(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158566
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】排尿される尿の流速及び/又は流量を測定する方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
G01P 5/20 20060101AFI20231023BHJP
A61B 5/20 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
G01P5/20 F
A61B5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068481
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(71)【出願人】
【識別番号】504013775
【氏名又は名称】学校法人 埼玉医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】本間 俊司
(72)【発明者】
【氏名】平原 裕行
(72)【発明者】
【氏名】姜 東赫
(72)【発明者】
【氏名】竹下 英毅
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038DD06
(57)【要約】
【課題】患者自らが非接触で簡単に行うことができ、測定精度にも優れる尿の流速及び/又は流量の測定方法並びにシステムを提供する。
【解決手段】排尿される尿の画像を記録すること、記録した尿の画像におけるアクシススイッチングの間隔を求めること、及び求めたアクシススイッチングの間隔から尿の流速及び流量の一方又は両方を算出することを含む、排尿される尿の流速及び/又は流量を測定する方法。排尿される尿の画像を記録するための手段、記録した尿の画像におけるアクシススイッチングの間隔を求めるための手段、及び求めたアクシススイッチングの間隔から尿の流速及び流量の一方又は両方を算出するための手段を含む、排尿される尿の流速及び/又は流量を測定するシステム。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排尿される尿の画像を記録すること、
記録した尿の画像におけるアクシススイッチングの間隔を求めること、及び
求めたアクシススイッチングの間隔から尿の流速及び流量の一方又は両方を算出することを含む、
排尿される尿の流速及び/又は流量を測定する方法。
【請求項2】
尿の画像が、動画または静止画である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
静止画は、2以上の連写静止画である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
記録した尿の画像を他所に移送し、前記他所において移送された画像からアクシススイッチングの間隔を求める、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
求めたアクシススイッチングの間隔を他所に移送し、前記他所において移送されたアクシススイッチングの間隔から尿の流速及び流量の一方又は両方を算出する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
算出された尿の流速及び流量の一方又は両方を他所に移送することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
算出された尿の流速及び流量の一方又は両方を表示することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
排尿される尿の画像を記録するための手段、
記録した尿の画像におけるアクシススイッチングの間隔を求めるための手段、及び
求めたアクシススイッチングの間隔から尿の流速及び流量の一方又は両方を算出するための手段を含む、
排尿される尿の流速及び/又は流量を測定するシステム。
【請求項9】
排尿される尿の画像を記録するための手段がスマートグラスである、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
アクシススイッチングの間隔から尿の流速及び流量の一方又は両方を算出するための手段がスマートフォンである、請求項8または9に記載のシステム。
【請求項11】
排尿される尿の画像を記録するための手段から、アクシススイッチングの間隔を求めるための手段に、尿の画像を移送するための手段をさらに含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項12】
アクシススイッチングの間隔を求めるための手段から、尿の流速及び流量の一方又は両方を算出するための手段に、アクシススイッチングの間隔を移送するための手段をさらに含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項13】
