(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158572
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】Zn-Ni合金めっき鋼板の製造方法およびその製造設備
(51)【国際特許分類】
C25D 17/00 20060101AFI20231023BHJP
C25D 5/26 20060101ALI20231023BHJP
C25D 7/06 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
C25D17/00 J
C25D5/26 G
C25D7/06 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068493
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】武田 玄太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉本 宗司
(72)【発明者】
【氏名】河田 章
(72)【発明者】
【氏名】石本 明
(72)【発明者】
【氏名】松岡 佳史
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 秀行
【テーマコード(参考)】
4K024
【Fターム(参考)】
4K024AA19
4K024BA03
4K024BA04
4K024BA06
4K024BB02
4K024BC01
4K024CA01
4K024CA03
4K024CA06
4K024CA16
4K024CB06
4K024CB07
4K024CB08
4K024CB10
4K024CB14
4K024DA03
4K024DA04
4K024EA02
4K024GA02
4K024GA16
(57)【要約】
【課題】Zn-Ni合金めっきを施す際、特に付着量の多いZn-Niめっき層を形成する場合であっても、通板速度を低下させずに均一めっき層を有する鋼板の製造を可能とする方法について提案する。
【解決手段】連続走行する鋼板と、前記鋼板に沿わせて対向配置した電極板との間隙において、前記鋼板に向かってめっき液を供給しつつ前記電極板をアノードに、かつ前記鋼板をカソードにして通電し、Zn-Ni合金電気めっきを施す、Zn-Ni合金めっき鋼板を製造する方法であって、前記鋼板へ供給するめっき液の流量に対する、前記電極板の前記鋼板に対向していない背面側へ流出するめっき液の流量の比率である、めっき液排出率を10%以下とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続走行する鋼板と、前記鋼板に沿わせて対向配置した電極板との間隙において、前記鋼板に向かってめっき液を供給しつつ前記電極板をアノードに、かつ前記鋼板をカソードにして通電し、Zn-Ni合金電気めっきを施す、Zn-Ni合金めっき鋼板の製造方法であって、
前記鋼板へ供給するめっき液の流量に対する、前記電極板の前記鋼板に対向していない背面側へ流出するめっき液の流量の比率である、めっき液排出率を10%以下とするZn-Ni合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記鋼板は、質量%で、Cを0.3%以下、SiおよびMnのいずれか1種以上を合計で1.0~6.0%含む成分組成を有する請求項1に記載のZn-Ni合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
鋼板の走行ラインに沿わせて対向配置した電極板と、前記電極板側から前記走行ラインに向けてめっき液を供給する噴射ノズルとを有し、前記電極板がアノードおよび、前記鋼板がカソードであり、前記噴射ノズルから供給されるめっき液の流量に対する、前記電極板の前記鋼板に対向していない背面側へ流出するめっき液の流量の比率である、めっき液排出率が10%以下である、Zn-Ni合金めっき鋼板の製造設備。
【請求項4】
前記電極板は、前記走行ラインと交わる向きに延びて該電極板を貫通する、少なくとも1の貫通孔を有し、前記貫通孔の少なくとも1に、前記噴射ノズルを配置する、請求項3に記載のZn-Ni合金めっき鋼板の製造設備。
【請求項5】
前記電極板の背面側に、前記走行ライン側から順に、バックプレートおよび噴流ヘッダーを有し、前記噴流ヘッダーに前記バックプレートおよび前記電極板を貫通して延びる前記噴射ノズルの複数本が連結し、前記バックプレートは前記電極板の背面と電極接続部を介して接続するとともに、前記電極接続部の介在による前記バックプレートと前記電極板との空間に絶縁体を配置する、請求項3または4に記載のZn-Ni合金めっき鋼板の製造設備。
