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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158496
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】歪補償装置および歪補償方法
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/32 20060101AFI20231023BHJP
   H03F 3/24 20060101ALI20231023BHJP
   H03F 1/30 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
H03F1/32 141
H03F3/24
H03F1/30 220
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068376
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】今里 康二郎
【テーマコード(参考)】
5J500
【Fターム(参考)】
5J500AA01
5J500AA41
5J500AC05
5J500AC22
5J500AF08
5J500AF12
5J500AF17
5J500AK17
5J500AK23
5J500AK28
5J500AK33
5J500AK34
5J500AM20
5J500AS14
5J500AT01
5J500AT02
5J500AT07
5J500NC04
5J500ND02
5J500NF08
5J500NG03
5J500NG06
5J500NH12
5J500NM01
5J500NM02
5J500NM03
5J500NM04
5J500NN02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電力増幅器のコンプレッションレベルが低下した場合でも安定的に歪補償を行う歪補償装置及び歪補償方法を提供する。
【解決手段】無線通信装置1において、安定的に歪補償を行う方法は、電力増幅器5の出力信号に生じる歪と逆特性の歪をDPD処理部3により入力信号に付加し、出力信号に生じる歪を補償する際に、PA状態モニタ13により、出力信号からVSWR値、電源電圧Vd及び電力損失Plossを算出し、VSWR値、電源電圧Vd及び電力損失Plossのうちの少なくとも1つが、予め設定された閾値を超えている場合に、送信出力レベル抑制部14により入力信号の減衰量を算出し、算出された減衰量に基づいて、入力信号を減衰させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力増幅器の出力信号に生じる歪と逆特性の歪を入力信号に付加し、前記出力信号に生じる歪を補償する歪補償装置であって、
前記出力信号から、前記電力増幅器の状態を示す状態値として、VSWR値と、前記電力増幅器の電源電圧と、前記電力増幅器の電力損失とのうちの少なくとも1つを算出する増幅器状態値算出手段と、
前記VSWR値と、前記電源電圧と、前記電力損失とのうちの少なくとも1つが、予め設定された閾値を超えている場合に、前記入力信号の減衰量を算出し、算出された前記減衰量に基づいて、前記入力信号を減衰させる送信出力レベル抑制手段と、
を備えることを特徴とする歪補償装置。
【請求項2】
前記送信出力レベル抑制手段は、前記VSWR値に基づく減衰量と、前記電源電圧に基づく減衰量と、前記電力損失に基づく減衰量とを比較して減衰量の最大値を求め、前記減衰量の最大値に基づいて、前記入力信号を減衰させることを特徴とする請求項1に記載の歪補償装置。
【請求項3】
前記送信出力レベル抑制手段は、前記状態値が前記閾値を超えている値が大きいほど前記減衰量が大きくなるように、前記減衰量を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の歪補償装置。
【請求項4】
電力増幅器の出力信号に生じる歪と逆特性の歪を入力信号に付加し、前記出力信号に生じる歪を補償する歪補償方法であって、
前記出力信号から、前記電力増幅器の状態を示す状態値として、VSWR値と、前記電力増幅器の電源電圧と、前記電力増幅器の電力損失とのうちの少なくとも1つを算出し、
前記VSWR値と、前記電源電圧と、前記電力損失とのうちの少なくとも1つが、予め設定された閾値を超えている場合に、前記入力信号の減衰量を算出し、
