(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158573
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法および溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備
(51)【国際特許分類】
C23C 28/02 20060101AFI20231023BHJP
C25D 17/00 20060101ALI20231023BHJP
C25D 19/00 20060101ALI20231023BHJP
C25D 21/02 20060101ALI20231023BHJP
C25D 21/12 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
C23C28/02
C25D17/00 J
C25D19/00 D
C25D21/02
C25D21/12 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068495
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】武田 玄太郎
(72)【発明者】
【氏名】青山 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 秀行
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 麻衣子
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044AA02
4K044AB02
4K044BA06
4K044BA10
4K044BB03
4K044BC05
4K044BC09
4K044CA11
4K044CA18
4K044CA62
(57)【要約】
【課題】易酸化性元素を含む鋼板、中でも高張力鋼板に溶融亜鉛めっきを施す際に、あるいはさらに合金化処理を施す際に、特に鋼板の形状乱れに起因する、不めっきやピックアップ等の品質欠陥が無く、美麗なめっき層を有する鋼板の製造を可能とする方法について提案する。
【解決手段】連続走行する鋼板と、前記鋼板に沿わせて対向配置した電極板との間隙において、前記鋼板に向かって鉄系めっき液を供給しつつ前記電極板をアノードに、かつ前記鋼板をカソードにして通電し、電気めっきを施して前記鋼板表面に鉄系皮膜を形成する電気めっき工程と、前記電気めっき工程を経た鋼板を加熱処理する焼鈍工程と、前記焼鈍工程を経た鋼板に対して溶融亜鉛めっきを施す溶融めっき工程と、を経て溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法であって、前記電気めっき工程では、前記鋼板へ供給するめっき液の流量に対する、前記電極板の前記鋼板に対向していない背面側へ流出するめっき液の流量の比率である、めっき液排出率を50%未満とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続走行する鋼板と、前記鋼板に沿わせて対向配置した電極板との間隙において、前記鋼板に向かって鉄系めっき液を供給しつつ前記電極板をアノードに、かつ前記鋼板をカソードにして通電し、電気めっきを施して前記鋼板表面に鉄系皮膜を形成する電気めっき工程と、
前記電気めっき工程を経た鋼板を加熱処理する焼鈍工程と、
前記焼鈍工程を経た鋼板に対して溶融亜鉛めっきを施す溶融めっき工程と、を経て溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法であって、
前記電気めっき工程では、前記鋼板へ供給するめっき液の流量に対する、前記電極板の前記鋼板に対向していない背面側へ流出するめっき液の流量の比率である、めっき液排出率を50%未満とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記鉄系皮膜の付着量が2.0g/m2以上である請求項1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記めっき液排出率が10%以下である請求項1または2に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記電極板の片面あたりのめっき液流量Q(m3/分)が次式(1)を満足する請求項1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
Q ≧ 60WLH ・・・・(1)
ここで、Wは鋼板幅(m)、Lは電極長手方向長さ(m)、Hは電極と鋼板との距離(m)である。
【請求項5】
前記鋼板は、質量%で、Cを0.3%以下、SiおよびMnのいずれか1種以上を合計で1.0~6.0%含む成分組成を有する請求項1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
走行ライン上を連続的に走行する鋼板に、鉄系皮膜を形成する電気めっき装置と、
前記電気めっき装置を経た鋼板を加熱処理する焼鈍装置と、
前記焼鈍装置を経た鋼板に対して溶融亜鉛めっき処理を施す溶融めっき装置と、を備え、