【請求項6】
前記電極板を複数枚の集合体として前記バックプレートの1枚に隙間なく組み合わせた、めっきセルの1または複数からなる、請求項5に記載のZn-Ni合金めっき鋼板の製造設備。
【請求項7】
前記めっきセルの各々において、前記電極接続部と干渉しない位置に前記噴流ヘッダーを複数に分割する請求項6に記載のZn-Ni合金めっき鋼板の製造設備。
【請求項8】
前記噴流ヘッダーは当該噴流ヘッダー内にめっき液を供給するめっき液配管を有し、該めっき液配管の断面積Akと、当該噴流ヘッダーに連結された噴射ノズルの噴射口の総断面積Anとの比Ak/Anが、2.5以上である請求項5に記載のZn-Ni合金めっき鋼板の製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性に優れるZn-Ni合金めっき鋼板を効率よく製造するための製造方法およびこの製造方法に用いる製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用表面処理鋼板として、Zn-Niめっき鋼板が使用されている。Zn-Niめっきは一般的に電気めっき方式で製造される。純Znめっきに比べて、Zn-Niめっきは耐食性に優れることで知られており、ホットプレス用鋼板として採用されている。Zn-Niめっきでは、皮膜中のNi含有量が耐食性に影響するため、Ni含有量を適正範囲に制御することが必要となる。一方、Zn-Ni合金を含むZn-鉄系合金電析は、より卑な金属であるZnが鉄属金属に比べて優先析出する変則型共析となることが知られている。
【0003】
また、電気めっき鋼板は、連続焼鈍ラインで焼鈍された後、連続焼鈍ラインとは別の電気亜鉛めっきラインで製造される。コイル状の冷延鋼板を電気亜鉛めっきラインに搬送し、防錆油を除去する脱脂工程、表面酸化皮膜を除去して表面を活性にする酸洗工程に続いて、電気めっき工程にて片面5~80g/m2の亜鉛あるいは亜鉛合金を付着させ、耐食性や塗装性を向上されるための各種化成皮膜をつける化成処理工程を経て、電気亜鉛めっき鋼板として出荷される。
【0004】
一般的な鋼板の電気めっき方法として、
図1に示すような水平型フローセル方式が知られている。この水平フローセル方式の電気めっき装置は、コンダクトロール40およびバックアップロール41のロール対の2対間に、電極板42aおよび42bで区画される通路43を形成し、この通路43に鋼板Pを通過させる際に、鋼板Pと電極板42aおよび42bとの間のギャップにノズルヘッダー44からめっき液30を供給すると共に、電極板42aおよび42bをアノード、鋼板Pをカソードとして、鋼板Pの表面と電極板42aおよび42bとの間で通電することによって、鋼板Pに電気Feめっきを施す装置である。この方式は、鋼板表裏面を同時にめっきできるという利点がある。上記の電気めっき装置は、通常5~15セル程度を連接させ、鋼板を通板させながら連続的にめっき処理をする。1セルあたりのめっき付着量は1~5g/m
2と薄く、これを積層させるめっき法であり、ライン速度や板幅に応じて電流を制御すればいいので、幅方向や長手方向の付着量分布は0.5~1g/m
2以内と均一にでき、かつ美麗な外観を得られることも大きな特徴である。積層型のめっき方式のため、例えば最終めっき付着量が20g/m
2程度の電機用亜鉛めっき鋼板の場合は、めっきセクションが生産上の能率ネック工程になることは無いが、より高い耐食性が求められる最終めっき付着量が60g/m
2超の自動車用Zn-Niめっき鋼板の場合、通板速度を低下させないと所望のめっき付着量を成膜できないため、めっきセクションが生産上の能率ネック工程となる。
【0005】
また、通板中の鋼板形状が幅方向に反っていると、鋼板と電極との距離が幅方向で異なり、電流分布が変化する(鋼板-電極距離が近い部分が、鋼板-電極距離が遠い部分よりも多くの電流が流れる)ため、付着量むらが発生するが、最終めっき付着量が60g/m2超の自動車用Zn-Niめっき鋼板の場合、面内下限付着量を保証するために部分的に過剰なめっき付着量となり、プレス加工時にトラブルの原因となるため、幅方向均一なめっき付着量制御をすることが求められる。
【0006】
ここに、高速電気めっき法として以下の技術が開示されている。
特許文献1における