算出された前記減衰量に基づいて、前記入力信号を減衰させる、
ことを特徴とする歪補償方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力増幅器などの出力信号の歪を補償する歪補償装置および歪補償方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信装置などに用いられる電力増幅器には、出力信号に発生する歪成分を打ち消すような歪(逆歪特性)を入力信号に予め与えることにより、出力信号の歪みを補償するデジタルの歪補償器(DPD:Digital Pre-Distortion)が用いられている(例えば、特許文献1参照)。歪補償器は、安定した環境下で運用される携帯電話の基地局などの他、MF/HF帯を利用する海岸局や船舶局など、過酷な環境下で運用される無線通信装置においても利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-147983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
海岸局および船舶局などでは、強風によりアンテナが動揺すると、VSWR(Voltage Standing Wave Ratio)値が大きくなり、出力のインピーダンスの整合が崩れてゲインが変動し、飽和出力電力が定格出力電力を下回る、という現象(以下、コンプレッションレベルの低下ともいう)が発生する。コンプレッションレベルの低下により、電力増幅器の出力が下がると、出力レベルを補償する機能を備えた歪補償器では、ゲインを増加させて出力を戻そうとする。しかしながら、このような場合には、電力増幅器の動作点が飽和領域に近くなり、歪補償器は飽和領域では歪補償が行えないため、IMD(Intermodulation Distortion)やACPR(Adjacent Channel Leakage Ratio)などの仕様を満たすことができなくなることが想定される。
【0005】
また、船舶局では、無線通信装置にバッテリーや発電装置から電力を供給しているが、バッテリーや発電装置は、環境の変化によって電源電圧が不安定になることがある。例えば、電源電圧が設計値よりも低くなった場合には、VSWR値の場合と同様に、電力増幅器のコンプレッションレベルが低下し、IMDやACPRなどの仕様を満たすことができなくなることが想定される。また、これとは逆に、電源電圧が設計値よりも高くなった場合には、電力損失が設計値よりも大きくなり、電力増幅器が想定された設計値以上に発熱し破損するおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、電力増幅器のコンプレッションレベルが低下した場合でも安定的に歪補償を行うことが可能な歪補償装置および歪補償方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、電力増幅器の出力信号に生じる歪と逆特性の歪を入力信号に付加し、前記出力信号に生じる歪を補償する歪補償装置であって、前記出力信号から、前記電力増幅器の状態を示す状態値として、VSWR値と、前記電力増幅器の電源電圧と、前記電力増幅器の電力損失とのうちの少なくとも1つを算出する増幅器状態値算出手段と、前記VSWR値と、前記電源電圧と、前記電力損失とのうちの少なくとも1つが、予め設定された閾値を超えている場合に、前記入力信号の減衰量を算出し、算出された前記減衰量に基づいて、前記入力信号を減衰させる送信出力レベル抑制手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の歪補償装置において、前記送信出力レベル抑制手段は、前記VSWR値に基づく減衰量と、前記電源電圧に基づく減衰量と、前記電力損失に基づく減衰量とを比較して減衰量の最大値を求め、前記減衰量の最大値に基づいて、前記入力信号を減衰させることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2のいずれか1項に記載の歪補償装置において、前記送信出力レベル抑制手段は、前記状態値が前記閾値を超えている値が大きいほど前記減衰量が大きくなるように、前記減衰量を算出することを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、電力増幅器の出力信号に