前記電気めっき装置は、前記鋼板の走行ラインに沿わせて対向配置した電極板と、前記電極板側から前記走行ラインに向けて鉄系めっき液を供給する噴射ノズルとを有し、前記電極板がアノードおよび、前記鋼板がカソードであり、前記噴射ノズルから供給されるめっき液の流量に対する、前記電極板の前記鋼板に対向していない背面側へ流出するめっき液の流量の比率である、めっき液排出率が50%未満である、溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
【請求項7】
前記電極板は、前記走行ラインと交わる向きに延びて該電極板を貫通する、少なくとも1の貫通孔を有し、前記貫通孔の少なくとも1に、前記噴射ノズルを配置する、請求項6に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
【請求項8】
前記電極板の背面側に、前記走行ライン側から順に、バックプレートおよび噴流ヘッダーを有し、前記噴流ヘッダーに前記バックプレートおよび前記電極板を貫通して延びる前記噴射ノズルの複数本が連結し、前記バックプレートは前記電極板の背面と電極接続部を介して接続するとともに、前記電極接続部の介在による前記バックプレートと前記電極板との空間に絶縁体を配置する、請求項6または7に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
【請求項9】
前記電極板を複数枚の集合体として前記バックプレートの1枚に隙間なく組み合わせた、めっきセルの1または複数からなる、請求項8に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
【請求項10】
前記めっきセルの各々において、前記電極接続部と干渉しない位置に前記噴流ヘッダーを複数に分割する請求項9に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
【請求項11】
前記噴流ヘッダーは当該噴流ヘッダー内にめっき液を供給するめっき液配管を有し、該めっき液配管の断面積Akと、当該噴流ヘッダーに連結された噴射ノズルの噴射口の総断面積Anとの比Ak/Anが、2.5以上である請求項8に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
【請求項12】
前記電気めっき装置および前記焼鈍装置は、同一ライン上に在る請求項6に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
【請求項13】
前記電気めっき装置および前記焼鈍装置は、別のライン上に在る請求項6に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛めっき鋼板、特に高張力鋼板を母材とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法および溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、家電、建材等の分野において、構造物の軽量化等に利用可能な高張力鋼板(ハイテン鋼材)の需要が高まっている。ハイテン鋼材としては、例えば、鋼中にSiを含有することにより穴広げ性の良好な鋼板や、SiやAlおよびMnを含有することにより残留γを確保して延性を向上した鋼板が知られている。
【0003】
しかし、SiやMnを多量(特に0.2質量%以上)に含有する、例えば引張強さが590MPa以上の高張力鋼板を母材として、溶融亜鉛めっき鋼板や合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合に、以下の問題がある。
すなわち、溶融亜鉛めっき鋼板は、還元雰囲気又は非酸化性雰囲気中で600~900℃程度の温度で母材の鋼板を加熱焼鈍した後に、該鋼板に溶融亜鉛めっき処理を行って製造される。さらに、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、上記の溶融亜鉛めっき処理後に、亜鉛めっきを加熱合金化することによって、製造される。ここで、鋼中のSi、Mnは易酸化性元素であり、一般的に用いられる還元雰囲気又は非酸化性雰囲気中でも選択酸化されて、鋼板の表面に濃化し、酸化物を形成する。この酸化物は、めっき処理時の溶融亜鉛との濡れ性を低下させて、不めっきを生じさせる。そのため、鋼中Si、Mn濃度の増加と共に、濡れ性が急激に低下して不めっきが多発する。また、不めっきに至らなかった場合でも、めっき密着性に劣ることが問題となる。さらに、鋼中のSi、Mnが選択酸化されて鋼板の表面に濃化すると、溶融亜鉛めっき後の合金化過程において著しい合金化遅延が生じ、生産性を著しく阻害することが問題になる。
【0004】
このような問題に対して、例えば、特許文献1には、素地鋼板上に0.2~2g/m2のFeめっきを施し、その後直火型加熱炉(DFF)および輻射加熱炉(RTF)における熱処理を所定の条件に調整して、鋼中に含まれている難メッキ性元素であるSi、Mn又はAlを表面拡散させて酸化物の形成を抑制させることにより、不めっき現象を防止し、優れためっき表面品質及びめっき密着性と、高い強度とを確保することができる、製造コストの安価な方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、熱間圧延工程で素地鋼板表面において所定の粒界酸化深さとしてから、素地鋼板上に3g/m2以上のFeめっきを施し、その後合金化溶融亜鉛めっき処理を施すことによって、スポット溶接性の優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、高電流密度で電気めっき鋼板を製造する方法として、電極に設けた複数の貫通孔から鋼板-電極間にめっき液を噴射するとともに、めっき液を電極の貫通孔から排出することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2013/100615号公報