図3には、複数のめっき液噴出口を設けたノズルヘッダーを電極の背面に前記電極と間隔をあけて配置するとともに、前記電極の前記ノズルヘッダーの各めっき液噴出口に対応する位置に、前記ノズルヘッダーからのめっき液を鋼板-電極間に案内するための貫通孔を前記電極に貫通させて設け、前記ノズルヘッダーの前記複数のめっき液噴出口からめっき液を噴射して鋼板に対してほぼ垂直方向に衝突させてめっきすることで、高電流密度で電気めっき鋼板を製造する方法が開示されている。
【0007】
また、めっき付着量を均一化する、めっき法として、特許文献2における第1図には、クッション形ノズル電極の幅両端にリブを設けて静圧を強めることによりC反り矯正する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-272999号公報
【特許文献2】特開昭60-86296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の方法によれば、純Znめっきでは高電流密度めっきが実現可能である。一方、Zn-Ni合金めっきは、適正な電極形状やめっき液噴射条件、電流密度条件が純Znめっきの場合と異なるため、鋼板表面への新鮮なめっき液供給が難しい。従って、Zn-Ni合金めっきを実施するに当たっては、幅方向付着量ムラが生じること、めっき皮膜中のNi含有量が所望範囲から外れること、めっきセル内で鋼板の反りが大きくなって電極-鋼板距離が面内で変化すること、を回避することが望まれる。
【0010】
特許文献2の方法では、鋼板形状をフラットにする効果はあるものの、めっき液が滞留しやすい構造のため60A/dm2以上の高電流密度めっきをZn-Ni合金めっきで行うと、めっき皮膜中のNi含有量が所望範囲外に外れてしまうため、通板速度を上げてZn-Ni合金めっき鋼板を製造することができなかった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、Zn-Ni合金めっきを施す際、特に付着量の多いZn-Niめっき層を形成する場合であっても、通板速度を低下させずに均一めっき層を有する鋼板の製造を可能とする方法について提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明の要旨は、以下のとおりである。
1.連続走行する鋼板と、前記鋼板に沿わせて対向配置した電極板との間隙において、前記鋼板に向かってめっき液を供給しつつ前記電極板をアノードに、かつ前記鋼板をカソードにして通電し、Zn-Ni合金電気めっきを施す、Zn-Ni合金めっき鋼板の製造方法であって、
前記鋼板へ供給するめっき液の流量に対する、前記電極板の前記鋼板に対向していない背面側へ流出するめっき液の流量の比率である、めっき液排出率を10%以下とするZn-Ni合金めっき鋼板の製造方法。
【0013】
2.前記鋼板は、質量%で、Cを0.3%以下、SiおよびMnのいずれか1種以上を合計で1.0~6.0%含む成分組成を有する前記1に記載のZn-Ni合金めっき鋼板の製造方法。
【0014】
3.鋼板の走行ラインに沿わせて対向配置した電極板と、前記電極板側から前記走行ラインに向けてめっき液を供給する噴射ノズルとを有し、前記電極板がアノードおよび、前記鋼板がカソードであり、前記噴射ノズルから供給されるめっき液の流量に対する、前記電極板の前記鋼板に対向していない背面側へ流出するめっき液の流量の比率である、めっき液排出率が10%以下である、Zn-Ni合金めっき鋼板の製造設備。
【0015】
4.前記電極板は、前記走行ラインと交わる向きに延びて該電極板を貫通する、少なくとも1の貫通孔を有し、前記貫通孔の少なくとも1に、前記噴射ノズルを配置する、前記3に記載のZn-Ni合金めっき鋼板の製造設備。
【0016】
5.前記電極板の背面側に、前記走行ライン側から順に、バックプレートおよび噴流ヘッダーを有し、前記噴流ヘッダーに前記バックプレートおよび前記電極板を貫通して延びる前記噴射ノズルの複数本が連結し、前記バックプレートは前記電極板の背面と電極接続部を介して接続するとともに、前記電極接続部の介在による前記バックプレートと前記電極板との空間に絶縁体を配置する、前記3または4に記載のZn-Ni合金めっき鋼板の製造設備。
【0017】
6.前記電極板を複数枚の集合体として前記バックプレートの1枚に隙間なく組み合わせた、めっきセルの1または複数からなる、前記5に記載のZn-Ni合金めっき鋼板の製造設備。
【0018】
7.前記めっきセルの各々において、前記電極接続部と干渉しない位置に前記噴流ヘッダーを複数に分割する前記6に記載のZn-Ni合金めっき鋼板の製造設備。
