料は銅であり、厚さは10nmである。すなわち、試験例9Cの構成は、試験例8Aの構成と同一である。
【0144】
図26は、試験例9Aについての、反射スペクトル、透過スペクトル、吸収スペクトルの各々を示す。同様に、
図27は試験例9Bの各スペクトルを示し、
図28は試験例9Cの各スペクトルを示す。
【0145】
表10は、試験例9A~9Cの反射光の色をCIE 1931 XYZ色空間で表した場合、および、L
*a
*b
*色空間で表した場合における各座標の値を示す。また、
図29は、試験例9A~9Cの反射光の色を、CIE1931 XYZ色空間のxy色度図で示す。なお、
図29では、xy色度図における赤(R)、黄(Y)、緑(G)、シアン(C)、青(B)の色の大まかな位置を、各色に対応する符号で示している。
なお、スペクトルや反射光の色について、試験例8Aの実測値と試験例9Cのシミュレーション結果とのずれの原因は、実測値においては、誘電体層31と金属層32との界面付近でこれらの層の材料が混じり合った領域が形成されることによる金属酸化の影響があるためと考えられる。
【0146】
【0147】
図26~
図28が示すように、試験例9A~9Cの反射スペクトルを比較すると、試験例9Cにてピーク幅が最も狭くなっている。特に、試験例9Cでは、試験例9A,9Bと比較して、高波長領域において、広い波長域で吸収が大きくなっており、それによって反射が低減されている。
【0148】
また、
図29が示すように、反射光の色については、試験例9Cが、最も黄や赤から離れて緑色に近くなっている。表10においても、試験例9Cでは、試験例9A,9Bよりも、a
*およびb
*が共に小さくなっている。したがって、試験例9A~9Cのなかでは、試験例9Cにて、最も黄色成分の低減された単色性の高い緑色の反射光が得られていると言える。
【0149】
図30~
図33は、試験例9A~9Cについて、可視領域の代表的な波長の光を入射したときの反射と透過と吸収との割合を示す。
図30の対象波長は、緑色の光の主波長である525nmであり、
図31の対象波長は、黄色の主波長である580nmであり、
図32の対象波長は、橙色の主波長である600nmであり、
図33の対象波長は、赤色の主波長である780nmである。単色性の高い緑色を発色させようとする場合、上述の各解析で示したように、反射光の黄色成分を抑えることが重要であるため、緑色よりも長波長領域から代表的な波長を採用している。
【0150】
図30が示すように、緑色に対応する525nmの波長では、反射、透過、吸収のそれぞれについて、試験例9A~9Cに大きな差異はない。一方、
図31および
図32が示すように、黄色に対応する580nmおよび橙色に対応する600nmの波長では、試験例9Cで最も反射が小さくかつ吸収が大きい。また、
図33が示すように、赤色に対応する780nmでは、試験例9Bおよび試験例9Cで反射が小さくかつ吸収が大きい。
【0151】
以上のように、第2の金属層32が2種類の金属薄膜からなる試験例9Cでは、第2の金属層32が1種類の金属薄膜からなる試験例9A,9Bよりも、緑色に隣接する波長域の吸収が大きく、当該波長域の反射が抑えられている。これにより、試験例9Cでは、より単色性の高い緑色の反射光が得られていると言える。
【0152】
<観察角度に関する解析>
図34は、誘電体薄膜のみからなる多層膜層を備える試験例10Aについて、観察角度を変化させた場合に対応する反射スペクトルを示す。詳細には、
図34は、光の入射角および反射角が、0°,10°,20°,30°,40°のそれぞれである場合について、シミュレーションによって得た反射スペクトルを示す。反射角が、観察角度に対応する。
【0153】
試験例10Aは、試験例7Eと同一の層構成を有する。すなわち、試験例10Aは、TiO2からなる85nmの厚さの高屈折率層と、SiO2からなる50nmの厚さの低屈折率層とが交互に積層された多層膜層を備えており、試験例10Aが備える薄膜層の数は10層である。
【0154】
表11は、試験例10Aについて、各観察角度での反射光の色をCIE 1931XYZ色空間で表した場合における各座標の値を示す。
図35は、各観察角度での反射光の色を、CIE1931 XYZ色空間のxy色度図で示す。
図35では、xy色度図における赤(R)、黄(Y)、緑(G)、シアン(C)、青(B)の色の大まかな位置を、各色に対応する符号で示している。
【0155】
また、表12は、試験例10Aについて、各観察角度での反射光の色をL*a*b*色空間で表した場合における各座標の値を示す。さらに、観察角度が10°~40°である場合の各々について、観察角度が0°である場合を基準とした座標の差および色差を表すΔE*を示す。
【0156】
【0157】
【0158】
図34,
図35および表11,表12が示すように、観察角度が変化すると、反射光の波長域が変化し、これによって反射光の色も変化する。表12が示すように、試験例10Aでは、観察角度が20°以上の場合に、観察角度が0°の場合に対するΔE