【特許文献2】特開2008-231493号公報
【特許文献3】特開2005-272999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、Feめっき工程の具体的な設備構成について記載されていないが、一般的な水平型電気めっきセルあるいは竪型めっきセルを用いる場合、例えば引張強さが590MPa以上の高強度鋼板では冷間圧延後の鋼板形状が悪く、そのまま電気めっき工程を通板させると電極との接触トラブルが発生することになる。また、接触が起きない場合でも、電極-鋼板間の距離が変動するため、同文献1に記載のめっき目付量:0.2~2.0g/m2を狙いとしたFeめっき厚は大きくバラつき、その後の焼鈍工程で部分的にSi,Mnの表面濃化が発生し、不めっき欠陥やピックアップ欠陥が発生するため、安定して製造することが不可能であった。
【0009】
特許文献2に記載の方法でも同様で、焼鈍工程で部分的にSi,Mnの表面濃化が発生しない程度までFeめっきを施そうとすると、目付量:10g/m2超が必要となり、設備長が長大となり大幅なコストアップが問題となることがわかった。なお、鋼板形状改善のために別途矯正工程や前焼鈍工程を経ることも考えられるが、やはり大幅なコストアップが問題であった。
【0010】
特許文献3に記載された、高電流密度に対応しためっき電極では、高電流密度時に多量の電解ガスが発生して電解効率が低下することを避けるために、孔9とノズル8aとの隙間とめっき液排出口11双方を介して気泡(電解ガス)を排除する工夫がなされ、気泡(電解ガス)の排除、つまりガス抜け性を向上させている。一方で、ガス抜け性を向上させることは、めっき液の噴流圧が電極-鋼板間で溜まりにくいことでもあり、特に形状の乱れた鋼板に対しては、めっき付着量を均一化させることが難しく、改善が求められる。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、例えばSiやMnなどの易酸化性元素を含む鋼板、中でも高張力鋼板に溶融亜鉛めっきを施す際に、あるいはさらに合金化処理を施す際に、特に鋼板の形状乱れに起因する、不めっきやピックアップ等の品質欠陥が無く、美麗なめっき層を有する鋼板の製造を可能とする方法について提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明の要旨は、以下のとおりである。
1.連続走行する鋼板と、前記鋼板に沿わせて対向配置した電極板との間隙において、前記鋼板に向かって鉄系めっき液を供給しつつ前記電極板をアノードに、かつ前記鋼板をカソードにして通電し、電気めっきを施して前記鋼板表面に鉄系皮膜を形成する電気めっき工程と、
前記電気めっき工程を経た鋼板を加熱処理する焼鈍工程と、
前記焼鈍工程を経た鋼板に対して溶融亜鉛めっきを施す溶融めっき工程と、を経て溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法であって、
前記電気めっき工程では、前記鋼板へ供給するめっき液の流量に対する、前記電極板の前記鋼板に対向していない背面側へ流出するめっき液の流量の比率である、めっき液排出率を50%未満とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0013】
2.前記鉄系皮膜の付着量が2.0g/m2以上である前記1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0014】
3.前記めっき液排出率が10%以下である前記1または2に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0015】
4.前記電極板の片面あたりのめっき液流量Q(m3/分)が次式(1)を満足する前記1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
Q ≧ 60WLH ・・・・(1)
ここで、Wは鋼板幅(m)、Lは電極長手方向長さ(m)、Hは電極と鋼板との距離(m)である。
ここで、前記4の方法は、前記1から3のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であることが好ましい。
【0016】
5.前記鋼板は、質量%で、Cを0.3%以下、SiおよびMnのいずれか1種以上を合計で1.0~6.0%含む成分組成を有する前記1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
ここで、前記5の方法は、前記1から4のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であることが好ましい。
【0017】
6.走行ライン上を連続的に走行する鋼板に、鉄系皮膜を形成する電気めっき装置と、
前記電気めっき装置を経た鋼板を加熱処理する焼鈍装置と、
前記焼鈍装置を経た鋼板に対して溶融亜鉛めっき処理を施す溶融めっき装置と、を備え、