【0019】
8.前記噴流ヘッダーは当該噴流ヘッダー内にめっき液を供給するめっき液配管を有し、該めっき液配管の断面積Akと、当該噴流ヘッダーに連結された噴射ノズルの噴射口の総断面積Anとの比Ak/Anが、2.5以上である前記5に記載のZn-Ni合金めっき鋼板の製造設備。
ここで、前記8の製造設備は、前記5から7のいずれかに記載のZn-Ni合金めっき鋼板の製造設備であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の電気めっき鋼板の製造方法によれば、均一なめっき層を有するZn-Ni合金めっき鋼板を効率よく製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】本発明の電気めっきセルを側面側からみた断面の概略図である。
【
図3】本発明の電気めっきセルの円管ノズル周辺拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明のZn-Ni合金めっき鋼板の製造方法について、具体的に説明する。
本発明のZn-Ni合金めっき鋼板の製造方法は、連続走行する鋼板と、前記鋼板に沿わせて対向配置した電極板との間隙において、前記鋼板に向かってめっき液を供給しつつ前記電極板をアノードに、かつ前記鋼板をカソードにして通電し、Zn-Ni合金電気めっきを施す際に、前記鋼板へ供給するめっき液の流量に対する、前記電極板の前記鋼板に対向していない背面側へ流出するめっき液の流量の比率である、めっき液排出率を10%以下とするところに特徴がある。
【0023】
まず、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に用いる、溶融亜鉛めっきの製造設備の一実施形態について、
図2を参照して説明する。
図2に示す実施形態は、鋼板Pを水平方向に走行ライン上を走行させ、連続的に走行する鋼板Pに沿わせて対向配置した1対の電極板10を配置してなる。この電極板10は不溶性であることが好ましい。さらに、鋼板Pの走行方向における電極板10の上流側及び下流側には、各々鋼板Pに通電するためのコンダクターロール20およびバックアップロール21が配置されている。
【0024】
ここで、コンダクターロール20は、下地に導電性が良い銅めっきやニッケルめっきを使用した硬質クロムめっきの構成を有するものを用いることができる。また、電極板10は、その材質及び厚さは特に限定されないが、材質としては、イリジウムオキサイドを被覆したチタンが好適であり、厚さは5~100mmとすることが好ましい。鋼板Pと電極板10との間隔についても特に限定されないが、2~20mmの範囲とすることが好ましい。
【0025】
各電極板10の背面(電極板の鋼板Pとは反対側)には、電極接続部11を介してバックプレート12が配置され、整流器(図示せず)から出力された電流は通電棒16を通してバックプレート12に投入される。バックプレート12の背面には、めっき液30を供給するためのノズルヘッダー14が配置される。バックプレート12は、電流分布均一化のために、1セル内において一体物として形成することが好ましい。一方、鋼板に相対する電極板10は、取替え作業等を考慮して、幅方向および長手方向に適宜分割されていることが好ましい。
【0026】
ノズルヘッダー14は、電極板10およびバックプレート12にそれぞれ設けた、複数の貫通孔10aおよび12aを通して、バックプレート12側から電極板10側へ延びて電極板10の貫通孔10a内で留まる、絶縁材料で形成される複数の円管ノズル15を有する。ここで、円管ノズル15を絶縁材料で形成することが好ましいのは、めっき液供給系統をすべて絶縁材料とすることでめっき液流路内での意図しない電析を避けたり、円管ノズル15と電極板10との間でのスパークによる部材損傷を避けることができるからである。
【0027】
円管ノズル15は、その軸線が鋼板Pの表面と垂直になるように配置されることが好ましい。めっき液30はノズルヘッダー14から円管ノズル15に供給され、円管ノズル15の先端の噴出口から鋼板Pに向けて噴射される。
【0028】
このようにして、鋼板Pを水平方向に走行させつつ、鋼板P-電極板10間の間隙(ギャップ)にめっき液30を供給し、電極板10をアノード、鋼板Pをカソードとして、鋼板Pのめっき面と電極板10との間で通電して鋼板に電気めっきを施す。
【0029】