尿の流速を算出するための手段が、医療機関に設置された算出手段である請求項8に記載のシステム。
【請求項14】
算出された尿の流速及び流量の一方又は両方を表示するための手段、または算出された尿の流速及び流量の一方又は両方を記録するための手段をさらに含む請求項8に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排尿される尿の流速及び/又は流量を測定する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺肥大症、過活動膀胱、神経因性膀胱などに起因する排尿障害の診断・治療・経過観察において尿流測定は欠かせない。医療機関においては、簡易便器の下にカップを設置した機械を用い、尿量と尿勢を記録する方法が一般的である。しかしながら、日常で利用するトイレとは環境が異なるため患者が緊張し、あるいは排尿のタイミングが合わないなど、うまく測定できないことも多い。また、日常の状態で複数回の測定を行うことが理想的であるが、これらの方法を自宅で実施することは費用面および衛生面から現実的ではない。
【0003】
このような問題点を克服するために、これまでいくつかの簡便な尿流測定法が提案および開発されてきた。空中超音波ドプラシステムを応用した非接触尿流測定法(特許文献1)、撮影した排尿時の画像を解析し、その流量を求める方法(特許文献2)、温度センサーを用いた非接触尿流測定法(特許文献3)、水車型の尿流量センサーを利用する方法(特許文献4)、複数のバイオセンサーを利用する方法(特許文献5、6)が提案されている。いずれの方法も有用性が示されているものの、患者が日々手間をかけずに記録できるようなシステムとしては完成していない。
【0004】
日常的に尿流を簡便に記録できる方法として、スマートフォンで排尿の音を録音し、その強弱から排尿パターンを再現するアプリケーションがある(BE Technologies社、MenHealth(登録商標))。これは、患者の負担がほとんどない画期的な手法である。しかし、尿が着弾する液面が必要なこと、および排尿障害のうちでも最も重要な異常の1つとなる「尿勢低下」した排尿では、音が小さくなるために測定精度がかなり劣る可能性があることが難点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-034548号公報
【特許文献2】特開2018-109285号公報
【特許文献3】特開2015-178764号公報
【特許文献4】特開2020-101381号公報
【特許文献5】特開2021-060221号公報
【特許文献6】特開2021-018211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、医療機関で標準的に行われる方法に代わる新しい方法がいくつか提案されているものの、尿に非接触で行えるために衛生面で優れ、測定精度に優れることで実臨床の利用にも耐え得、自宅で患者自らが簡単に行い得る尿の流速及び/又は流量の測定方法及びその装置は未だ実用化に至っていない。
【0007】
本発明は、患者自らが非接触で簡単に行うことができ、測定精度にも優れる尿の流速及び/又は流量の測定方法並びにシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の通りである。
[1]
排尿される尿の画像を記録すること、
記録した尿の画像におけるアクシススイッチングの間隔を求めること、及び
求めたアクシススイッチングの間隔から尿の流速及び流量の一方又は両方を算出することを含む、
排尿される尿の流速及び/又は流量を測定する方法。
[2]
尿の画像が、動画または静止画である、[1]に記載の方法。
[3]
静止画は、2以上の連写静止画である、[2]に記載の方法。
[4]
記録した尿の画像を他所に移送し、前記他所において移送された画像からアクシススイッチングの間隔を求める、[1]~[3]のいずれか1項に記載の方法。
[5]
求めたアクシススイッチングの間隔を他所に移送し、前記他所において移送されたアクシススイッチングの間隔から尿の流速及び流量の一方又は両方を算出する、[1]~[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6]
算出された尿の流速及び流量の一方又は両方を他所に移送することをさらに含む[1]~[5]のいずれか1項に記載の方法。
[7]
算出された尿の流速及び流量の一方又は両方を表示することをさらに含む[1]~[6]のいずれか1項に記載の方法。
[8]
排尿される尿の画像を記録するための手段、
記録した尿の画像におけるアクシススイッチングの間隔を求めるための手段、及び
求めたアクシススイッチングの間隔から尿の流速及び流量の一方又は両方を算出するための手段を含む、
排尿される尿の流速及び/又は流量を測定するシステム。
[9]
排尿される尿の画像を記録するための手段がスマートグラスである、[8]に記載のシステム。
[10]