生じる歪と逆特性の歪を入力信号に付加し、前記出力信号に生じる歪を補償する歪補償方法であって、前記出力信号から、前記電力増幅器の状態を示す状態値として、VSWR値と、前記電力増幅器の電源電圧と、前記電力増幅器の電力損失とのうちの少なくとも1つを算出し、前記VSWR値と、前記電源電圧と、前記電力損失とのうちの少なくとも1つが、予め設定された閾値を超えている場合に、前記入力信号の減衰量を算出し、算出された前記減衰量に基づいて、前記入力信号を減衰させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1および4に記載の発明によれば、電力増幅器の状態値であるVSWR値、電源電圧、電力損失のうち、少なくとも1つが予め設定された閾値を超えている場合に、入力信号の減衰量を算出し、算出された減衰量に基づいて入力信号を減衰させるので、歪補償装置が電力増幅器の飽和領域で使用されるのを抑制することができ、電力増幅器のコンプレッションレベルが低下した場合でも安定的に歪補償を行うことが可能である。
【0012】
また、請求項2に記載の発明によれば、VSWR値、電源電圧および電力損失から求められた減衰量のうち、最大の減衰量に基づいて入力信号を減衰させるので、VSWR値、電源電圧および電力損失のうちのいずれを要因として電力増幅器のコンプレッションレベルが低下している場合でも、安定的に歪補償を行うことが可能である。
【0013】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、状態値が閾値を超えている値が大きいほど、すなわち、電力増幅器のコンプレッションレベルが低下しているほど、減衰量が大きくなるように減衰量を算出するので、電力増幅器のコンプレッションレベルの低下状態がどのようなレベルであっても、安定的に歪補償を行うことが可能である。特に、VSWR値と電力損失とに関しては、閾値を超えている値が大きいほど減衰量が大きくなるように入力信号の減衰量を算出するので、負帰還がかかり安定的に歪補償を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明の実施の形態に係る無線通信装置の概略構成を示すブロック図である。
図2図1に示す送信出力レベル抑制部の概略構成を示すブロック図である。
図3】電力増幅器の状態値に基づいて入力信号を減衰する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0016】
図1は、この発明の実施の形態に係る無線通信装置1の概略構成を示すブロック図である。無線通信装置1は、例えば、MF/HF帯を利用する海岸局や船舶局などであり、本発明の歪補償装置および歪補償方法を実行し、電力増幅器のコンプレッションレベル(ゲインコンプレッション)の低下に応じて入力信号のレベルを下げることで、安定的に歪補償を行うことが可能である。
【0017】
無線通信装置1は、第1のレベル調整部2と、DPD処理部3と、第2のレベル調整部4と、電力増幅器(PA)5と、を備えている。また、無線通信装置1は、第3のレベル調整部6と、遅延調整部7と、を備えている。さらに、無線通信装置1は、進行波電力検出部8と、反射波電力検出部9と、ドレイン電圧検出部10と、ドレイン電流検出部11と、センサ用アナログデジタルコンバータ(センサADC)12と、PA状態モニタ13と、送信出力レベル抑制部(送信出力レベル抑制手段)14と、を備えている。
【0018】
第1のレベル調整部2は、DPD処理部3の入力段に設置された可変型の減衰器であり、入力信号をDPD処理部3に適した入力レベルに減衰する。また、第1のレベル調整部2は、電力増幅器5の動作状態に応じて、送信出力レベル抑制部14により入力信号の減衰量が算出された場合に、送信出力レベル抑制部14から入力された減衰制御信号Gdに基づいて、入力信号のレベルを調整する機能も備えている。
【0019】
DPD処理部3は、多項式近似を用いて逆歪特性を算出する。具体的には、DPD処理部3は、電力増幅器5の出力信号から帰還されたFBK信号(フィードバック信号)と、REF信号(参照信号)とを多項式近似を用いて比較し、出力信号に生じる歪と逆の歪特性を算出し、算出した逆歪特性を入力信号に付加する。逆歪特性が付加された入力信号は、第2のレベル調整部4に入力される。
【0020】