図3に、上記した電気めっき装置56における、1つのノズルヘッダー14およびその周辺を拡大して示す。円管ノズル15の先端は、電極板10の鋼板P側の表面よりも鋼板P側に突き出さないように、貫通孔10a内で留まる長さとする。さらに、貫通孔10aからめっき液30が電極板10の背面側へ流れ出さないように、電極接続部11の介在によって電極板10とバックプレート12との間に形成される空間(貫通孔10a内壁と円管ノズル15との間に隙間が生じる場合は該隙間を含む)を、例えば樹脂による絶縁体13によって塞ぐ必要がある。
【0030】
すなわち、めっき液が鋼板P側から電極板10とバックプレート12間に流出しないように、少なくとも電極板10とバックプレート12との間に形成される空間は絶縁体13で埋める必要がある。なお、電極板10の貫通孔10aの内壁と円管ノズル15外周面との間に隙間があれば、絶縁体13で埋めておくことが好ましい。ここで、貫通孔10a内の上記隙間を全く液漏れが無いように完全に埋めることができれば、電極板10とバックプレート12の間隙を絶縁体13で充填する必要はなくなるが、電極板10の多数の貫通孔の全てにおいて上記隙間を絶縁体で完全に塞ぐことは技術的又はコスト面で難しいことを考慮すると、より簡便に、電極板10とバックプレート12との間に形成される空間を、絶縁体13によって塞ぐことが有効である。
【0031】
電流をバックプレート12から多数の電極板10に均一に流すためには、バックプレート12と電極接続部11の接続面とを平滑に加工した上で、ボルト(図示なし)で締結させることが好ましい。この構造は、本装置を組み立てる上で極めて有効である。すなわち、電極接続部11を設けずにバックプレート12と電極板10とを締結することは構造的には可能であるが、締結ボルト周辺のみバックプレート12と電極板10が密着し、締結ボルトから少し離れた位置でわずかな隙間が生じると、該隙間の位置で通電時にスパークが発生し、バックプレート12および電極板10が損傷するため、そのような構造は望ましくない。
【0032】
さらに上記の通り、バックプレート12と電極板10の隙間を絶縁体13で埋めることにより、バックプレート12と電極板10と間の不均一な通電を避けることができる。バックプレート12と電極板10の隙間を埋める部材が絶縁体でない場合、電極接続部11以外に通電箇所ができ、鋼板から電極板を見た場合に不均一な電流分布となる。
【0033】
上記の構造にすると、貫通孔からめっき液が電極板10の背面側に流れ出さないため、円管ノズル15からのめっき液の噴流は電極板10相互の間隙に集中することになり、めっき液の噴圧を余すことなく該間隙を通過する鋼板Pに付与することができる。その結果、鋼板Pには上下両面から矯正力が働き、形状の悪い鋼板を平坦化しながら通板そして通電することが可能となる。
【0034】
ここで、
図2に示す電気めっきの1区間(3セル:1セルの電極サイズ:幅1.5m×通板方向長さ1m)において、上記した特許文献1に記載の排出孔を設けた電極板を用いる場合と、本発明に従う
図3に示した電極板を用いる場合とについて、円管ノズルからのめっき液噴流による鋼板Pへの押付け力を調査した。すなわち、
図2に示す電気めっきの1区間において、対の電極板の一方側に、内径φ8mmの円管ノズルを電極幅方向10本×通板方向12列の計120本配置し、電極-鋼板の距離20mmの間隙に向けて、合計めっき液流量を2.5m
3/分を噴射させた際の鋼板に加わる押付け力を測定した。その結果、特許文献1に記載の排出孔を設けた電極では、ノズルからのめっき液噴流衝突位置のみが鋼板押付け力が作用する点となり、鋼板片面に作用する押付け力は合計290N(ノズル1本あたり1.53N)であった。これに対し、本発明の
図3の電極では、めっき液が電極板の鋼板Pの入側および出側のみから排出されるため、ノズルと鋼板との間を流れるめっき液の圧損分の圧力が電極面全体(鋼板押付け力が実質的に作用する有効面積は電極板面積の約50%)に加わる結果、鋼板を押し付ける形態が実現し、鋼板押付け力は3500Nと12倍超にも達することがわかった。
かように本発明に従うことによって、めっきセル内では鋼板上下から矯正力が働き、形状の悪い鋼板を平坦化しながら通板・通電することが可能となる。
【0035】
以上の作用効果を得るには、電気めっき中の上記しためっき液排出率を10%以下とすることが肝要である。すなわち、めっき液排出率が10%超になると、電極板と鋼板との間を流れるめっき液流量が減少するため、鋼板押付け力が低下する。
【0036】
また、