アクシススイッチングの間隔から尿の流速及び流量の一方又は両方を算出するための手段がスマートフォンである、[8]または[9]に記載のシステム。
[11]
排尿される尿の画像を記録するための手段から、アクシススイッチングの間隔を求めるための手段に、尿の画像を移送するための手段をさらに含む、[8]~[10]のいずれか1項に記載のシステム。
[12]
アクシススイッチングの間隔を求めるための手段から、尿の流速及び流量の一方又は両方を算出するための手段に、アクシススイッチングの間隔を移送するための手段をさらに含む、[8]~[11]のいずれか1項に記載のシステム。
[13]
尿の流速を算出するための手段が、医療機関に設置された算出手段である[8]~[12]のいずれか1項に記載のシステム。
[14]
算出された尿の流速及び流量の一方又は両方を表示するための手段、または算出された尿の流速及び流量の一方又は両方を記録するための手段をさらに含む[8]~[13]のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、患者自らが非接触で簡単に行うことができ、測定精度にも優れる尿の流速及び/又は流量の測定方法及びシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例で用いた解析体系の概略説明図を示す。
【
図2】実施例で用いたVOF法による自由界面の例を示す。
【
図5】アクシススイッチングの位置(ねじれ位置)Lの計測例を示す。
【
図6】アクシススイッチングの位置(ねじれ位置)と流量との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<尿の流速及び/又は流量の測定方法>
本発明は、排尿される尿の画像を記録すること、
記録した尿の画像におけるアクシススイッチングの間隔を求めること、及び
求めたアクシススイッチングの間隔から尿の流速及び流量の一方又は両方を算出することを含む、
排尿される尿の流速及び/又は流量を測定する方法に関する。
【0012】
本発明の方法は、流体の界面不安定現象のひとつであるアクシススイッチング現象を応用するものである。
【0013】
本発明の方法では、排尿される尿の画像を記録する。画像は、動画または静止画であることができ、静止画は、単独の静止画または2以上の連写静止画であることができる。動画または連写静止画を用いることで、排尿流速及び流量一方又は両方の時間変化を求めることができ、排尿流速及び流量の時間変化は排尿障害の診断に用いることができる。
【0014】
排尿される尿の画像の記録の方法には、特に制限はないが、排尿される尿におけるアクシススイッチングの間隔が認識できる程度の精度で記録される方法であればよい。画像の記録は、患者自身が行うことができ、患者自身による画像記録は、例えば、患者が画像記録デバイスを身につけまたは手に持って行うことができる。画像記録に用いるデバイスには特に制限はなく、例えば、スマートグラス、スマートフォン付属のカメラなどであることができる。例えば、スマートグラスを用いる場合、患者がスマートグラスを身につて非接触で画像記録することができる。
【0015】
次いで、記録した尿の画像におけるアクシススイッチングの間隔を求める。アクシススイッチングとは、断面形状が円形でなく長楕円形のノズルから液体が流出する際、流出直後に示す長楕円形の液柱断面の長軸と短軸が入れ替わり、ねじれ棒のような形状の噴流が観察される現象である(Rayleigh,L.,“On the Capillary Phenomena of Jets,”Proc.R.Soc.ondon,21,71-97,(1879)参照)。尿道の先端の形状は一般に長楕円形であることから、排尿される尿においてもアクシススイッチングが生じる。記録した尿の画像におけるアクシススイッチングの間隔は、既存の画像解析手法を用いて求めることができる。画像解析手法においては、画像を二値化して尿の輪郭を抽出し、アクシススイッチングの位置を特定し、その長さからアクシススイッチングの間隔を求めることかできる。
【0016】
アクシススイッチングの間隔は、画像記録デバイスと同じデバイスにおいて求めることができる他、記録した尿の画像を他所に移送し、移送先の他所において、移送された画像からアクシススイッチングの間隔を求めることもできる。例えば、スマートグラスで記録した画像を、スマートフォンなどのデバイスに移送し、移送後のデバイスでアクシススイッチングの間隔を求めることもできる。
【0017】
求めたアクシススイッチングの間隔から尿の流速及び流量の一方又は両方を算出する。流速は、単位時間当たりの長さであり、例えば、mm/秒、cm/秒などの単位で表示される。流量は、単位時間当たりの容量であり、例えば、cm3/秒、mL/秒などの単位で表示される。流速の算出は、アクシススイッチングの間隔に基づいて行う。アクシススイッチングの間隔と流速及び流量にはそれぞれ相関があり、その間隔の時系列変化を記録することで尿流速及び流量をそれぞれ算出できる。尿道の断面積として想定される放出口から放出される液体により形成されるアクシススイッチングの間隔と流体の流速及び流量の一方又は両方との関係を事前に求めておき、この関係を用いて、測定されたアクシススイッチングの間隔を流速及び流量に換算することができる。事前に求めるアクシススイッチングの間隔と流体の流速及び流量との関係は、シミュレーションによって求めても良いし、実際の尿の放出を用いて求めても良い。シミュレーションの場合、用いる液体は、尿が有する粘度等の物性を考慮して選定することが適当である。