第2のレベル調整部4は、DPD処理部3の出力段に設置された減衰器であり、入力信号を電力増幅器5に適した入力レベルに減衰する。電力増幅器5は、例えば、アイソレータ、小信号アンプ、ドライバアンプおよび終段のドハティアンプなどから構成された多段アンプであり、入力された入力信号を所定の電力まで増幅する。
【0021】
第3のレベル調整部6は、上述したFBK信号を遅延調整部7およびDPD処理部3に適した入力レベルに減衰する。遅延調整部7は、レベル調整されたFBK信号と、REF信号とのタイミングが一致するように遅延調整を行う。遅延調整されたREF信号およびFBK信号は、DPD処理部3および送信出力抑制部14に入力される。
【0022】
進行波電力検出部8、反射波電力検出部9、ドレイン電圧検出部10、ドレイン電流検出部11、センサADC12、およびPA状態モニタ13は、本発明の増幅器状態値算出手段に相当し、電力増幅器5の出力信号から、電力増幅器5の状態を示す状態値を算出する。
【0023】
進行波電力検出部8は、図示しない電力分配器により分配された電力増幅器5の出力信号から進行波電力(forward)を検出し、平均化してセンサADC12に入力する。反射波電力検出部9は、進行波電力検出部8と同様に、出力信号から反射波電力(reverse)を検出し、平均化してセンサADC12に入力する。ドレイン電圧検出部10およびドレイン電流検出部11は、電力増幅器5の最終段からドレイン電圧およびドレイン電流を検出し、平均化してセンサADC12に入力する。
【0024】
センサADC12は、進行波電力検出部8から入力された進行波電力と、反射波電力検出部9から入力された反射波電力と、ドレイン電圧検出部10から入力されたドレイン電圧と、ドレイン電流検出部11から入力されたドレイン電流とをデジタル信号に変換する。そして、センサADC12は、デジタル信号に変換された進行波電圧Vfと、反射波電圧Vrと、ドレイン電圧Vdと、ドレイン電流IdとをPA状態モニタ13に入力する。
【0025】
PA状態モニタ13は、電力増幅器5の状態を示す状態値として、VSWR値、電源電圧Vdおよび電力損失Plossを算出する。VSWR値(電圧定在波比)は、無線周波数電力が負荷へどれだけ効率よく伝送されるかを示す計測値であり、本実施形態では、電力増幅器5からアンテナ(図示せず)までの伝送状態を示す計測値として利用する。例えば、MF/HF帯を利用する海岸局および船舶局などでは、強風によりアンテナが動揺すると、出力のインピーダンスの整合が崩れるためVSWR値が大きくなり、電力増幅器5のゲインが低下し、さらにコンプレッションレベルが低下する。コンプレッションレベルが低下すると、電力増幅器5の動作点が飽和領域に近くなるが、多項式近似を用いるDPD処理部3はダイナミックレンジが狭いため、飽和領域では歪補償が行えない。そのため、IMDやACPRなどの仕様を満たすことができなくなることが想定される。
【0026】
また、船舶局では、無線通信装置1にバッテリーや発電装置から電力を供給しているが、バッテリーや発電装置は、環境の変化によって電源電圧Vdが不安定になることがある。例えば、電源電圧Vdが設計値よりも低くなった場合には、VSWR値の場合と同様に、電力増幅器5のコンプレッションレベルが低下し、IMDやACPRなどの仕様を満たすことができなくなることが想定される。また、これとは逆に、電源電圧Vdが設計値よりも高くなった場合には、電力損失Plossが設計値よりも大きくなり、電力増幅器5が想定された設計値以上に発熱し破損するおそれがある。
【0027】
本実施形態では、電力増幅器5のコンプレッションレベルが低下していることを示す状態値として、VSWR値および電源電圧Vdを算出し、電力増幅器5の発熱状態を示す状態値として電力損失Plossを算出する。PA状態モニタ13は、下記の数式1によりVSWR値を算出する。また、PA状態モニタ13は、下記の数式2により電力損失Plossを算出する。なお、電源電圧Vdは、ドレイン電圧検出部10からセンサADC12を介して入力されたドレイン電圧がそのまま利用される。
【0028】
[数1]
VSWR=(Vf+Vr)/Vf-Vr)・・・・(1)
【0029】
[数2]
Ploss=Vd・Id-Vf・・・・(2)
【0030】
図2は、送信出力レベル抑制部14の機能的構成を示すブロック図である。送信出力レベル抑制部14は、第1減衰量算出部141と、第2減衰量算出部142と、第3減衰量算出部143と、第4減衰量算出部144と、ピーク抑圧量算出部145と、減衰制御部146とを備えている。
【0031】