前記電気めっき装置は、前記鋼板の走行ラインに沿わせて対向配置した電極板と、前記電極板側から前記走行ラインに向けて鉄系めっき液を供給する噴射ノズルとを有し、前記電極板がアノードおよび、前記鋼板がカソードであり、前記噴射ノズルから供給されるめっき液の流量に対する、前記電極板の前記鋼板に対向していない背面側へ流出するめっき液の流量の比率である、めっき液排出率が50%未満である、溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
【0018】
7.前記電極板は、前記走行ラインと交わる向きに延びて該電極板を貫通する、少なくとも1の貫通孔を有し、前記貫通孔の少なくとも1に、前記噴射ノズルを配置する、前記6に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
【0019】
8.前記電極板の背面側に、前記走行ライン側から順に、バックプレートおよび噴流ヘッダーを有し、前記噴流ヘッダーに前記バックプレートおよび前記電極板を貫通して延びる前記噴射ノズルの複数本が連結し、前記バックプレートは前記電極板の背面と電極接続部を介して接続するとともに、前記電極接続部の介在による前記バックプレートと前記電極板との空間に絶縁体を配置する、前記6または7に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
【0020】
9.前記電極板を複数枚の集合体として、前記バックプレートの1枚に隙間なく組み合わせためっきセルの1または複数からなる、前記8に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
【0021】
10.前記めっきセルの各々において、前記電極接続部と干渉しない位置に前記噴流ヘッダーを複数に分割する前記9に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
【0022】
11.前記噴流ヘッダーは当該噴流ヘッダー内にめっき液を供給するめっき液配管を有し、該めっき液配管の断面積Akと、当該噴流ヘッダーに連結された噴射ノズルの噴射口の総断面積Anとの比Ak/Anが、2.5以上である前記8に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
ここで、前記11の製造設備は、前記8から10のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備であることが好ましい。
【0023】
12.前記電気めっき装置および前記焼鈍装置は、同一ライン上に在る前記6に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
ここで、前記12の製造設備は、前記6から11のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備であることが好ましい。
【0024】
13.前記電気めっき装置および前記焼鈍装置は、別のライン上に在る前記6に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
ここで、前記13の製造設備は、前記6から11のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備であることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法によれば、例えば形状乱れの発生し易い高張力鋼板に溶融亜鉛めっきを施す場合にあっても、不めっきやピックアップ等の品質欠陥が無く、美麗な溶融めっき層を有する鋼板を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】電気めっき装置をインラインで備えた本発明の製造設備の構成を示す概略図である。
【
図2】電気めっき装置を別ラインで備えた本発明の製造設備の構成を示す概略図である。
【
図3】本発明の電気めっきセルを側面側からみた断面の概略図である。
【
図4】本発明の電気めっきセルの円管ノズル周辺拡大図である。
【
図6】鋼板を搬送方向から正対して見た模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について、具体的に説明する。
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、連続走行する鋼板と前記鋼板に沿わせて対向配置した電極板との間隙において、前記鋼板に向かって鉄系めっき液を供給しつつ前記電極板をアノードに、かつ前記鋼板をカソードにして通電し、電気めっきを施して前記鋼板表面に鉄系皮膜を形成する電気めっき工程と、前記電気めっき工程を経た鋼板を加熱処理する焼鈍工程と、前記焼鈍工程を経た鋼板に対して溶融亜鉛めっきを施す溶融めっき工程と、を経て溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法において、前記電気めっき工程では、前記鋼板へ供給するめっき液の流量に対する、前記電極板の前記鋼板に対向していない背面側へ流出するめっき液の流量の比率である、めっき液排出率を50%未満とするところに特徴がある。
【0028】
まず、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に用いる、溶融亜鉛めっきの製造設備の一実施形態について、
図1を参照して説明する。