【0018】
尿の流量は、尿流速と尿道の断面積との積として求められるので、アクシススイッチングの間隔から換算により求められた流速を、尿道の断面積に応じて流量に換算して、排尿される尿の流量を求めることもできる。本発明では、事前に把握されたアクシススイッチングの間隔と尿の流量の関係を用いて、尿の流量を直接求めることもできるし、事前に把握されたアクシススイッチングの間隔と尿の流速の関係を用いて、アクシススイッチングの間隔から尿の流速を求め、さらに、求めた流速から測定対象の尿道の断面積を用いて尿の流量を求めることもできる。
【0019】
アクシススイッチングの間隔から尿の流速及び流量の一方又は両方の算出は、例えば、患者が有するスマートフォンなどで行うことができる。あるいは、求めたアクシススイッチングの間隔を他所に移送し、移送先の他所において、移送されたアクシススイッチングの間隔から尿の流速及び流量の一方又は両方の算出をすることもできる。例えば、患者が有するスマートフォンなどで求めたアクシススイッチングの間隔を、インターネットなどの手段により医療機関に移送し、移送された医療機関においてアクシススイッチングの間隔から尿の流速及び流量の一方又は両方の算出をすることもできる。
【0020】
アクシススイッチングの間隔から尿の流速の算出及び流量の一方又は両方の算出を患者が有するスマートフォンなどで行い、算出された尿の流速及び流量の一方又は両方を他所、例えば、医療機関に移送することもできる。
【0021】
アクシススイッチングの間隔と求められた尿の流速及び流量の一方又は両方は、患者が有するスマートフォンなどや医療機関において記録されることができる。医療機関に移送された尿の流速及び流量の情報は、医療従事者において用いられ、例えば、遠隔診断の資料とされることができる。
【0022】
本発明の方法は、算出された尿の流速及び流量の一方又は両方を表示することをさらに含むことができる。尿の流速及び流量の一方又は両方は、例えば、スマートフォンなどや、パソコンなどのデバイスにおけるディスプレイ表示されること、紙媒体等に印刷されることができる。
【0023】
<尿の流速測定システム>
本発明は、排尿される尿の画像を記録するための手段、
記録した尿の画像におけるアクシススイッチングの間隔を求めるための手段、及び
求めたアクシススイッチングの間隔から尿の流速及び流量の一方又は両方を算出するための手段を含む、
排尿される尿の流速及び/又は流量を測定するシステムを包含する。
【0024】
尿される尿の画像を記録するための手段には、特に制限はないが、排尿される尿におけるアクシススイッチングの間隔が認識できる程度の精度で記録できる手段であればよい。例えば、スマートグラスであることができるが、これに限定される意図ではない。スマートグラス以外に例えば、スマートフォン付属のカメラなどを挙げることができる。記録する画像は、動画または静止画であることができ、静止画は、単独の静止画または2以上の連写静止画であることができる。
【0025】
排尿される尿の画像を記録するための手段から、アクシススイッチングの間隔を求めるための手段に、尿の画像を移送する手段をさらに含むことができる。尿の画像を移送する手段には特に制限はなく、例えば、インターネットやブルートゥース(登録商標)などの手段であることができる。
【0026】
記録した尿の画像におけるアクシススイッチングの間隔を求めるための手段は、画像解析をすることができる手段である。具体的には、画像を二値化して尿の輪郭を抽出し、アクシススイッチングの位置を特定し、その長さからアクシススイッチングの間隔を求める画像解析手法を実施できる手段である。そのような画像解析をすることができる手段として、例えば、画像解析ライブラリとしてインテル社のOpenCV(Open Source Computer Vision Library)を利用し、Android(登録商標)スマートフォン、iPhone(登録商標)、Windows(登録商標)パソコン向けに開発、実装された画像解析ソフトウエアを挙げることができる。
【0027】
求めたアクシススイッチングの間隔から尿の流速及び流量の一方又は両方を算出するための手段は、別途準備するアクシススイッチングの間隔と流速及び流量の一方又は両方との関係から、アクシススイッチングの間隔を尿の流速及び流量の一方又は両方に換算する演算機能を有する手段であるか、求めた流速と尿道の断面積から流量をさらに算出する演算機能を有する手段であることができる。このような手段は、Android(登録商標)スマートフォン、iPhone(登録商標)、Windows(登録商標)パソコン向けに標準的なライブラリを用いて開発されたソフトウエアであることができる。