第1減衰量算出部141は、PA状態モニタ13から入力されたVSWR値に基づいて、第1のレベル調整部2によるDPD入力信号の減衰量を算出する。具体的には、第1減衰量算出部141は、図中のグラフにて示すように、例えば、VSWR値の増大によって電力増幅器5のコンプレッションレベルが低下する際の閾値(例えば、1.5)を予め設定し、VSWR≧1.5のときに、VSWR値が0.5大きくなるごとに3dBの傾斜でDPD入力信号のレベルを低下させるような減衰量att1を算出する。
【0032】
第2減衰量算出部142は、PA状態モニタ13から入力された電源電圧Vdに基づいて、第1のレベル調整部2によるDPD入力信号の減衰量を算出する。具体的には、第2減衰量算出部142は、図中のグラフにて示すように、例えば、電源電圧Vdの低下によって電力増幅器5のコンプレッションレベルが低下する際の閾値(例えば、22V)を基準電圧(24V)に基づいて予め設定し、電源電圧Vd≦22Vのときに、電源電圧Vdが1V下がるごとに3dBの傾斜でDPD入力信号のレベルを低下させるような減衰量att2を算出する。
【0033】
第3減衰量算出部143は、PA状態モニタ13から入力された電力損失Plossに基づいて、第1のレベル調整部2によるDPD入力信号の減衰量を算出する。具体的には、第3減衰量算出部143は、図中のグラフにて示すように、例えば、電力損失Plossの低下によって電力増幅器5の発熱量が大きくなる際の閾値(例えば、54dBm=250W)を基準電力に基づいて予め設定し、電力損失Ploss≧54dBmのときに、電力損失Plossが1dB大きくなるごとに3dBの傾斜でDPD入力信号のレベルを低下させるような減衰量att3を算出する。
【0034】
第4減衰量算出部144およびピーク抑圧量算出部145は、電力増幅器5のコンプレッションレベルに相当するピーク抑圧量を算出し、算出されたピーク抑圧量に基づいてDPD入力信号の減衰量を算出する。すなわち、第1減衰量算出部141、第2減衰量算出部142および第3減衰量算出部143は、電力増幅器5のコンプレッションレベルが低下する際に影響が現れる状態値(VSWR、VdおよびPloss)に基づいてDPD入力信号の減衰量を算出しているのに対し、第4減衰量算出部144およびピーク抑圧量算出部145は、ピーク抑圧量(コンプレッションレベル)を直接に算出して減衰量を求めている。これにより、環境や送信周波数の変化などによって、コンプレッションレベルと、VSWR値、電源電圧Vdおよび電力損失Plossとの因果関係が定量的に表現することが難しい状況であっても、コンプレッションレベルの低下に応じてDPD入力信号のレベルを下げることができ、安定的に歪補償を行うことができるようになる。
【0035】
ピーク抑圧量算出部145は、入力信号から生成されたREF信号と、出力信号から生成されたFBK信号とから電力増幅器5のゲインを求め、電力増幅器5の状態を示す状態値として、ゲインの最大値と最大振幅時のゲインとの差分であるピーク抑圧量を算出する。より具体的には、REF信号およびFBK信号から電力増幅器の瞬時ゲインを求め、ゲイン最大時のFBK信号レベルを基準に、それよりも大きい瞬間のなかでのゲイン最小のものをピーク値とみなし、ゲインの最大値とピーク値との差分からピーク抑圧量を算出する。
【0036】
ピーク抑圧量算出部145は、図中のピーク抑圧量算出フローのステップS1に記載されているように、電力増幅器5のゲインの最大値Gpを算出する。具体的には、遅延調整済みのREF信号とFBK信号とを比較し、電力増幅器5のゲインG(FBK/REF)を全サンプルにおいて計算する。次いで、ゲインGの時間波形について、指数移動平均Gpを求める。このとき、指数移動平均Gpの算出に用いる平滑化係数Kpとして、アタック時(ゲインGの上昇)の平滑化係数Kpaと、リリース時(ゲインGの下降)の平滑化係数Kprとを予め設定しておく。そして、1つ前のサンプルのゲインGと指数移動平均Gpとの大小関係に応じて、次のサンプルの指数移動平均Gpを求める際に利用する平滑化係数Kpaと平滑化係数Kprとを適応的に切り替えることで、実質的に最大値に近い指数移動平均Gpを求めることができる。
【0037】
例えば、1つ前のサンプルがG≧Gpのときには、次のサンプルでは平滑化係数KpとしてKpaを利用して指数移動平均Gpを算出する。また、1つ前のサンプルがG<Gpのときには、次のサンプルでは平滑化係数KpとしてKprを利用して指数移動平均Gpを算出する。KpaおよびKprは、アタック時(ゲインGの上昇)の時間(例えば、1ms)がリリース時(ゲインGの下降)の時間(例えば、1500ms)に対して十分に速くなるように設定することで、ゲインの最大値Gpを算出することができる。