図1に示す実施形態は、電気めっき工程を担う電気めっき装置をインラインで有する連続溶融亜鉛めっき製造設備であり、例えば高張力鋼帯である鋼板Pの走行ラインの上流側から順に、ペイオフリール51、コイル接合装置52、入側ルーパー53、脱脂装置54、酸洗装置55、電気めっき装置56、水洗装置57、焼鈍装置58、溶融亜鉛めっき装置59、合金化処理装置60(合金化亜鉛めっき鋼板を製造する場合に使用)、調質圧延装置61、後処理装置62、出側ルーパー63、検査装置64を有する。
【0029】
また、
図2には、電気めっき装置を溶融亜鉛めっき装置と別ラインとした、別の実施形態を示す。すなわち、ペイオフリール51、コイル接合装置52、入側ルーパー53、脱脂装置54、酸洗装置55、電気めっき装置56、水洗装置57、出側ルーパー63、検査装置64を有する装置列にてFeめっきを施し、その後、ペイオフリール51、コイル接合装置52、入側ルーパー53、脱脂装置54、焼鈍装置58、溶融亜鉛めっき装置59、合金化処理装置60、調質圧延装置61、後処理装置62、出側ルーパー63、検査装置64を有する通常の連続溶融亜鉛めっきラインで亜鉛めっき処理を施す、形態である。
【0030】
前者の連続溶融亜鉛めっき製造設備(
図1)および後者の連続溶融亜鉛めっき製造設備(
図2)における焼鈍装置の加熱帯は、直火加熱炉(DFF)+輻射加熱炉(RTF)、IH加熱炉(IHF)+輻射加熱炉および全領域輻射加熱炉のいずれの形式でも構わない。
【0031】
前者は1ラインで溶融亜鉛めっき処理までを完了できるので生産効率が非常に高いことが特徴である。一方、後者は2ラインでの製造になるので前者に比べて生産効率はやや落ちるものの、通常のFeめっき装置を有さない複数の溶融亜鉛めっきラインに対してFe電気めっき装置を使用できるため、Feめっき装置単体としては生産効率が高く、初期投資も最小限に抑えられるメリットがある。
【0032】
上記した電気めっき装置56で成膜するFeめっき量は、鋼中添加元素や焼鈍装置の長さに応じて2.0g/m2以上とすることが望ましい。2.0g/m2未満では一般的な焼鈍装置における焼鈍中のSi,Mn表面濃化を回避することができず不めっき欠陥やピックアップ欠陥を発生させないためである。Feめっき量の上限は特に定めないが、8.0g/m2超ではランニングコストが過剰に高くなるため、8.0g/m2とすることが好ましい。
【0033】
電気Feめっきは、鉄系めっきであれば、その成分系に特別な制約は無い。例えば、純Fe、Fe-B、Fe-C、Fe-P、Fe-NまたはFe-Oのいずれの系であってもよいが、とりわけ純Fe系が好ましい。純Fe系のめっき浴組成としては、純Fe:鉄成分が55~65g/Lおよびナトリウム5~7g/L、pHが2.0~2.2を例示できる。
【0034】
電気Feめっきの浴中には、Feイオン、並びにB,C,P,N,O,Ni,Mn,Mo,Zn,W,Pb,Sn,Cr,V及びCoからなる群から選ばれる、少なくとも一種の元素を含有することができる。電気Feめっき浴中でのこれらの元素の合計含有量は、電気Feめっき層中でこれらの元素の合計含有量が10質量%以下となるようにすることが好ましい。
【0035】
次に、
図3および4を参照して、本発明のFe電気めっき装置56について具体的に説明する。
図3に、本発明の一実施形態で用いる水平方式の電気めっき装置を示す。この電気めっき装置では、鋼板Pを水平方向に走行ライン上を走行させ、連続的に走行する鋼板Pに沿わせて対向配置した1対の電極板10を配置してなる。この電極板10は不溶性であることが好ましい。さらに、鋼板Pの走行方向における電極板10の上流側及び下流側には、各々鋼板Pに通電するためのコンダクターロール20およびバックアップロール21が配置されている。
【0036】
ここで、コンダクターロール20は、下地に導電性が良い銅めっきやニッケルめっきを使用した硬質クロムめっきの構成を有するものを用いることができる。また、電極板10は、その材質及び厚さは特に限定されないが、材質としては、イリジウムオキサイドを被覆したチタンが好適であり、厚さは5~100mmとすることが好ましい。鋼板Pと電極板10との間隔についても特に限定されないが、2~20mmの範囲とすることが好ましい。
【0037】
各電極板10の背面(電極板の鋼板Pとは反対側)には、電極接続部11を介してバックプレート12が配置され、整流器(図示せず)から出力された電流は通電棒16を通してバックプレート12に投入される。バックプレート12の背面には、めっき液30を供給するためのノズルヘッダー14が配置される。バックプレート12は、電流分布均一化のために、1セル内において一体物として形成することが好ましい。一方、鋼板に相対する電極板10は、取替え作業等を考慮して、幅方向および長手方向に適宜分割されていることが好ましい。
【0038】
ノズルヘッダー14は、電極板10およびバックプレート12にそれぞれ設けた、複数の貫通孔10aを通して、バックプレート12側から電極板10側へ延びて電極板10の貫通孔10a内で留まる、絶縁材料で形成される複数の円管ノズル15を有する。ここで、円管ノズル15を絶縁材料で形成することが好ましいのは、めっき液供給系統をすべて絶縁材料とすることでめっき液流路内での意図しない電析を避けたり、円管ノズル15と電極板10との間でのスパークによる部材損傷を避けるのに有効であるからである。
【0039】
円管ノズル15は、その軸線が鋼板Pの表面と垂直になるように配置されることが好ましい。めっき液30はノズルヘッダー14から円管ノズル15に供給され、円管ノズル15の先端の噴出口から鋼板Pに向けて噴射される。
【0040】
このようにして、鋼板Pを水平方向に走行させつつ、鋼板P-電極板10間の間隙(ギャップ)にめっき液30を供給し、電極板10をアノード、鋼板Pをカソードとして、鋼板Pのめっき面と電極板10との間で通電して鋼板に電気めっきを施す。