【0028】
本発明のシステムは、算出された尿の流速及び流量の一方又は両方を表示するデバイスをさらに含むことができる。尿の流速及び流量の表示デバイスは、例えば、スマートフォンやパソコンなどのデバイスにおけるディスプレイであることができる。本発明のシステムは、紙媒体等への印刷手段を含むこともできる。
【0029】
本発明のシステムでは、記録した尿の画像から、尿の流速及び流量の一方又は両方を算出するデバイスがスマートフォンであることができる。このシステムを用いることで、測定した患者自身が計測した尿の流速及び流量の一方又は両方をその場で確認することができる。
【0030】
本発明のシステムは、算出された尿の流速及び流量一方又は両方を他のデバイスまたはシステムに移送するデバイスをさらに含むことができる。他のデバイスまたはシステムは、患者自身の記録媒体であるか、医療機関の記録媒体であることができる。他のデバイスまたはシステムが、遠隔地の医療機関に設置されたデバイスまたはシステムであることができる。移送手段には特に制限はなく、インターネットやブルートゥース(登録商標)などの手段を用いることができる。
【0031】
本発明の測定システムは、例えば、スマートグラスとスマートフォンから構成され、患者自らがスマートグラスで撮影した画像からアクシススイッチング間の距離をスマートフォンに格納されたアプリケーションを用いて算出し、患者の排尿パターンを再現することができ、再現した排尿パターンは、医療機関に移送することができる。
【0032】
本発明の測定システムは非接触型であるため、衛生面に優れている。さらに、従来の非接触型手法に比べ高い測定精度での排尿パターンの再現が可能である。さらに、スマートグラスとスマートフォンを利用することで、患者が日々手間をかけずに記録できるようなシステムとなり得る。
【実施例0033】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0034】
実施例1
アクシススイッチングを測定原理とした尿流量計の実施可能性を検証するために、以下の実施例において数値シミュレーションによる検討を行った。
【0035】
1-1 解析体系
図1に解析体系の概略説明図を示す。座標系はデカルト座標系とし、底面がxz面(奥行方向がx軸)高さ方向をy軸とした。計算領域として、幅15cm、奥行き1.6cm、高さ2cmの矩形ドメインを設定した。ドメイン内には空気(粘度μ
c、密度ρ
c)が満たされていると仮定した。ドメイン左側の側面にノズルを模擬した外径10mm、長さ10mmの円筒を、その中心がドメインの底から1.4cm、手前から0.8cmになるよう配置し、液体流出口として幅w=1mm、高さh=5mmのスリットを設けた。円筒内にはスリットと同じ形状の流路があるとした。その流路には時刻0において粘度μ
d、密度ρ
d、の尿を模擬した液体を満たし、入口(z=0の面)に速度v
dの一様な流れを与えた。重力は下向き(-y方向)に働くものとしたが、後で述べるアクシススイッチングのねじれ位置を計測する際には重力をゼロとした。
【0036】
空気および液体は非圧縮性Newton流体と仮定する。これら流体を物性値の異なる一つの流体とみなし(一流体近似)、支配方程式を記述すると、流体の運動方程式に対応するNavier-Stokes式および質量保存則に対応する連続の式は次のようになる。
【0037】
【0038】
ここで、t:時間、μ:密度、u:速度ベクトル、P:圧力、g:重力加速度ベクトル、ρ:粘度、σ:界面張力係数、κ:曲率、F:VOF関数(液相の体積分率)である。VOF関数とは、気液界面を表現するための方法の一つであるVOF(Volume Of Fluid Metho)法[Hirt,C.W.and Nichols,B.D.,“Volume of Fluid(VOF)Method for the Dynamics of Free Boundaries,”Journal of Computational Physics,39(1),201-225(1981)、太田光浩ら,混相流の数値シミュレーション,31-63,丸善出版(2015)参照]で使用する変数で位置の関数である。VOF法は各計算セルに対して各流体の体積分率(VOF関数)Fを設定することで気液界面を表現する。例えば、F=0を気相、F=1を液相、0<F<1に気液界面があると仮定すると
図2のように表現できる。界面の位置は、VOF関数の輸送方程式(3)を解き、界面位置を求める特定のアルゴリズムを利用することで決定できる。
【0039】
【0040】
境界条件は以下のとおりとする。円筒形のノズル部を除くドメインの左面(z=0cm)、ドメインの右面(z=15cm)、上面(y=2cm)、下面(y=0cm)、手前の面(x=1.6cm)、奥の面(x=0cm)の境界は、流入させた液体と同体積の空気または液体を流出させるため解放条件とした。円筒形のノズルの外面およびスリット形状を有する流路内面は、すべりの無い壁の条件(no-slip条件)を与えた。スリット形状の流路入口には、一様な速度分布で平均流速vdを与えた。なお、vdは実際の尿の流出を模擬するために時間の関数とした。