【0038】
また、ピーク抑圧量算出部145は、図中のピーク抑圧量算出フローのステップS2に記載されているように、電力増幅器5のゲインの最小値Gmを算出する。具体的には、ステップS1のゲインの最大値Gpの演算中に、最大値GpとなるFBK信号の信号レベルLpを記憶しておき、FBK信号の時間波形のレベルをLとした際に、L≧Lpとなるサンプルにおいて、ゲインGの指数移動平均Gmを求める。このとき、指数移動平均Gmの算出に用いる平滑化係数Kmとして、アタック時(ゲインGの上昇)の平滑化係数Kmaと、リリース時(ゲインGの下降)の平滑化係数Kmrとを予め設定しておく。そして、1つ前のサンプルのゲインGと指数移動平均Gmとの大小関係に応じて、次のサンプルの指数移動平均Gmを求める際に利用する平滑化係数Kmaと平滑化係数Kmrとを適応的に切り替えることで、振幅の大きい瞬時成分においてのゲイン最小値を求めることができ、実質的にピーク抑圧が発生している増幅器のピークでのゲインGmを求めることができる。
【0039】
例えば、1つ前のサンプルがG≧Gmのときには、次のサンプルでは平滑化係数KmとしてKmaを利用して指数移動平均Gmを算出する。また、1つ前のサンプルがG<Gmのときには、次のサンプルでは平滑化係数KmとしてKmrを利用して指数移動平均Gmを算出する。KmaおよびKmrは、アタック時(ゲインGの上昇)の時間(例えば、1500ms)がリリース時(ゲインGの下降)の時間(例えば、1ms)に対して十分に遅くなるように設定することで、ゲインの最小値Gmを算出することができる。
【0040】
また、ピーク抑圧量算出部145は、ステップS3に示すように、ゲインの最大値Gpと最小値Gmとの差分であるピーク抑圧量Gaを算出する。上述したように、ピーク抑圧量Gaは、電力増幅器5のコンプレッションレベルに相当する値となる。図2のピーク抑圧量算出部145内に示すグラフは、電力増幅器5のAM/AM特性を示し、縦軸が電力増幅器5のゲインG、横軸がFBK信号のレベルLとなっており、ゲインの最大値Gp、最小値Gm、および最大値GpのFBKレベルLpは、図示したような関係となる。
【0041】
なお、上記で説明したピーク抑圧量Gaの算出手法は一例であり、他の算出方法を用いてもよい。例えば、ゲインGの時間波形の最大値と最小値を常に保持・更新し、最大と最小の差からピーク抑圧量Gaを算出してもよい。
【0042】
第4減衰量算出部144は、ピーク抑圧量算出部145から入力されたピーク抑圧量Gaに基づいて、第1のレベル調整部2によるDPD入力信号の減衰量を算出する。具体的には、第4減衰量算出部144は、図中のグラフにて示すように、例えば、ピーク抑圧量Gaの閾値(例えば、3dB)を予め設定し、ピーク抑圧量Ga≧3dBのときに、ピーク抑圧量Gaが1dB大きくなるごとに3dBの傾斜でDPD入力信号のレベルを低下させるような減衰量att4を算出する。
【0043】
第1減衰量算出部141、第2減衰量算出部142、第3減衰量算出部143、および第4減衰量算出部144において算出された減衰量att1、att2、att3およびatt4は、減衰制御部146に入力される。減衰制御部146は、入力された減衰量att1、att2、att3およびatt4を比較して減衰量の最大値を求める。そして、減衰量の最大値に基づいて、DPD入力信号を減衰させるための減衰制御信号Gdを生成し、第1のレベル調整部2に入力する。第1のレベル調整部2は、減衰制御信号Gdに基づいてDPD入力信号を減衰する。例えば、第2減衰量算出部142にて算出された減衰量att2が最大値であった場合には、減衰制御部146は、減衰量att2に基づいてDPD入力信号を減衰させる。これにより、DPD処理部3が電力増幅器5の飽和領域で使用されるのを抑制することができ、電力増幅器5のコンプレッションレベルが低下した場合でも安定的に歪補償を行うことが可能である。
【0044】
次に、上記の実施の形態のうち、電力増幅器5の状態値に基づいてDPD入力信号を減衰する際の作用について、図3のフローチャートに基づいて説明する。PA状態モニタ13は、電力増幅器5の状態値として、VSWR値、電源電圧Vd、および電力損失Plossを算出する(ステップS10)。