図3に示すような、分割された1つの噴流ヘッダー14において、当該噴流ヘッダー14にめっき液30を供給するめっき液配管14aの断面積Akと、当該噴流ヘッダー14に設けられた円管ノズル15の噴射口の総断面積Anの比Ak/Anが、2.5以上とすることが好ましい。すなわち、Ak/Anが2.5未満になると、噴流ヘッダー内の圧力分布が不均一になり易く、円管ノズル15からの噴射速度のバラつきが大きくなる、おそれがあり、付着量むら等の問題が起きる場合がある。なお、Ak/Anが12を超えると、噴流ヘッダーから円管ノズルへの流路断面積変化が大きい急縮小管状態となり、圧力損失が大きくなって、めっき液送液ポンプに過剰な能力が必要となるため、経済性の観点からは12以下とすることが好ましい。
【0037】
なお、上記した断面積は、各種管の軸方向と直交する内側断面の最小面積である。また、各噴流ヘッダー14において、めっき液配管および円管ノズルが複数本の場合は、各管の断面積の総計がそれぞれAkおよびAnとなる。従って、
図4に示す噴流ヘッダー14においては、Akはめっき液配管14aの断面積であり、Anは円管ノズル15の噴射口の断面積の3本分の総断面積である。
【0038】
ちなみに、常用の電気めっき装置において、安定的にZn-Niめっき皮膜のNi含有量10~15%にするには、電流密度は5~20A/dm2程度であるのに対し、本発明の電気めっき装置では30~250A/dm2での製造が可能になる。水平方式の電気めっき装置の場合250A/dm2以上では、めっき液の電気抵抗、鋼板や電気回路でのジュール発熱による電力損失が大きく、通板速度増加による生産性向上に対する電力消費が過大になりすぎ、経済的な生産ができなくなる。
【0039】
なお、上記しためっきの対象は特に限定されず、鋼板であればよい。めっき対象としては、例えば、普通鋼やステンレス鋼などの鋼板のほか、アルミニウム板等が対象となる。本発明は、鋼板に適用することが有効であり、特に高張力鋼板を対象とすることが有利である。ちなみに、高張力鋼板としては、以下に示す成分組成を有する鋼板が適合する。なお、以下の成分組成における「%」表示は、特に断らない限り、質量%を意味する。
【0040】
C:0.025~0.300%
Cは、鋼組織として、残留オーステナイト層やマルテンサイト相などを形成させることで加工性を向上しやすくするため、0.025%以上で含有することが好ましい。一方、0.300%を超えると溶接性が劣化するため、C量は0.300%以下とすることが好ましい。
【0041】
Si:0.2~2.5%
Siは、鋼を強化して良好な材質を得るのに有効な元素であるため、高張力鋼板には0.2%以上添加する。Siが0.2%未満では高強度を得るために高価な合金元素が必要になる。一方、2.5%を超えると酸化処理での酸化皮膜形成が抑制されてしまう。また、合金化温度も高温化するために、所望の機械特性を得ることが困難になる。したがって、Si量は2.5%以下とすることが好ましい。
【0042】
Mn:1.5~3.5%
Mnは、鋼の高強度化に有効な元素である。590MPa以上の引張強度を確保するためには、0.5%以上含有させることが好ましい。一方、3.0%を超えると、溶接性やめっき密着性、強度延性バランスの確保が困難になる場合がある。したがって、Mn量は1.5~3.5%とすることが好ましい。
【0043】
また、上記成分に加えて、以下の各元素を含有することが可能である。
Al:0.001~1.000%
Alは、溶鋼の脱酸を目的に添加されるが、その含有量が0.001%未満の場合、その目的が達成されない。一方、1.000%を超えると、Alが表面に酸化物を形成し、めっき外観(表面外観)が劣化する。したがって、Al量は0.001%以上1.000%以下としてよい。
【0044】
P:0.10%以下
Pは、不可避的に含有される元素のひとつであり、0.005%未満にする為には、コストの増大が懸念される為、0.005%以上が望ましい。一方、Pの増加に伴いスラブ製造性が劣化する。さらに、Pの含有は合金化反応を抑制し、めっきムラを引き起こす。これらを抑制する為には、含有量を0.10%以下にすることが必要である。したがって、P量は0.10%以下としてよい。好ましくは0.05%以下である。
【0045】
S:0.01%以下
Sは、製鋼過程で不可避的に含有される元素である。しかしながら、多量に含有すると溶接性が劣化する。そのため、Sは0.01%以下としてよい。
以上の成分を含む場合、残部はFeおよび不可避不純物である。
【0046】
さらに、B:0.001~0.005%、Nb:0.005~0.050%、Ti:0.005~0.080%、Cr:0.001~1.000%、Mo:0.05~1.00%、Cu:0.05~1.00%、Ni:0.05~1.00%、Sb:0.001~0.200%の中から選ばれる1種以上の元素を、必要に応じて含有してもよい。