【0041】
これらの支配方程式を有限体積法で差分近似しOpenFOAM(Open source Field Operation And Manipulation)を用いて解いた。OpenFOAMは数値流体力学を含む連続体力学の数値解析およびその前後処理用のC++製ツールボックスである[OpenFOAM Foundation,https://openfoam.org/、オープンCAE学会編,OpenFOAMによる熱移動と流れの数値解析,森北出版(2016)参照]。本例で用いたVOF法もOpenFOAMで既に実装されているアルゴリズムを利用した。計算ドメインは構造格子(矩形メッシュ)で一様に分割し、そのメッシュ数は38万4千(32×40×300)である。
【0042】
1-2 液体流出シミュレーション実験
表1に流体の物性値を示す。空気の密度および粘度は常温の値を用いた。正常者の尿の水に対する比重および比粘度は、それぞれ1.003~1.030および1.037~1.142との報告がある[6]。水と比較して尿の密度は高々数%、その粘度は10%程度大きいが、流体力学的な差異はほとんど無いと考え、常温の水の物性値を使用した。表面張力については尿が混合物であることを考慮し、純粋な水の表面張力(72mN/m)の70%程度の値を使用した。これは、報告された正常者の尿の表面張力の値である48.2~65.1mN/m[小原洋右,“尿表面張力と尿中表面活性物質に関する研究,”日本医科大学医学会雑誌,38(5),216-224(1971)参照]とほぼ対応している。
【0043】
【0044】
図3にスリットからの流出条件を示す。時刻1sまで線形に吐出速度を4m/sまで上昇させ、その後2s間その速度を保ち、時刻3sから速度を線形に減少させ4sで流入を止めた。吐出速度は、式(4)により流量に変換することができ、液体流出口としてのスリット幅w=1mm、高さh=5mmであるから、最大流速v
d=4m/sは20mL/sの流量Qに相当する。
【0045】
【0046】
成人男性の最大尿流量は20~25mL/sとの報告があり[大越正秋,最新泌尿器科学,12-27,朝倉書店(1983)参照]、設定した流速及び流量は概ねこの範囲に対応している。
【0047】
1-3 アクシススイッチングの位置計測
図4にシミュレーションで得られた液体の流出を側面から捉えた様子を示す。出口からジェットが生成し、時刻0.5sで出口付近にアクシススイッチングによるねじれ位置がみられる。時刻1.9sにおいては、ねじれ位置が、さらに出口前方に移動していることがわかる。また、液体表面に二次的な小さな波動が観察され、実際の尿の流出の様子をほぼ再現できているものと考えられる。
【0048】
図5にアクシススイッチングの位置(ねじれ位置)の計測方法を示す。ねじれ位置は出口からねじれ位置が生じた場所までの距離をLとして計測した。また、重力をゼロとしジェットが下方に垂れ下がることを避け、計測する距離の正確性を確保した。この計測により流入条件として与えた流速v
dとL及び流量Qとの関係が得られる。
【0049】
計測により求められたねじれ位置Lと流量Qとの関係を
図6に示す。LとQの間には明確な相関関係があり、Lを計測することによりQを求めることができることが分かる。計測したデータは、以下の式で相関できた。
【0050】
【0051】
1-4
アクシススイッチングを測定原理とした尿流量計の開発のための数値シミュレーションを実施した。尿流を模擬したシミュレーションは、VOF法による界面追跡を応用しNavier-Stokes式を直接解いて、細長いスリットから噴出する液体の界面形状の時間変化を再現した。噴出したジェット断面の長軸と短軸が入れ替わるアクシススイッチングが起こる点(ねじれ位置)をシミュレーション動画から計測し、ねじれ位置と流量との関係を調査した。その結果、ねじれ位置と流量には明確な相関関係があることがわかり、その相関式を求めた。以上の検討結果から、アクシススイッチングを応用した尿流速の計測が実現可能であることが明らかとなった。
本発明の測定方法及びシステムを用いることで、患者と医療機関を結んだモニタリングシステムを構成できる。この場合、患者が自ら撮影する動画から抽出するデータはアクシススイッチング間の距離のみで、動画処理の負荷は小さく患者のスマートフォン内でのデータ処理も十分可能である。また、モニタリングシステムに転送する情報は排尿パターンのみとなり、通信の負荷が小さいだけでなく、撮影した動画が外部に流出する危険性も小さく患者のプライバシー保護の面でも極めて有効である。
このようなモニタリングシステムは、患者の手間がほとんどなく、毎日場所に依らずすべての排尿時に排尿パターンを記録することが可能となる。そして、排尿障害に対するきめ細かな治療経過のモニターを可能とし、これまで知られていなかった排尿障害の短期間内での症状の変化や、日内変動を捉えることも可能となるため、新しい診断・治療法の開発等に貢献することが期待される。