*が6.5以上となる。したがって、20°以上の各観察角度での色は、0°の観察角度での色とは異なる色であると言える。
【0159】
図36は、第2実施形態の発色構造体11に対応する試験例11Aについて、観察角度を変化させた場合に対応する反射スペクトルを示す。詳細には、
図36は、光の入射角および反射角が、0°,10°,20°,30°,40°のそれぞれである場合について、シミュレーションによって得た反射スペクトルを示す。
【0160】
試験例11Aは、試験例8Aと同一の層構成を有する。すなわち、試験例11Aは、支持層20上に、第1の金属層32、第1の誘電体層31、第2の金属層32、第2の誘電体層31をこの順に備える。第1の金属層32の材料はアルミニウムであり、厚さは20nmである。第1の誘電体層31の材料はTiO2であり、厚さは100nmである。第2の金属層32は、第1金属薄膜33aと第2金属薄膜33bとの積層体である。第1金属薄膜33aの材料はニッケルであり、厚さは10nmである。第2金属薄膜33bの材料は銅であり、厚さは10nmである。第2の誘電体層31の材料はTiO2であり、厚さは25nmである。
【0161】
表13は、試験例11Aについて、各観察角度での反射光の色をCIE 1931XYZ色空間で表した場合における各座標の値を示す。
図37は、各観察角度での反射光の色を、CIE1931 XYZ色空間のxy色度図で示す。
図37では、xy色度図における赤(R)、黄(Y)、緑(G)、シアン(C)、青(B)の色の大まかな位置を、各色に対応する符号で示している。
【0162】
また、表13は、試験例11Aについて、各観察角度での反射光の色をL*a*b*空間で表した場合における各座標の値を示す。さらに、観察角度が10°~40°である場合の各々について、観察角度が0°である場合を基準とした座標の差および色差を表すΔE*を示す。
【0163】
【0164】
【0165】
図36,
図37および表13,表14が示すように、試験例11Aでは、
図34,
図35および表11,表12に示した試験例10Aと比べて、観察角度が変化しても、反射光の波長域および色の変化が小さい。また、表14が示すように、試験例11Aでは、観察角度が30°以上の場合に、観察角度が0°の場合に対するΔE
*が6.5以上となる。表12に示した試験例10Aでは、ΔE
*が6.5未満である観察角度が10°までであったことに対し、試験例11Aでは、20°までΔE
*が6.5未満である。また、20°よりも大きい観察角度についても、試験例10Aと比べると、試験例11AでのΔE
*は小さい。したがって、多層膜層30が金属層32を有する試験例11Aでは、多層膜層が誘電体薄膜のみからなる試験例10Aと比べて、観察角度の変化による反射光の色の変化が小さいと言える。
【0166】
以上、第2実施形態によれば、第1実施形態の(1)~(3),(5)~(9)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(10)少なくとも1つの金属層32が、互いに異なる金属からなる複数の金属薄膜33a,33bの積層体である。上記構成によれば、複数の金属薄膜33a,33bにて吸収する光の波長域が異なることから、金属層32が単一の金属薄膜からなる場合と比較して、金属層32にてより広い波長域の光の吸収が可能である。したがって、多層膜層30において、干渉によって強められる波長域以外の光がより広い波長域で吸収されるため、反射光のスペクトルにおけるピーク幅や半値幅を狭くすることができる。それゆえ、より単色性の高い発色が得られる。
【0167】
(11)多層膜層30のなかで、発色構造体11における光の入射面に最も近い金属層32のみが、複数の金属薄膜33a、33bの積層体であり、他の金属層32は、単一の金属薄膜である。上記構成によれば、光の吸収が主として生じる金属層32が複数の金属薄膜33a、33bから構成されるため、広い波長域の光の吸収が的確に可能である。したがって、多層膜層30における薄膜の積層数の増加を抑えつつ、単色性の高い発色が得られる。
【0168】
(変形例)
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することが可能である。
・発色構造体10,11は、支持層20および多層膜層30以外の層をさらに備えていてもよい。例えば、発色構造体10,11は、多層膜層30の透過光を吸収する吸収層を、多層膜層30に対して光の入射面とは反対側に備えていてもよい。吸収層は、例えば、黒色顔料等を含む黒色の層である。吸収層が設けられていることにより、多層膜層30で干渉により強められる波長域とは異なる波長域の光が、発色構造体10,11内部の各層の界面や、発色構造体10,11とその外部との界面で反射して観察者に向けて射出されることが抑えられる。また、発色構造体10,11は、発色構造体10,11を物品に取り付けるための接着層を、光の入射面とは反対側の最外部に備えていてもよい。
【符号の説明】
【0169】
10,11…発色構造体
20…支持層
30…多層膜層
31…誘電体層
32…金属層
33a,33b…金属薄膜