【0041】
図4に、上記した電気めっき装置56における、1つのノズルヘッダー14およびその周辺を拡大して示す。円管ノズル15の先端は、電極板10の鋼板P側の表面よりも鋼板P側に突き出さないように、貫通孔10a内で留まる長さとする。さらに、貫通孔10aからめっき液30が電極板10の背面側へ流れ出さないように、電極接続部11の介在によって電極板10とバックプレート12との間に形成される空間を、例えば樹脂による絶縁体13によって塞ぐ必要がある。
【0042】
すなわち、めっき液が鋼板P側から電極板10とバックプレート12間に流出しないように、少なくとも電極板10とバックプレート12との間に形成される空間は絶縁体13で埋める必要がある。なお、電極板10の貫通孔10aの内壁と円管ノズル15外周面との間に隙間があれば、絶縁体13で埋めておくことが好ましい。ここで、貫通孔10a内の上記隙間を全く液漏れが無いように完全に埋めることができれば、電極板10とバックプレート12の間隙を絶縁体13で充填する必要はなくなるが、電極板10の多数の貫通孔の全てにおいて上記隙間を絶縁体で完全に塞ぐことは技術的又はコスト面で難しいことを考慮すると、より簡便に、電極板10とバックプレート12との間に形成される空間を、絶縁体13によって塞ぐことが有効である。
電流をバックプレート12から多数の電極板10に均一に流すためには、バックプレート12と電極接続部11の接続面とを平滑に加工した上で、ボルト(図示なし)で締結させることが好ましい。この構造は、本装置を組み立てる上で極めて有効である。すなわち、電極接続部11を設けずにバックプレート12と電極板10とを締結することは構造的には可能であるが、締結ボルト周辺のみバックプレート12と電極板10が密着し、締結ボルトから少し離れた位置でわずかな隙間が生じると、該隙間の位置で通電時にスパークが発生し、バックプレート12および電極板10が損傷するため、そのような構造は望ましくない。
さらに上記の通り、バックプレート12と電極板10の隙間を絶縁体13で埋めることにより、バックプレート12と電極板10と間の不均一な通電を避けることができる。バックプレート12と電極板10の隙間を埋める部材が絶縁体でない場合、電極接続部11以外に通電箇所ができ、鋼板から電極板を見た場合に不均一な電流分布となる。
【0043】
上記の構造にすると、貫通孔からめっき液が電極板10の背面側に流れ出さないため、円管ノズル15からのめっき液の噴流は電極板10相互の間隙に集中することになり、めっき液の噴圧を余すことなく該間隙を通過する鋼板Pに付与することができる。その結果、鋼板Pには上下両面から矯正力が働き、形状の悪い鋼板を平坦化しながら通板そして通電することが可能となる。従って、冷間圧延材を事前矯正なしで通板しても、上記の通りめっき中に形状乱れの影響を受けないため、全幅で均一なめっき付着量が実現でき、最小限のFeめっき付着量でSi,Mn表面濃化を抑止することが可能となる。
【0044】
ここで、
図3に示す電気めっきの1区間(3セル:1セルの電極サイズ:幅1.5m×通板方向長さ1m)において、上記した特許文献3に記載の排出孔を設けた電極板を用いる場合と、本発明に従う
図4に示した電極板を用いる場合とについて、円管ノズルからのめっき液噴流による鋼板Pへの押付け力を調査した。すなわち、
図3に示す電気めっきの1区間において、対の電極板の一方側に、内径8mmφの円管ノズルを電極幅方向10本×通板方向12列の計120本配置し、電極-鋼板の距離20mmの間隙に向けて、合計めっき液流量を2.5m
3/分を噴射させた際の鋼板に加わる押付け力を測定した。その結果、特許文献3に記載の排出孔を設けた電極では、ノズルからのめっき液噴流衝突位置のみが鋼板押付け力が作用する点となり、鋼板片面に作用する押付け力は合計290N(ノズル1本あたり1.53N)であった。これに対し、本発明の
図4の電極では、めっき液が電極板の鋼板Pの入側および出側のみから排出されるため、電極板と鋼板との間を流れるめっき液の圧損分の圧力が電極面全体(鋼板押付け力が実質的に作用する有効面積は電極板面積の約50%)に加わる結果、鋼板を押し付ける形態が実現し、鋼板押付け力は3500Nと12倍超にも達することがわかった。
かように本発明に従うことによって、めっきセル内では鋼板上下から矯正力が働き、形状の悪い鋼板を平坦化しながら通板・通電することが可能となる。
【0045】
以上の作用効果を得るには、電気めっき中の上記しためっき液排出率を50%未満とすることが肝要である。すなわち、めっき液排出率が50%以上になると、電極板と鋼板との間を流れるめっき液流量が減少するため、鋼板押付け力が低下する。好ましくは、10%以下である。
【0046】
一方、めっき中に生じる気泡(電解ガス)については、電極片面あたりのめっき液流量Q(m3/分)が下記式(1)を満たすように設定することが好ましい。この式(1)を満足することにより、十分に気泡が排出されることを見出した。
Q ≧ 60WLH ・・・・(1)
ここで、Wは鋼板幅(m)、Lは電極長手方向長さ(m)、Hは電極と鋼板との距離(m)である。なお、電極と鋼板との距離とは、鋼板の走行方向と直交する方向における、電極と鋼板との最短距離である。
すなわち、60WLHは、鋼板と電極間の空間体積の60倍の体積を表し、めっき液流量Qが60WLH以上であれば、鋼板と電極間に存在するめっき液を1秒以内で入れ替えられることから電解ガスによる通電性低下を回避することが可能となる。