これらの元素を添加する場合における適正含有量およびその限定理由は以下の通りである。
【0047】
B:0.001~0.005%
Bは、0.001%以上で焼き入れ促進効果が得られる。一方、0.005%超えでは化成処理性が劣化する。よって、含有する場合、B量は0.001%以上0.005%以下としてよい。
【0048】
Nb:0.005~0.050%
Nbは、0.005%以上で強度調整(強度向上)の効果が得られる。一方、0.05%超えではコストアップを招く。よって、含有する場合、Nb量は0.005%以上0.05%以下としてよい。
【0049】
Ti:0.005~0.080%
Tiは、0.005%以上で強度調整(強度向上)の効果が得られる。一方、0.080%超えでは化成処理性の劣化を招く。よって、含有する場合、Ti量は0.005%以上0.080%以下としてよい。
【0050】
Cr:0.001~1.000%
Crは、0.001%以上で焼き入れ性効果が得られる。一方、1.000%超えではCrが表面濃化するため、溶接性が劣化する。よって、含有する場合、Cr量は0.001%以上1.000%以下としてよい。
【0051】
Mo:0.05~1.00%
Moは、0.05%以上で強度調整(強度向上)の効果が得られる。一方、1.00%超えではコストアップを招く。よって、含有する場合、Mo量は0.05%以上1.00%以下としてよい。
【0052】
Cu:0.05~1.00%
Cuは、0.05%以上で残留γ相形成促進効果が得られる。一方、1.00%超えではコストアップを招く。よって、含有する場合、Cu量は0.05%以上1.00%以下としてよい。
【0053】
Ni:0.05~1.00%
Niは、0.05%以上で残留γ相形成促進効果が得られる。一方、1.00%超えではコストアップを招く。よって、含有する場合、Ni量は0.05%以上1.00%以下としてよい。
【0054】
Sb:0.001~0.200%
Sbは、鋼板表面の窒化、酸化、あるいは酸化により生じる鋼板表面の数十ミクロン領域の脱炭を抑制する観点から含有することができる。窒化や酸化を抑制することで鋼板表面においてマルテンサイトの生成量が減少するのを防止し、疲労特性や表面品質が改善する。このような効果は、0.001%以上で得られる。一方、0.200%を超えると靭性が劣化する。よって、含有する場合、Sb量は0.001%以上0.200%以下としてよい。
【0055】
なお、めっき液中に許容される微量元素としては、Pb(1.0ppm以下)、Cr(200ppm以下)、Hg(200ppm以下)、Cu(2.0ppm以下)、Cd(6.0ppm以下)、Sr(30ppm以下)、スラッジ(固形分100ppm以下)などを挙げることができる。
【実施例0056】
以下に本発明の実施例を説明する。なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されない。
図2および3に示した構成を備える電気めっき装置(1セル)を使用した例を本発明例とする。すなわち、電気めっき装置を構成するめっきセルは、1セル内の長手方向電極長は2mで、それを15セル接続させた。電極板は、チタン製であり通電面は酸化イリジウム皮膜を施し、ストリップを概ね覆う幅を有している。
また、比較例として、一般的な水平フローセル(
図1)の形式、めっき液排出孔を有する水平多孔めっきセル形式(特許文献1の
図1の記載に準拠)を使用した。
【0057】
以上のめっき製造設備の各事例を用いて、厚さ0.7mm×幅1200mmの鋼板を0.7~3.5m/sの通板速度で走行させ、めっき付着量がめっき効率70%で片面65g/m2となるように、電流密度を設定し、Zn-Ni合金めっき処理を行った。具体的な通板速度および電流密度の条件は、表1に示すとおりである。めっき浴は硫酸浴とし、その成分は亜鉛成分が24~40g/L、ニッケル成分が45~70g/Lとし、pHは1.5~1.7となるように調整した。
【0058】
かくして得られた電気めっき処理後の鋼板について、めっき付着量およびめっき中のNi含有量を測定した。めっき付着量とNi含有量は、幅方向16点を長手方向に10回測定した平均値で算出した。幅方向付着量分布は、幅方向センター3点の付着量に対し、幅方向両端部(鋼板エッジからそれぞれ30mmの位置)での付着量変化率(%)で算出することとし、5%以下を良好条件とした。
以上の測定および評価の結果を、電気めっきの条件に併せて表1に示す。
【0059】