【0045】
送信出力レベル抑制部14の第1減衰量算出部141、第2減衰量算出部142、および第3減衰量算出部143は、VSWR値、電源電圧Vd、および電力損失Plossがそれぞれの閾値を超えている場合(ステップS11でYES)、閾値を超えている値が大きいほど、減衰量が大きくなるように、DPD入力信号の減衰量att1、att2およびatt3をそれぞれ算出する(ステップS12)。また、送信出力レベル抑制部14のピーク抑圧量算出部145は、電力増幅器5のコンプレッションレベルに相当するピーク抑圧量Gaを算出し、第4減衰量算出部144は、算出されたピーク抑圧量Gaが大きいほど、減衰量が大きくなるようにDPD入力信号の減衰量att4を算出する。
【0046】
送信出力レベル抑制部14の減衰制御部146は、入力された減衰量att1、att2、att3およびatt4を比較して減衰量の最大値を求める。そして、減衰量の最大値に基づいて、DPD入力信号を減衰させるための減衰制御信号Gdを生成し、第1のレベル調整部2に入力する。第1のレベル調整部2は、減衰制御信号Gdに基づいてDPD入力信号を減衰する(ステップS13)。
【0047】
本実施の形態の無線通信装置1によれば、電力増幅器5の状態値であるVSWR値、電源電圧Vd、電力損失Plossのうち、少なくとも1つが予め設定された閾値を超えている場合に、DPD入力信号の減衰量を算出し、算出された減衰量に基づいてDPD入力信号を減衰させるので、DPD処理部3が電力増幅器5の飽和領域で使用されるのを抑制することができ、電力増幅器5のコンプレッションレベルが低下した場合でも安定的に歪補償を行うことが可能である。
【0048】
また、本実施の形態の無線通信装置1によれば、VSWR値、電源電圧Vdおよび電力損失Plossから求められた減衰量att1、att2およびatt3のうち、最大の減衰量に基づいてDPD入力信号を減衰させるので、VSWR値、電源電圧Vdおよび電力損失Plossのうちのいずれを要因として電力増幅器5のコンプレッションレベルが低下している場合でも、安定的に歪補償を行うことが可能である。
【0049】
さらに、本実施の形態の無線通信装置1によれば、VSWR値などの状態値が閾値を超えている値が大きいほど、すなわち、電力増幅器5のコンプレッションレベルが低下しているほど、DPD入力信号を大きく減衰させるので、電力増幅器5のコンプレッションレベルの低下状態がどのようなレベルであっても、安定的に歪補償を行うことが可能である。特に、VSWR値と電力損失とに関しては、DPD入力信号の減衰により、VSWR値と電力損失の値が下がるため負帰還がかかり安定的に歪補償を行うことが可能である。
【0050】
上記の実施の形態では、DPD処理部3の入力段に設置された第1のレベル調整部2によってDPD入力信号を減衰するようにしたが、DPD処理部3の出力段に設置された第2のレベル調整部4によってDPD出力信号を減衰してもよい。この場合、電力増幅器5から帰還したFBK信号のレベルを調整する第3のレベル調整部6により、FBK信号のレベルを第2のレベル調整部4で減衰させた分だけ増幅する。具体的には、第2のレベル調整部4で入力信号を3dB減衰した場合には、第3のレベル調整部6により、FBK信号のレベルを3dB増幅する。これにより、DPD処理部3の利得を変化させず、DPD処理部3後の出力を下げることができるので、全体として装置出力を下げることができ、DPD処理部3が電力増幅器5の飽和領域で使用されるのを抑制することができる。
【0051】
なお、この発明に係る歪補償装置および歪補償方法は、上記の実施形態で説明したMF/HF帯を利用する海岸局や船舶局の無線通信装置での利用に限定されるものではなく、他の帯域を利用する無線通信装置や、各種電力増幅装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 無線通信装置
2 第1のレベル調整部
3 DPD処理部
4 第2のレベル調整部
5 電力増幅器
6 第3のレベル調整部
7 遅延調整部
8 進行波電力検出部
9 反射波電力検出部
10 ドレイン電圧検出部
11 ドレイン電流検出部
12 センサADC
13 PA状態モニタ(増幅器状態値算出手段)
14 送信出力レベル抑制部(送信出力レベル抑制手段)
141 第1減衰量算出部
142 第2減衰量算出部
143 第3減衰量算出部
144 第4減衰量算出部
145 ピーク抑圧量算出部
146 減衰制御部
図1
図2
図3