【0047】
また、
図4に示すような、分割された1つの噴流ヘッダー14において、当該噴流ヘッダー14にめっき液30を供給するめっき液配管14aの断面積Akと、当該噴流ヘッダー14に設けられた円管ノズル15の噴射口の総断面積Anの比Ak/Anが、2.5以上とすることが好ましい。すなわち、Ak/Anが2.5未満になると、噴流ヘッダー内の圧力分布が不均一になり易く、円管ノズル15からの噴射速度のバラつきが大きくなる、おそれがあり、付着量むら等の問題が起きる場合がある。なお、Ak/Anが12を超えると、噴流ヘッダーから円管ノズルへの流路断面積変化が大きい急縮小管状態となり、圧力損失が大きくなって、めっき液送液ポンプに過剰な能力が必要となるため、経済性の観点からは12以下とすることが好ましい。
【0048】
なお、上記した断面積は、各種管の軸方向と直交する内側断面の最小面積である。また、各噴流ヘッダー14において、めっき液配管および円管ノズルが複数本の場合は、各管の断面積の総計がそれぞれAkおよびAnとなる。従って、
図4に示す噴流ヘッダー14においては、Akはめっき液配管14aの断面積であり、Anは円管ノズル15の噴射口の断面積の3本分の総断面積である。
【0049】
なお、上記した電気Feめっきおよび亜鉛めっきの対象は特に限定されず、鋼板であればよい。めっき対象としては、例えば、普通鋼やステンレス鋼などの鋼板のほか、アルミニウム板等が対象となる。本発明は、鋼板に適用することが有効であり、特に高張力鋼板を対象とすることが有利である。ちなみに、高張力鋼板としては、以下に示す成分組成を有する鋼板が適合する。なお、以下の成分組成における「%」表示は、特に断らない限り、質量%を意味する。
【0050】
C:0.025~0.300%
Cは、鋼組織として、残留オーステナイト層やマルテンサイト相などを形成させることで加工性を向上しやすくするため、0.025%以上で含有することが好ましい。一方、0.300%を超えると溶接性が劣化するため、C量は0.300%以下とすることが好ましい。
【0051】
Si:0.2~2.5%
Siは、鋼を強化して良好な材質を得るのに有効な元素であるため、高張力鋼板には0.2%以上添加する。Siが0.2%未満では高強度を得るために高価な合金元素が必要になる。一方、2.5%を超えると酸化処理での酸化皮膜形成が抑制されてしまう。また、合金化温度も高温化するために、所望の機械特性を得ることが困難になる。したがって、Si量は2.5%以下とすることが好ましい。
【0052】
Mn:1.5~3.5%
Mnは、鋼の高強度化に有効な元素である。590MPa以上の引張強度を確保するためには、0.5%以上含有させることが好ましい。一方、3.0%を超えると、溶接性やめっき密着性、強度延性バランスの確保が困難になる場合がある。したがって、Mn量は1.5~3.5%とすることが好ましい。
【0053】
また、上記成分に加えて、以下の各元素を含有することが可能である。
Al:0.001~1.000%
Alは、溶鋼の脱酸を目的に添加されるが、その含有量が0.001%未満の場合、その目的が達成されない。一方、1.000%を超えると、Alが表面に酸化物を形成し、めっき外観(表面外観)が劣化する。したがって、Al量は0.001%以上1.000%以下としてよい。
【0054】
P:0.10%以下
Pは、不可避的に含有される元素のひとつであり、0.005%未満にする為には、コストの増大が懸念される為、0.005%以上が望ましい。一方、Pの増加に伴いスラブ製造性が劣化する。さらに、Pの含有は合金化反応を抑制し、めっきムラを引き起こす。これらを抑制する為には、含有量を0.10%以下にすることが必要である。したがって、P量は0.10%以下としてよい。好ましくは0.05%以下である。
【0055】
S:0.01%以下
Sは、製鋼過程で不可避的に含有される元素である。しかしながら、多量に含有すると溶接性が劣化する。そのため、Sは0.01%以下としてよい。
以上の成分を含む場合、残部はFeおよび不可避不純物である。
【0056】
さらに、B:0.001~0.005%、Nb:0.005~0.050%、Ti:0.005~0.080%、Cr:0.001~1.000%、Mo:0.05~1.00%、Cu:0.05~1.00%、Ni:0.05~1.00%、Sb:0.001~0.200%の中から選ばれる1種以上の元素を、必要に応じて含有してもよい。
これらの元素を添加する場合における適正含有量およびその限定理由は以下の通りである。
【0057】
B:0.001~0.005%
Bは、0.001%以上で焼き入れ促進効果が得られる。一方、0.005%超えでは化成処理性が劣化する。よって、含有する場合、B量は0.001%以上0.005%以下としてよい。
【0058】
Nb:0.005~0.050%
Nbは、0.005%以上で強度調整(強度向上)の効果が得られる。一方、0.05%超えではコストアップを招く。よって、含有する場合、Nb量は0.005%以上0.05%以下としてよい。
【0059】
Ti:0.005~0.080%
Tiは、0.005%以上で強度調整(強度向上)の効果が得られる。一方、0.080%超えでは化成処理性の劣化を招く。よって、含有する場合、Ti量は0.005%以上0.080%以下としてよい。
【0060】
Cr:0.001~1.000%
Crは、0.001%以上で焼き入れ性効果が得られる。一方、1.000%超えではCrが表面濃化するため、溶接性が劣化する。よって、含有する場合、Cr量は0.001%以上1.000%以下としてよい。
【0061】
Mo:0.05~1.00%
Moは、0.05%以上で強度調整(強度向上)の効果が得られる。一方、1.00%超えではコストアップを招く。よって、含有する場合、Mo量は0.05%以上1.00%以下としてよい。
【0062】
Cu:0.05~1.00%
Cuは、0.05%以上で残留γ相形成促進効果が得られる。一方、1.00%超えではコストアップを招く。よって、含有する場合、Cu量は0.05%以上1.00%以下としてよい。
【0063】
Ni:0.05~1.00%
Niは、0.05%以上で残留γ相形成促進効果が得られる。一方、1.00%超えではコストアップを招く。よって、含有する場合、Ni量は0.05%以上1.00%以下としてよい。
【0064】
Sb:0.001~0.200%
Sbは鋼板表面の窒化、酸化、あるいは酸化により生じる鋼板表面の数十ミクロン領域の脱炭を抑制する観点から含有することができる。窒化や酸化を抑制することで鋼板表面においてマルテンサイトの生成量が減少するのを防止し、疲労特性や表面品質が改善する。このような効果は、0.001%以上で得られる。一方、0.200%を超えると靭性が劣化する。よって、含有する場合、Sb量は0.001%以上0.200%以下としてよい。
【実施例0065】
以下に本発明の実施例を説明する。なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されない。
図1または2に示した構成を備える溶融亜鉛めっき製造設備を用い、これら製造設備に
図3に示した電気めっき装置(1セル)を使用した場合を本発明例とする。すなわち、電気めっき装置を構成するめっきセルは、1セル内の長手方向の電極長は2mであり、このセルを2セル接続させた。また、比較例として、Feめっきを用いない形式、一般的な水平フローセル(
図5)の形式、めっき液排出孔を有する水平多孔めっきセル形式(特許文献3の
図1の記載に準拠)を使用した。
【0066】
ここで、
図5に示す水平型フローセル方式の電気Feめっき装置は、コンダクトロール40およびバックアップロール41のロール対の2対間に、電極板42aおよび42bで区画される通路43を形成し、この通路43に鋼板Pを通過させる際に、鋼板Pと電極板42aおよび42bとの間のギャップにノズルヘッダー44からめっき液30を供給すると共に、電極板42aおよび42bをアノード、鋼板Pをカソードとして、鋼板Pの表面と電極板42aおよび42bとの間で通電することによって、鋼板Pに電気Feめっきを施す装置である。
【0067】
電気めっき装置を通過する前の鋼板形状は、電気めっき装置の最初のめっきセルより上流側に設置されたレーザー式形状測定器を用いて測定し、
図6の定義に基づいて反り量として定量化した。具体的には、鋼板Pを走行方向から正対して見た
図6に示すとおり、鋼板Pに反りが発生すると、鋼板Pを平板上に載置した際に、鋼板Pの幅方向において載置部分Paより高さの高い部分Pbが形成される。電気Feめっき前の鋼板Pにおいて、最も高さの高い部分Pbと、最も高さの低い載置部分Paとの高さの差を反り量として測定した。
【0068】
以上の溶融亜鉛めっき製造設備の各事例を用いて、厚さ1.4mm×幅1200mmの鋼板を1.5m/sの通板速度で走行させ、Fe電気めっきおよび溶融亜鉛めっき処理を行った。鋼板の成分組成は、表1に示すとおりである。
【0069】
【0070】
Feめっき浴は硫酸浴とし、その成分は鉄成分が55~65g/L、ナトリウム5~7g/Lとし、pHは2.0~2.2となるように調整した。他のめっき条件は表1に示すとおりである。Fe電気めっき処理後の鋼板において、鉄めっき付着量を測定した。なお、鉄めっき付着量は事前に作成した検量線に基づいて、オンライン蛍光X線で鋼板の幅方向5点を連続測定し、付着量のバラツキを評価した。
【0071】
上記の溶融亜鉛めっきは常用の方法で行い、GA浴の場合はAl濃度:0.13%、GI浴の場合はAl濃度:0.20%(いずれも残部は亜鉛)とした。溶融亜鉛めっき後の鋼板において、亜鉛めっき付着量を測定した。なお、亜鉛めっき付着量も事前に作成した検量線に基づいて、オンライン蛍光X線で鋼板の幅方向3点を測定し、平均値とした。
【0072】
さらに、溶融亜鉛めっき後のめっき外観についても評価した。めっき外観評点は、不めっき、重度の色調むら、さざなみ欠陥が常時発生すれば1点、不めっき、色調むら、さざなみ欠陥があり、大部分の除去が必要な場合を2点、色調むらやさざなみ欠陥発生によって部分的に除去が必要な場合を3点、除去の必要はないがごく軽度の色調むらや外観不良がある場合は4点、不めっき・合金化むら・さざなみ欠陥が認められない良好な場合を5点で評価した。
【0073】
また、電極板背面へのめっき液排出率は、上面側電極板の長手方向の両端部に設けた、めっき液排出口19(
図3参照)からのめっき液の排出流量と、上面側電極板と鋼板Pとの間隙へ供給しためっき液の全流量とから求めた。
以上の測定および評価の結果を、電気めっきの条件に併せて表2に示す。
【0074】
【0075】
表2に示したように、本発明に従って得られる溶融亜鉛めっき鋼板では、電気めっき前に形状乱れがあったにもかかわらず、健全な亜鉛めっき層が得られている。すなわち、本発明に従うことによって、めっき前鋼板の形状乱れの影響を受けることのないめっきが実現している。換言すると、表2に示した結果から、本発明による電気めっき中の鋼板形状の矯正が十分に図られていることがわかる。